説明

新規粘着剤、ならびにそれを用いた粘着テープおよび経皮吸収型製剤

【課題】皮膚接着性が良好で、凝集力不足による糊残りがなく、皮膚刺激性も低い粘着剤を提供すること、ならびに、粘着剤層に含有させた薬物の安定性や放出性が良好な経皮吸収型製剤を提供すること。
【解決手段】以下の成分(a)〜(c)を共重合成分として有する共重合体の架橋物を含有してなる粘着剤。
(a)(メタ)アクリル酸アルキルエステル
(b)アセトアセチル基を含有するビニルモノマー
(c)アルコキシル基含有モノマー、カルボン酸ビニルエステル類、ビニルエーテル類、窒素原子含有の複素環を有するビニルモノマー(但し、アセトアセチル基を含有するものを除く)、スチレン誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種の(a)および(b)と共重合可能なビニルモノマー

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規な粘着剤に関する。本発明はまた、それを用いた粘着テープ、より詳細には、皮膚の保護や各種医療用具の固定などを意図して皮膚に貼付する医療用粘着テープに関する。本発明はさらに、該粘着剤を粘着剤層に用いた経皮吸収型製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚の保護や各種医療用具の固定の目的で皮膚に貼付し用いる医療用粘着テープや、皮膚を通して薬物を生体内に投与する目的で皮膚に貼付される経皮吸収型製剤(例えば、経皮吸収テープ製剤)の粘着剤層には、皮膚に貼付する際に充分な粘着力を持ち、かつ使用後には皮膚表面を汚染する(糊残りやベタツキなど)ことなく剥離除去できる性質を有することが求められる。
【0003】
経皮吸収型製剤は、薬物を経皮的に投与するために吸収促進剤を必要とすることがある。吸収促進剤は一般的に、種々あるなかでも、液状のものが多く、吸収促進剤として多量の液状成分を粘着剤層に含有させることで薬物の皮膚への浸透を増強することが可能となっている。しかし、粘着剤層の液状成分含有量を多くすると経皮吸収型製剤の特性として必要とされる凝集力が低くなってしまい、上述したような皮膚表面の糊残りが起きてしまう。
このような粘着剤層の凝集力の低下への対処法として、使用する粘着剤に適当な架橋処理を施して凝集力の向上を図るなど、様々な架橋処理が従来から試みられている。
【0004】
粘着剤の架橋処理として、紫外線照射や電子線照射など放射線照射による物理的架橋や、有機過酸化物、多官能イソシアネート、エポキシ化合物、有機金属塩、金属アルコラート、金属キレート化合物、多官能性化合物などの架橋剤を用いた化学的架橋などが行なわれている。
上記の架橋処理のうち、放射線照射や有機過酸化物、多官能イソシアネート、エポキシ化合物を用いた場合には、粘着剤の性質や添加物の種類によって架橋反応が全く起こらなかったり架橋効率が大きく低下したりすることがある。またこれらの架橋処理を経皮吸収型製剤に用いる場合、架橋反応は起こるものの薬物の分解物が生成してしまうことがある。
【0005】
金属アルコラートや金属キレート化合物といった金属架橋剤を用いると、このような問題を生じることなく架橋処理が可能であることが知られている。
金属アルコラートや金属キレート化合物を医療用粘着テープおよびテープ製剤の架橋剤として用いた例は特許文献1〜5などに開示されている。これらの文献に記載の方法によれば、カルボキシル基および/または水酸基を含有する粘着剤ポリマーに、金属アルコラートや金属キレート化合物を添加すると凝集力が向上する。これはカルボキシル基および/または水酸基と金属とが結合して粘着剤ポリマー間に架橋構造が形成されたことによると考えられる。しかしながら、本願発明者らが検討したところ、カルボキシル基を用いた粘着剤は、皮膚に刺激を与える場合があり、また、薬物を含有させた場合は薬物の安定性に重大な影響を与える場合や薬物放出性に影響を与える場合があった。
一方、水酸基を持つ粘着剤は上記に述べたような影響は少ないが、金属アルコラートや金属キレート化合物による架橋の効率が悪く、適度な凝集力が得られ難いといった欠点があった。このため、例えば特許文献2にはカルボキシル基および/または水酸基の使用量を大きく減少させた粘着剤が開示されているが、官能基を減量した粘着剤で実用的な凝集力を得るためには架橋剤の量の大幅な増加が必要となる。しかしながら、架橋剤量の大幅な増加は、粘着剤に薬物を含有させる場合には含有薬物の安定性に影響を与えることがあり好ましくない。
