説明

新規組成物

非晶質カルシウム化合物を含む電気紡糸ポリマー繊維、このような繊維を含む口腔衛生組成物、および歯牙硬組織の再石灰化および/または象牙細管のブロックにおけるそれらの使用が記載される。このような組成物は歯のエナメル質の強化、それによる、酸の作用からの保護の提供に用いられる。このような組成物は、歯の浸食および/または歯の摩耗の防除に用いられる。このような組成物は、歯の齲食の防除に用いられる。このような組成物は、象牙質知覚過敏症の防除に用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非晶質カルシウム化合物を含む電気紡糸ポリマー繊維、このような繊維を含む口腔衛生組成物、および歯牙硬組織の再石灰化および/または象牙細管のブロックにおけるそれらの使用に関する。このような組成物は歯のエナメル質の強化、それによる、酸の作用からの保護の提供に用いられる。このような組成物は、歯の浸食(dental erosion)および/または歯の摩耗(tooth mear)の防除(すなわち、その予防、抑制および/または処置の補助)に用いられる。このような組成物は、歯の齲食の防除に用いられる。このような組成物は、象牙質知覚過敏症の防除に用いられる。
【背景技術】
【0002】
歯のミネラルは、主としてカルシウムヒドロキシアパタイトCa10(PO(OH)(炭酸またはフッ素などの陰イオン、および亜鉛またはマグネシウムなどの陽イオンで部分的に置換されていてもよい)から構成される。歯のミネラルはまた、リン酸オクタカルシウムおよび炭酸カルシウムなどの非アパタイト系ミネラル相も含み得る。
【0003】
歯の喪失は、齲食の結果として起こり得る。歯の齲食は、乳酸などの細菌性の酸が完全には再石灰化しない表面下の脱灰をもたらし、その結果、組織の喪失が進行し、最終的には空洞の形成に至る、多因子性の疾患である。歯垢バイオフィルムの存在は齲蝕の前提条件であり、ストレプトコックス・ムタンスなどの酸生成菌が、スクロースなどの容易に発酵する炭水化物のレベルが長期間上昇した場合に病原となり得る。
【0004】
疾患が存在しなくとも、酸による浸食および/または物理的な歯の摩耗の結果として歯牙硬組織の欠損が起こる場合があり、これらのプロセスが相乗的に作用すると考えられている。歯牙硬組織が酸に曝されると脱灰が起こり、その結果、表面が軟化し、ミネラル濃度が低下する。通常の生理条件下では、脱灰された組織は唾液の再石灰化作用によって自己修復する。唾液はカルシウムおよびリン酸に関して過飽和状態であり、健康な個体では、唾液の分泌は酸の作用を洗い流す働きをし、平衡をミネラルの沈着に有利に変化させるようにpHを上昇させる。
【0005】
歯の浸食(すなわち、酸食または酸による摩耗)は、脱灰および最終的には細菌起源ではない酸による歯の表面の完全な溶解を伴う表面現象である。最も一般的には、酸は、果物または炭酸飲料に由来するクエン酸、コーラ飲料に由来するリン酸および食用酢に由来する酢酸などの食事を起源とする。歯の浸食は、胃で産生された塩酸(HCl)と繰り返し接触することによっても起こる場合があり、この場合、塩酸は、胃食道逆流などの不随意応答によって、または過食症患者に見られることがある誘発応答によって口腔内に入り得る。
【0006】
歯の摩耗(すなわち、物理的な歯の摩耗)は、咬耗(attrition)および/または摩耗(abrasion)によって引き起こされる。咬耗は歯の表面がたがいにこすれ合った場合に起こり、すなわち、二体摩耗(two-body wear)の形態である。多くの劇的な例が、歯ぎしり、すなわち、大きな力をかけて歯をすり合わせる癖を持つ対象に見られ、特に咬合面での加速化された摩耗を特徴とする。摩耗(abrasion)は一般に、三体摩耗(three-body wear)の結果として起こり、最も一般的な例は歯磨き剤を用いた歯磨きに関連するものである。完全に石灰化したエナメル質の場合、市販の歯磨き剤によって起こる摩耗のレベルは最小限であり、臨床的な結果はほとんどないか全くない。しかしながら、浸食作用に曝されることによってエナメル質が脱灰および軟化されている場合には、エナメル質は歯の摩耗をより受けやすくなる。象牙質はエナメル質よりも遥かに軟らかく、従って、摩耗をより受けやすい。象牙質が露出した対象は、アルミナに基づく歯磨き剤などの摩耗性の高い歯磨き剤の使用は避けるべきである。この場合にも、浸食作用による象牙質の軟化は組織の摩耗感受性を増大させることになる。
【0007】
象牙質は、in vivoにおいて場所によって(すなわち、それぞれ歯冠か歯根かによって)エナメル質またはセメント質で通常覆われている重要な組織である。象牙質はエナメル質よりも有機物含量が遙かに高く、その構造は、象牙質−エナメル質または象牙質−セメント質接合面から象牙芽細胞/歯髄界面へと走る、体液で満たされた細管が存在することを特徴とする。象牙質知覚過敏症の発症は、象牙芽細胞/歯髄界面付近に位置すると考えられる機械的受容器の刺激をもたらす、露出した細管中の体液流の変化に関連していること(流体力学的理論)が広く受け入れられている。象牙質は、一般にスメア層、すなわち、象牙質自体に由来するミネラルおよびタンパク質から主として構成されるが、唾液由来の有機成分も含む閉塞性の混合物で覆われているので、露出している象牙質の全てが感受性であるわけではない。時間が経つにつれ、細管の内腔は石灰化された組織で徐々に塞がれていく。また、歯髄の外傷または化学的刺激作用に応答して修復性の象牙質が形成されるということも十分に記載されている。しかしながらやはり、浸食作用はこのスメア層および細管の「栓」を除去して、象牙質を熱さ、冷たさおよび圧力などの外的刺激に対する感受性をより高くする場合がある。従前に示されるように、浸食作用はまた、象牙質表面の摩耗感受性を極めて引き上げることもある。象牙質摩耗の進行は、特に象牙質摩耗が急速である場合には、知覚過敏の増大を招くおそれがある。
