説明

昇降機の停電時の手動降下装置

【課題】停電時に昇降機が停止した状態であっても、安全な場所まで降下することができる昇降機を提供する。
【解決手段】
ラックを付設すると共に垂直方向に垂設したレールに沿って、駆動モータにより回転自在のピニオンを介して、昇降体を昇降自在とした昇降機において、上記駆動モータは、電力の供給が断たれたときに昇降機構を停止させるブレーキ機能を備え、そのブレーキ機能を手動降下装置で解除することにより、上記ドラムブレーキにより制動しながら昇降体を一定速度で降下させるように構成した。このようにして、停電時に昇降体が停止した場合であっても、安全な場所まで降りることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は昇降機の停電時の手動降下装置、詳しくは昇降体を昇降可能とする昇降機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の昇降機としては、例えば特許文献1に記載のように、レールに昇降体を昇降自在に配設し、同昇降体に電動式の駆動モータを配設し、同駆動モータに制動手段としてのドラムブレーキを連動連結したものが知られている。そして、通常運転時においては、駆動モータへの電力供給を停止することにより、駆動モータを停止して、昇降体を停止するようにしていた。
【0003】
また、昇降体に所定値以上の荷重がかかり、昇降体が所定値以上の速度で降下する場合には、ドラムブレーキが作動して、昇降体を一定速度で降下させるようにしていた。
【0004】
かかる、ドラムブレーキは、駆動モータに連動連結したブレーキ軸にブレーキシューを取付ける一方、昇降体のケーシングにブレーキドラムを取付け、ブレーキ軸の回動によって生ずる遠心力の作用によりブレーキシューが拡径し、ブレーキシューの外周面がブレーキドラムの内周面に当接し、その摩擦力によってブレーキ軸の回動を一定に保持するように構成したものである。
【特許文献1】特開2000−310261号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、停電時においては、昇降用の電力の供給が断たれるため、昇降機を駆動することができず、その昇降機内の人間は昇降機内に閉じ込められる問題が発生してしまう。
【0006】
この発明は、上記問題を解決するためになされたもので、停電や駆動系統の故障で昇降機が駆動できなくなった状態が発生しても、安全な場所まで降下することができる昇降機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)そこで、本発明では、ラックを付設すると共に垂直方向に垂設したレールに沿って、駆動モータにより回転自在のピニオンを介して、昇降体を昇降自在とした昇降機において、上記駆動モータは、非通電時に上記ピニオンの回転を停止させるブレーキ機能を備え、上記駆動モータと上記ピニオンとの間には、上記ブレーキ機能を解除して上記ピニオンの回転をフリーにする手動降下装置が介設されると共に、上記ピニオンは、一定回転速度に応じてブレーキ作動するドラムブレーキに連動連結されたことを特徴とする。
【0008】
(2)また、本発明では、(1)において、上記駆動モータのブレーキ機能は、非通電時にスプリングの付勢力により上記昇降体に制動をかけ、通電時に上記昇降体への制動を解除することを特徴とする。
【0009】
(3)また、本発明では、(1)または(2)において、上記手動降下装置は、昇降体内に回動自在に枢支されたレバー体と、上記レバー体にその一端を連動連結すると共に、その他端を駆動モータ内のブレーキ機能のスプリングを付勢させるスプリング解除部材に連動連結したワイヤ部材とで構成し、非通電時に、上記レバー体の回動によりワイヤ部材を引張して、上記駆動モータのブレーキ機能を解除することにより、上記ドラムブレーキで制動しながら上記昇降体をその自重により一定の速度で降下自在とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、以上説明したような形態で実施され、以下に記載されるような効果を奏する。
【0011】
