昆虫抗微生物タンパク質改変ペプチド、およびその利用
【課題】本発明は、D型アミノ酸からなる昆虫抗微生物タンパク質改変ペプチドを提供することを課題とする。また、該ペプチドを対象に投与する工程を含む、細菌感染症または癌疾患を予防または治療する方法の提供を課題とする。さらに、該ペプチドを有効成分とする、細菌感染症または癌疾患を予防または治療する薬剤の提供についても課題とする。
【解決手段】本発明者らは、上記の課題を解決するために、L型およびD型改変ペプチドの静脈内投与が、MRSA感染症制御に及ぼす効果、TNF-α抑制効果、エンドトキシンショック防御効果、トリパノソーマ原虫のin vitro増殖に対する効果、および癌細胞増殖に対する効果について検討を行った。その結果、D型アミノ酸からなる昆虫抗微生物タンパク質改変ペプチドが様々な細菌感染症または癌疾患に対して効果を示すことを見出した。
【解決手段】本発明者らは、上記の課題を解決するために、L型およびD型改変ペプチドの静脈内投与が、MRSA感染症制御に及ぼす効果、TNF-α抑制効果、エンドトキシンショック防御効果、トリパノソーマ原虫のin vitro増殖に対する効果、および癌細胞増殖に対する効果について検討を行った。その結果、D型アミノ酸からなる昆虫抗微生物タンパク質改変ペプチドが様々な細菌感染症または癌疾患に対して効果を示すことを見出した。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、D型アミノ酸からなる昆虫抗微生物タンパク質改変ペプチド、およびその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
ウイルス・クラミジア・リケッチア・スピロヘータ・細菌・真菌・原虫・寄生虫などの微生物が、人体または動物体に侵入して、臓器や組織の中で増殖することを感染といい、その結果生じる病気を総称して感染症と呼んでいる。
【0003】
感染症の一つであるMRSA感染症は、Methicillin-Resistannt Staphylococcus aureus(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)というグラム陽性球菌の一種が感染したもので、健常者においては鼻や口にもみられる常在菌であり、免疫機能が低下した患者(および動物)に感染するものといわれている。MRSAは、黄色ブドウ球菌の中でも特にいろいろな抗生物質に対し耐性がある細菌であるため、多くの抗生物質が効かない事が問題視されている。近年の研究により、MRSA感染による敗血症を抑制することが、MRSA感染症制御のための重要な課題であると考えられており、敗血症を抑制する薬剤の開発が進められている。
【0004】
本発明者らは、これまでにカブトムシが産生する抗微生物蛋白質を分離精製し、その抗微生物蛋白質から得られた2つの改変ペプチド(RLYLRIGRR-NH2:ペプチドA、以下L-9A、配列番号:5、RLRLRIGRR-NH2:ペプチドB、以下L-9B、配列番号:6)は共に、腹腔内投与によってメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA) 感染マウスの病原性を弱めることを明らかにしていた(非特許文献1、2)。しかしながら、これまでに報告されてきたL型ペプチドのような膜破壊性抗菌ペプチドは、動物の血液中成分によって分解・不活化されてしまうため、その優位性にも関わらず、vivoの系での使用は難しいとされてきた。
【0005】
エンドトキシンショックは、グラム陰性菌並びにその細胞壁構成成分であるリポ多糖体(LPS)により誘導される炎症性サイトカインの過剰産生によって引き起こされる致死性のショックである。炎症性サイトカインの中でも、特に腫瘍壊死因子(TNF)-αがエンドトキシンショックの誘発に中心的役割を演じているが、インターフェロン(IFN)-γが関与していることも明らかとなっている。
【0006】
本発明者らはこれまでに、マウスにリポ多糖体(LPS)およびD-ガラクトサミン (GalN)を接種して作出したエンドトキシンショックモデルを用いて、昆虫抗微生物タンパク質改変ペプチドのエンドトキシンショック死防御効果について検討したところ、L型改変ペプチドRLYLRIGRR-NH2 (L-9A、配列番号:5)100 mg/kg腹腔内接種群において、血清中の腫瘍壊死因子(TNF-α)産生を抑制し、生存率の改善が認められることを明らかにしていた(非特許文献3)。しかしながら、上記ペプチドもL型ペプチドであるため、静脈内接種の際には、血管中での安定性が問題視されていた。
【0007】
トリパノソーマ症は熱帯における有用家畜に「ナガナ病」として、ヒトに「眠り病」として深刻な被害をもたらす住血性鞭毛虫類Trypanosoma属の原虫による人畜共通感染症である。治療薬にはヒトの場合、古典的なスーラミン、メラルソプロール、ペンタミジン、や1990年に導入されたDFMOがあるにすぎず、いずれも薬そのものの毒性による死をふくむ重篤な副作用(メラルソプロールの場合)、耐性株の出現(すべての薬剤)、血液脳関門の通過不能(スーラミン、ペンタミジン)やガンビア型にしか効かない(DFMO)不完全な作用という限界に阻まれている。動物における治療薬は三価アンチモン剤、硫化ナフチルアミン (スーラミン)、アミノキナルジン、フェナントリジン誘導体、芳香性ジアミジン(ペンタミジンと同類のジミナゼンやイソメタミジウム)などに属する薬剤があるが、同様に耐性株の出現に見舞われている。食用となる畜産物であることから残留の問題という制約もある。またDFMOは高価なために経済動物である家畜には用いることができない。トリパノソーマ症については、これまで副作用の強い薬剤しか存在せず、新たな薬剤の開発が求められていた。
【0008】
なお、本出願の発明に関連する先行技術文献情報を以下に示す。
【非特許文献1】Saido-Sakanaka H., et al., Peptides, 25(1), 19-27 (2004)
【非特許文献2】Saido-Sakanaka H., et al., Dev Comp Immunol., 29(5), 469-477 (2005)
【非特許文献3】Koyama Y., et al.,Int Immunopharmacol., 6(2), 234-240 (2006)
【非特許文献4】Shai Y., Antimicrobial Agents and Chemotherapy, 48, 3127-3129 (2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
生理活性ペプチドが血管内で分解・不活化されないようにするための一つの手法として、D型アミノ酸によりペプチドを合成する方法が検討されてきた。例えば、ShaiらはL型アミノ酸の鏡像立体異性体であるD型アミノ酸による改変ペプチドを合成し、その静脈内投与によって薬剤耐性性緑膿菌の敗血症を抑えることに成功した(非特許文献4)。しかしながら、MRSA感染症、トリパノソーマ症、エンドトキシンショックに対して効果を示し、血管内においても安定に存在する生理活性ペプチドは、これまでに見出されていない。
【0010】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、D型アミノ酸からなる昆虫抗微生物タンパク質改変ペプチドを提供することにある。また、該ペプチドを対象に投与する工程を含む、細菌感染症を予防または治療する方法の提供を課題とする。さらに、該ペプチドを有効成分とする、細菌感染症を予防または治療する薬剤の提供についても課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記の課題を解決するために、まずL型およびD型改変ペプチドの静脈内投与がMRSA感染症制御に及ぼす効果を病理学的に検討した。その結果、L型改変ペプチドは静脈内投与ではMRSA感染マウスの病原性を弱めることが出来なかったのに対し、D型改変ペプチドの静脈内投与によって、MRSA感染マウスの感染死が防御され、その病原性が弱められることが明らかとなった。
【0012】
次に、L型およびD型改変ペプチドのTNF-α抑制効果およびエンドトキシック死防御効果について検討を行った。その結果、L型改変ペプチドは静脈内投与では、グラム陰性細菌由来のLPS等の投与と同時に接種を行った場合に、エンドトキシック死防御効果を示すことが明らかとなった。また、D型改変ペプチドは、投与時期に制限無く、TNF-α抑制効果およびエンドトキシック死防御効果を示すことが明らかとなった。
【0013】
次に、D型改変ペプチドのトリパノソーマ原虫のin vitro増殖に対する効果の検討を行った。その結果、一定濃度以上のD型改変ペプチド存在下において、トリパノソーマ原虫の増殖が完全に抑制されることが明らかとなった。また、各改変ペプチドの投与量および投与条件について検討し、安全かつ細菌感染症に対して効果を示す投与方法を見出した。
さらに、D型改変ペプチドの骨髄腫細胞増殖に対する効果の検討を行った結果、D型改変ペプチドの存在下において、骨髄腫細胞の増殖が有意に抑制されることが明らかとなった。また、副腎皮質ホルモン剤であるデキサメサゾンと併用することで、骨髄腫細胞増殖に対し、相乗的な抑制効果を示すことが明らかとなった。
即ち、本発明者らは、D型アミノ酸からなる昆虫抗微生物タンパク質改変ペプチドが様々な細菌感染症または癌疾患に対して効果を示すことを明らかにし、これにより本発明を完成するに至った。
【0014】
本発明は、より具体的には以下の〔1〕〜〔34〕を提供するものである。
〔1〕D型アミノ酸からなるペプチドであって、下記式で表されるペプチド:
X1 - Leu - X2 - Ile - X3 - Arg - Arg - NH2
(式中、X1、X2、およびX3は、任意に含まれていてもよいアミノ酸残基、またはアミノ酸配列である。)
〔2〕X2が、Arg、またはAlaである、〔1〕に記載のペプチド。
〔3〕X3が、Gly、またはArgである、〔1〕または〔2〕に記載のペプチド。
〔4〕X1が、Arg-Leu-Tyr、Arg-Leu-Arg、Ala-Leu-Tyr、またはArg-Leu-Leuである、〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載のペプチド。
〔5〕Arg-Leu-Tyr-Leu-Arg-Ile-Gly-Arg-Arg - NH2(配列番号:1)、
Arg-Leu-Arg-Leu-Arg-Ile-Gly-Arg-Arg - NH2(配列番号:2)、
Ala-Leu-Tyr-Leu-Ala-Ile-Arg-Arg-Arg - NH2(配列番号:3)、
またはArg-Leu-Leu-Leu-Arg-Ile-Gly-Arg-Arg - NH2(配列番号:4)のいずれかのアミノ酸配列からなる〔1〕に記載のペプチド。
〔6〕細菌感染症を治療または予防することを特徴とする、〔1〕〜〔5〕に記載のペプチド。
〔7〕細菌感染における敗血症を抑制することを特徴とする、〔1〕〜〔5〕に記載のペプチド。
〔8〕細菌感染がMRSA感染である、〔7〕に記載のペプチド。
〔9〕TNFα遺伝子の発現を抑制することを特徴とする、〔1〕〜〔5〕に記載のペプチド。
〔10〕エンドトキシンショックを防御することを特徴とする、〔1〕〜〔5〕に記載のペプチド。
〔11〕トリパノソーマ原虫の増殖を抑制することを特徴とする、〔1〕〜〔5〕に記載のペプチド。
〔12〕癌疾患を治療または予防することを特徴とする、〔1〕〜〔5〕に記載のペプチド。
〔13〕癌疾患における癌細胞の増殖を抑制することを特徴とする、〔12〕に記載のペプチド。
〔14〕癌疾患が骨髄腫である、〔12〕または〔13〕に記載のペプチド。
〔15〕〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載のペプチドを対象に投与する工程を含む、対象において細菌感染症を治療または予防する方法
〔16〕〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載のペプチドを対象に投与する工程を含む、対象において細菌感染における敗血症を抑制する方法。
〔17〕細菌感染がMRSA感染である、〔16〕に記載の方法。
〔18〕〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載のペプチドを対象に投与する工程を含む、対象においてTNFα遺伝子の発現を抑制する方法。
〔19〕〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載のペプチドを対象に投与する工程を含む、対象においてエンドトキシンショックを防御する方法。
〔20〕〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載のペプチドを対象に投与する工程を含む、対象においてトリパノソーマ原虫の増殖を抑制する方法。
〔21〕〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載のペプチドを対象に投与する工程を含む、対象において癌疾患を治療または予防する方法。
〔22〕対象において癌細胞の増殖を抑制することを特徴とする、〔21〕に記載の方法。
〔23〕副腎皮質ホルモン剤を投与する工程をさらに含む、〔21〕に記載の方法。
〔24〕癌疾患が骨髄腫である、〔21〕〜〔23〕のいずれかに記載の方法。
〔25〕〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載のペプチドを有効成分として含有する、細菌感染症を治療または予防するための薬剤。
〔26〕〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載のペプチドを有効成分として含有する、細菌感染における敗血症を抑制するための薬剤。
〔27〕細菌感染がMRSA感染である、〔26〕に記載の薬剤。
〔28〕〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載のペプチドを有効成分として含有する、TNFα遺伝子の発現を抑制するための薬剤。
〔29〕〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載のペプチドを有効成分として含有する、エンドトキシンショックを防御するための薬剤。
〔30〕〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載のペプチドを有効成分として含有する、トリパノソーマ原虫の増殖を抑制するための薬剤。
〔31〕〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載のペプチドを有効成分として含有する、癌疾患を予防または治療するための薬剤。
〔32〕癌疾患における癌細胞の増殖を抑制することを特徴とする、〔31〕に記載の薬剤。
〔33〕副腎皮質ホルモン剤をさらに投与することを特徴とする、〔31〕に記載の薬剤。
〔34〕癌疾患が骨髄腫である、〔31〕〜〔33〕のいずれかに記載の薬剤。
【発明の効果】
【0015】
本発明者らは、D型アミノ酸からなる昆虫抗微生物タンパク質改変ペプチドが様々な細菌感染症に対して効果を示すことを見出した。静脈投与により、D型アミノ酸からなる該ペプチドはMRSA感染症に対する高い治療効果(抗菌効果)およびエンドトキシンショックに対する防御効果を示すことが明らかとなった。また、本発明のD型アミノ酸からなる該ペプチドはL型アミノ酸からなる該ペプチドと比べて安定性が高く、長く体内に留まるためというより、菌に対する直接的な抗菌活性がより高いため、高い治療効果を示すということが明らかとなった。これらのことから、D型アミノ酸からなる該ペプチドは、様々な細菌感染症の治療に用いることが可能であると考えられる。また、本発明のD型アミノ酸からなる該ペプチドは、トリパノソーマ原虫の増殖を抑制することから、従来副作用の強い薬剤しか存在しなかったトリパノソーマ症に対する有効な治療剤となるものと考えられる。
【0016】
また、本発明のD型アミノ酸からなるペプチドは、骨髄腫細胞等の癌細胞の増殖抑制効果も示すことから、家畜及び人間を対象とした医療分野における癌疾患の治療に利用できるものと考えられる。
さらに、本発明のD型アミノ酸からなる該ペプチドの体内残留、蓄積、濃縮による生体への影響は、マクロファージによる貪食、処理によって回避でき、肝臓や腎臓等への影響が少ないことが明らかとなった。このことから、D型アミノ酸からなる該ペプチドは副作用の低い(もしくは存在しない)治療剤として利用できるものと考えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明者らは、D型アミノ酸からなる昆虫抗微生物タンパク質改変ペプチドが様々な細菌感染症に対して効果を示すことを見出した。本発明は、これらの知見に基づくものである。
本発明は、D型アミノ酸からなる昆虫抗微生物タンパク質改変ペプチドに関する。
本発明のペプチドの一つの態様として、好ましくは下記式を含むペプチドを挙げることが出来る。
X1 − Leu − X2 − Ile − X3 − Arg − Arg − NH2
式中、X1、X2、X3、およびX4は、任意に含まれていてもよいアミノ酸残基、またはアミノ酸配列であり、本発明のペプチドと機能的に同等である限り、アミノ酸の配列構成については特に限定をされない。「任意に含まれていてもよい」とは、その位置に相当するアミノ酸が何も存在しない場合も含まれる。本発明のペプチドは、カルボキシル末端がアミド化されていることがより好ましい。本発明のペプチドにおいて、カルボキシル末端のアミド化は、カルボキシル末端にグリシンが存在する場合に、このグリシンがペプチジルグリシンα-アミド化モノオキシゲナーゼ等のC末端アミド化酵素によって、アミノ基に変換されたものであってもよい。
【0018】
本発明において「機能的に同等」とは、対象となるペプチドが、細菌感染症または癌疾患に関する症状を治療または予防する機能を保持することをいう。
ペプチドを対象に投与することによって、対象において細菌感染(好ましくはMRSA感染)における敗血症が抑制される場合、TNFα遺伝子の発現が抑制される場合、エンドトキシンショックが防御される場合、トリパノソーマ原虫の増殖が抑制される場合、または癌細胞の増殖が抑制される場合にも、該ペプチドが本発明のペプチドと機能的に同等であるとみなすことが出来る。
上記式X2に相当するアミノ酸残基としては、Arg、またはAlaを挙げることが出来るが、特にこれらに限定されるものではない。
また、上記式X3に相当するアミノ酸残基としては、Gly、またはArgを挙げることが出来るが、特にこれらに限定されるものではない。
また、上記式X1に相当するアミノ酸配列としては、Arg-Leu-Tyr、Arg-Leu-Arg、Ala-Leu-Tyr、またはArg-Leu-Leuを挙げることが出来るが、特にこれらに限定されるものではない。
【0019】
本発明のペプチドは、機能的に同等である限り、化学修飾を受けていてもよい。ペプチドの化学修飾としては、アセチル化、アニリド化(カルボキシル末端)、ベンジルオキシカルボニル化、ビオチン化、ダンシル化、DNP化、脂肪酸付加、ホルミル化、ニトロ化、セリンリン酸化、スレオニンリン酸化、チロシンリン酸化、サクシニル化、スルフォン化等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。本発明において、化学修飾は酵素を用いて行われてもよい。上記の化学修飾は当業者に公知の方法によって行うことが出来る。
本発明のペプチドの好ましい例としては、
Arg-Leu-Tyr-Leu-Arg-Ile-Gly-Arg-Arg-NH2(配列番号:1)、
Arg-Leu-Arg-Leu-Arg-Ile-Gly-Arg-Arg-NH2(配列番号:2)、
Ala-Leu-Tyr-Leu-Ala-Ile-Arg-Arg-Arg-NH2(配列番号:3)、
またはArg-Leu-Leu-Leu-Arg-Ile-Gly-Arg-Arg-NH2(配列番号:4)を含むペプチドを挙げることが出来る。
【0020】
また、本発明のペプチドには、上記の具体的なアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列からなるペプチドであって、上記のアミノ酸配列からなるペプチドと機能的に同等なペプチドも含まれる。
本発明において、変異(置換、欠失、挿入、および/または付加)するアミノ酸数は特に制限されないが、好ましくは5アミノ酸以内(例えば、1、2、3、4、5アミノ酸以内)であると考えられる。変異するアミノ酸残基においては、アミノ酸側鎖の性質が保存されている別のアミノ酸に変異されることが望ましい。例えばアミノ酸側鎖の性質としては、疎水性アミノ酸(A、I、L、M、F、P、W、Y、V)、親水性アミノ酸(R、D、N、C、E、Q、G、H、K、S、T)、脂肪族側鎖を有するアミノ酸(G、A、V、L、I、P)、水酸基含有側鎖を有するアミノ酸(S、T、Y)、硫黄原子含有側鎖を有するアミノ酸(C、M)、カルボン酸及びアミド含有側鎖を有するアミノ酸(D、N、E、Q)、塩基含有側鎖を有するアミノ酸(R、K、H)、芳香族含有側鎖を有するアミノ酸(H、F、Y、W)を挙げることができる(括弧内はいずれもアミノ酸の一文字標記を表す)。あるアミノ酸配列に対する1又は複数個のアミノ酸残基の欠失、付加及び/又は他のアミノ酸による置換により修飾されたアミノ酸配列を有するポリペプチドがその生物学的活性を維持することはすでに知られている。
【0021】
本発明のペプチドは、有機化学合成、または本発明のペプチド(上記のアミノ酸配列)を含む前駆体タンパク質を分解することにより生成することが可能である。有機化学合成としては、当業者には公知の自動ペプチド合成方法(Boc固相法、Fmoc固相法等)または、古典的な有機化学合成方法を挙げることができ、特に限定されるものではない。前駆体タンパク質を分解することにより、本発明のペプチドを合成する場合には、当業者に公知のプロテアーゼを適切な条件下で使用することができる。プロテアーゼとしては、セリンプロテアーゼ(例えばキモトリプシン、スブチリシン)、アスパラギン酸プロテアーゼ(例えばペプシン、カテプシンD、HIVプロテアーゼ)、金属プロテアーゼ(例えばサーモリシン)、システインプロテアーゼ(例えばパパイン、カスパーゼ)、N-末端スレオニンプロテアーゼ、グルタミン酸プロテアーゼ等を挙げることが出来る。
【0022】
