説明

新規CXCR4拮抗剤及びその用途

【課題】新規なCXCR4拮抗剤及びその用途を提供する。
【解決手段】本発明は、ジピコリルアミン−亜鉛錯体を有する種々の芳香族性化合物を用いた、低分子量で非ペプチド性の、新規なCXCR4拮抗剤を提供する。また、本発明は、該新規なCXCR4拮抗剤の、抗HIV剤、悪性腫瘍の転移抑制剤、慢性関節リウマチの治療及び/または予防剤としての用途を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CXCR4拮抗作用を有する化合物、及びその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
ケモカインレセプターCXCR4は、7回膜貫通型のG蛋白共役型レセプターであり、CXCL12/ストローマ細胞由来因子−1(SDF−1)のシグナルを変換することが知られている。
【0003】
また、CXCL12−CXCR4枢軸は、HIV感染症、癌細胞の転移/進行、及び、慢性関節リウマチ(RA)を含む種々の疾患に関係することが知られている(非特許文献2〜4)。
【0004】
HIV感染症および後天性免疫不全症候群(エイズ)については、いまだに完全な治療法が確立されておらず、新規な作用機序を有する有用な薬剤の創出が待ち望まれている。CXCR4はT細胞指向性ウイルスが細胞に進入するときのコレセプターであることが知られている(非特許文献2)。
【0005】
癌の転移は患者の余命を左右する重要な要素である。CXCR4は乳癌細胞などにおいてその発現が亢進し、転移先の臓器(リンパ節、肺、肝臓および骨)においてそのリガンドであるCXCL12/SDF−1の発現が亢進していることが報告されている(非特許文献3)。
【0006】
また、CXCR4は、膵臓癌細胞、メラノーマ細胞、前立腺癌細胞、腎臓癌細胞、神経芽細胞腫細胞、非ホジキンリンパ腫細胞、小細胞肺癌(SCLC)細胞、卵巣癌細胞、多発性骨髄腫細胞、慢性リンパ性白血病(CLL)B細胞、pre−B急性リンパ芽球性白血病(ALL)細胞および悪性脳腫瘍細胞を含む、少なくとも23の異なるタイプの癌における悪性細胞上で発現されていることが知られている(非特許文献5)。
【0007】
慢性関節リウマチは主として、炎症を起こした関節滑膜中におけるCD4陽性記憶T細胞の蓄積によって引き起こされる疾患である。慢性関節リューマチ患者の関節腔液内のCD4陽性記憶T細胞においてCXCR4遺伝子発現が亢進し、関節滑膜組織においてCXCL12/SDF−1遺伝子発現が亢進していること、CXCL12がメモリT細胞の移動を刺激し、T細胞のアポトーシスを阻害すること、RA関節滑膜におけるT細胞の蓄積にCXCL12−CXCR4枢軸が重大な役割を果たすことが報告されている(非特許文献4)。
【0008】
このように、CXCR4は上記の疾患を克服するための重要な治療ターゲットであると考えられ、今日までに様々なCXCR4拮抗剤が開発されている。
【0009】
T140は、アミノ酸14残基のペプチド性CXCR4拮抗剤であり、CXCR4に特異的に結合し、T細胞指向性HIV−1(X4−HIV−1)の細胞への侵入を特異的にブロックする。T140の生体内安定型誘導体である4F−ベンゾイル−TN14003及び4F−ベンゾイル−TE14011については、ある種の癌細胞の転移と慢性関節リウマチの動物モデル実験において有意な抑制作用を示し、in vivoで顕著な活性を発揮することが報告されている(非特許文献6)。
【0010】
FC131は、T140のファルマコフォアである、Arg2, Nal3, Tyr5, Arg14を含む環状ペンタペプチドライブラリーから見出された低分子リード化合物であり、T140に匹敵する活性を有する。
【0011】
しかしながら、T140及びFC131はペプチド性化合物であるため、そのままでは経口投与が困難であり、製剤化についての工夫を要する。そのため、非ペプチド化、低分子化及び高活性化されたCXCR4拮抗剤の開発が望まれている。
【0012】
非ペプチド性低分子量化合物であるCXCR4拮抗剤としては、KRH−1636が知られており、CXCR4阻害活性、抗HIV−1活性を有することが報告されている(非特許文献7)。
【0013】
しかしながら、KRH−1636は半減期が長く、体内への蓄積等、安全性についての問題を有していることも知られている。
【0014】
一方、浜地らはジピコリルアミン−亜鉛錯体を有する芳香族化合物がタンパク質、ペプチド中のチロシン残基を認識するプローブとして有効であることを見出した(非特許文献8及び特許文献1)。
【特許文献1】特開2003-246788号公報
【非特許文献1】Journal of Biological Chemistry、第273巻、第4754頁(1998年)
【非特許文献2】Science、第272巻、872-877頁(1996年)
【非特許文献3】Nature、第410巻、50-56頁(2001年)
【非特許文献4】Journal of Immunology、第165巻、6590-6598頁(2000年)
【非特許文献5】Seminars in Cancer Biology、第14巻、171-179頁(2004年)
【非特許文献6】Expert Opinion on Therapeutic Targets、第9巻、1267-1282頁(2005年)
【非特許文献7】Proceedings of the National Academy of Sciences、第100巻、4185-4190頁(2003年)
【非特許文献8】Journal of American Chemical Society、第124巻、6256-6258頁(2002年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、低分子量の非ペプチド性化合物を用いた、新規なCXCR4拮抗剤を提供することを目的とする。また、本発明は、上記CXCR4拮抗剤を用いた、HIV感染症およびエイズ、癌ならびに慢性関節リウマチの、新規な予防及び/または治療手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、これまでタンパク質、ペプチド中のチロシン残基を認識するプローブとして有効であると考えられてきたジピコリルアミン−亜鉛錯体を有する種々の芳香族性化合物が、CXCR4拮抗作用を有し、HIV感染症及びエイズ、転移を含む癌並びに慢性関節リウマチの予防及び/又は治療に有効であることを見出し、さらに研究を行った結果、本発明を完成するに至った。
【0017】
即ち、本発明は、下記の各項に示す発明に関する。
【0018】
項1.一般式(1a):B’−CH−A−CH−B’’
[式中、Aは、置換または非置換のアリーレンもしくは置換または非置換のヘテロアリーレン基を示す。B’及びB’’は、同一または異なって、一般式(2)で表される基を示す。
【化1】

