説明

新規versipelostatin誘導体、該誘導体の生産能を有する微生物、及び該微生物を用いた前記誘導体の生産方法、並びに抗がん剤

【課題】高いGRP78発現抑制活性を有し、抗がん作用を示す新規化合物を提供すること。
【解決手段】本発明では、下記化学式(1)で表される化合物、若しくはその塩を提供する。本発明に係る化合物、およびその塩は、GRP78発現抑制活性を有する従来の化合物に比べ、非常に高いGRP78発現抑制活性を有しているため、これを有効成分として医薬品に用いることで、効果の高い新規な抗がん剤の提供を実現することができる。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規versipelostatin誘導体などに関する。より詳細には、GRP78の発現誘導を抑制する作用を有する新規versipelostatin誘導体、該誘導体の生産能を有する微生物、及び該微生物を用いた前記誘導体の生産方法、並びに抗がん剤、該抗がん剤を含有する医薬品組成物、及び該医薬品組成物を含有する医薬品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、抗がん剤などの開発において、GRP78が注目されている。GRP78(Glucose-Regulated Protein 78-kD)は、HSP70ファミリーに属するストレス応答型の分子シャペロンであり、小胞体に存在するタンパク質である。GRP78は、動物細胞において、グルコース飢餓条件下などにおいて、その発現が誘導されることが知られている。
【0003】
固形がんは、一般的に、正常組織と異なり、グルコース飢餓状態の領域を持つことが知られている(非特許文献1)。また、固形がんでは、GRP78の発現が誘導されることが報告されている(非特許文献2)。その他、グルコース飢餓条件化などにおいて、GRP78の発現誘導がアポトーシス誘導を抑制することが報告されている(非特許文献3)。
【0004】
これらの各知見からは、グルコース飢餓状態において、GRP78の発現誘導を抑制することによりアポトーシスなどを惹起できること、即ち、GRP78の発現誘導を抑制することにより飢餓状態の細胞(がん細胞)を死滅できる可能性が示唆されている。そこで、新規抗がん剤として、GRP78の発現誘導を抑制する物質を探索する試みが、各種、行われている(非特許文献1〜6)。
【0005】
例えば、特許文献1では、ストレプトマイセス バーシペリス(Streptomyces versipellis)4083−SVS6株の代謝産物より、GRP78の発現抑制活性を有する下記化学式(2)で示される新規テトロン酸誘導体versipelostatin(別名JL68)化合物(以下、「VST」と称する。)が提案されている。
【0006】
【化2】

【0007】
また、特許文献2では、VSTの特定のケトン基に有機基を導入することにより、VSTと同等のGRP78発現抑制活性を有するにも関わらず、VSTよりも毒性の低い、下記化学式(3)で示される化合物が提案されている。
【0008】
【化3】

【0009】
これら2化合物の発明は、本発明者らが行った発明であり、いずれの化合物もGRP78の発現誘導を抑制する作用を有し、抗がん剤として適用できる可能性を有するものである。
【0010】
【特許文献1】WO2003/044209
【特許文献2】WO2007/004621
【非特許文献1】Tomida A, Tsuruo T. Drug resistance mediated by cellular stress response to the microenvironment of solid tumors. Anticancer Drug Des. 1999 14:169-77.
【非特許文献2】Jamora C, Dennert G, Lee AS. Inhibition of tumor progression by suppression of stress protein GRP78/BiP induction in fibrosarcoma B/C10ME. Proc Natl Acad Sci U S A. 1996 93:7690-7694.
【非特許文献3】Miyake H, Hara I, Arakawa S, Kamidono S. Stress protein GRP78 prevents apoptosis induced by calcium ionophore, ionomycin, but not by glycosylation inhibitor, tunicamycin, in human prostate cancer cells. J Cell Biochem. 2000 77:396-408.
【非特許文献4】Park HR, Furihata K, Hayakawa Y, Shin-ya K. Versipelostatin, a novel GRP78/Bip molecular chaperone down-regulator of microbial origin. Tetrahedron Lett. 43:6941-6945.
【非特許文献5】Park HR, Tomida A, Sato S, Tsukumo Y, Yun J, Yamori T, Hayakawa Y, Tsuruo T, Shin-ya K. Effect on tumor cells of blocking survival response to glucose deprivation. J Natl Cancer Inst. 2004 96:1300-10.
【非特許文献6】Lee AS. The glucose-regulated proteins: stress induction and clinical applications. Trends Biochem Sci. 2001 26:504-510.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
前記で述べた通り、GRP78の発現を抑制する物質の探索は進みつつあるが、その抑制活性の程度は様々であり、更なる開発が期待されているのが現状である。
【0012】
そこで、本発明では、高いGRP78発現抑制活性を有し、抗がん作用を示す新規化合物を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、GRP78発現抑制活性の強度に着目して種々の探索を行った結果、VSTに比べ非常に強い活性を示す化合物を新規に見出し、本発明を完成させるに至った。
【0014】
即ち、本発明では、まず、下記化学式(1)で表される化合物(以下、「JBIR−09」と称する。)、若しくはその塩を提供する。
【化1】


