説明

新規有機化合物および発光素子および画像表示装置

【課題】 青色発光素子に用いるのに適した新規有機化合物とそれを有する有機発光素子を提供する。
【解決手段】 下記一般式(1)に示されるアセナフト[1,2−k]ベンゾ[e]アセフェナンスレン誘導体であることを特徴とする有機化合物。
【化1】


(1)
式(1)において、
またはRはそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、置換あるいは無置換のアルキル基、置換あるいは無置換のアルコキシ基、置換あるいは無置換のアミノ基、置換あるいは無置換のアリール基、置換あるいは無置換の複素環基から選ばれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規有機化合物に関する。そしてそれを有する有機発光素子と画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機発光素子は、陽極と陰極間に蛍光性有機化合物を含む薄膜を挟持させて、各電極から電子およびホール(正孔)を注入することにより、蛍光性化合物の励起子を生成させ、この励起子が基底状態にもどる際に放射される光を利用する素子である。
【0003】
有機発光素子は有機エレクトロルミネッセンス素子、あるいは有機EL素子と呼ばれたりもする。
【0004】
有機発光素子における最近の進歩は著しく、その特徴は低印加電圧で高輝度、発光波長の多様性、高速応答性、薄型、軽量の発光デバイス化が可能であることから、広汎な用途への可能性を示唆している。
【0005】
これまでに新規化合物の開発が盛んに行われている。
【0006】
新規化合物の創出が高性能の有機発光素子を提供するにあたり、重要であるからである。
【0007】
例えば、発光層の材料に用いる例が特許文献1乃至3に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平2−247278号公報
【特許文献2】特開平8−113576号公報
【特許文献3】特開平11−12205号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記特許文献に記載の有機化合物とそれを有する有機発光素子は実用化という観点からは改善の余地がある。
【0010】
具体的には実用化のためには更なる高輝度の光出力あるいは高変換効率が必要である。また、長時間の使用による経時変化や酸素を含む雰囲気気体や湿気などによる劣化等の耐久性の面で改善が必要である。
【0011】
さらにはフルカラーディスプレイ等への応用を考えた場合、求められる有機発光素子には色純度が良く、高効率の青の発光が必要となるが、これらの問題に関してもまだ十分でない。
【0012】
したがって特に色純度や発光効率、耐久性が高い有機発光素子及びそれを実現する材料が求められている。
【0013】
本発明は、上述したような従来技術の問題点を解決するためになされたものである。即ち本発明の目的は、より具体的には主として青色発光素子に用いるのに適した新規有機化合物とそれを有する有機発光素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
よって本発明は、
下記一般式(1)に示されるアセナフト[1,2−k]ベンゾ[e]アセフェナンスレン誘導体であることを特徴とする有機化合物を提供する。
【0015】
【化1】

【0016】
式(1)において、
またはRはそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、置換あるいは無置換のアルキル基、置換あるいは無置換のアルコキシ基、置換あるいは無置換のアミノ基、置換あるいは無置換のアリール基、置換あるいは無置換の複素環基から選ばれる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の新規化合物は優れた色純度と高効率発光を可能とし、それを有した有機発光素子は高効率で高輝度な発光を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る有機発光素子と、本発明に係る有機発光素子に電気信号を供給する手段とを模式的に示す図である。
【図2】画素に接続される画素回路と画素回路に接続される信号線と電流供給線とを模式的に示す図である。
【図3】画素回路を示す図である。
【図4】有機発光素子とその下のTFTとを示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の化合物に関して詳細に説明する。
アセナフト[1,2−k]ベンゾ[e]アセフェナンスレン誘導体が(1)で表される化合物である有機化合物
【0020】
【化2】

【0021】
式(1)において、
またはRはそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、置換あるいは無置換のアルキル基、置換あるいは無置換のアルコキシ基、置換あるいは無置換のアミノ基、置換あるいは無置換のアリール基、置換あるいは無置換の複素環基から選ばれる。
【0022】
ここで式(1)において、置換あるいは無置換のアルキル基のアルキル基として、メチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、ノルマルブチル基、ターシャリブチル基、セカンダリブチル基、オクチル基、1−アダマンチル基、2−アダマンチル基などが挙げられるが、もちろんこれらに限定されるものではない。
【0023】
ここで式(1)において、置換あるいは無置換のアルコキシ基のアルコキシ基として、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、2−エチル−オクチルオキシ基、フェノキシ基、4−ターシャルブチルフェノキシ基、ベンジルオキシ基、チエニルオキシ基等が挙げられるが、もちろんこれらに限定されるものではない。
【0024】
ここで式(1)において、置換あるいは無置換のアミノ基のアミノ基として、N−メチルアミノ基、N−エチルアミノ基、N,N−ジメチルアミノ基、N,N−ジエチルアミノ基、N−メチル−N−エチルアミノ基、N−ベンジルアミノ基、N−メチル−N−ベンジルアミノ基、N,N−ジベンジルアミノ基、アニリノ基、N,N−ジフェニルアミノ基、N,N−ジナフチルアミノ基、N,N−ジフルオレニルアミノ基、N−フェニル−N−トリルアミノ基、N,N−ジトリルアミノ基、N−メチル−N−フェニルアミノ基、N,N−ジアニソリルアミノ基、N−メシチル−N−フェニルアミノ基、N,N−ジメシチルアミノ基、N−フェニル−N−(4−ターシャリブチルフェニル)アミノ基、N−フェニル−N−(4−トリフルオロメチルフェニル)アミノ基等が挙げられるが、もちろんこれらに限定されるものではない。
【0025】
ここで式(1)において、置換あるいは無置換のアリール基のアリール基として、フェニル基、ナフチル基、インデニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、フルオレニル基などが挙げられるが、もちろんこれらに限定されるものではない。
【0026】
ここで式(1)において、置換あるいは無置換の複素環基の複素環基として、ピリジル基、オキサゾリル基、オキサジアゾリル基、チアゾリル基、チアジアゾリル基、カルバゾリル基、アクリジニル基、フェナントロリル基などが挙げられるが、もちろんこれらに限定されるものではない。
【0027】
式(1)においてRあるいはRである上記置換基、即ちアルキル基、アルコキシ基、アミノ基、アリール基、複素環基が有する置換基として、メチル基、エチル基、プロピル基などのアルキル基、ベンジル基などのアラルキル基、フェニル基、ビフェニル基などのアリール基、ピリジル基、ピロリル基などの複素環基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジベンジルアミノ基、ジフェニルアミノ基、ジトリルアミノ基などのアミノ基、メトキシル基、エトキシル基、プロポキシル基、フェノキシル基などのアルコキシル基、シアノ基、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素などのハロゲン原子などが挙げられるが、もちろんこれらに限定されるものではない。
【0028】
上記一般式(1)における化合物の具体例を以下に示す。しかし、本発明はこれらに限られるものではない。
【0029】
【化3】