Xは、置換または非置換の含窒素へテロ環基を示す。pは、同一または異なって、1〜2を示す。]
または、
一般式(1b):B’−CH−A’
[式中、A’は、置換または非置換のアリールもしくは置換または非置換のヘテロアリール基を示す。B’は、上記一般式(1a)におけるそれと同様である。]
で表される化合物もしくはその塩を有効成分とする、抗HIV剤。
【0019】
項2.一般式(1a):B’−CH−A−CH−B’’
[式中、Aは、置換または非置換のアリーレンもしくは置換または非置換のヘテロアリーレン基を示す。B’及びB’’は、同一または異なって、一般式(2)で表される基を示す。
【化2】

式中、Xは、置換または非置換の含窒素へテロ環基を示す。pは、同一または異なって、1〜2を示す。]
または、
一般式(1b):B’−CH−A’
[式中、A’は、置換または非置換のアリールもしくは置換または非置換のヘテロアリール基を示す。B’は、上記一般式(1a)におけるそれと同様である。]
で表される化合物もしくはその塩を有効成分とする、悪性腫瘍の転移抑制剤。
【0020】
項3.一般式(1a):B’−CH−A−CH−B’’
[式中、Aは、置換または非置換のアリーレンもしくは置換または非置換のヘテロアリーレン基を示す。B’及びB’’は、同一または異なって、一般式(2)で表される基を示す。
【化3】

Xは、置換または非置換の含窒素へテロ環基を示す。pは、同一または異なって、1〜2を示す。]
または、
一般式(1b):B’−CH−A’
[式中、A’は、置換または非置換のアリールもしくは置換または非置換のヘテロアリール基を示す。B’は、上記一般式(1a)におけるそれと同様である。]
で表される化合物もしくはその塩を有効成分とする、慢性関節リウマチの治療及び/または予防剤。
【0021】
項4.一般式(1a):B’−CH−A−CH−B’’
[式中、Aは、置換または非置換のアリーレンもしくは置換または非置換のヘテロアリーレン基を示す。B’及びB’’は、同一または異なって、一般式(2)で表される基を示す。
【化4】

