説明

新規化合物マリペプチン類及びその製造方法

【課題】炎症性伝達物質産生抑制活性を有する新規化合物又はその塩、該化合物を含むことからなる医薬組成物、該化合物の生産菌、該化合物の製造方法を提供する。
【解決手段】シュードアルテロモナス(Pseudoalteromonas)属に属するマリペプチン類生産菌を培養し、マリペプチン類を培養物より分離回収する。マリペプチン類は炎症性伝達物質産生抑制活性又は抗菌活性を有しており、敗血症及びそれに起因する疾患など各種炎症性疾患、炎症及び感染症の予防又は治療に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炎症性伝達物質産生抑制活性を有する新規化合物又はその塩、該化合物を含むことからなる医薬組成物(主に炎症性疾患治療剤、抗菌剤))、該化合物の生産菌、該化合物の製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
炎症反応は、マクロファージや白血球、免疫担当細胞をはじめとする種々の細胞が活性化されることによって惹起される生体応答の一種であり、当該反応には細胞から放出された炎症性伝達物質が介在している。炎症性伝達物質としては、主に、蛋白質性あるいはペプチド性因子であるサイトカイン又はケモカイン、プロスタグランジンなどの脂質因子、一酸化窒素など他の低分子性因子を挙げることができる。炎症性伝達を担うサイトカインとしては、各種インターロイキン類、インターフェロン、TGFβ、TNFα等を挙げることができる。炎症性伝達物質のバランスの破綻や産生の亢進は、各種炎症性疾患の発症や進展をもたらす(非特許文献1)。炎症性疾患には、敗血症およびそれに起因する疾患、炎症性心疾患、炎症性自己免疫疾患等が含まれ、炎症性伝達物質の産生を抑制する物質は、それら炎症性疾患の治療または予防に有効とされている。
【0003】
炎症性疾患のうち、敗血症およびそれに起因する疾患は、致死率が高いこと、患者数が多いこと等の理由により、治療法の確立が急務である。敗血症は、感染菌体から遊離したリポ多糖(LPS)などのエンドトキシンが、マクロファージをはじめとする細胞へ作用することが引き金となって発症する疾患である。LPSは、細胞上のCD14抗原と結合することにより、当該細胞に刺激を伝達することが知られている。エンドトキシンの刺激を受けた細胞は、炎症性伝達物質を分泌し、それにより炎症反応が惹起される、次いで、組織障害、急激な血圧低下、汎発性血管内血液凝固症候群などを生じ、多臓器機能不全状態あるいはショック状態(敗血症性ショックと呼ばれる)に至る。このような敗血症およびそれに起因する疾患の治療には、炎症性伝達物質の産生を抑制する物質、特にエンドトキシン刺激による炎症性伝達物質の産生を抑制する物質が有効と期待されている。
【0004】
炎症性疾患治療薬としては、現在、主に炎症性サイトカイン拮抗物質が使用されている。このうち、インフリキシマブ(infliximab)、アダリムマブ(adalimumab)等の抗TNFα抗体、エタネルセプト(etanercept)等の遊離型TNFα受容体II、アナキンラ(anakinra)等のIL−1受容体アンタゴニスト等は、クローン病、関節リューマチ等の治療を目的として臨床において使用されているものの(非特許文献2)、副作用、適用疾患の範囲、製剤、投与方法等の面から、炎症性疾患治療薬として十分満足できるものとは言い難い(非特許文献3乃至5)。
【0005】
また、炎症性サイトカインの産生を抑制する物質としては、低分子化合物であるサリドマイドが知られている(非特許文献6及び7)。しかしながら、サリドマイドは、適用疾患が限定される上、副作用の懸念が大きい。
【0006】
さらに、LPS刺激による炎症性伝達物質産生を抑制する物質としては、ポリミキシンBをはじめとするポリミキシン類・コリスチン類等のペプチド性化合物を挙げることができる(非特許文献8乃至11)。しかしながら、これらの化合物は副作用の懸念があり(非特許文献12乃至14)、抗炎症性疾患治療薬としては未だ臨床において使用されていない。
【0007】
また、敗血症ショックの治療には、活性型プロテインC(drotrecogin alfa)が臨床において使用されている。しかしながら、活性型プロテインCは、治療効果、適用可能な患者の範囲、副作用の懸念があり(非特許文献15および16)、敗血症およびそれに起因する疾患の治療薬として十分満足できるとは言い難い。
【非特許文献1】別冊・医学のあゆみ「サイトカインと疾患」編者今西二郎、医歯薬出版、3−7頁、2000年7月10日発行
【非特許文献2】ミクルス(T. R. Mikuls)及びウィーバー(A. L. Weaver)、カレント・リューマトロジカル・リポート(Curr. Rheumatol. Rep.)、5巻、270−277頁、2003年刊行
【非特許文献3】ブレスニハン(B. Bresnihan)及びカナン(G. Cunnane)、リューマティック・ディジーズ・クリニクス・オブ・ノース・アメリカ(Rheumatic Disease Clinics of North America)、29巻、185−202頁、2003年刊行
【非特許文献4】フィッツチャールズ(M.-A. Fitzcharles)ら、ザ・ジャーナル・オブ・リューマトロジー(The Journal of Rheumatology)、29巻、2525−2530頁、2002年刊行
【非特許文献5】ロング(R. Long)及びガーダム(M. Gardam)、シー・エム・エー・ジェー(CMAJ)、168巻、1153−1156頁、2003年刊行
【非特許文献6】オサンドン(A. Ossandon)ら、クリニカル・アンド・エクスペリメンタル・リューマトロジー(Clin. Exp. Rheumatol.)、20巻、709−718頁、2002年刊行
【非特許文献7】マイヤーホーファー(C. Meierhofer)及びヴィーダーマン(C. J. Wiedermann)、カレント・オピニオン・オブ・ドラッグ・ディスカバリー・アンド・ディベロプメント(Curr. Opin. Drug Discov. Devel.)、6巻、92−99頁、2003年刊行
【非特許文献8】リフキンド(D. Rifkind)、ジャーナル・オブ・バクテリオロジー( J. Bacteriol.)、93巻、1463−64頁、1967年刊行
【非特許文献9】ジェイコブス(D. M. Jacobs)及びモリソン(D. C. Morrison)、ジャーナル・オブ・イムノロジー(J. Immunol.)、118巻、21−27頁、1977年刊行
【非特許文献10】バトラー(T. Butler)ら、インフェクション・アンド・イミューン(Infect. Immun.)、16巻、449−455頁、1977年刊行
【非特許文献11】フロム(A. H. From)ら、インフェクション・アンド・イミュニティー(Infect. Immun.)、23巻、660−664頁、1979年刊行
【非特許文献12】ヴィニコンベ(J. Vinnicombe) 及びステイミー(T. A. Stamey) 、インベスティゲイティブ・ウロロジー(Investigative Urology)、6巻、505−519頁、1969年刊行
【非特許文献13】ペダーセン(M. F. Pedersen)ら、インベスティゲイティブ・ウロロジー(Investigative Urology)、9巻、234−237頁、1971年刊行
【非特許文献14】シール(T. W. Seale)及びレンナート(O. M. Rennert)、アナルズ・オブ・クリニカル・アンド・ラボラトリー・サイエンス(Annals of Clinical and Laboratory Science)、12巻、1−10頁、1982年刊行
【非特許文献15】ウォン−ベリンガー(A. Wong-Beringer)ら、アメリカン・ジャーナル・オブ・ヘルス・システム・アンド・ファーマシー(Am. J. Health-Syst. Pharm.)、60巻、1345頁、2003年刊行
【非特許文献16】マッコイ(C. McCoy)及びマシューズ(S. J. Matthews)、クリニカル・セラピューティクス(Clinical Therapeutics)、25巻、396−421頁、2003年刊行
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは前述のような現状に鑑み、各種炎症性疾患の治療又は予防に有用な新規化合物を見出すべく、炎症性伝達物質産生抑制活性を有する化合物の探索研究を鋭意実施した。その結果、海藻より分離した細菌の培養物中に、炎症性伝達物質産生抑制活性を有する新規化合物を見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明は、炎症性物質産生抑制活性を有する新規化合物、該化合物又はその塩を有効成分として含有する医薬組成物(主に炎症性疾患治療又は予防剤、抗菌剤)該化合物を生産する新規微生物、該化合物の製造方法等を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、下記の(1)乃至(3)のいずれかに記載の化合物又はその塩に関する。
(1) 下記一般式[1]で表される化合物又はその塩。
【0011】
【化1】

