説明

新規セレナゾリン誘導体

【課題】本発明は、優れた一酸化窒素合成酵素阻害作用を有する新規2−アミノセレナゾリン誘導体を提供する。
【解決手段】下記一般式(I)で表される2−アミノセレナゾリン誘導体、またはその生理的に許容される酸付加塩。
【化1】


(式中、R1およびR2は同一または異なって、水素原子またはアルキル基を意味する。但し、R1およびR2は同時に水素原子ではない。)
【効果】本発明の化合物は、iNOSに対して極めて強い阻害活性および/または高い選択性を有していることから、副作用の少ないNOS阻害剤として有用である。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、一酸化窒素合成酵素阻害剤として有用な2−アミノセレナゾリン誘導体に関する。
【0002】
【従来の技術】
一酸化窒素(nitric oxide:NO)は生体内において、血管系では内皮由来血管弛緩因子として(非特許文献1参照)、また、神経系では神経伝達物質として(非特許文献2参照)重要な生理活性を担っていると考えられている。一方、白血球系ではNOは殺菌作用等による生体防御因子としての役割が考えられている(非特許文献3参照)。これらのNOは、一酸化窒素合成酵素(Nitric Oxide Synthase:以下、「NOS」と略称する)によりL−アルギニンを基質として産生される。NOSは現在までに、大きく分けて2種類報告されている。一つは構成型NOS(constitutive NOS:以下、「cNOS」と略称する)と呼ばれるもので、cNOSは更に血管内皮型NOS(endothelial NOS:以下、「eNOS」と略称する)と神経型NOS(neuronal NOS:以下、「nNOS」と略称する)に分類されるが、いずれも恒常的に発現しており、生理的刺激により上昇する細胞内カルシウムに依存して、一時的に活性化して少量のNOを産生する。もう一つは誘導型NOS(inducible NOS:以下、「iNOS」と略称する)と呼ばれるもので、エンドトキシンや各種サイトカインの刺激によりマクロファージをはじめとする各種の細胞で発現誘導される。iNOSは一度誘導されるとcNOSと異なり、細胞内カルシウムに対して非依存的に持続的かつ大量のNOを産生する。そのために、iNOSの産生するNOは種々の細胞障害を引き起こすと報告されている。例えば、敗血症やエンドトキシン血症ではiNOSの産生する過剰なNOにより低血圧ショックが引き起こされたり(非特許文献4参照)、脳虚血再灌流時にiNOSの産生するNOにより神経細胞死が引き起こされる可能性が示唆されている(非特許文献5参照)。また、自己免疫疾患,インスリン依存性糖尿病,変形性関節炎といった慢性疾患も、iNOSが発現誘導されたマクロファージなどから産生されるNOによる細胞障害が原因である可能性が示唆されている(非特許文献6および非特許文献7参照)。
【0003】
これまで、NOS阻害作用を有するものとしては、下記式(A)で表わされる化合物が報告されている(非特許文献8参照)。
【0004】
【化3】

【0005】
また、下記一般式(B)で表わされる化合物もNOS阻害剤として記載されている(特許文献1参照)。
【化4】

(式中、R1は水素原子またはアルキル基を意味し、R2はアルキル基、−アルキル−NH2等を意味する。)
【0006】
また、下記一般式(C)で表わされる化合物もまたNOS阻害剤として記載されている(特許文献2参照)。
【0007】
【化5】

(式中、Xは窒素、酸素、S等を意味し、R1およびR2は水素、低級アルキル等を意味し、R3、R4は水素、ヒドロキシ等を意味し、n=0より約7までを意味する。)
【0008】
これらの文献および公報には、一般式(I)で表わされる本発明の化合物の2−アミノセレナゾリン誘導体については全く記載も開示もされていない。
【0009】
【非特許文献1】
Moncada, S., et al., Pharmacological Reviews, 1991, 43, 109
【非特許文献2】
Edelman, G.M., et al., Proc. Natl. Acad. Sci., USA., 1992, 89, 11651
【非特許文献3】
Curr. Opin. Immunol., 1991, 3, 65
【非特許文献4】
Hollenberg, S. M., et al., Circulation Research, 2000, 86, 774
【非特許文献5】
Parmentier-Batteur S., et al., J. Cereb. Blood Flow Metab., 2001, 21, 15
【非特許文献6】
Corbett, J. A., et al., Diabetes, 1992, 41, 897
【非特許文献7】
van't Hof, R. J., et.al., Proc. Natl. Acad. Sci., USA., 2000, 97, 7993
【非特許文献8】
Life Sciences, 1996, 58, 1139
【特許文献1】
国際公開第01/94325号パンフレット
【特許文献2】
特表平9−504028号公報
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
前述したように、NOSには大別してcNOSとiNOSがあるが、治療薬としてNOS阻害剤を開発するにはiNOSに対し選択的に高い阻害活性を示すものが求められる。したがって、本発明の目的は、iNOSの過剰なNO産生に起因する疾患の治療および/または予防に有用であり、更にiNOSに対して強い阻害活性および/または高い選択性を有するNOS阻害剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、iNOSに対し極めて強い阻害活性および/または高い選択性を有する化合物を見出した。
【0012】
本発明は、下記一般式(I)で表わされる新規な2−アミノセレナゾリン誘導体またはその生理的に許容される酸付加塩(以下、「本発明の化合物」ということもある)、ならびに該化合物を有効成分とするiNOS過剰産生に起因する疾病の治療および/または予防に有用なNOS阻害剤に関する。
【0013】
すなわち、本発明は、(1)下記一般式(I)
【0014】
【化6】

