説明

新規カルボニル還元酵素、その遺伝子、およびその利用法

本発明は、(R)−N−ベンジル−3−ピロリジノールを効率よく生成する新規ポリペプチド、それをコードするポリヌクレオチドおよびその利用方法を提供する。本発明は、以下の(1)から(4)の理化学的性質を有するポリペプチドである:(1)作用:NADHまたはNADPHを補酵素として、N−ベンジル−3−ピロリジノンに作用し、(R)−N−ベンジル−3−ピロリジノールを生成する、(2)作用至適pH:5.5から6.0、(3)作用至適温度:50℃から55℃、(4)分子量:ゲル濾過分析において約55000、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動分析において約28000。本発明は、また、配列表の配列番号1に示すアミノ酸配列からなるポリペプチド、該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、及び、該ポリペプチドを高生産する形質転換体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、式(1)

で表されるN−ベンジル−3−ピロリジノンを立体選択的に還元して、式(2)

で表される(R)−N−ベンジル−3−ピロリジノールを生成する活性を有するポリペプチド、該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、該ポリヌクレオチドを含む発現ベクター、および該発現ベクターで形質転換された形質転換体に関する。
本発明はまた、該形質転換体を用いた光学活性アルコール、とりわけ光学活性N−ベンジル−3−ピロリジノール、光学活性2−テトラロール誘導体、及び、光学活性1−フェニルエタノール誘導体の製造法に関する。光学活性N−ベンジル−3−ピロリジノール、光学活性2−テトラロール誘導体、及び、光学活性1−フェニルエタノール誘導体は、医薬、農薬等の合成原料として有用な化合物である。
【背景技術】
光学活性N−ベンジル−3−ピロリジノールの製造方法としては、N−ベンジル−3−ピロリジノンを立体選択的に還元する活性を有する酵素の存在下、このN−ベンジル−3−ピロリジノンを立体選択的に還元して光学活性N−ベンジル−3−ピロリジノールを製造する方法(特開平6−141876号公報)、N−ベンジル−3−ピロリジノンにデポダスカス(Depodascus)属等の微生物の菌体、培養物又はそれらの処理物を作用させて光学活性N−ベンジル−3−ピロリジノールを製造する方法(特開平10−150997号公報)が知られている。
また、光学活性2−テトラロール誘導体の製造方法としては、ベンゼン環上に置換基を有する2−テトラロン誘導体にパン酵母を作用させて、対応する光学活性2−テトラロール誘導体を製造する方法(Tetrahedron 51,11531,(1995))が知られている。
また、光学活性1−フェニルエタノール誘導体の製造方法としては、2−ハロ−1−(置換フェニル)エタノンに、アシビア属やオガタエア属等に属する微生物またはその処理物を作用させ、光学活性2−ハロ−1−(置換フェニル)エタノールを得る方法(特開平4−218384号公報、及び、特開平11−215995号公報)、1−(置換フェニル)エタノンにゲオトリカム・キャンディダム(Geotrichumcandidum)の乾燥菌体を作用させ、光学活性1−(置換フェニル)エタノールを得る方法(J.Org.Chem.63,8957(1998))が知られている。
しかしながら、これらの方法はいずれも、その基質仕込み濃度および基質から生成物への転換率が実用上十分ではなく、より効率の良い方法が待ち望まれていた。
発明の要約
本発明は、上記現状に鑑み、光学活性N−ベンジル−3−ピロリジノール、光学活性2−テトラロール誘導体、光学活性1−フェニルエタノール誘導体を始めとする各種光学活性アルコールの製造に有用なポリペプチド、該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、該ポリヌクレオチドを含む発現ベクター、および該発現ベクターで形質転換された形質転換体を提供することを課題とする。
また、本発明は、該形質転換体を用いて、光学活性N−ベンジル−3−ピロリジノール、光学活性2−テトラロール誘導体、及び、光学活性1−フェニルエタノール誘導体を始めとする各種光学活性アルコールを効率よく製造する方法を提供することを課題とする。
本発明者らは、N−ベンジル−3−ピロリジノンを立体選択的に還元し、(R)−N−ベンジル−3−ピロリジノールを生成する活性を有する微生物より、該活性を有するポリペプチドを単離した。そして、該ポリペプチドを利用することにより光学活性N−ベンジル−3−ピロリジノールのみならず、光学活性2−テトラロール誘導体及び光学活性1−フェニルエタノール誘導体を始めとする、有用な光学活性アルコールを効率良く製造することが可能であることを見出した。また、該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを単離し、更には、発現ベクター並びに形質転換体を創製することにも成功し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は、N−ベンジル−3−ピロリジノンを立体選択的に還元して、(R)−N−ベンジル−3−ピロリジノールを生成し得るポリペプチドである。
また、本発明は、上記ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドである。
また、本発明は、上記ポリヌクレオチドを含有する発現ベクターである。
また、本発明は、上記ポリペプチドを高生産する形質転換体である。
更に、本発明は、該形質転換体を用いた、光学活性N−ベンジル−3−ピロリジノール、光学活性2−テトラロール誘導体、及び、光学活性1−フェニルエタノール誘導体を始めとする、有用な光学活性アルコールの実用的な製造方法である。
発明の詳細な開示
以下、詳細に本発明を説明する。本発明のポリペプチドとしては、以下の(1)から(4)の理化学的性質を有するポリペプチドが挙げられる。
(1)NADHまたはNADPHを補酵素として、下記式(1)

で表されるN−ベンジル−3−ピロリジノンを立体選択的に還元して、下記式(2)

