説明

新規テトラカルボン酸二無水物、それを使用して製造されるポリアミック酸及びイミド化重合体

【課題】より高屈折率で、透明性及び耐熱性に優れたイミド化重合体を製造するための新規なテトラカルボン酸二無水物、それを用いて製造されたポリアミック酸及びイミド化重合体を提供する。
【解決手段】下記一般式(1)で示されるテトラカルボン酸二無水物。


[式(1)中、Rはそれぞれ独立して炭素数1〜3のアルキル基を示し、aはそれぞれ独立して0〜3の整数を示し、bはそれぞれ独立して0〜4の整数を示す。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なテトラカルボン酸二無水物、並びにそれを使用して製造されるポリアミック酸及びイミド化重合体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミドは複素環や芳香環等の環状構造からなる高次構造を多数有し、高温になっても分子鎖が動き難いこと、二重結合等の高次結合を多数有し、原子間結合エネルギーが大きいこと、複素環や芳香環がポリマー分子内、ポリマー分子間で相互に作用し合いCT(Charge Transfer)錯体を形成し、凝集力が大きい等の理由から、ポリイミドの耐熱性は各種プラスチックの中でも最高位にランクされる。
【0003】
さらに、ポリイミドは耐熱性に優れるだけではなく、高強度・高弾性で機械特性にも優れ、高絶縁・低誘電で電気特性にも優れ、さらには耐薬品性、耐放射線性、難燃性にも優れている。
【0004】
近年では、感光性を有するポリイミドも開発され、超高集積半導体に、強靭で接着力の強いポリイミドは宇宙往還機に、透明性の高いポリイミドは光通信機器に、射出成型性の良いポリイミドは自動車部品を始めとする耐熱摺動部品に使用されている。
【0005】
上記のような特性を有するポリイミドを光学的用途に用いた例として、硫黄原子を含有する二酸無水物と硫黄原子を含有しないジアミンを使用したポリイミドを光導波路として利用した例(特許文献1);硫黄原子を含有しない二酸無水物と硫黄原子を含有するジアミンを使用したポリイミドを液晶配向膜として利用した例(特許文献2);特定の構造を有するポリイミドと酸化チタン粒子の混合物を高屈折率材料として利用した例(特許文献3);及び硫黄原子を含有しないポリアミック酸と酸化チタン粒子及び他の特定の化合物との混合物をポジ型感光性樹脂組成物として利用した例(特許文献4)等が知られている。
【0006】
【特許文献1】特開2004−131684号公報
【特許文献2】特開平5−263077号公報
【特許文献3】特開2001−354853号公報
【特許文献4】特開2005−208465号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、より高屈折率で、透明性及び耐熱性に優れたポリイミドを製造するための新規なテトラカルボン酸二無水物、それを用いて製造されたポリアミック酸及びポリイミドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
即ち、本発明は下記の新規なテトラカルボン酸二無水物、それとジアミンからなる新規なポリアミック酸及びイミド化重合体を提供する。
1.下記一般式(1)で示されるテトラカルボン酸二無水物。
【化6】

[式(1)中、Rはそれぞれ独立して炭素数1〜3のアルキル基を示し、aはそれぞれ独立して0〜3の整数を示し、bはそれぞれ独立して0〜4の整数を示す。]
2.下記式(1−1)で示される化合物からなる群から選択される上記1に記載のテトラカルボン酸二無水物。
【化7】

[式(1−1)中、R、a及びbは上記1で定義した通りである。]
3.上記1又は2に記載の一般式(1)で示されるテトラカルボン酸二無水物と、ジアミンを重縮合させて得られるポリアミック酸。
4.前記ジアミンが、下記一般式(2)で示される化合物である上記3に記載のポリアミック酸。
【化8】

[式(2)中、Rは芳香環、複素環及び脂環式基からなる群から選択される少なくとも1つを含む二価の有機基を示す。]
5.下記一般式(3)で示される構造を有するポリアミック酸。
【化9】

[式(3)中、Rは芳香環、複素環及び脂環式基からなる群から選択される少なくとも1つを含む二価の有機基を示し、Rはそれぞれ独立して炭素数1〜3のアルキル基を示し、aはそれぞれ独立して0〜3の整数を示し、bはそれぞれ独立して0〜4の整数を示し、mは、1〜100000の数を示す。]
6.上記3〜5のいずれかに記載のポリアミック酸をイミド化したイミド化重合体。
7.下記一般式(4)で示される構造を有するイミド化重合体。
【化10】

