説明

方位センサおよび記録媒体

【課題】磁気センサ出力から磁気センサのオフセットを算出する方位センサでは、オフセットを精度良く求めるためには、膨大な計算を行わなければならないという課題があった。
【解決手段】地磁気を検出する磁気センサ1と、磁気センサ出力の中心座標であるオフセットを算出するオフセット算出手段2と、磁気センサの出力を記憶する記憶手段3と、現在のオフセットからの距離を算出する距離算出手段4と、座標点を選択する座標点選択手段5と、選択された座標点に基づき、磁気センサのオフセットを繰り返し更新するオフセット更新手段6と、オフセット算出手段が算出したオフセットを用いて磁気センサ出力を補正した上で方位を算出する方位算出手段7とを有する構成を採用した。これにより、オフセット8を精度良く求めることができ、その結果、精度良い真の方位9を算出することができる様になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地磁気を検出し方位を算出する方位センサと、この方位センサを制御する記録媒体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の走行ナビゲーションシステムや、携帯電話を用いた歩行者用ナビゲーションシステムの実用化が急速化している。このようなシステムでは、地磁気を検出し方位を求める方位センサの搭載が必須である。進行方向を検出する方位センサの誤差が直接ナビゲーションシステムの性能にかかわってくるので、磁気センサを方位センサとして使用したシステムでは磁気センサに高い精度が要求される。
【0003】
一般にナビゲーションシステム等の機器には金属の部品が搭載されるが、これらの部品は強い磁界の中を通過するなどの影響により、それ自体が磁気を帯びることがある。この様な状態を着磁と呼ぶ。
【0004】
磁気センサが地磁気を検出するときの出力電圧は、着磁が全く無い場合は、基準電圧を中心とした出力電圧が得られる。ところが、機器内に着磁した部品が存在すると、磁気センサの出力は、基準電圧にオフセットが加わった電圧を中心とした出力となってしまう。このようなオフセットを含んだ出力から方位を算出すると実際の方位とは一致しなくなる。
【0005】
この方位誤差を補正するため、磁気センサを搭載している機器では機器全体を1回転させ、磁気センサの出力電圧の最大値と最小値の平均を算出して新たな基準電圧(補正値)とする方法を取ることがある。
【0006】
しかし、着磁の状況が変化するたびに機器を回転させ補正する手段は、ユーザにとって非常に煩わしいという問題があるため、機器を回転させずとも磁気センサの複数回の出力値よりオフセットを演算により求める方法が提案された(例えば、特許文献1参照。)。
【0007】
この特許文献1に記載の方法は、周辺の部品の着磁に応じたオフセットを演算にて取得し、そのオフセットを使って方位を補正する方法である。具体的には、着磁後であっても、その後着磁状態が変化しない間にサンプリングされた複数の測定点から、適切なオフセットを算出し、このオフセットを使用して正しい方位を得ようとするものである。
【0008】
この方法について、更に詳細に図面を用いて説明を行う。図4は、方位センサを含む機器を水平状態下で一周回させたときのX軸、Y軸磁気センサのそれぞれの出力の関係を示したものである。本図に示す横軸VxがX軸の磁気センサ出力であり、縦軸VyがY軸の磁気センサ出力である。なお、これらX軸、Y軸磁気センサを備えた機器を一周回させたとき、これら磁気センサ出力は図4において点線で示した軌跡をとる。
【0009】
この図4から、水平状態下でのX軸、Y軸磁気センサの出力値は、円形状となっていることが判る。また、このときの円の半径は地磁気の水平成分に相当する出力値を表しており、円の中心座標O’は、X軸の磁気センサ出力とY軸の磁気センサ出力の原点に対するオフセットを示すこととなる。図4においては、簡単のため点線で出力円を示したが、地磁気は0.5[Gauss]程度の微小信号であるため、本来はかなりの測定誤差を含む。つまり、測定誤差を含む、このX軸の磁気センサ出力とY軸の磁気センサ出力の実測値は、図4の点線付近にばらついたデータが観測される。このように、誤差を含むデータから円
の中心座標O’であるオフセットを精度良く求めるために、特許文献1に示す方位センサはニュートン・ラプソン法を用いる。
【0010】