本発明のペプチドは、化学合成後、実質的に純粋で均一なペプチドとして精製することができる。ペプチドの分離、精製は、通常のタンパク質の精製で使用されている分離、精製方法を使用すればよく、何ら限定されるものではない。例えば、クロマトグラフィーカラム、フィルター、限外濾過、塩析、溶媒沈殿、溶媒抽出、蒸留、免疫沈降、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動、等電点電気泳動法、透析、再結晶等を適宜選択、組み合わせればタンパク質を分離、精製することができる。
【0023】
クロマトグラフィーとしては、例えばアフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、ゲル濾過、逆相クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー等が挙げられる。これらのクロマトグラフィーは、液相クロマトグラフィー、例えばHPLC、FPLC等の液相クロマトグラフィーを用いて行うことができる。本発明は、これらの精製方法を用い、高度に精製されたペプチドも包含する。
【0024】
本発明は、上記ペプチドを対象に投与する工程を含む、対象において細菌感染症または癌疾患を治療または予防する方法に関する。
本発明において、「対象」とは、本発明の細菌感染症治療剤を投与する生物体、該生物体の体内の一部分をいう。「生物体」は、特に限定されるものではないが、動物(例えば、ヒト、家畜動物種、野生動物)を含む。「生物体」は、既に細菌が感染している生物体であってもよいし、細菌が完成する可能性のある生物体であってもよい。
また、「生物体の体内の一部分」については特に限定されないが、好ましくは細菌が感染し増殖している部位またはその周辺部位を挙げることが出来る。
【0025】
本発明において、「投与する」とは、経口的、あるいは非経口的に投与することが含まれる。経口的な投与としては、経口剤という形での投与を挙げることができ、経口剤としては、顆粒剤、散剤、錠剤、カプセル剤、溶剤、乳剤、あるいは懸濁剤等の剤型を選択することができる。
又は、健康食品、機能性食品、特定保健用食品、栄養補助食品、経腸栄養食品という形態で経口的に摂取または投与されてもよく、本発明はこれらの食品に限定されない。
非経口的な投与としては、注射剤という形での投与を挙げることができ、注射剤としては、点滴などの静脈注射、皮下注射剤、筋肉注射剤、あるいは腹腔内注射剤等を挙げることができる。患者の年齢、症状により適宜投与方法・投与量を選択することができる。また、本発明の薬剤を、処置を施したい領域に局所的に投与することもできる。例えば、手術中の局所注入、カテーテルの使用により投与することも可能である。また、細胞感染症を伴う疾患の公知の治療法と同時に又は時間を隔てて本発明の薬剤が投与されてもよい。
【0026】
本発明において、「細菌感染症」としては、放線菌症、炭疽、ベジェル、イチゴ腫、ピンタ、カンピロバクター感染症、コレラ、ガス壊疽、腸内細菌感染症、ヘモフィルス感染症、レプトスピラ症、リステリア症、ライム病、ペスト、肺炎球菌感染症、シュードモナス感染症、サルモネラ感染症、細菌性赤痢、ブドウ球菌感染症、レンサ球菌感染症、破傷風、毒素性ショック症候群、野兎病、腸チフス等を挙げることが出来るが、特に限定されるものではない。本発明において、「細菌感染症」の好ましい例としては、MRSA感染症、エンドトキシンショック、トリパノソーマ症を挙げることが出来る。
本発明において「癌疾患」としては、より具体的には、白血病、リンパ腫、(多発性)骨髄腫、脳腫瘍、大腸癌、肺癌、乳癌、頭頚部扁平上皮癌、食道癌、胃癌、胆嚢癌、甲状腺癌、前立腺癌、骨および軟部肉腫、卵巣癌、子宮癌、膀胱癌、腎癌、膵癌等を例示することができる。本発明における癌疾患は特に限定されないが、より好ましくは骨髄腫、を挙げることが出来る。
【0027】
本発明において、「細菌感染症の治療」とは、上記の細菌感染によって引き起こされる症状を抑制または改善すること、または、細菌感染症に合併して起こる症状(合併症)を抑制または改善することを意味する。「細菌感染症の予防」とは、細菌の感染自体を抑制することを意味する。本発明において「癌疾患の治療または予防」とは、上記の癌疾患における症状を抑制または改善すること、または、癌疾患に合併して起こる症状(合併症)を抑制または改善することを意味する。
上記の方法において、細菌感染症または癌疾患が改善される期間は特に限定されないが、一時的な改善であってもよいし、一定期間の改善であってもよい。
本発明において「細菌感染症の治療または予防」とは、より具体的には、細菌感染(好ましくはMRSA感染)における敗血症を抑制すること、TNFα遺伝子の発現を抑制すること、エンドトキシンショックを防御すること、またはトリパノソーマ原虫の増殖を抑制することを意味する。
【0028】
本発明において「敗血症」とは、連鎖球菌などの病原菌が体内の一定の病巣(敗血病巣)から絶えず血中に送り出され、全身的な感染を起こした状態のことを言う。重篤な状態であり、無治療ではショック、DIC(播種性血管内凝固症候群)、多臓器不全(腎不全、呼吸不全、心不全)などから早晩死に至ると言われている。細菌そのものが血液中に無い場合でも、細菌から出る毒素や、それらに影響された生体内の種々の物質(サイトカイン等)が全身に回って肝臓や腎臓、肺など重要な臓器がおかされて重い症状を引き起こす。
敗血症の症状としては、まず全身の炎症を反映して著しい発熱、倦怠感が出現し、進行すれば意識障害をきたす。DICを合併すると血栓が生じるために多臓器が障害され、また血小板が消費されて出血傾向となる。起炎菌が大腸菌などのグラム陰性菌であると、菌の産生した内毒素(エンドトキシン)によってエンドトキシンショックが引き起こされる。
【0029】
本発明において、「敗血症を抑制する」とは、上記に記載の症状を抑制することを意味する。本発明において、敗血症が抑制されたか否かの確認は、末梢血検査(白血球量の確認、炎症反応の確認、細菌量の確認、血沈値の確認、CRP値の確認)、尿検査(蛋白尿、血尿、膿尿の確認)、X線像検査(肺炎像、異常ガス像の確認)、組織検査(各臓器の状態確認)等の公知の方法によって行うことができ、また実施例に記載の方法によっても行うことができる。本発明の薬剤を投与することにより、上記の症状が軽減している場合に、敗血症が抑制されたとみなすことが出来る。
【0030】
本発明において、「エンドトキシンショック」とは、グラム陰性菌並びにその細胞壁構成成分であるリポ多糖体(LPS、エンドトキシン)により誘導される炎症性サイトカインの過剰産生によって引き起こされる致死性のショックのことを意味する。エンドトキシンショックの多くは敗血症に引き続いて発症し、血中にエンドトキシンが散布される。これらがサイトカインの分泌を促進したり、種々の化学伝達物質を活性化する。マクロファージやT細胞から分泌される腫瘍壊死因子が、血管内皮細胞や血小板などに働き様々の炎症性サイトカインの産生を誘導する。その際、同時に産生される一酸化窒素の末梢血管拡張作用も重要であると考えられている。そして、炎症性サイトカインによって、細胞膜にあるリン脂質からアラキドン酸が産生され、アラキドン酸カスケードを経て、プロスタグランジンやトロンボキサンチンA2等のエイコサノイドと呼ばれる反応性の高い物質を作り出す。また同時に、ヒスタミンやキニン類などの血管作動性のある化学伝達物質の産生も促進する。そして、これらの因子により末梢血管が拡張して、血の巡りが悪くなることでショックに至る。エンドトキシンショックはエンドトキシンが原因であるため、グラム陰性菌が起炎菌となり、臨床上は、大腸菌、バクテロイデス、プロテウス、クレブシエラ等の腸内常在菌や院内感染で有名な緑膿菌が多く見られる。
【0031】
本発明において、エンドトキシンショックが防御されたか否かの確認は、TLR/CD14受容体を介する細胞内シグナル伝達による転写因子の活性化、またはそれに続く炎症性サイトカインの産生を検査する(生体内におけるNF-κB活性化またはTNF-α産生を検査する)ことで行うことができる。上記の検査は、公知の方法によって行うことができ、また実施例に記載の方法によっても行うことができる。本発明の薬剤を投与することにより、生体内におけるNF-κB活性化またはTNF-α産生が抑制された場合に、エンドトキシンショックが防御されたとみなすことが出来る。
【0032】
本発明において、「トリパノソーマ症」とは、トリパノソーマという鞭毛を持った原虫の感染で起こる疾患の事を意味する。トリパノソーマ症としては、アフリカトリパノソーマ症(いわゆる睡眠病)とアメリカトリパノソーマ症(Chagas病)を挙げることができる。
本発明において、「トリパノソーマ原虫の増殖を抑制する」とは、生体内におけるトリパノソーマ原虫の増殖を抑制することを意味し、トリパノソーマ症を治療または予防することと同等の意味を示す。トリパノソーマ原虫の増殖が抑制されたか否かの確認は、生体内のトリパノソーマ細胞数を確認することにより行うことが出来る。
【0033】
本発明において「癌疾患の治療または予防」とは、より具体的には、上記癌疾患の癌細胞に対する細胞増殖抑制効果、または細胞死誘導効果が発現することを意味する。また、癌細胞における癌関連遺伝子の変異または発現変化を、正常な状態に改善することも、上記の意味に含まれるものとする。
癌疾患の治療または予防において、本発明のペプチドを投与する場合には、副腎皮質ホルモン剤(ステロイド)を併用することができる。本発明において「副腎皮質ホルモン剤」としては、糖質コルチコイドを挙げることができ、より具体的には、プレドニン、プレドニゾロン、コートリル、デカドロン、デキサメタゾン、リンデロン等を挙げることが出来る。副腎皮質ホルモン剤の投与は、本発明のペプチドの投与と同時であってもよいし、該ペプチド投与の前後に行われてもよい。
【0034】
本発明は、上記ペプチドを有効成分として含有する、細菌感染症または癌疾患を予防または治療するための薬剤に関する。本発明の薬剤は、細菌感染症治療剤、癌疾患治療剤、細菌感染症または癌疾患を予防または治療するための医薬組成物と言い換えることが可能である。
本発明の薬剤には、保存剤や安定剤等の製剤上許容しうる担体が添加されていてもよい。製剤上許容しうるとは、それ自体は上記の細菌感染症または癌疾患の治療または予防効果を有する材料であってもよいし、当該予防または治療効果を有さない材料であってもよく、上記の薬剤とともに投与可能な製剤上許容される材料を意味する。また、細菌感染症または癌疾患の予防または治療効果を有さない材料であり、本発明の化合物と併用することによって相乗的もしくは相加的な安定化効果を有する材料であってもよい。
【0035】
製剤上許容される材料としては、例えば、滅菌水や生理食塩水、安定剤、賦形剤、緩衝剤、防腐剤、界面活性剤、キレート剤(EDTA等)、結合剤等を挙げることができる。
本発明において、界面活性剤としては非イオン界面活性剤を挙げることができ、例えばソルビタンモノカプリレート、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート等のソルビタン脂肪酸エステル;グリセリンモノカプリレート、グリセリンモノミリテート、グリセリンモノステアレート等のグリセリン脂肪酸エステル;デカグリセリルモノステアレート、デカグリセリルジステアレート、デカグリセリルモノリノレート等のポリグリセリン脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレンソルビタントリオレエート、ポリオキシエチレンソルビタントリステアレート等のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンソルビットテトラステアレート、ポリオキシエチレンソルビットテトラオレエート等のポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル;ポリオキシエチレングリセリルモノステアレート等のポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル;ポリエチレングリコールジステアレート等のポリエチレングリコール脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンラウリルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル;ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンプロピルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンセチルエーテル等のポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル;ポリオキシエチエレンノニルフェニルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル;ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(ポリオキシエチレン水素ヒマシ油)等のポリオキシエチレン硬化ヒマシ油;ポリオキシエチレンソルビットミツロウ等のポリオキシエチレンミツロウ誘導体;ポリオキシエチレンラノリン等のポリオキシエチレンラノリン誘導体;ポリオキシエチレンステアリン酸アミド等のポリオキシエチレン脂肪酸アミド等のHLB6〜18を有するもの、等を典型的例として挙げることができる。
【0036】
また、界面活性剤としては陰イオン界面活性剤も挙げることができ、例えばセチル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、オレイル硫酸ナトリウム等の炭素原子数10〜18のアルキル基を有するアルキル硫酸塩;ポリオキシエチレンラウリル硫酸ナトリウム等の、エチレンオキシドの平均付加モル数が2〜4でアルキル基の炭素原子数が10〜18であるポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩;ラウリルスルホコハク酸エステルナトリウム等の、アルキル基の炭素原子数が8〜18のアルキルスルホコハク酸エステル塩;天然系の界面活性剤、例えばレシチン、グリセロリン脂質;スフィンゴミエリン等のフィンゴリン脂質;炭素原子数12〜18の脂肪酸のショ糖脂肪酸エステル等を典型的例として挙げることができる。
【0037】
本発明おいては、これらの界面活性剤の1種または2種以上を組み合わせて添加することができる。本発明の製剤で使用する好ましい界面活性剤は、ポリソルベート20,40,60 又は80などのポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルであり、ポリソルベート20及び80が特に好ましい。また、ポロキサマー(プルロニックF−68(登録商標)など)に代表されるポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールも好ましい。
界面活性剤の添加量は使用する界面活性剤の種類により異なるが、ポリソルベート20又はポリソルベート80の場合では、一般には0.001〜100 mg/mLであり、好ましくは0.003〜50 mg/mLであり、さらに好ましくは0.005〜2 mg/mLである。
【0038】
本発明において緩衝剤としては、リン酸、クエン酸緩衝液、酢酸、リンゴ酸、酒石酸、コハク酸、乳酸、リン酸カリウム、グルコン酸、カプリル酸、デオキシコール酸、サリチル酸、トリエタノールアミン、フマル酸等 他の有機酸等、あるいは、炭酸緩衝液、トリス緩衝液、ヒスチジン緩衝液、イミダゾール緩衝液等を挙げることが出来る。
また溶液製剤の分野で公知の水性緩衝液に溶解することによって溶液製剤を調製してもよい。緩衝液の濃度は一般には1〜500 mMであり、好ましくは5〜100 mMであり、さらに好ましくは10〜20 mMである。
【0039】
また、本発明おいては、その他の低分子量のポリペプチド、血清アルブミン、ゼラチンや免疫グロブリン等の蛋白質、アミノ酸、多糖及び単糖等の糖類や炭水化物、糖アルコールを含んでいてもよい。
本発明においてアミノ酸としては、塩基性アミノ酸、例えばアルギニン、リジン、ヒスチジン、オルニチン等、またはこれらのアミノ酸の無機塩(好ましくは、塩酸塩、リン酸塩の形、すなわちリン酸アミノ酸)を挙げることが出来る。遊離アミノ酸が使用される場合、好ましいpH値は、適当な生理的に許容される緩衝物質、例えば無機酸、特に塩酸、リン酸、硫酸、酢酸、蟻酸又はこれらの塩の添加により調整される。この場合、リン酸塩の使用は、特に安定な凍結乾燥物が得られる点で特に有利である。調製物が有機酸、例えばリンゴ酸、酒石酸、クエン酸、コハク酸、フマル酸等を実質的に含有しない場合あるいは対応する陰イオン(リンゴ酸イオン、酒石酸イオン、クエン酸イオン、コハク酸イオン、フマル酸イオン等)が存在しない場合に、特に有利である。好ましいアミノ酸はアルギニン、リジン、ヒスチジン、またはオルニチンである。さらに、酸性アミノ酸、例えばグルタミン酸及びアスパラギン酸、及びその塩の形(好ましくはナトリウム塩)あるいは中性アミノ酸、例えばイソロイシン、ロイシン、グリシン、セリン、スレオニン、バリン、メチオニン、システイン、またはアラニン、あるいは芳香族アミノ酸、例えばフェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、または誘導体のN-アセチルトリプトファンを使用することもできる。
【0040】
本発明において、多糖及び単糖等の糖類や炭水化物としては、例えばデキストラン、グルコース、フラクトース、ラクトース、キシロース、マンノース、マルトース、スクロース,トレハロース、ラフィノース等を挙げることができる。
本発明において、糖アルコールとしては、例えばマンニトール、ソルビトール、イノシトール等を挙げることができる。
【0041】
注射用の水溶液とする場合には、例えば生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液、例えば、D-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、塩化ナトリウムが挙げられ、適当な溶解補助剤、例えばアルコール(エタノール等)、ポリアルコール(プロピレングリコール、PEG等)、非イオン性界面活性剤(ポリソルベート80、HCO-50)等と併用してもよい。
【0042】
所望によりさらに希釈剤、溶解補助剤、pH調整剤、無痛化剤、含硫還元剤、酸化防止剤等を含有してもよい。
本発明において、含硫還元剤としては、例えば、N−アセチルシステイン、N−アセチルホモシステイン、チオクト酸、チオジグリコール、チオエタノールアミン、チオグリセロール、チオソルビトール、チオグリコール酸及びその塩、チオ硫酸ナトリウム、グルタチオン、並びに炭素原子数1〜7のチオアルカン酸等のスルフヒドリル基を有するもの等を挙げることができる。
【0043】
また、本発明において酸化防止剤としては、例えば、エリソルビン酸、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、α−トコフェロール、酢酸トコフェロール、L−アスコルビン酸及びその塩、L−アスコルビン酸パルミテート、L−アスコルビン酸ステアレート、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、没食子酸トリアミル、没食子酸プロピルあるいはエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(EDTA)、ピロリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム等のキレート剤を挙げることが出来る。
【0044】
また、必要に応じ、マイクロカプセル(ヒドロキシメチルセルロース、ゼラチン、ポリ[メチルメタクリル酸]等のマイクロカプセル)に封入したり、コロイドドラッグデリバリーシステム(リポソーム、アルブミンミクロスフェア、マイクロエマルジョン、ナノ粒子及びナノカプセル等)とすることもできる("Remington's Pharmaceutical Science 16th edition", Oslo Ed., 1980等参照)。さらに、薬剤を徐放性の薬剤とする方法も公知であり、本発明に適用し得る(Langer et al., J.Biomed.Mater.Res. 1981, 15: 167-277; Langer, Chem. Tech. 1982, 12: 98-105;米国特許第3,773,919号;欧州特許出願公開(EP)第58,481号; Sidman et al., Biopolymers 1983, 22: 547-556;EP第133,988号)。
使用される製剤上許容しうる担体は、剤型に応じて上記の中から適宜あるいは組合せて選択されるが、これらに限定されるものではない。
【実施例】
【0045】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
〔実施例1〕D型改変ペプチドのMRSA感染症制御に及ぼす効果
本発明者らは、これまでにカブトムシが産生する抗微生物蛋白質を分離精製し、その抗微生物蛋白質から得られた2つの改変ペプチド(RLYLRIGRR-NH2:ペプチドA、以下L-9A、配列番号:5、RLRLRIGRR-NH2:ペプチドB、以下L-9B、配列番号:6)は共に、腹腔内投与によってメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA) 感染マウスの病原性を弱めることを明らかにしていた。また、MRSA接種1週間後にペプチドを腹腔内に投与した場合でも、L-9A、L-9Bは共に、MRSA感染マウスの病原性を弱めることを明らかにしていた。(Saido-Sakanaka H., et al., Peptides, 25(1), 19-27 (2004))
【0046】
本実施例においては、より臨床応用に近づけるために、改変ペプチドの静脈内投与によるマウスのMRSA感染症制御に及ぼす効果を病理学的に検討した。
具体的には、デキサメサゾンを投与した(0.2mg/mouse/day)10週齢のC57BLマウスにMRSA8A株(1x106cfu)を静脈内接種した後、改変ペプチドL-9AおよびL-9B(0.1mg/0.1ml/mouse)を静脈内投与した。7日間観察後解剖し、ペプチド非投与群と死亡率、解剖所見、組織所見を比較した(1群10匹)。
また、これまでの改変ペプチド(天然型のL型アミノ酸)の鏡像立体異性体であり、より分解されにくいD型アミノ酸の改変ペプチド(D-9A 配列番号:1、D-9B 配列番号:2)を新たに作成し、同様の実験を実施した。D-9A、D-9B投与群について、肝臓、脾臓、腎臓からは菌分離を試みた。別の2つのペプチド(ALYLAIRRR-NH2:L-9C、配列番号:7、RLLLRIGRR-NH2:L-9D、配列番号:8)についても同様に鏡像立体異性体のD型アミノ酸の改変ペプチド(D-9C 配列番号:3、D-9D 配列番号:4)を作成し、L型、D型双方について、MRSA感染マウスに対する実験を実施した。
