説明

方位測定装置及び方位測定方法

【課題】円形配列のセンサにおいてアンテナ間の位相差が±180度を超える場合でも正確かつ高速に信号の到来方位を求める。
【解決手段】位相差分布検出部31は、円形に配列された複数のセンサ11−1〜11−nのサンプリングデータをもとに隣り合うセンサ間の位相差の分布を検出する。歪判定部51は、第1のFFT処理部41から得られる周波数成分をもとに位相差が±180度を超えるか否かを判定する。この判定において位相差が±180度を超えると判定された場合に、位相差分布補完部61は、位相差の分布を±180度以上に拡張し、この拡張された位相差の分布を元の位相差の分布から時間軸方向に一定時間ずらして元の位相差の分布に補完する。補完された位相差の分布を時系列データとして第2のFFT処理部71により周波数成分に変換して方位・仰角演算部91において信号の到来方位を演算する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、アレイ状に配置されたセンサを用いて電波や音波等の到来方向を測定する方位測定装置及び方位測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
方位測定の方式としては、センサ間位相差から数式による計算で方位・仰角を求めるインタフェロメータ方式が演算量が最も少なく高速である。ただし、混信している場合は用いることができない場合が多い。また、センサ間距離が大きいほど測定精度が確保されやすいが、位相差が±180度を超えると測定結果に誤りが生じるため、最低でも1組は位相差が±180度を越えないセンサ配置が必要である。
【0003】
次に、基準となるアンテナ間位相分布データを保有し、それとの相関を求める相関型インタフェロメータ方式はビームスキャンと等価であり、感度を確保しやすくビーム幅以上離れた角度の混信を分離することができる。しかし、全方位と全仰角をスキャンする演算量が問題であった。なお、この場合は工夫すればセンサ間の距離として位相差が±180度を超える配置が可能である。
【0004】
また、混信対策としては、MUSIC(Multiple Signal Classification)方式、ESPRIT(Estimation of Signal Parameters via Rotational Invariance Techniques)方式やVESPA(virtual ESPRIT algorithm)方式が超分解能として知られており広く用いられている(例えば、非特許文献1を参照。)。MUSICは全方位全仰角のスキャンが必要であり演算量が多い。ESPRITは同一形状のアレイを2組用いることにより全方位全仰角をスキャンする必要がないが、同一形状を確保するという制約条件を満足することができない場合が多い。一方、VESPAは仮想アンテナを使用したESPRITであり、特性が既知の2組のアンテナ素子を含むアレイにより実現可能であるが、やはり全方位・全仰角を測定可能とするための仮想アンテナ配置の実現に問題が生じることがあった。
【0005】
なお、上記とは別に混信を分離する手段としてDCMP(Directional Constrained Minimization of Power)等の干渉波抑圧や独立成分分析によるブラインド分離を用いる方法が適用可能である。これらの処理を実施した後であれば、必ずしも方位測定方式として混信を分離する機能を必要としない。
【非特許文献1】菊間信良著、「アダプティブアンテナ技術」、オーム社、平成15年10月10日発行
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記述べたように、センサ間の距離を大きくするほど測定精度は良くなるが、位相差が±180度を超えると折り返しが発生して正しく方位を求めることができない。このため、従来は位相差が±180度を超えないように、アンテナ間のセンサ数を増やしていたが、コストが増大してしまう。一方、MUSIC方式やESPRIT方式を用いれば、位相差が±180度を超えた場合でも方位を求めることができるが、演算量が多いため処理に時間がかかるという問題がある。
【0007】
この発明は上記事情に着目してなされたもので、その目的とするところは、円形配列のセンサにおいて、アンテナ間の位相差が±180度を超える場合でも正確かつ高速に信号の到来方位を求めることができる方位測定装置及び方位測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するためにこの発明に係る方位測定装置は、到来する信号を互いに独立して観測する、円形に配列された複数のセンサと、前記複数のセンサの観測信号をそれぞれサンプリングするサンプリング手段と、前記サンプリング手段で得られる前記複数のセンサのサンプリングデータをもとに隣り合うセンサ間の位相差の分布を検出する検出手段と、前記検出された位相差が±180度を超えるか否かを判定する判定手段と、前記判定手段において位相差が±180度を超えると判定された場合に、前記位相差の分布を±180度以上に拡張し、この拡張された位相差の分布を前記位相差の分布から時間軸方向に一定時間ずらして前記位相差の分布に補完する補完手段と、前記補完された位相差の分布を時系列データとして周波数成分に変換する変換手段と、前記変換された周波数成分をもとに前記信号の到来方位を演算する演算手段とを具備することを特徴とする。
