説明

新規の免疫調節ペプチド、その組成物およびその使用

化学式(I)[X-L-γ-Glu-Trp-γ]の生物学的に活性のあるペプチド、前記ペプチドを含む新規の医薬品組成物、前記ペプチドの調製方法および前記ペプチドの使用について記載する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、免疫調節ペプチド、そのペプチドを含む医薬品組成物およびその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
実践医学において、胸腺抽出物、その中のチモシン分画5およびチマリン(thymalin)(米国特許第5,070,026号)は、免疫過程の制御因子として広く知られている。この抽出物は様々なポリぺプチドから成る。天然源からのそれらの生成は、生成過程が複雑で、活性物質の収量が低く、それらの物理化学的パラメータおよび生物学的特性がかなり変動することによって制限される。それに加えて、天然の胸腺調製物に存在するバラスト(ballast)構成要素は、患者に副作用を引き起こし得る。この後者の事実が、合成ペプチドの開発を促進させた。免疫調節作用を有する多数のペプチドがこれまでに合成された:ソビエト特許第1582393号、ヨーロッパ特許第230052号、米国特許第5008246号および米国特許第5013723号。ペプチドH-Ile-Glu-Trp-Y(式中、YはOHまたは置換アミド(C1-C3))について記載している特許(米国特許第6,051,683号、米国特許第6,159,940号および国際公開第9640740号)もある。
【0003】
合成された各ペプチドは、特定のセットの必要な特性を有し、活性は高く、毒性は低く、副作用はなく、そのため医学において使用され得る。合成ペプチドの広範囲な医学的使用に対する制限の1つに、経口経路による投与の際のそれらの不安定さが挙げられる。ペプチドの酵素安定性を改良するための様々な方法がある。それらの1つはKolobovらにより提案された(米国特許第5,916,878号および米国特許第5,744,452号)。
【発明の概要】
【0004】
本出願に、免疫調節特性および改良された経口活性を有する極めて活性のあるペプチドについて記載する。同定されたペプチドは、比較的低用量において、ほとんどまたは全く副作用を伴わずに、ヒトおよび動物の免疫システムを効果的に調節する能力を有する。これらのペプチドは造血特性を有することが明らかとなっている。
【0005】
従って、本開示は、式I:
X-L-γ-Glu-Trp-Y
(I)
(式中、XはH、C1-4アルキル、C(O)C1-4アルキル、L-Leu、L-IleおよびL-Trpから選択され;
YはOH、NH2、NHC1-4アルキル、N(C1-4アルキル)(C1-4アルキル)、L-LeuおよびL-Ileから選択される)の化合物から選択される化合物;ならびに
TrpがD-TrpまたはL-Trpである薬剤的に許容可能なその塩、溶媒和化合物およびプロドラッグを含む。
【0006】
本開示の一実施形態において、式Iの化合物は以下の構造を有する:
【化1】

(ここで、XおよびYは上記で定義されたものであり、*における立体化学はLであり、**における立体化学はDまたはLである。)
【0007】
さらに、本開示は、本開示の1つ以上の化合物および薬剤的に許容可能な担体を含む医薬品組成物を含む。特に、医薬品組成物は、経口投与を目的として処方される。
【0008】
別の実施形態において、本開示は、免疫システムおよび/または造血を調節する方法であって、免疫システムおよび/または造血を調節する必要のある動物に、有効量の本開示の1つ以上の化合物を投与する工程を含む方法を提供する。一実施形態において、動物の免疫システムは、本開示の方法を使用して刺激される。さらに別の実施形態において、造血は、本開示の方法を使用して、動物の体内で回復される。
【0009】
本開示の1つ以上の化合物を薬物として使用することも本開示に含まれる。一実施形態において、本開示は、免疫システムおよび/または造血を調節するために本開示の1つ以上の化合物を使用すること、ならびに免疫システムおよび/または造血を調節するための薬物を調製するために本開示の1つ以上の化合物を使用することを含む。例えば、免疫システムおよび/または造血を調節するための薬物としての使用を目的とした本開示の1つ以上の化合物も、本開示に含まれる。
【0010】
さらに別の実施形態において、本開示は、例えば、免疫細胞減少症、多発性骨髄腫、慢性リンパ性白血病、リンパ球性リンパ腫、リンパ肉腫、特に、β細胞リンパ性白血病などの、ただしこれらに限定されない、造血障害を治療する方法であって、造血障害を治療する必要のある動物に、有効量の本開示の1つ以上の化合物を投与する工程を含む方法を含む。
【0011】
本開示は、造血障害を治療するために、本開示の1つ以上の化合物を使用することも含む。造血障害を治療するための薬物を調製するために本開示の1つ以上の化合物を使用すること、および造血障害を治療するために本開示の1つ以上の化合物を使用することも含まれる。
【0012】
本開示の他の特徴および利点は、以下の発明を実施するための形態から明らかとなるであろう。しかしながら、当業者には、本開示の精神および範囲内における様々な変更および改良が、この発明を実施するための形態から明らかとなるので、発明を実施するための形態および具体的な実施例は、本開示の好ましい実施形態を示すものの、例証の目的としてのみ与えられることが理解されるべきである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
I.定義
本明細書で使用されるように、「C1-4アルキル」という用語は、直鎖および/または分枝鎖の、1〜4個の炭素原子を含む飽和アルキルラジカルを意味し、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、s-ブチル、イソブチルおよびt-ブチルを含む。
