説明

新規ピエリシジン誘導体又はその塩、その製造方法及び該誘導体を有効成分とする抗腫瘍剤。

【課題】新規で有用な化合物を提供することを目的とし、より具体的には、核−細胞質間輸送阻害作用を有し、抗腫瘍剤としての適用が可能な新規化合物を提供すること。
【解決手段】式(1)で表されるピエリシジン誘導体又はその塩を提供する。該ピエリシジン誘導体は、核外輸送阻害作用を有し、種々の分子の核−細胞質間輸送を阻害して、これらの分子の機能を阻害することにより、細胞増殖抑制作用を発揮する。従って、該ピエリシジン誘導体又はその塩を有効成分とする薬剤は、抗腫瘍剤として利用が可能である。
[化7]
(1)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規ピエリシジン誘導体又はその塩、その製造方法及び該誘導体を有効成分とする抗腫瘍剤に関する。
【背景技術】
【0002】
真核生物の細胞では、DNAは核膜によって細胞質から分離されており、核内でDNAから転写されたmRNAは、タンパク質と複合体を形成しmRNA−タンパク複合体(mRNP)となって、核膜孔を介して核外へ輸送された後、細胞質内でタンパク質へ翻訳される。
【0003】
mRNPのように、核膜孔を介して核−細胞質間を輸送される分子には、tRNAや転写因子、プロテインキナーゼなど多数の分子がある。そして、これら分子の輸送は、核膜孔を構成する核膜孔複合体(Nuclear Pore Complex: NPC)によって厳密に制御されている。
【0004】
近年、この転写因子やプロテインキナーゼ、mRNAといった細胞増殖に不可欠な分子の核−細胞質間輸送を阻害し、これらの分子の有する機能を阻害することで、細胞の増殖を抑制しようとする試みがなされている。
【0005】
例えば、転写因子は、細胞内におけるタンパク局在によってその活性が制御され、細胞質内においては不活性状態となっているが、核内へ移行すると高い活性を示すようになる。従って、転写因子の核内への移行を阻害し、転写因子の機能、さらにはその機能に基づく遺伝子の発現を阻害することで、細胞の増殖を抑制することが可能と考えられる。
【0006】
さらに、これまでに同定されている癌遺伝子及び癌抑制遺伝子の多くは転写因子であることから、転写因子の核−細胞質間輸送に関与する分子は、抗癌剤(以下、抗腫瘍剤ともいう)創薬のための新たなターゲットともなり得る。
【0007】
核−細胞質間輸送に関与する分子としては、exportin(以下、Crm1ともいう)やimportinが知られており、exportinは核から細胞質への輸送(以下、核外輸送という)に、importinは細胞質から核への輸送(以下、核内輸送という)に関与している。これらの分子は、輸送の対象となる荷物分子に存在する核外輸送シグナル(Nuclear Export Signal: NES)や核移行シグナル(Nuclear Localization Signal: NLS)を認識して結合する一方、NPCとも作用し、荷物分子を輸送するためのアダプターとして機能する。
【0008】
このうちCrm1 とNESの結合を阻害して、核外輸送阻害作用を発揮する物質として、レプトマイシンB(leptomycinB)が知られている(非特許文献1参照)。レプトマイシンBは、放線菌由来の抗真菌抗生物質であり、従来から、強力な細胞周期停止作用や抗腫瘍作用を有することが知られていた(非特許文献2及び非特許文献3参照)。その後、核外輸送阻害作用があることが明らかとなり、さらに、その標的分子がCrm1であることが明らかにされると、レプトマイシンBは、細胞増殖抑制剤や抗癌剤として注目されるようになった。
【0009】
例えば、特許文献1には、レプトマイシンBを有効成分とする抗腫瘍剤が開示されており、該抗腫瘍剤が種々の癌細胞に対して強い抗腫瘍作用を発揮し得ることが報告されている。この抗腫瘍作用は、上述したように、レプトマイシンBが転写因子をはじめとする細胞増殖に不可欠な分子の核外輸送を阻害し、これら分子の機能を阻害することで、細胞の増殖が抑制された結果と推察される。
【0010】
さらに、非特許文献4には、レプトマイシンBを有効成分とする抗癌剤についての臨床治験(フェーズI)結果が記載されている。しかし、本文献では、レプトマイシンBの有する高い毒性のため、期待された抗癌作用は得られなかった旨が報告されている。
【0011】
ここで、本発明に関連するピエリシジンについて説明する。ピエリシジンは、ピリジン環に不飽和アルキル側鎖が結合した構造を有する化合物であり、従来から抗虫薬として知られている。また、特許文献2及び特許文献3には、抗生物質の有効成分としてピエリシジン関連物質が開示されている。これらのピエリシジン関連物質は、優れた抗菌活性に加え、哺乳類動物由来の各種癌細胞に対し増殖抑制活性をも示すため、抗腫瘍剤としての利用も想定されている。
