説明

易接着性フイルム

【課題】易接着層として形成される塗膜層側の表面が、中心面平均表面粗さで5nm以下という極めて平坦な表面であっても、接着性を損なうことなく、耐削れ性や耐ブロッキング性に優れる易接着フイルムの提供。
【解決手段】二軸配向ポリエステルフイルムと、その一方の面にある水分散性共重合ポリエステル樹脂と不活性粒子とを用いた塗膜層とからなる易接着性フイルムであって、(1)該水分散性共重合ポリエステル樹脂は樹脂還元粘度が0.5〜1.0g/dlの範囲、(2)該不活性粒子は平均粒径が10〜50nmの範囲、(3)該塗膜層の厚みが4〜25nmの範囲、そして(4)該易接着フイルムの塗膜層側の表面は、中心面平均粗さ(WRa)が0.5〜5nmの範囲にある易接着性フイルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は二軸配向ポリエステルフイルムの表面に易接着層として水分散性共重合ポリエステルからなる塗膜層が形成された易接着フイルムに関し、更に詳しくは高密度磁気記録媒体、特にデーターストレージ媒体用ベースフイルムとして適した易接着フイルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレートフイルムに代表される二軸配向ポリエステルフイルムは、その優れた物理的、化学的特性の故、広い用途に、特に磁気記録媒体のベースフイルムとして用いられている。
磁気記録媒体においては、高容量化、高密度化、が進められており、それに伴って磁気特性の優れた磁性紛を使用するとともに、磁性紛を高充填化することで進められている。これに伴い、磁性層内のバインダー樹脂の比率が少なくなって、ベースフイルムであるポリエステルフイルムと磁性層との接着性が不足するようになり、ポリエステルフイルムに対して、磁性層への接着性を向上させる要望が強まってきている。
【0003】
このようなポリエステルフイルムの接着性を向上させる手段として、従来からポリエステルフイルムの表面に易接着層を設けることが知られている。この易接着層を形成すると、接着性は向上するが、ロール状に巻いた状態で保管および輸送している間に、フイルム同士がくっついてしまうブロッキングという問題があった。この問題に対し、ブロッキングを起こし難い特定の組成の水分散性共重合ポリエステル樹脂を採用することが、例えば特許文献1などで提案されている。
【0004】
しかしながら、近年、磁気記録媒体などでは、更なる記録信号の高容量化や高密度化の要求に伴ない、磁性層が形成される易接着フイルムの表面、すなわち易接層の表面は、中心面平均表面粗さWRaで5nm以下のような平坦性が求められ、このような平坦な表面にしたとき、磁気テープの製造工程において、磁性層を塗布する際に用いられるコーターのダイ部との摩擦により、易接着層が削れて、磁性層をうまく塗布できなくなるという問題が生じてきた。
【特許文献1】特開平6−116487号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、上述の従来技術の問題を鑑み、易接着層として形成される塗膜層側の表面が、中心面平均表面粗さで5nm以下という極めて平坦な表面であっても、接着性を損なうことなく、耐削れ性や耐ブロッキング性に優れる易接着フイルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かくして本発明によれば、二軸配向ポリエステルフイルムと、その一方の面にある水分散性共重合ポリエステル樹脂と不活性粒子とを用いた塗膜層とからなる易接着性フイルムであって、
(1)該水分散性共重合ポリエステル樹脂は樹脂還元粘度が0.5〜1.0g/dlの範囲にあること、
(2)該不活性粒子は平均粒径が10〜50nmの範囲にあること、
(3)該塗膜層の厚みが4〜25nmの範囲にあること、そして
(4)該易接着フイルムの塗膜層側の表面は、中心面平均粗さ(WRa)が0.5〜5nmの範囲にあること
を同時に具備する易接着性フイルムが提供される。
