説明

昇降圧チョッパ型電源装置

【課題】昇降圧チョッパ型電源装置のブリッジ整流器による電力損失を改善する。
【解決手段】交流電源1の各々の端子とコンデンサ2の一方の端子との間にMOSFET3とリアクトル4とダイオード5からなる直列回路と、MOSFET6とリアクトル7とダイオード8からなる直列回路とを各々接続し、リアクトル4のダイオード5側端子とコンデンサ2の他方の端子の間及びリアクトル7のダイオード8側端子とコンデンサ2の他方の端子の間にスイッチ素子9と10を各々接続し、リアクトル4のMOSFET3側端子とコンデンサ2の他方の端子の間及びリアクトル7のMOSFET6側端子とコンデンサ2の他方の端子との間にダイオード11と12を各々接続し、MOSFET3、6、スイッチ素子9、10をオンオフする発振制御回路15を付加した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、力率を改善する昇降圧チョッパ型電源装置に関し、特に交流電流を直流電流に変換する際にブリッジ整流器を用いない昇降圧チョッパ型電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
力率を改善する回路として昇圧チョッパと呼ばれる方式が広く知られている。昇圧チョッパでは、その名が示すように出力電圧が入力電圧より高くなり、例えばAC85〜264Vの交流入力電圧に対応する昇圧チョッパでは、AC264Vの波高値である370Vより高い値に出力電圧を設定する必要がある。
一方、昇圧チョッパの負荷には370Vより低い電圧を必要とすることが多いので、通常は昇圧チョッパの後段にDC−DCコンバータを接続して最終負荷に供給する電圧を作っている。
【0003】
この昇圧チョッパに付随するDC−DCコンバータを省略し、出力電圧を自由に設定できるようにした昇降圧チョッパが下記特許文献1で提案されている。この昇降圧チョッパは、図8に示すように、交流電源101の交流を四つのダイオード108〜111で整流するブリッジ整流器と、スイッチングを行う二つのMOSFET104、105と、一つのリアクトル103と、二つのダイオード106、107と、電力を蓄積するコンデンサ102と、コンデンサ102に接続された負荷回路112と、MOSFET104、105のオンオフを制御する制御回路113とを備えている。
【0004】
また、下記特許文献2では、この昇降圧チョッパの効率的な制御方法が提案されている。
この回路を昇圧チョッパとして働かせるときは、MOSFET104をオン状態に設定し、MOSFET105が所定の周期とデューティ比でオンオフを繰り返すように制御する。MOSFET105がオンのときには、リアクトル103に励磁エネルギが蓄積され、オフのときには、そのエネルギが放出される。この放出の際には、リアクトル103に生じるフライバック電圧と交流電圧との和がコンデンサ102に印加されて、コンデンサ102の充電が行われる。
【0005】
この場合、MOSFET105がオンのときは、ブリッジ整流器の108または109のダイオードとMOSFET104とリアクトル103とMOSFET105とブリッジ整流器の110または111のダイオードとを通る電流ルートでリアクトル103にエネルギを蓄える。また、MOSFET105がオフのときは、ブリッジ整流器の108または109のダイオードとMOSFET104とリアクトル103とダイオード107とコンデンサ102とブリッジ整流器の110または111のダイオードとを通る電流ルートでリアクトル103に蓄えたエネルギがコンデンサ102に放出され、コンデンサ102が、このエネルギと交流電源101の交流電流との和により充電される。
【0006】
一方、この回路を降圧チョッパとして働かせるときは、MOSFET104とMOSFET105とが同時にオンオフを繰り返すように制御する。オンのときには、リアクトル103に励磁エネルギが蓄積され、オフのときには、そのエネルギが放出されてコンデンサ102が充電される。
この場合、MOSFET104、105がオンのときは、昇圧チョッパとして働くときと同様の電流ルートでリアクトル103にエネルギを蓄え、MOSFET104、105がオフのときは、リアクトル103とダイオード107とコンデンサ102とダイオード106とを通る電流ルートでリアクトル103に蓄えたエネルギをコンデンサ102に放出し、コンデンサ102が充電される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−208389号公報
