説明

新規抗生物質

【課題】既知の抗菌物質とは異なる化学構造および抗菌活性を有し、細菌の種類に応じて選択性のある優れた抗菌活性を示す物質を提供する。
【解決手段】式I(式中、R1は、直鎖状炭化水素基である)で表される化合物またはその塩、ならびに式II(式中、R2は、炭素数1〜6の直鎖状または分岐状のアルキル基、炭素数1〜6のアルキルチオアルキル基またはフェニル基である)で表される化合物またはその塩。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は抗菌活性を有する新規化合物、その製造方法、および該方法に有用な新規微生物に関する。
【背景技術】
【0002】
これまでに種々の抗菌物質が知られており、それらの多くは、微生物によって生産される抗菌性をもつ抗生物質である。抗菌物質の利用は病原菌に対してのみならず、新規微生物を選抜する際にも、分離培地に添加されて用いられている。
【0003】
目的の分類群に属する新規微生物を効率的に得るには、抗菌スペクトルの範囲の狭い選択性の高い抗菌物質が必要であるが、現在新規有用細菌の宝庫とされている海洋細菌に対して選択性の高い抗菌物質はコロールミシンしか報告されていない(特許文献1、2参照)。
【0004】
しかし、コロールミシンは海洋性のガンマプロテオバクテリア(Gammaproteobacteria)にしか抗菌活性を示さず、従来のタイプとは異なる抗菌物質が渇望されている。
【特許文献1】特開平10-306094号公報
【特許文献2】特開2003-61645号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、従来知られているまたは使用されている既知の抗菌物質とは異なる化学構造および抗菌活性を有し、細菌の種類に応じて選択性のある優れた抗菌活性を示す物質を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行い、自然界から採取したフォトバクテリウム属細菌を培養した結果、該細菌が新しい構造を有する化合物を生産していることを見出した。そして、これらの化合物が、アルファプロテオバクテリウム(Alphaproteabacteria)のシュードビブリオ(Pseudovibrio)属細菌に対して選択的抗菌活性を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は以下の発明を包含する。
(1)式I:
【0008】
【化1】

[式中、R1は、直鎖状炭化水素基である]
で表される化合物またはその塩。
(2)式II:
【0009】
【化2】

[式中、R2は、炭素数1〜6の直鎖状または分岐状のアルキル基、炭素数1〜6のアルキルチオアルキル基またはフェニル基である]
で表される化合物またはその塩。
(3)(1)または(2)に記載の化合物またはその塩の製造方法であって、フォトバクテリウム属に属し、該化合物を生産する能力を有する微生物を培養し、培養物から該化合物の少なくとも1種を採取することを含む、前記方法。
(4)微生物が、フォトバクテリウム sp. A4B-4株である(3)に記載の方法。
(5)(1)または(2)に記載の化合物またはその塩を有効成分として含む抗菌剤。
(6)(1)または(2)に記載の化合物の少なくとも1種を生産する能力を有するフォトバクテリウム属細菌。
(7)フォトバクテリウム sp. A4B-4株である、(6)記載の細菌。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、海洋微生物に対して抗菌活性を有する新規な化合物、及び該化合物を海洋微生物を用いて効率的に製造する方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
一実施形態において本発明は、式I:
【0012】
【化3】

[式中、R1は、直鎖状炭化水素基である]
で表される化合物またはその塩に関する。
【0013】
直鎖状炭化水素基は、好ましくは1〜15個の炭素原子を含む飽和または不飽和の直鎖状炭化水素基、例えば、1〜15個の炭素原子を含む直鎖状のアルキル基、アルケニル基またはアルキニル基である。
【0014】
好ましくは、R1は、-(CH2)m-CH=CH-(CH2)n-CH3(ここでmは0〜6、好ましくは1〜3の整数であり、nは0〜10、好ましくは3〜8の整数であり、mとnの合計は1〜12である)、または-(CH2)o-CH3(ここでoは0〜14、好ましくは6〜10の整数である)である。