【0007】
また、本発明の易接着性フイルムの好ましい態様として、塗膜層の厚みを不活性粒子の平均粒径(nm)で割った値(塗膜層の厚み/不活性粒子の平均粒径)が0.2〜2.0の範囲にあること、水分散性共重合ポリエステル樹脂は、酸成分が主として2,6−ナフタレンジカルボン酸成分で、グリコール成分が主としてシクロヘキサンジメタノールまたはエチレングリコールであること、二軸配向ポリエステルフイルムが、少なくとも2つのポリエステル層からなる二軸配向積層ポリエステルフイルムであって、塗膜層側とは異なる側の表面の中心面平均粗さ(WRa)が、5.5〜15nmの範囲にあることのいずれかを具備する易接着フイルムも提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明の易接着フィルムは、塗膜層の該バインダー樹脂の樹脂還元粘度が0.5〜1.0g/dlの範囲にあり、かつ厚みが4〜25nmの塗膜層中に平均粒径が10〜50nmの不活性粒子を含有させていることから、中心面平均粗さ(WRa)5nm以下という極めて平坦な表面であっても、接着性を損なうことなく、耐削れ性や耐ブロッキング性に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明において、塗膜層(易接着層)を形成する水分散性共重合ポリエステル樹脂は、樹脂還元粘度が0.60〜1.00g/dl、好ましくは0.65〜0.95g/dl、さらに好ましくは0.70〜0.90g/dlの範囲にあることが必要である。樹脂還元粘度が下限未満になると耐削れ性が損なわれる。一方樹脂還元粘度が上限を超えると、塗膜として塗布する際に溶媒として用いる水への分散性が乏しくなり、塗膜層を均一に形成することができず、やはり耐削れ性などが損なわれる。本発明の特徴のひとつは、この水分散性共重合ポリエステル樹脂の樹脂還元粘度が耐削れ性に大きく影響することを見出し、水への分散性を損なわない範囲で水分散性共重合ポリエステル樹脂の樹脂還元粘度を従来対比大きくしたことにある。このような樹脂還元粘度は、水分散性共重合ポリエステル樹脂の組成や重合度によって調整できる。
【0010】
本発明において、水分散性共重合ポリエステル樹脂は、酸成分が主として2,6−ナフタレンジカルボン酸成分で、グリコール成分が主としてシクロヘキサンジメタノールまたはエチレングリコールであることが、樹脂還元粘度を比較的挙げやすくかつ得られるフィルムの耐削れ性を向上させやすいことから好ましい。そのような観点から、さらに具体的には、酸成分のうち50〜85モル%が2,6−ナフタレンジカルボン酸成分、0.1〜5モル%のスルホン酸塩の基を有する芳香族ジカルボン酸成分および10〜45モル%が他の芳香族ジカルボン酸からなるものが好ましく、また、グリコール成分のうち30〜90モル%がエチレングリコールで10〜70モル%がシクロヘキサンジメタノールであるものが好ましい。
【0011】
前記共重合ポリエステル樹脂の酸成分において、2,6−ナフタレンジカルボン酸の割合が過度に少なくなったり、スルホン酸塩の基を有する芳香族ジカルボン酸の割合が過度に多くなると、フイルムの耐ブロッキング性が低下しやすく、他方2,6−ナフタレンジカルボン酸の割合が過度に多くなったり、スルホン酸塩の基を有する芳香族ジカルボン酸の割合が過度に少なくなると水への分散性が乏しくなりやすい。また、前記共重合ポリエステル樹脂のグリコール成分において、シクロヘキサンジメタノールの割合が過度に少なくなったり、エチレングリコールが過度に多くなると、フイルムの耐ブロッキング性が低下しやすく、他方シクロヘキサンジメタノールの割合が過度に多くなったり、エチレングリコールの割合が過度に少なくなると水への分散性が乏しくなりやすい。
【0012】