【0012】
[式中、Rは下記式[2]、
【0013】
【化2】

【0014】
又は[3]
【0015】
【化3】

【0016】
を示す。]

(2) 下記の物理化学的性状を有する化合物又はその塩:
1)性質:塩基性、無色粉末;
2)溶解性:ギ酸、酢酸、メタノールに可溶;
3)分子式:C981591924(飛行時間型質量分析計を用い、ESI法により決定);
4)精密質量:[M+H]+
飛行時間型質量分析計を用い、ESI法により測定した精密質量は以下の通りである:
実測値:1987.1868
計算値:1987.1884;
5)紫外線吸収スペクトル:λmax nm(ε)
50%メタノール−水溶液中で測定した紫外線吸収スペクトルは、末端吸収である;
6)赤外線吸収スペクトル(KBr):νmax cm−1
KBrディスク法で測定した赤外線吸収スペクトルは、次の通りである:
3299、2961、2930、1647、1536、1455;
7) H−核磁気共鳴スペクトル; δ (ppm)
重酢酸溶液中で測定した核磁気共鳴スペクトル(500MHz)は、図2に示す通りである。(重酢酸のシグナルを2.04ppmとした。)
8)13C−核磁気共鳴スペクトル; δ(ppm)
重酢酸溶液中で測定した核磁気共鳴スペクトル(125MHz)は、図3に示す通りである。(重酢酸のシグナルを20.0ppmとした。166.2ppmに観測されるシグナルは蟻酸に由来する。)

(3) 下記の物理化学的性状を有する化合物又はその塩:
1)性質:塩基性、無色粉末;
2)溶解性:ギ酸、酢酸、メタノールに可溶;
3)分子式:C961571924(飛行時間型質量分析計を用い、ESI法により決定);
4)精密質量:[M+H]+
飛行時間型質量分析計を用い、ESI法により測定した精密質量は以下の通りである:
実測値:1961.1724
計算値:1961.1727:
5)紫外線吸収スペクトル:λmax nm(ε)
50%メタノール−水溶液中で測定した紫外線吸収スペクトルは、末端吸収である;
6)赤外線吸収スペクトル(KBr):νmax cm−1
KBrディスク法で測定した赤外線吸収スペクトルは、次の通りである:
3304、2961、2929、1651、1534、1455;
7)H−核磁気共鳴スペクトル; δ(ppm)
重酢酸溶液中で測定した核磁気共鳴スペクトル(500MHz)は、図4に示す通りである。(重酢酸のシグナルを2.04ppmとした。)
8)13C−核磁気共鳴スペクトル; δ(ppm)
重酢酸溶液中で測定した核磁気共鳴スペクトル(125MHz)は、図5に示す通りである。(重酢酸のシグナルを20.0ppmとした。166.2ppmのシグナルは蟻酸に由来する。)

また、本発明は、以下のような、化合物の製造方法に関する。
(4) シュードアルテロモナス(Pseudoalteromonas)属に属する(1)乃至(3)のいずれか一つに記載の化合物の生産菌を培養し、その培養物より(1)乃至(3)のいずれか一つに記載の化合物を回収することを特徴とする、(1)乃至(3)のいずれか一つに記載の化合物の製造方法。
(5) シュードアルテロモナス(Pseudoalteromonas)属に属する(1)乃至(3)のいずれか一つに記載の化合物の生産菌がシュードアルテロモナス・エスピー(Pseudoalteromonas sp.) SANK 73005(FERM BP−10504)であることを特徴とする、(4)に記載の製造方法。
【0017】
また、本発明は以下のような微生物に関する。
(6) (1)乃至(3)のいずれか一つに記載の化合物を産生することを特徴とするシュードアルテロモナス(Pseudoalteromonas)属に属する細菌。
(7) シュードアルテロモナス・エスピー(Pseudoalteromonas sp.) SANK 73005(FERM BP−10504)。
【0018】
さらに、本発明は、以下のような医薬組成物又は治療剤等に関する。
(8) (1)乃至(3)のいずれか一つに記載の化合物又はその塩を有効成分として含有する医薬組成物。

(9) (1)乃至(3)のいずれか一つに記載の化合物若しくはその塩を有効成分として含有するTNFα産生抑制剤。

(10) (1)乃至(3)のいずれか一つに記載の化合物若しくはその塩を有効成分として含有する炎症又は炎症性疾患の治療剤。
(11) (1)乃至(3)のいずれか一つに記載の化合物若しくはその塩を有効成分として含有する敗血症又は敗血症に起因する疾患の治療剤。
(12) (1)乃至(3)のいずれか一つに記載の化合物又はその塩を有効成分として含有する抗菌剤。