また、本発明では、ストレプトマイセス属に属し、前記化合物JBIR−09の生産能を有する微生物を提供する。
前記化合物JBIR−09の生産能を有する微生物であれば、全て本発明に係る微生物に含有されるが、具体的な一例としては、前記化合物JBIR−09の生産能を有するストレプトマイセス バーシペリス 4083−SVS6株(FERM BP−8179)またはその変異株を挙げることができる。
前記化合物JBIR−09、若しくはその塩の生産方法は特に限定されないが、例えば、ストレプトマイセス属に属し、前記化合物JBIR−09の生産能を有する微生物を培養し、前記化合物JBIR−09を採取する工程を少なくとも行うことで、生産することができる。
この生産方法には、前記化合物JBIR−09の生産能を有する微生物であれば特に限定されずに用いることができるが、例えば、ストレプトマイセス バーシペリス 4083−SVS6株(FERM BP−8179)を用いれば、確実に前記化合物JBIR−09を生産することが可能である。
【0015】
本発明に係る化合物JBIR−09、若しくはその塩は、これを有効成分として抗がん剤に用いることができる。
本発明に係る抗がん剤は、特に、低栄養状態または低酸素状態などの生理的ストレス状態にあるがん細胞に対して細胞死を誘導することで、抗がん作用を発揮する。
本発明に係る抗がん剤は、あらゆるがんに対して抗がん作用を有すると考えられるが、特に、固形がんに対しては、高い抗がん作用を有する。
【0016】
本発明では、更に、前記抗がん剤と、薬理学的に許容され得る添加剤と、を含有する医薬品組成物、及び、該医薬品組成物を含有する医薬品を提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る化合物JBIR−09は、VSTに比べ、非常に強いGRP78発現抑制活性を有しているため、これを有効成分として医薬品に用いることで、効果の高い新規な抗がん剤の提供を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための好適な形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0019】
<本発明に係る化合物>
本発明に係る新規化合物JBIR−09は、前記化学式(1)に示す化学式からなり、GRP78の発現誘導を抑制する作用を有する。このGRP78発現抑制作用により、高い抗がん活性を示す。以下、本発明に係る化合物の性状等を詳しく説明する。
【0020】
まず、本発明に係る化合物JBIR−09の物理学的性状を、表1に示す。
【0021】
【表1】

【0022】
表1中、
(1)「Appearance」は物質の性状を示し、「Colorless amorphous solid」は無色の非結晶質固体であることを示す。
(2)「MP」は融点(Melting Point)を示す。
(3)[α]は、比旋光度を示す。「24」は測定温度を示し、「D」はナトリウムD線を用いて測定したことを示す。「c1.0」は溶液濃度を、「MeOH」はメタノール中で測定したことを示す。
(4)「Molecular formula」は、分子式を示す。
(5)「HR-ESI MS (High-Resolution Electrospray Ionization Mass Spectra)」は高分解能ESI質量分析装置によって測定した、JBIR−09の精密質量(m/z)を示す。「found」は実測値([M-H])を、「calcd」は計算値を示す。
(6)「UV」は紫外線吸収スペクトルを、「λmax nm(logε)」は極大吸収波長およびモル吸光係数を、「MeOH」はメタノール中で測定したことを示す。
(7)「IR」は赤外線吸収スペクトルを、「νmax cm−1」は極大吸収波数を、「KBr」は臭化カリウム錠剤法で測定したことを示す。
【0023】
また、JBIR−09の非糖部分の13C−核磁気共鳴スペクトル及び1H−核磁気共鳴スペクトルを表2に、JBIR−09の糖部分の13C−核磁気共鳴スペクトル及び1H−核磁気共鳴スペクトル表3に示す。
【0024】
【表2】