まず、図5を用いて、従来の方位センサの構成および動作について説明する。
図5に示すように、従来の方位センサは、まず2軸の地磁気方位センサ91により地磁気のXY成分を検出し、上記地磁気方位センサ91から出力される出力値を出力値記憶手段92に記憶し、この記憶されたデータを使って仮想値算出手段93により上記出力円の中心座標値(仮想オフセット)および半径の仮想値を算出する。
【0011】
次に、上記仮想値算出手段93で算出された中心座標値と上記地磁気方位センサ91から出力される出力値との距離Riと、上記仮想値算出手段93で算出された出力円半径との差の累乗和を累乗和算出手段94で算出し、上記累乗和算出手段94で算出された累乗和を最小にする中心座標値および出力円半径算出のため、修正量演算手段96で、ニュートン・ラプソン法を用いて仮想オフセットおよび出力円半径の修正量を演算する。
【0012】
次に、上記修正量演算手段96で演算された仮想オフセットおよび出力円半径の修正量がいずれも基準値以下であるか否かを修正量判別手段97で判別し、上記修正量判別手段97で判別された修正量のいずれかが基準値以上の場合、上記出力円半径の修正量と平均的地磁気強度に基づき上記仮想オフセットに対して上記修正量を加算するか減算するか否かを修正量加減算判別手段98で判別する。
【0013】
次に、上記修正量加減算判別手段98で判別された判別結果と上記修正量演算手段96で演算された修正量に基づき、上記仮想値算出手段93で算出された仮想オフセットを仮想値補正手段95で補正し、上記修正量判別手段97で判別された修正量がいずれも基準値以下の場合、または上記仮想値補正手段95で補正された新仮想オフセットに基づいて上記修正量演算手段96で再度仮想オフセットおよび出力円半径の修正量を演算する。そして、これら各修正量がいずれも基準値以下となった場合には、そのときの算出仮想オフセットに基づき出力円の中心座標値を中心座標値補正手段99で補正する。
【0014】
次に、修正量演算手段96がニュートン・ラプソン法を用いて仮想オフセットを演算する方法を説明する。
仮想中心値で示される座標(X0,Y0)と、地磁気方位センサ91の出力値で示される座標{X(i),Y(i)}との距離Riは、次式で得られる。
【数1】

【0015】
従って、仮想中心値(X0,Y0)および地磁気方位センサ91の出力値で示される距離Riと、仮想地磁気強度R0で示される距離の差の二乗の和J(以下、二乗和という)は下記数2の様に表現することができる。
【0016】
【数2】

ここで最適な中心値、地磁気強度は上記二乗和Jを最小にする。つまり、最適な中心値、地磁気強度を求めるということは、上記二乗和Jを最小にするX0、Y0、R0を求めることに帰着する。
【0017】
一般に関数の最小点では、その関数の導関数が0であるので、この場合、次式(3)(
4)(5)で示される二乗和JのX0、Y0、R0に関するそれぞれの導関数が0となることが必要条件となる。
【0018】
【数3】

ここで、ニュートン・ラプソン法を用いて、次式(6)(7)(8)(9)によりX0、Y0、R0の修正量h、l、mを求める。
【0019】
【数4】

ただし、fiz=∂fi/∂z(二乗和Jの2次偏微分)
【0020】
このようにして得た修正量h、l、mをX0、Y0、R0に、それぞれ加えたものを新たにX0、Y0、R0として、再度式(6)〜(9)を計算する。さらにh、l、mが所定の値以下に収束するまで式(6)〜(9)を繰り返し計算することで、最適な中心値、地磁気強度を求めることができる。このように、仮想オフセットを繰り返し計算することにより、測定誤差を含む、歪んだ出力円の場合においても、目的のオフセットである出力円の中心座標を精度良く算出でき、その結果、このオフセットを用いて方位を正しく補正
することが出来る。
【0021】
【特許文献1】特開平5−107065号公報(第3〜6頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
しかしながら、特許文献1に示した従来の方位センサは、ニュートン・ラプソン法を用いて中心座標を算出するため、計算量が膨大になるという欠点があった。この様に膨大な計算量により方位を求めることは、32bitCPU搭載の高機能なシステムにおいてさえ数秒もの計算時間が掛かり、さらに16/8bitCPU搭載の低機能システムにおいては事実上リアルタイムで方位を求めることが不可能であるという不具合があり、好ましくない。
