説明

新規抗菌ペプチド

本発明は、17〜23個のアミノ酸からなる、または該アミノ酸を含む線状、非環状構造のペプチドであって、N末端から数えて1〜23位のアミノ酸が以下のとおり(1)G、Sまたは無し;(2)Cまたは無し;(3)KまたはR;(4)KまたはR;(5)Y、WまたはF;(6)KまたはR;(7)KまたはR;(8)F、WまたはL;(9)KまたはR;(10)KまたはLまたは無し;(11)W、LまたはF;(12)KまたはR;(13)F、YまたはC;(14)KまたはR;(15)GまたはQ;(16)KまたはR;(17)F、LまたはW;(18)FまたはW;(19)F、LまたはW;(20)WまたはF;(21)Cまたは無し;(22)FまたはGまたは無し(23)Gまたは無しであるペプチドに関する。さらに、本発明は、本発明のペプチドをコードする核酸分子、本発明の核酸分子を含む発現ベクター、本発明のベクターを含み、細胞培養状態で増殖し得る宿主細胞、ならびに本発明の宿主細胞を培養する工程および生成されたペプチドを回収する工程を含む、本発明のペプチドの作製方法に関する。また、本発明は、本発明のペプチド、本発明の方法によって作製されるペプチド、本発明の核酸分子、本発明の発現ベクターまたは本発明の宿主細胞を含む医薬組成物、および本発明のペプチド、本発明の方法によって作製されるペプチド、本発明の核酸分子、本発明の発現ベクターまたは本発明の宿主細胞を含むキットに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、17〜23個のアミノ酸からなるかまたはそれを含む、線形、非環状構造のペプチドに関し、N末端から数えて1〜23位のアミノ酸は、以下のとおり(1) G、Sまたは欠損;(2) Cまたは欠損;(3) KまたはR;(4) KまたはR;(5) Y、WまたはF;(6) KまたはR;(7) KまたはR;(8) F、WまたはL;(9) KまたはR;(10) KまたはLまたは欠損;(11) W、LまたはF;(12) KまたはR;(13) F、YまたはC;(14) KまたはR;(15) GまたはQ;(16) KまたはR;(17) F、LまたはW;(18) FまたはW;(19) F、LまたはW;(20) WまたはF;(21) Cまたは欠損;(22) FまたはGまたは欠損(23) Gまたは欠損である。さらに、本発明は、本発明のペプチドをコードする核酸分子、本発明の核酸分子を含む発現ベクター、本発明のベクターを含む細胞培養中で増殖し得る宿主細胞、ならびに本発明の宿主細胞を培養する工程および生成されたペプチドを回収する工程を含む、本発明のペプチドを生成する方法に関する。また、本発明は、本発明のペプチド、本発明の方法により生成されたペプチド、本発明の核酸分子、本発明の発現ベクターまたは本発明の宿主細胞を含む医薬組成物、および本発明のペプチド、本発明の方法により生成されたペプチド、本発明の核酸分子、本発明の発現ベクターまたは本発明の宿主細胞を含むキットに関する。
【0002】
本明細書において、特許出願および製造業者のマニュアルを含むいくつかの文献が引用される。これらの文献の開示は、本発明の特許性に関連するものであるとはみなされないが、その全体において参照により本明細書に援用される。より具体的には、全ての参照される文献は、それぞれ個々の文献が具体的かつ個別に参照により援用されているかのように示されるのと同程度に参照により援用される。
【背景技術】
【0003】
ドイツだけで、毎年60000人より多くの人が細菌性血液中毒(セプシス)により死亡している。この状態および他の状態に対抗するための新規のアプローチは、リポ多糖(LPS)などの細菌性病原因子に結合する、ヒトおよび他のタンパク質の特定のモチーフに基づく合成抗菌ペプチド(AMP)の使用である。細菌性病原因子の分子がかなりの程度で炎症および感染の原因となることは公知である。
【0004】
AMPを使用するためのアプローチは、ここ数年である程度の関心を得ている。通常、AMPはラクトフェリン、グラニュリシンおよびカチオン性抗菌ペプチド(CAP)などのLPS結合防御タンパク質に基づいている(Andersson et al., 1996、Garidel et al., 2007、Ramamoorthy et al., 2006、Vallespi et al., 2003)。しかしながら、これらの研究のほとんどは、遊離LPSの中和よりもむしろ感染性細菌の殺傷に焦点が当てられていた。免疫系の作用または単純に細胞分裂により細菌から放出された単離LPSの存在は、抗セプシス闘病における主要な課題の1つである。
【0005】
いくつかの研究では、LALFタンパク質のLPS結合ドメインを使用しており(Hoess et al., 1993、Paus et al., 2002)、インビトロのみならずインビボで、例えば内毒素のマウスモデルでも特定のLPS中和を得ることができる線形および環状ペプチドが合成された(Dankesreiter et al., 2000、Garidel et al., 2007、Hoess et al., 1993、Leslie et al., 2006、Mora et al., 2006、Ried et al., 1996、Vallespi et al., 2003)。これらのペプチドのいくつかが血清中で充分な半減期を有することが見出された。しかし、これらの化合物が内毒素を有効に抑制し、見込みのある抗セプシス剤として適切であるかという疑問は、答えが出ていないままである。
【0006】
包括的な生物物理学的研究が実施され、その中で特定の環状AMPまたはブタNKリシンもしくはヒトグラニュリシンに基づくペプチドによるLPS中和に重要な必須のパラメーターを特徴付けることができた(Andrae et al., 2004、Andrae et al., 2007、Andrae et al., 2004、Andrae et al., 2004、Andrae et al., 2007、Chen et al., 2007)。これらのパラメーターにはLPS頭部基の表面電位、脂質Aアシル鎖の流動性、脂質A凝集構造、ならびにLPS結合タンパク質LBPの非存在下および存在下における糖脂質リポソームへの取り込みがある。
【0007】
これらのAMPによるLPS中和は、動物実験に使用するほどには高くないことが見出された。適切なAMP化合物を得るための課題は、20種類のタンパク質アミノ酸から始まる極めて多くの可能性の組合せのための深刻な課題である。適切なAMPを開発するためのアプローチには、AMPが抗菌的に作用する能力およびLPSを中和する能力が含まれるべきである。このために、LPS/脂質Aの大きさ、構造および凝集構造の詳細な知識が必要である。これらのパラメーターのいくつかは、先行文献において測定されており(Brandenburg, 1993、Brandenburg et al., 1999、Brandenburg et al., 1990、Brandenburg et al., 1992、Brandenburg et al., 1997、Brandenburg et al., 2000、Brandenburg et al., 2002、Brandenburg et al., 1993、Brandenburg et al., 1998、Brandenburg et al., 1996)、総説についてはBrandenburg and Wiese, 2004を参照のこと。
【0008】
しかしながら、この情報が利用可能であっても、依然として、優れた抗菌特性を有するペプチドを提供する必要がある。
【発明の概要】
【0009】
従って、本発明は、17〜23個のアミノ酸からなるかまたはそれを含む線形、非環状構造のペプチドに関し、N末端から数えて1〜23位のアミノ酸は、以下のとおり(1) G、Sまたは欠損;(2) Cまたは欠損;(3) KまたはR;(4) KまたはR;(5) Y、WまたはF;(6) KまたはR;(7) KまたはR;(8) F、WまたはL;(9) KまたはR;(10) KまたはLまたは欠損;(11) W、LまたはF;(12) KまたはR;(13) F、YまたはC;(14) KまたはR;(15) GまたはQ;(16) KまたはR;(17) F、LまたはW;(18) FまたはW;(19) F、LまたはW;(20) WまたはF;(21) Cまたは欠損;(22) FまたはGまたは欠損、(23) Gまたは欠損である。
【0010】
一般的に、用語「ペプチド」は、ペプチド結合により共有結合した30個までのアミノ酸を含むアミノ酸の線形分子鎖のことを示す。しかしながら、上述のように、本発明のペプチドは17〜23個のアミノ酸からなるかまたはそれを含む。該ペプチドに含まれるアミノ酸の総数は、1つ以上のアミノ酸がNおよび/またはC末端で17〜23個のアミノ酸のペプチドに付加されるのであれば、好ましくは30個まで増えてもよい。前記アミノ酸はペプチドの機能に寄与してもしなくてもよい。つまり、付加された(1つまたは複数の)アミノ酸は、ペプチドに、抗菌もしくは抗ウイルス活性の別個の機能または別の機能を付与してもしなくてもよい。