前記スルホン酸塩の基を有する芳香族ジカルボン酸としては、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−カリウムスルホイソフタル酸、5−リチウムスルホイソフタル酸、5−ホスホニウムスルホイソフタル酸等が好ましく挙げられるが、水分散性良化には、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−カリウムスルホイソフタル酸、5−リチウムスルホイソフタル酸等のアルカリ金属塩がより好ましく、なかでも5−ナトリウムスルホイソフタル酸が最も好ましい。
【0013】
また、前記共重合ポリエステル樹脂の酸成分は、上述した2,6−ナフタレンジカルボン酸成分およびスルホン酸塩の基を有する芳香族ジカルボン酸成分のほかに、例えばテレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ビフェニルジカルボン酸成分などを共重合してもよく、これらの中でもイソフタル酸を共重合したものが本発明の効果の点から好ましい。
【0014】
本発明において、塗膜層に含有させる不活性粒子は、平均粒径が10〜50nm、好ましくは15〜40nm、更に好ましくは15〜30nmである。この平均粒径が下限未満であると耐ブロッキング性の特性が不足し、一方上限を超えると不活性粒子が脱落しやすく、他方それを防ぐために塗膜層を厚くすると、耐ブロッキング性が不十分となる。不活性粒子の含有量は、前記共重合ポリエステル樹脂100重量部当り、5〜50重量部、好ましくは5〜35重量部、さらに好ましくは5〜25重量部であることが好ましい。この量が下限未満では、耐ブロッキング性が不足しやすく、他方上限を越えると、不活性粒子の凝集が起きやすく耐削れ性が損なわれやすい。
【0015】
前記塗膜層中の不活性粒子は、塗液中で沈降しにくい、比較的低比重のものが好ましく、また不活性粒子同士が凝集しにくいものが好ましい。例えば、耐熱性高分子(例えば、架橋シリコーン樹脂、架橋アクリル樹脂、架橋ポリスチレン、メラミン・ホルムアルデヒド樹脂、芳香族ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、架橋ポリエステル、全芳香族ポリエステル等)からなる微粒子、コア・シエル型有機微粒子(コア:架橋ポリスチレン、シェル:ポリメチルメタクリレートなど)、二酸化ケイ素(シリカ)、炭酸カルシウム等が好ましく挙げられる。これらの中でも、特に架橋アクリル樹脂(ポリメチルメタクリレート架橋体など)微粒子、コア・シェル型有機微粒子(コア:架橋ポリスチレン、シェル:ポリメチルメタクリレートなど)が好ましい。
【0016】
本発明において、塗膜層の厚さは4〜25nm、好ましくは5〜20nm、更に好ましくは6〜15nmある。この厚さが上限を超えると耐ブロッキング性の特性が不足し、一方下限を下回ると不活性粒子が脱落しやすく、他方それを防ぐために不活性粒子を小さくすると耐ブロッキング性が不十分となる。
【0017】
本発明において、塗膜層の厚み(nm)を塗膜層中の不活性粒子の平均粒径(nm)で割った値(塗膜層の厚み/不活性粒子の平均粒径)、耐ブロッキング性と耐削れ性とを高度に具備させやすいことから、0.2〜2.0、さらに0.3〜1.5、よりさらに0.4〜1.0、特に0.5〜0.8の範囲にあることが好ましい。該(塗膜層の厚み/不活性粒子の平均粒径)の値が下限未満であると不活性粒子を保持しにくくなり、フイルムの製膜工程、また磁気テープの製造工程で不活性粒子が削れ脱落し、ドロップアウトが多くなり、データエラーが増加することがある。一方(塗膜層の厚み/不活性粒子の平均粒径)の値が上限を超えると、バインダーからの粒子の突出量が少なくなり、耐ブロッキング性能が低下しやすい。
【0018】
つぎに、本発明の易接着フィルムを構成する二軸配向ポリエステルフィルムについて説明する。
本発明において二軸配向ポリエステルフイルムを形成するポリエステルとは、芳香族ジカルボン酸を主たる酸成分とし、脂肪族グリコールを主たるグリコール成分とするポリエステルである。このポリエステルは実質的に線状であり、そしてフイルム形成性、特に溶融成形によるフイルム形成性を有する。
【0019】