【0014】
アミノ酸残基の以下の標準的な略号が、本明細書の全体を通して使用される:Glu-グルタミン酸;γ-Glu-ガンマグルタミン酸;Ile-イソロイシン;Leu-ロイシンおよびTrp-トリプトファン。「L」および「D」という用語は、特定のアミノ酸の中心炭素の立体化学を表す。そうでないことを示さない限り、この中心炭素の立体化学はLである。
【0015】
本明細書で使用されるように、「溶媒和化合物」という用語は、式Iの化合物、または適切な溶媒の分子が結晶格子に組み入れられている、式Iの化合物の塩もしくはプロドラッグを意味する。適切な溶媒は、投薬量において生理学的に許容できる。適切な溶媒の例として、エタノール、水などが挙げられる。水が溶媒の時、分子は「水和物」として表される。
【0016】
本明細書で使用されるように、「プロドラッグ」という用語は、生理活性剤を提供するためにインビボで変換され得る任意の化合物(すなわち式Iの化合物)を表す。様々な種類のプロドラッグは当技術分野においてよく知られている。プロドラッグおよびプロドラッグ誘導体の包括的記述が以下に掲載されている:The Practice of Medicinal Chemistry, Camille G. Wermuthら, Ch 31, (Academic Press, 1996); Hydrolysis in Drug and Prodrug
Metabolism, Bernard TestaおよびJoachim M. Mayer, (Wiley-VCH,
2003); Design of Prodrugs, H. Bundgaard編集, (Elsevier, 1985);
A Textbook of Drug Design and Development, P. Krogsgaard-LarsonおよびH. Bundgaard, eds. Ch 5, pp.113-191 (Harwood Academic Publishers, 1991)。
【0017】
本明細書で使用されるように、「本開示の化合物」という用語は、式Iの化合物、ならびに/またはその塩、溶媒和化合物および/もしくはプロドラッグを意味する。
【0018】
「薬剤的に許容可能な塩」という用語は、動物の治療に適しているまたは適合する酸付加塩または塩基付加塩を意味する。
【0019】
本明細書で使用されるように、「薬剤的に許容可能な酸付加塩」という用語は、本開示の任意の塩基化合物の任意の無毒の有機塩もしくは無機塩、または任意のその中間体を意味する。酸付加塩を形成する本開示の塩基性化合物には、例えば、塩基性アミノ基を含む塩基性化合物が含まれる。適切な塩を形成する実例となる無機酸には、塩酸、臭化水素酸、硫酸、リン酸、ならびにオルトリン酸一水素ナトリウムおよび硫酸水素カリウムのような金属塩が含まれる。適切な塩を形成する実例となる有機酸には、グリコール酸、乳酸、ピルビン酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、フマル酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、アスコルビン酸、マレイン酸、安息香酸、フェニル酢酸、けい皮酸およびサリチル酸のようなモノカルボン酸、ジカルボン酸およびトリカルボン酸、ならびにp-トルエンスルホン酸およびメタンスルホン酸のようなスルホン酸が含まれる。モノ酸塩またはジ酸塩のどちらかが形成され、そのような塩は水和形態、溶媒和形態または実質的に無水の形態のいずれかで存在する。概して、本開示の化合物の酸付加塩は、水や様々な親水性の有機溶媒により溶けやすく、大抵、それらの遊離塩基の形態と比較してより高い融点を示す。適切な塩の選択は、当業者に知られている。他の薬剤的に許容可能ではない酸付加塩、例えば、シュウ酸塩は、例えば、本開示の化合物の単離において、実験的使用のために、または薬剤的に許容可能な酸付加塩への後の変換のために使用される。
【0020】
本明細書で使用されるように、「薬剤的に許容可能な塩基付加塩」という用語は、本開示の任意の酸化合物の任意の無毒の有機塩基付加塩もしくは無機塩基付加塩、または任意のその中間体を意味する。塩基性付加塩を形成する本開示の酸性化合物は、例えば、カルボン酸基を含む酸性化合物を含む。適切な塩を形成する実例となる無機塩基には、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウムまたは水酸化バリウムが含まれる。適切な塩を形成する実例となる有機塩基には、メチルアミン、トリメチルアミンおよびピコリン、アルキルアンモニアまたはアンモニアのような脂肪族有機アミン、脂環式有機アミンまたは芳香族有機アミンが含まれる。適切な塩の選択は、当業者に知られている。他の薬剤的に許容可能ではない塩基性付加塩は、例えば、本開示の化合物の単離において、実験的使用のために、または薬剤的に許容可能な酸付加塩への後の変換のために使用される。
【0021】
本開示の化合物の「治療的有効量」、「有効量」または「十分な量」という用語は、哺乳類、例えばヒトを含む動物へ投与された時、臨床結果を含む有益な効果または望ましい結果をもたらすのに十分な分量であり、そしてそのようなものとして、「有効量」またはそれに対する同義語は、それが適用されている状況によって決まる。例えば、免疫システムまたは造血を調節する状況において、有効量とは、化合物を投与しないで得られる反応と比較して、免疫システムまたは造血の調節を達成するのに十分な化合物の量である。そのような量に相当するであろう本開示の所定の化合物量は、所定の薬剤または化合物、製剤処方、投与経路、疾患または障害の種類、治療される対象または宿主の素性などの様々な因子によって変化するであろうが、それでもなお、当業者によってごく普通に決定される。同様に、本明細書で使用されるように、本開示の化合物の「治療的有効量」は、対照と比較して、対象における免疫システムまたは造血を調節する(例えば、臨床症状によって決定されるような)量である。本明細書で定義されるように、本開示の化合物の治療的有効量は、当技術分野で知られる常法によって、当業者によって容易に決定される。