【0011】
アミノ酸の数は、本発明のペプチドが別のペプチドまたはポリペプチドに融合した場合、さらに増えてもよい(以下参照)。ペプチドは、少なくとも2つの同じまたは異なる分子からなるオリゴマーを形成し得る。かかるマルチマーの対応高次構造は、対応して、ホモ-またはヘテロダイマー、ホモ-またはヘテロトリマー等と称される。
【0012】
本発明を通じて、アミノ酸を指定するために使用される1文字コードの略語は、アミノ酸に関し一般的に使用されるものに対応する。
【0013】
本発明のペプチドは合成により生成することができる。ペプチドの化学合成は当該技術分野において周知である。一般に固相合成が使用され、種々の市販の合成機、例えばApplied Biosystems Inc., Foster City, CA;Beckman;MultiSyntech, Bochum, Germany等の自動合成機が利用可能である。便利さで劣るが、液相合成法も使用され得る。例えば、ペプチド合成は、Nα-9-フルオレニルメトキシカルボニルアミノ酸および前負荷トリチル樹脂またはアミノメチル化ポリスチレン樹脂をp-カルボキシトリチルアルコールリンカーと共に使用して実施され得る。N-ヒドロキシベンゾトリアゾールおよび2-(1H-ベンゾトリアゾール-1-イル)-1,1,3,3-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェートを使用して、ジメチルホルムアミド中でカップリングを行うこともできる。一般的に使用される側鎖保護基は、D、EおよびYに対してはtert-ブチル;N、Q、SおよびTに対してはトリチル;Rに対しては2,2,4,6,7-ペンタメチルジヒドロキシベンゾフラン-5-スルホニル;ならびにKに対してはブチルオキシカルボニルである。合成後、ペプチドを脱保護して、例えば92%トリフルオロ酢酸/4%トリエチルシラン/4%H2Oで処理してポリマー支持体から切断する。tert-ブチルエーテル/ペンタン(8:2)を添加してペプチドを沈殿し、逆相HPLCにより精製することができる。ペプチドは一般的に、マトリクス支援レーザー吸収飛行時間計測式質量分析により分析される。これらの標準的な技術を使用して、天然に存在するアミノ酸を、非天然のアミノ酸、特にD-立体異性体および異なる長さまたは機能を有する側鎖のアミノ酸で置換してもよい。小分子、標識部分、ペプチド、またはタンパク質へのコンジュゲートのための官能基を化学合成中に該分子に導入してもよい。また、合成プロセス中に小分子および標識部分を付加してもよい。好ましくは、官能基の導入および他の分子へのコンジュゲートは、目的のペプチドの構造および機能に影響を及ぼす。
【0014】
ペプチドのN-およびC末端、ならびにペプチドに含まれる末端アミノ酸から離れた任意のアミノ酸は、従来の化学合成法を使用して誘導され得る。本発明のペプチドは、アシル基、例えばアセチル基を含み得る。N末端の遊離アミノ基をアシル化、具体的にアセチル化する方法は、当該技術分野で周知である。C末端に関して、カルボキシル基をアルコールでのエステル化により修飾またはアミド化して、CONH2またはCONHRを形成してもよい。エステル化およびアミド化の方法は当該技術分野で周知である。
【0015】
さらに、本発明のペプチドはまた、半合成的に、例えば組換えおよび合成生成の組合せにより生成され得る。ペプチドの断片が合成により生成される場合、ペプチドの残りの部分を、以下にさらに記載されるように他の方法、例えば組換えで生成して、断片に連結して本発明のペプチドを形成する必要がある。
【0016】
本発明により、カブトガニ(Limulus polyphemus)由来の動物LPS結合タンパク質のLPS結合ドメインに基づくペプチド、カブトガニ(Limulus)抗LPS因子(LALF)が高い抗菌活性を発揮することを見出した。元のLALFドメインのアミノ酸配列の最適な変形により、LPSの脂質A部分に結合することにより大きく増加したLPS中和活性を発揮するペプチドを得ることが可能となった。また、驚くべきことに、本発明のペプチドは、抗ウイルス活性を発揮し、および/または癌治療に適用可能であり得ることが見出された。
【0017】
上述のように、本発明のペプチドは抗菌活性を発揮する。本発明の文脈において、抗菌活性とは細菌LPSに結合して抑制をもたらすことを示す。
【0018】
LPSは、細菌の構造完全性に大きく寄与し、特定の種類の化学的攻撃から膜を保護するグラム陰性菌の外膜の主成分である。LPSは内毒素であり、正常動物の免疫系から強い反応を誘導する。LPSを有するグラム陽性菌は、低温殺菌していない牛乳中に一般的に見られる感染因子であるリステリア・モノサイトゲネスだけである。
【0019】
LPSは、多くの細胞型、特にマクロファージにおける前炎症サイトカインの分泌を促進するCD14/TLR4/MD2レセプター複合体に結合するので、原型的な内毒素として作用する。免疫学において、「LPS攻撃」は、毒素として作用し得るLPSに被検体を曝露することである。LPSはまた、細胞膜の負電荷を増加させ、膜構造全体の安定化を補助する。LPSは3つの部分:多糖(O)側鎖、コア多糖(ナイセリア属のコアオリゴ糖)および脂質Aを含む。多糖側鎖は細菌のO抗原と称される。O側鎖(O抗原)もコア多糖から伸長する多糖鎖である。O側鎖の組成は、種々のグラム陰性菌株間で異なる。O鎖の存在または非存在により、LPSが粗いと見なされるか滑らかとみなされるかが決定される。全長O鎖は、LPSを滑らかにし、O鎖の非存在または減少は、LPSを粗くする。粗いLPSはより疎水性であるので、粗いLPSを有する細菌は、通常、疎水性抗生物質に対してより透過性の高い細胞膜を有する。O側鎖は宿主の抗体により容易に認識されるが、グラム陰性菌は該鎖の性質を容易に改変して検出を回避する。コアオリゴ糖は通常にはない糖(例えば、KDO、ケト-デオキシオクツロネートおよび七炭糖)を含む。コアオリゴ糖は脂質Aに付加されている。脂質Aは通常にはない脂肪酸(例えば、ヒドロキシミリスチン酸)を含み、外膜に包まれるが、LPSの残りは表面から突出している。脂質Aは、全ての毒性の原因であるLPSの生物活性部分である。従って、脂質Aへの結合は病原性因子としてのLPSの不活性化に不可欠である。さらに、本発明のAMPの正電荷が高いために、AMPはグラム陰性菌およびグラム陽性菌を殺傷することもできるが、これは、哺乳動物細胞とは対照的に、細菌の膜表面は強い負電荷強度を有するためである。
【0020】
このように、用語「抗菌活性」は、LPSを発現する細菌、すなわちグラム陰性菌における前記活性のことをいう。前記抗菌活性についてペプチドを試験する方法は当該技術分野で公知であり、添付の実施例に記載される。ペプチドの抗菌活性の評価は、グラム陰性菌株の回収に対するペプチドの最小阻害濃度(MIC)および最小細菌濃度(MBC)を測定することでなされ得る。これらの菌株としては、広域スペクトルβラクタマーゼ(ESBL)大腸菌(n=2)、ならびにカチオン性ペプチド耐性(ペスト菌(n=1)、プロテウス・ミラビリス(n=1)およびウシ流産菌(n=1))または従来の抗生物質に対して多剤耐性(ソンネ菌(n=1)、クレブシエラ・オキシトカ(n=1)、アシネトバクター・バウマンニ(n=1)、およびステノトロホモナス・マルトフィリア(n=1))のいずれかの細菌株、セパシア菌(n=1)が挙げられる。また、粘膜病原菌(インフルエンザ菌(n=1)、髄膜炎菌(n=1)、気管支セプシス菌(n=1))の罹患率を特徴付けることができる。ペプチドのMICおよびMBCは、Clinical and Laboratory Standard Institute(CLSI;以前のNCCLS)ガイドライン(NCCLS, 2000, Approved Standard: M7-A5)に従って、二価カチオン調整Mueller Hinton培地中の液体微小希釈試験により測定される。抗菌活性を発揮するために適用される本発明のペプチドの好ましい濃度は、10〜20μg/mlである。
【0021】
本発明の過程において、本発明者らは、LPSの中和に適切なアミノ酸配列はいくつかの基準に従うことを見出した:該アミノ酸配列は、アルギニン(R)およびリジン(K)などの充分な量の正電荷アミノ酸、トリプトファン(W)およびフェニルアラニン(F)などのいくらかの疎水性のアミノ酸のみならずチロシン(Y)およびある程度のシステイン(C)、ならびに充分に可とう性の「正確な」長さの鎖を有する必要がある。好ましくは、正電荷アミノ酸の数は7〜9個の範囲である。また、疎水性アミノ酸の数は7または8であることも好ましい。好ましくは、残りのアミノ酸は極性である。