本発明の化合物は、上記(1)乃至(3)に記載されている。
【0019】
本発明においては、上記(1)においてRが式[2]で示される構造からなる化合物又は(2)に記載の物理化学的性質を有する化合物を「マリペプチンA(Maripeptin A)」又は「化合物A」と呼ぶ。また、上記(1)においてRが式[3]で示される構造からなる化合物又は(3)に記載の物理化学的性質を有する化合物を「マリペプチンB(Maripeptin B)」又は「化合物B」と呼ぶ。また、化合物Aと化合物Bを総称して「マリペプチン(Maripeptin)」、又は「本発明の化合物」、と呼ぶ。
【0020】
本発明のマリペプチンは、種々の異性体を有する。本発明においては、これらの異性体がすべて単一の式で表されているが、ラセミ化合物等それらの異性体ならびにそれらの異性体の混合物も全て本発明のマリペプチンに含まれる。立体特異的合成法、あるいは光学活性化合物を原料化合物とする合成法により、本発明のマリペプチンの各異性体を直接製造することができる。また、先ず各異性体の混合物を製造し、次いで該混合物より所望の各異性体を分離することができる。
【0021】
本発明のマリペプチンはアミノ基等を有し、当業者に周知の方法を用いて塩にすることができる。本発明のマリペプチンにはそのような塩も包含される。塩としては、医学的に使用され、薬理学的に許容されるものであれば特に限定はない。また、本発明のマリペプチンの塩が医薬以外の用途に用いられる場合、例えば中間体として使用される場合には、該用途に用いることのできるものであれば特に限定されない。そのような塩としては、例えば、臭化物塩、塩化物塩、塩酸塩、臭酸塩、ヨウ化物塩、硫酸塩、リン酸塩、ニリン酸塩のような無機塩;酢酸塩、クエン酸塩、マレイン酸塩、パモ酸塩、酒石酸塩のような有機酸塩;および、グリシン塩、リジン塩、アルギニン塩、オルニチン塩、アスパラギン塩のようなアミノ酸塩を挙げることができる。好適には、薬理学的に許容される塩として好ましく使用されるもの、すなわち、塩酸塩、パモ酸塩等を挙げることができる。
【0022】
また、本発明のマリペプチンは溶剤和物になり得る。例えば、大気中での放置、再結晶などを経て、吸着水の付加、水和物化等が時に生じ得る。それらの溶剤和物も本発明に包含される。
【0023】
さらに、本発明は、生体内において代謝されて本発明のマリペプチンに変換される化合物、いわゆるプロドラッグも全て包含する。
【0024】
核磁気共鳴スペクトルの測定は、通常、溶媒等の公知の物質のシグナルを基準にしてサンプルの測定値が計算される。このような物質のシグナルは化合物自体に帰結されるシグナルではない。また、化合物の有機塩の核磁気共鳴スペクトルの測定に当たっては、その有機塩を溶解することにより遊離する有機酸又は有機塩基のシグナルが検出されるが、それらのシグナルも化合物自体に帰結されるシグナルではない。したがって、化合物自体に帰結されないシグナルを除いたスペクトルが本発明の化合物と同一であると判定される物質は、本発明に含まれるものとする。
【発明の効果】
【0025】
本発明のマリペプチンは、炎症性伝達物質産生抑制活性又は抗菌活性を有しており、敗血症およびそれに起因する疾患など、各種炎症性疾患、炎症および感染症の予防または治療に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明のマリペプチンは、一般に用いられる手法により化学合成することにより製造することもできるし、これら化合物を生産する生産菌の培養物から分離することで製造することができる。本発明の化合物の生産菌としては、本発明の化合物を生産する限り特に限定されないが、好適には細菌であり、より好適にはシュードアルテロモナス(Pseudoalteromonas)属に属する細菌であり、最適にはシュードアルテロモナス・エスピー(Pseudoalteromonas sp.)SANK 73005(以下、単に「SANK 73005株」という。)である。
【0027】
SANK 73005株は、茨城県で採集した海藻から分離された。
【0028】
SANK 73005株の菌学的性状について以下に記載する。

[1]形態学的性状
マリンアガー培地(Difco社製)で23℃、24時間培養後の観察では、細胞の幅が0.8〜1.0μm、長さが2.0〜4.0μmの桿菌で、鞭毛運動をする。胞子を形成せず、グラム染色性は陰性である。

[2]マリンアガー培地(Difco社製)上での生育状態
23℃で5日間培養したコロニーの形は、全縁、扁平である。コロニーの色(財団法人日本色彩研究所、色の標準(1951年)を参照)は、中心部は赤茶または赤み灰、周縁部は赤または青緑である。水溶性の色素を産生しない。

[3]生理学的性状
(1) カタラーゼ :+
(2) オキシダ−ゼ :+
(3) 海水で調製した培地での生育 :+
(4) 蒸留水で調整した培地での生育:−
(5) O−F(オキシダティブ−ファーメンタティブ)テスト:D−グルコースを分解しない
(6) 硝酸塩の還元 :+
(7) 4℃での生育 :−
(8) 17℃での生育 :+
(9) 40℃での生育 :+
(10)45℃での生育 :−
(11)至適生育温度 :17〜37℃
(12)アミラーゼの産生 :+
(13)ゼラチナーゼの産生:−
(14)DNaseの産生 :+
(15)Tween80の分解:+
(16)10%食塩含有培地での生育:−
(17)20%食塩含有培地での生育:−
(18)栄養要求性(バージーズ・マニュアル・オブ・システマティック・バクテリオロジー(Bergey‘s Manual of Systematic Bacteriology)、1巻、344頁(1984年)記載の基本培地を用いた場合):なし
(19)炭素化合物の利用性(バージーズ・マニュアル・オブ・システマティック・バクテリオロジー(Bergey‘s Manual of Systematic Bacteriology)、1巻、344頁(1984年)記載の基本培地を用いた場合:
D−グルコース :+
D−ガラクトース :−
D−キシロース :−
L−アラビノース :−
麦芽糖 :+
ショ糖 :+
マンニトール :−
グリセロール :−
N−アセチルグルコサミン:+
L−アルギニン :−
グリシン :−

