説明

旅行時間予測方法、装置及びプログラム

【課題】渋滞が発生して、旅行時間を予測しようとする道路区間の、当日の現在時刻までの旅行時間実測データが、同じ道路区間の過去の旅行時間統計データと大きく異なる場合であっても、過小評価のない予測を行う。
【解決手段】旅行時間を予測しようとする道路区間の、当日の現在時刻までの旅行時間実測データT0を収集し、前記道路区間について、当日と同じ交通条件の日の、過去に収集された旅行時間統計データTm′を取得し、当日の現在時刻の旅行時間実測データT0(0)と、前記旅行時間統計データTm′とに基づき、現在時刻以後の旅行時間予測データ(破線)を算出する。前記旅行時間実測データT0と、前記旅行時間統計データTm′との旅行時間の差が閾値よりも大きなとき(道路が混雑しているとき)、前記旅行時間統計データTm′が減少傾向にある時間帯では、前記算出された旅行時間予測データ(破線)と現在時刻の旅行時間実測データT0(0)との大きな方を現在時刻以後の旅行時間予測データとして提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、旅行時間を予測しようとする道路区間の、当日の現在時刻までの旅行時間実測データと、同じ道路区間の過去の旅行時間統計データとを用いて、その道路区間の当日の将来時刻の旅行時間を予測する方法、装置及びプログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
最近の交通需要の増大と、インターネット、携帯電話などの情報伝達媒体の普及に伴い、交通情報の提供に対するニーズが高まっている。交通情報のうち、走行車両が道路区間を走行するのに要する時間(「旅行時間」という)の情報は、交通渋滞の把握、目的地に到達する最短経路や迂回経路の算出、などに有用である。
特に、当日の将来時刻の旅行時間を予測することが重要である。将来時刻の旅行時間を予測できれば、渋滞などが予測できるので、当該道路区間を避けた目的地までの経路を探索して車両に通知したり、車両に迂回指示を出したりすることができ、未然に交通渋滞の回避ができる。
【0003】
そこで、交通計測を行って収集した過去の旅行時間統計データを使って、将来の旅行時間を予測する方法が提案されている。この方法は、当日の現時刻までの旅行時間実測データを取り込み、旅行時間データベースに蓄積された旅行時間統計データの中から、現時刻までの旅行時間実測データの旅行時間の傾向の最も類似するパターンを検索し、類似パターンが現時刻までの旅行時間実測データの変化傾向が似ているときは、類似パターンをそのまま旅行時間予測値として用い、変化傾向が似ているが全体に旅行時間に時間差の生じているときは、その両データの比率を類似パターンに乗算することにより、旅行時間予測データを作成する。
【特許文献1】特開2001-126180号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、前記従来の方法では、当日に突発的・特殊な交通状況がある場合、現時刻までの旅行時間実測データの旅行時間と傾向が類似するとして検索されたパターンが、当日の現時刻以後の旅行時間と変動傾向の全く異なるパターンである可能性を排除しきれない。
すなわち、当日に事故等の突発事象の影響があり、通常とは違った交通状況では、過去の統計データに基づいて予測値を算出するため、現状に合った予測値の算出ができない。
【0005】
特に、突発事象の影響を受け、普段より交通需要が過大となった場合は、普段は旅行時間が減少していく時間帯でも旅行時間は減少しないが、そのような場合でも、普段の減少傾向に基づいた予測時間を算出してしまう。
このような突発事象の影響を受けている場合に、普段の変動傾向のパターンに基づき旅行時間を予測すると、実際の旅行時間とは大きくはずれてしまい、誤った予測を与えてしまうことになる。
【0006】