【0047】
上記の検討により得られた結果を以下に示す。
(1)解剖所見:ペプチド非投与群では、全例菌接種6日以内に死亡した(表1)。解剖所見として、肝臓、腎臓に白色結節性病変が多発性に認められた(図1a)。これまでのL型のペプチド(L-9A、L-9B、L-9C、L-9D)投与群においても、ペプチド非投与群と同様の肉眼病変が認められ、全例死亡した(表1)。
一方、D型のペプチド(D-9A、D-9B、D-9C、D-9D)の投与群では、共に肉眼病変は軽減されており、実験期間中に死亡マウスは認められなかった(表1、図1bまたはc)。D-9D投与群では、他のD型のペプチド投与群と比べて、病変は重度に観察された。
【0048】
MRSAのマウスへの病原性と改変ペプチドの効果
【表1】
【0049】
(2)組織所見:ペプチド非投与群のマウスの肝臓では、中心部に菌塊を容れた化膿性壊死性病変が多発巣状性に顕著に観察された(図2a)。腎臓では、腎盂は拡張し、菌塊、好中球、壊死細胞片を容れていた。髄質から皮質にかけて化膿巣が顕著に観察され、化膿巣内には、菌塊が顕著に観察された(図3a)。病変は腎臓で最も強い傾向にあった。化膿性炎は尿管、膀胱、尿道まで及んでいた。外生殖器では化膿性の尿道炎から波及した炎症が皮下織まで及んでおり、充血、水腫、炎症性細胞浸潤が顕著に観察された。尿道の膿塞栓も顕著に観察された。
これまでのL型のペプチド(L-9A、L-9B、L-9C、L-9D)投与群においても、ペプチド非接種群と同様の組織病変が認められ、L型アミノ酸による改変ペプチドはA,B,C,Dすべて静脈内投与ではMRSA感染マウスの病原性を弱めることができなかった。
【0050】
一方、D型のペプチドの投与群では、D-9A、D-9B、D-9Cにおいて組織病変は軽減されていた。特に、D-9A投与群のマウスのでは肝臓、腎臓等に化膿巣はほとんど認められなかった(図2b、図3b)。D-9A投与群では好中球の小集族巣が散在性に認められたものの、壊死性病変、また菌のコロニー形成は観察されなかった。D-9B投与群では壊死巣がいくつか観察されたが、菌のコロニー形成は大きさ、数共に軽度で、その病変は菌のみを接種した群と比べて軽減されていた(図2c、図3c)。D-9C投与群では病変はD-9A投与群よりは強く、D-9B投与群よりは軽い傾向にあった。グラム染色標本下において、MRSAのみ接種した群ではグラム陽性球菌の菌塊が顕著に観察された(図4a、図5a)。一方ペプチドD-9A、D-9B、D-9C投与群ではグラム陽性の菌塊は弱拡大視野では、ほとんど観察されなかった(図4b、図4c、図5b、図5c)。ペプチド投与群の肝臓では、強拡大視野において、クッパー細胞によって貪食、処理されたグラム陽性球菌が散在性に認められるのみであった(図6)。肝臓以外の臓器においても、マクロファージ等の食細胞が顕著に菌を貪食しており、D-9A投与例では菌による組織傷害はほとんど観察されなかった。尿管、膀胱、尿道においても炎症性細胞の浸潤が軽度に認められるのみで、病変はほとんど観察されなかった。外生殖器においても充血、水腫性腫張、化膿性炎等は認められず、ほぼ正常対照マウスと同様の組織像を呈していた。D-9D投与群では、肝臓、腎臓の化膿性壊死性病変は顕著に観察された。また肺においても無気肺や化膿性肺炎が観察された。
【0051】
抗S. aureus抗体を用いた免疫染色によって、グラム染色で認められたグラム陽性球菌はS. aureusであることが確認された。免疫染色結果はグラム染色結果と同様に観察され、菌のみ接種群において認められた抗S. aureus抗体陽性像はD-9A、D-9C投与群においてはほとんど認められなかった(図7a、図7b、図8a、図8b)。D-9B投与群においてもいくつか多発巣状性に抗原陽性像が観察されたが、菌のみ接種群と比べると有意に軽減されていた(図7c、図8c)。
肝臓・脾臓・腎臓から菌分離を試みたところ、D-9A投与によって、各臓器とも、MRSAの菌数が有意に減少していた(図9)。D-9B投与によって有意な菌の減数が認められたのは腎臓のみではあるが、肝臓、脾臓についてもMRSAの菌数が減少していた(図9)。
【0052】
ヒトや動物のMRSA感染症においてはMRSAによる敗血症が大きな問題とされている。本発明では、MRSAを静脈内接種することによってマウスに腎臓、肝臓を中心とした多臓器性化膿性壊死性病変が引き起こされた。これまで報告されているMRSAによる敗血症病変を再現することに成功し、MRSA敗血症解析モデルとして有効であることが確認された。
上記の結果より、D-9A、D-9B、D-9Cは、静脈内投与によって、MRSA感染マウスの感染死が防御され、その病原性が弱められることが明らかとなった。D-9AのほうがD-9B、D-9Cよりも感染マウスに対して強い抗菌活性を示していた。
一方、L型アミノ酸による改変ペプチドは、静脈内投与ではMRSA感染マウスの感染死、病変形成を抑制できなかった。これは、L型アミノ酸による改変ペプチドは、既存の膜破壊性抗菌ペプチドと同様に、血中に投与された場合、抗菌活性を示す前に分解されてしまうためと考えられた。本発明者らのL型アミノ酸による改変ペプチドは、MRSAを腹腔内に接種した後の腹腔内投与では、その病原性を弱めており、抗菌効果を示していたが、静脈内投与では、MRSAに対して抗菌効果を示さないことが明らかにされた。
【0053】
また、本実施例において、ペプチドD-9A、D-9B投与によってMRSAの菌数が有意に減少していることが明らかとなった(図9)。このことより、MRSA感染マウスに対するペプチドの抗菌作用は、直接菌に対して制菌・殺菌性に働いていることが示唆された。D-9AはMRSAに対して、他のペプチドと比べても最も抗微生物活性が高いことが確認された。山川らのグループによるin vitroの試験系において、本発明者らの改変ペプチドの抗菌作用は細菌の膜を直接破壊することによることが示唆されている (In preparation) 。本発明者らが開示したD型改変ペプチドが直接的な膜破壊性の抗菌作用を有することは、本発明において、既存の膜破壊性抗菌ペプチドと同様に、L型アミノ酸による改変ペプチドが、静脈内投与では抗菌効果を示さず、D型異性体のアミノ酸による改変ペプチドでは抗菌効果を示したことからも推察される。また、本発明において、菌のみを接種した例と比べ、D型アミノ酸による改変ペプチドを投与した例では、マクロファージやクッパー細胞が活性化しており、積極的に菌を貪食、処理している像が観察された(図7)。D-9A投与群で食細胞による菌貪食像はもっとも強い傾向があり、D-9A投与群では組織傷害はほとんど認められなかった。ペプチドによって、マクロファージ等の食細胞の処理限界以下まで菌数を減じることができれば、ほとんど組織傷害を引き起こすことなく、残ったMRSAもマクロファージ等によって処理されてしまうと考えられた。
【0054】
〔実施例2〕改変ペプチドのエンドトキシックに対する効果
本発明者らはこれまでに、マウスにリポ多糖体(LPS)およびD-ガラクトサミン (GalN)を接種して作出したエンドトキシンショックモデルを用いて、昆虫抗微生物タンパク質改変ペプチドのエンドトキシンショック死防御効果について検討したところ、L型改変ペプチドRLYLRIGRR-NH2 (L-9A、配列番号:5)100 mg/kg腹腔内接種群において、血清中の腫瘍壊死因子(TNF-α)産生を抑制し、生存率の改善が認められることを明らかにしていた(Koyama Y., et al.,Int Immunopharmacol., 6(2), 234-240 (2006))。
【0055】
本実施例においては、エンドトキシンショック死防御効果が認められたマウスにおけるL型ペプチドA(L-9A、配列番号:5)とTNF-αの関与を明らかにするために、TNF-αノックアウトマウス(以下「KOマウス」と標記する)に、下記の条件でLPS-GalNを接種し、生存率および肝臓、腎臓におよぼす影響を比較検討した。また、LPS-GalN誘発モデルにおけるエンドトキシンショック死防御効果を誘導するL型ペプチドA(L-9A、配列番号:5)の接種経路や、接種時期等について検索し、その至適誘導条件を検討した。
【0056】
まず、6-10 週齢のC57BL/6野生型マウス(以下「WTマウス」と標記する)およびKOマウスの腹腔内にSalmonella abortusequi LPS(5 μg/kg)およびGalN(1 g/kg)を単独、またはL型改変ペプチドA(L-9A、配列番号:5)(100 mg/kg)と同時に接種し、マウスの生存率および肝臓、腎臓における障害を病理学的、血液生化学的に調べた。
次に、BALB/cマウス(5週齢)を用いて、L-9Aをそれぞれ(25 mg/kg、50 mg/kg、100 mg/kg)の容量で静脈内に単独接種試験を行った。次に腹腔内にLPS(5 μg/kg)及びGalN(1 g/kg)を接種して作出したエンドトキシンショックモデル系にL-9Aを静脈内または腹腔内接種し、生存率及び肝・腎に及ぼす影響を検索した。また、L-9Aの接種時期の条件検討として、LPS-GalN接種の1時間前、接種後30分、接種後1時間についてもL-9A 10 mg/kgの容量で試験を行った。血清中のTNF-α、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)、アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)、血液尿素窒素(BUN)及びクレアチニン(Cre)値は、市販のキットにて測定した。マウスの肝臓、腎臓はLPS-GalN接種後16時間に採取し、ホルマリン固定後パラフィン包埋し、へマトキシリン・エオジン染色して顕微鏡にて観察した。
【0057】
上記の検討により得られた結果を以下に示す。
(1)WTマウスではLPS-GalN単独接種後24時間内に全ての個体が死亡したが、LPS-GalNと同時にL-9Aを接種すると、生存率は58%と上昇した(表2)。KOマウスにおいてはLPS-GalN単独接種群及びペプチド同時接種群の生存率は、いずれも100%であった。
(2)WTマウスにおける血清中のAST値はLPS-GalN単独接種群、ペプチド同時接種群のいずれも808-2814 IU/Lであったが、KOマウスではペプチドの接種の有無にかかわらず、156-446 IU/Lであった。同様にALT値はWTマウスが144-1538 IU/L、KOマウスが8-26 IU/Lであった。
(3)WTマウスではLPS-GalN単独接種後16時間の肝及び腎組織に壊死病変が認められたが、それらの病変はペプチドの同時接種により軽減された。一方、KOマウスではL-9Aの接種の有無にかかわらず、肝、腎組織には病変は認められなかった。
(4)LPS-GalN接種群においては接種後24時間内に全てが死亡したが、L-9Aの10 mg/kg静脈内同時接種群の生存率は78%と上昇し、L-9Aの腹腔内同時接種で有意に生存率の高かった100 mg/kgの用量の1/10量で防御効果が得られた(表3)。
(5)生存率を高めたL-9A静脈接種群のTNF-α濃度は、ペプチド非接種対照群に比して有意に低かった(図10)。ペプチド非接種対照群のAST、ALT値は16時間後に最高値に達したが、ペプチドA 10 mg/kg同時接種群では有意に低かった。BUN, Cre値はいずれも有意な差はみられなかった。
(6)時間差の実験においては、防御効果はLPS-GalNとペプチドA 10 mg/kgとの同時接種のみに認められた(図11)。
(7)LPS-GalN接種群の肝組織には顕著な壊死病変が認められたが、生存したペプチド接種群のその病変は軽微であった。また腎臓には異常所見は認められなかった(図12)。
【0058】
改変ペプチドの腹腔注射におけるエンドトキシンショック死防御効果
【表2】
【0059】
改変ペプチドAのエンドトキシンショック死防御効果
【表3】
【0060】
グラム陰性細菌由来のLPSによって誘導されるエンドトキシンショックを引き起こす宿主応答としては、TLR/CD14受容体を介する細胞内シグナル伝達による転写因子の活性化、そしてそれに続く炎症性サイトカインの産生が考えられている。したがって、LPS刺激により誘発されるNF-κB活性化およびTNF-α産生を抑制したL-9Aは、エンドトキシンショックを防御する効果を有すると考えられる。
【0061】
本実施例において、LPS-GalN誘発エンドトキシンショックモデルにTNF-αKOマウスを用いて生存率を調べたところ、L-9Aの有無にかかわらずKOマウスの全例が生存した(表2)。このことから、L-9A接種により血清中TNF-αの産生が有意に抑えられ、生存率を改善した以前の報告(Koyama Y., et al., Int Immunopharmacol., 6(2), 234-240 (2006))と一致することが確認された。これによりエンドトキシンショックモデルマウスの生存率の改善は、血清中TNF-αの産生抑制によるものであることが示された。
【0062】
また、静脈注射による投与経路と投与時間の検討をしたところ、L-9A 10 mg/kgの静脈接種群においても防御効果が認められた。従って、L-9Aの静脈内接種によるエンドトキシンショック死防御効果は、腹腔内接種の1/10容量により誘導されることが確認された(表3)。時間差の実験においては、リポ多糖体(LPS)およびD-ガラクトサミン (GalN)と改変ペプチドを同時接種した場合のみ有意な結果が得られたことから、L-9Aは血中で非常に分解速度が速いことが示唆された(表4)。また、高濃度のペプチドの静脈内単独接種マウスにおいては、接種直後に塞栓症を呈してショック死したが、25 mg/kg以下の容量では腹腔内接種と同様100%生存した。従って、以前に報告したin vitroにおけるペプチドの細胞障害性の結果と本実施例のin vivoおける成績を考慮すると、本改変ペプチドは毒性が低いことが示唆された。さらに、ペプチドの腹腔内接種同様、静脈内接種においても血清中のASTおよびALTのいずれの値も有意に上昇しなかったことから、TNF-αの産生の抑制により肝細胞への傷害が軽減されたと考えられた(図12)。これらの結果から、L型改変ペプチドA(L-9A)はエンドトキシンショック防御活性を有するが、血中では直ぐに分解されてしまうことが示唆された。
【0063】
ペプチドAの静脈注射におけるエンドトキシンショック死防御効果
【表4】
【0064】
〔実施例3〕D型改変ペプチドのエンドトキシックに対する効果
実施例2の結果より、L型改変ペプチドはエンドトキシンショック防御活性を有するが、血中では直ぐに分解されてしまうことが示唆された。そのため、L型改変ペプチドを静脈内接種する際には、リポ多糖体(LPS)およびD-ガラクトサミン (GalN)と同時に接種する必要がある。そこで、本実施例においては血中で分解されにくいD型アミノ酸からなる改変ペプチドのTNF-α抑制効果およびエンドトキシック死防御効果について検討を行った。
具体的には、実施例2と同様にリポ多糖体(LPS)およびD-ガラクトサミン (GalN)をマウスに接種し作出したエンドトキシンショックモデルマウスに対し、D型改変ペプチドA(D-9A)を静脈内接種し、マウスの死亡率およびTNF-α量を確認した。
その結果、D型改変ペプチドの注射により、マウスのLPSショックによる死亡が抑制されることが明らかになった(表5)。また、D型改変ペプチドにより、有意に血中TNF-α量が低下していることから(表6)、死亡抑制効果はTNF-αの抑制によることが示唆された。
【0065】
D型改変ペプチドによるLPSショック防御効果
【表5】
(a)実験1:LPSショック防御効果の確認実験
(b)実験2:LPSショック防御効果の再確認実験
【0066】
TNF-α抑制効果判定実験結果
【表6】
【0067】
〔実施例4〕D型改変ペプチドのトリパノソーマ原虫のin vitro増殖に対する効果の検討
本実施例では、トリパノソーマ症の原因となるトリパノソーマ原虫の増殖に対して、本発明のD型改変ペプチド(D-9A、D-9B、D-9C、D-9D)が抑制効果を示すか否かを確認した。
具体的には、Trypanosoma brucei brucei GTat3.1株の血流型をD型改変ペプチド(D-9A、D-9B、D-9C、D-9D)の存在下または不在下でLong incubation low inoculation test (LILIT)により48時間培養した後、トリパノソーマ細胞数をZ1 Coulter counterにて算定し、ペプチド不在下での培養中における細胞数の百分比で表した。
その結果、62.5または31.25mM以上の濃度のD型改変ペプチド存在下において、トリパノソーマ原虫が完全に増殖阻止されることが明らかとなった。(図13)
【0068】
〔実施例5〕L型D型改変ペプチドのマウスに対する安全性試験
これまでに、カブトムシが産生する抗微生物蛋白質由来の4つの改変ペプチド(L-9A:RLYLRIGRR-NH2、配列番号:5;L-9B:RLRLRIGRR-NH2、配列番号:6;L-9C:ALYLAIRRR-NH2、配列番号:7;L-9D RLLLRIGRR-NH2、配列番号:8)は、程度の差はあるものの、それぞれ腹腔内投与(0.5mg/0.1ml)によってメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)感染マウスの感染死を防御し、病原性を弱めることが明らかとなっていた(Saido-Sakanaka H., Peptides, 25(1), 19-27 (2004))。
【0069】
また、上記改変ペプチドの鏡像立体異性体のD型アミノ酸によるペプチドのうちD-9A、D-9B、D-9Cの3つは静脈内投与(0.1mg/0.1ml)によっても、MRSA感染マウスの感染死を防御し、その病原性を弱めることが実施例1により明らかとなった。さらに、D型改変ペプチドがエンドトキシンショック防御活性を有すること(実施例3)、トリパノソーマ原虫の増殖を抑制すること(実施例4)が、本発明により明らかとなった。
血中で分解されないD型アミノ酸によるペプチドは、静脈内投与でも長くその抗菌活性を保持する利点があるが、体内に長く蓄積し、生体へ何らかの影響を及ぼす可能性が危惧されている。これまで、各ペプチドをマウスの腹腔内に投与しても、マウスの諸臓器に対し、組織学的な異常を引き起こすことはなかった。
【0070】
本実施例においては、各改変ペプチドをそれぞれマウスに静脈内接種し、マウスの諸臓器に対する影響を血液生化学的、組織学的に評価した。具体的には、10週齢のC57BL/6マウスに各L型およびD型改変ペプチドを、0.5mg, 0.1mg, 0.05mg, 0.01mg/0.1mlの濃度で尾静脈から静脈内投与し、7日間観察後解剖し(1回投与7日後解剖群)、そのマウス生体への影響を病理組織学的に検査した。また、0.1mg, 0.05mg, 0.01mg/0.1mlの濃度で1日1回連続7日間投与後解剖し(7日間連続投与後解剖群)、同様に病理組織学的検査を実施し、各ペプチドのマウス生体への影響を評価した。D-9A、D-9B、D-9C、D-9D のD型アミノ酸の改変ペプチド0.1mg/0.1ml連続投与群において、投与7日目に血液を採取し、肝機能・腎機能値について血液生化学的検査を実施した。
【0071】
上記の検討により得られた結果を以下に示す。
0.5mg投与群はL型D型共にすべてのペプチドで全例死亡することが明らかとなった(表7、8)。死亡したマウスでは組織学的に肺や肝臓、腎臓等の毛細血管において血栓による塞栓形成が観察された。0.1mg以下では各ペプチドで、死亡マウスは認めなかった(表2、3)。組織学的に、D-9D 7日間連続投与群では、0.1mg, 0.05mg投与群で、肺の各葉辺縁部にマクロファージの顕著な浸潤と塞栓形成を伴う無気肺病変が観察された(図14d、図15d)。D-9B 7日間連続投与群でも、0.1mg投与群で、肺の各葉辺縁部にマクロファージ浸潤を伴った軽度無気肺病変が形成された(図14b、図15b)。その他のペプチド投与群では、1回投与群、7日間連続投与群ともに0.1mg以下では、マクロファージ浸潤やクッパー細胞の増生等の少数の食細胞の出現を認めるものの、組織学的な病変は観察されなかった(図14a、図14c、図15a、図15c)。L型のペプチド投与群では、連続7日間投与によっても、マクロファージ等の食細胞の反応は軽度で、わずかに認められるのみだった。0.1mg/mlの濃度の7日間連続投与群における血液生化学的所見では、すべてのD型アミノ酸による改変ペプチド投与群について異常は認められなかった(図16、17)。
【0072】
1回投与7日後解剖群における各改変ペプチドのマウス生体への影響
【表7】
【0073】
1日1回7日間連続投与後解剖群における各改変ペプチドのマウス生体への影響
【表8】
【0074】
以上の結果より、D-9A,D-9Cは抗菌活性を示した濃度ではマウスに組織病変を引き起こすことはなく、また肝・腎機能を対象とした血液生化学的検査によっても異常は認められず、マウス生体に対しての安全性が確認された。D-9Dは他のペプチドと同等量の投与において、肝・腎機能については影響を与えないものの、病理組織学的にマウス生体に対して肺毒性を示すことが確認された。D-9Bはマウス生体に対しての影響はほとんど認めないものの、D-9A,D-9Cと比べてやや肺毒性を示す傾向が示唆された。
一方で、各ペプチドは高濃度静脈内投与(0.5mg/0.1ml)で、マウスに致死的な多臓器性塞栓症を引き起こすことが明らかにされた。ペプチドは粘稠性が高く、血管内に高濃度投与した場合、血管に詰まってしまうことが原因と考えられた。本発明者らの改変ペプチドを静脈内に投与する場合、投与量に注意する必要があることが確認された。
【0075】
本実施例において、D型ペプチドの7日間連続投与群において、肺の血管内にマクロファージの浸潤が観察された。肝臓のクッパー細胞の活性化も軽度であるが観察され、これら食細胞の出現は血中に投与されたペプチドに対する処理反応であると考えられた。マクロファージの浸潤増殖頻度は改変ペプチドの投与濃度に依存していた。D型アミノ酸による改変ペプチドは血中の酵素等によっては処理できないために、マクロファージによって異物として貪食、処理されることが示唆された。L型アミノ酸による改変ペプチドを投与した群ではあまりマクロファージの浸潤は観察されなかった。L型アミノ酸による改変ペプチドは血中の酵素等によって処理されてしまうためマクロファージによる処理は必要ないためだと考えられた。単回投与7日後に解剖したマウスにおいては、マクロファージ等食細胞はわずかに認められるのみだった。これは、単に血中に存在していた改変ペプチドの量に差があっただけか、もしくは単回投与後7日間のうちにマクロファージによるペプチドの貪食、処理が完了したためである可能性が考えられた。自然界に存在せず、血中の酵素等によって分解されないD型アミノ酸による改変ペプチドは、長く体内に留まって生体の生理活性物質や腸内細菌等に影響を与える可能性が危惧されているが、本実施例において、D型アミノ酸による改変ペプチドは生体内においてマクロファージ等の食細胞によって貪食、処理される可能性が示唆された。本実施例によって、ペプチドの体内残留、蓄積、濃縮による生体への影響は、マクロファージによる貪食、処理によって回避できる可能性が示された。