(1)本発明では、ラックを付設すると共に垂直方向に垂設したレールに沿って、駆動モータにより回転自在のピニオンを介して、昇降体を昇降自在とした昇降機において、上記駆動モータは、非通電時に上記ピニオンの回転を停止させるブレーキ機能を備え、上記駆動モータと上記ピニオンとの間には、上記ブレーキ機能を解除して上記ピニオンの回転をフリーにする手動降下装置が介設されると共に、上記ピニオンは、一定回転速度に応じてブレーキ作動するドラムブレーキに連動連結されている。
【0012】
すなわち、昇降機は、通常運転時には、駆動モータからの回転力がピニオンに伝達されて、ラックを付設したレールに沿って昇降体を自由に昇降することができる。そして、停電などの非通電時には、駆動モータのブレーキ機能が作動して昇降機が停止するのを、手動降下装置でそのブレーキ機能を解除することにより、ピニオンをフリー状態にし、昇降体をその自重で降下させる。すると、ピニオンに連動連結したドラムブレーキがピニオンの回転を受けて作動し、そのドラムブレーキの制動により、昇降体は一定速度で降下することとなる。
【0013】
このようにして、停電や駆動系統の故障で昇降体が停止した状態であっても、その手動降下装置で駆動モータのブレーキ機能を解除して、ドラムブレーキでブレーキをかけながら昇降体をその自重で降下自在とすることができ、昇降体に乗っている人は安全な場所まで降りることができる。
【0014】
(2)本発明では、上記駆動モータのブレーキ機能は、非通電時にスプリングの付勢力により上記昇降体に制動をかけ、通電時に上記昇降体への制動を解除するので、停電になると駆動モータへの電力の供給が断たれ、駆動モータ内のスプリングの付勢で電磁式のブレーキ機能が働き昇降体が停止する。また、駆動系統の故障によっても昇降体が停止する。そして、手動降下装置での手動操作によりスプリングの付勢を解除して駆動モータのブレーキ機能を解除すれば、昇降体を自重降下自在とすることができる。
【0015】
(3)本発明では、上記手動降下装置は、昇降体内に回動自在に枢支されたレバー体と、上記レバー体にその一端を連動連結すると共に、その他端を駆動モータ内のブレーキ機能のスプリングを付勢させるスプリング解除部材に連動連結したワイヤ部材とで構成し、非通電時に、上記レバー体の回動によりワイヤ部材を引張して、上記駆動モータのブレーキ機能を解除することにより、上記ドラムブレーキで制動しながら上記昇降体をその自重により降下自在とするので、停電や駆動系統が故障しても、手動で駆動モータのブレーキ機能を解除して、昇降体を一定速度で安全な場所まで降下することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明に係る昇降機は、ラックを付設すると共に垂直方向に垂設したレールに沿って、駆動モータにより駆動自在のピニオンを介して、昇降体を昇降自在としたものである。
【0017】
そして、特徴的構造として、上記駆動モータは、非通電時に上記ピニオンの回転を停止させるブレーキ機能を備え、上記駆動モータと上記ピニオンとの間には、上記ブレーキ機能を解除して上記ピニオンの回転をフリーにする手動降下装置が介設されると共に、上記ピニオンは、一定回転速度に応じてブレーキ作動するドラムブレーキに連動連結されている。
【0018】
また、特徴的構造として、上記駆動モータのブレーキ機能は、非通電時にスプリングの付勢力により上記昇降体に制動をかけ、通電時に上記昇降体への制動を解除するものである。
【0019】
さらに、特徴的構造として、上記手動降下装置は、昇降体内に回動自在に枢支されたレバー体と、上記レバー体にその一端を連動連結すると共に、その他端を駆動モータ内のブレーキ機能のスプリングを付勢させるスプリング解除部材に連動連結したワイヤ部材とで構成し、非通電時に、上記レバー体の回動によりワイヤ部材を引張して、上記駆動モータのブレーキ機能を解除することにより、上記ドラムブレーキで制動しながら上記昇降体をその自重により一定速度で降下自在としたものである。
【実施例】
【0020】
以下に、本発明の実施例について図面を参照しながら説明する。
【0021】
図1は、本発明に係る昇降機1は、例えば、風力発電機の塔内に装備されるものである。その塔内において、昇降機1は、図1〜図3に示すように、梯子(図示せず)に取付けた上下方向に伸延させたレール2と、同レール2に沿って昇降自在に配設した略矩形箱型状の昇降体3とで構成されている。
