説明

新規化合物およびそれを用いた硬化性樹脂組成物

【課題】本発明は、高濃度のメソゲン骨格を有し、力学的特性等に優れる硬化物が得られる新規化合物を提供することを目的とする。
【解決手段】少なくとも2つの芳香族環を有するメソゲン骨格と、ベンゾオキサジン部位とを有するベンゾオキサジン化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベンゾオキサジン化合物およびそれを用いた硬化性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、剛直・平板状構造のメソゲン骨格を有する化合物は、配向性が高く液晶性を発現しやすいため液晶ディスプレイ等への応用が検討されてきた。
近年では、高次元で耐熱性、力学的特性、接着性を並立させる目的で、エポキシ樹脂にメソゲン骨格を導入する技術や、エポキシ樹脂にメソゲン骨格を導入して電場または磁場中で系の秩序性を制御して熱伝導率の向上を図る技術が報告されている(例えば、特許文献1〜3参照。)。
【0003】
特許文献1には、「アゾメチン基を主要部とする特定のメソゲン基から選ばれる少なくとも一種を有する熱伝導性エポキシ樹脂成形体」が記載されている。この熱伝導性エポキシ樹脂成形体は優れた熱伝導性を発揮させることができると記載されている。
また、特許文献2には、「分子内にメソゲン基を有する液晶性エポキシ樹脂を含有するエポキシ樹脂組成物を硬化して得られる異方性エポキシ樹脂成形体」が記載されている。この異方性エポキシ樹脂成形体は、熱伝導性や強靭性を向上させることができるとともに熱応力による不具合を低減させることができると記載されている。
また、特許文献3には、高温強度が高く、熱歪みが少なく、接着性に優れ、吸水性が低い、電子部品封止用、接着剤等に有用な熱硬化性エポキシ樹脂組成物の提供を目的とした「エポキシ化合物と、特定のメソゲン基を分子内に有するエポキシ基と反応性の化合物からなる硬化剤とを必須成分として含む組成物」が記載されている。
【0004】
【特許文献1】特開2004−331811号公報
【特許文献2】特開2004−225034号公報
【特許文献3】特開平9−302070号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1および2に記載の技術は、エポキシ樹脂中にメソゲン骨格を導入することにより上述した目的の達成を試みているが、エポキシ樹脂を硬化する際に硬化剤との混合が必要であるため、硬化物中のメソゲン骨格濃度が低下し、十分な効果を得ることはできなかった。
一方、特許文献3に記載の熱硬化性エポキシ樹脂組成物は、メソゲン骨格を有する硬化剤を用いてエポキシ樹脂を硬化させるものであるが、得られた硬化物の特性が十分ではなく、更に向上させる余地があった。
【0006】
本発明は、高濃度のメソゲン骨格を有し、力学的特性等に優れる硬化物が得られる新規化合物を提供することを目的とする。また、高濃度のメソゲン骨格を有し、力学的特性等に優れる硬化物が得られる硬化性樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、少なくとも2つの芳香族環を有するメソゲン骨格と、ベンゾオキサジン部位とを有するベンゾオキサジン化合物を新たに合成し、この化合物は加熱硬化可能で硬化する際に副生成物を生じないため、高濃度のメソゲン骨格を有し、力学的特性等に優れる硬化物が得られることを知見した。
更に、エポキシ樹脂等の一般的な樹脂と上記ベンゾオキサジン化合物とを併用すると、これらの樹脂の力学的特性等を向上できることを知見した。
本発明者は、これらの知見に基づき本発明を完成させた。
【0008】
本発明は、下記(1)〜(13)を提供する。
(1)少なくとも2つの芳香族環を有するメソゲン骨格と、ベンゾオキサジン部位とを有するベンゾオキサジン化合物。
(2)前記芳香族環がベンゼン環および/またはナフタレン環である上記(1)に記載のベンゾオキサジン化合物。
(3)前記メソゲン骨格の全部または一部を主鎖中に有する上記(1)または(2)に記載のベンゾオキサジン化合物。
(4)下記式(1)で表されるベンゾオキサジン化合物。
【化3】