[式(4)中、R、R、a、b及びmは上記5で定義した通りである。]
【発明の効果】
【0009】
本発明の新規なテトラカルボン酸二無水物を用いることにより、高屈折率で、透明性及び耐熱性に優れたポリアミック酸及びイミド化重合体を提供することができる。
本発明の新規なポリアミック酸及びイミド化重合体は、特に高屈折率と、優れた透明性及び耐熱性を要求される光学的用途に好適である。
本発明では硫黄原子を導入した新規テトラカルボン酸二無水物を使用することにより、高屈折率と高耐熱性を両立できる高屈折率材料を提供することができる。
新規テトラカルボン酸二無水物と脂肪族又は脂環族ジアミンとを組み合わせることにより、高屈折率と高透明性、そして高耐熱性に優れたイミド化重合体が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の新規なテトラカルボン酸二無水物、それを用いて製造されるポリアミック酸及びイミド化重合体について具体的に説明する。
【0011】
I.テトラカルボン酸二無水物
本発明のテトラカルボン酸二無水物は、ジフェニルスルホン骨格を有する、下記一般式(1)で示される構造を有する化合物である。本発明のテトラカルボン酸二無水物は、原子屈折率が高く、かつ、フェニル基の間にスルホン基が導入されており、スルフィド基との間の共役が断ち切られていることにより、得られるイミド化重合体の屈折率を高く保持しながら高い透明性を発現させることができる。
【化11】

【0012】
式(1)中、Rはそれぞれ独立して炭素数1〜3のアルキル基を示し、a及びbは基Rの置換数を示し、aはそれぞれ独立して0〜3の整数を示し、bはそれぞれ独立して0〜4の整数を示す。a及びbは0であることが好ましい。
【0013】
ジアミンとの縮合反応を効率的に進行させるためには、2つのフェニレンスルファニル基は、ジフェニルスルホン骨格のスルホン基に対してそれぞれメタ位に置換されていることが好ましい。即ち、下記式(1−1)で示される4,4’−[m−スルホニルビス(フェニレンスルファニル)]ジフタル酸無水物であることが好ましい。
【化12】

【0014】
本発明のテトラカルボン酸二無水物は次のようにして製造することができる。
工程1:ジフェニルスルホン骨格の製造
ジフェニルスルホン骨格の製造方法は公知であり、公知の方法に従って製造することができる。また、ジフェニルスルホン誘導体は市販品として入手することもできる。
【0015】
工程2:テトラカルボン酸二無水物の製造
ジフェニルスルホン誘導体とスルホン酸クロライドを混合し、室温〜200℃で1〜24時間加熱攪拌し、ジフェニルスルホンのジスルホニルクロライド誘導体を合成する。次に、酢酸と塩酸を混合し室温〜100℃に加熱し、ここにジフェニルスルホンのジスルホニルクロライド誘導体を加え室温〜100℃で1〜12時間攪拌し、ジフェニルスルホンのジチオール誘導体を合成する。その後、ブロモフタル酸無水物誘導体、無水炭酸カリウム、そしてN,N−ジメチルホルムアミド等の極性溶媒を入れ、反応溶液を室温〜150℃で1〜24時間加熱還流した。濃塩酸等を加え加熱し、脱水することによりテトラカルボン酸二無水物を得る。
【0016】
【化13】

【0017】
II.ポリアミック酸
本発明のポリアミック酸は、前記本発明のテトラカルボン酸二無水物と、ジアミンとを重縮合反応させて得られる重合体であり、好ましくは下記一般式(2)
【化14】