【0030】
【化4】

【0031】
【化5】

【0032】
【化6】

【0033】
以下、本発明に係る新規有機化合物についてさらに詳細に説明する。
【0034】
一般的に有機発光素子の発光効率を高めるためには、発光中心材料そのものの発光量子収率が大きいことが望まれる。
【0035】
そのためには
1.振動子強度が高いこと
2.発光にかかわる骨格の振動部分が少ないこと
があげられる。
【0036】
また、有機ELディスプレーとして青色発光に適した材料に求められる物性は発光材料の発光ピークが430−480nmであることが重要である。本発明に係る有機化合物は発光ピークが430−480nmの光を発光することが出来るものがある。
【0037】
1に関しては、分子の発光にかかわる骨格の対称性を高くする事が重要である。ただし、高対称性分子特有の禁制遷移条件では全く発光しなくなる場合もある。また、最も共役面の長い方向を軸として、さらに共役を伸ばすことによって分子の双極子モーメントが大きくなって振動子強度が向上する。
【0038】
この点で本発明に係わる有機化合物はベンゾ[k]フルオランテンの8位から11位に共役を伸ばす形で縮環構造を有する構造となっている。この構造はベンゾ[k]フルオランテンに対して更にモーメントが大きくなることにつながり、本発明に係わる有機化合物は振動強度の高い構造となっている。
2に関しては発光にかかわる骨格に回転構造を有さないことで、回転による振動による量子収率の低下を抑制することが出来る。
【0039】
また、本発明に係わる有機化合物が有する基本骨格、すなわちアセナフト[1,2−k]ベンゾ[e]アセフェナンスレン骨格はそれ自体で最大発光波長が青領域となる。更にこの基本骨格は回転構造を有しておらず、したがって回転振動による量子収率の低下を抑制する事ができる。
【0040】
比較となる基本骨格としてベンゾ[k]フルオランテンを挙げる。このベンゾ[k]フルオランテンの7,12位にフェニル基が置換された7,12−ジフェニルベンゾ[k]フルオランテンと本発明のアセナフト[1,2−k]ベンゾ[e]アセフェナンスレンの9,16位にフェニル基が置換された9,16−ジフェニルアセナフト[1,2−k]ベンゾ[e]アセフェナンスレンの最大発光波長を比較すると、前者は428nmに対して本発明の化合物は440nmとなる。この点で、本発明に係わる有機化合物は基本骨格そのもので青の発光に近い発光を発することができる。そのため置換基を導入するといった発光色のチューニングを行う際も、すなわち青発光の発光材料として最適化する際も、ベンゾ[k]フルオランテン骨格と比べて少ない置換基の導入で発光色のチューニングが達成出来る。これは、置換基による振動失格を低減することにもつながり、発光素子の高効率化、長寿命化に効果がある。
【0041】
【化7】