(式中、R1はそれぞれ独立に主鎖を構成する元素が二重結合および/または三重結合を有する二価の有機基であり、R2はそれぞれ独立に水素、アルキル基またはアルコキシ基であり、R3はそれぞれ独立にアルキル基、アラルキル基またはアリール基である。)
(5)下記式(2)で表されるベンゾオキサジン化合物。
【化4】



(式中、R1はそれぞれ独立に主鎖を構成する元素が二重結合および/または三重結合を有する二価の有機基であり、R2はそれぞれ独立に水素、アルキル基またはアルコキシ基であり、R3はそれぞれ独立にアルキル基、アラルキル基またはアリール基であり、nは0〜10の整数を表す。)
(6)上記(4)に記載のベンゾオキサジン化合物と、上記(5)に記載のベンゾオキサジン化合物とを含有する混合物。
(7)上記(1)〜(5)のいずれかに記載のベンゾオキサジン化合物を硬化させて得られる硬化物。
(8)上記(1)〜(5)のいずれかに記載のベンゾオキサジン化合物と、前記ベンゾオキサジン化合物以外の樹脂とを含有する硬化性樹脂組成物。
(9)前記ベンゾオキサジン化合物以外の樹脂が、エポキシ樹脂である上記(8)に記載の硬化性樹脂組成物。
(10)前記ベンゾオキサジン化合物を、前記ベンゾオキサジン化合物以外の樹脂100質量部に対して5〜1000質量部含有する上記(8)または(9)に記載の硬化性樹脂組成物。
(11)更に、フェニレンビスオキサゾリンを含有する上記(8)〜(10)のいずれかに記載の硬化性樹脂組成物。
(12)上記(1)〜(5)のいずれかに記載のベンゾオキサジン化合物と、フェニレンビスオキサゾリンとを含有する硬化性樹脂組成物。
(13)上記(8)〜(12)のいずれかに記載の硬化性樹脂組成物を硬化させて得られる硬化物。
【発明の効果】
【0009】
本発明のベンゾオキサジン化合物は、高濃度のメソゲン骨格を有し、力学的特性等に優れる硬化物が得られる。
また、本発明の硬化性樹脂組成物は、高濃度のメソゲン骨格を有し、力学的特性等に優れる硬化物が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明をより詳細に説明する。
本発明のベンゾオキサジン化合物(以下、「本発明の化合物」ともいう。)は、少なくとも2つの芳香族環を有するメソゲン骨格と、ベンゾオキサジン部位とを有する。
上記メソゲン骨格は、少なくとも2つの芳香族環を有し、液晶性を発現させる部位である。具体的には、例えば、メソゲン骨格は、下記式で表される構造を有する。
【0011】
【化5】

【0012】
ここで、pは0以上の整数である。Arは芳香族基であり、芳香族基としては芳香族環を有している基であれば特に限定されないが、具体的には、アリール基、アリーレン基等が挙げられる。R1は、主鎖を構成する元素が二重結合および/または三重結合を有する二価の有機基である。R1は、主鎖に二重結合および/または三重結合を含む二価の有機基であってもよい。R1としては、具体的には、下記式で表される基が好適に例示される。
【0013】
【化6】