そこで本発明は、旅行時間を予測しようとする道路区間の、当日の現在時刻までの旅行時間実測データが、同じ道路区間の過去の旅行時間統計データと大きく異なる場合であっても、過小評価のない予測を行うことができる旅行時間予測方法、装置及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の旅行時間提供方法は、旅行時間を予測しようとする道路区間の、当日の現在時刻までの旅行時間実測データを収集し、前記道路区間について、当日と同じ交通条件の日の、過去に収集された1又は複数の旅行時間統計データを取得し、当日の現在時刻の旅行時間実測データと、前記旅行時間統計データのデータ列とに基づき、現在時刻以後の旅行時間予測データを算出し、前記旅行時間実測データと、前記旅行時間統計データとのパターンマッチングの度合いが低い場合、現在の交通状況が普段より混雑しているかどうかを判定し、現在の交通状況が普段より混雑している場合は、前記算出された旅行時間予測データと現在時刻の旅行時間実測データとの大きな方を現在時刻以後の旅行時間予測データとして提供し、現在の交通状況が普段より混雑していない場合は、現在時刻の旅行時間実測データを現在時刻以後の旅行時間予測データとして提供する方法である(請求項1)。
【0008】
前記の方法によれば、旅行時間を予測しようとする道路区間の当日の現在時刻までの旅行時間実測データと、当日と同じ交通条件の日の、過去に収集された1又は複数の旅行時間統計データとを用いて、現在時刻以後の旅行時間を予測する。
ところが、当日突発事象が発生して、旅行時間実測データが、旅行時間統計データの旅行時間とかけ離れたパターンになることがある。この現象を検出した場合であって、かつ現在の交通状況が普段より混雑している場合は、前記算出された旅行時間予測データと現在時刻の旅行時間実測データとの大きな方を現在時刻以後の旅行時間予測データとして提供する。
【0009】
こうすれば、渋滞傾向の場合でも、過小評価のない旅行時間予測データが得られ、被提供者の活用しやすいデータとなる。
現在の交通状況が普段より混雑していない場合は、現在時刻の旅行時間実測データを現在時刻以後の旅行時間予測データとして提供する。この理由は、この場合上流で突発事象が発生し、それがボトルネックとなっているため交通量が普段より少ないケースで、交通量は増加せず、現在の旅行時間が継続すると考えられるためである。
【0010】
前記旅行時間実測データと、前記旅行時間統計データとのパターンマッチングの度合いは、マッチングされた旅行時間統計データの数、又は評価値が所定の閾値以上である場合に、低いと判断してもよい(請求項2,3)。
前記現在の交通状況が普段より混雑しているかどうかの判定は、以下のRを算出し、Rが所定の閾値より大きければ普段より混雑していると判定し、Rが所定の閾値より小さければ普段より混雑していないと判定する(請求項4)。
【0011】
R=現時刻の旅行時間実測データ/現時刻の旅行時間統計データの平均値
前記交通条件が同じ日の旅行時間統計データには、当日と同じ日の旅行時間統計データ、当日と同じ曜日の旅行時間統計データ、当日と同じ天気の日の旅行時間統計データ、当日に催事があれば同じ催事があった日の旅行時間統計データなどがある(請求項5)。
さらに本発明の旅行時間提供装置は、前記旅行時間提供方法を実施するものであり(請求項6)、また本発明の旅行時間提供プログラムは、前記旅行時間提供方法をコンピュータに実行させるものである(請求項7)。
【発明の効果】
【0012】
以上のように本発明によれば、突発事象の発生した当日の旅行時間予測データを、過小評価とならないようにして提供することにより、渋滞予測や、最短経路や迂回経路などの算出に活用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を、添付図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は道路地図であり、交差点から交差点までの間の一方向の道路区間Lを示している。車両感知器や路側ビーコンは、この道路区間Lのいずれかの位置、例えば片端に設けられている。車両感知器は、道路の上から超音波や光のパルスを発射して、戻ってくる時間を測定することによって車両の存在を感知するセンサである。路側ビーコンは、車載通信装置と双方向通信を行うことによって、車両の識別を行うとともに、その車両が前回通過した路上ビーコンの情報やその通過時刻の情報を取得する通信装置である。
