説明

新規フラバン化合物

【課題】公知のエピガロカテキンガレートより強力な生理活性を有する新規フラバン系化合物及びその製造法と前記フラバン化合物を含有する食品又は医薬品の提供。
【解決手段】下記式(1)


で表される新規フラバン化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗癌活性を有する新規フラバン化合物、該新規フラバン化合物を含む抗癌剤、食品又は医薬品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コニフェリルアルコールは植物の二次代謝産物の一つであり、例えば樹木の主成分であるリグニンやリグナンの前駆体となる。また他の多くの植物成分の前駆体にもなっており、天然界に比較的多く存在する成分である。松樹皮や安息香に含有することが知られており、食経験があり人に対する安全性も比較的高い成分である。コニフェリルアルコール自体には優れた薬理作用等の特筆すべき有用性はないものの、コニフェリルアルコールを原料として、食品原料や香粧品原料等多種の有用成分が作り出されている。例えば、香料として多用されているバニリンをコニフェリルアルコールから効率的に製造する方法(特許文献1、特許文献2)、コニフェリルアルコールをペルオキシダーゼと過酸化水素を含有する水溶液と接触せしめて得られる突然変異抑制剤(特許文献3)、トウガラシ類に含まれる交感神経の活性化剤であるコニフェリル誘導体をコニフェリルアルコールから製造する方法(特許文献4)等が開示されている。
【0003】
このように、原料としてのコニフェリルアルコールの用途は広いため、植物から得るだけではなく人工的に効率的に製造する技術も知られている。例えば、新規酵素を用いてコニフェリルアルコール等のp−ヒドロキシベンズアルデヒド誘導体等の製造方法(特許文献5)、バニリルアルコールオキシダーゼをコードする遺伝子を含んだ酵母によりコニフェリルアルコール等を産生する方法(特許文献6)等があげられる。
【0004】
すなわち、原料としてのコニフェリルアルコールの価値の高さから、効率的なコニフェリルアルコールの製造方法は進歩しており、このような現状ではコニフェリルアルコールを用いた新規素材の開発やコニフェリルアルコールを用いた素材の更なる用途拡大が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−244965号公報
【特許文献2】特開2000−290215号公報
【特許文献3】特許第2559679号
【特許文献4】特開2007−210969号公報
【特許文献5】特開平10−234363号公報
【特許文献6】特表2009−528041号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らはコニフェリルアルコールや該化合物を用いた有用化合物に関する前記の状況を鑑みて、新規な生理活性を有するコニフェリルアルコール関連化合物の探索と、その製造方法を確立すべく鋭意検討した結果、驚くべきことにコニフェリルアルコールをアルカリ条件下で加熱処理することのみで、原料であるコニフェリルアルコールには認められない優れた生理活性を有する新規フラバン化合物を生成させることを初めて見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
したがって、本発明は、新規なフラバン化合物を提供し、さらにこの安全性の高い新規化合物を、効率よく、安全に生成する方法を提供することを目的とする。
また、このフラバン化合物は、極めて優れた抗癌活性を有することから、この新規化合物を有効成分として含有する抗癌剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の要旨は、
〔1〕 下記式(1)で表されるフラバン化合物又はその薬学的に許容可能な塩、
【0009】
【化1】

【0010】
〔2〕 請求項1記載のフラバン化合物及びその薬学的に許容可能な塩からなる群より選ばれる1種以上の化合物を含有する抗癌剤、
〔3〕 請求項1に記載のフラバン化合物及びその薬学的に許容可能な塩からなる群より選ばれる1種以上の化合物を含有することを特徴とする食品又は医薬品、
〔4〕 コニフェリルアルコールをアルカリ条件下で加熱処理することにより前記式(1)で表される化合物を生成することを特徴とする前記式(1)で表されるフラバン化合物の製造方法