【0012】
なお、本発明に係る新規ピエリシジン誘導体と、上記特許文献2及び特許文献3に開示されるピエリシジン関連物質とは、ピリジン環の修飾基が異なり、別化合物である。また、これまでピエリシジン関連物質が核−細胞質間輸送阻害作用を有する旨の報告はなされていない。
【特許文献1】特公平5−13133号公報。
【特許文献2】特開平5−178837号公報。
【特許文献3】特開平5−178838号公報。
【非特許文献1】Exp. Cell Res (1998)242, 540-547
【非特許文献2】Exp. Cell Res (1990)187, 150-156
【非特許文献3】Cancer Chemother.Parmacol. (1986) 16, 95-101
【非特許文献4】Br. J. Cancer (1996)74, 648-649
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、新規で有用な化合物を提供することを目的とし、より具体的には、核−細胞質間輸送阻害作用を有し、抗腫瘍剤としての適用が可能な新規化合物を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題解決のため、本発明者は、種々の微生物代謝産物について検討を行った結果、下記の式(1)で表されるピエリシジン誘導体が核外輸送の阻害作用を有することを新規に見出した。すなわち、本発明は、式(1)で表されるピエリシジン誘導体又はその塩を提供するものである。
[化2]
(1)

【0015】
式(1)で表されるピエリシジン誘導体は、その核外輸送阻害作用により、種々の分子の核−細胞質間輸送を阻害して、これらの分子の機能を阻害することにより、細胞増殖抑制作用を発揮し得る。従って、式(1)で表されるピエリシジン誘導体又はその塩を有効成分とする薬剤は、抗腫瘍剤としての利用が可能である。
【0016】
また、本発明は前記ピエリシジン誘導体の産生菌を培養し、培養物から該ピエリシジン誘導体を取得することを特徴とする式(1)で表されるピエリシジン誘導体又はその塩の製造方法をも提供するものである。ピエリシジン誘導体の産生菌としては、特にStreptomyces属に属する菌を用いることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、新規かつ有用な化合物として、核−細胞質間輸送阻害作用を有し、抗腫瘍剤としての適用が可能な化合物が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための好適な形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0019】
本発明に係る新規ピエリシジン誘導体は、該誘導体の生産菌を培養し、培養物より分離生成することにより得ることができる。ピエリシジン誘導体生産菌としては、該誘導体の生産能を有するものであれば特に限定されず使用することができる。抗生物質等の有用化合物の産生菌の大部分は、放線菌(Actinomycetes)と呼ばれる一群の菌類に属するが、本発明においても、放線菌を用いることができる。
【0020】
ピエリシジン誘導体生産菌の培養のための培地には、通常の微生物が利用し得る栄養物を含有するものを使用できる。また、栄養源としては、従来から培養に利用されている公知のものが使用できる。具体的には、炭素源としては、グルコース、水飴、デキストリン、澱粉、糖蜜、玄米、油脂類などが使用できる。また、窒素源としては大豆粉、小麦胚芽、綿実粕、コーンステイープリカー、肉エキス、ペプトン、酵母エキス、などの有機物ならびに硫酸アンモニウム、硝酸ナトリウムなどの無機物が利用できる。その他必要に応じて、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、コバルト、塩素、燐酸、硫酸及びその他のイオンを生成することができる無機塩類を添加することができる。また、菌の発育を助け、本発明におけるステロイド化合物の生産を促進するような有機および無機物を適当に添加することができる。培養方法としては、放線菌を用いる場合であれば、好気的液体培養法が最も適している。培養に適当な温度は、20〜30℃であるが、多くの場合27℃付近で培養する。このようにしてピエリシジン誘導体が蓄積した培養物から目的物質を単離精製する。
【0021】
培養物からの採取にあたっては、その性状を利用した通常の分離手段、例えば溶媒抽出法、イオン交換樹脂法、吸着または分配カラムクロマト法、ゲル濾過法、透析法、沈澱法等を単独で又は適宜組み合わせて抽出精製することができる。
【0022】