Xは、置換または非置換の含窒素へテロ環基を示す。pは、同一または異なって、1〜2を示す。]
または、
一般式(1b):B’−CH−A’
[式中、A’は、置換または非置換のアリールもしくは置換または非置換のヘテロアリール基を示す。B’は、上記一般式(1a)におけるそれと同様である。]
で表される化合物もしくはその塩を有効成分とする、CXCR4拮抗剤。
【0022】
一般式(1a)で表される化合物
一般式(1a)において、Aは、置換または非置換のアリーレンもしくは置換または非置換のヘテロアリーレン基を示す。Aが置換アリーレンまたは置換へテロアリーレン基の場合には、Aは通常1〜3個、好ましくは1個の置換基を有するが、これより多くの置換基を有していてもよい。
【0023】
上記アリーレンまたはヘテロアリーレン基の置換基としては、例えば、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、C1−6アルキル基、C1−6アルコキシ基等が挙げられる。
【0024】
ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。
【0025】
1−6アルキル基としては、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、tert−ブチル、sec−ブチル、n−ペンチル、ネオペンチル、n−ヘキシル、イソヘキシル、3−メチルペンチル基等が挙げられる。
【0026】
1−6アルコキシ基としては、例えば、メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、イソプロポキシ、n−ブトキシ、イソブトキシ、tert−ブトキシ、sec−ブトキシ、n−ペントキシ、ネオペントキシ、n−ヘキシルオキシ、イソヘキシルオキシ、3−メチルペントキシ基等が挙げられる。
【0027】
置換または非置換のアリーレンもしくは置換または非置換のヘテロアリーレン基におけるアリーレン基またはヘテロアリーレン基として好ましくは、例えばフェニレン、ビフェニレン、2,2’−ビピリジニレン、ナフチレン、及びアントラセニレン基等が挙げられ、特に好ましくはフェニレン基が挙げられる。
【0028】
一般式(1a)において、B’及びB’’は、同一または異なって、一般式(2)で示される基である。一般式(2)において、Xは、置換または非置換の含窒素ヘテロ環基である。Xが置換基を有する含窒素ヘテロ環基の場合には、Xは通常1〜3個、好ましくは1個の置換基を有するが、これより多くの置換基を有していてもよい。
【0029】
1つの実施形態において、本発明の置換または非置換の含窒素ヘテロ環基としては、置換または非置換の、環が平面構造を有する含窒素ヘテロ環基が好ましい。
【0030】
また、他の実施形態において、本発明の置換または非置換の含窒素ヘテロ環基としては、置換または非置換の、芳香族含窒素ヘテロ環基が好ましい。
【0031】
本発明の置換または非置換の含窒素ヘテロ環基における含窒素へテロ環基としては、例えば、ピリジル、ピラジニル、ピリミジル、ピリダジニル、ピロリル、イミダゾリル、ピラゾリル、キノリル、イソキノリル、インドリル、イソインドリル基等が挙げられる。
【0032】
また、本発明の置換または非置換の含窒素ヘテロ環基における含窒素へテロ環基として好ましくは、ピリジル、ピロリル基等の5〜6員の含窒素ヘテロ環基、特に好ましくはピリジル基等の6員の含窒素へテロ環基が挙げられる。
【0033】
さらに、本発明の置換または非置換の含窒素ヘテロ環基における含窒素へテロ環基としては、2位に窒素原子を有する含窒素ヘテロ環基が好ましく、具体例としては、2−ピリジル、2−ピロリル基等が挙げられる。
【0034】
含窒素へテロ環基の置換基としては、例えば、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、C1−6アルキル基、C1−6アルコキシ基等が挙げられる。
【0035】
一般式(2)において、pは、同一または異なって、1または2であり、好ましくは、1である。なお、Bにおけるpと、B’におけるpとは同一でも、異なっていてもよい。
【0036】
一般式(1a)において、Aに結合するB’とB’’との位置関係は、特に制限されないが、互いに180°の方向に位置することが好ましい。具体的には、例えば、Aがフェニレン、ビフェニレン、2,2’−ビピリジニレン基等である場合、B’−CH−及びB’’−CH−はパラ位でAに結合しているのが好ましく、Aがナフチレン基である場合、B’−CH−及びB’’−CH−はそれぞれナフチレン基の1位及び4位に結合しているのが好ましく、Aがアントラセニレン基の場合、B’−CH−及びB’’−CH−はそれぞれアントラセニレン基の9位及び10位に結合しているのが好ましい。
【0037】
化合物(1b)で表される化合物
一般式(1b)において、A’は、置換または非置換のアリールもしくは置換または非置換のへテロアリール基を示す。
【0038】