に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、抗癌活性に優れた新規なフラバン化合物及びその製造方法を提供することができる。また、本発明により原料のコニフェリルアルコールが持たない抗癌活性を有することから優れた抗癌剤を提供することができる。
本発明の新規フラバン系化合物は、前記のような生理活性に優れることに加えて、安全性にも優れることから、食品又は医薬品に配合することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、実施例1で行ったHPLCの分析結果を示す。上図が加熱後、下図が加熱前の結果であり、「※」が新規フラバン化合物のピークを示す。
【図2】図2は実施例3の細胞増殖抑制試験より得られた結果を示すグラフである。 図2の縦軸は細胞生存率を、横軸は各試料の濃度を示している。
【図3】図3は、実施例4のDNAラダー(ladder)法より得られた電気泳動の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0014】
本発明のフラバン化合物は、式(1):
【0015】
【化2】

【0016】
で表される構造式を有する。
【0017】
また、本発明では、前記式(1)で表されるフラバン化合物は、薬学的に許容可能な塩でもよい。薬学的に許容可能な塩としては、例えば、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;マグネシウム塩、カルシウム塩、バリウム塩等のアルカリ土類金属塩;アルミニウム塩;アルミニウムヒドロキシド塩等の金属ヒドロキシド塩; アルキルアミン塩、ジアルキルアミン塩、トリアルキルアミン塩、アルキレンジアミン塩、シクロアルキルアミン塩、アリールアミン塩、アラルキルアミン塩、複素環式アミン塩等のアミン塩; α−アミノ酸塩、ω−アミノ酸塩等のアミノ酸塩;ペプチド塩又はそれらから誘導される第1級、第2級、第3級若しくは第4級アミン塩等が挙げられる。これらの薬理的に許容し得る塩は、単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0018】
前記式(1)で表されるフラバン化合物又は薬学的に許容可能な塩(以下、本発明の新規フラバン化合物ともいう)は、フラバン骨格を有していることから、カテキン類同様に様々な生理活性を有することが予想される。
【0019】
例えば、本発明の新規フラバン化合物は、カテキン類で抗癌活性が強いことが知られているエピガロカテキンガレートと比べて、抗癌活性が高い。
【0020】
本発明の新規フラバン化合物は、コニフェリルアルコールを含有する組成物を、アルカリ条件下で加熱処理することで生成することができる。この製造方法としては、具体的には、アルカリ条件下において、前記組成物温度70℃以上に加熱処理する。
【0021】
本発明の新規フラバン化合物は、コニフェリルアルコール以外の原料を用いて化学合成することも可能ではあるが、その場合には反応工程が複雑であり有害な試薬や工程を必要とする。また、不純物を除去するという安全性の観点から精製を徹底する必要もあり、工業的には不向きな方法である。これに対して、前記の本発明の新規フラバン化合物の製造方法は、安価で入手できるコニフェリルアルコールをアルカリ条件下で加熱処理する工程を有するものであり、有害な試薬や、危険な工程を必要としない効率的で安全な製造方法である。
【0022】
本発明の新規フラバン化合物の前駆体としてコニフェリルアルコールが必要である。コニフェリルアルコールは、天然由来のものであっても、化学合成された純度の高い化成品であっても良い。天然由来のコニフェリルアルコールを用いる場合は、完全に精製されたものである必要はなく、その後の所望の反応が進み最終的に新規化合物が得られるから、混合物であっても問題ない。ただし、回収量の観点からは、コニフェリルアルコールが5重量%以上含有された混合物が原料として望ましい。このような原料としては、機能性原料としても使用される松樹皮エキスや、廃棄されるような樹皮の抽出液や樹皮の分解処理物等、樹木由来エキス、安息香、あるいは先行技術に示されるような微生物発酵による培養液等が挙げられる。
【0023】
コニフェリルアルコールの純品、あるいはコニフェリルアルコール含有混合物を、適切な溶媒に溶解させる。この際、溶媒が水のみであればコニフェリルアルコールの溶解度が著しく低いために、水と有機溶媒の混液や、有機溶媒のみに溶解させればよい。水と有機溶媒の配合比や、有機溶媒の種類に特に制限はなく、コニフェリルアルコールが十分に溶解すれば良い。望ましくは、メタノールやエタノールのみか、水とメタノール、水とエタノールの混液を使用することが、安全性やコスト面から望ましい。最終的な精製を十分に適用せずに食品に使用する場合には、安全性や法規面からエタノールや含水エタノールの使用が望ましい。