【0022】
一実施形態において、本開示の化合物の治療的有効量は、約0.001〜約0.1mg/kg体重の範囲にある。当業者は、特定の因子が動物を効果的に治療するのに必要とされる投薬量に影響を与え、これらの因子には、対象の疾患もしくは障害の重症度、過去の治療、全体的な健康および/または年齢、ならびに存在する他の疾患が含まれるが、これらに限定されないということを理解するであろう。
【0023】
さらに、本開示の化合物の治療的有効量を用いた動物の「治療」計画または「予防」計画は単回投与から成るか、もう1つの方法として、一連の適用を含む。例えば、本開示の化合物は、少なくとも1週間に1回投与される。しかしながら、別の実施形態において、化合物は、所定の治療のために、1週間に約1回から1日に約4回、対象に投与される。治療期間の長さは、疾患もしくは障害の重症度、患者の年齢、本開示の化合物の濃度および活性、またはその組み合わせのような様々な因子によって決まる。治療または予防のために使用される化合物の効果的な投薬量は、特定の治療計画または予防計画の間に増減し得るということも理解されるであろう。投薬量の変更は生じ、当技術分野で知られる標準的な診断アッセイによって明らかとなる。場合によっては、慢性投与が必要とされる。
【0024】
本明細書で使用されるように、かつ当技術分野でよく理解されているように、「治療」は、臨床結果を含む有益なまたは望ましい結果を得るためのアプローチである。有益なまたは望ましい臨床結果には、検出可能であろうとなかろうと、1つ以上の徴候もしくは症状の緩和または改善、疾患の程度の縮小、疾患の安定した(すなわち悪化しない)状態、疾患の蔓延の防止、疾患の進行の遅延または緩徐化、疾患状態の改善または緩和、および寛解(部分寛解か完全寛解かを問わない)が含まれるが、それらに限定されない。「治療」は、また、治療を受けない場合の期待された生存と比較して、生存を引き延ばすことを意味する。
【0025】
疾患または障害を「緩和すること」は、障害を治療しない場合と比較して、障害もしくは疾患状態の程度および/もしくは望ましくない臨床症状が和らぐこと、ならびに/または進行の時間経過が遅くなるかもしくは伸びることを意味する。
【0026】
本明細書で使用されるように、「予防(prevention)」もしくは「予防(prophylaxis)
」という用語、またはそれに対する同義語は、患者が免疫システム障害および/もしくは造血障害で苦しむようになるリスクもしくは可能性、または患者が免疫システム障害および/もしくは造血障害と関連する徴候を現わすリスクもしくは可能性の低下を表す。
【0027】
本明細書で使用されるように、「同時に投与される」とは、2つの物質が両方とも動物において同時に生物学的に活性があるように、2つの物質が動物に投与されることを意味する。投与の正確な詳細は、互いが存在するときの、2つの物質の薬物動態によって決まり、その薬物動態が適切である場合、例えば、一方の物質をもう一方の物質の投与後24時間以内に投与することを含むであろう。適切な投与計画のデザインは、当業者にとってごく普通に行なわれることである。特定の実施形態において、2つの物質は実質的に同時に、すなわち互いに数分以内に投与される、または両方の物質を含む1つの組成物として投与される。
【0028】
免疫反応または造血のような機能または活性を調節することは、対象となる状態もしくはパラメータを除いて、他の点では同じ状態と比較した場合、あるいは別の状態と比較して、機能または活性を変化させることである。
【0029】
造血(hematopoiesis)または造血(hemopoiesis)は、細胞の構成要素の形成である。
【0030】
本明細書で使用されるように、「動物」という用語は、動物界の全構成員、特に、ヒトを含む哺乳類を含む。対象または患者は、好適には、ヒトである。
【0031】
本明細書で使用されるように、「細胞」という用語は、複数の細胞を含む。細胞へ化合物を投与することは、インビボ、エクスビボ、およびインビトロでの治療を含む。
【0032】
本開示の範囲を理解する際に、本明細書で使用されるように、「含む(comprising)」という用語およびその派生語は、定められた特色、成分、構成要素、グループ、整数値、および/またはステップの存在を明確にするが、他の定められていない特色、成分、構成要素、グループ、整数値、および/またはステップの存在を排除しない変更可能な用語であると意図される。前述の「含む(comprising)」という用語は、「含む(including)」、「有する」という用語およびそれらの派生語のような似た意味を有する単語にも適用される。最後に、本明細書で使用されるように、「実質的に」、「約」および「おおよそ」のような程度を表す用語は、最終的に結果が大して変わらないほどの修飾された用語の適度な量の逸脱を意味する。これらの程度を表す用語は、この逸脱が修飾する単語の意味を否定しない場合、修飾された用語の少なくとも±5%の逸脱を含むように解釈されるべきである。
【0033】
II.本開示の化合物
L-γ-グルタミン酸-トリプトファン残基を含む式Iのペプチドを調製し、驚くべきことに、優れた経口活性を有することが示された。これに対し、より一般的なL-α-グルタミン酸-トリプトファンを含む対応するペプチドは、経口経路によって投与された場合、活性がなかった。
【0034】
従って、本開示は式I:
X-L-γ-Glu-Trp-Y
(I)
