既設コンクリート構造体のせん断補強方法
【課題】せん断応力に対する耐力を向上させることができる既設コンクリート構造体のせん断補強方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る既設コンクリート構造体のせん断補強方法によれば、補強部材4が既設コンクリート構造体1Aの一方の面2より穿孔された有底孔3内に設置され充填材6が有底孔3の内壁面11と補強部材4との間の隙間を埋めるように充填された既設コンクリート構造体のせん断補強方法において、有底孔3として、一方の面2に開口するベース孔部10とベース孔部10の内壁面11からベース孔部の孔の中心線12と交差する方向に延長する係止凹部13とを備えたものを形成し、補強部材4として、係止凹部13の係止面21に係止する係止部22を備えたものを形成し、補強部材4の係止部22が係止面21に係止されて充填材6が補強部材4と有底孔3の内壁面11との間に充填されたことを特徴とする。
【解決手段】本発明に係る既設コンクリート構造体のせん断補強方法によれば、補強部材4が既設コンクリート構造体1Aの一方の面2より穿孔された有底孔3内に設置され充填材6が有底孔3の内壁面11と補強部材4との間の隙間を埋めるように充填された既設コンクリート構造体のせん断補強方法において、有底孔3として、一方の面2に開口するベース孔部10とベース孔部10の内壁面11からベース孔部の孔の中心線12と交差する方向に延長する係止凹部13とを備えたものを形成し、補強部材4として、係止凹部13の係止面21に係止する係止部22を備えたものを形成し、補強部材4の係止部22が係止面21に係止されて充填材6が補強部材4と有底孔3の内壁面11との間に充填されたことを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、せん断応力に対する耐力を向上させることが可能な既設コンクリート構造体のせん断補強方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ボックスカルバート等の既設コンクリート構造体の一方の面より穿孔された有底孔内に補強部材を設置する既設コンクリート構造体のせん断補強方法が知られている(例えば特許文献1参照)。
特許文献1のせん断補強方法は、有底孔の開口側及び底側を拡幅し、補強部材の一端部を有底孔の開口側拡幅部内に位置させ、補強部材の他端部を有底孔の底側拡幅部内に位置させ、そして、補強部材と有底孔の内壁との間に充填材を充填する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4157510号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1のせん断補強方法によるせん断補強構造を備えたコンクリート構造体では、補強部材と充填材との付着力によりせん断応力に抵抗するので、補強部材と充填材との付着力が十分でない場合、充填材が破壊された場合等、補強部材と充填材との一体性が失われて補強部材が滑ったりすることによりコンクリート構造体に加わる引張力が補強部材に伝達されなくなって、コンクリート構造体がせん断破壊してしまう可能性がある
本発明は、せん断応力に対する耐力を向上させることができる既設コンクリート構造体のせん断補強方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る既設コンクリート構造体のせん断補強方法によれば、補強部材が既設コンクリート構造体の一方の面より穿孔された有底孔内に設置され充填材が有底孔の内壁面と補強部材との間の隙間を埋めるように充填された既設コンクリート構造体のせん断補強方法において、有底孔として、一方の面に開口するベース孔部とベース孔部の内壁面からベース孔部の孔の中心線と交差する方向に延長する係止凹部とを備えたものを形成し、補強部材として、係止凹部の係止面に係止する係止部を備えたものを形成し、補強部材の係止部が係止面に係止されて充填材が補強部材と有底孔の内壁面との間に充填されたので、コンクリート構造体に加わる引張力が係止面及び係止部を介して補強部材に伝達され、せん断応力に対する耐力が向上するコンクリート構造体を提供できるようになる。
一端部に雄ねじ部を有し他端部に係止部を有した補強部材と、定着板とナットとを有した定着手段とを用い、有底孔内に補強部材を他端部側から挿入して、補強部材の係止部を係止凹部の係止面に係止させた状態でベース孔部の開口より突出する補強部材の一端部を定着板の貫通孔に通し、雄ねじ部に螺着されたナットにより定着板を押圧して定着板を既設コンクリート構造体の一方の面に接触させることにより、補強部材を既設コンクリート構造体の一方の面に固定したので、ナットを締結することにより補強部材を既設コンクリート構造体の一方の面に簡単かつ安定に固定できて補強部材の設置作業を容易に行えるとともに、定着板とコンクリート構造体の一方の面とが圧接状態となることで、補強部材の係止部と定着板との間の既設コンクリート構造体の部分にプレストレスを導入でき、せん断応力に対する耐力を向上させることができる。
本発明に係る既設コンクリート構造体のせん断補強方法によれば、補強部材が既設コンクリート構造体の一方の面より穿孔された有底孔内に設置され充填材が有底孔の内壁面と補強部材との間の隙間を埋めるように充填された既設コンクリート構造体のせん断補強方法において、有底孔として、一方の面に開口するベース孔部とベース孔部の開口側及び底部側にそれぞれ設けられてベース孔部の内壁面からベース孔部の孔の中心線と交差する方向に延長する各係止凹部とを備えたものを形成し、補強部材として、各係止凹部の係止面にそれぞれ係止する係止部を備えたものを形成し、補強部材の各係止部が対応する係止凹部の係止面にそれぞれ係止されて充填材が補強部材と有底孔の内壁面との間に充填されたので、コンクリート構造体に加わる引張力が複数の係止面及び係止部を介して補強部材に伝達され、せん断応力に対する耐力が向上するコンクリート構造体を提供できるようになる。
ベース孔部を形成した後に、ベース孔部に挿入されてベース孔部の中心線に沿って延長する導水管と導水管の一端に設けられて導水管の中心線と直交する方向に向けて高圧水を噴射する高圧水噴射孔とを備えたウォータージェットを用いて係止凹部を形成するので、補強部材の係止部が係止して補強部材の有底孔の開口側への移動を確実に阻止できるベース孔部の中心線と直交するような係止面を容易に形成できる。
ベース孔部を形成した後に、回転軸の先端に回転軸を回転中心として回転する切削部を備えたグラインダー装置を用い、回転する切削部をベース孔部の内壁面に接触させながら回転軸を回転軸の回転中心線と交差する方向に移動させることにより係止凹部を形成したので、ベース孔部の中心線と直交するような係止面をより容易に形成できる。
既設コンクリート構造体を鉄筋コンクリート構造体により形成し、係止面を係止凹部の内壁面に露出させた鉄筋により形成したので、コンクリート構造体に加わる引張力が係止面を形成する鉄筋及び補強部材に伝達され、また、係止面を形成する鉄筋と既設コンクリート構造体の一方の面と間に位置するコンクリートに加わる圧縮力を鉄筋により分散できるので、せん断応力に対する耐力を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】コンクリート構造体を示す断面図(実施形態1)。
【図2】有底孔の形成方法を示す説明図(実施形態1)。
【図3】係止凹部の形成方法を示す説明図(実施形態1)。
【図4】ベース孔部を形成する際に用いるウォータージェットの高圧水噴射部を示す図であり、(a)は斜視図、(b)は正面図(実施形態1)。
【図5】係止凹部を形成する際に用いるウォータージェットの高圧水噴射部を示す斜視図(実施形態1)。
【図6】補強部材及び定着手段を示す斜視図(実施形態1)。
【図7】係止凹部を示す図であり、(a)は断面図、(b)は(a)のA−A断面図(実施形態2)。
【図8】係止凹部を示す図であり、(a)は断面図、(b)は(a)のA−A断面図(実施形態3)。
【図9】コンクリート構造体を示す断面図(実施形態7)。
【図10】コンクリート構造体を示す断面図(実施形態8)。
【図11】係止凹部の形成方法を示す説明図(実施形態9)。
【発明を実施するための形態】
【0007】
実施形態1
図1に示すように、実施形態1によるコンクリート構造体1は、例えば、橋脚、ボックスカルバート等の鉄筋コンクリート構造体のような既設コンクリート構造体の一方の面2より穿孔された有底孔3を有した有底孔形成後の既設コンクリート構造体1Aと、有底孔3内に設置された補強部材4と、補強部材4を既設コンクリート構造体1Aに固定する定着手段5と、補強部材4が設置された有底孔3内に充填された充填材6とを備える。
【0008】