【0014】
また、上記ベンゾオキサジン部位は、下記式(3)で表される化合物から1つ以上の水素原子を除いて得られる基である。
【0015】
【化7】

【0016】
3はそれぞれ独立にアルキル基、アラルキル基またはアリール基である。アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等の炭素数1〜20のアルキル基が好適に例示される。上記アラルキル基としては、ベンジル基等の炭素数7〜20のアラルキル基が好適に例示される。上記アリール基としては、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等の炭素数6〜20のアリール基が好適に例示される。
【0017】
上記メソゲン骨格および上記ベンゾオキサジン部位は、互いの構造の一部を共有していてもよい。
【0018】
上記メソゲン骨格が有する芳香族環は、ベンゼン環および/またはナフタレン環であることが、メソゲン骨格の平面構造を保持しやすい点から好ましい。
【0019】
本発明の化合物は、上記メソゲン骨格を主鎖および/または側鎖に有することができるが、メソゲン骨格の有する特性を硬化物の物性に反映しやすい点から、上記メソゲン骨格の全部または一部を主鎖中に有するのが好ましい。ここで、「メソゲン骨格の全部を主鎖中に有する」とは、例えば、上記式(1)で表される化合物のように、メソゲン骨格の全部を主鎖中に有することを言う。また、「メソゲン骨格の一部を主鎖中に有する」とは、例えば、上記式(2)で表される化合物のように、メソゲン骨格の一部を主鎖中に有することを言う。
【0020】
本発明の化合物としては、下記式(1)で表されるベンゾオキサジン化合物が好ましい態様の一つである。
【0021】
【化8】

【0022】
式(1)および(2)中、R1およびR3は、それぞれ上記R1および上記R3と同義である。
2はそれぞれ独立に水素、アルキル基またはアルコキシ基である。このアルキル基としては、炭素数1〜5のアルキル基が好ましい。特に、メチル基、エチル基が、メソゲン骨格の平面構造を保持しやすい点からより好ましい。上記アルコキシ基としては、炭素数1〜5のアルコキシ基が好ましく、メトキシ基、エトキシ基がメソゲン骨格の平面構造を保持しやすい点からより好ましい。
【0023】
また、本発明の化合物としては、下記式(2)で表されるベンゾオキサジン化合物が好ましい態様の一つである。
【0024】
【化9】

【0025】
式(2)中、R1、R2およびR3は、それぞれ式(1)のR1、R2およびR3と同義である。nは0〜10の整数を表す。特に、nが0〜5であると溶融粘度が低くなる点から好ましい。
【0026】
本発明の化合物の製造方法の一例を以下に説明する。ただし、本発明の化合物の製造方法は、この方法に限定されない。
はじめに、テレフタルアルデヒドと、4−アミノ−m−クレゾールをテレフタルアルデヒドに対して約2当量と、溶媒(例えばエタノール)と、触媒(例えば塩化亜鉛)とを混合し、約80℃で5時間程度反応させて、中間体であるテレフタリリデン−ビス−(4−アミノ−3−メチルフェノール)(下記式(4)で表される化合物)を合成する。
【0027】
【化10】

【0028】
式(4)中、R4は、それぞれ独立に、HまたはCH3を表す。ただし、同一のベンゼン環に結合する2つのR4は一方がHで、他方がCH3である。
【0029】
次に、別の容器にホルムアルデヒド水溶液を加え、氷浴中でアニリンをホルムアルデヒドに対して約0.5当量滴下する。
次に、式(4)で表されるテレフタリリデン−ビス−(4−アミノ−3−メチルフェノール)を上記ホルムアルデヒドに対して約0.25当量含むTHF溶液を、上記ホルムアルデヒド/アニリン混合液中に滴下する。その後、約80℃で8時間程度反応させて、下記式(5)および下記式(6)で表される化合物の混合物が得られる。
【0030】
【化11】

