説明

方向性電磁鋼板の製造方法

【課題】粒径分布が適切に調整された焼鈍分離剤を用いることによって、優れたグラス被膜特性と磁気特性を備える方向性電磁鋼板の製造方法を提供する。
【解決手段】一次再結晶焼鈍後、MgOを主成分とする焼鈍分離剤を塗布し、仕上焼鈍を行う方向性電磁鋼板の製造方法において、粒径1μm以下が15〜30重量%、粒径10μm以上が2重量%以上である粒径分布を有し、さらに、CAA40%値が100秒以上、比表面積が5〜30m/g、Ig−lossが0.7〜2.0重量%である焼鈍分離剤をスラリー状にして鋼板表面に塗布し、仕上焼鈍を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変圧器や発電機の鉄芯に利用される方向性電磁鋼板の製造方法に関し、特に、フォルステライト系絶縁被膜形成のための焼鈍分離剤に工夫を凝らすことによって、磁気特性・被膜特性に優れ、かつ、平坦化焼鈍ラインを安定的に通板させることができる優れたグラス被膜及び磁気特性を備える方向性電磁鋼板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、方向性電磁鋼板は、熱間圧延工程においてインヒビターを鋼中に微細分散させ、冷延工程によって最終板厚にするとともに、脱炭焼鈍(さらに必要に応じ窒化処理)、一次再結晶焼鈍を経た後、MgOを主成分とする焼鈍分離剤をスラリー状として鋼板に塗布し、乾燥後、コイルに巻き取り、仕上焼鈍において二次再結晶させると同時に鋼板表面にグラス被膜を形成させ、最終工程として、高温の仕上焼鈍工程で発生した熱歪を解消するため、平坦化焼鈍工程を経ることにより製造されている。
このようにして得られる方向性電磁鋼板は、主として電気機器、トランス等の鉄心材料として使用されており、そして、これらの用途には、磁束密度が高く、鉄損が優れる方向性電磁鋼板が求められている。
【0003】
上記製造法における仕上焼鈍において、焼鈍分離剤の主成分をなすMgOと脱炭焼鈍時に形成されるSiO主体の酸化膜との反応により、フォルステライト(MgSiO)主成分のグラス被膜が形成されるが、このグラス被膜の特性は、電磁鋼板の磁歪、鉄心加工作業性等の諸特性に多大な影響を与える。また、このフォルステライト系被膜は、その形成過程において、鋼中インヒビター制御にも重要な役割を果たし、鋼板の磁区を細分化する効果を有している。
高磁束密度、低鉄損の方向性電磁鋼板を得るためには、製造過程におけるフォルステライト系被膜の形成速度、質、量だけでなく、均一性に優れた被膜を得る必要があり、フォルステライト系被膜の改善に関する技術は、これまで数多く提案されている。
【0004】
例えば、焼鈍分離剤MgOに関しては、特開平11−181525号公報(特許文献1)には、 粒径20%値粒子径の小さい方から体積20%の点の二次粒子径が1.2μm以下のMgOを用いること、特開 2003−27251号公報(特許文献2)には、 比表面積が6〜16m/gかつ二次粒子径の分布において1μm以下が25%以上あるような粒径の細かい高活性なMgOを用いること、特開2000−273550号公報(特許文献3)には、1μm以下の粒径のものが10%以上あるMgOを用いること等が提案されている。
しかしながら、上記高活性MgOの使用によりフォルステライト系被膜の形成反応の改善および品質改善は図られるものの、その半面、仕上焼鈍中に、フォルステライト系被膜形成に使用されなかったMgO同士が焼結し、鋼板間に占有しているMgOの体積収縮が発生してしまうためにコイル形状が崩れ、後の平坦化焼鈍ラインの生産性を阻害してしまうという問題が発生したため、更なる改善が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−181525号公報