最も好ましくは、R1は、-CH2CH=CH(CH2)5CH3または-(CH2)8CH3である。
【0015】
一実施形態において本発明は、式II:
【0016】
【化4】

[式中、R2は、炭素数1〜6の直鎖状または分岐状のアルキル基、炭素数1〜6のアルキルチオアルキル基またはフェニル基である]
で表される化合物またはその塩に関する。
【0017】
アルキルチオアルキル基は、-(CH2)p-S-(CH2)q-CH3(ここでpは1〜5の整数であり、qは0〜4の整数であり、pとqの合計は1〜6である)で表される。
最も好ましくは、R2は、-CH(CH3)2、-CH2SCH3または-C6H6(フェニル基)である。
【0018】
上記化合物の塩は、必要に応じて所望の酸または塩基を使用することにより、容易に調製することができる。該塩は、溶液から析出させてからこれを濾過により集めることができ、また溶媒の蒸発により回収することもできる。
【0019】
本明細書案では、式IにおいてR1が-CH2CH=CH(CH2)5CH3である化合物をngercheumicin Aと称し、式IにおいてR1が-(CH2)8CH3である化合物をngercheumicin Bと称し、式IIにおいてR2が-CH(CH3)2である化合物をngercheumicin Cと称し、式IIにおいてR2が-CH2SCH3である化合物をngercheumicin Dと称し、式IIにおいてR2が-C6H6である化合物をngercheumicin Eと称する。
【0020】
以下に、ngercheumicin A〜Eの理化学的性状を示す。
ngercheumicin Aの理化学的性状
下記の物理化学的性状を有する化合物またはその塩:
A)物質の色:無色
B)溶解性:メタノール、ジメチルスルホキシドに可溶、クロロホルムに不溶
C)分子式:C4172611
D)分子量:824(FABマススペクトル法により測定)
E)高分解能FABマススペクトル法により測定した精密質量、[M+Na]は次に示す通りである:
実測値:847.5135
計算値:847.5157
F)赤外吸収スペクトル:
臭化カリウム(KBr)錠剤法で測定した赤外吸収スペクトルは以下に示す極大吸収を示す:
2956, 2925, 1742, 1670, 1654, 1557, 1542 cm-1
G)H−核磁気共鳴スペクトル:
重ジメチルスルホキシド中、内部標準に重ジメチルスルホキシド(2.50ppm)を用いて測定した、H−核磁気共鳴スペクトルは、以下に示すとおりである:
0.82(3H, d, 6.5Hz), 0.86(3H, t, 6.5Hz), 0.86(3H, d, 6.5Hz), 0.88(3H, d, 6.5Hz), 0.89(3H, d, 6.5Hz), 0.90(3H, d, 6.5Hz), 0.93(3H, d, 6.5Hz), 1.05(3H, d, 6.5Hz), 1.12(3H, d, 6.5Hz), 1.24-1.32(8H, m), 1.50(4H, m), 1.52-1.66(5H, m), 1.98(2H, q, 6.6Hz), 2.13(2H, m), 2.23(1H, dd, 7.3,13.8Hz), 2.28(1H, dd, 5.6,13.8Hz), 3.55(2H, m), 3.84(1H, m), 3.88(2H, m), 4.27(1H, m), 4.37-4.42(4H, m), 5.34(1H, q, 6.8Hz), 5.40(2H, m), 7.54(1H, d, 8.0Hz), 7.72 (1H, d, 6.8Hz), 8.09(1H, d, 6.3Hz), 8.10(1H, d, 8.8Hz), 8.19(1H, d, 6.6Hz), 8.37(1H, d, 9.2Hz), ppm
H)13C−核磁気共鳴スペクトル:
重ジメチルスルホキシド中、内部標準に重ジメチルスルホキシド(39.51ppm)を用いて測定した、13C−核磁気共鳴スペクトルは以下に示すとおりである:
13.91(q), 16.94(q), 20.05(q), 21.44(q), 21.94(q), 22.04(t), 22.27(q), 22.47(q), 22.59(q), 22.92(q), 24.15(d), 24.23(d), 24.47(d), 26.82(t), 28.33(t), 28.99(t), 31.12(t), 34.60(t), 38.77(t), 40.28(t), 40.40(t), 42.77(t), 50.39(d), 51.03(d), 51.73(d), 54.51(d), 56.15(d), 59.81(d), 61.46(t), 65.07(d), 67.58(d), 69.58(d), 125.75(d), 130.86(d), 168.20(s), 169.79(s), 170.50(s), 170.56(s), 170.76(s), 171.51(s), 172.88(s), ppm