【0042】
【化8】

【0043】
これより、本発明に係わる有機化合物は基本骨格のみで青の発光に適した発光を持ち、尚且つ高い量子収率を得ている。
【0044】
また、本発明に係る有機化合物は、骨格内に2つの5員環構造を有するため、HOMO−LUMOのエネルギーレベルが低くなる。酸化電位が低くなるということは、酸化されるのによりエネルギーが必要になるということである。すなわち本発明に係る有機化合物は酸化に対して安定である。また、本発明に係る有機化合物は、発光材料として用いる際は電子トラップ型発光材料として適している。
【0045】
また、本発明に係る有機化合物は、平面性が高く、無置換であると分子間スタックによるエキシマーが生成し易い。
【0046】
そこで、本発明に係る有機化合物は、エキシマーの生成を抑制するために、9,16位にアリール基、アルキル基、アミノ基といった置換基を導入することが好ましい。
【0047】
アセナフト[1,2−k]ベンゾ[e]アセフェナンスレン骨格とアリール基との結合の二面角計算を行った。計算手法は密度汎関数法(Density Functional Theory)を用いて、B3LYP/6−31G*レベルでの量子化学計算を用いた。
【0048】
その結果を表1に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
これらの結果によると、基本骨格であるアセナフト[1,2−k]ベンゾ[e]アセフェナンスレン骨格において、分子間スタックによるエキシマー生成を抑制するために最も効果的な置換位置は、二面角の角度が大きい9,16位である。この位置にフェニル基を置換すると88°以上の二面角を持つことが分かり、基本骨格に対してほぼ直交している。これは、エキシマーの生成を抑制するための置換位置として最も適していることが分かる。また、電子雲の広がりによる長波長化という点においても、ほぼ直交しているために共役が置換基に広がりにくく、基本骨格の電子状態を維持しやすい置換位置であることがわかる。ここで、直交とは、アセナフト[1,2−k]ベンゾ[e]アセフェナンスレンの平面に対してフェニル基の平面が直交する位置関係にあることを意味する。
【0051】
これより、A1からA34の様な、置換基がアリール基の中でもフェニル基や炭化水素からなる縮環の場合は、基本骨格と直交するため、構造が立体的になり、分子同士の重なりを抑制でき、濃度消光を抑制することができる。また、炭化水素のため、基本骨格とあまり変わらない酸化、還元電位維持することが出来る。また、直交するため、アリール基に更に置換基を導入しても長波長化の寄与が小さく、数nm〜20nm程度となる。
【0052】
また、B2からB13の様な、置換基がアルキル基の場合はエキシマー生成の抑制に適している。そのうえ基本骨格のみの無置換体の化合物とこのように置換された化合物を比べるとそれぞれの最大発光波長に違いが殆ど無い。というのも置換基が基本骨格と共役の関係に無い、すなわち置換基と基本骨格とが共役的に切断されるからである。また、酸化還元電位は電子の供与性から酸化電位が高くなる傾向になり安定性はやや低くなるが、アルキル基の先に縮環構造を導入することでエキシマー生成をより制御する効果がある。
【0053】
また、C1からC21の様な、置換基がヘテロ構造を含むアリール基や、アミノ基といったヘテロ原子を含む置換基を有する場合、ヘテロ構造に由来する酸化還元電位の変化を制御することが出来る。これによって、最大発光波長の長波長化や、電子トラップ型発光材料だけでなく、電子輸送性やホール輸送性、ホールトラップ型発光材料といった用途に用いることができる。ただし、9、16位以外の置換位置と比較すると、その効果は小さい。
【0054】
これより、本発明に係わるアセナフト[1,2−k]ベンゾ[e]アセフェナンスレン誘導体である有機化合物は、基本骨格のみで青の領域で使用可能であり、また高い量子収率であることを見出した。
【0055】
以上のように、本発明の有機発光素子は、有機化合物からなる層に本発明のアセナフト[1,2−k]ベンゾ[e]アセフェナンスレン誘導体の化合物が少なくとも一種含まれるものである。また、本発明のアセナフト[1,2−k]ベンゾ[e]アセフェナンスレン誘導体の化合物は、好ましくは青色発光素子の発光材料、として使用するものであるが、その用途はこれらに限定されることはない。具体的には、緑色発光素子の発光材料やホスト材料、輸送材料等として使用してもよい。
【0056】
一般式(1)で示される有機化合物は、以下に示す合成ルート1のように合成することができる。置換基については種々の置換基を導入しているので、同様に水素原子を、例えばアルキル基、ハロゲン原子、フェニル基といった他の置換基に置き換えて合成することができる。
【0057】
合成ルート1
【0058】
【化9】

【0059】
出発原料D1から本発明に係る種々の有機化合物を合成することが出来る。次の表に合成されるこれらの有機化合物の例を示した(下記表2中の合成化合物)。また下記表は、これら出発原料も示す。
【0060】
【表2】