(式中、R1およびR2は同一または異なって、水素原子またはアルキル基を意味する。但し、R1およびR2は同時に水素原子ではない。)
で表わされる2−アミノセレナゾリン誘導体、またはその生理的に許容される酸付加塩、
【0015】
(2) R1およびR2が炭素数1〜6のアルキル基である上記(1)記載の2−アミノセレナゾリン誘導体、またはその生理的に許容される酸付加塩、
(3) R1およびR2が炭素数1〜3のアルキル基である上記(1)または(2)記載の2−アミノセレナゾリン誘導体、またはその生理的に許容される酸付加塩、
(4) 下記一般式(I’)
【0016】
【化7】

(式中、R1およびR2は前掲に同じであり、R1またはR2が水素原子でないとき「*」印は不斉炭素原子を意味する。)
で表わされる上記(1)記載の2−アミノセレナゾリン誘導体、またはその生理的に許容される酸付加塩、
【0017】
(5) R1およびR2が炭素数1〜6のアルキル基である上記(4)記載の2−アミノセレナゾリン誘導体、またはその生理的に許容される酸付加塩、
(6) R1およびR2が炭素数1〜3のアルキル基である上記(4)または(5)記載の2−アミノセレナゾリン誘導体、またはその生理的に許容される酸付加塩、および
(7) 上記(1)から(6)のいずれか1つに記載の2−アミノセレナゾリン誘導体、またはその生理的に許容される酸付加塩を有効成分とする一酸化窒素合成酵素阻害剤、
を提供する。
【0018】
本明細書中では、2−アミノセレナゾリン誘導体は4,5−ジヒドロ−1,3−セレナゾール−2−イルアミン誘導体と呼称することもある。
【0019】
本発明の化合物は上記一般式(I)で表わされるが、好ましくは一般式(I)においてR1またはR2が炭素数1〜6のアルキル基であり、更に好ましくは炭素数1〜3のアルキル基である化合物である。
【0020】
具体的には、下記化合物、またはその生理的に許容される酸付加塩が挙げられる。
【0021】
・4−メチル−4,5−ジヒドロ−1,3−セレナゾール−2−イルアミン、
・4−エチル−4,5−ジヒドロ−1,3−セレナゾール−2−イルアミン、
・4−n−プロピル−4,5−ジヒドロ−1,3−セレナゾール−2−イルアミン、
・4,5−ジメチル−4,5−ジヒドロ−1,3−セレナゾール−2−イルアミン、
・5−エチル−4−メチル−4,5−ジヒドロ−1,3−セレナゾール−2−イルアミン、
・4−エチル−5−メチル−4,5−ジヒドロ−1,3−セレナゾール−2−イルアミン、
・5−メチル−4−n−プロピル−4,5−ジヒドロ−1,3−セレナゾール−2−イルアミン、および
・4−ブチル−5−メチル−4,5−ジヒドロ−1,3−セレナゾール−2−イルアミン.
【0022】
更に好ましくは、下記化合物、またはその生理的に許容される酸付加塩が挙げられる。
【0023】
・(4R)−4−メチル−4,5−ジヒドロ−1,3−セレナゾール−2−イルアミン、
・(4R)−4−エチル−4,5−ジヒドロ−1,3−セレナゾール−2−イルアミン、
・(4R)−4−n−プロピル−4,5−ジヒドロ−1,3−セレナゾール−2−イルアミン、
・(4R,5S)−4,5−ジメチル−4,5−ジヒドロ−1,3−セレナゾール−2−イルアミン、
・(4S,5R)−4,5−ジメチル−4,5−ジヒドロ−1,3−セレナゾール−2−イルアミン、
・(4R,5S)−4,5−ジエチル−4,5−ジヒドロ−1,3−セレナゾール−2−イルアミン、
・(4R,5R)−5−エチル−4−メチル−4,5−ジヒドロ−1,3−セレナゾール−2−イルアミン、
・(4S,5S)−4−エチル−5−メチル−4,5−ジヒドロ−1,3−セレナゾール−2−イルアミン、
・(4S,5S)−5−エチル−4−メチル−4,5−ジヒドロ−1,3−セレナゾール−2−イルアミン、
・(4R,5R)−4−エチル−5−メチル−4,5−ジヒドロ−1,3−セレナゾール−2−イルアミン、
・(4R,5S)−5−エチル−4−メチル−4,5−ジヒドロ−1,3−セレナゾール−2−イルアミン、
・(4R,5S)−4−エチル−5−メチル−4,5−ジヒドロ−1,3−セレナゾール−2−イルアミン、
・(4S,5R)−4−エチル−5−メチル−4,5−ジヒドロ−1,3−セレナゾール−2−イルアミン、
・(4R,5S)−5−メチル−4−n−プロピル−4,5−ジヒドロ−1,3−セレナゾール−2−イルアミン、
・(4S,5R)−5−メチル−4−n−プロピル−4,5−ジヒドロ−1,3−セレナゾール−2−イルアミン、
・(4S,5R)−4−ブチル−5−メチル−4,5−ジヒドロ−1,3−セレナゾール−2−イルアミン、
・(4R,5R)−5−メチル−4−n−プロピル−4,5−ジヒドロ−1,3−セレナゾール−2−イルアミン、
・(4R,5R)−4−ブチル−5−メチル−4,5−ジヒドロ−1,3−セレナゾール−2−イルアミン、および
・(4S,5S)−4−ブチル−5−メチル−4,5−ジヒドロ−1,3−セレナゾール−2−イルアミン.
【0024】
一般式(I)で表わされる本発明の化合物は、生理的に許容される酸付加塩を形成していてもよく、酸付加塩として例えば、塩酸,臭化水素酸,ヨウ化水素酸,硫酸,リン酸,硝酸等の無機酸との塩、酢酸,シュウ酸,フマル酸,マレイン酸,マロン酸,乳酸,リンゴ酸,コハク酸,クエン酸,酒石酸,安息香酸,メタンスルホン酸,p−トルエンスルホン酸等の有機酸との塩が挙げられる。
【0025】
本発明において「アルキル基」とは直鎖状または分枝状の炭素数1〜10のアルキル基を意味し、具体例として、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、n−ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル等が挙げられる。
【0026】
一般式(I)で表わされる本発明の化合物には、セレナゾリン環上に不斉炭素原子が1個または2個存在し、その立体配置にはR型,S型,RR型,RS型,SR型またはSS型があるが、これらの光学異性体も本発明の化合物に含まれる。更にこれらの光学異性体の混合物も本発明の化合物に含まれる。
【0027】
また、一般式(I)または(I’)で表わされる2−アミノセレナゾリン誘導体は、下記式(I−1)または(I’−1)で表わされるイミノ型の互変異性体として存在することもあるが、これらの互変異性体もまた本発明の化合物に含まれる。
【0028】
【化8】