【0024】
上記で得られたコニフェリルアルコール含有溶液を、アルカリ性に調整する。コニフェリルアルコール含有溶液を調製した後に試薬を添加しpHを調整しても良いし、前述のコニフェリルアルコール含有溶液の調製時に前もって溶媒のpHを調整しておいても良い。pHは最終的に8.0以上であれば反応が進むが、pH13.0を越えると反応と同時に、他の反応や目的化合物の分解も一方で生じるために最終的な回収量が低下する。したがって、反応開始時のpHは8.0〜13.0が望ましい。コニフェリルアルコールの濃度に制限はなく、反応前に十分に溶解していなくとも反応時に溶解することがある。コニフェリルアルコールの濃度が高いほど、溶媒使用量が少ない等のメリットもあるため、濃度は各々の溶媒に対しコニフェリルアルコールが飽和する濃度近辺が好ましい。
【0025】
コニフェリルアルコール含有溶液をアルカリ性に調整するために使用できるアルカリに特に制限はないが、安全性、効率及びコスト面からは、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸水素ナトリウムが望ましい。反応時のpH変化を極力抑える場合が生じた際には、緩衝溶液を用いても良いが、必ずしも必要な手法ではない。
【0026】
アルカリ性に調整されたコニフェリルアルコール含有溶液は、加熱される。所望の反応を効率的に進ませるために、加熱温度は70℃以上が必要である。溶媒の沸点から考え、加圧加温が望ましい。開放容器にコニフェリルアルコール含有溶液を入れ高温で容器を加温する、密閉容器にコニフェリルアルコール含有溶液を入れ加温する、レトルト装置やオートクレーブを用いて加圧加温する等、少なくとも部分的に溶液温度が70℃以上に達することが必要である。回収効率面から、溶液温度が均一に70℃〜150℃になることが、さらに好ましい。加熱時間も加熱温度と同様に限られたものではなく、効率的に目的の反応が進行する時間条件とすればよい。特に、加熱時間は加熱温度との兼ね合いによるものであり、加熱温度に応じた加熱時間にすることが望ましい。例えば、110℃付近で加熱する場合は、5分〜60分の加熱時間が望ましい。また、加熱反応は、一度でも良いし、複数回に分けて繰り返し加熱しても良い。効率面から判断すればよい。
【0027】
前記のアルカリ条件下で加熱処理することでコニフェリルアルコールがアルカリ処理されて、前記式(1)で表されるフラバン化合物を含有した混合物が得られる。安全な原料のみを用いた工程で得られた場合には、混合物の状態で使用することが可能である。例えば、天然由来のコニフェリルアルコールを含水エタノール溶媒に溶解し、水酸化ナトリウムや炭酸水素ナトリウムでpH調整を行い、加熱反応させた場合には、混合物として食品原料の一つとして使用が可能である。
【0028】
風味面での改良やさらなる高機能化を望む場合は、本発明の新規フラバン化合物を濃縮して濃度を高める、あるいは精製し純品を得ることができる。濃縮、精製は、公知の方法で実施可能である。クロロホルム、酢酸エチル、エタノール、メタノール等の溶媒抽出法や炭酸ガスによる超臨界抽出法等で抽出して濃縮できる。カラムクロマトグラフィーを利用して濃縮や精製を施すことも可能である。再結晶法や限外ろ過膜等の膜処理法も適用可能である。最後に減圧乾燥や凍結乾燥により溶媒除去すると、粉末状の本発明の新規フラバン化合物の純品を得ることができる。
【0029】
本発明の新規フラバン化合物は、後述のように、優れた抗癌活性を有するために、本発明の新規フラバン化合物を有効成分として含有する抗癌剤を提供することができる。また、前記抗癌剤では、他の有効成分を含有しても良い。
【0030】
また、本発明の新規フラバン化合物は、前記抗癌効果を目的として、液状、ペースト状、ゲル状、及び固形状の食品又は医薬品等として使用することができる。
【0031】
例えば、食品の場合には、水、アルコール、澱粉質、蛋白質、繊維質、糖質、脂質、ビタミン、ミネラル、着香料、着色料、甘味料、調味料、安定剤、防腐剤のような食品に通常配合される原料又は素材と組み合わせて、また医薬品の場合には、担体、賦形剤、希釈剤、安定剤と組み合わせて、本発明の新規フラバン化合物を使用することが出来る。特に、本発明の新規フラバン化合物の生理活性分野を考慮すると、癌予防・癌治療等の健康維持増進、さらには疾病治癒分野において用いることが好ましい。