で示される構造を有するジアミンとの重縮合反応によって得られる下記一般式(3)で示される構造を有する重合体である。
【化15】

【0018】
上記一般式(3)中のmは、1〜100000の数を示し、10〜10000であることが好ましい。
上記一般式(3)中のR、a及びbは前述した通りである。
上記一般式(2)及び(3)中のRは芳香環、複素環及び脂環式基からなる群から選択される少なくとも1つを含む二価の有機基を示し、一般式(2)で示されるジアミンとして好ましい化合物については後述する。
【0019】
尚、本発明のポリアミック酸は、上記一般式(1)で示されるテトラカルボン酸二無水物以外のテトラカルボン酸二無水物を含んでいてもよい。即ち、上記一般式(1)で示されるテトラカルボン酸二無水物の他に、本発明の効果を損なわない範囲内で、硫黄原子を含有しないテトラカルボン酸二無水物を併用することができる。
本発明において上記一般式(1)で示されるテトラカルボン酸二無水物と併用できるテトラカルボン酸二無水物としては、脂肪族、脂環族又は芳香族テトラカルボン酸二無水物が挙げられ、脂肪族及び脂環族テトラカルボン酸二無水物が好ましく、得られるイミド化重合体が優れた透明性を有することから、脂環族テトラカルボン酸二無水物が特に好ましい。
【0020】
脂肪族又は脂環族テトラカルボン酸二無水物の具体例としては、例えば、ブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、4,10−ジオキサトリシクロ[6.3.1.02,7]ドデカン−3,5,9,11−テトラオン、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二水和物、3,5,6−トリカルボキシノルボルナン−2−酢酸二無水物、2,3,4,5−テトラヒドロフランテトラカルボン酸二無水物、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−5−テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]−フラン−1,3−ジオン、5−(2,5−ジオキソテトラヒドロフラル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸二無水物、ビシクロ[2,2,2]−オクト−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物等の脂肪族及び脂環族テトラカルボン酸二無水物を挙げることができる。これらのうちではブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、4,10−ジオキサトリシクロ[6.3.1.02,7]ドデカン−3,5,9,11−テトラオン、2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、5−(2,5−ジオキソテトラヒドロフラル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸二無水物及び1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−5−テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]−フラン−1,3−ジオンが好ましく、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、4,10−ジオキサトリシクロ[6.3.1.02,7]ドデカン−3,5,9,11−テトラオン、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物が特に好ましい。
【0021】
芳香族テトラカルボン酸二無水物の具体例としては、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ジメチルジフェニルシランテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−テトラフェニルシランテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−フランテトラカルボン酸二無水物、4,4’−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルフィド二無水物、4,4’−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルホン二無水物、4,4’−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルプロパン二無水物、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ビス(フタル酸)二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ビス(フタル酸)フェニルホスフィンオキサイド二無水物、p−フェニレン−ビス(トリフェニルフタル酸)二無水物、m−フェニレン−ビス(トリフェニルフタル酸)二無水物、ビス(トリフェニルフタル酸)−4,4’−ジフェニルエーテル二無水物、ビス(トリフェニルフタル酸)−4,4’−ジフェニルメタン二無水物等の芳香族テトラカルボン酸二無水物を挙げることができる。これらのうちでは、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ビス(フタル酸)二無水物及び3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物が好ましい。
【0022】
また、より高屈折率のポリアミック酸が得られることから、硫黄原子を含むテトラカルボン酸二無水物を用いることも好ましい。硫黄原子含有酸無水物の例としては、例えば、4,4’−[p−チオビス(フェニレン−スルファニル)]ジフタル酸無水物等が挙げられる。
【0023】
本発明のポリアミック酸の製造に用いるテトラカルボン酸二無水物のうち、一般式(1)で示されるテトラカルボン酸二無水物の割合は、50モル%以上であることが好ましく、80モル%以上であることがより好ましく、高屈折率を達成するためには100モル%であることが特に好ましい。
【0024】
本発明のポリアミック酸の製造に用いるジアミンは特に限定されないが、芳香環を含むジアミン、複素環を含むジアミンを含むジアミン又は脂環式ジアミンであることが好ましい。本発明で用いられるジアミンは、硫黄原子を含有するジアミンであってもよいし、硫黄原子を含有しないジアミンであってもよい。また、これらを併用することもできる。高屈折率のイミド化重合体が得られることから硫黄原子及びベンゼン環を有するジアミンが好ましい。
【0025】
硫黄原子を含有しない芳香環を含むジアミンとしては、例えばp−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルエタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、1,5−ジアミノナフタレン、3,3−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、4,4’−ジアミノベンズアニリド、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、3,4’−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、9,9−ビス(4−アミノフェニル)−10−ヒドロアントラセン、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン、4,4’−メチレン−ビス(2−クロロアニリン)、2,2’,5,5’−テトラクロロ−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2’−ジクロロ−4,4’−ジアミノ−5,5’−ジメトキシビフェニル、3,3’−ジメトキシ−4,4’−ジアミノビフェニル、4,4’−(p−フェニレンジイソプロピリデン)ビスアニリン、4,4’−(m−フェニレンジイソプロピリデン)ビスアニリン等を挙げることができる。
【0026】
硫黄原子を含有しない複素環を含むジアミンとしては、例えば、2,6−ジアミノピリジン、2,5−ジアミノピリダジン、2,5−ジアミノピリミジン等を挙げることができる。
【0027】
硫黄原子を含有しない脂環式ジアミンとしては、例えば、1,4−ジアミノシクロヘキサン、イソホロンジアミン、テトラヒドロジシクロペンタジエニレンジアミン、ヘキサヒドロ−4,7−メタノインダニレンジメチレンジアミン、トリシクロ[6,2,1,02.7]−ウンデシレンジメチルジアミン等を挙げることができる。また、上記のジアミンを併用することもできる。
【0028】
硫黄原子を含有するジアミンとしては、ジアミノテトラフェニルチオフェン、4,4’−チオビス[(p−フェニレンスルファニル)アニリン]、2,7−ビス(4−アミノフェニレンスルファニル)チアンスレン等が挙げられる。
【0029】
一般式(1)で示されるテトラカルボン酸二無水物と、ジアミンとの重縮合反応は、公知の方法及び条件下に行うことができるが、例えば、下記の方法で行うことが好ましい。
N−メチル−2−ピロリドン等の非プロトン性有機溶媒中において、ジアミン化合物と酸二無水物とを攪拌混合することによって、本発明のポリアミック酸を溶液として得ることができる。例えば、ジアミン化合物を有機溶媒に溶解し、これに酸二無水物を加えて、攪拌混合してもよく、また、ジアミン化合物と酸二無水物との混合物を有機溶媒に加えて、攪拌混合してもよい。反応は、通常、100℃以下、好ましくは、80℃以下の温度で、常圧下に行われる。しかし、反応は、必要に応じて、加圧下又は減圧下に行ってもよい。反応時間は、用いるジアミン化合物と酸二無水物や、有機溶媒、反応温度等によって異なるが、通常、4〜24時間の範囲である。
【0030】
III.イミド化重合体
本発明のイミド化重合体は、前記本発明のポリアミック酸をイミド化して得られ、好ましくは下記一般式(4)で示される構造を有する。
【化16】