で表される(R)−N−ベンジル−3−ピロリジノールを生成する活性を有し、
(2)作用至適pHが5.5から6.0、
(3)作用至適温度が50℃から55℃、
(4)分子量が、ゲル濾過分析において約55000、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動において約28000。
また、本発明のポリペプチドとしては、例えば、(a)配列表の配列番号1に示したアミノ酸配列からなるポリペプチド、または、(b)配列表の配列番号1に示したアミノ酸配列または配列表の配列番号1に示したアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が置換、挿入、欠失または付加されたアミノ酸配列を含み、かつN−ベンジル−3−ピロリジノンを立体選択的に還元して(R)−N−ベンジル−3−ピロリジノールを生成する活性を有するポリペプチドを挙げることができる。
配列表の配列番号1に示したアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が置換、挿入、欠失または付加されたアミノ酸配列を含むポリペプチドは、Current Protocols in Molecular Biology(John Wiley and Sons,Inc.,1989)等に記載の公知の方法に準じて調製することができ、N−ベンジル−3−ピロリジノンを立体選択的に還元して(R)−N−ベンジル−3−ピロリジノールを生成する活性を有する限り、本発明のポリペプチドに包含される。
このようなポリペプチドは、当該活性を有する微生物から単離することができる。本発明のポリペプチドの起源として用いられる微生物は、特に限定されないが、例えばデボシア(Devosia)属細菌が挙げられ、特に好ましいものとしてはデボシア・リボフラビナ(Devosiariboflavina)IFO13584株を挙げることができる。
本発明のポリペプチドを生産する微生物は、野生株または変異株のいずれであってもよく、また、細胞融合または遺伝子操作などの遺伝学的手法により誘導された微生物であってもよい。
遺伝子操作された、本発明のポリペプチドを生産する微生物は、例えば、これらのポリペプチドを単離および/または精製してそのアミノ酸配列の一部または全部を決定する工程、このアミノ酸配列に基づいてポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの塩基配列を決定する工程、およびこのポリヌクレオチドを他の微生物に導入して組換え微生物を得る工程を包含する方法により得られ得る。
本発明のポリペプチドを有する微生物からの該ポリペプチドの精製は、常法により行い得る。例えば、該微生物の菌体を適当な培地で培養し、培養液から遠心分離により菌体を集める。得られた菌体を例えば、超音波破砕機などで破砕し、遠心分離にて菌体残さを除き、無細胞抽出液を得る。この無細胞抽出液から、例えば、塩析(硫酸アンモニウム沈殿、リン酸ナトリウム沈殿など)、溶媒沈殿(アセトンまたはエタノールなどによる蛋白質分画沈殿法)、透析、ゲル濾過、イオン交換、逆相等のカラムクロマトグラフィー、限外濾過等の手法を単独で、または組み合わせて用いて、ポリペプチドが精製され得る。
該酵素活性は、100mMリン酸緩衝液(pH6.5)に、基質N−ベンジル−3−ピロリジノン5mM、補酵素NADH0.25mMおよび酵素を添加し、30℃で波長340nmの吸光度の減少を測定することにより確認および計算することができる。
本発明のポリヌクレオチドとしては、上記ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドであればいずれも用いることができるが、例えば、(c)配列表の配列番号2に示した塩基配列からなるポリヌクレオチド、又は、(d)配列表の配列番号2に示した塩基配列と相補的な塩基配列を有するポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、前記式(1)で表されるN−ベンジル−3−ピロリジノンを立体選択的に還元して、前記式(2)で表される(R)−N−ベンジル−3−ピロリジノールを生成する活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを挙げることができる。
配列表の配列番号2に示した塩基配列と相補的な塩基配列を有するポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドとは、配列表の配列番号2に示した塩基配列と相補的な塩基配列を有するポリヌクレオチドをプローブとして、コロニー・ハイブリダイゼーション法、プラーク・ハイブリダイゼーション法、あるいはサザンハイブリダイゼーション法等を用いることにより得られるポリヌクレオチドを意味し、具体的には、コロニーあるいはプラーク由来のポリヌクレオチドを固定化したフィルターを用いて、0.7〜1.0MのNaCl存在下、65℃でハイブリダイゼーションを行った後、0.1〜2倍濃度のSSC溶液(1倍濃度のSSC溶液の組成は、150mM塩化ナトリウム、15mMクエン酸ナトリウムよりなる)を用い、65℃の条件下でフィルターを洗浄することにより同定できるポリヌクレオチドをあげることができる。
ハイブリダイゼーションは、Molecular Cloning,A laboratory manual,second edition(Cold Spring Harbor Laboratory Press,1989)等に記載されている方法に準じて行うことができる。
ハイブリダイズ可能なポリヌクレオチドとして具体的には、配列番号2に示されるポリヌクレオチドと、配列同一性が60%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、最も好ましくは99%以上のポリヌクレオチドをあげることができ、コードされるポリペプチドがN−ベンジル−3−ピロリジノンを立体選択的に還元して(R)−N−ベンジル−3−ピロリジノールを生成する活性を有する限り、本発明のポリヌクレオチドに包含される。
ここで、「配列の同一性(%)」とは、対比される2つのポリヌクレオチドを最適に整列させ、核酸塩基(例えば、A、T、C、G、U、またはI)が両方の配列で一致した位置の数を比較塩基総数で除し、そして、この結果に100を乗じた数値で表される。
配列同一性は、例えば、以下の配列分析用ツールを用いて算出し得る:GCG Wisconsin Package(Program Manual for the Wisconsin Package、Version8、1994年9月、Genetics Computer Group、575 Science Drive Madison、Wisconsin、USA53711;Rice、P.(1996)Program Manual for EGCG Package、Peter Rice、The Sanger Centre、Hinxton Hall、Cambridge、CB10 1RQ、England)、および、the ExPASy World Wide Web分子生物学用サーバー(Geneva University Hospital and University of Geneva、Geneva、Switzerland)。
本発明のポリヌクレオチドは、N−ベンジル−3−ピロリジノンを立体選択的に還元して(R)−N−ベンジル−3−ピロリジノールを生成する活性を有する微生物より取得することができる。該微生物として、例えばデボシア(Devosia)属細菌が挙げられ、特に好ましいものとしてはデボシア・リボフラビナ(Devosiariboflavina)IFO13584株を挙げることができる。
以下に、N−ベンジル−3−ピロリジノンを立体選択的に還元して(R)−N−ベンジル−3−ピロリジノールを生成する活性を有する微生物より、本発明のポリヌクレオチドを取得する方法の例を記載するが、本発明はこれに限定されない。
まず、精製した前記ポリペプチド、および該ポリペプチドを適当なエンドペプチダーゼで消化することにより得られるペプチド断片の部分アミノ酸配列を、エドマン法により決定する。そして、このアミノ酸配列情報をもとにヌクレオチドプライマーを合成する。次に、本発明のポリヌクレオチドの起源となる微生物より、通常のDNA単離法、例えば、Current Protocols in Molecular Biology(John Wiley and Sons,Inc.,1989)等に記載の方法により、該微生物の染色体DNAを調製する。