【0032】
本発明の新規フラバン化合物が持つさらなる効果効能は、得られた生理活性データより類推できる範囲で使用できる。
【0033】
本発明の新規フラバン化合物を医薬用途で使用する場合、例えば、化合物の摂取量は、所望の改善、治療又は予防効果が得られるような量であれば特に制限されず、通常その態様、患者の年齢、性別、体質その他の条件、疾患の種類並びにその程度等に応じて適宜選択される。1日当たり約0.1mg〜1,000mg程度とするのがよく、これを1日に1〜4回に分けて摂取することができる。
【0034】
本発明の新規フラバン化合物は、機能性食品、健康食品、健康志向食品等の食品に使用することができる。食品の形態としては、例えば、飲料、アルコール飲料、ゼリー、菓子等、どのような形態でもよく、例えば、菓子類の中でも、その容量等から保存や携帯に優れた、ハードキャンディ、ソフトキャンディ、グミキャンディ、タブレット等が挙げられるが、特に限定はない。
【0035】
また、本発明の新規フラバン化合物を医薬品又は食品として経口から投与又は摂取する場合には、常法に基づいて、錠剤、丸剤、カプセル剤、細粒剤、顆粒剤等としてもよい。錠剤、丸剤、顆粒剤、顆粒を含有するカプセル剤の顆粒は、必要により、ショ糖等の糖類、マルチトール等の糖アルコールで糖衣を施したり、ゼラチン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等でコーティングを施したりすることもできる。または胃溶性もしくは腸溶性物質のフィルムで被覆してもよい。また、製剤の溶解性を向上させるために、公知の可溶化処理を施すこともできる。常法に基づいて、注射剤、点滴剤に配合して使用してもよい。
【0036】
前記の医薬品又は食品は、安全性に優れたものであるので、ヒトに対してだけでなく、例えば、非ヒト動物、例えば、ラット、マウス、モルモット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、ネコ、イヌ、サル、チンパンジー等の哺乳類、鳥類、両生類、爬虫類等の治療剤又は飼料に配合してもよい。
【0037】
次に、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明はかかる実施例にのみ限定されるものではない。
【実施例】
【0038】
(実施例1:新規フラバン化合物の生成)
コニフェリルアルコール(和光純薬)1gをエタノール20mlに溶解し、5%NaHCO3水溶液20mlを加えた混合液(pH=9.4)をオートクレーブ(SANYO LABO AUTOCLAVE)にて110℃、20分間加熱した。得られた反応後組成物1mlをメタノールにて50mlにメスアップし、このうちの10μlをHPLCにより分析した。
HPLC分析は以下条件にて行った。
カラム:逆相用カラム「Develosil(登録商標)C−30−UG−5」(4.6mmi.d.×250mm)
移動相:A・・・H2O(0.1%トリフルオロ酢酸(TFA)), B・・・アセトニトリル(0.1%TFA)
流速:1ml/min
注入:10μl
検出:254nm
勾配(容量%):80%A/20%Bから20%A/80%Bまで30分間、20%A/80%Bから100%Bまで5分間、100%Bで10分間(全て直線)
【0039】
得られたクロマトグラムを図1に示す。上記の反応後に、増大したピークがいくつか確認されたことから、複数の化合物が生成されていることが確認された。中でも、※のピークで示された化合物は、下図が示すように反応前溶液には存在が認められないことから、上記の反応により生成されていることがわかる。
【0040】
(実施例2:新規フラバン化合物の単離・構造決定)
実施例1で得られた反応物における、図1の※で示したピークに含まれる化合物を分取HPLCにより単離し、常法により乾燥したところ新規化合物を50mg得た。単離精製した新規化合物は、黄色粉末状物質となった。
【0041】
次いで、前記新規化合物の分子量を高分解能電子イオン化質量分析法(Electron Ionization-Mass Spectrometry)にて測定したところ、測定値は342.4860であり、理論値との比較から、以下の分子式を得た。
理論値C20H22O5(M+) : 342.4857
分子式C20225
【0042】