[4] 遺伝学的性状
(1)DNA中のG+C含量(モル%):50.3
(2)16S rDNAの塩基配列の解析:解読した塩基配列1433bp(配列番号1)のうち1−1281bpをジーンバンク(GenBank)に登録されている細菌の各種の基準株のデータと比較し、サイトウとネイ(N. Saitou and M. Nei)、モレキュラー・バイオロジー・アンド・エボリュ−ション(Molecular Biology and Evolution)4、406−425(1987年)の近隣結合法により系統解析したところ図1に示す結果を得、系統的にはシュードアルテロモナス(Pseudoalteromonas)属に属した。
【0029】
以上の菌学的性状を有するSANK 73005株の同定を、バージーズ・マニュアル・オブ・システマティック・バクテリオロジ−・セカンド・エデション(Bergey’s Manual of Systematic Bacteriology、Second、Edition)、2巻(2005年)やインターナショナル・ジャーナル・オブ・システマティック・エンド・エボリュ−ショナリー・マイクロバイオロジー(International Journal of Systematic and Evolutionary Maicrobiology)等に掲載されている最新の情報を基に行った。SANK 73005株は、16S rDNAの塩基配列の解析結果からはシュードアルテロモナス(Pseudoalteromonas)属であり、本菌株の形態学的性状、酸素に対する挙動、海水要求性はシュードアルテロモナス属の定義を満たしていた。従って、SANK 73005株はシュードアルテロモナス属である。一方、これまでに報告されているシュードアルテロモナス属細菌の中には、SANK 73005株の性状と同じ性状を有する種は存在しない。それ故、本発明者らはシュードアルテロモナス(Pseudoalteromonas)属の新種シュードアルテロモナス・エスピー(Pseudoalteromonas sp.)SANK 73005と同定した。
【0030】
本菌株は、「シュードアルテロモナス・エスピー(Pseudoalteromonas sp.)SANK 73005として2006年2月3日付けで、日本国茨城県つくば市東1−1−1中央第6に所在する独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに国際寄託され、寄託番号FERM BP−10504が付与された。

周知の通り、細菌類は自然界において、又は人工的な操作(例えば、紫外線照射、放射線照射、化学薬品処理等)により、変異を起こしやすく、本発明のSANK 73005株もそのような変異を起こすことがある。本発明において、SANK 73005株はその変異株も全て包含する。
【0031】
また、これらの変異株の中には、遺伝的方法、たとえば組み換え、形質導入、形質転換等によりえられたものも包含される。即ち、本発明のマリペプチンを生産するSANK 73005株、それらの変異株およびそれらと明確に区別されない菌株は、全て本発明のSANK 73005株に包含される。

本発明のマリペプチンは、当該物質の生産菌を、通常微生物による発酵生産に使用されるような、微生物が同化できる炭素源、窒素源および無機塩を含有する培地を用いて生産菌を培養し、次いでその培養物からマリペプチンを回収することにより、製造することができる。該製造方法、ならびに、マリペプチン生産菌も本発明に包含される。
[A]マリペプチン生産菌
本発明のマリペプチン生産菌としては、該物質を生産する微生物であれば特に限定されるものではないが、好適には該物質を生産する細菌であり、より好適には該物質を生産するシュードアルテロモナス(Pseudoalteromonas)属の細菌であり、より一層好適には前記[1]乃至[4]の特性を有し且つ該物質を生産するシュードアルテロモナス(Pseudoalteromonas)属の細菌であり、最適にはSANK 73005株である。

[B]マリペプチン生産菌の培養
マリペプチン生産菌の培養に使用される培地について以下に記載する。
【0032】
マリペプチン生産菌の培養に使用される培地には、生産菌が同化できる炭素源、窒素源及び栄養無機塩を含む培地が使用される。
【0033】
炭素源としては、通常培地の炭素源として使用されるものであれば特に限定されないが、例えば、グルコース、フルクトース、マルトース、シュークロース、デキストリン、オート麦、ライ麦、トウモロコシデンプン、ジャガイモ、トウモロコシ粉、大豆粉、綿実油、糖蜜、クエン酸、酒石酸等を挙げることができる。炭素源は、単独で用いてもよいし、2つ以上を併用することもできる。炭素源の含有量は、通常、培地量の1乃至10重量%である。
【0034】
窒素源としては、通常培地の窒素源として使用されるものであれば特に限定されないが、蛋白質もしくはその加水分解物を含有する物質、無機塩等を用いることができる。そのような窒素源としては、大豆粉、フスマ、落花生粉、綿実油、カゼイン加水分解物、ファーマミン、魚粉、コーンスチープリカー、ペプトン、肉エキス、イースト、イーストエキス、マルトエキス、硝酸ナトリウム、硝酸アンモニウム、硫酸アンモニウム等を例示することができる、それらは単独で用いるか、あるいは2つ以上を併用することができる。窒素源の含有量は、通常、培地量の0.1乃至10重量%である。
【0035】
栄養無機塩としては、イオンを得ることができる通常の塩類、金属等を用いることができる。塩類としては、ナトリウム、アンモニウム、カルシウム、フォスフェート、サルフェート、クロライド、カーボネート等を例示することができる。金属としては、カリウム、カルシウム、コバルト、マンガン、鉄、マグネシウム等の金属を例示することができる。
【0036】
マリペプチン生産菌を液体培養するに際しては、シリコン油、植物油、界面活性剤等を消泡剤として使用することができる。本発明の化合物を製造する目的でSANK 73005株を培養する際の培地のpHは、通常、4.0〜9.0である。
【0037】
SANK 73005株の培養温度は、通常16〜32℃、好適には18〜30℃、より好適には20〜28℃である。本発明の化合物を製造するためのSANK 73005株の培養には、20〜28℃が好適である。当該化合物製造のための培養は、通常、好気的条件下で、振とう培養法、通気攪拌培養法等により行われる。
【0038】
SANK 73005株を比較的小さな規模で培養する場合、例えば、三角フラスコ等を用いた振とう培養法により行うことができる。このような小規模培養は、通常1つ又は2つ以上の段階からなる種培養を行い、得られた種培養物の一部または全部を、本培養培地に接種して本培養を行い、得られた本培養培地(培養物)中に所望のマリペプチンを得ることができる。種培養及び本培養は、培養物の入った三角フラスコ等をインキュベーター内で数日又は菌が十分に生育する期間振とうすることで行うことができる。
【0039】
一方、SANK 73005株を比較的大きな規模で培養する場合、攪拌機、通気装置、保温装置等をつけた適当なタンクを用いることが好ましい。該装置を用いることにより、培地を予め該タンクの中で作製することができる。例えば、本培養培地を121℃にて加熱滅菌し、冷却する。次いで、種培養物を接種し、28℃にて通気攪拌しつつ本培養を行う。このような培養方法は、所望のマリペプチンを大量に製造するのに適している。
【0040】
本発明のマリペプチン生産菌を培養して該物質を製造する場合、培養物中のマリペプチンの生産量は、後述する高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、生物活性試験等により、経時的に追跡することができる。HPLC分析又は生物活性試験にて追跡する場合、予め、培養物をアセトン等の親水性溶媒で抽出し、該親水性溶媒を留去した後、n−ブタノール等の水と混和しない溶媒で抽出する。次いで、該水と混和しない溶媒を留去した後、適当な溶媒に再溶解したものを分析又は試験に供することが好ましい。生物活性試験としては、細胞によるTNFα産生阻害試験、抗炎症試験、抗菌試験等を挙げることができる。