有底孔3は、既設コンクリート構造体1Aの一方の面2(例えば、ボックスカルバートの内面)に開口するベース孔部10と、ベース孔部10の底部10aの内壁面11からベース孔部10の孔の中心線12と直交する方向に延長する係止凹部13とを備える。ベース孔部10の孔径は後述する係止部材17の長手方向の長さよりも大きい寸法に形成される。
【0009】
図1;図6に示すように、補強部材4は、例えば真っ直ぐに延長する金属棒体により形成された棒状補強部15と、棒状補強部15の他端部16に設けられた係止部材17とを備える。
係止部材17は、例えば、長方形状の金属平板材の長手方向の一端側が半円形状に形成された板材により形成される。当該係止部材17の一端部18には板材を貫通する貫通孔19が形成され、棒状補強部15の他端部16が当該貫通孔19内に嵌合された状態で棒状補強部15と係止部材17とが例えば溶接やねじ等の接合手段により接合されたことで、棒状補強部15の他端部16に係止部材17が固定された構成の補強部材4が形成される。
このように棒状補強部15の他端部16に固定された係止部材17において、係止部材17の長手方向の他端20と棒状補強部15との間の板部が、係止凹部13の係止面21に係止する係止部22として機能する。
係止面21は、係止凹部13内において有底孔3の開口23に近い側の内壁面13aに露出する鉄筋24の外周面により形成される。
棒状補強部15の一端部25には、雄ねじ部26が形成される。
【0010】
図1;図6に示すように、定着手段5は、定着板30と、ナット31とを備える。
定着板30は、有底孔3の開口23の径よりも大径の例えば円形金属板により形成される。定着板30には、円形金属板の板面の中央を貫通する中央貫通孔32と、円形金属板の板面を貫通する1つ以上の周辺貫通孔、例えば、2つの周辺貫通孔33;34とが形成される。
【0011】
そして、補強部材4が他端部16(他端)側から有底孔3内に挿入されて補強部材4の係止部22が係止凹部13の係止面21に係止されることによって補強部材4が有底孔3の開口23側への移動を阻止された状態で有底孔3内に設置される。この状態で補強部材4の棒状補強部15の一端部25を定着板30の中央貫通孔32に通して棒状補強部15の雄ねじ部26にナット31を螺着して締結する。これにより、定着板30がナット31で押圧されて既設コンクリート構造体1Aの一方の面2に接触(圧接)して有底孔3の開口23を覆うとともに、補強部材4が既設コンクリート構造体1Aの一方の面2に固定される。さらに、既設コンクリート構造体1Aの一方の面2に固定された定着板30の充填孔を介して有底孔3内に充填されて固化した充填材6を備える。この場合、例えば2つの周辺貫通孔33;34のうちの一方を充填孔として用い、他方を空気逃し孔として用いればよい。例えば補強部材4の中心線4aよりも下方に位置する周辺貫通孔33を充填孔として使用し、有底孔3内の下側から充填材6が充填されるように充填すれば、周辺貫通孔34から空気が逃げやすくなるので、有底孔3内に充填材6を密に充填できる。尚、図外の充填材供給管の先端開口を有底孔3内に設置して充填材供給管の先端開口から充填材6を供給するようにしてもよい。この場合、充填材供給管の先端開口を、有底孔3の開口23を介して有底孔3内に挿入してもよいし、周辺貫通孔33;34のうちの一方を介して有底孔3内に挿入してもよい。
【0012】
即ち、補強部材4が、有底孔形成後の既設コンクリート構造体1Aの一方の面2に開口する有底孔3内に挿入されて係止部22が係止凹部13の係止面21に係止されたことによって有底孔3の開口23側への移動を阻止された状態に設置されるとともに、定着手段5により既設コンクリート構造体1Aの一方の面2に固定され、かつ、充填材6が、有底孔3の内壁面11及び補強部材4に付着した状態のせん断補強構造を備えたコンクリート構造体1となる。図1;図2では、鉄筋コンクリート構造体により形成された既設ボックスカルバートに本発明のせん断補強構造を採用したコンクリート構造体1を図示しており、鉄筋24は縦筋、鉄筋27は横筋を示しているが、係止面21として機能させる鉄筋24は、本発明のせん断補強構造を採用しようとする既設の鉄筋コンクリート構造体に組み込まれた鉄筋であればよい。
【0013】
次にせん断補強構造を備えたコンクリート構造体1の施工方法を説明する。
施工方法は、有底孔形成工程と、補強部材設置工程と、充填材充填工程とを備える。
【0014】
有底孔形成工程においては、まず、第1のウォータージェット40を用いて有底孔3のベース孔部10を形成する。即ち、図2(a)のように既設コンクリート構造体の一方の面2に例えば200MPaの高圧水Wを噴射して、既設コンクリート構造体の内部に延長するベース孔部10を形成していく。そして、図2(b)のようにベース孔部10が目的の鉄筋24を越えた位置まで到達したならば、図2(c)のように第2のウォータージェット41を用いて有底孔3の係止凹部13を形成する。つまり、ベース孔部10の底部10aにおける内壁面11の一部11aに高圧水Wを噴射して、既設コンクリート構造体1Aの一方の面2から見て目的の鉄筋24の裏側に延長する係止凹部13を形成する。この場合、目的の鉄筋24の裏側が係止凹部13の開口23に近い側の内壁面13aに露出するような係止凹部13を形成する。尚、有底孔3の形成作業は、既設コンクリート構造体の鉄筋配置図、有底孔3の形成作業の途中で孔内を撮影する図外のボアホールカメラ等の撮影手段により得られる画像情報等に基づいて、目的の鉄筋24の位置を確認しながら行う。
【0015】
高圧水Wを噴射して有底孔3を穿孔するための穿孔装置としてのウォータージェット40;41は、図示しないが、高圧水発生装置と、噴射操作部と、高圧水発生装置からの高圧水を噴射操作部に供給する耐圧ホースのような高圧水供給路とを備える。
高圧水発生装置は、水源から供給された水と圧縮空気とを混合した高圧水を高圧水供給路に送る。
噴射操作部は、図外の高圧水受口と、図2(a)に示すような高圧水噴射部42と、高圧水受口で受けた高圧水を高圧水噴射部42に送る導水管43と、導水管43の管路を開閉する図外の開閉弁と、開閉弁の開閉を操作する図外の操作レバーとを備える。
高圧水噴射部42は、導水管43の終端に着脱自在に取付けられる噴射孔44付きの噴射構成部材(ノズルヘッド)、あるいは、導水管43の終端に形成された噴射孔44により形成される。
ウォータージェット40;41は、高圧水噴射部42を介して噴射される高圧水の圧力値が、コンクリートを削ることが可能でかつ鉄筋を削ることが不可能な圧力値に調整されているものを用いる。
【0016】
ウォータージェット40;41は、噴射孔44が1つの高圧水噴射部42、あるいは、噴射孔44が複数の高圧水噴射部42を備えたものを用いればよい。
有底孔3のベース孔部10を形成するための第1のウォータージェット40として、図2(a)に示すように、噴射孔44が1つの高圧水噴射部42を備えたものを用いる場合、例えば、噴射孔44の中心線44aと導水管43の管の中心線43aとが同一線上に位置され、高圧水Wが噴射孔44を経由して噴射孔44の中心線の延長方向に噴射される構成のものを用いる。この場合、噴射孔44をベース孔部10の穿孔する方向に向けて導水管43を上下方向(あるいは左右方向)に振りながら噴射孔44から高圧水を噴射させることでベース孔部10を形成していく。
また、第1のウォータージェット40として、例えば、図4に示すように、複数の噴射孔44を有したノズルプレートのような高圧水噴射部42を備えたものを用いてもよい。当該第1のウォータージェット40としては、高圧水の水流を受けて導水管43の中心線43aを回転中心として回転可能に構成された円筒箱体の高圧水噴射部42、あるいは、図外のモーターのような回転駆動源により導水管43の中心線43aを回転中心として回転可能に構成された円筒箱体の高圧水噴射部42を備え、高圧水噴射部42の円筒箱体の一端閉塞板45に噴射孔44として機能する例えば2つの貫通孔が形成されたものを用いればよい。この場合は、高圧水噴射部42を少なくとも一方方向Xに回転させながら2つの噴射孔44から高圧水Wを噴射させることでベース孔部10を簡単に形成できる。
【0017】
有底孔3の係止凹部13を形成するために用いる第2のウォータージェット41としては、例えば、図5に示すように、噴射孔44の中心線44aと導水管43の管の中心線43aとが直交し、高圧水Wが1つの噴射孔44を経由して導水管43の中心線43aの延長方向と直交する方向に噴射される構成の高圧水噴射部42を備えたものを用いる。この場合、例えば、高圧水噴射部42は、導水管43の中心線43aと直交する方向に延長する円筒箱体により形成され、円筒箱体の一端閉塞板45に噴射孔44が形成される。即ち、噴射孔44は、導水管43の中心線43aと直交する線と直交するように設けられた一端閉塞板45に形成された貫通孔からなる。