芳香族ジカルボン酸としては、例えばテレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、イソフタル酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸、ジフェニルケトンジカルボン酸、アンスラセンジカルボン酸等を挙げることができる。また、脂肪族グリコールとしては、例えばエチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、デカメチレングリコール等の如き炭素数2〜10のポリメチレングリコールあるいはシクロヘキサンジメタノールの如き脂環族ジオール等を挙げることができる。これらの中でも、アルキレンテレフタレートやアルキレン−2,6−ナフタレートを主たる構成成分とするものが好ましく、特にポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレートが好ましい。もちろん、ホモポリマーに限られず、本発明の効果を損なわない範囲で、他の成分が共重合されたものであってもよい。
【0020】
上記ポリエステルは、それ自体公知であり、かつそれ自体公知の方法で製造することができる。上記ポリエステルの固有粘度としては、o−クロロフェノール中の溶液として35℃で測定して求めた固有粘度で、0.4〜0.9のものが好ましく、0.5〜0.7のものがさらに好ましく、0.55〜0.65のものが特に好ましい。
【0021】
本発明において、二軸配向ポリエステルフイルム中には、滑り性と平坦性とを具備させるために、無機および耐熱性高分子粒子等の不活性粒子を含有させることが好ましい。無機粒子としては二酸化ケイ素(シリカ)、炭酸カルシウム等が好ましく挙げられる。また耐熱性高分子粒子としては、例えば架橋ポリスチレン樹脂粒子、架橋シリコーン樹脂粒子、架橋アクリル樹脂粒子、架橋スチレン−アクリル樹脂粒子、架橋ポリエステル粒子、ポリイミド粒子、メラミン樹脂粒子等が好ましく挙げられる。この中でも二酸化ケイ素(シリカ)を用いると、本発明の効果がより一層顕著となるので好ましい。この二軸配向ポリエステルフイルム中に含有させる不活性粒子の平均粒径としては、0.05〜0.2μmが好ましい。また不活性粒子の含有量としては、それぞれのポリエステル層の重量を基準として、0.002〜0.1wt%の範囲が好ましい。
【0022】
本発明における二軸配向ポリエステルフイルムは、単層フィルムに限られず、むしろそれぞれの表面の表面粗さを変えられることから、積層フイルムであることが好ましく、例えば、一方が磁性層が形成される平坦面で、他方が粗面の積層フイルムが好ましい。
【0023】
本発明の易接着フィルムは、塗膜層を設ける側の中心面平均粗さWRaが0.5〜7nm、好ましくは1〜4.5nm、さらに好ましくは2〜4nmの範囲である。この中心面表面粗さWRaが下限未満であると、フイルムをロール状に巻いたとき、フイルムのすべりが悪くなり、ブツが発生したりして巻き取り性が損なわれる。一方、WRaが上限を超えると、磁性層を塗布したとき磁性面が粗くなって十分な電磁変換特性が出なくなり、本発明が提供しようとする磁気記録密度が高密度の磁気記録媒体には提供できなくなる。
【0024】
また、易接着性フィルムの塗膜層側とは異なる側の表面は、中心面平均粗さWRaは5〜15nm、さらに6〜13nm、特に7〜12nmの範囲にあることが好ましい。この中心面表面粗さWRaが下限未満であると、製膜工程あるいは磁気テープの製造工程におけるパスロールとフイルムのすべり性が悪くなりやすく、巻姿が悪くなったり、製品歩留りが低下したりする。一方、WRaが上限を超えると、塗膜層側の表面を、突起の突き上げや、転写によって粗くしてしまうことがある。このような表面粗さは、前述のとおり、積層フィルムとし、それぞれの層に含有される不活性粒子のサイズや量などによって調整できる。
【0025】
