説明

新規光増感剤および光起電力素子

【課題】可視光の広い範囲で光を吸収し、極薄い薄膜においても、光吸収効率が高くなる吸光係数の大きな新規光増感剤を提供する。
【解決手段】一般式(I)で表される金属錯体からなる金属酸化物半導体電極用光増感剤であり、配位子LまたはLを介して金属酸化物半導体電極に吸着したとき、LとLのGAUSSIAN03量子化学のプログラム計算を用いて算出した、それぞれの励起状態のエネルギーレベルの差△Lが0.25eV以上であることを特徴とする光増感剤。
ML (I)
(Mは周期表第8族遷移金属、Xは、ハロゲン原子、シアノ基、チオシナネート基、イソチオシアネート基、イソシアネート基、イソシアニド基、ヒドロキシ基、またはX同士が結合した2座配位子を表す。L1、は芳香環を含む配位子であり、LまたはLのいずれかにCOOH基またはPO(OH)を有する官能基を有する。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規光増感剤に関し、特に色素増感型太陽電池に好適に用いられる新規光増感剤に関する。
【背景技術】
【0002】
1991年にグレッツェルらが発表した色素増感型太陽電池素子は、ルテニウム錯体によって分光増感された酸化チタン多孔質薄膜を作用電極とする湿式太陽電池であり、シリコン太陽電池並みの性能が得られることが報告されている(非特許文献1参照)。この方法は、チタニア等の安価な酸化物半導体を高純度に精製することなく用いることができるため、安価な色素増感型太陽電池素子を提供でき、しかも色素の吸収がブロードであるため、可視光線のほぼ全波長領域の光を電気に変換できるという利点があり、注目を集めている。しかしながら、公知のルテニウム錯体色素は、可視光は吸収するものの700nmより長波長の赤外光はほとんど吸収しないため赤外域での光電変換能は低い。したがって更に変換効率を上げるためには可視光のみならず赤外域に吸収を有する色素の開発が望まれていた。
一方、ブラックダイに関して、920nmまで光を吸収することができるが、吸光係数が小さいため、高電流値を得るためには、酸化チタン多孔質薄膜に吸着する量を多くする必要があった。酸化チタン多孔質薄膜への吸着量を増加する方法は、種々の方法があるが、一般的には、薄膜の厚みを増加することで可能である(非特許文献2参照)。薄膜の厚みを増加すると、逆電子移動の増加、薄膜中の電子密度の減少などによって、開放電圧値の減少、FFの低下などが生ずるため、変換効率は大きく増加することはできない。
またイミダゾフェナントロリン配位子を用いた錯体を用いて、太陽電池とした報告もあるが、十分な効率を得るに至っていない(特許文献1参照)。
【非特許文献1】オレガン(B. O’Regan)、グレツェル(M.Gratzel),「ネイチャー(Nature)」,(英国),1991年,353巻,p.737
【非特許文献2】グレツェル(M.Gratzel),「ジャーナル オブ アメリカン ケミカルソサイアティー」,(米国),2001年,123巻,p.1613
【特許文献1】国際公開特許第2007/006026号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、可視光の広い範囲で光を吸収し、極薄い薄膜においても、光吸収効率が高くなる吸光係数の大きな新規光増感剤を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、金属錯体色素について幅広く検討した結果、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、一般式(I)で表される金属錯体からなる金属酸化物半導体電極用光増感剤であり、配位子LまたはLを介して金属酸化物半導体電極に吸着したとき、LとLのGAUSSIAN03量子化学のプログラム計算を用いて算出した、それぞれの励起状態のエネルギーレベルの差△Lが0.25eV以上であることを特徴とする光増感剤に関する。
ML (I)
ここで、Mは周期表第8族遷移金属を示し、Xは、独立にハロゲン原子、シアノ基、チオシナネート基、イソチオシアネート基、イソシアネート基、イソシアニド基、ヒドロキシ基、または、X同士が結合した場合、一般式(A)で示される2座配位子を表す。また、LおよびLは芳香環を含む配位子であり、LまたはLのいずれかに、COOH基またはPO(OH)を有する官能基、もしくは、π共役にて接続したCOOH基またはPO(OH)を有する官能基を有する。
【化1】