【0022】
このように、梯子にレール2を取付けているため、既存の鉄塔(図示せず)の梯子を利用して昇降機1を設置することができる。また、レール2は、梯子に取付けた断面H型のレール本体4の表面略中央部に、レール本体4に沿って伸延させたラック5を形成している。
【0023】
昇降体3は、図1および図2に示すように、矩形箱型状のケーシング6の背面側に走行部7を配設する一方、ケーシング6の正面側上部に荷台部12を配設するとともに、ケーシング6の正面側下部に駆動部14を配設している。
【0024】
ケーシング6は、矩形箱型状の枠体8を取付け、枠体8の中途部に平板状の荷台9を水平に取付け、枠体8の下端部に平板状の底板10を水平に取付けている。図中、11は底板10の四隅に取付けた脚体である。
【0025】
荷台部12は、荷台9の上部に作業者や作業用の荷物を載置できるようにしている。
【0026】
走行部7は、矩形箱型状の枠体8の背面に左右一対の補助車輪支持体13,13を上下方向に間隔を開けて2個所に取付け、各補助車輪支持体13,13に前後一対の走行車輪15,15を前後に間隔を開けて回動自在に取付けるとともに、各補助車輪支持体13,13の内側にガイド車輪16,16を回動自在に取付けている。
【0027】
そして、走行車輪15,15によってレール2のフランジ17を上下方向から挟持するとともに、ガイド車輪16,16によってレール2のフランジ17を左右方向から挟持して、昇降体3がレール2に沿って脱輪することなくスムーズに移動できるようにしている。
【0028】
駆動部14は、枠体8の背面下部にピニオン18を回動自在に取付け、ピニオン18をラック5に噛合している。
【0029】
そして、ピニオン18を回動することにより、ピニオン18がラック5に沿って走行するようにしている。
【0030】
駆動部14は、図4〜図5に示すように、底板10の右側上部に、昇降体3を昇降させるための駆動手段21を配設するとともに、底板10の左側上部に、昇降体3を一定速度で降下させるための制動手段22を配設している。また、図2に示すように、底板10の底部に給電用ボックス41を配設している。
【0031】
駆動手段21は、図4〜図5に示すように、電磁モータ24に減速ギヤボックス25を連動連結し、同減速ギヤボックス25の出力軸26に左右一対の駆動スプロケット27,27を取付け、一方、枠体8の背面下部に左右幅方向に伸延させた状態でピニオン駆動軸19を回動自在に取付け、同ピニオン駆動軸19の略中央部にピニオン18を取付けるとともに、ピニオン駆動軸19の右端部に左右一対の従動スプロケット28,28を取付け、同従動スプロケット28,28と上記駆動スプロケット27,27との間に左右一対の伝動チェン29,29を懸架している。尚、電磁モータ24には、図示しない電源と接続している。
【0032】
電磁モータ24には、電源から電磁モータ24への電力供給が停止した場合に、電磁モータ24の駆動軸(図示省略)を保持して、電磁モータ24を停止する停止機構が内蔵されている。
【0033】
すなわち、電磁モータ24(駆動モータ)は、一般のスプリングクローズ方式のもので、コイルに電圧を加えると、スプリングによって抑制されたアーマチュアが吸入されて、スプリングを押してアーマチュアとディスクプレートとの間に隙間を形成して、制動力を解除する構造を備えたものである。また、コイルへの電圧の供給が無くなると、スプリングの付勢が解除されて、アーマチュアがディスクプレートに押え付けられ、制動力が与えられるものである。
【0034】
そして、電磁モータ24を駆動すると、電磁モータ24の動力が減速ギヤボックス25, 伝動チェン29,29およびピニオン駆動軸19を介してピニオン18に伝達され、ピニオン18がラック5に沿って走行し、それによって、昇降体3がレール2に沿って昇降移動するようにしている。
【0035】
そのため、通常運転時には、電磁モータ24への電力供給を停止することにより、昇降体3を停止できるようにしている。そして、停電時になると、電磁モータ24への電力の供給が断たれ、電磁モータ24内のスプリングの付勢が解除され昇降体3を停止できるようにしている。
【0036】