【0023】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決しようとするもので、計算量を低減し、かつ精度よく磁気センサ出力の中心座標であるオフセットを算出し、真の方位を得ることができる方位センサとこの方位センサを制御する記録媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0024】
上記目的を達成するため、本発明の方位センサと記録媒体は、基本的に下記に示す構造を採用するものである。
【0025】
本発明の方位センサは、地磁気を検出し方位を算出する方位センサであって、2軸以上の地磁気を検出する磁気センサと、磁気センサ出力から現在の仮想オフセットを算出するオフセット算出手段と、磁気センサの出力である複数個の座標点を記憶する記憶手段と、現在の仮想オフセットから、記憶手段に記憶されている複数個の座標点までの各距離を算出する距離算出手段と、距離算出手段で算出した各距離を参照して、現在の仮想オフセットから最も離れている、または最も近い座標点を選択する座標点選択手段と、当該座標点選択手段により選択された座標点を基準として、現在の仮想オフセットを所定量だけ移動させた座標点を現在の仮想オフセットとして更新するオフセット更新手段と、当該オフセット算出手段で更新された現在の仮想オフセットをオフセットとし、当該オフセットを用いて磁気センサ出力を補正した上で方位を算出する方位算出手段と、を有することを特徴とするものである。
【0026】
また、本発明の方位センサは、前述したオフセット更新手段が、現在の仮想オフセットから最も離れている座標点を選択する場合、座標点選択手段により選択された座標点が存在する方向に現在の仮想オフセットを移動させて現在の仮想オフセットを更新し、現在の仮想オフセットから最も近い座標点を選択する場合、その反対方向に現在の仮想オフセットを移動させて、現在の仮想オフセットを更新することを特徴とするものである。
【0027】
また、本発明の方位センサは、前述したオフセット更新手段にて更新された現在の仮想オフセットが、距離算出手段と座標点選択手段とオフセット更新手段とを、順に所定回数m回繰り返し行って得られるものであることを特徴とするものである。
【0028】
また、本発明の方位センサは、前述した現在の仮想オフセットを移動させる移動量を、前回行った前記オフセット更新手段における前記座標点の移動量に比べて小さくすることを特徴とするものである。
【0029】
本発明の記録媒体は、磁気センサ出力から現在の仮想オフセットを算出するオフセット算出手段と、磁気センサの出力である複数個の座標点を記憶する記憶手段と、現在の仮想オフセットから、記憶手段に記憶されている複数個の座標点までの各距離を算出する距離
算出手段と、距離算出手段で算出した各距離を参照して、現在の仮想オフセットから最も離れている、または最も近い座標点を選択する座標点選択手段と、座標点選択手段により選択された座標点を基準として、現在の仮想オフセットを所定量だけ移動させた座標点を現在の仮想オフセットとして更新するオフセット更新手段と、オフセット算出手段で更新された現在の仮想オフセットをオフセットとし、当該オフセットを用いて磁気センサ出力を補正した上で方位を算出する方位算出手段と、を有するプログラムを記録したことを特徴とするものである。
【0030】
また、本発明の記録媒体は、前述したオフセット更新手段が、現在の仮想オフセットから最も離れている座標点を選択する場合に、座標点選択手段により選択された座標点が存在する方向に現在の仮想オフセットを移動させて現在の仮想オフセットを更新し、現在の仮想オフセットから最も近い座標点を選択する場合に、その反対方向に現在の仮想オフセットを移動させて現在の仮想オフセットを更新することを特徴とするものである。
【0031】
また、本発明の記録媒体は、前述したオフセット更新手段にて更新された現在の仮想オフセットが、距離算出手段と座標点選択手段とオフセット更新手段とを、順に所定回数m回繰り返し行って得られるものであることを特徴とするものである。
【0032】
また、本発明の記録媒体は、前述した現在の仮想オフセットを移動させる移動量を、前回行ったオフセット更新手段における座標点の移動量に比べて小さくすることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0033】