この染色体DNAを鋳型として、先述のヌクレオチドプライマーを用いてPCR(polymerase chain reaction)を行い、該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの一部を増幅する。ここで増幅されたポリヌクレオチドの塩基配列は、ジデオキシ・シークエンス法、ジデオキシ・チェイン・ターミネイション法などにより決定することができる。例えば、ABI PRISM Dye Terminator Cycle Sequencing Ready Reaction Kit(Perkin Elmer社製)およびABI 373A DNA Seqencer(Perkin Elmer社製)を用いて行い得る。
該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの一部の塩基配列が明らかになれば、例えば、i−PCR法(Nucl.Acids Res.16,8186(1988))によりその全体の塩基配列を決定することができる。また、染色体DNA上の該ポリヌクレオチドがイントロンを含むものであった場合は、例えば、以下の方法によりイントロンを含まない成熟型ポリヌクレオチドの塩基配列を決定する事ができる。
即ち、まず、該ポリヌクレオチドの起源となる微生物より、通常のヌクレオチド単離法、例えば、Current Protocols in Molecular Biology(John Wiley and Sons,Inc.,1989)等に記載の方法により、該微生物のmRNAを調製する。次に、このmRNAを鋳型とし、先に判明している該ポリヌクレオチドの5’末端および3’末端付近の配列を有するヌクレオチドプライマーを用いてRT−PCR法(Proc.Nati.Acad.Sci.USA 85,8998(1988))により成熟型ポリヌクレオチドを増幅し、その塩基配列を先と同様に決定する。
本発明のポリヌクレオチドを宿主微生物内に導入し、それをその導入された宿主微生物内で発現させるために用いられるベクターとしては、適当な宿主微生物内で該ポリヌクレオチド中の遺伝子を発現できるものであればいずれもが用いられ得る。このようなベクターとしては、例えば、プラスミドベクター、ファージベクター、コスミドベクター等から選ばれたものが挙げられる。また、他の宿主株との間で遺伝子交換が可能なシャトルベクターであってもよい。
このようなベクターは、通常、lacUV5プロモーター、trpプロモーター、trcプロモーター、tacプロモーター、lppプロモーター、tufBプロモーター、recAプロモーター、pLプロモーター等の制御因子を含み、本発明のポリヌクレオチドと作動可能に連結された発現単位を含む発現ベクターとして好適に用いられ得る。
本願明細書で用いる用語「制御因子」は、機能的プロモーターおよび、任意の関連する転写要素(例えば、エンハンサー、CCAATボックス、TATAボックス、SPI部位など)を有する塩基配列をいう。
本願明細書で用いる用語「作動可能に連結」は、該ポリヌクレオチド中の遺伝子が発現するように、ポリヌクレオチドが、その発現を調節するプロモーター、エンハンサー等の種々の調節エレメントと宿主細胞中で作動し得る状態で連結されることをいう。制御因子のタイプおよび種類が、宿主細胞に応じて変わり得ることは、当業者に周知の事項である。
本発明のポリヌクレオチドを含有する発現ベクターを導入する宿主細胞としては、細菌、酵母、糸状菌、植物細胞、動物細胞などがあげられるが、大腸菌が特に好ましい。
本発明のポリヌクレオチドを含有する発現ベクターは、常法により宿主細胞に導入され得る。宿主細胞として大腸菌を用いる場合、例えば塩化カルシウム法により、本発明のポリヌクレオチドを含有する発現ベクターを導入することができる。
本発明のポリペプチドを用いてN−ベンジル−3−ピロリジノンを立体選択的に還元して(R)−N−ベンジル−3−ピロリジノールを生産する場合、NADH、NADPH等の補酵素が必要となる。補酵素は通常、基質と等モルを要するが、酸化された該補酵素を還元型に変換する能力(以後、補酵素再生能と呼ぶ)を有する酵素をその基質とともに反応系に添加することにより、つまり補酵素再生系を、本発明のポリペプチドと組み合わせて反応を行うことにより、高価な補酵素の使用量を大幅に削減することができる。
補酵素再生能を有する酵素としては、例えば、ヒドロゲナーゼ、ギ酸脱水素酵素、アルコール脱水素酵素、アルデヒド脱水素酵素、グルコース−6−リン酸脱水素酵素およびグルコース脱水素酵素などを用いることが出来る。好適には、グルコース脱水素酵素が用いられる。
上記の補酵素再生能を有する酵素を、不斉還元反応系に別途添加することによっても当該反応が行われ得るが、本発明のポリヌクレオチド、および補酵素再生能を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの両者により形質転換せしめられた形質転換体を触媒として用いた場合、補酵素再生能を有する酵素を別に調製し反応系に添加することなしに、該反応を効率良く実施し得る。
このような形質転換体は、本発明のポリヌクレオチド、および補酵素再生能を有するポリペプチド(例えば、グルコース脱水素酵素)をコードするポリヌクレオチドを、同一のベクターに組み込み、これを宿主細胞に導入することにより得られる他、これら2種のポリヌクレオチドを不和合性グループの異なる2種のベクターにそれぞれ組み込み、それら2種のベクターを同一の宿主細胞に導入することによっても得られる。
なお、上述したように、本発明の発現ベクターは、上記ポリヌクレオチドを含むものである。好ましくは、プラスミドpNTDRである発現ベクターが挙げられる。
本発明の発現ベクターとしては、グルコース脱水素酵素活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドをさらに含むものも挙げられる。上記グルコース脱水素酵素活性を有するポリペプチドは、バシラス・メガテリウム(Bacillusmegaterium)由来のグルコース脱水素酵素であることが好ましい。より好ましくは、プラスミドpNTDRG1である発現ベクターが挙げられる。
本発明の形質転換体は、上記発現ベクターを用いて宿主細胞を形質転換して得られたものである。上記宿主細胞としては、大腸菌が好ましい。
また、本発明の形質転換体として、
E.coli HB101(pNTDR)は、FERM BP−08457の受託番号で、平成15年8月25日付で、
E.coli HB101(pNTDRG1)は、FERM BP−08458の受託番号で、平成15年8月25日付で、
それぞれ、日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6にある独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに、ブタペスト条約に基づいて国際寄託されている。
形質転換体中の補酵素再生能を有する酵素の活性は常法により測定することができる。例えば、グルコース脱水素酵素活性の測定は、1Mトリス塩酸緩衝液(pH8.0)に、基質グルコース0.1M、補酵素NADP2mMおよび酵素を添加し、25℃で波長340nmの吸光度の増加を測定することにより行い得る。
本発明の形質転換体を用いた光学活性N−ベンジル−3−ピロリジノール、光学活性2−テトラロール誘導体、及び、光学活性1−フェニルエタノール誘導体等の光学活性アルコールの生産は以下のように実施され得る。つまり、形質転換体の培養物またはその処理物を、カルボニル基を有する化合物と反応させることにより、光学活性アルコールを製造する。
まず、適当な溶媒中に基質となるカルボニル基を有する化合物、NADH等の補酵素、および該形質転換体の培養物またはその処理物等を添加し、pH調整下、攪拌して反応させる。
形質転換体の培養は、その微生物が増殖する限り、通常の、炭素源、窒素源、無機塩類、有機栄養素などを含む液体栄養培地を用いて行い得る。また、培養温度は、好ましくは4〜50℃である。
ここで形質転換体の処理物等とは、例えば、粗抽出液、培養菌体、凍結乾燥生物体、アセトン乾燥生物体、あるいはそれらの磨砕物等を意味する。さらにそれらは、ポリペプチド自体あるいは菌体のまま公知の手段で固定化されて用いられ得る。
また、本反応を行う際、形質転換体として本発明のポリペプチドと補酵素再生能を有する酵素(例えば、グルコース脱水素酵素)の両者を生産するものを用いる場合、反応系に補酵素再生のための基質(例えば、グルコース)を添加することにより、補酵素の使用量を大幅に減らすことが可能である。
基質となるカルボニル基を有する化合物としては、例えば、式(1)