【特許文献1】特開平3−220120号公報
【特許文献2】特開平4−150865号公報
【特許文献3】特開平4−230212号公報
【特許文献4】特開平7−069869号公報
【特許文献5】国際公開第98/30210号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は皮膚接着性が良好で、凝集力不足による糊残りがなく、皮膚刺激性も低い粘着剤を提供することにある。また、本発明のさらなる目的は、粘着剤層に含有させた薬物の安定性や放出性が良好な経皮吸収型製剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた結果、カルボキシル基や水酸基に代わってアセトアセチル基を粘着剤の架橋点とすることで上記に述べた問題を解決することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。
〔1〕 以下の成分(a)〜(c)を共重合成分として有する共重合体の架橋物を含有してなる粘着剤。
(a)(メタ)アクリル酸アルキルエステル
(b)アセトアセチル基を含有するビニルモノマー
(c)アルコキシル基含有モノマー、カルボン酸ビニルエステル類、ビニルエーテル類、窒素原子含有の複素環を有するビニルモノマー(但し、アセトアセチル基を含有するものを除く)、スチレン誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種の(a)および(b)と共重合可能なビニルモノマー
〔2〕 共重合体における成分(a)の含有率が50重量%〜99.8重量%であり、成分(b)の含有率が0.1重量%〜30重量%であり、成分(c)の含有率が0.1重量%〜49.9重量%である、上記〔1〕に記載の粘着剤。
〔3〕 共重合体と相溶し得る可塑剤をさらに含有し、共重合体と可塑剤との重量比が1:0.1〜1:2である、上記〔1〕または〔2〕に記載の粘着剤。
〔4〕 上記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の粘着剤を含む粘着剤層が支持体の少なくとも片面に形成されている粘着テープ。
〔5〕 医療用のものである、上記〔4〕に記載の粘着テープ。
〔6〕 上記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の粘着剤を含む粘着剤層が支持体の少なくとも片面に形成され、かつ、該粘着剤層に経皮的に投与可能な薬物を含有させてなる、経皮吸収型製剤。
〔7〕 テープ状の形態である、上記〔6〕に記載の経皮吸収型製剤。
【発明の効果】
【0008】
粘着剤の架橋点としてアセトアセチル基を用いる本発明の粘着剤は、良好な皮膚接着性と凝集力とを保持しつつ皮膚刺激性が低いため、粘着テープ(特に医療用途の粘着テープ)の粘着剤層に用いることにより、従来よりも優れた粘着テープを提供する。さらに本発明の粘着剤を経皮吸収型製剤の粘着剤層に用いた場合、従来に比べ薬物安定性に優れた経皮吸収型製剤を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の粘着剤は、以下の成分(a)〜(c)を共重合成分として有する共重合体(以下、本発明の共重合体と称することもある)を架橋してなる粘着剤である。
(a)(メタ)アクリル酸アルキルエステル
(b)アセトアセチル基を含有するビニルモノマー
(c)アルコキシル基含有モノマー、カルボン酸ビニルエステル類、ビニルエーテル類、窒素原子含有の複素環を有するビニルモノマー(但し、アセトアセチル基を含有するものを除く)、スチレン誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種の(a)および(b)と共重合可能なビニルモノマー。
【0010】
本発明の共重合体中の成分(a)である(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、アルキル基の炭素数が4〜18、特に4〜12の(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましい。炭素数が3以下や19以上であると、粘着テープとして用いるのに良好なタックを得るための充分に低いガラス転移温度を持つ粘着剤を得ることが難しくなる。