本発明の方位センサおよび記録媒体は、磁気センサから出力される座標点の距離という簡単な計算に基づきオフセットを算出するオフセット算出手段を設けたため、方位を演算するにあたって計算量を低減できる。また、本発明の方位センサは、繰り返しオフセットを更新するオフセット更新手段を設けたため、精度よくオフセットを求めることができる。また、この精度の良いオフセットを用いることにより、精度の良い方位を算出できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下図面により本発明の実施の形態を詳述する。
図1は、本発明の方位センサを示す構成図である。図2は、本発明の方位センサのオフセット算出手段で行うフローチャートである。図3は、本発明の方位センサの実験結果を示す図である。
【0035】
[構造および動作説明:図1]
まず、本発明の方位センサの構成について図1を用いて説明する。
図1に示す様に、本発明の方位センサは、2軸以上の地磁気を検出する検出する、磁気抵抗素子(MR素子)や、フラックスゲート型の磁気センサ1と、オフセットを算出するオフセット算出手段2と、算出されたオフセットを用いて補正した方位を算出する方位算出手段7を有して構成される。なお、符号10は磁気センサ出力を、符号8はオフセット算出手段2により算出されたオフセットを、符号9は補正された方位を示している。
【0036】
次に、本発明の方位センサを構成する各構成要件が果たす機能について図1を用いて説明する。
図1に示す様に、磁気センサ1は、地磁気を検出して、オフセット算出手段2と方位算出手段7とに磁気センサ出力10をそれぞれ出力する。この磁気センサ出力10は、地磁気による出力に加えて、着磁の影響によるオフセットが含まれたものとなる
【0037】
また、オフセット算出手段2は、磁気センサの出力である複数個の座標点を記憶する記
憶手段3と、現在の仮想オフセットからの、上記複数個の座標点までの各距離を算出する距離算出手段4と、記憶手段3と距離算出手段4を参照して、現在の仮想オフセットから最も離れている座標点を選択する座標点選択手段5と、ここで選択された座標点に基づき新たに得られる仮想オフセットを更新するオフセット更新手段6とを有して構成される。その具体的手順については、後段で詳細に説明する。
【0038】
そして、磁気センサ出力10の情報に基づきオフセット8を算出し、方位算出手段7に出力する。方位算出手段7は、磁気センサ出力10からオフセット8を差し引き、地磁気のみの出力を抽出してオフセット補正し、真の方位9を算出する。
【0039】
[動作説明:図2]
次に、本発明の方位センサの特徴となるオフセット算出手段の動作について図2を用いて説明する。図2は、図1におけるオフセット算出手段2に含まれる記憶手段3、距離算出手段4、座標点選択手段5、オフセット更新手段6の動作を説明するためのフロー図である。
【0040】
図2に示す様に、まず、ステップS1で、図1に示した、様々な角度で出力される磁気センサ1からの磁気センサ出力10を記憶手段3に格納する。この際、算出するオフセットの精度を高めるために座標が分散したデータを選択的に格納するのが望ましい。
【0041】
次に、ステップS2で記憶手段3に格納されているデータ数が、予め設定された一定数nに達したか否かを判断する。このデータ数が一定数nに達しなかった場合はそのまま処理を終了し、達した場合はステップS3に進む。ここで、nは計算量を減らすため16程度が好ましい。
【0042】
次に、ステップS3で仮想オフセットの初期値と初期移動量lを設定する。ここで設定する仮想オフセットの初期値はどのような値でもかまわないが、繰り返しの計算数を減らすため、記憶手段3に格納されているデータの内のいずれかの座標点を選択して、これを仮想オフセットの初期値とすることが好ましい。また、初期移動量lもどのような値でもかまわないが、繰り返し計算数を減らすため、出力円の半径以上であり、かつ直径未満の値とするのが好ましい。
【0043】
次に、ステップS4で現在の仮想オフセットと記憶手段3に格納されている各座標点との距離Len(k)をそれぞれ次式で算出する。
【0044】
【数5】

ここで、X0、Y0は現在の仮想オフセットの座標、X(k)、Y(k)は記憶手段3に格納されている各座標点の座標である。また、kは1〜nの整数である。