【特許文献2】特開2009−27895号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、従来の昇降圧チョッパは、電流が常に多数のダイオードを通るのでダイオードのフォワードドロップ電圧(VF)によるロスが大きい、という短所がある。
【0009】
本発明は、こうした事情を考慮して創案したものであり、ダイオードのフォワードドロップ電圧によるロスを低減した昇降圧チョッパ型電源装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、交流電源の電力を直流電力に変換してコンデンサに蓄積する昇降圧チョッパ型電源装置であって、交流電源の一方の端子とコンデンサの一方の端子との間に接続された第1のスイッチ素子と第1のリアクトルと第1のダイオードとからなる直列回路と、交流電源の他方の端子とコンデンサの一方の端子との間に接続された第2のスイッチ素子と第2のリアクトルと第2のダイオードとからなる直列回路と、第1のリアクトルの第1のダイオード側端子とコンデンサの他方の端子との間に接続された第3のスイッチ素子と、第2のリアクトルの第2のダイオード側端子とコンデンサの他方の端子との間に接続された第4のスイッチ素子と、第1のリアクトルの第1のスイッチ素子側端子とコンデンサの他方の端子との間に接続された第3のダイオードと、第2のリアクトルの第2のスイッチ素子側端子とコンデンサの他方の端子との間に接続された第4のダイオードと、第1から第4までのスイッチ素子のオンオフを制御する発振制御回路と、を備え、第1のスイッチ素子及び第2のスイッチ素子がMOSFETからなることを特徴とする。
この昇降圧チョッパ型電源装置は、ダイオードブリッジを使用せずに交流電源の電力を直流電力に変換することができ、また、従来の装置よりもダイオードの使用数を減らすことができる。
【0011】
また、本発明は、交流電源の電力を直流電力に変換してコンデンサに蓄積する昇降圧チョッパ型電源装置であって、交流電源の一方の端子とコンデンサの一方の端子との間に接続された第1のスイッチ素子と第1のリアクトルと第1のダイオードとからなる直列回路と、交流電源の他方の端子とコンデンサの一方の端子との間に接続された第2のスイッチ素子と第2のリアクトルと第2のダイオードとからなる直列回路と、第1のリアクトルの第1のダイオード側端子とコンデンサの他方の端子との間に接続された第3のスイッチ素子と、第2のリアクトルの第2のダイオード側端子とコンデンサの他方の端子との間に接続された第4のスイッチ素子と、第1のリアクトルの第1のスイッチ素子側端子とコンデンサの他方の端子との間に接続された第3のダイオードと、第2のリアクトルの第2のスイッチ素子側端子とコンデンサの他方の端子との間に接続された第4のダイオードと、第1のスイッチ素子の交流電源側端子とコンデンサの他方の端子との間に接続された第5のダイオードと、第2のスイッチ素子の交流電源側端子とコンデンサの他方の端子との間に接続された第6のダイオードと、第1から第4までのスイッチ素子のオンオフを制御する発振制御回路と、を備えることを特徴とする。
この昇降圧チョッパ型電源装置は、ダイオードブリッジを使用せずに交流電源の電力を直流電力に変換することができる。
【0012】
また、本発明の昇降圧チョッパ型電源装置では、発振制御回路が、交流電源の交流電圧の瞬時値がコンデンサの電圧より低いとき、第1及び第2のスイッチ素子をオン状態にして、第3及び第4のスイッチ素子を同時にオンオフさせ、また、交流電源の交流電圧の瞬時値がコンデンサの電圧より高いとき、第1から第4までのスイッチ素子を同時にオンオフさせる。
このようなスイッチングで昇圧や降圧を実行することができる。
【0013】
また、本発明の昇降圧チョッパ型電源装置では、発振制御回路が、第3及び第4のスイッチ素子を同時にオンオフさせるとき、または、第1から第4までのスイッチ素子を同時にオンオフさせるとき、臨界モードで、かつ、オン期間が交流の半周期の間はほぼ一定となるように制御する。