式(4)中、R、R、a、b及びmは、上記一般式(3)で説明した通りである。
【0031】
一般式(3)のポリアミック酸をイミド化する方法及び反応条件は特に限定されず、公知の方法及び反応条件を用いることができる。例えば、加熱イミド化法として250〜350℃で1〜6時間の間で加熱してイミド化重合体に転化させる方法や、100℃で1時間、200℃で1時間、さらに300℃で1時間と段階的に加熱する方法が挙げられる。さらに化学的イミド化としてカルボン酸無水物と第三級アミンからなる脱水環化試薬を使用することもできる。脱水環化試薬としては無水酢酸−ピリジンや、無水酢酸−トリエチルアミン、そして無水トリフルオロ酢酸等を挙げることができる。
【0032】
本発明のポリアミック酸は、高屈折率であり、これをイミド化して得られる本発明のイミド化重合体も、屈折率が高く、透明性及び耐熱性に優れており、高屈折率、透明性及び耐熱性を必要とする物品の製造材料として有用である。
【実施例】
【0033】
以下、本発明を実施例によってさらに具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0034】
合成例1
ジフェニルスルホン−3,3’−ジスルホニルクロライド
【化17】

【0035】
攪拌機、還流冷却器、窒素導入管を備えた反応容器に、ジフェニルスルホン(23.8g、0.11mol)とスルホン酸クロライド(58mL、0.87mol)を加え、反応溶液を140℃で4時間攪拌した。反応液を室温まで冷却し、冷却した蒸留水(500mL)に注ぎ固体を析出させた。析出した固体を濾取・水洗し、80℃で24時間減圧乾燥させた。その後、酢酸エチルで再結晶することにより白色の結晶を得た。
収量:32.9g
収率:72%
融点:181.0℃(DSC)
H−NMR(300MHz、CDCl、ppm):7.85−7.91(t、2H)、8.28−8.36(m、4H)、8.61−8.62(m、2H)
【0036】
合成例2
ジフェニルスルホン−3,3’−ジチオール
【化18】