本発明の易接着フイルムの厚みは、2〜11μm、さらに2〜10μm、特に3〜9μmの範囲にあることが好ましい。易接着フイルムの厚みが下限未満では、フイルム製膜時、フイルム切断が多発し、製品歩留りが著しく悪くなる。一方、上限を超えると、磁気テープの厚みが厚くなり、データカートリッジにした場合、カートリッジ内に巻けるテープ巻長が短くなり、高記録容量のカートリッジが得られなくなる。
【0026】
本発明の易接着フィルムは、それ自体従来から知られている公知の製造方法によって製造することができる。例えば、溶融されたポリエステルを押出機によりシート状に押出し、冷却固化させ、次いで逐次又は同時二軸延伸し、さらに緊張下又は制限収縮下で熱処理することで製造でき、その過程で前述の塗膜層を塗布して形成すればよい。
【0027】
好ましくは、ポリエステルの融点(Tm:℃)ないし(Tm+70)℃の温度でポリエステルを溶融押出して未延伸フイルムを得、該未延伸フイルムを一軸方向(縦方向又は横方向)に(Tg−10)〜(Tg+70)℃の温度(但し、Tg:ポリエステルのガラス転温度)で3.0〜7.0倍、好ましくは3.5〜6.0倍の倍率で延伸し、ここで塗膜層用の塗液を塗布し、次いで上記延伸方向と直角方向にTg〜(Tg+70)℃の温度で3.0〜7.0倍、好ましくは3.5〜6.0倍、さらに好ましくは4.0〜6.0倍の倍率で延伸しするのが好ましい。さらに必要に応じて縦方向および/又は横方向に再度延伸してもよい。このようにして全延伸倍率は、面積延伸倍率として10〜35倍が好ましく、12〜30倍がさらに好ましく、15〜30倍が特に好ましい。さらにまた、二軸配向フイルムは、(Tg+70)〜(Tm−10)℃の温度で熱固定することができ、例えば180〜250℃、さらに190〜240℃、特に200〜230℃で熱固定するのが好ましい。熱固定時間は1〜60秒が好ましい。
【0028】
なお、塗液の塗布は、一軸延伸フイルムに塗布するのが好ましいが、未延伸フイルムまたは二軸配向フイルムに塗布してもよい。塗布方法としては、例えばキスコート、リバースコート、グラビヤコート、ダイコート等を用いて塗布することができる。また、塗液の濃度としては0.5〜5.0重量%、さらに1.0〜4.0重量%、特に1.5〜3.0重量%が好ましい。また塗布量(wet)としては1〜10g/m 、さらに1.5〜8g/m、特に2〜6g/mが好ましい。
【実施例】
【0029】
以下、実施例をあげて、本発明を更に説明する。なお、実施例中の「部」は重量部を意味し、それぞれの特性は以下の方法で測定および評価した。
【0030】
(1)中心面平均粗さ(WRa)
WYKO非接触三次元粗さ計(Veeco社製:NT−2000)を用いて、測定倍率25倍、測定面積246.6μm×187.5μm(0.0462mm)の条件にて、フイルム表面の粗さ測定を行う。そして、この粗さ計に内蔵された表面解析ソフトにより、次式で示す計算処理をして、表面の中心面平均粗さ(WRa)を求める。なお、次式でZjkは、測定方向(246.6μm)とそれに直行する方向(187.5μm)を、それぞれM分割とN分割したときの各方向のj番目とk番目の位置における2次元粗さ上の高さである。また、測定は違う位置で10回行い、それらの平均値をもって中心面平均粗さ(WRa)とした。
【数1】

【0031】
(2)平均粒径
(A)二軸配向ポリエステルフイルムに添加した粒子
島津製作所製CP―50型セントリフューグル パーティクル サイズ アナライザー(Centrifugal Particle Size Analyzer)を用いて測定する。得られる遠心沈降曲線を基に算出した各粒径の粒子とその存在量との積算曲線から、50マスパーセントに相当する粒径「等価球直径」を読み取り、この値を上記平均粒径とする(Book「粒度測定技術」日刊工業新聞発行、1975年、頁242〜247参照)。
(B)塗膜層中の不活性粒子
走査型電子顕微鏡により用いたサイズに応じた倍率にて各粒子の写真を撮影し、画像解析処理装置ルーゼックス500(日本レギュレーター製)を用い、それぞれの粒子の面積円相当径を1000個測定し、それらの平均値を平均粒径とした。
【0032】
(3)塗膜層の厚み