このような第2のウォータージェット41を用い、まず、図3(a)に示すように、高圧水噴射部42の噴射孔44をベース孔部10の底部10aにおける内壁面11の一部11aに向け、次に、図3(b)に示すように、導水管43の中心線43aを回転中心として高圧水噴射部42を所定角度範囲Yで往復回転運動させながら噴射孔44から高圧水Wを噴射させることで係止凹部13を形成していく。
また、第2のウォータージェット41として、上記一端閉塞板45に複数の噴射孔44が形成された構成の高圧水噴射部42を備えたものを用いてもよい。
【0018】
補強部材設置工程は、有底孔3の開口23を介して有底孔3内に補強部材4を係止部材17側から挿入していき、そして、補強部材4の係止部22を係止凹部13の内壁面13aに露出する係止面21としての鉄筋24に係止させた状態で、開口23を越えて既設コンクリート構造体1Aの一方の面2より突出する補強部材4の一端部25を定着板30の中央貫通孔32に通し、補強部材4の雄ねじ部26にナット31を螺着して締結することにより、定着板30が既設コンクリート構造体1Aの開口23の開口縁回りの一方の面2に接触してベース孔部10の開口23を覆う。
この場合、定着板30と既設コンクリート構造体1Aの一方の面2とが圧接状態となることで、補強部材4が既設コンクリート構造体1Aの一方の面2に固定されるので、補強部材4の係止部22と定着板30との間の既設コンクリート構造体1Aの部分1B(図1参照)が補強部材4の係止部22と定着板30とにより押圧されて圧縮された状態となり、既設コンクリート構造体1Aの部分1Bにプレストレスが導入された状態となるので、せん断応力に対する当該部分1Bの耐力が向上し、コンクリート構造体1のせん断応力に対する耐力が向上する。
【0019】
そして、充填材充填工程は、充填孔に図外の充填材充填装置の充填口を繋ぎ、充填材充填装置のポンプを駆動することにより有底孔3内に充填材6を注入する。これにより、有底孔3内に充填材6が充填される。
以上により、せん断補強構造を備えたコンクリート構造体1が完成する。
【0020】
実施形態1の既設コンクリート構造体のせん断補強方法によれば、ベース孔部10と係止凹部13とを備えた有底孔3を形成し、補強部材4に係止部22を形成し、有底孔3内に挿入された補強部材4の係止部22を係止凹部13の係止面21としての鉄筋24に係止したことによって、補強部材4が有底孔3の開口23側への移動を阻止された状態に、かつ、鉄筋24と一方の面2との間のコンクリートを拘束するように設置されたので、コンクリート構造体1に加わる引張力が係止面21としての鉄筋24及び係止部22を介して補強部材4に伝達され、せん断応力に対する耐力が向上するコンクリート構造体1が得られる。
また、係止面21を、係止凹部13内において有底孔3の開口23に近い側の内壁面13aに露出する鉄筋24の外周面により形成したので、係止面21を形成する鉄筋24と一方の面2との間に位置するコンクリートに加わる圧縮力を鉄筋24により分散できて、せん断応力に対する耐力を向上させることができる。
実施形態1の既設コンクリート構造体1のせん断補強方法によれば、ベース孔部10を形成した後に、ベース孔部10に挿入されてベース孔部10の中心線12に沿って延長する導水管43と導水管43の一端に設けられて導水管43の中心線43aと直交する方向に向けて高圧水Wを噴射する高圧水噴射孔44とを備えた第2のウォータージェット41を用いて係止凹部13を形成したので、補強部材4の係止部22が係止して補強部材4の有底孔3の開口23側への移動を確実に阻止できるベース孔部10の中心線12と直交するような係止面21を容易に形成できる。
実施形態1の既設コンクリート構造体1のせん断補強方法によれば、定着手段5を用いたので、ナット31を締結することにより補強部材4を既設コンクリート構造体1Aの一方の面2に簡単かつ安定に固定できて補強部材4の設置作業を容易に行える。しかも、定着板30と既設コンクリート構造体1Aの一方の面2とが圧接状態となることで、補強部材4の係止部22と定着板30との間の既設コンクリート構造体1Aの部分1Bにプレストレスを導入でき、せん断応力に対する耐力を向上させることができるコンクリート構造体1を形成できる。
実施形態1の既設コンクリート構造体1のせん断補強方法によれば、定着板30が有底孔3内に充填材6を充填するための充填孔を備え、補強部材4が設置された有底孔3内に充填された充填材6を備えたので、充填材6の充填作業を容易に行えるとともに、有底孔3の内壁面11と充填材6との付着力、及び、充填材6と補強部材4との付着力によって、せん断応力が補強部材4に伝達されるので、せん断応力に対する耐力を向上させることができるコンクリート構造体1を形成できる。
【0021】
実施形態2
ベース孔部10の底部10aの内壁面11からベース孔部10の孔の中心線12と交差する方向、好ましくは、孔の中心線12と直交する方向に延長する係止凹部13を、複数設けてもよい。例えば、図7に示すように、ベース孔部10の底部10aにおける内周面の互いに180度離れた位置にそれぞれ係止凹部13を設けてもよい。
この場合、例えば、図5に示した第2のウォータージェット41を用いて一方の係止凹部13を形成した後に第2のウォータージェット41の導水管43を導水管43の中心線43aを回転中心として180度回転させてから噴射孔44より高圧水Wを噴射させることで他方の係止凹部13を形成すればよい。
また、この場合に用いる補強部材4は、棒状補強部15の他端部16に、棒状補強部15の中心線と直交する方向に、図外のばねの付勢力等で移動自在となった係止部材17を備えた構成のものを用いればよい。例えば、ベース孔部10を通過した後にばねの付勢力等で棒状補強部15の中心線と直交する方向に移動し、かつ、図外のストッパなどで棒状補強部15の中心線と直交する状態に維持される係止部材17を備えた構成の補強部材4を用いればよい。
この場合、互いに180°隔てた係止部材17;17により、補強部材4が係止面21に2点で係止されることになり、補強部材4を安定に係止面21に係止できて好ましい。
【0022】
実施形態3
図8に示すように、係止凹部13は、ベース孔部10の底部10aに設けられたベース孔部10の孔径よりも拡径した拡幅孔部により構成してもよい。例えば、拡幅孔部の中心線とベース孔部10の中心線12とが同じであるようなベース孔部10と同心の孔により形成された拡幅孔部からなる係止凹部13でもよい。
この場合、補強部材4の係止部材17と係止凹部13との位置合わせ作業が不要となるので、補強部材4の設置作業をより簡単に行える。
【0023】
実施形態4
定着手段5を用いる場合において使用する補強部材4は、一端部25に雄ねじ部26を有し他端部16に係止部22を備えた構成のものであればよい。例えば、一端部に雄ねじ部を有し他端部が折り曲げられて係止部に形成された丸棒材を補強部材4として用いてもよい。
【0024】
実施形態5
また、補強部材4の係止部22を係止凹部13の係止面21に係止させた状態でベース孔部10の開口23より突出する補強部材4の一端部25を既設コンクリート構造体1Aの一方の面2に固定する定着手段として、上記定着板30と当該定着板30を既設コンクリート構造体1Aの一方の面2に固定するアンカーボルト等の固定手段とを備えた定着手段を用いてもよい。この場合、補強部材4の係止部22を係止凹部13の係止面21に係止させた状態でベース孔部10の開口23より突出する補強部材4の一端部25を定着板30の中央貫通孔32に通した後に定着板30を固定手段により既設コンクリート構造体1Aの一方の面2に固定し、さらに、補強部材4の一端部25と定着板30とを接着剤等で仮固定してから充填材6を充填すればよい。この場合、一端部25に雄ねじ部を備えず他端部16を折り曲げて係止部に形成した鉄筋等の棒材を補強部材4として用いることができるので、補強部材4のコストを安くできる。
【0025】
実施形態6
定着手段5を用いなくてもよい。この場合において使用する補強部材4は、他端部16に係止部22を備えた構成のものであればよい。例えば、一端部25に雄ねじ部を備えず他端部16を折り曲げて係止部に形成した鉄筋等の棒材を補強部材4として用いることができるので、補強部材4のコストを安くできる。
この場合、有底孔3内に挿入された補強部材4の係止部22が係止凹部13の係止面21に係止されて、補強部材4が有底孔3の開口23側への移動を阻止された状態で、有底孔3内に充填材6を充填して充填材6を固化させた構成、あるいは、予め有底孔3内に充填材6を充填しておいてから有底孔3内に補強部材4を挿入して補強部材4の係止部22を係止凹部13の係止面21に係止して補強部材4が有底孔3の開口23側への移動を阻止された状態とした構成とすればよい。
【0026】
実施形態7
