説明

新規リシルオキシダーゼ

本発明は、OからHへの還元が続いて起こる、タンパク質またはペプチド中のリシル基の対応するアルデヒドへの酸化的脱アミノ化を触媒できる、単離されたリシルオキシダーゼに関し、リシルオキシダーゼは、(a)37℃およびpH7.0における活性判定で、少なくとも1.1、好ましくは少なくとも1.3、より好ましくは少なくとも1.4のAc−Gly−Lys−OMeに対するリシルオキシダーゼ活性とベンジルアミンに対するリシルオキシダーゼ活性との比率を示し、(b)0〜60℃の温度で最適活性を有する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
[技術分野]
本発明は新規リシルオキシダーゼに関する。
【0002】
[背景技術]
[リシルオキシダーゼ]
アミンオキシダーゼは、第一級アミン基質の反応性アルデヒドへの酸化を触媒する不均一系酵素ファミリーを形成する。酵素はそれらの補助因子の性質に基づいて、2つのグループに細分される。フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)は、モノアミンオキシダーゼAおよびBなどの酵素の、およびポリアミンオキシダーゼの細胞内形態の補助因子である(Csiszar,Progr.Nucl Ac Res and Mol Biol(2001年)、70、1〜32頁)。第2のグループのアミンオキシダーゼは、キノン、修飾チロシン側鎖を含み、補助因子として利用される(Wangら,Science(1996年)273、1078〜1084頁)。リシルオキシダーゼ(LOX)酵素は、アミンオキシダーゼのこのサブファミリーに属する。
【0003】
アミンオキシダーゼは、以下に示すように、第一級、第二級、および第三級アミンの対応するアルデヒドへの酸化的脱アミノ化を触媒し、OのHへの還元が続いて起こる。
RCHNH+O→RCHO+NH+H
哺乳類に見られるアミンは、上述のフラビン依存モノアミンオキシダーゼ(MAO)およびキノン含有銅アミンオキシダーゼ(CuAO)の2つのグループに分類される(Duffら,Biochem(2003年)42,15148〜15157頁)。MAOは実質的に全ての細胞型のミトコンドリア外膜中にのみ見られ、第一級、第二級、および第三級アミンの分解、およびいくつかの神経伝達物質の酸化に関与する。MAOは、どちらもFAD補助因子が関与する、一電子移動または協奏的共有結合触媒作用機序のどちらかを通じて機能すると考えられている(Duffら,Biochem(2003年)42,15148〜15157頁、およびそこで引用される参考文献)。キノン含有CuAOは、第一級アミンの酸化的脱アミノ化のみに関与するように見える。これらの酵素は、活性部位に存在するキノン補助因子のタイプに基づいて、トパキノン(TPQ)またはリシルチロシルキノン(LTQ)の2つのクラスに再区分できる。リシルオキシダーゼとして知られている後者のクラスの酵素は、コラーゲンおよびエラスチン中のリジン残基の架橋を惹起するペプチジルリジンの側鎖の重要な脱アミノ化の触媒を通じて、結合組織形成と関連があることが長きにわたり知られている(Csiszar,Progr.Nucl Ac Res and Mol Biol(2001年)70,1〜32頁)。LTQ因子のバイオジェネシスについてはまだ調査されていないが、TPQバイオジェネシスについては、例えば複数捕捉結晶構造(multiple trapped crystal structures)を使用して広く研究されている(Duffら,Biochem(2003年)42,15148〜15157頁)。チロシン残基のTPQへの変換は、アポ−未処理酵素、銅、および分子酸素のみを必要とする。修飾されたチロシンは、保存活性部位共通配列Asn−Tyr−Asp/Glu中に存在する(Muら,J Biol Chem(1992年)267,7979〜7982頁)。
【0004】
CuAOによる触媒作用は、ピンポン機構を通じて進行する(Wilmotら,Science(1999年)286、1724〜1728頁)。重要段階は、完全に保存されたアスパラギン酸塩が一般塩基の役割を果たすことによる基質のα炭素からのプロトン引き抜きによって促進される、最初のキノンイミンのキノアルジミンへの変換である。加水分解はアルデヒド生成物の放出を引き起こし、Cu(I)−セミキノンと平衡状態にあるCu(II)−アミノレソルシノールを与え、それは引き続いて二酸素と反応してHおよびイミノキノンを生じる。次に後者は加水分解されてNHを遊離し、補助因子をその静止状態に戻す。
【0005】
TPQ含有CuAOは自然界に広く分布し、哺乳類、植物、および微生物から精製されている。それらはいくつかの芳香族アミンをはじめとする多数の短鎖から長鎖の脂肪族モノアミンおよびジアミンの酸化に関与する(Duffら,Biochem(2003年)42,15148〜15157頁)。微生物では、それらは唯一の窒素または炭素源としての第一級アミンの利用において栄養的役割を持つ。より高等な生物におけるアミンオキシダーゼの役割はそれほど明確でない。植物および哺乳類中のこれらの酵素について、創傷治癒、毒性アミン濃度の低下、細胞成長、シグナル伝達、および癒着などのいくつかの役割が提案されている。
【0006】
金属イオンによる金属タンパク質の誘導は、広範な動物組織および微生物生物で観察されている(RaytonおよびHarris,J,Biol Chem(1979年)254,621〜626頁)。この原理は、後にHaywoodおよびLarge(Biochem J(1981年)199,187〜201頁)によって使用され、唯一の窒素源としてアミンを含有する培地上での生育中に、微生物のアミンオキシダーゼの発現を誘導するのを助けた。それらはカンジダ・ボイジニイ(Candida boidinii)中で2種のアミンオキシダーゼの発現を誘導できた。2種のアミンオキシダーゼの存在は、酵母中で一般的であるように見える(KucharおよびDooley,J Inorg Biochem(2001年)83、193〜204頁)。彼らは対応する酵素を精製して、それらが基質特異性において異なることを示した。酵素はメチルアミンオキシダーゼおよびベンジルアミンオキシダーゼと命名された。後に同様のアプローチで、酵母ピチア・パストリス(Pichia pastoris)もまた、2種のアミンオキシダーゼを含有することが示された(Greenら,Biochem J(1983年)211、481〜493頁)。ベンジルアミンオキシダーゼは、TurおよびLerch(FEBS Letters(1988年)238,74〜76頁)によってさらに特性解析された。彼らはオキシダーゼが、キノン基、銅原子を含有し、酵素が幅広い基質特異性を有することを実証した。リジン、モデルペプチド、エラスチン、およびコラーゲンを基質として使用して、彼らはオキシダーゼが有意なリシルオキシダーゼ活性を有することを示した。β−アミノプロピオニトリルを用いた阻害研究に基づいて、彼らは酵素が銅リシルオキシダーゼ(E.C.1.4.3.13)であると示唆した。酵素はそれ以来、リシルオキシダーゼと称される。Doveら(FEBS Letters(1996年)398,231〜234頁)は、この銅リシルオキシダーゼが補助因子としてTPQを含有し、それによって全て哺乳類起源であり補助因子としてLTQを含有するリシルオキシダーゼから区別されることを示した。酵素は、KucharおよびDooley(J Inorg Biochem(2001年)83,193〜204頁)によってクローンされ、配列決定されてさらに特性解析された。彼らは細胞内酵素を1Lあたり10mgで過剰発現させることができ、それは成功裏に過剰発現された最初のリシルオキシダーゼとなった。彼らは1個の酵素分子あたり1個の銅イオンの存在およびTPQ補助因子の存在を確認した。彼らは酵素の基質特異性に対する研究をさらに拡大し、それが哺乳類のオキシダーゼと若干類似しており、ペプチド中のリジン残基を酸化できることを示した。しかしピチア・パストリス(Pichia pastoris)からのリシルオキシダーゼは、哺乳類の酵素と比較してはるかにより幅広い基質特異性を有する(KucharおよびDooley,J Inorg Biochem(2001年)83,193〜204頁)。酵素はその他のアミンオキシダーゼとはかなり低い配列相同性を示す。最も高い相同性は、ヒト腎臓ジアミンオキシダーゼとの相同性であった(50%類似、30%同一)。その他のアミンオキシダーゼとの配列比較からは、TPQ共通配列(Thr−Xxx−Xxx−Asn−Tyr−Glu/Asp−Tyr、その中でXxxは20個の天然アミノ酸のいずれか)中のもの、および銅原子と錯体形成する3個のヒスチジンをはじめとする29個の残基のみが、完全に保存されていることが示された。
【0007】
大腸菌(Escherichia coli)(Parsonsら,Structure(1995年)3,1171〜1184頁)、エンドウマメ(Pisum savitum)(Kumarら,Structure(1996年)4,943〜955)、ハンゼヌラ・ポリモルファ(Hansenula polymorpha)(Liら,Structure(1998年)6,293〜307頁)、アルスロバクター・グロビフォルミス(Arthrobacter globiformis)(Wilceら,Biochemistry(1997年)36,16116〜16133頁)、およびピチア・パストリス(Pichia pastoris)(Duffら,Biochem(2003年)42,15148〜15157頁;Duffら,Acta crystallogr D Biol crystallogr(2006年)62,1073〜1084頁)起源の5種のアミンオキシダーゼについて三次元構造が決定されている。ピチア(Pichia)酵素はリシルオキシダーゼである唯一のものである。それらの構造は同様であり、D1、D2、D3、およびD4とそれぞれ命名される4つの構造ドメインを示す。D1ドメインは大腸菌(E.coli)酵素でのみ観察されているが、ピチア(Pichia)酵素中にも存在することが提案されている。活性部位は大きなコアドメインD4に位置し、より小さなD3およびD2ドメインは、D4ドメインに対してN末端である。酵素は二量体として結晶化する。独特なのは、2つのD4ドメイン間の二量体内部のレイク(lake)と称される大きな溶媒充填腔の存在である。各サブユニット中の銅部位は背後がレイクに隣接し、TPQ補助因子は銅原子の遠位側に位置する。長くて狭い溝がTPQを外部溶媒に連絡する(Duffら,Biochem(2003年)42,15148〜15157頁)。活性部位へのこの溝は、その入口に酸性残基Asp−Asp−Glu−Thr−Glu−Gluの配列を含有するピチア(Pichia)酵素で特に幅広い。これらの残基は静電相互作用を通じて、荷電したリジンアミノ基が入ることを促進すると考えられる。溝をさらに下るとより疎水性になり、リジン基の中性アミン形態への脱プロトン化を促進し、それは続いて活性部位で酸化できる。活性部位は、3個のヒスチジン(残基番号528、530、および694)およびO4 fo TPQ(残基番号478)によって配位される銅原子を含んでなる。活性部位中のAsp398の位置は、この残基に提案される完全に保存された触媒塩基としての役割と矛盾しない。
【0008】
数年間にわたりピチア・パストリス(Pichia pastoris)からのリシルオキシダーゼは、唯一の既知の微生物リシルオキシダーゼであった。しかし欧州特許第1466979号明細書は、リシルオキシダーゼと命名される、コウジカビ(Aspergillus oryzae)に由来するアミンオキシダーゼの発見について述べている。出願人らはコウジカビ(Aspergillus oryzae)のゲノムを使用してリシルオキシダーゼをスクリーニングし、彼らがピチア・パストリス(Pichia pastoris)からの既知の遺伝子と高度に相同的であるとして特性決定した遺伝子の発見について述べる。特許の説明からは、何をもって高度に相同的とするかが明白でない。本発明者らはピチア・パストリス(Pichia pastoris)およびコウジカビ(Aspergillus oryzae)からの配列の配列アラインメントを作成し、意外にもわずか35%の同一性を見いだし、これは一般に高い相同性とは見なされない。60%、好ましくは70%、より好ましくは80%以上の百分率が、高度に相同性と見なされるであろう。さらにコウジカビ(Aspergillus oryzae)からのリシルオキシダーゼは、意外にもその他のリシルオキシダーゼおよびアミンオキシダーゼとはいくつかの重要な位置で異なる。例えば欧州特許第1466979号明細書で述べられるコウジカビ(Aspergillus oryzae)遺伝子の注釈付きタンパク質(配列番号2)の164位はアラニンであるのに対し、その他の全ての記載のアミンおよびリシルオキシダーゼでは、この位置は高度に保存されたプロリンである。さらにこの注釈付きタンパク質の78位はメチオニンであるのに対し、アミンオキシダーゼのこの位置ではロイシンが高度に保存される。さらに欧州特許第1466979号明細書で述べられるタンパク質は、哺乳類およびピチア(Pichia)リシルオキシダーゼと比較して、残基109の後に2個のアミノ酸の追加的挿入を含有する。また欧州特許第1466979号明細書で述べられるタンパク質中の499位はスレオニンであるのに対し、その他のアミンオキシダーゼではこの位置は常に疎水性残基である。タンパク質中の保存位置は、酵素の主要機能と関連付けられることが多く、酵素の触媒活性を変化させることなしには変更できない。この特定のリシルオキシダーゼで、いくつかのこのような保存残基が修正されていることは異例であり、それらは酵素活性に影響を及ぼすことが予期される。
【0009】
遺伝子はゲノム中の遺伝子のランダム組み込みを通じて、アスペルギルス・ニデュランス(Aspergillus nidulans)にクローンされた。出願人らはA.ニデュランス(nidulans)の代わりに、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)およびコウジカビ(Aspergillus oryzae)などのその他の株もまた使用できると示唆する。意外にも欧州特許第1466979号明細書では、細胞内酵素であるピチア・パストリス(Pichia pastoris)酵素とは対照的に、この遺伝子が過剰発現した場合、いくつかの形質転換体の培養液中にリシルオキシダーゼ活性が測定できると述べられる。明らかにコウジカビ(Aspergillus oryzae)からのリシルオキシダーゼは分泌酵素である。酵素の存在は活性測定を通じて確立された。リシルオキシダーゼ(E.C.1.4.3.13)を特性決定し、それらをリジンオキシダーゼ(E.C.1.4.3.14)から区別するためには、適切な基質の使用が極めて重要である。欧州特許第1466979号明細書においてリシルオキシダーゼについて述べられるアッセイ(上記特許の実施例11)は、リジンを唯一の基質として使用する。このアミノ酸は、Cα原子に1つ、Cε原子のリジン側鎖中に1つの2つの遊離アミノ基を有する。リシルオキシダーゼは後者のみを酸化して、他方の基は無修飾のままにする。これはα−アミノ基が例えばアセチル化によってブロックされるリジン基質を使用して判定できる。このような基質はリシルオキシダーゼの適切な同定のために必須であり、このような酵素の特性決定において非常に一般的に使用される(例えばKucharおよびDooley,J Inorg Biochem(2001年)83,193〜204頁を参照されたい)。このような基質は欧州特許第1466979号明細書では使用されないので、欧州特許第1466979号明細書で提供されるデータから、発見された酵素活性が実際にリシルオキシダーゼ活性であるという結論を下すことは不可能である。酵素はリシルオキシダーゼ(E.C.1.4.3.13、タンパク質−L−リジン:酸素6−オキシド還元酵素)でなくリジンオキシダーゼ(E.C.1.4.3.14;L−リジン:酸素2−オキシド還元酵素)である可能性が高い。また測定された活性はかなり低く、非形質転換株のバックグラウンド活性よりも数倍高いだけである(欧州特許第1466979号明細書、実施例11)。この問題を解明するために、本発明者らは、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)の配列番号2のタンパク質(欧州特許第1466979号明細書)を過剰発現することを試みた(本明細書の実施例1)。欧州特許第1466979号明細書によれば、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)はリシルオキシダーゼのための好ましい発現生物である。本発明者らは、試験した全ての形質転換体の培養液から活性リシルオキシダーゼを単離できず、別のやり方で実証することもできなかった。本明細書の実施例1および2で述べられる実験研究と合わせて、上で検討した議論を鑑みて、欧州特許第1466979号明細書が機能性リシルオキシダーゼの同定について述べているとは考えにくい。欧州特許第1466979号明細書はまた、酵素を生成する試みがなされず、代わりに多様な不特定の酵素活性を含有するかもしれない粗製発酵上清を用いて活性測定が実施されたとも述べている。さらに欧州特許第1466979号明細書で述べられる全ての形質転換体が、非形質転換株と比較して活性増大を示すわけではない。したがって欧州特許第1466979号明細書で述べられるタンパク質配列が実際に正確であり、機能性リシルオキシダーゼをコードするかどうかは疑わしい。したがって欧州特許第1466979号明細書の形質転換体のいくつかで測定されているオキシダーゼ活性は、述べられる遺伝子の過剰発現に起因するのではなく、バックグラウンドアミンオキシダーゼ活性の存在によって引き起こされたかもしれない。参照株の培地中に、かなりの量のアルギニンが添加されていることは驚くべきである(欧州特許第1466979号明細書、実施例11)。アミンオキシダーゼが、アルギニンなどのグアニジン含有化合物によって阻害されることは公知であり(KucharおよびDooley,J Inorg Biochem(2001年)83、193〜204頁)、アルギニンはこのようなグアニジン基を含有する。空の株が少量のアミンオキシダーゼ活性を産生する場合、これは培地中に存在するアルギニンによって阻害されるかもしれない。この場合にはバックグラウンドは人工的に低下されるため、空の株は良好な対照ではない設定で試験される。この状況では、これはバックグラウンド活性のわずか数倍を示した、報告された形質転換体の低活性の理由になり得る。この低活性が、アルギニン不在で観察される正規のバックグラウンド活性かもしれない。
【0010】
上記の全てから、リシルオキシダーゼについては既知であるが、いかなるリシルオキシダーゼも細胞外に産生されないことは明らかである。ピチア(Pichia)リシルオキシダーゼは細胞内酵素であり、わずか10mg/mlのレベルで産生される(KucharおよびDooley,J Inorg Biochem(2001年)193〜204頁)。さらに酵素は細胞から放出されなくてはならず、それは酵素の工業規模での製造過程を複雑化し、魅力がないものにする。またその他のリシルオキシダーゼも経済的に興味深い発現レベルでは過剰産生されていないので、大量に(1Lあたり数グラム)製造できる細胞外リシルオキシダーゼに対する必要性が依然としてある。
【0011】
経済的観点から、ピチア・パストリス(Pichia pastoris)酵素および主張されているコウジカビ(Aspergillus oryzae)酵素の低い生産性と比較して、大量に比較的純粋形態でリシルオキシダーゼを製造する改善された手段に対する明らかな必要性がある。これを行う好ましい方法は、組み換えDNA技術を使用した、このようなリシルオキシダーゼの過剰産生を通じた方法である。これを行う特に好ましい方法は真菌由来リシルオキシダーゼの過剰産生を通じた方法、これを行う最も好ましい方法はアスペルギルス(Aspergillus)由来リシルオキシダーゼの過剰産生を通じた方法である。後者の産生経路を可能にするためには、アスペルギルス(Aspergillus)由来リシルオキシダーゼのユニークな配列情報が必須である。より好ましくは、コード化遺伝子のヌクレオチド配列全体が入手できなくてはならない。
【0012】
新たに同定された分泌リシルオキシダーゼを大量に比較的純粋形態で製造する改善された手段は、組み換えDNA技術を使用した、アスペルギルス(Aspergillus)がコードする酵素の過剰産生を通じた方法である。これを行う好ましい方法は、食品等級宿主微生物中における、このような分泌リシルオキシダーゼの過剰産生を通じた方法である。よく知られている食品等級微生物としては、アスペルギルス(Aspergilli)、トリコデルマ(Trichoderma)、ストレプトミセス(Streptomyces)、桿菌(Bacillus)、およびサッカロミセス(Saccharomyces)やクリヴェロミセス(Kluyveromyces)などの酵母が挙げられる。これを行うなおもより好ましい方法は、アスペルギルス(Aspergillus)などの食品等級真菌中における、分泌されたアスペルギルス(Aspergillus)由来リシルオキシダーゼの過剰産生を通じた方法である。最も好ましいのは、リシルオキシダーゼ−コード化遺伝子のコドン使用頻度が使用される食品等級発現宿主に最適化されている、食品等級真菌中における分泌リシルオキシダーゼの過剰産生である。一般に後者の最適化経路を可能にするために、分泌リシルオキシダーゼのユニークな配列情報が望ましい。より好ましくは、リシルオキシダーゼコード化遺伝子のヌクレオチド配列全体が入手できなくてはならない。ひとたび分泌リシルオキシダーゼをコードする遺伝子が好ましい宿主に形質転換されると、分泌リシルオキシダーゼタンパク質の発酵および発酵ブロスからの単離のために、選択された株が使用できる。