【0009】
また、この発明に係る方位測定方法は、円形に配列された複数のセンサにより互いに独立して観測された信号から到来方位を測定する方位測定方法であって、前記複数のセンサの観測信号をそれぞれサンプリングし、前記サンプリングにより得られる前記複数のセンサのサンプリングデータをもとに隣り合うセンサ間の位相差の分布を検出し、前記検出された位相差が±180度を超えるか否かを判定し、前記判定において位相差が±180度を超えると判定された場合に、前記位相差の分布を±180度以上に拡張し、この拡張された位相差の分布を前記位相差の分布から時間軸方向に一定時間ずらして前記位相差の分布に補完し、前記補完された位相差の分布を時系列データとして周波数成分に変換し、前記変換された周波数成分をもとに前記信号の到来方位を演算することを特徴とする。
【0010】
上記構成による方位測定装置及び方位測定方法では、円形に配列された複数のセンサのサンプリングデータをもとに隣り合うセンサ間の位相差の分布を検出し、検出された位相差が±180度を超えるか否かを判定する。この判定において位相差が±180度を超えると判定された場合に、位相差の分布を±180度以上に拡張し、この拡張された位相差の分布を元の位相差の分布から時間軸方向に一定時間ずらして元の位相差の分布に補完する。そして、補完された位相差の分布を時系列データとして周波数成分に変換して信号の到来方位を演算する。このようにすることで、円形配列のセンサにおいてアンテナ間の位相差が±180度を超える場合でも、MUSIC方式やESPRIT方式と比較して演算量を少なくすることができ、信号の到来方位を短時間で正しく求めることが可能となる。
【発明の効果】
【0011】
したがってこの発明によれば、円形配列のセンサにおいて、アンテナ間の位相差が±180度を超える場合でも正確かつ高速に信号の到来方位を求めることができる方位測定装置及び方位測定方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を詳細に説明する。
図1は、この発明に係る方位測定装置の一実施形態を示す機能ブロック図である。
図1において、センサ11−1〜11−nは、アンテナやマイクロホン等で構成される。センサ11−1〜11−nは、円形に配列され、到来する信号を互いに独立して観測するもので、各センサ11−1〜11−nが同時に到来する信号を受信する。信号サンプリング部21は、信号周波数帯に応じたAD(Analog to Digital)変換器で構成され、各センサ11−1〜11−nから入力されたアナログの観測信号を所定のサンプリング周期でサンプリングしてデジタル化された時系列データを出力する。
【0013】
位相差分布検出部31は、信号サンプリング部21の出力の一定時間分を用いて、隣り合うセンサ間の位相差を求める。第1のFFT処理部41は、位相差分布検出部31で検出された位相差分布に対して高速フーリエ変換(FFT:Fast Fourier Transform)処理を行う。歪判定部51は、FFT処理による出力結果をもとに、位相差分布検出部31で検出された位相差分布の波形の歪の有無(位相差が±180度を超えるか否か)を判定する。
【0014】
一方、位相差分布補完部61は、位相差分布検出部31から出力される位相差分布の波形の歪みの補正を行う。詳細は後述する。第2のFFT処理部71は、上記第1のFFT処理部41と同様のFFT処理機能を有し、位相差分布補完部61において補正された位相差分布に対してFFT処理を行う。選択部81は、上記歪判定部5における歪みの有無の判定結果に基づいて、第1のFFT処理部41または第2のFFT処理部71からの出力を選択する。方位・仰角演算部91は、選択部81による選択結果をもとに方位および仰角を演算し、演算結果を出力する。
【0015】
次に、このように構成された方位測定装置の動作について説明する。
位相差分布検出部31は、信号サンプリング部21の出力の一定時間分を用いて、隣り合うセンサ間の位相差を求める。例えば、センサ11−1〜11−nの配列が等間隔円形の場合は、図2に示すように、正弦波の波形上に位相差が分布する。
【0016】
第1のFFT処理部41は、図2に示す位相差分布に対してFFT処理を行う。図3は、FFT処理により出力される電力をデシベルで表示した図である。図3において、図2に示す位相差分布の波形に対してFFT処理を行うと、結果はセンサ数(図2では15個)と等しい数になるが、左右対称形となるため、ここでは左側半分を示している。横軸の番号1は直流成分を示し、番号2は基本波形の周波数成分を示す。