(式中、R1およびR2は前掲に同じ。)
【0029】
また、一般式(I)で表わされる化合物、またはその生理的に許容される酸付加塩は、水和物または溶媒和物として存在することもあるが、これらの化合物もまた本発明の化合物に含まれる。
【0030】
次に、本発明の化合物の製造法について以下に説明する。
一般式(I)で表わされる本発明の化合物は下記製造法1〜3により製造することができる。
【0031】
〔製造法1〕
一般式(I)で表わされる本発明の化合物は、下記反応式に従って製造することができる。
【0032】
【化9】

(式中、Yはハロゲン原子、p−トルエンスルホニルオキシ、メタンスルホニルオキシ等の脱離基を意味し、Mはアルカリ金属を意味し、R1およびR2は前掲に同じ。)
【0033】
すなわち、本発明の化合物(I)は、文献(Chem. Ber., 1890, 23, 1003)の記載の方法に準じて、溶媒の存在下、化合物(II)にセレノシアン酸塩を反応させて製造することができる。
【0034】
〔製造法2〕
また、一般式(I)で表わされる本発明の化合物は、下記反応式に従って製造することができる。
【0035】
【化10】

(式中、Xはハロゲン原子を意味し、R1およびR2は前掲に同じ。)
【0036】
すなわち、本発明の化合物(I)は、化合物(III)にセレノウレアを反応させることにより製造することができる。
【0037】
上記反応は、通常反応に影響を及ぼさない適当な溶媒中で行われ、例えば、水、メタノール、エタノール等が挙げられ、これらの溶媒は単独または2種以上の混合溶媒として使用しても良い。
【0038】
反応温度は用いる原料化合物の種類によって異なるが、通常0℃〜120℃、好ましくは20℃〜120℃である。反応時間は通常約30分〜24時間、好ましくは約1時間〜8時間である。
【0039】
〔製造法3〕
また、一般式(I)で表わされる本発明の化合物は、下記反応式に従って製造することができる。
【0040】
【化11】

(式中、R1、R2およびYは前掲に同じ。)
【0041】
すなわち、本発明の化合物(I)は、イソセレノシアナート誘導体(IV)に液体アンモニア、アンモニアガス、アンモニア水溶液またはアンモニア性アルコール溶液等を反応させて製造することができる。
【0042】
上記反応は、通常反応に影響を及ぼさない適当な溶媒中で行われ、例えば、水、メタノール、エタノール、ジオキサン、テトラヒドロフラン等が挙げられ、これらの溶媒は単独または2種以上の混合溶媒として使用しても良い。
【0043】
反応温度は用いる原料化合物の種類等によって異なるが、通常−40℃〜150℃、好ましくは20℃〜120℃である。反応時間は通常約30分〜24時間、好ましくは約1時間〜10時間である。
【0044】
次に、前記製造法1〜3で用いられる化合物(II)、(III)および(IV)の製造について以下に説明する。
【0045】
製造法1で用いられる化合物(II)は、例えば、文献記載の方法に準じて、下記反応式に示される方法に従って製造することができる。
【0046】
【化12】

(式中、Rはメチル基、トリル基等を意味し、R1、R2、XおよびYは前掲に同じ。)
【0047】
すなわち、化合物(II)は、文献記載の方法(J. Org. Chem., 1996, 61, 4210; Angew. Chem. Int. Ed. Engl., 1987, 26, 1141)に準じて製造される化合物(V)にジ−tert−ブチルジカルボナート(Boc2O)を常法に従って反応させ、アミノ基を保護した化合物(VI)とし、次に、該化合物(VI)のヒドロキシ基を(i)トシルクロリドまたはメタンスルホニルクロリドで常法に従ってスルホニル化するか、または(ii)トリフェニルホスフィンジハロゲニドで常法に従ってハロゲン化して化合物(VII)とし、次に、該化合物(VII)をトリフルオロ酢酸または塩酸等の酸性条件下で処理して製造することができる。
【0048】
また、製造法2で用いられる化合物(III)は、例えば、文献記載の方法に準じて、下記反応式に示される方法に従って製造することができる。
【0049】
【化13】

(式中、R1、R2およびXは前掲に同じ。)
【0050】
すなわち、化合物(III)は、文献(Tetrahedron, 1985, 41, 4717)記載の方法に準じて、例えば、四塩化炭素等の不活性溶媒中、化合物(VIII)にN,N−ジハロホスホロアミジックアシッド ジエチル エステルおよびトリフルオロボラン・エーテラートを反応させて製造することができる。
【0051】
また、製造法3で用いられる化合物(IV)は、例えば、文献記載の方法に準じて、下記反応式に示される方法に従って製造することができる。
【0052】
【化14】