臨界モードとは、スイッチ素子がオフしてからリアクトルの励磁エネルギが放出しきった直後に再びオンする発振の方式であり、このような発振方式を採ることで、交流入力電流の平均電流が交流電源の交流電圧にほぼ比例し、力率が改善する。
【0014】
また、本発明の昇降圧チョッパ型電源装置では、発振制御回路が、第3及び第4のスイッチ素子を同時にオンオフさせるとき、または、第1から第4までのスイッチ素子を同時にオンオフさせるとき、固定周期で、かつ、オン期間のピーク電流値が、その位相における交流電源の交流電圧の瞬時値に比例するように制御しても良い。
このように制御すれば、交流入力電流の平均電流が交流電源の交流電圧に比例し、力率が向上する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の昇降圧チョッパ型電源装置は、ダイオードブリッジ整流器を使用しないので従来方式に比べて効率が高い。そのため、省電力回路におけるロスを減らすことができ、また、大電流回路における発熱を減らすことができる。
【0016】
従来方式に比べて、スイッチ素子とリアクトルを2倍多く使うが、大電力用として応用する場合は、従来方式でもスイッチ素子やリアクトルを並列接続して用いることがあるので、コストの点では大きな違いは生じない。
また、スイッチ素子の制御方法は、ダイオードブリッジ整流器を使用する従来の回路と殆ど同じであり、複雑な制御を必要としない。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る昇降圧チョッパ型電源装置の回路図
【図2】図1の回路の各状態での電流の流れを示す図
【図3】昇圧時のスイッチ素子のオンオフを臨界モードで制御したときの波形図
【図4】降圧時のスイッチ素子のオンオフを臨界モードで制御したときの波形図
【図5】昇圧時のスイッチ素子のオンオフを固定周期で制御したときの波形図
【図6】スイッチ素子のオンオフと昇圧、反転、降圧等の関係を示す図
【図7】本発明の第2の実施形態に係る昇降圧チョッパ型電源装置の回路図
【図8】従来方式の昇降圧チョッパ型電源装置の回路図
【発明を実施するための形態】
【0018】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態に係る昇降圧チョッパ型電源装置の回路図を示している。
この回路は、交流電源1と、交流電力から変換された直流電力を蓄積するコンデンサ2と、交流電源1の一方の端子とコンデンサ2の一方の端子との間の直列回路を構成する第1のスイッチ素子(MOSFET)3、第1のリアクトル4、及び第1のダイオード5と、交流電源1の他方の端子とコンデンサ2の一方の端子との間の直列回路を構成する第2のスイッチ素子(MOSFET)6、第2のリアクトル7、及び第2のダイオード8と、第1のリアクトル4の第1のダイオード5側端子とコンデンサ2の他方の端子との間に接続された第3のスイッチ素子9と、第2のリアクトル7の第2のダイオード8側端子とコンデンサ2の他方の端子との間に接続された第4のスイッチ素子10と、第1のリアクトル4の第1のスイッチ素子3側端子とコンデンサ2の他方の端子との間に接続された第3のダイオード11と、第2のリアクトル7の第2のスイッチ素子6側端子とコンデンサ2の他方の端子との間に接続された第4のダイオード12と、コンデンサ2の電圧が所定の値で安定するように第1から第4までのスイッチ素子3、6、9、10のオンオフを制御する発振制御回路15とを備えている。
【0019】
なお、16は負荷である。また、MOSFETから成る第1及び第2のスイッチ素子3、6に並列に接続するダイオード13、14は、MOSFETの内蔵ダイオードを表している。内蔵ダイオードは、MOSFETのドレイン−ソース間に逆並列に接続しており、オン状態のMOSFETに逆方向の電圧(内蔵ダイオードにとっては順方向の電圧)が印加されると、内蔵ダイオードを通じて電流が流れる。この内蔵ダイオードのVFによるロスは、通常のダイオードのロスに比べて極めて小さい。
また、ここでは、第3及び第4のスイッチ素子9、10にIGBTを用いているが、バイポーラ型トランジスタなどを用いることもできる。
【0020】
図2は、第1から第4までのスイッチ素子3、6、9、10のオンオフと、この回路を流れる電流との関係を示している。電流の流れは、スイッチ素子3、6、9、10のオンオフだけでなく、交流電源1が正の半波か負の半端か、第1、第2のリアクトル4、7が励磁エネルギを蓄積しているか放出しているか、などによっても異なる。それらを整理すると、図2に示す8つの状態に表される。