(式(A)中、R〜Rは、それぞれ同一でも異なっていても良く、水素、炭素数1〜30のアルキル基、炭素数2〜30のアルコキシアルキル基、炭素数1〜30のパーフルオロアルキル基、炭素数6〜30のアリール基、または炭素数7〜30のアラルキル基を表す。RおよびRは、それぞれ個別に、水素、シアノ基、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のパーフルオロアルキル基、または炭素数6〜15のアリール基を表し、RとRが結合して環を形成してもよい。)
【0005】
また本発明は、上記一般式(I)において、Lが、下記式(II)で表される配位子であり、Lが下記式(III)で表される配位子であることを特徴とする光増感剤に関する。
【化2】

(式(II)中、R〜R11、R12〜R16、R17〜R19、R20〜R23、R24〜R29、R30〜R34、R35〜R37、R38〜R39、R40〜R43、R44〜R45は、それぞれ同一でも異なっていても良く、COOH基またはPO(OH)を有する官能基、π共役にて接続したCOOH基またはPO(OH)を有する官能基、水素、炭素数1〜30のアルキル基、アルケニル基、アリール基、アルコキシ基、またはアミノ基を示す。)
【化3】

(式(III)中、R114〜R128は、それぞれ独立に、COOH基またはPO(OH)を有する官能基、π共役にて接続したCOOH基またはPO(OH)を有する官能基、水素、OH基、メトキシ基、ハロゲン、炭素数1〜30のアルキル基、アルコキシ基、アミノ基、シアノ基、またはニトロ基を示す。)
【0006】
また本発明は、上記一般式(I)において、Lは、その中に少なくとも一つのCOOH基またはPO(OH)を有する官能基、またはπ共役にて接続したCOOH基またはPO(OH)を有する官能基を含み、Lはその中にCOOH基およびPO(OH)を含まず、かつ、金属酸化物半導体電極にLを介して吸着したとき、Lの励起状態のエネルギーレベルがLの励起状態のエネルギーレベルより少なくとも0.25eV以上高いことを特徴とする光増感剤に関する。
【0007】
また本発明は、少なくとも1つの金属酸化物半導体層を有する光起電力素子であって、前記金属酸化物半導体層が前記記載の光増感剤を含むことを特徴とする光起電力素子に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の新規光増感剤は、可視領域において、幅広く光を吸収し、光起電力素子の変換効率を上げることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の光増感剤は、下記一般式(I)で表される金属錯体である。
ML (I)
【0010】
一般式(I)中、Mは周期表第8族遷移金属を示し、Ru、OsおよびFe等が挙げられるが、なかでもRuが好ましい。
一般式(I)中、Xは、独立にハロゲン原子、シアノ基、チオシナネート基、イソチオシアネート基、イソシアネート基、イソシアニド基、ヒドロキシ基、または、X同士が結合した場合、一般式(A)で示される2座配位子を表す。
【0011】
【化4】

【0012】
式(A)中、R1〜Rは、それぞれ同一でも異なっていても良く、水素、炭素数1〜30のアルキル基、炭素数2〜30のアルコキシアルキル基、炭素数1〜30のパーフルオロアルキル基、炭素数6〜30のアリール基、または炭素数7〜30のアラルキル基を表す。R4およびRは、それぞれ個別に、水素、シアノ基、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のパーフルオロアルキル基、または炭素数6〜15のアリール基を表し、R4とRが結合して環を形成してもよい。
【0013】
式(A)の具体例としては、下記を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0014】
【化5】

【0015】
配位子Lとしては、下記の一般式(II)で示される化合物を挙げることができる。
【0016】
【化6】

【0017】
式(II)中、R〜R11、R12〜R16、R17〜R19、R20〜R23、R24〜R29、R30〜R34、R35〜R37、R38〜R39、R40〜R43、R44〜R45は、それぞれ同一でも異なっていても良く、COOH基またはPO(OH)を有する官能基、π共役にて接続したCOOH基またはPO(OH)を有する官能基、水素、炭素数1〜30のアルキル基、アルケニル基、アリール基、アルコキシ基、またはアミノ基を示す。
【0018】
以下にこれらの具体例を挙げるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0019】
【化7】