(式中、R1、R2、R、XおよびYは前掲に同じ。)
【0053】
すなわち、化合物(IV)は、文献(J. Org. Chem., 1996, 61, 4210; Angew. Chem. Int. Ed. Engl., 1987, 26, 1141 )に記載の方法に準じて製造される化合物(V)を文献(J. Chem. Soc. Perkin Trans. 1, 1990, 61, 2255; Angew. Chem. Int. Ed. Engl., 1987, 26, 1141 )記載の方法に準じて化合物(IX)とし、次に、該化合物(IX)のヒドロキシ基を(i)トシルクロリドまたはメシルクロリドで常法に従ってスルホニル化するか、または(ii)トリフェニルホスフィンジハロゲニドで常法に従ってハロゲン化して化合物(X)とし、次に文献(Tetrahedron Lett., 1981, 22, 3759; J. Chem. Res. Miniprint, 1984, 12, 3655 )に記載の方法に準じて、該化合物(X)にホスゲン等価体またはオキシ塩化リン等を反応させてイソニトリル化し、引き続き、セレンを反応させて製造することができる。
【0054】
上記製造法1〜3で製造される本発明の化合物(I)が異性体の混合物として得られる場合は、通常の化学操作により分離・精製してそれぞれ単一の異性体の本発明の化合物を得ることができる。
【0055】
また、特定の光学異性体である本発明の化合物(I)は、上記製造法1〜3において、所定の光学異性体の原料化合物(II)、(III)および(IV)を用いることにより製造することができる。
【0056】
また、本発明の化合物(I)は遊離塩基または酸付加塩の形で得られるが、両者は通常の方法により互いに変換することができる。
【0057】
本発明の化合物は、優れたiNOS阻害活性および/または高いiNOSの選択性を有することから、ヒトおよび哺乳動物に対する安全なNOS阻害剤として使用できることが期待される。また、本発明のNOS阻害剤はNOに起因する疾患、例えば、アルツハイマー病、パーキンソン病などの神経変性疾患;うつ病、不安症、精神分裂病などの中枢または末梢神経の疾患;心筋炎などの心疾患;肝炎;腎炎;慢性または急性の肺疾患;敗血性、低血圧性、出血性などのショック;潰瘍性大腸炎、クローン病などの炎症性消化管疾患;糖尿病またはその合併症;自己免疫疾患;慢性または急性移植臓器拒絶;勃起または生殖障害;アレルギー性疾患;アトピー性皮膚疾患、乾癬などの皮膚疾患;皮膚掻痒症;痛覚過敏;疼痛;ガン;放射線照射、太陽照射などから生じる疾患;ウイルス感染症;種々の原因による外傷;リウマチ関節炎、変形性関節炎;アルコール、化学物質などによる中毒等の予防および/または治療薬として有用である。
【0058】
本発明の化合物の投与経路としては、経口投与、非経口投与または直腸内投与のいずれでもよく、その一日投与量は、化合物の種類,投与方法,患者の症状・年齢等により異なるが、例えば、経口投与の場合は、通常、ヒトまたは哺乳動物1kg体重当たり約0.001〜100mg、さらに好ましくは約0.01〜50mgを1〜数回に分けて投与することができる。静注などの非経口投与の場合は、通常、例えば、ヒトまたは哺乳動物1kg体重当たり約1μg〜10mg、さらに好ましくは約10μg〜5mgを投与することができる。
【0059】
本発明の化合物は、上記の如き医薬用途に使用する場合、通常、製剤用担体と混合して調製された製剤の形で投与される。製剤用担体としては、製剤分野において常用され、かつ本発明の化合物と反応しない無毒性の物質が用いられる。具体的には、クエン酸,グルタミン酸,グリシン,乳糖,イノシトール,ブドウ糖,マンニトール,デキストラン,ソルビトール,シクロデキストリン,デンプン,部分アルファー化デンプン,白糖,パラオキシ安息香酸メチル,パラオキシ安息香酸プロピル,メタケイ酸アルミン酸マグネシウム,合成ケイ酸アルミニウム,結晶セルロース,カルボキシメチルセルロースナトリウム,ヒドロキシプロピルデンプン,カルボキシメチルセルロースカルシウム,イオン交換樹脂,メチルセルロース,ゼラチン,アラビアゴム,プルラン,ヒドロキシプロピルセルロース,低置換度ヒドロキシプロピルセルロース,ヒドロキシプロピルメチルセルロース,ポリビニルピロリドン,ポリビニルアルコール,アルギン酸,アルギン酸ナトリウム,軽質無水ケイ酸,ステアリン酸マグネシウム,タルク,トラガント,ベントナイト,ビーガム,カルボキシビニルポリマー,酸化チタン,ソルビタン脂肪酸エステル,ラウリル硫酸ナトリウム,グリセリン,脂肪酸グリセリンエステル,精製ラノリン,グリセロゼラチン,ポリソルベート,マクロゴール,植物油,ロウ,プロピレングリコール,エタノール,ベンジルアルコール,塩化ナトリウム,水酸化ナトリウム,塩酸,水等が挙げられる。
【0060】
剤型としては、錠剤,カプセル剤,顆粒剤,散剤,シロップ剤,懸濁剤,注射剤,坐剤,点眼剤,軟膏剤,塗布剤,吸入剤等が挙げられる。これらの製剤は常法にしたがって調製することができる。液体製剤にあっては、用時、水又は他の適当な媒体に溶解又は懸濁する形であってもよい。また、錠剤及び顆粒剤は周知の方法でコーティングしてもよい。非経口製剤、例えば、注射剤を製造する際には、水性溶剤(例:蒸留水,生理食塩水,リンゲル液等)、等張化剤(例:ブドウ糖,D−ソルビトール,D−マンニトール,塩化ナトリウム等)、安定剤(例:ヒト血清アルブミン等)、防腐剤(例:ベンジルアルコール,クロロブタノール,パラオキシ安息香酸メチル,パラオキシ安息香酸プロピル,フェノール等)、緩衝剤(例:リン酸塩緩衝液,酢酸ナトリウム緩衝液等)、無痛化剤(例:塩化ベンザルコニウム,塩酸プロカイン等)を適宜配合することができる。更に、これらの製剤は治療上価値ある他の成分を含有していてもよい。
【0061】
【実施例】
以下に参考例、実施例、製剤例および試験例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、これらは本発明を限定するものではない。化合物の同定は元素分析値、マス・スペクトル、IRスペクトル、NMRスペクトル、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)等により行った。また、化合物の立体配置(トランス配置およびシス配置)は、文献(J. Org. Chem., 1972, 37, 4401)記載の方法に準じて決定した。
【0062】
また、明細書の記載を簡略化するために実施例および表中において以下に示すような略号を用いることもある。
【0063】
置換基として用いられる記号としては、Meはメチル基、Etはエチル基、n−Prはノルマルプロピル基、i−Prはイソプロピル基およびn−Buはノルマルブチル基を意味する。
【0064】
再結晶溶媒として用いられる記号としては、ETはエタノール、HXはn−ヘキサンおよびIPはイソプロパノールを意味する。
【0065】
NMRに用いられる記号としては、sは一重線、dは二重線、ddは二重の二重線、tは三重線、qは四重線、mは多重線、br:幅広いおよびJは結合定数を意味する。
【0066】
参考例1
(1)(2S,3R)−3−アミノ−2−ブタノール:
【0067】
【化15】