上記アリールまたはヘテロアリール基の置換基としては、例えば、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、C1−6アルキル基、C1−6アルコキシ基等が挙げられる。
【0039】
一般式(1b)におけるA’の好ましい例としては、アントラセニル基等が挙げられる。
【0040】
一般式(1b)において、B’は、一般式(1a)におけるB’と同様である。
【0041】
本発明の化合物の塩
本発明の化合物の塩は、薬学的に許容される塩であればよく、特に制限されないが、具体例としては、塩酸塩、硝酸塩、過塩素酸塩等が挙げられる。
【0042】
本発明の化合物の製造方法
一般式(1a)及び(1b)で示される本発明の化合物は、公知化合物であり、公知の方法またはそれに準じる方法により製造することができる。
【0043】
上記本発明の化合物は、例えば、特許文献1や非特許文献8等に開示されている方法、本願の製造例1に記載の方法、またはそれらに準じる方法等により製造することができる。
【0044】
本発明のCXCR4拮抗剤
本発明の化合物は、強力なCXCR4拮抗作用を有しており、CXCR4拮抗剤として有用である。
【0045】
本発明の抗HIV剤
本発明の化合物は、そのCXCR4拮抗作用に基づき、抗HIV剤として使用することができる。
【0046】
HIVは、CD4を(一次)受容体として、それを発現しているヘルパーT細胞やマクロファージに感染し、細胞性免疫機構を破綻に至らせる。HIVの感染には、CD4の他にCD4と協同してウイルスの細胞内侵入を促進する補助因子(コレセプター)が必要であり、CXCR4は、HIV−1が細胞に侵入する際のコレセプターとして知られている(非特許文献2)。本発明の化合物は、CXCR4拮抗作用を有するため、HIV−1の細胞への侵入を阻害することにより、抗HIV活性を示す。
【0047】
本発明の悪性腫瘍の転移抑制剤
本発明の化合物は、そのCXCR4拮抗作用に基づき、悪性腫瘍の転移抑制剤として使用することができる。
【0048】
CXCR4とその内因性のリガンドであるSDF−1との相互作用については、いくつかの癌転移に関与していることが知られている。また、数種の癌細胞の表面にCXCR4が多く発現しており、転移先の臓器ではSDF−1が多く発現していることが知られている。さらに、白血病細胞の表面にはCXCR4が多く存在し、SDF−1がこの細胞を活性化することが知られている(非特許文献3及び5)。これらの知見より、本発明の悪性腫瘍の転移抑制剤は、そのCXCR4拮抗作用に基づき、癌転移抑制作用及び白血病の進行抑制作用を有すると考えられる。
【0049】
本発明の転移抑制剤の治療対象となる悪性腫瘍は、固形悪性腫瘍であっても血液悪性腫瘍であってもよく、具体的には、例えば、膵臓癌、メラノーマ、前立腺癌、腎臓癌、神経芽細胞腫、非ホジキンリンパ腫、小細胞肺癌(SCLC)、卵巣癌、多発性骨髄腫、慢性リンパ性白血病(CLL)、pre−B急性リンパ芽球性白血病(ALL)及び悪性脳腫瘍等が挙げられる。
【0050】
本発明の慢性関節リウマチの治療及び/または予防剤
本発明の化合物は、そのCXCR4拮抗作用に基づき、慢性関節リウマチの治療及び/または予防剤として使用することができる。
【0051】
慢性関節リウマチ(RA)は主として、炎症を起こした関節滑膜中におけるCD4陽性記憶T細胞の蓄積によって引き起こされる疾患である。慢性関節リューマチ患者の関節腔液内のCD4陽性記憶T細胞においてCXCR4遺伝子発現が亢進し、関節滑膜組織においてCXCL12/SDF−1遺伝子発現が亢進していること、CXCL12がメモリT細胞の移動を刺激し、T細胞のアポトーシスを阻害すること、RA関節滑膜におけるT細胞の蓄積にCXCL12−CXCR4枢軸が重大な役割を果たすことが知られている(非特許文献4)。本発明の慢性関節リウマチの治療及び/または予防剤は、CXCR4拮抗作用を有するため、RA関節滑膜におけるT細胞の蓄積を抑制することができ、慢性関節リウマチに対して治療及び/または予防効果を示すと考えられる。
【0052】
本発明のCXCR4拮抗剤、抗HIV剤、癌転移抑制剤、並びに、慢性関節リウマチの治療及び/または予防剤は、治療の目的等に応じて、各種製剤形態で使用し得る。そのような製剤形態としては、錠剤、丸剤、散剤、液剤、懸濁剤、カプセル剤、坐剤、注射剤(液剤、懸濁剤など)、噴霧剤、エアゾール剤、吸入剤、徐放性製剤、腸溶性コーティング剤などを例示できる。これらは更に投与経路に応じて経口剤、非経口剤、経鼻剤、経膣剤、坐剤、舌下剤、軟膏剤などに分類され、それぞれ通常の方法に従い、調合、成形乃至調製することができる。
【0053】
また、本発明のCXCR4拮抗剤、抗HIV剤、癌転移抑制剤、並びに、慢性関節リウマチの治療及び/または予防剤は、製剤の使用形態に応じて通常使用される、賦形剤、希釈剤、充填剤、増量剤、結合剤、付湿剤、崩壊剤、崩壊抑制剤、吸収促進剤、保湿剤、吸着剤、界面活性剤、滑沢剤、緩衝剤、等張化剤、乳化剤、懸濁剤、湿潤剤、保存剤及び分散剤などと共に使用し得る。