I)高速液体クロマトグラフィー:
カラム:Cosmosil C18, 4.6 x 150 m(ナカライテスク株式会社製)
溶媒:60%アセトニトリル水
流速:1.0 ml/分、検出:紫外部吸収210 nm
保持時間:14.6分。
【0021】
ngercheumicin Bの理化学的性状
下記の物理化学的性状を有する化合物またはその塩:
A)物質の色:無色
B)溶解性:メタノール、ジメチルスルホキシドに可溶、クロロホルムに不溶
C)分子式:C4174611
D)分子量:826(FABマススペクトル法により測定)
E)高分解能FABマススペクトル法により測定した精密質量、[M+Na]は次に示す通りである:
実測値:849.5325
計算値:849.5313
F)赤外吸収スペクトル:
臭化カリウム(KBr)錠剤法で測定した赤外吸収スペクトルは以下に示す極大吸収を示す:
2957, 2929, 1739, 1651, 1543, 1469 cm-1
G)H−核磁気共鳴スペクトル:
重ジメチルスルホキシド中、内部標準に重ジメチルスルホキシド(2.50ppm)を用いて測定した、H−核磁気共鳴スペクトルは、以下に示すとおりである:
0.82(3H, d, 6.5Hz), 0.86(3H, t, 6.5Hz), 0.86(3H, d, 6.5Hz), 0.88(3H, d, 6.5Hz), 0.88(3H, d, 6.5Hz), 0.90 (3H, d, 6.5Hz), 0.93(3H, d, 6.5Hz), 1.05(3H, d, 6.5Hz), 1.12(3H, d, 6.5Hz), 1.23-1.30(13H, m), 1.30-1.38(3H, m), 1.50(4H, m), 1.53-1.66(5H, m), 2.23(1H, dd, 7.3,13.8Hz), 2.26(1H, dd, 5.6,13.8Hz), 3.55(2H, m), 3.78(1H, m), 3.88 (2H, m), 4.27(1H, m), 4.36-4.42(4H, m), 5.36(1H, q, 6.8Hz), 7.53(1H, d, 8.0Hz), 7.73(1H, d, 6.8Hz), 8.07(1H, d, 6.2Hz), 8.09(1H, d, 8.5Hz), 8.18(1H, d, 6.2Hz), 8.37(1H, d, 9.2Hz), ppm
H)13C−核磁気共鳴スペクトル:
重ジメチルスルホキシド中、内部標準に重ジメチルスルホキシド(39.51ppm)を用いて測定した、13C−核磁気共鳴スペクトルは以下に示すとおりである:
13.92(q), 16.97(q), 20.05(q), 21.46(q), 21.92(q), 22.07(t), 22.28(q), 22.47(q), 22.58(q), 22.92(q), 24.17(d), 24.23(d), 24.48(d), 24.85(t), 28.69(t), 28.96(t), 29.01(t), 29.11(t), 31.25(t), 36.59(t), 38.81(t), 40.2(t), 40.37(t), 43.36(t), 50.41(d), 51.06(d), 51.78(d), 54.54(d), 56.18(d), 59.81(d), 61.48(t), 65.08(d), 67.42(d), 69.57(d), 168.23(s), 169.81(s), 170.51(s), 170.57(s), 170.78(s), 171.71(s), 172.93(s), ppm
I)高速液体クロマトグラフィー:
カラム:Cosmosil C18, 4.6 x 150mm(ナカライテスク株式会社製)
溶媒:60%アセトニトリル水
流速:1.0 ml/分、検出:紫外部吸収210nm
保持時間:19.1分。
【0022】
ngercheumicin Cの理化学的性状
下記の物理化学的性状を有する化合物またはその塩:
A)物質の色:無色
B)溶解性:メタノール、ジメチルスルホキシドに可溶、クロロホルムに不溶
C)分子式:C355646
D)分子量:628(FABマススペクトル法により測定)