(式中、XはH、C1-4アルキル、C(O)C1-4アルキル、L-Leu、L-IleおよびL-Trpから選択され;YはOH、NH2、NHC1-4アルキル、N(C1-4アルキル)(C1-4アルキル)、L-LeuおよびL-Ileから選択される)
の化合物から選択される化合物;ならびに
TrpがD-TrpまたはL-Trpである薬剤的に許容可能なその塩、溶媒和化合物およびプロドラッグを含む。
【0035】
本開示の実施形態において、式Iの化合物は以下の構造を有する:
【化2】

(ここで、XおよびYは上で定義されたものであり、*における立体化学はLであり、**における立体化学はDまたはLである。)
【0036】
本開示の実施形態において、XはH、C(O)CH3、L-LeuおよびL-Ileから選択される。本開示の別の実施形態において、YはOH、L-LeuおよびL-Ileから選択される。
【0037】
本開示のさらなる実施形態において、式Iの化合物はトリペプチドで、XがL-Leu、L-IleまたはL-Trpから選択される場合、YはOH、NH2、NHC1-4アルキルおよび N(C1-4アルキル)(C1-4アルキル)から選択され、XがH、C1-4アルキルおよびC(O)C1-4アルキルから選択される場合、YはL-LeuおよびL-Ileから選択される。
【0038】
本開示の実施形態において、式Iの化合物は、
H-L-Ile-L-γ-Glu-L-Trp-OH;
H-L-γ-Glu-D-Trp-L-Ile-OH;
H-L-γ-Glu-L-Trp-L-Ile-OH;
H-L-Leu-L-γ-Glu-L-Trp-OH;ならびに
薬剤的に許容可能なその塩、溶媒和化合物およびプロドラッグから選択される。
【0039】
別の実施形態において、本開示の化合物は、H-Ile-γ-Glu-Trp-OH、またはその塩、溶媒和化合物もしくはプロドラッグである。
【0040】
式Iの全ての化合物は少なくとも2つの不斉中心を有し、従って、それらはジアステレオマーとして存在し得る。全てのそのような異性体および任意の比率のその混合物は、本開示の範囲内に包含されると理解されるべきである。非対称的に置換された原子を含む本開示の化合物は、光学活性体またはラセミ体である。例えば物質の分割によって光学活性体を調製する方法は、当技術分野でよく知られている。特定の立体化学または異性体を具体的に示さない限り、キラル体、ジアステレオマー、ラセミ体は全て、本開示の範囲内にある。
【0041】
III.本開示の化合物の調製方法
本開示の化合物を、固相合成のようなタンパク質の化学において知られた技術を使った化学合成(Merrifield, 1964, J. Am. Chem. Assoc. 85:2149-2154)または均一溶液中での合成(Houbenweyl, 1987, Methods of Organic Chemistry, ed. E. Wansch, Vol.
15 I and II, Thieme, Stuttgart)により調製する。
【0042】
本開示の実施形態に従って、式Iの化合物を、C末端アミノ酸から始まるペプチド鎖の段階的な形成によって合成する。このプロセスには、アミノ酸アルキルエステルから始めて、活性エステルの方法および無水物を混合する方法を使用し、t-ブチルオキシカルボニル基をアミノ保護基として適切に使用して、官能基を最大限にブロッキングすることが含まれる。
【0043】
適切な実施形態において、本方法には、合成中に反応することが知られているアミノ酸のアミノ基、カルボキシル基および他の反応性側鎖のブロッキングが含まれる。適切なブロッキング剤は当業者に知られている。例えば、適切なカルボキシブロッキング剤には、エチル、ニトロベンジル、およびt-ブチルが含まれるが、これらに限定されない。適切なアミノブロッキング剤には、カルボベンゾキシ、トシル、トリフルオロアセチルおよび、適切に、t-ブチルオキシカルボニル(Boc)が含まれるが、これらに限定されない。その後、アミノ酸を共役し、続いてブロッキング剤を取り除く。このペプチドを、逆相クロマトグラフィーを使用して、任意で、さらに精製する。
【0044】
本開示の実施形態において、C末端アミノ酸を、適切にt-ブチルオキシカルボニルを使用してそのアミノ末端の位置でブロックし、ペンタフルオロフェノールのような別の分子と共役させ、アミノ酸アルキルエステルを形成する。これは、酢酸エチル中で保護されたアミノ酸とペンタフルオロフェノールの混合物を約-5℃まで冷却し、N,N-ジシクロヘキシルカルボジイミドを加えることによって生じる。その後、この混合物を3時間、常温で撹拌し、形成したN,N-ジシクロヘキシルウレアを濾過によって取り除き、残ったものを酢酸エチル‐ヘキサン中で結晶化し、残留物を濾過して取り除く。その後、アミノ保護されたアルキルエステルアミノ酸を、ジメチルホルムアミドの存在下、別のアミノ酸またはγ-Glu-Trpのようなペプチドと共役させ、Boc-Ile-γ-Glu-Trp-OHのようなアミノ保護されたペプチドを生じさせる。その後、当技術分野で知られる従来の方法を用いて、ブロッキング剤Bocを取り除き、逆相HPLCクロマトグラフィーを使用してぺプチドを精製する。
【0045】
本開示のペプチドを、様々な酵素、蛍光物質、発光物質および放射性物質を用いる従来の方法を使用して、任意で標識する。適切な酵素、蛍光物質、発光物質および放射性物質は、当業者によく知られている。
【0046】
本開示のペプチドを、塩酸、硫酸、臭化水素酸、リン酸を含むが、これらに限定されない無機酸、またはギ酸、酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、乳酸、ピルビン酸、シュウ酸、コハク酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、安息香酸、サリチル酸、ベンゼンスルホン酸、およびトルエンスルホン酸を含む有機酸と反応させることによって医薬品塩に変換する。