【0054】
尚、本発明の製剤中には、必要に応じて着色剤、保存剤、香料、風味剤、甘味剤などや他の医薬品などを含有させることもできる。
【0055】
本発明のCXCR4拮抗剤、抗HIV剤、癌転移抑制剤、並びに、慢性関節リウマチの治療及び/または予防剤の投与方法は、特に制限がなく、各種製剤形態、患者の年齢、性別その他の条件、疾患の程度などに応じて決定される。例えば錠剤、丸剤、液剤、懸濁剤、乳剤、顆粒剤及びカプセル剤は経口投与され、注射剤は単独で又はブドウ糖やアミノ酸などの通常の補液と混合して静脈内投与され、更に必要に応じ単独で筋肉内、皮内、皮下もしくは腹腔内投与され、坐剤は直腸内投与され、経膣剤は膣内投与され、経鼻剤は鼻腔内投与され、舌下剤は口腔内投与される。
【0056】
本発明のCXCR4拮抗剤、抗HIV剤、癌転移抑制剤、並びに、慢性関節リウマチの治療及び/または予防剤の投与量は特に制限されず、用法、患者の年齢、性別その他の条件、疾患の種類、疾患の程度等により適宜選択することができる。
【0057】
本発明のCXCR4拮抗剤、抗HIV剤、癌転移抑制剤、並びに、慢性関節リウマチの治療及び/または予防剤は、その活性の発現に亜鉛を必須とする。従って、EDTA等のキレート剤、キレート作用を有するチオール系化合物等を投与して亜鉛を除去することにより、本発明の化合物は容易にその活性を失わせることができる。また、ピロリン酸やATPなどのポリリン酸種により亜鉛錯体をマスクすることによって、本発明の化合物を失活させることもできる。
【発明の効果】
【0058】
本発明の非ペプチド性化合物は強力なCXCR4拮抗作用を有する。
【0059】
本発明の抗HIV剤は、CXCR4とCXCL12/SDF−1との結合を阻害することにより、HIV感染症及びエイズに対して治療効果を示す。
【0060】
本発明の悪性腫瘍の転移抑制剤は、CXCR4とCXCL12/SDF−1との結合を阻害することにより、悪性腫瘍の転移を抑制する。
【0061】
本発明の慢性関節リウマチの治療及び/または予防剤は、CXCR4とCXCL12/SDF−1との結合を阻害することにより、慢性関節リウマチに対して治療・予防効果を示す。
【0062】
また、本発明CXCR4拮抗剤は、上記の疾患に限らず、CXCR4が関与していると考えられる他の疾患(例えば、火傷、褥瘡等)の治療に応用することができると考えられる。
【0063】
本発明の化合物は公知の方法により、極めて短い工程で簡便かつ安価に製造することができるため、抗HIV剤、悪性腫瘍の転移抑制剤、慢性関節リウマチの治療及び/または治療剤並びにCXCR4拮抗剤を安価に提供することを可能とする。
【0064】
本発明の化合物から、錯体を形成している亜鉛原子を除去することにより、CXCR4拮抗活性は失われる。従って、例えば、本発明の化合物を継続投与中の対象において、副作用等の問題が生じた場合、キレート剤等を投与することにより、速やかにその活性を失わせ、解毒することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0065】
<化合物の製造>
具体的な化合物の合成法として、例えば、以下の方法が挙げられる。
【0066】
<製造例1:ビス(2,2’−ジピコリルアミノ)−p−キシレン・亜鉛錯体の製造>
1.ビス(2,2’−ジピコリルアミノ)−p−キシレンの合成
p-キシレンジアミン(1eq)とピリジン−2−カルバルデヒド(10eq)をClCHにCHCl/ジメチルホルムアミド(9:1)中、室温で加え、NaBH(OAc)を0℃で加え、室温で5時間反応した。縮合反応の進行の程度は、分析用HPLC(コスモジール5C18 AR−IIカラム:アセトニトリル−水)とイオンスプレーマススペクトル解析により調べた。得られた溶液を蒸留水で希釈後、本水溶液を大量分取型HPLC(コスモジール5C18 AR−IIカラム:アセトニトリル−水)により精製し、単一ピークを得、凍結乾燥した。残渣に4M HCl/ジオキサンを加えて、減圧蒸留し、残渣にエーテルを加えて−20℃で5時間放置した。析出した結晶(塩酸塩)を濾取することにより、ビス(2,2’−ジピコリルアミノ)−p−キシレンを得た。純度は、HPLCにより確認した。
【0067】
2.ビス(2,2’−ジピコリルアミノ)−p−キシレン・亜鉛錯体の合成
ビス(2,2’−ジピコリルアミノ)−p−キシレンの塩酸塩に4M NaOH水溶液と酢酸エチルを0℃で加え、分液し、酢酸エチル層を水洗後、無水MgSOで乾燥し、溶媒を減圧留去した。得られた塩酸塩フリーのビス(2,2’−ジピコリルアミノ)−p−キシレンをメタノール/テトラヒドロフラン(8:1)に溶解し、該溶液に、室温で0.5M Zn(NO水溶液(2.1eq)を滴下し、一晩撹拌した。得られた溶液を減圧濃縮及び凍結乾燥した後、残渣を水洗し、メタノール−酢酸エチルで再結晶することにより、ビス(2,2’−ジピコリルアミノ)−p−キシレン・亜鉛錯体(化合物(1c))を得た。亜鉛錯体は、イオンスプレーマススペクトルにより確認した。
【0068】
【化5】