図9に示すように、棒状補強部15の両端に棒状補強部15の径よりも拡径した拡径端部60;60を備えた補強部材4を用いてもよい。そして、各拡径端部60;60は同形状に形成される。拡径端部60と棒状補強部15との境界部が係止面21としての鉄筋24の周面と係合する湾曲面形状の係止部22に形成される。この場合、例えば、一方の拡径端部60側の係止部22を鉄筋24の開口23とは反対側に位置する他方の面61側の外周面(係止面21)に係止させた状態で有底孔3孔の底側から充填材6を充填していけばよい。このような補強部材4を用いれば、係止面21としての鉄筋24の外周面と係止部22との係合を強固にできる。
【0027】
実施形態8
図10に示すように、一方の面2側と他方の面61側とにそれぞれ縦筋(主筋)のような鉄筋27が配置された構成の既設の鉄筋コンクリート構造体においては、例えば棒状補強部15の両端を互いに近づく方向に棒状補強部15の中心軸に対して直角に折り曲げて形成した係止部22;22を備えた鉄筋のような補強部材4を用いる。また、有底孔3としては、ベース孔部10の底部10a側に配置された鉄筋27の他方の面61側、及び、ベース孔部10の開口23側に配置された鉄筋27の一方の面2側の両方にそれぞれ係止凹部13;13を備えたものを用いる。そして、補強部材4の他端側の係止部22を有底孔3の底部10a側の係止面としての鉄筋27における他方の面61側の外周面に係止させ、補強部材4の一端側の係止部22を有底孔3の開口23側の係止面としての鉄筋27における一方の面2側の外周面に係止させて、有底孔3内に充填材6を充填する。このようにすれば、一方の面2側に位置する鉄筋27と他方の面61側に位置する鉄筋27とを挟み込んで一方の面2側に位置する鉄筋27と他方の面61側に位置する鉄筋27との間に位置するコンクリートを拘束するように補強部材4が設置されるので、コンクリート構造体1に加わる引張力が係止面21としての鉄筋27;27及び係止部22;22を介して補強部材4に伝達され、せん断応力に対する耐力が向上するコンクリート構造体1が得られる。また、一方の面2側に位置する鉄筋27と他方の面61側に位置する鉄筋27とを挟み込むように補強部材4が設置されるので、一方の面2側に位置する鉄筋27と他方の面61側に位置する鉄筋27との間に位置するコンクリートに加わる圧縮力を鉄筋27;27により分散できて、せん断応力に対する耐力を向上させることができる。
【0028】
即ち、有底孔3が、一方の面2に開口するベース孔部10と、ベース孔部10の開口23側及び底部10a側にそれぞれ設けられてベース孔部10の内壁面11からベース孔部10の孔の中心線と交差する方向に延長する各係止凹部13;13とを備え、補強部材4が、各係止凹部13;13の係止面にそれぞれ係止する係止部22;22を備え、有底孔3内に挿入された補強部材4の係止部22;22が係止凹部13;13の係止面21;21を形成する鉄筋27;27の外周面に係止され、かつ、有底孔3の内壁面11と補強部材4との間には、有底孔3の内壁面11と補強部材4との間の隙間を埋めるように充填材6が充填された構成のコンクリート構造体1とした。
【0029】
実施形態9
係止凹部13は、図11に示すような、グラインダー装置50を用いて形成してもよい。グラインダー装置50は、例えば図外のモーター等により回転する回転軸51の先端に回転軸51を回転中心として回転する切削部としての円盤砥石52が固定された構成のものを用いる。この場合、例えば第1のウォータージェット40でベース孔部10を形成した後に、グラインダー装置50の円盤砥石52を回転させるとともに円盤砥石52の外周面を図11(a)のようにベース孔部10の内壁面11に寄せて内壁面11に接触させながら回転軸51を回転軸51の回転中心線と交差する方向に移動させることによって、図11(b)のようにベース孔部10に係止凹部13を形成できる。このように、グラインダー装置50を用いた場合でも、ベース孔部10の中心線12(図1参照)と直交するような係止面21を容易に形成できるようになる。尚、回転軸51の回転中心線と円盤砥石52の中心とがずれた構成(偏心構成)のグラインダー装置を用いてもよい。
【0030】
実施形態10
上記では、係止面21を鉄筋の外周面により構成したが、係止面21を既設コンクリート構造体1Aの内部に形成されたコンクリート面により形成してもよい。このようにしても、コンクリート構造体1に加わる引張力が係止面21及び係止部22を介して補強部材4に伝達され、せん断応力に対する耐力が向上するコンクリート構造体1が得られる。
【0031】
本発明は、既設の鉄筋コンクリート構造物、無鉄コンクリート構造物、鉄骨鉄筋コンクリート構造物等のコンクリート構造体1に適用可能である。
充填材6としては、グラウト、モルタル、セメントミルク、レジンコンクリート等の固化する材料を用いればよい。
ベース孔部10は、コアドリル装置やその他の穿孔装置を用いて形成してもよい。
【0032】
また、係止凹部13の係止面21は、補強部材4の係止部22が係止して補強部材4の有底孔3の開口23側への移動を阻止できる面であればよい。つまり、ベース孔部10の孔の中心線12と交差する方向に延長するように形成された係止凹部の係止面であっても良く、要は、補強部材4の係止部22が係止して補強部材4の有底孔3の開口23側への移動を阻止できる面に形成されていればよい。また、係止凹部13は、ベース孔部10の中心線12より上方、左方、右方、下方等、どの方向に延長するように形成されたものであってもよい。
【符号の説明】
【0033】
1 コンクリート構造体、1A 既設コンクリート構造体、2 一方の面、
3 有底孔、4 補強部材、5 定着手段、6 充填材、10 ベース孔部、
11 ベース孔部の内壁面、13 係止凹部、13a 係止凹部の内壁面、
21 係止面、22 係止部、23 ベース孔部の開口、24 鉄筋、
25 補強部材の一端部、26 雄ねじ部、
30 定着板、31 ナット、32 中央貫通孔(貫通孔)、
41 第2のウォータージェット(ウォータージェット)、43 導水管、
50 グラインダー装置、51 回転軸、52 円盤砥石(切削部)。
【技術分野】
【0001】
本発明は、せん断応力に対する耐力を向上させることが可能な既設コンクリート構造体のせん断補強方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ボックスカルバート等の既設コンクリート構造体の一方の面より穿孔された有底孔内に補強部材を設置する既設コンクリート構造体のせん断補強方法が知られている(例えば特許文献1参照)。
特許文献1のせん断補強方法は、有底孔の開口側及び底側を拡幅し、補強部材の一端部を有底孔の開口側拡幅部内に位置させ、補強部材の他端部を有底孔の底側拡幅部内に位置させ、そして、補強部材と有底孔の内壁との間に充填材を充填する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4157510号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1のせん断補強方法によるせん断補強構造を備えたコンクリート構造体では、補強部材と充填材との付着力によりせん断応力に抵抗するので、補強部材と充填材との付着力が十分でない場合、充填材が破壊された場合等、補強部材と充填材との一体性が失われて補強部材が滑ったりすることによりコンクリート構造体に加わる引張力が補強部材に伝達されなくなって、コンクリート構造体がせん断破壊してしまう可能性がある
本発明は、せん断応力に対する耐力を向上させることができる既設コンクリート構造体のせん断補強方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る既設コンクリート構造体のせん断補強方法によれば、補強部材が既設コンクリート構造体の一方の面より穿孔された有底孔内に設置され充填材が有底孔の内壁面と補強部材との間の隙間を埋めるように充填された既設コンクリート構造体のせん断補強方法において、有底孔として、一方の面に開口するベース孔部とベース孔部の内壁面からベース孔部の孔の中心線と交差する方向に延長する係止凹部とを備えたものを形成し、補強部材として、係止凹部の係止面に係止する係止部を備えたものを形成し、補強部材の係止部が係止面に係止されて充填材が補強部材と有底孔の内壁面との間に充填されたので、コンクリート構造体に加わる引張力が係止面及び係止部を介して補強部材に伝達され、せん断応力に対する耐力が向上するコンクリート構造体を提供できるようになる。