【0047】
上記の方法により、対応する遊離酸および/もしくは遊離アミンまたは対応するその塩の1つもしくは両方を形成する。これは、当業者が知っている反応条件および最終単離方法によって決まる。望ましい化合物塩の形成、または望ましい化合物塩への変換は、標準的な技術を用いて達成される。例えば、中性化合物を、適切な溶媒の中で酸または塩基で処理し、形成した塩を濾過、抽出または任意の他の適切な方法で単離する。
【0048】
本開示の化合物の溶媒和化合物の形成は、化合物および溶媒和化合物によって変化するであろう。概して、適した溶媒の中で化合物を溶解し、冷却するかまたは貧溶媒を用いることによって溶媒和化合物を単離することにより、溶媒和化合物を形成する。溶媒和化合物は、一般的に、周囲条件下、乾燥状態かまたは共沸状態である。
【0049】
式Iの化合物のプロドラッグは、例えば、利用可能な水酸基、アミノ基またはカルボキシル基を伴って形成される従来的なエステルである。例えば、利用可能な水酸基またはアミノ基は、塩基の存在下、および任意で、不活性溶媒(例えば、ピリジン中の酸塩化物)の中で、活性化した酸を用いてアシル化される。プロドラッグとして利用されているいくつかの一般的なエステルは、フェニルエステル、脂肪族(C1-C24)エステル、アシルオキシメチルエステル、カルバメートおよびアミノ酸エステルである。
【0050】
場合によって、上で概説した化学反応を、例えば、保護基を使用することによって修飾し、反応基、例えば置換基として取り付けられた反応基による副反応を防止することもある。これは、例えば、「Protective Groups in Organic Chemistry」(McOmie,
J.F.W. Ed., Plenum Press, 1973)および「Protective Groups in
Organic Synthesis」(Greene, T.W. and Wuts, P. G. M.,
John Wiley & Sons, 3rd Edition, 1999)の中で記載されているように、従来の保護基によって達成される。
【0051】
III.使用/方法
本開示は、実験の目的のためにおよび医学の分野で使用されるペプチドを提供する。このペプチドおよびこのペプチドを含む医薬品組成物は顕著な免疫調節効果を有し、従って、体内に生じる異常細胞型もしくは変異細胞型または異常抗原もしくは変異抗原の認識および破壊を促進または抑制するために使用される。本開示のペプチドの有用性は、実施例を参照することにより、より詳細に理解される。
【0052】
一態様において、本開示は、免疫システムおよび/または造血を調節する方法であって、免疫システムおよび/または造血を調節する必要のある動物に、有効量の本開示の1つ以上の化合物を投与する工程を含む方法を提供する。一実施形態において、本開示は、動物の免疫システムを刺激する方法を提供する。別の実施形態において、本開示は、例えば、放射線照射または細胞分裂抑制作用因子によって引き起こされた造血障害のある動物において、造血を回復する方法を提供する。
【0053】
さらに別の実施形態において、本開示は、例えば、免疫細胞減少症、多発性骨髄腫、慢性リンパ性白血病、リンパ球性リンパ腫、リンパ肉腫および特にb細胞リンパ性白血病などの、ただしこれらに限定されない、造血障害を治療する方法を提供する。
【0054】
別の実施形態において、本開示は、動物のガンのような免疫障害および/または造血障害を治療する方法であって、有効量の本開示の1つ以上の化合物を、適切に細胞分裂抑制作用因子と組み合わせて、動物に投与する工程を含む方法を提供する。一実施形態において、細胞分裂抑制作用因子はオキシ尿素または温熱療法のいずれかである。
【0055】
本開示は、薬物として本開示の1つ以上の化合物を使用することを含む。
【0056】
免疫システムおよび/または造血を調節するために本開示の1つ以上の化合物を使用すること、ならびに免疫システムおよび/または造血を調節するための薬物を調製するために本開示の1つ以上の化合物を使用することも本開示に含まれる。
【0057】
本開示は、また、例えば、免疫システムおよび/または造血を調節するための薬物として使用するために、本開示の1つ以上の化合物を含む。
【0058】
本開示は、造血障害を治療するために本開示の1つ以上の化合物を使用することも含む。造血障害を治療するための薬物を調製するために本開示の1つ以上の化合物を使用すること、および造血障害を治療するために使用する本開示の1つ以上の化合物も含まれる。
【0059】
一実施形態において、造血障害は、免疫細胞減少症、多発性骨髄腫、慢性リンパ性白血病、リンパ球性リンパ腫、リンパ肉腫および特にb細胞リンパ性白血病から選択される。
【0060】
組成物
本開示の別の態様によると、上記で定義されたような式Iの化合物、ならびに薬剤的に許容可能なその塩、溶解和化合物、およびプロドラッグ、ならびに薬剤的に許容可能な担体から選択された1つ以上の化合物を含む医薬品組成物が含まれる。
【0061】
本開示の化合物を、インビボで投与するのに適する、生物学的に適合する形態で動物に投与するために医薬品組成物の中に適切に処方する。
【0062】
本開示の化合物を含む組成物を、対象に投与される薬剤的に許容可能な組成物の調製のための既知の方法によって調製し、効果的な分量の活性物質を、混合物中で、薬剤的に許容可能な媒体と組み合わせる。適切な媒体は、例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences (2003 - 20th edition)および1999年に出版されたThe United States Pharmacopeia:
The National Formulary (USP 24 NF19)の中に記載されている。これに基づいて、この組成物は、たとえ単独ではなくとも、1つ以上の薬剤的に許容可能な媒体または希釈剤と関連した物質であって、適切なpHでかつ生理液と等浸透圧の緩衝液中に含まれる物質の溶液を含む。
【0063】
式Iの化合物を、遊離塩基の形態で、塩の形態で、溶媒和化合物の形態でおよび水和物として薬剤的に使用する。全ての形態は本開示の範囲にある。例えば、その塩を精製および同定の目的でのみ形成する場合のように、たとえ特定の塩それ自体が、中間生成物としてのみ所望されたとしても、遊離塩基の形態の源として使用するために、酸付加塩および塩基付加塩を本開示の化合物と共に形成する。従って、本開示の化合物と共に形成され得る全ての塩は、本開示の範囲内にある。
【0064】
本開示の方法に従って、当業者によって理解されるように、選択された投与経路に応じて、本開示の記載された化合物を様々な形態で患者に投与する。本開示の化合物を、例えば、経口投与、非経口投与、バッカル投与、舌下投与、経鼻投与、直腸投与、パッチ投与または経皮投与によって投与し、それに合わせて、医薬品組成物を処方する。非経口投与には、静脈投与、腹腔内投与、皮下投与、筋肉内投与、経上皮投与、経鼻投与、肺内投与、髄腔内投与、直腸投与および局所投与の様式が含まれる。非経口投与は、選択された期間、連続注入によって行われる。適切に、本開示の化合物を経口経路により投与する。それに応じて、経口デリバリーのために、本開示の組成物を適切に処方する。
【0065】
本開示の一実施形態において、医薬品組成物は、約0.01%〜約1%、適切には約0.01%〜約0.5%の本開示の1つ以上の化合物を含む。この組成物を、例えば、約40℃〜約70℃の温度で、担体と化合物を混合することによって調製し、この組成物は、約25℃までの温度で3年間、溶液中で安定性を保持する。
【0066】
一実施形態において、例えば、不活性希釈剤または吸収可能な食用担体と共に本開示の化合物を経口投与するか、殻の固いまたは殻の軟らかいゼラチンカプセルの中にそれを封入するか、錠剤の中にそれを圧縮するか、食事の食べ物と共にそれを直接とり込む。経口の治療的投与のために、本開示の化合物を賦形剤と共に取り込み、摂取可能な錠剤、粉末、バッカル錠剤、トローチ、カプセル、エリキシル剤、懸濁液、シロップ、オブラートなどの形態で使用する。例えば、化合物の賦形剤に対する割合は、約0.01%〜約1%である。
【0067】
別の実施形態において、本開示の化合物を非経口的に投与する。本開示の化合物の溶液を、ヒドロキシプロピルセルロースのような界面活性剤と適切に混合された水の中で調製する。分散液もグリセロール、液体ポリエチレングリコール、DMSOおよびアルコールの有無にかかわらず、その混合物の中で、ならびに油の中で調製する。通常の貯蔵および使用の条件の下で、これらの調製品は、微生物の増殖を防ぐための保存剤を含む。当業者は、適切な処方を調製する方法を知っているであろう。
【0068】
注射使用に適した医薬品形態には、滅菌水性生理食塩水、滅菌水性塩溶液、もしくは滅菌水性緩衝液、または滅菌水性分散液、および滅菌注射用溶液または滅菌注射用分散液の即時調製のための滅菌粉末が含まれる。あらゆる場合において、その形態は滅菌状態でなければならず、容易な注射可能性(syringability)が存在する程度に流動性がなければならない。化合物の溶媒に対する割合は、例えば、約0.001%〜約0.1%である。注射用組成物を、例えば、正確に重さを量った量の化合物粉末に、適正な量の溶媒を加えることによって調製する。その後、その溶液を濾過し、滅菌し、ボトルまたはアンプルに入れる。
【0069】
経鼻投与のための組成物を、エアロゾル、点鼻薬、ゲルまたは粉末として都合よく処方する。エアロゾル製剤には、一般的に、生理的に許容可能な水性溶媒または非水性溶媒中の活性物質の溶液または微細懸濁液が含まれ、噴霧装置を用いて使用するために、カートリッジまたは詰め替えの形態を取り得る密封容器の中で、滅菌形態で、単一用量または複数用量で通常提供される。あるいは、密封容器は、単一用量の経鼻吸入器のような単一分注装置(unitary dispensing device)、または絞り弁を備えた、使用後に廃棄するように意図されたエアロゾルディスペンサーである。投薬形態がエアロゾルディスペンサーを含む場合、それは、例えば、圧縮空気のような圧縮ガスである高圧ガスまたはフルオロクロロハイドロカーボンのような有機の高圧ガスを含む。エアロゾル投薬形態は、ポンプ式噴霧器の形態も取り得る。
【0070】
バッカル投与または舌下投与に適した組成物には、有効成分が、糖、アカシア、トラガカント、またはゼラチンおよびグリセリンのような担体と共に処方されている、錠剤、ロゼンジ、および薬用ドロップが含まれる。直腸投与のための組成物は、都合よく、ココアバターのような従来的な坐薬の基剤を含む坐薬の形態にある。
【0071】
本開示の化合物を、動物へ、適切にはヒト患者へ、単独でまたは上記のような薬剤的に許容可能な担体と組み合わせて投与し、その割合を、その化合物の溶解性および化学的性質、選択された投与経路ならびに標準的な薬務によって決定する。
【0072】
本開示の化合物を、単独で処方するか、または免疫反応もしくは造血を調節する他の薬剤と同時に投与するために処方するか、または免疫障害もしくは造血障害の別の種類の治療と組み合わせて処方する。従って、本開示のさらに別の態様によると、免疫障害または造血障害の治療のための薬物を調製するために、任意で、免疫障害もしくは造血障害の治療のための別の薬剤と共に同時に使用するために、式Iの化合物から選択される1つ以上の化合物、ならびに薬剤的に許容可能なその塩、溶媒和化合物、およびプロドラッグ、ならびに薬剤的に許容可能な担体を含む医薬品組成物が含まれる。
【0073】
以下の制限のない実施例は、本開示の実例となる。