【0014】
図2は、旅行時間提供方法を実施するための旅行時間提供装置の概略図である。旅行時間提供装置は、コンピュータなどを含む処理装置1と、旅行時間実測データなどを記憶する記憶装置2と、管轄道路の各地点に設置された車両感知器や路上ビーコンからの信号を取り入れるためのインターフェイス3と、表示装置、キーボードなどの入出力装置4とを備えている。
【0015】
処理装置1が、旅行時間のデータを収集する方法をいくつか説明する。処理装置1は、車両感知器の感知信号に基づいて交通量q(単位時間(例えば5分間)あたりの車両の通過台数)を算出する。車両感知器は道路区間ごとに設置されているので、交通量qも道路区間ごとに求められる。さらに処理装置1は、占有時間O(単位時間(例えば5分間)内に、各車両kが車両感知器を横切った時間tkの総和Σtk)を検知する。処理装置1は、交通量q、占有時間O、及び平均車長(一定値とする)Iを用いて、式V=I・q/Oにより車両の平均速度Vを計算し、これと道路区間の長さLを用いて、式T=L/Vにより旅行時間Tを計算する。
【0016】
道路区間に路上ビーコンが設置されていて、車載装置との双方向通信により車両が識別できるときは、同一車両が道路区間の端を通過した時刻と道路区間の他の端を通過した時刻とから、道路区間を走行するのに要した旅行時間を求めることもできる。単位時間(例えば5分間)内に複数の車両を同定できたならば、各車両の旅行時間の平均をとる。
以上の他に、カメラの計測画像から車両のプレートナンバーをマッチングして車両を同定し、同一車両が道路区間の端を通過した時刻と道路区間の他の端を通過した時刻とから、道路区間を走行するのに要した時間Tを求めるようにしてもよい。この場合も、単位時間(例えば5分間)内に複数の車両を同定できたときは、各車両の旅行時間の平均をとる。
【0017】
以上のようにして求めた複数種類の旅行時間について、重み付き平均値をとって、これを旅行時間としてもよい。重みとしては、経験上定めた値を採用すればよい。
処理装置1は、旅行時間のデータを、道路区間ごと時間帯ごとに記憶装置2に蓄積する。この蓄積されたデータを「旅行時間統計データ」という。この蓄積をするときに、時系列データのばらつきを排除するため、データの平滑化を行うことが望ましい。平滑化は、後述するように、移動平均、指数平滑等の平滑化手法を用いて行う。しかし、これ以外に、時系列データに対して離散コサイン変換をして複数の周波数成分に分解し、分解された周波数成分のうち、周波数の高い部分は除去し、残った周波数の低い成分だけを用いて離散コサイン逆変換をして、ばらつきの影響が排除された時系列データを作成してもよい。前記離散コサイン変換に代えて、フーリエ変換やウェーブレット変換を採用してもよい。
【0018】
次に処理装置1は、当日の予測したい道路区間について、以下の処理により旅行時間の予測を行う。
図3は、旅行時間の予測処理を説明するためのフローチャートである。
まず、処理装置1は、管轄道路の中から予測したい道路区間を指定する。そして、当日と同じ日、曜日、天候、催事の有無などを満たす日を選定し、その日の時間帯(例えば5分間)ごとの旅行時間統計データを抽出する(ステップS1)。ここに、日、曜日、天候、催事の有無など、旅行時間とその分布に影響を与える条件を「交通条件」という。交通条件の同じ日の旅行時間統計データを抽出するのは、交通条件が同じ日であれば、その日に突発的な事象(事故、道路工事、異常気象など)が起こらなかった限り、旅行時間とその分布が似ていると考えられるので、精度のよい旅行時間の予測ができるからである。
【0019】
例えば、「1月1日」という特異な日の旅行時間を予想したい場合、経験上、「日」が交通条件の最大の要素となるので、去年の1月1日、一昨年の1月1日といった旅行時間統計データを抽出する。当日が「雨の金曜日」であることに注目するならば、前回雨であった金曜日、前々回雨であった金曜日などの旅行時間統計データを抽出する。