次に、前記新規化合物を核磁気共鳴(NMR)測定に供し、1H−NMR、13C−NMR及び各種2次元NMRデータの解析から、前記新規化合物が式(1)で表される構造を有することを確認した。式(1)で表されるフラバン化合物は本発明の方法で効率的に生成できることが示された。
【0043】
なお、NMR測定値について、式(1)で表される新規フラバン系化合物の各部位を
【0044】
【化3】

【0045】
として、それぞれの1H核磁気共鳴スペクトル、13C核磁気共鳴スペクトルをそれぞれ表1に示す。
値はδ、ppmで、溶媒はMethanol−d3で測定した値である。
【0046】
【表1】

【0047】
また、前記新規フラバン化合物の物理化学的性状は、以下のようになった。
(性状)
黄色粉末
(溶解性)
水: 不溶
メタノール: 可溶
エタノール: 可溶
DMSO: 可溶
クロロホルム: 可溶
酢酸エチル: 可溶
【0048】
(実施例3:新規フラバン化合物の抗癌作用1)
次に癌細胞に対する新規フラバン化合物の効果を見るため、HL−60細胞(Human promyelocytic leokemiacells:ヒト骨髄球性白血病細胞)を用いた癌細胞増殖抑制作用について試験した。
【0049】
HL−60細胞の培養には、4mMグルタミン(L−Glutamine、SIGMA)、10%FBS(Foetal Bovine Serum Biological Industries)を含む高栄養培地RPMI−1690(SIGMA)を使用した。試験には細胞培養用96ウェルプレート(Corning)を用い、5×105cells/mlとなるように細胞数を調整したHL−60細胞を1ウェルあたり100μlずつ播種した。
【0050】
試料は、コニフェリルアルコール(和光純薬)、エピガロカテキンガレート(和光純薬、以下EGCg)、実施例2で得られた本発明品である新規フラバン化合物の3種類を用いた。EGCgは、フラバン骨格を有し、HL−60に対する高い細胞増殖抑制能を有することが知られている化合物である。試料調製については、各々の化合物をDMSO(ジメチルスルホキシド、和光純薬)にて溶解し、HL−60細胞培養液中に最終濃度がそれぞれ0.5μM、1μM、5μM、10μM、及び20μMとなるように添加し、試験を開始した。
【0051】
生存細胞数の定量はcell counting kit−8(DOJINDO)を用いたMTT法にて行った。試験開始より24時間後、各ウェルにcell counting kit−8を10μl添加し、よく攪拌した。1時間の遮光反応後にプレートリーダー(BIO−RAD Model 680)を用いて測定波長450nmの吸光度測定を行い、得られたデータをもとに細胞生存率を算出した。
【0052】
得られた結果を図2に示す。図2に示すグラフの縦軸は細胞生存率を、横軸はそれぞれの試料の濃度について示している。また、細胞生存率とは、溶媒であるDMSOのみを添加した培養液の生存細胞数を100%とし、各化合物の濃度下における細胞の生存細胞数を相対値として算出した値である。各化合物濃度と細胞生存率の関係から、細胞増殖を50%抑制する濃度IC50(50%阻害濃度:half maximal inhibitory concentration)を求めた。結果を表2に示す。
【0053】
【表2】

【0054】
表2及び図2の結果より、実施例2で得られたフラバン化合物は、コニフェリルアルコールやEGCgよりも、細胞生存率が低く、HL−60細胞の増殖を抑制する効果がより高いことが示唆される。また、IC50は実施例2で得られたフラバン化合物は6.0μMであり、EGCgの14.6μMと比較して、2倍程度効果が強いことがわかった。
【0055】
(実施例4:新規フラバン化合物の抗癌作用2)
次いで、抗癌作用の試験を、HL−60細胞を用いて実施した。HL−60細胞を5.0×105cells/mlとなるように100mmスタンダードディッシュ(BD Falcon)に播種し、DMSOにて調整したコニフェリルアルコールと新規フラバン化合物をそれぞれ10μMとなるように添加した。24時間培養を行い、回収した細胞をPBS(Dulbecco's PBS(−) Wako)にて洗浄し、既知のDNA抽出法を用いて細胞からDNAを抽出した。得られたDNAサンプルを1%アガロースゲル(Takara agarose)に200ng/wellとなるようにアプライした。電気泳動を行い、染色反応はエチジウムブロマイド(Ethidium Bromide Solution BIO−RAD)を用いて行った。
【0056】
得られた結果を図3に示す。