【実施例】
【0074】
【実施例1】
【0075】
H-L-Ile-L-Glu-L-Trp-OHの調製
【0076】
(a)Boc-L-Glu(OBzl)-L-Trp-OMeの調製
16.9g(0.05mol)のBoc-L-Glu(OBzl)-OHをジオキサンに溶解した。その後、18.5g(0.058mol)のO-(1H-ベンゾトリアゾロ-1-イル)-N,N,N’,N’-テトラメチル-ウロニウムテトラフルオロボラート(TBTU)をこの溶液に加え、十分に混合した。その後、12.7g(0.05mol)のL-Trp-OMe・HClおよび25.3ml(0.25mol)のN-メチルモルフォリン(pH約9-9.2まで)をこの混合物に加えた。この懸濁液は、12〜18時間後に反応が完了するまでに、常温で溶解した。
【0077】
溶媒を真空中で蒸発させ、残留オイルを250mlのEtOAcに溶解し、分液漏斗に移し、中性pHになるまで50mlの5%H2SO4、2×50mlの水、150mlの5%NaHCO3、および3×50mlの水で洗浄した。有機層を分離し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。乾燥後、EtOAcを真空中で蒸発させた。
【0078】
残留物を150mlのエチルエーテルと60mlのヘキサンの混合物に溶解した。沈殿を形成し、完全濾過し、100mlのエチルエーテルと50mlのヘキサンの混合物で洗浄し、その後、乾燥した。
【0079】
収量は21.5g(79.9%)で、Rf=0.83(CHCl3:EtOAc:MeOH:AcOH=6:3:1:0.1)であった。
【0080】
(b) Fmoc-L-Ile-L-Glu(OBzl)-L-Trp-OMeの調製
26.9g(0.05mol)のBoc-L-Glu(OBzl)-L-Trp-OMeを50mlのジクロロメタンに溶解した。50mlのトリフルオロ酢酸をこの溶液に加え、混合物を40分間、常温で撹拌した。溶媒を真空中で蒸発させ、残留オイルをジオキサンに溶解した。その後、N-メチルモルホリンを、pHが約9-9.2になるまでこの混合物に加えた(溶液1)。
【0081】
16.9g(0.048mol)のFmoc-L-Ile-OH
をジオキサンに溶解した。19.9g(0.062mol)のO-(1
H-ベンゾトリアゾロ-1-イル)-N,N,N’,N’-テトラメチル-ウロニウムテトラフルオロボラート(TBTU)をこの溶液に加え、十分混合した。その後溶液1をこの混合液に加えた。この懸濁液は、12〜18時間後に反応が完了するまでに、常温で溶解した。
【0082】
溶媒を真空中で蒸発させ、残留オイルを250mlのEtOAcに溶解し、分液漏斗に移し、中性pHになるまで2×75mlの5%H2SO4、3×50mlの水、150mlの5%NaHCO3、および3×50mlの水で洗浄した。有機層を分離し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。乾燥後、EtOAcを真空中で蒸発させた。
【0083】
残留物を200mlの熱いEtOAcで溶解した。その後、300mlのエチルエーテルと200mlのヘキサンの混合物をこの溶液に加えた。
【0084】
沈殿を形成し、完全濾過し、50mlのエチルエーテルと50mlのヘキサンの混合物で洗浄し、その後、乾燥した。
【0085】
収量は28.5g(73.8%)で、Rf=0.85(CHCl3:EtOAc:MeOH=6:3:1)であった。
【0086】
(c)H-L-Ile-L-Glu-L-Trp-ONaの調製
100mlのジクロロメタンおよび120mlのイソプロパノールを19.4g(0.025mol)の-L-Ile L-Glu(OBzl)-L-Trp-OMeに加えた。その後、24mlの3NのNaOHをこの混合物に加えた。この懸濁液は、3〜4時間後に反応が完了するまでに、常温で溶解した。その後、溶媒を真空中で蒸発させ、その残留オイルを200mlのEtOAcおよび200mlの水に溶解し、分液漏斗に移した。水層を100mlのEtOAcで洗浄し、分離し、この溶液のpHが6.2になるまで酢酸で調節した。その後、この水溶液を最小量になるまで真空中で蒸発させた。その後、600mlのエタノールを残留物に加えた。沈殿を形成し、完全濾過し、エタノールで洗浄し、その後乾燥した。
【0087】
収量は8.9g(76.0%)で、Rf=0.53(CHCl3:MeOH:32%AcOH=5:3:1)であった。
【0088】
同様の方法で、以下の追加化合物を調製した。
H-L-Ile-L-Glu-L-Trp-OH
H-L-Ile-γ-Glu-L-Trp-OH
H-Ile-D-Glu-(D-Trp)-OH
H-L-γ-Glu-D-Trp-L-Ile-OH
H-L-γ-Glu-L-Trp-L-Ile-OH
H-L-Leu-L-Glu-L-Trp-OHおよび
H-L-Leu-L-γ-Glu-L-Trp-OH
【実施例2】
【0089】
この実施例では、本開示の化合物の様々な実施形態に関する物理有機データについて述べる。表1に、式Iの多数の化合物についての(クロロホルム-メタノール-32%酢酸=60:45:20中の)Rf1値および(ブタノール-ピリジン-水-酢酸=5:5:4:1中の) Rf2値をまとめる。
【実施例3】
【0090】
新規ペプチドの生物活性を、H-L-Ile-L-Glu-L-Trp-OHおよび他の参照ペプチドの生物活性と比較した。その結果を、表2〜4に示す。
【0091】
放射線照射
試験動物に、1分間に0.8グレイの線量率で60Coガンマ線を照射した。骨髄レシピエントに8グレイの線量を照射した;ドナーに4グレイの線量を照射した。致死量放射線照射したレシピエントに注入する5-10分前に、無傷動物の骨髄細胞の懸濁液に1グレイを照射した。
【0092】
ペプチド放射線治療の特性および造血前駆細胞集団に与える影響の研究