【0008】
浸食および/または酸媒介性の摩耗による保護的エナメル層の喪失によって下層にある象牙質が露出するが、従って、このようなエナメル層の喪失は象牙質知覚過敏症の発症における主要な病因因子である。
【0009】
象牙質知覚過敏症の処置には、2つの作用様式に基づく2つの治療カテゴリーがある。第一のカテゴリーである神経脱分極剤は、疼痛刺激の神経伝達を妨げることによって作用する硝酸カリウムなどの薬剤である。
【0010】
第二のカテゴリーは、閉塞剤として知られ、象牙細管の露出した末端を物理的にブロックし、それにより、歯液の移動を少なくし、流体力学的理論でいうところの剪断応力に関連した刺激作用を軽減することによって働く。
【0011】
閉塞アプローチは一般に、象牙質細管内または細管上に沈着層を作り出す化学的または物理的薬剤で歯を処置することを含む。この層は細管を機械的に塞ぎ、細管内の歯液の移動をニューロンの刺激に至らない程度に妨げるか、または制限する。閉塞活性剤の例としては、とりわけ、カルシウム塩、シュウ酸塩、第一スズ塩、ガラス類およびワニス類が挙げられる。
【0012】
米国特許第5037639号、同第526816号、同第5437857号、同第5460803号および同第5534244号(全てADAHFに譲渡)には、歯の再石灰化に用いられる種々の非晶質カルシウム化合物が記載されている。これらの特許では、このような非晶質カルシウム化合物またはこれらの非晶質カルシウム化合物を形成する溶液が歯の齲食、歯根の露出および象牙質知覚過敏症などの歯の脆弱を予防または修復する助けとなり得ることが示唆されている。このような化合物は高い溶解度を有し、口腔の水性環境において可溶性の低いアパタイト構造へと変換される速度が速く、これが歯の再石灰化を助け得ることがクレームされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】米国特許第5037639号
【特許文献2】米国特許第526816号
【特許文献3】米国特許第5437857号
【特許文献4】米国特許第5460803号
【特許文献5】米国特許第5534244号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、このような非晶質カルシウム化合物が、それらを電気紡糸ポリマー繊維に配合すると、アパタイト構造への早期変換に対して安定化させることができるという発見に基づくものである。このような電気紡糸繊維は、歯の表面で即座に脱安定化される安定形態の非晶質カルシウム化合物を提供する口腔用組成物として処方することができ、歯牙硬組織の再石灰化および/または象牙細管のブロックに用いられる。
【課題を解決するための手段】
【0015】
よって、第1の態様において、本発明は、非晶質カルシウム化合物を含む電気紡糸ポリマー繊維を提供する。
【0016】
第2の態様において、本発明は、非晶質カルシウム化合物を含む電気紡糸ポリマー繊維を含む口腔衛生組成物、ならびに歯牙硬組織の再石灰化および/または象牙細管のブロックにおけるその使用を提供する。
【0017】
このような組成物は、歯のエナメル質の強化、それによる、酸の作用からの保護の提供に用いられる。このような組成物は、歯の浸食および/または歯の摩耗の防除(すなわち、その予防、抑制および/または処置の補助)に用いられる。このような組成物は歯の齲食の防除に用いられる。このような組成物は象牙質知覚過敏症の防除に用いられる。
【0018】
別の態様において、本発明は、必要とする患者において歯牙硬組織を再石灰化し、かつ/または象牙細管をブロックする方法であって、非晶質カルシウム化合物を含む電気紡糸ポリマー繊維を含む口腔衛生組成物の有効量を投与することを含む方法を提供する。
【0019】
別の態様において、本発明は、歯牙硬組織の再石灰化および/または象牙細管のブロックに用いるための口腔衛生組成物の製造を目的とした非晶質カルシウム化合物を含む電気紡糸ポリマー繊維の使用を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0020】
発明の詳細な説明
適切な非晶質カルシウム化合物は前期のADAHF特許から既知である。適切な非晶質カルシウム化合物の例としては、非晶質リン酸カルシウム(ACP)、非晶質フッ化リン酸カルシウム(ACPF)、非晶質リン酸炭酸カルシウム(ACCP)、非晶質フッ化リン酸炭酸カルシウム(ACCPF)、非晶質フッ化カルシウムおよびそのストロンチウムドープ誘導体、例えば、非晶質リン酸ストロンチウムカルシウム(ASCP)、非晶質フッ化リン酸ストロンチウムカルシウム(ASCPF)、非晶質リン酸炭酸ストロンチウムカルシウム(ASCCP)、非晶質フッ化リン酸炭酸ストロンチウムカルシウム(ASCCPF)またはそれらの混合物などが挙げられる。
【0021】
適切には、非晶質カルシウム化合物はACPもしくはASCPまたはそれらの混合物である。
【0022】
非晶質カルシウム化合物は、例えば前記ADAHF特許に記載されているような、またはLi et al. Materials Science and Technology, 20, 2004, 1075−1078もしくはLi et al, J. Materials Science Letters, 22, 2003, 1015−1016(後者の文献には、ポリエチレングリコールまたはポリビニルアルコールを用いたその調製中に安定化された非晶質カルシウム化合物(ACP)の調製物が記載されている)に記載されているような既知の方法を用いて調製することができる。
【0023】