【0061】
次に本発明に係る有機発光素子を説明する。
【0062】
本発明に係る有機発光素子は一対の電極である陽極と陰極とそしてそれらの間に配置される有機化合物層とを少なくとも有する。この有機化合物層が上記一般式(1)あるいは(2)の有機化合物を有する。有機発光素子は一対の電極の間に配置された有機化合物である発光材料が発光する素子である。
【0063】
この有機化合物層のうち一層が発光層である場合、発光層は本発明に係る有機化合物のみから構成されていても良いし、あるいは本発明に係る有機化合物を一部有していても良い。
【0064】
発光層が本発明に係る有機化合物を一部有しても良い場合とは、本発明に係る有機化合物が発光層の主成分であってもよく、あるいは副成分であってもよい。
【0065】
ここで主成分と副成分とは、発光層を構成する全化合物を対象に例えば重量的あるいはモル数的に大きいものを主成分と呼び、小さいものを副成分と呼ぶ。
【0066】
主成分である材料は、ホスト材料と呼ぶことも出来る。
【0067】
副成分である材料は、ドーパント(ゲスト)材料、発光アシスト材料、電荷注入材料と呼ぶことが出来る。
【0068】
なお、本発明に係る有機化合物をゲスト材料として用いる場合、ホスト材料に対するゲスト材料の濃度は0.01wt%以上20wt%以下であることが好ましく、0.5wt%以上10wt%以下であることがより好ましい。また、ゲスト材料の濃度を上記2範囲のいずれかにおいて変化させることによって、発光層から発する光の発光波長を5nm以上20nm以下の範囲で、溶液の波長よりも長波長化する事が可能である。
【0069】
上記の発光層は、キャリア輸送性のホスト材料とゲスト材料からなる場合、発光にいたる主な過程は、以下のいくつかの過程からなる。
1.発光層内での電子・ホールの輸送。
2.ホスト材料の励起子生成。
3.ホスト材料同士の分子間の励起エネルギー伝達。
4.ホスト材料からゲスト材料への励起エネルギー移動。
【0070】
それぞれの過程における所望のエネルギー移動や、発光はさまざまな失活過程と競争でおこる。
【0071】
有機発光素子の発光効率を高めるためには、発光中心材料(例えばゲスト材料)そのものの発光量子収率が大きいことは言うまでもない。しかしながら、ホスト材料とホスト材料間、あるいはホスト材料とゲスト材料間のエネルギー移動が如何に効率的にできるかも大きな課題である。また、通電による発光劣化は今のところ原因は明らかではないが、少なくとも発光中心材料そのもの、または、その周辺分子による発光中心材料の環境変化に関連したものと想定される。
【0072】
そこで本発明者らは種々の検討を行い、本発明の前記一般式(1)で表される化合物を発光層のホスト材料またはゲスト材料、特にゲスト材料に用いた素子が高効率で高輝度な光出力を有し、極めて耐久性のあることを見出した。
【0073】
次に、本発明の有機発光素子について詳細に説明する。
【0074】
本発明の有機発光素子は、陽極及び陰極からなる一対の電極と、該一対の電極間に挟持された有機化合物層により少なくとも構成される有機発光素子において、前記有機化合物層が一般式(1)で示される有機化合物の少なくとも一種を含有する。
【0075】
一対の電極の間には上記有機化合物層以外の化合物層を有していても良い。
【0076】
一対の電極の間には有機化合物層を含む化合物層が2層以上設けられていても良い。このような場合を多層型の有機発光素子と呼ぶことにする。
【0077】
以下に、多層型の有機発光素子の好ましい例として第一から第五までを示す。
【0078】
第一の多層型の有機発光素子の例としては、基板上に、順次(陽極/発光層/陰極)を設けた構成のものを挙げる。ここで使用する有機発光素子は、それ自体でホール輸送能、電子輸送能及び発光性の性能を単一で有している場合や、それぞれの特性を有する化合物を混ぜて使う場合に有用である。
【0079】
第二の多層型の有機発光素子の例としては、基板上に、順次(陽極/ホール輸送層/電子輸送層/陰極)を設けた構成のものを挙げる。この場合は、発光物質はホール輸送性かあるいは電子輸送性のいずれか、あるいは両方の機能を有している材料をそれぞれの層に用い、発光性の無い単なるホール輸送物質あるいは電子輸送物質と組み合わせて用いる場合に有用である。また、この場合、発光層は、ホール輸送層あるいは電子輸送層のいずれかから成る。
【0080】
第三の多層型の有機発光素子の例としては、基板上に、順次(陽極/ホール輸送層/発光層/電子輸送層/陰極)を設けた構成のものを挙げる。これは、キャリヤ輸送と発光の機能を分離したものである。そしてホール輸送性、電子輸送性、発光性の各特性を有した化合物と適時組み合わせて用いることができる。そして極めて材料選択の自由度が増すとともに、発光波長を異にする種々の化合物が使用できるため、発光色相の多様化が可能になる。さらに、中央の発光層に各キャリヤあるいは励起子を有効に閉じこめて、発光効率の向上を図ることも可能になる。
【0081】
第四の多層型の有機発光素子の例としては、基板上に、順次(陽極/ホール注入層/ホール輸送層/発光層/電子輸送層/陰極)を設けた構成のものを挙げる。これは陽極とホール輸送層の密着性改善あるいはホールの注入性改善に効果があり、低電圧化に効果的である。
【0082】
第五の多層型の有機発光素子の例としては、基板上に、順次(陽極/ホール輸送層/発光層/ホール・エキシトンブロッキング層/電子輸送層/陰極)を設けた構成のものを挙げる。これはホールあるいは励起子(エキシトン)が陰極側に抜けることを阻害する層(ホール/エキシトンブロッキング層)を、発光層、電子輸送層間に挿入した構成である。イオン化ポテンシャルの非常に高い化合物をホール/エキシトンブロッキング層として用いる事により、発光効率の向上に効果的な構成である。
【0083】
本発明における一般式(1)で表わされる化合物を含む発光領域とは、上記の発光層の領域を言う。
【0084】
ただし、第一乃至第五の多層型の例はあくまでごく基本的な素子構成であり、本発明に係る化合物を用いた有機発光素子の構成はこれらに限定されるものではない。例えば、電極と有機層界面に絶縁性層を設ける、接着層あるいは干渉層を設ける、電子輸送層もしくはホール輸送層がイオン化ポテンシャルの異なる2層から構成されるなど多様な層構成をとることができる。
【0085】
本発明に用いられる一般式(1)で示される化合物は、第一乃至第五例のいずれの形態でも使用することができる。
【0086】
本発明に係る有機発光素子においては、有機化合物を含む層に本発明に用いられる一般式(1)で示される有機化合物が少なくとも一種含有されるものであり、特に発光層のゲスト材料として用いられることが好ましい。
【0087】
本発明に係る有機化合物は、発光層のホスト材料として用いてもよい。
【0088】
本発明に係る有機化合物は、発光層以外の各層、即ちホール注入層、ホール輸送層、ホール・エキシトンブロッキング層、電子輸送層の何れか叉は、電子注入層に用いても良い。
【0089】
ここで、本発明の有機化合物以外にも、必要に応じて従来公知の低分子系及び高分子系のホール輸送性化合物、発光性化合物あるいは電子輸送性化合物等を一緒に使用することができる。
【0090】
以下にこれらの化合物例を挙げる。
【0091】
ホール注入輸送性材料としては、陽極からのホールの注入が容易で、注入されたホールを発光層へと輸送することができるように、ホール移動度が高い材料が好ましい。正孔注入輸送性能を有する低分子及び高分子系材料としては、トリアリールアミン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、スチルベン誘導体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、ポリ(ビニルカルバゾール)、ポリ(チオフェン)、その他導電性高分子が挙げられるが、もちろんこれらに限定されるものではない。
【0092】
主にホスト材料としては、表3、もしくは表3の誘導体である化合物以外に、縮環化合物(例えばフルオレン誘導体、ナフタレン誘導体、アントラセン誘導体、ピレン誘導体、カルバゾール誘導体、キノキサリン誘導体、キノリン誘導体等)、トリス(8−キノリノラート)アルミニウム等の有機アルミニウム錯体、有機亜鉛錯体、及びトリフェニルアミン誘導体、ポリ(フルオレン)誘導体、ポリ(フェニレン)誘導体等の高分子誘導体が挙げられるが、もちろんこれらに限定されるものではない。
【0093】
【表3】