(メタ)アクリル酸アルキルエステルの具体例としては、アルキル鎖が、ブチル、ペンチル、へキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシルなどの直鎖アルキル基や分岐アルキル基などを有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルが挙げられ、これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
これらのうちでも、常温で粘着性を与えるためにガラス転移温度を低下させるモノマーの使用が好適であり、アルキル基の炭素数が4〜12の(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましい。具体的には、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸シクロへキシル、メタクリル酸シクロへキシルなどが好ましく、中でもホモポリマーが充分に低いガラス転移温度(−70℃)を持っていること、および入手の容易さの理由からアクリル酸2−エチルヘキシルが最も好ましい。上述したような本発明で使用するホモポリマーのガラス転移温度は好ましくは−80℃〜−40℃、特に好ましくは−70℃〜−50℃である。
【0011】
本発明の共重合体中の上記(メタ)アクリル酸アルキルエステルの含有率は少なくとも50重量%以上とするのが好ましい。50重量%未満であると、粘着剤として用いるためのタックが失われる場合があるため好ましくない。より良好なタックを得るためには(メタ)アクリル酸アルキルエステルの含有率は70重量%以上であることがより好ましい。
また、(メタ)アクリル酸アルキルエステルの含有率があまりに大きいと、得られる共重合体の物性がその単独のポリマーの物性に近くなり有用な粘着剤とはなり得ないので、後述する他の共重合成分(b)および(c)を含有させ変性する必要がある。従って、本発明の共重合体中の(メタ)アクリル酸アルキルエステルの含有率は99.8重量%以下であるのが好ましく、95重量%以下であることがより好ましい。
【0012】
本発明では、上記(メタ)アクリル酸アルキルエステルと共重合する第二のモノマー(成分(b))として、アセトアセチル基含有ビニルモノマーを用いる。該ビニルモノマーのアセトアセチル基は架橋に寄与する。アセトアセチル基含有ビニルモノマーの具体例としては、アセト酢酸ビニル、アセト酢酸アリルエステル、ジアセト酢酸アリルエステル、アセトアセトキシエチルメタクリレート、アセトアセトキシエチルアクリレート、アセトアセトキシプロピルメタクリレート、アセトアセトキシプロピルアクリレート、(2−アセトアセトキシプロピル)アリルエーテルなどが挙げられる。本発明の共重合体中のアセトアセチル基含有ビニルモノマーの含有率は0.1重量%〜30重量%の範囲であることが好ましい。0.1重量%未満であると架橋点が少なすぎるため充分な凝集力が得られなくなる。また、30重量%を超えると本発明の共重合体のタックが失われる場合がある。より良好なタックを得るためにアセトアセチル基含有ビニルモノマーの含有率は0.5重量%〜15重量%が好ましく、1重量%〜5重量%がより好ましい。
【0013】
上記の成分(a)および(b)以外に、本発明の共重合体中に成分(a)および(b)と共重合可能なビニルモノマー(成分(c))を含有させる。これは粘着テープや経皮吸収型製剤の粘着力および凝集力の調整や薬物の溶解性および放出性の調整のために用いるものである。本発明の共重合体中の成分(c)の含有率は0.1重量%〜49.9重量%の範囲であることが好ましい。0.1重量%未満であると成分(c)を含有させた効果が十分には発揮されない。また、49.9重量%を超えると共重合体のタックや粘着力が低下する傾向を示す。
成分(c)のビニルモノマーとしては、(メタ)アクリル酸メトキシエチルエステルや(メタ)アクリル酸エトキシエチルエステルなどのアルコキシル基含有モノマー、酢酸ビニルやプロピオン酸ビニルなどのカルボン酸ビニルエステル類、メチルビニルエーテルやエチルビニルエーテルなどのビニルエーテル類、1−ビニル−2−ピロリドン、1−ビニルカプロラクタム、2−ビニル−2−ピペリドン、1−ビニルイミダゾールなどの窒素原子含有の複素環を有するビニルモノマー(但し、アセトアセチル基を含有するものを除く)、スチレン誘導体を用いる。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0014】
