説明

新規界面活性剤

【課題】新規カチオン性二鎖二極性基型界面活性剤を提供する。
【解決手段】たとえば式(II)で表わされるカチオン性二鎖二極性型界面活性剤。アルコールとシクロヘキセン化合物を原料に得られる既存のジカルボン酸から、1〜2段階にて収率よく合成することが出来る。得られた新規二鎖二極性基型カチオン界面活性剤は、従来の一鎖一極性基型カチオン性界面活性剤に比べ、臨界ミセル濃度(cmc)が1/2〜1/20程度小さくなっており、より低濃度から界面活性を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は二鎖二極性基化合物に関する。カチオン性界面活性剤に分類されるこの発明の化合物は、優れた界面活性を有し、乳化剤、分散剤、洗浄剤、繊維処理剤、抗菌剤などに使用可能である。
【背景技術】
【0002】
界面活性能に優れる二鎖二極性基化合物は、ジェミニ型界面活性剤として有望視されており、種々の提案がなされている。この発明に関連する技術として、特許文献1〜8を参照されたい。
【特許文献1】特開平3−319262号公報
【特許文献2】特開平8−301746号公報
【特許文献3】特開平8−295657号公報
【特許文献4】特開平8−291120号公報
【特許文献5】特開平4−124165号公報
【特許文献6】特開平1−304033号公報
【特許文献7】特開平6−68460号公報
【特許文献8】特開2000−219654号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
二鎖二極性基化合物は2つの疎水基と2つの親水基を有するので、これを工業的に汎用される安価な出発原料から合成するには多くのステップが必要とされる。又、それに伴い高い収率を確保するのも困難である。従って、二鎖二極性基化合物はそのコストが高くついていた。そこでこの発明は可及的に少ないステップで、且つ高い収率を維持して得られる二鎖型ジカルボン酸化合物を合成中間体とし、新規なカチオン性ジェミニ型界面活性剤を製造することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記目的を達成するために経由するジカルボン酸型合成中間体は、既知の手法を用いることが出来る。例えば、特開2000−219654号公報記載の、複数の官能基を有する環状オレフィンを準備するステップと、前記官能基を疎水基化するステップと、前記環状オレフィンを酸化開裂してジカルボン酸を形成するステップと、を含んでなる多鎖二極性基化合物の製造方法を用いることができる。同ジカルボン酸中間体からカチオン性ジェミニ型界面活性剤への変換は、カルボキシル基を既知の方法で四級アンモニウム塩を含む官能基へと導くことにより達成出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0005】
本発明を実施するにあたり用意するジカルボン酸型合成中間体は、製造コストの面から1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸 2,3-ジエステルが良い。同中間体は、例えば、安価な工業原料であるテトラヒドロフタル酸無水物と種々のアルコール類を原料とし、既知法に従い得られる。アルコールにより導入されるアルキル基は界面活性剤分子における疎水基となる。このときのアルコールの種類は、本発明のカチオン性ジェミニ型に導いたとき界面活性能を示すものであれば特に限定するものではないが、アルキル基は、直鎖及び分岐鎖のどちらであってもよく、炭素数は適切な疎水性を確保する見地から4〜20とすることが好ましく、8〜16とするのがより好ましい。また、必ずしも炭化水素基でなくとも良い。例えば、フッ化アルキル基でもよい。さらに、分子中の疎水基2つが同じである必要はなく、2種類以上のアルコールの混合物を使用することが可能であり、また2種類を段階的に導入してもよい。一方、親水基となる四級アンモニウム塩を含む官能基を得るには、ジアルキルアミノ基含むアルコールを、エステル結合によりカルボキシル基へ導入し、引き続きアミノ基を四級化する2段階の反応により達成できる。また、カチオン化剤として知られるグリシジル基を有する四級アンモニウム塩や、四級アンモンニウム塩を含むアルコール類を用いることによって、より簡便な1段階で得られる。前者は、より純度が求められる場合に有効で、後者は、混合物でも支障のない用途にとってはコスト面でより有効である。アミノ基とエステル基間の骨格は使用するジアルキルアミノ基含むアルコールやカチオン化剤によるが、その炭素数は1〜5が好ましく、1〜3がより好ましい。四級窒素に結合する主骨格以外の官能基は原料価格などの観点からアルキル基が良い。親水基となる同部位のアルキル炭素数は、適切な親水性を確保する見地から各々1〜4が好ましく、各々1〜2がより好ましい。アンモニウムカチオンの対アニオンは、合成の容易さから種々のハロゲンイオンが良い。ハロゲンの種類は、上記2段階の反応法では四級化剤により選択でき、一方、1段階法ではカチオン化剤で選択することが出来る。

