説明

新規タンパク質及びそれをコードする遺伝子

異常細胞又は異常組織で特異的に発現亢進する新規タンパク質を提供するとともに、該タンパク質をコードする遺伝子の発現亢進が関与する疾患の診断方法及び診断用キット、並びに該タンパク質をコードする遺伝子の発現亢進が関与する疾患の予防・治療物質のスクリーニング方法及びスクリーニング用キットを提供することを目的とし、この目的を達成するために、異常細胞又は異常組織で特異的に発現亢進する新規タンパク質として、(a)配列番号2記載のアミノ酸配列からなるタンパク質、又は(b)配列番号2記載のアミノ酸配列において1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ異常細胞又は異常組織で特異的に発現亢進するタンパク質を提供し、該タンパク質をコードする遺伝子の発現レベルを疾患の診断の指標とするとともに、該タンパク質をコードする遺伝子の発現レベル低減効果を疾患の予防・治療物質のスクリーニングの指標とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、異常細胞又は異常組織(特に肺癌細胞又は肺癌組織)で特異的に発現亢進するタンパク質、該タンパク質をコードする遺伝子、該遺伝子を含む組換えベクター、該組換えベクターを含む形質転換体、上記タンパク質に対する抗体又はその断片、上記遺伝子の発現レベルを指標とした上記遺伝子の発現亢進が関与する疾患(特に肺癌)の診断方法及び診断用キット、並びに上記遺伝子の発現レベル低減効果を指標とした上記遺伝子の発現亢進が関与する疾患(特に肺癌)の予防・治療物質のスクリーニング方法及びスクリーニング用キットに関する。
【背景技術】
肺癌は世界的に増加傾向にあり、2015年には日本国内の新患者数は男性11万人、女性3万7千人になると予想されている。日本における1999年の肺癌による年間死亡者数は約5万2千人であり、1993年からは肺癌は男性の癌死亡率の第1位となり、女性では胃癌に次いで第2位となっている。そして肺癌の治療開始から5年間生存している割合である5年生存率は25〜30%といわれており、肺癌の効果的な治療薬は社会的に求められている。
また、肺癌を簡便に、かつ感度よく診断する方法も広く現在求められている。特に現在、期待されている新しい診断法として遺伝子診断法が挙げられ、危険因子の高い群を発見することによる一次予防、肺癌の早期発見による二次予防、又は末梢血や骨髄、リンパ節における微小転移細胞の検出、そして悪性度の判定による予後診断などへの応用の試みがなされている(仁井谷久暢監修,肺癌診療ハンドブック第2版,2001)。
近年、DNAチップ等を用いた遺伝子解析技術が開発され、包括的かつ網羅的な癌の遺伝子発現解析が実用可能となって来ている。DNAチップ解析法を用いて癌組織のmRNAの発現量変化を解析することにより、多段階要因による癌の悪性化、癌細胞の浸潤・転移などに関わる遺伝子群の網羅的な同定が行われている。さらに、同定された遺伝子群の個々の生理機能を解明することによって、新しい癌細胞の特性に関して新たな知見が複数得られるものと期待され、様々な癌種において発現が亢進又は減少する分子の同定が進められている。肺癌においても遺伝子発現解析解析が行われ、発現が亢進する遺伝子群、または減少する遺伝子群が同定されている(バタチャルジ(Bhattacharjee)A.等,「プロシーディングズ オブ ザ ナショナル アカデミー オブ サイエンス オブ ザ ユナイテッド ステイツ オブ アメリカ(Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America)」,2001年,第98巻,p.13790−13795;ナッハト(Nacht)M.等,「プロシーディングズ オブ ザ ナショナル アカデミー オブ サイエンス オブ ザ ユナイテッド ステイツ オブ アメリカ(Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America)」,2001年,第98巻,p.15203−15208;チェン(Chen)J.J.W.等,「キャンサー リサーチ(Cancer Research)」,2001年,第61巻,p.5223−5230;ビアー(Beer)D.G.等,「ネイチャー メディシン(Nature Medicine)」,2002年,第8巻,p.816−824)。網羅的な遺伝子発現解析の結果、肺癌の種類による発現パターンの違いや、転移性癌における特長的な遺伝子発現制御、さらには予後診断に有用な遺伝子群の同定が報告されている。しかしながら、肺癌に特異的に発現する分子は見出されておらず、臨床的に有効であると期待される肺癌特異的な標的分子及び診断において有用なマーカー分子は未だ同定されていない状況である。
【発明の開示】
本発明は、第一に、異常細胞又は異常組織(特に肺癌細胞又は肺癌組織)で特異的に発現亢進するタンパク質、該タンパク質をコードする遺伝子、該遺伝子を含む組換えベクター、該組換えベクターを含む形質転換体、及び上記タンパク質に対する抗体又はその断片を提供することを目的とする。
また、本発明は、第二に、異常細胞又は異常組織(特に肺癌細胞又は肺癌組織)で特異的に発現亢進するタンパク質をコードする遺伝子の発現レベルを指標とした、上記遺伝子の発現亢進が関与する疾患(特に肺癌)の診断方法及び診断用キットを提供することを目的とする。
さらに、本発明は、第三に、異常細胞又は異常組織(特に肺癌細胞又は肺癌組織)で特異的に発現亢進するタンパク質をコードする遺伝子の発現レベル低減効果を指標とした、上記遺伝子の発現亢進が関与する疾患(特に肺癌)の予防・治療物質のスクリーニング方法及びスクリーニング用キットを提供することを目的とする。
上記目的を達成するために、本発明は、以下のタンパク質、遺伝子、組換えベクター、形質転換体、抗体又はその断片、診断方法及び診断用キット、並びにスクリーニング方法及びスクリーニング用キットを提供する。
(1)下記(a)又は(b)に示すタンパク質。
(a)配列番号2記載のアミノ酸配列からなるタンパク質
(b)配列番号2記載のアミノ酸配列において1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ異常細胞又は異常組織で特異的に発現亢進するタンパク質
(2)前記異常細胞又は異常組織が、肺癌細胞又は肺癌組織である前記(1)記載のタンパク質。
(3)前記(1)又は(2)記載のタンパク質をコードする遺伝子。
(4)下記(c)又は(d)に示すDNAを含む前記(3)記載の遺伝子。
(c)配列番号1記載の塩基配列のうち103〜1488番目の塩基配列からなるDNA
(d)前記(c)に示すDNAと相補的なDNAにストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ異常細胞又は異常組織で特異的に発現亢進するタンパク質をコードするDNA
(5)前記(3)又は(4)記載の遺伝子を含む組換えベクター。
(6)前記(5)記載の組換えベクターを含む形質転換体。
(7)前記(1)又は(2)記載のタンパク質に反応し得る抗体又はその断片。
(8)被験動物から採取した検体における前記(1)記載のタンパク質をコードする遺伝子の発現レベルを指標として、前記被験動物が、前記遺伝子の発現亢進が関与する疾患に罹患しているか否かを診断する工程を含む、前記疾患の診断方法。
(9)前記検体における前記(1)記載のタンパク質をコードするmRNAの存在量に基づいて前記発現レベルを測定する工程を含む前記(8)記載の診断方法。
(10)前記検体における前記(1)記載のタンパク質の存在量に基づいて前記発現レベルを測定する工程を含む前記(8)記載の診断方法。
(11)前記疾患が肺癌である前記(8)〜(10)のいずれかに記載の診断方法。
(12)前記(1)記載のタンパク質をコードする核酸にハイブリダイズし得るオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドを含む、前記タンパク質をコードする遺伝子の発現亢進が関与する疾患の診断用キット。
(13)前記(1)記載のタンパク質に反応し得る抗体又はその断片を含む、前記タンパク質をコードする遺伝子の発現亢進が関与する疾患の診断用キット。
(14)前記疾患が肺癌である前記(12)又は(13)記載の診断用キット。
(15)前記(1)記載のタンパク質をコードする遺伝子の発現レベルが亢進している細胞又は組織における前記遺伝子の発現レベル低減効果を指標として、前記遺伝子の発現亢進が関与する疾患に対する候補物質の予防・治療効果を判定する工程を含む、前記疾患の予防・治療物質のスクリーニング方法。
(16)前記疾患が肺癌である前記(15)記載のスクリーニング方法。
(17)前記(1)記載のタンパク質をコードする核酸にハイブリダイズし得るオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドを含む、前記タンパク質をコードする遺伝子の発現亢進が関与する疾患の予防・治療物質のスクリーニング用キット。
(18)前記(1)記載のタンパク質に反応し得る抗体又はその断片を含む、前記タンパク質をコードする遺伝子の発現亢進が関与する疾患の予防・治療物質のスクリーニング用キット。
(19)前記疾患が肺癌である前記(17)又は(18)記載のスクリーニング用キット。
【図面の簡単な説明】
図1は、230349_at_u133Bのプローブと反応するmRNAの、ヒト肺腺癌組織及びヒト正常肺組織における発現量を示す図である。
図2は、230349_at_u133Bのプローブと反応するmRNAのヒト正常組織における発現量を示す図である。
図3は、RACE法(Rapid amplification cDNA ends)により得られたDNA断片の電気泳動結果を示す図である。
図4は、遺伝子#15の塩基配列とLOC139320の塩基配列とのアライメント結果を示す図である。
図5は、遺伝子#15の塩基配列とLOC139320の塩基配列とのアライメント結果を示す図(図4の続き)である。
図6は、肺腺癌組織における遺伝子#15及びLOC139320の発現の有無を示す図である。
図7は、肺腺癌組織(12例)及び正常肺組織(4例)における遺伝子#15の発現の有無を示す図である。
図8は、肺腺癌組織からマイクロダイゼクション法を用いて単離した癌細胞における遺伝子#15の発現の有無を示す図である。
図9は、活性型又は不活型の単核球又はリンパ球、及びヒト正常組織における遺伝子#15の発現の有無を示す図である。