一端部に雄ねじ部を有し他端部に係止部を有した補強部材と、定着板とナットとを有した定着手段とを用い、有底孔内に補強部材を他端部側から挿入して、補強部材の係止部を係止凹部の係止面に係止させた状態でベース孔部の開口より突出する補強部材の一端部を定着板の貫通孔に通し、雄ねじ部に螺着されたナットにより定着板を押圧して定着板を既設コンクリート構造体の一方の面に接触させることにより、補強部材を既設コンクリート構造体の一方の面に固定したので、ナットを締結することにより補強部材を既設コンクリート構造体の一方の面に簡単かつ安定に固定できて補強部材の設置作業を容易に行えるとともに、定着板とコンクリート構造体の一方の面とが圧接状態となることで、補強部材の係止部と定着板との間の既設コンクリート構造体の部分にプレストレスを導入でき、せん断応力に対する耐力を向上させることができる。
本発明に係る既設コンクリート構造体のせん断補強方法によれば、補強部材が既設コンクリート構造体の一方の面より穿孔された有底孔内に設置され充填材が有底孔の内壁面と補強部材との間の隙間を埋めるように充填された既設コンクリート構造体のせん断補強方法において、有底孔として、一方の面に開口するベース孔部とベース孔部の開口側及び底部側にそれぞれ設けられてベース孔部の内壁面からベース孔部の孔の中心線と交差する方向に延長する各係止凹部とを備えたものを形成し、補強部材として、各係止凹部の係止面にそれぞれ係止する係止部を備えたものを形成し、補強部材の各係止部が対応する係止凹部の係止面にそれぞれ係止されて充填材が補強部材と有底孔の内壁面との間に充填されたので、コンクリート構造体に加わる引張力が複数の係止面及び係止部を介して補強部材に伝達され、せん断応力に対する耐力が向上するコンクリート構造体を提供できるようになる。
ベース孔部を形成した後に、ベース孔部に挿入されてベース孔部の中心線に沿って延長する導水管と導水管の一端に設けられて導水管の中心線と直交する方向に向けて高圧水を噴射する高圧水噴射孔とを備えたウォータージェットを用いて係止凹部を形成するので、補強部材の係止部が係止して補強部材の有底孔の開口側への移動を確実に阻止できるベース孔部の中心線と直交するような係止面を容易に形成できる。
ベース孔部を形成した後に、回転軸の先端に回転軸を回転中心として回転する切削部を備えたグラインダー装置を用い、回転する切削部をベース孔部の内壁面に接触させながら回転軸を回転軸の回転中心線と交差する方向に移動させることにより係止凹部を形成したので、ベース孔部の中心線と直交するような係止面をより容易に形成できる。
既設コンクリート構造体を鉄筋コンクリート構造体により形成し、係止面を係止凹部の内壁面に露出させた鉄筋により形成したので、コンクリート構造体に加わる引張力が係止面を形成する鉄筋及び補強部材に伝達され、また、係止面を形成する鉄筋と既設コンクリート構造体の一方の面と間に位置するコンクリートに加わる圧縮力を鉄筋により分散できるので、せん断応力に対する耐力を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】コンクリート構造体を示す断面図(実施形態1)。
【図2】有底孔の形成方法を示す説明図(実施形態1)。
【図3】係止凹部の形成方法を示す説明図(実施形態1)。
【図4】ベース孔部を形成する際に用いるウォータージェットの高圧水噴射部を示す図であり、(a)は斜視図、(b)は正面図(実施形態1)。
【図5】係止凹部を形成する際に用いるウォータージェットの高圧水噴射部を示す斜視図(実施形態1)。
【図6】補強部材及び定着手段を示す斜視図(実施形態1)。
【図7】係止凹部を示す図であり、(a)は断面図、(b)は(a)のA−A断面図(実施形態2)。
【図8】係止凹部を示す図であり、(a)は断面図、(b)は(a)のA−A断面図(実施形態3)。
【図9】コンクリート構造体を示す断面図(実施形態7)。
【図10】コンクリート構造体を示す断面図(実施形態8)。
【図11】係止凹部の形成方法を示す説明図(実施形態9)。
【発明を実施するための形態】
【0007】
実施形態1
図1に示すように、実施形態1によるコンクリート構造体1は、例えば、橋脚、ボックスカルバート等の鉄筋コンクリート構造体のような既設コンクリート構造体の一方の面2より穿孔された有底孔3を有した有底孔形成後の既設コンクリート構造体1Aと、有底孔3内に設置された補強部材4と、補強部材4を既設コンクリート構造体1Aに固定する定着手段5と、補強部材4が設置された有底孔3内に充填された充填材6とを備える。
【0008】
有底孔3は、既設コンクリート構造体1Aの一方の面2(例えば、ボックスカルバートの内面)に開口するベース孔部10と、ベース孔部10の底部10aの内壁面11からベース孔部10の孔の中心線12と直交する方向に延長する係止凹部13とを備える。ベース孔部10の孔径は後述する係止部材17の長手方向の長さよりも大きい寸法に形成される。
【0009】
図1;図6に示すように、補強部材4は、例えば真っ直ぐに延長する金属棒体により形成された棒状補強部15と、棒状補強部15の他端部16に設けられた係止部材17とを備える。
係止部材17は、例えば、長方形状の金属平板材の長手方向の一端側が半円形状に形成された板材により形成される。当該係止部材17の一端部18には板材を貫通する貫通孔19が形成され、棒状補強部15の他端部16が当該貫通孔19内に嵌合された状態で棒状補強部15と係止部材17とが例えば溶接やねじ等の接合手段により接合されたことで、棒状補強部15の他端部16に係止部材17が固定された構成の補強部材4が形成される。
このように棒状補強部15の他端部16に固定された係止部材17において、係止部材17の長手方向の他端20と棒状補強部15との間の板部が、係止凹部13の係止面21に係止する係止部22として機能する。
係止面21は、係止凹部13内において有底孔3の開口23に近い側の内壁面13aに露出する鉄筋24の外周面により形成される。
棒状補強部15の一端部25には、雄ねじ部26が形成される。
【0010】
図1;図6に示すように、定着手段5は、定着板30と、ナット31とを備える。
定着板30は、有底孔3の開口23の径よりも大径の例えば円形金属板により形成される。定着板30には、円形金属板の板面の中央を貫通する中央貫通孔32と、円形金属板の板面を貫通する1つ以上の周辺貫通孔、例えば、2つの周辺貫通孔33;34とが形成される。
【0011】
そして、補強部材4が他端部16(他端)側から有底孔3内に挿入されて補強部材4の係止部22が係止凹部13の係止面21に係止されることによって補強部材4が有底孔3の開口23側への移動を阻止された状態で有底孔3内に設置される。この状態で補強部材4の棒状補強部15の一端部25を定着板30の中央貫通孔32に通して棒状補強部15の雄ねじ部26にナット31を螺着して締結する。これにより、定着板30がナット31で押圧されて既設コンクリート構造体1Aの一方の面2に接触(圧接)して有底孔3の開口23を覆うとともに、補強部材4が既設コンクリート構造体1Aの一方の面2に固定される。さらに、既設コンクリート構造体1Aの一方の面2に固定された定着板30の充填孔を介して有底孔3内に充填されて固化した充填材6を備える。この場合、例えば2つの周辺貫通孔33;34のうちの一方を充填孔として用い、他方を空気逃し孔として用いればよい。例えば補強部材4の中心線4aよりも下方に位置する周辺貫通孔33を充填孔として使用し、有底孔3内の下側から充填材6が充填されるように充填すれば、周辺貫通孔34から空気が逃げやすくなるので、有底孔3内に充填材6を密に充填できる。尚、図外の充填材供給管の先端開口を有底孔3内に設置して充填材供給管の先端開口から充填材6を供給するようにしてもよい。この場合、充填材供給管の先端開口を、有底孔3の開口23を介して有底孔3内に挿入してもよいし、周辺貫通孔33;34のうちの一方を介して有底孔3内に挿入してもよい。
【0012】
即ち、補強部材4が、有底孔形成後の既設コンクリート構造体1Aの一方の面2に開口する有底孔3内に挿入されて係止部22が係止凹部13の係止面21に係止されたことによって有底孔3の開口23側への移動を阻止された状態に設置されるとともに、定着手段5により既設コンクリート構造体1Aの一方の面2に固定され、かつ、充填材6が、有底孔3の内壁面11及び補強部材4に付着した状態のせん断補強構造を備えたコンクリート構造体1となる。図1;図2では、鉄筋コンクリート構造体により形成された既設ボックスカルバートに本発明のせん断補強構造を採用したコンクリート構造体1を図示しており、鉄筋24は縦筋、鉄筋27は横筋を示しているが、係止面21として機能させる鉄筋24は、本発明のせん断補強構造を採用しようとする既設の鉄筋コンクリート構造体に組み込まれた鉄筋であればよい。
【0013】
次にせん断補強構造を備えたコンクリート構造体1の施工方法を説明する。
施工方法は、有底孔形成工程と、補強部材設置工程と、充填材充填工程とを備える。
【0014】