【0013】
ひとたび新しい酵素が大量に比較的純粋な形態で入手できるようになると、改善されたテクスチャのある食物タンパク質または加水分解産物が、食品等級で経済的な方法により生産可能である。
【0014】
共有結合タンパク質架橋の形成を触媒できる酵素はまれである。実例は、タンパク質間のジスルフィド結合形成を触媒できる、スルフヒドリルオキシダーゼタンパク質のクラスである。しかしこれらの酵素の適用性は、主としてタンパク質中の遊離スルフヒドリル基の限定的存在のために限定される。特に食物タンパク質は加工中(例えば乾燥中)に酸化条件に曝されることが多く、これは利用できるチオール基の酸化をもたらすことが多い。しかしパンなどのいくつかの応用では、ジスルフィド結合の形成およびジスルフィド結合の再シャフリングは、適切なテクスチャ形成のために非常に重要である。
【0015】
別のよく知られているタンパク質架橋酵素のクラスは、リジンおよびグルタミン残基を通じてタンパク質間の共有結合架橋の形成を触媒できるトランスグルタミナーゼである。トランスグルタミナーゼ(E.C.2.3.2.13)は、ペプチド結合グルタミン残基のγ−カルボキサミド基がアシル供与体である、アシル転移反応を触媒する。ストレプトベルティシリウム・モバラエンス(Streptoverticillium mobaraense)に由来する微生物トランスグルタミナーゼは、日本の味の素から商品名アクティバ(Activa)TGの下に市販されるが、血液由来トランスグルタミナーゼもまた商品名Harimexの下に市販される。トランスグルタミナーゼは、乳清タンパク質、ダイズタンパク質、小麦タンパク質、牛ミオシン、カゼイン、および機械脱骨家禽肉から精製された粗製アクトミオシンの架橋を触媒するのに使用されている(Zhuら,Appl Microbiol Biotechnol(1995年)44,277〜282頁)。トランスグルタミナーゼの使用については、魚加工品、肉代用品および代替え品、(プロセス)チーズ製品、ボイルドライス、麺類、ヨーグルト、および(冷凍)酪農製品で述べられている。トランスグルタミナーゼの応用例については、次の特許で述べられている。特開平9−206006号公報(ボイルドライス)、特開平9−154512号公報(麺類)、特開平9−2060031号公報(魚)、特開平8−224063号公報(タンパク質のゲル化)、特開平8−112071号公報(豆腐)、特開平8−056597号公報(フライ後の良好な歯切れ)、特開平7−184554号公報(アイスクリーム)、国際公開第9520662A号パンフレット(マガキ)、特開平6−261712号公報(カニ)、欧州特許第610649号明細書(ヨーグルト)、特開平6−153827号公報(米)、国際公開第9319610号パンフレット(牛乳)、特開平2−131537号公報(チーズ)。目的は食品テクスチャの改変であることが多いが、これはまた、例えばチーズの収率を増大させるのにも使用される。(微生物)トランスグルタミナーゼの欠点はその比較的高い熱安定性であり、それによって低温殺菌、滅菌または超高熱処理などの普通の食品加工条件下では完全に不活性化することが困難になる。70℃では酵素の不活性化には15間分かかり、75℃ではこれはなおも5分間である(味の素からのアクティバTGの製品情報シート)。通常の低温殺菌時間は72℃で15〜30秒間であり、これはトランスグルタミナーゼの不活性化の所要時間よりもはるかに短時間である。トランスグルタミナーゼ酵素の不活性化は、食品規制のために必要である。高温での長時間加熱は、例えばメイラード反応に起因する、好ましくない異臭および退色の形成をもたらすので、多くの食品用途では好ましくない。リポキシゲナーゼ、タンパク質ジスルフィドイソメラーゼ、フェノールオキシダーゼ、ペルオキシダーゼ、タンパク質ジスルフィド還元酵素、およびチロシンオキシダーゼをはじめとするいくつかのその他の酵素クラスは、タンパク質架橋剤を得るのに有用であると述べられる。タンパク質架橋酵素の基質の例としては、例えばゼラチン、乳清およびカゼインなどの乳タンパク質、ダイズタンパク質、小麦タンパク質、グルテン、トウモロコシタンパク質、エンドウマメタンパク質、およびコラーゲンなどの動物または植物起源に由来する全てのタンパク質が挙げられる。
【0016】
2、3の特許が、リシルオキシダーゼの使用について述べている。特開平2−245166号公報および特開平4−094670号公報は、魚肉ペーストのために魚肉タンパク質を変性するためのリシルオキシダーゼの使用について述べている。独国特許第1940069号明細書は、活性物質のための架橋タンパク質コーティングの製造について述べており、その中でリシルオキシダーゼが使用されてタンパク質架橋が得られる。特開2000−7825号公報は、タンパク質シート成形材料の調製について述べており、その中でリシルオキシダーゼは、タンパク質を架橋する可能な手段として言及されている。国際公開第200307728号パンフレットは、酵素的に架橋された真菌タンパク質からの菜食主義者のための調製食品について述べており、その中でトランスグルタミナーゼ、タンパク質ジスルフィドイソメラーゼ、スルフヒドリルオキシダーゼ、いくつかのポリフェニルオキシダーゼ、リシルオキシダーゼ、ペルオキシダーゼ、およびリポキシゲナーゼが真菌タンパク質のための可能な架橋酵素として言及されている。国際公開第2004105485号パンフレットは徐放粒子の調製について述べており、その中でタンパク質を架橋するためのリシルオキシダーゼの使用可能性について言及されている。これらの例はリシルオキシダーゼの産業利用を実証し、支持する。
【0017】
[発明の概要]
5つのアミノ酸配列モチーフの1つの組み合わせが、ユニークな特性を持つ排出された微生物リシルオキシダーゼの新規クラスを同定できることが意外にも分かった。本発明のリシルオキシダーゼのクラスは排出されることで、またベンジルアミンおよびトリプタミンなどの低分子量基質中のアミノ基よりも、ペプチドまたはタンパク質中のリシル残基中のアミノ基に対して選択性を有することで、ユニークである。
【0018】
さらに本発明は、
(1)アスペルギルス・ニデュランス(Aspergillus nidulans)、クリプトコッカス・ネオフォルマンス(Cryptococcus neoformans)、ポドスポラ・アンセリナ(Podospora anserina)、およびフザリウム・グラミネアルム(Fusarium graminearum)のリシルオキシダーゼ、
(2)I−H−D−[NS]−L−S−G−S−M−H−D−H−V−[IL]−N−F−K(配列番号11)(括弧内の残基はその点で許容される縮重を示し、アミノ酸は一文字コードである)のアミノ酸モチーフを含有するリシルオキシダーゼ、
(3)(1)または(2)のリシルオキシダーゼをコードするDNA配列、
(4)(3)のDNA配列を含んでなる発現ベクター、
(5)(4)の発現ベクターを含んでなる宿主細胞、および
(6)(2)からのモチーフの存在をスクリーニングするステップと、アミノ酸を配列決定するステップを含んでなる、新規テクスチャおよび収率改善酵素を同定する方法、
(7)加熱ステップによって活性化されてタンパク質ゲルを形成できる、反応性タンパク質中間体を調製する方法
を提供する。
【0019】
本発明のリシルオキシダーゼは、OのHへの還元が続いて起こる、タンパク質またはペプチド中のリシル基の対応するアルデヒドへの酸化的脱アミノ化を触媒でき、有利には、食品、飼料もしくは栄養補給食品、またはそれらの中間生成物を調製するのに使用される。
【0020】
したがって本発明は、OのHへの還元が続いて起こる、タンパク質またはペプチド中のリシル基の対応するアルデヒドへの酸化的脱アミノ化を触媒できるリシルオキシダーゼであって、
(a)少なくとも1.1、好ましくは少なくとも1.3、より好ましくは少なくとも1.4のAc−Gly−Lys−OMeに対するリシルオキシダーゼ活性とベンジルアミンに対するリシルオキシダーゼ活性との比率を示し、活性は37℃およびpH7.0で判定され、
(b)0〜60℃の温度で最適活性を有する、
リシルオキシダーゼと、
食品、飼料もしくは栄養補給食品、またはそれらの中間生成物の調製におけるその好ましい使用と、を提供する。
【0021】
別の態様に従って、本発明は、OのHへの還元が続いて起こる、タンパク質またはペプチド中のリシル基の対応するアルデヒドへの酸化的脱アミノ化を触媒できるリシルオキシダーゼであって、
I H D[N S]L S G S M H D H V[IL]N F K
(括弧内の残基はその点で許容される縮重を示し、アミノ酸は一文字コードである)のアミノ酸モチーフを含んでなるリシルオキシダーゼと、食品、飼料もしくは栄養補給食品、またはそれらの中間生成物の調製におけるその好ましい使用と、を提供する。
【0022】
本発明の別の態様では、
(a)配列番号1〜4のいずれかのアミノ酸配列全体と少なくとも60%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を有するポリペプチド、
(b)(i)配列番号6の核酸配列、または(ii)配列番号6の核酸配列に相補的な核酸配列と、低ストリンジェンシー条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチド
からなる群から選択される、リシルオキシダーゼ活性を有するポリペプチドが提供される。
【0023】
リシルオキシダーゼは有利には、食品または飼料または栄養補給食品を調製するために、または食品または飼料または栄養補給食品を調製するための中間生成物を調製するために使用される。
【0024】
本発明のさらなる態様に従って、リシルオキシダーゼの産生に適した条件下で、
I H D[NS]L S G S M H D H V[IL]N F K
のアミノ酸配列を含んでなるリシルオキシダーゼをコードするポリヌクレオチドを含んでなる核酸コンストラクトを含んでなる宿主細胞を培養するステップと、リシルオキシダーゼを回収するステップとを含んでなる、リシルオキシダーゼを製造する方法が提供される。
【0025】
本発明はまた、
I H D[NS]L S G S M H D H V[IL]N F K
のアミノ酸配列の存在についてアミノ酸配列をスクリーニングするステップを含んでなる、新規リシルオキシダーゼを同定する方法にも関する。
【0026】
さらに本発明は、食品または飼料製品と、本発明のリシルオキシダーゼまたは本発明のリシルオキシダーゼの酵素組成物とを接触させることで、それを変性するステップを含んでなる、タンパク質またはペプチドを含有する食品または飼料製品を変性する方法を提供する。
【0027】
ここで使用されるアミノ酸の一文字コードは、一般に当該技術分野で知られており、サムブルック(Sambrook)ら,「分子クローニング:実験室マニュアル(Molecular Cloning:A Laboratory Manual)」,第2版,Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,NY,1989年)にある。
【0028】
本発明の一態様は、本発明の配列を使用した際の分泌リシルオキシダーゼの過剰発現である。さらに本発明者らは、異なる真菌から活性分泌リシルオキシダーゼを同定し選択するのに使用できる配列モチーフを提供する。このアプローチを使用して、本発明者らはアスペルギルス・ニデュランス(Aspergillus nidulans)、フザリウム・グラミネアルム(Fusarium graminearum)、ポドスポラ・アンセリナ(Podospora anserina)、およびクリプトコッカス・ネオフォルマンス(Cryptococcus neoformans)からのリシルオキシダーゼを選択し、発現できた。
【0029】
本発明のリシルオキシダーゼは、食品産業で通常使用される低温殺菌工程中に不活性化される。
【0030】
低温殺菌処理は、少なくとも75℃、好ましくは少なくとも80℃の温度で実施してもよい。一実施態様では熱処理は75℃〜145℃の温度で行われ、好ましい実施態様では熱処理は75℃〜120℃の温度で行われる、より好ましい実施態様では熱処理は75℃〜100℃の温度で行われ、なおもより好ましい実施態様では熱処理は80℃〜90℃で実施される。熱処理の長さは、リシルオキシダーゼの不活性化を達成するのに適したあらゆる時間であってもよい。一実施態様では熱処理の長さは1秒〜30分である。一実施態様では熱処理は75℃〜90℃で5秒〜30分行われ、別の実施態様では熱処理は80℃〜90℃で2秒〜30分行われ、なおもさらなる実施態様では熱処理は80℃〜145℃で1秒〜20分行われる。熱処理は当該技術分野で知られているあらゆる方法によって行ってもよい。
【0031】
本発明の別の態様に従って、本発明の酵素はタンパク質と共にインキュベートすると、タンパク質ゲルのテクスチャの改変をもたらす。改変は新しい二段法において得られる。第1段階では、タンパク質をリシルオキシダーゼで処理する。タンパク質が少なくとも75℃、好ましくは80℃に加熱される第2段階で架橋が得られる。架橋に先だって、タンパク質を場合により限外濾過してもよく、または著しいタンパク質の架橋をもたらさない(<1%)温度条件下で乾燥させてもよい。乾燥温度は、好ましくは60℃未満、より好ましくは50℃未満、最も好ましくは40℃未満である。熱処理は、酵素を不活性化するのに使用される熱処理と同時でもよい。得られた架橋タンパク質を食品および飼料成分として使用して、それらのテクスチャを改善してもよい。
【0032】
本発明の別の態様に従って、本発明の酵素は、タンパク質と共にインキュベートすると、タンパク質ゲルのテクスチャの改変をもたらす。本発明はまた、リシルオキシダーゼによってタンパク質またはペプチドのリシル−アミンを酸化的脱アミノ化するステップと、反応性アルデヒドを含有するタンパク質またはペプチドを好ましくは濃縮および/または乾燥するステップを含んでなる、タンパク質またはペプチド中で反応性アルデヒドを調製する方法も提供する。
【0033】
さらに本発明は、反応性アルデヒドを含んでなるタンパク質またはペプチドを好ましくは加熱によって処理してタンパク質またはペプチドを架橋するステップを含んでなる、架橋タンパク質またはペプチドを調製する方法を提供する。
【0034】
本発明の別の態様に従って、好ましくは乾燥形態である反応性アルデヒドを含んでなるタンパク質またはペプチドが、タンパク質のリシル−アミンの酸化的脱アミノ化によって形成される。
【0035】
[発明の詳細な説明]
「ペプチド」または「オリゴペプチド」は、本明細書においてペプチド結合を通じて連結された少なくとも2つのアミノ酸の鎖と定義される。「ペプチド」および「オリゴペプチド」という用語は、(一般に認識されるように)同義と見なされ、各用語は文脈の必要に応じて同義的に使用できる。
【0036】
「ポリペプチド」は、本明細書において30個を超えるアミノ酸残基を含んでなる鎖と定義される。全ての(オリゴ)ペプチドおよびポリペプチドの式または配列は、本明細書では慣行に従ってアミノ末端からカルボキシ末端の方向で左から右に記述される。本明細書において使用されるアミノ酸の1文字コードについては、一般に当該技術分野で知られており、Sambrookら著、「分子クローニング実験室マニュアル(Molecular Cloning:A Laboratory Manual)」、第2版、Cold Spring Harbor Laboratory、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、NY、1989年、にある。
【0037】
乳タンパク質とは、牛乳、スキムミルク、無脂肪乳、バターミルク、ヨーグルト、所望のタンパク質濃度に水に溶解させた粉乳、場合により乳清タンパク質を含有する所望のタンパク質濃度に水に溶解させたカゼイネート、κ−カゼインからのグリコマクロペプチド(GMP)溶液またはその組み合わせを意味する。
【0038】
加水分解産物とは、タンパク質の加水分解によって形成される生成物(または簡潔にタンパク質加水分解産物または加水分解タンパク質)、タンパク質加水分解産物の可溶性画分である酸可溶性加水分解産物(ここでは可溶性ペプチド含有組成物または可溶性ペプチドを含んでなる組成物とも称される)、またはタンパク質加水分解産物および酸可溶性加水分解産物の混合物を意味する。
【0039】
栄養補給食品という用語は、ここでの用法では栄養および製薬分野用途の双方における有用性を意味する。したがって本発明の組成物を含んでなる新規栄養補給食品組成物は、食品および飲料への栄養補給剤としての用途、およびカプセルまたは錠剤などの固形製剤、または溶液、懸濁液またはエマルジョンなどの液体製剤であってもよい、経腸的または非経口用途のための医薬製剤または薬剤としての用途を見出すことができる。
【0040】
本発明に従った架橋のための適切な基質は、タンパク質、ペプチド、加水分解産物、変性タンパク質またはペプチド、およびアミン官能基を有するその他の化合物である。
【0041】
上述の架橋酵素は、タンパク質分子間に共有結合を構築する。酵素トランスグルタミナーゼは、グルタミンおよびリジン残基を使用して結合形成を直接触媒する。トランスグルタミナーゼの作用の効果は、例えば粘度増大または改善されたおよび硬さ(改善されたテクスチャ)として即座に見られることが多く(例えば味の素アクティバ(登録商標)WMによる技術情報、Das enzym mit biss;Thought TNO newletter,TNO Research Institute,Netherlands、第25号、1998年10月、3頁を参照されたい)、架橋を得るためのさらなる加工段階を要さない。例えばスルフヒドリルオキシダーゼまたは水素過酸化物を発生させる酵素を使用するその他の酵素的架橋戦略もまた、さらなる加工段階を要することなくタンパク質架橋をもたらす。タンパク質中のリジン残基に対するそれらの作用によって反応性アルデヒド官能基を発生させるリシルオキシダーゼについても同じことが主張され、これらの変性タンパク質の応用については、例えば欧州特許第0988859号明細書で述べられている。この特許出願では、タンパク質架橋を得るためのリシルオキシダーゼの使用について述べられている。著者らは、変性タンパク質が80℃未満、好ましくは60℃未満の温度で取り扱われるべきであると具体的に示唆する。明らかにタンパク質結合を得るのに熱処理は必要でない。架橋タンパク質溶液は、同様の条件下の非架橋タンパク質と比較して、粘度増大および水結合能力増大を示すことが多い。これは架橋タンパク質が原料供給者から食品製造業者のような使用者に出荷される前に、それをさらに処理する必要がある場合に不都合である。架橋タンパク質を含有する溶液は高粘度であるため、架橋タンパク質は扱いがより困難であり、加工(例えば濾過)がより困難である。また架橋タンパク質を取り扱う場合、例えば乾燥のようなその他の加工段階もより困難で費用がかかる。架橋タンパク質はより良い水結合能力を有することから、その乾燥工程は、非架橋タンパク質と比較してより多くのエネルギーを要する。用途において所望される場合に容易に架橋する反応性タンパク質中間体が、開始タンパク質基質から調製できれば興味深い。それは原料製造業者の作業現場における、粘稠で高い水結合性の調製品の形成を防止して、過剰な操業費と取り扱いを防止する。反応性タンパク質中間体は、開始タンパク質基質の変性(官能性付与)を要する。本明細書において本発明者らは、この明細書で述べられるリシルオキシダーゼによって変性されたタンパク質が、意外にもこのような反応性タンパク質中間体の特徴を有することを示す。リシルオキシダーゼによって変性された乳清およびカゼインタンパク質などのタンパク質は、粘度増大を示さない。官能性付与タンパク質を続いて加熱すると、反応性タンパク質中間体はタンパク質架橋を形成し、タンパク質溶液の粘度増大およびテクスチャ増大がもたらされる。
【0042】
いくつかのリシルオキシダーゼについては、上述の通りの文献で述べられている。それらの大部分は哺乳類起源からのものであり、それらの難溶性のために高レベルでは過剰発現されていない(KucharおよびDooley,J Inorg Biochem(2001年)83,193〜204頁)。またピチア・パストリス(Pichia pastoris)からのリシルオキシダーゼは不十分に発現され(10mg/L、KucharおよびDooley,J Inorg Biochem(2001年)83,193〜204頁)、この酵素はまた細胞内産生される。欧州特許第1466979号明細書は、リシルオキシダーゼとされるものについて述べているが、本発明者らは、どうして本発明者らがこれはリシルオキシダーゼでないと考えるかについて上で論じた。さらに本発明者らは実施例1で、欧州特許第1466979号明細書で述べられるリシルオキシダーゼ(同特許での配列番号2)のクローニングおよび発現が、リシルオキシダーゼ活性の生成をもたらさないことを実証する。