で表されるN−ベンジル−3−ピロリジノン、一般式(3)

(式中、R、Rは水素原子、水酸基又はアルコキシ基を示し、それぞれ同一でも異なってもよい。また、nは1又は2を示す。)で表される2−テトラロン誘導体、及び、一般式(5)

(式中、R、Rは水素原子、ハロゲン原子、アルコキシ基又はニトロ基を示し、それぞれ同一でも異なってもよい。また、Rは水素原子、ハロゲン原子、水酸基又は置換基を有してもよいアルキル基を示す。)で表される1−フェニルエタノン誘導体を挙げることができる。式(3)、(5)で表される化合物としてより詳しくは、例えば、7−メトキシ−2−テトラロン、3−メトキシ−6,7,8,9−テトラヒドロ−5H−ベンゾシクロヘプテン−6−オン、2−クロロ−1−(4’−フルオロフェニル)エタノン、及び2−クロロ−1−(3’−クロロフェニル)エタノンを挙げることができる。
また、上記方法により得られる光学活性アルコールとしては、例えば式(2)

で表される(R)−N−ベンジル−3−ピロリジノール、一般式(4)

(式中、R、R及びnは前記と同じ)で表される2−テトラロール誘導体、又は、一般式(6)

(式中、R、R、及び、Rは前記と同じ)で表される1−フェニルエタノール誘導体を挙げることができる。式(4)、(6)で表される化合物としてより詳しくは、例えば、7−メトキシ−2−テトラロール、3−メトキシ−6,7,8,9−テトラヒドロ−5H−ベンゾシクロヘプテン−6−オール、2−クロロ−1−(4’−フルオロフェニル)エタノール、又は、2−クロロ−1−(3’−クロロフェニル)エタノールを挙げることができる。
、R、R、Rにおけるアルコキシ基としては、炭素数1〜3のアルコキシ基であり、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基等が挙げられる。好ましくはメトキシ基である。
、R、Rにおけるハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
における置換基を有してもよいアルキル基のアルキル基としては、炭素数1〜8のアルキル基であり、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ヘキシル基、オクチル基等が挙げられる。好ましくは炭素数1〜2のアルキル基である。Rにおける置換基を有してもよいアルキル基の置換基としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、水酸基、アミノ基等が挙げられる。
反応には水系溶媒を用いてもよいし、水系溶媒と有機系溶媒を混合して用いてもよい。有機系溶媒としては、例えば、トルエン、ヘキサン、ジイソプロピルエーテル、酢酸n−ブチル、酢酸エチル等が挙げられる。
反応温度は、10℃〜70℃、好ましくは20〜40℃であり、反応時間は、1〜100時間、好ましくは10〜50時間である。また、反応中、反応液のpHは、例えば塩酸、水酸化ナトリウム水溶液、炭酸ナトリウム水溶液等を用いて、4〜10、好ましくは5〜8に維持する。
反応はバッチ方式あるいは連続方式で行われ得る。バッチ方式の場合、反応基質は0.1%から70%(w/v)の仕込み濃度で添加される。
反応で生じた光学活性アルコールは常法により精製し得る。例えば、反応で生じた光学活性アルコールがN−ベンジル−3−ピロリジノール、7−メトキシ−2−テトラロール、3−メトキシ−6,7,8,9−テトラヒドロ−5H−ベンゾシクロヘプテン−6−オール、2−クロロ−1−(4’−フルオロフェニル)エタノール、又は、2−クロロ−1−(3’−クロロフェニル)エタノールである場合、必要に応じ遠心分離、濾過などの処理を施して反応物から菌体等の懸濁物を除去した後、水酸化ナトリウム水溶液、炭酸ナトリウム水溶液、塩酸等で抽出に適したpH(3〜11)に調整し、酢酸エチル、トルエン等の有機溶媒で抽出し、有機溶媒を減圧下で除去する。さらに、蒸留、晶析またはクロマトグラフィー等の処理を行うことにより、精製され得る。
N−ベンジル−3−ピロリジノン、及び、N−ベンジル−3−ピロリジノールの定量は、ガスクロマトグラフィー(カラム:UniportB 10%PEG−20M(ID3.0mm×1.0m、ジーエルサイエンス社製)、カラム温度:200℃、キャリアガス:窒素、検出:FID)で行い得る。
また、N−ベンジル−3−ピロリジノールの光学純度の測定は、高速液体カラムクロマトグラフィー(カラム:Chiralcel OB(ID4.6mm×250mm、ダイセル化学工業株式会社製)、溶離液:n−ヘキサン/イソプロパノール/ジエチルアミン=99/1/0.1、流速:1ml/min、検出:254nm、カラム温度:室温)で行い得る。
7−メトキシ−2−テトラロン、3−メトキシ−6,7,8,9−テトラヒドロ−5H−ベンゾシクロヘプテン−6−オン、7−メトキシ−2−テトラロール、及び、3−メトキシ−6,7,8,9−テトラヒドロ−5H−ベンゾシクロヘプテン−6−オールの定量は、高速液体カラムクロマトグラフィー(カラム:ナカライテスク株式会社製COSMOSIL 5C8−MS(ID4.6mm×250mm)、溶離液:水/アセトニトリル=1/1、流速:1ml/min、検出:210nm、カラム温度:室温)で行い得る。
また、7−メトキシ−2−テトラロール、及び、3−メトキシ−6,7,8,9−テトラヒドロ−5H−ベンゾシクロヘプテン−6−オールの光学純度の測定は、高速液体カラムクロマトグラフィー(カラム:ダイセル化学工業株式会社製Chiralcel OJ(ID4.6mm×250mm)、溶離液:n−ヘキサン/イソプロパノール=9/1、流速:1ml/min、検出:254nm、カラム温度:室温)で行い得る。
2−クロロ−1−(4’−フルオロフェニル)エタノン、2−クロロ−1−(3’−クロロフェニル)エタノン、2−クロロ−1−(4’−フルオロフェニル)エタノール、及び、2−クロロ−1−(3’−クロロフェニル)エタノールの定量は、高速液体カラムクロマトグラフィー(カラム:株式会社ワイエムシィ製YMC−Pack ODS A−303(ID4.6mm×250mm)、溶離液:水/アセトニトリル=1/1、流速:1ml/min、検出:210nm、カラム温度:室温)で行い得る。
また、2−クロロ−1−(4’−フルオロフェニル)エタノール、及び、2−クロロ−1−(3’−クロロフェニル)エタノールの光学純度の測定は、高速液体カラムクロマトグラフィー(カラム:ダイセル化学工業株式会社製Chiralcel OJ(ID4.6mm×250mm)、溶離液:n−ヘキサン/イソプロパノール=39/1、流速:1ml/min、検出:254nm、カラム温度:室温)で行い得る。
以上のように、本発明に従えば、本発明のポリペフチドの効率的生産が可能であり、それを利用することにより、種々の有用な光学活性アルコールの優れた製造法が提供される。
【図面の簡単な説明】