【0068】
(2R)−2−アミノ−1−プロパノールを用い、文献(J. Org. Chem. 1996, 61, 4210)に記載の方法に従って反応・処理して目的物を得た。
【0069】
(2R)−2−アミノ−1−プロパノールの代わりに対応するアミノアルコール類を用い、参考例1(1)または文献(Angew. Chem. Int. Ed. Engl., 1987, 26, 1141)に記載の方法に従って、同様に反応・処理して以下の化合物を得た。
【0070】
(2)(2R,3S)−3−アミノ−2−ブタノール
(3)(3S,4R)−4−アミノ−3−ヘキサノール
(4)(3R,4S)−4−アミノ−3−ヘキサノール
(5)(2R,3R)−2−アミノ−3−ペンタノール
(6)(2S,3S)−2−アミノ−3−ペンタノール
(7)(2R,3R)−3−アミノ−2−ペンタノール
(8)(2S,3S)−3−アミノ−2−ペンタノール
(9)(2R,3S)−2−アミノ−3−ペンタノール
【0071】
参考例2
(1)(1S,2R)−2−アミノ−1−メチルプロピル メチルスルホナート・1塩酸塩:
【0072】
【化16】

【0073】
(2S,3R)−3−アミノ−2−ブタノール0.22gをジオキサン5mlに加え、室温下、ジ−tert−ブチルジカルボナート0.54gのジオキサン溶液2mlを加え、同温で2時間撹拌した。溶媒を留去後、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーに付し、酢酸エチル−ヘキサン(2:1)で溶出・精製し、tert−ブチル (1R,2S)−2−ヒドロキシ−1−メチルプロピルカルバメート0.40gを結晶として得た。得られたtert−ブチル (1R,2S)−2−ヒドロキシ−1−メチルプロピルカルバメート0.40gおよびトリエチルアミン0.36mlの塩化メチレン溶液5mlに、0℃撹拌下、メタンスルホニルクロリド0.27gの塩化メチレン溶液1mlを加え、同温下、1時間撹拌した。水5mlを加え、クロロホルム5mlで抽出した。抽出液を硫酸マグネシウムで乾燥後濃縮し、(1S,2R)−2−〔(tert−ブトキシ)カルボニルアミノ〕−1−メチルプロピル メチルスルホナート0.55gを油状物として得た。得られた(1S,2R)−2−〔(tert−ブトキシ)カルボニルアミノ〕−1−メチルプロピル メチルスルホナート0.55gのエタノール溶液5mlに、0℃撹拌下、30%塩酸−エタノール溶液5mlを加え、同温下、1時間撹拌した。溶媒を留去後、粗結晶として目的物0.35gを得た。
【0074】
(2S,3R)−3−アミノ−2−ブタノールの代わりに対応する原料化合物をそれぞれ用い、参考例2(1)と同様に反応・処理し、以下の化合物を得た。
【0075】
(2)(1R,2S)−2−アミノ−1−メチルプロピル メチルスルホナート・1塩酸塩
(3)(1S,2R)−2−アミノ−1−エチルブチル メチルスルホナート・1塩酸塩
(4)(1R,2S)−2−アミノ−1−エチルブチル メチルスルホナート・1塩酸塩
(5)(1R,2R)−2−アミノ−1−エチルプロピル メチルスルホナート・1塩酸塩
(6)(1S,2S)−2−アミノ−1−エチルプロピル メチルスルホナート・1塩酸塩
(7)(1R,2R)−2−アミノ−1−メチルブチル メチルスルホナート・1塩酸塩
(8)(1S,2S)−2−アミノ−1−メチルブチル メチルスルホナート・1塩酸塩
(9)(1S,2R)−2−アミノ−1−エチルプロピル メチルスルホナート・1塩酸塩
(10)(2R)−2−アミノプロピル メチルスルホナート・1塩酸塩
(11)(2S)−2−アミノプロピル メチルスルホナート・1塩酸塩
(12)(2R)−2−アミノブチル メチルスルホナート・1塩酸塩
(13)(2S)−2−アミノブチル メチルスルホナート・1塩酸塩
(14)(2R)−2−アミノペンチル メチルスルホナート・1塩酸塩
(15)(2S)−2−アミノペンチル メチルスルホナート・1塩酸塩
(16)(2R)−2−アミノ−3−メチルブチル メチルスルホナート・1塩酸塩
(17)(2S)−2−アミノ−3−メチルブチル メチルスルホナート・1塩酸塩
(18)(2R)−2−アミノヘキシル メチルスルホナート・1塩酸塩
(19)(2S)−2−アミノヘキシル メチルスルホナート・1塩酸塩
【0076】
実施例1
(4R)−4−メチル−4,5−ジヒドロ−1,3−セレナゾール−2−イルアミン・1/2フマル酸塩
【0077】
【化17】