[C]抽出精製
培養終了後、珪藻土等を助剤とするろ過操作又は遠心分離操作により、培養物を可溶性画分(培養上清)および不溶性画分(菌体)に分別し、次いで得られた各画分中に存在するマリペプチンを、その物理化学的性状を利用して抽出精製することができる。
【0041】
例えば、培養上清を、n−ブタノール、酢酸エチルなど水と混和しない有機溶媒の1つ又は2つ以上の混合物を用いて抽出することにより、該抽出物より、マリペプチンを精製することができる。
【0042】
得られた抽出物を、各種吸着用樹脂を用いたクロマトグラフィーに供することができる。吸着剤としては、活性炭、アンバーライトXAD−2、XAD−4(以上ローム・アンド・ハース社製)、ダイヤイオンHP−10、HP−20、HP−50、CHP20P(以上三菱化学(株)社製)等を挙げることができる。前記の抽出物をこれらの吸着剤と接触させてマリペプチンを吸着せしめた後、メタノール水、アセトン水等の含水溶媒を用いて所望のマリペプチンを溶出することができる。反対に、前記の抽出物をこれらの吸着剤と接触させて不純物を吸着せしめ、所望のマリペプチンを素通り画分中に回収することもできる。
【0043】
得られたマリペプチン含有画分を、イオン交換クロマトグラフィーに供することができる。イオン交換樹脂としては、ダウエックス 50Wx4、ダウエックス1x2、ダウエックス SBR−P(以上、ダウ・ケミカル社製)等を挙げることができる。マリペプチン含有画分をイオン交換樹脂と接触させてマリペプチンを吸着せしめた後、塩酸、アンモニア等の溶媒を用いて所望のマリペプチンを溶出することができる。反対に、前記の抽出物をこれらのイオン交換樹脂と接触させて不純物を吸着せしめ、所望のマリペプチンを素通り画分中に回収することもできる。
【0044】
得られたマリペプチン含有画分を、さらに、シリカゲル、マグネシウム−シリカゲル系のフロリジル等の担体を用いた吸着カラム・クロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、TSKゲルトヨパールHW−40F(登録商標、トーソー(株)社製)、セファデックスLH−20(登録商標、アマシャム バイオサイエンス社製)等を用いた分配カラムクロマトグラフィー、コスモシール140C18(登録商標、ナカライテスク社製)等を用いた逆相カラムクロマトグラフィー、順相もしくは逆相カラムを用いたHPLC等により精製し、所望のマリペプチンを単離することができる。
【0045】
本発明のマリペプチンを精製する際の、各精製工程における該物質の挙動は、例えば、次の条件によるHPLCにより追跡することができる。

[I]化合物Aを検出するためのHPLCの条件
分離カラム: Waters SYMMETRY C18(φ4.6×150mm:Waters社製)
移動相: アセトニトリル:0.3%トリエチルアミンリン酸バッファー(pH3.0)=11:9
流速: 1.0ml/分
検出波長: 210 nm
保持時間: 7.4分、

[II]化合物Bを検出するためのHPLCの条件
分離カラム: Waters SYMMETRY C18(φ4.6×150mm:Waters社製)
移動相: アセトニトリル:0.3%トリエチルアミンリン酸バッファー(pH3.0)=11:9
流速: 1.0ml/分
検出波長: 210 nm
保持時間: 5.3分、