次に処理装置1は、記憶装置2から当日収集された旅行時間データ(「旅行時間実測データ」という)を読み出す。これにより、特定された各道路区間について、現在時刻に至るまでの時間帯(例えば5分間)ごとの時系列データが得られる。
【0020】
処理装置1は、交通条件の同じ日の旅行時間統計データの中から、この当日の旅行時間実測データと時間変動の傾向(パターン、トレンド)の似ている旅行時間統計データを、通常は複数選定する(ステップS2)。この選定方法は、後に詳述する。
つぎに、選定された旅行時間統計データの現在時刻以後の将来に注目し、この将来時刻において、平均的傾向からかけ離れたデータ部分を除外する(ステップS3)。これは、その日に突発的な事象(事故、道路工事、異常気象など)が起こって、旅行時間に異常値が現れた場合にそのデータを除外するためである。この除外処理も後述する。
【0021】
そして、除外済みの旅行時間統計データに対して、それらのデータを代表するデータを算出する(ステップS4)。例えば、単純平均をとる、重み付け平均をとる、中央値をとる、などである。
さらにこの代表データの現在時刻の旅行時間に対して、当日の旅行時間実測データの現在時刻の旅行時間と比較をする(ステップS5)。この比較に基づいて、当日の将来時刻の旅行時間予測データを算出する(ステップS6)。
【0022】
次に以上の各ステップの手順を、具体例をあげて詳しく説明する。
まず記号を導入する。当日の旅行時間実測データをT0(j)と書く。添え字"0"は当日であることを表す。また、旅行時間統計データをTk(j)と書く。添え字kが"1"であれば交通条件が同じである前日を表し、添え字kが"2"であれば交通条件が同じである前々日などを表す。括弧内の"j"は時間帯を表す。現在の時間帯ならばj=0、1つ前の時間帯ならばj=−1、2つ前の時間帯ならばj=−2、1つ先の時間帯ならばj=1、2つ先の時間帯ならばj=2、などである。
【0023】
図4は、当日の旅行時間実測データT0(j)と、ステップS1で抽出された交通条件の同じ日の旅行時間統計データT1(j) ,T2(j) ,...,TN(j)を描いたグラフである。Nは抽出された旅行時間統計データの総数である。現在時刻とそれ以前の時刻j=0,−1,−2,・・・のデータのみを描いている。
ここで、旅行時間実測データT0(j)と旅行時間統計データT1(j) ,T2(j) ,...,TN(j)とは、前述したように、平滑化されたデータを用いる。平滑化されていないデータを用いれば、変動が多すぎて、実用になりにくいからである。
【0024】
平滑化方法として、当該時刻を含む過去の範囲の時刻にわたって平均をとられたデータを用いることが好ましい。過去の範囲の時刻にわたって平均をとるのは、旅行時間実測データT0(j)は過去のデータしか収集できないので、将来の時刻にわたって平均をとることができないからである。平均化手法は、例えば指数平滑を採用する。指数平滑とは、今回のデータと前回のデータとを重みをつけて足すことにより平滑化する方法である。前回のデータも、前々回のデータの重みがかかっているので、過去の履歴を引きずったデータとなる。
【0025】
処理装置1は、旅行時間実測データT0(j)と、時間変動の傾向(パターン、トレンド)の似ている旅行時間統計データをT1(j) ,T2(j),...を選択する。この似ているかどうかの判定には、各旅行時間統計データTk(j)にごとに、次のような距離評価関数F(k)を作成する。k=1からNまでのいずれかである。
F(k)={Σ[T0(j)−Tk(j)]21/2
ここで総和Σは、現在時刻からj=0から、過去に遡った所定の時刻(例えば当日の始まり、早朝の時刻)までとる。1つ1つの旅行時間統計データTk(j)に対応するF(k)が小さいほど、T0(j)とTk(j)との距離が短く、時間変動の傾向(パターン、トレンド)が似ている。
【0026】
なお、F(k)を算出するときに、旅行時間統計データTk(j)の時刻jを少し前後にずらせば(つまり旅行時間統計データのパターンを時間方向に平行移動させれば)、F(k)が激減することがある。この場合、旅行時間統計データの時刻をずらしたものを改めて旅行時間統計データとして使用する。時刻jをずらす量をあまり長くとれば、パターン比較における時刻の信頼性が低下してしまうので、時刻jをずらす上限値(例えば前後10分)を設けるとよい。