【0069】
<製造例2:9,10−ビス[(2,2’−ジピコリルアミノ)メチル]アントラセン・Zn錯体の製造>
[非特許文献8]の記載に従って、9,10−ビス[(2,2’−ジピコリルアミノ)メチル]アントラセン・亜鉛錯体を製造した。
【0070】
試験例1:CXCR4拮抗活性
ジピコリルアミン−亜鉛錯体を有する種々の芳香族性化合物を調製し、以下の方法により、これらの化合物のCXCR4拮抗作用を調べた。
【0071】
CXCR4トランスフェクトチャイニーズハムスター卵巣(Chinese hamster ovary:CHO)細胞系(3×10cell/100μL/well)を、平底マイクロタイタートレーのウェルに播いた。COインキュベーター中で、37℃で1日インキュベートした後、細胞を、HamのF−12バッファー(80μL/well)中で、37℃で1時間、5μMのFura2−AM(同仁、熊本、日本)、2.5mMのプロベネシッド(Sigma)及び20mMのHEPES(pH7.4)と共にローディングした。
【0072】
その後、Hankの平衡塩類溶液(100μL×2)で2回洗浄し、分光蛍光計(96well Fluorescence Drug Screening System、浜松フォトニクス、日本)に挿入した。測定開始から30秒後、細胞を種々の濃度の被験化合物と共にHankの平衡塩類溶液中でインキュベートし、3分後、組換え型SDF−1a(PreproTech、30nM/40mL/well)を添加した。
【0073】
Fura2−AMをローディングしたCXCR4トランスフェクトCHO細胞系における[Ca2+の変化のリアルタイム記録は、Fura−2法を改良した手順により行った。CXCR4拮抗作用を、CXCR4を介したSDF−1aの刺激によって誘発されるCa2+移動の阻害に基づいて測定した(IC50)。
【0074】
被験物質の構造及びCXCR4拮抗活性を表1〜3に示す。
【0075】
【表1】