【0022】
好ましくは、本発明のペプチドは、LPSの脂質Aドメインに効果的に結合するために、17〜23個の長さのアミノ酸を有するが、上述のように末端にさらなるアミノ酸を含んでもよい。該ペプチドは、3つの領域またはドメインからなる:N末端は主に負に帯電しており、C末端は主に疎水性であり、中央領域は異なる分類に属するアミノ酸からなる。N末端がLPSの脂質A部分の1-リン酸に結合し、中央領域が4'-リン酸に結合し、疎水性C末端が脂質Aの疎水性部分に挿入されるという実験的な証拠がある。
【0023】
本発明で使用されるアプローチおよび見出されたペプチドを試験するためにいくつかの実験を行った。
【0024】
ペプチドの長さを短くすることで、LPS誘導サイトカイン発現の阻害の低下がもたらされることを見出した(図1参照)。さらに、システイン残基によるS-S結合により得られるペプチドの環状化により、低い活性を示すサイトカイン産生の阻害の有意な減少がもたらされることを見出した。この理由は、ペプチドの二次構造にあると思われる。全ての高活性AMPは主にβシート構造を有し、対応する環状化合物は実質的に、FTIR実験のアミドl-振動の評価において示されるように、αヘリックスに折りたたまれる(図2)。
【0025】
高活性IPep19-2の結合化学量論を、等温滴定熱量計を用いて実験的に調べた。ペプチドは、3:1の[LPS]:[IPep19-2]のモル比で飽和してLPSに対して非常に強力な結合を示した(図3)。
【0026】
強力結合ペプチドのさらなる例として、LPSの炭化水素鎖のゲルから液晶相への転移に対するIPep17-1の影響を示す(図4)。見られるように、メチレン基の対称伸縮振動のピーク位置の波長は全ての温度で大きく増加する。このことは、「ゴールドスタンダード」ポリミキシンB(PMB)によって生じるものと同程度の、該ペプチドによって誘導されたLPSのアシル鎖部分の激しい流動化に相当する。PMBは非常に良好なAMPであり、多くのLPS誘導活性を抑制し得るが、固有の毒性のために全身医薬としては適さないことに注意されたい。
【0027】
LPSの凝集構造に対するペプチドの影響の例として、LPS:Pep19-2複合体に対する小角X線散乱データを示す(図5)。20℃で、データは、9.71、7.63および5.84nmの周期性の多重膜凝集の存在を示し(4.88、3.84および2.94nmでの反射は第2のオーダーに相当する)、50℃では6.71および5.15nmのわずか2つの周期性のみが見られる。LPSの不活性化に必要なLPSの多重膜化および周期性値は、極端に高密度に充填された凝集には明らかに不充分であるので、LPS中和を示す。
【0028】
さらに、標識負電荷ホスファチジルセリンリポソームを用いた蛍光共鳴エネルギー転移測定において、本発明の抗菌ペプチドはLPSの非存在下および存在下でリポソームに取り込まれることを示すことができた(図6)。
【0029】
図7から、癌細胞株PC3に対する細胞損傷はペプチドの濃度の増加に伴って増加するので、癌治療における本発明のペプチドの実用性を示すことがわかる。
【0030】
最後に、図8は、本発明のペプチドが、T細胞系統において99%までのウイルス複製の阻害をもたらす抗ウイルス活性を発揮することを示す。
【0031】
要約すると、本発明は予期せずに、抗菌および抗ウイルス活性を有し、感染性疾患または癌の治療に適切なペプチドの製法を見出した。
【0032】
好ましい態様において、該ペプチドは17〜23個のアミノ酸からなる。
【0033】
別の好ましい態様において、該ペプチドは17〜21個のアミノ酸からなり、N末端から数えて1〜21位のアミノ酸は、以下のとおり(1) G、Sまたは欠損;(2) Cまたは欠損;(3) KまたはR;(4) KまたはR;(5) YまたはF;(6) KまたはR;(7) KまたはR;(8) F、WまたはL;(9) KまたはR;(10) W、LまたはF;(11) KまたはR;(12) F、YまたはC;(13) KまたはR;(14) GまたはQ;(15) KまたはR;(16) F、LまたはW;(17) FまたはW;(18) F、LまたはW;(19) WまたはF;(20) Cまたは欠損;(21) Gまたは欠損である。
【0034】
別の好ましい態様において、本発明のペプチドは以下のアミノ酸配列


のいずれか1つを有する。
【0035】
これらのペプチドは、本発明の過程において所望の効果を発揮することが実験的に確認されているので、特許請求される発明の広範な例示的基礎が提供される。
【0036】
さらに好ましい態様において、本発明のペプチドをさらなるペプチドまたはポリペプチドに融合する。
【0037】
本発明のペプチドをさらなるペプチドまたはポリペプチドに融合させることにより、融合ペプチドまたはポリペプチド、すなわち本発明のペプチドを含む少なくとも二部構成の分子が形成される。融合ペプチドまたはポリペプチドは上記のペプチドの長さを超えてもよく、すなわち30アミノ酸よりも長いアミノ酸配列を形成していてもよく、これは本発明によるポリペプチドと定義され、該用語は用語「タンパク質」と互換的に使用される。好ましくは、さらなるペプチドは、抗菌または抗ウイルス活性を有さない。あるいは、さらなるペプチドは、抗菌または抗ウイルス活性を示す。従って、本発明によれば、二つの本発明のペプチドで前記融合ペプチドまたは前記融合ポリペプチドが形成されると見なされる。用語「融合ペプチド」(または「融合ポリペプチド」)から除外されるものは、本発明のペプチドが、別の機能を何ら付与しない1つまたはいくつかのアミノ酸によりN-および/またはC末端方向に単に伸長したものである。
【0038】
本発明の融合ペプチドまたはポリペプチドは、本発明のペプチドの生成のために、本明細書に記載される方法に従って生成または単離できる。
【0039】
より好ましい態様において、さらなるペプチドはタグ、シグナルペプチド、抗原性決定基またはサイトカインなどの治療的に活性なペプチドである。本発明のペプチドに融合し得る適切なポリペプチドは、例えば本発明のペプチドの可溶性を増加および/または精製を容易にし得るポリペプチドである。
【0040】
ペプチドを組換え法により生成した場合、タグは精製目的のために機能し得る。これに関して例示的なタグは、当該技術分野で公知の6xHisタグ、HAタグまたはFLAGタグである。一方で、タグは、タグが結合する特定の抗原を細胞が発現している器官または組織に対して、本発明のペプチドを標的化するためにも使用できる。従って、タグは、例えばレセプターに対するペプチドリガンドであり得る。抗原性決定基は、抗体親和性カラムを介した融合ペプチドの精製を可能にする。
【0041】
シグナルペプチドは、これが結合するペプチドまたはタンパク質を、種々の細胞区画または細胞外空間に指向し得る短いアミノ酸配列である(例えば、核に指向するシグナルペプチドについてLusk et al., 2007参照)。
【0042】
さらにより好ましい態様において、本発明のペプチドは、リンカーを介して前記さらなるペプチドまたはポリペプチドに融合する。
【0043】
本発明に関連するリンカーは、本発明のペプチドと他のペプチドまたはポリペプチドを連結するために使用される。リンカーは、本発明のペプチドと他のペプチドまたはポリペプチドを物理的に分離するため、および本発明のペプチドまたは(1つまたは複数の)他のペプチドもしくは(1つまたは複数の)ポリペプチドのいずれもが互いに近位にあることで機能を制限されないことを確実にするために機能する。他方のペプチドまたはポリペプチドに応じて、リンカーはペプチド結合、アミノ酸、適切な長さのペプチドまたは所望の特性を提供する種々の分子であり得る。当業者は、自身の常識に基づいて適切なリンカー分子、特にリンカーペプチドの設計方法がわかる。例えば、LIP(Loop in Proteins)データベース(Michalsky et al., 2003)からペプチドリンカーを選択することができる。リンカーはN-またはC末端に付加され得るか、適当とみなされる場合、本発明のペプチドの末端アミノ酸から離れたアミノ酸に付加され得る。好ましくは、リンカーはN末端に位置する。
【0044】
より好ましい態様において、リンカーはリジン、グリシン、セリン、エーテル、エステルまたはジスルフィドである。
【0045】
別の態様において、本発明は、(別のペプチドまたはポリペプチドに融合した)本発明のペプチドまたは融合ペプチドをコードする核酸分子に関する。
【0046】