図10は、ヒト胃癌、肝細胞癌及び大腸癌における遺伝子#15の発現の有無を示す図である。
図11は、遺伝子#15にコードされるタンパク質のアミノ酸配列とヒトXKタンパク質のアミノ酸配列とのアライメント結果を示す図である。
図12は、遺伝子#15にコードされるタンパク質のアミノ酸配列と線虫Ced8タンパク質のアミノ酸配列とのアライメント結果を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明のタンパク質は、下記(a)又は(b)に示すタンパク質である。
(a)配列番号2記載のアミノ酸配列からなるタンパク質(以下「タンパク質(a)」という。)
(b)配列番号2記載のアミノ酸配列において1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ異常細胞又は異常組織で特異的に発現亢進するタンパク質(以下「タンパク質(b)」という。)
タンパク質(a)又は(b)は、異常細胞又は異常組織(異常器官を含む)で特異的に発現亢進するタンパク質である。ここで、「異常細胞又は異常組織で特異的に発現亢進する」とは、正常細胞又は正常組織では発現亢進せず、異常細胞又は異常組織でのみ発現亢進することを意味する。また、「異常細胞又は異常組織」とは、何らかの疾患と関連して何らかの異常状態を呈する細胞又は組織を意味し、その種類は、タンパク質(a)又は(b)が発現亢進する限り特に限定されるものではないが、例えば、肺癌細胞、肺癌組織等が挙げられ、肺癌としては、例えば、肺腺癌、肺扁平上皮癌、大細胞肺癌、小細胞肺癌等が挙げられる。タンパク質(a)又は(b)の発現亢進は胃癌、肝細胞癌、大腸癌等の癌に由来する細胞又は組織では観察されないことから、タンパク質(a)又は(b)は癌の中でも特に肺癌において発現亢進すると考えられる。また、タンパク質(a)又は(b)は肺癌の中でも特に肺腺癌細胞又は肺腺癌組織において発現亢進すると考えられる。
タンパク質(a)は、アミノ酸レベルにおいて、ヒトXK蛋白(Kell blood group precursor遺伝子)及び線虫のCED8蛋白とそれぞれ44.7%及び19.4%の相同性を示す(図11及び12参照)。ヒトXK蛋白、線虫のCED8蛋白は共に細胞膜等に発現し、トランスポーターとして機能していると予測されている。ヒトXK蛋白は赤血球においてKell抗原蛋白前駆体又はその一部を輸送する機能をもつと考えられ、ヒトXK蛋白の変異によりXK蛋白の機能障害が生じ、Kell抗原が赤血球表面から消失することで赤血球の形態異常を誘発し、最終的に有棘赤血球増加症を引き起こすと考えられている(Ho.M.,ら、Cell,Vol.77,869−880,1994)。さらに、Mcleod症候群では赤血球異常以外にも筋肉障害、神経障害も見られることにより、神経や筋肉においてもXK蛋白は神経伝達物質等の輸送に関与していると推察されている(Danek,Aら,Ann.Neurol,Vol.28,720−722,1990、Danek,Aら,Ann.Neurol,Vol.50,755−764,2001)。一方、線虫のCED8蛋白はXK蛋白と同様に10回膜貫通領域を持ち、トランスポーター構造をとると予測され、細胞膜に局在することが示唆されている。さらに、線虫の肺発生初期にCED8の機能を欠損するとプログラム細胞死の起こる時期が遅れることから、アポトーシスの制御因子の一つと考えられており、線虫のアポトーシス調節として働くCED9蛋白と同時に、又はその下流でCED8蛋白が機能することで細胞死に関与すると示唆されている(Stanfield.G.M.ら、Molecular Cell,Vol.5,423−433,2000)。これらXK蛋白及びCED8の構造及び機能に基づき、本発明のタンパク質の構造及び機能を予測すると、本発明のタンパク質は、複数回の膜貫通領域を持つトランスポーターとして働くことが予想され、また、肺腺癌の癌化において需要な物質の輸送又は癌細胞の増殖や生命維持に必須な物質の輸送を行うことで、肺腺癌の発生・進展に関与する可能性や、CED8蛋白と同様にアポトーシス制御に関わる可能性が考えられる。
配列番号2記載のアミノ酸配列において欠失、置換又は付加されるアミノ酸の個数は、異常細胞又は異常組織(特に肺癌細胞又は肺癌組織)で特異的に発現亢進する限り特に限定されるものではなく、その個数は1又は複数個、好ましくは1又は数個であり、その具体的な範囲は通常1〜100個、好ましくは1〜50個、さらに好ましくは1〜10個である。このとき、タンパク質(b)のアミノ酸配列は、タンパク質(a)のアミノ酸配列と通常15%以上、好ましくは40%以上、さらに好ましくは70%以上の相同性を有する。
配列番号2記載のアミノ酸配列において欠失、置換又は付加されるアミノ酸の位置は、異常細胞又は異常組織(特に肺癌細胞又は肺癌組織)で特異的に発現亢進する限り特に限定されるものではない。例えば、配列番号2記載のアミノ酸配列において、9番目のアミノ酸Gluがアミノ酸Glyに、10番目のアミノ酸Argがアミノ酸Glyに、13番目のアミノ酸Thrがアミノ酸Alaに、25番目のアミノ酸Asnがアミノ酸Aspに、26番目のアミノ酸Valがアミノ酸Alaに、29番目のアミノ酸Valがアミノ酸Aspに、76番目のアミノ酸Gluがアミノ酸Glyに、83番目のアミノ酸Thrがアミノ酸Alaに、90番目のアミノ酸Serがアミノ酸Proに、111番目のアミノ酸Leuがアミノ酸Proに、112番目のアミノ酸Serがアミノ酸Proに、116番目のアミノ酸Hisがアミノ酸Argに、128番目のアミノ酸Gluがアミノ酸Lysに、145番目のアミノ酸Proがアミノ酸Serに、184番目のアミノ酸Metがアミノ酸Thrに、200番目のアミノ酸Glnがアミノ酸Argに、227番目のアミノ酸Tyrがアミノ酸Cysに、241番目のアミノ酸Tyrがアミノ酸Cysに、259番目のアミノ酸Trpがアミノ酸Argに、296番目のアミノ酸Gluがアミノ酸Glyに、308番目のアミノ酸Metがアミノ酸Thrに、331番目のアミノ酸Leuがアミノ酸Serに、354番目のアミノ酸Aspがアミノ酸Glyに、369番目のアミノ酸Argがアミノ酸Lysに、386番目のアミノ酸Lysがアミノ酸Gluに、400番目のアミノ酸Leuがアミノ酸Pheに、405番目のアミノ酸Leuがアミノ酸Proに、422番目のアミノ酸Argがアミノ酸Cysに、423番目のアミノ酸Serがアミノ酸Proに置換され得る。タンパク質(b)には、上記置換箇所のうち1箇所が置換されたタンパク質、及び任意の2箇所以上が置換されたタンパク質のいずれもが含まれる。
タンパク質(b)には、タンパク質(a)に対して人為的に欠失、置換、付加等の変異を導入したタンパク質の他、欠失、置換、付加等の変異が導入された状態で天然に存在するタンパク質や、それに対して人為的に欠失、置換、付加等の変異を導入したタンパク質も含まれる。欠失、置換、付加等の変異が導入された状態で天然に存在するタンパク質としては、例えば、ヒトを含む哺乳動物(例えば、ヒト、サル、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、ブタ、ウサギ、イヌ、ネコ、マウス、ラット等)由来のタンパク質(これらの哺乳動物において多型によって生じ得るタンパク質を含む)が挙げられる。
タンパク質(a)及び(b)には、糖鎖が付加されたタンパク質及び糖鎖が付加されていないタンパク質のいずれもが含まれる。タンパク質に付加される糖鎖の種類、位置等は、タンパク質の製造の際に使用される宿主細胞の種類によって異なるが、糖鎖が付加されたタンパク質には、いずれの宿主細胞を用いて得られるタンパク質も含まれる。また、タンパク質(a)及び(b)には、その医薬的に許容される塩も含まれる。
タンパク質(a)又は(b)をコードする遺伝子は、例えば、ヒトを含む哺乳動物の肺癌細胞又は肺癌組織から抽出したmRNAを用いてcDNAライブラリーを作製し、配列番号1記載の塩基配列に基づいて合成したプローブを用いて、cDNAライブラリーから目的のDNAを含むクローンをスクリーニングすることにより得られる。以下、cDNAライブラリーの作製、及び目的のDNAを含むクローンのスクリーニングの各工程について説明する。
〔cDNAライブラリーの作製〕
cDNAライブラリーを作製する際には、例えば、ヒトを含む哺乳動物の肺癌細胞又は肺癌組織から全RNAを得た後、オリゴdT−セルロースやポリU−セファロース等を用いたアフィニティーカラム法、バッチ法等によりポリ(A+)RNA(mRNA)を得る。この際、ショ糖密度勾配遠心法等によりポリ(A+)RNA(mRNA)を分画してもよい。次いで、得られたmRNAを鋳型として、オリゴdTプライマー及び逆転写酵素を用いて一本鎖cDNAを合成した後、該一本鎖cDNAから二本鎖cDNAを合成する。このようにして得られた二本鎖cDNAを適当なクローニングベクターに組み込んで組換えベクターを作製し、該組換えベクターを用いて大腸菌等の宿主細胞を形質転換し、テトラサイクリン耐性、アンピシリン耐性を指標として形質転換体を選択することにより、cDNAのライブラリーが得られる。cDNAライブラリーを作製するためのクローニングベクターは、宿主細胞中で自立複製できるものであればよく、例えば、ファージベクター、プラスミドベクター等を使用できる。宿主細胞としては、例えば、大腸菌(Escherichia coli)等を使用できる。
大腸菌等の宿主細胞の形質転換は、塩化カルシウム、塩化マグネシウム又は塩化ルビジウムを共存させて調製したコンピテント細胞に、組換えベクターを加える方法等により行うことができる。ベクターとしてプラスミドを用いる場合は、テトラサイクリン、アンピシリン等の薬剤耐性遺伝子を含有させておくことが好ましい。
cDNAライブラリーの作製にあたっては、市販のキット、例えば、SuperScript Plasmid System for cDNA Synthesis and Plasmid Cloning(Gibco BRL社製)、ZAP−cDNA Synthesis Kit(ストラタジーン社製)等を使用できる。
〔目的のDNAを含むクローンのスクリーニング〕
cDNAライブラリーから目的のDNAを含むクローンをスクリーニングする際には、配列番号1記載の塩基配列に基づいてプライマーを合成し、これを用いてポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を行い、PCR増幅断片を得る。PCR増幅断片は、適当なプラスミドベクターを用いてサブクローニングしてもよい。PCRに使用するプライマーセットは特に限定されるものではなく、配列番号1記載の塩基配列に基づいて設計できる。