図1は、本発明のポリヌクレオチド配列及び推定アミノ酸配列を示す図である。
図2は、組換えプラスミドpNTDRG1の作製方法及び構造を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、実施例で本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。なお、以下の実施例において用いた組換えDNA技術に関する詳細な操作方法などは、次の成書に記載されている。
Molecular Cloning 2nd Edition(Cold Spring Harbor Laboratory Press,1989)、Current Protocols in Molecular Biology(Greene Publishing Associates and Wiley−Interscience)。
実施例1 酵素の精製
以下の方法に従って、デボシア・リボフラビナ(Devosiariboflavina)IFO13584株よりN−ベンジル−3−ピロリジノンを立体選択的に還元して(R)−N−ベンジル−3−ピロリジノールを生成する活性を有する酵素を単一に精製した。特に断りのない限り、精製操作は4℃で行った。(デボシア・リボフラビナ(Devosiariboflavina)IFO13584株の培養)
2L容坂口フラスコ72本に下記の組成からなる液体培地400mlを分注し、120℃で20分間蒸気殺菌を行った。
培地組成(%は(w/v)で表示) :
ポリペプトン 1.0%
イーストエキス 0.3%
肉エキス 0.3%
モルトエキス 1.0%
NaCl 0.3%
アデカノールLG−109(日本油脂社製) 0.003%
水道水
pH7.0
この培地に、予め同培地にて前培養しておいたデボシア・リボフラビナ(Devosiariboflavina)IFO13584株の培養液を5mlずつ接種し、30℃で、48時間振とう培養した。
(無細胞抽出液の調整)
上記の培養液28000mlから遠心分離により菌体を集めた後、生理食塩水で菌体を洗浄し、該菌株の湿菌体363gを得た。この湿菌体を500mlの100mMリン酸緩衝液(pH7.0)に懸濁し、SONIFIER250型超音波破砕機(BRANSON社製)を用いて破砕した。破砕物から遠心分離にて菌体残渣を除き、無細胞抽出液840mlを得た。
(無細胞抽出液の熱処理および酸処理)
上記の無細胞抽出液を入れたビーカーを60℃の恒温水槽に浸け、25分間攪拌した後、氷浴中で4℃まで冷却した。生じた沈殿物を遠心分離にて除いた後、この遠心上清のpHをリン酸を用いて5.0に調整し、氷浴中で3時間攪拌した。生じた沈殿物を再度遠心分離にて除き、粗酵素液830mlを得た。
(硫酸アンモニウム分画)
上記で得た粗酵素液のpHをアンモニア水を用いて7.0に調整した後、35%飽和となるように硫酸アンモニウムを添加、溶解し、生じた沈殿を遠心分離により除いた(この際粗酵素液のpHをアンモニア水でpH7.0に維持しながら行った)。先と同様pH7.0を維持しながら、この遠心上清に55%飽和となるようさらに硫酸アンモニウムを添加、溶解し、生じた沈殿を遠心分離により集めた。この沈殿を50mlの10mMリン酸緩衝液(pH7.0)に溶解した後、同一緩衝液で1夜透析し、粗酵素液83mlを得た。
(DEAE−TOYOPEARLカラムクロマトグラフィー)
上記硫酸アンモニウム分画で得られた粗酵素液のpHをアンモニア水を用いて8.0に調整した。これを、10mMリン酸緩衝液(pH8.0)で予め平衡化したDEAE−TOYOPEARL 650M(東ソー株式会社製)カラム(250ml)に供し、同一緩衝液で活性画分を溶出させた。活性画分を集め、リン酸を添加してpH7.0に調製した。
(Phenyl−TOYOPEARLカラムクロマトグラフィー)
上記DEAE−TOYOPEARLカラムクロマトグラフィーで得られた粗酵素液に終濃度1Mとなるよう硫酸アンモニウムを溶解し(この際、粗酵素液にアンモニア水を添加してpH7.0に維持しながら行った)、1Mの硫酸アンモニウムを含む10mMリン酸緩衝液(pH7.0)で予め平衡化したPhenyl−TOYOPEARL 650M(東ソー株式会社製)カラム(100ml)に供し、活性画分を吸着させた。同一緩衝液でカラムを洗浄した後、硫酸アンモニウムのリニアグラジエント(1Mから0Mまで)により活性画分を溶出させた。活性画分を集め、10mMリン酸緩衝液(pH7.0)にて1夜透析を行い、電気泳動的に単一な精製酵素標品を得た。以後、この酵素をRDRと呼ぶことにする。
実施例2 酵素の性質の測定
実施例1で得られたRDRの酵素学的性質について検討した。酵素活性の測定は、基本的には、100mMリン酸緩衝液(pH6.5)に、基質N−ベンジル−3−ピロリジノン5mM、補酵素NADH0.25mMおよび酵素を添加し、30℃で1分間反応させ、波長340nmの吸光度の減少を測定することにより行った。
(1)作用
NADHを補酵素として、N−ベンジル−3−ピロリジノンに作用し、光学純度99.9%ee以上の(R)−N−ベンジル−3−ピロリジノールを生成した。NADPHを補酵素として上記方法に準じて酵素活性を測定した場合、NADHを補酵素とした場合の約0.6%の活性を示した。
(2)作用至適pH
緩衝液として100mMリン酸緩衝液および100mM酢酸緩衝液を用いて、pHを4.0から8.0の範囲とした以外は、上記酵素活性の測定と同様にして酵素活性を測定した。その結果、N−ベンジル−3−ピロリジノンに作用する至適pHは5.5から6.0であった。
(3)作用至適温度
温度を20℃から60℃とした以外は、上記酵素活性の測定と同様にして、酵素活性を測定した。その結果、N−ベンジル−3−ピロリジノンに作用する至適温度は50℃から55℃であった。
(4)分子量
溶離液として150mMの塩化ナトリウムを含む50mMリン酸緩衝液(pH7.0)を用い、TSK−GEL G3000 SWXLカラム(東ソー株式会社製)による精製酵素RDRのゲル濾過クロマトグラフィー分析を行った結果、標準タンパク質との相対保持時間から算出した本酵素の分子量は約55000であった。また、酵素のサブユニットの分子量はSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動により、標準タンパク質との相対移動度から算出した。本酵素のサブユニットの分子量は約28000であった。
実施例3 RDR遺伝子のクローニング
(PCRプライマーの作成)
実施例1で得られた精製RDRを8M尿素存在下で変性した後、アクロモバクター由来のリシルエンドペプチダーゼ(和光純薬工業株式会社製)で消化し、得られたペプチド断片のアミノ酸配列をABI492型プロテインシーケンサー(パーキンエルマー社製)により決定した。このアミノ酸配列をもとに、DNAプライマー2種(プライマー1:配列番号3、プライマー2:配列番号4)を常法に従って合成した。