【0037】
攪拌機、還流冷却器、窒素導入管を備えた反応容器に、無水塩化スズ(50g、0.22mol)、酢酸(100mL)、そして塩酸(40mL)を入れ、反応液を90℃に加熱した。ここに合成例1で合成したジフェニルスルホン−3,3’−ジスルホニルクロライド(4.15g、0.01mol)を加え攪拌した。反応液を90℃で3時間攪拌し、室温まで冷却した。その後、反応液を塩酸(20mL)を含む蒸留水(200mL)に注いだ。析出した固体を濾取した。濾取物は水洗し80℃で24時間減圧乾燥した。
収量:2.57g
収率:91.0%
融点:107.5℃(DSC)
H−NMR(300MHz、CDCl、ppm):3.64(s、2H)、7.34−7.46(m、4H)、7.67−7.70(d、2H)、7.81−7.82(m、2H)
【0038】
実施例1
4,4’−[m−スルホニルビス(フェニレンスルファニル)]ジフタル酸無水物
【化19】

【0039】
攪拌機、還流冷却器、窒素導入管を備えた反応容器に、合成例2で合成したジフェニルスルホン−3,3’−ジチオール(2.82g、0.01mol)、4−ブロモフタル酸無水物(5.00g、0.022mol)、無水炭酸カリウム(3.04g、0.022mol)、そしてN,N−ジメチルホルムアミド(以下、DMFという)(50mL)を入れ、反応溶液を120℃で12時間加熱還流した。室温まで冷却後に生成した白色固体を濾取し、160℃で24時間減圧乾燥した。得られた白色固体に濃塩酸(50mL)を加え加熱し、室温まで冷却後に濾取・水洗した。その後、水を減圧留去し、さらに160〜180℃で3時間減圧乾燥させ淡黄色の固体を得た。
【0040】
収量:4.20g
収率:73.1%
融点:193.3℃(DSC)
H−NMR(300MHz、CDCl、ppm):7.57−7.59(d、2H)、7.62−7.67(m、4H)、7.73−7.78(d、2H)、7.86−7.90(d、2H)、8.10−8.12(m、2H)
13C−NMR(75MHz、CDCl、ppm):162.3、162.1、148.6、143.2、138.9、134.7、133.3、132.7、132.6、131.7、128.9、126.3、123.7
FTIR(KBr、cm−1):1851.3、1774.2、1604.5、1461.8、1423.2、1326.8、1295.9、1257.4、1160.9、902.5、732.8、686.5、605.5
元素分析:計算値:C2814:C、58.53%;H、2.46%
測定値:C、58.19%;H、2.73%
【0041】
合成例4
2,7−ビス(4−アミノフェニレンスルファニル)チアンスレン
【化20】

【0042】
攪拌機、還流冷却器、Dean−Starkトラップ及び窒素導入管を備えた反応容器に、p−アミノチオフェノール(9.389g、75mmol)と無水炭酸カリウム(5.39g、39mmol)、そしてN−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPという)(30mL)とトルエン(50ml)を加え、140〜145℃で4時間反応させた。Dean−Starkトラップで水を除去し、トルエンも減圧留去した。反応液を120℃まで冷却し、製造例2で製造した2,7−ジフルオロチアンスレン(7.569g、30mmol)とNMP(15mL)を加えた。その後、反応液を170℃で12時間反応させた。反応液を室温まで戻し、反応液を冷水(500mL)に注ぎ、黄色の析出物を濾取し水洗した。得られた黄色の個体はエタノールを用いて再結晶し精製した。
【0043】
収量:10.34g
収率:74.5%
融点:185.2℃(DSC)
FT−IR(KBr、cm−1):3428.8、3332.4、2360.4、1619.9、1592.9、1565.9、1492.6、1442.5、1361.5、1292.1、1176.4、1103.1、817.7
H−NMR(300MHz、DMSO−d、ppm):5.49(s、4H)、6.61−6.64(d、4H)、6.94−6.98(d、4H)、7.06(s、2H)、7.14−7.17(d、4H)、7.36−7.38(d、2H)
13C−NMR(300MHz、DMSO−d、ppm):151.2、142.2、137.5、136.7、131.0、129.9、126.2、125.9、115.8、114.3
元素分析:計算値:C2418:C、62.31%;H、3.92%;N、6.05%
測定値:C、62.22%;H、3.96%;N、6.01%
【0044】
合成例5
4,4’−[p−チオビス(フェニレン−スルファニル)]ジフタル酸無水物
【化21】