【0021】
第1及び第2のスイッチ素子3、6をオン状態にし、第3及び第4のスイッチ素子9、10を同時にオンオフさせることで昇圧の配線形態(トポロジ)が得られる。
このとき、第3及び第4のスイッチ素子9、10が同時にオンになると、交流電源1の交流電圧が正の半波であれば、図2の状態1に示すように、第1のスイッチ素子3、第1のリアクトル4、第3のスイッチ素子9、第4のダイオード12、第2のスイッチ素子6を通るルートで電流が流れ、第1のリアクトル4に励磁エネルギが蓄積される。また、交流電源1の交流電圧が負の半波であれば、図2の状態3に示すように、第2のスイッチ素子6、第2のリアクトル7、第4のスイッチ素子10、第3のダイオード11、第1のスイッチ素子3を通るルートで電流が流れ、第2のリアクトル7に励磁エネルギが蓄積される。
【0022】
また、第3及び第4のスイッチ素子9、10が同時にオフになると、交流電源1の交流電圧が正の半波であれば、図2の状態2に示すように、第1のスイッチ素子3、第1のリアクトル4、第1のダイオード5、コンデンサ2、第4のダイオード12、第2のスイッチ素子6を通るルートで電流が流れ、第1のリアクトル4に蓄積されたエネルギが放出されてコンデンサ2に伝送される。また、交流電源1の交流電圧が負の半波であれば、図2の状態4に示すように、第2のスイッチ素子6、第2のリアクトル7、第2のダイオード8、コンデンサ2、第3のダイオード11、第1のスイッチ素子3を通るルートで電流が流れ、第2のリアクトル7に蓄積されたエネルギが放出されてコンデンサ2に伝送される。
このように、昇圧の配線形態では、第3及び第4のスイッチ素子9、10がオンのときもオフのときも交流電源1の入力電流が流れ、コンデンサ2を充電する電流は、第3及び第4のスイッチ素子9、10がオフのときしか流れない。
【0023】
また、第3、第4のスイッチ素子9、10をオフ状態にし、第1、第2のスイッチ素子3、6を同時にオンオフさせることで降圧の配線形態が得られる。
このとき、第1、第2のスイッチ素子3、6が同時にオンになると、交流電源1の交流電圧が正の半波であれば、図2の状態7に示すように、コンデンサ2の電圧が交流電源1の交流電圧より小さい場合に、第1のスイッチ素子3、第1のリアクトル4、第1のダイオード5、コンデンサ2、第4のダイオード12、第2のスイッチ素子6を通るルートで電流が流れ、第1のリアクトル4に励磁エネルギが蓄積される。また、交流電源1の交流電圧が負の半波であれば、図2の状態8に示すように、コンデンサ2の電圧が交流電源1の交流電圧より小さい場合に、第2のスイッチ素子6、第2のリアクトル7、第2のダイオード8、コンデンサ2、第3のダイオード11、第1のスイッチ素子3を通るルートで電流が流れ、第2のリアクトル7に励磁エネルギが蓄積される。
【0024】
また、第1、第2のスイッチ素子3、6が同時にオフになると、交流電源1の交流電圧が正の半波であれば、図2の状態5に示すように、第1のリアクトル4、第1のダイオード5、コンデンサ2、第3のダイオード11を通るルートで電流が流れ、第1のリアクトル4に蓄積されたエネルギが放出されてコンデンサ2に伝送される。また、交流電源1の交流電圧が負の半波であれば、図2の状態6に示すように、第2のリアクトル7、第2のダイオード8、コンデンサ2、第4のダイオード12を通るルートで電流が流れ、第2のリアクトル7に蓄積されたエネルギが放出されてコンデンサ2に伝送される。
このように、この降圧の配線形態では、第1、第2のスイッチ素子3、6がオンのときだけ交流電源1の入力電流が流れ、コンデンサ2を充電する電流は、第1、第2のスイッチ素子3、6がオンのときもオフのときも流れる。
【0025】
また、第1から第4までのスイッチ素子3、6、9、10を同時にオンオフさせることで反転の配線形態が得られる。
このとき、第1から第4までのスイッチ素子3、6、9、10が同時にオンになると、交流電源1の交流電圧が正の半波であれば、図2の状態1に示す電流ルートで第1のリアクトル4に励磁エネルギが蓄積され、交流電源1の交流電圧が負の半波であれば、図2の状態3に示す電流ルートで第2のリアクトル7に励磁エネルギが蓄積される。