E)高分解能FABマススペクトル法により測定した精密質量、[M+H]は次に示す通りである:
実測値:629.4215
計算値:629.4278
F)赤外吸収スペクトル:
臭化カリウム(KBr)錠剤法で測定した赤外吸収スペクトルは以下に示す極大吸収を示す:
3302, 2956, 2979, 1739, 1663, 1545, 1467 cm-1
G)H−核磁気共鳴スペクトル:
重ジメチルスルホキシド中、内部標準に重ジメチルスルホキシド(2.50ppm)を用いて測定した、H−核磁気共鳴スペクトルは、以下に示すとおりである:
0.54(3H, d, 6.5Hz), 0.72(3H, d, 6.5Hz), 0.80(3H, d, 6.5Hz), 0.83(3H, d, 6.5Hz), 0.86(3H, t, 7.0Hz), 0.87 (3H, d, 6.5Hz), 0.88(3H, d, 6.5Hz), 1.04(1H, m), 1.25(6H, m), 1.36(2H, m), 1.48(1H, m), 1.56(3H, m), 1.64(1H, m), 1.69(3H, m), 2.12(1H, dd, 9.1, 13.7Hz), 2.69(1H, dd, 4.3, 13.7Hz), 2.75(1H, dd, 9.7, 13.3Hz), 2.95(1H, dd, 6.3, 13.5Hz), 3.58(1H, m), 4.17(1H, m), 4.30(1H, m), 4.47(1H, dt, 4.6,10.1Hz), 5.11(1H, m), 7.06(1H, d, 9.6Hz), 7.21(3H, m), 7.27(2H, t, 7.5Hz), 7.34(1H, d, 8.9Hz), 8.55 (1H, d, 3.8Hz), 8.65(1H, d, 5.6Hz), ppm
H)13C−核磁気共鳴スペクトル:
重ジメチルスルホキシド中、内部標準に重ジメチルスルホキシド(39.51ppm)を用いて測定した、13C−核磁気共鳴スペクトルは以下に示すとおりである:
13.81(q), 20.69(q), 20.69(q), 21.28(q), 21.90(t), 23.16(q), 23.16(q), 23.16(q), 23.55(d), 24.06(d), 24.10(t), 24.46(d), 31.00(t), 33.95(t), 36.33(t), 38.80(t), 38.87(t), 39.08(t), 40.42(t), 49.03(d), 50.67(d), 52.94(d), 55.74(d), 72.00(d), 126.29(d), 127.99(d), 128.82(d), 136.15(s), 170.31(s), 170.79(s), 170.93(s), 171.77(s), 174.14(s), ppm
I)高速液体クロマトグラフィー:
カラム:Cosmosil C18, 4.6 x 150mm(ナカライテスク株式会社製)
溶媒:60%アセトニトリル水
流速:1.0 ml/分、検出:紫外部吸収210nm
保持時間:16.8分。
【0023】
ngercheumicin Dの理化学的性状
下記の物理化学的性状を有する化合物またはその塩:
A)物質の色:無色
B)溶解性:メタノール、ジメチルスルホキシドに可溶、クロロホルムに不溶
C)分子式:C345446
D)分子量:646(FABマススペクトル法により測定)
E)高分解能FABマススペクトル法により測定した精密質量、[M+H]は次に示す通りである:
実測値:647.3795
計算値:647.3842
F)赤外吸収スペクトル:
臭化カリウム(KBr)錠剤法で測定した赤外吸収スペクトルは以下に示す極大吸収を示す:
3302, 2957, 2929, 1739, 1652, 1545, 1469, 1455 cm-1
G)H−核磁気共鳴スペクトル:
重ジメチルスルホキシド中、内部標準に重ジメチルスルホキシド(2.50ppm)を用いて測定した、H−核磁気共鳴スペクトルは、以下に示すとおりである:
0.81(3H, d, 6.5Hz), 0.83(3H, d, 6.5Hz), 0.86(3H, t, 7.2Hz), 0.88(3H, d, 6.5Hz), 0.88(3H, d, 6.5Hz), 1.20 -1.27(6H, m), 1.48-1.58(4H, m), 1.64(2H, m), 1.70(3H, m), 1.85(1H, m), 1.94(1H, m), 1.95(3H, s), 2.03(1H, m), 2.13(1H, dd, 9.2, 13.7Hz), 2.69(1H, dd, 4.0, 13.6Hz), 2.77(1H, dd, 9.7, 13.0Hz), 2.94(1H, dd, 6.0, 13.0Hz), 3.79(1H, m), 4.19(1H, m), 4.23(1H, m), 4.47(1H, dt, 4.4,10.7Hz), 5.11(1H, m), 7.05 (1H, d, 9.7Hz), 7.21(1H, m), 7.21(2H, m), 7.28(2H, t, 7.5Hz), 7.38(1H, d, 9.3Hz), 8.60(1H, d, 3.7Hz), 8.72(1H, d, 6.1Hz), ppm
H)13C−核磁気共鳴スペクトル:
重ジメチルスルホキシド中、内部標準に重ジメチルスルホキシド(39.51ppm)を用いて測定した、13C−核磁気共鳴スペクトルは以下に示すとおりである:
13.81(q), 14.20(q), 20.72(q), 21.26(q), 21.90(t), 23.16(q), 23.18(q), 24.06(t), 24.09(d), 24.47(d), 29.40(t), 29.53(t), 31.00(t), 33.95(t), 36.23(t), 38.76(t), 39.10(t), 40.34(t), 49.05(d), 50.73(d), 53.52(d), 56.02(d), 72.05(d), 126.37(d), 128.03(d), 128.87(d), 136.25(s), 170.38(s), 170.77(s), 170.87(s), 171.01(s), 174.36(s), ppm
I)高速液体クロマトグラフィー:
カラム:Cosmosil C18, 4.6 x 150mm(ナカライテスク株式会社製)
溶媒:60%アセトニトリル水
流速:1.0 ml/分、検出:紫外部吸収210nm
保持時間:12.8分。
【0024】
ngercheumicin Eの理化学的性状
下記の物理化学的性状を有する化合物またはその塩:
A)物質の色:無色
B)溶解性:メタノール、ジメチルスルホキシドに可溶、クロロホルムに不溶
C)分子式:C385446
D)分子量:662(FABマススペクトル法により測定)
E)高分解能FABマススペクトル法により測定した精密質量、[M+H]は次に示す通りである:
実測値:663.4070
計算値:663.4122
F)赤外吸収スペクトル:
臭化カリウム(KBr)錠剤法で測定した赤外吸収スペクトルは以下に示す極大吸収を示す:
3304, 2956, 2925, 1742, 1654, 1542, 1457 cm-1
G)H−核磁気共鳴スペクトル:
重ジメチルスルホキシド中、内部標準に重ジメチルスルホキシド(2.50ppm)を用いて測定した、H−核磁気共鳴スペクトルは、以下に示すとおりである:
0.83(3H, d, 6.6Hz), 0.84(3H, d, 6.6Hz), 0.84(3H, t, 7.0Hz), 0.87(3H, d, 6.6Hz), 0.88(3H,d, 6.6Hz), 1.22-1.25(6H, m), 1.45-1.75(8H,m),2.12(1H,dd, 8.6,14.0Hz), 2.64(2H,m),2.81(1H,dd, 8.7,14.5Hz),2.88(1H,dd, 10.1,14.8Hz),3.00(1H,dd, 3.6,14.7Hz),4.01(1H,m),4.20(1H,m),4.38(1H,m),4.45(1H,m), 5.08(1H, m), 7.07(1H, d, 9.6Hz), 7.15-7.25(10H,m),7.33(1H, d, 8.9Hz), 8.45(1H, d, 5.2Hz), 8.92(1H, d, 5.8Hz), ppm
I)高速液体クロマトグラフィー:
カラム:Cosmosil C18, 4.6 x 150mm(ナカライテスク株式会社製)
溶媒:60%アセトニトリル水
流速:1.0 ml/分、検出:紫外部吸収210nm
保持時間:20.2分。
【0025】
本発明の式IまたはIIで表される化合物、特にngercheumicin A〜Eは、アルファプロテオバクテリウム(Alphaproteabacteria)のシュードビブリオ(Pseudovibrio)属細菌に選択的に有効であることが示された。すなわち、シュードビブリオ属細菌に対して選択的に抗菌活性を有し、その他の微生物、例えばガンマプロテオバクテリアに対しては抗菌活性を有しない。
【0026】