【0045】
次に、ステップS5で、ステップS4で得た現在の仮想オフセットと、記憶手段3に格納されている各座標点の内で最も離れた座標点、すなわち上記(10)式で示した距離Len(k)の内で最も値が大きい距離を示した座標点を選択する。例えば、k=jの座標点の距離Len(j)が最大であったとすると、ここで選択される座標点は、X(j)、Y(j)となる。
【0046】
次に、ステップS6で選択された座標点の方向、すなわち((X(j)−X0),(Y(j)−Y0))で示されるベクトル方向に、ステップS3で設定した初期移動量lだけ仮想オフセットを移動させて、現在の仮想オフセットの更新を行う。
【0047】
次に、ステップS7で初期移動量lを減らしてlを得る。例えば移動量lを3/4に減らして移動量lとする。
【0048】
次に、ステップS8で、ステップS4〜S8までの繰り返しループ数が一定数mに達したか否かを判断する。この繰り返しループ数が一定数mに達しなかった場合はステップS4に戻って再度ステップS4〜S8を繰り返し行う。ここで、mは計算量を減らすため10程度とするのが好ましい。
【0049】
そして、上述したように、繰り返しループ数が一定数mに達しなかった場合は、ステップS4で先と同様にして、現在の仮想オフセットと記憶手段3に格納されている各座標点との距離Len(k)を新たに算出し、ステップS5で現在の仮想オフセットと、記憶手段3に格納されている各座標点の内で最も離れた座標点を選択し、ステップS6で選択された座標点方向に移動量lだけ移動した新たな仮想オフセットを得る。
【0050】
そして、ステップS7で移動量lを減じて移動量lを得て、ステップS8で再度繰り返しループの数にてオフセット算出を終了するか、またステップS4〜S7を繰り返し行うかを判断する。
【0051】
そして、ステップS8でオフセット算出が終了したと判断することで、ステップS9で現在の仮想オフセットをオフセットであると判断し、従来公知の手段により、最終的に磁気センサの出力からこのオフセットを減じて、目的の方位を得ることができる。
【0052】
この様に、上述したステップS4〜S8を繰り返し行う際に、移動量lの3/4の移動量である移動量lに減ずるとともに、その都度、現在の仮想オフセットと各座標点の距離を基準として最も離れた座標点を選択することにより、簡便な演算手段により、仮想オフセットを徐々に本来のオフセット近づけることができる。
【0053】
ここで、上記説明の変形例について説明する。
先に示した図2の例では、ステップS5として、現在の仮想オフセットと各座標点の距離を算出した上で最も距離が離れた座標点を選択した例を示したが、最も距離の近い座標点を選択して、ステップS4〜S8を繰り返し行っても良い。なお、本変形例における他のステップS1〜S4、S6〜S9は、先に示した手段と同じである。
【0054】
具体的には本変形例の場合には、ステップS5における仮想オフセットの移動方向は、先に示したステップS6の座標とは逆の方向、すなわち(−(X(j)−X0),−(Y(j)−Y0))とする。
【0055】
さらに、上記説明の別の変形例について説明する。
先に示した図2の例では、ステップS5として、現在の仮想オフセットと各座標点の距離を算出した上で最も距離が離れた座標点を選択した例を示したが、最も距離の離れた座標点を選択するか、最も距離の近い座標点を選択するかを、ステップS4〜S8の繰り返し行うループ数毎に切り替えて行っても良い。例えば、このステップS5では、繰り返し数が1回目からm−1回目までは、最も距離の離れた座標点を選択し、繰り返し数がm回目は、最も距離の近い座標点を選択して行っても同様に目的のオフセットをステップS9で得ることが出来る。なお、本変形例における他のステップS1〜S4、S6〜S9は、先に示した手段と同じである。
【0056】
具体的には本変形例の場合には、ステップS5における仮想オフセットの移動方向は、最も距離の離れた座標点を選択する時は、((X(j)−X0),(Y(j)−Y0))
で示されるベクトル方向に移動し、最も距離の近い座標点を選択する時は、(−(X(j)−X0),−(Y(j)−Y0))のベクトル方向とする。
【0057】