フイルムの小片をエポキシ樹脂にて固定成形し、ミクロトームにて約600オングストロームの厚みの超薄切片(フイルムの流れ方向に平行に切断する)を作成する。この試料を透過型電子顕微鏡(日立製作所製:H−800型)にて観察し、不活性粒子の存在しない部分で、塗膜層と二軸配向ポリエステルフィルムの境界面を捜し、塗膜層の厚みを求めた。なお、測定は10回繰り返し、それらの平均値を塗膜層の厚みとした。
【0033】
(4)接着性
塗膜層側の易接着フィルムの表面(比較例1は中心面平均粗さが小さい方の表面)に、下記の磁気塗料をコーティングして100℃で加熱乾燥し磁性層を形成する。そして、形成された磁性層の表面に、スコッチテープNo.600(3M社製)巾19.4mm、長さ8cmを貼着し、この上をJIS.C2701(1975)記載の手動式荷重ロールでならし、貼着積層部5cm間を東洋ボールドウイン社製テンシロンUM−11を使用して、ヘッド速度300mm/分で、この試料をT字剥離し、この際の剥離強さを求め、これをテープ巾で除してg/cmとして求める。なおT型剥離において積層体はテープ側を下にして引取り、チャック間を5cmとする。
【0034】
[評価用磁気塗料の調製]
塗料用ラッカーシンナーにニトロセルローズRS1/2(イソプロパノール25%含有フレークス:ダイセル(株)製)を溶解して40wt%溶液を調製し、該液を43.9部、続いてポリエステル樹脂(デスモフェン#1700:バイエル社製)32.5部、二酸化クロム磁性粉末26.0部、分散剤・湿潤剤として大豆油脂肪酸(レシオンP:理研ビタミン(株)製)、カチオン系活性剤(カチオンAB:日本油脂(株)製)及びスクワレン(鮫肝油)を夫々1部、0.5部および0.8部ボールミルに投入する。メチルエチルケトン/シクロヘキサノン/トルエン=3/4/3(重量比)からなる混合溶液282部を更に追加混合し、十分微粉化して母液塗料(45wt%)を調製する。この母液50部に対し、トリメチロールプロパンとトルレインジイソシアナートとの付加反応物(コロネートL:日本ポリウレタン工業(株)製)48部と酢酸ブチル6.25部を加え、最終的に固形分が42.7wt%の評価用磁気塗料を得た。
なお、評価は剥離強度から下記の基準で行う。
○:40g/cm以上
△:30g/cm以下〜40g/cm未満
×:30g/cm未満
【0035】
(5)耐ブロッキング性
易接着フィルムを2枚用意し、ロールに巻かれるように平坦な表面と粗い表面とを重ね合わせ、これに150kg/cmの圧力を60℃×80%RHの雰囲気下65時間かける。その後、前述の(4)で述べたのと同様な方法にて剥離し、その剥離力で評価する(5cmあたりのg数)。なお、評価は剥離力から下記の基準で行う。
○:0〜5g未満
△:5g以上10g未満
×:10g以上〜破れ
【0036】
(6)耐削れ性
温度20℃、湿度60%の環境で、図1に示した装置を用いて、下記のようにして測定する。図1中、1は巻出しリール、2および8はテンションコントローラー、4および6はフリーローラー、3はテンション検出機(入口)、5は摩擦体、7はテンション検出機(出口)、9は巻取りリール、10はフィルムをそれぞれ示す。巾1/2インチに裁断したフイルムを7の摩擦体に角度θ=5°で接触させて、速さ500m/分の速さで、入口張力が100gとなるようにして300m走行させる。走行後に摩擦体5上に付着した削れ粉を評価する。このとき摩擦体として、SUS304製で表面を十分に仕上げた、断面形状が半径18mmの円柱を6分割した扇形の柱体(表面粗さRa=15nm)を用いる。
<削れ粉判定>
○:削れ粉が全く見られない
△:うっすらと削れ粉が見られる
×:削れ粉がひどく付着している
【0037】
[実施例1]
<共重合ポリエステル樹脂の製造>
2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチル60mol%、イソフタル酸ジメチル36mol%、5−ナトリウムスルホイソフタル酸4mol%、エチレングリコール40mol%及びシクロヘキサンジメタノール60mol%をエステル交換反応器に仕込み、これにテトラブトキシチタン0.05部を添加して窒素雰囲気下で温度を230℃にコントロールして加熱し、生成するメタノールを留去させてエステル交換反応を行った。