本発明のマリペプチンは、炎症性伝達物質産生抑制活性を有し、炎症性疾患および炎症の治療または予防に有用である。本発明は、マリペプチンを含むことからなる医薬組成物、並びに、該物質を有効成分として含有する炎症性疾患治療又は予防剤および抗炎症剤を提供する。
【0046】
本発明において、「炎症性疾患」とは、その経過において持続性または一過性に炎症を呈し、且つその炎症を軽減することにより症状が改善され得る疾患を意味する。炎症性疾患としては、敗血症およびそれに起因する疾患 、炎症性自己免疫疾患、アレルギー性疾患、炎症性骨関節疾患、腫瘍、糖尿病、炎症性肝臓疾患、炎症性腎臓疾患、炎症性消化器疾患、炎症性心疾患、炎症性循環器疾患、感染症、全身性炎症反応症候群(SIRS)、急性呼吸疾患症候群(ARDS)、発熱、移植片対宿主病、重症筋無力症、変形性関節症、痛風、火傷等を例示することができる。
【0047】
敗血症およびそれに起因する疾患としては、敗血症、敗血症ショック、エンドトキシンショック、エキソトキシンショック、高血圧、低血圧、汎発性血管内血液凝固症候群(DIC)に代表されるショック性血管塞栓、これらの病態に伴う臓器不全、多臓器不全(MOF)等を例示することができる。
【0048】
炎症性自己免疫疾患としては、全身性エリテマトーデス、橋本病、シェーグレン症候群、悪性貧血、アジソン氏病、強皮症、グッドパスチャー症候群、関節リウマチ、クローン病、潰瘍性大腸炎、自己免疫性溶血性貧血、自然不妊、多発性硬化症、バセドー病、突発性血小板減少性紫斑病、自己免疫性肝炎、自己免疫性膵炎、インスリン依存性糖尿病等を例示することができる。
【0049】
アレルギー性疾患としては、アトピー、喘息、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎等を例示することができる。
【0050】
炎症性骨関節疾患としては、関節リウマチ、変形性関節炎、結晶誘発性関節炎等を例示することができる。
【0051】
腫瘍としては、癌、癌転移、白血病、骨髄腫、リンパ腫等を例示することができる。
【0052】
糖尿病としては、インスリン依存性糖尿病、インシュリン非依存性糖尿病、糖尿病性合併症等を例示することができる。
【0053】
炎症性肝臓疾患としては、劇症肝炎、慢性肝炎、ウイルス性肝炎およびアルコール性肝炎に代表される肝炎、肝硬変、肝不全等を例示することができる。
【0054】
炎症性腎臓疾患としては、腎炎、糸球体腎炎、腎不全等を例示することができる。
【0055】
炎症性消化器疾患としては、胃炎、消化性潰瘍、膵炎、クローン病、潰瘍性大腸炎等を例示することができる。
【0056】
炎症性心疾患としては、心血管塞栓性疾患、心筋梗塞および心筋梗塞後遺症に代表される炎症性心血管疾患、心不全、心弁膜症、心筋症等を例示することができる。
【0057】
炎症性循環器疾患としては、低血圧、血管塞栓性疾患、動脈硬化症、再生不良性貧血、虚血再潅流障害、虚血性脳障害ショック性血管塞栓、汎発性血管内血液凝固症候群(DIC)に代表されるショック性血管塞栓等を例示することができる。
【0058】
また、本発明のマリペプチンは抗菌活性を有し、感染症の治療または予防に有用である。本発明は、マリペプチンを有効成分として含有する抗菌剤を提供する。
【0059】
感染症としては、細菌感染症、ウイルス感染症、真菌感染症等を挙げることができ、細菌感染症としては、ヘリコバクター・ピロリ感染症、侵襲性ブドウ状球菌感染症、急性バクテリア髄膜炎、結核等を、ウイルス感染症の原因となるウイルスとしては、ヒト免疫不全ウイルス、インフルエンザウイルス、単純ヘルペスウイルス、水痘ウイルス、パピローマウイルス、脳炎ウイルス等を、真菌感染症としては、カンジダ症、真菌症等をそれぞれ例示することができる。
【0060】
本発明のマリペプチンは、エンドトキシン刺激による炎症性サイトカイン産生を抑制する活性ならびに抗菌活性を併せ持つことから、上記の炎症性疾患のうち、特に、敗血症およびそれに起因する疾患の治療又は予防に好適である。
【0061】
本発明のマリペプチンは、医薬としてヒト又はヒト以外の動物に投与されるに際し、種々の形態をとり得る。その投与形態は、製剤、年齢、性別、疾患等に依存する。例えば、錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、シロップ剤、液剤、懸濁剤、乳剤、顆粒剤、カプセル剤等は経口投与される。注射剤等は静脈内投与、筋肉内投与、皮内投与、皮下投与又は腹腔内投与される。坐剤は直腸内投与される。軟膏等は外用剤として使用される。
【0062】
マリペプチンを有効成分として含有する医薬製剤は、常法に従い、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、溶解剤、矯味矯臭剤、コーティング剤等、医薬製剤分野において通常使用し得る公知の補助剤を用いて製造することができる。
【0063】
錠剤の形態に成形するに際しては、担体として当該分野で公知のものを広く使用することができ、例えば、乳糖、白糖、塩化ナトリウム、ブドウ糖、尿素、澱粉、炭酸カルシウム、カオリン、結晶セルロース、珪酸等の賦形剤、水、エタノール、プロパノール、単シロップ、ブドウ糖液、澱粉液、ゼラチン溶液、カルボキシメチルセルロース、セラック、メチルセルロース、リン酸カリウム、ポリビニルピロリドン等の結合剤、乾燥澱粉、アルギン酸ナトリウム、カンテン末、ラミナラン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド、澱粉、乳糖等の崩壊剤、白糖、ステアリン、カカオバター、水素添加油等の崩壊抑制剤、第四級アンモニウム塩基、ラウリル硫酸ナトリウム等の吸収促進剤、グリセリン、澱粉等の保湿剤、澱粉、乳糖、カオリン、ベントナイト、コロイド状珪酸等の吸着剤、精製タルク、ステアリン酸塩、硼酸末、ポリエチレングリコール等の滑沢剤等を挙げることができる。錠剤は、必要に応じ、通常の剤皮を施した錠剤、例えば、糖衣錠、ゼラチン被包錠、腸溶被錠、フィルムコーティング錠あるいは二重錠、多重錠とすることができる。
【0064】
丸剤の形態に成形するに際しては、担体として当該分野で公知のものを広く使用することができ、例えば、ブドウ糖、乳糖、澱粉、カカオ脂、硬化植物油、カオリン、タルク等の賦形剤、アラビアゴム末、トラガント末、ゼラチン、エタノール等の結合剤、ラミナラン、カンテン等の崩壊剤を挙げることができる。
【0065】
注射剤として調製される場合、液剤及び懸濁剤は殺菌され、且つ血液と等張であることが好ましく、これら液剤、乳剤および懸濁剤の形態に形成するに際しては、希釈剤として当該分野において公知のものを広く使用することができ、例えば、水、エチルアルコール、プロピレングリコール、エポキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類等を挙げることができる。等張を維持するために充分な量の食塩、ブドウ糖又はグリセリンを含有せしめてもよい。溶解補助剤、緩衝剤、無痛化剤糖、着色剤、保存剤、香料、風味剤、甘味剤、他の薬剤等を含有せしめてもよい。
【0066】
なお、注射剤を静脈内投与する場合、単独で、ブドウ糖、アミノ酸等の通常の補液と混合して、又は、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類等とのエマルジョンとして投与される。
【0067】
坐剤の形態に成形するに際しては、担体として当該分野で公知のものを広く使用することができ、例えばポリエチレングリコール、カカオ脂、高級アルコール、高級アルコールのエステル類、ゼラチン、半合成グリセライド等を挙げることができる。
【0068】
軟膏等の外用剤の形態に成形するに際しては、賦型剤として、疎水性基剤(油脂性軟膏基剤)、吸水基剤、親水性基剤(クリーム)ならびに水溶性基剤(非グリース製軟膏基剤)のいずれか一つに属する、当該分野で公知のものを広く使用することができる。本発明の外用剤は、アトピー性皮膚炎や火傷の治療に好適に使用される。
【0069】
上述の医薬製剤に含有せしめるマリペプチンの量は、特に限定されないが、上限は30乃至70重量%、下限は1重量%であり、好適な範囲は1乃至30重量%である。
【0070】
マリペプチンの投与量は、症状、年齢、体重、投与方法、剤形等に依存するが、通常成人に対して1日当たり投与するマリペプチンの量は、上限が100乃至1000mg、下限が1乃至10mgであり、好適な範囲は10乃至100mgである。
【0071】
マリペプチンの投与回数は、数日に1回、1日1回、又は1日複数回である。
【0072】
本発明は、薬理上有効な量のマリペプチンを投与することからなる炎症性疾患、炎症又は感染症の治療又は予防方法、それら疾患の治療又は予防のためのマリペプチンの使用をも提供する。
【実施例】
【0073】
次に、実施例、試験例、製剤例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。

[実施例1.マリペプチン生産菌の培養]
蒸留水に表1に記載の培地組成を含んでなる培地80mLを含む500mL容三角フラスコを121℃にて15分間加熱滅菌した後、30℃に冷却した。次いで、シュードアルテロモナス・エスピー(Pseudoalteromonas sp.) SANK 73005株のスラントへ、0.85%食塩水5mlを添加してホモジナイズしたもの0.5mlを前記三角フラスコ10本へ接種し、回転振盪培養機を用い、210rpm、30℃にて24時間培養し、種培養液とした。
【0074】
次に、蒸留水に表1に記載の培地組成を含んでなる培地30Lを、60L容タンク中にて調製し、121℃にて15分間加熱滅菌した後、30℃まで冷却した。種培養液300mLをタンクへ接種し、毎分15Lの空気を通気することにより溶存酸素量5.0ppmを保持させるべく、回転数を100乃至370rpmの範囲内で調整しつつ、30℃にて16時間通気攪拌培養した。
[表1]培地組成−1
グルコース 1.0%
Phytoneペプトン (BD BBL社製) 1.0%
Bactoペプトン (BD ディフコ社製) 0.5%
マリンブロス2216(BD ディフコ社製) 3.74%