【特許文献2】特開2003−27251号公報
【特許文献3】特開2000−273550号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、すぐれたグラス被膜及び磁気特性を有し、かつ、平坦化焼鈍ラインを安定的に通板させることができる方向性電磁鋼板を得ることを目的とするものであり、特に、焼鈍分離剤の粒径分布を改善することによって、均一ですぐれたフォルステライト系被膜を形成し、かつ、仕上焼鈍中のコイル崩れを防止し、平坦化焼鈍工程において安定的に通板可能な方向性電磁鋼板の製造法を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、所定の粒径分布を有する超微粒子からなるMgOを使用した反応性の優れる焼鈍分離剤を用いることによって、均一で優れたフォルステライト系被膜を形成し、かつ、仕上焼鈍中のコイル崩れを防止し、平坦化焼鈍工程において安定的に通板可能な方向性電磁鋼板の製造法を提供するものであり、以下の構成を要旨とする。
「方向性電磁鋼板用スラブを加熱後熱間圧延し、冷間圧延し、次いで脱炭焼鈍し、一次再結晶焼鈍を施し、鋼板表面にMgOを主成分とする焼鈍分離剤を塗布し、コイル状に巻取り、仕上焼鈍を施した後、平坦化焼鈍を行う方向性電磁鋼板の製造方法において、
焼鈍分離剤は、苦汁及び海水の何れか一方または双方を原料して得られた水酸化マグネシウムを最終段階で直火式ロータリーキルンにより焼成して得られたMgOの1種又は2種以上の混合物からなり、かつ、該焼鈍分離剤は、粒径1μm以下が15〜30重量%、粒径10μm以上が2重量%以上である粒径分布を有し、さらに、CAA40%値が100秒以上、比表面積が5〜30mm/g、Ig−lossが0.7〜2.0%である焼鈍分離剤をスラリー状にして鋼板表面に塗布し、乾燥後、コイル状に巻取り、仕上焼鈍を行うことを特徴とする優れたグラス被膜及び磁気特性を備える方向性電磁鋼板の製造方法。」
【0008】
本発明者等は、方向性電磁鋼板の製造に際し、焼鈍分離剤の主成分であるMgOの粒径分布を適正範囲に調整することによって、優れたグラス被膜及び磁気特性を備え、かつ、仕上焼鈍後の平坦化焼鈍工程においても安定的に通板可能な方向性電磁鋼板を得ることができることを見出した。
【0009】
本発明で用いる焼鈍分離剤は、苦汁及び海水を原料して得られた水酸化マグネシウムを最終段階で直火式ロータリーキルンにより焼成して得られたMgOの1種又は2種以上の混合物からなり、かつ、該焼鈍分離剤は、粒径1μm以下が15〜30重量%、粒径10μm以上が2重量%以上である粒径分布を有し、さらに、CAA40%値が100秒以上、比表面積が5〜30mm/g、Ig−lossが0.7〜2.0重量%のものである。
【0010】
まず、本発明の焼鈍分離剤に使用するMgOは、苦汁及び海水の何れか一方または双方のMgイオン原料を用いてCa(OH)等との反応により得た水酸化マグネシウム(Mg(OH))を焼成して得られるMgOの1種又は2種以上を混合して得られるものである。
【0011】
ロータリーキルンによる焼成には、直火方式と間熱方式があるが、純度、活性分布、粒径等の条件を満足するためには直火炉焼成品が安定して良好なことから、本発明では直火式ロータリーキルン焼成品に限定する。
即ち、間熱方式は、焼成時の焼成効率が劣るため、目的の純度を得ようとすると必然的に高温、長時間の焼成が必要であり、直火式ロータリーキルンに比して過焼成にせざるを得ない問題がある。このため、直火式焼成に比し、同一原料で同様の活性粒子を得ようとすると粒子の活性が極めて低下する。