上述したように、駆動手段21は、2本の伝動チェン29,29 によって電磁モータ24の動力をピニオン18に伝達するようにしているため、例え1本の伝動チェン29が破断しても、もう1本の伝動チェン29によって電磁モータ24の動力をピニオン18に確実に伝達することができるので、昇降機1の安全性を確保することができる。
【0037】
制動手段22は、底板10の左側上部に配設し、上記ピニオン駆動軸19の左端部に駆動スプロケット31を取付け、一方、底板10の左後側上部に増速ギヤボックス32を取付け、同増速ギヤボックス32の入力軸33に従動スプロケット34を取付けるとともに、増速ギヤボックス32の出力軸36にドラムブレーキ37を連動連結し、更には、駆動スプロケット31と従動スプロケット34との間に伝動チェン35を懸架している。
【0038】
ドラムブレーキ37は、図6に示すように、ケーシング6の底板10の前端縁部に連設した略円筒状のブレーキドラム38と、同ブレーキドラム38の内部に収容し、かつ、増速ギヤボックス32の出力軸36に連動連結したブレーキシュー39とから構成している。図中、40は軸受、30は軸受支持体、42は軸端カバー取付用ボルトである。
【0039】
ブレーキシュー39は、増速ギヤボックス32の出力軸36に連設したボス43の外周面に8個のシュー支持体44を放射状に突設し、各シュー支持体44の先端部に断面円弧状のシュー45を連設している。
【0040】
そして、ドラムブレーキ37は、増速ギヤボックス32の出力軸36の回動に伴って遠心力の作用によりブレーキシュー39のシュー支持体44が伸張し、それによってシュー45の外周面46が外側方に広がり、シュー45の外周面46がブレーキドラム38の内周面47に当接し、その摩擦力によって増速ギヤボックス32の出力軸36の回動を低減させ、同出力軸36に連動連結したピニオン駆動軸19の回動を低減させて、昇降体3を一定速度で昇降させるようにしている。
【0041】
また、ドラムブレーキ37とケーシング6との間には、ドラムブレーキ37のブレーキドラム38に作用するトルクを検出するためのトルク検出手段48を介設している。
【0042】
トルク検出手段48は、図6に示すように、昇降体3のケーシング6にブレーキドラム38を、ブレーキドラム38に所定値以上のトルクが作用した場合にのみ回動するように取付けており、同ブレーキドラム38には、非常停止手段23(図7および図8に示す)を連動連結している。
【0043】
すなわち、ケーシング6の底板10の前端縁部に支持体49の基端部を取付け、同支持体49の先端部にトルクリミッター50(例えば、椿本社製TL250-1 等)を取付け、同トルクリミッター50にブレーキドラム38を取付けており、しかも、トルクリミッター50とブレーキドラム38との間にブレーキドラム38と同軸上に駆動スプロケット51を取付け、同駆動スプロケット51に非常停止手段23を連動連結している。図中、52は連結体、53は連結用ボルトである。
【0044】
トルクリミッター50は、所定の締め付け力で連結体52を保持しており、その締め付け力に抗して連結体52を回動させるトルクが作用した場合には、連結体52の保持を解除して連結体52が回動できるようにする構造となっている。
【0045】
そして、トルク検出手段48は、ドラムブレーキ37による制動時に、シュー45の外周面46がブレーキドラム38の内周面47に当接し、シュー45の外周面46とブレーキドラム38の内周面47との間で生じる摩擦力の作用によってブレーキドラム38に作用するトルクをトルクリミッター50で検出し、そのトルクが所定値以上の場合には、トルクリミッター50が連結体52の保持を解除し、それに伴って、ブレーキドラム38と駆動スプロケット51が増速ギヤボックス32の出力軸36の回動に連動して回動し、それを駆動スプロケット51から非常停止手段23へと伝動するようにしている。
【0046】
さらに、ドラムブレーキ37が作動した際に、ブレーキシュー39の外周面46とブレーキドラム38の内周面47との摩擦によって熱が発生し、その摩擦熱によってブレーキシュー39の外周面46とブレーキドラム38の内周面47との間の摩擦力が低下して制動力が低減してしまう前に、ブレーキドラム38に作用するトルクが所定値以上となったことをトルク検出手段48により検出し、非常停止手段23が作動して、昇降体3が強制的に停止するようにしている。