【0094】
電子注入輸送性材料としては、陰極からの電子の注入が容易で、注入された電子を発光層へ輸送することができるものから任意に選ぶことができ、ホール注入輸送性材料のホール移動度とのバランス等を考慮し選択される。電子注入輸送性能を有する材料としては、オキサジアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、ピラジン誘導体、トリアゾール誘導体、トリアジン誘導体、キノリン誘導体、キノキサリン誘導体、フェナントロリン誘導体、有機アルミニウム錯体等が挙げられるが、もちろんこれらに限定されるものではない。
【0095】
陽極材料としては、仕事関数がなるべく大きなものがよい。例えば、金、白金、銀、銅、ニッケル、パラジウム、コバルト、セレン、バナジウム、タングステン等の金属単体あるいはこれらの合金、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化錫インジウム(ITO)、酸化亜鉛インジウム等の金属酸化物が使用できる。また、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン等の導電性ポリマーも使用できる。これらの電極物質は単独で使用してもよいし複数併用して使用してもよい。また、陽極は一層構成でもよく、多層構成でもよい。
【0096】
一方、陰極材料としては、仕事関数の小さなものがよい。例えば、リチウム等のアルカリ金属、カルシウム等のアルカリ土類金属、アルミニウム、チタニウム、マンガン、銀、鉛、クロム等の金属単体が挙げられる。あるいはこれら金属単体を組み合わせた合金も使用することができる。例えば、マグネシウム−銀、アルミニウム−リチウム、アルミニウム−マグネシウム等が使用できる。酸化錫インジウム(ITO)等の金属酸化物の利用も可能である。これらの電極物質は単独で使用してもよいし、複数併用して使用してもよい。また、陰極は一層構成でもよく、多層構成でもよい。
【0097】
本発明の有機発光素子で用いる基板としては、特に限定するものではないが、金属製基板、セラミックス製基板等の不透明性基板、ガラス、石英、プラスチックシート等の透明性基板が用いられる。また、基板にカラーフィルター膜、蛍光色変換フィルター膜、誘電体反射膜等を用いて発色光をコントロールすることも可能である。
【0098】
なお、作製した素子に対して、酸素や水分等との接触を防止する目的で保護層あるいは封止層を設けることもできる。保護層としては、ダイヤモンド薄膜、金属酸化物、金属窒化物等の無機材料膜、フッ素樹脂、ポリエチレン、シリコーン樹脂、ポリスチレン樹脂等の高分子膜、さらには、光硬化性樹脂等が挙げられる。また、ガラス、気体不透過性フィルム、金属等で被覆し、適当な封止樹脂により素子自体をパッケージングすることもできる。
【0099】
本発明の有機発光素子において、本発明の有機化合物を含有する層及びその他の有機化合物からなる層は、以下に示す方法により形成される。一般には真空蒸着法、イオン化蒸着法、スパッタリング、プラズマあるいは、適当な溶媒に溶解させて公知の塗布法(例えば、スピンコーティング、ディッピング、キャスト法、LB法、インクジェット法等)により薄膜を形成する。ここで真空蒸着法や溶液塗布法等によって層を形成すると、結晶化等が起こりにくく経時安定性に優れる。また塗布法で成膜する場合は、適当なバインダー樹脂と組み合わせて膜を形成することもできる。
【0100】
上記バインダー樹脂としては、ポリビニルカルバゾール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ABS樹脂、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、尿素樹脂等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、これらバインダー樹脂は、ホモポリマー又は共重合体として1種単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。さらに必要に応じて、公知の可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の添加剤を併用してもよい。
【0101】
本発明の有機発光素子は、省エネルギーや高輝度が必要な製品に応用が可能である。応用例としては表示装置・照明装置やプリンターの光源、液晶表示装置のバックライトなどが考えられる。
【0102】
表示装置としては、省エネルギーや高視認性・軽量なフラットパネルディスプレイが可能となる。表示装置は例えばPCあるいはテレビジョン、あるいは広告媒体といった画像表示装置して用いられることが出来る。あるいは表示装置はデジタルスチルカメラやデジタルビデオカメラ等の撮像装置の、表示部に用いられてもよい。
【0103】
あるいは表示装置は電子写真方式の画像形成装置、即ちレーザービームプリンタや複写機等の操作表示部に用いられても良い。
【0104】
また、電子写真方式の画像形成装置、即ちレーザービームプリンタや複写機等の感光体へ潜像を露光する際に用いる光源として用いることが出来る。独立にアドレスできる有機発光素子を複数アレイ状(例えば線状)に配置し、感光ドラムに所望の露光を行うことで、潜像を形成することができる。本発明の有機発光素子を用いることで、これまでは光源とポリコンミラーと各種光学レンズ等を配置するのに必要だった空間を減少させることができる。
【0105】
照明装置やバックライトに関しては、本発明による省エネルギー効果が期待できる。また本発明の有機発光素子は平面光源として利用できる。
【0106】
また、本発明に係る有機発光素子を支持する基板にカラーフィルター膜、蛍光色変換フィルター膜、誘電体反射膜などを設けて発色光をコントロールする事も可能である。また、基板に薄膜トランジスタ(TFT)を設け、それに有機発光素子を接続して発光非発光を制御することができる。また、複数の有機発光素子をマトリックス状に配置して、即ち面内方向に配置して照明装置として用いることも可能である。
【0107】
次に、本発明の有機発光素子を使用した表示装置について説明する。この表示装置は、本発明の有機発光素子と、本発明に係る有機発光素子に電気信号を供給する手段と、を具備することを特徴とするものである。以下、図面を参照して、アクティブマトリクス方式を例にとって、本発明の表示装置を詳細に説明する。
【0108】
はじめに図中の符号を説明する。1は表示装置、2と15は画素回路、11は走査信号ドライバー、12は情報信号ドライバー、13は電流供給源、14は画素、21は第一の薄膜トランジスタ(TFT)、22はコンデンサー(Cadd)、23は第二の薄膜トランジスタ(TFT)を示す。
【0109】
また31は基板、32は防湿層、33はゲート電極、34はゲート絶縁膜、35は半導体膜、36はドレイン電極、37はソース電極、38はTFT素子、39は絶縁膜を示す。
【0110】
そして310はコンタクトホール(スルーホール)、311は陽極、312は有機層、313は陰極、314は第一の保護層、315は第二の保護層を示す。
【0111】
図1は、表示装置の一形態である、本発明の有機発光素子と、本発明に係る有機発光素子に電気信号を供給する手段とを備えた表示装置の構成例を模式的に示す図である。
【0112】
図2は、画素に接続される画素回路と画素回路に接続される信号線と電流供給線とを模式的に示す図である。
【0113】
本発明に係る有機発光素子に電気信号を供給する手段とは、図1において走査信号ドライバー11、情報信号ドライバー12、電流供給源13及び図2において画素回路15のことを指す。
【0114】
図1の表示装置1は、走査信号ドライバー11、情報信号ドライバー12、電流供給源13が配置され、それぞれゲート選択線G、情報信号線I、電流供給線Cに接続される。ゲート選択線Gと情報信号線Iの交点には、画素回路15が配置される(図2)。本発明に係る有機発光素子からなる画素14はこの画素回路15ごとに対応して設けられる。画素14は有機発光素子である。従って、本図においては発光点として有機発光素子を示している。本図において有機発光素子の上部電極が他の有機発光素子の上部電極と共通していても良い。もちろん上部電極は各発光素子毎に個別に設けられていても良い。
【0115】
走査信号ドライバー11は、ゲート選択線G1、G2、G3・・・Gnを順次選択し、これに同期して情報信号ドライバー12から画像信号が情報信号線I1、I2、I3・・・Inのいずれかを介して画素回路15に印加される。
【0116】
次に、画素の動作について説明する。図3は、図1の表示装置に配置されている1つの画素を構成する回路を示す回路図である。図3は第二の薄膜トランジスタ(TFT2)23が有機発光素子24を発光させるための電流を制御している。図3の画素回路2においては、ゲート選択線Giに選択信号が印加されると、第一の薄膜トランジスタ(TFT1)21がONになり、コンデンサー(Cadd)22に画像信号Iiが供給され、第二の薄膜トランジスタ(TFT2)23のゲート電圧を決定する。有機発光素子24には第二の薄膜トランジスタ(TFT2)(23)のゲート電圧に応じて電流供給線Ciより電流が供給される。ここで、第二の薄膜トランジスタ(TFT2)23のゲート電位は、第一の薄膜トランジスタ(TFT1)21が次に走査選択されるまでコンデンサー(Cadd)22に保持される。このため、有機発光素子24には、次の走査が行われるまで電流が流れ続ける。これにより1フレーム期間中常に有機発光素子24を発光させることが可能となる。
【0117】
なお不図示ではあるが、有機発光素子24の電極間の電圧を薄膜トランジスタが制御する電圧書き込み方式の表示装置にも本発明に係る有機発光素子は用いられることが出来る。
【0118】
図4は、図1の表示装置で用いられるTFT基板の断面構造の一例を示した模式図である。TFT基板の製造工程の一例を示しながら、構造の詳細を以下に説明する。
【0119】
図4の表示装置3を製造する際には、まずガラス等の基板31上に、上部に作られる部材(TFT又は有機層)を保護するための防湿膜32がコートされる。防湿膜32を構成する材料として、酸化ケイ素又は酸化ケイ素と窒化ケイ素との複合体等が用いられる。次に、スパッタリングによりCr等の金属を製膜することで、所定の回路形状にパターニングしてゲート電極33を形成する。
【0120】
続いて、酸化シリコン等をプラズマCVD法又は触媒化学気相成長法(cat−CVD法)等により製膜し、パターニングしてゲート絶縁膜34を形成する。次に、プラズマCVD法等により(場合によっては290℃以上の温度でアニールして)シリコン膜を製膜し、回路形状に従ってパターニングすることで半導体層35を形成する。
【0121】
さらに、この半導体膜35にドレイン電極36とソース電極37とを設けることでTFT素子38を作製し、図3に示すような回路を形成する。次に、このTFT素子38の上部に絶縁膜39を形成する。次に、コンタクトホール(スルーホール)310を、金属からなる有機発光素子用の陽極311とソース電極37とが接続するように形成する。
【0122】
この陽極311の上に、多層あるいは単層の有機層312と、陰極313とを順次積層することにより、表示装置3を得ることができる。このとき、有機発光素子の劣化を防ぐために第一の保護層314や第二の保護層315を設けてもよい。本発明の有機発光素子を用いた表示装置を駆動することにより、良好な画質で、長時間表示にも安定な表示が可能になる。
【0123】
尚、上記の表示装置は、スイッチング素子に特に限定はなく、単結晶シリコン基板やMIM素子、a−Si型等でも容易に応用することができる。
【0124】
上記ITO電極の上に多層あるいは単層の有機発光層/陰極層を順次積層し有機発光表示パネルを得ることができる。本発明の有機化合物を用いた表示パネルを駆動することにより、良好な画質で、長時間表示にも安定な表示が可能になる。
【0125】
また、素子の光取り出し方向に関しては、ボトムエミッション構成(基板側から光を取り出す構成)および、トップエミッション(基板の反対側から光を取り出す構成)のいずれも可能である。
【実施例】
【0126】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明していくが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0127】
(実施例1)
[例示化合物A1の合成]
【0128】
【化10】