図3は、各試料のDNA抽出物の電気泳動写真であり、電流は上から下に流されている。レーン左より、通常培養細胞(第1レーン)、DMSO処理(第2レーン)、コニフェリルアルコール10μM処理(第3レーン)、新規フラバン化合物10μM処理(第4レーン)、DNA分子量マーカーλ/Pst(第5レーン)を流した。通常培養細胞(第1レーン)及びDMSO処理細胞(第2レーン)ではDNAのラダー化が確認されない点から、本実験の信頼性が確認できる。
また、細胞を10μMの新規フラバン化合物で処理したもの(第4レーン)ではDNAのラダー化が観察できるのに対して、同濃度のコニフェリルアルコール(第3レーン)ではDNAのラダー化は観察されなかった。これより、新規フラバン化合物はアポトーシスを誘導する高い効果を有し、その効力はコニフェリルアルコールよりも高いことが示された。
【0057】
(実施例5:加熱温度によるフラバン化合物の生成量の違い)
コニフェリルアルコール100mg、エタノール1ml、5%NaHCO3水溶液1mlの混合溶液(pH=9.4)を、オートクレーブにて70℃、90℃、110℃、130℃の各温度条件で20分間加熱した。それぞれの温度条件で得られた反応後組成物1mlをメタノールにて50mlにメスアップし、実施例1と同様にHPLCにより分析した。
【0058】
その結果、いずれでも新規化合物の生成は確認できた。コニフェリルアルコールからの生成費比率(重量%)は、70℃が極微量、90℃が2%、110℃が5%、130℃が3%となり、110℃での加熱がもっとも多く新規化合物が生成していた。
【0059】
(実施例6:新規フラバン化合物含有エキスの調製)
松樹皮エキス10g、エタノール10ml、5%NaHCO3水溶液を10ml加えて調製した混合溶液(pH=9.0)を、オートクレーブにて110℃、20分間加熱した。得られた反応溶液を減圧加熱させて乾固し、新規フラバン化合物含有エキスを6g得た。得られた新規フラバン化合物含有エキス6g中には、実施例5と同様の手法で確認したところ新規フラバン化合物が0.020g含有されていた。必要に応じてこの作業を繰り返した。
【0060】
(実施例7:新規フラバン化合物を含有する食品)
実施例6で得た新規フラバン化合物含有エキス1gをあらかじめ100mLのエタノールに溶解させ、これに砂糖500g、水飴400gを混合溶解し、生クリーム100g、バター20g、練乳70g、乳化剤1.0gを混合した後、真空釜にて−550mmHg減圧させ、115℃の条件下で濃縮し、水分値3.0重量%のミルクハードキャンディを得た。このミルクハードキャンディは、菓子として食べ易いものであることはもちろん、癌患者における癌の拡散のリスクを低減したり、癌の発症のリスクを低減したり、癌の予防を期待した機能性食品としても利用できる。
【0061】
(実施例8:新規フラバン化合物を含有する医薬品)
実施例1,2と同様の方法で得た新規フラバン化合物をエタノールに溶解し、これを微結晶セルロースに吸着させた後に、減圧乾燥させた。これを常法に従い、打錠品を得た。処方は、フラバン化合物を10重量部、コーンスターチ23重量部、乳糖12重量部、カルボキシメチルセルロース8重量部、微結晶セルロース32重量部、ポリビニルピロリドン4重量部、ステアリン酸マグネシウム3重量部、タルク8重量部の通りである。本打錠品は、癌治癒を目的とする医薬品として有効に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される新規フラバン化合物又はその薬学的に許容可能な塩。
【化1】

【請求項2】
請求項1記載のフラバン化合物及びその薬学的に許容可能な塩からなる群より選ばれる1種以上の化合物を含有する抗癌剤。
【請求項3】
請求項1に記載のフラバン化合物及びその薬学的に許容可能な塩からなる群より選ばれる1種以上の化合物を含有することを特徴とする食品又は医薬品。
【請求項4】
コニフェリルアルコールをアルカリ条件下で加熱処理することにより下記式(1)で表されるフラバン化合物を生成することを特徴とする、式(1)で表されるフラバン化合物の製造方法。
【化2】


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−31103(P2012−31103A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−172288(P2010−172288)
【出願日】平成22年7月30日(2010.7.30)
【出願人】(390020189)ユーハ味覚糖株式会社 (242)
【Fターム(参考)】