【0076】
〔実施例6〕改変ペプチドの投与条件の検討
これまでの報告および、本発明の実施例1〜5により抗菌活性が認められ、且つ安全性が確認された改変ペプチドについて、どのような条件下で投与すればより効果を発揮できるか検討した。
具体的には、菌の接種ルートを変えて作製したMRSA感染マウスにそれぞれ経口投与、腹腔内投与、静脈内投与によって改変ペプチドを投与した。ペプチドの投与濃度は過去の実験にならって経口投与、腹腔内投与では0.5 mg / 0.1 ml / mouseで、静脈内投与では0.1 mg / 0.1 ml / mouseとした。MRSAの投与量も過去の実験にならって、経口投与、腹腔内投与では4 x 108 cfu / mouseで、静脈内投与では1 x 106 cfu / mouseとした。改変ペプチドは菌接種後1時間後に投与し、菌接種後7日間観察し、死亡率を比較した。また、MRSAによる感染死を有意に防御していた条件下において、菌接種1日前、菌接種1日後にペプチドを投与し、同様に菌接種後7日間観察し、死亡率を比較した。
【0077】
L型アミノ酸による改変ペプチドはすべて、菌を腹腔内に接種した後、ペプチドを腹腔内に投与した場合にのみMRSAによる感染死を防御していた(表9)。D型アミノ酸による改変ペプチドは、菌を腹腔内に接種した場合にはペプチドの腹腔内投与で、菌を静脈内に接種した場合はペプチドの静脈内投与によってMRSAによる感染死を防御していた(表9)。すべてのペプチドで、菌とペプチドの投与ルートを変えた場合、MRSAによる感染死を防御することはできなかった(表9)。
【0078】
MRSA接種ルートに対するペプチドの投与ルートによる感染死防御効果の比較
【表9】
【0079】
MRSAによる感染死を有意に防御していた条件下において、菌接種1日前、菌接種1日後にペプチドを投与し、その効果を検討した。D型アミノ酸による改変ペプチドは共に、菌接種1日後に投与した場合において、MRSAによる感染死を防御していた(表10)。L型アミノ酸による改変ペプチドはすべて、菌接種1日後に投与した場合において、生存日数は延長させたものの(有意差はなし)、MRSAによる感染死を防御することはできなかった。菌接種1日前に投与した場合は、すべてのペプチドで、MRSAによる感染死を防御することはできず、生存日数の延長も認めなかった。
【0080】
ペプチドの投与時期によるMRSAによる感染死防御効果の比較
【表10】
本実施例において、改変ペプチドは菌の接種ルートにペプチドを直接投与しないと抗菌作用を示さないことが明らかになり、ペプチドは菌と直接接触した環境下において、その抗菌作用を発揮することが確認された。今回、ペプチドの経口投与を試みたが、腹腔内投与で活性が認められた濃度では抗菌活性を示さなかった。
【0081】
本発明者らの以前の報告において、1x107cfuのMRSAを腹腔内接種7日後にL-9A、L-9Bを腹腔内に投与したときには、L-9A、L-9B は共にMRSAの感染死を防御していたがSaido-Sakanaka H., et al., Peptides, 25(1), 19-27 (2004)、本実施例において、4x108cfuのMRSAを腹腔内接種した場合では、菌接種1日後にペプチドを投与しても、L-9A、L-9BらL型アミノ酸による改変ペプチドはMRSAによる感染死を防御することができなかった。これは、本実施例においては、多量の菌を一度に接種したため、ペプチド投与までの1日の間に敗血症に陥ってしまったものと考えられた。この菌量でも、菌接種後直後にL型ペプチドを投与した場合は、ペプチドによってある程度腹腔内の菌数が抑えられ、その結果、菌血症になって全身に回る菌が宿主の生体防御能で処理できるほどに抑えられるためにその病変が軽減され、感染死を防御できるのではないかと考えられた。本実施例において、感染死は防御できなかったが、生存日数の延長は認められた。菌接種1日後の腹腔内投与によっても、いくらかは菌の減数を引き起こし、感染死を防御できないものの、ある程度はその病原性を抑えていたのではないかと考えられた。本実施例のように、ある一定の菌量を超えた場合は、ペプチドの抗菌作用によってMRSAによる感染死を防御できないことが示唆された。
【0082】
一方、D型アミノ酸による改変ペプチドD-9A、D-9Cはそれぞれ、4x108cfuの高濃度MRSAを接種した1日後に投与しても、その感染死を防御していた。これはL型ペプチドと比べて安定性が高く、長く体内に留まるためというより、菌に対する直接的な抗菌活性がより高いためであると考えられた。
菌接種1日前にペプチドを投与した場合は全例感染死を防御することはできなかった。D型アミノ酸によるペプチドは、菌接種1日前に投与した場合においても、1日以上体内に留まり、入ってきた菌に対して抗菌効果を示すのではないかと予想されたが、実際には抗菌効果を示さなかった。
これまで、MRSA感染マウスに対するペプチドの抗菌作用は、直接菌に対して制菌・殺菌性に働いていることが示唆されていたが、本発明はそれを裏付ける結果となった。
【0083】
〔実施例7〕昆虫抗微生物タンパク質改変ペプチドが骨髄腫細胞に及ぼす効果
次に、上記4種のD型改変ペプチド(D-9A(配列番号:1)、D-9B(配列番号:2)、D-9C(配列番号:3)、D-9D(配列番号:4))が種々の骨髄腫細胞に対して濃度依存的な増殖抑制効果を示すか否かを検討した。
マウス骨髄腫細胞P3-X63-Ag8.653を4x103cell/wellとなるように96穴マイクロプレートの各ウェルに播種し、CO2インキュベータ内で24時間インキュベートした後に、各ペプチドを加えた。24時間インキュベート後、CellCountingKit-8(同仁、日本)を用いて生細胞由来のホルマザンによる発色をマイクロプレートリーダー(Abs450nm)で測定した。
【0084】
その結果、カブトムシ抗微生物ペプチド・ディフェンシン由来改変ペプチドであるD-9A、D-9B、D-9C、D-9Dはマウス骨髄腫細胞P3-X63-Ag8.653に対して濃度依存的な増殖抑制効果を示した。また、9アミノ酸残基のランダム配列からなるコントロールペプチド(AKGFAANHS-NH2:配列番号:9)は増殖に影響を与えなかった(図18)。
また、4つのペプチドの中で特に強い増殖抑制効果を示したD-9Bの抗骨髄腫活性を、他のマウス骨髄腫細胞P3-U1、DO11-10を用いて前述と同様の方法で測定した。
その結果、D-9BはP3-X63-Ag8.653を含む三種の骨髄腫細胞に対して濃度依存的な増殖抑制効果を示すことが分かった。また同時に細胞内からのLDH(ラクティックデヒドロゲナーゼ)の流出を調べたところ、LDH流出の上昇に伴い細胞の生存率の低下が観察されたことから、D-9Bは骨髄腫の細胞膜を濃度依存的に破壊することで抗骨髄腫活性を示していることが示唆された(図19)。
さらにD-9Bがマウス骨髄腫細胞P3-X63-Ag8.653の形態にどのような影響を与えるかを確認するために、D-9Bで処理したP3-X63-Ag8.653の膜表面を電子顕微鏡下で観察した。その結果、未処理の細胞と比較して著しい膜破壊が確認された(図20)。
【0085】
〔実施例8〕昆虫抗微生物タンパク質改変ペプチドの正常血球に対する細胞毒性試験
10週齢のBALBcマウスより摘出した骨髄と脾臓から正常血球細胞を回収して、D-9Bの細胞毒性を測定した。8x103cell/wellとなるように96穴マイクロプレートの各ウェルに播種し、CO2インキュベータ内で24時間インキュベートした後にD-9Bを加えた。24時間インキュベート後、細胞内からのLDHの流出を指標として細胞毒性を測定した。
その結果、D-9Bの濃度とは無関係に正常血球細胞からのLDH流出の上昇は見られなかった(図21)。このことから、D-9Bはマウス骨髄由来と脾臓由来の両正常血球細胞に対して細胞毒性を示さないことが分かった。
【0086】
〔実施例9〕既存の治療薬との併用効果の検討
現在臨床で実際に使用されている抗癌剤、またそれと併用されている副腎皮質ホルモン剤とD-9Bのマウス骨髄腫細胞P3-X63-Ag8.653に対するMIC(最小育成抑制濃度)を測定した。また、D-9Bと上記の各薬剤を併用することで得られる併用効果を調べた。
P3-X63-Ag8.653を4x103cell/wellとなるように96穴マイクロプレートの各ウェルに播種し、CO2インキュベータ内で24時間インキュベートした後に、薬剤とD-9Bを別個又は一緒に加えた。24時間インキュベート後、CellCountingKit-8(同仁、日本)を用いて生細胞由来のホルマザンによる発色をマイクロプレートリーダー(Abs450nm)で測定した。併用効果を調べるにあたっては、チェッカーボード法によって得られるFIC index*を指標とした。
【0087】
*FIC index={(薬剤A併用時のMIC値/薬剤A単独時のMIC)}
+{(薬剤B併用時のMIC値/薬剤B単独時のMIC)}
FIC index ≦0.5 相乗
>0.5〜≦1 相加
>1〜≦2 不関
>2 拮抗
その結果、D-9Bを始め、臨床で使用されている各薬剤のP3-X63-Ag8.653に対するMICが測定された(表11)。さらにD-9Bは副腎皮質ホルモンであるデキサメサゾンと併用することで、P3-X63-Ag8.653の増殖抑制において相乗効果(FIC値=0.375)を示すことが明らかとなった(表12)。
【0088】
マウス骨髄腫細胞P3-X63-Ag8.653に対する各薬剤のMIC(最小育成抑制濃度)
【表11】
ドキソルビシン、メルファランは臨床で使用されている抗癌剤、デキサメサゾン、プレドニンは副腎皮質ホルモン剤である。
【0089】
マウス骨髄腫細胞P3-X63-Ag8.653に対するD-9Bと抗癌剤・副腎皮質ホルモン剤の併用効果
【表12】
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】ホルマリン固定後肝臓肉眼像を示す写真である。a:MRSA接種6日後解剖。白色結節病変が多数観察される。b:MRSA接種、D-9A投与7日後解剖。白色結節病変はほとんど認められない。c:MRSA接種、D-9B投与7日後解剖。白色結節病変はほとんど認められない。
【図2】肝臓組織像を示す写真である。a:MRSA接種6日後解剖。b:MRSA接種、D-9A投与7日後解剖。c:MRSA接種、D-9B投与7日後解剖。HE染色。MRSAのみを接種した群では、中心部の菌塊を伴う化膿性、壊死性病変が多発巣状性に認められる。菌のみを接種した例と比べて、菌接種後D-9A、D-9B投与例では共に、組織病変は軽減されている。D-9C投与例においても、同様に組織病変は軽減されていた。
【図3】腎臓組織像を示す写真である。a:MRSA接種6日後解剖。b:MRSA接種、D-9A投与7日後解剖。c:MRSA接種、D-9A投与7日後解剖。HE染色。菌のみを接種した群では、中心部の菌塊を伴う化膿巣、壊死巣、出血巣が顕著に観察される。病変は腎臓で最も強い傾向にあった。菌のみを接種した例と比べて、菌接種後D-9A、D-9B投与例では共に、組織病変は軽減されている。D-9B投与例ではD-9A投与例と比べ、やや病変は強い。D-9C投与例においても、同様に組織病変は軽減されていた。
【図4】肝臓のグラム染色組織像を示す写真である。a:MRSA接種6日後解剖。グラム陽性球菌の菌塊が壊死巣内に顕著に観察される。b:MRSA接種、D-9A投与7日後解剖。グラム陽性球菌の菌塊は低倍ではほとんど認められない。c:MRSA接種、D-9B投与7日後解剖。壊死巣は認められるが、グラム陽性球菌の菌塊は低倍ではほとんど認められない。
【図5】腎臓のグラム染色組織像を示す写真である。a: MRSA接種6日後解剖。グラム陽性球菌の菌塊が壊死巣内に顕著に観察される。b:MRSA接種、D-9A投与7日後解剖。グラム陽性球菌の菌塊は低倍ではほとんど認められない。c:MRSA接種、D-9B投与7日後解剖。壊死巣は認められるが、グラム陽性球菌の菌塊は低倍では軽度に認められるのみ。
【図6】肝臓のグラム染色組織像を示す写真である。MRSA接種、D-9A投与7日後解剖。強拡大にすると、クッパー細胞によって貪食、処理されたグラム陽性球菌が散在性に認められる。クッパー細胞は増生し活性化。肝細胞内等肝臓実質組織にはグラム陽性菌は観察されない。D-9A投与例ではこのように肝臓以外の臓器においても、マクロファージ等の食細胞が顕著に菌を貪食しており、菌による組織傷害はほとんど観察されない。
【図7】肝臓の抗S. aureus抗体を用いた免疫染色結果を示す写真である。a: MRSA接種6日後解剖。抗S. aureus抗体陽性の菌塊が壊死巣内に顕著に観察される。b:MRSA接種、D-9A投与7日後解剖。抗S. aureus抗体陽性の菌は低倍ではほとんど認められない。c:MRSA接種、D-9B投与7日後解剖。壊死巣は認められるが、抗S. aureus抗体陽性の菌は低倍ではほとんど認められない。
【図8】腎臓の抗S. aureus抗体を用いた免疫染色結果を示す写真である。a:MRSA接種6日後解剖。抗S. aureus抗体陽性の菌塊が壊死巣内に顕著に観察される。b:MRSA接種、D-9A投与7日後解剖。抗S. aureus抗体陽性の菌は低倍ではほとんど認められない。c:MRSA接種、D-9B投与7日後解剖。壊死巣は認められるが、抗S. aureus抗体陽性の菌塊は低倍では軽度に認められるのみ。
【図9】肝臓・脾臓・腎蔵からの菌分離結果を示す図である。
【図10】静脈注射における改変ペプチドがLPS-GalN接種後の血中TNF-α濃度に及ぼす影響を示す図である。
【図11】改変ペプチドがLPS-GalN接種後の血中AST値(上図)およびALT値(下図)に及ぼす影響を示す図である。
【図12】LPS-GalN接種後のマウス肝臓と改変ペプチドの効果を示す写真である。a:LPS-GalN接種群。b:ペプチドA (10 mg/kg)静脈接種群。
【図13】Trypanosoma brucei bruceiの増殖に対するD型ペプチドの作用を示す図である。
【図14】肺組織像(弱拡大視野、HE染色)を示す写真である。a:D-9A (0.1mg/0.1ml)1日1回7日間連続投与後解剖。正常マウス肺と同様で、著変認めず。b:D-9B (0.1mg/0.1ml)1日1回7日間連続投与後解剖。肺胞壁の肥厚が軽度認められる。c:D-9C (0.1mg/0.1ml)1日1回7日間連続投与後解剖。正常マウス肺と同様で、著変認めず。d:D-9D(0.1mg/0.1ml)1日1回7日間連続投与後解剖。無気肺病変が顕著に観察され、肺胞腔はほとんど認められない。
【図15】肺組織像(強拡大視野、HE染色)を示す写真である。a:D-9A (0.1mg/0.1ml)1日1回7日間連続投与後解剖。強拡大視野では、肺胞壁にマクロファージの浸潤が観察される。しかし、肺胞壁に傷害、病変は観察されない。b:D-9B (0.1mg/0.1ml)1日1回7日間連続投与後解剖。マクロファージ浸潤増殖によって、肺胞壁の肥厚が認められる。c:D-9C (0.1mg/0.1ml)1日1回7日間連続投与後解剖。強拡大視野では、肺胞壁にマクロファージの浸潤が観察される。しかし、肺胞壁に傷害、病変は観察されない。d: D-9D(0.1mg/0.1ml)1日1回7日間連続投与後解剖。マクロファージ浸潤増殖が顕著で、肺胞壁肥厚、肺胞腔はほとんど認められない。無気肺病変を呈する。
【図16】肝機能検査結果(GPT値)を示す図である。各ペプチド共に、対照と有意な差は認めず。
【図17】肝機能検査結果(G0T値)を示す図である。各ペプチド共に、対照と有意な差は認めず。
【図18】D型アミノ酸置換した改変ペプチドがマウス骨髄腫細胞P3-X63-Ag8.653の増殖に及ぼす影響を示す図である。
【図19】D-9Bが種々のマウス骨髄腫細胞(A:P3-X63-Ag8.653、B:P3-U1、C:DO11-10)に及ぼす影響を示す図である。
【図20】D-9Bがマウス骨髄腫細胞P3-X63-Ag8.653の形態に及ぼす影響を示す写真である。
【図21】D-9Bのマウス正常血球細胞に対する細胞毒性活性を示す図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、D型アミノ酸からなる昆虫抗微生物タンパク質改変ペプチド、およびその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
ウイルス・クラミジア・リケッチア・スピロヘータ・細菌・真菌・原虫・寄生虫などの微生物が、人体または動物体に侵入して、臓器や組織の中で増殖することを感染といい、その結果生じる病気を総称して感染症と呼んでいる。
【0003】
感染症の一つであるMRSA感染症は、Methicillin-Resistannt Staphylococcus aureus(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)というグラム陽性球菌の一種が感染したもので、健常者においては鼻や口にもみられる常在菌であり、免疫機能が低下した患者(および動物)に感染するものといわれている。MRSAは、黄色ブドウ球菌の中でも特にいろいろな抗生物質に対し耐性がある細菌であるため、多くの抗生物質が効かない事が問題視されている。近年の研究により、MRSA感染による敗血症を抑制することが、MRSA感染症制御のための重要な課題であると考えられており、敗血症を抑制する薬剤の開発が進められている。
【0004】
本発明者らは、これまでにカブトムシが産生する抗微生物蛋白質を分離精製し、その抗微生物蛋白質から得られた2つの改変ペプチド(RLYLRIGRR-NH2:ペプチドA、以下L-9A、配列番号:5、RLRLRIGRR-NH2:ペプチドB、以下L-9B、配列番号:6)は共に、腹腔内投与によってメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA) 感染マウスの病原性を弱めることを明らかにしていた(非特許文献1、2)。しかしながら、これまでに報告されてきたL型ペプチドのような膜破壊性抗菌ペプチドは、動物の血液中成分によって分解・不活化されてしまうため、その優位性にも関わらず、vivoの系での使用は難しいとされてきた。
【0005】
エンドトキシンショックは、グラム陰性菌並びにその細胞壁構成成分であるリポ多糖体(LPS)により誘導される炎症性サイトカインの過剰産生によって引き起こされる致死性のショックである。炎症性サイトカインの中でも、特に腫瘍壊死因子(TNF)-αがエンドトキシンショックの誘発に中心的役割を演じているが、インターフェロン(IFN)-γが関与していることも明らかとなっている。
【0006】
本発明者らはこれまでに、マウスにリポ多糖体(LPS)およびD-ガラクトサミン (GalN)を接種して作出したエンドトキシンショックモデルを用いて、昆虫抗微生物タンパク質改変ペプチドのエンドトキシンショック死防御効果について検討したところ、L型改変ペプチドRLYLRIGRR-NH2 (L-9A、配列番号:5)100 mg/kg腹腔内接種群において、血清中の腫瘍壊死因子(TNF-α)産生を抑制し、生存率の改善が認められることを明らかにしていた(非特許文献3)。しかしながら、上記ペプチドもL型ペプチドであるため、静脈内接種の際には、血管中での安定性が問題視されていた。
【0007】
トリパノソーマ症は熱帯における有用家畜に「ナガナ病」として、ヒトに「眠り病」として深刻な被害をもたらす住血性鞭毛虫類Trypanosoma属の原虫による人畜共通感染症である。治療薬にはヒトの場合、古典的なスーラミン、メラルソプロール、ペンタミジン、や1990年に導入されたDFMOがあるにすぎず、いずれも薬そのものの毒性による死をふくむ重篤な副作用(メラルソプロールの場合)、耐性株の出現(すべての薬剤)、血液脳関門の通過不能(スーラミン、ペンタミジン)やガンビア型にしか効かない(DFMO)不完全な作用という限界に阻まれている。動物における治療薬は三価アンチモン剤、硫化ナフチルアミン (スーラミン)、アミノキナルジン、フェナントリジン誘導体、芳香性ジアミジン(ペンタミジンと同類のジミナゼンやイソメタミジウム)などに属する薬剤があるが、同様に耐性株の出現に見舞われている。食用となる畜産物であることから残留の問題という制約もある。またDFMOは高価なために経済動物である家畜には用いることができない。トリパノソーマ症については、これまで副作用の強い薬剤しか存在せず、新たな薬剤の開発が求められていた。
【0008】
なお、本出願の発明に関連する先行技術文献情報を以下に示す。
【非特許文献1】Saido-Sakanaka H., et al., Peptides, 25(1), 19-27 (2004)
【非特許文献2】Saido-Sakanaka H., et al., Dev Comp Immunol., 29(5), 469-477 (2005)
【非特許文献3】Koyama Y., et al.,Int Immunopharmacol., 6(2), 234-240 (2006)
【非特許文献4】Shai Y., Antimicrobial Agents and Chemotherapy, 48, 3127-3129 (2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
生理活性ペプチドが血管内で分解・不活化されないようにするための一つの手法として、D型アミノ酸によりペプチドを合成する方法が検討されてきた。例えば、ShaiらはL型アミノ酸の鏡像立体異性体であるD型アミノ酸による改変ペプチドを合成し、その静脈内投与によって薬剤耐性性緑膿菌の敗血症を抑えることに成功した(非特許文献4)。しかしながら、MRSA感染症、トリパノソーマ症、エンドトキシンショックに対して効果を示し、血管内においても安定に存在する生理活性ペプチドは、これまでに見出されていない。