(PCRによるRDR遺伝子の増幅)
デボシア・リボフラビナ(Devosiariboflavina)IFO13584株の培養菌体からMurray等の方法(Nucl.,Acids Res.8:4321−4325(1980))に従って染色体DNAを抽出した。次に、上記で調製したDNAプライマーを用い、得られた染色体DNAを鋳型としてPCRを行ったところ、RDR遺伝子の一部と考えられる約700bpのDNA断片が増幅された(PCRは、DNAポリメラーゼとしてTaKaRa Ex Taq(宝酒造株式会社製)を用いて行い、反応条件はその取り扱い説明書に従った。)。このDNA断片を、プラスミドpT7Blue T−Vector(Novagen社製)にクローニングし、ABI PRISM Dye Terminator Cycle Sequencing Ready Reaction Kit(Perkin Elmer社製)およびABI 373A DNA Sequencer(Perkin Elmer社製)を用いてその塩基配列を確認した。
(i−PCR法によるRDR遺伝子の全長配列の決定)
デボシア・リボフラビナ(Devosiariboflavina)IFO13584株の染色体DNAを制限酵素EcoRIで完全消化し、得られたDNA断片の混合物をT4リガーゼにより分子内環化させた。これを鋳型として用い、前項で判明したRDR遺伝子の部分塩基配列情報をもとに、i−PCR法(Nucl.Acids Res.16,8186(1988))により、染色体DNA上のRDR遺伝子の全塩基配列を決定した(PCRは、DNAポリメラーゼとしてTaKaRa Ex Taq(宝酒造株式会社製)を用いて行い、反応条件はその取り扱い説明書に従った。また、塩基配列の決定は先と同様に行った)。
その塩基配列を図1に示した。また、塩基配列がコードするアミノ酸配列を塩基配列の下段に示した。このアミノ酸配列と、精製RDRのリシルエンドペプチダーゼ消化断片の部分アミノ酸配列を比較した結果、精製RDRの部分アミノ酸配列は全て、このアミノ酸配列中に存在した。図1中のアミノ酸配列において、精製RDRの部分アミノ酸配列と一致した部分には下線を付した。なお、図1の塩基配列及びアミノ酸配列は、配列表の配列番号2のものと同一である。
実施例4 RDR遺伝子を含む組換えプラスミドの作製
実施例3で決定された塩基配列を基に、RDR遺伝子の開始コドン部分にNdeI部位を付加したN末端DNAプライマー(プライマー3:配列番号5)、および同遺伝子の3’末端の直後にEcoRI部位を付加したC末端DNAプライマー(プライマー4:配列番号6)を合成した。次に、この2種のDNAをプライマーとして用い、実施例3で調製したデボシア・リボフラビナ(Devosiriboflavina)IFO13584株の染色体DNAを鋳型としてPCRを行い、開始コドン部分にNdeI部位を付加し、3’末端の直後にEcoRI切断点を付加した、RDR遺伝子を増幅した(PCRは、DNAポリメラーゼとしてTaKaRa Ex Taq(宝酒造株式会社製)を用いて行い、反応条件はその取り扱い説明書に従った。)。これを、NdeIおよびEcoRIで消化し、プラスミドpUCNT(WO94/03613)のlacプロモーターの下流のNdeI−EcoRI部位に挿入することにより、組換えプラスミドpNTDRを得た。
実施例5 RDR遺伝子およびグルコース脱水素酵素遺伝子の両者を含む組換えプラスミドの作製
バシラス・メガテリウム(Bacillusmegaterium)IAM1030株由来のグルコース脱水素酵素(以後、GDHと称する)の遺伝子の塩基配列情報(Eur.J.Biochem.186,389(1989))を基に、GDHの構造遺伝子の開始コドンから5塩基上流に大腸菌のShaine−Dalgarno配列(9塩基)を、さらにその直前にEcoRI切断点を付加したN末端DNAプライマー(プライマー5:配列番号7)と、GDHの構造遺伝子の終始コドンの直後にSalI部位を付加したC末端DNAプライマー(プライマー6:配列番号8)を常法に従って合成した。これら2つのDNAプライマーを用い、プラスミドpGDK1(Eur.J.Biochem.186,389(1989))を鋳型としてPCRにより二本鎖DNAを合成した。このDNA断片をEcoRIおよびSalIで消化し、プラスミドpUCNT(WO94/03613)のlacプロモーターの下流のEcoRI−SalI部位に挿入することにより、組換えプラスミドpNTG1を得た。次に、実施例4で調製したpNTDRをNdeIおよびEcoRIで消化して得られるRDR遺伝子を、このpNTG1上のGDH遺伝子の上流に存在するNdeI−EcoRI部位に挿入し、プラスミドpNTDRG1を得た。pNTDRG1の作製法および構造を図2に示す。
実施例6 組換え大腸菌の作製
実施例4および5で得た組換えプラスミドpNTDR又はpNTDRG1を用いて大腸菌HB101(宝酒造株式会社製)を形質転換し、組換え大腸菌HB101(pNTDR)およびHB101(pNTDRG1)を得た。
こうして得られた形質転換体E.coli HB101(pNTDR)およびE.coli HB101(pNTDRG1)は、それぞれ、受託番号FERM BP−08457およびFERM BP−08458として、平成15年8月25日付で、日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6にある独立行政法人産業技術総合研究所に寄託されている。
実施例7 組換え大腸菌におけるRDRの生産
実施例6で得た組換え大腸菌HB101(pNTDR)を120μg/mlのアンピシリンを含む2×YT培地で培養し、遠心分離により集菌後、100mMリン酸緩衝液(pH6.5)に懸濁し、UH−50型超音波ホモゲナイザー(SMT社製)を用いて破砕し、無細胞抽出液を得た。
この無細胞抽出液のRDR活性を以下のように測定した。RDR活性の測定は、100mMリン酸緩衝液(pH6.5)に、基質N−ベンジル−3−ピロリジノン5mM、補酵素NADH0.25mMおよび酵素を添加し、30℃で波長340nmの吸光度の減少を測定することにより行った。この反応条件において、1分間に1μmolのNADHをNADに酸化する酵素活性を1unitと定義した。この様に測定した無細胞抽出液中のRDR活性を比活性として表し、ベクタープラスミドを保持する形質転換体と比較した。また、実施例1と同様の方法で調製したデボシア・リボフラビナ(Devosiariboflavina)IFO13584株の無細胞抽出液中のRDR活性についても同様に比較した。それらの結果を表1に示す。
大腸菌HB101(pNTDR)では、ベクタープラスミドのみの形質転換体である大腸菌HB101(pUCNT)と比較して明らかなRDR活性の増加が見られ、デボシア・リボフラビナ(Devosiariboflavina)IFO13584株と比較して、比活性は約17倍に達した。