電気紡糸ポリマー繊維は既知であり、例えば、Greiner et al, Angew. Chem. Int. Ed. 2007, 46, 5670−5703による総論およびそこに記載されている参照文献に記載されているように、電気紡糸ポリマーまたはポリマー溶液によって調製することができる。電気紡糸は、ナノメートルから数ミクロンの範囲のポリマー繊維を紡糸するために使用することができる技術である。
【0024】
本発明の電気紡糸ポリマー繊維は、適切には、10nm〜10μm、例えば、50nm〜5μm、適切には100nm〜1μmの範囲の直径を有する。電気紡糸に適切なポリマーは前記のGreinerらの総論に記載されており、無毒であり、歯の表面に接着するかまたは歯の表面でゲルを形成し、それによって歯の表面への、またはその内部への非晶質カルシウム化合物の送達を増強することができるように歯の表面に実在するものを含む。
【0025】
適切なポリマーの例としては、ポリビニルピロリドン(PVP)またはその誘導体、多糖、セルロースポリマー、アニオン系ポリマー、生体ポリマー、生体崩壊性ポリマー、ポリエチレンオキシド、ポリビニルアルコール、またはアクリルアミドコポリマー、またはそれらの混合物が挙げられる。
【0026】
適切には、前記ポリマーはPVPまたはその誘導体、例えば、ビニルピロリドン・酢酸ビニルコポリマー(VP/VA)もしくはビニルピロリドン・ビニルアルコールコポリマー(VP/VOH)またはそれらの混合物などである。
【0027】
適切には、前記ポリマーは多糖であり、その例としては、デキストラン、アルギン酸塩、プルランもしくはキシログルカン、またはそれらの混合物が挙げられる。
【0028】
適切には、前記ポリマーはセルロースポリマーであり、その例としては、(C1−6)アルキルセルロースエーテル、例えば、メチルセルロース;ヒドロキシ(C1−6)アルキルセルロースエーテル、例えば、ヒドロキシエチルセルロースもしくはヒドロキシプロピルセルロース;(C2−6)アルキレンオキシド修飾(C1−6)アルキルセルロースエーテル、例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース;またはカルボキシ(C1−6)アルキルセルロース、例えば、カルボキシメチルセルロース、あるいはそれらの混合物が挙げられる。
【0029】
適切には、前記ポリマーはアニオン系ポリマーであり、これは同じであっても異なっていてもよい複数のアニオン官能基を含むポリマーを意味する。
【0030】
一実施形態において、前記アニオン系ポリマーは複数のカルボキシ官能基を含むポリカルボキシレートであり、その例としては、ポリアクリル酸、アクリル酸とマレイン酸のコポリマー、メタクリル酸とアクリル酸のコポリマー、アルキルビニルエーテルとマレイン酸もしくは無水マレイン酸のコポリマー、またはカルボン酸、ジカルボン酸もしくは無水ジカルボン酸から選択される親水性モノマーと少なくとも8個の炭素原子を有するα−オレフィンを有する疎水性モノマーの繰り返し単位を有するコポリマー、その完全および部分的加水分解型ならびにその完全および部分的塩が挙げられる。後者のコポリマーは米国特許第6,241,72号(Block)に記載されている。このようなポリカルボキシレートの例として、モル比1:1の無水マレイン酸と1−オクタデセンの交互コポリマー(オクタデセン・無水マレイン酸コポリマーと呼ばれる)であるPA−18がある。
【0031】
適切には、ポリカルボキシレートは、例えば、約1,000〜約1,000,000、例えば、約10,000〜約100,000、または約20,000〜50,000の分子量を有するポリアクリル酸である。適切には、前記ポリアクリル酸は中和形態、例えば、ナトリウム塩またはカリウム塩の形態であってもよい。
【0032】
適切には、前記ポリマーは生体ポリマーであり、その例としては、コラーゲンまたはその加水分解物(例えば、ゼラチン)、エラスチンまたはその加水分解物、絹、フィブリノゲン、キチンもしくはキトサン、またはそれらの混合物が挙げられる。
【0033】
適切には、前記ポリマーは生体崩壊性ポリマーであり、その例としては、ポリラクチド、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、ポリヒドロキシブチレートもしくはポリエステルウレタン、またはこのような生体崩壊性ポリマーのコポリマーもしくはブロックコポリマー、またはそれらの混合物が挙げられる。
【0034】
適切には、前記ポリマーはアクリルアミドコポリマーであり、その例としては、ポリ(アクリルアミド−コ−アクリル酸)またはポリ(アクリル酸−コ−マレイン酸)が挙げられる。
【0035】
本発明の電気紡糸ポリマー繊維は、非晶質カルシウム化合物懸濁液を含有する水、またはより適切には有機溶媒、例えば、C1−6アルカノール(エタノールなど)またはハロゲン化炭化水素(ジクロロメタンまたはクロロホルムなど)などの適切な溶媒中のポリマー溶液を電気紡糸することによって調製することができる。他の適当な有機溶媒としては、酢酸エチルなどのエステル、トルエンもしくはキシレンなどの芳香族炭化水素、アセトンもしくはブタノンなどのケトン、アセトニトリルなどのニトリル、テトラヒドロフランもしくはジエチルエーテルなどのエーテルが挙げられる。
【0036】
適切には、非晶質カルシウム化合物を含むポリマー溶液をシリンジの中へ入れ、シリンジポンプによって金属針の先端へ押しやり、そこで液滴を形成させる。高い電圧がかけられると、この液滴は引き延ばされて、いわゆるテイラーコーンとなる。反発する静電気力が表面張力に打ち勝った際にポリマージェットが生じ、これに静電気反発が打ち勝ち、アースされたターゲットに、非晶質カルシウム化合物を含んだ電気紡糸ポリマー繊維を含む電気紡糸マットの形態で付着される。このマットを回収し、本発明の口腔衛生組成物の調製のために使用することができる。
【0037】
適切には、前記非晶質カルシウム化合物は、歯牙硬組織を再石灰化し、かつ/または象牙細管をブロックするのに有効な量で存在する。有効な量は、例えば、本明細書の実施例に記載されている方法を用いて決定することができる。