【0047】
非常停止手段23は、図4に示すように、ケーシング6の底板10の上方に前後方向に伸延させた伝動軸54を回動自在に取付け、同伝動軸54の基端部に従動スプロケット55を取付け、同従動スプロケット55と上記駆動スプロケット51との間に伝動チェン56を懸架し、一方、伝動軸54の先端部に歯車57を取り付け、その歯車57の左右端部に、ブレーキ回転体58,58をそれぞれ配設している。また、各ブレーキ回転体58,58に、枠体8に前後方向に伸延させた状態で回動自在に取付けた左右一対のブレーキ軸59,59の基端部をそれぞれ連動連結し、各ブレーキ軸59,59の先端部にレール挟持体60,60を取付けている。
【0048】
レール挟持体60,60は、図7に示すように、平面視で外周を歯切形状とし半径を漸次拡大した形状としている。
【0049】
そして、非常停止手段23は、トルク検出手段48がブレーキドラム38に所定値以上のトルクが作用したことを検出した場合に、ブレーキドラム38の回動に連動して駆動スプロケット51が回動するとともにブレーキ軸59,59が回動し、それに伴って両レール挟持体60,60が回動し、両レール挟持体60,60の間隔が縮小し、両レール挟持体60,60の外周面74,74によってレール2のフランジ17を挟持して、昇降体3を強制的に停止させるようにしている(レールキャッチ方式)。
【0050】
このように、レール挟持体60,60が平面視で外周を歯切形状とし半径を漸次拡大した形状としているため、レール挟持体60,60の外周面74,74がレール2のフランジ17に接触すると、レール挟持体60,60の外周面74,74とレール2のフランジ17の側面との間の摩擦力によって、レール挟持体60,60がより強固にレール2のフランジ17を挟持する方向に回動することになり、昇降体3を確実に停止させることができる。
【0051】
そして、本実施形態における昇降機1は、以下に説明するようにして、停電時において、手動降下装置80により、昇降体3を所定箇所まで降下できるようにしている。以下、停電時の昇降機1の手動降下装置80について図8〜図10を参照して説明する。
【0052】
図2および図8に示すように、昇降機1の手動降下装置80は、荷台部12の右奥部に手動降下用レバー61(レバー体)を備えている。図9および図10に示すように、手動降下用レバー61は、略円筒形状を有し、その先端部が下方に伸延したレバー本体63を備えている。そのレバー本体63は、昇降部内の後壁部に取付体62を具備し、その取付体62の内側部にレバー本体63の基端部を挿入可能としている。また、レバー本体63を、連結ピン64を設けて、取付体62の中途部において上下に回動自在に枢支連結している。
【0053】
また、取付体62内のピン孔にロックピン65を挿入することにより、レバー本体63を取付体62の内側部に取り付けて固定している。すなわち、ロックピン65は、非常時以外に、このレバー本体63を操作しないように固定するものである。また、ロックピン65は、取付体62から着脱時に紛失しないように、枠体8にネジ67でネジ止めされた固定ワイヤ66に連結されている。そして、非常時には、上記ロックピン65は着脱自在に取り付けられており、ロックピン65を抜くことにより、レバー本体63を上方に回動自在に設けている。
【0054】
さらに、レバー本体63の中途部に、ワイヤ68の一端を連結すると共に、ワイヤ68の他端を電磁モータ24側の後述するブレーキ機能を開放する機構に連結している。ワイヤ68は、被覆体の中にインナーワイヤを摺動可能に挿通したタイプを使用している。
【0055】
電磁モータ24は、図4〜図5に示すように、そのブレーキ機能を手動で開放する手動開放用レバー70を有し、手動開放用レバー70を昇降口側(A方向)に傾倒することにより、電磁モータ24内の図示しないブレーキ機能のスプリングを押してアーマチュアとディスクプレートとの間に隙間を形成して、制動力を解除するようにしている。また、手動開放用レバー70をレール側に傾倒すると、電磁モータ24内のブレーキ機能のスプリングが解除されて、アーマチュアがディスクプレートに押さえつけられて、ブレーキ機能が働くようになっている。