【0045】
攪拌機、還流冷却器及び窒素導入管を備えた反応容器に、4,4’−チオビスベンゼンチオール(5.00g、0.02mol)と4−ブロモフタル酸無水物(10.00g、0.044mol)、無水炭酸カリウム(6.08g、0.044mol)、そしてN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)(100mL)を加え、120℃で12時間反応させた。反応液を室温に戻し、白色の固体を濾取し、160℃で24時間減圧乾燥した。得られた白色の固体に蒸留水(100mL)と濃塩酸(100mL)を加え、3時間の間、加熱攪拌した。得られた白色の固体を濾取し、180〜190℃で3時間加熱し黄色の固体を得た。
【0046】
収量:7.8g
収率:71.9%
融点:175.2℃(DSC)
FT−IR(KBr、cm−1):1847.5、1778.0、1604.4、1473.3、1326.8、1257.4、902.5、817.7、732.0
H−NMR(300MHz、DMSO−d、ppm):7.45−7.49(d、4H)、7.52−7.55(d、4H)、7.56(s、2H)、7.60−7.63(d、2H)、7.83−7.85(d、2H)
元素分析:計算値 C2814:C、61.98%;H、2.60%
測定値 C、62.23%;H、2.97%
【0047】
合成例6
4,4’−チオビス[(p−フェニレンスルファニル)アニリン]
【化22】

【0048】
攪拌機、還流冷却器及び窒素導入管を備えた反応容器に、合成例4で合成した4,4’−ビス(4−ニトロフェニルスルファニル)ジフェニルスルフィド(13.7g、0.028mol)と脱水エタノール(100ml)、そして10%パラジウム活性炭(1.20g)、を加え、加熱還流した。その後、ヒドラジン・一水和物(60ml)と脱水エタノール(20ml)を1.5時間かけ滴下し、反応液を3〜24時間加熱還流した。反応液を熱濾過し、黄色の析出物を濾取しエタノールで洗浄した。得られた黄色の個体はエタノールを用いて再結晶し精製した。
【0049】
収量:10.2g
収率:84.0%
融点:142〜143℃(DSC)
FT−IR(KBr、cm−1):3428.8、3382.5、1619.9、1592.9、1496.5、1473.3、1292.0、1176.4、1099.2、1010.5、825.4
H−NMR(300MHz、DMSO−d、ppm):5.46(s、4H)、6.62−6.64(d、4H)、6.98−7.01(d、4H)、7.15−7.19(m、8H)
元素分析:計算値 C2420:C、66.63%;H、4.66%;N、6.48%
測定値 C、66.59%;H、4.77%;N、6.34%
【0050】
<ポリアミック酸の製造>
実施例2
窒素導入管を備えた反応容器に、合成例6で合成した4,4’−チオビス[(p−フェニレンスルファニル)アニリン](以下、3SDAという)(17.30g、40mmol)にN−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPという)(80g)を加え、室温で攪拌し完全に溶解させた。次に、実施例1で合成した4,4’−[m−スルホニルビス(フェニレンスルファニル)]ジフタル酸無水物(以下、DPSDAという)(22.98g、40mmol)とNMP(25g)を添加し、室温で24時間攪拌して、ポリアミック酸のNMP溶液を得た。
【0051】
実施例3
窒素導入管を備えた反応容器に、合成例4で合成した2,7−ビス(4−アミノフェニレンスルファニル)チアンスレン(以下、APTTという)(18.51g、40mmol)にNMP(80g)を加え、室温で攪拌し完全に溶解させた。次に、実施例1で合成したDPSDA(22.98g、40mmol)とNMP(25g)を添加し、室温で24時間攪拌して、ポリアミック酸のNMP溶液を得た。
【0052】
比較例1〜2
実施例2で用いたDPSDAの代わりに、合成例5で合成した4,4’−[p−チオビス(フェニレン−スルファニル)]ジフタル酸無水物(以下、3SDEAという)、又は1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物(以下、CBDAという)を用いた他は、実施例2と同様の方法で重合を行い、各ポリアミック酸のNMP溶液を得た。
【0053】
実施例2及び3で得られたポリアミック酸のIRチャートを図1及び図2に示す。
【0054】
<イミド化重合体膜の作成>
3インチ径3mm厚の溶融石英基板上に実施例及び比較例で製造したポリアミック酸のNMP溶液をディスペンスし、厚さが約8〜12μmになるようにスピンコート塗布し、窒素雰囲気下280℃で1.5時間加熱し、イミド化重合体の膜を得た。
得られた実施例2及び3の膜中のイミド化重合体のIRチャートを図3及び図4に示す。
【0055】
<イミド化重合体膜の特性評価>
上記で得られたイミド化重合体の膜について下記特性を評価した。結果を表1に示す。
【0056】
(1)屈折率
Metricon社のPC−2000型プリズムカプラーを使用して、上記で得られたイミド化重合体膜の、波長633nmにおける屈折率を測定した。
【0057】
(2)透過率
日立製作所社製のU−3500型自記分光光度計を使用して、上記で得られたイミド化重合体膜の膜厚10μm当たりの波長450nmにおける透過率(%)を測定した。
【0058】
(3)耐熱性
セイコーインスツル社製のDSC6300(昇温速度10℃/分、窒素気流下)を使用して、上記で得られたイミド化重合体膜の5%重量減少温度を測定した。5%重量減少温度が400℃以上の場合を耐熱性合格(○)と評価した。
【0059】
【表1】