【0006】
このようにして、カチオン性ジェミニ型界面活性剤が得られる。かかるカチオン性ジェミニ型界面活性剤は下記式(I)で表される。
【化1】



ただし、(ア)R1、R2は、炭素数が4〜20のアルキル基、若しくはフッ化アルキル基であり、(イ) Z1、Z2は、炭素数1〜5のアルキレン基、若しくは水酸基を含むアルキレン基であり、(ウ)R3、R4、R5は、それぞれ炭素数1〜4アルキル基であり、(エ)X-は、ハロゲンイオンを表わす。
R1、R2は、炭素数が4〜20が好ましく、8〜16がより好ましい。また、Zは、炭素数1〜5が好ましく、1〜3がより好ましい。R3、R4、R5の炭素数は、各々1〜4が好ましく、各々1〜2がより好ましい。
【0007】
2段階で得られるカチオン性ジェミニ型界面活性剤は、より具体的には下記式(II)で表されるものが挙げられる。
【化2】



ただし、(オ)R6は、炭素数が4〜20のアルキル基、若しくはフッ化アルキル基であり、(カ)X-は、ハロゲンイオンを表わす。
R6は、炭素数が4〜20が好ましく、8〜16がより好ましい。

【0008】
1段階で得られるカチオン性ジェミニ型界面活性剤は、より具体的には下記式(III)で表されるものが挙げられる。
【化3】



ただし、(キ)R7は、炭素数が4〜20のアルキル基、若しくはフッ化アルキル基であり、(ク)X-は、ハロゲンイオンを表わす。
R7は、炭素数が4〜20が好ましく、8〜16がより好ましい。

【0009】
本発明のさらに別の態様および変形は、本発明の範囲から逸脱することなく、
本明細書の開示から当業者には明らかである。

【実施例】
【0010】
以下、この発明の実施例について説明する。なお、本発明は実施例に限定されるものではない。この実施例では、式(II)および(III)の合成例と、それら水溶液の表面張力測定結果を示す。
【0011】
(実施例1)化合物(II)(R6=n-C12H25,X=I)の合成
本反応スキームを下記式(IV)に示した。
【化4】





[化合物(1−1) 1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸2,3-ジドデシルエステル]20g(35mmol)をジムロート冷却管を備え付けた2Lの2つ口フラスコに準備した。塩化チオニル41.6g(350mmol)を加え、フラスコ内を窒素置換した。窒素気流下2時間加熱環流した後、過剰量の塩化チオニルを留去した。FT-IRよりカルボン酸が酸クロライドに変換されていることを確認した。予め乾燥させたトルエン(400ml)をフラスコに加え酸クロライドのトルエン溶液(a)を得た。別途、ジメチルエタノールアミン31.2g(350mmol)に予め乾燥させたトルエン(400ml)およびピリジン(79g)を加え得られた混合溶液(b)を用意した。室温、窒素気流下中、溶液(a)に溶液(b)をゆっくりと滴下、その後5時間室温攪拌を続けた。濃度1wt%のNaOH水溶液(100g)を加え反応を終了させた後、分液ロートに移し、ジエチルエーテル(200ml)を加え、油水分離を行なった。上部エーテル層を飽和食塩水で洗浄、無水硫酸ナトリウムにより乾燥後、セライト濾過、濃縮することにより油状残渣(21g)を得た。同残渣は、H1-NMR、FT-IRより[化合物(1-2)]であることを確認した。収率は84%であった。

【0012】
続いて[化合物(1-2)]7.3mmol(6.0g)にアセトニトリル(70ml)を加え溶液(c)を用意した。別途、ヨウ化メチル2.3g(16mmol)にアセトニトリル(30ml)を加えた溶液(d)を用意した。
室温下、溶液(c)、(d)を混合し5時間攪拌を行った。アセトニトリルを留去し、得られた残渣から再結晶(t-BuOH/MeOH)により目的とする[化合物(1-3)]を白色結晶5.8gとして単離した。収率94%であった。
【0013】
なお、[化合物(1−2)]および [化合物(1−3)]の各種スペクトルデータは次の通りであった。
化合物(1-2)
1H-NMR(300MHz, CDCl3、内部標準はCDCl3中の残留CHCl3):
δ0.90(t,6H),1.28(brs,36H),1.66(brs,4H),2.29(s,12H),2.54-2.59(m,6H),2.85(ddd,2H),3.35(dd,2H),4.09(dt,2H),4.19(dt,2H) IR(NaCl):2923(s),2854(m),1735(s),1460(m),1161(s),1018(m)cm-1
化合物(1-3)
1H−NMR(300MHZ,CDCl3):
δ0.89(t,6H),1.27(brs,36H),1.61(brs,4H),2.85-3.15(m,4H),3.57(s,18H),4.05-4.09(m,4H),4.2-4.3(m,4H),4.5-4.9(m,4H) IR(NaCl):2918(s),2850(m),1727(s),1469(w),1398(s),1338(w),1227(m),1169(s),1034(w)
,949(m) ,916(w),870 (w),721(w)cm-1