[実施例2.マリペプチン(化合物A及び化合物B)の単離]
実施例1で得られた培養液60Lを遠心分離し上清と菌体に分けた。上清を塩酸でpH6.5に調整し、容積6LのHP−20カラム(三菱化学 ダイアイオンHP−20)に付した。該カラムを、水(20L)、50%アセトン水(20L)で順に洗浄した後、80%アセトン水−0.1%ギ酸(25L)で溶出した。80%アセトン水−0.1%ギ酸画分(25L)を減圧下濃縮したものに、酢酸エチル7Lを添加し、酢酸エチルで抽出できる物質を除いた。その水層を凍結乾燥し、化合物A及び化合物Bを含む褐色粉末28.5gを得た。
【0075】
次いで、コスモシルカラム・クロマトグラフィーを行った。すなわち、前記褐色粉末28.5gをアセトニトリル:0.035%硫酸ナトリウム(w/v)−0.25%リン酸−水=3:7 600mlに溶解し、予めアセトニトリル:0.035%硫酸ナトリウム(w/v)−0.25%リン酸−水=3:7で平衡化したコスモシルカラム(Cosmosil 140C18−OPN、容積1L)に付した。該カラムを、アセトニトリル:0.035%硫酸ナトリウム(w/v)−0.25%リン酸−水=3:7(4L)、同=2:3(10.4L)で順に洗浄した後、同=1:1(10.5L)、同=3:2(7.5L)を用いて吸着画分を段階的に溶出させた。
【0076】
化合物A及び化合物Bを含むアセトニトリル:0.035%硫酸ナトリウム(w/v)−0.25%リン酸−水=1:1溶出画分と、同=3:2溶出画分を合併し(18L)、減圧下で濃縮することによりアセトニトリルを留去した後、10%苛性ソーダ水でpH6.5に調整した。これを、HP−20カラム(容積300ml)へ付し、水(1L)で洗浄した後、80%アセトン水−0.1%ギ酸(900ml)で溶出した。得られた溶出液を減圧下で濃縮したのち凍結乾燥することにより、化合物A及び化合物Bを含む粗精製粉末1.23gを得た。この粗精製粉末1.23gをアセトニトリル:0.035%硫酸ナトリウム(w/v)−0.25%リン酸−水=53:47 30mlに溶解し試料溶液とし、HPLCカラム(YMC−Pack ODS AM R354−20AM φ50×300mm)で分離した。あらかじめアセトニトリル:0.035%硫酸ナトリウム(w/v)−0.25%リン酸−水=11:9で平衡化したHPLCカラムに、上記試料溶液1.5mlを注入後、アセトニトリル:0.035%硫酸ナトリウム(w/v)−0.25%リン酸−水=11:9 を溶媒として流速30ml/分で溶出した。検出波長210nmで溶出液をモニターし、保持時間45分から52分までをB画分、58分から67分までをA画分、としてそれぞれ分取した。残りの試料溶液28.5mlについても同様の操作を行い、A画分5.7L、B画分4.4Lをそれぞれ得た。これら各画分を減圧下濃縮することによりアセトニトリルを留去した後、10%苛性ソーダ水でpH6.5に調整した。
【0077】
pH調整したA画分を、HP−20カラム(容積450ml)へ付し、水(1.5L)で洗浄した後、80%アセトン水−0.1%ギ酸(900ml)で溶出した。得られた溶出液を減圧下で濃縮したのち凍結乾燥することにより、化合物Aを含む無色粉末420mgを得た。
【0078】
同様に、pH調整したB画分を、HP−20カラム(容積200ml)へ付し、水(600ml)で洗浄した後、80%アセトン水−0.1%ギ酸(400ml)で溶出した。得られた溶出液を減圧下で濃縮したのち凍結乾燥することにより、化合物Bを含む無色粉末60mgを得た。
【0079】
単離された化合物A及び化合物Bは、下記条件のHPLCにより検出された。

分離カラム: Waters SYMMETRY C18(φ4.6×150mm:Waters社製)
移動相: アセトニトリル:0.3%トリエチルアミンリン酸バッファー(pH3.0)=11:9
流速: 1.0ml/分
検出波長: 210 nm
保持時間: 7.4分(化合物A)、5.3分(化合物B)。

[試験例1.エンドトキシン刺激による細胞のTNFα産生に対するマリペプチンの効果]
ヒト単球系細胞株U937をエンドトキシン刺激した際のTNFα産生に対する実施例化合物の抑制率を測定した。すなわち、非働化新生仔牛血清を10%(容積%)含むRPMI1640培地に、12−O−テトラデカノイルホルボール13−アセテートを終濃度30ng/mlとなるよう添加した。該培地にU937細胞を懸濁し、96穴培養プレート(コーニング)へ、1穴あたりの細胞数/容量が2×10個/0.1mlとなるように播き、37℃にて、5%CO、湿度100%の炭酸ガスインキュベーター中で3日培養した。培養終了後、培養上清を除去した。各穴へ、種々の濃度の被検化合物A又はBを添加し、併せてLPS(E.coli 0111:B4、シグマ社製)を、終濃度3ng/mlとなるよう添加した。培養プレートを再び炭酸ガスインキュベーター中にて4.5時間培養した後、培養上清を回収した。384半穴ブラックプレート(グライナー)ならびにシス バイオ インターナショナル社製のHTRF定量キットを用い、培養上清中のTNFα濃度をディスカバリー(パッカード社)にて時間分解蛍光として測定した。LPS非存在下の測定値(X)、被検化合物非存在下の測定値(Y)および被検化合物存在下の測定値(Z)より、下記の計算式[式I]を用いてTNFα産生抑制率を求め、該抑制率50%に相当する被検化合物濃度をIC50として表2にまとめた。
[数1]
【0080】
TNFα産生抑制率(%)={1−(Z−X)/(Y−X)}×100

[表2]TNFα産生に対する効果
――――――――――――――――――――――
化合物 IC50(μM)
――――――――――――――――――――――
化合物A 0.22
化合物B 0.14
――――――――――――――――――――――