本発明の粘着剤は、架橋剤としてチタン、ジルコニウム、亜鉛およびアルミニウムから選ばれる少なくとも1種の金属のアルコラートまたはキレート化合物を用いて化学的に架橋されていることが好ましい。なかでも反応性や取り扱い性の観点から、チタン、ジルコニウム、亜鉛またはアルミニウムのアルコラートあるいは金属キレート化合物が架橋剤として特に好ましい。これらの架橋剤は塗工、乾燥までは溶液の増粘現象を起こさず、極めて作業性に優れている。本発明の粘着剤中の架橋剤の含有率は本発明の共重合体に対し、0.01重量%〜5重量%、好ましくは0.01重量%〜2重量%程度である。
【0015】
上記架橋剤によってゲル化された粘着剤のゲル分率は、50重量%〜85重量%であることが好ましく、60重量%〜80重量%であることがより好ましい。粘着剤のゲル分率が50重量%未満であると、粘着剤に充分な凝集力が付与できず、剥離時に凝集破壊に起因する糊残りや強い皮膚刺激が発現する傾向にある。また粘着剤のゲル分率が85重量%を超えると、凝集力は大きいが充分な皮膚粘着力が得られなくなる傾向にある。
【0016】
本発明の粘着剤には本発明の共重合体と相溶する可塑剤を更に添加してもよい。この成分の添加は粘着剤を可塑化させてソフト感を付与し、本発明の粘着剤を粘着剤層として用いた場合に、粘着テープや経皮吸収型製剤などを皮膚から剥離する時の皮膚接着力に起因する痛みや皮膚刺激性を低減させ得るものである。
従って可塑剤は、可塑化作用を有するものであればいずれのものでも用いることができるが、本発明の粘着剤に薬物を含有させる場合には、経皮吸収性を向上させるため、吸収促進作用を有するものを用いることが好ましい。
【0017】
本発明における好ましい可塑剤としては、オリーブ油、ヒマシ油、スクワレン、ラノリンのような油脂類、ジメチルデシルスルホキシド、メチルオクチルスルホキシド、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルラウリルアミド、メチルピロリドン、ドデシルピロリドンのような有機溶剤類、ポリオキシソルビタン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステルのような液状の界面活性剤類、ジイソプロピルアジペート、フタル酸エステル、ジエチルセバケートのような可塑剤類、流動パラフィンのような炭化水素類、オレイン酸エチル、アジピン酸ジイソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、パルミチン酸オクチル、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸イソトリデシル、ラウリン酸エチルなどの脂肪酸エステル類、グリセリン脂肪酸エステル、プロビレングリコール脂肪酸エステル、エトキシ化ステアリルアルコール、ピロリドンカルボン酸脂肪酸エステルなどが挙げられる。これらはいずれか1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
本発明の共重合体に対する可塑剤の配合割合は、重量比で1:0.1〜1:2、皮膚刺激の観点からは好ましくは1:0.4〜1:2、更に好ましくは1:0.6〜1:2であり、粘着物性を損なわない範囲で可塑剤をなるべく多く含有させることが好ましい。
【0018】
本発明の粘着剤を含む粘着剤層を支持体上に設けて粘着テープ(特に、医療用粘着テープ)とすることができる。また、本発明の粘着剤を含む粘着剤層に薬物を含有させることによって経皮吸収型製剤(特に、経皮吸収テープ製剤)とすることができる。
【0019】
支持体としては、特に限定されないが、粘着剤層に含有される成分が支持体を通って背面から失われて含量低下を起こさないもの、即ち粘着剤層含有成分不透過性の材質から構成されるものが好ましい。
【0020】
支持体の具体例としては、ポリエステル、ナイロン、サラン、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、サーリン(登録商標)、金属箔などの単独フィルム、およびこれらのラミネートフィルムなどが挙げられる。
これらのうち、支持体と粘着剤層との間の接着性(投錨性)を向上させるために、支持体を上記材質からなる無孔シートと多孔シートとのラミネートシートとし、多孔シート側に粘着剤層を形成することが好ましい。