【0014】
(実施例2)化合物(II)(R6=n−C12H25,X=Br)の合成
ヨウ化メチルの代わりに、臭化メチルを用いた以外は実施例1と同様に行った。目的物(化合物(1-4)とする)の収率は85%であった。

【0015】
(実施例3)化合物(II)(R6=n−C16H33,X=I)の合成
化合物(1−1)の代わりに、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸 2,3−ジヘキサデシルエステルを用いた以外は実施例1と同様に行った。目的物(化合物(1−5)とする)の収率は80%であった。

【0016】
(実施例6)化合物(III)(R7=n−C12H25,X=Cl)の合成
本反応スキームを下記式(V)に示した。
【化5】



【0017】
反応式(V)は次のように行った。1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸 2,3−ジドデシルエステル[化合物(1−1)]5.7g(10mmol)のDMF(ジメチルホルムアミド)20ml溶液を100mlのナス型フラスコに準備した。ここへ、トリメチルグリシジルアンモニウムクロライド72wt%水溶液(坂本薬品工業製 SY−GTA80)1.25g(2.2mmol)を加え、室温下12時間攪拌した。溶媒留去、乾燥後残渣の一部より分取GPCカラムクロマトにより、目的物(化合物(2−1)とする)を単離した。化合物同定は(1−3)と同様に行った。クロマトの回収量から、(1−1)から(2−1)への転換率は87%であることが分かった。

【0018】
化合物(1−3)(1−4)(2−1)の水溶液を調製し、その臨界ミセル形成濃度(cmc)、臨界ミセル形成濃度における表面張力(γcmc)、を測定した。比較例として、1鎖1極性基型C12アンモニウム塩(セチルトリメチルドアンモニウムブロマイド:CTAB)の測定結果を併せ(表1)に示す。
【表1】







表1より各実施例で得た化合物は、1鎖1極性基型と比べてcmcが小さく、より低濃度から表面張力を低下させるなど、界面活性剤として優れていることが分かる。

【0019】
なお、測定方法は以下の通りである。
[臨界ミセル形成濃度(cmc)]種々の濃度の界面活性剤水溶液(イオン交換水を使用)を調製し、25℃における表面張力をウィルヘルミー型表面張力計にて白金プレート法により求めて、表面張力/濃度・関係図を作成し、その屈曲点より臨界ミセル濃度(cmc)を求めた。
[臨界ミセル形成濃度における表面張力(γcmc)]上記臨界ミセル形成濃度における表面張力より臨界ミセル形成濃度における表面張力(γcmc)を求めた。
【産業上の利用可能性】
【0020】
このように、本発明の、優れた界面活性能を示すカチオン性二鎖二極性基化合物を簡便に合成することが出来た。この活性剤は繊維、製紙工業、塗料、接着、電子・電気製品等に配合されてその優れた界面特性が利用されることなどの他、一般にアンモニウム塩が持つ抗菌、制菌性に着目すると、種々の分野に利用が拡大することが考えられる。

【0021】
この発明は、上記発明の実施の形態及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)で表されるカチオン性二鎖二極性基化合物:
【化1】



ただし、(ア)R1、R2は、炭素数が4〜20のアルキル基、若しくはフッ化アルキル基であり、(イ) Zは、炭素数1〜5のアルキレン基、若しくは水酸基を含むアルキレン基であり、(ウ)R3、R4、R5は、それぞれ炭素数1〜4アルキル基であり、(エ)X-は、ハロゲンイオン、を表わす。

【請求項2】
前記式(I)の化合物が下記式(II)で表される化合物である、ことを特徴とする請求項1に記載のカチオン性二鎖二極性基化合物。
【化2】



ただし、(オ)R6は、炭素数が4〜20のアルキル基、若しくはフッ化アルキル基であり、(カ)X-は、ハロゲンイオンを表わす。

【請求項3】
前記式(I)の化合物が下記式(III)で表される化合物である、ことを特徴とする請求項1に記載のカチオン性二鎖二極性基化合物。
【化3】



ただし、(キ)R7は、炭素数が4〜20のアルキル基、若しくはフッ化アルキル基であり、(ク)X-は、ハロゲンイオンを表わす。


【公開番号】特開2007−176844(P2007−176844A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−375793(P2005−375793)
【出願日】平成17年12月27日(2005.12.27)
【出願人】(596000154)中京油脂株式会社 (13)
【Fターム(参考)】