【0076】
【表2】

【0077】
【表3】

【0078】
ポジティブコントロールである参考例化合物I(T140)、参考例化合物II(FC131)及び参考例化合物III(KRH−1636)は強いCXCR4拮抗活性を示した。
【0079】
2組の2,2’−ジピコリルアミン−亜鉛錯体ユニット(以下、Dpa・Znユニットと称する)をベンゼン環のパラ位に有する実施例化合物1は、強いCXCR4拮抗活性を示した。2組のDpa・Znユニットをベンゼン環のメタ位に有する実施例化合物2は、実施例化合物1よりも弱い活性を示した。
【0080】
2組のDpa・Znユニットを3,3’位及び4,4’位に有するビフェニル化合物(実施例化合物3及び4)は、それぞれ有意に高いCXCR4拮抗活性を示したが、実施例化合物3よりも実施例化合物4のほうが強い活性を示した。
【0081】
また、実施例化合物3及び4のビフェニルユニットを[2,2’]ビピリジルに置き換えた実施例化合物5及び6についても、CXCR4拮抗活性に著しい違いはみられなかった。2組のDpa・Znユニットを1,4位及び9,10位にそれぞれ有するナフタレン化合物(実施例化合物7)及びアントラセン化合物(実施例化合物9)は、高い活性を示した。Dpa・Znユニットを1組しか有しない実施例化合物8及び、2組のDpa・Znユニットを1,8位に有するアントラセン化合物(実施例化合物10)は、それほど高くはないが、有意なCXCR4拮抗活性を示した。
【0082】
これに対し、実施例化合物1、4、6及び9から亜鉛を除いた化合物である、比較例化合物A〜Dは、10μMまでにいかなる有意な活性も示さなかった。
【0083】
試験例2:CXCR4結合活性
試験例1において強いCXCR4拮抗活性を示した実施例化合物1、4、6、及び7について、CXCR4に対する結合活性を以下の方法により調べた。
【0084】
HamのF−12バッファー(0.5%ウシ血清アルブミン、20mM HEPESバッファー)に懸濁したCXCR4トランスフェクトCHO細胞系を、シリコンコーティングされた試験管中に置いた(5×10cells/120μL/well)。冷SDF−1α(最終濃度0.1μM、15μL/well)及び種々の濃度の被験化合物(15μL/well)を上記試験管に添加し、その後、125I−SDF−1α(Perkinelmer、最終濃度0.1nM、15μL/well)を添加した。0℃で1時間インキュベートした後、オイル(ジブチルフタレート:オリーブオイル=4:1(v/v)、500μL/well)を添加し、その後、14000rpmで2分間遠心分離した。水層及び有機層を除去した後、底部を試験管から切り離し、該底部をラジオイムノアッセイ用カウンティングチューブ内におき、その後カウント毎分(CPM)をγ−カウンターで測定した。125I−SDF−1αの結合に対する被験化合物の阻害率を、下記の方程式により計算した。IC50は、阻害率50%を示す被験化合物の濃度である。
【0085】
阻害率(%)=(Et−Ea)/(Et−Ec)×100
Et:被験化合物を添加しなかった場合の放射線量
Ec:冷SDF−1αを被験化合物として添加した場合の放射線量
Ea:被験化合物を添加した場合の放射線量
結果を表4に示す。これらの化合物は、いずれもCXCR4に対する結合活性を示したが、特に、化合物2のCXCR4結合活性は、参考例化合物III(KRH−1636)に匹敵するものであった。
【0086】
【表4】