cDNAライブラリーに対して、PCR増幅断片をプローブとしてコロニーハイブリダイゼーション又はプラークハイブリダイゼーションを行うことにより、目的のDNAが得られる。プローブとしては、PCR増幅断片をアイソトープ(例えば、32P、35S)、ビオチン、ジゴキシゲニン、アルカリホスファターゼ等で標識したものを使用できる。目的のDNAを含むクローンは、抗体を用いたイムノスクリーニング等の発現スクリーニングによっても得ることができる。
取得されたDNAの塩基配列は、該DNA断片をそのまま、又は適当な制限酵素等で切断した後、常法によりベクターに組み込み、通常用いられる塩基配列解析方法、例えば、マキサム−ギルバートの化学修飾法、ジデオキシヌクレオチド鎖終結法を用いて決定できる。塩基配列解析の際には、通常、373A DNAシークエンサー(Perkin Elmer社製)等の塩基配列分析装置が用いられる。
タンパク質(a)又は(b)をコードする遺伝子は、タンパク質(a)又は(b)をコードするオープンリーディングフレームとその3’末端に位置する終止コドンとを含む。また、タンパク質(a)又は(b)をコードする遺伝子は、オープンリーディングフレームの5’末端及び/又は3’末端に非翻訳領域(UTR)を含むことができる。
タンパク質(a)をコードする遺伝子としては、例えば、配列番号1記載の塩基配列のうち103〜1488番目の塩基配列からなるDNAを含む遺伝子が挙げられる。ここで、配列番号1記載の塩基配列のうち103〜1488番目の塩基配列は、タンパク質(a)をコードするオープンリーディングフレームであり、配列番号1記載の塩基配列のうち、翻訳開始コドンは103〜105番目の塩基配列に位置し、終止コドンは、1489〜1491番目の塩基配列に位置する。タンパク質(a)をコードする遺伝子の塩基配列は、タンパク質(a)をコードする限り特に限定されるものではなく、オープンリーディングフレームの塩基配列は、配列番号1記載の塩基配列のうち103〜1488番目の塩基配列に限定されるものではない。
タンパク質(a)をコードする遺伝子は、その塩基配列に従って化学合成により得ることもできる。DNAの化学合成は、市販のDNA合成機、例えば、チオホスファイト法を利用したDNA合成機(島津製作所社製)、フォスフォアミダイト法を利用したDNA合成機(パーキン・エルマー社製)を用いて行うことができる。
タンパク質(b)をコードする遺伝子としては、例えば、配列番号1記載の塩基配列のうち103〜1488番目の塩基配列からなるDNAと相補的なDNAにストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ異常細胞又は異常組織(特に肺癌細胞又は肺癌組織)で特異的に発現亢進するタンパク質をコードするDNAを含む遺伝子が挙げられる。
「ストリンジェントな条件」としては、例えば、42℃、2×SSC及び0.1%SDSの条件、好ましくは65℃、0.1×SSC及び0.1%SDSの条件が挙げられる。
配列番号1記載の塩基配列のうち103〜1488番目の塩基配列からなるDNAと相補的なDNAにストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAとしては、配列番号1記載の塩基配列のうち103〜1488番目の塩基配列からなるDNAと少なくとも50%以上、好ましくは70%以上、さらに好ましくは90%以上の相同性を有するDNAが挙げられる。具体的には、配列番号1記載の塩基配列のうち103〜1488番目の塩基配列において、126番目の塩基aが塩基gに、128番目の塩基aが塩基gに、130番目の塩基aが塩基gに、139番目の塩基aが塩基gに、175番目の塩基aが塩基gに、179番目の塩基tが塩基cに、188番目の塩基tが塩基aに、216番目の塩基tが塩基cに、329番目の塩基aが塩基gに、348番目の塩基cが塩基tに、349番目の塩基aが塩基gに、370番目の塩基tが塩基cに、414番目の塩基tが塩基cに、434番目の塩基tが塩基cに、436番目の塩基tが塩基cに、449番目の塩基aが塩基gに、484番目の塩基gが塩基aに、535番目の塩基cが塩基tに、653番目の塩基tが塩基cに、701番目の塩基aが塩基gに、782番目の塩基aが塩基gに、824番目の塩基aが塩基gに、877番目の塩基tが塩基cに、948番目の塩基tが塩基cに、989番目の塩基aが塩基gに、1025番目の塩基tが塩基cに、1094番目の塩基tが塩基cに、1163番目の塩基aが塩基gに、1208番目の塩基gが塩基aに、1258番目の塩基aが塩基gに、1300番目の塩基cが塩基tに、1302番目の塩基cが塩基tに、1316番目の塩基tが塩基cに、1366番目の塩基cが塩基tに、1369番目の塩基tが塩基cに、1455番目の塩基aが塩基gに置換された塩基配列からなるDNAを含む遺伝子が挙げられる。タンパク質(b)をコードする遺伝子には、上記置換箇所のうち1箇所が置換された遺伝子、及び任意の2箇所以上が置換された遺伝子のいずれもが含まれる。
タンパク質(b)をコードする遺伝子は、例えば、タンパク質(a)をコードする遺伝子に、部位特異的変異誘発法等の公知の方法を用いて人為的に変異を導入することにより得られる。変異の導入は、例えば、変異導入用キット、例えば、Mutant−K(TAKARA社製)、Mutant−G(TAKARA社製)、TAKARA社のLA PCR in vitro Mutagenesisシリーズキットを用いて行うことができる。また、塩基配列が既に決定されている遺伝子については、その塩基配列に従って化学合成することにより得ることができる。
タンパク質(a)及び(b)は、例えば、以下の工程に従って、それぞれのタンパク質をコードする遺伝子を宿主細胞中で発現させることにより製造できる。
〔組換えベクター及び形質転換体の作製〕
組換えベクターを作製する際には、目的とするタンパク質のコード領域を含む適当な長さのDNA断片を調製する。また、目的とするタンパク質のコード領域の塩基配列を、宿主細胞における発現に最適なコドンとなるように、塩基を置換したDNAを調製する。
このDNA断片を適当な発現ベクターのプロモーターの下流に挿入することにより組換えベクターを作製し、該組換えベクターを適当な宿主細胞に導入することにより、目的とするタンパク質を生産し得る形質転換体が得られる。上記DNA断片は、その機能が発揮されるようにベクターに組み込まれることが必要であり、ベクターは、プロモーターの他、エンハンサー等のシスエレメント、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、選択マーカー(例えば、ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子)、リボソーム結合配列(SD配列)等を含有できる。
発現ベクターとしては、宿主細胞において自立複製が可能なものであれば特に限定されず、例えば、プラスミドベクター、ファージベクター、ウイルスベクター等を使用できる。プラスミドベクターとしては、例えば、大腸菌由来のプラスミド(例えば、pRSET、pBR322、pBR325、pUC118、pUC119、pUC18、pUC19)、枯草菌由来のプラスミド(例えば、pUB110、pTP5)、酵母由来のプラスミド(例えば、YEp13、YEp24、YCp50)が挙げられ、ファージベクターとしては、例えば、λファージ(例えば、Charon4A、Charon21A、EMBL3、EMBL4、λgt10、λgt11、λZAP)が挙げられ、ウイルスベクターとしては、例えば、レトロウイルス、ワクシニアウイルス等の動物ウイルス、バキュロウイルス等の昆虫ウイルスが挙げられる。
宿主細胞としては、目的とする遺伝子を発現し得る限り、原核細胞、酵母、動物細胞、昆虫細胞、植物細胞等のいずれを使用してもよい。また、動物個体、植物個体、カイコ虫体等を使用してもよい。
細菌を宿主細胞とする場合、例えば、エッシェリヒア・コリ(Escherichia coli)等のエシェリヒア属、バチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)等のバチルス属、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)等のシュードモナス属、リゾビウム・メリロティ(Rhizobium meliloti)等のリゾビウム属に属する細菌を宿主細胞として使用できる。具体的には、Escherichia coli XL1−Blue、Escherichia coli XL2−Blue、Escherichia coli DH1、Escherichia coli K12、Escherichia coli JM109、Escherichia coli HB101等の大腸菌や、Bacillus subtilis MI 114、Bacillus subtilis 207−21等の枯草菌を宿主細胞として使用できる。この場合のプロモーターは、大腸菌等の細菌中で発現できるものであれば特に限定されず、例えば、trpプロモーター、lacプロモーター、Pプロモーター、Pプロモーター等の大腸菌やファージ等に由来するプロモーターを使用できる。また、tacプロモーター、lacT7プロモーター、letIプロモーターのように人為的に設計改変されたプロモーターも使用できる。
細菌への組換えベクターの導入方法としては、細菌にDNAを導入し得る方法であれば特に限定されず、例えば、カルシウムイオンを用いる方法、エレクトロポレーション法等を使用できる。
酵母を宿主細胞とする場合、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomycescerevisiae)、シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)、ピヒア・パストリス(Pichia pastoris)等を宿主細胞として使用できる。この場合のプロモーターは、酵母中で発現できるものであれば特に限定されず、例えば、gal1プロモーター、gal10プロモーター、ヒートショックタンパク質プロモーター、MFα1プロモーター、PHO5プロモーター、PGKプロモーター、GAPプロモーター、ADHプロモーター、AOX1プロモーター等を使用できる。