【化8】

【化9】

【0020】
配位子Lとしては、下記の一般式(III)で示される化合物を挙げることができる。
【0021】
【化10】

【0022】
式(III)中、R114〜R128は、それぞれ独立に、COOH基またはPO(OH)を有する官能基、π共役にて接続したCOOH基またはPO(OH)を有する官能基、水素、OH基、メトキシ基、ハロゲン、炭素数1〜30のアルキル基、アルコキシ基、アミノ基、シアノ基、またはニトロ基を示す。
【0023】
以下にこれらの具体例を挙げるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0024】
【化11】

【0025】
本発明の一般式(I)で示される金属錯体からなる金属酸化物半導体電極用光増感剤においては、一般式(I)中のLおよびLが下記の条件を満たすことが必要である。
すなわち、配位子L、Lは、配位子L、Lのうち励起状態のエネルギーレベルの低い配位子を介して金属酸化物半導体電極に吸着し、いずれの配位子も金属酸化物半導体電極のコンダクションバンドのエネルギーレベルより高い位置にある。本発明においては、配位子LまたはLを介して金属酸化物半導体電極に吸着したとき、LとLのGAUSSIAN03量子化学のプログラム計算を用いて算出した、それぞれの励起状態のエネルギーレベルの差△Lが0.25eV以上であることが必要であり、0.3eV以上であることが好ましい。
励起状態のエネルギーレベルの差△Lが0.25eV未満の場合には、配位子L、Lのうち励起状態のエネルギーの高い方に励起された電子は、金属酸化物に吸着している低い方の配位子に移動することができないため、金属酸化物半導体電極にも注入されにくく、変換効率が低下するため、好ましくない。
ここで、GAUSSIAN03量子化学のプログラム計算は特に限定されないが、通常、「情報化学・計算化学実験」(堀憲次ら著・丸善株式会社)を参考に行なわれる。
すなわち、CPCM溶媒モデルを用いて溶媒(エタノール)を考慮し、DFT/TD−DFT計算をスーパーコンピューターHP2500を用いて行なわれる。構造最適化および電子構造・分子軌道のエネルギーレベルについて、計算法はDFT/B3LYP、基底関数はLANL2DZを適用し、計算が行われる。
【0026】
上記の条件を満足する一般式(I)で表される化合物(光増感剤)として、下記の化合物を例示できるが、これらに限定されるものではない。
【0027】
【化12】

【化13】

【0028】
本発明においては、配位子L中に少なくとも一つのCOOH基またはPO(OH)を有する官能基、またはπ共役にて接続したCOOH基またはPO(OH)を有する官能基を含ませ、L中にCOOH基およびPO(OH)を含ませず、かつ、LのエネルギーレベルがLのエネルギーレベルより少なくとも0.25eV以上高くすることにより、より好ましい効果を奏することができる。
【0029】
上記の条件を満足する一般式(I)で表される化合物(光増感剤)として、下記の化合物を例示できるが、これらに限定されるものではない。
【0030】
【化14】