【0060】
表1中の略号は下記のものを表す。
3SDA:4,4’−チオビス[(p−フェニレンスルファニル)アニリン](合成例6)
APTT:2,7−ビス(4−アミノフェニレンスルファニル)チアンスレン(合成例4)
DPSDA:(実施例1)
3SDEA:4,4’−[p−チオビス(フェニレン−スルファニル)]ジフタル酸無水物(合成例5)
CHDA:1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物
【0061】
表1の結果から、一般式(1)で示されるテトラカルボン酸二無水物を原料とするポリアミック酸及びイミド化重合体は、1.731〜1.743と屈折率が高く、かつ透明性に優れ、さらに耐熱性にも優れていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明のテトラカルボン酸二無水物は、屈折率が高く、透明性及び耐熱性に優れたイミド化重合体を製造する原料として有用である。
本発明のポリアミック酸及びイミド化重合体は、高屈折率と、優れた透明性及び耐熱性が同時に要求される光学用部材の製造材料として好適である。具体的には、光学用部材の例として、高反射材料及び反射防止膜の高屈折率材のコーティング材料や、光導波路、各種レンズ、イメージセンサ用感度向上材料が挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】実施例2で得られたポリアミック酸のIRチャートである。
【図2】実施例3で得られたポリアミック酸のIRチャートである。
【図3】実施例2で得られたイミド化重合体のIRチャートである。
【図4】実施例3で得られた各イミド化重合体のIRチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示されるテトラカルボン酸二無水物。
【化1】

[式(1)中、Rはそれぞれ独立して炭素数1〜3のアルキル基を示し、aはそれぞれ独立して0〜3の整数を示し、bはそれぞれ独立して0〜4の整数を示す。]
【請求項2】
下記式(1−1)で示される化合物からなる群から選択される請求項1に記載のテトラカルボン酸二無水物。
【化2】

[式(1−1)中、R、a及びbは請求項1で定義した通りである。]
【請求項3】
請求項1又は2に記載の一般式(1)で示されるテトラカルボン酸二無水物と、ジアミンを重縮合させて得られるポリアミック酸。
【請求項4】
前記ジアミンが、下記一般式(2)で示される化合物である請求項3に記載のポリアミック酸。
【化3】

[式(2)中、Rは芳香環、複素環及び脂環式基からなる群から選択される少なくとも1つを含む二価の有機基を示す。]
【請求項5】
下記一般式(3)で示される構造を有するポリアミック酸。
【化4】

[式(3)中、Rは芳香環、複素環及び脂環式基からなる群から選択される少なくとも1つを含む二価の有機基を示し、Rはそれぞれ独立して炭素数1〜3のアルキル基を示し、aはそれぞれ独立して0〜3の整数を示し、bはそれぞれ独立して0〜4の整数を示し、mは、1〜100000の数を示す。]
【請求項6】
請求項3〜5のいずれか1項に記載のポリアミック酸をイミド化したイミド化重合体。
【請求項7】
下記一般式(4)で示される構造を有するイミド化重合体。
【化5】

[式(4)中、R、R、a、b及びmは請求項5で定義した通りである。]


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−67938(P2009−67938A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−239504(P2007−239504)
【出願日】平成19年9月14日(2007.9.14)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 高分子討論会予稿集、56巻2号
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】