酵母への組換えベクターの導入方法は、酵母にDNAを導入し得る方法であれば特に限定されず、例えば、エレクトロポレーション法、スフェロプラスト法、酢酸リチウム法等を使用できる。
動物細胞を宿主細胞とする場合、サル細胞COS−7、Vero、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞)、マウスL細胞、ラットGH3、ヒトFL細胞等を宿主細胞として使用できる。この場合のプロモーターは、動物細胞中で発現できるものであれば特に限定されず、例えば、SRαプロモーター、SV40プロモーター、LTR(Long Terminal Repeat)プロモーター、CMVプロモーター、ヒトサイトメガロウイルスの初期遺伝子プロモーター等を使用できる。
動物細胞への組換えベクターの導入方法は、動物細胞にDNAを導入し得る方法であれば特に限定されず、例えば、エレクトロポレーション法、リン酸カルシウム法、リポフェクション法等を使用できる。
昆虫細胞を宿主とする場合には、Spodoptera frugiperdaの卵巣細胞、Trichoplusia niの卵巣細胞、カイコ卵巣由来の培養細胞等を宿主細胞として使用できる。Spodoptera frugiperdaの卵巣細胞としてはSf9、Sf21等、Trichoplusia niの卵巣細胞としてはHigh 5、BTI−TN−5B1−4(インビトロジェン社製)等、カイコ卵巣由来の培養細胞としてはBombyx mori N4等が挙げられる。
昆虫細胞への組換えベクターの導入方法は、昆虫細胞にDNAを導入し得る限り特に限定されず、例えば、リン酸カルシウム法、リポフェクション法、エレクトロポレーション法等を使用できる。
〔形質転換体の培養〕
目的とするタンパク質をコードするDNAを組み込んだ組換えベクターを導入した形質転換体を通常の培養方法に従って培養する。形質転換体の培養は、宿主細胞の培養に用いられる通常の方法に従って行うことができる。
大腸菌や酵母等の微生物を宿主細胞として得られた形質転換体を培養する培地としては、該微生物が資化し得る炭素源、窒素源、無機塩類等を含有し、形質転換体の培養を効率的に行える培地であれば天然培地、合成培地のいずれを使用してもよい。
炭素源としては、グルコース、フラクトース、スクロース、デンプン等の炭水化物、酢酸、プロピオン酸等の有機酸、エタノール、プロパノール等のアルコール類を使用できる。窒素源としては、アンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機酸又は有機酸のアンモニウム塩、ペプトン、肉エキス、酵母エキス、コーンスチープリカー、カゼイン加水分解物等を使用できる。無機塩としては、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸銅、炭酸カルシウム等を使用できる。
大腸菌や酵母等の微生物を宿主細胞として得られた形質転換体の培養は、振盪培養又は通気攪拌培養等の好気的条件下で行う。培養温度は通常25〜37℃、培養時間は通常12〜48時間であり、培養期間中はpHを6〜8に保持する。pHの調整は、無機酸、有機酸、アルカリ溶液、尿素、炭酸カルシウム、アンモニア等を用いて行うことができる。また、培養の際、必要に応じてアンピシリン、テトラサイクリン等の抗生物質を培地に添加してもよい。
プロモーターとして誘導性のプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときには、必要に応じてインデューサーを培地に添加してもよい。例えば、lacプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときにはイソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド等を、trpプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときにはインドールアクリル酸等を培地に添加してもよい。
動物細胞を宿主細胞として得られた形質転換体を培養する培地としては、一般に使用されているRPMI1640培地、EagleのMEM培地、DMEM培地、Ham F12培地、Ham F12K培地又はこれら培地に牛胎児血清等を添加した培地等を使用できる。形質転換体の培養は、通常5%CO存在下、37℃で3〜10日間行う。また、培養の際、必要に応じてカナマイシン、ペニシリン、ストレプトマイシン等の抗生物質を培地に添加してもよい。
昆虫細胞を宿主細胞として得られた形質転換体を培養する培地としては、一般に使用されているTNM−FH培地(ファーミンジェン社製)、Sf−900 II SFM培地(Gibco BRL社製)、ExCell400、ExCell405(JRHバイオサイエンシーズ社製)等を使用できる形質転換体の培養は、通常27℃で3〜10日間行う。また、培養の際、必要に応じてゲンタマイシン等の抗生物質を培地に添加してもよい。
目的とするタンパク質は、分泌タンパク質又は融合タンパク質として発現させることもできる。融合させるタンパク質としては、例えば、β−ガラクトシダーゼ、プロテインA、プロテインAのIgG結合領域、クロラムフェニコール・アセチルトランスフェラーゼ、ポリ(Arg)、ポリ(Glu)、プロテインG、マルトース結合タンパク質、グルタチオンS−トランスフェラーゼ、ポリヒスチジン鎖(His−tag)、Sペプチド、DNA結合タンパク質ドメイン、Tac抗原、チオレドキシン、グリーン・フルオレッセント・プロテイン等が挙げられる。
〔タンパク質の単離・精製〕
形質転換体の培養物より目的とするタンパク質を採取することにより、目的とするタンパク質が得られる。ここで、「培養物」には、培養上清、培養細胞、培養菌体、細胞又は菌体の破砕物のいずれもが含まれる。
目的とするタンパク質が形質転換体の細胞内に蓄積される場合には、培養物を遠心分離することにより、培養物中の細胞を集め、該細胞を洗浄した後に細胞を破砕して、目的とするタンパク質を抽出する。目的とするタンパク質が形質転換体の細胞外に分泌される場合には、培養上清をそのまま使用するか、遠心分離等により培養上清から細胞又は菌体を除去する。
こうして得られるタンパク質(a)又は(b)は、溶媒抽出法、硫安等による塩析法脱塩法、有機溶媒による沈殿法、ジエチルアミノエチル(DEAE)−セファロース、イオン交換クロマトグラフィー法、疎水性クロマトグラフィー法、ゲルろ過法、アフィニティークロマトグラフィー法等により精製できる。
タンパク質(a)又は(b)は、そのアミノ酸配列に基づいて、Fmoc法(フルオレニルメチルオキシカルボニル法)、tBoc法(t−ブチルオキシカルボニル法)等の化学合成法によっても製造できる。この際、市販のペプチド合成機を使用できる。
本発明の抗体又はその断片は、タンパク質(a)又は(b)に反応し得る抗体又はその断片である。ここで、「抗体」には、モノクローナル抗体及びポリクローナル抗体のいずれもが含まれ、「モノクローナル抗体及びポリクローナル抗体」には全てのクラスのモノクローナル抗体及びポリクローナル抗体が含まれる。また、「抗体」には、ウサギやマウス等の免疫動物にタンパク質(a)又は(b)のタンパク質を免疫して得られる抗血清、ヒト抗体、遺伝子組換えによって得られるヒト型化抗体も含まれる。また、「抗体の断片」には、Fab断片、F(ab)’断片、単鎖抗体(scFv)等が含まれる。
本発明の抗体又はその断片は、タンパク質(a)又は(b)を免疫用抗原として利用することより作製できる。免疫用抗原としては、例えば、(i)タンパク質(a)又は(b)を発現している細胞又は組織の破砕物又はその精製物、(ii)遺伝子組換え技術を用いて、タンパク質(a)又は(b)をコードする遺伝子を大腸菌、昆虫細胞又は動物細胞等の宿主に導入して発現させた組換えタンパク質、(iii)化学合成したペプチド等を使用できる。
ポリクローナル抗体の作製にあたっては、免疫用抗原を用いて、ラット、マウス、モルモット、ウサギ、ヒツジ、ウマ、ウシ等の哺乳動物を免疫する。免疫動物は、抗体を容易に作製できることからマウスを利用することが好ましい。免疫の際には、抗体産生誘導する為に、フロイント完全アジュバント等の免疫助剤を用いてエマルジョン化した後、複数回の免疫することが好ましい。免疫助剤としては、フロイント完全アジュバント(FCA)の他、フロイント不完全アジュバント(FIA)、水酸化アルミニウムゲル等を利用できる。哺乳動物1匹当たりの抗原の投与量は、哺乳動物の種類に応じて適宜設定できるが、マウスの場合には通常50〜500μgである。投与部位は、例えば、静脈内、皮下、腹腔内等である。免疫の間隔は、通常、数日から数週間間隔、好ましくは4日〜3週間間隔で、合計2〜8回、好ましくは2〜5回免疫を行う。そして、最終免疫日から3〜10日後に、タンパク質(a)又は(b)に対する抗体力価を測定し、抗体力価が上昇した後に採血し、抗血清を得る。抗体力価の測定は、酵素免疫測定法(ELISA)、放射性免疫測定法(RIA)等により行うことができる。
抗血清から抗体の精製が必要とされる場合は、硫酸アンモニウムによる塩析、ゲルクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等の公知の方法を適宜選択して又はこれらを組み合わせて利用できる。
モノクローナル抗体の作製にあたっては、ポリクローナル抗体の場合と同様に免疫用抗原を用いて哺乳動物を免疫し、最終免疫日から2〜5日後に抗体産生細胞を採取する。抗体産生細胞としては、例えば、脾臓細胞、リンパ節細胞、胸腺細胞、末梢血細胞等が挙げられるが、脾臓細胞が一般的に利用される。
次いで、ハイブリドーマを得るために、抗体産生細胞とミエローマ細胞との細胞融合を行う。抗体産生細胞と融合させるミエローマ細胞としては、ヒト、マウス等の哺乳動物由来の細胞であって一般に入手可能な株化細胞を利用できる。利用する細胞株としては、薬剤選択性を有し、未融合の状態では選択培地(例えばHAT培地)で生存できず、抗体産生細胞と融合した状態でのみ生存できる性質を有するものが好ましい。ミエローマ細胞の具体例としては、P3X63−Ag.8.U1(P3U1)、P3/NSI/1−Ag4−1、Sp2/0−Ag14等のマウスミエローマ細胞株が挙げられる。
細胞融合は、血清を含まないDMEM、RPMI−1640培地等の動物細胞培養用培地中に、抗体産生細胞とミエローマ細胞とを所定の割合(例えば1:1〜1:10)で混合し、ポリエチレングリコール等の細胞融合促進剤の存在下で、又は電気パルス処理(例えばエレクトロポレーション)により融合反応を行う。
