説明

昇降扉の自動閉鎖機構を有するドラフトチャンバー

【課題】 手動により開閉し得る昇降扉を備えたドラフトチャンバーにおいて、作業者が作業領域にいない時に扉が開いているのを防止する。
【解決手段】 ドラフトチャンバーの開口部分の上方に作業者の有無を検知するための赤外線センサー等の検知手段を設置し、又、この検知手段による作業者が作業領域内にいないことを検知した時に作動する自動扉閉鎖機構を設けた構成で、作業者が作業領域にいない時等に自動的に扉が閉じるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はドラフトチャンバーに関するもので、特にドラフトチャンバーにおける昇降扉の自動閉鎖機構を有するドラフトチャンバーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ドラフトチャンバーは、周知のように化学薬品等を使用しての実験の際にガスや粒子等の危険物質が発生し、これによる作業者(実験者)等への悪影響を除くために、これら危険物質を囲い込んで排気する装置である。
【0003】
このドラフトチャンバーは図6に示すようにドラフトチャンバー本体1が作業室2と収納室3とを有し、作業室2には作業台4が設けられ、作業室2内の作業台4の上で化学実験等の作業が行なわれる。
【0004】
又、作業室2の前面開口部分には、この開口部分の開閉を行なう昇降扉9が設けられている。一方、作業室2の背面には、排気路5を形成する背面仕切板が形成され、本体上部には排気口6が形成され、作業室内のガスが排気路5を通って排気口6より排出されるようにしている。これにより、前述の通りの作業の際に発生するガス等の危険物質を排出して空気の入れ換えが行なわれるようにしている。
【0005】
以上述べたドラフトチャンバーは、作業者が実験を行なう際に内部のエアーの流れを所定の状態に維持するために昇降扉9が設けられており、作業室内のエアーの流れが良好に保たれるように閉じられる。又、作業者の作業にあたっては、扉が開かれた状態にする必要がある。そのために、作業者にとって作業が行ない得る状態で、しかもできる限りドラフトチャンバー内のエアーの流れ等が望ましい状態を維持するように扉の開く程度、扉と空間の間の位置を設定して作業を行なうことが好ましい。
【0006】
しかも、作業内容により扉を比較的開く必要がある場合とあまり開かなくとも作業し得るものがあり、扉を開く必要のある程度は異なる。
【0007】
そのために、この昇降扉は開閉が容易であると共に、必要とする作業空間を保ち得て、しかもドラフトチャンバーの作業室内の状態(エアーの流れ等)を維持するために所望の位置で停止した状態を持続させる必要がある。
【0008】
そのために、ドラフトチャンバーにおける扉開閉機構は、図7又は図8に示すような原理を用いた構成である。
【0009】
例えば、図7に示すように扉10を左右2本のワイヤー11、12により、吊ることにより保持し、ワイヤー11、12の他端は滑車13、14を介して夫々鍾15、16を設け、この鍾による引き上げる力を開閉扉10に掛かる重力と等しくしてバランスさせている。そして、このような機構を用いることにより昇降扉10は適宜位置に停止し得るようになっている。又、作業者が昇降扉を押し上げあるいは押し下げた場合、極めて軽い力にて動き得る。しかも、押し上げる又は押し下げる力を止めたときはその位置で停止し、この停止状態を保つようにしてある。
【0010】
図8は同様の原理による扉開閉機構の他の例で、滑車17、18を介して、二つのワイヤー11、12は一つにまとめ、その先に共通の一つの鍾19を接続したもので、原理は図5と基本的に同じで、鍾による引き上げる力が扉の重力と釣り合うように構成されている。
【0011】
尚、図8に示すように左右二つのワイヤーを一つにまとめる場合、中央ではなく、左右いずれかに二つのワイヤーが位置するような配置でもよい。
【0012】
このようなドラフトチャンバーにおいて、化学実験等の作業を行なう場合、前記のように作業者は扉9を上げて、必要な間隔を開けた状態で作業を行なう。
又、以上のような目的を有するドラフトチャンバーは、有毒ガスが外に漏れるのを防止する等の理由から、ドラフトチャンバー外から作業室内へ流入する空気の速度を一定以上に維持することが望ましい。
【0013】
通常のドラフトチャンバーは、前面開口部の開かれた面積によりドラフトチャンバー外より作業室内へ吸い込まれる空気の吸い込み速度が異なる。例えば、開閉扉が全開の時は、約0.5m/secであり、一方開閉扉が半開の時は約1m/secである。
【0014】