このような多孔シートとしては、支持体と粘着剤層との間の投錨性が向上するものであれば特に限定されないが、例えば、紙、織布、不織布、機械的に穿孔処理したシートなどが挙げられ、特に紙、織布、不織布が好ましい。多孔シートの厚みは投錨性向上および粘着剤層の柔軟性を考慮すると10〜500μmの範囲が好ましい。
また、多孔シートとして織布や不織布を用いる場合、目付量を5〜30g/m、好ましくは8〜20g/mとすることが投錨力向上の点からは好ましい。
【0021】
経皮吸収型製剤とする場合に粘着剤層に含有させる経皮的に投与可能な薬物は所望の目的によって適宜選択される。含有させる薬物の例としては、コルチコステロイド類、鎮痛消炎剤、睡眠鎮静剤、精神安定剤、抗高血圧剤、降圧利尿剤、抗生物質、麻酔剤、抗菌剤、抗真菌剤、ビタミン剤、冠血管拡張剤、抗ヒスタミン剤、性ホルモン、制吐剤、鎮咳剤などの種類の薬物であって、経皮投与可能な薬物が挙げられる。なかでも、本発明の粘着剤の特徴から、カルボキシル基および/または水酸基を含有する粘着剤中では薬物の安定性が極端に低下してしまうような薬物の経皮吸収型製剤を作製する場合に、本発明の粘着剤は特に好ましく用いることができる。
【0022】
これらの薬物の含有量は薬物の種類や投与目的に応じて適宜設定することができるが、通常粘着剤層に1重量%〜40重量%、好ましくは3重量%〜30重量%程度含有させる。選択した薬剤によっても異なるため一義的には言えないが、一般に1重量%未満の場合は治療に有効な量の放出が期待できず、また、40重量%を超えると治療効果に限界が生じると共に経済的に不利である。
【0023】
本発明の粘着テープおよび経皮吸収型製剤の製造方法は特に限定されず、当分野で慣用されている手法を用いることができる。例えば、経皮吸収型製剤の一実施態様である経皮吸収テープ製剤を例に具体的に説明すると、本発明の共重合体、可塑剤、薬物の順で溶媒に溶解または分散させ、最後に架橋剤を添加した溶液または分散液を保護用の剥離シート上に塗布し、乾燥して剥離シートの表面に粘着剤層を形成させ、その後支持体を粘着剤層上に形成させることによって製造することができる。また、上記溶液または分散液を支持体の少なくとも片面に塗布し、乾燥して粘着剤層を支持体表面に形成させる方法によっても製造することができる。該粘着剤層の厚みは通常10μm〜200μm、好ましくは15μm〜150μm、最も好ましくは20μm〜100μmである。
また上記の方法で粘着テープや経皮吸収型製剤を製造した後、架橋反応を完了させるため、また粘着剤層と支持体の投錨性を向上する目的で、室温以上の温度でエージングを行ってもよい。エージング温度は通常25℃〜80℃の範囲であり、好ましくは40℃〜70℃の範囲である。
【実施例】
【0024】
以下に実施例を示し本発明を更に具体的に説明するが、この実施例に本発明は何ら限定されない。なお特に断りのない限り以下において部および%はそれぞれ、重量部および重量%を示す。
【0025】
〈粘着テープ(医療用粘着テープ)〉
実施例1
窒素雰囲気下でアクリル酸2−エチルへキシルエステル50部、アクリル酸2−メトキシエチルエステル25部、酢酸ビニル22部、2−アセトアセトチルオキシエチルメタクリレート(2−アセトアセトキシエチルメタクリレート)3部、酢酸エチル100部、アゾビスイソブチロニトリル0.2部を還流冷却器、攪拌機、温度計、滴下漏斗、窒素導入管付きのセパラブルフラスコ中にて60℃で6時間反応させた後、76℃で18時間反応させ、共重合体A−1を調製した。
共重合体A−1固形分50部にミスチリン酸イソプロピル50部、2−プロパノール20部を加えて混合した。この溶液に共重合体A−1固形分重量に対して0.4%のエチルアセトアセテートアルミニウムジゾイソプロピレートを1%2−プロパノール/アセト酢酸エチル(9/1 v/v)溶液として添加し、酢酸エチルを加えて粘度調整を行った。
得られた溶液を剥離処理したポリエチレンテレフタレートフィルム(75μm)に乾燥後の厚みが40μmとなるように塗布、乾燥して粘着剤層を形成した。この粘着剤層にポリエステル不織布(目付量12g/m)とポリエチレンテレフタレートフィルム(2μm)をラミネートした支持体の不織布側を貼り合わせた後、アルミ包材で密封して70℃で24時間放置し、粘着テープを得た。
【0026】
実施例2