【化15】

【化16】

【化17】

【化18】

【化19】

【0031】
本発明の光増感剤の合成方法について説明する。
一般式(I)におけるMとしてルテニウムを用いた場合を例にとって以下説明する。まず、ルテニウム前駆体に、配位子L、Lを順次反応させた後、Xを導入する方法が好ましく用いられる。ルテニウム前駆体としては、塩化ルテニウム、ジクロロ(p−サイメン)ルテニウム二量体、ジヨード(p−サイメン)ルテニウム二量体等を用いることができる。L、Lの反応は、逐次的に添加し、反応を行なっても良く、また、同時に添加して反応を行なっても良い。逐次的に反応を行なう場合、L、Lどちらを先に添加しても良い。
反応溶媒としては、一般的な有機溶媒、水などを用いることができ、好ましくはエタノール、メタノール、ブタノール等のアルコール系溶媒、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒、ジメチルスルホキシド、プロピレンカーボネート、N−メチルピロリドン等の極性溶媒が用いられる。
【0032】
反応温度は特に限定されないが、反応を進行させるためには、加温が好ましく、50〜250℃の範囲で行なうことが特に好ましい。逐次的に反応を行なう場合は、1段目の反応と2段目の反応の反応温度を変えて行なうこともできる。また、加温については、オイルバス、ウォーターバス、マイクロ波加熱装置等を使用することができる。
反応時間は特に限定されないが、通常1分〜数日、好ましくは5分〜1日であり、加熱装置により時間を変更することが好ましい。
Xについては、対応するアンモニウム塩、金属塩等を添加して、反応を行なうことにより導入することができる。反応時間、反応温度は特に限定されない。
【0033】
つぎに本発明の光起電力素子について説明する。
本発明の光起電力素子の例としては、例えば、図1に示す断面を有する素子を挙げることができる。この素子は、透明導電性基板1上に本発明の光増感剤を吸着させた金属酸化物半導体層3が配置され、金属酸化物半導体層3と対向電極基板2の間に電解質層4が配置され、周辺がシール材5で密封されている。なお、リード線は透明導電性基板1と対向電基板2の導電部分に接続され、電力を取り出すことができる。
【0034】
透明導電性基板は、通常、透明基板上に透明導電層を積層させて製造される。透明基板としては特に限定されず、材質、厚さ、寸法、形状等は目的に応じて適宜選択することができ、例えば、無色あるいは有色ガラス、網入りガラス、ガラスブロック等が用いられる他、無色あるいは有色の透明性を有する樹脂でも良い。かかる樹脂としては、具体的には、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル、ポリアミド、ポリスルホン、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイド、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、トリ酢酸セルロース、ポリメチルペンテンなどが挙げられる。なお、本発明における透明とは、10〜100%の透過率を有することであり、また、本発明における基板とは、常温において平滑な面を有するものであり、その面は平面あるいは曲面であってもよく、また応力によって変形するものであってもよい。
【0035】
電極の導電層を形成する透明導電層としては、本発明の目的を達成できるものである限り特に限定されず、例えば、金、銀、クロム、銅、タングステンなどの金属薄膜、金属酸化物からなる導電膜などが挙げられる。金属酸化物としては、例えば、酸化錫や酸化亜鉛に、他の金属元素を微量ドープしたIndium Tin Oxide(ITO(In:Sn))、Fluorine doped Tin Oxide(FTO(SnO:F))、Aluminum doped Zinc Oxide(AZO(ZnO:Al))などが好適なものとして用いられる。
膜厚は、通常10nm〜10μm、好ましくは100nm〜2μmである。また、表面抵抗(抵抗率)は、本発明の基板の用途により適宜選択されるところであるが、通常0.5〜500Ω/sq、好ましくは2〜50Ω/sqである。
【0036】
対向電極は通常、白金、カーボン電極などを用いることができる。基板の材質は特に限定されず、材質、厚さ、寸法、形状等は目的に応じて適宜選択することができ、例えば無色あるいは有色ガラス、網入りガラス、ガラスブロック等が用いられる他、無色あるいは有色の透明性を有する樹脂でも良い。かかる樹脂としては、具体的には、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル、ポリアミド、ポリスルホン、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイド、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、トリ酢酸セルロース、ポリメチルペンテンなどが挙げられる。また、金属プレートなどを基板として用いることもできる。
【0037】
本発明の光起電力素子において用いられる金属酸化物半導体層としては特に限定されないが、例えば、TiO、ZnO、SnO、Nbからなる層等が挙げられ、なかでもTiO、ZnOからなる層が好ましい。
本発明に用いられる金属酸化物半導体は単結晶でも多結晶でも良い。結晶系としては、アナターゼ型、ルチル型、ブルッカイト型などが主に用いられるが、好ましくはアナターゼ型である。