【0027】
また、他の評価関数として、傾きの関数G(k)を採用してもよい。
G(k)={Σ[(T0(j)−T0(j-1))−(Tk(j)−Tk(j-1))]21/2
総和Σは、現在時刻からj=0から、過去に遡った所定の時刻までとる。G(k)が小さいほどT0(j)の傾きとTk(j)の傾きが近いので、時間変動の傾向(パターン、トレンド)が似ている。G(k)を算出するときに、旅行時間統計データTk(j)の時刻jを少し前後にずらせばG(k)が激減する場合は、旅行時間統計データの時刻をずらしたものを改めて旅行時間統計データとして使用してもよい。この場合も時刻jをずらすのに上限値(例えば前後10分)を設けるとよい。
【0028】
前記評価関数F(k)とG(k)との線形和
H(k)=αF(k)+βG(k)
を評価関数としてもよい。
この評価関数の値(評価値という)がしきい値よりも小さな旅行時間統計データTk(j)を、1又は複数選択する。しきい値よりも大きな旅行時間統計データは捨てる。
【0029】
図5は、しきい値を固定した場合の旅行時間統計データTk(j)の個数分布のグラフであり、横軸は評価値を示す。しきい値よりも小さな旅行時間統計データTk(j)が採用される。
図6は、しきい値を変数とした場合の旅行時間統計データTk(j)の個数分布を示すグラフである。もっとも評価値の小さな旅行時間統計データTk(j)の評価値aに定数rをかけた値raをしきい値としている。
【0030】
このようにして、当日の旅行時間実測データとパターン、トレンドの似ている1又は複数の旅行時間統計データが選定される。選択された旅行時間統計データTk(j)の個数をMとする。
次に、これらの選定された旅行時間統計データに対して、現在時刻より後の値に基づいた処理を行う。
【0031】
図7は、当日の旅行時間実測データT0(j)と、当日の旅行時間実測データT0(j)とパターン、トレンドが似ているとして選定された旅行時間統計データT1(j) ,T2(j),・・,TM(j)を描いたグラフである。現在時刻とそれ以後の時刻j=0,1,2,・・・のデータのみを描いている。
ここで、旅行時間統計データT1(j) ,T2(j)等は、平滑化されたデータを用いる。平滑化されていないデータを用いれば、変動が多すぎて、実用になりにくいからである。平滑化方法として、当該時刻を含む前後の範囲の時刻にわたって平均をとることが望ましい。例えば移動平均をとる。移動平均とは、今回のデータとその前後一定数のデータとを重みをつけて足すことにより平滑化する方法である。旅行時間統計データは、すでに全時間にわたって取得され蓄積されているデータであるので、平均をとるにあたって、将来時刻のデータも含めることができる。
【0032】
まず、将来時刻において、選定された旅行時間統計データT1(j) ,T2(j) ,・・,TM(j)の平均をとる。この平均をとった旅行時間統計データをTm(j)として太線で描いている。
この平均旅行時間統計データTm(j)から大きく離れた旅行時間統計データを考慮すれば旅行時間予測精度の低下につながるので、そのような、平均旅行時間統計データTm(j)から大きく離れた部分を除外する。このために時間帯jにおける偏差値Y(k.j)を導入する。
【0033】
Y(k,j)={[Tk(j)−Tm(j)]2/N}1/2
この偏差値Y(k.j)がしきい値以上あれば、平均旅行時間統計データTm(j)から距離が離れているとして、当該時間帯のデータTk(j)を除外する。
なお、平均旅行時間統計データTm(j)を求めたときに求まった標準偏差を含む、次のような偏差値Z(k,j)を用いてもよい。
【0034】
Z(k,j)=50+10[Tk(j)−Tm(j)]/(標準偏差)
この偏差値Z(k,j)が、例えば30未満又は70以上の場合、当該時間帯のデータTk(j)を除外する。
これらの平均的傾向からかけ離れたデータは、旅行時間統計データを採取した日の突発的な事象(事故、道路工事、異常気象など)に基づくものと考えられるので、旅行時間の予測精度の低下要因になると考えられるからである。