このようなドラフトチャンバーのほか、外部よりの空気の吸い込みスピードを一定にするために、排気風量を可変にした一般にVAV型といわれている可変風量型のドラフトチャンバーが知られている。この種のドラフトチャンバーの場合、扉全開時と扉半開時の空気の吸い込みスピードは、共に例えば約0.5m/secであって、扉の開き量に関係なく吸い込みスピードがほぼ一定である。
【0015】
この種の可変風量型ドラフトチャンバーの場合、実験中で作業者がいない時に扉を開いた状態のままにしておくと余分な排気をすることになり、空調のランニングコストがかかる。したがって、できるかぎり扉を閉じておくことは空調のランニングコストを抑えることが可能になる。
【0016】
つまり、可変風量型ドラフトチャンバーにおいては、実験中でかつ作業を行なっていない時の扉の閉め忘れは前記ランニングコストの上昇にもなり好ましくない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、作業者が実験中、作業時は、作業者により手動にての扉の自由な開閉が可能であり、作業者が作業領域より離れた時に自動的に扉が閉じるようにしたドラフトチャンバーを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明のドラフトチャンバーは、作業室前面の開口部分に手動にて開閉可能な開閉扉を有するもので、更に開口部分の上方に作業領域における作業者の有無を検知するための検知手段と、この検知手段よりの指示にもとづき扉を閉鎖する自動扉閉鎖機構とを備え、検知手段が作業領域内に作業者が存在しない時に自動扉閉鎖機構が作動して扉を閉鎖するようにしたものである。
【0019】
即ち、本発明のドラフトチャンバーは、開閉扉の閉動作を自動的に行ない得るもので、特に自動的に扉を閉じる機構において、赤外線センサー等の検知手段を用いて作業者の在、不在の検知を行ない、作業者の存在を確認した時は自動扉閉鎖機構の作動を停止して手動にての自由な開閉が可能であり、作業者が検知されない場合には、自動扉閉鎖機構が作動して自動的に扉を閉じるようにしたものである。
【0020】
この本発明のドラフトチャンバーは、以上のような構成を有することにより、作業の必要がなく、前面開口部の扉を閉じることが望ましい状態において自動的に扉が閉じるようにして、作業室内のエアーの状態を最も望ましい状態にし、更に有毒ガスが外部に洩れ出ないようにし得る。
【0021】
即ち、本発明のドラフトチャンバーは、図7、図8に示すような扉をワイヤーにて吊って保持すると共に、ワイヤーの扉とは反対側等に錘を設けることにより扉の重量と錘とのバランスを利用して作業者が扉を自由に開閉し得ると共に扉より手を離すことにより、扉を所定位置に停止させることができ、作業に必要な間隔だけ扉が開いた状態を一定に保持したまま作業を行ない得るようにしたもので、赤外線センサー等により作業者が作業領域から離れたことを検知した際は、自動扉閉鎖機構のモータの駆動によりワイヤーを引き上げて錘を上昇させて扉が閉じるようにした。何らかの問題が駆動部に生じ、駆動ができなくなった場合も、手動による開閉動作は問題なく行なうことができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明のドラフトチャンバーは、手動にて昇降扉の開閉を行なうもので、自動扉閉鎖機構を備えることにより作業者が作業領域より離れた時等に自動的に扉が閉鎖されるようにし、作業室内の空気が不必要に外部に流れるのを防止して作業室内の空気の流れを正常に保ち、有毒ガスの流出を防ぎ、更にランニングコストの上昇を抑制するという効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
次に、本発明のドラフトチャンバーの実施の形態を、図示する実施例にもとづいて説明する。
【実施例1】
【0024】
本発明のドラフトチャンバーの実施例1は、図1、2、3に示す通りで、これら図において、図1は正面図、図2は平面図、図3は側面図である。
【0025】
これら図において、60が本発明のドラフトチャンバーで、その基本的構造は図6に示す従来のドラフトチャンバーと同じである。
【0026】
この本発明のドラフトチャンバーは、ぞの前面開口部に図7に示すような構成のワイヤーにより上下動可能に支持されている上下の扉63、64を有する。図1においては天板(作業台)61と開閉扉64の下端の間が若干開いた開口62を有する状態を示している。
【0027】
又、図3における65は扉を支持するワイヤー、66はワイヤー65の下端に取り付けられた錘で、前述のように、扉63、64の重量と錘66とのバランスにより、扉63、64を自由に開閉し得る構成になっている。