細胞融合処理後、選択培地を用いて培養し、目的とするハイブリドーマを選別する。次いで、増殖したハイブリドーマの培養上清中に、目的とする抗体が存在するか否かをスクリーニングする。ハイブリドーマのスクリーニングは、通常の方法に従えばよく、特に限定されるものではない。例えば、ハイブリドーマとして生育したウエルに含まれる培養上清の一部を採集し、酵素免疫測定法(ELISA)、放射性免疫測定法(RIA)等によってスクリーニングできる。
ハイブリドーマのクローニングは、例えば、限界希釈法、軟寒天法、フィブリンゲル法、蛍光励起セルソーター法等により行うことができ、最終的にモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを取得する。
取得したハイブリドーマからモノクローナル抗体を採取する方法としては、通常の細胞培養法等を利用することができる。細胞培養法においては、例えばハイブリドーマを10〜20%牛胎児血清含有RPMI−1640培地、MEM培地等の動物細胞培養培地中、通常の培養条件(例えば37℃,5%CO濃度)で3〜10日間培養することにより、その培養上清からモノクローナル抗体を取得することができる。また、ハイブリドーマをマウス等の腹腔内に移植し、10〜14日後に腹水を採取し、当該腹水からモノクローナル抗体を取得することもできる。
モノクローナル抗体の精製が必要とされる場合は、硫酸アンモニウムによる塩析、ゲルクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等の公知の方法を適宜選択して又はこれらを組み合わせて利用できる。
モノクローナル抗体をヒトに投与する目的(抗体治療)で使用する場合には、免疫原性を低下させるため、ヒト抗体又はヒト型化抗体を使用することが好ましい。ヒト抗体又はヒト型化抗体は、例えば、免疫動物としてヒト抗体遺伝子を導入したマウス等を用いてハイブリドーマを作製することにより、また、ファージ上に抗体を提示したライブラリーを用いることにより取得できる。具体的には、ヒト抗体遺伝子のレパートリーを有するトランスジェニック動物に、抗原となるタンパク質、タンパク質発現細胞又はその溶解物を免疫して抗体産生細胞を取得し、これをミエローマ細胞と融合させたハイブリドーマを用いて目的のタンパク質に対するヒト抗体を取得できる(国際公開番号WO92−03918、WO93−2227、WO94−02602、WO96−33735及びWO96−34096参照)。また、複数の異なるヒトscFvをファージ上に提示させた抗体ライブラリーから、抗原となるタンパク質、タンパク質発現細胞又はその溶解物に結合する抗体を提示しているファージを選り分けることで、目的のタンパク質に結合するscFvを選択できる(Griffiths.等,EMBO J.12,725−734,1993)。
本発明の診断方法は、被験動物から採取した検体におけるタンパク質(a)又は(b)をコードする遺伝子の発現レベルを指標して、被験動物が、当該遺伝子の発現亢進が関与する疾患に罹患しているか否かを診断する工程を含む。タンパク質(a)又は(b)をコードする遺伝子は、正常細胞又は正常組織では発現亢進せず、異常細胞又は異常組織でのみ発現亢進しているので、当該遺伝子の発現レベルを、当該遺伝子の発現亢進が関与する疾患の診断の指標とすることができる。
被験動物は特に限定されるものではなく、例えば、ヒト、サル、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、ブタ、ウサギ、イヌ、ネコ、ラット、マウス等の哺乳動物が挙げられる。また、被験動物から採取する検体は特に限定されず、例えば、診断対象となる組織又は器官の細胞の他、血液、血清等を利用できる。診断対象となる組織又は器官は特に限定されるものではなく、例えば、脳、脳下垂体、脊髄、唾液腺、胸腺、甲状腺、肺、乳房、皮膚、骨格筋、心臓、肝臓、脾臓、副腎、膵臓、胃、小腸、大腸、直腸、膀胱、前立腺、睾丸、卵巣、胎盤、子宮、骨髄、末梢単核球等が挙げられる。
「タンパク質(a)又は(b)をコードする遺伝子の発現レベル」には、タンパク質(a)又は(b)をコードする遺伝子のmRNAへの転写レベル及びタンパク質(a)又は(b)への翻訳レベルが含まれる。したがって、検体におけるタンパク質(a)又は(b)をコードする遺伝子の発現レベルは、検体におけるタンパク質(a)又は(b)をコードするmRNAの存在量、あるいは、検体におけるタンパク質(a)又は(b)の存在量に基づいて測定できる。
検体におけるタンパク質(a)又は(b)をコードするmRNAの存在量の測定にあたっては、公知の遺伝子解析技術、例えば、ハイブリダイゼーション技術(例えば、ノーザンハイブリダイゼーション法、ドットブロット法、DNAマイクロアレイ法等)、遺伝子増幅技術(例えば、RT−PCR等)等を利用できる。
ハイブリダイゼーション技術を利用する際には、タンパク質(a)又は(b)をコードする核酸にハイブリダイズし得るオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドをプローブとして利用でき、遺伝子増幅技術を利用する際には、当該オリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドをプライマーとして利用できる。
「タンパク質(a)又は(b)をコードする核酸」にはDNA及びRNAの両者が含まれ、例えば、mRNA、cDNA、cRNA等が含まれる。オリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドを構成するヌクレオチドは、デオキシリボヌクレオチド及びリボヌクレオチドのいずれであってもよい。オリゴヌクレオチドの塩基長は特に限定されないが、通常15〜100塩基、好ましくは18〜30塩基である。また、ポリヌクレオチドの塩基長は特に限定されないが、通常50〜1000塩基、好ましくは200〜800塩基である。
タンパク質(a)又は(b)をコードする核酸にハイブリダイズし得るオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドは、タンパク質(a)又は(b)をコードする核酸に特異的にハイブリダイズし得ることが好ましい。「特異的にハイブリダイズし得る」とは、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得ることを意味し、「ストリンジェントな条件」としては、例えば、42℃、2×SSC及び0.1%SDSの条件、好ましくは65℃、0.1×SSC及び0.1%SDSの条件が挙げられる。
タンパク質(a)又は(b)をコードする核酸にハイブリダイズし得るオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドの塩基配列は、タンパク質(a)又は(b)をコードする核酸の塩基配列に基づいて設計できる。オリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドは、例えば、タンパク質(a)又は(b)をコードする核酸のCDS領域にハイブリダイズし得るように、CDS領域の5’末端側又は3’末端側の領域にハイブリダイズし得るように、あるいは、CDS領域からその5’末端側又は3’末端側の領域にわたる領域にハイブリダイズし得るように設計される。プライマーの5’末端側には制限酵素認識配列、タグ等を付加でき、プライマー及びプローブには、蛍光色素、ラジオアイソトープ等の標識を付加できる。
検体におけるタンパク質(a)又は(b)をコードするmRNAの存在量の具体的測定方法について、RT−PCRを利用する場合を例にして説明する。被験動物から採取した検体から全RNAを抽出し、抽出した全RNAからcDNAを合成した後、合成したcDNAを鋳型とし、タンパク質(a)又は(b)をコードするcDNAにハイブリダイズし得るプライマーを用いてPCRを行い、PCR増幅断片を定量することによって、タンパク質(a)又は(b)をコードするmRNAの存在量を測定できる。この際、PCRは、PCR増幅断片生成量が初期鋳型cDNA量を反映するような条件(例えば、PCR増幅断片が指数関数的に増加するPCRサイクル数)で行う。
PCR増幅断片の定量方法は特に限定されるものではなく、PCR増幅断片の定量には、例えば、ラジオアイソトープ(RI)を用いた定量方法、蛍光色素を用いた定量方法等を利用できる。
RIを用いた定量方法としては、例えば、(i)反応液にRI標識したヌクレオチド(例えば32P標識されたdCTP等)を基質として加えておき、PCR増幅断片に取り込ませてPCR増幅断片をRI標識し、PCR増幅断片を電気泳動等で分離した後、放射活性を測定してPCR増幅断片を定量する方法、(ii)RI標識したプライマーを用いることによりPCR増幅断片をRI標識し、PCR増幅断片を電気泳動等で分離した後、放射活性を測定してPCR増幅断片を定量する方法、(iii)PCR増幅断片を電気泳動した後、メンブランにブロッティングし、RI標識したプローブをハイブリダイズさせ、放射活性を測定してPCR増幅断片を定量する方法等が挙げられる。放射活性は、例えば、液体シンチレーションカウンター、X線フィルム、イメージングプレート等を用いて測定できる。
蛍光色素を用いた定量方法としては、(i)二本鎖DNAにインターカレートする蛍光色素(例えば、エチジウムブロマイド(EtBr)、SYBR GreenI、PicoGreen等)を用いてPCR増幅断片を染色し、励起光の照射によって発せられる蛍光強度を測定してPCR増幅断片を定量する方法、(ii)蛍光色素で標識したプライマーを用いることによりPCR増幅断片を蛍光色素で標識し、PCR増幅断片を電気泳動等で分離した後、蛍光強度を測定してPCR増幅断片を定量する方法等が挙げられる。蛍光強度は、例えば、CCDカメラ、蛍光スキャナー、分光蛍光光度計等を用いて測定できる。
検体におけるタンパク質(a)又は(b)の存在量の測定にあたっては、公知のタンパク質解析技術、例えば、タンパク質(a)又は(b)に反応し得る抗体又はその断片を利用したウェスタンブロッティング法、免疫沈降法、ELISA、組織免疫染色法等を利用できる。