【0043】
本発明者らは、意外にもアミノ酸配列モチーフ配列番号11を含有するポリペプチドが、細胞から培地中に分泌される活性真菌リシルオキシダーゼをコードすることを見いだした。本発明者らはこのようなリシルオキシダーゼの4つの例を提供する。リシルオキシダーゼZGRの配列は、アスペルギルス・ニデュランス(Aspergillus nidulans)から得られる(アミノ酸配列とこのタンパク質をコードする合成遺伝子とをそれぞれコードする配列番号1および6)。リシルオキシダーゼZGTは、クリプトコッカス・ネオフォルマンス(Cryptococcus neoformans)から得られる(アミノ酸配列とこのタンパク質をコードする合成遺伝子とをそれぞれコードする配列番号2および7)。リシルオキシダーゼGLO1はフザリウム・グラミネアルム(Fusarium graminearum)から得られる(アミノ酸配列とこのタンパク質をコードするゲノムDNA配列とをそれぞれコードする配列番号3および8)。リシルオキシダーゼZGYはポドスポラ・アンセリナ(Podospora anserina)から得られる(アミノ酸配列とこのタンパク質をコードする合成遺伝子とをそれぞれコードする配列番号4および9)。意外にもこれらの4つのタンパク質と高度に相同的であるが、配列番号11のアミノ酸配列モチーフを含有しないポリペプチドもまた生じたが、配列番号11のアミノ酸配列モチーフを含有する4つのタンパク質とは対照的に、所望の酵素活性を示さなかった。このアミンオキシダーゼGLO2は、フザリウム・グラミネアルム(Fusarium graminearum)から得られる(アミノ酸配列とこのタンパク質をコードするゲノムDNA配列とをそれぞれコードする配列番号5および10)。アミノ酸配列モチーフ配列番号11を使用して同定された4つのリシルオキシダーゼは、リジン基質に対してより高い選択性を有し、モチーフ配列番号11を欠いたリシルオキシダーゼは、選択性のより低い活性スペクトルを有する。明らかにアミノ酸モチーフ配列番号11を用いた検索は、リジン基質に対してより高選択性の活性があるリシルオキシダーゼを特異的に同定するので、有用なリシルオキシダーゼの同定における重要な新しいツールである。
【0044】
モチーフ配列番号11は、ピチア・パストリス(Pichia pastoris)リシルオキシダーゼの既知のタンパク質構造と重なり合う場合に、リシルオキシダーゼの活性中心に位置する(Duffら(2003年)Biochemistry 42,15148〜15157頁)。このモチーフ中の2つのヒスチジンは、ピチア・パストリス(Pichia pastoris)リシルオキシダーゼタンパク質のH528およびH530に相当する。これらの2つのヒスチジンは、酵素の活性部位における銅原子の結合に関与する。このアミノ酸モチーフの違いが、酵素の活性中心またはその近くにおける変化をもたらすことによって、酵素の活性または基質特異性に影響を及ぼすことは充分に考えられる。本発明者らは、当業者がこのモチーフを使用して、食品および飼料中での応用に有用な活性真菌リシルオキシダーゼを同定できると提案する。
【0045】
本発明の酵素がペプチド中のリシル残基を酸化する能力は、産業上の利用のために興味深い。なおもより有利なことに、本酵素はタンパク質中のリシル残基を酸化できる。したがって遊離リジンまたはベンジルアミンのような低分子量基質と比較して、タンパク質およびペプチド中のリシル残基に対してより高い選択性を有するリシルオキシダーゼが、産業においては好ましい。この基質選択性は重要な利点であり、工業用途のリシルオキシダーゼを選択するためのパラメーターである。
【0046】
本発明者らは本発明において、正確な配列を使用すれば、適切な基質特異性がある分泌リシルオキシダーゼの過剰発現が実際に可能であることを示す。さらに本発明者らは、異なる真菌から活性分泌リシルオキシダーゼを同定して選択するのに使用できる、配列モチーフを提供する。このアプローチを使用して、本発明者らはアスペルギルス・ニデュランス(Aspergillus nidulans)、フザリウム・グラミネアルム(Fusarium graminearum)、ポドスポラ・アンセリナ(Podospora anserina)、およびクリプトコッカス・ネオフォルマンス(Cryptococcus neoformans)からリシルオキシダーゼを選択して発現できた。
【0047】
リシルオキシダーゼは、タンパク質中のリシル基の酸化的脱アミノ化を触媒する。
−(CH−NH+O→R−(CH−CHO+H+NH
この反応において、Rはリジン残基がその一部であるタンパク質鎖である。反応性アルデヒドは、第2のリジン残基の遊離アミノ基と反応できる。
−(CH−CHO+R−(CH−NH→R−(CH−NH−(CH−R+H
このようにして2つのタンパク質分子間の共有結合が形成される。第2のリジン残基に代えて、反応性アルデヒドはまた、タンパク質のリジン残基からのもの以外で利用できるアミン基とも反応して共有結合を形成できる。タンパク質の架橋は、食品テクスチャを改変するのに特に有用である。食品は、消費者に評価される複合構造とテクスチャがある多成分材料である。現代の食品技術の主要課題は、許容可能な味覚およびテクスチャ特徴を有する限定された範囲の成分から新しい改変された構造を作り出すことである(Dickinson,Trends Food Sci technol(1997年)8,334〜339頁)。タンパク質は、半固体テクスチャ属性を与えるために食品技術者が利用できる構成単位の主要クラスの一つであり、タンパク質分子の三次元の網状組織(ゲル)への架橋および凝集は、望ましい機械的特性がある構造を開発する最も重要な機序の1つである。主にタンパク質ゲルベースである多数の伝統的食品テクスチャとしては、チーズ、ヨーグルト、ソーセージ、豆腐(ダイズカード)、およびすり身(魚肉ゲル)のテクスチャが挙げられる。疎水力、静電相互作用、水素結合、および共有結合相互作用などのいくつかの相互作用が、ゲル形成において役割を果たす。後者は、ゲル網状組織中に恒久的な架橋をもたらす。食品ゲルの粘弾性および破砕特性、ひいては消費者によって認知されるそのテクスチャは、共有結合相互作用をはじめとするゲル安定化力間の均衡に左右される。リシルオキシダーゼは分子内共有結合を形成するのに使用できるので、それらは食品テクスチャを改変するのに有用である。本発明者らは、タンパク質と共にインキュベートすると、酵素がタンパク質ゲルのテクスチャに改変をもたらすことを見いだした。さらに食品産業で通常使用される低温殺菌工程において不活性化される、タンパク質架橋酵素に対する工業的ニーズがある。本発明者らは、本発明のリシルオキシダーゼが熱不安定性の基準を満たすことを示す。
【0048】
リシルオキシダーゼ活性を有する本発明のポリペプチドは、単離形態であってもよい。本明細書において定義されるように、単離されたポリペプチドは、その他の非リシルオキシダーゼポリペプチドを本質的に含まない内因的に生成されたまたは組み換えされたポリペプチドであり、SDS−PAGEによる判定で、典型的に少なくとも約20%純粋、好ましくは少なくとも約40%純粋、より好ましくは少なくとも約60%純粋、さらにより好ましくは少なくとも約80%純粋、なおもより好ましくは約90%純粋、および最も好ましくは約95%純粋である。ポリペプチドは、遠心分離およびクロマトグラフィー法、または粗製溶液から純粋タンパク質を得るための当該技術分野で知られているあらゆるその他の技術によって単離されてもよい。ポリペプチドは、ポリペプチドの意図される目的を妨げないキャリアまたは希釈剤と混合されてもよく、したがってこの形態のポリペプチドは、なおも単離されていると見なされると理解される。それは一般に調製品中のポリペプチドを構成し、その中では調製品中のタンパク質重量の20%超、例えば30%、40%、50%、80%、90%、95%または99%超が本発明のポリペプチドである。
【0049】
好ましくは本発明のポリペプチドは、リシルオキシダーゼ活性がある酵素をコードする遺伝子を有する微生物から得られる。より好ましくは本発明のポリペプチドは、この微生物から分泌される。さらにより好ましくは微生物は真菌であり、および最適には糸状菌である。したがって好ましい供与生物は、フザリウム・グラミネアルム(Fusarium graminearum)種のものなどのフザリウム(Fusarium)属、アスペルギルス・ニデュランス(Aspergillus nidulans)種のものなどのアスペルギルス(Aspergillus)属、クリプトコッカス・ネオフォルマンス(Cryptococcus neoformans)種のものなどのクリプトコッカス(Cryptococcus)属、ポドスポラ・アンセリナ(Podospora anserina)種のものなどのポドスポラ(Podospora)属のものである。
【0050】
第1の実施態様では、本発明は、配列番号1の1〜817位のアミノ酸(すなわちポリペプチド)に対して、少なくとも30%、好ましくは少なくとも40%、好ましくは少なくとも50%、好ましくは少なくとも60%、好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%、さらにより好ましくは少なくとも90%、なおもより好ましくは少なくとも95%、および最も好ましくは少なくとも97%の程度のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を有して、リシルオキシダーゼ活性を有する単離されたポリペプチドを提供する。
【0051】
本発明の目的で、2つ以上のアミノ酸配列間の同一性の程度は、BLAST Pタンパク質データベース検索プログラム(Altschulら著、1997年、Nucleic Acids Research 25:3389〜3402頁)によって、マトリックスBlosum 62および期待閾値10を使用して判定される。
【0052】
本発明のポリペプチドは、配列番号1に記載のアミノ酸配列、または実質的に相同的な配列、またはリシルオキシダーゼ活性を有するどちらかの配列の断片を含んでなってもよい。一般に配列番号1に記載の天然アミノ酸配列が好ましい。
【0053】
本発明のポリペプチドはまた、配列番号1のポリペプチドの天然変異型、または種相同体を含んでなってもよい。
【0054】
変異型は、例えば真菌、細菌、酵母または植物細胞内で天然に生じるポリペプチドであり、変異型はリシルオキシダーゼ活性および、配列番号1のタンパク質と実質的に類似の配列を有する。「変異型」という用語は、配列番号1のリシルオキシダーゼと同じ本質的特性または基本的生物学的機能性を有するポリペプチドを指し、対立遺伝子多型を含む。好ましくは変異型ポリペプチドは、配列番号1のポリペプチドと少なくとも同一レベルのリシルオキシダーゼ活性を有する。変異型は、配列番号1のポリペプチドと同じ株から、または同じ属または種の異なる株からのどちらかの対立遺伝子多型を含む。
【0055】
同様に本発明のタンパク質の種相同体は、リシルオキシダーゼであって別の種で自然発生する同様の配列の同等タンパク質である。配列番号1のポリペプチドの種相同体の例は、配列番号2、3、および4に記載される。
【0056】
変異型および種相同体は、配列番号1のポリペプチドを単離するのに使用される本明細書で述べられている手順を使用して、このような手順を例えば細菌、酵母、真菌または植物細胞などの適切な細胞源に実施して単離できる。また配列番号1のポリペプチドの変異型または種相同体を発現するクローンを得るために、本発明のプローブを使用して、酵母、細菌、真菌または植物細胞からできたライブラリーを探索することも可能である。既知の遺伝子の変異型および種相同体を単離するのに使用できる方法は文献で詳細に述べられており、当業者に知られている。これらの遺伝子を従来の技術によって操作して、その後それ自体が既知である組み換えまたは合成技術によって生成されてもよい、本発明のポリペプチドを作り出すことができる。
【0057】
配列番号1のポリペプチドおよび変異型および種相同体の配列を修飾して、本発明のポリペプチドを提供することもできる。例えば1、2または3から10、20または30個の置換などのアミノ酸置換を行ってもよい。また同一数の欠失および挿入を行ってもよい。修飾されたポリペプチドがそのリシルオキシダーゼ活性を維持するように、これらの変更をポリペプチドの機能に重要な領域の外で行ってもよい。
【0058】
本発明のポリペプチドは、配列番号1に記載の配列の断片をはじめとする、前述の全長ポリペプチドの断片、およびその変異型の断片を含む。このような断片は、典型的にリシルオキシダーゼとしての活性を維持する。断片は、少なくとも50、100または200個のアミノ酸の長さであってもよく、またはこのアミノ酸数は、配列番号1に記載の全長配列に達していないくてもよい。
【0059】
通常、本発明のポリペプチドは後述するように組み換え的によって作られるが、それらは必要ならば合成手段によって生成できる。合成ポリペプチドは、例えばそれらの同定または精製を助けるヒスチジン残基またはT7 tagの添加によって、またはそれらの細胞からの分泌を促進するシグナル配列の添加によって修飾してもよい。
【0060】
したがって変異型配列は、配列番号1のポリペプチドが単離された株以外のアスペルギルス(Aspergillus)株に由来するものを含んでなってもよい。変異型は、本明細書で述べられているように、リシルオキシダーゼ活性を調べることで、およびクローニングおよび配列決定によって、その他のアスペルギルス(Aspergillus)株から識別できる。ペプチドが配列番号1のリシルオキシダーゼの基本的生物学的機能性を維持しさえすれば、変異型は、欠失、修飾または単一アミノ酸またはアミノ酸群の付加をタンパク質配列内に含んでもよい。
【0061】
例えば1、2または3から10、20または30個の置換などのアミノ酸置換を行ってもよい。修飾ポリペプチドは、一般にリシルオキシダーゼとしての活性を維持する。保存的置換を行ってもよく、このような置換については当該技術分野でよく知られている。
【0062】
より短いポリペプチド配列は、本発明の範囲内である。例えば長さが少なくとも50個のアミノ酸、または100、150、200、300、400、500、600、700または800個までのアミノ酸のペプチドは、配列番号1のリシルオキシダーゼの基本的生物学的機能を示す限りは、本発明の範囲内に入ると見なされる。特に本発明のこの態様は、タンパク質が完全なタンパク質配列の断片である状況を包含するが、これに限定されるものではない。
【0063】
本発明はまた、リシルオキシダーゼ活性を有するポリペプチドをコードして、
(a)アミノ酸配列番号1をコードするポリヌクレオチド配列、および
(b)アミノ酸配列番号2をコードするポリヌクレオチド配列、および
(c)アミノ酸配列番号3をコードするポリヌクレオチド配列、および
(d)アミノ酸配列番号4をコードするポリヌクレオチド配列
を含んでなる、ポリヌクレオチドにも関する。
【0064】
本発明では、配列番号11のリシルオキシダーゼ共通配列を含有するポリペプチドは、本発明の範囲内である。本発明では、関心のあるタンパク質が増殖培地中に能動的に分泌されることは、特に妥当である。分泌タンパク質は、常態では当初はプレタンパク質として合成され、引き続いて分泌過程においてプレ配列(シグナル配列)が除去される。分泌過程は、原核生物および真核生物において基本的に同様である。能動的に分泌されたプレタンパク質は膜を通り抜け、特異的シグナルペプチダーゼによってシグナル配列が除去され、成熟タンパク質が(再度)折りたたまれる。シグナル配列についてもまた、一般構造が認識できる。分泌のためのシグナル配列はプレタンパク質のアミノ末端に位置し、一般に長さが15〜30個のアミノ酸である。アミノ末端は、好ましくは正に帯電したアミノ酸を含有し、好ましくは非酸性アミノ酸を含有しない。この正に帯電した領域が、膜のリン脂質の負に帯電した頭部基と相互作用すると考えられる。この領域に疎水性の膜通過コア領域が続く。この領域は、一般に長さが10〜20個のアミノ酸であり、主に疎水性アミノ酸から成る。荷電したアミノ酸は、常態ではこの領域内に存在しない。膜貫通領域にシグナルペプチダーゼ認識部位が続く。認識部位は、small−X−smallを好むアミノ酸からなる。小型アミノ酸は、アラニン、グリシン、セリンまたはシステインであることができる。Xはあらゆるアミノ酸であることができる。このような規則を使用して、真核生物および原核生物からこのようなシグナル配列を認識できるアルゴリズムが記述されている(Bendtsen、Nielsen、von Heijne、およびBrunak著、(2004年)J.Mol.Biol.、340:783〜795頁)。タンパク質中のシグナル配列を計算および認識するSignalPプログラムは、一般に利用できる(http://www.cbs.dtu.dk/services/SignalP/)。
【0065】
本発明に関連があるのは、配列決定された遺伝子の推定タンパク質配列から、シグナル配列が認識できることである。SignalPプログラムを使用してシグナル配列が予測されるタンパク質を遺伝子がコードする場合、このタンパク質が分泌される確率は高い。したがって、好ましくは、本発明の目的は、SignalPプログラムによって検出されるシグナル配列の存在と合わせて、配列番号11のコンセンサスを使用して、リシルオキシダーゼ活性を有する新しいタンパク質を発見する新しい方法を提供することである。
【0066】
第2の実施態様では、本発明はリシルオキシダーゼ活性を有し、低ストリンジェンシー条件、より好ましくは中度のストリンジェンシー条件、最も好ましくは高ストリンジェンシー条件の下で、(i)配列番号6の核酸配列、または(ii)配列番号6の少なくとも一部を含んでなる核酸断片、または(iii)配列番号6の塩基とは異なる塩基を有する、または(iv)配列番号6に相補的な核酸ストランドとハイブリダイズするまたはハイブリダイズできる、ポリヌクレオチドによってコードされる単離されたポリペプチドを提供する。
【0067】
「ハイブリダイズできる」という用語は、本発明の標的ポリヌクレオチドが、プローブとして使用される核酸(例えば配列番号6に記載のヌクレオチド配列、またはその断片、または配列番号6の相補体、またはその断片)と、バックグラウンドを顕著に超えるレベルでハイブリダイズできることを意味する。本発明はまた、本発明のリシルオキシダーゼをコードするポリヌクレオチド、ならびにそれに相補的なヌクレオチド配列も含む。ヌクレオチド配列は、ゲノムDNA、合成DNAまたはcDNAをはじめとするRNAまたはDNAであってもよい。好ましくはヌクレオチド配列はDNA、最も好ましくは合成DNA配列である。典型的に本発明のポリヌクレオチドは、選択的条件下で、配列番号6のコード配列またはコード配列相補体とハイブリダイズできる近接するヌクレオチド配列を含んでなる。このようなヌクレオチドが、当該技術分野でよく知られている方法に従って合成できる。
【0068】
本発明のポリヌクレオチドは、配列番号6のコード配列またはコード配列相補体と、バックグラウンドを顕著に超えるレベルでハイブリダイズできる。バックグラウンドハイブリダイゼーションは、例えばcDNAライブラリー中に存在するその他のcDNAのために起こるかもしれない。本発明のポリヌクレオチドと配列番号6のコード配列またはコード配列相補体間の相互作用によって生じるシグナルレベルは、典型的に、その他のポリヌクレオチドと配列番号6のコード配列間の相互作用強度の少なくとも10倍、好ましくは少なくとも20倍、より好ましくは少なくとも50倍、およびさらにより好ましくは少なくとも100倍である。相互作用強度は、例えば32Pを使用して、例えばプローブを放射標識して測定されてもよい。選択的ハイブリダイゼーションは、典型的に、低ストリンジェンシー(約40℃で0.3M塩化ナトリウムおよび0.03Mクエン酸ナトリウム)、中程度ストリンジェンシー(例えば約50℃で0.3M塩化ナトリウムおよび0.03Mクエン酸ナトリウム)または高ストリンジェンシー(例えば約60℃で0.3M塩化ナトリウムおよび0.03Mクエン酸ナトリウム)条件を使用して達成されてもよい。
【0069】
本発明のポリヌクレオチドはまた、配列番号1、配列番号2、配列番号3または配列番号4のポリペプチドまたはその変異型をコードできる合成遺伝子を含む。遺伝子のコドン使用頻度を生産宿主中の好ましいバイアスに適応させることが好ましい場合もある。合成遺伝子をデザインおよび設計する技術は、一般に利用できる(例えばhttp://www.dnatwopointo.com/)。
【0070】
[修飾]
本発明のポリヌクレオチドは、DNAまたはRNAを含んでなってもよい。それらは一本鎖または二本鎖であってもよい。それらはまた、ペプチド核酸をはじめとする合成または修飾ヌクレオチドをその中に含むポリヌクレオチドであってもよい。いくつかの異なるタイプのポリヌクレオチド修飾が当該技術分野で知られている。これらとしては、メチルホスホン酸およびホスホロチオエート主鎖、および分子の3’および/または5’末端へのアクリジンまたはポリリジン鎖の付加が挙げられる。本発明の目的で、本明細書で述べられているポリヌクレオチドは、当該技術分野で利用できるあらゆる方法で修飾されてもよいものと理解される。
【0071】