【0038】
次いで、この反応系に、イルガノックス1010(チバガイギー社製)を0.6部添加した後、温度を徐々に255℃まで上昇させ、系内を1mmHgの減圧にして重縮合反応を行い、固有粘度0.64の共重合ポリエステル樹脂を得た。この共重合ポリエステル樹
脂の組成を表1に示す。
【0039】
<ポリエステル水分散体の調製>
この共重合ポリエステル樹脂20部をテトラヒドロフラン80部に溶解し、得られた溶液に10000回転/分の高速攪拌下で水180部を滴下して青みがかった乳白色の分散体を得た。次いでこの分散体を20mmHgの減圧下で蒸留し、テトラヒドロフランを留去した。各して固形分濃度10wt%のポリエステル水分散体を得た。ポリエステル水分散体100部に対し、平均粒径25nmの架橋アクリル樹脂粒子10部および界面活性剤としてHLB12.8のポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル14部からなる組成の水系塗液(固形分濃度:1.8wt%)を作成した。
【0040】
<易接着性ポリエステルフイルムの製造>
ジメチル−2,6ナフタレートとエチレングリコールとをエステル交換触媒として酢酸マンガンを、重合触媒として三酸化アンチモンを、安定剤として亜燐酸を、更に滑剤として塗布面側層用は平均粒径0.1μmの球状シリカ粒子を0.20wt%添加し、また、塗布反対面側層用は平均粒径0.3μmの球状シリカ粒子を0.02wt%、平均粒径0.1μmの球状シリカ粒子を0.20wt%添加して常法によりそれぞれ重合し、固有粘度(オルソクロロフェノール、35℃)0.61の塗布面側層用および塗布反対面側層用ポリエチレン−2,6−ナフタレート(PEN)を得た。
【0041】
これらポリエチレン−2,6−ナフタレートのペレットを170℃で6時間乾燥後、2台の押出機ホッパーに供給し、溶融温度280〜300℃で溶融し、マルチマニホールド型共押出ダイを用いて2層を積層させ、表面仕上げ0.3S程度、表面温度60℃の回転冷却ドラム上に押出し、厚み150μmの未延伸フイルムを得た。
【0042】
このようにして得られた未延伸フイルムを120℃に予熱し、更に低速、高速のロール間で15mm上方より900℃の表面温度のIRヒーターにて加熱して5.1倍に延伸し、冷却した後、前記で調整した塗布液を一軸延伸フイルムの塗膜層側に最終的な厚みが10nmになる様に塗布した。続いてステンターに供給し、145℃にて横方向に4.9倍に延伸した。得られた二軸延伸フイルムを210℃の熱風で4秒間熱固定し、厚み6.0μmの二軸配向ポリエステルフイルムを得た。
得られた易接着フイルムの特性を表1に示す。
【0043】
[比較例1]
実施例1において、易接着層を形成するための塗布を行わなかった以外は同様な操作を繰り返した。得られた易接着フィルムの特性を表1に示す。
【0044】
[比較例2]
実施例1において、易接着層を形成するための塗液中に不活性粒子を含有させなかった以外は同様な操作を繰り返した。得られた易接着フィルムの特性を表1に示す。
【0045】
[実施例2、比較例3〜4]
易接着層の組成または塗布厚を表1の如く変更した以外は同様な操作を繰り返した。得られた易接着フィルムの特性を表1に示す。
【0046】
[実施例3]
ジメチル−2,6ナフタレートの代りにジメチルテレフタレートを使用した以外は実施例1と同様の方法でポリエチレンテレフタレート(PET)を得た。
これらポリエチレンテレフレタートのペレットを170℃で3時間乾燥後、回転冷却ドラムの表面温度を20℃とした以外は、実施例1と同様な操作を繰り返して未延伸フイルムを得た。
【0047】