本発明によれば用語「ポリヌクレオチド」と交換可能に使用される用語「核酸分子」としては、cDNAまたはゲノムDNAなどのDNAおよびRNAが挙げられる。さらに、合成または半合成のDNAもしくはRNAの誘導体および混合ポリマーなど、当該技術分野で公知の核酸模倣分子が含まれる。本発明のかかる核酸模倣分子または核酸誘導体としては、ホスホロチオエート核酸、ホスホルアミデート核酸、2'-O-メトキシエチルリボ核酸、モルホリノ核酸、ヘキシトール核酸(HNA)およびロックト核酸(LNA)が挙げられる(Braasch and Corey, Chem Biol 2001 , 8: 1参照)。LNAは、2'酸素と4'炭素環の間でリボース環がメチレン結合したRNA誘導体である。当業者に容易に理解されるように、核酸分子にはさらなる非天然または誘導ヌクレオチド塩基が含まれ得る。
【0047】
本発明の目的には、ペプチド核酸(PNA)も適用され得る。ペプチド核酸は、ペプチド結合で結合した繰り返しN-(2-アミノエチル)-グリシン単位からなる主鎖を有する。プリンおよびピリミジン塩基はメチレンカルボニル結合により主鎖に結合する。
【0048】
好ましい態様において、核酸分子はDNAである。
【0049】
遺伝コードの縮重のために、1つより多くの核酸が本発明のペプチドをコードすることは当業者が容易に理解しよう。4種類の塩基からなる三つ組み塩基コードはそれぞれ20種類のタンパク質アミノ酸および停止コドンを指定するので、縮重が生じる。三つ組み中の塩基について43の可能性により、64個の可能なコドンがもたらされ、いくつかの縮重が存在することを意味する。結果的に、いくつかのアミノ酸は1つより多くの三つ組み、すなわち6個までの三つ組みによりコードされる。ほとんどの場合、三つ組み中の3番目の位置の変化により重複が生じる。これは、異なる配列を有するが、同じポリペプチドをコードする核酸分子が本発明の範囲内にあることを意味する。
【0050】
さらに、本発明は、本発明の核酸分子を含む(発現)ベクターに関する。
【0051】
好ましくは、該ベクターは、プラスミド、コスミド、ウイルス、バクテリオファージまたは、例えば遺伝子工学において慣用的に使用される別のベクターである。
【0052】
本発明の核酸分子は、いくつかの市販のベクターに挿入され得る。非限定的な例としては、pUCシリーズ、pBluescript(Stratagene)、pETシリーズの発現ベクター(Novagen)またはpCRTOPO(Invitrogen)、λgt11、pJOE、pBBR1-MCSシリーズ、pJB861、pBSMuL、pBC2、pUCPKS、pTACT1などの原核生物プラスミドベクター、ならびにpREP(Invitrogen)、pCEP4(Invitrogen)、pMC1neo(Stratagene)、pXT1(Stratagene)、pSG5(Stratagene)、EBO-pSV2neo、pBPV-1、pdBPVMMTneo、pRSVgpt、pRSVneo、pSV2-dhfr、pIZD35、Okayama-Berg cDNA発現ベクターpcDV1(Pharmacia)、pRc/CMV、pcDNA1、pcDNA3(Invitrogene)、pSPORT1(GIBCO BRL)、pGEMHE(Promega)、pLXIN、pSIR(Clontech)、pIRES-EGFP(Clontech)、pEAK-10(Edge Biosystems)pTriEx-Hygro(Novagen)およびpCINeo(Promega)などの哺乳動物細胞中の発現に適合性のベクターが挙げられる。ピキア・パストリスに適切なプラスミドベクターの例には、例えば、プラスミドpAO815、pPIC9KおよびpPIC3.5K(全てInvitrogen)が含まれる。
【0053】
上述の本発明の核酸分子は、別の核酸分子との翻訳融合が生成されるようにベクターに挿入されてもよい。他方の核酸分子は、例えば本発明の核酸分子にコードされるタンパク質の溶解度を増加し得るおよび/または精製を容易にし得るタンパク質をコードし得る。非限定的な例としては、pET32、pET41、pET43が挙げられる。さらに、他方の核酸分子は、宿主細胞に有害であるかまたは宿主細胞を殺傷する本発明の抗菌ペプチドの毒性の補償を可能にするペプチドまたはタンパク質をコードし得る(下記参照)。
【0054】
また、ベクターは、正確なタンパク質の折り畳みを容易にするための1つ以上のシャペロンをコードするさらなる発現性ポリヌクレオチドも含み得る。適切な細菌発現宿主には、例えばBL21由来の菌株(例えばBL21(DE3)、BL21(DE3)PlysS、BL21(DE3)RIL、BL21(DE3)PRARE)またはRosetta(登録商標)が含まれる。
【0055】
ベクター改変技術については、Sambrook and Russel(2001)を参照。一般的に、ベクターは、1つ以上の複製起点(ori)およびクローニングおよび発現のための遺伝システム、宿主中の選択のための1つ以上のマーカー、例えば抗生物質耐性、ならびに1つ以上の発現カセットを含み得る。適切な複製起点としては、例えばCol E1、SV40ウイルス性およびM 13複製起点が挙げられる。
【0056】
ベクターに挿入されるコーディング配列は、例えば標準的な方法により合成できるか、または天然供給源から単離できる。転写制御エレメントおよび/または他のアミノ酸コード配列へのコーディング配列のライゲーションは、従来の方法を用いて実施できる。原核生物または真核生物の細胞中の発現を確実にする転写制御エレメント(発現カセットの一部)は、当業者に周知である。これらのエレメントには、転写の開始を確実にする制御配列(例えば、翻訳開始コドン、プロモーター、エンハンサーおよび/またはインシュレーター)、内部リボソーム侵入部位(IRES)(Owens et al, 2001)、ならびに任意に転写の終結および転写産物の安定化を確実にするポリAシグナルが含まれる。さらなる制御エレメントとしては、転写ならびに翻訳エンハンサー、および/または天然で結合しているまたは異種由来のプロモーター領域が挙げられ得る。好ましくは、本発明の核酸分子は、原核生物または真核生物の細胞中での発現を可能にするかかる発現調節配列に作動可能に連結される。さらに、ベクターはさらなる制御エレメントとしてシグナルペプチドをコードするヌクレオチド配列を含み得る。かかる配列は当業者に周知である。さらに、使用する発現系に応じて、発現したポリペプチドを細胞区画に指向し得るリーダー配列が、本発明の核酸分子のコーディング配列に付加され得る。かかるリーダー配列は当該技術分野で周知である。特異的に設計されたベクターは、細菌-真菌細胞または細菌-動物細胞などの異なる宿主間のDNAのシャトリングを可能にする。
【0057】
好ましくは、ベクターは発現ベクターである。
【0058】
本発明の発現ベクターは、本発明の核酸分子およびそれにコードされるペプチド、融合ペプチドまたは融合ポリペプチドの複製および発現を指向し得る。適切な発現ベクターは上述される。
【0059】
本明細書において上記の本発明の核酸分子は、細胞への直接導入またはリポソーム、ファージベクターもしくはウイルスベクター(例えば、アデノウイルス、レトロウイルス)を介した導入のために設計され得る。さらに、バキュロウイルス系またはワクシニアウイルスもしくはセムリキ森林熱ウイルスに基づいた系を、本発明の核酸分子の真核生物発現系におけるベクターとして使用できる。レトロウイルス、ワクシニアウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルスまたはウシパピローマウイルスなどのウイルス由来の発現ベクターを、標的細胞集団中へのポリヌクレオチドまたはベクターの輸送に使用し得る。組換えウイルスベクターを構築するために当業者に周知の方法を使用できる;例えば、Sambrook, 2001およびAusubel, 2001に記載される技術を参照。
【0060】
典型的な(哺乳動物)発現ベクターは、mRNAの転写の開始を媒介するプロモーターエレメント、タンパク質コーディング配列、ならびに転写の終結および任意に転写産物のポリアデニル化に必要なシグナルを含む。さらに、複製起点、薬剤耐性遺伝子、調節因子(誘導性プロモーターの一部として)も含まれ得る。さらなるエレメントとしては、エンハンサー、Kozak配列ならびにRNAスプライシングのためのドナー部位とアクセプター部位の間にある介在配列が挙げられ得る。哺乳動物細胞における非常に効率的な転写および/または翻訳は、SV40由来の初期および後期プロモーター、レトロウイルス、例えばRSV、HTLVI、HIVI由来の長末端反復配列(LTR)、ならびにサイトメガロウイルス(CMV)の初期プロモーターにより達成され得る。しかし、細胞エレメントおよび他のウイルスプロモーター(例えば、ヒトアクチンプロモーター、ニワトリβアクチンプロモーター、CAGプロモーター(ニワトリβアクチンプロモーターとサイトメガロウイルス直前エンハンサーの組合せ)、gai10プロモーター、ヒト伸長因子1αプロモーター、CMVエンハンサー、CaMキナーゼプロモーター、オートグラファ・カリフォルニカ(Autographa californica)多核体病ウイルス(AcMNPV)多角体プロモーターまたはグロビンイントロン)を使用することもできる。酵母での発現を可能にする制御エレメントの例は、AOX1またはGAL1プロモーターである。dhfr、gpt、G418、ネオマイシンまたはハイグロマイシンなどの選択マーカー遺伝子とのコトランスフェクションにより、トランスフェクトされた細胞の同定および単離が可能になる。トランスフェクトされた核酸を増幅して大量のコード(ポリ)ペプチドを発現させることも可能である。DHFR(ジヒドロ葉酸レダクターゼ)マーカーは、数百〜数千の目的の遺伝子のコピーを保持する細胞株を開発するために有用である。別の有用な選択マーカーは酵素グルタミンシンターゼ(GS)である(Murphy et al. 1991;Bebbington et al. 1992)。