【0028】
又、図1、図2に示す72は扉を電動により上下動させるための駆動機構(自動扉閉鎖機構)であって、モータ73と、電磁クラッチ74とリール75とよりなり、リール75に自動扉閉鎖用のワイヤー76が掛けられていて、その先端には補助の錘77が取り付けられている。
【0029】
この駆動機構(自動扉閉鎖機構)72において、ワイヤー76は錘用フックを貫通しているため、モータの駆動に関係なく、扉63、64は手動にて自由に開閉し得る。つまり、作業者が扉63、64の開閉を行なうため扉を上下動した時に、それに応じて錘66も上下動し常に重量のバランスが保持された状態を保つ。この時、自動扉閉鎖機構72のリール75に巻かれたワイヤー76は、そのままの位置にて停止している。
【0030】
又、モータ73の出力軸とリール75の軸が連結されている時は、モータ73の回転によりリール75が回転し、このモータの回転によりワイヤー76が引き上げられることにより、補助の錘77が引き上げられる。この補助の錘77の上昇により錘用フック78が上昇し、錘66も上昇する。
【0031】
一方、ドラフトチャンバー60の前面上部には、赤外線検知器71が設けられ、角θ1、θ2にて定まる領域(作業領域)内における作業者の有無を検知するようにしている。
【0032】
この実施例1に示すドラフトチャンバー60は、赤外線センサー71により前記の作業領域内に作業者がいるか否かを常に検知している。ここで、領域内に作業者がいる時は、赤外線センサー71よりの指示により、自動扉閉鎖機構は作動せず、前述のように扉63、64は手動にて自由に開閉し得ると共に、開閉を行なわない時はその位置にて停止した状態を維持する。したがって、作業者による作業が自由に行ない得る。
【0033】
一方、作業者が扉を閉じるのを忘れて作業領域より離れた時は、赤外線センサー71よりの指示により、自動扉閉鎖機構72が作動し、つまり電磁クラッチ74の働きによりモータ73の回転がリール75に伝達され、リール75の回転によって、ワイヤー76が上昇し、補助錘77を引き上げる。この補助錘77の引き上げにより、補助錘77が錘用フック78を上昇させそれにより錘66が上昇する。この錘66の上昇によりワイヤーにて支持されている扉は下降して扉が閉じられる。又、図示していないが錘用フック78の位置を検知するリミットスイッチを設けることにより補助錘66の上昇による錘用フック78の上昇により扉下限前検知用リミットスイッチ(下方のリミットスイッチ)を作動させて扉の下端面が作業台面に近づいたことを検知することにより、自動扉閉鎖機構による上昇速度を減少させると共に扉下限検知用リミットスイッチ(上方のリミットスイッチ)により、自動扉閉鎖機構が停止する。つまりこの時点にて扉が完全に閉鎖されるようにしてある。これにより自動扉閉鎖機構による扉の閉鎖が安全に行なわれ、扉を安全に閉じることが可能になる。
【0034】
扉が完全に閉鎖されたら電磁クラッチ74は開放され、作業者が扉を開ける際に補助錘77の重量もあって、ワイヤー76は駆動することなく最下端まで戻る。
【0035】
扉の下に実験器具等が存在しないことを確認するため、ビームセンサーを併用することも可能である。
【実施例2】
【0036】
図4は本発明の実施例2を示す。この実施例2は、自動扉閉鎖機構を設置する位置の異なる例である。
【0037】
図4において、72が実施例1と同様の構成の自動扉閉鎖機構で、モータ73、電磁クラッチ74、リール75よりなる。又、85は滑車でシャフト86にて支持されている。
【0038】
この図4に示すように本発明の実施例2は、自動扉閉鎖機構72がドラフトチャンバーの下部に設置され、リール75に巻かれたワイヤー76は上方に配置されている滑車85を介して補助錘77を支持している。
【0039】
このように実施例2は、自動扉閉鎖機構(駆動機構)72をドラフトチャンバーの下部に設置した例であって、他の構成は実施例1と実質上同じである。
【0040】
つまり、この実施例2では、赤外線センサー71により、作業領域内に作業者がいないことを検知した時、自動扉閉鎖機構が作動して、ワイヤー76がリール75に巻かれ、滑車85を介して補助錘77が引き上げられ、錘66に取り付けたフック78を介して錘66が引き上げられる。したがって、扉が閉鎖されることになる。
【実施例3】
【0041】
次に、図5は本発明の実施例3を示す。
【0042】
この実施例3は、自動扉閉鎖機構としてシリンダー90を用いたもので、その他の構成は実施例2と同じである。
【0043】