【0026】
また、第1から第4までのスイッチ素子3、6、9、10が同時にオフになると、交流電源1の交流電圧が正の半波であれば、図2の状態5に示す電流ルートで第1のリアクトル4に蓄積されたエネルギが放出され、また、交流電源1の交流電圧が負の半波であれば、図2の状態6に示す電流ルートで第2のリアクトル7に蓄積されたエネルギが放出され、それぞれコンデンサ2に伝送される。
このように、反転の配線形態では、第1から第4までのスイッチ素子3、6、9、10がオンのときだけ交流電源1の入力電流が流れ、コンデンサ2を充電する電流は、第1から第4までのスイッチ素子3、6、9、10がオフのときしか流れない。
【0027】
ただ、この回路では、リアクトル4、7に蓄積されたエネルギを放出する電流ルートが降圧の配線形態と同じであるため、極性の反転は生じない。極性を反転させるには、回路の簡単な改造が必要になる。
この昇降圧チョッパ型電源装置では、「反転」ではなく「降圧」の手段として第1から第4までのスイッチ素子3、6、9、10を同時にオンオフさせている。この場合、スイッチングのオンオフのデューティ比を変えることで、入力電圧を所定のレベルに降圧することができる。
【0028】
スイッチ素子3、6、9、10のオンオフと、昇圧、反転、降圧との関係、エネルギの蓄積/放出との関係、及び、交流半波の正/負との関係を表に纏めて図6に示している。ここでは、オンを○印、オフを×印で示している。また、この表には、図2の状態との関係も書き加えている。
なお、図2の状態2と状態7、また、状態4と状態8は、電流が流れるルートは同じであるが、前者は励磁エネルギの放出期間であるのに対して、後者は励磁エネルギの蓄積期間であるという違いがある。
【0029】
図2の状態1〜8の電流ルート上にあるダイオードは1つか2つであり、従来の図8に比べると1つのダイオードが少なくて済んでいる。ダイオードが少なくて済む理由は、図1の昇降圧チョッパ型電源装置では、交流の正と負に別々のスイッチング回路を用意しているためであり、それによりダイオードブリッジが不要になっている。
また、この装置では、ダイオード11、12のそれぞれに2つの役割を持たせているため、従来の図8の回路に比べて、使用するダイオードの数が少ない。
【0030】
図8の従来の回路では、ダイオード106はリアクトル103の励磁エネルギの放出のときだけ導通するのに対して、図1のダイオード11、12は、状態1、3、7、8の励磁エネルギを蓄積する際も導通し、また、状態2、4、5、6の励磁エネルギの放出の際も導通している。すなわち、上述のようにダイオード11、12に2つの役割を持たせている。
【0031】
図6に示したように、第1から第4までのスイッチ素子3、6、9、10のオンとオフの状態を見ると、交流の正と負の向きに関係ないことが分かる。すなわち、発振制御回路15は、交流の正負の向きを検出する必要がなく、従来のブリッジ整流器を用いた回路のときと同じ制御方法で良いことが分かる。
【0032】
また、昇圧の場合は、第1と第2のスイッチ素子3、6はオン状態のままで、第3と第4のスイッチ素子9、10をまとめてオンオフすれば良く、反転の場合は、第1〜第4のスイッチ素子3、6、9、10をまとめてオンオフすれば良く、降圧の場合は、第3と第4のスイッチ素子9、10はオフ状態のままで、第1と第2のスイッチ素子3、4をまとめてオンオフすれば良い。また、前述するように、第1〜第4のスイッチ素子3、6、9、10をまとめてオンオフして降圧することも可能である。
そのため、スイッチ素子3、6、9、10の数は多いが、それらの制御は複雑でない。
【0033】
発振制御回路15は、交流電源1やコンデンサ2、リアクトルなどから各種情報を取得し、それを基にスイッチ素子3、6、9、10のオンオフを切り換えて、交流電源1から入力してリアクトル4、7を流れる電流を制御する。
この制御は、種々の態様で行われるが、ここでは、発振制御回路15が、交流電源1の交流電圧、コンデンサ2の電圧及びリアクトルの電流を監視して、次の(a)(b)のようにスイッチ素子3、6、9、10の切り換えを行う場合について説明する。
(a)交流電源1の交流電圧とコンデンサ2の電圧とを比較し、交流電圧の瞬時値が常にコンデンサ2の電圧より低いときは、第1と第2のスイッチ素子3、6をオン状態にして、第3と第4のスイッチ素子9、10のオンオフを繰り返す。