【0061】
これらのマーカーを使用して、選択培地中で哺乳動物細胞を増殖させ、最も高い耐性を有する細胞を選択する。大腸菌および他の細菌中の培養に適したマーカーはテトラサイクリン、カナマイシンまたはアンピシリン耐性遺伝子である。
【0062】
原核生物宿主細胞中での発現を可能にする可能な制御エレメントには、例えば大腸菌のlac、trpまたはtacプロモーター、lacUV5またはtrpプロモーターが含まれる。
【0063】
転写の開始に寄与するエレメントの他に、制御エレメントは、SV40-ポリA部位またはtk-ポリA部位またはSV40、lacZおよびAcMNPV多角体ポリアデニル化シグナルなどの転写終結シグナルもポリヌクレオチドの下流に含み得る。
【0064】
また、本発明は、本発明のベクターを含み、細胞培養状態で増殖し得る宿主細胞に関する。
【0065】
適当な原核生物宿主細胞には、例えば、エシェリキア属、ストレプトミセス属、サルモネラ属またはバチルス属の細菌が含まれる。原核生物宿主細胞が使用される場合、本発明のベクターは、好ましくは、発現されたペプチド単独が前記原核生物細胞に毒性であり得る場合の本発明の融合ペプチドまたは融合ポリペプチドを含むことに注意されたい。これは、特に、LPSを発現する原核生物宿主細胞にあてはまる。
【0066】
適当な真核生物宿主細胞は、例えば、サッカロミセス・セレヴィシエまたはピキア・パストリスなどの酵母である。発現に適した昆虫細胞は、例えば、Drosophila S2またはSpodoptera Sf9細胞である。本発明のペプチドが充分な量で発現できるためには、好ましくは融合ペプチドまたは融合ポリペプチドは、本発明のペプチド単独の発現が宿主細胞に毒性であり得る場合の本発明のベクターにコードされる。これは、当業者により、試験発現などの常套的なバイオテクノロジー法を用いて容易に決定され得る。
【0067】
使用され得る哺乳動物宿主細胞としては、ヒトHela、HEK293、H9およびジャーカット細胞、マウスNIH3T3およびC127細胞、COS 1、COS 7およびCV1、ウズラQC1-3細胞、マウスL細胞、ボーイー黒色腫細胞ならびにチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞が挙げられる。また、一次哺乳動物細胞または細胞株は本発明の範囲に含まれる。一次細胞は、生物から直接得られた細胞である。適当な一次細胞は、例えば、マウス胚性線維芽細胞(MEF)、マウス一次肝細胞、心筋細胞および神経細胞ならびにマウス筋肉幹細胞(衛星細胞)およびこれに由来する安定で不死化された細胞株である。あるいは、本発明の組換えタンパク質は、染色体内に組み込まれた遺伝子構築物を含む安定な細胞株において発現され得る。上記の宿主細胞に適した培養培地および条件は当該技術分野で公知である。
【0068】
あるいは、宿主細胞は単離された細胞である。かかる細胞は、多細胞生物の組織から単離されているか、または原生動物を構成している。真核生物細胞の場合、本発明の宿主細胞は、通常これがみられる組織から分離されている。細胞培養状態で、好ましくは細胞培養液中に見られる細胞は、本発明に従って単離された細胞である。上記のように、宿主細胞内に存在する、または発現される本発明のベクターは、好ましくは、ペプチド単独が宿主細胞に毒性であり得る場合に、宿主細胞に対する本発明のペプチドの潜在的な毒性効果を代償し得るペプチドまたはポリペプチドをコードする核酸分子に融合された本発明のペプチドをコードする核酸分子を含む。
【0069】
さらなる態様において、本発明は、本発明の宿主細胞を培養する工程および生成されたペプチドを収集する工程を含む、本発明のペプチドの作製方法に関する。
【0070】
適切な宿主内でペプチドを生成させるための適当な方法が当該技術分野に多数存在する。宿主が原核生物または哺乳動物または昆虫細胞などの単細胞生物である場合、当業者は、種々の培養条件を思い起こすことができる。簡便には、生成されたタンパク質は、確立された技術によって、培養培地、培養細胞の溶解物から、または単離された(生体)膜から回収される。好ましい方法は、PCRによる核酸配列の合成およびその発現ベクター内への挿入を伴う。続いて、適当な宿主細胞に、発現ベクターを用いてトランスフェクトまたは形質転換などが行なわれ得る。その後、宿主細胞を培養して所望のペプチドを産生させ、これを単離および精製する。
【0071】
上記の宿主細胞に適した培養培地および条件は当該技術分野で公知である。例えば、細菌を培養するのに適した条件は、Luria Bertani(LB)培地中での曝気下での培養である。発現産物の収量および可溶性を増大させるため、両方を向上させる、または助長することが知られた適当な添加剤で培地を緩衝化するか、または該添加剤を補給してもよい。大腸菌は、4〜約37℃で培養され得、厳密な温度または温度シーケンスは、過剰発現させる分子に依存する。また、一般に、当業者は、これらの条件が、宿主の必要条件および発現されたペプチドまたはタンパク質の要件に適合させなければならないかもしれないことを承知している。誘導性プロモーターによって宿主細胞内に存在するベクター内の本発明の核酸を制御する場合、ポリペプチドの発現は、適切な誘導剤の添加によって誘導され得る。適当な発現プロトコルおよびストラテジーは当業者に公知である。
【0072】
細胞型およびその具体的な要件に応じて、哺乳動物細胞培養は、例えば、10%(v/v)FCS、2mMのL-グルタミンおよび100U/mlペニシリン/ストレプトマイシンを含有するRPMIまたはDMEM培地中で行なわれ得る。細胞は、5%CO2、水飽和雰囲気中、37℃で維持され得る。
【0073】
昆虫細胞培養に適した培地は、例えば、TNM + 10%FCSまたはSF900培地である。昆虫細胞は、通常、27℃で、接着または懸濁培養物として培養する。真核生物細胞のための適当な発現プロトコルは当業者に周知であり、例えば、Sambrook、2001から検索され得る。
【0074】
上記のように、本発明のペプチドを宿主細胞内で生成させる場合、発現ベクターは、好ましくは、生成されたペプチドが選択した宿主細胞に毒性活性を奏する場合の融合ペプチドまたは融合ポリペプチドをコードする。これは、特に、LPSを産生する細菌にあてはまる。
【0075】
発現された融合ペプチドまたは融合ポリペプチドは、本発明のペプチドに融合された代償性だが不要なペプチドまたはポリペプチドを切断するために処理しなければならない。これは、宿主細胞培養後の精製プロセスの任意の段階で行なわれ得る。不要な部分を切除するための適当な方法は、例えば、メチオニン残基において切断する臭化シアンまたはトリプトファン残基において切断するN-クロロスクシンイミドのいずれかを使用する化学的方法である。あるいは、一般に化学的方法よりも穏やかな酵素的方法が使用され得る。切断に適した例示的なプロテアーゼは、特定のアミノ酸配列に特異的であり、第Xa因子またはTEVプロテアーゼが挙げられる。
【0076】
本発明のペプチドを作製するための代替的な方法は、mRNAのインビトロ翻訳である。本発明による使用に適した無細胞発現系としては、ウサギ網状赤血球溶解物、小麦抽出物、イヌ膵臓ミクロソーム膜、大腸菌S30抽出物、およびTNT-系(Promega)などの転写/翻訳カップリング系が挙げられる。これらの系では、コード領域および適切なプロモーターエレメントを含むクローニングベクター、DNA断片またはRNA配列を添加すると、組換えペプチドまたはタンパク質の発現が可能である。
【0077】