【0038】
適切には、前記非晶質カルシウム化合物は、前記電気紡糸ポリマー繊維中に、そのポリマーに対して少なくとも10重量%、例えば、少なくとも20重量%、少なくとも30重量%、少なくとも40重量%、少なくとも50重量%または少なくとも60重量%の量で存在する。
【0039】
一実施形態において、本発明の電気紡糸繊維を含む前記電気紡糸マットは、切断してストリップまたはパッチとすることができ、歯に直接適用するためのデンタルストリップまたはデンタルパッチとして使用することができる。
【0040】
あるいは、前記電気紡糸マットは加工して、例えば微粉化によって、本発明の電気紡糸ポリマー繊維断片とすることもでき、この断片は、所望により、製剤化前にC2−6アルカノール(例えば、エタノール)または他の非水溶液もしくはゲル中で保存することができる。その後、これらの断片を、経口的に許容される担体または賦形剤をさらに含む口腔衛生組成物中に配合することができる。
【0041】
よって、本発明の電気紡糸繊維は、口腔衛生用に適宜成型可能な電気紡糸マットの形態であってもよいし、あるいは口腔衛生組成物中に配合可能なその断片の形態であってもよい。
【0042】
本発明の組成物は一般に、歯磨き剤、スプレー剤、洗口剤、ゲル剤、トローチ剤、チューインガム、錠剤、香錠、インスタント粉末、デンタルストリップおよびデンタルパッチの形態で製剤化される。
【0043】
適切な経口的に許容される担体または賦形剤としては、このような目的の口腔衛生組成物分野に従来用いられているものから選択される、研磨剤、界面活性剤、増粘剤、保湿剤、香味剤、甘味剤、乳白剤または着色剤、保存剤および水が挙げられる。
【0044】
本発明の口腔衛生組成物は、口腔衛生組成物に従来用いられている1または複数の活性剤、例えば、フッ化物イオン源、脱感作剤、歯垢防止剤、歯石防止剤、ホワイトニング剤、口臭剤またはそれらの少なくとも2種類の混合物を含み得る。このような薬剤は所望の治療効果が得られるレベルで含むことができる。
【0045】
このような活性剤は、このような繊維の調製中に本発明の電気紡糸繊維に直接配合してもよいし、あるいは予め形成された電気紡糸繊維および任意の担体または賦形剤とともに口腔衛生組成物に加えてもよい。
【0046】
適切な口腔衛生活性剤および経口的に許容される担体または賦形剤は、例えば、国際公開第WO2008/057136号(Procter & Gamble)または欧州特許第929287号(SmithKline Beecham)に記載されている。
【0047】
適切には、前記口腔衛生組成物はフッ化物イオン源をさらに含む。フッ化物イオン源の例としては、25〜3500pm、好ましくは100〜1500ppmのフッ化物イオンをもたらす量のフッ化ナトリウムなどのアルカリ金属フッ化物、モノフルオロリン酸ナトリウムなどのアルカリ金属モノフルオロリン酸塩、フッ化第一スズまたはフッ化アミンが含まれる。適切なフッ化物イオン源は、フッ化ナトリウムなどのアルカリ金属フッ化物であり、例えば、この組成物は0.1〜0.5重量%のフッ化ナトリウム、例えば0.205重量%(フッ化物イオン927ppmに相当)、0.2542重量%(フッ化物イオン1150ppmに相当)または0.315重量%(フッ化物イオン1426ppmに相当)を含み得る。
【0048】
本発明の組成物は、象牙質知覚過敏症を防除するための脱感作剤をさらに含み得る。脱感作剤の例としては、国際公開第WO02/15809号に記載されているように、細管ブロック剤または神経脱感作剤およびそれらの混合物が挙げられる。適切な脱感作剤としては、塩化ストロンチウム、酢酸ストロンチウムもしくは硝酸ストロンチウムなどのストロンチウム塩、またはクエン酸カリウム、塩化カリウム、重炭酸カリウム、グルコン酸カリウム、特に硝酸カリウムなどのカリウム塩が挙げられる。
【0049】
カリウム塩の脱感作量は一般に全組成物の2〜8重量%の間であり、例えば、5重量%の硝酸カリウムが使用可能である。
【0050】
保存中、使用前の、非晶質カルシウム化合物のヒドロキシアパタイト構造への早期変換を最小限にするために、本発明の組成物は少量(全組成物の適切には20%未満、例えば10%未満または5重量%未満)の非結合水を用いて製剤化することができ、あるいは含む結合水の量が実質的にゼロである無水(すなわち、非水性)であってもよい。
【0051】
本発明の電気紡糸繊維を含み得る適切な無水組成物の例としては、国際公開第WO02/38119号(SmithKline Beecham)および米国特許第5882630号(SmithKline Beecham)に記載されているものがある。
【0052】
本発明の組成物は、適当な相対量の成分を都合のよい任意の順序で混合し、必要に応じて、所望の値、例えば5.5〜9.0となるようにpHを調整することによって調製することができる。
【0053】
本発明を以下の実施例によってさらに説明する。
【0054】
実施例1 ACPおよびPVPを含む電気紡糸マット
a)非晶質リン酸カルシウム(ACP)
CaCl(4.44g)およびポリエチレングリコールPEG(17.76g、分子量約8000)を蒸留水(400ml)に溶かして0.1M溶液を作製した。NaPO(4.36g)を蒸留水(200ml)に加えることにより、リン酸ナトリウム溶液を調製した。両溶液をおよそ5℃に冷却した。NaPO溶液をCaCl/PEG溶液に加えた。およそ5℃で撹拌しながら30分間反応させた。ACP沈殿は、沈殿を不要なイオン(NaおよびCl)を除去するために水で、次いでエタノールで繰り返し洗浄することによって得た。この方法は、ACP粒子に吸着し、溶解度を低下させ、ヒドロキシアパタイトへの変換を阻害するPEGで安定化させたACPを調製するための前記Liらに記載されている方法に基づくものである。