タンパク質(a)又は(b)に反応し得る抗体又はその断片を用いて、検体におけるタンパク質(a)又は(b)の存在量を測定する際には、例えば、放射能免疫測定法(RIA)、酵素免疫測定法(EIA)、化学発光測定法(CLIA)、蛍光免疫測定法(FIA)、組織免疫染色法等を利用できる。具体的には、物理吸着や化学結合等により抗体を結合させた固相担体(例えば、イムノプレート、ラテックス粒子等)を用いて、検体中のタンパク質(a)又は(b)を捕捉した後、捕捉されたタンパク質(a)又は(b)を、固相担体に固定化した抗体とはタンパク質(a)又は(b)に対する抗原認識部位が異なる標識化抗体(例えば、ペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ等の酵素、フロレッセンス、ウンベリフェロン等の蛍光物質等で標識した抗体)を用いて定量できる。
また、検体におけるタンパク質(a)又は(b)の存在量の測定は、検体におけるタンパク質(a)又は(b)の活性を測定することによって行うこともできる。タンパク質(a)又は(b)の活性は、例えば、タンパク質(a)又は(b)に反応し得る抗体又はその断片を利用したウェスタンブロッティング法、ELISA法等の公知の方法によって測定できる。
タンパク質(a)又は(b)をコードする遺伝子の発現レベルの測定値は、発現レベルが大きく変動しないタンパク質(例えば、β−アクチン、GAPDH)をコードする遺伝子の発現レベルの測定値に基づいて補正することが好ましい。
本発明の診断方法においては、被験動物から採取した検体におけるタンパク質(a)又は(b)をコードする遺伝子の発現レベルが、健常動物から採取した検体におけるタンパク質(a)又は(b)をコードする遺伝子の発現レベルよりも亢進しているときに、被験動物が、当該遺伝子の発現亢進が関与する疾患に罹患していると診断できる。
被験動物と健常動物との間で、タンパク質(a)又は(b)をコードする遺伝子の発現レベルを比較する際には、検体として同一種類の細胞又は組織(器官を含む)を使用する。また、被験動物と健常動物との間で、タンパク質(a)又は(b)をコードする遺伝子の発現レベルを比較する際には、複数の健常動物(健常動物群)におけるタンパク質(a)又は(b)をコードする遺伝子の発現レベルを定量し、その値の分布から正常範囲を設定して、被験動物におけるタンパク質(a)又は(b)をコードする遺伝子の発現レベルが正常範囲以上になるか正常範囲以下になるかを判別することが好ましい。このとき、被験動物の検体における遺伝子の発現レベルが正常範囲以上であるときに、被験動物が疾患に罹患していると診断できる。
本発明の診断方法は、タンパク質(a)又は(b)をコードする遺伝子の発現亢進が関与する疾患について広く利用でき、診断可能な疾患の種類は特に限定されるものではない。ここで、「遺伝子の発現亢進が関与する」には、遺伝子が発現亢進した結果、疾患が発症する場合、及び疾患が発症した結果、遺伝子が発現亢進する場合の両者が含まれる。
本発明の診断方法により診断可能な疾患としては、例えば、肺癌が挙げられ、肺癌としては、例えば、肺腺癌、肺扁平上皮癌、大細胞肺癌、小細胞肺癌等が挙げられる。本発明の診断方法は、これらの肺癌のうち特に肺腺癌の診断に有用である。また、大腸癌、胃癌等からの転移性の肺癌組織と原発性肺癌組織の遺伝子発現プロファイルが異なる傾向を示すこと(Arindam Bhattacharjeeら、PNAS,Vol.98,13790−13795,2001)から、本発明の診断方法は、原発性肺癌の診断に特に有用である。肺癌の診断の際には、通常、検体として被験動物から採取した肺細胞、肺組織、血液、血清等を使用するが、肺癌細胞が転移した組織や器官においてタンパク質(a)又は(b)をコードする遺伝子の発現亢進が生じている場合もあるので、肺以外の組織や器官を使用することによっても肺癌の診断を行うことができる。但し、肺以外の組織や器官を使用する場合には、タンパク質(a)又は(b)をコードする遺伝子の発現亢進が、肺以外の組織や器官の独自の異常によるものか、肺癌細胞の転移によるものか、区別できないので、被験動物が罹患している可能性がある疾患に肺癌が含まれるか否かを診断できるに留まる。
本発明の診断用キットは、タンパク質(a)又は(b)をコードする核酸にハイブリダイズし得るオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチド、あるいは、タンパク質(a)又は(b)に反応し得る抗体又はその断片を含む。これらのオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドあるいは抗体又はその断片は、被験動物から採取した検体におけるタンパク質(a)又は(b)をコードする遺伝子の発現レベルを測定するための試薬として本発明の診断用キットに含まれ、本発明の診断用キットを利用すれば、被験動物が、当該遺伝子の発現亢進が関与する疾患に罹患しているか否かを診断できる。
本発明の診断用キットは、上記オリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドあるいは上記抗体又はその断片を含む限り、いかなる形態であってもよく、任意の試薬、器具等を含むことができる。
本発明の診断用キットが、上記オリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドを含む場合には、PCRに必要な試薬(例えばHO、バッファー、MgCl、dNTPミックス、Taqポリメラーゼ等)、PCR増幅断片の定量に必要な試薬(例えばRI、蛍光色素等)、DNAマイクロアレイ、DNAチップ等の1種類又は2種類以上を含むことができる。
また、本発明の診断用キットが、上記抗体又はその断片を含む場合には、上記抗体又はその断片を固定化するための固相担体(例えば、イムノプレート、ラテックス粒子等)、抗γ−グログリン抗体(二次抗体)、抗体(二次抗体を含む)又はその断片の標識(例えば、酵素、蛍光物質等)、各種試薬(例えば、酵素基質、緩衝液、希釈液等)等の1種類又は2種類以上を含むことができる。
本発明のスクリーニング方法は、タンパク質(a)又は(b)をコードする遺伝子の発現レベルが亢進している細胞又は組織(器官を含む)におけるタンパク質(a)又は(b)をコードする遺伝子の発現レベル低減効果を指標として、当該遺伝子の発現亢進が関与する疾患に対する候補物質の予防・治療効果を判定する工程を含む。本発明のスクリーニング方法においては、タンパク質(a)又は(b)をコードする遺伝子の発現レベル低減効果を有する物質を選択することにより、当該遺伝子の発現亢進が関与する疾患の予防・治療物質をスクリーニングできる。
本発明のスクリーニング方法は、タンパク質(a)又は(b)をコードする遺伝子の発現亢進が関与する疾患の予防・治療物質のスクリーニングに広くに利用でき、対象となる疾患の種類は特に限定されるものではない。本発明のスクリーニング方法の対象となる疾患としては、例えば、肺癌が挙げられ、肺癌としては、例えば、肺腺癌、肺扁平上皮癌、大細胞肺癌、小細胞肺癌等が挙げられる。本発明のスクリーニング方法は、これらの肺癌のうち特に肺腺癌に対する予防・治療効果を有する物質のスクリーニングに有用である。
本発明のスクリーニング方法において、「タンパク質(a)又は(b)をコードする遺伝子の発現レベル低減効果」には、タンパク質(a)又は(b)をコードする遺伝子の転写・翻訳、タンパク質(a)又は(b)の活性発現等のいずれのステップに対する効果も含まれる。
本発明のスクリーニング方法は、in vivo及びin vitroのいずれにおいても行うことができる。
in vivoにおいては、例えば、タンパク質(a)又は(b)をコードする遺伝子の発現レベルが亢進しているモデル動物に候補物質を投与した後、モデル動物から検体(候補物質の投与前に、当該遺伝子の発現レベルが亢進していた細胞又は組織(器官を含む))を採取し、当該検体における当該遺伝子の発現レベルを測定し、候補物質を投与した後の当該遺伝子の発現レベル低減効果を指標として、当該遺伝子の発現亢進が関与する疾患に対する候補物質の予防・治療効果を判定し、この結果に基づいて当該疾患の予防・治療物質をスクリーニングできる。
in vivoのスクリーニング方法において利用されるモデル動物としては、例えば、ヒト、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、ブタ、ウサギ、イヌ、ネコ、ラット、マウス等の哺乳動物が挙げられる。また、候補物質を投与するモデル動物としては、タンパク質(a)又は(b)をコードする遺伝子の発現レベルを人為的に亢進させたトランスジェニック動物を利用することもできる。このようなトランスジェニック動物は、例えば、(i)タンパク質(a)又は(b)をコードする遺伝子と卵とを混合してリン酸カルシウムで処理する方法、(ii)位相差顕微鏡下で前核期卵の核にタンパク質(a)又は(b)をコードする遺伝子を直接導入する方法(マイクロインジェクション法)、(iii)胚性幹細胞(ES細胞)を用いる方法等の公知の方法によって得ることができる。なお、トランスジェニック動物におけるタンパク質(a)又は(b)をコードする遺伝子の発現レベルの亢進には、当該遺伝子が外来遺伝子として導入されて強制発現している状態、宿主が固有に有する当該遺伝子の発現レベルが亢進している状態、タンパク質(a)又は(b)の分解が抑制された状態のいずれもが含まれる。
in vitroにおいては、例えば、タンパク質(a)又は(b)をコードする遺伝子の発現レベルが亢進している細胞又は組織(器官を含む)に候補物質を接触させた後、当該細胞又は組織における当該遺伝子の発現レベルを測定し、候補物質を接触させた後の当該遺伝子の発現レベル低減効果を指標として、当該遺伝子の発現亢進が関与する疾患に対する候補物質の予防・治療効果を判定し、この結果に基づいて当該疾患の予防・治療物質をスクリーニングできる。
in vitroのスクリーニング方法において利用される細胞としては、例えば、ヒト、サル、マウス、ラット等由来の細胞株を利用できる。また、in vitroのスクリーニング方法においては、タンパク質(a)又は(b)をコードする遺伝子の発現レベルを人為的に亢進させた細胞を利用することもできる。このような細胞は、タンパク質(a)又は(b)をコードする遺伝子を適当な発現ベクターに挿入し、当該ベクターを適当な宿主細胞に導入することにより得ることができる。