生成されたペプチドの単離方法は当該技術分野で周知であり、限定されないが、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー(サイズ排除クロマトグラフィー)、アフィニティークロマトグラフィー、高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)、逆相HPLC、ディスクゲル電気泳動または免疫沈降などの方法工程を含む(例えば、Sambrook、2001参照)。
【0078】
さらに、本発明は、本発明のペプチドもしくは融合ペプチド(すなわち、別のペプチドもしくはポリペプチドに融合された本発明のペプチド)、本発明の方法によって作製されるペプチドもしくは融合ペプチド、本発明の核酸分子、本発明の発現ベクターまたは本発明の宿主細胞を含む医薬組成物に関する。
【0079】
本発明によれば、用語「医薬組成物」は、患者、好ましくはヒト患者への投与のための組成物に関する。本発明の医薬組成物は、好ましくは、本発明のペプチドを含む。これは、任意に、本発明のペプチドの特性を改変し、それにより、例えば、その機能を安定化、調節および/または活性化し得るさらなる分子を含み得る。該組成物は、固体、液体または気体形態であり得、とりわけ、粉末剤(1つもしくは複数)、錠剤(1つもしくは複数)、液剤(1つもしくは複数)またはエーロゾル剤(1つもしくは複数)の形態であり得る。本発明の医薬組成物は、任意に、およびさらに、薬学的に許容され得る担体を含み得る。「薬学的に許容され得る担体」により、無毒性で固体、半固体または液体の任意の型の充填剤、希釈剤、カプセル化材料または製剤化助剤を意図する。適当な医薬用担体の例は当該技術分野で周知であり、リン酸緩衝生理食塩水、水、油/水エマルジョンなどのエマルジョン、種々の型の湿潤剤、滅菌溶液、例えばDMSOなどの有機溶媒が挙げられる。かかる担体を含む組成物は、周知の従来法によって製剤化され得る。これらの医薬組成物は、適当な用量で被検体に投与され得る。投薬計画は、担当医師および臨床因子によって決定される。医学分野では周知のように、任意の一患者に対する投薬量は、多くの因子、例えば、患者の体格、体表面積、年齢、投与される具体的な化合物、性別、投与の期間および経路、一般健康状態、および併用投与されている他の薬物に依存する。所定の状況での治療有効量は、常套的な実験によって容易に決定され、通常の臨床医または医師の技能および判断の範囲内である。一般的に、医薬組成物の定期的な投与としての計画は、1μg〜5g単位/日の範囲内であるべきである。しかしながら、より好ましい投薬量は、0.01mg〜100mgの範囲、さらにより好ましくは0.01mg〜50mg、最も好ましくは0.01mg〜10mg/日であり得る。
【0080】
本発明の医薬組成物は、例えば、全身、局所または非経口投与され得る。用語「非経口」は、本明細書で使用される場合、静脈内、筋肉内、腹腔内、胸骨内、皮下および関節内注射ならびに注入を含む投与様式をいう。
【0081】
さらなる態様において、本発明は、感染性疾患、癌または乾癬を治療するための本発明のペプチドまたは融合ペプチド、本発明の核酸分子、発現ベクターまたは宿主細胞に関する。
【0082】
感染性疾患は、病原性微生物因子、例えば、ウイルス、細菌、真菌、原生動物、多細胞寄生虫、およびプリオンとして知られる異常タンパク質の存在によって生じる臨床的に明白な疾患である。これらの病原体は、動物および/または植物において疾患を引き起こし得る。
【0083】
感染性の病状は、通常、ある人または種から別の人または種に伝染する潜在性のため、伝染性疾患(伝染力がある疾患とも称される)とみなされる。感染性疾患の伝染は、種々の経路の1つ以上、例えば、感染個体との身体的接触によって起こり得る。これらの感染因子はまた、液体、食物、体液、汚染物、空気媒介吸入またはベクター媒介伝播を介しても伝染し得る。
【0084】
ほぼ無限にある種々の微生物のうち、比較的少数は、該微生物がなければ健常である個体において疾患を引き起こす。感染性疾患は、該少数の病原体と感染した宿主の防御間の相互作用によって生じる。任意の病原体によって生じた疾患の出現および重症度は、該病原体が宿主を障害する能力ならびに宿主が病原体に抵抗する能力に依存する。したがって、感染性微生物(microorganism/microbe)は、宿主の防御状態に従って一次病原体または日和見性病原体に分類される。
【0085】
一次病原体は、正常な健常宿主内における存在または活性の結果として疾患を引き起こし、その固有の感染力(引き起こされる疾患の重症度)は、一部、再生および伝播に必要な結果である。ヒトの最も一般的な一次病原体の多くは、ヒトのみに感染するが、多くの重篤な疾患は、環境から取得された、または非ヒト宿主に感染した生物によって引き起こされる。
【0086】
所定の疾患が「感染性」となる様式の1つは、感染性因子が患者にのみ同定され、健常対照では同定されないこと、および該因子に接触した患者も疾患を発症することが必要とされるコッホの仮説(Robert Kochによって最初に提唱)を満足することである。これらの仮説は、最初に、ミコバクテリウム種によって結核が引き起こされるという知見において使用された。コッホの仮説は、純粋培養物として生成させた病原体に健常個体を実験的に感染させることが必要とされるため、倫理的理由により、多くのヒト疾患では評価することができない。多くの場合、かなり明白に感染性である疾患であっても感染性基準を満たさない。例えば、梅毒の原因スピロヘータである梅毒トレポネーマはインビトロで培養することができない。しかしながら、該生物はウサギ精巣内では培養され得る。平板培養物に由来する微生物から得る場合よりも、宿主として使用した動物供給源からの方が純粋培養物が得られることはあまり明白ではない。疫学は、集団の疾患を試験するために使用される別の重要なツールである。感染性疾患の場合、疫学は疾患の流行が、散発性(偶発的発生)、地方病性(多くの場合、一地域で発生する一般的な症例)、流行性(一地域における異常な多数の症例)、または汎発流行性(世界的流行性)であるかどうかの判定を補助する。
【0087】
癌は、本発明によれば、無制御な細胞分裂およびこれらが、浸潤による隣接組織内への直接増殖、または転移(この場合、癌細胞は、血流もしくはリンパ系によって輸送される)による遠位部位内への移植のいずれかによって伝播する能力を特徴とする疾患または障害の種類をいう。癌は、とりわけ、ウイルスなどの病原体によって引き起こされ得、例えば、頸部癌は、HPVによって引き起こされる。
【0088】
より好ましい態様において、感染性疾患は細菌感染引き起こされる。
【0089】
本発明による細菌感染としては、限定されないが、細菌性髄膜炎、コレラ、ジフテリア、リステリア症、百日咳(pertussis/whooping cough)、肺炎球菌性肺炎、サルモネラ症、破傷風、発疹チフスまたは尿路感染症が挙げられる。また、1種類以上の一般的に適用される抗生物質に耐性である細菌、例えば、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)も挙げられる。
【0090】
さらにより好ましい態様において、感染性疾患はセプシスである。
【0091】
セプシスは、感染によって引き起こされる全身炎症状態を特徴とする重篤な病状である。
【0092】
セプシスは、血液または組織中の種々の病原性生物またはその毒素の存在と広く定義されている。セプシスという用語は、しばしば、敗血症(血液中毒)を示すのに使用され、敗血症はセプシスの唯一の型である。菌血症は、具体的に、血流中の細菌の存在をいう(ウイルス血症および真菌血症は、ウイルスおよび真菌での同様の用語である)。
【0093】
感染の誘発に関連する症状に加え、セプシスは、全身に存在する急性炎症の徴候を特徴とし、したがって、しばしば発熱および白血球数の上昇(白血球増加症)と関連している。現代のセプシスの概念は、感染に対する宿主の免疫応答によってセプシスの症状のほとんどが引き起こされ、血行力学的な結果および臓器に対する損傷がもたらされるということである。この宿主の応答は、全身性炎症性応答症候群(SIRS)と称され、血行力学的障害およびその結果の代謝障害を特徴とする。
【0094】
この免疫学的応答により、急性期タンパク質の広範な活性化が引き起こされ、補体系および凝固経路に影響を及ぼし、次いで、血管構造ならびに器官に対する損傷が引き起こされる。次いで、種々の神経内分泌系の反調節系も活性化され、しばしば問題が悪化する。迅速かつ集中的に治療した場合であっても、これは、多臓器不全症候群に進行し得、最終的に死亡することもある。
【0095】
別のより好ましい態様において、感染性疾患はウイルス感染によって引き起こされる。
【0096】
本発明によるウイルス感染としては、α-、β-、γ-およびδレトロウイルス(例えば、ヒトT-リンパ球向性ウイルス)などのレトロウイルス、スプマウイルス、レンチウイルス(例えば、ヒト免疫不全ウイルス(HIV))、HPVなどのパピローマウイルス、B型およびC型肝炎ウイルス、ならびにエプスタイン・バールなどのヘルペスウイルスによって引き起こされるものが挙げられる。