【0012】
本発明では、焼成前のMg(OH)としては苦汁法、海水法の単独或いは両者の2種以上の原料を混合原料として焼成し製造されるが、焼成後において2種以上のMgO製品を混合して本発明の焼鈍分離剤を調整しても良い。
【0013】
本発明の焼鈍分離剤で使用するMgOに求められる特性としては、先ず、その粒径分布が所定条件を満足していることが必要とされる。
即ち、従来技術(例えば、特許文献1〜3)として示したように、一般的には、粒径の小さいMgOの存在によって活性が高まることから、例えば、1μm以下の粒径の微粒子MgOが多量に存在することが好ましいとされているが、本発明では、粒径1μm以下の微粒子MgOが15〜30重量%存在することを必要とすると同時に、粒径が10μm以上である粗粒子MgOが2重量%以上存在することを必要とする。
【0014】
本発明者等は、方向性電磁鋼板のグラス被膜特性、磁気特性および平坦化焼鈍ラインの通板性に及ぼす焼鈍分離剤の粒径分布の影響を鋭意検討した。
その結果を、例えば、表1に示す。
まず、粒径1μm以下の微粒子MgOの含有割合による影響をみると、表1から明らかなように、粒径1μm以下のMgOの含有割合が15重量%未満である場合には、最終仕上焼鈍後の平坦化焼鈍ラインの通板性は良好であるものの、バインダーとしての鋼板への密着効果が不足したり、微粒子MgOが中心となるグラス被膜形成反応性が不足するために、コイルエッジ部のグラス被膜にムラが多く発生するようになることがわかる。
一方、粒径1μm以下のMgOの含有割合が30重量%を超えると、ほぼ均一で良好なグラス被膜が形成されるものの、仕上焼鈍時のコイル形状を保てなくなりコイル形状不良となることが分かる。
したがって、本発明では、粒径1μm以下の微粒子MgOの含有割合を、1〜30重量%と定めた。
次に、粒径10μm以上の粗粒子MgOの含有割合による影響をみると、同様に表1から、粒径10μm以上のMgOの含有割合が2重量%未満である場合には、コイル巻きが緩くなり平坦化焼鈍ラインにおける通板性が阻害されたり、あるいは、仕上焼鈍時のコイル形状を保てなくなるという問題点が生じた。
したがって、本発明では、粒径10μm以上の粗粒子MgOの含有割合を、2重量%以上と定めた。
本発明において、焼鈍分離剤のより好ましい粒径分布は、粒径1μm以下のMgOの含有割合が15〜30重量%、粒径が1μmを超え10μm未満のMgOの含有割合が65〜83重量%、粒径が10μm以上15μm未満のMgOの含有割合が2〜5重量%、である。
なお、本発明における焼鈍分離剤の粒径は、堀場製作所製HORIBA LA−500(超音波あり)を用いて測定を行った。
【0015】
本発明の焼鈍分離剤のCAA40%値は、100sec以上であることが必要である。
ここで、CAA40%値とは、クエン酸とMgOとの反応活性度を測定する活性試験によるもので、0.4Nのクエン酸水溶液に40%の最終反応当量のMgOを投与し撹拌しつつ、最終反応までの時間(クエン酸が消費され溶液が中性となるまでの時間)を30℃で測定し、この時間で評価する方法である。
本発明においては、CAA40%値が100sec未満であると、方向性電磁鋼板の磁気特性が劣化し、鋼板の被膜中に多数の点状被膜欠陥が発生するようになることから、CAA40%値を100sec以上と定めた。
ただ、CAA40%値が300secを超えると、グラス被膜形成において反応性低下が生じるので、本発明ではCAA40%値を、100sec以上300sec未満とすることが好ましい。
【0016】