【0078】
参考例2(10)で得られた(2R)−2−アミノプロピル メチルスルホナート・1塩酸塩1.42gおよびセレノシアン酸カリウム2.70gを室温下、水30mlに加え、同温で15分撹拌した。100℃まで昇温後、更に3時間撹拌した。室温まで冷却後、氷冷下に付し、25%水酸化ナトリウム水溶液10mlを加えてクロロホルム20mlで3回抽出した。抽出液を硫酸ナトリウムで乾燥後濃縮し、残渣をエタノール中フマル酸で処理し、エタノール−n−ヘキサンから再結晶して目的物0.113gを得た。融点:160−163℃
【0079】
1H-NMR(DMSO-d6)δ:1.21(d,J=6.4Hz,3H),3.08(dd,J=7.4Hz,J=10.1Hz,1H),
3.56(dd,J=6.7Hz,J=10.1Hz,1H),4.15(m,1H),6.46(s,1H)
【0080】
実施例2〜14:
実施例1における(2R)−2−アミノプロピル メチルスルホナート・1塩酸塩の代わりに参考例2で得られた対応する原料化合物をそれぞれ用い、実施例1と同様に反応・処理し、下記表1に示す化合物を得た。
【0081】
【表1】

【0082】
実施例15および16
実施例15:(4R,5R)−5−エチル−4−メチル−4,5−ジヒドロ−1,3−セレナゾール−2−イルアミン・1/2フマル酸塩
【0083】
【化18】

実施例16:(4S,5S)−4−エチル−5−メチル−4,5−ジヒドロ−1,3−セレナゾール−2−イルアミン・1/2フマル酸塩
【0084】
【化19】

【0085】
〔工程1〕参考例2(5)で得られた(1R,2R)−2−アミノ−1−エチルプロピル メチルスルホナート・1塩酸塩25.5gおよびセレノシアン酸カリウム25.4gを水350mlに加え、室温で15分撹拌後、100℃で3時間撹拌し、さらに室温で終夜撹拌した。氷冷下、25%水酸化ナトリウム水溶液100mlを加え、クロロホルム100mlで3回抽出した。抽出液を硫酸ナトリウムで乾燥後濃縮し、(4R,5R)−5−エチル−4−メチル−4,5−ジヒドロ−1,3−セレナゾール−2−イルアミンおよび(4S,5S)−4−エチル−5−メチル−4,5−ジヒドロ−1,3−セレナゾール−2−イルアミンの混合物として14g得た。
【0086】
〔工程2〕上記工程1で得られた(4R,5R)−5−エチル−4−メチル−4,5−ジヒドロ−1,3−セレナゾール−2−イルアミンおよび(4S,5S)−4−エチル−5−メチル−4,5−ジヒドロ−1,3−セレナゾール−2−イルアミンの混合物1.00gの塩化メチレン15ml溶液に氷冷下、トリエチルアミン0.60mlおよびクロログリオキシル酸メチル0.385mlを加え30分撹拌した。反応液を水洗後硫酸ナトリウムで乾燥し濃縮後、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーに付し、酢酸エチル−n−ヘキサン(1:1)で溶出・精製して下記の2つの化合物を得た。
【0087】
・N−(4R,5R)−(5−エチル−4−メチル−4,5−ジヒドロ−1,3−セレナゾール−2−イル)−オキサミックアシッド メチル エステル0.30g
1H-NMR(CDCl3)δ:1.03(t,J=7.3Hz,3H),1.31(d,J=6.4Hz,3H),1.72-1.99(m,2H),3.25(m,1H),3.87(s,3H),4.00(m,1H)
【0088】
・N−(4S,5S)−(4−エチル−5−メチル−4,5−ジヒドロ−1,3−セレナゾール−2−イル)−オキサミックアシッド メチル エステル0.50g
1H-NMR(CDCl3)δ:0.91(t,J=7.3Hz,3H),1.61(d,J=7.0Hz,3H),1.62(m,2H),
3.45(m,1H),3.77(m,1H),3.88(s,3H)
【0089】
〔工程3〕
(a)上記工程2で得られたN−(4R,5R)−(5−エチル−4−メチル−4,5−ジヒドロ−1,3−セレナゾール−2−イル)−オキサミックアシッドメチル エステル0.30gのメタノール9ml溶液に炭酸カリウム0.15gを加え室温で終夜撹拌した。メタノールを減圧留去後ジクロロメタン30mlおよび水酸化ナトリウム水溶液(2mol/L)9mlを加え攪拌した後、ジクロロメタン層を分取し硫酸ナトリウムで乾燥し濃縮後、残渣をアミン処理したシリカゲルカラムクロマトグラフィーに付し、クロロホルムで溶出・精製して(4R,5R)−5−エチル−4−メチル−4,5−ジヒドロ−1,3−セレナゾール−2−イルアミン0.18gを油状物として得た。
【0090】
1H-NMR(CDCl3)δ:0.99(t,J=7.2Hz,3H),1.25(d,J=6.4Hz,3H),1.68-1.97(m,2H),3.85(m,1H),3.96(m,1H),4.63(br,2H)
【0091】
上記で得られた(4R,5R)−5−エチル−4−メチル−4,5−ジヒドロ−1,3−セレナゾール−2−イルアミン0.18gをエタノール中フマル酸で処理し、エタノール−n−ヘキサンから再結晶して目的物である実施例15の化合物0.18gを得た。融点145−152℃
【0092】
(b)上記(a)と同様にして、上記工程2で得られたN−(4S,5S)−(4−エチル−5−メチル−4,5−ジヒドロ−1,3−セレナゾール−2−イル)−オキサミックアシッド メチル エステル0.50gから(4S,5S)−4−エチル−5−メチル−4,5−ジヒドロ−1,3−セレナゾール−2−イルアミン0.21gを油状物として得た。
【0093】
1H-NMR(CDCl3)δ:1.01(t,J=7.4Hz,3H),1.50-1.59(m,2H),1.56(d,J=7.0Hz,3H),3.66(m,1H),4.01(m,1H)
【0094】
上記で得られた(4S,5S)−4−エチル−5−メチル−4,5−ジヒドロ−1,3−セレナゾール−2−イルアミン0.21gをエタノール中フマル酸で処理し、エタノール−n−ヘキサンから再結晶して目的物である実施例16の化合物0.18gを得た。融点160−164℃
【0095】
実施例17〜22
実施例15および16における(1R,2R)−2−アミノ−1−エチルプロピル メチルスルホナート・1塩酸塩の代わりに参考例2で得られた対応する原料化合物をそれぞれ用い、実施例15および16と同様に反応・処理し、下記表2で表わされる化合物を得た。
【0096】
【表2】