【0097】
また、本発明は、本発明のペプチド、本発明の方法によって作製されるペプチド、本発明の核酸分子、本発明の発現ベクターまたは本発明の宿主細胞を含むキットに関する。
【0098】
キットの種々の成分は、1つ以上のバイアルなどの1つ以上の容器にパッケージングしてもよい。バイアルは、該成分に加えて、保存料または保存用バッファーを含んでいてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】図1は、ヒト単核細胞においてLPS誘導性サイトカイン発現を阻害する線状ペプチドPep12、17-1および19-1の比較である。IPep19-1は、最も強くLPS誘導性サイトカイン生成を阻害する。
【図2】図2は、環状ペプチドと線状ペプチドの比較により、ペプチドのアミドI-バンドの評価によって得られた異なる二次構造が示された図である。
【図3】図3は、等温滴定熱量測定によって測定されたLPSへのIPep19-2の結合である。
【図4】図4は、FTIR実験によるIPep19-2(図4A)およびIPep17-1(図4B)の存在下でのLPSの炭化水素鎖のゲルから液晶への相転移である。
【図5】図5は、20℃および50℃におけるLPS Ra:Pep19-2混合物の小角X線散乱(SAXS)パターンである。
【図6】図6は、リポソーム内へのペプチドおよびペプチド+LPSのインターカレーションを示す標識PSリポソームのFRET実験である。
【図7】図7は、LDH(ラクトデヒドロゲナーゼ)の流出としての腫瘍細胞(PC3 = 前立腺癌細胞)に対するいくつかのペプチドの作用である。
【図8】図8は、AMPであるPep19-2、-4、6および8の1、5、10および20μg/mlのペプチド濃度における抗HIV作用である。T細胞株におけるウイルス複製阻害%をペプチド濃度に対してプロットし、ペプチドPep19-5および19-8では20μg/mlにおいて99%阻害を示す。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0100】
実施例により本発明を説明する。
【0101】
実施例1:ペプチド合成
上記の配列を有する線状ペプチドを、アミド化C末端を使用し、固相ペプチド合成技術によって自動ペプチド合成装置において、標準的なFmoc-アミド樹脂上で製造業者のfastmoc合成プロトコルに従って合成した。N末端Fmoc基をペプチド-樹脂から除去し、90%トリフルオロ酢酸(TFA)、5%アニソール、2%チオアニソール、3%ジチオトレイトールでペプチドを室温で3時間脱保護および切断した。切断後、懸濁液を濾過し、氷冷ジエチルエーテルを用いて可溶性ペプチドを沈殿させた後、遠心分離およびエーテルでの充分な洗浄を行なった。Aqua-C18カラム(Phenomenex)を使用し、RP-HPLCによってペプチドを精製した。溶出は、0.1%(TFA)中0〜70%のアセトニトリルの勾配を使用することにより行なった。次いで、ペプチドを逆相HPLCによって再度精製し、95%より高い純度にした。純度は、マトリックス支援レーザー脱離飛行時間型質量分析(MALDI-TOF MS、Bruker)によって測定した。
【0102】
実施例2:ヒト単核細胞のサイトカイン分泌
ヒト単核細胞(MNC):健常ドナーから得たヘパリン処理(20IU/ml)血液を、等容量のハンクスの平衡溶液と混合し、Ficoll上に重層し、40分間遠心分離した(21℃、500g)。MNCの中間期層を収集し、ハンクス培地で2回洗浄し、次いで、2mMのL-グルタミン、100U/mlのペニシリン、および100μg/mlのストレプトマイシンを加えたRPMI 1640中に再懸濁した。MNC(200μl/ウェル;5x106細胞/ml)を96ウェル培養プレート内に移した。LPS(100ng/mlまたは10ng/ml)およびGra-pep(10:1重量%過剰)を含む混合物20マイクロリットルを、各ウェルに添加した。5%CO2下37℃で4時間のインキュベーション後、上清みを回収し、サンドイッチ-ELISAにおいてTNFα生成を測定した。TNFαは、2つの異なる希釈物で2回測定し、2つの独立した実験値を平均した。
【0103】
実施例3:フーリエ変換赤外分光法(FTIR)
赤外分光測定のため、12.5μMのテフロンスペーサーを有するCaF2キュベット内に脂質試料を入れた。0.6℃/分の加熱速度で10〜70℃で温度スキャンを自動で行なった。3℃ごとに、50インターフェログラムを蓄積し、アポディゼーションし、フーリエ変換し、吸光度スペクトルに変換した。強い吸収バンドについては、バンドパラメータ(ピーク位置、バンド幅、および強度)は、元のスペクトルから、または必要であれば強い水のバンドを差し引いた後に評価される。解析に使用される主要な振動バンドは、2850cm-1あたりに存在するメチレン基の対称な伸縮振動vs(CH2)であり、脂質A鎖の秩序の尺度である。ペプチドの二次構造の測定には、1700〜1600cm-1の範囲のアミドI振動(vbrational)バンドが使用される。
【0104】
実施例4:等温滴定熱量測定(ITC)
内毒素に結合するペプチドの微量熱量測定を、37℃でMCS等温滴定熱量測定装置において行なった。簡単には、超音波処理による懸濁液の充分な脱気後、1.5mlの内毒素試料(0.05mM)を微量熱量測定セル内に分注し、100μlのペプチド溶液(2mM)をシリンジ区画内に充填した。温度平衡後、ペプチド(3μl)を、5分ごとに、脂質を含む一定攪拌下のセル内で滴定した。各注入後にITC装置によって測定された相互作用熱を時間に対してプロットした。滴定曲線を3回繰り返した。
【0105】
実施例5:小角X線回折
X線回折測定は、Hamburgシンクロトロン放射施設HASYLABのEuropean Molecular Biology Laboratory(EMBL)支所において、SAXSカメラX33を用いて行なわれた。散乱ベクトル0.1<s<1.0nm-1(s = 2 sinθ/λ、2θ散乱角およびλ波長 = 0.15nm)の範囲の回折パターンを、オンライン読取器を有する画像プレート検出装置(MAR345、MarResearch、Norderstedt/Germany)を使用し、1分間の曝露時間で40℃で記録した。58.4nmの周期数を有するベヘン酸Agを用いてs軸を較正した。回折パターンは、主な散乱極大の空間比を規定の3次元構造に帰属させることにより評価され得る。層状構造および立方構造は、本明細書において最も重要である。これらは、以下の特色を特徴とする。
【0106】
(1)層状:反射は、層の反復距離dlの等距離比、すなわち、1、1/2、1/3、1/4などで分類される;
(2)立方:これらの非層状3次元構造の異なる空間群は、その空間比が異なる。逆格子面間隔shkl = 1/dhklと格子定数aとの関係は、
shkl = [(h2 + k2+l2)/a]1/2
(hkl = 対応する面の組のミラー指数)である。
【0107】
図5は、20℃および50℃におけるLPS Ra:Pep19-2混合物の小角X線散乱(SAXS)パターンを示す。得られた小角X線散乱パターンは、等距離比で存在する反射の存在からわかるLPSの多層状凝集構造の存在に特徴的なものである。したがって、20℃において、ある周期数は4.88nmにおける二次反射を伴って9.71に存在し、別の周期数は、3.84nmにおける二次反射を伴って7.63に存在し、主要な周期数は、2.94および1.96nmに2つの高次反射を伴って5.84nmに存在する。第1の周期数は、ほぼ影響を受けない純粋なLPS R60の周期数に相当するが、より小さい値の2つのさらなる周期数は、強く圧縮された層状積層体を示し、これにより、大きく低下したLPSの生体活性が明らかになる。
【0108】
50℃では、乱されていないLPSの周期数は消失し、圧縮された層を有する2つの多層状積層体だけが残る。
【0109】
実施例6:蛍光共鳴エネルギー転移分光法(FRET)
リポソーム内へのペプチドおよびLPS Reのインターカレーションを、プローブ希釈アッセイとして適用したFRET 分光法によって調べた。リポソームは、ドナー色素NBD-ホスファチジルエタノールアミン(NBD-PE)およびアクセプター色素ローダミン-PEで標識した。次いで、脂質の後ペプチド(またはその逆)を終濃度1μMでリポソームに添加した。インターカレーションを、593nmにおけるアクセプター強度IAに対する531nmにおけるドナー強度IDの比率の増加(FRETシグナル)として、時間依存的様式でモニターした。
【0110】
実施例7:ペプチドの抗菌活性