本発明の焼鈍分離剤の比表面積は、5〜30m/gであることが必要である。焼鈍分離剤の比表面積が5m/g未満では、グラス被膜反応性が低下し、また、鋼板への密着性が十分得られない。一方、比表面積が30m/gを超えると、被膜中に多数の点状被膜欠陥が発生するようになる。焼鈍分離剤の比表面積が5〜30m/gであれば、安定したスラリーと塗布性が得られることから、本発明の焼鈍分離剤の比表面積は、5〜30m/gと定めた。
なお、比表面積はBET法など、1点や多点のガス吸着量を基に粉体の表面積を求める一般的測定法により求めることができる。
【0017】
本発明の焼鈍分離剤は、Ig−lossの値を、0.7〜2.0重量%の範囲に調整することが必要である。
Ig−lossは、MgOを1000℃まで加熱した際の重量減少率であるが、このIg−lossの値によって、主としてMgO が含有する微量なMg(OH)の含有率を推定することができる。そして、MgO 中の微量Mg(OH)は、グラス被膜形成反応促進のために微量の存在が必要であるが、過多に存在すると(Ig−lossの値が2.0重量%を超えると)、点状被膜欠陥の原因となる。一方、Ig−lossの値が0.7未満の場合は、グラス被膜反応性が低下し、また、鋼板への密着性が十分得られない。そこで、本発明では、Ig−lossの値を0.7〜2.0重量%の範囲に定めた。
【0018】
また、本発明製造方法において使用する方向性電磁鋼板用スラブとしては、例えば、質量%で、C:0.03〜0.100%、Si:2.5〜4.5%を含有する鋼スラブを用いることができる。Cはその含有量が0.03質量%未満では二次再結晶が不安定になり、また、二次再結晶した場合でも製品の磁気特性の変動が大ききなることから制限される。一方、Cが0.100質量%を超えると、脱炭焼鈍における酸化膜の形成が不利になったり、焼鈍時間が長くなり生産性を阻害する。また、Si含有量が2.5質量%未満であると低鉄損の製品が得られ難く、一方、Si含有量が4.5質量%を超えると、冷間圧延時に割れ破断が多発し、安定した冷延作業を困難にする。
なお、本発明における方向性電磁鋼板は上記C,Siに加えて他の鋼成分を添加することが出来るが、本発明においてはそれら成分の種類、量について特に限定するものではない。
【0019】
次に、本発明の方向性電磁鋼板の製造条件について述べると、例えば、以下のとおりである。
【0020】
例えば、質量%で、C:0.03〜0.100%、Si:2.5〜4.5%の範囲内の成分組成に調整した方向性電磁鋼板用スラブを、スラブ加熱した後熱間圧延し、1回又は焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延を行って最終板厚とし、次いで800〜900℃で雰囲気ガスの酸化度を調整して脱炭焼鈍を行って鋼板表面にSiOを主成分とする酸化膜を形成する。
その後、インヒビターとしてAlNを利用する低温スラブ過熱の場合には、同一ラインあるいは別ラインにおいて窒化処理を行ってインヒビターを形成する。
なお、脱炭焼鈍後に窒化処理を行うか否かは必要に応じて定めれば良いことであって、本発明の方向性電磁鋼板の製造方法は、脱炭焼鈍後に窒化処理を行うことを、何ら排除するものではない。
この脱炭焼鈍後の鋼板上に、あるいは、さらに窒化処理を行った鋼板上に、本発明の焼鈍分離剤をスラリー状としてコーテイングロール等で塗布、乾燥し、コイルにして巻き取る。
この際、焼鈍分離剤には、グラス被膜の反応促進補助、板間雰囲気調整あるいはインヒビター強化の目的で、ホウ素化合物、硫黄化合物、窒素化合物、酸化物を鋼成分や処理条件に応じて併用添加することができる。