本発明のスクリーニング用キットは、タンパク質(a)又は(b)をコードする核酸にハイブリダイズし得るオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチド、あるいは、タンパク質(a)又は(b)に反応し得る抗体又はその断片を含む。これらのオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドあるいは抗体又はその断片は、被験動物から採取した検体におけるタンパク質(a)又は(b)をコードする遺伝子の発現レベルを測定するための試薬として本発明のスクリーニング用キットに含まれ、本発明のスクリーニング用キットを利用すれば、当該遺伝子の発現亢進が関与する疾患の予防・治療物質をスクリーニングできる。
本発明のスクリーニング用キットは、上記オリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドあるいは上記抗体又はその断片を含む限り、いかなる形態であってもよく、上記診断用キットにおいて例示した各種試薬、器具等の他、候補物質、候補物質合成キット、モデル動物の飼育キット等を含むことができる。
以下の実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はそれに限定されるものではない。なお、大腸菌等を用いた遺伝子操作は基本的にモレキュラー・クローニング(Cold spring harbor lab.Press 1989)に記載されている方法に従って行った。
〔実施例1〕ヒト肺腺癌組織において特異的に発現する遺伝子の同定
肺腺癌に特異的に発現する遺伝子の同定を行うために、ヒト肺腺癌摘出組織におけるmRNAの発現解析をGeneChip(Gene ChipTM HG−133A,B Target;Affymetryx社製)を用いて実施した。
(1)ヒト肺腺癌組織及びヒト正常肺組織における遺伝子発現解析
まず、各種分化度・ステージを含む肺腺癌摘出組織(12例)の腫瘍部位及び正常肺(1例)(表1参照)から、ISOGEN(日本ジーン社)を用いて添付の方法に従い全RNAを調製した。続いて、肺腺癌及び正常肺におけるmRNAの発現を肺腺癌のGeneChipTM HG−U133A,B(Affymetryx社製)を用いて解析した。すなわち、腫瘍部位に関しては、12例から調製した全RNAをそれぞれ等量ずつ混合したもの5μgを、また対照として1例の正常肺から調製した全RNA 5μgを試料として用い、Expression Analysis Technical Manual(Affymetryx社)に準じて遺伝子発現解析を行った。それぞれの解析における全遺伝子の発現スコアの平均値を100とし、各遺伝子の発現量を相対値として求めた。
その結果、図1に示すように、230349_at_u133Bのプローブと反応する肺腺癌のmRNA発現量は、正常肺のmRNA発現量の12.6倍であった。

(2)ヒト正常組織における発現解析
続いて、肺以外のヒト正常組織において、230349_at_u133Bのプローブと反応するmRNA発現量をGene chipを用い解析した。ヒト正常組織としては表1に示す各種臓器を用いた。ヒト臓器由来RNA各10ngずつを試料とし、遺伝子発現解析は上記と同様に実施した。全遺伝子の発現スコアの平均値を100とし、それに対する相対値を求めた。
その結果、図2に示すように、いずれのヒト正常組織においてもヒト正常肺と同様に低い値を示した。したがって、230349_at_u133Bのプローブと反応するmRNAは、肺腺癌組織で特異的に発現が亢進していることが明らかとなった。
〔実施例2〕全長cDNAの単離・解析
230349_at_u133Bの配列情報を基に、RACE法(Rapid amplification cDNA ends)を用いて全長のcDNAを単離した。
230349_at_u133Bのターゲット配列はヒトEST(GenBank Accession No.AA213814)であるが、このヒトEST(GenBank Accession No.AA213814)は一部塩基配列が未同定であることから、このヒトEST(GenBank Accession No.AA213814)を含むX染色体の配列情報を基に、cDNA単離に用いるPCRプライマーGSP1(配列番号3)、GSP2(配列番号4)及びGSP3(配列番号5)をそれぞれ設計し、SMARTTM RACE cDNA Amplification kit(Clontech社製)を用いてプローブのターゲット配列の5’側及び3’側のcDNAを増幅した。
上記肺腺癌組織より調製した全RNAのうち3例分を混合した約400ngを基に、キット添付の方法に従って一本鎖cDNAを合成し、続いて、PCRプライマーGSP1(配列番号3)及びGSP2(配列番号4)を用いて5’側のcDNAを増幅した。すなわち、1.25μLの一本鎖cDNAを鋳型DNAとして、5pmoleのGSP1(配列番号3)又はGSP2(配列番号4)をPCRプライマーとして用い、キット添付の方法に従ってPCR反応を行った。PCRは、初めに94℃で5秒、続いて72℃で3分のサイクルからなる反応を5サイクル行った後、引き続き94℃で5秒、70℃で10秒、そして72℃で3分のサイクルからなる反応を5サイクル行い、最後に94℃で5秒、68℃で10秒、そして72℃で3分からなる反応を25サイクル行った。
上記のPCRの結果、図3に示すように、約2000bpの主要なバンドと約2500bpのバンドが増幅された。なお、図3は、PCR産物の電気泳動結果(1%アガロース電気泳動後にエチジウムブロマイド染色)であり、図3中、Mは分子量マーカー(1kbp plus DNA Ladder(Invitrogen社製))を示す。このPCR反応による増幅産物をpGEM−Teasyベクター(Promega社製)に挿入し、常法により大腸菌DH5α(東洋紡社製)を形質転換した後、得られた形質転換体からプラスミドDNAを調製した。
初めに約2000bpのプラスミドDNAの挿入遺伝子の塩基配列を解析した結果、数個の塩基が異なる遺伝子配列が得られたため、コンセンサスであったクローンを遺伝子#15と命名し、その全長塩基配列を配列番号1に示した。遺伝子#15のオープンリーディングフレームと考えられる塩基配列は、配列番号1のうち103〜1488番目の塩基配列であり、このオープンリーディングフレームにコードされるアミノ酸配列を配列番号2に示す。そして、数塩基が異なる各クローンと遺伝子#15とを比較することで判明した各クローンの変異箇所の一覧を表2に示す。また、約2500bpの増幅産物は、5’UTRがさらに遺伝子#15から上流に伸長した塩基配列を含み、コーディング領域を含まないものであった。その5’UTR領域の塩基配列を配列番号13に示す。なお、配列番号13記載の塩基配列中、472番目までの塩基配列が5’UTRの塩基配列であり、473番目以降の塩基配列がコーディング領域の塩基配列(遺伝子#15のコーディング領域と同一の塩基配列)である。

なお、表2中の「塩基の位置」は遺伝子#15(配列番号1)の開始コドンのAを1番目としたときの番号である。また、下線を引いてあるアミノ酸は塩基配列の変化による種類の変化がないものである。
次に、プローブのターゲット配列に基に、3’側のcDNAの単離を上記と同様にSMARTTM RACE cDNA Amplification kit(Clontech社製)を用いて行った。すなわち、肺腺癌患者由来組織3例より調製した全RNAを混合したものを基に、キット添付の方法に従って一本鎖cDNAを合成した。続いて、1.25μLの一本鎖cDNAを鋳型DNAとして、5pmoleのGSP3(配列番号5)をPCRプライマーとして用い、cDNAの増幅を行った。なお、PCRは上記と同様の反応を行った。
PCRの結果、図3に示すように、約500bpのバンドの増幅が認められた。上記と同様にPCR産物をpGEM−T easyベクター(Promega社製)に挿入し、塩基配列を決定した。配列番号1記載の塩基配列のうち、GSP3配列以降の塩基配列がその領域を示す。
以上のRACE法により得られた全長cDNA配列を基に相同遺伝子の検索をBlast法により行ったところ、LOC139320(GenBank Accession No.XM_066619)が見出された。遺伝子#15の塩基配列とLOC139320の塩基配列とのアライメント結果を図4及び5に示す。図4及び5に示すように、今回単離・同定した遺伝子#15とLOC139320との間では塩基配列が完全に一致する領域が存在するものの、5’領域の配列及び中間領域の配列が異なっていた。LOC139320は、230349_at_u133Bのターゲット配列と同様のX染色体(Xq22.1)に存在し、かつ一部の塩基配列が完全に一致するものの、ヒトゲノム配列から予測された塩基配列である。
そこで、今回mRNA発現解析により肺腺癌での特異的な発現が認められたmRNAは、遺伝子#15又はLOC139320のいずれに由来するものであるかを明らかにするために、それぞれの5’末端と考えられる領域にPCRプライマーを設計し、肺腺癌組織におけるmRNAの発現の有無をPCR法により検討した。すなわち、遺伝子#15の5’転写開始領域に対するPCRプライマー(配列番号6)と、LOC139320の5’転写開始領域に対するPCRプライマー(配列番号7)、そして3’領域の共通のPCRプライマー(配列番号8)を設計し、5’RACE用の肺腺癌cDNAライブラリーを鋳型とし、上記と同条件のPCR反応を行った。その結果、図6に示すように、肺腺癌組織において、遺伝子#15に由来するDNA断片のみの増幅が認められた。
以上に示すように、肺腺癌組織において特異的に発現が亢進している新規遺伝子#15の同定に成功した。
〔実施例3〕遺伝子#15の遺伝子発現解析
遺伝子#15に由来するmRNAの発現確認を、RT−PCR法及びGeneChip(Gene ChipTM HG−133B Target;Affymetryx社製)による発現解析法により行った。
(1)肺腺癌組織における遺伝子#15の発現解析
肺腺癌組織(12例)及び正常肺組織(4例)における遺伝子#15の発現比較を行った。配列番号1の1214〜1238番目の塩基配列をセンス方向のPCRプライマー#15_RF(配列番号9)とし、配列番号1の1402〜1378番目の塩基配列をアンチセンス方向のPCRプライマー#15_RR(配列番号10)として設計した。肺腺癌組織(12例)に関してはGene chip解析時に調製した全RNAを使用し、正常肺組織(4例)(摘出肺から調製)に関しては上記と同様の方法により調製した全RNAを用いた。全RNAより逆転写酵素SuperscriptII(GIBCO BRL社製)を用いて一本鎖cDNAを合成したものをそれぞれ鋳型DNAとしてPCR反応を行い、各組織におけるmRNA発現量を比較した。