このようにして得られた未延伸フイルムを78℃にて予熱し、更に低速、高速のロール間で15mm上方より850℃の表面温度のIRヒーターにて加熱して4.2倍に延伸し、冷却し、実施例1と同様に易接着層を塗布した。続いてステンターに供給し、110℃にて横方向に3.3倍に延伸した。得られた二軸延伸フイルムを220℃の熱風で4秒間熱固定し、厚み6.0μmの二軸配向ポリエステルフイルムを得た。
【0048】
[実施例4および5]
易接着層の組成または塗布厚を表1の如く変更した以外は同様な操作を繰り返した。得られた易接着フィルムの特性を表1に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
ここで、表1の、PENはポリエチレン−2,6−ナフタレート、PETはポリエチレンテレフタレート、IAはイソフタル酸成分、QAは2,6−ナフタレンジカルボン酸成分、S−IAは5−ナトリウムスルホイソフタル酸成分、EGはエチレングリコール成分、CHDMはシクロヘキサンジメタノール成分、BPA−PはビスフェノールAのプロピレンオキサイド成分、シリカはシリカ粒子、アクリルはポリメチルメタクリレート架橋体粒子、コアシェルはコアシェル型粒子(コアは架橋ポリスチレン,シェル:ポリメタクリレート)を示す。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の易接着性ポリエステルフイルムは優れた接着性、耐削れ性、耐ブロッキング性、を有していることから、高容量、高密度の磁気記録媒体のベースフイルムとして、特にデジタルデーター記録媒体用ベースフイルムとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】耐削れ性測定方法の概略図である。
【符号の説明】
【0053】
1 巻出しリール
2 テンションコントローラー
3 テンション検出機(入口)
4 フリーローラー
5 摩擦体
6 フリーローラー
7 テンション検出機(出口)
8 テンションコントローラー
9 巻取りリール
10 フィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二軸配向ポリエステルフイルムと、その一方の面にある水分散性共重合ポリエステル樹脂と不活性粒子とを用いた塗膜層とからなる易接着性フイルムであって、
(1)該水分散性共重合ポリエステル樹脂は樹脂還元粘度が0.5〜1.0g/dlの範囲にあること、
(2)該不活性粒子は平均粒径が10〜50nmの範囲にあること、
(3)該塗膜層の厚みが4〜25nmの範囲にあること、そして
(4)該易接着フイルムの塗膜層側の表面は、中心面平均粗さ(WRa)が0.5〜5nmの範囲にあること
を同時に具備することを特徴とする易接着性フイルム。
【請求項2】
塗膜層の厚みを不活性粒子の平均粒径(nm)で割った値(塗膜層の厚み/不活性粒子の平均粒径)が0.2〜2.0の範囲にある請求項1記載の易接着フィルム。
【請求項3】
水分散性共重合ポリエステル樹脂は、酸成分が主として2,6−ナフタレンジカルボン酸成分で、グリコール成分が主としてシクロヘキサンジメタノールまたはエチレングリコールである請求項1記載の易接着性フイルム。
【請求項4】
二軸配向ポリエステルフイルムが、少なくとも2つのポリエステル層からなる二軸配向積層ポリエステルフイルムであって、塗膜層側とは異なる側の表面の中心面平均粗さ(WRa)が、5.5〜15nmの範囲にある請求項1記載の易接着フイルム。
【請求項5】
塗膜層の表面に磁性層用塗液が塗布される請求項1記載の易接着フィルム。

【図1】
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【公開番号】特開2007−254653(P2007−254653A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−82896(P2006−82896)
【出願日】平成18年3月24日(2006.3.24)
【出願人】(301020226)帝人デュポンフィルム株式会社 (517)
【Fターム(参考)】