有底孔形成工程においては、まず、第1のウォータージェット40を用いて有底孔3のベース孔部10を形成する。即ち、図2(a)のように既設コンクリート構造体の一方の面2に例えば200MPaの高圧水Wを噴射して、既設コンクリート構造体の内部に延長するベース孔部10を形成していく。そして、図2(b)のようにベース孔部10が目的の鉄筋24を越えた位置まで到達したならば、図2(c)のように第2のウォータージェット41を用いて有底孔3の係止凹部13を形成する。つまり、ベース孔部10の底部10aにおける内壁面11の一部11aに高圧水Wを噴射して、既設コンクリート構造体1Aの一方の面2から見て目的の鉄筋24の裏側に延長する係止凹部13を形成する。この場合、目的の鉄筋24の裏側が係止凹部13の開口23に近い側の内壁面13aに露出するような係止凹部13を形成する。尚、有底孔3の形成作業は、既設コンクリート構造体の鉄筋配置図、有底孔3の形成作業の途中で孔内を撮影する図外のボアホールカメラ等の撮影手段により得られる画像情報等に基づいて、目的の鉄筋24の位置を確認しながら行う。
【0015】
高圧水Wを噴射して有底孔3を穿孔するための穿孔装置としてのウォータージェット40;41は、図示しないが、高圧水発生装置と、噴射操作部と、高圧水発生装置からの高圧水を噴射操作部に供給する耐圧ホースのような高圧水供給路とを備える。
高圧水発生装置は、水源から供給された水と圧縮空気とを混合した高圧水を高圧水供給路に送る。
噴射操作部は、図外の高圧水受口と、図2(a)に示すような高圧水噴射部42と、高圧水受口で受けた高圧水を高圧水噴射部42に送る導水管43と、導水管43の管路を開閉する図外の開閉弁と、開閉弁の開閉を操作する図外の操作レバーとを備える。
高圧水噴射部42は、導水管43の終端に着脱自在に取付けられる噴射孔44付きの噴射構成部材(ノズルヘッド)、あるいは、導水管43の終端に形成された噴射孔44により形成される。
ウォータージェット40;41は、高圧水噴射部42を介して噴射される高圧水の圧力値が、コンクリートを削ることが可能でかつ鉄筋を削ることが不可能な圧力値に調整されているものを用いる。
【0016】
ウォータージェット40;41は、噴射孔44が1つの高圧水噴射部42、あるいは、噴射孔44が複数の高圧水噴射部42を備えたものを用いればよい。
有底孔3のベース孔部10を形成するための第1のウォータージェット40として、図2(a)に示すように、噴射孔44が1つの高圧水噴射部42を備えたものを用いる場合、例えば、噴射孔44の中心線44aと導水管43の管の中心線43aとが同一線上に位置され、高圧水Wが噴射孔44を経由して噴射孔44の中心線の延長方向に噴射される構成のものを用いる。この場合、噴射孔44をベース孔部10の穿孔する方向に向けて導水管43を上下方向(あるいは左右方向)に振りながら噴射孔44から高圧水を噴射させることでベース孔部10を形成していく。
また、第1のウォータージェット40として、例えば、図4に示すように、複数の噴射孔44を有したノズルプレートのような高圧水噴射部42を備えたものを用いてもよい。当該第1のウォータージェット40としては、高圧水の水流を受けて導水管43の中心線43aを回転中心として回転可能に構成された円筒箱体の高圧水噴射部42、あるいは、図外のモーターのような回転駆動源により導水管43の中心線43aを回転中心として回転可能に構成された円筒箱体の高圧水噴射部42を備え、高圧水噴射部42の円筒箱体の一端閉塞板45に噴射孔44として機能する例えば2つの貫通孔が形成されたものを用いればよい。この場合は、高圧水噴射部42を少なくとも一方方向Xに回転させながら2つの噴射孔44から高圧水Wを噴射させることでベース孔部10を簡単に形成できる。
【0017】
有底孔3の係止凹部13を形成するために用いる第2のウォータージェット41としては、例えば、図5に示すように、噴射孔44の中心線44aと導水管43の管の中心線43aとが直交し、高圧水Wが1つの噴射孔44を経由して導水管43の中心線43aの延長方向と直交する方向に噴射される構成の高圧水噴射部42を備えたものを用いる。この場合、例えば、高圧水噴射部42は、導水管43の中心線43aと直交する方向に延長する円筒箱体により形成され、円筒箱体の一端閉塞板45に噴射孔44が形成される。即ち、噴射孔44は、導水管43の中心線43aと直交する線と直交するように設けられた一端閉塞板45に形成された貫通孔からなる。
このような第2のウォータージェット41を用い、まず、図3(a)に示すように、高圧水噴射部42の噴射孔44をベース孔部10の底部10aにおける内壁面11の一部11aに向け、次に、図3(b)に示すように、導水管43の中心線43aを回転中心として高圧水噴射部42を所定角度範囲Yで往復回転運動させながら噴射孔44から高圧水Wを噴射させることで係止凹部13を形成していく。
また、第2のウォータージェット41として、上記一端閉塞板45に複数の噴射孔44が形成された構成の高圧水噴射部42を備えたものを用いてもよい。
【0018】
補強部材設置工程は、有底孔3の開口23を介して有底孔3内に補強部材4を係止部材17側から挿入していき、そして、補強部材4の係止部22を係止凹部13の内壁面13aに露出する係止面21としての鉄筋24に係止させた状態で、開口23を越えて既設コンクリート構造体1Aの一方の面2より突出する補強部材4の一端部25を定着板30の中央貫通孔32に通し、補強部材4の雄ねじ部26にナット31を螺着して締結することにより、定着板30が既設コンクリート構造体1Aの開口23の開口縁回りの一方の面2に接触してベース孔部10の開口23を覆う。
この場合、定着板30と既設コンクリート構造体1Aの一方の面2とが圧接状態となることで、補強部材4が既設コンクリート構造体1Aの一方の面2に固定されるので、補強部材4の係止部22と定着板30との間の既設コンクリート構造体1Aの部分1B(図1参照)が補強部材4の係止部22と定着板30とにより押圧されて圧縮された状態となり、既設コンクリート構造体1Aの部分1Bにプレストレスが導入された状態となるので、せん断応力に対する当該部分1Bの耐力が向上し、コンクリート構造体1のせん断応力に対する耐力が向上する。
【0019】
そして、充填材充填工程は、充填孔に図外の充填材充填装置の充填口を繋ぎ、充填材充填装置のポンプを駆動することにより有底孔3内に充填材6を注入する。これにより、有底孔3内に充填材6が充填される。
以上により、せん断補強構造を備えたコンクリート構造体1が完成する。
【0020】
実施形態1の既設コンクリート構造体のせん断補強方法によれば、ベース孔部10と係止凹部13とを備えた有底孔3を形成し、補強部材4に係止部22を形成し、有底孔3内に挿入された補強部材4の係止部22を係止凹部13の係止面21としての鉄筋24に係止したことによって、補強部材4が有底孔3の開口23側への移動を阻止された状態に、かつ、鉄筋24と一方の面2との間のコンクリートを拘束するように設置されたので、コンクリート構造体1に加わる引張力が係止面21としての鉄筋24及び係止部22を介して補強部材4に伝達され、せん断応力に対する耐力が向上するコンクリート構造体1が得られる。
また、係止面21を、係止凹部13内において有底孔3の開口23に近い側の内壁面13aに露出する鉄筋24の外周面により形成したので、係止面21を形成する鉄筋24と一方の面2との間に位置するコンクリートに加わる圧縮力を鉄筋24により分散できて、せん断応力に対する耐力を向上させることができる。
実施形態1の既設コンクリート構造体1のせん断補強方法によれば、ベース孔部10を形成した後に、ベース孔部10に挿入されてベース孔部10の中心線12に沿って延長する導水管43と導水管43の一端に設けられて導水管43の中心線43aと直交する方向に向けて高圧水Wを噴射する高圧水噴射孔44とを備えた第2のウォータージェット41を用いて係止凹部13を形成したので、補強部材4の係止部22が係止して補強部材4の有底孔3の開口23側への移動を確実に阻止できるベース孔部10の中心線12と直交するような係止面21を容易に形成できる。
実施形態1の既設コンクリート構造体1のせん断補強方法によれば、定着手段5を用いたので、ナット31を締結することにより補強部材4を既設コンクリート構造体1Aの一方の面2に簡単かつ安定に固定できて補強部材4の設置作業を容易に行える。しかも、定着板30と既設コンクリート構造体1Aの一方の面2とが圧接状態となることで、補強部材4の係止部22と定着板30との間の既設コンクリート構造体1Aの部分1Bにプレストレスを導入でき、せん断応力に対する耐力を向上させることができるコンクリート構造体1を形成できる。
実施形態1の既設コンクリート構造体1のせん断補強方法によれば、定着板30が有底孔3内に充填材6を充填するための充填孔を備え、補強部材4が設置された有底孔3内に充填された充填材6を備えたので、充填材6の充填作業を容易に行えるとともに、有底孔3の内壁面11と充填材6との付着力、及び、充填材6と補強部材4との付着力によって、せん断応力が補強部材4に伝達されるので、せん断応力に対する耐力を向上させることができるコンクリート構造体1を形成できる。