シュードビブリオ属細菌としては、例えば、Pseudovibrio denitrificansが挙げられる。
【0027】
一実施形態において本発明は、上記式IまたはIIで表される化合物の少なくとも1種を生産する能力を有するフォトバクテリウム(Photobacterium)属細菌に関する。本発明の細菌は、好ましくはngercheumicin A〜Eの少なくとも1種、より好ましくはngercheumicin A〜Eのすべてを生産する能力を有する。本発明のフォトバクテリウム属細菌の一例として、フォトバクテリウム sp. A4B-4株が挙げられる。この株は自然界から新たに単離した株である。16S rRNA遺伝子の塩基配列は、配列番号1に示すとおりである。Gen BankのデータベースならびにBLAST programを用い、16S rRNA遺伝子の塩基配列の相同性で近い微生物種を探索ところ、最も近いのはAY690708 Photobacterium sp. HZ09で、98%の相同性を示した。
【0028】
なお、A4B-4株(MBIC06484株)は、独立行政法人製品評価技術基盤機構 バイオテクノロジー本部(千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8)に、平成17年1月11日に、寄託番号NITE P-61として寄託されている。
【0029】
フォトバクテリウム sp. A4B-4株は、以下の形態学的性状を有する。
a. 形態
1) 細胞の形および大きさ:桿菌、1.6-2.5×0.6-0.7 μm
2) 細胞の多形性の有無:無し
3) 運動性の有無、鞭毛の着生状態:有り、極毛
4) 胞子の有無:無し
b. 各培地における生育状態
1) マリンアガー平板培養 :良好に生育、コロニーは円形、扁平状、波状、中心部白色、周辺部半透明
2) マリンアガー斜面培養 :良好に生育,白色
3) マリンブロス培養 :良好に生育,均質に濁る
c. 生理学的性質
1) グラム染色性:陰性
2) 硝酸塩の還元:還元する
3) インドールの生成:生成しない
4) 硫化水素の生成:生成しない
5) でんぷんの加水分解:分解する
6) クエン酸の利用:Simmons培地:利用する
7) ウレアーゼ活性:陽性
8) オキシダーゼ活性:陽性
9) カタラーゼ活性:陽性
10) 生育pH範囲:pH 5〜10、最適生育pH範囲 pH 6〜9
11) 酸素に対する態度:通性嫌気性
12) OF試験:発酵的に分解する
13) 糖からの酸の生成の有無:
API50CHを使用し、基礎培地として 2.3% NaCl, 1.18% MgCl2・6H2O, 0.164% CaCl2・2H2O, 0.002% Phenol red, 5mM Tris -HCl(pH 7.8)を用いた。
L-アラビノース:陰性
D-キシロース :陰性
D-グルコース :陽性
D-マンノース :陰性
D-フラクトース:陽性
D-ガラクトース:陰性
マルトース :陰性
シュークロース:陰性
ラクトース :陰性
トレハロース :陽性
D-ソルビトール:陰性
D-マンニトール:陰性
イノシトール :陰性
グリセリン :陽性
デンプン :陽性
14) エスクリンの分解:分解しない
15) DNAの分解:分解する
16) 好塩性:有り 生育塩濃度範囲 1〜7%
17) β-ガラクトシダーゼ:陰性
18) イソプレノイドキノン:Q-8
【0030】
一実施形態において本発明は、上記式IまたはIIで表される化合物またはその塩の製造方法であって、フォトバクテリウム属に属し、該化合物を生産する能力を有する微生物を培養し、培養物から該化合物の少なくとも1種を採取することを含む、前記方法に関する。微生物として、好ましくはフォトバクテリウム sp. A4B-4株を用いる。
【0031】
本発明における微生物の培養は、通常の微生物の培養方法が用いられる。培地としては、資化可能な炭素源、窒素源、無機物および必要な生育・生産促進物質を適宜含有する培地であれば、合成培地または天然培地のいずれでも使用可能である。炭素源としては、グルコース、澱粉、デキストリン、マンノース、フラクトース、糖蜜などが単独または組み合わせて用いられる。さらに、必要に応じて炭化水素、アルコール類、有機酸、アミノ酸(トリプトファン等)なども用いられる。窒素源としては塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、硝酸ナトリウム、尿素、ペプトン、肉エキス、酵母エキス、乾燥酵母、コーン・スチープ・リカー、大豆粉、綿実かす、カザミノ酸などが単独または組み合わせて用いられる。そのほか、必要に応じて食塩、塩化カリウム、硫酸マグネシウム、炭酸カルシウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、硫酸第一鉄、塩化カルシウム、硫酸マンガン、硫酸亜鉛などの無機塩類を加える。さらに使用する微生物の生育や本発明の化合物の生産を促進する微量成分を適当に添加することができ、そのような成分は当業者であれば適当なものを選択することができる。また塩化ナトリウム2%〜5%を添加することも有利である。