【0031】
式(5)および(6)中、R4は、式(4)のR4と同義である。R5は、フェニル基を表す。mは0〜2の整数を表す。
【0032】
上記の方法で製造した場合、本発明のベンゾオキサジン化合物は、通常、上記式(1)で表されるベンゾオキサジン化合物(モノマー)と、上記式(2)で表されるベンゾオキサジン化合物(重合体)との混合物として得られる。この混合物をゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)等の公知の方法により精製して、上記式(1)で表されるベンゾオキサジン化合物と上記式(2)で表されるベンゾオキサジン化合物とに分離し、それぞれを本発明のベンゾオキサジン化合物として用いることができる。また、分離せずに混合物のまま用いることもできる。
【0033】
本発明の化合物は、メソゲン骨格を有するので硬化する際に分子が配向しやすいため、硬化物中に液晶領域が生成し、この液晶領域がその配向性により化学結合によらない物理的架橋点となり得る。そのため、得られた硬化物は、力学的特性(特に、靭性)に優れる他、耐熱性に優れ、熱膨張係数や吸水率が低くなると考えられる。また、本発明の化合物を硬化する際に電場または磁場をかけると、分子の配向性がより強くなるので上述した特性により優れる硬化物が得られると推定される。
また、本発明の化合物は、ベンゾオキサジン部位を有し、このベンゾオキサジン部位が熱により反応して硬化するため、硬化剤を使用する必要がなく、副生成物を生じない。したがって、硬化前後でメソゲン骨格濃度が変化せず、硬化物は力学的特性等に優れる。更に、本発明の化合物は、ベンゾオキサジン部位を有するため、電気的特性、吸湿性等にも優れると考えられる。
【0034】
本発明の化合物は、上述した優れた特性を活かして広範な用途に用いられる。例えば、樹脂の改質剤、構造用接着剤、コーティング、塗料、電子部品用封止剤等として使用される。
【0035】
以下、本発明の硬化性樹脂組成物について詳細に説明する。
本発明の硬化性樹脂組成物(以下、「本発明の組成物」ともいう。)の第1の態様は、上述した本発明のベンゾオキサジン化合物と、上記ベンゾオキサジン化合物以外の樹脂とを含有する硬化性樹脂組成物である。
【0036】
本発明の組成物に用いられる上記ベンゾオキサジン化合物以外の樹脂(以下、「樹脂(A)」ともいう。)は、特に限定されない。具体的には、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂等の熱硬化性樹脂;ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂等の熱可塑性樹脂が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0037】
一般的に、熱硬化性樹脂は、耐熱性,耐溶剤性等に優れる反面、靭性に劣るという問題がある。そこで、熱硬化性樹脂に上述した本発明の化合物を添加することにより、靭性が大幅に改善され、更に、耐熱性等もより高くなり、種々の特性を高い次元で有する硬化物が得られる。したがって、上記樹脂(A)として熱硬化性樹脂が好適に用いられる。
また、本発明の化合物は、加熱した際に本発明の化合物からヒドロキシ基が生じるので、エポキシ樹脂やフェノール樹脂等のヒドロキシ基と反応性を有する官能基を有する樹脂と共架橋することができ、これらの樹脂の力学的特性等を大幅に改善できる。特に、エポキシ樹脂が簡便に硬化物を得ることができるという点からより好ましい。
【0038】
本発明の組成物に用いられるエポキシ樹脂としては、少なくとも1つのエポキシ基を有する化合物であれば特に限定されない。具体的には、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、ヘキサヒドロビスフェノールA、テトラメチルビスフェノールA、ピロカテコール、レゾルシノール、クレゾールノボラック、テトラブロモビスフェノールA、トリヒドロキシビフェニル、ビスレゾルシノール、ビスフェノールヘキサフルオロアセトン、テトラメチルビスフェノールF、ビキシレノール、ジヒドロキシナフタレン等の多価フェノールとエピクロルヒドリンとの反応によって得られるグリシジルエーテル型;グリセリン、ネオペンチルグリコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキシレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等の脂肪族多価アルコールとエピクロルヒドリンとの反応によって得られるポリグリシジルエーテル型;p−オキシ安息香酸、β−オキシナフトエ酸等のヒドロキシカルボン酸とエピクロルヒドリンとの反応によって得られるグリシジルエーテルエステル型;フタル酸、メチルフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、テトラハイドロフタル酸、ヘキサハイドロフタル酸、エンドメチレンテトラハイドロフタル酸、エンドメチレンヘキサハイドロフタル酸、トリメリット酸、重合脂肪酸等のポリカルボン酸から誘導されるポリグリシジルエステル型;アミノフェノール、アミノアルキルフェノール等から誘導されるグリシジルアミノグリシジルエーテル型;アミノ安息香酸から誘導されるグリシジルアミノグリシジルエステル型;アニリン、トルイジン、トリブロムアニリン、キシリレンジアミン、ジアミノシクロヘキサン、ビスアミノメチルシクロヘキサン、4,4′−ジアミノジフェニルメタン、4,4′−ジアミノジフェニルスルホン等から誘導されるグリシジルアミン型;さらにエポキシ化ポリオレフィン、グリシジルヒダントイン、グリシジルアルキルヒダントイン、トリグリシジルシアヌレート等が挙げられる。
これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0039】
これらのエポキシ樹脂の中でも、ビスフェノールA型エポキシ樹脂およびビスフェノールF型エポキシ樹脂が、入手の容易さおよび硬化物の性質(性能)のバランスが良好であることから好ましい。
【0040】
また、本発明の組成物において、上記樹脂(A)としてメソゲン骨格を有するエポキシ樹脂を用いると、得られる硬化物は、高濃度のメソゲン骨格を有し、力学的特性等に優れる。したがって、上記樹脂(A)としてメソゲン骨格を有するエポキシ樹脂を用いるのが好ましい態様の一つである。
メソゲン骨格を有するエポキシ樹脂としては、具体的には、例えば、特開2004−331811号公報に記載の下記式(7)〜(10)で表されるアゾメチン基を主要部とするメソゲン基から選ばれる少なくとも一種を有するエポキシ樹脂;特開2004−225034号公報に記載の「分子内にメソゲン基を有する液晶性エポキシ樹脂」が好適に挙げられる。
【0041】
【化12】