【0021】
実施形態2
ベース孔部10の底部10aの内壁面11からベース孔部10の孔の中心線12と交差する方向、好ましくは、孔の中心線12と直交する方向に延長する係止凹部13を、複数設けてもよい。例えば、図7に示すように、ベース孔部10の底部10aにおける内周面の互いに180度離れた位置にそれぞれ係止凹部13を設けてもよい。
この場合、例えば、図5に示した第2のウォータージェット41を用いて一方の係止凹部13を形成した後に第2のウォータージェット41の導水管43を導水管43の中心線43aを回転中心として180度回転させてから噴射孔44より高圧水Wを噴射させることで他方の係止凹部13を形成すればよい。
また、この場合に用いる補強部材4は、棒状補強部15の他端部16に、棒状補強部15の中心線と直交する方向に、図外のばねの付勢力等で移動自在となった係止部材17を備えた構成のものを用いればよい。例えば、ベース孔部10を通過した後にばねの付勢力等で棒状補強部15の中心線と直交する方向に移動し、かつ、図外のストッパなどで棒状補強部15の中心線と直交する状態に維持される係止部材17を備えた構成の補強部材4を用いればよい。
この場合、互いに180°隔てた係止部材17;17により、補強部材4が係止面21に2点で係止されることになり、補強部材4を安定に係止面21に係止できて好ましい。
【0022】
実施形態3
図8に示すように、係止凹部13は、ベース孔部10の底部10aに設けられたベース孔部10の孔径よりも拡径した拡幅孔部により構成してもよい。例えば、拡幅孔部の中心線とベース孔部10の中心線12とが同じであるようなベース孔部10と同心の孔により形成された拡幅孔部からなる係止凹部13でもよい。
この場合、補強部材4の係止部材17と係止凹部13との位置合わせ作業が不要となるので、補強部材4の設置作業をより簡単に行える。
【0023】
実施形態4
定着手段5を用いる場合において使用する補強部材4は、一端部25に雄ねじ部26を有し他端部16に係止部22を備えた構成のものであればよい。例えば、一端部に雄ねじ部を有し他端部が折り曲げられて係止部に形成された丸棒材を補強部材4として用いてもよい。
【0024】
実施形態5
また、補強部材4の係止部22を係止凹部13の係止面21に係止させた状態でベース孔部10の開口23より突出する補強部材4の一端部25を既設コンクリート構造体1Aの一方の面2に固定する定着手段として、上記定着板30と当該定着板30を既設コンクリート構造体1Aの一方の面2に固定するアンカーボルト等の固定手段とを備えた定着手段を用いてもよい。この場合、補強部材4の係止部22を係止凹部13の係止面21に係止させた状態でベース孔部10の開口23より突出する補強部材4の一端部25を定着板30の中央貫通孔32に通した後に定着板30を固定手段により既設コンクリート構造体1Aの一方の面2に固定し、さらに、補強部材4の一端部25と定着板30とを接着剤等で仮固定してから充填材6を充填すればよい。この場合、一端部25に雄ねじ部を備えず他端部16を折り曲げて係止部に形成した鉄筋等の棒材を補強部材4として用いることができるので、補強部材4のコストを安くできる。
【0025】
実施形態6
定着手段5を用いなくてもよい。この場合において使用する補強部材4は、他端部16に係止部22を備えた構成のものであればよい。例えば、一端部25に雄ねじ部を備えず他端部16を折り曲げて係止部に形成した鉄筋等の棒材を補強部材4として用いることができるので、補強部材4のコストを安くできる。
この場合、有底孔3内に挿入された補強部材4の係止部22が係止凹部13の係止面21に係止されて、補強部材4が有底孔3の開口23側への移動を阻止された状態で、有底孔3内に充填材6を充填して充填材6を固化させた構成、あるいは、予め有底孔3内に充填材6を充填しておいてから有底孔3内に補強部材4を挿入して補強部材4の係止部22を係止凹部13の係止面21に係止して補強部材4が有底孔3の開口23側への移動を阻止された状態とした構成とすればよい。
【0026】
実施形態7
図9に示すように、棒状補強部15の両端に棒状補強部15の径よりも拡径した拡径端部60;60を備えた補強部材4を用いてもよい。そして、各拡径端部60;60は同形状に形成される。拡径端部60と棒状補強部15との境界部が係止面21としての鉄筋24の周面と係合する湾曲面形状の係止部22に形成される。この場合、例えば、一方の拡径端部60側の係止部22を鉄筋24の開口23とは反対側に位置する他方の面61側の外周面(係止面21)に係止させた状態で有底孔3孔の底側から充填材6を充填していけばよい。このような補強部材4を用いれば、係止面21としての鉄筋24の外周面と係止部22との係合を強固にできる。
【0027】
実施形態8
図10に示すように、一方の面2側と他方の面61側とにそれぞれ縦筋(主筋)のような鉄筋27が配置された構成の既設の鉄筋コンクリート構造体においては、例えば棒状補強部15の両端を互いに近づく方向に棒状補強部15の中心軸に対して直角に折り曲げて形成した係止部22;22を備えた鉄筋のような補強部材4を用いる。また、有底孔3としては、ベース孔部10の底部10a側に配置された鉄筋27の他方の面61側、及び、ベース孔部10の開口23側に配置された鉄筋27の一方の面2側の両方にそれぞれ係止凹部13;13を備えたものを用いる。そして、補強部材4の他端側の係止部22を有底孔3の底部10a側の係止面としての鉄筋27における他方の面61側の外周面に係止させ、補強部材4の一端側の係止部22を有底孔3の開口23側の係止面としての鉄筋27における一方の面2側の外周面に係止させて、有底孔3内に充填材6を充填する。このようにすれば、一方の面2側に位置する鉄筋27と他方の面61側に位置する鉄筋27とを挟み込んで一方の面2側に位置する鉄筋27と他方の面61側に位置する鉄筋27との間に位置するコンクリートを拘束するように補強部材4が設置されるので、コンクリート構造体1に加わる引張力が係止面21としての鉄筋27;27及び係止部22;22を介して補強部材4に伝達され、せん断応力に対する耐力が向上するコンクリート構造体1が得られる。また、一方の面2側に位置する鉄筋27と他方の面61側に位置する鉄筋27とを挟み込むように補強部材4が設置されるので、一方の面2側に位置する鉄筋27と他方の面61側に位置する鉄筋27との間に位置するコンクリートに加わる圧縮力を鉄筋27;27により分散できて、せん断応力に対する耐力を向上させることができる。
【0028】
即ち、有底孔3が、一方の面2に開口するベース孔部10と、ベース孔部10の開口23側及び底部10a側にそれぞれ設けられてベース孔部10の内壁面11からベース孔部10の孔の中心線と交差する方向に延長する各係止凹部13;13とを備え、補強部材4が、各係止凹部13;13の係止面にそれぞれ係止する係止部22;22を備え、有底孔3内に挿入された補強部材4の係止部22;22が係止凹部13;13の係止面21;21を形成する鉄筋27;27の外周面に係止され、かつ、有底孔3の内壁面11と補強部材4との間には、有底孔3の内壁面11と補強部材4との間の隙間を埋めるように充填材6が充填された構成のコンクリート構造体1とした。
【0029】
実施形態9
係止凹部13は、図11に示すような、グラインダー装置50を用いて形成してもよい。グラインダー装置50は、例えば図外のモーター等により回転する回転軸51の先端に回転軸51を回転中心として回転する切削部としての円盤砥石52が固定された構成のものを用いる。この場合、例えば第1のウォータージェット40でベース孔部10を形成した後に、グラインダー装置50の円盤砥石52を回転させるとともに円盤砥石52の外周面を図11(a)のようにベース孔部10の内壁面11に寄せて内壁面11に接触させながら回転軸51を回転軸51の回転中心線と交差する方向に移動させることによって、図11(b)のようにベース孔部10に係止凹部13を形成できる。このように、グラインダー装置50を用いた場合でも、ベース孔部10の中心線12(図1参照)と直交するような係止面21を容易に形成できるようになる。尚、回転軸51の回転中心線と円盤砥石52の中心とがずれた構成(偏心構成)のグラインダー装置を用いてもよい。
【0030】
実施形態10
上記では、係止面21を鉄筋の外周面により構成したが、係止面21を既設コンクリート構造体1Aの内部に形成されたコンクリート面により形成してもよい。このようにしても、コンクリート構造体1に加わる引張力が係止面21及び係止部22を介して補強部材4に伝達され、せん断応力に対する耐力が向上するコンクリート構造体1が得られる。
【0031】
本発明は、既設の鉄筋コンクリート構造物、無鉄コンクリート構造物、鉄骨鉄筋コンクリート構造物等のコンクリート構造体1に適用可能である。