Mueller-Hinton培養液中で行なわれるミクロ希釈感受性アッセイにより、ペプチドの抗菌活性を測定した。感受性試験は、Clinical Standards Institute(CLSI、以前はNCCLS)[Standards、2000]の推奨に従って行なった。ペプチド(4mMのHEPES中2mg/ml、pH7.2)を、96ウェルマイクロタイタープレート内のMueller-Hinton Broth中で2倍に希釈し、100μlの容量中、512〜0.25μg/mlの濃度を得た。細菌をMueller-Hinton寒天プレート上で、細菌の増殖速度に応じて1〜3日間培養し、2mlの0.9%生理食塩水中に懸濁し、108CFU/mlに調整した。細菌懸濁液をMueller-Hinton培養液中で100倍希釈し、この新たな希釈物(105CFU)の0.1mlをペプチド希釈物に添加した。マイクロタイタープレートを37℃で24時間インキュベートした。所定の細菌株に対する各ペプチドの最小阻害濃度(MIC)は、接種の24時間後において該生物の増殖が抑制される該ペプチドの最小濃度とした。該ペプチドの殺菌効果は、37℃で24時間のインキュベーション後、曇っていないウェルの内容物10μlをMueller-Hinton寒天プレート上に平板培養することにより測定した。プレートを37℃で1〜5日間インキュベートし、生存可能数の計測を行なった。所定の細菌株での各ペプチドの最小殺菌濃度(MBC)は、最終接種物中に存在する99.9%のコロニー形成単位(CFU)を殺菌する該ペプチドの最小濃度とした。
【0111】
実施例8:内毒素性の動物モデル
大腸菌ATCC 35218および緑膿菌PAO1の野生型LPSを、水-フェノール抽出物の水相から得、カオトロピー剤および洗剤での処理によって精製した。
【0112】
体重20〜23gの雌ICR(CD-1)マウスを無作為に実験群(n=16)分けた。Galanos et alの方法に従い、LPSとガラクトサミンの共接種によって動物に内毒素性ショックを誘導した。具体的には、各動物に、200μlの内毒素無含有生理食塩水中に再懸濁した0.3μgのLPSおよび18mgのガラクトサミンの混合物を含む腹腔内注射を与えた。
【0113】
LPS投与直後、動物に、可溶化剤として10%ジメチルホルムアミドを含有する150μlの発熱源無含有生理食塩水中に再懸濁した150μgの試験ペプチドを腹腔内接種した。該ペプチドの治療作用を助長するため、このようにして治療したマウスの接種部位を数秒間優しくマッサージした。接種の6時間後および12時間後ならびに1日間隔で5日間動物の死亡率をモニタリングした。
【0114】
独立した各実験において、ある動物群には、周知の抗内毒素性を有するリポペプチドである150μgのポリミキシンBを含有する150μlの発熱源無含有生理食塩水を与えたが、別の群は未処理のままとした。すべての実験時点での動物の死亡率の結果を、カプラン・マイヤー生存率解析を用いて広域的に解析した。生存率プロットが平行な場合は、ログランク検定によってデータを比較したが、該プロットが交差する場合は、「ブレスロー・ゲハン・ウィルコクスン」で比較した。
【0115】
実施例9:
動物実験において、本発明の過程で見い出されたいくつかのペプチドを調べ、これまでIPep19系列のうち3種類が優れた活性を示したが、IPep17系列では、低い生存率増加が示された(表1のいくつかの実施例参照)。
【0116】

【0117】
明白な効果が観察され得るためにはLPS投薬量が非常に高かった(150ng)ことを強調しておかなければならない。また、用量の低減(50ng/動物)も行なった。このときは、17系列のペプチドはずっと有効であったことがさらに示され得た(結果は示さず)。
【0118】
さらに(Furtermore)、該ペプチドが関連細菌種の増殖を阻害する能力を調べた。
【0119】
本発明のペプチドの有効性が、以下の表2の3つの例に示されている(単位μg/ml)。
【0120】




表2:グラム陰性(大腸菌)、グラム陽性(S.アウレウス)菌株のMICおよびMBCの値(2回測定)、ならびに2つのMRSA菌株ならびにグラム陰性菌株S.マルトフィリアおよびA.バウマンニのMIC値。MIC = 最小阻害濃度、これは、さらなる増殖が観察されない濃度である;MBC = 最小殺菌濃度、細菌の増殖が阻害されるだけでなく、完全に不活化される濃度
【0121】
実施例10
腫瘍細胞に対する本発明によるいくつかのペプチドの活性を、PC3(前立腺癌)細胞を使用することにより試験した。測定パラメータとして、NADからNADHへの還元と関連しており、したがって細胞の損傷を示す乳酸ヒドロゲナーゼの放出をモニターした。この実験の結果を図7に示す。図7から、癌細胞株PC3の細胞損傷は、ペプチド濃度の増大に伴って増大することがわかる。
【0122】
実施例11
T細胞株(PM1)をHIV-1分離菌とともにインキュベートし、感染細胞をペプチド含有培地中で培養した。数日後、未処理細胞と比較してウイルスの数を測定した。ウイルスの数は、上清み中のHIV-キャプシドの濃度によって測定される。図8は、1、5、10、および20μg/mlのペプチド濃度におけるペプチドPep19-2、-4、6、および8の抗-HIV作用を示す。T細胞株におけるウイルス複製阻害%をペプチド濃度に対してプロットすると、20μg/mlのペプチドPep19-5および19-8で99%阻害が示される。
【0123】






【特許請求の範囲】
【請求項1】
17〜23個のアミノ酸からなる、または該アミノ酸を含む線状、非環状構造のペプチドであって、N末端から数えて1〜23位のアミノ酸が以下のとおり(1)G、Sまたは無し;(2)Cまたは無し;(3)KまたはR;(4)KまたはR;(5)Y、WまたはF;(6)KまたはR;(7)KまたはR;(8)F、WまたはL;(9)KまたはR;(10)KまたはLまたは無し;(11)W、LまたはF;(12)KまたはR;(13)F、YまたはC;(14)KまたはR;(15)GまたはQ;(16)KまたはR;(17)F、LまたはW;(18)FまたはW;(19)F、LまたはW;(20)WまたはF;(21)Cまたは無し;(22)FまたはGまたは無し(23)Gまたは無しであるペプチド。
【請求項2】
以下のアミノ酸配列


のいずれか1つを有する、請求項1記載のペプチド。
【請求項3】
さらなるペプチドまたはポリペプチドに融合された請求項1または2記載のペプチド。
【請求項4】
該さらなるペプチドがタグ、シグナルペプチドまたは抗原性決定基である、請求項3記載のペプチド。
【請求項5】
リンカーによって前記さらなるペプチドまたはポリペプチドに融合された、請求項3または4記載のペプチド。
【請求項6】
請求項1〜5いずれか1項に記載のペプチドまたは融合ペプチドをコードする核酸分子。
【請求項7】
請求項6記載の核酸分子を含む発現ベクター。
【請求項8】
請求項7記載のベクターを含み、細胞培養状態で増殖し得る宿主細胞。
【請求項9】
請求項8記載の宿主細胞を培養する工程、および生成されたペプチドを回収する工程を含む、請求項1〜5いずれか1項に記載のペプチドまたは融合ペプチドの作製方法。
【請求項10】
請求項1〜5いずれか1項に記載のペプチドまたは融合ペプチド、請求項9記載の方法によって作製されるペプチド、請求項6記載の核酸分子、請求項7記載の発現ベクターまたは請求項8記載の宿主細胞を含む医薬組成物。
【請求項11】
感染性疾患または癌を処置するための請求項1〜5いずれか1項に記載のペプチド、請求項9記載の方法によって作製されるペプチドまたは融合ペプチド、請求項6記載の核酸分子、請求項7記載の発現ベクターまたは請求項8記載の宿主細胞。
【請求項12】
感染性疾患が細菌またはウイルス感染によって引き起こされる、請求項11記載のペプチド。
【請求項13】
感染性疾患がセプシスである、請求項11または12記載のペプチド。
【請求項14】
請求項1〜5いずれか1項に記載のペプチドまたは融合ペプチド、請求項9記載の方法によって作製されるペプチドまたは融合ペプチド、請求項6記載の核酸分子、請求項7記載の発現ベクターまたは請求項8記載の宿主細胞を含むキット。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2011−520422(P2011−520422A)
【公表日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−503371(P2011−503371)
【出願日】平成21年4月7日(2009.4.7)
【国際出願番号】PCT/EP2009/002565
【国際公開番号】WO2009/124721
【国際公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(510267971)
【Fターム(参考)】