窒素雰囲気下でアクリル酸2−エチルへキシルエステル50部、アクリル酸2−メトキシエチルエステル25部、酢酸ビニル20部、2−アセトアセトチルオキシエチルメタクリレート(2−アセトアセトキシエチルメタクリレート)5部、酢酸エチル100部、アゾビスイソブチロニトリル0.2部を還流冷却器、攪拌機、温度計、滴下漏斗、窒素導入管付きのセパラブルフラスコ中にて60℃で6時間反応させた後、76℃で18時間反応させ、共重合体A−2を調製した。
共重合体A−2固形分50部にミリスチン酸イソプロピル50部、2−プロパノール20部を加えて混合した。この溶液に共重合体A−2固形分重量に対して0.3%のエチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレートを1%2−プロパノール/アセト酢酸エチル(9/1 v/v)溶液として添加し、酢酸エチルを加えて粘度調整を行った。
以下実施例1と同様にして粘着テープを得た。
【0027】
比較例1
エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレートを加えなかった以外は実施例1と同様にして粘着テープを得た。
【0028】
比較例2
窒素雰囲気下でアクリル酸2−エチルへキシルエステル50部、アクリル酸2−メトキシエチルエステル25部、酢酸ビニル22部、アクリル酸3部、酢酸エチル100部、アゾビスイソブチロニトリル0.2部を還流冷却器、攪拌機、温度計、滴下漏斗、窒素導入管付きのセパラブルフラスコ中にて60℃で6時間反応させた後、76℃で18時間反応させ、共重合体B−1を調製した。
共重合体B−1固形分50部にミリスチン酸イソプロピル50部、2−プロパノール20部を加えて混合した。
この溶液に共重合体B−1固形分重量に対して0.3%のエチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレートを1%2−プロパノール/アセト酢酸エチル(9/1 v/v)溶液として添加し、酢酸エチルを加えて粘度調整を行った。
以下実施例1と同様にして粘着テープを得た。
【0029】
〈経皮吸収型製剤(経皮吸収テープ製剤)〉
実施例3
実施例1に従い調製した共重合体A−1固形分45部にミリスチン酸イソプロピル45部、ジアゼパム10部、2−プロパノール20部を加えて混合した。この溶液に共重合体A−1固形分重量に対して0.4%のエチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート(ALCH)を1%2−プロパノール/アセト酢酸エチル(9/1 v/v)溶液として添加し、酢酸エチルを加えて粘度調整を行った。
得られた溶液を剥離処理したポリエチレンテレフタレートフィルム(75μm)に乾燥後の厚みが40μmとなるように塗布、乾燥して粘着剤層を形成した。この粘着剤層にポリエステル不織布(目付量12g/m)とポリエチレンテレフタレートフィルム(2μm)をラミネートした支持体の不織布側を貼り合わせた後、アルミ包材で密封して70℃で24時間放置し、経皮吸収テープ製剤を得た。
【0030】
実施例4
共重合体A−1を実施例2に従い調製した共重合体A−2に変え、0.4%ではなく0.3%のエチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレートを添加した以外は実施例3と同様にして経皮吸収テープ製剤を得た。
【0031】
実施例5
可塑剤をミリスチン酸イソプロピルからセバシン酸ジエチル(添加量は変更せず)に変えた以外は実施例3と同様にして経皮吸収テープ製剤を得た。
【0032】
実施例6
可塑剤をミリスチン酸イソプロピルからセバシン酸ジエチル(添加量は変更せず)に変えた以外は実施例4と同様にして経皮吸収テープ製剤を得た。
【0033】
実施例7
窒素雰囲気下でアクリル酸2−エチルへキシルエステル72部、N−ビニル−2−ピロリドン25部、2−アセトアセトチルオキシエチルメタクリレート(2−アセトアセトキシエチルメタクリレート)3部、酢酸エチル100部、アゾビスイソブチロニトリル0.2部を還流冷却器、攪拌機、温度計、滴下漏斗、窒素導入管付きのセパラブルフラスコ中にて60℃で6時間反応させた後、76℃で18時間反応させ、共重合体A−3を調製した。
共重合体A−3固形分45部にミリスチン酸イソプロピル45部、ジアゼパム10部、2−プロパノール20部を加えて混合した。