【0087】
試験例3:抗HIV活性
実施例化合物中最も好ましく、シンプルである実施例化合物1について、抗HIV−1活性を評価した。抗HIV−1活性は、下記の方法により、MT−4細胞においてHIV−1により誘発される細胞変性に対する阻害効果に基づいて測定した。
【0088】
(1)細胞培養
ヒトT細胞系であるMT−4及びMOLT−4細胞を、10%の熱不活化ウシ胎仔血清、100IU/mLのペニシリン及び100mg/mLのストレプトマイシンを含むRPMI1640培地において培養した。
【0089】
(2)ウイルス
ウイルスとして、X4−HIV−1株であるHIV−1IIIBを使用した。該ウィルスは、HIV−1持続感染MOLT−4/HIV−1IIIB細胞の培養液上清から得られ、使用されるまで−80°Cで保存された。
【0090】
(3)アッセイ
種々の濃度の被験化合物をHIV−1感染MT−4細胞(ウイルス数/細胞数=0.01)に添加し、平底マイクロタイタートレイのウェルに播いた(1.5×10cells/well)。COインキュベーターで5日間、37℃でインキュベートした後、MTT法を用いて生存細胞数を測定した(EC50)。
【0091】
実施例化合物1は、MT−4細胞においてX4−HIV−1により誘発される細胞変性に対する有意な阻害活性を示した(EC50=7.1μM)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1a):B’−CH−A−CH−B’’
[式中、Aは、置換または非置換のアリーレンもしくは置換または非置換のヘテロアリーレン基を示す。B’及びB’’は、同一または異なって、一般式(2)で表される基を示す。
【化1】

Xは、置換または非置換の含窒素へテロ環基を示す。pは、同一または異なって、1〜2を示す。]
または、
一般式(1b):B’−CH−A’
[式中、A’は、置換または非置換のアリールもしくは置換または非置換のヘテロアリール基を示す。B’は、上記一般式(1a)におけるそれと同様である。]
で表される化合物もしくはその塩を有効成分とする、抗HIV剤。
【請求項2】
一般式(1a):B’−CH−A−CH−B’’
[式中、Aは、置換または非置換のアリーレンもしくは置換または非置換のヘテロアリーレン基を示す。B’及びB’’は、同一または異なって、一般式(2)で表される基を示す。
【化2】

Xは、置換または非置換の含窒素へテロ環基を示す。pは、同一または異なって、1〜2を示す。]
または、
一般式(1b):B’−CH−A’
[式中、A’は、置換または非置換のアリールもしくは置換または非置換のヘテロアリール基を示す。B’は、上記一般式(1a)におけるそれと同様である。]
で表される化合物もしくはその塩を有効成分とする、悪性腫瘍の転移抑制剤。
【請求項3】
一般式(1a):B’−CH−A−CH−B’’
[式中、Aは、置換または非置換のアリーレンもしくは置換または非置換のヘテロアリーレン基を示す。B’及びB’’は、同一または異なって、一般式(2)で表される基を示す。
【化3】

Xは、置換または非置換の含窒素へテロ環基を示す。pは、同一または異なって、1〜2を示す。]
または、
一般式(1b):B’−CH−A’
[式中、A’は、置換または非置換のアリールもしくは置換または非置換のヘテロアリール基を示す。B’は、上記一般式(1a)におけるそれと同様である。]
で表される化合物もしくはその塩を有効成分とする、慢性関節リウマチの治療及び/または予防剤。
【請求項4】
一般式(1a):B’−CH−A−CH−B’’
[式中、Aは、置換または非置換のアリーレンもしくは置換または非置換のヘテロアリーレン基を示す。B’及びB’’は、同一または異なって、一般式(2)で表される基を示す。
【化4】

Xは、置換または非置換の含窒素へテロ環基を示す。pは、同一または異なって、1〜2を示す。]
または、
一般式(1b):B’−CH−A’
[式中、A’は、置換または非置換のアリールもしくは置換または非置換のヘテロアリール基を示す。B’は、上記一般式(1a)におけるそれと同様である。]
で表される化合物もしくはその塩を有効成分とする、CXCR4拮抗剤。

【公開番号】特開2007−176876(P2007−176876A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−379167(P2005−379167)
【出願日】平成17年12月28日(2005.12.28)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】