【0021】
この様に処理されたコイルは、仕上焼鈍として、1100〜1200℃の温度範囲に保持された炉内で20時間程度の長時間焼鈍が行われ、この焼鈍工程においてグラス被膜形成と二次再結晶及び純化処理が行われる。
その後、余剰焼鈍分離剤の水洗除去、軽酸洗の後、絶縁被膜剤を塗布し、その焼付けとコイル形状矯正、歪取り焼鈍をかねて平坦化焼鈍を行うことにより、グラス被膜及び磁気特性の優れる本発明の方向性電磁鋼板が製造される。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、一次再結晶焼鈍後の鋼板に、MgOを主成分とし、かつ、特定の粒径分布を有する焼鈍分離剤を塗布し、コイル状に巻き取って仕上焼鈍を施すことにより、安定して均一なグラス被膜を形成することができるとともに、最終仕上焼鈍後の平坦化焼鈍において、安定的に通板可能な磁気特性の優れる方向性電磁鋼板を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、実施例を用いて本発明をより詳細に説明する。
【実施例】
【0024】
実施例1:
質量%で、C;0.08%、Si;2.3%、Mn;0.07%、酸可溶Al0.03%、S;0.024%、N;0.008%、Sn;0.1%、Cu;0.08%、残部Feと不可避の不純物からなる方向性電磁鋼板用スラブを1350℃で加熱した後、熱間圧延し、焼鈍後、酸洗し、最終板厚0.23mmに冷延した。
次いで、840℃×110秒間、N25体積%+H75体積%、DP70℃で連続脱炭焼鈍を行った。
この脱炭焼鈍を行った鋼板表面に、
粒径1μm以下:15重量%、
粒径10μm以上:2〜5重量%、
CAA40%値:120〜200秒、
比表面積:10〜20m/g、
Ig−loss:1〜1.5重量%、
という物性を備える表1に示す焼鈍分離剤(本発明分離剤1,本発明分離剤2)をスラリー状にし、ロールコーターにより鋼板片面あたり5g/mの割合で塗布し、乾燥し、コイルに巻き取った後、1200℃×20Hrの最終仕上焼鈍を行った。
その後、燐酸アルミとシリカを主成分とする方向性電磁鋼板用の絶縁被膜剤を焼付け後の質量で4.5g/mの割合で焼き付け、連続炉内で850℃の板温で平坦化焼鈍を行った。
上記製造方法で製造した方向性電磁鋼板(本発明1,本発明2)のグラス被膜外観、平坦化焼鈍ライン通板性、磁気特性を表2に示す。
【0025】
【表1】

【0026】
【表2】

【0027】
比較のため、上記実施例1と同一の成分組成の鋼スラブに、実施例1と同一条件でスラブ加熱、熱間圧延、焼鈍、冷間圧延および連続脱炭焼鈍を行った後、
この脱炭焼鈍を行った鋼板表面に、
粒径1μm以下:10〜15重量%、
粒径10μm以上:0〜5重量%、
CAA40%値:150〜310秒、
比表面積:8〜16m/g、
Ig−loss:0.5〜1.0重量%、
という物性を備える表3に示す焼鈍分離剤(比較例分離剤1〜4)をスラリー状にし、ロールコーターにより鋼板片面あたり5g/mの割合で塗布し、乾燥し、コイルに巻き取った後、1200℃×20Hrの最終仕上焼鈍を行った。
その後、燐酸アルミとシリカを主成分とする方向性電磁鋼板用の絶縁被膜剤を焼付け後の質量で4.5g/mの割合で焼き付け、連続炉内で850℃の板温で平坦化焼鈍を行った。
上記製造方法で製造した方向性電磁鋼板(比較例1〜4)のグラス被膜外観、平坦化焼鈍ライン通板性、磁気特性を表4に示す。
【0028】
【表3】

【0029】
【表4】

【0030】