[試験例2.マリペプチン化合物Aの抗菌活性]
寒天平板希釈法により、各種細菌の増殖に対するマリペプチンの効果を検討した。すなわち、被検化合物A又はBを含む普通寒天培地(栄研)へ各種細菌を接種した後、37℃にて18〜20時間培養した。次いで、最小発育阻止濃度(MIC)を判定し、結果を表3にまとめた。

[表3]抗菌活性
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
被検菌 MIC(μg/ml)
――――――――――――――――――――――
化合物A 化合物B
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
エシェリシア・コリ
(NIHJ JC−2) 50.0 12.5
シゲラ・フレキシネリ
(IID 642) 12.5 6.25
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

[製剤例1.経口用カプセル剤]
化合物A 30mg
乳糖 170mg
トウモロコシ澱粉 150mg
ステアリン酸マグネシウム 2mg
――――――――――――――――――――――――――
合計 352mg

上記処方の粉末を混合し、30メッシュのふるいを通した後、この粉末をゼラチンカプセルに入れ、カプセル剤とする。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明の提供するマリペプチン類は、優れた炎症性伝達物質産生抑制活性ならびに抗菌活性を有し、敗血症およびそれに起因する疾患など、各種炎症性疾患、炎症および感染症の治療または予防に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】SANK 73005株の、細菌分類学上の系統解析を示す図。
【図2】実施例2で単離された化合物A(マリペプチンA)の、重酢酸溶液中で測定したH−核磁気共鳴スペクトル(500MHz)を示す図(重酢酸のシグナルを2.04ppmとした)。
【図3】実施例2で単離された化合物A(マリペプチンA)の、重酢酸溶液中で測定した13C−核磁気共鳴スペクトル(125MHz)を示す図(重酢酸のシグナルを20.0ppmとした)。166.2ppmに観測されているシグナルはギ酸である。
【図4】実施例2で単離された化合物B(マリペプチンB)の、重酢酸溶液中で測定したH−核磁気共鳴スペクトル(500MHz)を示す図(重酢酸のシグナルを2.04ppmとした)。
【図5】実施例2で単離された化合物B(マリペプチンB)の、重酢酸溶液中で測定した13C−核磁気共鳴スペクトル(125MHz)を示す図(重酢酸のシグナルを20.0ppmとした)。166.2ppmに観測されているシグナルはギ酸である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式[1]で表される化合物又はその塩。
【化1】

[式中、Rは下記式[2]、
【化2】


又は[3]
【化3】


を示す。]
【請求項2】
下記の物理化学的性状を有する化合物又はその塩:
1)性質:塩基性、無色粉末;
2)溶解性:ギ酸、酢酸、メタノールに可溶;
3)分子式:C981591924(飛行時間型質量分析計を用い、ESI法により決定);
4)精密質量:[M+H]+
飛行時間型質量分析計を用い、ESI法により測定した精密質量は以下の通りである:
実測値:1987.1868
計算値:1987.1884;
5)紫外線吸収スペクトル:λmax nm(ε)
50%メタノール−水溶液中で測定した紫外線吸収スペクトルは、末端吸収である;
6)赤外線吸収スペクトル(KBr):νmax cm−1
KBrディスク法で測定した赤外線吸収スペクトルは、次の通りである:
3299、2961、2930、1647、1536、1455;
7) H−核磁気共鳴スペクトル; δ (ppm)
重酢酸溶液中で測定した核磁気共鳴スペクトル(500MHz)は、図2に示す通りである。(重酢酸のシグナルを2.04ppmとした。)
8)13C−核磁気共鳴スペクトル; δ(ppm)
重酢酸溶液中で測定した核磁気共鳴スペクトル(125MHz)は、図3に示す通りである。(重酢酸のシグナルを20.0ppmとした。166.2ppmに観測されるシグナルは蟻酸に由来する。)
【請求項3】
下記の物理化学的性状を有する化合物又はその塩:
1)性質:塩基性、無色粉末;
2)溶解性:ギ酸、酢酸、メタノールに可溶;
3)分子式:C961571924(飛行時間型質量分析計を用い、ESI法により決定);
4)精密質量:[M+H]+
飛行時間型質量分析計を用い、ESI法により測定した精密質量は以下の通りである:
実測値:1961.1724
計算値:1961.1727:
5)紫外線吸収スペクトル:λmax nm(ε)
50%メタノール−水溶液中で測定した紫外線吸収スペクトルは、末端吸収である;
6)赤外線吸収スペクトル(KBr):νmax cm−1
KBrディスク法で測定した赤外線吸収スペクトルは、次の通りである:
3304、2961、2929、1651、1534、1455;
7)H−核磁気共鳴スペクトル; δ(ppm)
重酢酸溶液中で測定した核磁気共鳴スペクトル(500MHz)は、図4に示す通りである。(重酢酸のシグナルを2.04ppmとした。)
8)13C−核磁気共鳴スペクトル; δ(ppm)
重酢酸溶液中で測定した核磁気共鳴スペクトル(125MHz)は、図5に示す通りである。(重酢酸のシグナルを20.0ppmとした。166.2ppmに観測されているシグナルは蟻酸に由来する。)
【請求項4】
シュードアルテロモナス(Pseudoalteromonas)属に属する請求項1乃至3のいずれか一つに記載の化合物の生産菌を培養し、その培養物より請求項1乃至3のいずれか一つに記載の化合物を回収することを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか一つに記載の化合物の製造方法。
【請求項5】
シュードアルテロモナス(Pseudoalteromonas)属に属する請求項1乃至3のいずれか一つに記載の化合物の生産菌がシュードアルテロモナス・エスピー(Pseudoalteromonas sp.) SANK 73005(FERM BP−10504)であることを特徴とする、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
請求項1乃至3のいずれか一つを産生することを特徴とするシュードアルテロモナス(Pseudoalteromonas)属に属する細菌。
【請求項7】
シュードアルテロモナス・エスピー(Pseudoalteromonas sp.) SANK 73005(FERM BP−10504)。
【請求項8】
請求項1乃至3のいずれか一つに記載の化合物又はその塩を有効成分として含有する医薬組成物。
【請求項9】
請求項1乃至3のいずれか一つに記載の化合物若しくはその塩を有効成分として含有するTNFα産生抑制剤。
【請求項10】
請求項1乃至3のいずれか一つに記載の化合物若しくはその塩を有効成分として含有する炎症又は炎症性疾患の治療剤。
【請求項11】
請求項1乃至3のいずれか一つに記載の化合物若しくはその塩を有効成分として含有する敗血症又は敗血症に起因する疾患の治療剤。
【請求項12】
請求項1乃至3のいずれか一つに記載の化合物又はその塩を有効成分として含有する抗菌剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−262042(P2007−262042A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−93224(P2006−93224)
【出願日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【出願人】(000001856)三共株式会社 (98)
【Fターム(参考)】