【0025】
【表3】

【0026】
本発明に係る化合物は、GRP78発現抑制作用を有していれば、前記化合物JBIR−09のみに限定されず、その塩、溶媒和物なども広く包含する。
【0027】
塩としては、例えば、前記化合物JBIR−09のアルカリ金属塩(ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩など)、アルカリ土類金属塩(カルシウム塩、マグネシウム塩など)、金属塩(アルミニウム塩、鉄塩、亜鉛塩、銅塩、ニッケル塩など)、無機塩(酢酸塩、アンモニウム塩など)、有機アミン塩(ジベンジルアミン塩、グルコサミン塩、エチレンジアミン塩、ジエチルアミン塩、トリエチルアミン塩、ジシクロヘキシルアミン塩、ジエタノールアミン塩、テトラメチルアンモニア塩など)、アミノ酸塩(グリシン塩、リジン塩、アルギニン塩、オルニチン塩、アスパラギン塩など)なども本発明に係る化合物に包含する。
【0028】
また、溶媒和物としては、例えば、前記化合物JBIR−09を大気中に放置したり、再結晶をしたりすることにより、水分を吸収、吸着水の付着などで水和物となった溶媒和物も本発明に包含する。
【0029】
更に、本発明に係る各化合物には、生体内において代謝されて本発明に係る各化合物に変換される化合物(プロドラッグ)も全て包含する。
【0030】
<本発明に係る新規化合物の生産方法、及び該生産方法に用いる微生物>
本発明に係る新規化合物JBIR−09等は、それ自体が新規であって、その生産方法は限定されず、あらゆる方法を用いて生産することができる。一例を挙げると、微生物の代謝産物として生産することができる。
【0031】
本発明に係る化合物JBIR−09等の生産に用いることができる微生物は、新規化合物JBIR−09等の生産能を有する微生物であれば特に限定されず、あらゆる微生物を用いて、本発明に係る化合物JBIR−09等を生産することができる。一例としては、ストレプトマイセス属菌などの放線菌が挙げられる。
【0032】
このストレプトマイセス属菌は、本発明に係る化合物JBIR−09の生産能を有するものであれば、特に限定されないが、例えば、ストレプトマイセス バーシペリス 4083−SVS6株およびその変異株を好適に用いることができる。
(1)受託番号:FERMBP−8179
(2)寄託日:平成13年11月16日
(3)寄託機関:独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター
(4)住所:郵便番号305−8566日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6
【0033】
本発明に係る化合物JBIR−09のより具体的な生産方法を説明すると、前記のような本発明に係る化合物JBIR−09の生産能を有する微生物を培養し、その培養物より化合物JBIR−09を分離・精製することにより行う。
【0034】
前記培養のための培地は、特に限定されず、通常の微生物が利用し得る栄養源を含有する培地等を自由に選択して用いることができる。
【0035】
前記栄養源も特に限定されず、従来から培養に利用されている栄養源を自由に選択して用いることができる。具体的には、炭素源としては、グルコース、水飴、デキストリン、澱粉、糖蜜、玄米、油脂類などが使用できる。また、窒素源としては、大豆粉、小麦胚芽、綿実粕、コーンステイープリカー、肉エキス、ペプトン、酵母エキス、などの有機物ならびに硫酸アンモニウム、硝酸ナトリウムなどの無機物が利用できる。その他、必要に応じて、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、コバルト、塩素、燐酸、硫酸及びその他のイオンを生成することができる無機塩類を添加することができる。更に、菌の発育を助け、本発明におけるステロイド化合物の生産を促進するような有機および無機物を適当に添加することができる。
【0036】
培養温度、通気量、培養時間などの培養方法は特に限定されず、用いる微生物に応じて、適宜設定することができる。例えば、放線菌を用いる場合であれば、好気的液体培養法(振盪培養、通気撹拌培養など)が最も適している。この場合の培養温度も特に限定されないが、20〜30℃が好適であり、27℃付近がより好適である。