本発明に係る新規ピエリシジン誘導体又はその塩は抗腫瘍剤として、任意の投与経路で、また採用投与経路によって決まる剤型、例えば錠剤、カプセル、坐剤、溶液、シロップ、乳液等で投与することができる。薬剤としては、製薬上許容される担体あるいは希釈剤、例えば炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、ラクトース、コンスターチ、アルギン酸、スターチ、ゼラチン、ステアリン酸マグネシウム、タルク、カルボキシメチルセルロース、セルロースアセテートフタレート、ポリビニルアセテート等で希釈された形態が普通である。抗腫瘍剤として本発明に係る新規ピエリシジン誘導体又はその塩を実際に投与する場合には、これらを注射用蒸留水または生理食塩水に溶解して注射する方法が代表的なもののひとつとして挙げられる。具体的には、動物の場合には腹腔内注射、皮下注射、静脈または動脈への血管内注射および注射による局所投与などの方法が、ヒトの場合は静脈または動脈への血管内注射または注射による局所投与などの方法がある。本発明に係る新規ピエリシジン誘導体又はその塩の投与量は、種々の状況を勘案して、連続的または間欠的に投与したときに総投与量が一定量を越えないように定められる。具体的な投与量は、投与方法、患者または被処理動物の状況、たとえば年齢、体重、性別、感受性、食餌、投与時間、併用する薬剤、患者またはその病気の程度に応じて変化することは言うまでもなく、また一定の条件のもとにおける適量と投与回数は、上記指針のもととして専門医の適量決定試験によって決定されなければならない。
【実施例1】
【0023】
<ピエリシジン誘導体産生菌の培養>
以下に示す前培養培地15mlを滅菌後、Streptomyces属放線菌を接種し、27℃にて48時間培養し、前培養液とした。
可溶性澱粉 10.0g
ポリペプトン 10.0g
モラセス 10.0g
肉エキス 10.0g
水 1L
pH 7.3
【0024】
続いて、得られた前培養液2mlを、以下に示す生産培地を100mlずつ分注した、500-mL容三角フラスコに添加し、27℃にて5日間、培養を行った。
グリセロール 20g
モラセス 10g
カゼイン 5g
ポリペプトン 1g
炭酸カルシウム 4 g
水 1L
pH 7.2
【0025】
<ピエリシジン誘導体の単離精製>
上記で得た菌体(フラスコ20本分)を80%アセトン水(1000 ml)で抽出し、遠心エバポレータでアセトンを除去した。さらに200 mlの酢酸エチルで3回抽出し、濃縮した。得られた濃縮物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー (Purif-Pack Si-60 :Moritex) に吸着させ、ヘキサン−酢酸エチル (1 : 1) の混合溶媒で溶出した。得られた画分を高圧液体クロマトグラフィー (PEGASIL ODS:センシュー科学) に供し、85%メタノールにより溶出し、目的化合物を得た(17 mg)。
【0026】
得られた化合物について、各種スペクトルデータを解析した結果、本化合物は互変異性平衡状態で存在し、その主要互変異性型(Major tautomer)は、下記式(1)で示される化学構造を有することがわかった。一方、副互変異性型(Minor tautomer)は、下記式(2)で示される化学構造を有し、Major tautomerとMinor tautomerの存在比率はおよそ7:3であった。それぞれについて、核磁気共鳴分光法(NMR)により測定した1H−核磁気共鳴スペクトル及び13C−核磁気共鳴スペクトルデータを図1に示す。また、図2及び図3に、それぞれ1H−核磁気共鳴スペクトル、13C−核磁気共鳴スペクトルを示す。
【0027】
[化3]
(1)Major tautomer

【0028】
[化4]
(2)Minor tautomer

【0029】
また、得られた化合物は、下記の物理化学的性質を示した。
(1)外観(Appearance):茶色無定形固体
(2)融点(MP):41.0〜50.0℃
(3)比旋光度(Optical rotation),[α]D25 :+53 (c 0.88, MeOH)
(4)高分解能質量分析(HR-ESI-MS),(m/z):実測値;569.3456 (M+H)+ 、計算値;569.3454
(5)紫外線吸収スペクトル (UV(MeOH)λmaxnm ),(log ε):223(4.5), 240(4.6), 274(3.6)
(6)赤外吸収スペクトル(IR(KBr) ν maxcm-1):3250, 2926, 2859, 1633, 1494, 1455, 1399, 1386, 1233
図4及び図5には、それぞれ紫外線吸収スペクトル、赤外吸収スペクトルのチャートを示す。
【実施例2】
【0030】
<ピエリシジン誘導体の核外輸送阻害活性>
実施例1で得たピエリシジン誘導体について、β−アレスチン(β-Arrestin)の細胞内挙動を指標として、核外輸送阻害活性の評価を行った。