表2に示される本発明1,2と、表4に示される比較例1〜4の対比から明らかなように、本発明の焼鈍分離剤(本発明分離剤1,本発明分離剤2)を使用した場合には、グラス被膜はほぼ均一で良好であって、平坦化焼鈍ラインにおける通板性も良好であり、さらに、磁気特性も極めて優れたものである。
これに対して、比較例の焼鈍分離剤(比較例分離剤1〜4)を使用した場合には、コイルエッジ部にムラが多い(比較例1〜3)、あるいは、コイル巻きが緩くコイル形状が不良である(比較例4)という欠点があるとともに、磁気特性も本発明1,2に比して劣ったものであることがわかる。
【0031】
実施例2:
質量%で、C;0.06%、Si;3.30%、Mn;0.1%、Al;0.03%、S;0.0070%、N;0.0075%。Sn;0.05%、残部Feと不可避の不純物からなる方向性電磁鋼板スラブを、実施例1と同様にして処理し、最終板厚0.225mmとした。この鋼板を連続焼鈍炉内で845℃×110秒間、N25体積%+H75体積%、DP 68℃の雰囲気中で脱炭焼鈍し、引き続き750℃×30秒間、N25体積%+H75体積%+NH雰囲気中で鋼板窒素量215ppmになるよう焼鈍した。
【0032】
この鋼板上に、表1に示す焼鈍分離剤(本発明分離剤3,本発明分離剤4)をスラリー状にし、ロールコーターにより鋼板片面あたり5g/mの割合で塗布し、乾燥し、コイルに巻き取った後、1200℃×20Hrの最終仕上焼鈍を行った。
その後、燐酸アルミとシリカを主成分とする方向性電磁鋼板用の絶縁被膜剤を焼付け後の質量で4.5g/mの割合で焼き付け、連続炉内で850℃の板温で平坦化焼鈍を行った。
上記製造方法で製造した方向性電磁鋼板(本発明3,本発明4)のグラス被膜外観、平坦化焼鈍ライン通板性、磁気特性を表2に示す。
【0033】
比較のため、上記実施例2と同一の成分組成の鋼スラブに、実施例2と同一条件でスラブ加熱、熱間圧延、焼鈍、冷間圧延および連続脱炭焼鈍を行った後、鋼板表面に、表3に示す焼鈍分離剤(比較例分離剤5,6)をスラリー状にし、ロールコーターにより鋼板片面あたり5g/mの割合で塗布し、乾燥し、コイルに巻き取った後、1200℃×20Hrの最終仕上焼鈍を行った。
その後、燐酸アルミとシリカを主成分とする方向性電磁鋼板用の絶縁被膜剤を焼付け後の質量で4.5g/mの割合で焼き付け、連続炉内で850℃の板温で平坦化焼鈍を行った。
上記製造方法で製造した方向性電磁鋼板(比較例5,6)のグラス被膜外観、平坦化焼鈍ライン通板性、磁気特性を表4に示す。
【0034】
表2に示される本発明3,4と、表4に示される比較例5,6の対比から明らかなように、本発明の焼鈍分離剤(本発明分離剤3,本発明分離剤4)を使用した場合には、グラス被膜はほぼ均一で良好であって、平坦化焼鈍ラインにおける通板性も良好であり、さらに、磁気特性も極めて優れているのに対して、比較例の焼鈍分離剤(比較例分離剤5,6)を使用した場合には、グラス被膜外観は本発明同様ほぼ均一で良好であるが、コイル巻きが緩くコイル形状が不良であるばかりか、磁気特性は本発明3,4に比して劣ったものである。
【0035】
実施例3:
質量%で、C;0.1%、Si;3.0%、Mn;0.1%、Al;0.3%、S;0.1%、N;0.01%、Sn;0.005〜0.015%、残部Feと不可避の不純物からなる方向性電磁鋼板スラブを、実施例1と同様にして処理し、最終板厚0.2mmとした。この鋼板を連続焼鈍炉内で845℃×110秒間、N25体積%+H75体積%、DP 68℃の雰囲気中で脱炭焼鈍し、引き続き750℃×30秒間、N25体積%+H75体積%+NH雰囲気中で鋼板窒素量215ppmになるよう焼鈍した。
【0036】