【0042】
式(7)〜(10)中、Xは、脂肪族炭化水素、F、Cl、Br、CN、またはNO2を表す。nは0〜4の整数を表す。
【0043】
本発明の組成物は、本発明のベンゾオキサジン化合物を、上記樹脂(A)100質量部に対して5〜1000質量部含有するのが好ましい。本発明の化合物の含有量がこの範囲であると、力学的特性(特に靭性)、耐熱性等を高次元で両立する硬化物が得られる。これらの特性により優れる点から本発明の化合物の含有量は、上記樹脂(A)100質量部に対して10〜100質量部がより好ましく、20〜50質量部が更に好ましい。
【0044】
本発明の組成物は、更に、フェニレンビスオキサゾリン(下記式(11)で表される化合物)を含有するのが、より優れた靭性を有する硬化物が得られる点から好ましい。
【0045】
【化13】

【0046】
本発明の組成物の第2の態様は、本発明のベンゾオキサジン化合物と、フェニレンビスオキサゾリンとを含有する硬化性樹脂組成物である。本発明の化合物とフェニレンビスオキサゾリンとを併用した場合、より優れた靭性を有する硬化物が得られる。
【0047】
本発明の組成物(第1の態様および第2の態様を含む)は、本発明の目的を損なわない範囲で、更に、硬化触媒を含有してもよい。
硬化触媒としては、具体的には、例えば、2−メチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール等のイミダゾール類、2−(ジメチルアミノメチル)フェノール、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、1,8−ジアザ−ビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7等の第三級アミン類、トリフェニルホスフィン等のホスフィン類、オクチル酸スズ等の金属化合物、第四級ホスホニウム塩等が挙げられる。中でも、トリフェニルホスフィン、安息香酸が好ましい。
【0048】
硬化触媒の含有量は、構成する樹脂成分全量の0.1〜10質量%が好ましく、1〜5質量%がより好ましい。
【0049】
本発明の組成物は、必要に応じて、本発明の目的を損わない範囲で、充填剤、反応遅延剤、老化防止剤、酸化防止剤、顔料(染料)、可塑剤、揺変性付与剤、紫外線吸収剤、難燃剤、溶剤、界面活性剤(レベリング剤を含む)、分散剤、脱水剤、接着付与剤、帯電防止剤等の各種添加剤等を含有することができる。
【0050】
充填剤としては、各種形状の有機または無機の充填剤が挙げられる。具体的には、例えば、ヒュームドシリカ、焼成シリカ、沈降シリカ、粉砕シリカ、溶融シリカ;ケイソウ土;酸化鉄、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化バリウム、酸化マグネシウム;炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛;ろう石クレー、カオリンクレー、焼成クレー;カーボンブラック;これらの脂肪酸処理物、樹脂酸処理物、ウレタン化合物処理物、脂肪酸エステル処理物が挙げられる。
【0051】
反応遅延剤としては、具体的には、例えば、アルコール系等の化合物が挙げられる。
【0052】
老化防止剤としては、具体的には、例えば、ヒンダードフェノール系等の化合物が挙げられる。
酸化防止剤としては、具体的には、例えば、ブチルヒドロキシトルエン(BHT)、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)等が挙げられる。
【0053】