【0031】
β−アレスチンは、Gタンパク質共役型レセプター(GPCR)の脱感作(desensitization)や内在化(internalization)に関与するタンパクであり、通常は細胞質内に局在している。しかし、GPCRにアゴニストが結合し、GPCRがGタンパク質共役型レセプターキナーゼ(GRK)によりリン酸化され活性化すると、β−アレスチンは細胞質から細胞膜へ移動してGPCRに結合し、GPCRの不活性化や内在化に機能する。さらに、β−アレスチンは、GPCRの活性化に反応して核内へも移行し、特定の遺伝子のプロモーター領域に作用して遺伝子発現調節にも関与することが明らかにされている(Cell (2005) 123, 755-756参照)。このようにβ−アレスチンは、細胞質、細胞膜、核内を移行することにより、様々な機能を発揮していることから、β−アレスチンの細胞内挙動の変化を観察することにより、細胞内における核−細胞質間輸送(核内・核外輸送)活性を評価することが可能となる。
【0032】
以下に、核外輸送阻害活性の評価の具体的な実験手順について簡単に説明する。
(1)GFP標識β−アレスチン発現ベクターの構築
GFP(Green Fluorescent Protein)をコードするcDNA(GenBank accession number U87624)を、発現ベクター(pcDNA3:Invitrogen社)に挿入し、GFP発現ベクター(pcDNA3-GFP)を作成した。続いて、ヒトcDNAライブラリー(Invitrogen社)からPCRにより増幅したヒトβ−アレスチンcDNA(GenBank accession number BC007427)の翻訳領域をpcDNA3-GFPに挿入し、C末端側にGFPを標識したヒトβ−アレスチン(以下、GFP標識β−アレスチンという)を発現するベクター(pcDNA3-ARR-GFP)を作成した。発現ベクターの作製は、通常用いられるPCR法、制限酵素処理法、ライゲーション法により行った。
【0033】
(2)GFP標識β−アレスチンの発現
上記で作成したpcDNA3-ARR-GFPを、ヒト子宮頸癌由来の細胞であるHeLa細胞にトランスフェクトし、GFP標識β−アレスチンを発現する細胞を作成した。HeLa細胞、1.2×106個を10cmシャーレにプレーティングし、24時間培養後、Mirus社のTransIT-LT1試薬を用いて、pcDNA3-ARR-GFPをトランスフェクトした。トランスフェクションは、試薬添付のプロトコールに従って行った。その後、さらに24時間培養後、96ウェルプレートへ再プレーティングし(1.2×103cells/well)、24時間培養した後(6時間後に培地を交換)、被検物質を細胞に処置した。
【0034】
(3)核外輸送阻害活性の評価
被検物質には、実施例1で調製したピエリシジン誘導体と、比較対照として、ピエリシジン関連物質のうち、本発明に係る新規ピエリシジン誘導体と類似の構造を有する2つの化合物(Piericidin A1, IT-143-B)を用いた。これら化合物の構造式は以下式(3)及び式(4)の通りである。また、ポジティブコントロールとして、既に核外輸送阻害作用を有することが示されているレプトマイシンBを用い、ネガティブコンロトールの細胞には溶媒(100%メタノール)のみを処置した。
【0035】
[化5]
(3)Piericidin A1

【0036】
[化6]
(4)IT-143-B

【0037】
各被検物質を、以下の表1に示す濃度で3時間処置した後、細胞をPFAにより固定した。形態観察による細胞傷害活性の評価、及びGFP標識β−アレスチンの局在観察による核外移行阻害活性の評価の結果を表に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
表中、細胞傷害活性の評価結果は、細胞の大半もしくは全てが死んでいるものを(++)、細胞の形態に異常を認めるものを(+)、障害が認められないものを(−)で示した。また、核移行阻害活性は、GFP標識β−アレスチンが核内にのみ局在するものを(++)、核にのみ局在する細胞と細胞質にも局在する細胞が混在するものを(+)、細胞質にも局在するものを(−)で表した。また、表中(/)は、被検物質の溶媒である100%メタノールによって細胞が固定されたために、核外移行阻害活性の評価が不可能であったことを意味する。また、表中(×)は、被検物質による細胞傷害が重度であり、核外移行阻害活性の評価が不可能であったことを意味する。
【0040】
レプトマイシンBでは、0.0049μM以上の濃度において、強い核外移行阻害活性が認められた。図2(A)は、0.0049μMでレプトマイシンBを処置した細胞内におけるGFP標識β−アレスチンの局在を示す。GFP標識β−アレスチンは、レプトマイシンBにより核内から核外への輸送が阻害された結果、核内に顕著に蓄積している。また、レプトマイシンBの細胞傷害活性は、比較的低く、0.31μMで細胞形態に異常が認められたのみであった。