(b)交流電源1の交流電圧とコンデンサ2の電圧とを比較し、交流電圧の瞬時値がある位相でコンデンサ2の電圧より高くなるときは、第1から第4までのスイッチ素子3、6、9、10を同時にオンオフする。
【0034】
発振制御回路15は、前記(a)(b)のスイッチングに際して、臨界モード(即ち、スイッチ素子がオフしてからリアクトルの励磁エネルギが放出しきった直後に再びオンする発振の方式)で電流を制御し、且つ、スイッチ素子がオンとなる期間(TON)を、交流の半周期の間、略一定に設定する。
前記(a)の場合、スイッチ素子9、10がオン(TON)になると、発振制御回路15が臨界モードで制御しているため、図3に示すように、交流電源から入力してリアクトルを流れる電流i(ω)はゼロから立上る。TON開始から一定時間が経過してTONが終了すると、電流i(ω)は減少し始め、電流i(ω)がゼロになると、TONが開始して、電流i(ω)は再び立上る。
【0035】
ここで、交流電源1の交流電圧をv(ω)、コンデンサ2の電圧をV0、リアクトル4、7の各々のインダクタンスをいずれも等しいL(H)とすると、スイッチ素子3、6がオン状態にある前記(a)の場合では、スイッチ素子9、10がオン(TON)のとき(即ち、図2の状態1、状態2のとき)、次式(数1)の関係が成立つ。
|v(ω)|=L・di(ω)/dt (数1)
また、電流i(ω)の各TON期間でのピーク値をi1(ω)とし、交流電圧の瞬時値をV1(ω)とすると、次の(数2)の関係が成立する。
1(ω)=V1(ω)×TON/L (数2)
【0036】
TONは、交流の半周期の間、ほぼ一定であるから、i1(ω)はV1(ω)に比例し、図3に示すi1(ω)の包落線は、V1(ω)と同じ正弦波になる。
また、スイッチ素子9、10がオフのとき(即ち、図2の状態2、状態4のとき)は、次式(数3)の関係が成立つ。
|v(ω)|−V0=L・di(ω)/dt (数3)
前記(a)の場合、常に(|v(ω)|−V0)<0であるから、リアクトル4、7から励磁エネルギが放出され、電流i(ω)がゼロになるまで減少する。
そして、スイッチ素子9、10は臨界モードでオンオフしているので、励磁エネルギが放出しきったときに再びTONが始まり、電流i(ω)の積分値を表す3角形が隙間なく並ぶ。従って、電流i(ω)の平均電流は、i1(ω)の半分になるので正弦波になる。そのため、力率が良い。
【0037】
また、前記(b)の場合は、スイッチ素子3、6、9、10がオン(TON)のとき、図3のTON時と同じ状態であるから、図4に示すように、電流i(ω)のピーク値i1(ω)が(数2)で表され、その包絡線が正弦波になる。
一方、スイッチ素子3、6、9、10がオフになると(即ち、図2の状態5、状態6のとき)、図4に実線で示すように、交流電源1の交流電流は流れない。このとき、リアクトル4、7に蓄積された励磁エネルギは、図4に点線で示すように、
−V0=L・di(ω)/dt (数4)
の減少率で減少する。
リアクトルの励磁エネルギが放出し切ると、再びTONとなり、交流電源から入力してリアクトルを流れる電流i(ω)がゼロから立上る。
そのため、交流電源1の交流電流は、のこぎり波の不連続波形になる。
この電流i(ω)の平均電流は、完全な正弦波にはならず歪を含んでいるが、力率は良い。
【0038】
なお、ここでは、交流電圧の瞬時値とコンデンサ2の電圧との関係に応じて前記(a)または(b)に切り換えているが、この関係を無視して、常に、第1から第4までのスイッチ素子3、6、9、10を同時にオンオフさせるようにしても良い。この場合は、オフ期間に交流電流が流れないためオン期間の電流ピーク値が大きくなる短所はあるが、交流電圧の瞬時値とコンデンサの電圧との差を識別する必要がないため、発振制御回路15がシンプルになる。
【0039】
また、発振制御回路15は、臨界モードに代えて、スイッチ素子のオンオフを固定周期で行うことも可能である。この場合、発振制御回路15は、オン期間の電流i(ω)のピーク電流値i1(ω)が、その位相における交流電源の交流電圧の瞬時値に比例するように制御する。
【0040】