顔料としては、具体的には、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、群青、ベンガラ、リトポン、鉛、カドミウム、鉄、コバルト、アルミニウム、塩酸塩、硫酸塩等の無機顔料;アゾ顔料、フタロシアニン顔料、キナクリドン顔料、キナクリドンキノン顔料、ジオキサジン顔料、アントラピリミジン顔料、アンサンスロン顔料、インダンスロン顔料、フラバンスロン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、ジケトピロロピロール顔料、キノナフタロン顔料、アントラキノン顔料、チオインジゴ顔料、ベンズイミダゾロン顔料、イソインドリン顔料、カーボンブラック等の有機顔料等が挙げられる。
【0054】
可塑剤としては、具体的には、例えば、ジオクチルフタレート(DOP)、ジブチルフタレート(DBP);アジピン酸ジオクチル、コハク酸イソデシル;ジエチレングリコールジベンゾエート、ペンタエリスリトールエステル;オレイン酸ブチル、アセチルリシノール酸メチル;リン酸トリクレジル、リン酸トリオクチル;アジピン酸プロピレングリコールポリエステル、アジピン酸ブチレングリコールポリエステル等が挙げられる。
【0055】
揺変性付与剤としては、具体的には、例えば、エアロジル(日本エアロジル(株)製)、ディスパロン(楠本化成(株)製)等が挙げられる。
接着付与剤としては、具体的には、例えば、テルペン樹脂、フェノール樹脂、テルペン−フェノール樹脂、ロジン樹脂、キシレン樹脂等が挙げられる。
【0056】
難燃剤としては、具体的には、例えば、クロロアルキルホスフェート、ジメチル・メチルホスホネート、臭素・リン化合物、アンモニウムポリホスフェート、ネオペンチルブロマイド−ポリエーテル、臭素化ポリエーテル等が挙げられる。
帯電防止剤としては、一般的に、第四級アンモニウム塩;ポリグリコール、エチレンオキサイド誘導体等の親水性化合物等が挙げられる。
【0057】
本発明の組成物の製造方法は、特に限定されないが、例えば、反応容器に上記の各必須成分と任意成分とを入れ、減圧下で混合ミキサー等のかくはん機を用いて十分に混練する方法を用いることができる。
本発明の組成物は、通常、200〜230℃程度で10〜180分程度加熱することにより硬化される。
【0058】
上述したように、本発明の組成物は、高濃度のメソゲン骨格を有し、力学的特性等に優れる硬化物が得られる。
本発明の組成物は、上述した優れた特性を活かして広範な用途に用いられる。例えば、構造用接着剤、コーティング、塗料、電子部品用封止剤等として使用される。
【実施例】
【0059】
以下、実施例を示して、本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。
<合成例>
(ベンゾオキサジン化合物1の合成)
2L三口フラスコにテレフタルアルデヒド54.45g(0.406mol)、4−アミノ−m−クレゾール100g(0.812mol)、エタノール800ml、触媒として塩化亜鉛1gを加えた。その後、冷却管を取り付け80℃で5時間反応させた。得られた反応物を吸引濾過し、濾紙上に残った黄色結晶を20gのエタノールで5回洗浄した後、1H−NMR測定を行い、下記式(4)で表されるテレフタリリデン−ビス−(4−アミノ−3−メチルフェノール)を確認した。収率は87%だった。
下記式(4)で表される化合物の1H−NMRの帰属を以下に示す。
【0060】
1H−NMR(270MHz、DMSO−d6)δ(ppm):2.2−2.4(6H,CH3)、6.6−6.8(4H,ArH)、7.0−7.2(2H,ArH)、8.0−8.2(4H,ArH)、8.6−8.8(2H,CH)、9.2−9.4(2H,OH)
【0061】
【化14】