金属酸化物半導体層の形成方法としては公知の方法を用いることができ、例えば、上記金属酸化物半導体のナノ粒子分散液、ゾル溶液等を公知の方法により基板上に塗布することで得ることが出来る。この場合の塗布方法としては特に限定されずキャスト法による薄膜状態で得る方法、スピンコート法、ディップコート法、バーコート法のほか、スクリーン印刷法を初めとした各種の印刷方法を挙げることができる。
金属酸化物半導体層の厚みは任意であるが、通常0.5μm〜50μm、好ましくは1μm〜20μmである。
【0038】
本発明の光増感剤を金属酸化物半導体層に吸着させる方法としては、例えば、溶媒に光増感剤を溶解させた溶液を、金属酸化物半導体層上にスプレーコートやスピンコートなどにより塗布した後、乾燥する方法により形成することができる。この場合、適当な温度に基板を加熱しても良い。または光増感剤を溶解させた溶液に金属酸化物半導体層を浸漬して吸着させる方法を用いることもできる。浸漬する時間は光増感剤が十分に吸着すれば特に制限されることはないが、好ましくは10分〜30時間、より好ましくは1〜20時間である。また、必要に応じて浸漬する際に溶媒や基板を加熱しても良い。溶液にする場合の光増感剤の濃度としては、0.01〜100mmol/L、好ましくは0.1〜50mmol/L程度である。
溶媒としては、アルコール類、エーテル類、ニトリル類、エステル類、炭化水素など用いることができる。
【0039】
また、光増感剤間の凝集等の相互作用を低減するために、界面活性剤としての性質を持つ無色の化合物を添加し、金属酸化物半導体層に共吸着させてもよい。このような無色の化合物の例としては、カルボキシル基やスルホ基を有するコール酸、デオキシコール酸、ケノデオキシコール酸、タウロデオキシコール酸等のステロイド化合物やスルホン酸塩類等が挙げられる。
未吸着の光増感剤は、吸着工程後、速やかに洗浄により除去するのが好ましい。洗浄は湿式洗浄槽中でアセトニトリル、アルコール系溶媒等を用いて行うのが好ましい。
光増感剤の吸着量は、強アルカリ溶液にて、金属酸化物半導体層から光増感剤を脱着し、アルカリ溶液の光吸収量から算出される。
また、吸着量は、金属酸化物半導体表面積に対し、1.0×10−8mol/cm〜1.0×10−6mol/cmの範囲で吸着することができる。
【0040】
光増感剤を吸着させた後、アミン類、4級アンモニウム塩、少なくとも1つのウレイド基を有するウレイド化合物、少なくとも1つのシリル基を有するシリル化合物、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩等を用いて、金属酸化物半導体層の表面を処理してもよい。好ましいアミン類の例としては、ピリジン、4−t−ブチルピリジン、ポリビニルピリジン等が挙げられる。好ましい4級アンモニウム塩の例としては、テトラブチルアンモニウムヨージド、テトラヘキシルアンモニウムヨージド等が挙げられる。これらは有機溶媒に溶解して用いてもよく、液体の場合はそのまま用いてもよい。
【0041】
本発明の光起電力素子において用いられる電解質としては特に限定されず、液体系でも固体系のいずれでもよく、可逆な電気化学的酸化還元特性を示すものが望ましい。ここで、可逆な電気化学的酸化還元特性を示すということは、光起電力素子の作用する電位領域において、可逆的に電気化学的酸化還元反応を起こし得ることをいう。典型的には、通常、水素基準電極(NHE)に対して−1〜+2Vvs NHEの電位領域で可逆的であることが望ましい。
電解質のイオン伝導度は、通常室温で1×10−7S/cm以上、好ましくは1×10−6S/cm以上、さらに好ましくは1×10−5S/cm以上であることが望ましい。
電解質層の厚さは特に制限されないが、1μm以上であることが好ましく、より好ましくは10μm以上であり、また、3mm以下が好ましく、より好ましくは1mm以下である。
かかる電解質としては、上記の条件を満足すれば特に制限されるものでなく、液体系および固体系とも、本技術分野で公知のものを使用することができる。
【実施例】
【0042】
以下に実施例を挙げ、本発明を具体的に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0043】
[実施例1]
<化合物1の合成>
1,10−フェナントロリン−5,6−ジオン(10ミリモル:2.10g)、酢酸アンモニウム(200ミリモル:14.4g)、サリチルアルデヒド(12ミリモル:1.45g)を酢酸100mlに溶解し、4時間加熱還流下攪拌を行なった。反応終了後、放冷、アンモニア水にて中和した。析出した沈殿物を濾別し、水にて洗浄し、減圧下乾燥を行なって化合物1を収率65%にて得た。なお化合物1はNMRにて同定した。
<光増感剤1の合成>
ジクロロ(p−サイメン)ルテニウム二量体(1ミリモル:0.61g)、化合物1(2ミリモル:0.65g)をジメチルホルムアミド(50ml)に溶解し、アルゴン雰囲気下80℃にて2時間攪拌した。続いて、2,2’−ビピリジン−4,4’−カルボン酸(2ミリモル)を加え、アルゴン下にて150℃、5時間加熱攪拌を行なった。さらに、チオシアン酸アンモニウム(1.5g)を加え、4時間加熱攪拌を行なった。
反応終了後、減圧濃縮を行ない、得られた残渣を水に分散し、ろ過にて粗精製物として目的物を得た。メタノール中水酸化n−ブチルアンモニウム水溶液を添加し、目的物を溶解した後、カラム精製を行った(Sephadex LH−20)。主成分を得、減圧濃縮後、水にて希釈し、希薄HNO水溶液にてpH2とし、生成した濃赤色の沈殿物をろ過にて回収し、減圧乾燥を行ない、目的の光増感剤1を収率70%にて得た。光増感剤1の同定は、MSスペクトル(m/z 386)、H−NMRスペクトルにて行なった。光増感剤1のH−NMRスペクトルを図2に示す。
【0044】
【化20】