各25μLのPCR反応液は、500mM KCl,100mM Tris−HCl(pH8.3),20mM MgCl,0.1% Gelatin、各1.25mM dNTPs(dATP,dCTP,dGTP,dTTP)、1μLの一本鎖cDNA、5pmoleずつのセンスプライマー#15_RF(配列番号9)、アンチセンスプライマー#15_RR(配列番号10)、0.25μLのrecombinant Taq polymerase Mix(FG Pluthero,Rapid purification of high−activity Taq DNA polymerase、Nucl.Acids.Res.1993 21: 4850−4851.)を含むように調製した後、初めに94℃で3分間一次変性を行い、94℃で15秒、57℃で15秒、72℃で30秒からなるサイクルを30回行なった。また、個々のRNA中のヒトβ−アクチン遺伝子発現量もヒトβ−アクチンに特異的なセンスプライマー(配列番号11)及びアンチセンスプライマー(配列番号12)を用いて上記と同様に解析を行った。PCR法により増幅されたバンドは1.0%アガロースゲル電気泳動後、エチジウムブロマイド染色にて確認を行った。
その結果、図7に示すように、4例の正常肺においてはPCRによる増幅が認められなかったのに対し、肺腺癌組織においては解析した12例中10例で特異的なバンドの増幅が確認された。この結果から、遺伝子#15のmRNAは、肺腺癌組織において高頻度で発現亢進していることが確認された。
一方、肺癌などの癌組織では肺腺癌細胞以外にも浸潤リンパ球や結合組織などの組織も混在していることが知られており、いずれの細胞において遺伝子#15の発現が亢進しているかを明らかにする必要がある。そこで、初めに肺腺癌組織より癌細胞のみをマイクロダイゼクション法により単離し、上記と同様にRT−PCR法により遺伝子#15 mRNAの発現を確認した。すなわち、LM200(LCM)(オリンパス社製)を用い機器添付の方法に従って、肺腺癌組織より肺癌細胞のマイクロダイゼクションを行い、単離した癌細胞より全RNAを調製し、さらに一本鎖cDNAを合成した。続いて、上記と同様にPCRによる増幅を試みた。その結果、図8に示すようにマイクロダイゼクションした肺癌細胞においても遺伝子#15の特異的増幅バンドが検出された。
続いて、肺癌組織への浸潤リンパ球において遺伝子#15の発現が亢進しているかを明らかにするために、不活性型・活性型の各種免疫細胞より調製したcDNAを含むMultiple Tissue cDNA Panel Human Blood Fractions(Clontech社製)を鋳型DNAとして用い、上記と同様にPCRを行った。肺癌組織においては浸潤免疫細胞の約2/3がリンパ球で、そのうちの80%がTリンパ球であり、残りがBリンパ球である。また、残りの約1/3が浸潤したマクロファージと考えられ、わずかにNK細胞と樹状細胞が存在すると報告されている(Agapi Katakiら、J Lab Clin Med,Vol 140,320−328,2002)。その結果、図9に示すように、活性型、不活型いずれの単核球、リンパ球においても遺伝子#15の発現は認められなかった。以上の結果から、遺伝子#15は肺腺癌組織の肺腺癌細胞において特異的に発現亢進している可能性が示された。
(2)ヒト正常組織における遺伝子#15発現解析
ヒト正常組織における遺伝子#15の発現を上記と同様に定量的PCR法により解析した。この際、ヒト正常組織より調製した一本鎖cDNAとしてMultiple Tissue cDNA Panels Human I、II(Clontech社製)を用いた。なお、陽性対照には上記で作製した5’RACE用一本鎖cDNAを使用した。
その結果、図9に示すように、いずれのヒト正常組織において遺伝子#15の発現が認められなかった。この結果は、上記Gene chip解析における結果と一致していた。
(3)ヒト胃癌・肝細胞癌・大腸癌における遺伝子#15のmRNA発現解析
進行型かつ分化型胃癌(腸型)(3例)、C型肝炎由来中分化型肝細胞癌(3例)、C型肝炎由来低分化型肝細胞癌(3例)、そして進行型大腸癌(3例)から、上記と同様に全RNAを調製し、等量を混合した後に、上記と同様にGeneChipTM HG−U133B(Affymetryx社製)を用いて遺伝子#15の発現解析を行った。
その結果、図10に示すように、230349_at_u133Bのプローブと反応するmRNAの発現は胃癌、肝細胞癌、大腸癌のいずれにおいても認められなかった。従って、遺伝子#15は肺腺癌において特異的に発現亢進していることが明らかとなった。
以上の結果より、今回同定した遺伝子#15は肺腺癌組織において特異的かつ高頻度に発現亢進していることが明らかになり、遺伝子#15の発現をGene chip解析やRT−PCR法などの遺伝子発現解析法を用いることで肺癌、特に肺腺癌の診断に有用な遺伝子であることが示された。また、大腸癌・胃癌等からの転移により発生する転移性肺癌組織と原発性肺癌組織の遺伝子発現パターンが異なる傾向を示すことから(Bhattacharjee Aら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA.98,13790−13795,2001)、この遺伝子#15は大腸癌、胃癌由来の転移性肺癌では発現亢進していない可能性が示唆され、この遺伝子を指標とした原発性肺癌の診断の可能性が考えられた。
【産業上の利用の可能性】
本発明によって、異常細胞又は異常組織(特に肺癌細胞又は肺癌組織)で特異的に発現亢進する新規タンパク質、該タンパク質をコードする遺伝子、該遺伝子を含む組換えベクター、該組換えベクターを含む形質転換体及び上記タンパク質に対する抗体が提供される。また、本発明によって、異常細胞又は異常組織(特に肺癌細胞又は肺癌組織)で特異的に発現亢進するタンパク質をコードする遺伝子の発現レベルを指標とした、当該遺伝子の発現亢進が関与する疾患の診断方法及び診断用キットが提供される。さらに、本発明によって、異常細胞又は異常組織(特に肺癌細胞又は肺癌組織)で特異的に発現亢進するタンパク質をコードする遺伝子の発現レベル低減効果を指標とした、当該遺伝子の発現亢進が関与する疾患の予防・治療物質のスクリーニング方法及びスクリーニング用キットが提供される。
【配列表】














【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(a)又は(b)に示すタンパク質。
(a)配列番号2記載のアミノ酸配列からなるタンパク質
(b)配列番号2記載のアミノ酸配列において1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ異常細胞又は異常組織で特異的に発現亢進するタンパク質
【請求項2】
前記異常細胞又は異常組織が、肺癌細胞又は肺癌組織である請求項1記載のタンパク質。
【請求項3】
請求項1又は2記載のタンパク質をコードする遺伝子。
【請求項4】
下記(c)又は(d)に示すDNAを含む請求項3記載の遺伝子。
(c)配列番号1記載の塩基配列のうち103〜1488番目の塩基配列からなるDNA
(d)前記(c)に示すDNAと相補的なDNAにストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ異常細胞又は異常組織で特異的に発現亢進するタンパク質をコードするDNA
【請求項5】
請求項3又は4記載の遺伝子を含む組換えベクター。
【請求項6】
請求項5記載の組換えベクターを含む形質転換体。
【請求項7】
請求項1又は2記載のタンパク質に反応し得る抗体又はその断片。
【請求項8】
被験動物から採取した検体における請求項1記載のタンパク質をコードする遺伝子の発現レベルを指標として、前記被験動物が、前記遺伝子の発現亢進が関与する疾患に罹患しているか否かを診断する工程を含む、前記疾患の診断方法。
【請求項9】
前記検体における請求項1記載のタンパク質をコードするmRNAの存在量に基づいて前記発現レベルを測定する工程を含む請求項8記載の診断方法。
【請求項10】
前記検体における請求項1記載のタンパク質の存在量に基づいて前記発現レベルを測定する工程を含む請求項8記載の診断方法。
【請求項11】
前記疾患が肺癌である請求項8〜10のいずれかに記載の診断方法。
【請求項12】
請求項1記載のタンパク質をコードする核酸にハイブリダイズし得るオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドを含む、前記タンパク質をコードする遺伝子の発現亢進が関与する疾患の診断用キット。
【請求項13】
請求項1記載のタンパク質に反応し得る抗体又はその断片を含む、前記タンパク質をコードする遺伝子の発現亢進が関与する疾患の診断用キット。
【請求項14】
前記疾患が肺癌である請求項12又は13記載の診断用キット。
【請求項15】
請求項1記載のタンパク質をコードする遺伝子の発現レベルが亢進している細胞又は組織における前記遺伝子の発現レベル低減効果を指標として、前記遺伝子の発現亢進が関与する疾患に対する候補物質の予防・治療効果を判定する工程を含む、前記疾患の予防・治療物質のスクリーニング方法。
【請求項16】
前記疾患が肺癌である請求項15記載のスクリーニング方法。
【請求項17】
請求項1記載のタンパク質をコードする核酸にハイブリダイズし得るオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドを含む、前記タンパク質をコードする遺伝子の発現亢進が関与する疾患の予防・治療物質のスクリーニング用キット。
【請求項18】
請求項1記載のタンパク質に反応し得る抗体又はその断片を含む、前記タンパク質をコードする遺伝子の発現亢進が関与する疾患の予防・治療物質のスクリーニング用キット。
【請求項19】
前記疾患が肺癌である請求項17又は18記載のスクリーニング用キット。

【国際公開番号】WO2004/061103
【国際公開日】平成16年7月22日(2004.7.22)
【発行日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−564565(P2004−564565)
【国際出願番号】PCT/JP2003/017064
【国際出願日】平成15年12月26日(2003.12.26)
【出願人】(899000024)株式会社東京大学TLO (50)
【出願人】(000003311)中外製薬株式会社 (228)
【Fターム(参考)】