この様に、ステップS5で選択される座標点を、最も距離の離れた座標点を選択するか、最も距離の近い座標点を選択するかを、切り替えることにより、記憶手段3に格納されているデータが分散していない状況、すなわち円周上の一部分に偏ったデータのみが記憶手段3に格納されている状況が想定される場合であっても適切な中心座標を得ることができる。
【0058】
次に、本発明の方位センサの実験結果について図3を用いて説明する。
図3におけるVxはX軸の磁気センサ出力10(図1参照)であり、VyはY軸の磁気センサ出力10であり、ここに示す各磁気センサ出力から得られる各測定点をドットで表した。
【0059】
図3に示す様に、各測定点は測定誤差を含んでおり、ばらついたデータが観測される。これら測定点から適当に分散した丸で囲んだ16点である磁気センサ出力P0〜P15を任意に選択し、図2に示したフローチャートの処理を実行する。
【0060】
まず、選択された丸で囲んだ16点の内の1点の磁気センサ出力P0を任意に選択し、仮想オフセットの初期値Oとする。次に、磁気センサ出力P0〜P15と仮想オフセットOとの間の距離を、上述した(数5)で示した(10)式により計算すると、仮想オフセットの初期値Oから最も離れた点が磁気センサ出力P4であることが分かる。したがって磁気センサ出力P4の方向に移動量lだけ仮想オフセットの初期値Oを移動させる。つまり、ここでは仮想オフセットはOからOに移動することとなる。
【0061】
次に、磁気センサ出力P0〜P15と仮想オフセットOとの間の距離を、上述した(数5)に示した(10)式により改めて計算すると、仮想オフセットOから最も離れた点が磁気センサ出力P14であることが分かる。したがって仮想オフセットP14の方向に移動量lだけ仮想オフセットOを移動させる。つまり仮想オフセットは、OからOに移動することとなる。
【0062】
このように、仮想オフセットの移動を予め設定したループ数m回繰り返すと、仮想オフセットは図3の「+」マークで示す軌跡を取って、簡単な演算により目的の仮想オフセットにより近づけることが出来る。
【0063】
したがって、この図3から分かるように、測定誤差を含む磁気センサ出力のデータからであっても、最終的には適切な中心座標(図2で示したステップS9で認定するオフセット)を得られていることが分かる。
【0064】
一般に、これら測定誤差を含んだ複数個の測定点からオフセットを求めるためには、従来例で示したニュートン・ラプソン法などの数学的手法がとられるが、図3は、本発明者らが経験的に導き出したフローによって、少ない計算量で、なおかつ適切な中心座標を得られることを示すものである。
【0065】
なお、これまでは、説明を簡単にするため、2軸の磁気センサについて説明を行ったが、XYZの3軸磁気センサを設けることにより、3次元空間における球の中心座標(図2で示したステップS9で認定するオフセット)を、同様な方法で得られることは明白である。
【0066】
このように、本発明の方位センサおよび、図2に示すフローを格納した記録媒体は、磁
気センサから出力される座標点の距離という簡単な計算に基づきオフセットを算出するオフセット算出手段を設けたため、従来の手法と比べてより計算量を低減できる。
【0067】
また、本発明の方位センサおよび記録媒体は、繰り返しオフセットを更新するオフセット更新手段を設けたため、精度よくオフセットを求めることができ、この精度の良いオフセットを用いることにより、精度の良い方位を算出できる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の方位センサは、高精度な方位を求められる機器に適用することができる。特に、携帯型の機器に本発明の方位センサを搭載するのに好適である。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の方位センサを示す構成図である。
【図2】本発明の方位センサのオフセット算出手段のフローチャートである。
【図3】本発明の方位センサの実験結果を示す図である。
【図4】従来の方位センサを示す出力軌跡図である。
【図5】従来の方位センサを示す構成図である。
【符号の説明】
【0070】
1 磁気センサ
2 オフセット算出手段
3 記憶手段
4 距離算出手段
5 座標点選択手段
6 オフセット更新手段
7 方位算出手段
8 オフセット
9 方位
10 磁気センサ出力
91 地磁気方位センサ
92 出力値記憶手段
93 仮想値算出手段
94 累乗和算出手段
95 仮想値補正手段