実施例8 組換え大腸菌におけるRDRおよびGDHの同時生産
実施例6で得た組換え大腸菌HB101(pNTDRG1)を、実施例7と同様に処理して得られる無細胞抽出液のGDH活性を、以下のように測定した。GDH活性の測定は1Mトリス塩酸緩衝液(pH8.0)に、基質グルコース0.1M、補酵素NADP2mM及び酵素を添加し、25℃で波長340nmの吸光度の増加を測定することにより行った。この反応条件において、1分間に1μmolのNADPをNADPHに還元する酵素活性を1unitと定義した。また、RDR活性についても実施例7と同様に測定した。
このように測定した無細胞抽出液中のRDRおよびGDH活性を比活性として表し、大腸菌HB101(pNTDR)およびベクターのみの形質転換体HB101(pUCNT)と比較した結果を表2に示す。大腸菌HB101(pNTDRG1)では、ベクタープラスミドのみの形質転換体である大腸菌HB101(pUCNT)と比較して、明らかなRDRおよびGDH活性の増加が見られた。

実施例9 RDRおよびグルコース脱水素酵素を同時生産させた組換え大腸菌を用いたN−ベンジル−3−ピロリジノンからの(R)−N−ベンジル−3−ピロリジノールの合成
実施例8で得られた組換え大腸菌HB101(pNTDRG1)の培養液を、SONIFIRE250(BRANSON社製)を用いて超音波破砕した。この菌体破砕液20mlにグルコース2g、NAD1mg、N−ベンジル−3−ピロリジノン1gを添加した。この反応液を、5Mの塩酸および水酸化ナトリウム水溶液を添加することによりpH6.5に調整しつつ、窒素雰囲気下、30℃で18時間攪拌した。反応終了後、5Mの水酸化ナトリウム水溶液2mlを添加し、反応液をトルエンで抽出した。抽出液をエバポレーターで脱溶剤した後、抽出物の分析を行ったところ、収率96%でN−ベンジル−3−ピロリジノールが得られた。この際、生成したN−ベンジル−3−ピロリジノールは光学純度99.9%eeのR体であった。
N−ベンジル−3−ピロリジノン、及び、N−ベンジル−3−ピロリジノールの定量は、ガスクロマトグラフィー(カラム:UniportB 10%PEG−20M(ID3.0mm×1.0m、ジーエルサイエンス社製)、カラム温度:200℃、キャリアガス:窒素、検出:FID)で行った。
また、N−ベンジル−3−ピロリジノールの光学純度の測定は、高速液体カラムクロマトグラフィー(カラム:Chiralcel OB(ID4.6mm×250mm、ダイセル化学工業社製)、溶離液:n−ヘキサン/イソプロパノール/ジエチルアミン=99/1/0.1、流速:1ml/min、検出:254nm、カラム温度:室温)で行った。
実施例10 RDRおよびグルコース脱水素酵素を同時生産させた組換え大腸菌を用いた7−メトキシ−2−テトラロンからの(R)−7−メトキシ−2−テトラロールの合成
実施例8で得られた組換え大腸菌HB101(pNTDRG1)の培養液20mlにグルコース3g、NAD2mg、7−メトキシ−2−テトラロン2gを添加し、5Mの水酸化ナトリウム水溶液の滴下によりpH6.5に調整しつつ、窒素雰囲気下、30℃で15時間攪拌した。この反応液をトルエンで抽出し、脱溶剤した後、抽出物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーに供し、7−メトキシ−2−テトラロール1.7gを得た。光学純度を測定した結果、生成した7−メトキシ−2−テトラロールは光学純度99.9%eeのR体であった。
H−NMR(CDCl)δppm 1.62(s,1H),1.73〜1.87(m,1H),1.98〜2.08(m,1H),2.70〜2.81(m,2H),2.88(app dt,1H),3.05(dd,1H),3.76(s,3H),4.09〜4.19(m,1H),6.61(d,1H),6.69(dd,1H),7.00(d,1H)
7−メトキシ−2−テトラロン、及び、7−メトキシ−2−テトラロールの定量は、高速液体カラムクロマトグラフィー(カラム:ナカライテスク株式会社製COSMOSIL 5C8−MS(ID4.6mm×250mm)、溶離液:水/アセトニトリル=1/1、流速:1ml/min、検出:210nm、カラム温度:室温)で行った。
また、7−メトキシ−2−テトラロールの光学純度の測定は、高速液体カラムクロマトグラフィー(カラム:ダイセル化学工業株式会社製Chiralcel OJ(ID4.6mm×250mm)、溶離液:n−ヘキサン/イソプロパノール=9/1、流速:1ml/min、検出:254nm、カラム温度:室温)で行った。
実施例11 RDRおよびグルコース脱水素酵素を同時生産させた組換え大腸菌を用いた3−メトキシ−6,7,8,9−テトラヒドロ−5H−ベンゾシクロヘプテン−6−オンからの(R)−3−メトキシ−6,7,8,9−テトラヒドロ−5H−ベンゾシクロヘプテン−6−オールの合成
実施例8で得られた組換え大腸菌HB101(pNTDRG1)の培養液20mlにグルコース3g、NAD2mg、50%(w/w)の3−メトキシ−6,7,8,9−テトラヒドロ−5H−ベンゾシクロヘプテン−6−オンのトルエン溶液4gを添加し、5Mの水酸化ナトリウム水溶液の滴下によりpH6.5に調整しつつ、窒素雰囲気下、30℃で18時間攪拌した。この反応液をトルエンで抽出し、脱溶剤した後、抽出物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーに供し、3−メトキシ−6,7,8,9−テトラヒドロ−5H−ベンゾシクロヘプテン−6−オール1.6gを得た。光学純度を測定した結果、生成した3−メトキシ−6,7,8,9−テトラヒドロ−5H−ベンゾシクロヘプテン−6−オールは光学純度99.9%eeのR体であった。
H−NMR(CDCl)δppm 1.40〜1.65(m,2H),1.70〜1.95(m,2H),1.95〜2.20(m,1H),2.65〜2.75(m,2H),2.90〜3.10(m,2H),3.78(s,3H),3.65〜3.90(m,1H),6.66(dd,1H),6.73(d,1H),6.98(d,1H)
3−メトキシ−6,7,8,9−テトラヒドロ−5H−ベンゾシクロヘプテン−6−オン、及び、3−メトキシ−6,7,8,9−テトラヒドロ−5H−ベンゾシクロヘプテン−6−オールの定量は、高速液体カラムクロマトグラフィー(カラム:ナカライテスク株式会社製COSMOSIL 5C8−MS(ID4.6mm×250mm)、溶離液:水/アセトニトリル=1/1、流速:1ml/min、検出:210nm、カラム温度:室温)で行った。
また、3−メトキシ−6,7,8,9−テトラヒドロ−5H−ベンゾシクロヘプテン−6−オールの光学純度の測定は、高速液体カラムクロマトグラフィー(カラム:ダイセル化学工業株式会社製Chiralcel OJ(ID4.6mm×250mm)、溶離液:n−ヘキサン/イソプロパノール=9/1、流速:1ml/min、検出:254nm、カラム温度:室温)で行った。
実施例12 RDRおよびグルコース脱水素酵素を同時発現させた組換え大腸菌を用いた2−クロロ−1−(4’−フルオロフェニル)エタノンからの(S)−2−クロロ−1−(4’−フルオロフェニル)エタノールの合成
実施例8で得られた組換え大腸菌HB101(pNTDRG1)の培養液50mlにグルコース10g、NAD5mg、及び、50%(w/w)の2−クロロ−1−(4’−フルオロフェニル)エタノンのトルエン溶液10gを添加し、5Mの水酸化ナトリウム水溶液の滴下によりpH6.5に調整しつつ、30℃で22時間攪拌した。この反応液をトルエンで抽出し、脱溶剤した後、蒸留(110℃,0.8mmHg)し、無色オイル状の2−クロロ−1−(4’−フルオロフェニル)エタノール4.1gを得た。光学純度を測定した結果、生成した2−クロロ−1−(4’−フルオロフェニル)エタノールは光学純度99.9%eeのS体であった。
H−NMR(CDCl)δppm 3.10(s,1H),3.61(dd,1H),3.70(dd,1H),4.88(dd,1H),7.06(m,2H),7.35(m,2H)
2−クロロ−1−(4’−フルオロフェニル)エタノン、及び、2−クロロ−1−(4’−フルオロフェニル)エタノールの定量は、高速液体カラムクロマトグラフィー(カラム:株式会社ワイエムシィ製YMC−Pack ODS A−303(ID4.6mm×250mm)、溶離液:水/アセトニトリル=1/1、流速:1ml/min、検出:210nm、カラム温度:室温)で行った。また、2−クロロ−1−(4’−フルオロフェニル)エタノールの光学純度の測定は、高速液体カラムクロマトグラフィー(カラム:ダイセル化学工業株式会社製Chiralcel OJ(ID4.6mm×250mm)、溶離液:n−ヘキサン/イソプロパノール=39/1、流速:1ml/min、検出:254nm、カラム温度:室温)で行った。
実施例13 RDRおよびグルコース脱水素酵素を同時発現させた組換え大腸菌を用いた2−クロロ−1−(3’−クロロフェニル)エタノンからの(S)−2−クロロ−1−(3’−クロロフェニル)エタノールの合成
実施例8で得られた組換え大腸菌HB101(pNTDRG1)の培養液50mlにグルコース10g、NAD5mg、及び、50%(w/w)の2−クロロ−1−(3’−クロロフェニル)エタノンのトルエン溶液10gを添加し、5Mの水酸化ナトリウム水溶液の滴下によりpH6.5に調整しつつ、30℃で22時間攪拌した。この反応液をトルエンで抽出し、脱溶剤した後、抽出物の分析を行った。その結果、収率97%で2−クロロ−1−(3’−クロロフェニル)エタノールが得られた。この際、生成した2−クロロ−1−(3’−クロロフェニル)エタノールは光学純度99.9%eeのS体であった。
2−クロロ−1−(3’−クロロフェニル)エタノン、及び、2−クロロ−1−(3’−クロロフェニル)エタノールの定量は、2−クロロ−1−(4’−フルオロフェニル)エタノン、及び、2−クロロ−1−(4’−フルオロフェニル)エタノールの場合と同様に行った。また、2−クロロ−1−(3’−クロロフェニル)エタノールの光学純度の測定は、2−クロロ−1−(4’−フルオロフェニル)エタノールの場合と同様に行った。
実施例14 RDRの基質特異性
0.33%(v/v)のジメチルスルフォキシドを含む100mMリン酸緩衝液(pH6.5)に、基質となる表3の各種カルボニル化合物を終濃度1mM、補酵素NADHを終濃度0.25mMとなるようそれぞれ溶解した。これにRDRを添加し、30℃で波長340nmの吸光度の減少を測定した。この反応条件において、1分間に1μmolのNADHをNADに酸化する酵素活性を1unitと定義した。そして、各種カルボニル化合物に対する活性を、N−ベンジル−3−ピロリジノンに対する活性を100%とした場合の相対値で表し、表3に示した。RDRは非常に広範なカルボニル化合物に対して還元活性を示した。