【0010】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、D型アミノ酸からなる昆虫抗微生物タンパク質改変ペプチドを提供することにある。また、該ペプチドを対象に投与する工程を含む、細菌感染症を予防または治療する方法の提供を課題とする。さらに、該ペプチドを有効成分とする、細菌感染症を予防または治療する薬剤の提供についても課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記の課題を解決するために、まずL型およびD型改変ペプチドの静脈内投与がMRSA感染症制御に及ぼす効果を病理学的に検討した。その結果、L型改変ペプチドは静脈内投与ではMRSA感染マウスの病原性を弱めることが出来なかったのに対し、D型改変ペプチドの静脈内投与によって、MRSA感染マウスの感染死が防御され、その病原性が弱められることが明らかとなった。
【0012】
次に、L型およびD型改変ペプチドのTNF-α抑制効果およびエンドトキシック死防御効果について検討を行った。その結果、L型改変ペプチドは静脈内投与では、グラム陰性細菌由来のLPS等の投与と同時に接種を行った場合に、エンドトキシック死防御効果を示すことが明らかとなった。また、D型改変ペプチドは、投与時期に制限無く、TNF-α抑制効果およびエンドトキシック死防御効果を示すことが明らかとなった。
【0013】
次に、D型改変ペプチドのトリパノソーマ原虫のin vitro増殖に対する効果の検討を行った。その結果、一定濃度以上のD型改変ペプチド存在下において、トリパノソーマ原虫の増殖が完全に抑制されることが明らかとなった。また、各改変ペプチドの投与量および投与条件について検討し、安全かつ細菌感染症に対して効果を示す投与方法を見出した。
さらに、D型改変ペプチドの骨髄腫細胞増殖に対する効果の検討を行った結果、D型改変ペプチドの存在下において、骨髄腫細胞の増殖が有意に抑制されることが明らかとなった。また、副腎皮質ホルモン剤であるデキサメサゾンと併用することで、骨髄腫細胞増殖に対し、相乗的な抑制効果を示すことが明らかとなった。
即ち、本発明者らは、D型アミノ酸からなる昆虫抗微生物タンパク質改変ペプチドが様々な細菌感染症または癌疾患に対して効果を示すことを明らかにし、これにより本発明を完成するに至った。
【0014】
本発明は、より具体的には以下の〔1〕〜〔34〕を提供するものである。
〔1〕D型アミノ酸からなるペプチドであって、下記式で表されるペプチド:
X1 - Leu - X2 - Ile - X3 - Arg - Arg - NH2
(式中、X1、X2、およびX3は、任意に含まれていてもよいアミノ酸残基、またはアミノ酸配列である。)
〔2〕X2が、Arg、またはAlaである、〔1〕に記載のペプチド。
〔3〕X3が、Gly、またはArgである、〔1〕または〔2〕に記載のペプチド。
〔4〕X1が、Arg-Leu-Tyr、Arg-Leu-Arg、Ala-Leu-Tyr、またはArg-Leu-Leuである、〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載のペプチド。
〔5〕Arg-Leu-Tyr-Leu-Arg-Ile-Gly-Arg-Arg - NH2(配列番号:1)、
Arg-Leu-Arg-Leu-Arg-Ile-Gly-Arg-Arg - NH2(配列番号:2)、
Ala-Leu-Tyr-Leu-Ala-Ile-Arg-Arg-Arg - NH2(配列番号:3)、
またはArg-Leu-Leu-Leu-Arg-Ile-Gly-Arg-Arg - NH2(配列番号:4)のいずれかのアミノ酸配列からなる〔1〕に記載のペプチド。
〔6〕細菌感染症を治療または予防することを特徴とする、〔1〕〜〔5〕に記載のペプチド。
〔7〕細菌感染における敗血症を抑制することを特徴とする、〔1〕〜〔5〕に記載のペプチド。
〔8〕細菌感染がMRSA感染である、〔7〕に記載のペプチド。
〔9〕TNFα遺伝子の発現を抑制することを特徴とする、〔1〕〜〔5〕に記載のペプチド。
〔10〕エンドトキシンショックを防御することを特徴とする、〔1〕〜〔5〕に記載のペプチド。
〔11〕トリパノソーマ原虫の増殖を抑制することを特徴とする、〔1〕〜〔5〕に記載のペプチド。
〔12〕癌疾患を治療または予防することを特徴とする、〔1〕〜〔5〕に記載のペプチド。
〔13〕癌疾患における癌細胞の増殖を抑制することを特徴とする、〔12〕に記載のペプチド。
〔14〕癌疾患が骨髄腫である、〔12〕または〔13〕に記載のペプチド。
〔15〕〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載のペプチドを対象に投与する工程を含む、対象において細菌感染症を治療または予防する方法
〔16〕〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載のペプチドを対象に投与する工程を含む、対象において細菌感染における敗血症を抑制する方法。
〔17〕細菌感染がMRSA感染である、〔16〕に記載の方法。
〔18〕〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載のペプチドを対象に投与する工程を含む、対象においてTNFα遺伝子の発現を抑制する方法。
〔19〕〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載のペプチドを対象に投与する工程を含む、対象においてエンドトキシンショックを防御する方法。
〔20〕〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載のペプチドを対象に投与する工程を含む、対象においてトリパノソーマ原虫の増殖を抑制する方法。
〔21〕〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載のペプチドを対象に投与する工程を含む、対象において癌疾患を治療または予防する方法。
〔22〕対象において癌細胞の増殖を抑制することを特徴とする、〔21〕に記載の方法。
〔23〕副腎皮質ホルモン剤を投与する工程をさらに含む、〔21〕に記載の方法。
〔24〕癌疾患が骨髄腫である、〔21〕〜〔23〕のいずれかに記載の方法。
〔25〕〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載のペプチドを有効成分として含有する、細菌感染症を治療または予防するための薬剤。
〔26〕〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載のペプチドを有効成分として含有する、細菌感染における敗血症を抑制するための薬剤。
〔27〕細菌感染がMRSA感染である、〔26〕に記載の薬剤。
〔28〕〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載のペプチドを有効成分として含有する、TNFα遺伝子の発現を抑制するための薬剤。
〔29〕〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載のペプチドを有効成分として含有する、エンドトキシンショックを防御するための薬剤。
〔30〕〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載のペプチドを有効成分として含有する、トリパノソーマ原虫の増殖を抑制するための薬剤。
〔31〕〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載のペプチドを有効成分として含有する、癌疾患を予防または治療するための薬剤。
〔32〕癌疾患における癌細胞の増殖を抑制することを特徴とする、〔31〕に記載の薬剤。
〔33〕副腎皮質ホルモン剤をさらに投与することを特徴とする、〔31〕に記載の薬剤。
〔34〕癌疾患が骨髄腫である、〔31〕〜〔33〕のいずれかに記載の薬剤。
【発明の効果】
【0015】
本発明者らは、D型アミノ酸からなる昆虫抗微生物タンパク質改変ペプチドが様々な細菌感染症に対して効果を示すことを見出した。静脈投与により、D型アミノ酸からなる該ペプチドはMRSA感染症に対する高い治療効果(抗菌効果)およびエンドトキシンショックに対する防御効果を示すことが明らかとなった。また、本発明のD型アミノ酸からなる該ペプチドはL型アミノ酸からなる該ペプチドと比べて安定性が高く、長く体内に留まるためというより、菌に対する直接的な抗菌活性がより高いため、高い治療効果を示すということが明らかとなった。これらのことから、D型アミノ酸からなる該ペプチドは、様々な細菌感染症の治療に用いることが可能であると考えられる。また、本発明のD型アミノ酸からなる該ペプチドは、トリパノソーマ原虫の増殖を抑制することから、従来副作用の強い薬剤しか存在しなかったトリパノソーマ症に対する有効な治療剤となるものと考えられる。
【0016】
また、本発明のD型アミノ酸からなるペプチドは、骨髄腫細胞等の癌細胞の増殖抑制効果も示すことから、家畜及び人間を対象とした医療分野における癌疾患の治療に利用できるものと考えられる。
さらに、本発明のD型アミノ酸からなる該ペプチドの体内残留、蓄積、濃縮による生体への影響は、マクロファージによる貪食、処理によって回避でき、肝臓や腎臓等への影響が少ないことが明らかとなった。このことから、D型アミノ酸からなる該ペプチドは副作用の低い(もしくは存在しない)治療剤として利用できるものと考えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明者らは、D型アミノ酸からなる昆虫抗微生物タンパク質改変ペプチドが様々な細菌感染症に対して効果を示すことを見出した。本発明は、これらの知見に基づくものである。
本発明は、D型アミノ酸からなる昆虫抗微生物タンパク質改変ペプチドに関する。
本発明のペプチドの一つの態様として、好ましくは下記式を含むペプチドを挙げることが出来る。
X1 − Leu − X2 − Ile − X3 − Arg − Arg − NH2
式中、X1、X2、X3、およびX4は、任意に含まれていてもよいアミノ酸残基、またはアミノ酸配列であり、本発明のペプチドと機能的に同等である限り、アミノ酸の配列構成については特に限定をされない。「任意に含まれていてもよい」とは、その位置に相当するアミノ酸が何も存在しない場合も含まれる。本発明のペプチドは、カルボキシル末端がアミド化されていることがより好ましい。本発明のペプチドにおいて、カルボキシル末端のアミド化は、カルボキシル末端にグリシンが存在する場合に、このグリシンがペプチジルグリシンα-アミド化モノオキシゲナーゼ等のC末端アミド化酵素によって、アミノ基に変換されたものであってもよい。
【0018】
本発明において「機能的に同等」とは、対象となるペプチドが、細菌感染症または癌疾患に関する症状を治療または予防する機能を保持することをいう。
ペプチドを対象に投与することによって、対象において細菌感染(好ましくはMRSA感染)における敗血症が抑制される場合、TNFα遺伝子の発現が抑制される場合、エンドトキシンショックが防御される場合、トリパノソーマ原虫の増殖が抑制される場合、または癌細胞の増殖が抑制される場合にも、該ペプチドが本発明のペプチドと機能的に同等であるとみなすことが出来る。
上記式X2に相当するアミノ酸残基としては、Arg、またはAlaを挙げることが出来るが、特にこれらに限定されるものではない。
また、上記式X3に相当するアミノ酸残基としては、Gly、またはArgを挙げることが出来るが、特にこれらに限定されるものではない。
また、上記式X1に相当するアミノ酸配列としては、Arg-Leu-Tyr、Arg-Leu-Arg、Ala-Leu-Tyr、またはArg-Leu-Leuを挙げることが出来るが、特にこれらに限定されるものではない。
【0019】
本発明のペプチドは、機能的に同等である限り、化学修飾を受けていてもよい。ペプチドの化学修飾としては、アセチル化、アニリド化(カルボキシル末端)、ベンジルオキシカルボニル化、ビオチン化、ダンシル化、DNP化、脂肪酸付加、ホルミル化、ニトロ化、セリンリン酸化、スレオニンリン酸化、チロシンリン酸化、サクシニル化、スルフォン化等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。本発明において、化学修飾は酵素を用いて行われてもよい。上記の化学修飾は当業者に公知の方法によって行うことが出来る。
本発明のペプチドの好ましい例としては、
Arg-Leu-Tyr-Leu-Arg-Ile-Gly-Arg-Arg-NH2(配列番号:1)、
Arg-Leu-Arg-Leu-Arg-Ile-Gly-Arg-Arg-NH2(配列番号:2)、
Ala-Leu-Tyr-Leu-Ala-Ile-Arg-Arg-Arg-NH2(配列番号:3)、
またはArg-Leu-Leu-Leu-Arg-Ile-Gly-Arg-Arg-NH2(配列番号:4)を含むペプチドを挙げることが出来る。
【0020】
また、本発明のペプチドには、上記の具体的なアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列からなるペプチドであって、上記のアミノ酸配列からなるペプチドと機能的に同等なペプチドも含まれる。
本発明において、変異(置換、欠失、挿入、および/または付加)するアミノ酸数は特に制限されないが、好ましくは5アミノ酸以内(例えば、1、2、3、4、5アミノ酸以内)であると考えられる。変異するアミノ酸残基においては、アミノ酸側鎖の性質が保存されている別のアミノ酸に変異されることが望ましい。例えばアミノ酸側鎖の性質としては、疎水性アミノ酸(A、I、L、M、F、P、W、Y、V)、親水性アミノ酸(R、D、N、C、E、Q、G、H、K、S、T)、脂肪族側鎖を有するアミノ酸(G、A、V、L、I、P)、水酸基含有側鎖を有するアミノ酸(S、T、Y)、硫黄原子含有側鎖を有するアミノ酸(C、M)、カルボン酸及びアミド含有側鎖を有するアミノ酸(D、N、E、Q)、塩基含有側鎖を有するアミノ酸(R、K、H)、芳香族含有側鎖を有するアミノ酸(H、F、Y、W)を挙げることができる(括弧内はいずれもアミノ酸の一文字標記を表す)。あるアミノ酸配列に対する1又は複数個のアミノ酸残基の欠失、付加及び/又は他のアミノ酸による置換により修飾されたアミノ酸配列を有するポリペプチドがその生物学的活性を維持することはすでに知られている。
【0021】
本発明のペプチドは、有機化学合成、または本発明のペプチド(上記のアミノ酸配列)を含む前駆体タンパク質を分解することにより生成することが可能である。有機化学合成としては、当業者には公知の自動ペプチド合成方法(Boc固相法、Fmoc固相法等)または、古典的な有機化学合成方法を挙げることができ、特に限定されるものではない。前駆体タンパク質を分解することにより、本発明のペプチドを合成する場合には、当業者に公知のプロテアーゼを適切な条件下で使用することができる。プロテアーゼとしては、セリンプロテアーゼ(例えばキモトリプシン、スブチリシン)、アスパラギン酸プロテアーゼ(例えばペプシン、カテプシンD、HIVプロテアーゼ)、金属プロテアーゼ(例えばサーモリシン)、システインプロテアーゼ(例えばパパイン、カスパーゼ)、N-末端スレオニンプロテアーゼ、グルタミン酸プロテアーゼ等を挙げることが出来る。
【0022】
本発明のペプチドは、化学合成後、実質的に純粋で均一なペプチドとして精製することができる。ペプチドの分離、精製は、通常のタンパク質の精製で使用されている分離、精製方法を使用すればよく、何ら限定されるものではない。例えば、クロマトグラフィーカラム、フィルター、限外濾過、塩析、溶媒沈殿、溶媒抽出、蒸留、免疫沈降、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動、等電点電気泳動法、透析、再結晶等を適宜選択、組み合わせればタンパク質を分離、精製することができる。
【0023】
クロマトグラフィーとしては、例えばアフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、ゲル濾過、逆相クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー等が挙げられる。これらのクロマトグラフィーは、液相クロマトグラフィー、例えばHPLC、FPLC等の液相クロマトグラフィーを用いて行うことができる。本発明は、これらの精製方法を用い、高度に精製されたペプチドも包含する。
【0024】
本発明は、上記ペプチドを対象に投与する工程を含む、対象において細菌感染症または癌疾患を治療または予防する方法に関する。
本発明において、「対象」とは、本発明の細菌感染症治療剤を投与する生物体、該生物体の体内の一部分をいう。「生物体」は、特に限定されるものではないが、動物(例えば、ヒト、家畜動物種、野生動物)を含む。「生物体」は、既に細菌が感染している生物体であってもよいし、細菌が完成する可能性のある生物体であってもよい。
また、「生物体の体内の一部分」については特に限定されないが、好ましくは細菌が感染し増殖している部位またはその周辺部位を挙げることが出来る。
【0025】
本発明において、「投与する」とは、経口的、あるいは非経口的に投与することが含まれる。経口的な投与としては、経口剤という形での投与を挙げることができ、経口剤としては、顆粒剤、散剤、錠剤、カプセル剤、溶剤、乳剤、あるいは懸濁剤等の剤型を選択することができる。
又は、健康食品、機能性食品、特定保健用食品、栄養補助食品、経腸栄養食品という形態で経口的に摂取または投与されてもよく、本発明はこれらの食品に限定されない。
非経口的な投与としては、注射剤という形での投与を挙げることができ、注射剤としては、点滴などの静脈注射、皮下注射剤、筋肉注射剤、あるいは腹腔内注射剤等を挙げることができる。患者の年齢、症状により適宜投与方法・投与量を選択することができる。また、本発明の薬剤を、処置を施したい領域に局所的に投与することもできる。例えば、手術中の局所注入、カテーテルの使用により投与することも可能である。また、細胞感染症を伴う疾患の公知の治療法と同時に又は時間を隔てて本発明の薬剤が投与されてもよい。
【0026】
本発明において、「細菌感染症」としては、放線菌症、炭疽、ベジェル、イチゴ腫、ピンタ、カンピロバクター感染症、コレラ、ガス壊疽、腸内細菌感染症、ヘモフィルス感染症、レプトスピラ症、リステリア症、ライム病、ペスト、肺炎球菌感染症、シュードモナス感染症、サルモネラ感染症、細菌性赤痢、ブドウ球菌感染症、レンサ球菌感染症、破傷風、毒素性ショック症候群、野兎病、腸チフス等を挙げることが出来るが、特に限定されるものではない。本発明において、「細菌感染症」の好ましい例としては、MRSA感染症、エンドトキシンショック、トリパノソーマ症を挙げることが出来る。
本発明において「癌疾患」としては、より具体的には、白血病、リンパ腫、(多発性)骨髄腫、脳腫瘍、大腸癌、肺癌、乳癌、頭頚部扁平上皮癌、食道癌、胃癌、胆嚢癌、甲状腺癌、前立腺癌、骨および軟部肉腫、卵巣癌、子宮癌、膀胱癌、腎癌、膵癌等を例示することができる。本発明における癌疾患は特に限定されないが、より好ましくは骨髄腫、を挙げることが出来る。
【0027】
本発明において、「細菌感染症の治療」とは、上記の細菌感染によって引き起こされる症状を抑制または改善すること、または、細菌感染症に合併して起こる症状(合併症)を抑制または改善することを意味する。「細菌感染症の予防」とは、細菌の感染自体を抑制することを意味する。本発明において「癌疾患の治療または予防」とは、上記の癌疾患における症状を抑制または改善すること、または、癌疾患に合併して起こる症状(合併症)を抑制または改善することを意味する。
上記の方法において、細菌感染症または癌疾患が改善される期間は特に限定されないが、一時的な改善であってもよいし、一定期間の改善であってもよい。
本発明において「細菌感染症の治療または予防」とは、より具体的には、細菌感染(好ましくはMRSA感染)における敗血症を抑制すること、TNFα遺伝子の発現を抑制すること、エンドトキシンショックを防御すること、またはトリパノソーマ原虫の増殖を抑制することを意味する。
【0028】
本発明において「敗血症」とは、連鎖球菌などの病原菌が体内の一定の病巣(敗血病巣)から絶えず血中に送り出され、全身的な感染を起こした状態のことを言う。重篤な状態であり、無治療ではショック、DIC(播種性血管内凝固症候群)、多臓器不全(腎不全、呼吸不全、心不全)などから早晩死に至ると言われている。細菌そのものが血液中に無い場合でも、細菌から出る毒素や、それらに影響された生体内の種々の物質(サイトカイン等)が全身に回って肝臓や腎臓、肺など重要な臓器がおかされて重い症状を引き起こす。
敗血症の症状としては、まず全身の炎症を反映して著しい発熱、倦怠感が出現し、進行すれば意識障害をきたす。DICを合併すると血栓が生じるために多臓器が障害され、また血小板が消費されて出血傾向となる。起炎菌が大腸菌などのグラム陰性菌であると、菌の産生した内毒素(エンドトキシン)によってエンドトキシンショックが引き起こされる。
【0029】
本発明において、「敗血症を抑制する」とは、上記に記載の症状を抑制することを意味する。本発明において、敗血症が抑制されたか否かの確認は、末梢血検査(白血球量の確認、炎症反応の確認、細菌量の確認、血沈値の確認、CRP値の確認)、尿検査(蛋白尿、血尿、膿尿の確認)、X線像検査(肺炎像、異常ガス像の確認)、組織検査(各臓器の状態確認)等の公知の方法によって行うことができ、また実施例に記載の方法によっても行うことができる。本発明の薬剤を投与することにより、上記の症状が軽減している場合に、敗血症が抑制されたとみなすことが出来る。
【0030】
本発明において、「エンドトキシンショック」とは、グラム陰性菌並びにその細胞壁構成成分であるリポ多糖体(LPS、エンドトキシン)により誘導される炎症性サイトカインの過剰産生によって引き起こされる致死性のショックのことを意味する。エンドトキシンショックの多くは敗血症に引き続いて発症し、血中にエンドトキシンが散布される。これらがサイトカインの分泌を促進したり、種々の化学伝達物質を活性化する。マクロファージやT細胞から分泌される腫瘍壊死因子が、血管内皮細胞や血小板などに働き様々の炎症性サイトカインの産生を誘導する。その際、同時に産生される一酸化窒素の末梢血管拡張作用も重要であると考えられている。そして、炎症性サイトカインによって、細胞膜にあるリン脂質からアラキドン酸が産生され、アラキドン酸カスケードを経て、プロスタグランジンやトロンボキサンチンA2等のエイコサノイドと呼ばれる反応性の高い物質を作り出す。また同時に、ヒスタミンやキニン類などの血管作動性のある化学伝達物質の産生も促進する。そして、これらの因子により末梢血管が拡張して、血の巡りが悪くなることでショックに至る。エンドトキシンショックはエンドトキシンが原因であるため、グラム陰性菌が起炎菌となり、臨床上は、大腸菌、バクテロイデス、プロテウス、クレブシエラ等の腸内常在菌や院内感染で有名な緑膿菌が多く見られる。