このとき、前記(a)の場合は、図5に示すように、第3と第4のスイッチ素子9、10を流れる電流のピーク値i1(ω)が交流入力電圧に比例するように制御されるので、ピーク値i1(ω)の包落線が交流入力電圧に比例し、電流i(ω)の平均電流も交流電圧に比例する。そのため、力率が良い。
【0041】
また、前記(b)の場合は、オン期間における電流i(ω)のピーク値i1(ω)の包絡線は図5と同じであるが、オフ期間では交流電流が流れないため、不連続波形になり、電流i(ω)の平均値は交流電圧に比例しない。そのため、電流の平均値は歪を含んでいるが力率は良い。
【0042】
(第2の実施形態)
図7は、本発明の第2の実施形態に係る昇降圧チョッパ型電源装置の回路図を示している。
この回路は、第1の実施形態の回路(図1)と比べて、第1のスイッチ素子21及び第2のスイッチ素子22がIGBTやバイポーラ型トランジスタ(即ち、MOSFET以外のトランジスタ)で構成されている点、第1のスイッチ素子21の交流電源1側端子とコンデンサ2の他方の端子との間に接続された第5のダイオード23と、第2のスイッチ素子22の交流電源1側端子とコンデンサ2の他方の端子との間に接続された第6のダイオード24とを備えている点、で相違しているが、その他の構成は変わりがない。
【0043】
この回路では、図2の状態1〜状態8に対応する電流ルートが次のように変わる。
状態1:交流電源1、第1のスイッチ素子21、第1のリアクトル4、第3のスイッチ素子9、第6のダイオード24、
状態2:交流電源1、第1のスイッチ素子21、第1のリアクトル4、第1のダイオード5、コンデンサ2、第6のダイオード24
状態3:交流電源1、第2のスイッチ素子22、第2のリアクトル7、第4のスイッチ素子10、第5のダイオード23
状態4:交流電源1、第2のスイッチ素子22、第2のリアクトル7、第2のダイオード8、コンデンサ2、第5のダイオード23
状態5(変わらず):第1のリアクトル4、第1のダイオード5、コンデンサ2、第3のダイオード11
状態6(変わらず):第2のリアクトル7、第2のダイオード8、コンデンサ2、第4のダイオード12
状態7:交流電源1、第1のスイッチ素子21、第1のリアクトル4、第1のダイオード5、コンデンサ2、第6のダイオード24
状態8:交流電源1、第2のスイッチ素子22、第2のリアクトル7、第2のダイオード8、コンデンサ2、第5のダイオード23
【0044】
この状態1〜8の電流ルート上にあるダイオードは1つか2つであり、従来の図8に比べると1つのダイオードが少なくて済んでいる。
また、この回路は、状態1、3、7の励磁エネルギを蓄積する際、及び、状態2、4、8の励磁エネルギを放出する際に導通して、交流電源1への直接の帰還ルートを形成する第5のダイオード23及び第6のダイオード24を有しているため、第1のスイッチ素子21及び第2のスイッチ素子22を通じて交流電源1へ電流を帰還させる必要がない。そのため、第1のスイッチ素子21及び第2のスイッチ素子22に、MOSFET以外の半導体スイッチ素子でも使用できる。
この電源装置における発振制御回路15のスイッチ素子21、22、9、10に対するオンオフ制御は、第1の実施形態と変わりがない。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の昇降圧チョッパ型電源装置は、従来用いられてきたブリッジ整流器の電力損失を低減することが可能であり、高い力率と高い効率を要求される大電力の電源装置や充電装置に広く利用することができる。
【符号の説明】
【0046】
1 交流電源
2 コンデンサ
3、6 MOSFET(第1、第2のスイッチ素子)
4、7 第1、第2のリアクトル
5、8 第1、第2のダイオード
9、10 IGBT(第3、第4のスイッチ素子)
11、12 第3、第4のダイオード
13、14 内蔵ダイオード
15 発振制御回路
16 負荷
21 第1のスイッチ素子
22 第2のスイッチ素子
23 第5のダイオード
24 第6のダイオード
101 交流電源
102 コンデンサ
103 リアクトル
104、105 MOSFET
106〜111 ダイオード
112 負荷
113 発振制御回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流電源の電力を直流電力に変換してコンデンサに蓄積する昇降圧チョッパ型電源装置であって、