この鋼板上に、表1に示す焼鈍分離剤(本発明分離剤5,本発明分離剤6)をスラリー状にし、ロールコーターにより鋼板片面あたり5g/mの割合で塗布し、乾燥し、コイルに巻き取った後、1200℃×20Hrの最終仕上焼鈍を行った。
その後、燐酸アルミとシリカを主成分とする方向性電磁鋼板用の絶縁被膜剤を焼付け後の質量で4.5g/mの割合で焼き付け、連続炉内で850℃の板温で平坦化焼鈍を行った。
上記製造方法で製造した方向性電磁鋼板(本発明5,本発明6)のグラス被膜外観、平坦化焼鈍ライン通板性、磁気特性を表2に示す。
【0037】
比較のため、上記実施例3と同一の成分組成の鋼スラブに、実施例3と同一条件でスラブ加熱、熱間圧延、焼鈍、冷間圧延および連続脱炭焼鈍を行った後、鋼板表面に、表3に示す焼鈍分離剤(比較例分離剤7〜9)をスラリー状にし、ロールコーターにより鋼板片面あたり5g/mの割合で塗布し、乾燥し、コイルに巻き取った後、1200℃×20Hrの最終仕上焼鈍を行った。
その後、燐酸アルミとシリカを主成分とする方向性電磁鋼板用の絶縁被膜剤を焼付け後の質量で4.5g/mの割合で焼き付け、連続炉内で850℃の板温で平坦化焼鈍を行った。
上記製造方法で製造した方向性電磁鋼板(比較例7〜9)のグラス被膜外観、平坦化焼鈍ライン通板性、磁気特性を表4に示す。
【0038】
表2に示される本発明5,6と、表4に示される比較例7〜9の対比から明らかなように、本発明の焼鈍分離剤(本発明分離剤5,本発明分離剤6)を使用した場合には、グラス被膜はほぼ均一で良好であって、平坦化焼鈍ラインにおける通板性も良好であり、さらに、磁気特性も極めて優れているのに対して、比較例の焼鈍分離剤(比較例分離剤7、8、9)を使用した場合には、グラス被膜外観は点状欠陥が多くみられ、平坦化焼鈍ラインに通板させるに際し、コイル形状を保持することができず、通板性が極めて悪く、しかも、磁気特性についても本発明5,6に比して大きく劣ったものである。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明による方向性電磁鋼板の製造方法によれば、特に、焼鈍分離剤の粒径分布を適切に調整することによって、製造工程に大きな変更を加えることなく、グラス被膜特性と磁気特性に優れた方向性電磁鋼板を容易に得ることができ、実用上の有用性が非常に大きい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
方向性電磁鋼板用スラブを加熱後熱間圧延し、冷間圧延し、次いで脱炭焼鈍し、一次再結晶焼鈍を施し、鋼板表面にMgOを主成分とする焼鈍分離剤を塗布し、コイル状に巻取り、仕上焼鈍を施した後、平坦化焼鈍を行う方向性電磁鋼板の製造方法において、
焼鈍分離剤は、苦汁及び海水の何れか一方または双方を原料して得られた水酸化マグネシウムを最終段階で直火式ロータリーキルンにより焼成して得られたMgOの1種又は2種以上の混合物からなり、かつ、該焼鈍分離剤は、粒径1μm以下が15〜30重量%、粒径10μm以上が2重量%以上である粒径分布を有し、さらに、CAA40%値が100秒以上、比表面積が5〜30m/g、Ig−lossが0.7〜2.0重量%である焼鈍分離剤をスラリー状にして鋼板表面に塗布し、乾燥後、コイル状に巻取り、仕上焼鈍を行うことを特徴とする優れたグラス被膜及び磁気特性を備える方向性電磁鋼板の製造方法。

【公開番号】特開2011−202224(P2011−202224A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−69967(P2010−69967)
【出願日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】