【0031】
本発明において、エンドトキシンショックが防御されたか否かの確認は、TLR/CD14受容体を介する細胞内シグナル伝達による転写因子の活性化、またはそれに続く炎症性サイトカインの産生を検査する(生体内におけるNF-κB活性化またはTNF-α産生を検査する)ことで行うことができる。上記の検査は、公知の方法によって行うことができ、また実施例に記載の方法によっても行うことができる。本発明の薬剤を投与することにより、生体内におけるNF-κB活性化またはTNF-α産生が抑制された場合に、エンドトキシンショックが防御されたとみなすことが出来る。
【0032】
本発明において、「トリパノソーマ症」とは、トリパノソーマという鞭毛を持った原虫の感染で起こる疾患の事を意味する。トリパノソーマ症としては、アフリカトリパノソーマ症(いわゆる睡眠病)とアメリカトリパノソーマ症(Chagas病)を挙げることができる。
本発明において、「トリパノソーマ原虫の増殖を抑制する」とは、生体内におけるトリパノソーマ原虫の増殖を抑制することを意味し、トリパノソーマ症を治療または予防することと同等の意味を示す。トリパノソーマ原虫の増殖が抑制されたか否かの確認は、生体内のトリパノソーマ細胞数を確認することにより行うことが出来る。
【0033】
本発明において「癌疾患の治療または予防」とは、より具体的には、上記癌疾患の癌細胞に対する細胞増殖抑制効果、または細胞死誘導効果が発現することを意味する。また、癌細胞における癌関連遺伝子の変異または発現変化を、正常な状態に改善することも、上記の意味に含まれるものとする。
癌疾患の治療または予防において、本発明のペプチドを投与する場合には、副腎皮質ホルモン剤(ステロイド)を併用することができる。本発明において「副腎皮質ホルモン剤」としては、糖質コルチコイドを挙げることができ、より具体的には、プレドニン、プレドニゾロン、コートリル、デカドロン、デキサメタゾン、リンデロン等を挙げることが出来る。副腎皮質ホルモン剤の投与は、本発明のペプチドの投与と同時であってもよいし、該ペプチド投与の前後に行われてもよい。
【0034】
本発明は、上記ペプチドを有効成分として含有する、細菌感染症または癌疾患を予防または治療するための薬剤に関する。本発明の薬剤は、細菌感染症治療剤、癌疾患治療剤、細菌感染症または癌疾患を予防または治療するための医薬組成物と言い換えることが可能である。
本発明の薬剤には、保存剤や安定剤等の製剤上許容しうる担体が添加されていてもよい。製剤上許容しうるとは、それ自体は上記の細菌感染症または癌疾患の治療または予防効果を有する材料であってもよいし、当該予防または治療効果を有さない材料であってもよく、上記の薬剤とともに投与可能な製剤上許容される材料を意味する。また、細菌感染症または癌疾患の予防または治療効果を有さない材料であり、本発明の化合物と併用することによって相乗的もしくは相加的な安定化効果を有する材料であってもよい。
【0035】
製剤上許容される材料としては、例えば、滅菌水や生理食塩水、安定剤、賦形剤、緩衝剤、防腐剤、界面活性剤、キレート剤(EDTA等)、結合剤等を挙げることができる。
本発明において、界面活性剤としては非イオン界面活性剤を挙げることができ、例えばソルビタンモノカプリレート、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート等のソルビタン脂肪酸エステル;グリセリンモノカプリレート、グリセリンモノミリテート、グリセリンモノステアレート等のグリセリン脂肪酸エステル;デカグリセリルモノステアレート、デカグリセリルジステアレート、デカグリセリルモノリノレート等のポリグリセリン脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレンソルビタントリオレエート、ポリオキシエチレンソルビタントリステアレート等のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンソルビットテトラステアレート、ポリオキシエチレンソルビットテトラオレエート等のポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル;ポリオキシエチレングリセリルモノステアレート等のポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル;ポリエチレングリコールジステアレート等のポリエチレングリコール脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンラウリルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル;ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンプロピルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンセチルエーテル等のポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル;ポリオキシエチエレンノニルフェニルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル;ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(ポリオキシエチレン水素ヒマシ油)等のポリオキシエチレン硬化ヒマシ油;ポリオキシエチレンソルビットミツロウ等のポリオキシエチレンミツロウ誘導体;ポリオキシエチレンラノリン等のポリオキシエチレンラノリン誘導体;ポリオキシエチレンステアリン酸アミド等のポリオキシエチレン脂肪酸アミド等のHLB6〜18を有するもの、等を典型的例として挙げることができる。
【0036】
また、界面活性剤としては陰イオン界面活性剤も挙げることができ、例えばセチル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、オレイル硫酸ナトリウム等の炭素原子数10〜18のアルキル基を有するアルキル硫酸塩;ポリオキシエチレンラウリル硫酸ナトリウム等の、エチレンオキシドの平均付加モル数が2〜4でアルキル基の炭素原子数が10〜18であるポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩;ラウリルスルホコハク酸エステルナトリウム等の、アルキル基の炭素原子数が8〜18のアルキルスルホコハク酸エステル塩;天然系の界面活性剤、例えばレシチン、グリセロリン脂質;スフィンゴミエリン等のフィンゴリン脂質;炭素原子数12〜18の脂肪酸のショ糖脂肪酸エステル等を典型的例として挙げることができる。
【0037】
本発明おいては、これらの界面活性剤の1種または2種以上を組み合わせて添加することができる。本発明の製剤で使用する好ましい界面活性剤は、ポリソルベート20,40,60 又は80などのポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルであり、ポリソルベート20及び80が特に好ましい。また、ポロキサマー(プルロニックF−68(登録商標)など)に代表されるポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールも好ましい。
界面活性剤の添加量は使用する界面活性剤の種類により異なるが、ポリソルベート20又はポリソルベート80の場合では、一般には0.001〜100 mg/mLであり、好ましくは0.003〜50 mg/mLであり、さらに好ましくは0.005〜2 mg/mLである。
【0038】
本発明において緩衝剤としては、リン酸、クエン酸緩衝液、酢酸、リンゴ酸、酒石酸、コハク酸、乳酸、リン酸カリウム、グルコン酸、カプリル酸、デオキシコール酸、サリチル酸、トリエタノールアミン、フマル酸等 他の有機酸等、あるいは、炭酸緩衝液、トリス緩衝液、ヒスチジン緩衝液、イミダゾール緩衝液等を挙げることが出来る。
また溶液製剤の分野で公知の水性緩衝液に溶解することによって溶液製剤を調製してもよい。緩衝液の濃度は一般には1〜500 mMであり、好ましくは5〜100 mMであり、さらに好ましくは10〜20 mMである。
【0039】
また、本発明おいては、その他の低分子量のポリペプチド、血清アルブミン、ゼラチンや免疫グロブリン等の蛋白質、アミノ酸、多糖及び単糖等の糖類や炭水化物、糖アルコールを含んでいてもよい。
本発明においてアミノ酸としては、塩基性アミノ酸、例えばアルギニン、リジン、ヒスチジン、オルニチン等、またはこれらのアミノ酸の無機塩(好ましくは、塩酸塩、リン酸塩の形、すなわちリン酸アミノ酸)を挙げることが出来る。遊離アミノ酸が使用される場合、好ましいpH値は、適当な生理的に許容される緩衝物質、例えば無機酸、特に塩酸、リン酸、硫酸、酢酸、蟻酸又はこれらの塩の添加により調整される。この場合、リン酸塩の使用は、特に安定な凍結乾燥物が得られる点で特に有利である。調製物が有機酸、例えばリンゴ酸、酒石酸、クエン酸、コハク酸、フマル酸等を実質的に含有しない場合あるいは対応する陰イオン(リンゴ酸イオン、酒石酸イオン、クエン酸イオン、コハク酸イオン、フマル酸イオン等)が存在しない場合に、特に有利である。好ましいアミノ酸はアルギニン、リジン、ヒスチジン、またはオルニチンである。さらに、酸性アミノ酸、例えばグルタミン酸及びアスパラギン酸、及びその塩の形(好ましくはナトリウム塩)あるいは中性アミノ酸、例えばイソロイシン、ロイシン、グリシン、セリン、スレオニン、バリン、メチオニン、システイン、またはアラニン、あるいは芳香族アミノ酸、例えばフェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、または誘導体のN-アセチルトリプトファンを使用することもできる。
【0040】
本発明において、多糖及び単糖等の糖類や炭水化物としては、例えばデキストラン、グルコース、フラクトース、ラクトース、キシロース、マンノース、マルトース、スクロース,トレハロース、ラフィノース等を挙げることができる。
本発明において、糖アルコールとしては、例えばマンニトール、ソルビトール、イノシトール等を挙げることができる。
【0041】
注射用の水溶液とする場合には、例えば生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液、例えば、D-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、塩化ナトリウムが挙げられ、適当な溶解補助剤、例えばアルコール(エタノール等)、ポリアルコール(プロピレングリコール、PEG等)、非イオン性界面活性剤(ポリソルベート80、HCO-50)等と併用してもよい。
【0042】
所望によりさらに希釈剤、溶解補助剤、pH調整剤、無痛化剤、含硫還元剤、酸化防止剤等を含有してもよい。
本発明において、含硫還元剤としては、例えば、N−アセチルシステイン、N−アセチルホモシステイン、チオクト酸、チオジグリコール、チオエタノールアミン、チオグリセロール、チオソルビトール、チオグリコール酸及びその塩、チオ硫酸ナトリウム、グルタチオン、並びに炭素原子数1〜7のチオアルカン酸等のスルフヒドリル基を有するもの等を挙げることができる。
【0043】
また、本発明において酸化防止剤としては、例えば、エリソルビン酸、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、α−トコフェロール、酢酸トコフェロール、L−アスコルビン酸及びその塩、L−アスコルビン酸パルミテート、L−アスコルビン酸ステアレート、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、没食子酸トリアミル、没食子酸プロピルあるいはエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(EDTA)、ピロリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム等のキレート剤を挙げることが出来る。
【0044】
また、必要に応じ、マイクロカプセル(ヒドロキシメチルセルロース、ゼラチン、ポリ[メチルメタクリル酸]等のマイクロカプセル)に封入したり、コロイドドラッグデリバリーシステム(リポソーム、アルブミンミクロスフェア、マイクロエマルジョン、ナノ粒子及びナノカプセル等)とすることもできる("Remington's Pharmaceutical Science 16th edition", Oslo Ed., 1980等参照)。さらに、薬剤を徐放性の薬剤とする方法も公知であり、本発明に適用し得る(Langer et al., J.Biomed.Mater.Res. 1981, 15: 167-277; Langer, Chem. Tech. 1982, 12: 98-105;米国特許第3,773,919号;欧州特許出願公開(EP)第58,481号; Sidman et al., Biopolymers 1983, 22: 547-556;EP第133,988号)。
使用される製剤上許容しうる担体は、剤型に応じて上記の中から適宜あるいは組合せて選択されるが、これらに限定されるものではない。
【実施例】
【0045】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
〔実施例1〕D型改変ペプチドのMRSA感染症制御に及ぼす効果
本発明者らは、これまでにカブトムシが産生する抗微生物蛋白質を分離精製し、その抗微生物蛋白質から得られた2つの改変ペプチド(RLYLRIGRR-NH2:ペプチドA、以下L-9A、配列番号:5、RLRLRIGRR-NH2:ペプチドB、以下L-9B、配列番号:6)は共に、腹腔内投与によってメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA) 感染マウスの病原性を弱めることを明らかにしていた。また、MRSA接種1週間後にペプチドを腹腔内に投与した場合でも、L-9A、L-9Bは共に、MRSA感染マウスの病原性を弱めることを明らかにしていた。(Saido-Sakanaka H., et al., Peptides, 25(1), 19-27 (2004))
【0046】
本実施例においては、より臨床応用に近づけるために、改変ペプチドの静脈内投与によるマウスのMRSA感染症制御に及ぼす効果を病理学的に検討した。
具体的には、デキサメサゾンを投与した(0.2mg/mouse/day)10週齢のC57BLマウスにMRSA8A株(1x106cfu)を静脈内接種した後、改変ペプチドL-9AおよびL-9B(0.1mg/0.1ml/mouse)を静脈内投与した。7日間観察後解剖し、ペプチド非投与群と死亡率、解剖所見、組織所見を比較した(1群10匹)。
また、これまでの改変ペプチド(天然型のL型アミノ酸)の鏡像立体異性体であり、より分解されにくいD型アミノ酸の改変ペプチド(D-9A 配列番号:1、D-9B 配列番号:2)を新たに作成し、同様の実験を実施した。D-9A、D-9B投与群について、肝臓、脾臓、腎臓からは菌分離を試みた。別の2つのペプチド(ALYLAIRRR-NH2:L-9C、配列番号:7、RLLLRIGRR-NH2:L-9D、配列番号:8)についても同様に鏡像立体異性体のD型アミノ酸の改変ペプチド(D-9C 配列番号:3、D-9D 配列番号:4)を作成し、L型、D型双方について、MRSA感染マウスに対する実験を実施した。
【0047】
上記の検討により得られた結果を以下に示す。
(1)解剖所見:ペプチド非投与群では、全例菌接種6日以内に死亡した(表1)。解剖所見として、肝臓、腎臓に白色結節性病変が多発性に認められた(図1a)。これまでのL型のペプチド(L-9A、L-9B、L-9C、L-9D)投与群においても、ペプチド非投与群と同様の肉眼病変が認められ、全例死亡した(表1)。
一方、D型のペプチド(D-9A、D-9B、D-9C、D-9D)の投与群では、共に肉眼病変は軽減されており、実験期間中に死亡マウスは認められなかった(表1、図1bまたはc)。D-9D投与群では、他のD型のペプチド投与群と比べて、病変は重度に観察された。
【0048】
MRSAのマウスへの病原性と改変ペプチドの効果
【表1】
【0049】
(2)組織所見:ペプチド非投与群のマウスの肝臓では、中心部に菌塊を容れた化膿性壊死性病変が多発巣状性に顕著に観察された(図2a)。腎臓では、腎盂は拡張し、菌塊、好中球、壊死細胞片を容れていた。髄質から皮質にかけて化膿巣が顕著に観察され、化膿巣内には、菌塊が顕著に観察された(図3a)。病変は腎臓で最も強い傾向にあった。化膿性炎は尿管、膀胱、尿道まで及んでいた。外生殖器では化膿性の尿道炎から波及した炎症が皮下織まで及んでおり、充血、水腫、炎症性細胞浸潤が顕著に観察された。尿道の膿塞栓も顕著に観察された。
これまでのL型のペプチド(L-9A、L-9B、L-9C、L-9D)投与群においても、ペプチド非接種群と同様の組織病変が認められ、L型アミノ酸による改変ペプチドはA,B,C,Dすべて静脈内投与ではMRSA感染マウスの病原性を弱めることができなかった。
【0050】
一方、D型のペプチドの投与群では、D-9A、D-9B、D-9Cにおいて組織病変は軽減されていた。特に、D-9A投与群のマウスのでは肝臓、腎臓等に化膿巣はほとんど認められなかった(図2b、図3b)。D-9A投与群では好中球の小集族巣が散在性に認められたものの、壊死性病変、また菌のコロニー形成は観察されなかった。D-9B投与群では壊死巣がいくつか観察されたが、菌のコロニー形成は大きさ、数共に軽度で、その病変は菌のみを接種した群と比べて軽減されていた(図2c、図3c)。D-9C投与群では病変はD-9A投与群よりは強く、D-9B投与群よりは軽い傾向にあった。グラム染色標本下において、MRSAのみ接種した群ではグラム陽性球菌の菌塊が顕著に観察された(図4a、図5a)。一方ペプチドD-9A、D-9B、D-9C投与群ではグラム陽性の菌塊は弱拡大視野では、ほとんど観察されなかった(図4b、図4c、図5b、図5c)。ペプチド投与群の肝臓では、強拡大視野において、クッパー細胞によって貪食、処理されたグラム陽性球菌が散在性に認められるのみであった(図6)。肝臓以外の臓器においても、マクロファージ等の食細胞が顕著に菌を貪食しており、D-9A投与例では菌による組織傷害はほとんど観察されなかった。尿管、膀胱、尿道においても炎症性細胞の浸潤が軽度に認められるのみで、病変はほとんど観察されなかった。外生殖器においても充血、水腫性腫張、化膿性炎等は認められず、ほぼ正常対照マウスと同様の組織像を呈していた。D-9D投与群では、肝臓、腎臓の化膿性壊死性病変は顕著に観察された。また肺においても無気肺や化膿性肺炎が観察された。
【0051】
抗S. aureus抗体を用いた免疫染色によって、グラム染色で認められたグラム陽性球菌はS. aureusであることが確認された。免疫染色結果はグラム染色結果と同様に観察され、菌のみ接種群において認められた抗S. aureus抗体陽性像はD-9A、D-9C投与群においてはほとんど認められなかった(図7a、図7b、図8a、図8b)。D-9B投与群においてもいくつか多発巣状性に抗原陽性像が観察されたが、菌のみ接種群と比べると有意に軽減されていた(図7c、図8c)。
肝臓・脾臓・腎臓から菌分離を試みたところ、D-9A投与によって、各臓器とも、MRSAの菌数が有意に減少していた(図9)。D-9B投与によって有意な菌の減数が認められたのは腎臓のみではあるが、肝臓、脾臓についてもMRSAの菌数が減少していた(図9)。
【0052】
ヒトや動物のMRSA感染症においてはMRSAによる敗血症が大きな問題とされている。本発明では、MRSAを静脈内接種することによってマウスに腎臓、肝臓を中心とした多臓器性化膿性壊死性病変が引き起こされた。これまで報告されているMRSAによる敗血症病変を再現することに成功し、MRSA敗血症解析モデルとして有効であることが確認された。
上記の結果より、D-9A、D-9B、D-9Cは、静脈内投与によって、MRSA感染マウスの感染死が防御され、その病原性が弱められることが明らかとなった。D-9AのほうがD-9B、D-9Cよりも感染マウスに対して強い抗菌活性を示していた。
一方、L型アミノ酸による改変ペプチドは、静脈内投与ではMRSA感染マウスの感染死、病変形成を抑制できなかった。これは、L型アミノ酸による改変ペプチドは、既存の膜破壊性抗菌ペプチドと同様に、血中に投与された場合、抗菌活性を示す前に分解されてしまうためと考えられた。本発明者らのL型アミノ酸による改変ペプチドは、MRSAを腹腔内に接種した後の腹腔内投与では、その病原性を弱めており、抗菌効果を示していたが、静脈内投与では、MRSAに対して抗菌効果を示さないことが明らかにされた。
【0053】
また、本実施例において、ペプチドD-9A、D-9B投与によってMRSAの菌数が有意に減少していることが明らかとなった(図9)。このことより、MRSA感染マウスに対するペプチドの抗菌作用は、直接菌に対して制菌・殺菌性に働いていることが示唆された。D-9AはMRSAに対して、他のペプチドと比べても最も抗微生物活性が高いことが確認された。山川らのグループによるin vitroの試験系において、本発明者らの改変ペプチドの抗菌作用は細菌の膜を直接破壊することによることが示唆されている (In preparation) 。本発明者らが開示したD型改変ペプチドが直接的な膜破壊性の抗菌作用を有することは、本発明において、既存の膜破壊性抗菌ペプチドと同様に、L型アミノ酸による改変ペプチドが、静脈内投与では抗菌効果を示さず、D型異性体のアミノ酸による改変ペプチドでは抗菌効果を示したことからも推察される。また、本発明において、菌のみを接種した例と比べ、D型アミノ酸による改変ペプチドを投与した例では、マクロファージやクッパー細胞が活性化しており、積極的に菌を貪食、処理している像が観察された(図7)。D-9A投与群で食細胞による菌貪食像はもっとも強い傾向があり、D-9A投与群では組織傷害はほとんど認められなかった。ペプチドによって、マクロファージ等の食細胞の処理限界以下まで菌数を減じることができれば、ほとんど組織傷害を引き起こすことなく、残ったMRSAもマクロファージ等によって処理されてしまうと考えられた。
【0054】
〔実施例2〕改変ペプチドのエンドトキシックに対する効果