1グレイを照射されたマウスの骨髄におけるCFU-S再生の刺激を、ペプチドの異なる投与経路を利用して調べた。
【0093】
この目的のために、各群から少なくとも5匹のマウスを殺処分し、それらの骨髄を取得した。細胞懸濁液を調製し、致死量放射線照射マウスに注入した。1グレイを照射されペプチドを受け入れたドナーにおいて、9日後、脾臓コロニーを数え、CFU-S含有量を決定した。結果を表2〜4にまとめる。表2に腹腔内投与を用いた結果を示し、表3に経口投与を用いた結果を示す。表4に、H-L-Ile-L-Glu-L-Trp-OH(参照ペプチド)およびH-L-Ile-L-γ-Glu-L-Trp-OH(本開示のぺプチド)の異なる投与量および投与経路の効果を示す。
【0094】
この結果は、L-γ-Glu-Trpを含むペプチドは経口活性を示すが、より一般的なL-Glu-Trpを含むペプチドは、経口で投与された時に、活性を示したということを明確に示す。
【0095】
【表1】

【表2】

注釈:表中のデータは2回の試験の平均である;骨髄懸濁液の注入30分後、100ug/kgの用量で、ペプチドを腹腔内に注入した。
* - P<0.05(無傷対照と比較した場合)
** - P<0.05(放射線照射動物と比較した場合)
【表3】

注釈:表中のデータは2回の試験の平均である;骨髄懸濁液の注入30分後、100ug/kgの用量で、ペプチドを経口経管栄養法により投与した。
* - P<0.05(無傷対照と比較した場合)
** - P<0.05(放射線照射動物と比較した場合)
【表4】

注釈:表中のデータは2回の試験の平均である;骨髄懸濁液の注入30分後、ペプチドを投与した。
* - P<0.05(無傷対照と比較した場合)
** - P<0.05(放射線照射動物と比較した場合)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式I:
X-L-γ-Glu-Trp-Y(I)
(式中、XはH、C1-4アルキル、C(O)C1-4アルキル、L-Leu、L-IleおよびL-Trpから選択され;
YはOH、NH2、NHC1-4アルキル、N(C1-4アルキル)(C1-4アルキル)、L-LeuおよびL-Ileから選択される)の化合物から選択される化合物;ならびに
TrpがD-TrpまたはL-Trpである薬剤的に許容可能なその塩、溶媒和化合物およびプロドラッグ。
【請求項2】
以下の構造:
【化1】

(ここで、XおよびYは請求項1で定義されたものであり、*における立体化学はLであり、**における立体化学はDまたはLである)
を有する請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
XがH、C(O)CH3、L-Leu およびL-IIeから選択される、請求項1または2に記載の化合物。
【請求項4】
YがOH、L-LeuおよびL-IIeから選択される、請求項1〜3のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項5】
XがL-Leu、L-IleまたはL-Trpから選択される場合、YはOH、NH2、NHC1-4アルキルおよびN(C1-4アルキル)(C1-4アルキル)から選択される、請求項1または2に記載の化合物。
【請求項6】
XがHおよびC(O)C1-4アルキルから選択される場合、YがL-LeuおよびL-Ileから選択される、請求項1または2に記載の化合物。
【請求項7】
H-L-Ile-L-γ-Glu-L-Trp-OH;
H-L-γ-Glu-D-Trp-L-Ile-OH;
H-L-γ-Glu-L-Trp-L-Ile-OH;および
H-L-Leu-L-γ-Glu-L-Trp-OH
から選択される、請求項1に記載の化合物。
【請求項8】
H-Ile-γ-Glu-Trp-OHである、請求項1に記載の化合物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の化合物、および薬剤的に許容可能な担体を含む医薬品組成物。
【請求項10】
経口投与のために処方される、請求項9に記載の医薬品組成物。
【請求項11】
免疫システムおよび/または造血を調節する方法であって、免疫システムおよび/または造血を調節する必要のある動物に、請求項1〜8のいずれか一項に記載の1つ以上の有効量の化合物を投与する工程を含む方法。
【請求項12】
前記動物の免疫システムを刺激する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記動物における造血を回復する、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
造血障害を治療する方法であって、造血障害を治療する必要のある動物に、請求項1〜8のいずれか一項に記載の1つ以上の有効量の化合物を投与する工程を含む方法。
【請求項15】
前記造血障害が、免疫細胞減少症、多発性骨髄腫、慢性リンパ性白血病、リンパ球性リンパ腫、リンパ肉腫およびβ細胞リンパ性白血病から選択される、請求項14に記載の方法。

【公表番号】特表2011−503215(P2011−503215A)
【公表日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−534328(P2010−534328)
【出願日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際出願番号】PCT/CA2008/002037
【国際公開番号】WO2009/065217
【国際公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【出願人】(510138903)イミュノテック ディベロップメンツ インコーポレイテッド (1)
【Fターム(参考)】