【0037】
大量液体培養を行う場合、例えば、まず、2〜3日前培養を行った後、本培養を行ってもよい。少量の培地で前培養を行うことにより、菌株の増殖を活性化できるため、前培養後、その培養液を大量の培地に摂取することにより、培養の効率化を図ることができる。
【0038】
次に、前記培養後、培養物から化合物JBIR−09等を分離・精製する。分離・精製方法も、特に限定されず、公知の方法を自由に選択して用いることができる。一例を挙げると、まず、前記培養液を遠心分離又はろ過などした後、菌体成分を回収し、菌体をアセトン等にて抽出する。次に、例えば、シリカゲルなどの担体を用いた吸着カラムクロマト法、ゲル濾過用樹脂を用いたゲルろ過カラムクロマト法、溶媒抽出法、イオン交換樹脂法、分配カラムクロマト法、透析法、沈澱法などを単独で又は適宜組み合わせて抽出精製する方法を用いることができる。
【0039】
<本発明に係る抗がん剤、医薬品組成物、及び医薬品>
本発明に係る抗がん剤は、本発明に係る化合物JBIR−09、若しくはその塩、又はJBIR−09類縁体、若しくはその塩を有効成分として少なくとも含有するもの全てを包含する。
【0040】
本発明に係る抗がん剤は、特に、低栄養状態または低酸素状態などの生理的ストレス状態にあるがん細胞に対して細胞死を誘導することで、抗がん作用を発揮する。後述する実施例2に示すように、逆に、生理的ストレス状態にないがん細胞には、ほとんど影響がないことが分かっている。従って、グルコース飢餓状態の領域を持つ固形がんに対して、特に高い抗がん作用を有する。
【0041】
本発明に係る抗がん剤は、単独で用いることもでき、また既存のあらゆる薬剤等と併用することができる。更には、本発明の抗がん効果を損なわない範囲において、既存のあらゆる薬剤等と合剤とすることもできる。
【0042】
本発明に係る抗がん剤を用いた医薬品の剤型は特に限定されず、既存の剤型に全て適用することができる。一例としては、散剤、細粒剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、懸濁液、エマルジョン剤、シロップ剤、エキス剤、丸剤等の経口剤、注射剤、又は、外用液剤、外用ゲル剤、クリーム剤、軟膏剤、スプレー剤、点鼻液剤等の外用剤などに製剤化することも可能である。
【0043】
前記経口剤には、有効成分である本発明に係る化合物JBIR−09等に加え薬理学的に許容される添加剤を含有させることができる。例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、界面活性剤、保存剤、着色剤、矯味剤、矯臭剤、香料、安定化剤、防腐剤、酸化防止剤、潤沢剤、溶解補助剤、懸濁化剤、コーティング剤等の、医薬製剤の分野で通常使用し得る全ての添加剤を含有させることができる。また、ドラックデリバリーシステム(DDS)を利用して、徐放性製剤等にすることもできる。
【0044】
前記注射剤には、有効成分である本発明に係る化合物JBIR−09等に加え薬理学的に許容される添加剤を含有させることができる。例えば、溶剤、安定剤、溶解補助剤、懸濁化剤、保存剤、等張化剤、防腐剤、酸化防止剤等の、医薬製剤の分野で通常使用し得る全ての添加剤を含有させることができる。
【0045】
前記外用剤には、有効成分である本発明に係る化合物JBIR−09等に加え薬理学的に許容される添加剤を含有させることができる。例えば、基材、保存剤、乳化剤、着色剤、防腐剤、界面活性剤、酸化防止剤等の、医薬製剤の分野で通常使用し得る全ての添加剤を含有させることができる。
【実施例1】
【0046】
実施例1では、本発明に係る化合物JBIR−09の生産能を有する微生物を用いて、本発明に係る化合物JBIR−09を生産した。本実施形態では、前記微生物の一例として、ストレプトマイセス バーシペリス 4083−SVS6株を用いた。
【0047】
(1)ストレプトマイセス バーシペリス 4083−SVS6株の培養
まず、表4に示す組成の前培養培地15mlを、50mlの大型試験管に分注、殺菌後、本菌株を培養スラント上より白金耳接種し、27℃、3日間、培養したものを種母とした。
【0048】
【表4】