【0129】
フルオランテン−3−アミン(E1)10.5g(48mmol)をジメチルフォルムアミド300ml中に0℃下で混合し、N−ブロモスクシイミド8.2g(48mmol)を加えて、室温にもどし、8時間攪拌を行った。水中にあけて析出物のろ過を行い、エタノールで再結晶を行った。結晶をろ過後、ヘプタンで洗浄を行い乾燥後、褐色の固体E2を29g(収率:60%)で得た。続けてE2を10g(34mmol)を500mlナスフラスコに入れ、系内をアルゴン置換した。次に、アルゴン雰囲気下、メトキシシクロペンタン150mlを入れ、−75℃に冷却を行った。これにn−ブチルリチウム 1.6M溶液、64mlを滴下し、滴下終了後に室温に戻し、1時間攪拌を行った。その後、再び−75℃に冷却し、ドライアイス15gを細かく砕いて加え、徐々に室温に戻した。室温に戻した後に8時間攪拌後、1M塩酸を加えて反応を停止し、酢酸エチルで抽出を行い、有機層の濃縮を行い、茶褐色液体を得た。これをカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘプタン=1:3)にて精製後、クロロホルム/メタノールで再結晶を行い黄緑結晶のE3を2.5g(収率:28%)得た。
【0130】
【化11】