【0097】
実施例23
(4R,5R)−5−エチル−4−メチル−4,5−ジヒドロ−1,3−セレナゾール−2−イルアミン・1/2フマル酸塩
【0098】
【化20】

【0099】
〔工程1〕参考例1(9)で得られた(2R,3S)−2−アミノ−3−ペンタノール2.0gのエタノール溶液5mlに、蟻酸エチル16mlを加え、90℃で終夜撹拌した。室温まで冷却後濃縮し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーに付し、クロロホルム−メタノール(10:1)で溶出・精製して(2R,3S)−N−ホルミル−2−アミノ−3−ペンタノール1.38gを得た。
【0100】
〔工程2〕上記工程1で得られてた(2R,3S)−N−ホルミル−2−アミノ−3−ペンタノール0.15gおよびトリエチルアミン0.16mlの塩化メチレン溶液10mlに、氷冷撹拌下、メタンスルホニルクロリド0.13gの塩化メチレン2ml溶液を加え、同温下、1時間撹拌した。水10mlを加えて水洗し、塩化メチレン層を硫酸ナトリウムで乾燥後濃縮して、(1S,2R)−1−エチル−2−ホルミルアミノプロピル メチルスルホナート0.21g得た。
【0101】
〔工程3〕上記工程2で得られた(1S,2R)−1−エチル−2−ホルミルアミノプロピル メチルスルホナート0.21gおよびトリエチルアミン0.28mlの塩化メチレン溶液2.5mlおよびジエチルエーテル5mlに、氷冷撹拌下、トリホスゲン0.15gを加え、同温下、10分撹拌した。反応液にヘキサン15mlを加え、セライト濾過後、濃縮し、(1S,2R)−1−エチル−2−イソシアノプロピル メチルスルホナートを得た。
【0102】
〔工程4〕さらに精製することなく、上記工程3で得られた(1S,2R)−1−エチル−2−イソシアノプロピル メチルスルホナートのクロロホルム10ml溶液に、セレン0.9gおよびトリエチルアミン0.45mlを加え、60℃で終夜撹拌した。反応液をセライト濾過後濃縮し、(1S,2R)−1−エチル−2−イソセレノシアナートプロピル メチルスルホナートを得た。
【0103】
〔工程5〕さらに精製することなく、上記工程4で得られた(1S,2R)−1−エチル−2−イソセレノシアナートプロピル メチルスルホナートのジオキサン5ml溶液に、28%アンモニア水3mlを加えた後、60℃まで昇温後、1時間撹拌した。減圧下でジオキサンを留去後、氷冷下、25%水酸化ナトリウム水溶液2mlを加えてクロロホルム10mlで3回抽出した。抽出液を硫酸ナトリウムで乾燥後濃縮し、残渣をアミン処理したシリカゲルカラムクロマトグラフィーに付し、クロロホルムで溶出・精製した後フマル酸で処理し、エタノール−n−ヘキサンから再結晶して実施例15の化合物0.035gを得た。
【0104】
製剤例1:錠剤の製造(5mg錠)
【0105】
(4R,5R)−5−エチル−4−メチル−4,5−ジヒドロ−1,3−セレナゾール−2−イルアミン・1/2フマル酸塩(実施例15の化合物)(5g),乳糖(80g),トウモロコシデンプン(30g),結晶セルロース(25g),ヒドロキシプロピルセルロース(3g),軽質無水ケイ酸(0.7g)およびステアリン酸マグネシウム(1.3g)を常法により混合、造粒し、1錠あたり145mgで打錠、1000錠を製造する。
【0106】
試験例1:誘導型NO合成酵素(iNOS)に対する阻害活性
【0107】
iNOSの粗酵素標品は以下の手順で調製した。マウスマクロファージ系細胞株RAW264.7(3〜4×106個/1培養皿)を10%FBS(牛胎児血清)を含むD−MEM(ダルベッコ−Minimum Essential Medium)培地で炭酸ガスインキュベータにて一晩培養した。次にこの培地にLPS(リポポリサッカライド)およびマウスIFN−γ(インターフェロン−ガンマ)を最終濃度がそれぞれ0.2μg/mlおよび100U/mlとなるように添加した。さらに一晩培養したのち細胞を回収し、2×107個/mlとなるように50mMトリス−塩酸/100μM DTT(ジチオトレイトール)(pH7.5)を加えてホモジナイズし、これを100,000×gで30分間遠心した。得られた上清の可溶性細胞質画分にDowex HCR−W2を加えて4℃で30分間撹拌し、得られた上清をiNOSの粗酵素標品とした。
【0108】
iNOS活性はL−〔3H〕-アルギニンからL−〔3H〕−シトルリンへの変換量を定量することによって測定した。粗酵素標品(70μl)に1mM NADPH(還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸)を含む50mMトリス−塩酸緩衝液(pH7.5)(20μl)、被験化合物(10μl)、10μCi/ml L−〔3H〕−アルギニン(20μl)および50mM トリス−塩酸緩衝液(pH7.5)(80μl)を添加し、37℃で30分間インキュベートした。これに2mM EDTA(エチレンジアミン四酢酸)および2mM EGTA〔エチレングリコールビス(6−アミノエチルエーテル)−N,N,N,N−四酢酸〕を含む0.1M酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.0)(200μl)を加えて反応を停止させた。該反応液にDowex 50W−X8を加えて30分間撹拌し、30分間静置した後、上清に液体シンチレーションカクテルを加えて放射活性を測定した。各化合物のiNOS阻害活性値としてL−〔3H〕−シトルリンの生成阻害率が50%となる濃度(IC50)を算出し、その結果を表3に示す。
【0109】
試験例2:ラット脳由来の構成型NO合成酵素(nNOS)に対する阻害活性
【0110】
nNOSの粗酵素標品を以下の手順で調製した。無処置の雌性ウィスターラット(体重150〜170g)を断頭してすばやく全脳を取り出し、これに氷上で5倍量の0.1mM PMSF(フェニルメチルスルホニルフルオリド),12.5mM 2−メルカプトエタノールおよび0.5mM EDTAを含む50mM HEPES(N−2−ヒドロキシエチルピペラジン−N'−2−エタンスルホン酸)緩衝液(pH7.1)を加えてホモジナイズし、これを100,000×gで60分間遠心した。得られた上清の可溶性細胞質画分にDowex HCR−W2を加えて4℃で30分間撹拌し、得られた上清をnNOSの粗酵素標品とした。
【0111】
nNOS活性はL−〔3H〕−アルギニンからL−〔3H〕−シトルリンへの変換量を定量することによって測定した。粗酵素標品(100μl)に1mM NADPH,2mM CaCl2および300nM カルモジュリンを含む50mM トリス−塩酸緩衝液(pH7.5)(60μl)、被験化合物(10μl)、10μCi/ml L−〔3H〕−アルギニン(20μl)並びに50mM トリス−塩酸緩衝液(pH7.5)(10μl)を添加し、37℃で30分間インキュベートした。これに2mM EDTAおよび2mM EGTAを含む0.1M酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.0)(200μl)を加えて反応を停止させ、該反応液にDowex 50W−X8を加えて30分間撹拌し、30分間静置した後、上清に液体シンチレーションカクテルを加えて放射活性を測定した。各化合物のnNOS阻害活性値としてL−〔3H〕−シトルリンの生成阻害率が50%となる濃度(IC50)を算出した。
【0112】
試験例1および2により得られたiNOSおよびnNOS阻害活性値を用い、iNOSに対する選択性を「乖離度」(乖離度=nNOS/iNOS)としてその結果を表3に示す。
【0113】
なお、前記した文献(非特許文献8)に記載されている下記化合物(A)を比較化合物とし、上記試験例1および2と同様に試験してその結果を表3に示す。
【0114】
【化21】