【産業上の利用可能性】
N−ベンジル−3−ピロリジノンを立体選択的に還元して(R)−N−ベンジル−3−ピロリジノールを生成する活性を有するポリペプチド遺伝子のクローニング、およびそのヌクレオチド配列の解析により、該ポリペプチド産生能の高い形質転換体を得ることが可能になった。また、該ポリペプチドおよびグルコース脱水素酵素を同時に高生産する能力を有する形質転換体をも得ることが可能になった。さらに、これらの形質転換体を用いることにより、種々のカルボニル化合物から光学活性アルコールを効率良く合成することが可能となった。
【配列表】







【図1】

【図2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(1)から(4)の理化学的性質を有するポリペプチド:
(1)作用:NADHまたはNADPHを補酵素として、式(1)

で表されるN−ベンジル−3−ピロリジノンを立体選択的に還元して、式(2)

で表される(R)−N−ベンジル−3−ピロリジノールを生成する、
(2)作用至適pH:5.5から6.0、
(3)作用至適温度:50℃から55℃、
(4)分子量:ゲル濾過分析において約55000、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動分析において約28000。
【請求項2】
以下の(a)又は(b)のポリペプチド:
(a)配列表の配列番号1に示したアミノ酸配列からなるポリペプチド
(b)配列表の配列番号1に示したアミノ酸配列または配列表の配列番号1に示したアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が置換、挿入、欠失または付加されたアミノ酸配列を含み、かつ、式(1)

で表されるN−ベンジル−3−ピロリジノンを立体選択的に還元して、式(2)

で表される(R)−N−ベンジル−3−ピロリジノールを生成する活性を有するポリペプチド。
【請求項3】
ポリペプチドがデボシア(Devosia)属に属する微生物に由来する請求の範囲第1または2項に記載のポリペプチド。
【請求項4】
デボシア属に属する微生物が、デボシア・リボフラビナ(Devosiariboflavina)IFO13584株である請求の範囲第3項記載のポリペプチド。
【請求項5】
請求の範囲第1から4項のいずれかに記載のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【請求項6】
以下の(c)又は(d)のポリヌクレオチド:
(c)配列表の配列番号2に示した塩基配列からなるポリヌクレオチド
(d)配列表の配列番号2に示した塩基配列と相補的な塩基配列を有するポリヌクレオチドと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、式(1)

で表されるN−ベンジル−3−ピロリジノンを立体選択的に還元して、式(2)

で表される(R)−N−ベンジル−3−ピロリジノールを生成する活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【請求項7】
請求の範囲第5または6項に記載のポリヌクレオチドを含む発現ベクター。
【請求項8】
プラスミドpNTDRである請求の範囲第7項記載の発現ベクター。
【請求項9】
グルコース脱水素酵素活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドをさらに含む、請求の範囲第7項に記載の発現ベクター。
【請求項10】
前記グルコース脱水素酵素活性を有するポリペプチドがバシラス・メガテリウム(Bacillusmegaterium)由来のグルコース脱水素酵素である、請求の範囲第9項に記載の発現ベクター。
【請求項11】
プラスミドpNTDRG1である請求の範囲第10項に記載の発現ベクター。
【請求項12】
請求の範囲第7から11項のいずれかに記載の発現ベクターを用いて宿主細胞を形質転換して得られた形質転換体。
【請求項13】
前記宿主細胞が大腸菌である請求の範囲第12項に記載の形質転換体。
【請求項14】
E.coli HB101(pNTDR)(FERM BP−08457)である請求の範囲第13項に記載の形質転換体。
【請求項15】
E.coli HB101(pNTDRG1)(FERM BP−08458)である請求の範囲第13項に記載の形質転換体。
【請求項16】
請求の範囲第12から15項のいずれかに記載の形質転換体の培養物またはその処理物を、カルボニル基を有する化合物と反応させることを特徴とする光学活性アルコールの製造方法。
【請求項17】
前記カルボニル基を有する化合物が、式(1)

で表されるN−ベンジル−3−ピロリジノンであり、前記光学活性アルコールが、式(2)

で表される(R)−N−ベンジル−3−ピロリジノールである、請求の範囲第16項に記載の製造方法。
【請求項18】
前記カルボニル基を有する化合物が、一般式(3)

(式中、R、Rは水素原子、水酸基又はアルコキシ基を示し、それぞれ同一でも異なってもよい。また、nは1又は2を示す。)で表される2−テトラロン誘導体であり、前記光学活性アルコールが、一般式(4)

(式中、R、R及びnは前記と同じ)で表される2−テトラロール誘導体である請求の範囲第16項に記載の製造方法。
【請求項19】
前記2−テトラロン誘導体が7−メトキシ−2−テトラロンであり、前記2−テトラロール誘導体が(R)−7−メトキシ−2−テトラロールである請求の範囲第18項に記載の製造方法。
【請求項20】
前記2−テトラロン誘導体が3−メトキシ−6,7,8,9−テトラヒドロ−5H−ベンゾシクロヘプテン−6−オンであり、前記2−テトラロール誘導体が(R)−3−メトキシ−6,7,8,9−テトラヒドロ−5H−ベンゾシクロヘプテン−6−オールである請求の範囲第18項に記載の製造方法。
【請求項21】
前記カルボニル基を有する化合物が、一般式(5)

(式中、R、Rは水素原子、ハロゲン原子、アルコキシ基又はニトロ基を示し、それぞれ同一でも異なってもよい。また、Rは水素原子、ハロゲン原子、水酸基又は置換基を有してもよいアルキル基を示す。)で表される1−フェニルエタノン誘導体であり、前記光学活性アルコールが、一般式(6)

(式中、R、R、及び、Rは前記と同じ)で表される1−フェニルエタノール誘導体である請求の範囲第16項に記載の製造方法。
【請求項22】
前記1−フェニルエタノン誘導体が2−クロロ−1−(4’−フルオロフェニル)エタノンであり、前記1−フェニルエタノール誘導体が(S)−2−クロロ−1−(4’−フルオロフェニル)エタノールである、請求の範囲第21項に記載の製造方法。
【請求項23】
前記1−フェニルエタノン誘導体が2−クロロ−1−(3’−クロロフェニル)エタノンであり、前記1−フェニルエタノール誘導体が(S)−2−クロロ−1−(3’−クロロフェニル)エタノールである請求の範囲第21項に記載の製造方法。

【国際公開番号】WO2004/027055
【国際公開日】平成16年4月1日(2004.4.1)
【発行日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−537990(P2004−537990)
【国際出願番号】PCT/JP2003/011957
【国際出願日】平成15年9月19日(2003.9.19)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】