当業者は、日常的技術を使用して、本発明のポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチド配列に影響しないヌクレオチド置換を行い、その中で本発明のポリペプチドが発現される、あらゆる特定の宿主生物のコドン使用頻度を反映させてもよいものと理解される。
【0072】
配列番号6のコード配列は、例えば1、2または3から10、25、50、100個またはそれ以上の置換などのヌクレオチド置換によって修飾されてもよい。配列番号6のポリヌクレオチドは、1つ以上の挿入および/または欠失によって、および/または一端または両端の延長によって、代案としてまたは追加的に修飾されてもよい。修飾ポリヌクレオチドは、一般に、リシルオキシダーゼ活性を有するポリペプチドをコードする。例えば後でポリペプチドについて考察するように、縮重置換を行ってもよく、および/または修飾配列の翻訳時に保存的アミノ酸置換をもたらす置換を行ってもよい。
【0073】
[相同体]
配列番号6のDNAコード配列の相補体と選択的にハイブリダイズできるヌクレオチド配列は本発明に含まれ、少なくとも60、好ましくは少なくとも100、より好ましくは少なくとも200個の近接するヌクレオチドにわたり、または最も好ましくは配列番号6の全長の領域にわたって、一般に配列番号6のコード配列と少なくとも50%または60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%または少なくとも99%の配列同一性を有する。同様に能動的リシルオキシダーゼをコードして、配列番号6のDNAコード配列の相補体断片と選択的にハイブリダイズできるヌクレオチドもまた、本発明で受け入れられる。前述の同一性程度および最小サイズのあらゆる組み合わせを使用して本発明のポリヌクレオチドを定義してもよく、よりストリンジェントな組み合わせ(すなわちより長い範囲にわたるより高い同一性)が好ましい。したがって例えば60個を超える、好ましくは100個を超えるヌクレオチドが少なくとも80%または90%同一であるポリヌクレオチドは本発明の一態様を形成し、200個を超えるヌクレオチドが少なくとも90%同一であるポリヌクレオチドについても同様である。
【0074】
BLASTPおよびBLAST Nアルゴリズムは、(例えばそれらのデフォルト設定で同等のまたは対応する配列を同定するなど)配列同一性を計算し、または配列を位置合わせするのに使用できる。
【0075】
BLAST分析を実施するためのソフトウェアは、国立バイオテクノロジー情報センター(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)を通じて公的に利用可能である。このアルゴリズムは最初に、データベース配列中の同じ長さのワードと配列比較すると、ある正値の閾値スコアTとマッチするかそれを満たすかのいずれかである、クエリー配列中の長さWの短いワードを同定することで、高採点配列対(HSP)を同定することを伴う。Tは近傍単語スコア閾値と称される。これらの初期近傍単語ヒットは、それらを含有するHSPを見つけるために検索を開始するシード(seed)として機能する。ワードヒットは、累積アラインメントスコアが増大できる限り、各配列に沿って両方向に延長される。各方向におけるワードヒットのための延長は、累積アラインメントスコアがその最大達成値からXの量だけ低下した場合、1つ以上の負の採点の残基アラインメントの蓄積のために累積スコアがゼロ以下になった場合、またはどちらかの配列の終わりに達した場合、停止する。BLASTアルゴリズムパラメーターのW、T、およびXは、配列比較の感受性およびスピード(speed)を決定する。DNA−DNA比較からのBLASTNプログラムは、デフォルトとして、ワード長(W)11、期待値(E)10、および双方のストランド比較を使用する。タンパク質−タンパク質比較のためのBLASTPプログラムは、デフォルトとしてワード長(W)3、BLOSUM62スコア行列、ギャップ延長ペナルティ1を伴うギャップ存在ペナルティ11、および期待値(E)10を使用する。
【0076】
BLASTアルゴリズムは、2つの配列間の類似性の統計学的分析を実施する。BLASTアルゴリズムによって提供される類似性の1つの尺度は、それによって2つのヌクレオチドまたはアミノ酸配列間のマッチが偶発する確率の指標を提供する、最少確率和(P(N))である。例えば第1の配列と第2の配列との比較における最少確率和が約1未満、好ましくは約0.1未満、より好ましくは約0.01未満、最も好ましくは約0.001未満であれば、配列は別の配列に類似していると見なされる。
【0077】
[プライマーおよびプローブ]
本発明のポリヌクレオチドはプライマーを含み、例えばポリメラーゼ連鎖反応(PCR)プライマーとして、代案の増幅反応のためのプライマーとして、または例えば放射性または非放射性標識を使用して従来の手段によって明示用標識で標識してプローブとして使用してもよく、またはポリヌクレオチドをベクター中にクローンしてもよい。このようなプライマー、プローブ、およびその他の断片は、長さが少なくとも15個、例えば少なくとも20、25、30または40個のヌクレオチドである。それらは長さが典型的に40、50、60、70、100、150、200または300個までのヌクレオチドであり、または配列番号6のコード配列よりも短い数個までのヌクレオチド(5または10個のヌクレオチドなど)でさえある。
【0078】
一般にプライマーは、ヌクレオチド1つずつの所望の核酸配列の段階的製造を伴う、合成手段によって生成される。これを達成するための技術およびプロトコールは、当該技術分野で容易に利用できる。より長いポリヌクレオチドは、例えばPCRクローニング技術を使用して、一般に組み換え手段を使用して生成される。これは(典型的に約15〜30個のヌクレオチドの)プライマー対を作成して、クローンするリシルオキシダーゼの所望の領域を増幅し、プライマーを酵母、細菌、植物、原核生物または好ましくはアスペルギルス(Aspergillus)株である真菌細胞から得られたmRNA、cDNAまたはゲノムDNAに接触させて、所望領域の増幅に適した条件下でポリメラーゼ連鎖反応を実施し、(例えば反応混合物をアガロースゲル上で精製することで)増幅された断片を単離して、増幅されたDNAを回収することを伴う。増幅されたDNAが適切なクローニングベクター中にクローンできるように、プライマーは適切な制限酵素認識部位を含有するようにデザインされてもよい。
【0079】
代案としては、分泌されたリシルオキシダーゼまたはその変異型のコード領域を包含する合成遺伝子を構築できる。これらの技術を使用して、多くの位置で修飾されながら、なおも同一タンパク質をコードするポリヌクレオチドを好都合にデザインして構築できる。これはコドン使用頻度を好ましい発現宿主に適応できるという利点を有し、したがってこの宿主中でのタンパク質生産性を改善できる。また遺伝子のポリヌクレオチド配列を変更して、mRNAの安定性を改善し、または回転率を低下させることができる。これは所望のタンパク質またはその変異型の改善された発現をもたらすことができる。さらに分泌効率、安定性、タンパク質分解敏感性、最適温度、比活性、またはタンパク質の工業生産または応用に妥当なその他の特性に対して好ましい効果を有する突然変異が、タンパク質配列中で生じるように、ポリヌクレオチド配列を合成遺伝子中で変更できる。合成遺伝子を構築してコドン使用頻度を最適化するサービスを提供する会社が、一般に利用できる。
【0080】
このような技術を使用して、本明細書で述べられているリシルオキシダーゼ配列をコードするポリヌクレオチドの全部または一部を得てもよい。イントロン、プロモーター、およびトレーラー領域は本発明の範囲内であり、これらもまた真菌、酵母、細菌、植物または原核細胞からのゲノムDNAから開始して、類似様式で(例えば組み換え手段、PCRまたはクローニング技術によって)得てもよい。
【0081】
ポリヌクレオチドまたはプライマーは、明示用標識を保有しても良い。適切な標識としては、32Pまたは35Sなどの放射性同位体、蛍光性標識、酵素標識、またはビオチンなどのその他のタンパク質標識が挙げられる。このような標識を本発明のポリヌクレオチドまたはプライマーに添加してもよく、当業者に知られている技術を使用して検出してもよい。
【0082】
真菌サンプル中で、リシルオキシダーゼまたはその変異型を検出または配列決定するための核酸ベースの試験において、標識または非標識ポリヌクレオチドまたはプライマー(またはその断片)を使用してもよい。このような検出試験は、一般に、ハイブリダイズ条件下で、関心のあるDNAを含有することが疑われる真菌サンプルと、本発明のポリヌクレオチドまたはプライマーを含んでなるプローブとを接触させるステップと、サンプルのプローブと核酸との間に形成されたあらゆる二本鎖を検出するステップを含んでなる。検出は、PCRなどの技術を使用することで、または固体担体上にプローブを固定し、プローブとハイブリダイズしないサンプル中のあらゆる核酸を除去し、次にプローブとハイブリダイズするあらゆる核酸を検出することで達成してもよい。代案としてはサンプル核酸を固体担体上に固定化し、プローブをハイブリダイズして、あらゆる非結合プローブの除去後に、このような担体に結合したプローブ量を検出してもよい。
【0083】
本発明のプローブは、好都合には、適切な容器内に試験キットの形態で包装されてもよい。そのためにキットがそのためにデザインされたアッセイ形態がこのような結合を必要とする場合、このようなキット中でプローブが固体担体に結合していてもよい。キットはまた、プローブするサンプルを処理し、サンプル中の核酸にプローブをハイブリダイズするための適切な試薬、対照試薬、説明書なども含有する。プローブおよび本発明のポリヌクレオチドはまた、微量検定法で使用してもよい。
【0084】
好ましくは本発明のポリヌクレオチドは、ポリペプチドと同じ、真菌など、特にアスペルギルス(Aspergillus)属の真菌である生物から得ることが可能である。
【0085】
[ポリヌクレオチドの生成]
配列番号6と100%の同一性を有さないが、本発明の範囲内に入るポリヌクレオチドをいくつかの方法で得ることができる。したがって本明細書で述べられているリシルオキシダーゼ配列の変異型を、例えば本発明のポリペプチドの起源として考察されたものなどの一連の生物からできたゲノムDNAライブラリーを探査して得てもよい。さらにその他のリシルオキシダーゼの真菌、植物または原核生物相同体を得てもよく、このような相同体およびその断片は、一般に配列番号6とハイブリダイズすることができる。このような配列は、その他の種からのcDNAライブラリーまたはゲノムDNAライブラリーを探査して得てもよく、このようなライブラリーを(先に述べたように)低、中程度から高ストリンジェンシー条件下で、配列番号6の全部または一部を含んでなるプローブで探査する。配列番号6の全部または一部を含んでなる核酸プローブを使用して、本発明のポリペプチドの起源として述べたものなどのその他の種からのcDNAまたはゲノムのライブラリーを探査してもよい。
【0086】
種相同体はまた、保存アミノ酸配列をコードする変異型および相同体中の配列を標的とするようにデザインされたプライマーを使用する縮重PCRを使用して得てもよい。プライマーは1つ以上の縮重位置を含有でき、既知の配列に対する単一配列プライマーがある配列のクローニングのために使用されるものよりも、低いストリンジェンシー条件で使用される。リシルオキシダーゼの種相同体を得るための好ましい方法は、配列番号11に記載の共通配列をコードする配列を標的とするプライマーをデザインすることである。
【0087】
代案としては、このようなポリヌクレオチドは、リシルオキシダーゼ配列またはその変異型の部位特異的変異誘発によって得てもよい。これは例えば、その中でポリヌクレオチド配列が発現される特定の宿主細胞のためにコドン選択を最適化するのに、配列に対するサイレントなコドン変化が必要とされる場合に有用かもしれない。制限酵素認識部位を導入するため、またはポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドの特質または機能を変更させるために、その他の配列変化を加えてもよい。
【0088】
本発明は、本発明のポリヌクレオチドおよびその相補体を含んでなる二本鎖ポリヌクレオチド含む。
【0089】
本発明はまた、上述の本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを提供する。このようなポリヌクレオチドは、本発明のポリペプチドの組み換え生産のための配列として有用であるので、それらが配列番号6の配列とハイブリダイズできる必要はないが、これは一般に望ましい。さもなければこのようなポリヌクレオチドは、所望ならば標識されて、使用され、上述のように作成されてもよい。
【0090】
[組み換えポリヌクレオチド]
本発明はまた、クローニングおよび発現ベクターをはじめとする、本発明のポリヌクレオチドを含んでなるベクターも提供し、別の態様ではこのようなベクターを生育させ、例えば本発明のポリペプチド、または本発明の配列によってコードされるポリペプチドの発現が起きる条件下で、適切な宿主細胞に形質転換または形質移入する方法も提供する。本発明のポリヌクレオチドまたはベクターを含んでなる宿主細胞もまた提供され、ここでポリヌクレオチドは宿主細胞ゲノムにとって異種である。「異種」という用語は、通常宿主細胞に対し、ポリヌクレオチドが宿主細胞ゲノム中で自然発生しないこと、またはポリペプチドが細胞によって自然に生成されないことを意味する。好ましくは宿主細胞は、酵母細胞、例えばクリヴェロミセス(Kluyveromyces)、ピチア(Pichia)、ハンゼヌラ(Hansenula)またはサッカロミセス(Saccharomyces)属の酵母細胞であり、または、例えばアスペルギルス(Aspergillus)、トリコデルマ(Trichoderma)またはフザリウム(Fusarium)属の糸状菌細胞である。
【0091】
[ベクター]
その中に本発明の発現カセットが挿入されるベクターは、好都合には組み換えDNA手順を施してもよい、あらゆるベクターであってもよく、ベクターの選択は、その中にそれが導入される宿主細胞に左右されることが多い。したがってベクターは自律的に複製するベクターであってもよく、すなわちプラスミドなど、その複製が染色体の複製から独立している、染色体外の実体として存在するベクターであってもよい。代案としてはベクターは、宿主細胞に導入されると宿主細胞ゲノムに組み込まれ、それが組み込まれた染色体と共に複製されるものであってもよい。
【0092】
好ましくは本発明のポリヌクレオチドがベクター中にある場合、それは宿主細胞によるコード配列の発現を提供できる制御配列と作動的に連結し、すなわちベクターは発現ベクターである。「作動的に連結する」という用語は、述べられている構成要素が、意図される様式でそれらが機能できるようになる関係にある並置位置を指す。コード配列と「作動的に連結する」プロモーター、エンハンサーまたはその他の発現調節シグナルなどの制御配列は、生成条件下でコード配列の発現が達成されるように配置される。
【0093】
例えばプラスミド、コスミド、ウイルスまたはファージベクターの場合、ベクターには複製起点、場合によりポリヌクレオチド発現のためのプロモーター、および場合によりエンハンサーおよび/またはプロモーターのレギュレーターが備わっていてもよい。ターミネーター配列が、ポリアデニル化配列として存在してもよい。ベクターは、例えば細菌プラスミドの場合はアンピシリン抵抗性遺伝子、または哺乳類ベクターではネオマイシン抵抗性遺伝子などの1つ以上の選択可能なマーカー遺伝子を含有してもよい。ベクターは、例えばRNA生成のために生体外で使用されてもよく、または宿主細胞を形質移入または形質転換するのに使用できる。
【0094】
ポリペプチドをコードするDNA配列は、好ましくはその中でDNA配列と、宿主細胞内におけるDNA配列の発現を指示できる発現シグナルとが作動的に連結する発現コンストラクトの一部として、適切な宿主中に導入される。発現コンストラクトによる適切な宿主の形質転換のためには、当業者によく知られている形質転換手順が利用できる。発現コンストラクトは、選択可能なマーカーを保有するベクターの一部として、宿主の形質転換のために使用でき、または発現コンストラクトは、選択可能なマーカーを保有するベクターと共に、別個の分子として同時形質転換される。ベクターは、1つ以上の選択可能なマーカー遺伝子を含有してもよい。
【0095】
好ましい選択可能なマーカーとしては、宿主細胞内の欠損を補完するもの、または薬剤抵抗性を与えるものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。それらとしては、例えばアセトアミダーゼ遺伝子またはcDNA(A.ニデュランス(A.nidulans)、コウジカビ(A.oryzae)、またはA.ニガー(A.niger)からのamdS、niaD、facA遺伝子またはcDNA)などのほとんどの糸状菌および酵母の形質転換のために使用できる用途の広いマーカー遺伝子、またはG418、ハイグロマイシン、ブレオマイシン、カナマイシン、フレオマイシンまたはベノミル抵抗性(benA)のような抗生物質に対する抵抗性を提供する遺伝子が挙げられる。代案としては、例えばURA3(S.セレヴィシエ(S.cerevisiae)からのまたはその他の酵母からの類似遺伝子)、pyrGまたはpyrA(A.ニデュランス(A.nidulans)またはA.ニガー(A.niger)からの)、argB(A.ニデュランス(A.nidulans)またはA.ニガー(A.niger)からの)またはtrpCなどの対応する突然変異宿主株を必要とする栄養要求性マーカーなどの特異的選択マーカーが使用できる。好ましい実施態様では、選択マーカー遺伝子を含まないポリペプチドを生成できる転換宿主細胞を得るように、発現コンストラクト導入後に選択マーカーが転換宿主細胞から除去される。
【0096】
その他のマーカーとしては、ATPシンセターゼサブユニット9(oliC)、オロチジン−5’−ホスフェート−デカルボキシラーゼ(pvrA)、細菌G418抵抗性遺伝子(酵母中で有用であるが糸状菌中では有用でない)、アンピシリン抵抗性遺伝子(大腸菌(E.coli))、ネオマイシン抵抗性遺伝子(バシラス(Bacillus))、およびグルクロニターゼ(GUS)をコードする大腸菌(E.coli)uidA遺伝子が挙げられる。ベクターは、例えばRNAの生成のために、または宿主細胞を形質移入または形質転換するために生体外で使用してもよい。
【0097】
ほとんどの糸状菌および酵母では、安定した形質転換体を得るために、発現コンストラクトは好ましくは宿主細胞のゲノム中に組み込まれる。しかし特定の酵母では、安定した高レベル発現のために、その中に発現コンストラクトを組み込むことができる、適切なエピソームベクターシステムもまた利用できる。その例としては、それぞれサッカロミセス(Saccharomyces)およびクリヴェロミセス(Kluyveromyces)の2μm CENおよびpKD1プラスミドに由来するベクター、またはAMA配列(例えばアスペルギルス(Aspergillus)からのAMA1)を含有するベクターが挙げられる。発現コンストラクトが宿主細胞ゲノムに組み込まれる場合、コンストラクトは、ゲノム中の無作為の遺伝子座に組み込まれるか、または相同的組換えを使用して所定の標的遺伝子座に組み込まれるかのどちらかであり、後者の場合、標的遺伝子座は好ましくは高度に発現する遺伝子を含んでなる。高度に発現される遺伝子とは、例えば誘導された条件下で、そのmRNAが総細胞mRNAの少なくとも0.01%(w/w)を構成できる遺伝子であり、または代案としては、その遺伝子産物が総細胞タンパク質の少なくとも0.2%(w/w)を構成できる遺伝子であり、または分泌遺伝子産物の場合は、少なくとも0.05g/lのレベルまで分泌されることができる。
【0098】
特定の宿主細胞のための発現コンストラクトは、通常、第1の態様のポリペプチドをコードする配列のコード鎖に相対して5’末端から3’末端までの連続的順序で、互いに作動的に連結する以下の要素を含有する。(1)特定の宿主細胞内でポリペプチドをコードするDNA配列の転写を指示できるプロモーター配列、(2)好ましくは5’−非翻訳領域(リーダー)、(3)場合により特定の宿主細胞から培養液中へのポリペプチドの分泌を指示できるシグナル配列、(4)成熟した好ましくは活性形態のポリペプチドをコードするDNA配列、および好ましくはまた(5)ポリペプチドをコードするDNA配列の転写下流を終結できる転写終結領域(ターミネーター)。
【0099】
ポリペプチドをコードするDNA配列の下流で、発現コンストラクトは、ターミネーターとも称される、1つ以上の転写終結部位を含有する3’非翻訳領域を好ましくは含有する。ターミネーターの起源はそれほど重要でない。ターミネーターは例えばポリペプチドをコードするDNA配列に天然であることができる。しかし好ましくは細菌ターミネーターが細菌宿主細胞内で使用され、酵母ターミネーターが酵母宿主細胞内で使用され、糸状菌ターミネーターが糸状菌宿主細胞内で使用される。より好ましくはターミネーターは、その中でポリペプチドをコードするDNA配列が発現される宿主細胞に対して内在性である。
【0100】