この溶液に共重合体A−3固形分重量に対して0.4%のエチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート(ALCH)を1%2−プロパノール/アセト酢酸エチル(9/1 v/v)溶液として添加し、酢酸エチルを加えて粘度調整を行った。
以下実施例3と同様にして経皮吸収テープ製剤を得た。
【0034】
実施例8
窒素雰囲気下でアクリル酸2−エチルへキシルエステル72部、アクリル酸2−メトキシエチルエステル25部、2−アセトアセトチルオキシエチルメタクリレート(2−アセトアセトキシエチルメタクリレート)3部、酢酸エチル100部、アゾビスイソブチロニトリル0.2部を還流冷却器、攪拌機、温度計、滴下漏斗、窒素導入管付きのセパラブルフラスコ中にて60℃で6時間反応させた後、76℃で18時間反応させ、共重合体A−4を調製した。
共重合体A−4固形分95部にフルラゼパム5部、2−プロパノール20部を加えて混合した。この溶液に共重合体A−4固形分重量に対して0.1%のエチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレートを1%2−プロパノール/アセト酢酸エチル(9/1 v/v)溶液として添加し、酢酸エチルを加えて粘度調整を行った。
以下実施例3と同様にして経皮吸収テープ製剤を得た。
【0035】
比較例3
共重合体をA−1ではなく比較例2に従い調製したB−1に変えた以外は実施例3と同様にして経皮吸収テープ製剤を得た。
【0036】
比較例4
窒素雰囲気下でアクリル酸2−エチルへキシルエステル70部、アクリル酸2−メトキシエチルエステル20部、メタクリル酸ヒドロキシエチルエステル10部、酢酸エチル100部、アゾビスイソブチロニトリル0.2部を還流冷却器、攪拌機、温度計、滴下漏斗、窒素導入管付きのセパラブルフラスコ中にて60℃で6時間反応させた後、76℃で18時間反応させ、共重合体B−2を調製した。
共重合体B−2固形分45部にミリスチン酸イソプロピル45部、ジアゼパム10部、2−プロパノール20部を加えて混合した。この溶液に共重合体B−2固形分重量に対して0.5%のエチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレートを1%2−プロパノール/アセト酢酸エチル(9/1 v/v)溶液として添加し、酢酸エチルを加えて粘度調整を行った。
以下実施例3と同様にして経皮吸収テープ製剤を得た。
【0037】
比較例5
窒素雰囲気下でアクリル酸2−エチルへキシルエステル72部、N−ビニル−2−ピロリドン25部、アクリル酸3部、酢酸エチル233部、アゾビスイソブチロニトリル0.2部を還流冷却器、攪拌機、温度計、滴下漏斗、窒素導入管付きのセパラブルフラスコ中にて60℃で6時間反応させた後、76℃で18時間反応させ、共重合体B−3を調製した。
共重合体B−3固形分45部にミリスチン酸イソロピル45部、ジアゼパム10部、2−プロパノール20部を加えて混合した。
この溶液に共重合体B−3固形分重量に対して0.4%のエチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート(ALCH)を1%2−プロパノール/アセト酢酸エチル(9/1 v/v)溶液として添加し、酢酸エチルを加えて粘度調整を行った。
以下実施例3と同様にして経皮吸収テープ製剤を得た。
【0038】
比較例6
窒素雰囲気下でアクリル酸2−エチルへキシルエステル72部、アクリル酸2−メトキシエチルエステル25部、アクリル酸3部、酢酸エチル100部、アゾビスイソブチロニトリル0.2部を還流冷却器、攪拌機、温度計、滴下漏斗、窒素導入管付きのセパラブルフラスコ中にて60℃で6時間反応させた後、76℃で18時間反応させ、共重合体B−4を調製した。
共重合体B−4固形分95部にフルラゼパム5部、2−プロパノール20部を加えて混合した。この溶液に共重合体A−4固形分重量に対して0.2%のエチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレートを1%2−プロパノール/アセト酢酸エチル(9/1 v/v)溶液として添加し、酢酸エチルを加えて粘度調整を行った。
以下実施例3と同様にして経皮吸収テープ製剤を得た。
【0039】
試験例
<ゲル分率の測定>