【0045】
[実施例2]
<化合物2の合成>
1,10−フェナントロリン−5,6−ジオン(10ミリモル:2.10g)、酢酸アンモニウム(200ミリモル:14.4g)、3−ヒドロキシベンズアルデヒド(12ミリモル:1.45g)を酢酸100mlに溶解し、4時間加熱還流下攪拌を行なった。反応終了後、放冷、アンモニア水にて中和した。析出した沈殿物を濾別し、水にて洗浄し、減圧下乾燥を行なって化合物2を収率65%にて得た。NMRにて同定した。
<光増感剤2の合成>
ジクロロ(p−サイメン)ルテニウム二量体(1ミリモル:0.61g)、化合物2(2ミリモル:0.65g)をジメチルホルムアミド(50ml)に溶解し、アルゴン雰囲気下80℃にて2時間攪拌した。続いて、2,2’−ビピリジン−4,4’−カルボン酸(2ミリモル)を加え、アルゴン下にて150℃、5時間加熱攪拌を行なった。さらに、チオシアン酸アンモニウム(1.5g)を加え、4時間加熱攪拌を行なった。
反応終了後、減圧濃縮を行ない、得られた残渣を水に分散し、ろ過にて粗精製物として目的物を得た。メタノール中水酸化n−ブチルアンモニウム水溶液を添加し、目的物を溶解した後、カラム精製を行った(Sephadex LH−20)。主成分を得、減圧濃縮後、水にて希釈し、希薄HNO水溶液にてpH2とし、生成した濃赤色の沈殿物をろ過にて回収し、減圧乾燥を行ない、目的の光増感剤2を収率70%にて得た。光増感剤2の同定は、MSスペクトル(m/z 386)、H−NMRスペクトルにて行なった。
【0046】
【化21】