【0056】
そのような電磁モータ24において、手動開放用レバー70と同軸に、引張体69の本体を回動自在に枢支している。引張体69は、略「く」の字形状の本体を有し、その一端には、上記手動降下用レバー61からのワイヤ68の他端が連動連結されている。手動開放用レバー70は、電磁モータ24の本体の上部に設置した固定部材73に、コイルばね72を介して連結されている。
【0057】
このようにして、手動降下装置80である手動開放用レバー70を操作することにより、ワイヤ68を介して電磁モータ24内のブレーキ機能のスプリングを操作して、電磁モータ24内のブレーキ機能を作用したり、解除したりしている。
【0058】
次に、昇降機1の停電時での手動降下方法について説明する。
まず、図9および図10に示すように、上記手動降下用レバー61に設置されたロックピン65を取り外して、レバー本体63を回動可能とする。次いで、レバー本体63の握り部を手で持ち、連結ピン64を軸にレバー本体63を上方に手で図8に示すA方向に引き上げて回動し、手動降下用レバー61の中途部に設けたワイヤ68をその一端から引張する。これにより、そのワイヤ68の他端側であって、電磁モータ24のブレーキ機能の手動開放用レバー70の軸部71と同軸に設けられた引張体69をその一端部から図8に示す軸部71を軸として時計周りに(B方向)回動することができる。
【0059】
また、引張体69は、電磁モータ24に取り付けられた手動開放用レバー70の軸部71と同軸に形成されている。これにより、引張体69を図8のB方向に回動すれば、その同軸に設けられた手動開放用レバー70も同時に図8に示すC方向に回動するようになっている。さらに、電磁モータ24内には、手動開放用レバー70の回動により、スプリングを付勢させる機構が設けられている。すなわち、手動開放用レバー70の回動によりスプリングを付勢させて、電磁モータ24内のアーマチュアとディスクプレートとの間に隙間を形成することにより、制動力を解除するようにしている。このようにして、電磁モータ24のブレーキ動作を解除することができる。
【0060】
そして、昇降機1は、制動手段によりブレーキがかかりながら一定速度で降下する。すなわち、ドラムブレーキ37が、増速ギヤボックス32の出力軸36の回動に伴って遠心力の作用によりブレーキシュー39のシュー支持体44が伸張し、それによってシュー45の外周面46が外側方に広がり、シュー45の外周面46がブレーキドラム38の内周面47に当接し、その摩擦力によって増速ギヤボックス32の出力軸36の回動を低減させ、同出力軸36に連動連結したピニオン駆動軸19の回動を低減させて、昇降体3を一定速度で、所定の安全位置まで降下させるようにしている。
【0061】
また、電磁モータ24のブレーキ機能を開放しても、減速ギヤボックス25により、ピニオン18の回転動を抑えることができ、これによっても、昇降体3の降下速度を抑えて一定速度で降下できるようにしている。
【0062】
この結果、本実施例における昇降機1は、停電や駆動系統が故障しても、所定の安全な位置まで降下することができる。安全な位置まで昇降機1を降下させた後は、手動降下用レバー61を元の位置に戻すことで、電磁モータ24にブレーキ機能を働かせて、昇降体3の降下を停止することができる。
【0063】
以上のように、本実施例における昇降機1は、停電などの非通電時や駆動系統の故障で作動した電磁モータ24のブレーキ機能を、手動降下装置80で解除することによりピニオン18をフリー状態にし、昇降体3をその自重で降下させ、ピニオン18の回転力を受けたドラムブレーキの制動により、昇降体3を一定速度で降下するようにしている。
【0064】
このようにして、停電時や駆動系統の故障で昇降体3が停止した状態であっても、昇降体3に乗っている人は安全な場所まで降りることができる。
【0065】
また、上記電磁モータ24は、非通電時にスプリングの付勢力により制動がかかり、通電時に制動が解除されるスプリングクローズ型電磁ブレーキを備えているので、停電時には、スプリングの付勢が解除することにより、昇降体3を停止することができ、また、電磁モータ24に取り付けられたブレーキ機能のスプリングを付勢することにより、電磁モータ24のブレーキ機能を解除することができる。