この実施例3は、赤外線センサーよりの指令にもとづいてシリンダー90を作動させて、扉の閉鎖を行なうものである。つまり、図1に示す赤外線センサー71が、作業領域内に作業者がいないことを検知した時、シリンダー90によりワイヤー76が引かれ、補助錘77が引き上げられ、フック78を介して錘66が上昇して、扉が閉鎖される。
【0044】
以上のように実施例2、3は実施例1と実質上同一の構成であるが、夫々自動扉閉鎖機構72の設置位置やその構造の異なる例である。
【0045】
これらのように、自動扉閉鎖機構の設置位置は、実施例1のようにドラフトチャンバーの上方部分に限らず、いかなる位置の設置も可能であり、又、その構成はモータ、電磁クラッチ、リールの組み合わせ以外に他の駆動機構を用いてもよい。
【0046】
尚、実施例2、3は、自動扉閉鎖機構が実施例1と異なるものであり、したがって、ドラフトチャンバー自体の構成は、図1、2、3と実質上同じである。つまり図1、2、3において、自動扉閉鎖機構72等が異なるが他は実質上同じである。
【0047】
又、すべての実施例において、扉の開閉を錘、補助錘の支持をワイヤーを用いているが、チェーンやベルト等の他の手段を用いてもよい。
【0048】
又、赤外線センサー71の代わりに、光センサー等他の検出手段を用いることも可能である。つまり、作業領域内の作業者の有無を検知し得るものであれば、どのような検知手段でもよい。
【0049】
又、扉は上下二つの扉に限らず、例えば一つの開閉扉等でもよい。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、化学実験等を行なうドラフトチャンバーで、特にワイヤー等を用いて昇降扉を開閉する機構を有し、昇降扉と重量をバランスさせる錘を用いることにより手動にて扉の開閉を行ない得る昇降扉で扉の閉鎖忘れ等による作業室内の空気の好ましくない流れや有毒ガスの流出等が生ずることのないように扉が自動的に閉鎖するようにした。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の実施例1の正面図
【図2】本発明の実施例1の平面図
【図3】本発明の実施例1の側面図
【図4】本発明の実施例2にて用いられる自動扉閉鎖機構の構成を示す図
【図5】本発明の実施例3にて用いられる自動扉閉鎖機構の構成を示す図
【図6】従来のドラフトチャンバーを示す図
【図7】従来のドラフトチャンバーで錘によるバランスを利用した手動にて昇降扉を開閉し得る機構の原理図
【図8】従来のドラフトチャンバーで錘によるバランスを利用した手動にて昇降扉を開閉し得る機構の他の原理図
【符号の説明】
【0052】
60 ドラフトチャンバー
64 開閉扉
65 ワイヤー
66 錘
71 赤外線センサー
72 自動扉閉鎖機構
76 ワイヤー
77 補助錘

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業室前面の開口部分に手動にて開閉可能な開閉扉を有するドラフトチャンバーで、前記開口部分の上に設けられた作業領域を検知する検知手段と、前記開閉扉を自動的に閉鎖する自動扉閉鎖機構とを備え、前記検知手段が前記作業領域内に作業者がいないことを検知した時に前記自動扉閉鎖機構が作動して前記開閉扉を下降させて開口部を閉鎖するようにしたことを特徴とする自動扉閉鎖機構を有するドラフトチャンバー。
【請求項2】
前記開閉扉がワイヤーにて支持され、前記ワイヤーの他端に扉の重量にバランスする錘を設けた構成で手動可能であり、前記自動扉閉鎖機構が補助錘を上下動させるようにしたもので、前記自動扉閉鎖機構が駆動することにより補助錘が上昇し、この補助錘の上昇により前記錘を上昇させて扉を閉鎖するようにした請求項1のドラフトチャンバー。
【請求項3】
前記補助錘がワイヤー等により上下動可能に支持された構成で、前記ワイヤー等の上昇位置を検知する閉鎖前位置および閉鎖位置を検知する第1、第2の位置検知手段を設け、第1の位置検知手段による検知により閉鎖速度をコントロールすると共に第2の位置検知手段による検知により扉を閉じる作業を停止するようにした請求項2のドラフトチャンバー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−185505(P2009−185505A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−26156(P2008−26156)
【出願日】平成20年2月6日(2008.2.6)
【出願人】(000133467)株式会社ダルトン (15)
【Fターム(参考)】