【0032】
かかる栄養培地での本発明の微生物の培養は、一般の微生物による抗生物質の製造において通常使用されている方法に準じて行うことができる。通常は好気条件下に培養するのが好適であり、通常は攪拌しながらおよび/または通気しながら行うことができる。また、培養方法としては静置培養、振とう培養、通気攪拌をともなう液体培養のいずれも使用可能であるが、液体培養が本発明の式IまたはIIの化合物、特にngercheumicin A〜Eの大量生産に適している。
【0033】
使用しうる培養温度は、本発明の微生物の発育が実質的に阻害されず、該抗生物質を生産しうる範囲であれば、特に制限されるものではなく、適宜選択できる。特に好ましいのは25〜30℃の範囲内の培養温度を挙げることができる。培養は、通常、本発明の式IまたはIIの化合物、特にngercheumicin A〜Eが十分に蓄積するまで継続することができる。その培養時間は培地の組成や培養温度、使用温度、使用生産菌株などにより異なるが、通常4〜8日間の培養で目的の化合物を得ることができる。
【0034】
培養物中の本発明の式IまたはIIの化合物、特にngercheumicin A〜Eの蓄積量は検定菌としてPseudovibrio sp. MBIC3368株を使用して、通常の抗生物質の活性試験に用いられるペーパーディスク法により定量することができる。
【0035】
培養物中に蓄積された化合物は、これを培養物から採取する。培養後、必要により、濾過、遠心分離などのそれ自体公知の分離方法によって菌体と上清を分離後、その上清に、有機溶媒、特に酢酸エチルなどを用いた溶媒抽出や、吸着やイオン交換能を利用したクロマトグラフィー、ゲルろ過、液液分配を利用したクロマトグラフィーを単独でまたは組み合わせて使用することにより、培養上清から本発明の式IまたはIIの化合物を単離精製して採取することができる。吸着やイオン交換能を有するクロマトグラフィー用担体としては、活性炭、シリカゲル、多孔性ポリスチレン・ジビニルベンゼン樹脂もしくは各種のイオン交換樹脂を用いることができる。菌体の場合は、50%アセトン抽出後、上清の場合と同様に各種クロマトグラフィーを単独でまたは組み合わせて使用することにより、本発明の化合物を単離精製することができる。かくして、前記した特性を有する本発明の式IまたはIIの化合物、特にngercheumicin A〜Eの各々が得られる。
【0036】
本発明はまた、本発明の式IもしくはIIの化合物、特にngercheumicin A〜E、またはその塩を有効成分として含む抗菌剤に関する。本発明の抗菌剤は、有効成分としての化合物を製薬学的に許容できる常用の液体または固体担体、例えばエタノール、水、デンプン等と混和してなる組成物の形で調合して使用できる。
【実施例】
【0037】
次に実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
実施例1 抗生物質ngercheumicin A〜Eの製造
マリンブロス(DIFCO社製)を振盪フラスコ(1L容)に300mlずつ分注し、常法により121℃で15分滅菌した。フォトバクテリウム sp. A4B-4株をマリンアガー平板培地上で培養後、その1コロニーを試験管あるいは100mlフラスコ中の少量のマリンブロスに接種し、1日間、前培養した。その培養液2mlずつを上述の振盪フラスコ(1L容)に接種し、次いで、30℃で4日間振盪培養した。
【0038】
30Lの培養液を回収し、遠心分離操作によって上清と菌体を分離した。菌体はクロロホルム-メタノール(1:1, 1L)で超音波抽出して、ろ紙でろ過後、減圧濃縮して菌体抽出部とした。上清部分は、セライトろ過したろ液をHP-20担体(三菱化成) 500gに吸着させ、蒸留水20L、50%メタノール水溶液10 L、80%メタノール水溶液7 L、メタノール10 Lで溶出したものを減圧濃縮(40℃以下)して、それぞれの溶出分画を得た。菌体抽出部についても、同様にHP-20担体に吸着後、順次溶出させて分画を得た。