【0035】
図7のグラフの場合、T4(2), T4(3)といった離れたデータが除外される。
除外処理が終われば、除外されなかった旅行時間統計データの平均をとる。この除外されなかった旅行時間統計データについての平均旅行時間統計データをTm′(j)と書く。この平均旅行時間統計データTm′(j)は、平均的傾向からかけ離れたデータが除外されているという点で、前述した平均旅行時間統計データTm(j)よりもさらに精度がよくなっている。
【0036】
次に、この精度のよい平均旅行時間統計データTm′(j)を用いて、当日の旅行時間実測データT0(j)を、将来時刻に向かって延長する。この延長されたデータを「旅行時間予測データ」という。図8は、旅行時間予測データを求める方法を示すグラフである。
図8に示すように、旅行時間予測データ(破線)は、当日の旅行時間実測データの現在値T0(0)と、平均旅行時間統計データの現在値Tm′(0)との差ΔTを、平均旅行時間統計データTm′(j)に加えることにより求まる。
【0037】
また、当日の旅行時間実測データの現在値T0(0)と、平均旅行時間統計データの現在値Tm′(0)との比ΔRを、平均旅行時間統計データTm′(j)にかけて求めてもよい。
以上のようにして、当日と交通条件が同じ日の旅行時間統計データの中から、旅行時間実測データとパターン、トレンドの類似する旅行時間統計データを採用し、さらに将来時刻において、その旅行時間統計データの中からかけ離れた値を除外した上で旅行時間統計データの平均をとり、この平均をとった旅行時間統計データに基づいて、旅行時間実測データを延長することにより、当日の旅行時間予測データを算出する。この処理により、当日の将来時刻の旅行時間を精度よく算出することができる。
【0038】
次に、本発明の旅行時間提供方法を説明する。
旅行時間を予測しようとする当日、突発事象(事故、道路工事、異常気象など)が発生して、旅行時間実測データの旅行時間の変動パターンが、旅行時間統計データの旅行時間の変動パターンとかけ離れることがある。
前述した処理の結果、選択された旅行時間統計データの数があらかじめ設定された閾値より少ない場合、旅行時間実測データの変動パターンと旅行時間統計データの変動パターンとのマッチングの度合いは低いと判定する。
【0039】
旅行時間実測データの変動パターンと旅行時間統計データの変動パターンとのマッチングの度合いが低いと判定された場合、選択された旅行時間統計データから平均旅行時間統計データを作成しても精度がよいとはいえないため、選択された旅行時間統計データの代わりに全部の旅行時間統計データを用いて平均旅行時間統計データを作成して、以下の処理を行ってもよい。
【0040】
図9は、突発事象が発生して、現在すでに渋滞が始まっている場合の旅行時間実測データT0と、交通条件が同じ日の過去の旅行時間統計データTm′とを示すグラフである。旅行時間統計データTm′が上昇気味であるのは、そのような時間帯(例えば朝のラッシュ時)だからである。旅行時間予測データ(破線)は、当日の旅行時間実測データの現在値T0(0)と、平均旅行時間統計データの現在値Tm′(0)との差ΔT(ΔT=T0(0)−Tm′(0))を、平均旅行時間統計データTm′(j)に加えることにより求める。
【0041】
次に、差ΔTを閾値と比較することにより道路が混雑しているかどうか判定する。この閾値は、道路が混雑している日(例えば突発事象が発生した日)にΔTがどのくらいの大きさになるのかを経験的に計測し、それを閾値とする。
また、現在の交通状況が普段より混雑しているかどうかの判定は、差ΔTを求めて判断すること以外に、以下のRを算出し、Rが所定の閾値より大きければ普段より混雑していると判定し、Rが所定の閾値より小さければ普段より混雑していないと判定してもよい。
【0042】
R=T0(0)/現在値Tm′(0)
閾値は、前記と同様、道路が混雑している日(例えば突発事象が発生した日)にRがどのくらいの大きさになるのかを経験的に計測し、それを閾値とすればよい。
図9の場合、渋滞が発生しているので、旅行時間実測データと旅行時間統計データとの差ΔT又は比Rはかなり大きくなっている。