前記交流電源の一方の端子と前記コンデンサの一方の端子との間に接続された第1のスイッチ素子と第1のリアクトルと第1のダイオードとからなる直列回路と、
前記交流電源の他方の端子と前記コンデンサの一方の端子との間に接続された第2のスイッチ素子と第2のリアクトルと第2のダイオードとからなる直列回路と、
前記第1のリアクトルの前記第1のダイオード側端子と前記コンデンサの他方の端子との間に接続された第3のスイッチ素子と、
前記第2のリアクトルの前記第2のダイオード側端子と前記コンデンサの他方の端子との間に接続された第4のスイッチ素子と、
前記第1のリアクトルの前記第1のスイッチ素子側端子と前記コンデンサの他方の端子との間に接続された第3のダイオードと、
前記第2のリアクトルの前記第2のスイッチ素子側端子と前記コンデンサの他方の端子との間に接続された第4のダイオードと、
前記第1から第4までのスイッチ素子のオンオフを制御する発振制御回路と、
を備え、
前記第1のスイッチ素子及び第2のスイッチ素子がMOSFETからなることを特徴とする昇降圧チョッパ型電源装置。
【請求項2】
交流電源の電力を直流電力に変換してコンデンサに蓄積する昇降圧チョッパ型電源装置であって、
前記交流電源の一方の端子と前記コンデンサの一方の端子との間に接続された第1のスイッチ素子と第1のリアクトルと第1のダイオードとからなる直列回路と、
前記交流電源の他方の端子と前記コンデンサの一方の端子との間に接続された第2のスイッチ素子と第2のリアクトルと第2のダイオードとからなる直列回路と、
前記第1のリアクトルの前記第1のダイオード側端子と前記コンデンサの他方の端子との間に接続された第3のスイッチ素子と、
前記第2のリアクトルの前記第2のダイオード側端子と前記コンデンサの他方の端子との間に接続された第4のスイッチ素子と、
前記第1のリアクトルの前記第1のスイッチ素子側端子と前記コンデンサの他方の端子との間に接続された第3のダイオードと、
前記第2のリアクトルの前記第2のスイッチ素子側端子と前記コンデンサの他方の端子との間に接続された第4のダイオードと、
前記第1のスイッチ素子の前記交流電源側端子と前記コンデンサの他方の端子との間に接続された第5のダイオードと、
前記第2のスイッチ素子の前記交流電源側端子と前記コンデンサの他方の端子との間に接続された第6のダイオードと、
前記第1から第4までのスイッチ素子のオンオフを制御する発振制御回路と、
を備えることを特徴とする昇降圧チョッパ型電源装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の昇降圧チョッパ型電源装置であって、
前記発振制御回路は、
前記交流電源の交流電圧の瞬時値が前記コンデンサの電圧より低いとき、前記第1及び第2のスイッチ素子をオン状態にして、前記第3及び第4のスイッチ素子を同時にオンオフさせ、
前記交流電源の交流電圧の瞬時値が前記コンデンサの電圧より高いとき、前記第1から第4までのスイッチ素子を同時にオンオフさせることを特徴とする昇降圧チョッパ型電源装置。
【請求項4】
請求項2記載の昇降圧チョッパ型電源装置であって、前記発振制御回路が、前記第3及び第4のスイッチ素子を同時にオンオフさせるとき、または、前記第1から第4までのスイッチ素子を同時にオンオフさせるとき、臨界モードで、かつ、オン期間が交流の半周期の間はほぼ一定となるように制御することを特徴とする昇降圧チョッパ型電源装置。
【請求項5】
請求項2記載の昇降圧チョッパ型電源装置であって、前記発振制御回路が、前記第3及び第4のスイッチ素子を同時にオンオフさせるとき、または、前記第1から第4までのスイッチ素子を同時にオンオフさせるとき、固定周期で、かつ、オン期間のピーク電流値が、その位相における前記交流電源の交流電圧の瞬時値に比例するように制御することを特徴とする昇降圧チョッパ型電源装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−51793(P2013−51793A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−187891(P2011−187891)
【出願日】平成23年8月30日(2011.8.30)
【出願人】(592091057)大平電子株式会社 (19)
【出願人】(591206887)株式会社テクノバ (20)
【Fターム(参考)】