【0062】
式(4)中、R4は、それぞれ独立に、HまたはCH3を表す。ただし、同一のベンゼン環に結合する2つのR4は一方がHで、他方がCH3である。
【0063】
次に、100mlナスフラスコに37%ホルムアルデヒド水溶液9.41g(0.116mol)を加え、氷浴中でアニリン5.4g(0.058mol)を滴下した。次に、得られたテレフタリリデン−ビス−(4−アミノ−3−メチルフェノール)10g(0.029mol)とTHF25gとの混合液を、上記ホルムアルデヒド/アニリン混合液中に滴下した。その後、冷却管を取り付け80℃まで加熱し8時間反応させた。
得られた褐色溶液を減圧下で溶媒、ホルムアルデヒドおよび反応により生成した水を留去し、固形分を得た。この固形分16gをTHF20gに再溶解し、エタノール200mlで再沈殿することで未反応のアニリンを除去し、精製して固形物を得た。
【0064】
得られた固形物について1H−NMR測定およびGPC測定を行い、下記式(5)で表される化合物(モノマー)と(6)で表される化合物(m=0〜2の重合体)との混合物であることを確認した。この得られた化合物(混合物)をベンゾオキサジン化合物1とする。ベンゾオキサジン化合物1の収率は80%であった。
ベンゾオキサジン化合物1のGPCチャートを図1に示す。また、ベンゾオキサジン化合物1の1H−NMRの帰属を以下に示す。
【0065】
1H−NMR(400MHz、CDCl3)δ(ppm):2.1−2.4(6H,CH3)、4.2−4.7(4H,CH2)、5.0−5.5(4H,CH2)、6.6−7.4(14H,ArH)、8.0−8.2(4H,ArH)、8.3−8.5(2H,CH)
【0066】
ベンゾオキサジン化合物1のDSC測定を行ったところ、230℃付近に発熱ピークが現れ、樹脂の硬化が確認された。
【0067】
【化15】

【0068】
式(5)および(6)中、R4は、それぞれ独立に、HまたはCH3を表す。ただし、同一のベンゼン環に結合する2つのR4は一方がHで、他方がCH3である。R5は、フェニル基を表す。mは0〜2の整数を表す。
【0069】
(実施例1)
得られたベンゾオキサジン化合物1の引張剪断強度を下記の方法により測定した。結果を下記第1表に示す。
【0070】
(実施例2)
下記第1表に示す組成(質量部)で、上記ベンゾオキサジン化合物1と、ビスA型エポキシ樹脂(EP−4100E、旭電化工業社製)と、硬化触媒(トリフェニルホスフィン、関東化学社製)とを混合し、撹拌機で十分に分散させ、実施例2の組成物を得た。得られた組成物の引張剪断強度を下記の方法により測定した。結果を下記第1表に示す。
【0071】
(実施例3)
下記第1表に示す組成(質量部)で、上記ベンゾオキサジン化合物1と、フェニレンビスオキサゾリン(1,3−PBO、三國製薬工業社製)と、硬化触媒(トリフェニルホスフィン、関東化学社製)とを混合し、撹拌機で十分に分散させ、実施例3の組成物を得た。得られた組成物の引張剪断強度を下記の方法により測定した。結果を下記第1表に示す。
【0072】
(比較例1)
下記式(12)で表されるベンゾオキサジン化合物2(B−m型ベンゾオキサジン、四国化成社製)の引張剪断強度を下記の方法により測定した。結果を下記第1表に示す。
【0073】
【化16】