【0049】
次に、500ml容コブ付き三角フラスコに、表5に示す組成の生産培地100mlずつ分注後、殺菌した。そして、各フラスコに、上記種母を2mlずつ添加し、ロータリーシェーカー上で、27℃、5日間、培養し、培養液を調製した。
【0050】
【表5】

【0051】
(2)化合物JBIR−09の分離・精製
前記で調製した培養液を遠心分離(10,000rpm、10分間)にかけ、培養上清を回収し、菌体を除去した。回収した培養上清を酢酸エチルにより抽出し、その後、硫酸ナトリウムで脱水した。この脱水後の粗精製物の重量は2.57gであった。
【0052】
脱水後の酢酸エチル抽出物を濃縮乾燥後、クロロホルム:メタノール(20:1)溶液に溶解し、この溶解液をシリカゲルカラム(カラム容量:3.5φX30cm)に供与し、同溶媒にてクロマトグラフィーを行った。続いて、活性を有する画分を集め、濃縮乾固後、メタノールに溶解し、HPLCカラム(Senshu Pak:PEGASIL ODS、20φX250mm、センシュー科学製)に供与し、10ml/minの流速で80%MeOHを用いてクロマトグラフィー行い、本発明に係る化合物JBIR−09を精製した。
【実施例2】
【0053】
実施例2では、実施例1で生産した本発明に係る化合物JBIR−09について、GRP78の発現誘導を抑制する作用の有無を調べた。
【0054】
GRP78は、グルコース飢餓条件下で、発現が誘導されることが知られている。そこで、グルコース飢餓条件と正常条件の両方において、本発明に係る化合物JBIR−09がGRP78の発現誘導を抑制する作用をもつか、GRP78のプロモーター領域を用いたルシフェラーゼアッセイにより調べた。なお、ルシフェラーゼアッセイとは、GRP78のプロモーターが活性化されることでルシフェラーゼ遺伝子が発現し、発光が観察され、この発光量を定量することにより、GRP78の発現量を調べることができる方法である。
【0055】
本実施形態では、ヒト繊維肉腫細胞であるHT1080細胞を用いて行った。培地としては、10%牛胎児血清を含むRPMI1640培地を用いた。また、ベクターとしては、GRP78のプロモーター領域をpGL3 basic (Promega社製)に連結したプラスミドを用いた。また、内部標準としてRenilla luciferase expression plasmid pRL-TK (Promega社製)を用いた。これらのベクターをHT1080細胞にトランスフェクションした。次に、トランスフェクションした培養細胞を、(1)本発明に係る化合物JBIR−09存在下、(2)本発明に係る化合物JBIR−09及び2−デオキシグルコース(2−DG)存在下、(3)VST存在下、(4)VST及び2−デオキシグルコース(2−DG)存在下、で培養し、ルシフェラーゼの活性をdual luciferase kit (Promega社製)を用いて測定した。ここで、2−デオキシグルコース(2−DG)は、グルコース飢餓状態を誘導する化合物である。
【0056】
結果を図1に示す。図1中、縦軸は「ルシフェラーゼ活性」、横軸は「処理した化合物とその濃度をμM」で示す。
【0057】
図1に示す通り、本発明に係る化合物JBIR−09は、VSTと比較して、グルコース飢餓状態でのみ、1/10の低濃度でGRP78の発現を抑制した。なお、サンプル添加群のIC50値(コントロールのルシフェラーゼの値が50%阻害される濃度)は337nMだった。また、グルコース飢餓状態ではない状態では、GRP78の発現に影響を示さないことが確認できた。
【0058】
実施例2では、本発明に係る化合物JBIR−09は、VSTより10倍以上低い濃度で、抗がん活性を示すことが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明に係る化合物JBIR−09は、既存のVSTより非常に低濃度で小胞体ストレス誘発剤によるGRP78の発現上昇を抑制する。この結果より、本発明に係る化合物JBIR−09を利用し、化学療法や放射線療法によるがん治療の際にがん細胞のストレス応答機構を抑制することが可能である。また、がん細胞にこれら化学療法剤や放射線療法に対する高い感受性を付与する薬剤の開発に貢献できる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】実施例2において、本発明に係る化合物JBIR−09のGRP78発現抑制作用を示す図面代用グラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式(1)で表される化合物、若しくはその塩。
【化1】

【請求項2】
ストレプトマイセス属に属し、請求項1記載の化合物の生産能を有する微生物。
【請求項3】
請求項1記載の化合物の生産能を有するストレプトマイセス バーシペリス 4083−SVS6株(FERM BP−8179)またはその変異株。
【請求項4】
ストレプトマイセス属に属し、前記化学式(1)で表される化合物の生産能を有する微生物を培養し、前記化合物を採取する工程を少なくとも行う、請求項1記載の化合物、若しくはその塩の生産方法。
【請求項5】
前記微生物が、ストレプトマイセス バーシペリス 4083−SVS6株(FERM BP−8179)である請求項4記載の生産方法。
【請求項6】
請求項1記載の化合物、若しくはその塩を有効性分とする抗がん剤。
【請求項7】
生理的ストレス状態にあるがん細胞に対して細胞死を誘導する請求項6記載の抗がん剤。
【請求項8】
前記生理的ストレス状態は、低栄養状態または低酸素状態である請求項7記載の抗がん剤。
【請求項9】
固形がんに対して抗がん作用を示す請求項6から8のいずれか一項に記載の抗がん剤。
【請求項10】
請求項6から9のいずれか一項に記載の抗がん剤と、薬理学的に許容され得る添加剤と、を含有する医薬品組成物。
【請求項11】
請求項10記載の医薬品組成物を含有する医薬品。

【図1】
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【公開番号】特開2009−280526(P2009−280526A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−135030(P2008−135030)
【出願日】平成20年5月23日(2008.5.23)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「化合物等を活用した生物システム制御基盤技術開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(500535301)社団法人バイオ産業情報化コンソーシアム (22)
【Fターム(参考)】