【0043】
道路が混雑していると判定すると(つまり閾値を超えるΔT又はRを検出すると)、図9に示すような前記旅行時間統計データが増加傾向にある時間帯では、前記算出された旅行時間予測データ(破線)を提供する。この理由は、旅行時間統計データが増加傾向にあるので、旅行時間予測データ(破線)は、旅行時間実測データの現在値T0(0)を常に上回り、旅行時間予測データ(破線)を提供しても決して過小な旅行時間を提供することにはならないからである。
【0044】
一方、図10は、現在渋滞が発生している場合の旅行時間実測データT0と、当日と交通条件が同じ日の過去の旅行時間統計データTm′とを示すグラフである。旅行時間統計データTm′が下降気味であるのは、そのような時間帯(例えばラッシュ終了時)だからである。旅行時間予測データ(破線)は、当日の旅行時間実測データの現在値T0(0)と、平均旅行時間統計データの現在値Tm′(0)との差ΔTを、平均旅行時間統計データTm′(j)に加えることにより求める。
【0045】
前記旅行時間統計データが減少傾向にあるので、前記算出された旅行時間予測データ(破線)を提供すると、前記旅行時間統計データの減少傾向の影響で過小評価になりやすい。そこで、旅行時間予測データ(破線)と旅行時間実測データの現在値T0(0)との大きな方を現在時刻以後の旅行時間予測データ(一点鎖線)として提供するのである。
図10の場合、旅行時間実測データの現在値T0(0)が旅行時間予測データ(破線)を常に上回るので、旅行時間実測データの現在値T0(0)を旅行時間予測データ(一点鎖線)として提供する。もし、旅行時間予測データ(破線)が逆転して旅行時間実測データの現在値T0(0)を上回るようになれば、その時点から提供するデータを旅行時間予測データ(破線)に切り替える。このようにして、常に、旅行時間実測データの現在値T0(0)と旅行時間予測データ(破線)との大きい方を提供する。
【0046】
こうすれば、渋滞傾向の道路状態でも、過小評価のない旅行時間予測データを提供することができ、被提供者の活用しやすいデータとなる。
以上の本発明の旅行時間提供処理では、当日の旅行時間実測データの現在値T0(0)と、平均旅行時間統計データの現在値Tm′(0)との差ΔTが正であるか比Rが1より大きい、つまり道路が混雑していることを前提としていた。これは、当日の交通需要が普段より大きく超過していることを意味しており、突発事象発生区間の上流の道路区間でこのようなことが起こりやすい。
【0047】
旅行時間実測データの旅行時間の変動パターンと旅行時間統計データの旅行時間の変動パターンとのパターンマッチングがとりにくい場合で、ΔTが負であるか又は比Rが1より小さい場合がある、これは、交通需要が普段に比べて少ないケースであり、突発事象発生区間の下流部で起こりやすい。この場合は、旅行時間予測データを大きめに算出する配慮は特に必要がないと考えられる。そこで、旅行時間実測データの現在値T0(0)を旅行時間予測データとして提供する。
【0048】
以上で、本発明の実施の形態を説明したが、本発明の実施は、前記の形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々の変更を施すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】交差点から交差点までの間の一方向の道路区間Lを示す道路地図である。
【図2】本発明の旅行時間提供方法を実施するための旅行時間提供装置の概略図である。
【図3】本発明の旅行時間提供方法の流れを説明するためのフローチャートである。
【図4】当日の旅行時間実測データT0(j)、及び交通条件の同じ日の旅行時間統計データT1(j) ,T2(j)を描いたグラフである。
【図5】しきい値を固定した場合の旅行時間統計データTk(j)の個数分布のグラフである。
【図6】しきい値を変数とした場合の旅行時間統計データTk(j)の個数分布を示すグラフである。
【図7】当日の旅行時間実測データT0(j)とパターン、トレンドの似ている旅行時間統計データT1(j) ,T2(j),・・・を描いたグラフである。