【0055】
b)ACP/PVPマットの電気紡糸
調製したACP粉末(0.5g)を2.5mlのエタノールに加え、1時間音波処理を行った。ポリビニルピロリドンPVP(0.33g、分子量約1,300,000g/mol)をACP/エタノール懸濁液に溶かした。このポリマー溶液を、19G(1.1mm)の針を取り付けた10mlシリンジに入れた。電気紡糸は、室温下、実施距離8cm、印可電圧30kVで行った。電気紡糸マットを、回収プレート上のアルミホイルに回収したところ、60重量%のACPを含有する電気紡糸PVP繊維を含んでいた。
【0056】
実施例2 ASCPおよびPVPを含む電気紡糸マット
a)非晶質リン酸ストロンチウムカルシウム(ASCP)
ストロンチウムドープACP(すなわち、ASCP)は、25重量%のCaClを代わりにSrCl.6HOを用いたこと以外は、実施例1a)に記載の方法に従って調製した。
【0057】
b)ASCP/PVPマットの電気紡糸
実施例1b)に記載の方法を用い、PVPを使用してASCPを電気紡糸したところ、60重量%のASCPを含有する電気紡糸PVP繊維を含む電気紡糸マットが得られた。
【0058】
実施例3 ACPおよびデキストランを含む電気紡糸マット
調製したACP粉末(0.3g)を3.5mlの水に加え、5分間音波処理した。デキストラン(1.88g、分子量約500,000g/mol)をACP/水懸濁液に溶かした。このポリマー溶液を、19G(1.1mm)針を取り付けた10mlシリンジに入れた。電気紡糸は、室温下、実施距離8cm、印可電圧25kVで行った。電気紡糸マットを、回収プレート上のアルミホイルに回収したところ、14重量%のACPを含有する電気紡糸デキストラン繊維を含んでいた。
【0059】
実施例4 エナメル質サンプルの電気紡糸ACP/PVPマットまたはASCP/PVPマットによる処理(再石灰化)
健全なウシ臼歯の側部から歯のサンプルを切り取った。このサンプルを寸法8×5×2mmのポリウレタン鋳型に入れ、エポキシ樹脂(Hitek Electronic Materials, Scunthorpe, UK)に24時間包埋した。サンプルを、研磨装置(Kemet International, Maidstone, UK)と最大1200グリッドの炭化ケイ素ディスクを用いて研削および研磨した。このプロセスによって、口腔環境の過程で化学的に変化したかもしれないエナメル質の表層を除去し、また、分析のために平滑、平坦な表面を露出させた。
【0060】
エナメル質サンプルをクエン酸(1重量%)中で15分間腐食させた。次に、エナメル質の一区画を、他の区画をコーティング無しで残しつつ、Pt/Pd中でコーティングした。このエナメル質に、300ppmのフッ化物を含有する人工唾液溶液を1滴加え、次いで、活性剤(ACP/PVPマットまたはASCP/PVPマット)で処理し、湿潤環境中に1時間置いた。処理したエナメル質を脱イオン水で1時間洗浄し、風乾した後、走査電子顕微鏡(SEM)での観察のためにPt/Pd中でコーティングした。
【0061】
(人工唾液溶液の組成は次の通り:塩化マグネシウム0.2mM、塩化カルシウム二水和物1mM、HEPES20mM、オルトリン酸二水素カリウム4mM、塩化カリウム16mM、塩化アンモニウム4.5mM。pHは1M水酸化カリウムでpH7に調整した。この溶液にフッ化ナトリウム(300ppm)を加えた。)。
【0062】
クエン酸腐食後のエナメル質表面のSEM画像によれば、エナメル質の内部ロッド構造が明らかになった。エナメル質表面をACP/PVP電気紡糸マットで1時間処理し、次いで洗浄した後には、粒状材料の新しい広範囲の表面がSEMを用いて見られた。
【0063】
腐食後のエナメル質の粉末X線回折(PXRD)によれば、本来のエナメル質の結晶特性が示され、ヒドロキシアパタイトピークが明瞭であった。再石灰化後にピーク強度の増大が見られた。
【0064】
SEM下観察用のサンプルの断面図を腐食で除去するためにガリウムイオンのFocussed Ion Beam(FIB)を用い、エナメル質表面の横断面を採取した。同じ歯の一区画をまたACP/PVPマットで処理したところ、再石灰化工程とその後の洗浄中に歯の表面におよそ500nmの材料が沈着したことが示された。
【0065】
第二の実験では、ウシ歯のエナメル質をクエン酸で15分間脱灰した後、ストロンチウムドープACP/PVP電気紡糸マットで処理した。
【0066】
ストロンチウムドープACP/PVPマットによる処理の前後を比較したところ、処理されていないエナメル質が質感の異なる層でコーティングされていることが示された。エナメル質表面の元素分析を処理の前後でEDXA(エネルギー分散型X線分析)を用いて行った。これらの結果は、未処理のエナメル質にはストロンチウムピークは存在せず、ストロンチウムドープACP電気紡糸マットで処理したエナメル質にはストロンチウムが存在することを示した。このことは、電気紡糸マットのストロンチウム−ACPはエナメル質構造中に組み込まれていることを示唆する。
【0067】
これらの結果全体から、湿潤条件下でエナメル質表面にACP/PVPまたはASCP/PVPマットを置くと、マットの溶解により結晶性の低いリン酸カルシウムがエナメル質表面に放出されることが示唆される。フッ化物の存在によって促進されたこのリン酸カルシウムの急速な結晶化がエナメル質表面で起こり、エナメル質に固着した粒状結晶コーティングが得られる。
【0068】
結論として、クエン酸により腐食されたエナメル質は、ACP/PVPまたはASCP/PVP電気紡糸マットおよびフッ化物溶液(300ppm)で1時間処理した後に効果的に再石灰化された。電気紡糸マットからの無機物イオンの組み込みは、ACPをストロンチウムでドープすることによって確認された。このマーカーは、処理済みエナメル質サンプルのEDXAにおいて明瞭に観察された。再石灰化された層は厚さおよそ500nmであることが分かった。このリン酸カルシウムコーティングは、エナメル質との優れた生体適合性を持っている。