充填材6としては、グラウト、モルタル、セメントミルク、レジンコンクリート等の固化する材料を用いればよい。
ベース孔部10は、コアドリル装置やその他の穿孔装置を用いて形成してもよい。
【0032】
また、係止凹部13の係止面21は、補強部材4の係止部22が係止して補強部材4の有底孔3の開口23側への移動を阻止できる面であればよい。つまり、ベース孔部10の孔の中心線12と交差する方向に延長するように形成された係止凹部の係止面であっても良く、要は、補強部材4の係止部22が係止して補強部材4の有底孔3の開口23側への移動を阻止できる面に形成されていればよい。また、係止凹部13は、ベース孔部10の中心線12より上方、左方、右方、下方等、どの方向に延長するように形成されたものであってもよい。
【符号の説明】
【0033】
1 コンクリート構造体、1A 既設コンクリート構造体、2 一方の面、
3 有底孔、4 補強部材、5 定着手段、6 充填材、10 ベース孔部、
11 ベース孔部の内壁面、13 係止凹部、13a 係止凹部の内壁面、
21 係止面、22 係止部、23 ベース孔部の開口、24 鉄筋、
25 補強部材の一端部、26 雄ねじ部、
30 定着板、31 ナット、32 中央貫通孔(貫通孔)、
41 第2のウォータージェット(ウォータージェット)、43 導水管、
50 グラインダー装置、51 回転軸、52 円盤砥石(切削部)。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
補強部材が既設コンクリート構造体の一方の面より穿孔された有底孔内に設置され充填材が有底孔の内壁面と補強部材との間の隙間を埋めるように充填された既設コンクリート構造体のせん断補強方法において、
有底孔として、一方の面に開口するベース孔部とベース孔部の内壁面からベース孔部の孔の中心線と交差する方向に延長する係止凹部とを備えたものを形成し、
補強部材として、係止凹部の係止面に係止する係止部を備えたものを形成し、
補強部材の係止部が係止面に係止されて充填材が補強部材と有底孔の内壁面との間に充填されたことを特徴とする既設コンクリート構造体のせん断補強方法。
【請求項2】
一端部に雄ねじ部を有し他端部に係止部を有した補強部材と、定着板とナットとを有した定着手段とを用い、有底孔内に補強部材を他端部側から挿入して、補強部材の係止部を係止凹部の係止面に係止させた状態でベース孔部の開口より突出する補強部材の一端部を定着板の貫通孔に通し、雄ねじ部に螺着されたナットにより定着板を押圧して定着板を既設コンクリート構造体の一方の面に接触させることにより、補強部材を既設コンクリート構造体の一方の面に固定したことを特徴とする請求項1に記載の既設コンクリート構造体のせん断補強方法。
【請求項3】
補強部材が既設コンクリート構造体の一方の面より穿孔された有底孔内に設置され充填材が有底孔の内壁面と補強部材との間の隙間を埋めるように充填された既設コンクリート構造体のせん断補強方法において、
有底孔として、一方の面に開口するベース孔部とベース孔部の開口側及び底部側にそれぞれ設けられてベース孔部の内壁面からベース孔部の孔の中心線と交差する方向に延長する各係止凹部とを備えたものを形成し、
補強部材として、各係止凹部の係止面にそれぞれ係止する係止部を備えたものを形成し、
補強部材の各係止部が対応する係止凹部の係止面にそれぞれ係止されて充填材が補強部材と有底孔の内壁面との間に充填されたことを特徴とする既設コンクリート構造体のせん断補強方法。
【請求項4】
ベース孔部を形成した後に、ベース孔部に挿入されてベース孔部の中心線に沿って延長する導水管と導水管の一端に設けられて導水管の中心線と直交する方向に向けて高圧水を噴射する高圧水噴射孔とを備えたウォータージェットを用いて係止凹部を形成することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の既設コンクリート構造体のせん断補強方法。
【請求項5】
ベース孔部を形成した後に、回転軸の先端に回転軸を回転中心として回転する切削部を備えたグラインダー装置を用い、回転する切削部をベース孔部の内壁面に接触させながら回転軸を回転軸の回転中心線と交差する方向に移動させることにより係止凹部を形成したことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の既設コンクリート構造体のせん断補強方法。
【請求項6】
既設コンクリート構造体を鉄筋コンクリート構造体により形成し、係止面を係止凹部の内壁面に露出させた鉄筋により形成したことを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載の既設コンクリート構造体のせん断補強方法。
【請求項1】
補強部材が既設コンクリート構造体の一方の面より穿孔された有底孔内に設置され充填材が有底孔の内壁面と補強部材との間の隙間を埋めるように充填された既設コンクリート構造体のせん断補強方法において、
有底孔として、一方の面に開口するベース孔部とベース孔部の内壁面からベース孔部の孔の中心線と交差する方向に延長する係止凹部とを備えたものを形成し、
補強部材として、係止凹部の係止面に係止する係止部を備えたものを形成し、
補強部材の係止部が係止面に係止されて充填材が補強部材と有底孔の内壁面との間に充填されたことを特徴とする既設コンクリート構造体のせん断補強方法。
【請求項2】
一端部に雄ねじ部を有し他端部に係止部を有した補強部材と、定着板とナットとを有した定着手段とを用い、有底孔内に補強部材を他端部側から挿入して、補強部材の係止部を係止凹部の係止面に係止させた状態でベース孔部の開口より突出する補強部材の一端部を定着板の貫通孔に通し、雄ねじ部に螺着されたナットにより定着板を押圧して定着板を既設コンクリート構造体の一方の面に接触させることにより、補強部材を既設コンクリート構造体の一方の面に固定したことを特徴とする請求項1に記載の既設コンクリート構造体のせん断補強方法。
【請求項3】
補強部材が既設コンクリート構造体の一方の面より穿孔された有底孔内に設置され充填材が有底孔の内壁面と補強部材との間の隙間を埋めるように充填された既設コンクリート構造体のせん断補強方法において、
有底孔として、一方の面に開口するベース孔部とベース孔部の開口側及び底部側にそれぞれ設けられてベース孔部の内壁面からベース孔部の孔の中心線と交差する方向に延長する各係止凹部とを備えたものを形成し、
補強部材として、各係止凹部の係止面にそれぞれ係止する係止部を備えたものを形成し、
補強部材の各係止部が対応する係止凹部の係止面にそれぞれ係止されて充填材が補強部材と有底孔の内壁面との間に充填されたことを特徴とする既設コンクリート構造体のせん断補強方法。
【請求項4】
ベース孔部を形成した後に、ベース孔部に挿入されてベース孔部の中心線に沿って延長する導水管と導水管の一端に設けられて導水管の中心線と直交する方向に向けて高圧水を噴射する高圧水噴射孔とを備えたウォータージェットを用いて係止凹部を形成することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の既設コンクリート構造体のせん断補強方法。
【請求項5】
ベース孔部を形成した後に、回転軸の先端に回転軸を回転中心として回転する切削部を備えたグラインダー装置を用い、回転する切削部をベース孔部の内壁面に接触させながら回転軸を回転軸の回転中心線と交差する方向に移動させることにより係止凹部を形成したことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の既設コンクリート構造体のせん断補強方法。
【請求項6】
既設コンクリート構造体を鉄筋コンクリート構造体により形成し、係止面を係止凹部の内壁面に露出させた鉄筋により形成したことを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載の既設コンクリート構造体のせん断補強方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−256640(P2011−256640A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−133186(P2010−133186)
【出願日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【出願人】(000001317)株式会社熊谷組 (551)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【出願人】(000001317)株式会社熊谷組 (551)
【Fターム(参考)】
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