【0017】
歪判定部51は、位相差分布検出部31から出力される位相差分布の波形について歪の有無を判定する。アンテナ間の位相差が±180度を超えることがなければ、図2に示したように正弦波の形状が保持される。また、図3に示したように、FFT処理の結果は番号2の成分が優勢で他の成分は小さくなる。これに対し、アンテナ間の位相差が±180度を超える場所が存在すると、位相差分布検出部31から出力される波形は不連続となり正弦波でなってしまう。図4にアンテナ間の位相差が±180度を超える場合の位相差分布を示す。また、図4の位相差分布に対するFFT処理の結果を図5に示す。図5に示すように、FFT結果は番号2以外の成分が大きくなる。歪判定部51では、この特徴を用いて歪の有無を判定する。
【0018】
図5において、歪の成分は番号3から番号7までの合計値であり、番号2の成分を大きく上回る。番号2の成分が番号3から番号7までの合計値よりも大きいと判定された場合に、歪が無いと判定することができる。この判定の閾値を場合により変更してもよい。なお、図3および図5の縦軸はデシベル(dB)であり、番号3から番号7までの合計値を計算する場合は、真数に変換した後に実施する必要がある。
【0019】
歪判定部51において、歪なしと判定された場合は、番号2の成分の電力に換算する前の複素数表示(a+jb)において、
正弦波の位相 = tan−1(b/a) ・・・・・式(1)
を求め、この位相とセンサ配置とを対応させれば実際の到来方位に換算できる。なお、到来方位の変化(例えば10度)に応じて正弦波が横軸を10度分移動する。10度分とは、円形配列一周で360度であるから1/36に相当し、図2においては横軸フルスケール15に対してその1/36に相当し、その分だけ正弦波が左右に移動する。
【0020】
さて、歪判定部51において歪ありと判定された場合は、位相差分布補完部61を適用する。位相差分布補完部61では、まず、±180度以上に位相差分布を拡張する。これは、例えば、図4に示した位相差分布に対して+360度加算した値と−360度加算した値を同時にグラフ上に表示するものであるが、信号の周波数(波長)から決定されるセンサ間の理論最大位相差を超えたプロットは削除する。図6に、この処理の一例を示す。
【0021】
図6では、元の位相差分布は四角でプロットされたものであり、+360度加算したもののうち理論最大位相差以下のものが三角で、−360度加算したもののうちその絶対値が理論最大位相差以下のものが丸でそれぞれプロットされている。
【0022】
図6から分かるように、歪んだ波形の上下に±360度加算した点を補完することにより正弦波が出現する。しかし、図6はまだ単純なので一目見ただけで正弦波の位置が簡単に判断できるが、図7の状態になると困難となる。図7ではガイドラインとしての正弦波を合わせて記入しているため、そのラインに最も近い点を選択していくと正弦波になっていることが分かる。これを如何に演算によって求めるかが問題であるが、本発明では以下のような手法で実現する。
【0023】
位相差分布補完部61は、図6や図7に示すように補完された位相差分布について、同一時間に存在するプロットを時間軸方向に一定時間ずつずらしてプロットし、一つの時間軸波形に変換する。この一例を図8に示す。図8において破線で示されるのが変換された時間軸波形である。また、図8に対して時間軸方向にさらに広い範囲を表した例を図9に示す。このような処理を行うことで、演算処理により正弦波の成分を抽出することができるようになる。
【0024】
第2のFFT処理部71は、上記得られた時系列データをFFT処理により周波数成分に変換する。図10は、FFT処理から得られる電力をデシベル表記し、そのうちの最初の10BINを示した図である。図10で重要なのは、番号2の成分であり、式(1)と同様な計算を行うことで、図9の中の正弦波の成分の位相、すなわち到来方位を求めることができる。図9に示した正弦波は、式(1)を用いて求めた位相を示しており、複雑な位相差分布の内から正弦波が抽出できていることが分かる。
【0025】
歪判定部51は位相差分布の歪の有無の判定結果に応じて、選択部81に第1のFFT処理部41及び第2のFFT処理部のいずれかの出力を選択させる。歪判定部51において歪が無いと判定された場合には、選択部81は第1のFFT処理部41の出力を方位・仰角演算部91に供給し、歪判定部51において歪が有ると判定された場合には、選択部81は第2のFFT処理部71の出力を方位・仰角演算部91に供給する。方位・仰角演算部91は、選択部81から供給されたFFT処理で得られた周波数成分をもとに到来方位及び仰角を演算する。
【0026】
なお、方位・仰角演算部91において、第1のFFT処理部41及び第2のFFT処理部における両方の処理結果を用いて、それぞれ方位及び仰角を演算するようにすることももちろん可能である。また、歪有りの場合の位相差分布補完部61による処理は、歪無しの場合に行っても同様に正しい結果を得ることができるが、歪無しの場合には、位相差分布補完部61による処理を省略した方が演算時間の短縮できる。