本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの改善された発現はまた、関心のあるタンパク質の発現レベルそして所望ならば選択された発現宿主からの分泌レベルを増大させ、および/または本発明のポリペプチド発現の誘導性制御を提供する役割をする、例えばプロモーター、シグナル配列およびターミネーター領域などの異種の調節領域の選択によって達成されてもよい。
【0101】
本発明のポリペプチドコードする遺伝子に天然であるプロモーターの他に、その他のプロモーターを使用して、本発明のポリペプチドの発現を指示してもよい。プロモーターは、所望の発現宿主中で本発明のポリペプチドを、発現を指示するその効率によって選択してもよい。
【0102】
プロモーター/エンハンサーおよびその他の発現調節シグナルは、発現ベクターがそのためにデザインされた宿主細胞と適合性であるように選択してもよい。例えば原核生物プロモーター、特にE.coli株中で使用するのに適したものを使用してもよい。本発明のポリペプチドの発現を哺乳類細胞内で実施する場合、哺乳類プロモーターを使用してもよい。例えば肝細胞細胞−特異的プロモーターなどの組織特異的プロモーターもまた使用してもよい。例えばモロニーマウス白血病ウイルスの長い末端反復末端反復(MMLV LTR)、ラウス肉腫ウイルス(RSV)LTRプロモーター、SV40プロモーター、ヒト サイトメガロウイルス(CMV)IEプロモーター、単純ヘルペスウイルスプロモーターまたはアデノウィルスプロモーターなどのウイルス性プロモーターもまた使用してもよい。
【0103】
適切な酵母プロモーターとしては、S.セレヴィシエ(cerevisiae)GAL4およびADHプロモーター、およびS.ポンベ(S.pombe)nmt1およびadhプロモーターが挙げられる。哺乳類プロモーターとしては、カドミウムなどの重金属に応えて誘導されることができるメタロチオネインプロモーターが挙げられる。SV40大型T抗原プロモーターまたはアデノウィルスプロモーターなどのウイルス性プロモーターもまた使用してもよい。これらの全てのプロモーターは、当該技術分野で容易に入手できる。
【0104】
β−アクチンプロモーターなどの哺乳類プロモーターを使用してもよい。組織−特異的プロモーター、特に内皮またはニューロン細胞特異的プロモーター(例えばDDAHIおよびDDAHIIプロモーター)が特に好ましい。例えばモロニーマウス白血病ウイルスの長い末端反復末端反復(MMLV LTR)、ラウス肉腫ウイルス(RSV)LTRプロモーター、SV40プロモーター、ヒト サイトメガロウイルス(CMV)IEプロモーター、アデノウィルス、HSVプロモーター(HSV IEプロモーターなど)、またはHPVプロモーターなどのウイルス性プロモーターもまた使用してもよく、特にHPV上流調節領域(URR)ウイルス性プロモーターは、当該技術分野で容易に入手できる。
【0105】
本発明の宿主細胞内で転写を指示できる多様なプロモーターが使用できる。好ましくはプロモーター配列は、先に定義したように高度に発現される遺伝子に由来する。プロモーターが好ましくはそれに由来し、および/または発現コンストラクト組み込みのために好ましい所定の標的遺伝子座に含まれる、好ましい高度に発現する遺伝子の例としては、トリオース−ホスフェートイソメラーゼ(TPI)、グリセルアルデヒド−ホスフェートデヒドロゲナーゼ(GAPDH)、ホスホグリセリン酸キナーゼ(PGK)、ピルビン酸キナーゼ(PYK)、アルコールデヒドロゲナーゼ(ADH)などの解糖作用酵素をコードする遺伝子、ならびにアミラーゼ、グルコアミラーゼ、プロテアーゼ、キシラナーゼ、セロビオ加水分解酵素、β−ガラクトシダーゼ、アルコール(メタノール)オキシダーゼ、延長因子およびリボソームタンパク質をコードする遺伝子が挙げられるが、これに限定されるものではない。適切な高度に発現する遺伝子の特定例としては、例えばクリヴェロミセス(Kluyveromyces)種からのLAC4遺伝子、それぞれハンゼヌラ(Hansenula)およびピチア(Pichia)からのメタノールオキシダーゼ遺伝子(AOXおよびMOX)、A.ニガー(A.niger)およびA.アワモリ(A.awamori)からのグルコアミラーゼ(glaA)遺伝子、コウジカビ(A.oryzae)TAKA−アミラーゼ遺伝子、A.ニデュランス(A.nidulans)gpdA遺伝子、およびT.リーセイ(T.reesei)セロビオ加水分解酵素遺伝子が挙げられる。
【0106】
真菌発現宿主中で使用するのに好ましい強力な構成的および/または誘導プロモーターの例は、キシラナーゼ(xlnA)、フィターゼ、ATP−シンセターゼサブユニット9(oliC)、トリオースホスフェートイソメラーゼ(tpi)、アルコールデヒドロゲナーゼ(AdhA)、アミラーゼ(amy)、アミログルコシダーゼ(AG−glaA遺伝子から)、アセトアミダーゼ(amdS)、およびグリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ(gpd)プロモーターの真菌遺伝子から得られるものである。
【0107】
使用してもよい強力な酵母プロモーターの例としては、アルコールデヒドロゲナーゼ、グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ、ラクターゼ、3−ホスホグリセリン酸キナーゼ、原形質膜ATPアーゼ(PMA1)およびトリオースホスフェートイソメラーゼの遺伝子から得られるものが挙げられる。
【0108】
使用してもよい強力な細菌プロモーターの例としては、アミラーゼおよびSPo2プロモーターならびに細胞外プロテアーゼ遺伝子からのプロモーターが挙げられる。
【0109】
使用してもよい植物細胞に適したプロモーターとしては、ノパリンシンターゼ(nos)、オクトピンシンターゼ(ocs)、マンノピンシンターゼ(mas)、リブロース小サブユニット(rubisco ssu)、ヒストン、米アクチン、ファゼオリン、カリフラワーモザイクウイルス(CMV)35Sおよび19S、およびサーコウイルスプロモーターが挙げられる。
【0110】
ベクターはポリヌクレオチドを挟む配列をさらに含んで、真核生物ゲノムの配列、好ましくは真菌ゲノム配列、または酵母ゲノム配列からのものと相同的な配列を含んでなるRNAを生じてもよい。これは相同的組換えによる、真菌または酵母ゲノムへの本発明のポリヌクレオチドの導入を可能にする。特に真菌配列で挟まれた発現カセットを含んでなるプラスミドベクターを使用して、本発明のポリヌクレオチドを真菌細胞に送達するのに適したベクターを調製できる。これらの真菌ベクターを使用する形質転換技術は、当業者に知られている。
【0111】
ベクターは、アンチセンス方向を向いた本発明のポリヌクレオチドを含有して、アンチセンスRNAの生成を提供してもよい。これは所望ならば、ポリペプチドの発現レベルを低下させるのに使用してもよい。
【0112】
[宿主細胞および発現]
さらなる態様では、本発明は、ポリペプチドをコードするコード配列のベクターによる発現に適した条件下で、上述のように発現ベクターによって転換されたまたは形質移入された宿主細胞を培養するステップと、発現したポリペプチドを回収するステップを含んでなる、本発明のポリペプチドを調製する方法を提供する。本発明のポリヌクレオチドは、発現ベクターなどの組み換え複製可能なベクター中に組み込むことができる。ベクターを使用して適合性宿主細胞中で核酸を複製してもよい。したがってさらなる実施態様では、本発明は、本発明のポリヌクレオチドを複製可能なベクター中に導入し、ベクターを適合性宿主細胞内に導入し、ベクターの複製をもたらす条件下で宿主細胞を生育させることで、本発明のポリヌクレオチドを作成する方法を提供する。適切な宿主細胞としては、大腸菌(E.coli)などの細菌と、酵母と、哺乳類細胞系と、例えばSf9細胞などの昆虫細胞および(例えば糸状)真菌細胞などのその他の真核生物の細胞系とが挙げられる。
【0113】
好ましくはポリペプチドは分泌タンパク質として産生され、その場合、発現コンストラクト中でポリペプチドの成熟形態をコードするDNA配列は、シグナル配列をコードするDNA配列と作動的に連結してもよい。分泌タンパク質をコードする遺伝子が野性型株中でシグナル配列を有する場合、好ましくは使用されるシグナル配列は、ポリペプチドをコードするDNA配列に天然(相同的)である。代案としてはシグナル配列は、ポリペプチドをコードするDNA配列に外来性(異種)であり、その場合、シグナル配列は好ましくは、その中でDNA配列が発現される宿主細胞に内在性である。酵母宿主細胞に適したシグナル配列の例は、酵母MFα遺伝子に由来するシグナル配列である。同様に糸状菌宿主細胞に適したシグナル配列は、例えばA.ニガー(A.niger)glaA遺伝子などの例えば糸状菌アミログルコシダーゼ(AG)遺伝子に由来するシグナル配列である。シグナル配列はアミログルコシダーゼ((グルコ)アミラーゼとも称される)プロモーターそれ自体と組み合わせて、ならびにその他のプロモーターと組み合わせて使用してもよい。ハイブリッドシグナル配列もまた、本発明の文脈で使用してもよい。
【0114】
好ましい異種の分泌リーダー配列は、真菌アミログルコシダーゼ(AG)遺伝子(例えばアスペルギルス(Aspergillus)からなどのglaA−18および24個のアミノ酸バージョンの双方)、MFα伝子(例えばサッカロミセス(Saccharomyces)などの酵母およびクリヴェロミセス(Kluyveromyces))、またはαアミラーゼ遺伝子(バシラス(Bacillus))起源のものである。
【0115】
ベクターを上述のように適切な宿主細胞に形質転換または形質移入して、本発明のポリペプチドの発現を提供してもよい。この方法は、ポリペプチドの発現に適した条件下で、上述のように発現ベクターで転換された宿主細胞を培養するステップと、発現したポリペプチドを場合により回収するステップを含んでなってもよい。
【0116】
したがって本発明のさらなる態様は、本発明のポリヌクレオチドまたはベクターで形質転換または形質移入された、またはそれを含んでなる宿主細胞を提供する。好ましくはポリヌクレオチドは、ポリヌクレオチドの複製および発現を可能にするベクター中で輸送される。細胞は前記ベクターと適合性であるように選択され、例えば原核生物(例えば細菌)、または真核生物の真菌、酵母または植物細胞であってもよい。
【0117】
本発明は、ポリペプチドをコードするDNA配列の組み換え発現の手段による、本発明のポリペプチドの生成のための方法を包含する。この目的で、本発明のDNA配列は、適切な相同的または異種宿主細胞内におけるポリペプチドの経済的生産を可能にするために、遺伝子増幅および/またはプロモーター、分泌シグナル配列などの発現シグナルの交換のために使用できる。相同的宿主細胞とは、本明細書においてDNA配列が由来する種と同一種である、または同一種内の変異型である、宿主細胞と定義される。
【0118】
適切な宿主細胞は、好ましくは細菌などの原核微生物、またはより好ましくは例えば真菌、酵母または糸状菌、または植物細胞などの真核生物である。一般に、より容易に操作できることから、酵母細胞が糸状菌細胞よりも好ましい。しかしいくつかのタンパク質は、酵母からの分泌が不良であるか、または場合によっては適切に処理されない(例えば酵母中での過度のグリコシル化)。このような場合は糸状菌宿主生物を選択すべきである。
【0119】
バシラス(Bacillus)属からの細菌は、培養液中にタンパク質を分泌するそれらの能力のために、異種の宿主として非常に適している。宿主として適切なその他の細菌は、ストレプトミセス(Streptomyces)およびシュードモナス(Pseudomonas)属からのものである。ポリペプチドをコードするDNA配列の発現のために好ましい酵母宿主細胞は、サッカロミセス(Saccharomyces)、クリヴェロミセス(Kluyveromyces)、ハンゼヌラ(Hansenula)、ピチア(Pichia)、ヤロウイア(Yarrowia)、または分裂酵母(Schizosaccharomyces)属のものである。より好ましくは酵母宿主細胞は、サッカロミセス・セレヴィシエ(Saccharomyces cerevisiae)、クリヴェロミセス・ラクチス(Kluyveromyces lactis)(クリヴェロミセス・マルキシアナス(Kluyveromyces marxianus)変種ラクチス(lactis)としてもまた知られている)、ハンゼヌラ・ポリモルファ(Hansenula polymorpha)、ピチア・パストリス(Pichia pastoris)、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)、およびシゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)種からなる群から選択される。
【0120】
しかしポリペプチドをコードするDNA配列の発現のために最も好ましいのは、糸状菌宿主細胞である。好ましい糸状菌宿主細胞は、アスペルギルス(Aspergillus)、トリコデルマ(Trichoderma)、フザリウム(Fusarium)、ディスポロトリカム(Disporotrichum)、ペニシリウム(Penicillium)、アクレモニウム(Acremonium)、ニューロスポラ(Neurospora)、サーモアスクス(Thermoascus)、ミセリオフトラ(Myceliophtora)、スポロトリカム(Sporotrichum)、チエラビア(Thielavia)、およびタラロミセス(Talaromyces)属からなる群から選択される。より好ましくは糸状菌宿主細胞は、コウジカビ(Aspergillus oyzae)、ショウユコウジカビ(Aspergillus sojae)またはアスペルギルス・ニデュランス(Aspergillus nidulans)種のものまたはアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)群(RaperおよびFennell著、「アスペルギルス(Aspergillus)属(The Genus Aspergillus)」、The Williams&Wilkins Company、Baltimore、pp293〜344頁、1965年、によって定義される)からの種のものである。これらとしては、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、アスペルギルス・アワモリ(Aspergillus awamori)、アスペルギルス・ツビゲンシス(Aspergillus tubigensis)、アスペルギルス・アクレアツス(Aspergillus aculeatus)、アスペルギルス・フォエティダス(Aspergillus foetidus)、アスペルギルス・ニデュランス(Aspergillus nidulans)、アスペルギルス・ジャポニカス(Aspergillus japonicus)、コウジカビ(Aspergillus oryzae)およびアスペルギルス・フィクウム(Aspergillus ficuum)、およびトリコデルマ・リーセイ(Trichoderma reesei)、フザリウム・グラミネアルム(Fusarium graminearum)、ペニシリウム・クリソゲヌム(Penicillium chrysogenum)、アクレモニウム・アラバメンセ(Acremonium alabamense)、ニューロスポラ・クラッサ(Neurospora crassa)、ミセリオフトラ・サーモフィラ(Myceliophtora thermophilum)、スポロトリカム・セルロフィルム(Sporotrichum cellulophilum)、ディスポロトリカム・ディモルフォスポラム(Disporotrichum dimorphosporum)、およびチエラビア・テルレストリス(Thielavia terrestris)種のものが挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0121】
本発明の範囲内の好ましい発現宿主の例は、アスペルギルス(Aspergillus)種(特に欧州特許出願公開第A−184,438号明細書および欧州特許出願公開第A−284,603号明細書で述べられているもの)およびトリコデルマ(Trichoderma)種などの真菌と、特に枯草菌(Bacillus subtilis)、バシラス・リケニフォルミス(Bacillus licheniforms)、バシラス・アミロリケファシエンス(Bacillus amyloliquefaciens)であるバシラス(Bacillus)種(特に欧州特許出願公開第A−134,048号明細書および欧州特許出願公開第A−253,455号明細書で述べられているものなど)、シュードモナス(Pseudomonas)種などの細菌と、クリヴェロミセス(Kluyveromyces)種(特にクリヴェロミセス・ラクチス(Kluyveromyces lactis)などの欧州特許出願公開第A−096,430号明細書で述べられているもの、および欧州特許出願公開第A−301,670号明細書で述べられているもの)およびサッカロミセス・セレヴィシエ(Saccharomyces cerevisiae)などのサッカロミセス(Saccharomyces)種などの酵母である。
【0122】
本発明に従った宿主細胞としては植物細胞が挙げられ、したがって本発明は、1つ以上の本発明の細胞を含有する植物、およびその部分などの遺伝子導入生物にまで及ぶ。細胞は本発明のポリペプチドを異種性に発現してもよく、または1つ以上の本発明のポリヌクレオチドを異種性に含有してもよい。したがって遺伝子導入(または遺伝子改変)植物は、そのゲノム中に本発明のポリペプチドをコードする配列を(典型的に安定して)挿入されてもよい。植物細胞形質転換は、例えばアグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)からのTiまたはRiプラスミドを使用して、公知の技術を使用して実施できる。したがってプラスミド(またはベクター)は、植物に感染するのに必要な配列を含有してもよく、Tiおよび/またはRiプラスミドの誘導体を用いてもよい。
【0123】
宿主細胞はポリペプチドを過剰に発現してもよく、過剰発現のための技術はよく知られており、本発明で使用できる。したがって宿主は、2つ以上のポリヌクレオチドのコピーを有してもよい。
【0124】
代案としては、葉、根または茎などの植物部分の直接感染を実行できる。この技術では、例えば植物を剃刀で切断する、植物を針で突き刺す、または植物を研磨材で擦ることで、感染させる植物を傷つけることができる。次に創傷にアグロバクテリウム(Agrobacterium)を接種する。次に植物または植物部分を適切な培地上で培養液生育させて、成熟植物に発育させることができる。転換細胞の遺伝子改変植物への再生は、例えば抗生物質を使用して形質転換された苗条を選択することで、および苗条を適切な栄養素、植物ホルモンなどを含有する培地上で二次培養することで、公知の技術を使用して達成できる。
【0125】
[宿主細胞の培養および組み換え生産]
本発明はまた、修飾されてリシルオキシダーゼまたはその変異型を発現する細胞も含む。このような細胞としては、哺乳類細胞または昆虫細胞などの一時的なまたは好ましくは安定した改変高等真核細胞系、酵母および糸状菌細胞などの下等真核細胞、または細菌細胞などの原核細胞が挙げられる。
【0126】
本発明のポリペプチドを例えばバキュロウイルス(baculovirus)発現系などの細胞系中または膜上で一過性に発現することもまた可能である。本発明に従ったタンパク質を発現するように適応された、このような系もまた本発明の範囲内に含まれる。
【0127】
本発明に従って、従来の栄養素発酵培地中で、1つ以上の本発明のポリヌクレオチドで転換された微生物発現宿主を培養することで、本発明のポリペプチドの生成を実行できる。
【0128】
本発明に従った組み換え宿主細胞は、当該技術分野で知られている手順を使用して培養してもよい。プロモーターと宿主細胞との各組み合わせについて、ポリペプチドをコードするDNA配列の発現に貢献する培養条件が利用できる。所望の細胞密度またはポリペプチド力価に達した後、培養を停止して公知の手順を使用してポリペプチドを回収する。
【0129】
発酵培地は、炭素源(例えばグルコース、マルトース、糖蜜など)、窒素源(例えば硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、塩化アンモニウムなど)、有機窒素源(例えば酵母抽出物、麦芽抽出物、ペプトンなど)、および無機栄養素源(例えばホスフェート、マグネシウム、カリウム、亜鉛、鉄など)を含有する公知の培養液を含んでなることができる。場合により(使用する発現コンストラクト次第で)誘導物質を含めても、または引き続いて添加してもよい。
【0130】
適切な培地の選択は、発現宿主の選択に基づいてもおよび/または発現コンストラクトの調節要件に基づいてもよい。適切な培地は当業者によく知られている。培地は、所望ならば、その他の潜在的汚染微生物よりも転換された発現宿主に有利に働く追加的構成要素を含有してもよい。
【0131】
発酵は0.5〜30日間にわたり実施されてもよい。発酵は、0℃〜45℃の範囲内の適切な温度で、例えば2〜10pHにおける、バッチ、連続または流加工程であってもよい。好ましい発酵条件としては、20℃〜37℃の範囲内の温度、および/または3〜9のpHが挙げられる。適切な条件は、通常、発現宿主および発現されるタンパク質の選択に基づいて選択される。