【0066】
特に、上記手動降下装置80は、昇降体3内に回動自在に枢支された手動降下用レバー61と、上記手動降下用レバー61にその一端を連動連結すると共に、その他端を電磁モータ24内のブレーキ機能のスプリングを付勢させる手動開放用レバー70に連動連結したワイヤ68とで構成している。そして、上記電磁モータ24内の非通電時に、上記手動降下用レバー61の回動によりワイヤ68を引張し、電磁モータ24に取り付けられた手動開放用レバー70を回動して、上記電磁モータ24のブレーキ機能を解除することにより、上記ドラムブレーキ37で制動しながら上記昇降体3をその自重により降下自在としているので、停電時になっても、手動で昇降機1の電磁モータ24のブレーキ機能を解除して、昇降体3を一定速度で安全な場所まで降下することができる。
【0067】
なお、本実施形態では、風力発電機の塔内に設置される昇降機1について説明したが、これに限られず、例えば、ダム内や所定勾配の傾斜面を昇降するモノレールなどにも適用することができる。また、人の輸送用モノレール、工事用のモノレールにも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本実施形態における昇降機の全体構成を示す背面図である。
【図2】本実施形態における昇降機の全体構成を示す側面図である。
【図3】本実施形態における昇降機の全体構成を示す平面図である。
【図4】本実施形態における昇降機の駆動手段、制動手段および非常停止手段の構成を示す平面図である。
【図5】本実施形態における昇降機のピニオン駆動軸の構成を示す平面図である。
【図6】本実施形態における昇降機のドラムブレーキの構成を示す断面図である。
【図7】本実施形態における昇降機の非常停止手段の構成を示す正面図である。
【図8】本実施形態における昇降機の手動降下装置の構成を示す側面図である。
【図9】本実施形態における昇降機の手動降下レバーの構成を示す平面図である。
【図10】本実施形態における昇降機の手動降下レバーの構成を示す側面図である。
【符号の説明】
【0069】
1 昇降機
5 ラック
18 ピニオン
24 駆動モータ
37 ドラムブレーキ
61 手動降下用レバー(レバー体)
80 手動降下装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラックを付設すると共に垂直方向に垂設したレールに沿って、駆動モータにより回転自在のピニオンを介して、昇降体を昇降自在とした昇降機において、
上記駆動モータは、非通電時に上記ピニオンの回転を停止させるブレーキ機能を備え、
上記駆動モータと上記ピニオンとの間には、上記ブレーキ機能を解除して上記ピニオンの回転をフリーにする手動降下装置が介設されると共に、
上記ピニオンは、一定回転速度に応じてブレーキ作動するドラムブレーキに連動連結されたことを特徴とする昇降機。
【請求項2】
上記駆動モータのブレーキ機能は、非通電時にスプリングの付勢力により上記昇降体に制動をかけ、通電時に上記昇降体への制動を解除することを特徴とする請求項1に記載の昇降機。
【請求項3】
上記手動降下装置は、昇降体内に回動自在に枢支されたレバー体と、
上記レバー体にその一端を連動連結すると共に、その他端を駆動モータ内のブレーキ機能のスプリングを付勢させるスプリング解除部材に連動連結したワイヤ部材とで構成し、
非通電時に、上記レバー体の回動によりワイヤ部材を引張して、上記駆動モータのブレーキ機能を解除することにより、上記ドラムブレーキで制動しながら上記昇降体をその自重により降下自在とすることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の昇降機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−292559(P2009−292559A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−146212(P2008−146212)
【出願日】平成20年6月3日(2008.6.3)
【出願人】(000140731)株式会社嘉穂製作所 (12)
【Fターム(参考)】