【0069】
電子顕微鏡 処理済みエナメル質の画像は、電解放出走査電子顕微鏡(FEG−SEM)JEOL JSM 6330Fを用いて採取した。画像をとる前に、サンプルをカーボンスティッキーパッドでアルミ台にのせ、伝導性のために15nm厚のPt/Pdをスパッタリングした。
【0070】
粉末X線回折(PXRD) サンプルのX線回折図はD8 Advance粉末X線回折装置から得た。回折強度は10〜60°まで0.05°間隔で採取した。
【0071】
エネルギー分散型X線分析(EDXA) EDXAは、Oxford InstrumentsX線分析300分光計を用いて行った。
【0072】
実施例5 エナメル質サンプルの電気紡糸ACP/デキストランマットによる処理(再石灰化)
ウシ歯のエナメル質をクエン酸で15分間脱灰した後、実施例4に記載の手順に従い、ACP/デキストラン電気紡糸マットで処理した。
【0073】
SEMを用いたところ、ACP/デキストランマットによる処理の前後でエナメル質表面にわずかな変化が見られたが、これはこのマットがエナメル質表面に対して再石灰化効果を有することを示唆する。
【0074】
再石灰化に対するACP−デキストランマットの効果に対して再硬化試験を行った。エナメル質サンプルをクエン酸(1重量%)で30分間腐食し、脱イオン水で洗浄し、基準硬度を測定した。次に、エナメル質サンプルを試験活性剤で45分間処理し、人工唾液中に40時間入れた。その後、グラフ1にまとめるように硬度を採取した。このグラフから得られた結果は、ACP/デキストランマットがエナメル質の再石灰化にプラスの影響を持つことを示す。
【0075】

グラフ1 再硬化試験 エナメル質の再石灰化に対するACP−デキストラン電気紡糸マットの効果。
【0076】
実施例6 象牙質の電気紡糸ACP/PVPマットのよる処理
ウシの歯をクエン酸で45分間脱灰して、エナメル質表面の下にある象牙質構造を露出させた。次に、この象牙質を、実施例4に記載の手順に従い、ACP/PVP電気紡糸マットで処理した。SEMを用いたところ、ACP/PVPマットによる処理の前後で象牙質表面に変化が見られたが、これはこのマットが象牙質表面に対して再石灰化効果を有し、象牙細管にリン酸カルシウムを効果的に充填できることを示唆する。
【0077】
実施例7 ACP/PVPまたはASCP/PVPマットを用いたさらなる試験
方法
非晶質リン酸カルシウム(ACP)およびストロンチウムドープ非晶質リン酸カルシウム(ASCP)の調製
ACP
ACPの調製方法は、Li et al. (2003) Journal of Materials Science Letters 22 (14) 1015-1016に記載されているものに基づいた。乾燥方法にいくつか違いがあること以外は、この製法に従った。
【0078】
塩化カルシウム(2.22g)およびポリ(エチレングリコール)(8.88g)を蒸留水(200ml)に溶かして0.1M溶液を作製した。2.18gのNaPOを蒸留水(100ml)に加えることによって0.133Mリン酸ナトリウム溶液を調製した。この溶液をおよそ5℃に冷却し、次に、このリン酸ナトリウム溶液を前記の塩化カルシウム/PEG溶液に加え、およそ5℃にて、激しい攪拌下で30分間反応させた。
【0079】
サンプルを4000rpmで3分間遠心分離することによってACP沈殿を得、上清を除去し、沈殿を水で洗浄して、存在する残留イオン(NaおよびCl)を除去した。その後、水の代わりにエタノールを用いてこの手順を繰り返し、サンプルを洗浄した。沈殿を風乾し、回収し、乳鉢と乳棒を用いて摩砕して微粉末とした。
【0080】
ASCP
ASCP(SrドープACP)の調製方法は、PEG溶液に塩化ストロンチウム六水和物(1.22g)を加えること、ならびにリン酸溶液と混合する前に塩化カルシウム(3.32g)を加えること以外は、ACPに関する記載に従った。
【0081】
電気紡糸マットの調製
PVP/ACP溶液は、ACP 粒子をエタノールに加えた後に十分に混合し、1時間音波処理を行うことによって調製した。次に、この溶液にPVP(標準としてMw約1,300,000g/molを用いた)を加え、十分に混合した。ACP粒子は、表1に概略を示すように、PVP溶液に種々の比率で配合した。
【表1】

表1 電気紡糸のために調製したACP/PVP溶液。
【0082】
同等の溶液粘度を維持するために、溶液中のエタノール量を若干増した。
【0083】
溶液をシリンジに入れ、プログラム可能なシリンジポンプを用いて送達針(内径0.3mm)の先端に送った。紡糸が最適となるように溶液の流速を調節した。高圧電源を用い、電圧を25〜30kVの範囲に維持した。形成されたナノワイヤ(電気紡糸ポリマー繊維)を導電性アルミプレート上で回収した。
【0084】
象牙質サンプルの調製
象牙質サンプルをウシおよびヒト臼歯の側部から切り取った。サンプルを、研磨装置(Kemet International, Maidstone, UK)と最大1200グリッドの炭化ケイ素ディスクを用いて研削および研磨した。このプロセスによって、象牙質の表層を除去し、分析のために平滑、平坦な表面を露出させた。
【0085】
象牙質サンプルをまず、1重量%のクエン酸溶液(pH3.2)中で10分間腐食し、次いで、脱イオン水で十分に洗浄し、風乾した。
【0086】
象牙質の処理
300ppmのフッ化物を含む人工唾液溶液1滴を象牙質(50μl)に加え、次にこれを電気紡糸マット(0.01g)で処理し、湿潤環境に置いた。処理した象牙質を脱イオン水で1時間洗浄し、風乾した後、SEMでの観察のためにPt/Pd中でコーティングした。
【0087】
人工唾液溶液の組成:
塩化マグネシウム0.2mM、塩化カルシウム二水和物1mM、HEPES 20mM、オルトリン酸二水素カリウム4mM、塩化カリウム16mM、塩化アンモニウム4.5mM。pHは1M水酸化カリウムでpH7に調整した。この溶液にフッ化ナトリウム(300ppm)を加えた。
【0088】
酸作用試験
象牙質を電気紡糸マットで処理し、十分に洗浄した後、サンプルを1重量%クエン酸溶液(pH3.2)中に15分間入れた。サンプルを十分に洗浄し、風乾した後、SEMでの観察のためにPt/Pdでコーティングした。
【0089】
機械的作用試験
象牙質を電気紡糸マットで処理した後、サンプルを加圧脱イオン水流下で2分間洗浄した。サンプルを風乾した後、SEMでの観察のためにPt/Pdでコーティングした。対照として、象牙質サンプルを穏やかに攪拌した脱イオン水500ml中で60分間洗浄した。
【0090】
水力学的コンダクタンス試験
ヒト象牙質サンプルを10重量%クエン酸溶液中で2分間腐食し、脱イオン水で十分に洗浄した後、H.C.システムに入れた。アール平衡塩溶液をこのシステムの液体として用いた。流量を3回測定して記録し、このようにして流速の平均値をとることができた。その後、象牙質サンプルを電気紡糸マット(0.005g)で処理し、アール平衡塩溶液で20分間含水させた。その後、液体流量を3回測定し、平均値をとった。検討した電気紡糸マットは0重量%および60重量%ACPマットであった。
【0091】
電気紡糸マットの溶解速度
様々な分子量のPVP粉末の溶解を検討した。PVP粉末(0.1g)を脱イオン水(10ml)中に入れ、一定速度で攪拌した。その後、粉末が完全に溶解するまでの時間を記録した。
【0092】
様々な分子量のPVP(Mw約29,000、Mw約40,000およびMw約1,300,000g/mol)を用い、PVPの電気紡糸マットを調製した。これらの電気紡糸マット(0.1g)をもう一度脱イオン水(10ml)中に入れ、完全に溶解するまでの時間を記録した。
【0093】
結果および考察
リン酸カルシウムの沈着および細管閉塞に対する電気紡糸マットのACP含量の効果
処理前の象牙質のSEM画像から、その表面に模様をなす中空の細管が見られた。電気紡糸ACP(60重量%)マットで1時間処理した後、象牙細管がリン酸カルシウム材料で効果的に塞がっていることがSEMで見て取れた。
【0094】
リン酸カルシウム沈着および細管閉塞を最大化するために電気紡糸マット内にどれくらいのACPが必要とされるのかを確認するため、様々な量のACPを含む電気紡糸マットを調製し、象牙質サンプルで試験した。全てのサンプルに人工唾液溶液を含水させて電気紡糸マットを水和させた。なお、全てのサンプルの処理時間を1時間とした。
【0095】
ACP不含(0重量%)の電気紡糸マットで処理した後の象牙質サンプルのSEM画像を得た。予想されたように、細管閉塞は見られず、表面における材料沈着の証拠も無く、象牙質は処理前の象牙質基体と同等の構造に見えた。この所見は、象牙細管内に沈着されているのはマット内のリン酸カルシウムであって、PVPポリマーではないという認識を裏付ける。
【0096】
10重量%ACPを含有する電気紡糸マットで処理した象牙質基体は少量の材料沈着を示したが、この沈着は細管内部にはもっぱら見られず、象牙質表面の孔を横切っていた。同様の結果が、33重量%のACPを含有する電気紡糸マットで処理した象牙質サンプルでも見られた。
【0097】
酸作用試験
電気紡糸マット(33重量%ACP)で1時間処理し、次いで15分間酸腐食を行った後の象牙質サンプルのSEM画像を得た。これらの画像は、沈着した少量のリン酸カルシウム材料が酸作用下で実質的なものではなかったことを示し、大部分の象牙細管は中空で、表面に見られた粒状物は最少であった。
【0098】
電気紡糸マット(60重量%ACP)で1時間処理し、次いで15分間酸腐食を行った後の象牙質サンプルのSEM画像を得た。これらの画像は、材料が象牙細管内に沈着していたが、材料を含んでいない細管内の領域も少量あった。クエン酸腐食段階前の象牙質表面のSEM画像を比較することにより、細管内の少量の沈着材料は酸腐食の後に除去されていたことを見て取ることができる。これらの画像は、処理段階中に細管内に沈着したリン酸カルシウム材料が酸作用下で比較的実質的なものであったことを示す。この象牙質は15分間の酸作用の後でも細管内に散在する材料の沈着を示した。
【0099】
機械的作用試験
電気紡糸(10重量%ACP)マットで1時間処理し、次いで2分間機械的作用を施した後の象牙質サンプルのSEM画像を得た。この画像は、表面に沈着した少量のリン酸カルシウム材料が実質的なものではなかったことを示し、象牙細管は中空で、表面に見られた粒状物は最少であった。
【0100】
電気紡糸(60重量%ACP)マットで1時間処理し、次いで2分間機械的作用を施した後の象牙質サンプルのSEM画像を得た。象牙質の表面には少量の材料が見られたが、細管自体は材料の沈着がないことが見て取れた。これは、処理中に細管内に沈着したリン酸カルシウムが高レベルの機械的作用下では実質的なものではないことを示唆する。
【0101】
電気紡糸(50重量%Sr−ACP)マットで1時間処理し、次いで2分間機械的作用を施した後の象牙質サンプルのSEM画像を得た。これらの画像は、象牙質の、材料が細管内に沈着して残っている領域と細管が中空の領域を示す。これは、機械的作用に対して小レベルの耐性が存在することを示唆する。
【0102】
水力学的コンダクタンス試験
象牙細管内の流速を、水力学的コンダクタンス(HC)を用いて検討し、細管内のリン酸カルシウム沈着が流量の低下をもたらすかどうかを確認した。
【表2】

表2 0重量%ACPマット処理の前後の象牙質細管の水力学的コンダクタンスを示す表
【0103】
【表3】

表3 60重量%ACPマット処理の前後の象牙質細管の水力学的コンダクタンスを示す表。
【0104】