【0041】
図2(B)は、被検物質の溶媒である100%メタノールのみを処置したネガティブコンロトールにおけるGFP標識β−アレスチンの局在を示す。GFP標識β−アレスチンは、核内に加えて、細胞質にも局在(特に核周囲に多く存在)し、GFP標識β−アレスチンが核−細胞質間を自由に移動していることが分かる。
【0042】
一方、本発明に係る新規ピエリシジン誘導体を処置した場合には、0.039μM以上で、核外移行阻害活性が認められた。図3(A)〜(C)は、それぞれ0.16μM, 0.078μM, 0.039μMで処置した細胞内におけるGFP標識β−アレスチンの局在を示す。図3(A)及び(B)では、GFP標識β−アレスチンは核内にのみ局在し、図3(C)では、核に局在する細胞と細胞質にも局在する細胞が混在している。これらの所見は、レプトマイシンBの処置によるものと同一であり、本発明に係る新規ピエリシジン誘導体が核外移行阻害作用を有することを証明するものである。
【0043】
また、本発明に係る新規ピエリシジン誘導体の細胞傷害活性は、レプトマイシンBと同程度であり、0.31μMで細胞形態に異常が認められたのみであった。
【0044】
類縁体との比較では、Piericidin A1が、0.039μM以上の濃度において核移行阻害活性を示した。しかし、Piericidin A1は、レプトマイシンB及び本発明に係る新規ピエリシジン誘導体に比べて、細胞傷害活性が強く、0.078μMの処置で細胞形態に異常が現れ、0.31μMでは多くの細胞が死滅した。また、IT-143-Bでは、全ての濃度で核外移行阻害活性は認められなかった。
【0045】
以上の結果より、本発明に係る新規ピエリシジン誘導体が、核外輸送阻害作用を有することが示された。有効濃度は0.020μM以上であり、レプトマイシンB(有効濃度0.0049μM以上)に比べ、その核外輸送阻害活性はやや劣るものの、類似の構造を有する従来公知のピエリシジン関連物質に比べては、優位な核外輸送阻害活性を有し、かつ、細胞傷害性が低いことが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明に係る新規ピエリシジン誘導体は、核外輸送阻害作用を有し、かつ細胞障害性が低いため、抗腫瘍剤として有用と考えられる。また、該抗腫瘍剤は、核−細胞質間のタンパク輸送を阻害するという従来の抗腫瘍剤にはない作用機序によるものであるため、現在有効な抗癌剤が開発されていないタイプの癌への適用が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】1H−核磁気共鳴スペクトル及び13C−核磁気共鳴スペクトルデータである。
【図2】1H−核磁気共鳴スペクトルである。
【図3】13C−核磁気共鳴スペクトルである。
【図4】紫外線吸収スペクトルである。
【図5】赤外吸収スペクトルである。
【図6】レプトマイシンBを処置した細胞内におけるGFP標識β−アレスチンの局在を示す図である。(A)はレプトマイシンB処置あり(0.0049μM)、(B)は処置なしの細胞を示す。
【図7】本発明に係る新規ピエリシジン誘導体を処置した細胞内におけるGFP標識β−アレスチンの局在を示す図である。(A)は処置濃度0.16μM, (B)は0.078μM, (C)は0.039μMの細胞を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で表されるピエリシジン誘導体又はその塩。
[化1]
(1)

【請求項2】
タンパク質の核外輸送阻害作用を有することを特徴とする請求項1記載のピエリシジン誘導体又はその塩。
【請求項3】
請求項1記載のピエリシジン誘導体又はその塩を有効成分とする抗腫瘍剤。
【請求項4】
請求項1記載のピエリシジン誘導体又はその塩を、該誘導体産生菌の培養物中から取得する方法。
【請求項5】
前記産生菌が放線菌であることを特徴とする請求項4記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−174508(P2008−174508A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−10790(P2007−10790)
【出願日】平成19年1月19日(2007.1.19)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度文部科学省「ベンチャー開発戦略研究センター」委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】