本発明者らはこれまでに、マウスにリポ多糖体(LPS)およびD-ガラクトサミン (GalN)を接種して作出したエンドトキシンショックモデルを用いて、昆虫抗微生物タンパク質改変ペプチドのエンドトキシンショック死防御効果について検討したところ、L型改変ペプチドRLYLRIGRR-NH2 (L-9A、配列番号:5)100 mg/kg腹腔内接種群において、血清中の腫瘍壊死因子(TNF-α)産生を抑制し、生存率の改善が認められることを明らかにしていた(Koyama Y., et al.,Int Immunopharmacol., 6(2), 234-240 (2006))。
【0055】
本実施例においては、エンドトキシンショック死防御効果が認められたマウスにおけるL型ペプチドA(L-9A、配列番号:5)とTNF-αの関与を明らかにするために、TNF-αノックアウトマウス(以下「KOマウス」と標記する)に、下記の条件でLPS-GalNを接種し、生存率および肝臓、腎臓におよぼす影響を比較検討した。また、LPS-GalN誘発モデルにおけるエンドトキシンショック死防御効果を誘導するL型ペプチドA(L-9A、配列番号:5)の接種経路や、接種時期等について検索し、その至適誘導条件を検討した。
【0056】
まず、6-10 週齢のC57BL/6野生型マウス(以下「WTマウス」と標記する)およびKOマウスの腹腔内にSalmonella abortusequi LPS(5 μg/kg)およびGalN(1 g/kg)を単独、またはL型改変ペプチドA(L-9A、配列番号:5)(100 mg/kg)と同時に接種し、マウスの生存率および肝臓、腎臓における障害を病理学的、血液生化学的に調べた。
次に、BALB/cマウス(5週齢)を用いて、L-9Aをそれぞれ(25 mg/kg、50 mg/kg、100 mg/kg)の容量で静脈内に単独接種試験を行った。次に腹腔内にLPS(5 μg/kg)及びGalN(1 g/kg)を接種して作出したエンドトキシンショックモデル系にL-9Aを静脈内または腹腔内接種し、生存率及び肝・腎に及ぼす影響を検索した。また、L-9Aの接種時期の条件検討として、LPS-GalN接種の1時間前、接種後30分、接種後1時間についてもL-9A 10 mg/kgの容量で試験を行った。血清中のTNF-α、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)、アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)、血液尿素窒素(BUN)及びクレアチニン(Cre)値は、市販のキットにて測定した。マウスの肝臓、腎臓はLPS-GalN接種後16時間に採取し、ホルマリン固定後パラフィン包埋し、へマトキシリン・エオジン染色して顕微鏡にて観察した。
【0057】
上記の検討により得られた結果を以下に示す。
(1)WTマウスではLPS-GalN単独接種後24時間内に全ての個体が死亡したが、LPS-GalNと同時にL-9Aを接種すると、生存率は58%と上昇した(表2)。KOマウスにおいてはLPS-GalN単独接種群及びペプチド同時接種群の生存率は、いずれも100%であった。
(2)WTマウスにおける血清中のAST値はLPS-GalN単独接種群、ペプチド同時接種群のいずれも808-2814 IU/Lであったが、KOマウスではペプチドの接種の有無にかかわらず、156-446 IU/Lであった。同様にALT値はWTマウスが144-1538 IU/L、KOマウスが8-26 IU/Lであった。
(3)WTマウスではLPS-GalN単独接種後16時間の肝及び腎組織に壊死病変が認められたが、それらの病変はペプチドの同時接種により軽減された。一方、KOマウスではL-9Aの接種の有無にかかわらず、肝、腎組織には病変は認められなかった。
(4)LPS-GalN接種群においては接種後24時間内に全てが死亡したが、L-9Aの10 mg/kg静脈内同時接種群の生存率は78%と上昇し、L-9Aの腹腔内同時接種で有意に生存率の高かった100 mg/kgの用量の1/10量で防御効果が得られた(表3)。
(5)生存率を高めたL-9A静脈接種群のTNF-α濃度は、ペプチド非接種対照群に比して有意に低かった(図10)。ペプチド非接種対照群のAST、ALT値は16時間後に最高値に達したが、ペプチドA 10 mg/kg同時接種群では有意に低かった。BUN, Cre値はいずれも有意な差はみられなかった。
(6)時間差の実験においては、防御効果はLPS-GalNとペプチドA 10 mg/kgとの同時接種のみに認められた(図11)。
(7)LPS-GalN接種群の肝組織には顕著な壊死病変が認められたが、生存したペプチド接種群のその病変は軽微であった。また腎臓には異常所見は認められなかった(図12)。
【0058】
改変ペプチドの腹腔注射におけるエンドトキシンショック死防御効果
【表2】
【0059】
改変ペプチドAのエンドトキシンショック死防御効果
【表3】
【0060】
グラム陰性細菌由来のLPSによって誘導されるエンドトキシンショックを引き起こす宿主応答としては、TLR/CD14受容体を介する細胞内シグナル伝達による転写因子の活性化、そしてそれに続く炎症性サイトカインの産生が考えられている。したがって、LPS刺激により誘発されるNF-κB活性化およびTNF-α産生を抑制したL-9Aは、エンドトキシンショックを防御する効果を有すると考えられる。
【0061】
本実施例において、LPS-GalN誘発エンドトキシンショックモデルにTNF-αKOマウスを用いて生存率を調べたところ、L-9Aの有無にかかわらずKOマウスの全例が生存した(表2)。このことから、L-9A接種により血清中TNF-αの産生が有意に抑えられ、生存率を改善した以前の報告(Koyama Y., et al., Int Immunopharmacol., 6(2), 234-240 (2006))と一致することが確認された。これによりエンドトキシンショックモデルマウスの生存率の改善は、血清中TNF-αの産生抑制によるものであることが示された。
【0062】
また、静脈注射による投与経路と投与時間の検討をしたところ、L-9A 10 mg/kgの静脈接種群においても防御効果が認められた。従って、L-9Aの静脈内接種によるエンドトキシンショック死防御効果は、腹腔内接種の1/10容量により誘導されることが確認された(表3)。時間差の実験においては、リポ多糖体(LPS)およびD-ガラクトサミン (GalN)と改変ペプチドを同時接種した場合のみ有意な結果が得られたことから、L-9Aは血中で非常に分解速度が速いことが示唆された(表4)。また、高濃度のペプチドの静脈内単独接種マウスにおいては、接種直後に塞栓症を呈してショック死したが、25 mg/kg以下の容量では腹腔内接種と同様100%生存した。従って、以前に報告したin vitroにおけるペプチドの細胞障害性の結果と本実施例のin vivoおける成績を考慮すると、本改変ペプチドは毒性が低いことが示唆された。さらに、ペプチドの腹腔内接種同様、静脈内接種においても血清中のASTおよびALTのいずれの値も有意に上昇しなかったことから、TNF-αの産生の抑制により肝細胞への傷害が軽減されたと考えられた(図12)。これらの結果から、L型改変ペプチドA(L-9A)はエンドトキシンショック防御活性を有するが、血中では直ぐに分解されてしまうことが示唆された。
【0063】
ペプチドAの静脈注射におけるエンドトキシンショック死防御効果
【表4】
【0064】
〔実施例3〕D型改変ペプチドのエンドトキシックに対する効果
実施例2の結果より、L型改変ペプチドはエンドトキシンショック防御活性を有するが、血中では直ぐに分解されてしまうことが示唆された。そのため、L型改変ペプチドを静脈内接種する際には、リポ多糖体(LPS)およびD-ガラクトサミン (GalN)と同時に接種する必要がある。そこで、本実施例においては血中で分解されにくいD型アミノ酸からなる改変ペプチドのTNF-α抑制効果およびエンドトキシック死防御効果について検討を行った。
具体的には、実施例2と同様にリポ多糖体(LPS)およびD-ガラクトサミン (GalN)をマウスに接種し作出したエンドトキシンショックモデルマウスに対し、D型改変ペプチドA(D-9A)を静脈内接種し、マウスの死亡率およびTNF-α量を確認した。
その結果、D型改変ペプチドの注射により、マウスのLPSショックによる死亡が抑制されることが明らかになった(表5)。また、D型改変ペプチドにより、有意に血中TNF-α量が低下していることから(表6)、死亡抑制効果はTNF-αの抑制によることが示唆された。
【0065】
D型改変ペプチドによるLPSショック防御効果
【表5】
(a)実験1:LPSショック防御効果の確認実験
(b)実験2:LPSショック防御効果の再確認実験
【0066】
TNF-α抑制効果判定実験結果
【表6】
【0067】
〔実施例4〕D型改変ペプチドのトリパノソーマ原虫のin vitro増殖に対する効果の検討
本実施例では、トリパノソーマ症の原因となるトリパノソーマ原虫の増殖に対して、本発明のD型改変ペプチド(D-9A、D-9B、D-9C、D-9D)が抑制効果を示すか否かを確認した。
具体的には、Trypanosoma brucei brucei GTat3.1株の血流型をD型改変ペプチド(D-9A、D-9B、D-9C、D-9D)の存在下または不在下でLong incubation low inoculation test (LILIT)により48時間培養した後、トリパノソーマ細胞数をZ1 Coulter counterにて算定し、ペプチド不在下での培養中における細胞数の百分比で表した。
その結果、62.5または31.25mM以上の濃度のD型改変ペプチド存在下において、トリパノソーマ原虫が完全に増殖阻止されることが明らかとなった。(図13)
【0068】
〔実施例5〕L型D型改変ペプチドのマウスに対する安全性試験
これまでに、カブトムシが産生する抗微生物蛋白質由来の4つの改変ペプチド(L-9A:RLYLRIGRR-NH2、配列番号:5;L-9B:RLRLRIGRR-NH2、配列番号:6;L-9C:ALYLAIRRR-NH2、配列番号:7;L-9D RLLLRIGRR-NH2、配列番号:8)は、程度の差はあるものの、それぞれ腹腔内投与(0.5mg/0.1ml)によってメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)感染マウスの感染死を防御し、病原性を弱めることが明らかとなっていた(Saido-Sakanaka H., Peptides, 25(1), 19-27 (2004))。
【0069】
また、上記改変ペプチドの鏡像立体異性体のD型アミノ酸によるペプチドのうちD-9A、D-9B、D-9Cの3つは静脈内投与(0.1mg/0.1ml)によっても、MRSA感染マウスの感染死を防御し、その病原性を弱めることが実施例1により明らかとなった。さらに、D型改変ペプチドがエンドトキシンショック防御活性を有すること(実施例3)、トリパノソーマ原虫の増殖を抑制すること(実施例4)が、本発明により明らかとなった。
血中で分解されないD型アミノ酸によるペプチドは、静脈内投与でも長くその抗菌活性を保持する利点があるが、体内に長く蓄積し、生体へ何らかの影響を及ぼす可能性が危惧されている。これまで、各ペプチドをマウスの腹腔内に投与しても、マウスの諸臓器に対し、組織学的な異常を引き起こすことはなかった。
【0070】
本実施例においては、各改変ペプチドをそれぞれマウスに静脈内接種し、マウスの諸臓器に対する影響を血液生化学的、組織学的に評価した。具体的には、10週齢のC57BL/6マウスに各L型およびD型改変ペプチドを、0.5mg, 0.1mg, 0.05mg, 0.01mg/0.1mlの濃度で尾静脈から静脈内投与し、7日間観察後解剖し(1回投与7日後解剖群)、そのマウス生体への影響を病理組織学的に検査した。また、0.1mg, 0.05mg, 0.01mg/0.1mlの濃度で1日1回連続7日間投与後解剖し(7日間連続投与後解剖群)、同様に病理組織学的検査を実施し、各ペプチドのマウス生体への影響を評価した。D-9A、D-9B、D-9C、D-9D のD型アミノ酸の改変ペプチド0.1mg/0.1ml連続投与群において、投与7日目に血液を採取し、肝機能・腎機能値について血液生化学的検査を実施した。
【0071】
上記の検討により得られた結果を以下に示す。
0.5mg投与群はL型D型共にすべてのペプチドで全例死亡することが明らかとなった(表7、8)。死亡したマウスでは組織学的に肺や肝臓、腎臓等の毛細血管において血栓による塞栓形成が観察された。0.1mg以下では各ペプチドで、死亡マウスは認めなかった(表2、3)。組織学的に、D-9D 7日間連続投与群では、0.1mg, 0.05mg投与群で、肺の各葉辺縁部にマクロファージの顕著な浸潤と塞栓形成を伴う無気肺病変が観察された(図14d、図15d)。D-9B 7日間連続投与群でも、0.1mg投与群で、肺の各葉辺縁部にマクロファージ浸潤を伴った軽度無気肺病変が形成された(図14b、図15b)。その他のペプチド投与群では、1回投与群、7日間連続投与群ともに0.1mg以下では、マクロファージ浸潤やクッパー細胞の増生等の少数の食細胞の出現を認めるものの、組織学的な病変は観察されなかった(図14a、図14c、図15a、図15c)。L型のペプチド投与群では、連続7日間投与によっても、マクロファージ等の食細胞の反応は軽度で、わずかに認められるのみだった。0.1mg/mlの濃度の7日間連続投与群における血液生化学的所見では、すべてのD型アミノ酸による改変ペプチド投与群について異常は認められなかった(図16、17)。
【0072】
1回投与7日後解剖群における各改変ペプチドのマウス生体への影響
【表7】
【0073】
1日1回7日間連続投与後解剖群における各改変ペプチドのマウス生体への影響
【表8】
【0074】
以上の結果より、D-9A,D-9Cは抗菌活性を示した濃度ではマウスに組織病変を引き起こすことはなく、また肝・腎機能を対象とした血液生化学的検査によっても異常は認められず、マウス生体に対しての安全性が確認された。D-9Dは他のペプチドと同等量の投与において、肝・腎機能については影響を与えないものの、病理組織学的にマウス生体に対して肺毒性を示すことが確認された。D-9Bはマウス生体に対しての影響はほとんど認めないものの、D-9A,D-9Cと比べてやや肺毒性を示す傾向が示唆された。
一方で、各ペプチドは高濃度静脈内投与(0.5mg/0.1ml)で、マウスに致死的な多臓器性塞栓症を引き起こすことが明らかにされた。ペプチドは粘稠性が高く、血管内に高濃度投与した場合、血管に詰まってしまうことが原因と考えられた。本発明者らの改変ペプチドを静脈内に投与する場合、投与量に注意する必要があることが確認された。
【0075】
本実施例において、D型ペプチドの7日間連続投与群において、肺の血管内にマクロファージの浸潤が観察された。肝臓のクッパー細胞の活性化も軽度であるが観察され、これら食細胞の出現は血中に投与されたペプチドに対する処理反応であると考えられた。マクロファージの浸潤増殖頻度は改変ペプチドの投与濃度に依存していた。D型アミノ酸による改変ペプチドは血中の酵素等によっては処理できないために、マクロファージによって異物として貪食、処理されることが示唆された。L型アミノ酸による改変ペプチドを投与した群ではあまりマクロファージの浸潤は観察されなかった。L型アミノ酸による改変ペプチドは血中の酵素等によって処理されてしまうためマクロファージによる処理は必要ないためだと考えられた。単回投与7日後に解剖したマウスにおいては、マクロファージ等食細胞はわずかに認められるのみだった。これは、単に血中に存在していた改変ペプチドの量に差があっただけか、もしくは単回投与後7日間のうちにマクロファージによるペプチドの貪食、処理が完了したためである可能性が考えられた。自然界に存在せず、血中の酵素等によって分解されないD型アミノ酸による改変ペプチドは、長く体内に留まって生体の生理活性物質や腸内細菌等に影響を与える可能性が危惧されているが、本実施例において、D型アミノ酸による改変ペプチドは生体内においてマクロファージ等の食細胞によって貪食、処理される可能性が示唆された。本実施例によって、ペプチドの体内残留、蓄積、濃縮による生体への影響は、マクロファージによる貪食、処理によって回避できる可能性が示された。
【0076】
〔実施例6〕改変ペプチドの投与条件の検討
これまでの報告および、本発明の実施例1〜5により抗菌活性が認められ、且つ安全性が確認された改変ペプチドについて、どのような条件下で投与すればより効果を発揮できるか検討した。
具体的には、菌の接種ルートを変えて作製したMRSA感染マウスにそれぞれ経口投与、腹腔内投与、静脈内投与によって改変ペプチドを投与した。ペプチドの投与濃度は過去の実験にならって経口投与、腹腔内投与では0.5 mg / 0.1 ml / mouseで、静脈内投与では0.1 mg / 0.1 ml / mouseとした。MRSAの投与量も過去の実験にならって、経口投与、腹腔内投与では4 x 108 cfu / mouseで、静脈内投与では1 x 106 cfu / mouseとした。改変ペプチドは菌接種後1時間後に投与し、菌接種後7日間観察し、死亡率を比較した。また、MRSAによる感染死を有意に防御していた条件下において、菌接種1日前、菌接種1日後にペプチドを投与し、同様に菌接種後7日間観察し、死亡率を比較した。
【0077】
L型アミノ酸による改変ペプチドはすべて、菌を腹腔内に接種した後、ペプチドを腹腔内に投与した場合にのみMRSAによる感染死を防御していた(表9)。D型アミノ酸による改変ペプチドは、菌を腹腔内に接種した場合にはペプチドの腹腔内投与で、菌を静脈内に接種した場合はペプチドの静脈内投与によってMRSAによる感染死を防御していた(表9)。すべてのペプチドで、菌とペプチドの投与ルートを変えた場合、MRSAによる感染死を防御することはできなかった(表9)。
【0078】
MRSA接種ルートに対するペプチドの投与ルートによる感染死防御効果の比較
【表9】
【0079】
MRSAによる感染死を有意に防御していた条件下において、菌接種1日前、菌接種1日後にペプチドを投与し、その効果を検討した。D型アミノ酸による改変ペプチドは共に、菌接種1日後に投与した場合において、MRSAによる感染死を防御していた(表10)。L型アミノ酸による改変ペプチドはすべて、菌接種1日後に投与した場合において、生存日数は延長させたものの(有意差はなし)、MRSAによる感染死を防御することはできなかった。菌接種1日前に投与した場合は、すべてのペプチドで、MRSAによる感染死を防御することはできず、生存日数の延長も認めなかった。
【0080】
ペプチドの投与時期によるMRSAによる感染死防御効果の比較
【表10】
本実施例において、改変ペプチドは菌の接種ルートにペプチドを直接投与しないと抗菌作用を示さないことが明らかになり、ペプチドは菌と直接接触した環境下において、その抗菌作用を発揮することが確認された。今回、ペプチドの経口投与を試みたが、腹腔内投与で活性が認められた濃度では抗菌活性を示さなかった。
【0081】
本発明者らの以前の報告において、1x107cfuのMRSAを腹腔内接種7日後にL-9A、L-9Bを腹腔内に投与したときには、L-9A、L-9B は共にMRSAの感染死を防御していたがSaido-Sakanaka H., et al., Peptides, 25(1), 19-27 (2004)、本実施例において、4x108cfuのMRSAを腹腔内接種した場合では、菌接種1日後にペプチドを投与しても、L-9A、L-9BらL型アミノ酸による改変ペプチドはMRSAによる感染死を防御することができなかった。これは、本実施例においては、多量の菌を一度に接種したため、ペプチド投与までの1日の間に敗血症に陥ってしまったものと考えられた。この菌量でも、菌接種後直後にL型ペプチドを投与した場合は、ペプチドによってある程度腹腔内の菌数が抑えられ、その結果、菌血症になって全身に回る菌が宿主の生体防御能で処理できるほどに抑えられるためにその病変が軽減され、感染死を防御できるのではないかと考えられた。本実施例において、感染死は防御できなかったが、生存日数の延長は認められた。菌接種1日後の腹腔内投与によっても、いくらかは菌の減数を引き起こし、感染死を防御できないものの、ある程度はその病原性を抑えていたのではないかと考えられた。本実施例のように、ある一定の菌量を超えた場合は、ペプチドの抗菌作用によってMRSAによる感染死を防御できないことが示唆された。
【0082】
一方、D型アミノ酸による改変ペプチドD-9A、D-9Cはそれぞれ、4x108cfuの高濃度MRSAを接種した1日後に投与しても、その感染死を防御していた。これはL型ペプチドと比べて安定性が高く、長く体内に留まるためというより、菌に対する直接的な抗菌活性がより高いためであると考えられた。
菌接種1日前にペプチドを投与した場合は全例感染死を防御することはできなかった。D型アミノ酸によるペプチドは、菌接種1日前に投与した場合においても、1日以上体内に留まり、入ってきた菌に対して抗菌効果を示すのではないかと予想されたが、実際には抗菌効果を示さなかった。
これまで、MRSA感染マウスに対するペプチドの抗菌作用は、直接菌に対して制菌・殺菌性に働いていることが示唆されていたが、本発明はそれを裏付ける結果となった。
【0083】
〔実施例7〕昆虫抗微生物タンパク質改変ペプチドが骨髄腫細胞に及ぼす効果
次に、上記4種のD型改変ペプチド(D-9A(配列番号:1)、D-9B(配列番号:2)、D-9C(配列番号:3)、D-9D(配列番号:4))が種々の骨髄腫細胞に対して濃度依存的な増殖抑制効果を示すか否かを検討した。
マウス骨髄腫細胞P3-X63-Ag8.653を4x103cell/wellとなるように96穴マイクロプレートの各ウェルに播種し、CO2インキュベータ内で24時間インキュベートした後に、各ペプチドを加えた。24時間インキュベート後、CellCountingKit-8(同仁、日本)を用いて生細胞由来のホルマザンによる発色をマイクロプレートリーダー(Abs450nm)で測定した。
【0084】
その結果、カブトムシ抗微生物ペプチド・ディフェンシン由来改変ペプチドであるD-9A、D-9B、D-9C、D-9Dはマウス骨髄腫細胞P3-X63-Ag8.653に対して濃度依存的な増殖抑制効果を示した。また、9アミノ酸残基のランダム配列からなるコントロールペプチド(AKGFAANHS-NH2:配列番号:9)は増殖に影響を与えなかった(図18)。
また、4つのペプチドの中で特に強い増殖抑制効果を示したD-9Bの抗骨髄腫活性を、他のマウス骨髄腫細胞P3-U1、DO11-10を用いて前述と同様の方法で測定した。