【0132】
発酵後、必要ならば遠心分離または濾過の手段によって、発酵ブロスから細胞を除去できる。発酵停止後または細胞除去後、次に本発明のポリペプチドを回収して、所望ならば従来の手段によって精製および単離してもよい。本発明のリシルオキシダーゼは、菌糸体から、または培養された真菌細胞によってその中にリシルオキシダーゼが放出された培養ブロスから精製できる。
【0133】
好ましい実施態様では、ポリペプチドは真菌から、より好ましくはアスペルギルス(Aspergillus)から、最も好ましくはアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)から生成される。
【0134】
[修飾]
本発明のポリペプチドは、化学的に修飾されてもよく、例えば翻訳後に修飾されてもよい。例えばそれらは、グリコシル化されて(1回以上)、または修飾アミノ酸残基を含んでなってもよい。それらはまた、ヒスチジン残基の添加によって修飾されて、それらの精製を助けてもよく、またはシグナル配列の添加によって細胞からの分泌を促進してもよい。ポリペプチドは、アミノ末端メチオニン残基などのアミノ−またはカルボキシル末端延長と、約20〜25個の残基までの小型リンカーペプチドと、または精製を容易にするポリ−ヒスチジントラクト、抗原エピトープまたは結合領域などの小型延長部とを有してもよい。
【0135】
本発明のポリペプチドは、明示用標識で標識してもよい。明示用標識は、ポリペプチドが検出できるようにするあらゆる適切なラベルであってもよい。適切な標識としては、例えば125I、35Sなどの放射性同位体と、酵素と、抗体と、ポリヌクレオチドと、ビオチンなどのリンカーとが挙げられる。
【0136】
ポリペプチドは修飾されて、非天然アミノ酸を含んでもよく、またはポリペプチドの安定性が増大してもよい。タンパク質またはペプチドが合成手段によって生成される間に、このようなアミノ酸が生成中に導入されてもよい。タンパク質またはペプチドはまた、合成または組み換え生成のどちらかに引き続いて、修飾されてもよい。
【0137】
本発明のポリペプチドはまた、D−アミノ酸を使用して生成されてもよい。このような場合、アミノ酸はCからN方向に逆順で連結される。これはこのようなタンパク質またはペプチドを生成するために、当該技術分野で慣習的である。
【0138】
いくつかの側鎖修飾が当該技術分野で知られており、本発明のタンパク質またはペプチドの側鎖に施してもよい。このような修飾としては、例えばアルデヒドとの反応とそれに続くNaBHでの還元、アセトイミド酸メチルでのアミジン化または無水酢酸でのアシル化による、還元的アルキル化によるアミノ酸修飾が挙げられる。
【0139】
本発明によって提供される配列はまた、「第二世代」酵素構築のための出発原料として使用してもよい。「第二世代」リシルオキシダーゼは、変異誘発技術(例えば部位特異的変異誘発または遺伝子シャフリング技術)によって改変されたリシルオキシダーゼであり、野生型リシルオキシダーゼ、または本発明によって生成されるものなどの組み換えリシルオキシダーゼとは異なる特性を有する。例えばそれらの温度または最適pH、比活性、基質親和性または熱安定性は、特定の工程での使用によりふさわしいようにように改変されてもよい。
【0140】
本発明のリシルオキシダーゼ活性に必須であり、したがって好ましくは置換されるアミノ酸は、部位特異的変異誘発またはアラニンスキャニング変異誘発などの当該技術分野で知られている手順に従って同定されてもよい。後者の技術では、突然変異が分子内のあらゆる残基に導入され、得られた突然変異分子を生物学的活性(例えばリシルオキシダーゼ活性)について試験して、分子活性に決定的なアミノ酸残基を同定する。酵素−基質相互作用部位もまた、核磁気共鳴、結晶構造解析または光親和性標識などの技術によって判定される結晶構造の分析によって判定できる。
【0141】
遺伝子シャフリング技術は、ポリヌクレオチド配列中に突然変異を導入するランダムな方法を提供する。発現後、最良の特性がある単離物を再単離して合わせ、再度シャフリングして遺伝的多様性を増大させる。この手順を数回繰り返すことにより、急速に改善されたタンパク質をコードする遺伝子を単離できる。好ましくは遺伝子シャフリング手順は、同様の機能があるタンパク質をコードする遺伝子ファミリーを用いて開始する。本発明で提供されるポリヌクレオチド配列は、分泌されたリシルオキシダーゼの特性を改善するための遺伝子シャフリングによく適している。
【0142】
代案としては、NTG処置による変異誘発またはUV変異誘発などの古典的ランダム変異誘発技術および選択を使用して、タンパク質の特性を改善できる。変異誘発は、単離されたDNAに直接に、または関心のあるDNAで転換された細胞に実施できる。代案としては、突然変異は、当業者に知られているいくつかの技術によって単離されたDNA中に導入できる。これらの方法の例は、誤りがちなPCR、反復−欠損宿主細胞内のプラスミドDNAの増幅などである。
【0143】
酵母および糸状菌宿主細胞の使用は、本発明の組み換え発現産物に最適生物学的活性を与えるのに必要に応じて、翻訳後修飾(例えばタンパク質分解過程、ミリスチン化(myristilation)、グリコシル化、トランケーション、およびチロシン、セリンまたはスレオニンホスホリル化)を提供することが予期される。
【0144】
[調製]
本発明のポリペプチドは単離形態であってもよい。ポリペプチドは、ポリペプチドの意図される目的を妨げないキャリアまたは希釈剤と混合してもよく、なおも単離されていると見なされるものと理解される。本発明のポリペプチドはまた、実質的に精製された形態であってもよく、その場合、それは一般に調製品中にポリペプチドを含んでなり、その中で70%を超える、例えば80%、90%、95%、98%または99%を超える、調製品中のタンパク質が本発明のポリペプチドである。
【0145】
本発明のポリペプチドは、それらがそれらの天然の細胞環境外であるような形態で提供されてもよい。したがってそれらは上で考察したように実質的に単離または精製されていてもよく、または例えばその他の真菌種、動物、植物または細菌細胞などのその中でそれらが自然に生じない細胞内にあってもよい。
【0146】
[リシルオキシダーゼ活性の除去または低下]
本発明はまた、親細胞よりも少ないポリペプチドを生成する突然変異細胞をもたらす、ポリペプチドまたはその制御配列をコードする内在性核酸配列を中断または消去するステップを含んでなる、親細胞の突然変異細胞を生成する方法に関する。
【0147】
低下したリシルオキシダーゼ活性を有する株の構築は、細胞内でのリシルオキシダーゼの発現に必要な核酸配列の修飾または不活性化によって、好都合に達成されてもよい。修飾または不活性化される核酸配列は、例えばリシルオキシダーゼ活性を示すのに必須なポリペプチドまたはその一部をコードする核酸配列であってもよく、または核酸配列は、核酸配列のコード配列からのポリペプチド発現に必要な調節機能を有してもよい。このような調節または制御配列の例としては、プロモーター配列またはその機能性部分、すなわちポリペプチドの発現に影響を与えるのに十分な部分が挙げられる。修飾可能なその他の制御配列としては、リーダー配列、ポリアデニル化配列、プロペプチド配列、シグナル配列、および終止配列が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0148】
核酸配列の修飾または不活性化は、細胞を変異誘発して、その中でリシルオキシダーゼ生成能力が低下し、または排除されている細胞を選択して、実施してもよい。特異的またはランダムであってもよい変異誘発は、例えば適切な物理的または化学的変異誘発剤の使用によって、適切なオリゴヌクレオチドの使用によって、またはDNA配列をPCR変異誘発して、実施してもよい。さらに変異誘発は、これらの変異誘発剤のあらゆる組み合わせの使用によって実施してもよい。
【0149】
本目的に適した物理的または化学的変異誘発剤の例としては、紫外線(UV)照射、ヒドロキシルアミン、N−メチル−N’−ニトロ−N−ニトロソグアニジン(NTG)、O−メチルヒドロキシルアミン、亜硝酸、エチルメタンスルホネート(EMS)、亜硫酸水素ナトリウム、ギ酸、およびヌクレオチド類似体が挙げられる。
【0150】
このような薬剤を使用する場合、変異誘発は典型的に、適切な条件下で選択された変異誘発剤存在下で、変異誘発させる細胞をインキュベートして、低下したまたは皆無のリシルオキシダーゼ活性発現を示す細胞を選択して実施される。
【0151】
本発明のポリペプチドの生成の修飾または不活性化は、ポリペプチドまたはその転写または翻訳に必要とされる調節要素をコードする核酸配列中の1つ以上のヌクレオチドの導入、置換、または除去によって達成されてもよい。例えばヌクレオチドは、停止コドンの導入、開始コドンの除去、または読み取り枠の変更をもたらすように挿入または除去されてもよい。このような修飾または不活性化は、当該技術分野で知られている方法に従って、部位特異的変異誘発またはPCR変異誘発によって達成されてもよい。
【0152】
原則として修飾は、生体内で、すなわち修飾する核酸配列を発現する細胞に直接に実施してもよいが、下で例示するように修飾を生体外で実施することが好ましい。
【0153】
選択された宿主細胞によるリシルオキシダーゼの生成を不活性化するまたは低下させる都合のよい方法の例は、遺伝子置換または遺伝子中断の技術に基づく。例えば遺伝子中断法では、関心のある内在性遺伝子または遺伝子断片に対応する核酸配列を生体外で変異誘発して欠損核酸配列を生じ、次にそれを宿主細胞に転換して欠損遺伝子を生成する。相同的組換えによって、欠損核酸配列を内在性遺伝子または遺伝子断片に置き換える。好ましくは欠損遺伝子または遺伝子断片は、その中でポリペプチドをコードする遺伝子が修飾または破壊された転換体を選択するのに使用してもよいマーカーもまたコードする。
【0154】
代案としては、本発明のポリペプチドをコードする核酸配列の修飾または不活性化は、ポリペプチドをコードする配列に相補的なヌクレオチド配列を使用して、確立されたアンチセンス技術によって達成してもよい。より具体的には、ポリペプチドをコードする核酸配列に相補的なヌクレオチド配列を導入することで、細胞によるポリペプチドの生成を低下させまたは排除してもよい。次にアンチセンスポリヌクレオチドは、典型的に細胞内で転写され、リシルオキシダーゼをコードするmRNAにハイブリダイズできる。細胞内で生成するリシルオキシダーゼの量は、相補的アンチセンスヌクレオチド配列とmRNAがハイブリダイズできる条件下で低下し、または排除される。
【0155】
本発明の方法に従って修飾される細胞は、細胞に同種または異種のどちらかの、例えば所望のタンパク質製品の生成に適した真菌株などの微生物起源であることが好ましい。
【0156】
本発明はさらに、親細胞よりも少ないポリペプチドを産生する突然変異細胞をもたらす、ポリペプチドまたはその制御配列をコードする内在性核酸配列の中断または欠失を含んでなる、親細胞の突然変異細胞に関する。
【0157】
このように作り出されたポリペプチド−欠損突然変異細胞は、同種および/または異種のポリペプチド発現のための宿主細胞として特に有用である。したがって本発明はさらに、(a)突然変異細胞をポリペプチドの生成に貢献する条件下で培養するステップと、(b)ポリペプチドを回収するステップを含んでなる、同種または異種のポリペプチドを生成する方法に関する。本文脈で、「異種のポリペプチド」という用語は、本明細書において宿主細胞に天然でないポリペプチド、その中で修飾がなされて天然配列が改変された天然タンパク質、または組み換えDNA技術による宿主細胞の操作の結果としてその発現が定量的に改変された天然タンパク質と定義される。
【0158】
なおもさらなる態様では、本発明は、本発明のリシルオキシダーゼポリペプチドならびに関心のあるタンパク質生成物の双方を産生する細胞の発酵によって、本質的にリシルオキシダーゼ活性を含まない、タンパク質生成物を生成する方法を提供する。本方法は、発酵中または発酵完了後のどちらかに、リシルオキシダーゼ活性を阻害できる有効量の薬剤を発酵ブロスに添加するステップと、発酵ブロスから関心のある生成物を回収するステップと、場合により回収された生成物にさらなる精製を施すステップを含んでなる。代案としては、培養後に、リシルオキシダーゼ活性を実質的に低下させて、培養ブロスからの生成物の回収ができるように、得られた培養ブロスにpHまたは温度処理を施すことができる。pHまたは温度処理の併用は、培養ブロスから回収されたタンパク質調製品に実施してもよい。
【0159】
本質的にリシルオキシダーゼを含まない生成物を生成する本発明の方法は、真核生物ポリペプチドの生成において、特に酵素などの真菌タンパク質の生成において特に興味深い。リシルオキシダーゼ−欠損細胞はまた、食品産業で関心がある、または薬学的関心のある異種タンパク質を発現するのに使用してもよい。
【0160】
[遺伝子を同定するためのペプチドモチーフ]
ペプチドモチーフは、このペプチドモチーフを含有するタンパク質をコードする遺伝子を同定するのに使用できる。1つのペプチドモチーフの代わりに、2つ以上のペプチドモチーフの組み合わせを使用して、ペプチドモチーフを含有するタンパク質をコードする遺伝子を同定できる。したがって特定のリシルオキシダーゼをコードする1つまたはいくつかのペプチドモチーフが同定される場合、これらのペプチドモチーフの1つまたはいくつかの組み合わせを使用して、リシルオキシダーゼをコードする遺伝子を同定できる。リシルオキシダーゼは、このような遺伝子を同定する方法の一例として使用するが、記載されている方法は一般的に応用できる。Patscan(http://www−unix.mcs.anl.qov/compbio/PatScan/HTML/)のようなプログラムを使用して、DNAデータバンクからの翻訳されたDNA配列、またはタンパク質配列データバンクからのタンパク質配列内を検索するために、配列番号11のモチーフの配列を使用することができる。アミノ酸配列は、ウェブサイトで述べられているように、特別な形式で入力しなくてはならない。実施できる別の方法は、http://myhits.isb−sib.ch/cgi−bin/のようなプログラムを使用して、DNAデータバンクからの翻訳されたDNA配列、またはタンパク質配列データバンクからのタンパク質配列内を検索するために、配列番号11のモチーフの配列を使用することである。このプログラムでは、モチーフをPrositeと称される形式で検索フィールドに入力し、タンパク質配列または翻訳されたDNA配列中のモチーフの存在についてデータベースを検索する。この方法については配列番号11のアミノ酸モチーフを使用して、本発明の実施例1でさらに詳しく述べられ、有用なリシルオキシダーゼをコードする真菌遺伝子を同定するのに使用される。次にこれらの方法の1つを使用して同定された遺伝子は、当業者に知られているプログラムを使用してタンパク質配列に翻訳でき、それらのアミノ末端におけるシグナル配列の存在について調べられる。シグナル配列を検出するために、SignalP(http://www.cbs.dtu.dk/services/SignalP/)のようなプログラムを使用できる。本発明で本発明者らは、共通配列および予測されたシグナル配列の双方を含有するタンパク質配列が、分泌リシルオキシダーゼである可能性が高いことを見いだした。これらの組み合わさった特性を探し求めることは、このような酵素の工業生産に大きな利点を与える。
【0161】
ペプチドモチーフを使用してリシルオキシダーゼ遺伝子を同定する別の可能性は、その中でリシルオキシダーゼ遺伝子の同定が所望される生物からの好ましいコドン使用頻度で、配列番号11のモチーフのアミノ酸配列のヌクレオチド配列への逆翻訳に基づいて、オリゴヌクレオチドプライマーをデザインし、このオリゴヌクレオチドを遺伝子ライブラリーへのハイブリダイゼーションのために、または逆転写されたmRNAプール上のPCRプライマー中で、使用することである。遺伝子配列が未知の場合、ペプチド配列モチーフ配列番号11を使用して、リシルオキシダーゼをコードする遺伝子を単離することも可能である。この目的で使用できる変性オリゴヌクレオチドプライマーをデザインする方法については、文献で述べられている(サムブルック(Sambrook)ら(1989年)「分子クローニング:実験室マニュアル(Molecular cloning:a laboratory manual)」,Cold Spring Harbor Laboratory Press)。また変性オリゴヌクレオチドをプローブまたはプライマーとして使用して、生物から遺伝子を単離する方法についても述べられている。
【0162】
配列番号11のペプチドモチーフをコードするオリゴヌクレオチドは、リシルオキシダーゼ特性をコードする遺伝子を単離するのに有用である。このような一群のオリゴヌクレオチドの縮重は、ヌクレオチドが未知の位置にイノシン(I)塩基を導入することで減少させてもよい。さらにオリゴヌクレオチドプライマーの特異性に対して小さな影響を与えるだけで縮重を減少させるために、シトシン(C)およびチミジン(T)塩基の双方が可能な位置をウラシル(U)によって置換してもよく、アデニン(A)およびグアニン(G)の双方が可能な位置にはグアニンのみを導入してもよい。さらにコドン選択が知られている生物中でリシルオキシダーゼをコードする遺伝子の存在についてスクリーニングするために、オリゴヌクレオチドのデザインにおいてコドン選択を考慮に入れることで、オリゴヌクレオチドの縮重をさらに減少させることができる。当業者はこれをどのように行うかが分かるであろう。さらに縮重なしのオリゴヌクレオチドプライマーの全ての可能な組み合わせを別々に合成して、個々のスクリーニング実験で使用してもよい。
【0163】
第1に、汎用ベクター中の関心のある種からゲノムcDNAまたはESTライブラリーが構築される。ライブラリーを構築するための適切な方法については、文献で述べられる(サムブルック(Sambrook)ら(1989年)「分子クローニング:実験室マニュアル(Molecular cloning:a laboratory manual)」,Cold Spring Harbor Laboratory Press)。第2に、ライブラリーから単離されたDNA上で、組み換えDNA挿入断片の境界において、ベクター中でプライムする1つの汎用オリゴヌクレオチドと共に、上述の縮重オリゴヌクレオチドをPCR反応で使用する。ただ1つの縮重オリゴヌクレオチドプライマーのみが入手できる場合に所望の遺伝子を単離する有用な戦略については、文献で述べられている(例えばMinambresら(2000年)Biochem.Biophys.Res.Commun.272,477〜479頁;PCR technology(1989年)H.A.Erlich編,99〜104頁,Stockton Press)。第3に、PCR増幅された断片を次に標識して、従来の手段によってライブラリーをスクリーニングするためのプローブとして使用する。次に所望の生産宿主生物中でのリシルオキシダーゼの過剰発現に適した発現ベクターに、完全長遺伝子をサブクローニングできる。
【0164】
異なるアプローチでは、リシルオキシダーゼをコードする遺伝子の存在についてスクリーニングする種からライブラリーが入手できない場合、異なる縮重プライマーでのPCRによって、または単一縮重プライマーを使用した3’−RACEによって、遺伝子の一部を増幅することができる。このために、関心のある種からRNAを単離して、遺伝子特異的プライマーとして単一縮重プライマーを使用する3’−RACE反応において使用する。3’−RACEによる、1つの縮重オリゴヌクレオチドおよび1つの汎用プライマーを使用した未知cDNAの部分の増幅については、以前述べられている(国際公開第99/38956号パンフレット)。
【0165】
小型ペプチドのみからの情報を使用して完全長遺伝子を単離する伝統的方法は、その上にライブラリーが複製されているフィルターに、標識された縮重オリゴヌクレオチドをハイブリダイズすることである。縮重オリゴヌクレオチドを使用した遺伝子ライブラリーのスクリーニングを記述する方法、およびこれらのオリゴヌクレオチドの最適ハイブリダイゼーション条件を計算または判定する方法については、文献で詳細に述べられる(サムブルック(Sambrook)ら(1989年))。上述のオリゴヌクレオチドをこの方法に使用して、リシルオキシダーゼをコードする遺伝子を異なる種から単離してもよい。
【0166】
この方法の変法では、最初に部分的遺伝子ライブラリーが構築できる。このためにはDNAを分画し、その後上述の標識オリゴヌクレオチドへのハイブリダイゼーションによって、リシルオキシダーゼをコードする遺伝子を含有するDNA断片を検出する。これらの断片を単離して、リシルオキシダーゼをコードする遺伝子に富んだ部分的遺伝子ライブラリーの構築で使用する。次にこのライブラリーを従来の手段によってスクリーニングできる。この方法では、ゲノムDNAをゲル電気泳動法による分画前に、最初に制限酵素で消化する一方、cDNAを直接分画できる。
【0167】