【0131】
E4 9.1g(50mmol)、E5 10.5g(50mmol)をエタノール200ml中に入れ、60度まで加熱した後、5M水酸化ナトリウム水溶液 20mlを滴下した。滴下終了後80度に加熱して2時間攪拌した後冷却後、析出物のろ過を行い、水、エタノールで洗浄した後、80℃で減圧加熱乾燥を行い濃緑色の固体E6を16g(収率:90%)得た。
【0132】
【化12】

【0133】
次にE6 1.8g(5mmol)、E3 1.57g(6mmol)をトルエン50ml中に入れ、80℃まで加熱した後、亜硝酸イソアミル 0.82g(7mmol)をゆっくり滴下した後、110℃で3時間攪拌を行った。冷却後、水100mlx2回で洗浄した。この有機層を飽和食塩水で洗浄し,硫酸マグネシウムで乾燥した後、この溶液を濾過後、ろ液を濃縮して茶褐色液体を得た。これをカラムクロマトグラフィー(トルエン/ヘプタン=1:1)にて精製後、クロロホルム/メタノールで再結晶を行い黄結晶のA1を2.11g(収率:80%)得た。
【0134】
また、NMR測定によりこの化合物の構造を確認した。
【0135】
H NMR(CDCl,500MHz) σ(ppm):8.19(s,1H),7.88−7.64(m,14H),7.37−7.28(m,7H),6.54(d,1H,J=7.0Hz),6.30(d,1H,J=7.5Hz).
例示化合物A1の、1×10−5mol/lにおけるトルエン溶液の発光スペクトルは、日立製F−4500を用いて、350nmの励起波長においてフォトルミネッセンスの測定を行った結果、440nmに最大強度を有するスペクトルであった。
【0136】
(実施例2)
[例示化合物A7の合成]
実施例1で用いられる有機化合物E5をE7に変更した以外は実施例1と同様の反応、精製を行った。
【0137】
【化13】