その結果、D-9BはP3-X63-Ag8.653を含む三種の骨髄腫細胞に対して濃度依存的な増殖抑制効果を示すことが分かった。また同時に細胞内からのLDH(ラクティックデヒドロゲナーゼ)の流出を調べたところ、LDH流出の上昇に伴い細胞の生存率の低下が観察されたことから、D-9Bは骨髄腫の細胞膜を濃度依存的に破壊することで抗骨髄腫活性を示していることが示唆された(図19)。
さらにD-9Bがマウス骨髄腫細胞P3-X63-Ag8.653の形態にどのような影響を与えるかを確認するために、D-9Bで処理したP3-X63-Ag8.653の膜表面を電子顕微鏡下で観察した。その結果、未処理の細胞と比較して著しい膜破壊が確認された(図20)。
【0085】
〔実施例8〕昆虫抗微生物タンパク質改変ペプチドの正常血球に対する細胞毒性試験
10週齢のBALBcマウスより摘出した骨髄と脾臓から正常血球細胞を回収して、D-9Bの細胞毒性を測定した。8x103cell/wellとなるように96穴マイクロプレートの各ウェルに播種し、CO2インキュベータ内で24時間インキュベートした後にD-9Bを加えた。24時間インキュベート後、細胞内からのLDHの流出を指標として細胞毒性を測定した。
その結果、D-9Bの濃度とは無関係に正常血球細胞からのLDH流出の上昇は見られなかった(図21)。このことから、D-9Bはマウス骨髄由来と脾臓由来の両正常血球細胞に対して細胞毒性を示さないことが分かった。
【0086】
〔実施例9〕既存の治療薬との併用効果の検討
現在臨床で実際に使用されている抗癌剤、またそれと併用されている副腎皮質ホルモン剤とD-9Bのマウス骨髄腫細胞P3-X63-Ag8.653に対するMIC(最小育成抑制濃度)を測定した。また、D-9Bと上記の各薬剤を併用することで得られる併用効果を調べた。
P3-X63-Ag8.653を4x103cell/wellとなるように96穴マイクロプレートの各ウェルに播種し、CO2インキュベータ内で24時間インキュベートした後に、薬剤とD-9Bを別個又は一緒に加えた。24時間インキュベート後、CellCountingKit-8(同仁、日本)を用いて生細胞由来のホルマザンによる発色をマイクロプレートリーダー(Abs450nm)で測定した。併用効果を調べるにあたっては、チェッカーボード法によって得られるFIC index*を指標とした。
【0087】
*FIC index={(薬剤A併用時のMIC値/薬剤A単独時のMIC)}
+{(薬剤B併用時のMIC値/薬剤B単独時のMIC)}
FIC index ≦0.5 相乗
>0.5〜≦1 相加
>1〜≦2 不関
>2 拮抗
その結果、D-9Bを始め、臨床で使用されている各薬剤のP3-X63-Ag8.653に対するMICが測定された(表11)。さらにD-9Bは副腎皮質ホルモンであるデキサメサゾンと併用することで、P3-X63-Ag8.653の増殖抑制において相乗効果(FIC値=0.375)を示すことが明らかとなった(表12)。
【0088】
マウス骨髄腫細胞P3-X63-Ag8.653に対する各薬剤のMIC(最小育成抑制濃度)
【表11】
ドキソルビシン、メルファランは臨床で使用されている抗癌剤、デキサメサゾン、プレドニンは副腎皮質ホルモン剤である。
【0089】
マウス骨髄腫細胞P3-X63-Ag8.653に対するD-9Bと抗癌剤・副腎皮質ホルモン剤の併用効果
【表12】
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】ホルマリン固定後肝臓肉眼像を示す写真である。a:MRSA接種6日後解剖。白色結節病変が多数観察される。b:MRSA接種、D-9A投与7日後解剖。白色結節病変はほとんど認められない。c:MRSA接種、D-9B投与7日後解剖。白色結節病変はほとんど認められない。
【図2】肝臓組織像を示す写真である。a:MRSA接種6日後解剖。b:MRSA接種、D-9A投与7日後解剖。c:MRSA接種、D-9B投与7日後解剖。HE染色。MRSAのみを接種した群では、中心部の菌塊を伴う化膿性、壊死性病変が多発巣状性に認められる。菌のみを接種した例と比べて、菌接種後D-9A、D-9B投与例では共に、組織病変は軽減されている。D-9C投与例においても、同様に組織病変は軽減されていた。
【図3】腎臓組織像を示す写真である。a:MRSA接種6日後解剖。b:MRSA接種、D-9A投与7日後解剖。c:MRSA接種、D-9A投与7日後解剖。HE染色。菌のみを接種した群では、中心部の菌塊を伴う化膿巣、壊死巣、出血巣が顕著に観察される。病変は腎臓で最も強い傾向にあった。菌のみを接種した例と比べて、菌接種後D-9A、D-9B投与例では共に、組織病変は軽減されている。D-9B投与例ではD-9A投与例と比べ、やや病変は強い。D-9C投与例においても、同様に組織病変は軽減されていた。
【図4】肝臓のグラム染色組織像を示す写真である。a:MRSA接種6日後解剖。グラム陽性球菌の菌塊が壊死巣内に顕著に観察される。b:MRSA接種、D-9A投与7日後解剖。グラム陽性球菌の菌塊は低倍ではほとんど認められない。c:MRSA接種、D-9B投与7日後解剖。壊死巣は認められるが、グラム陽性球菌の菌塊は低倍ではほとんど認められない。
【図5】腎臓のグラム染色組織像を示す写真である。a: MRSA接種6日後解剖。グラム陽性球菌の菌塊が壊死巣内に顕著に観察される。b:MRSA接種、D-9A投与7日後解剖。グラム陽性球菌の菌塊は低倍ではほとんど認められない。c:MRSA接種、D-9B投与7日後解剖。壊死巣は認められるが、グラム陽性球菌の菌塊は低倍では軽度に認められるのみ。
【図6】肝臓のグラム染色組織像を示す写真である。MRSA接種、D-9A投与7日後解剖。強拡大にすると、クッパー細胞によって貪食、処理されたグラム陽性球菌が散在性に認められる。クッパー細胞は増生し活性化。肝細胞内等肝臓実質組織にはグラム陽性菌は観察されない。D-9A投与例ではこのように肝臓以外の臓器においても、マクロファージ等の食細胞が顕著に菌を貪食しており、菌による組織傷害はほとんど観察されない。
【図7】肝臓の抗S. aureus抗体を用いた免疫染色結果を示す写真である。a: MRSA接種6日後解剖。抗S. aureus抗体陽性の菌塊が壊死巣内に顕著に観察される。b:MRSA接種、D-9A投与7日後解剖。抗S. aureus抗体陽性の菌は低倍ではほとんど認められない。c:MRSA接種、D-9B投与7日後解剖。壊死巣は認められるが、抗S. aureus抗体陽性の菌は低倍ではほとんど認められない。
【図8】腎臓の抗S. aureus抗体を用いた免疫染色結果を示す写真である。a:MRSA接種6日後解剖。抗S. aureus抗体陽性の菌塊が壊死巣内に顕著に観察される。b:MRSA接種、D-9A投与7日後解剖。抗S. aureus抗体陽性の菌は低倍ではほとんど認められない。c:MRSA接種、D-9B投与7日後解剖。壊死巣は認められるが、抗S. aureus抗体陽性の菌塊は低倍では軽度に認められるのみ。
【図9】肝臓・脾臓・腎蔵からの菌分離結果を示す図である。
【図10】静脈注射における改変ペプチドがLPS-GalN接種後の血中TNF-α濃度に及ぼす影響を示す図である。
【図11】改変ペプチドがLPS-GalN接種後の血中AST値(上図)およびALT値(下図)に及ぼす影響を示す図である。
【図12】LPS-GalN接種後のマウス肝臓と改変ペプチドの効果を示す写真である。a:LPS-GalN接種群。b:ペプチドA (10 mg/kg)静脈接種群。
【図13】Trypanosoma brucei bruceiの増殖に対するD型ペプチドの作用を示す図である。
【図14】肺組織像(弱拡大視野、HE染色)を示す写真である。a:D-9A (0.1mg/0.1ml)1日1回7日間連続投与後解剖。正常マウス肺と同様で、著変認めず。b:D-9B (0.1mg/0.1ml)1日1回7日間連続投与後解剖。肺胞壁の肥厚が軽度認められる。c:D-9C (0.1mg/0.1ml)1日1回7日間連続投与後解剖。正常マウス肺と同様で、著変認めず。d:D-9D(0.1mg/0.1ml)1日1回7日間連続投与後解剖。無気肺病変が顕著に観察され、肺胞腔はほとんど認められない。
【図15】肺組織像(強拡大視野、HE染色)を示す写真である。a:D-9A (0.1mg/0.1ml)1日1回7日間連続投与後解剖。強拡大視野では、肺胞壁にマクロファージの浸潤が観察される。しかし、肺胞壁に傷害、病変は観察されない。b:D-9B (0.1mg/0.1ml)1日1回7日間連続投与後解剖。マクロファージ浸潤増殖によって、肺胞壁の肥厚が認められる。c:D-9C (0.1mg/0.1ml)1日1回7日間連続投与後解剖。強拡大視野では、肺胞壁にマクロファージの浸潤が観察される。しかし、肺胞壁に傷害、病変は観察されない。d: D-9D(0.1mg/0.1ml)1日1回7日間連続投与後解剖。マクロファージ浸潤増殖が顕著で、肺胞壁肥厚、肺胞腔はほとんど認められない。無気肺病変を呈する。
【図16】肝機能検査結果(GPT値)を示す図である。各ペプチド共に、対照と有意な差は認めず。
【図17】肝機能検査結果(G0T値)を示す図である。各ペプチド共に、対照と有意な差は認めず。
【図18】D型アミノ酸置換した改変ペプチドがマウス骨髄腫細胞P3-X63-Ag8.653の増殖に及ぼす影響を示す図である。
【図19】D-9Bが種々のマウス骨髄腫細胞(A:P3-X63-Ag8.653、B:P3-U1、C:DO11-10)に及ぼす影響を示す図である。
【図20】D-9Bがマウス骨髄腫細胞P3-X63-Ag8.653の形態に及ぼす影響を示す写真である。
【図21】D-9Bのマウス正常血球細胞に対する細胞毒性活性を示す図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
D型アミノ酸からなるペプチドであって、下記式で表されるペプチド:
X1 - Leu - X2 - Ile - X3 - Arg - Arg - NH2
(式中、X1、X2、およびX3は、任意に含まれていてもよいアミノ酸残基、またはアミノ酸配列である。)
【請求項2】
X2が、Arg、またはAlaである、請求項1に記載のペプチド。
【請求項3】
X3が、Gly、またはArgである、請求項1または2に記載のペプチド。
【請求項4】
X1が、Arg-Leu-Tyr、Arg-Leu-Arg、Ala-Leu-Tyr、またはArg-Leu-Leuである、請求項1〜3のいずれかに記載のペプチド。
【請求項5】
Arg-Leu-Tyr-Leu-Arg-Ile-Gly-Arg-Arg - NH2(配列番号:1)、
Arg-Leu-Arg-Leu-Arg-Ile-Gly-Arg-Arg - NH2(配列番号:2)、
Ala-Leu-Tyr-Leu-Ala-Ile-Arg-Arg-Arg - NH2(配列番号:3)、
またはArg-Leu-Leu-Leu-Arg-Ile-Gly-Arg-Arg - NH2(配列番号:4)のいずれかのアミノ酸配列からなる請求項1に記載のペプチド。
【請求項6】
細菌感染症を治療または予防することを特徴とする、請求項1〜5に記載のペプチド。
【請求項7】
細菌感染における敗血症を抑制することを特徴とする、請求項1〜5に記載のペプチド。
【請求項8】
細菌感染がMRSA感染である、請求項7に記載のペプチド。
【請求項9】
TNFα遺伝子の発現を抑制することを特徴とする、請求項1〜5に記載のペプチド。
【請求項10】
エンドトキシンショックを防御することを特徴とする、請求項1〜5に記載のペプチド。
【請求項11】
トリパノソーマ原虫の増殖を抑制することを特徴とする、請求項1〜5に記載のペプチド。
【請求項12】
癌疾患を治療または予防することを特徴とする、請求項1〜5に記載のペプチド。
【請求項13】
癌疾患における癌細胞の増殖を抑制することを特徴とする、請求項12に記載のペプチド。
【請求項14】
癌疾患が骨髄腫である、請求項12または13に記載のペプチド。
【請求項15】
請求項1〜5のいずれかに記載のペプチドを対象に投与する工程を含む、対象において細菌感染症を治療または予防する方法
【請求項16】
請求項1〜5のいずれかに記載のペプチドを対象に投与する工程を含む、対象において細菌感染における敗血症を抑制する方法。
【請求項17】
細菌感染がMRSA感染である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
請求項1〜5のいずれかに記載のペプチドを対象に投与する工程を含む、対象においてTNFα遺伝子の発現を抑制する方法。
【請求項19】
請求項1〜5のいずれかに記載のペプチドを対象に投与する工程を含む、対象においてエンドトキシンショックを防御する方法。
【請求項20】
請求項1〜5のいずれかに記載のペプチドを対象に投与する工程を含む、対象においてトリパノソーマ原虫の増殖を抑制する方法。
【請求項21】
請求項1〜5のいずれかに記載のペプチドを対象に投与する工程を含む、対象において癌疾患を治療または予防する方法。
【請求項22】
対象において癌細胞の増殖を抑制することを特徴とする、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
副腎皮質ホルモン剤を投与する工程をさらに含む、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
癌疾患が骨髄腫である、請求項21〜23のいずれかに記載の方法。
【請求項25】
請求項1〜5のいずれかに記載のペプチドを有効成分として含有する、細菌感染症を治療または予防するための薬剤。
【請求項26】
請求項1〜5のいずれかに記載のペプチドを有効成分として含有する、細菌感染における敗血症を抑制するための薬剤。
【請求項27】
細菌感染がMRSA感染である、請求項26に記載の薬剤。
【請求項28】
請求項1〜5のいずれかに記載のペプチドを有効成分として含有する、TNFα遺伝子の発現を抑制するための薬剤。
【請求項29】
請求項1〜5のいずれかに記載のペプチドを有効成分として含有する、エンドトキシンショックを防御するための薬剤。
【請求項30】
請求項1〜5のいずれかに記載のペプチドを有効成分として含有する、トリパノソーマ原虫の増殖を抑制するための薬剤。
【請求項31】
請求項1〜5のいずれかに記載のペプチドを有効成分として含有する、癌疾患を予防または治療するための薬剤。
【請求項32】
癌疾患における癌細胞の増殖を抑制することを特徴とする、請求項31に記載の薬剤。
【請求項33】
副腎皮質ホルモン剤をさらに投与することを特徴とする、請求項31に記載の薬剤。
【請求項34】
癌疾患が骨髄腫である、請求項31〜33のいずれかに記載の薬剤。
【請求項1】
D型アミノ酸からなるペプチドであって、下記式で表されるペプチド:
X1 - Leu - X2 - Ile - X3 - Arg - Arg - NH2
(式中、X1、X2、およびX3は、任意に含まれていてもよいアミノ酸残基、またはアミノ酸配列である。)
【請求項2】
X2が、Arg、またはAlaである、請求項1に記載のペプチド。
【請求項3】
X3が、Gly、またはArgである、請求項1または2に記載のペプチド。
【請求項4】
X1が、Arg-Leu-Tyr、Arg-Leu-Arg、Ala-Leu-Tyr、またはArg-Leu-Leuである、請求項1〜3のいずれかに記載のペプチド。
【請求項5】
Arg-Leu-Tyr-Leu-Arg-Ile-Gly-Arg-Arg - NH2(配列番号:1)、
Arg-Leu-Arg-Leu-Arg-Ile-Gly-Arg-Arg - NH2(配列番号:2)、
Ala-Leu-Tyr-Leu-Ala-Ile-Arg-Arg-Arg - NH2(配列番号:3)、
またはArg-Leu-Leu-Leu-Arg-Ile-Gly-Arg-Arg - NH2(配列番号:4)のいずれかのアミノ酸配列からなる請求項1に記載のペプチド。
【請求項6】
細菌感染症を治療または予防することを特徴とする、請求項1〜5に記載のペプチド。
【請求項7】
細菌感染における敗血症を抑制することを特徴とする、請求項1〜5に記載のペプチド。
【請求項8】
細菌感染がMRSA感染である、請求項7に記載のペプチド。
【請求項9】
TNFα遺伝子の発現を抑制することを特徴とする、請求項1〜5に記載のペプチド。
【請求項10】
エンドトキシンショックを防御することを特徴とする、請求項1〜5に記載のペプチド。
【請求項11】
トリパノソーマ原虫の増殖を抑制することを特徴とする、請求項1〜5に記載のペプチド。
【請求項12】
癌疾患を治療または予防することを特徴とする、請求項1〜5に記載のペプチド。
【請求項13】
癌疾患における癌細胞の増殖を抑制することを特徴とする、請求項12に記載のペプチド。
【請求項14】
癌疾患が骨髄腫である、請求項12または13に記載のペプチド。
【請求項15】
請求項1〜5のいずれかに記載のペプチドを対象に投与する工程を含む、対象において細菌感染症を治療または予防する方法
【請求項16】
請求項1〜5のいずれかに記載のペプチドを対象に投与する工程を含む、対象において細菌感染における敗血症を抑制する方法。
【請求項17】
細菌感染がMRSA感染である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
請求項1〜5のいずれかに記載のペプチドを対象に投与する工程を含む、対象においてTNFα遺伝子の発現を抑制する方法。
【請求項19】
請求項1〜5のいずれかに記載のペプチドを対象に投与する工程を含む、対象においてエンドトキシンショックを防御する方法。
【請求項20】
請求項1〜5のいずれかに記載のペプチドを対象に投与する工程を含む、対象においてトリパノソーマ原虫の増殖を抑制する方法。
【請求項21】
請求項1〜5のいずれかに記載のペプチドを対象に投与する工程を含む、対象において癌疾患を治療または予防する方法。
【請求項22】
対象において癌細胞の増殖を抑制することを特徴とする、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
副腎皮質ホルモン剤を投与する工程をさらに含む、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
癌疾患が骨髄腫である、請求項21〜23のいずれかに記載の方法。
【請求項25】
請求項1〜5のいずれかに記載のペプチドを有効成分として含有する、細菌感染症を治療または予防するための薬剤。
【請求項26】
請求項1〜5のいずれかに記載のペプチドを有効成分として含有する、細菌感染における敗血症を抑制するための薬剤。
【請求項27】
細菌感染がMRSA感染である、請求項26に記載の薬剤。
【請求項28】
請求項1〜5のいずれかに記載のペプチドを有効成分として含有する、TNFα遺伝子の発現を抑制するための薬剤。
【請求項29】
請求項1〜5のいずれかに記載のペプチドを有効成分として含有する、エンドトキシンショックを防御するための薬剤。
【請求項30】
請求項1〜5のいずれかに記載のペプチドを有効成分として含有する、トリパノソーマ原虫の増殖を抑制するための薬剤。
【請求項31】
請求項1〜5のいずれかに記載のペプチドを有効成分として含有する、癌疾患を予防または治療するための薬剤。
【請求項32】
癌疾患における癌細胞の増殖を抑制することを特徴とする、請求項31に記載の薬剤。
【請求項33】
副腎皮質ホルモン剤をさらに投与することを特徴とする、請求項31に記載の薬剤。
【請求項34】
癌疾患が骨髄腫である、請求項31〜33のいずれかに記載の薬剤。
【図9】
【図10】
【図11】
【図13】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図21】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図12】
【図14】
【図15】
【図20】
【図10】
【図11】
【図13】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図21】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図12】
【図14】
【図15】
【図20】
【公開番号】特開2007−284421(P2007−284421A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−50352(P2007−50352)
【出願日】平成19年2月28日(2007.2.28)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2007年1月11日、国立大学法人筑波大学主催の「筑波大学生命環境科学研究科生物資源科学専攻平成18年度修士論文発表会」において文書をもって発表
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成16年度独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究機構「新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業」、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(501167644)独立行政法人農業生物資源研究所 (200)
【出願人】(501203344)独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 (827)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年2月28日(2007.2.28)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2007年1月11日、国立大学法人筑波大学主催の「筑波大学生命環境科学研究科生物資源科学専攻平成18年度修士論文発表会」において文書をもって発表
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成16年度独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究機構「新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業」、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(501167644)独立行政法人農業生物資源研究所 (200)
【出願人】(501203344)独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 (827)
【Fターム(参考)】
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