【0074】
<引張剪断試験>
実施例1〜3および比較例1のベンゾオキサジン化合物または組成物について、JIS K6850−1999に準じて、引張速度1mm/分で引張剪断強度を測定した。
被着材は、鋼板(SS400、100×25×1.6mm)の表面をサンダー掛けにより凹凸にしたもの2枚を用い、接合部の長さは12.5mmとした。
実施例1〜3のベンゾオキサジン化合物または組成物は、室温から230℃まで昇温後、230℃で1時間保持して硬化させた。比較例1のベンゾオキサジン化合物は、室温から180℃まで昇温後、180℃で2時間保持し硬化させた。接着後の接着剤の厚さは0.2mmだった。
【0075】
【表1】

【0076】
第1表に示す結果から明らかなように、実施例1のベンゾオキサジン化合物および実施例2〜3の組成物は、従来のベンゾオキサジン化合物(比較例1)よりも引張剪断強度が優れていた。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】図1は、ベンゾオキサジン化合物1のGPCチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2つの芳香族環を有するメソゲン骨格と、ベンゾオキサジン部位とを有するベンゾオキサジン化合物。
【請求項2】
前記芳香族環がベンゼン環および/またはナフタレン環である請求項1に記載のベンゾオキサジン化合物。
【請求項3】
前記メソゲン骨格の全部または一部を主鎖中に有する請求項1または2に記載のベンゾオキサジン化合物。
【請求項4】
下記式(1)で表されるベンゾオキサジン化合物。
【化1】


(式中、R1はそれぞれ独立に主鎖を構成する元素が二重結合および/または三重結合を有する二価の有機基であり、R2はそれぞれ独立に水素、アルキル基またはアルコキシ基であり、R3はそれぞれ独立にアルキル基、アラルキル基またはアリール基である。)
【請求項5】
下記式(2)で表されるベンゾオキサジン化合物。
【化2】



(式中、R1はそれぞれ独立に主鎖を構成する元素が二重結合および/または三重結合を有する二価の有機基であり、R2はそれぞれ独立に水素、アルキル基またはアルコキシ基であり、R3はそれぞれ独立にアルキル基、アラルキル基またはアリール基であり、nは0〜10の整数を表す。)
【請求項6】
請求項4に記載のベンゾオキサジン化合物と、請求項5に記載のベンゾオキサジン化合物とを含有する混合物。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載のベンゾオキサジン化合物を硬化させて得られる硬化物。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれかに記載のベンゾオキサジン化合物と、前記ベンゾオキサジン化合物以外の樹脂とを含有する硬化性樹脂組成物。
【請求項9】
前記ベンゾオキサジン化合物以外の樹脂が、エポキシ樹脂である請求項8に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項10】
前記ベンゾオキサジン化合物を、前記ベンゾオキサジン化合物以外の樹脂100質量部に対して5〜1000質量部含有する請求項8または9に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項11】
更に、フェニレンビスオキサゾリンを含有する請求項8〜10のいずれかに記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項12】
請求項1〜5のいずれかに記載のベンゾオキサジン化合物と、フェニレンビスオキサゾリンとを含有する硬化性樹脂組成物。
【請求項13】
請求項8〜12のいずれかに記載の硬化性樹脂組成物を硬化させて得られる硬化物。

【図1】
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【公開番号】特開2006−306778(P2006−306778A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−131152(P2005−131152)
【出願日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】