【0039】
上記で得られた分画では、抗菌活性がメタノール溶出部のみに認められた。メタノール溶出部について、ODSカラムを用いたHPLC分析を行ったところピークが多数観察されたことより、グラジエント法によって10個に分画した。
【0040】
No.5-7の画分に強い抗菌活性が認められたので、これらをさらにODSカラムで精査する条件を検討したところ、アイソクラティックの条件で良好な分離ができた。液体クロマトグラフィー(カラム:資生堂カプセルパック UG)に供し、30%アセトニトリル水で溶出した。各溶出画分を減圧下に濃縮乾固した結果、化合物A (5.4 mg)、化合物B (4.0 mg)、化合物C (13.5 mg)、化合物 D (20.6 mg)、化合物 E (4.1 mg)が単離された。そしてこれらの理化学的性状および化学構造を特定し、化合物A〜Eをそれぞれngercheumicin A〜Eと命名した。
【0041】
ngercheumicin Aは、式IにおいてR1が-CH2CH=CH(CH2)5CH3である化合物である。ngercheumicin Bは、式IにおいてR1が-(CH2)8CH3である化合物である。ngercheumicin Cは、式IIにおいてR2が、-CH(CH3)2である化合物である。ngercheumicin Dは、式IIにおいてR2が-CH2SCH3である化合物である。ngercheumicin Eは式IIにおいてR2が-C6H6である化合物である。
【0042】
【化5】

【0043】
実施例2 抗菌活性の試験
実施例1で得られたngercheumicin A〜Eの各種細菌に対する抗菌活性を試験した。ngercheumicin A〜Eの200ppmと1000ppm溶液を用いて、直径6mmのペーパーディスク(アドバンティック東洋社製)にそれぞれディスクあたり13μlの溶液を添加した場合の生育阻害活性を調べた。各種細菌に対する阻止円の大きさを表1に示す。
【0044】
【表1】

【0045】
表1の結果から、ngercheumicin A〜Eは、アルファプロテオバクテリウム(Alphaproteabacteria)のシュードビブリオ(Pseudovibrio)属細菌に選択的に有効であることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の化合物は抗菌剤としてだけでなく、特定の細菌に対して特に優れた抗菌活性を示すため、新規微生物の効率的選抜にも有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式I:
【化1】

[式中、R1は、直鎖状炭化水素基である]
で表される化合物またはその塩。
【請求項2】
式II:
【化2】

[式中、R2は、炭素数1〜6の直鎖状または分岐状のアルキル基、炭素数1〜6のアルキルチオアルキル基またはフェニル基である]
で表される化合物またはその塩。
【請求項3】
請求項1または2に記載の化合物またはその塩の製造方法であって、フォトバクテリウム属に属し、該化合物を生産する能力を有する微生物を培養し、培養物から該化合物の少なくとも1種を採取することを含む、前記方法。
【請求項4】
微生物が、フォトバクテリウム sp. A4B-4株である請求項3に記載の方法。
【請求項5】
請求項1または2に記載の化合物またはその塩を有効成分として含む抗菌剤。
【請求項6】
請求項1または2に記載の化合物の少なくとも1種を生産する能力を有するフォトバクテリウム属細菌。
【請求項7】
フォトバクテリウム sp. A4B-4株である、請求項6記載の細菌。

【公開番号】特開2007−230911(P2007−230911A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−55088(P2006−55088)
【出願日】平成18年3月1日(2006.3.1)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成17年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、生物機能活用型循環産業システム創造プログラム/ゲノム情報に基づいた未知微生物遺伝資源ライブラリーの構築 委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(591001949)株式会社海洋バイオテクノロジー研究所 (33)
【Fターム(参考)】