リシルオキシダーゼをコードする遺伝子を単離する、異なる方法は、共通配列のペプチドのいずれかに対する抗体を使用することである。抗体はモノクローナルまたはポリクローナルであってもよい。小型ペプチドに対して特異的な抗体生成を記述する方法については、文献で詳細に述べられている(Harlow,EおよびLane,D(1988年)「抗体;実験室マニュアル(Antibodies;a laboratory manual)」,ISBN0−87969−314−2)。
【0168】
発現ライブラリーは、大腸菌(E.coli)または酵母などの都合よい宿主中で挿入断片を発現するのに適したベクターに、cDNAまたはゲノムDNAをクローニングすることで、関心のある種から構築できる。発現ベクターは、λファージベースであってもまたはそうでなくてもよい。発現ライブラリーによって生成される抗原の免疫検出、および抗原を発現する特定クローンの精製を記述する方法については、出版されている。この方法を使用して、コンセンサスモチーフのペプチドのいずれかに対して特異的な抗体を使用し、このモチーフを包含するリシルオキシダーゼをコードする遺伝子を単離できる。
【0169】
本発明で述べられる情報を考慮に入れれば、実質的に多数の異なる方法を使用して、リシルオキシダーゼをコードする遺伝子を単離してもよい。先行技術の方法と比較して、ペプチドモチーフ配列情報を使用することの利点は、活性リシルオキシダーゼをコードする新規遺伝子を同定できる速さおよび相対的な容易さである。直接的な応用実験で可能な全オキシダーゼについて骨の折れる試験を実施することなく、配列情報の使用は、チーズ製造で、または食品産業におけるその他の用途での新規リシルオキシダーゼの価値を示唆する。
【0170】
本発明者らは下の実施例で本発明を実証する。本発明者らは、新規リシルオキシダーゼの同定、クローニング、製造、精製、および生化学的特性解析を実証する。本発明者らは、食材調製におけるリシルオキシダーゼの使用をさらに実証する。
【図面の簡単な説明】
【0171】
【図1】リシルオキシダーゼ発現ベクターpGBFINZGR−1、pGBFINZGT−1、pGBFINGLO−1、pGBFINZGY−1、およびpGBFINGLO−2の構築。関心のある遺伝子はこの図でXxxと標識され、そのコードは表1のコードのいずれかによって置換できる。
【図2】アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)中のリシルオキシダーゼのタンパク質発現を示すSDS−PAGEプロフィール。サンプルを培養上清から採取し、インビトロジェン(Invitrogen)からのSDS−PAGE(10%NUPAGE)にスポットした。C:対照、形質転換プラスミドのない宿主株。M:マ−カータンパク質(116、66、45、35、25、18、および14kDa)、ZGR、ZGT、GLO−1、GLO−2、およびZGY:過剰発現されたリシルオキシダーゼ。矢印は過剰発現されたタンパク質の位置を示す。
【図3】リシルオキシダーゼZGR、ZGTまたはGLO−1による処置ありまたはなしの85℃における12.5%乳清溶液の粘度発生。
【図4】κ−カゼイン、α−カゼイン、およびκ−およびα−カゼイン混合物のSDS−PAGEプロフィール、およびリシルオキシダーゼZGRを用いたインキュベーション後の同一プロフィール。
【0172】
[配列]
配列番号1:アスペルギルス・ニデュランス(Aspergillus nidulans)ZGRタンパク質
配列番号2:クリプトコッカス・ネオフォルマンス(Cryptococcus neoformans)ZGTタンパク質
配列番号3:フザリウム・グラミネアルム(Fusarium graminearum)GLO1タンパク質
配列番号4:ポドスポラ・アンセリナ(Podospora anserina)ZGYタンパク質
配列番号5:フザリウム・グラミネアルム(Fusarium graminearum)GLO2タンパク質
配列番号6:アスペルギルス・ニデュランス(Aspergillus nidulans)ZGR合成DNA
配列番号7:クリプトコッカス・ネオフォルマンス(Cryptococcus neoformans)ZGT合成DNA
配列番号8:フザリウム・グラミネアルム(Fusarium graminearum)GLO1ゲノムDNA
配列番号9:ポドスポラ・アンセリナ(Podospora anserina)ZGY合成DNA
配列番号10:フザリウム・グラミネアルム(Fusarium graminearum)GLO2ゲノムDNA
配列番号11:コンセンサスモチーフ:IHD[NS]LSGSMHDHV[IL]NFK
【0173】
[実施例]
[実施例1]
[真菌ゲノム配列中の推定上のリシルオキシダーゼコード化遺伝子の同定]
真菌起源の分泌リシルオキシダーゼは、食品用途において使用してもよいので、大量に生産することは興味深い。目下、唯一記述されている糸状菌から分泌されるリシルオキシダーゼはコウジカビ(Aspergillus oryzae)からのものであり、欧州特許出願公開第1466979 A1号明細書の配列番号2で記載される。ここで本発明者らは、真菌アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)中において、このコウジカビ(Aspergillus oryzae)酵素を過剰に発現することを試みた。意外にもアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)におけるこの配列の過剰発現後、培養液中にリシルオキシダーゼ活性は測定できなかった。この驚くべき結果を説明するために、本発明者らは欧州特許出願公開第1466979 A1号明細書で記載されるアミノ酸配列をより詳細に調べた。意外にも、推定上のコウジカビ(Aspergillus oryzae)リシルオキシダーゼの配列は、いくつかの側面で、その他のリシルオキシダーゼおよび銅アミンオキシダーゼの配列とは重要な位置で異なる。すなわち欧州特許出願公開第1466979 A1号明細書の配列番号2で記載されるコウジカビ(Aspergillus oryzae)遺伝子の注釈付きタンパク質の164位がアラニンであるのに対し、その他の全ての記載されているアミンおよびリシルオキシダーゼでは、この位置はプロリンに高度に保存されている。さらにこの注釈付きタンパク質の78位がメチオニンであるのに対し、アミンオキシダーゼではこの位置は、ロイシンに高度に保存されている。さらに欧州特許出願公開第1466979 A1号明細書で述べられるタンパク質は、哺乳類およびピチア(Pichia)のリシルオキシダーゼと比較して、残基109の後に2個のアミノ酸の追加挿入を含有する。また欧州特許出願公開第1466979 A1号明細書で述べられるタンパク質の499位がスレオニンであるのに対し、その他のアミンオキシダーゼではこの位置は常に疎水性残基である、および残基。タンパク質中の保存位置は酵素の主要機能と関連付けられていることが多く、酵素の触媒活性を変えることなく変更できない。したがって欧州特許出願公開第1466979 A1号明細書で述べられるタンパク質配列が実際に正確であり、機能性リシルオキシダーゼをコードするかどうかは疑わしい。したがって欧州特許出願公開第1466979 A1号明細書において形質転換体のいくつかで測定されているオキシダーゼ活性は、述べられている遺伝子の過剰発現によるものではないかもしれない。
【0174】
欧州特許出願公開第1466979 A1号明細書からの遺伝子を過剰に発現するアプローチは、不成功に終わったため、本発明者らはリシルオキシダーゼのアミノ酸配列を注意深く調べ、真菌からのリシルオキシダーゼの同定において有用なアミノ酸配列モチーフをここで提案する。本発明者らが真の真菌リシルオキシダーゼを同定するのに有用であると提案するモチーフは、
I−H−D−[NS]−L−S−G−S−M−H−D−H−V−[IL]−N−F−K(配列番号11)
である。
【0175】
このモチーフでは全てのアミノ酸は標準IUPAC一文字コードとして表され、単一位置により多くのアミノ酸が可能である場合、可能なアミノ酸は括弧内にある。
【0176】
本発明者らはhttp://myhits.isb−sib.ch/cgi−bin/において、パターン検索オプション付きでモチーフ配列番号11によって、trEMBL(翻訳EMBL DNAデータベース)を検索した。このプログラムは、配列番号11などの定義済みモチーフによって、翻訳DNAまたはタンパク質データベースを検索できる。そのためには、上述したようにモチーフをいわゆるProsite形式で検索フィールドに入力し、タンパク質配列中の、または翻訳DNA配列中のモチーフの存在について、個々のデータベースを検索する。この方法を使用して、本発明者らは以前にこの活性に帰属されたことがなく、全てモチーフ配列番号11を含む、6つの有望な真菌起源のリシルオキシダーゼを同定できた。6つの新しい有望なリシルオキシダーゼの内4つをコードする遺伝子については表1で言及され、アスペルギルス・ニデュランス(Aspergillus nidulans)、クリプトコッカス・ネオフォルマンス(Cryptococcus neoformans)、フザリウム・グラミネアルム(Fusarium graminearum)、およびポドスポラ・アンセリナ(Podospora anserina)起源である。これらの4つの配列の他に、クリプトコッカス・ネオフォルマンス(Cryptococcus neoformans)(Q5KEB2_CRYNE)からの第2の遺伝子、およびニューロスポラ・クラッサ(Neurospora crassa)(Q7S286_NEUCR)からの遺伝子にもまた、モチーフ配列番号11があるのが見られる。6つの配列が、全て系統学的に広く離れた種からの真菌からのもので、2つの別個の門である担子菌門(Basidiomycota)および子嚢菌門(Ascomycota)からのものであることは、タンパク質モチーフが進化の過程で高度に保存され、生化学的に関連のあるアミノ酸残基をコードしていることを示唆する。興味深いことに全ての推定タンパク質配列は、タンパク質のアミノ末端に推定上のシグナル配列を含有し、したがって分泌タンパク質をコードするかもしれない。
【0177】
妥当な活性があるリシルオキシダーゼを同定するのに配列モチーフが実際に有用かどうかを試験するため、本発明者らは表1で言及される4つの新規タンパク質をコードする遺伝子をクローンして、過剰発現させた。対照としては、その他の全ての4つのリシルオキシダーゼとの明らかな相同性があるが、アミノ酸配列モチーフを欠く、フザリウム・グラミネアルム(Fusarium graminearum)からの第2の遺伝子もまた含めた。この対照実験を使用して、真菌起源の新しい関連リシルオキシダーゼを同定および検出するのに、モチーフの使用が実際に有用かどうかを検討できる。
【0178】
【表1】

【0179】
上述のタンパク質をコードできる合成遺伝子は、DNA2.0(http://www.dnatwopointo.com/)によって作成された。あらゆる遺伝子配列を合成的に生成して、クローニングおよび発現で使用できる。アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)中で高度に発現される遺伝子のコドンバイアスにコード配列を適応させるアルゴリズムを使用して、合成遺伝子(配列番号6、7、および9)をデザインした(国際公開第06/077258号パンフレット)。この例外は、ゲノムDNA配列を採用した2つのフザリウム(Fusarium)遺伝子の配列であった(配列番号8および10)。使用した遺伝子配列は、配列番号1〜5でそれぞれ記載されるタンパク質をコードする。クローニング手順を容易にするために、これらの酵素のコード配列の上流、下流にクローニング部位PaclおよびAsclをそれぞれ導入した。標準的な分子生物学的方法を使用して、推定上の合成リシルオキシダーゼ遺伝子を含有する断片をPaclおよびAsclで消化し、コード配列を含んでなるPacl/Ascl断片を単離して、pGBFIN−5(国際公開第99/32617号パンフレット)中のPacl / Ascl phyA断片と交換した。得られた発現プラスミドをアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)中での異なる遺伝子の発現のために使用し、表1で述べられるように命名した。クローニング手順および発現プラスミドの構造を図1に図示する。合成遺伝子Xxxの代わりに表1で言及される遺伝子のコードのいずれでも代用でき、表1で言及されるプラスミドが得られる。関心のある遺伝子のコード配列はアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)のglaAプロモーターの下流でクローンされ、アスペルギルス・ニデュランス(Aspergillus nidulans)のamdS遺伝子はアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)中の選択マーカーとして発現プラスミド上に存在する。
【0180】
[実施例2]
[A.ニガー(niger)による推定上の真菌リシルオキシダーゼの形質転換および過剰発現]
発現ベクターから大腸菌(E.coli)由来配列を除去するNotIでの消化によって、発現ベクターpGBFINZGR−1、pGBFINZGT−1、pGBFINGLO−1、pGBFINZGY−1、およびpGBFINGLO−2を直鎖化した。フェノール:クロロホルム:イソアミルアルコール(24:23:1)抽出およびエタノール沈殿を使用して、消化されたDNAを精製した。これらのベクターを使用して、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)CBS513.88を形質転換した。アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)の形質転換手順については、国際公開第98/46772号パンフレットで詳細に述べられる。アセトアミドを含有する寒天プレート上で形質転換体を選択する方法、および標的を定めたマルチコピー組み込み体を選択する方法についてもまた述べられる。好ましくはサンプル材料のさらなる生産のために、発現カセットの複数コピーを含有するA.ニガー(niger)形質転換体が選択される。リシルオキシダーゼ発現ベクターについては、最初に個々の形質転換体を選択培地プレート上に播種し、それに続いてPDAプレート上に単一コロニーを播種することで、形質転換されたプラスミド毎に30個のA.ニガー(niger)形質転換体を精製した。30℃で1週間の生育後に、個々の形質転換体の胞子を採取した。胞子は冷蔵保存して、液体培地に接種するために使用した。
【0181】
振盪フラスコ培養中の株の培養によってサンプル材料を産生するために、発現カセットの複数コピーを含有するA.ニガー(niger)株を使用した。A.ニガー(niger)株の培養、および培養ブロスからの菌糸体を分離するための有用な方法については、国際公開第98/46772号パンフレットで述べられる。培養液はCSM−MES(1Lの培地あたり150gのマルトース、ディフコ(Difco)からの60gのソイトーン(Soytone)、15gの(NHSO、1gのNaHPOO、1gのMgSO7HO、1gのL−アルギニン、80mgのツィーン(Tween)−80、20gのMES、pH6.2)中にあった。発酵4〜8日目に5mlのサンプルを採取して、ヘレウス(Heraeus)からのラボフュージ(labofuge)RF内で5000rpmで10分間遠心分離して、さらなる分析時まで上清を−20℃で保存した。
【0182】
図2は、培養後の上清のSDS−PAGE(クーマシー染色)によって判定されたタンパク質発現プロフィールを示す。明らかにクローンされたアスペルギルス・ニデュランス(Aspergillus nidulans)、クリプトコッカス・ネオフォルマンス(Cryptococcus neoformans)、フザリウム・グラミネアルム(Fusarium graminearum)、およびポドスポラ・アンセリナ(Podospora anserina)からのリシルオキシダーゼは優れた過剰発現を示し、それらが良好に発現し分泌されたことが示される。宿主アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)とより近縁関係にあるコウジカビ(Aspergillus oryzae)酵素は過剰発現できなかったので、これは非常に驚くべきことであり意外であったが、この注釈付きコウジカビ(Aspergillus oryzae)リシルオキシダーゼは、異種の宿主中で発現できると以前報告されている(欧州特許第1466979号明細書)。その全ての供与生物がアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)との類縁性がより低い、4つのリシルオキシダーゼ遺伝子は、この宿主中で効率的に発現された。フザリウム・グラミネアルム(Fusarium graminearum)からの遺伝子GLO2もまた、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)中で効率的に発現され分泌された。
【0183】
[実施例3]
[A.ニガー(niger)上清からの過剰発現されたリシルオキシダーゼの精製]
アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)中で過剰発現したアスペルギルス・ニデュランス(Aspergillus nidulans)、クリプトコッカス・ネオフォルマンス(Cryptococcus neoformans)、フザリウム・グラミネアルム(Fusarium graminearum)、およびポドスポラ・アンセリナ(Podospora anserina)に由来するリシルオキシダーゼを次のようにしてより大量に培養した。妥当なリシルオキシダーゼを発現する形質転換されたA.ニガー(niger)株を1Lあたり40gのマルトース・HO、ディフコからの30gのソイトーン、15gの(NHSO、1gのNaHPO・HO、1のMgSO・7HO、1gのL−アルギニン、0.08gのツイーン−80、70gの酢酸Naを含有する増殖培地中で生育させた。pHを6.2に調節した。30℃で5〜6日間の生育後、3.5g/lの安息香酸ナトリウムを添加して細胞を死滅させ、インキュベーションをさらに6時間延長した。次に10g/lのCaClおよびベルギー国のヘントのDicalite BFからの45g/lの濾過助剤をブロスに添加した。最初の布帛濾過とそれに続くポール(Pall)からのZ−2000およびZ−200フィルターを通した濾過によって菌糸体を除去した。10kDa膜付きアミコン(Amicon)限外濾過セルを使用して、容積が2から4分の1に減少するまで限外濾過を実施した。リシルオキシダーゼの精製は、次のようにして実施した。
【0184】
[リシルオキシダーゼZGR(アスペルギルス・ニデュランス(Aspergillus nidulans)に由来する)]
アミコン限外濾過セル内で、リシルオキシダーゼZGRを含有する濃縮培養物上清を20mMのTris−HCl(pH7.5;緩衝液A1)中で1.8mS/cmの導電率に平衡化した。続いて5ml/分の流速を用いて、サンプルをファーマシアからのQ−セファロースカラム(5ml Q−FFハイトラップ(Hitrap))に装填した。カラムの3倍容積(cv)の緩衝液A1で洗浄した後、緩衝液A1からB1(B1=緩衝液A1+1MのNaCl)への20cvの線形濃度勾配を使用して、リシルオキシダーゼを溶出した。約340mMのNaClで溶出したリシルオキシダーゼを含有する画分を、SDS−PAGEを通じて同定しプールして、10kDa膜付きアミコン濃縮セルに移し、緩衝液を25mMのリン酸Na(pH6.6;緩衝液A2)に変更した。次にサンプルをファーマシア(Pharmacia)からのQ−セファロースカラム(5ml Q−FFハイトラップ、5ml/分)に注入して緩衝液A2中で平衡化した。3cvの緩衝液A2での洗浄後、20cvの緩衝液A2から緩衝液B2(B2=緩衝液A2+1MのNaCl)への線形濃度勾配で、リシルオキシダーゼを溶出した。リシルオキシダーゼ含有画分をプールした。酵素はSDS−PAGE(クーマシー染色)による判定で少なくとも95%純粋であった。
【0185】
[リシルオキシダーゼZGT(クリプトコッカス・ネオフォルマンス(Cryptococcus neoformans)に由来する)]
次の修正と共に本質的にZGRについて述べられるようにして、リシルオキシダーゼZGTを精製した。緩衝液A1およびB1はpH7.5でなくpH7.1であった。リシルオキシダーゼは第1のステップで330mMのNaCl中で溶出され、第2のカラム内では470mMのNaClで溶出された。タンパク質は、SDS−PAGE(クーマシー染色)による判定で少なくとも90%純粋であった。
【0186】
[リシルオキシダーゼGLO−1(フザリウム・グラミネアルム(Fusarium graminearum)に由来する]
次の修正と共に本質的にZGRについて述べられるようにして、リシルオキシダーゼGLO−1を精製した。緩衝液A1およびB1はpH7.5でなくpH7.0であった。緩衝液A2は20mMのTris−HCl(pH7.7)を含有し、緩衝液B2は20mMのTris−HCl(pH7.7)+1MのNaClを含有した。GLO−1は第1の精製ステップで90mMのNaClで溶出され、第2の精製ステップではそれはカラムに結合せず、通過物中に存在した。タンパク質は、SDS−PAGE(クーマシー染色)による判定で少なくとも95%純粋であった。