【図8】当日の将来時刻の旅行時間予測データを求める方法を説明するためのグラフである。
【図9】突発事象が発生して現在すでに渋滞が始まっている場合の旅行時間実測データT0と、交通条件が同じ日の過去の旅行時間統計データTm′とを示すグラフである。
【図10】突発事象が発生して現在すでに渋滞が収束しつつある場合の旅行時間実測データT0と、交通条件が同じ日の過去の旅行時間統計データTm′とを示すグラフである。
【符号の説明】
【0050】
1 処理装置
2 記憶装置
3 インターフェイス
4 入出力装置
L 道路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)旅行時間を予測しようとする道路区間の、当日の現在時刻までの旅行時間実測データを収集し、
(b)前記道路区間について、当日と同じ交通条件の日の、過去に収集された1又は複数の旅行時間統計データを取得し、
(c)当日の現在時刻の旅行時間実測データと、前記旅行時間統計データのデータ列とに基づき、現在時刻以後の旅行時間予測データを算出し、
(d)前記旅行時間実測データと、前記旅行時間統計データとのパターンマッチングの度合いが低い場合、現在の交通状況が普段より混雑しているかどうかを判定し、現在の交通状況が普段より混雑している場合は、前記算出された旅行時間予測データと現在時刻の旅行時間実測データとの大きな方を現在時刻以後の旅行時間予測データとして提供し、
現在の交通状況が普段より混雑していない場合は、現在時刻の旅行時間実測データを現在時刻以後の旅行時間予測データとして提供することを特徴とする旅行時間提供方法。
【請求項2】
前記旅行時間実測データと、前記旅行時間統計データとのパターンマッチングの度合いは、マッチングされた旅行時間統計データの数が所定の閾値以下である場合に、低いと判断する請求項1記載の旅行時間提供方法。
【請求項3】
前記旅行時間実測データと、前記旅行時間統計データとのパターンマッチングの度合いは、マッチングされた旅行時間統計データの評価値が所定の閾値以上である場合に、低いと判断する請求項1記載の旅行時間提供方法。
【請求項4】
前記現在の交通状況が普段より混雑しているかどうかの判定は、以下のRを算出し、Rが所定の閾値より大きければ普段より混雑していると判定し、Rが所定の閾値より小さければ普段より混雑していないと判定する請求項1記載の旅行時間提供方法。
R=現時刻の旅行時間実測データ/現時刻の旅行時間統計データの平均値
【請求項5】
前記(b)の手順で、当日と同じ交通条件の日の旅行時間統計データとは、次の(1)から(4)までのいずれかの旅行時間統計データである請求項1から請求項4までのいずれかに記載の旅行時間提供方法。
(1) 当日と同じ日の旅行時間統計データ、
(2) 当日と同じ曜日の旅行時間統計データ、
(3) 当日と同じ天気の日の旅行時間統計データ、
(4) 当日に催事があれば同じ催事があった日の旅行時間統計データ。
【請求項6】
道路ネットワーク上で収集された各道路区間の旅行時間実測データを記憶した旅行時間データベースを用いて、道路区間の将来の旅行時間を予測し提供する装置であって、
前記請求項1から請求項5までのいずれかに記載の旅行時間提供方法を実施することを特徴とする旅行時間提供装置。
【請求項7】
道路ネットワーク上で収集された各道路区間の旅行時間実測データを記憶した旅行時間データベースを用いて、道路区間の将来の旅行時間を予測し提供するためのプログラムであって、
前記請求項1から請求項5までのいずれかに記載の旅行時間提供方法をコンピュータに実行させることを特徴とする旅行時間提供プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−11747(P2006−11747A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−186913(P2004−186913)
【出願日】平成16年6月24日(2004.6.24)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】