【0047】
[実施例3]
<化合物3の合成>
ジピリジルアミン(5.84ミリモル:1g)、4−ブロモアニソール(8.76ミリモル:1.64g)、水酸化カリウム(8.75ミリモル:0.5g)、および触媒としての硫酸銅(0.18ミリモル:30mg)を混合し、180℃で6時間加熱下で攪拌した。反応終了後、放冷、クロロホルムと水を加え、水で洗浄後、硫酸マグネシウム上で溶媒を減圧留出することにより目的物を得た。目的物をクロロホルムに溶解した後、カラムMeOH/CHCl(1/10)で精製することにより化合物3を収率65%で得た。同定はNMRに拠った。
【0048】
<光増感剤3の合成>
p−シメン塩化ルテニウム2量体([RuCl(p−cymene)])(1ミリモル:0.61g)、化合物3(2ミリモル:0.65g)をジメチルホルムアミド(50ml)に溶解し、アルゴン雰囲気下80℃にて2時間攪拌した。続いて、2,2’―ビピリジンー4,4’カルボン酸(2ミリモル)を加え、アルゴン下にて150℃、5時間加熱攪拌を行なった。さらに、チオシアンアンモニウム(1.5g)を加え、4時間加熱攪拌を行なった。
反応終了後、減圧濃縮を行ない、得られた残渣を水に分散し、ろ過にて粗精製物として目的物を得た。メタノール中水酸化n−ブチルアンモニウム水溶液を添加し、目的物を溶解した後、カラム精製を行った(Sephadex LH−20)。主成分を得、減圧濃縮後、水にて希釈し、希薄硝酸水溶液にてpH2とし、生成した濃赤色の沈殿物をろ過にて回収し、減圧乾燥を行ない、目的の光増感錯体3を収率70%にて得た。光増感剤3の同定は、MSスペクトル、H−NMRスペクトルにて行なった。光増感剤3のH−NMRスペクトルを図3に示す。
【0049】
【化22】

【0050】
[実施例4]
<光増感剤4の合成>
p−シメン塩化ルテニウム2量体([RuCl(p−cymene)])(1ミリモル:0.61g)、化合物3(2ミリモル:0.65g)をジメチルホルムアミド(50ml)に溶解し、アルゴン雰囲気下80℃にて2時間攪拌した。続いて、4,4’−ビス(カルボキシビニル)−2,2’−ビピリジン(2ミリモル)を加え、アルゴン下にて150℃、5時間加熱攪拌を行なった。さらに、チオシアンアンモニウム(1.5g)を加え、4時間加熱攪拌を行なった。
反応終了後、減圧濃縮を行ない、得られた残渣を水に分散し、ろ過にて粗精製物として目的物を得た。メタノール中水酸化n−ブチルアンモニウム水溶液を添加し、目的物を溶解した後、カラム精製を行った(Sephadex LH−20)。主成分を得、減圧濃縮後、水にて希釈し、希薄硝酸水溶液にてpH2とし、生成した濃赤色の沈殿物をろ過にて回収し、減圧乾燥を行ない、目的の光増感剤4を収率70%にて得た。光増感剤4の同定は、MSスペクトル、H−NMRスペクトルにて行なった。
【0051】
【化23】

【0052】
<光起電力セルの作製および変換効率の測定>
導電性基板上に支持された二酸化チタン膜の増感に基づく光起電力セルを以下のように作製した。
導電性ガラス(フッ素ドープSnO,10Ω)上にコロイド状TiO粒子(粒径:20〜30nm)を塗布し、450℃、30分間焼成し(膜厚:10μm)、その上に、光を散乱させるため、TiO粒子(粒径:300〜400nm)を塗布し、520℃、1時間焼成した(膜厚:6〜8μm)。これら2層の膜を、30分間TiCl溶液に浸漬した後、450℃、30分間加熱した。
得られた膜を上記光増感剤/エタノール溶液(3.0×10〜4mol/L)に15時間浸し、色素層を形成した。得られた基板とPt薄膜のついたガラスのPt面を合わせ、0.3mol/Lのヨウ化リチウムと0.03mol/Lのヨウ素を含むアセトニトリル溶液を毛細管現象によって染み込ませ、周辺をエポキシ接着剤で封止した。なお、透明導電基板の導電層部分と対向電極にはリード線を接続した。
このようにして得たセルに疑似太陽光を照射し、光電変換特性を測定した。短絡電流値(Jsc)、入射フォトン〜電流変換効率(IPCE)を測定した結果を、それぞれ表1、図4に示した。
【0053】
[比較例1]
△L>0.25eVの効果を示すために、△Lが0.25 eVよりも小さい光増感剤5を用いて、実施例1〜4と同様の操作で太陽電池セルを作製した。
表1より、本発明の光増感剤1〜4は△Lの小さい光増感剤5と比較して、短絡電流値が大きく、また、780nmの領域において、入射フォトンの電流変換効率が優れていることが分かる。高い変換効率を得るためには△Lは、少なくとも0.25eV以上である必要がある。
【0054】
【化24】