【0138】
NMR測定によりこの化合物の構造を確認した。
【0139】
H NMR(CDCl,500MHz) σ(ppm):8.32(s,1H),7.88−7.81(m,7H),7.76−7.71(m,4H),7.37−7.28(m,6H),6.54(d,1H,J=7.5Hz),6.30(d,1H,J=7.5Hz),1.45(s,18H),1.41(s,18H).
例示化合物A7の、1×10−5mol/lにおけるトルエン溶液の発光スペクトルは、日立製F−4500を用いて、350nmの励起波長においてフォトルミネッセンスの測定を行った結果、444nmに最大強度を有するスペクトルであった。
【0140】
(実施例3)
[例示化合物A12の合成]
実施例1で用いられる有機化合物E5をE8に変更した以外は実施例1と同様の反応、精製を行った。
【0141】
【化14】

【0142】
例示化合物A7の、1×10−5mol/lにおけるトルエン溶液の発光スペクトルは、日立製F−4500を用いて、350nmの励起波長においてフォトルミネッセンスの測定を行った結果、443nmに最大強度を有するスペクトルであった。
【0143】
(実施例4−22)
本実施例では、多層型有機発光素子の第五の例で示した素子(陽極/ホール注入層/ホール輸送層/発光層/ホール・エキシトンブロッキング層/電子輸送層/陰極)とした。ガラス基板上に100nmのITOをパターニングした。そのITO基板上に、以下の有機層と電極層を10−5Paの真空チャンバー内で抵抗加熱による真空蒸着して連続製膜し、対向する電極面積が3mmになるようにした。
ホール輸送層(30nm) G−1
発光層(30nm) ホストG−2、ゲスト:例示化合物 (重量比 5%)
ホール・エキシトンブロッキング層(10nm) G−3
電子輸送層(30nm) G−4
金属電極層1(1nm) LiF
金属電極層2(100nm) Al
【0144】
【化15】

【0145】
EL素子の特性は、電流電圧特性をヒューレッドパッカード社製・微小電流計4140Bで測定し、発光輝度は、トプコン社製BM7で測定した。
実施例4乃至実施例22の発光効率と電圧を表4に示す
【0146】
【表4】

【0147】
(実施例23−27)
本実施例では、多層型有機発光素子の第五の例で示した素子(陽極/ホール注入層/ホール輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極)とした。
【0148】
共振構造を有する有機発光素子を以下に示す方法で作製した。
【0149】
支持体としてのガラス基板上に反射性陽極としてのアルミニウム合金(AlNd)を100nmの膜厚でスパッタリング法にて成膜する。さらに、透明性陽極としてITOをスパッタリング法にて80nmの膜厚で形成する。次に、この陽極周辺部にアクリル製の素子分離膜を厚さ1.5μmで形成し、半径3mmの開口部を設けた。これをアセトン、イソプロピルアルコール(IPA)で順次超音波洗浄した後、IPAで煮沸洗浄して乾燥する。さらに、この基板表面に対してUV/オゾン洗浄を施す。
【0150】
更に、以下の有機層を10−5Paの真空チャンバー内で抵抗加熱による真空蒸着して連続製膜した後に、陰極としてIZOをスパッタリング法にて成膜して膜厚30nmの透明性電極を形成する。形成した後に、窒素雰囲気中において、封止する。
【0151】
以上により、有機発光素子を形成する。
ホール注入層(95nm) G−11
ホール輸送層(10nm) G−12
発光層(35nm) ホストG−13、ゲスト:例示化合物(重量比 2%)
電子輸送層(10nm) G−14
電子注入層(70nm) G−15(重量比 80%)、Li(重量比 20%)
【0152】
【化16】

【0153】
EL素子の特性は、電流電圧特性をヒューレッドパッカード社製・微小電流計4140Bで測定し、発光輝度は、トプコン社製BM7で測定した。
【0154】
実施例23乃至実施例27の発光効率と電圧を表5に示す。
【0155】
【表5】

【0156】
(結果と考察)
本発明に係わる有機化合物は高い量子収率と青に適した発光を有する新規化合物であり、有機発光素子に用いた場合、良好な発光特性を有する発光素子を作ることができる。
【符号の説明】
【0157】
1 表示装置
11 走査信号ドライバー
12 情報信号ドライバー
13 電流供給源
14 画素

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)に示されるアセナフト[1,2−k]ベンゾ[e]アセフェナンスレン誘導体であることを特徴とする有機化合物。
【化1】

(1)
式(1)において、
またはRはそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、置換あるいは無置換のアルキル基、置換あるいは無置換のアルコキシ基、置換あるいは無置換のアミノ基、置換あるいは無置換のアリール基、置換あるいは無置換の複素環基から選ばれる。
【請求項2】
またはRはそれぞれ独立に前記置換あるいは無置換のアリール基であることを特徴とする請求項1に記載の有機化合物。
【請求項3】
陰極と陽極と、前記陽極と陰極の間に配置される有機化合物層とを有する有機発光素子において、
前記有機化合物層は1あるいは2のいずれか一項に記載の有機化合物を有することを特徴とする有機発光素子。
【請求項4】
前記有機化合物層は発光層であることを特徴とする請求項3に記載の有機発光素子。
【請求項5】
複数の画素を有し、前記画素は請求3乃至4記載のいずれか一項に記載の有機発光素子であり、且つ前記有機発光素子に電気信号を供給する手段を有する画像表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−254610(P2010−254610A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−105355(P2009−105355)
【出願日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】