【0187】
[リシルオキシダーゼGLO−2(フザリウム・グラミネアルム(Fusarium graminearum)に由来する)]
次の修正と共に本質的にZGRについて述べられるようにして、リシルオキシダーゼGLO−2を精製した。緩衝液A1およびB1はpH7.5でなくpH7.0であった。緩衝液A2は20mmのTris−HCl(pH7.9)を含有し、緩衝液B2は20mMのTris−HCl(pH7.9)+1MのNaClを含有した。GLO−2は第1のステップでそれぞれ80および200mMの2つのピーク内で溶出され、いくらかのタンパク質の不均一性が示唆された。これについてはさらに調査しなかった。双方のピークをプールして第2の精製ステップで使用し、酵素はそれぞれ180および400mMの2つの画分で溶出され、タンパク質(約80%)の大部分は180mMで溶出された。この画分をプールして、さらなる分析のために使用した。
【0188】
[リシルオキシダーゼZGY(ポドスポラ・アンセリナ(Podospora anserina)に由来する)]
次の修正と共に本質的にZGRについて述べられるようにして、リシルオキシダーゼZGYを精製した。緩衝液A1は50mMの酢酸Na(pH5.0)を含有し、緩衝液B1は50mMの酢酸Na(pH5.0)+1MのNaClを含有した。第2の精製ステップではファーマシアからのヒドロキシアパタイトカラムを使用した(XK16/20、30ml、2ml/分)。緩衝液A2は10mMのリン酸Na(pH6.8)を含有し、緩衝液B2は500mMのリン酸Na(pH6.8)を含有した。タンパク質は、SDS−PAGE(クーマシー染色)による判定で少なくとも95%純粋であった。
【0189】
タンパク質濃度は、ブラッドフォード(Bradford)試薬を使用して判定した。
【0190】
[実施例4]
[リシルオキシダーゼの活性判定]
アミン基質に対するリシルオキシダーゼの酵素活性は、HおよびNHの形成をもたらす。どちらの反応生成物も、酵素活性をモニターするのに使用できる。
【0191】
[H形成のモニタリングによるリシルオキシダーゼ活性]
インビトロジェンから入手できるアンプレックスレッド(Amplex Red)モノアミンオキシダーゼアッセイキットを使用して、リシルオキシダーゼ活性をモニターした。製造業者の説明書に従って反応を実施した。特に断りのない限りアッセイ溶液中の基質濃度は1mMであった。特に断りのない限り反応は30℃で実施され、反応を時間内にテカン(TECAN)からのジェニオス(Genios)マイクロタイタープレートリーダーを使用して追跡した。酵素の最適pHを判定するために次の緩衝液を使用した。25mMのクエン酸Na(pH3.0、pH6.0)、25mMの酢酸Na(pH4.0、pH5.0)、25mMのTris−HCl(pH7.0、pH8.0)、およびTris−グリシン(pH9.0、pH10.0)。
【0192】
[NH形成のモニタリングによるリシルオキシダーゼ活性]
独国のバケム(Bachem)から入手された10mMのAc−Gly−Lys−OMeおよび25mMのリン酸Na緩衝液(pH7.0)を含有する溶液中で、開放エッペンドルフ管内で穏やかに振盪(500rpm)しながら、酵素(1mlのアッセイ溶液あたり100μgの酵素)を37℃で4時間インキュベートして、リシルオキシダーゼ活性を判定した。独国のハック(Hach)から入手されたアンモニア試験ストリップによって、NHの形成を検出した。空実験では酵素溶液の代わりに水を添加した。暗緑色の形成はNHの存在を示唆し、アンモニア不在では黄色のままであった。
【0193】
次の基質(アッセイ溶液中10.0mM)を使用して、アンプレックスレッドアッセイ中でリシル−オキシダーゼ活性について、リシルオキシダーゼZGR、ZGT、GLO−1、GLO−2、およびZGYを試験した。独国のバケムから入手されたAc−Gly−Lys−OMeおよびAc−Lys−OMe、インビトロジェンからのベンジルアミンおよびp−チラミン。リジン含有基質の場合、αアミノ基はブロックされているので、唯一の遊離アミノ基はリジン側鎖中のものである。したがってこれらの基質に対するあらゆる活性は、疑いの余地なくリシルオキシダーゼ活性を示唆する。結果を下に示す。活性は、最大活性を示す基質で得られた活性の%として表される。ピチア(Pichia)酵素のデータは、KucharおよびDooley(J Inorg Biochem(2001年)83,193〜204頁)で公表されたkcat/K値から計算された。
【0194】
【表2】

【0195】
リシルオキシダーゼについて予期されたように、酵素は全てAc−Gly−Lys−OMeに対する明白な選択性を示す。ZGR、ZGT、GLO−1、およびZGYが意外にもリシル基に対する高選択性を有することは明らかであり、活性はペプチド基質がより大きい場合により高い(Ac−Gly−Lys−OMe対Ac−LysOMe)。意外にもそれらのリジン基質に対する選択性は、ピチア(Pichia)リシルオキシダーゼよりもなおさらに高い。ピチア(Pichia)由来リシルオキシダーゼが、ベンジルアミンに対して、Ac−Gly−Lys−OMeと比較してなおもより少し活性であるのに対し、ZGR、ZGT、GLO−1、およびZGYは、リシル基質に対する明白な選択性を有する。またGLO−2タンパク質は、ピチア(Pichia)酵素のように、ベンジルアミンおよびチラミンなどの小型基質に対する明白な選択性を有する。意外にもアミノ酸配列モチーフを使用して同定された4つのリシルオキシダーゼは、リジン基質に対してより高い選択性を有し、モチーフの1つを欠くリシルオキシダーゼは、それほど好ましい活性スペクトルを有しない。明らかにアミノ酸モチーフによる検索は、リジン基質に対するより好ましい活性があるリシルオキシダーゼを特異的に同定し、したがって有用なリシルオキシダーゼの同定における重要な新しいツールである。モチーフ配列番号11使用して見つかったリシルオキシダーゼは、BLASTPを使用して互いにわずか40〜60%同一であるが、明らかに、全てこれらの酵素の特異性がリジン基質に対するより高い選択性に向けたものであるという共通点があることに留意すべきである。BLASTPを使用して同様の相同性スコアがあるが、モチーフ配列番号11を欠いているGLO2は、またピチア・パストリス(Pichia pastoris)およびコウジカビ(Aspergillus oryzae)からのリシルオキシダーゼのような酵素もまた、この基質特異性を示さない。
【0196】
酵素ZGR、ZGT、およびGLO−1はまた、Ac−Gly−Lys−OMeを基質として使用して、アンモニア放出についても試験した。いかなる場合でもアンモニアの放出は、疑いの余地なく実証された。これらの結果は、同定された酵素がリシルオキシダーゼであることをさらに裏付ける。
【0197】
[実施例5]
[様々なタンパク質基質に対するリシルオキシダーゼ活性]
次のタンパク質基質に対するpH6での活性について、リシルオキシダーゼZGR、ZGT、およびGLO−1を試験した。ダビスコ(Davisco)からの乳清(ビプロ(BiPro));オランダのDMVから入手されたカゼイン;グルテン加水分解産物(プロティナックス(Protinax)から入手されたバイタルグルテンは、オランダのDSMから入手されたフロマーゼ(Fromase)750TLにより55℃、pH4.1で1時間加水分解された。酵素を85℃で15分間熱処理して不活性化し、噴霧乾燥した)。参考目的で、Ac−Gly−Lys−OMeを先に述べられた条件下で使用した。結果を下に示す。様々なリシルオキシダーゼの活性は次の形式で形容される。++++(非常に高活性、Ac−Gly−Lys−OMeに匹敵する)、+++(活性良好)++(中程度の活性)、+わずかな活性、−不活性。
【0198】
【表3】

【0199】
明らかにリシルオキシダーゼは、それらの活性において、また様々なタンパク質に対するそれらの活性において互いに異なる。乳清タンパク質はリシルオキシダーゼにとって変性が最も困難であるのに対し、カゼインはZGRおよびZGTが最も利用しやすい基質である。ZGRがグルテンに対しても非常に高活性であるのに対し、ZGTは中程度にのみ活性である。GLO−1は、3つのリシルオキシダーゼの中で最も低活性であり、乳清タンパク質に対して検出可能な活性を示さず、カゼインに対してほとんど無活性であり、グルテンタンパク質に対してわずかな活性を示す。それにもかかわらず結果は、リシルオキシダーゼについて予期されたように、酵素が明らかにタンパク質中のリジン残基に対して活性であることを実証する。実施例4の結果に基づいて予期されたように、GLO−2はいずれのタンパク質基質に対しても活性を示さなかった。
【0200】
[実施例6]
[リシルオキシダーゼのpHおよび温度プロフィールの判定]
実施例4で指示される緩衝液を使用して、3〜8のpH範囲でリシルオキシダーゼのpHプロフィールを判定した。アッセイを2段階で実施した。最初に反応を指定期間中に適切なpHで実施した。次にアンプレックスレッドアッセイ(H)のために、溶液を標準緩衝液で希釈し、初速度を判定した。pHプロフィールの記録は、ベンジルアミンを基質として使用して30℃で実施した。結果を表3に示す。
【0201】
【表4】

【0202】
表はリシルオキシダーゼが、pH4〜pH9の範囲の異なる最適pHを有することを示す。最も広いpH範囲があるリシルオキシダーゼはZGR(3.5pH単位)である。これらの酵素の最適温度をそれらの最適pHで判定して、表3に示す。GLO−1酵素は最も高い最適温度(50℃)を示す。ZGR、ZGT、およびZGYは比較的低い最適温度を有するが、温度範囲は多くの食品用途に十分適合する。ZGTの最適温度は顕著に低く、20℃未満でさえある。
【0203】
[実施例7]
[リシルオキシダーゼ中のキノン構造の実証]
リシルオキシダーゼは、それらの活性部位にキノン構造を含有することが知られている。そこで本発明者らは、次の手順を使用して、同定されたリシルオキシダーゼ中のこのような補助因子の存在を確認した。リシルオキシダーゼZGR、ZGT、およびGLO−1をインビトロジェンからのSDS−PAGE(10%bis−Tris NuPage)に適用し、それに続いてニトロセルロース紙上へウエスタンブロットを行った。ブロットをNBT(ニトロテトラゾリウムブルークロリド)(2MのNa−グリシネート中の0.24mM、pH10)で染色して、キノンを視覚化した。キノン構造の存在は、タンパク質が位置する箇所に紫色の外観をもたらす。ZGR、ZGT、およびGLO−1は、この紫色の形成を明らかに示した。対照として、オランダのDSMから入手されたエンドプロテアーゼ(Maxiren 600)、およびオランダのDSMから入手されたカルボキシ−ペプチダーゼ(Accelerzyme CPG)を含めた。これらの酵素はキノン基を有さないことが知られており、NBTでの染色に際して紫色を示さなかった。この実験は、リシルオキシダーゼZGR、ZGT、およびGLO−1が、リシルオキシダーゼについて予期されたように、キノン構造を含有することを示す。キノンの正確な性質はこの実験からは導き出せない。
【0204】
[実施例8]
[濃縮乳清溶液のテクスチャを加熱に際して改変するためのリシルオキシダーゼの使用]
方法の第1段階では、デビスコからのWPI(ビプロ)をミリQ水に10.5%に溶解して、ZGR、ZGTまたはGLO−1(10mg酵素/25ml溶液)と共に室温で一晩インキュベートした。リシルオキシダーゼでの処理は、タンパク質溶液の粘度にいかなる顕著な変化ももたらさず、タンパク質架橋の不在または低いレベル(<1%)が示唆された。対照実験では、酵素溶液の代わりに水を添加した。次にオーストラリアのニューポートサイエンティフィック(NewPort Scientific)からのラピッドビスコアナライザー(Rapid Visco Analyzer)(RVA−4)の測定セルに溶液を移し、85℃で平衡化した。この第2段階では、方法の第1段階で形成した反応性中間体を共有結合形成下で反応させた。溶液を緩慢に撹拌して(50rpm)、粘度変化を追跡した。図5は空試験では粘度変化が起きなかったことを明らかに示し、ゲル形成がなかったことを示唆する。対照的にリシルオキシダーゼの添加は粘度に顕著な増大をもたらす。これはZGRについて特に明白である。ゲル形成は明らかにリシルオキシダーゼによる処理の結果として生じ、方法の第1段階で調製された反応性タンパク質基質の反応性が証明される。実施例4ではGLO−1の乳清タンパク質に対する活性は観察されなかったにもかかわらず、意外にもこのリシルオキシダーゼでさえも効果を有する。実施例4では反応を数分間だけモニターしたのに対し、本実施例では酵素とタンパク質とを一晩反応させた。酵素は明らかに乳清タンパク質に対して低い活性を有するが、この実施例で実証されたように、それは加熱時の粘度発生に影響を与えるのになおも十分である。リシルオキシダーゼが、加熱によって第2段階で使用できる反応性タンパク質中間体を作り出せることは明らかであり、濃縮乳清溶液のテクスチャ改変が形成される。乳清タンパク質は、多数の食材中にテクスチャ付与剤として存在する。リシルオキシダーゼで乳清タンパク質のテクスチャ付与特性を改変できることは、工業的に興味深く、続いて食品テクスチャを改変するのに使用できる反応性中間体が調製できることは特に興味深い。
【0205】
[実施例9]
[米パン体積を改善するためのリシルオキシダーゼZGRの使用]
オランダのvan Sillevoldtからの480グラムの米粉(BL−250)、およびレミーインダストリーズ(Remy Industries)からの20グラムの米タンパク質(0400061)を475グラムの水、オランダのGildeからの22.5グラムのKoningsgist、10グラムのNaCl、5グラムのスクロース、オランダのユニプロ(UniPro)からの50グラムのbiskien(脂肪)、20グラムのキサンタンガム、およびオランダのDSMからの12ppmのBakezyme P500と共に、ホバート(Hobart)ミキサー内で混合した(第1速で2分間、第2速で3分間)。生地を手で成形し、一次発酵を38℃で20分間、二次発酵を38℃で40分間行った(どちらも85%相対湿度で)。一実験で、リシルオキシダーゼZGR(100ppm)を混合前に添加し、対照実験ではリシルオキシダーゼを添加しなかった。リシルオキシダーゼ入り生地は、より膨らんだと判定された。独国ArnsteinからのMIWE Comboオーブン(バルブ閉鎖)を使用してパンを焼いた(240℃で20分間)。焼き上がった後、リシルオキシダーゼを含有するパンは、構造がより安定しており体積が大きかった。
【0206】
[実施例10]
[乳タンパク質の架橋]
κ−カゼイン、α−カゼイン、およびκ−およびα−カゼイン(どちらも0.3%w/v)混合物の3%(w/v)水溶液を調製して、リシルオキシダーゼZGR(0.1mg/ml)と共に37℃で一晩インキュベートした。続いて、サンプルを85℃で加熱した(30分間)。リシルオキシダーゼZGR無添加の対照サンプルを調製した。サンプルをSDS−PAGE上で分析した(図4参照)。明らかにリシルオキシダーゼの添加は、リシルオキシダーゼ無添加の対照と比較して、分子量が増大したタンパク質の形成をもたらす。リシルオキシダーゼZGRでの処理は、共有結合タンパク質架橋をもたらし、より高分子量の凝集につながる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
のHへの還元が続いて起こる、タンパク質またはペプチド中のリシル基の対応するアルデヒドへの酸化的脱アミノ化を触媒するための、
(a)37℃およびpH7.0における活性判定で、少なくとも1.1、好ましくは少なくとも1.3、より好ましくは少なくとも1.4のAc−Gly−Lys−OMeに対するリシルオキシダーゼ活性とベンジルアミンに対するリシルオキシダーゼ活性との比率を示し、
(b)0〜60℃の温度で最適活性を有する、
リシルオキシダーゼの使用。
【請求項2】
からHへの還元が続いて起こる、タンパク質またはペプチド中のリシル基の対応するアルデヒドへの酸化的脱アミノ化を触媒するための、リシルオキシダーゼ活性を有し、
I H D[N S]L S G S M H D H V[IL]N F K
(括弧内の残基はその点で許容される縮重を示し、アミノ酸は一文字コードである)のアミノ酸モチーフを含んでなるポリペプチドの使用。
【請求項3】
ポリペプチドが配列番号1〜4のいずれかのアミノ酸配列全体と少なくとも60%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を有する、請求項2に記載のポリペプチドの使用。
【請求項4】
配列番号1〜4のいずれかのアミノ酸配列全体と、少なくとも65%、好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%、なおもより好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは少なくとも95%、なおも最も好ましくは少なくとも約97%の同一性を有するアミノ酸配列を有する、請求項3に記載のポリペプチドの使用。
【請求項5】
配列番号1〜4のアミノ酸配列のいずれか1つを含んでなる、請求項3に記載のポリペプチドの使用。
【請求項6】
それによって真菌から、好ましくはアスペルギルス(Aspergillus)、より好ましくはアスペルギルス・ニデュランス(Aspergillus nidulans)、クリプトコッカス・ネオフォルマンス(Cryptococcus neoformans)、ポドスポラ アンセリン(Podospora anserine)、およびフザリウム・グラミネアルム(Fusarium graminearum)からポリペプチドまたはリシルオキシダーゼが入手される、請求項3に記載のポリペプチドの使用、または請求項1または2に記載のリシルオキシダーゼの使用。
【請求項7】
食品または飼料または栄養補給食品を調製するための、または食品または飼料または栄養補給食品を調製するための中間生成物を調製するための、請求項3に記載のポリペプチドの使用、または請求項1または2に記載のリシルオキシダーゼの使用。
【請求項8】
リシルオキシダーゼの産生に適した条件下で、アミノ酸配列
I H D[NS]L S G S M H D H V[IL]N F Kを含んでなるリシルオキシダーゼをコードするポリヌクレオチドを含んでなる核酸コンストラクトを含んでなる宿主細胞を培養するステップと、リシルオキシダーゼを回収するステップとを含んでなる、リシルオキシダーゼを製造する方法。
【請求項9】
アミノ酸配列をアミノ酸配列
I H D[NS]L S G S M H D H V[IL]N F K
の存在についてスクリーニングするステップを含んでなる、新規リシルオキシダーゼを同定する方法。
【請求項10】
食品または飼料製品を

(a)37℃およびpH7.0における活性判定で、少なくとも1.1、好ましくは少なくとも1.3、より好ましくは少なくとも1.4のAc−Gly−Lys−OMeに対するリシルオキシダーゼ活性とベンジルアミンに対するリシルオキシダーゼ活性との比率を示し、
(b)0〜60℃の温度で最適活性を有する、リシルオキシダーゼ、および
II
I H D[NS]L S G S M H D H V[IL]N F K
(括弧内の残基はその点で許容される縮重を示し、アミノ酸は一文字コードである)のアミノ酸モチーフを含んでなるリシルオキシダーゼ
からなる群から選択されるリシルオキシダーゼと接触させることで変性させるステップを含んでなる、タンパク質を含有する食品または飼料製品を変性する方法。
【請求項11】
タンパク質またはペプチドのリシル−アミンをリシルオキシダーゼによって酸化的脱アミノ化するステップと、好ましくは反応性アルデヒドを含有するタンパク質またはペプチドを濃縮および/または乾燥するステップとを含んでなる、タンパク質またはペプチド中で反応性アルデヒドを調製する方法。
【請求項12】
反応性アルデヒドを含んでなり、請求項11に記載の方法に従って調製された、タンパク質またはペプチドを加熱してタンパク質を架橋するステップを含んでなる、架橋タンパク質またはペプチドを調製する方法。
【請求項13】
タンパク質またはペプチドのリシル−アミンの酸化的脱アミノ化によって形成され、好ましくは乾燥形態である、反応性アルデヒドを含んでなるタンパク質またはペプチド。
【請求項14】
請求項13に記載のタンパク質またはペプチドを含んでなる、食品、飼料、栄養補給食品、または食品、飼料もしくは栄養補給食品の中間体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2010−521188(P2010−521188A)
【公表日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−554017(P2009−554017)
【出願日】平成20年3月18日(2008.3.18)
【国際出願番号】PCT/EP2008/053212
【国際公開番号】WO2008/113799
【国際公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【出願人】(503220392)ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ. (873)
【Fターム(参考)】