ACP不含(0重量%)の電気紡糸マットによる処理前後の、象牙質サンプルを通る液体の流速を測定し、結果を表2に示す。予想されたように、これらの結果は、細管を通る液体の平均流速には最小の影響しかないことを示し、処理前後の値はそれぞれ2.5および3.0cm/分であった。この結果は、電気紡糸マット内には、細管を閉塞させ、それを通る液体流を妨げるほどのリン酸カルシウム材料が存在しないということで説明できる。
【0105】
表3は、60重量%ACPを含有する電気紡糸マットによる処理の前後の象牙質サンプルを通る液体の流速を測定するために行ったHC測定の結果を示す。重要なことには、これらの結果は、処理後に、細管を通る平均液体流速に14.3から0.2cm/分への大きな低下があったことを示す。これは、電気紡糸マット内に存在するリン酸カルシウムが処理中に象牙細管内に沈着し、従って、細管を通る液体流を妨げることを示す。
【0106】
電気紡糸マットの溶解速度
電気紡糸マットの溶解速度を、様々な分子量のPVPポリマーを用いて検討した。最初の実験では、PVP粉末の溶解速度を検討し、結果をグラフ2に示す(グラフの上のラインで示される)。分子量とともに溶解時間が長くなっていることが見て取れる。
【表4】

グラフ2 PVP粉末および様々な分子量のマットの溶解速度を示すグラフ。
【0107】
この予備実験に加え、様々な分子量のPVPの電気紡糸マットを作製し(本明細書の実験の節に詳説されている通り)、これらの材料の溶解速度を検討した。結果をグラフ2に示す(グラフの下のラインで示される)。予想されたように、水における電気紡糸PVPマットの溶解速度はPVP粉末と同じ傾向にあり、PVPの分子量が大きいほど、高い溶解速度をもたらした。
【0108】
これらの結果は、電気紡糸マットの溶解速度は、所望の速度を達成する分子量のポリマーを用いて変更することができることを示す。これは、それゆえに歯へのACP送達速度は調整可能であることを示唆する。
【0109】
結論
この実施例に述べられた研究により、ACPの電気紡糸マットが、SEM画像および水力学的コンダクタンス(HC)データによって示されるように、象牙細管を効果的に閉塞させ得ることが確認される。SEM画像は、60重量%ACPの電気紡糸マットで1時間処理した場合、象牙細管の閉塞はそれほど大きくなく、HCデータによれば、これらのリン酸カルシウムマットにより処理が象牙細管を通る液体流速を著しく低下させたことが確認された。
【0110】
細管内のリン酸カルシウム材料は、酸作用下で比較的実質的なものであることが分かったが、リン酸カルシウム沈着および細管閉塞を最大化するには、マット内に最適量のACPが必要とされ、ACP含量が33重量%以下の電気紡糸マットは、実質的な細管閉塞をもたらすのにあまり効果的ではないことが分かった。
【0111】
水溶液中での電気紡糸マットの溶解速度は、用いるポリマーの分子量が大きくなるほど大きくなることが分かった。この結果は、マットの溶解、従って、歯へのACPの送達速度が調整可能であることを示唆する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非晶質カルシウム化合物を含む電気紡糸ポリマー繊維。
【請求項2】
前記非晶質カルシウム化合物が非晶質リン酸カルシウムもしくは非晶質リン酸ストロンチウムカルシウムまたはそれらの混合物である、請求項1に記載の繊維。
【請求項3】
前記ポリマーがポリビニルピロリドン(PVP)もしくはその誘導体、多糖、セルロースポリマー、アニオン系ポリマー、生体ポリマー、生体崩壊性ポリマー、ポリエチレンオキシド、ポリビニルアルコールもしくはアクリルアミドコポリマーまたはそれらの混合物である、請求項1または2に記載の繊維。
【請求項4】
前記ポリマーがPVPまたはその誘導体である、請求項3に記載の繊維。
【請求項5】
口腔衛生活性剤をさらに含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の繊維。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の繊維を含む、口腔衛生組成物。
【請求項7】
口腔衛生活性剤をさらに含む、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
無水組成物である、請求項6または7に記載の組成物。
【請求項9】
歯牙硬組織を再石灰化および/または象牙細管のブロックに用いるための、請求項6〜8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
必要とする患者において歯牙硬組織を再石灰化し、かつ/または象牙細管をブロックする方法であって、請求項6〜8のいずれか一項に記載の口腔用組成物の有効量を投与することを含む、方法。

【公表番号】特表2012−526776(P2012−526776A)
【公表日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−510309(P2012−510309)
【出願日】平成22年5月12日(2010.5.12)
【国際出願番号】PCT/EP2010/056607
【国際公開番号】WO2010/130816
【国際公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【出願人】(397009934)グラクソ グループ リミテッド (832)
【氏名又は名称原語表記】GLAXO GROUP LIMITED
【住所又は居所原語表記】Glaxo Wellcome House,Berkeley Avenue Greenford,Middlesex UB6 0NN,Great Britain
【出願人】(300002942)ザ ユニバーシティ オブ ブリストル (10)
【Fターム(参考)】