実施例および比較例の各サンプルを25cmに裁断して粘着剤層の重量(W)を測定した。次にそのサンプルをテトラフルオロエチレン(PTFE)多孔質膜(日東電工製、商品名:テミッシュ)に貼り付け、100mlの酢酸エチルに72時間浸漬した。サンプルを酢酸エチルから取り出し、乾燥させた後の粘着剤層の重量(W)を測定し、下記式によってゲル分率を算出した。
ゲル分率(%)=(W×100)/(W×A/B)
式中、A=(粘着剤+架橋剤)の重量、B=(粘着剤+可塑剤+架橋剤)の重量
<粘着力>
フェノール樹脂板に幅24mm、長さ50mmのサイズに裁断したサンプルを貼付し、荷重850gのローラーを1往復させて密着させた後、23℃、60%RHの条件下30分放置した後、180°方向に300mm/分の速さで剥離させその剥離力を測定した。
またサンプルの粘着剤が充分な凝集力を有していることを確認するため、測定後のフェノール樹脂板における糊残りの有無を見た。
<薬物残存率>
実施例および比較例の経皮吸収テープ製剤の各サンプルを25cmに裁断した後、メタノールで薬物を抽出し、高速液体クロマトグラフィーを用いて粘着剤中の薬物量を測定し、この含量を初期値とした。各サンプルを遮光包材で密封し50℃で1ヶ月保存し、この保存品を用いて初期値の測定時と同様にして粘着剤中の薬物量を測定し、残存量を次式から計算した。
残存量(%)={保存後の薬物含量(g)/初期の薬物含量(g)}×100
【0040】
実施例および比較例の組成等とともに試験例の結果を表1および表2に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
【表2】

【0043】
表中各記号はそれぞれ下記の化合物を表す。
2EHA アクリル酸2−エチルヘキシルエステル
2MEA アクリル酸2−メトキシエチルエステル
VAc 酢酸ビニル
AcAc 2−アセトアセトチルオキシエチルメタクリレート
AA アクリル酸
HEMA メタクリル酸ヒドロキシエチルエステル
ALCH エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート
VP N−ビニル−2−ピロリドン
IPM ミリスチン酸イソプロピル
DES セバシン酸ジエチル
【0044】
表1および表2から明らかなように本発明の粘着テープおよび経皮吸収テープ製剤は比較例のものに比べ、良好な接着性と凝集力を示し、薬物の安定性も良好であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の成分(a)〜(c)を共重合成分として有する共重合体の架橋物を含有してなる粘着剤。
(a)(メタ)アクリル酸アルキルエステル
(b)アセトアセチル基を含有するビニルモノマー
(c)アルコキシル基含有モノマー、カルボン酸ビニルエステル類、ビニルエーテル類、窒素原子含有の複素環を有するビニルモノマー(但し、アセトアセチル基を含有するものを除く)、スチレン誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種の(a)および(b)と共重合可能なビニルモノマー
【請求項2】
共重合体における成分(a)の含有率が50重量%〜99.8重量%であり、成分(b)の含有率が0.1重量%〜30重量%であり、成分(c)の含有率が0.1重量%〜49.9重量%である、請求項1に記載の粘着剤。
【請求項3】
共重合体と相溶し得る可塑剤をさらに含有し、共重合体と可塑剤との重量比が1:0.1〜1:2である、請求項1または2に記載の粘着剤。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の粘着剤を含む粘着剤層が支持体の少なくとも片面に形成されている粘着テープ。
【請求項5】
医療用のものである、請求項4に記載の粘着テープ。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の粘着剤を含む粘着剤層が支持体の少なくとも片面に形成され、かつ、該粘着剤層に経皮的に投与可能な薬物を含有させてなる、経皮吸収型製剤。
【請求項7】
テープ状の形態である、請求項6に記載の経皮吸収型製剤。

【公開番号】特開2007−45917(P2007−45917A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−231220(P2005−231220)
【出願日】平成17年8月9日(2005.8.9)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】