【0115】
【表3】

【0116】
【発明の効果】
本発明の化合物は、上記の試験例からも明らかなように、優れたNOS阻害活性および/またはiNOSに対する選択性が高いことから副作用も少ないと考えられるため、一酸化窒素過剰産生に関連する疾患、例えば、アルツハイマー病、パーキンソン病などの神経変性疾患;うつ病、不安症、精神分裂病などの中枢または末梢神経の疾患;心筋炎などの心疾患;肝炎;腎炎;慢性または急性の肺疾患;敗血性、低血圧性、出血性などのショック;潰瘍性大腸炎、クローン病などの炎症性消化管疾患;糖尿病またはその合併症;自己免疫疾患;慢性または急性移植臓器拒絶;勃起または生殖障害;アレルギー性疾患;アトピー性皮膚疾患、乾癬などの皮膚疾患;皮膚掻痒症;痛覚過敏;疼痛;ガン;放射線照射、太陽照射などから生じる疾患;ウイルス感染症;種々の原因による外傷;リウマチ関節炎、変形性関節炎;アルコール、化学物質などによる中毒等の予防および/または治療薬として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)
【化1】

(式中、R1およびR2は同一または異なって、水素原子またはアルキル基を意味する。但し、R1およびR2は同時に水素原子ではない。)
で表わされる2−アミノセレナゾリン誘導体、またはその生理的に許容される酸付加塩。
【請求項2】
1およびR2が炭素数1〜6のアルキル基である請求項1記載の2−アミノセレナゾリン誘導体、またはその生理的に許容される酸付加塩。
【請求項3】
1およびR2が炭素数1〜3のアルキル基である請求項1または2記載の2−アミノセレナゾリン誘導体、またはその生理的に許容される酸付加塩。
【請求項4】
下記一般式(I’)
【化2】

(式中、R1およびR2は前掲に同じであり、R1またはR2が水素原子でないとき「*」印は不斉炭素原子を意味する。)
で表わされる請求項1記載の2−アミノセレナゾリン誘導体、またはその生理的に許容される酸付加塩。
【請求項5】
1およびR2が炭素数1〜6のアルキル基である請求項4記載の2−アミノセレナゾリン誘導体、またはその生理的に許容される酸付加塩。
【請求項6】
1およびR2が炭素数1〜3のアルキル基である請求項4または5記載の2−アミノセレナゾリン誘導体、またはその生理的に許容される酸付加塩。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載の2−アミノセレナゾリン誘導体、またはその生理的に許容される酸付加塩を有効成分とする一酸化窒素合成酵素阻害剤。

【公開番号】特開2006−232671(P2006−232671A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2003−152028(P2003−152028)
【出願日】平成15年5月29日(2003.5.29)
【出願人】(000002912)大日本住友製薬株式会社 (332)
【Fターム(参考)】