【0027】
以上述べたように上記実施形態では、位相差分布検出部31は、円形に配列された複数のセンサ11−1〜11−nのサンプリングデータをもとに隣り合うセンサ間の位相差の分布を検出する。歪判定部51は、第1のFFT処理部41から得られる周波数成分をもとに位相差が±180度を超えるか否かを判定する。この判定において位相差が±180度を超えると判定された場合に、位相差分布補完部61は、位相差の分布を±180度以上に拡張し、この拡張された位相差の分布を元の位相差の分布から時間軸方向に一定時間ずらして元の位相差の分布に補完する。補完された位相差の分布を時系列データとして第2のFFT処理部71により周波数成分に変換して方位・仰角演算部91において信号の到来方位を演算する。このようにすることで、円形配列のセンサにおいてアンテナ間の位相差が±180度を超える場合でも、MUSIC方式やESPRIT方式と比較して少ない演算量で信号の到来方位を正しく求めることが可能となる。
【0028】
したがって上記実施形態によれば、円形配列のセンサにおいて、アンテナ間位相差が±180度を超える場合でも、正確かつ高速に方位を求めることが可能となる。
【0029】
なお、この発明は、上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合せにより種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態に亘る構成要素を適宜組み合せてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】この発明に係る方位測定装置の一実施形態を示す機能ブロック図。
【図2】位相差分布検出部において検出される位相差分布の一例を示す図。
【図3】図2の位相差分布の周波数成分を示す図。
【図4】位相差分布検出部において検出される位相差分布の他の例を示す図。
【図5】図4の位相差分布の周波数成分を示す図。
【図6】±180度以上に拡張した位相差分布を示す図。
【図7】±180度以上に拡張した位相差分布を示す図。
【図8】図7の拡張された位相差分布を時間軸波形に変換する手法を示す図。
【図9】図8に示された手法で変換された時間軸波形を示す図。
【図10】図9に示された位相差分布の周波数成分を示す図。
【符号の説明】
【0031】
11−1〜11−n…センサ、21…信号サンプリング部、31…位相差分布検出部、41…第1のFFT処理部、51…歪判定部、61…位相差分布補完部、71…第2のFFT処理部、81…選択部、91…方位・仰角演算部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
到来する信号を互いに独立して観測する、円形に配列された複数のセンサと、
前記複数のセンサの観測信号をそれぞれサンプリングするサンプリング手段と、
前記サンプリング手段で得られる前記複数のセンサのサンプリングデータをもとに隣り合うセンサ間の位相差の分布を検出する検出手段と、
前記検出された位相差が±180度を超えるか否かを判定する判定手段と、
前記判定手段において位相差が±180度を超えると判定された場合に、前記位相差の分布を±180度以上に拡張し、この拡張された位相差の分布を前記位相差の分布から時間軸方向に一定時間ずらして前記位相差の分布に補完する補完手段と、
前記補完された位相差の分布を時系列データとして周波数成分に変換する変換手段と、
前記変換された周波数成分をもとに前記信号の到来方位を演算する演算手段と
を具備することを特徴とする方位測定装置。
【請求項2】
円形に配列された複数のセンサにより互いに独立して観測された信号から到来方位を測定する方位測定方法であって、
前記複数のセンサの観測信号をそれぞれサンプリングし、
前記サンプリングにより得られる前記複数のセンサのサンプリングデータをもとに隣り合うセンサ間の位相差の分布を検出し、
前記検出された位相差が±180度を超えるか否かを判定し、
前記判定において位相差が±180度を超えると判定された場合に、前記位相差の分布を±180度以上に拡張し、この拡張された位相差の分布を前記位相差の分布から時間軸方向に一定時間ずらして前記位相差の分布に補完し、
前記補完された位相差の分布を時系列データとして周波数成分に変換し、
前記変換された周波数成分をもとに前記信号の到来方位を演算することを特徴とする方位測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−191052(P2008−191052A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−27117(P2007−27117)
【出願日】平成19年2月6日(2007.2.6)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】