【0055】
表1より、本発明の光増感剤1〜4は、比較例1の光増感剤5に比較して、短絡電流値が大きく、また、図4より、本発明の光増感剤は、400−700nmで比較例1の光増感剤5よりも入射フォトンの電流変換効率が優れており、また、780nmの領域において、入射フォトンの電流変換効率が優れていることが分かる。
【0056】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】光起電力素子の断面の例である。
【図2】光増感剤1のH−NMRスペクトルである。
【図3】光増感剤3のH−NMRスペクトルである。
【図4】実施例1〜4および比較例1の入射フォトン〜電流変換効率(IPCE)を示す図である。
【符号の説明】
【0058】
1 透明導電性基板
2 対向電極基板
3 色素を吸着した金属酸化物半導体層
4 電解質層
5 シール材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)で表される金属錯体からなる金属酸化物半導体電極用光増感剤であり、配位子LまたはLを介して金属酸化物半導体電極に吸着したとき、LとLのGAUSSIAN03量子化学のプログラム計算を用いて算出した、それぞれの励起状態のエネルギーレベルの差△Lが0.25eV以上であることを特徴とする光増感剤。
ML (I)
ここで、Mは周期表第8族遷移金属を示し、Xは、独立にハロゲン原子、シアノ基、チオシナネート基、イソチオシアネート基、イソシアネート基、イソシアニド基、ヒドロキシ基、または、X同士が結合した場合、一般式(A)で示される2座配位子を表す。また、LおよびLは芳香環を含む配位子であり、LまたはLのいずれかに、COOH基またはPO(OH)を有する官能基、もしくは、π共役にて接続したCOOH基またはPO(OH)を有する官能基を有する。
【化1】

(式(A)中、R〜Rは、それぞれ同一でも異なっていても良く、水素、炭素数1〜30のアルキル基、炭素数2〜30のアルコキシアルキル基、炭素数1〜30のパーフルオロアルキル基、炭素数6〜30のアリール基、または炭素数7〜30のアラルキル基を表す。RおよびRは、それぞれ個別に、水素、シアノ基、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のパーフルオロアルキル基、または炭素数6〜15のアリール基を表し、RとRが結合して環を形成してもよい。)
【請求項2】
請求項1において、Lが、下記式(II)で表される配位子であり、Lが下記式(III)で表される配位子であることを特徴とする光増感剤。
【化2】

(式(II)中、R〜R11、R12〜R16、R17〜R19、R20〜R23、R24〜R29、R30〜R34、R35〜R37、R38〜R39、R40〜R43、R44〜R45は、それぞれ同一でも異なっていても良く、COOH基またはPO(OH)を有する官能基、π共役にて接続したCOOH基またはPO(OH)を有する官能基、水素、炭素数1〜30のアルキル基、アルケニル基、アリール基、アルコキシ基、またはアミノ基を示す。)
【化3】

(式(III)中、R114〜R128は、それぞれ独立に、COOH基またはPO(OH)を有する官能基、π共役にて接続したCOOH基またはPO(OH)を有する官能基、水素、OH基、メトキシ基、ハロゲン、炭素数1〜30のアルキル基、アルコキシ基、アミノ基、シアノ基、またはニトロ基を示す。)
【請求項3】
請求項1において、Lは、その中に少なくとも一つのCOOH基またはPO(OH)を有する官能基、またはπ共役にて接続したCOOH基またはPO(OH)を有する官能基を含み、Lはその中にCOOH基およびPO(OH)を含まず、かつ、金属酸化物半導体電極にLを介して吸着したとき、Lの励起状態のエネルギーレベルがLの励起状態のエネルギーレベルより少なくとも0.25eV以上高いことを特徴とする光増感剤。
【請求項4】
少なくとも1つの金属酸化物半導体層を有する光起電力素子であって、前記金属酸化物半導体層が請求項1〜3のいずれかに記載の光増感剤を含むことを特徴とする光起電力素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−280789(P2009−280789A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−290990(P2008−290990)
【出願日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【出願人】(000004444)新日本石油株式会社 (1,898)
【出願人】(304021277)国立大学法人 名古屋工業大学 (784)
【Fターム(参考)】