96 修正量演算手段
97 修正量判別手段
98 修正量加減算判別手段
99 中心座標値補正手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地磁気を検出し方位を算出する方位センサであって、
2軸以上の地磁気を検出する磁気センサと、
前記磁気センサ出力から現在の仮想オフセットを算出するオフセット算出手段と、
前記磁気センサの出力である複数個の座標点を記憶する記憶手段と、
前記現在の仮想オフセットから、前記記憶手段に記憶されている前記複数個の座標点までの各距離を算出する距離算出手段と、
前記距離算出手段で算出した前記各距離を参照して、前記現在の仮想オフセットから最も離れている、または最も近い座標点を選択する座標点選択手段と、
前記座標点選択手段により選択された前記座標点を基準として、前記現在の仮想オフセットを所定量だけ移動させた座標点を現在の仮想オフセットとして更新するオフセット更新手段と、
前記オフセット算出手段で更新された前記現在の仮想オフセットをオフセットとし、当該オフセットを用いて前記磁気センサ出力を補正した上で方位を算出する方位算出手段と、
を有することを特徴とする方位センサ。
【請求項2】
前記オフセット更新手段は、前記現在の仮想オフセットから最も離れている座標点を選択する場合は、前記座標点選択手段により選択された前記座標点が存在する方向に前記現在の仮想オフセットを移動させて前記現在の仮想オフセットを更新し、前記現在の仮想オフセットから最も近い座標点を選択する場合は、その反対方向に現在の仮想オフセットを移動させて、前記現在の仮想オフセットを更新する
ことを特徴とする請求項1に記載の方位センサ。
【請求項3】
前記オフセット更新手段にて更新された現在の仮想オフセットは、前記距離算出手段と前記座標点選択手段と前記オフセット更新手段とを、順に所定回数m回繰り返し行って得られるものである
ことを特徴とする請求項1または2に記載の方位センサ。
【請求項4】
前記現在の仮想オフセットを移動させる移動量を、前回行った前記オフセット更新手段における前記座標点の移動量に比べて小さくする
ことを特徴とする請求項3に記載の方位センサ。
【請求項5】
磁気センサ出力から現在の仮想オフセットを算出するオフセット算出手段と、
前記磁気センサの出力である複数個の座標点を記憶する記憶手段と、
前記現在の仮想オフセットから、前記記憶手段に記憶されている前記複数個の座標点までの各距離を算出する距離算出手段と、
前記距離算出手段で算出した前記各距離を参照して、前記現在の仮想オフセットから最も離れている、または最も近い座標点を選択する座標点選択手段と、
前記座標点選択手段により選択された前記座標点を基準として、前記現在の仮想オフセットを所定量だけ移動させた座標点を前記現在の仮想オフセットとして更新するオフセット更新手段と、
前記オフセット算出手段で更新された前記現在の仮想オフセットをオフセットとし、当該オフセットを用いて前記磁気センサ出力を補正した上で方位を算出する方位算出手段と、
を有するプログラムを記録したことを特徴とする記録媒体。
【請求項6】
前記オフセット更新手段は、前記現在の仮想オフセットから最も離れている座標点を選択する場合は、前記座標点選択手段により選択された前記座標点が存在する方向に前記現
在の仮想オフセットを移動させて前記現在の仮想オフセットを更新し、前記現在の仮想オフセットから最も近い座標点を選択する場合は、その反対方向に現在の仮想オフセットを移動させて前記現在の仮想オフセットを更新する、
プログラムを記録したことを特徴とする請求項5に記載の記録媒体。
【請求項7】
前記オフセット更新手段にて更新された現在の仮想オフセットは、前記距離算出手段と前記座標点選択手段と前記オフセット更新手段とを、順に所定回数m回繰り返し行って得られるものである、
プログラムを記録したことを特徴とする請求項5または6に記載の記録媒体。
【請求項8】
前記現在の仮想オフセットを移動させる移動量を、前回行った前記オフセット更新手段における前記座標点の移動量に比べて小さくする、
プログラムを記録したことを特徴とする請求項7に記載の記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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