説明

春巻きの皮用組成物、及びこれを焼成してなる春巻きの皮、並びにこれを用いてなる春巻き

【課題】油調調理後に長時間経過しても、皮のパリパリ感を失わず、特に歯切れの良い食感を維持する揚げ春巻きの皮用の組成物、春巻きの皮及び春巻きを提供することを目的とする。
【解決手段】春巻きの皮用組成物における原料の構成として、小麦粉と置換澱粉とその他の澱粉とを含み、置換澱粉の割合が小麦粉とその他の澱粉との合計量に対して1〜70質量%とする。置換澱粉の原料は特に限定されず、例えば馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、小麦澱粉、コーンスターチ、ワキシコーンスターチ、サゴ澱粉、米澱粉、甘藷澱粉等をエステル化あるいはエーテル化したものを用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、調理後長時間経過しても食感を維持することが可能な春巻きの皮用組成物、これを焼成してなる春巻きの皮、及びこれを用いてなる春巻きに関する。
【背景技術】
【0002】
春巻きの皮のパリパリ感や歯切れの良さは、フライ後の時間経過によって徐々に低下していく。これは春巻きの内材(具)に含有される水分は一般的に多く、フライ調理後の時間の経過とともに内材の水分が内材から皮部分へと移行することでふやけてしまうためである。
【0003】
こうした点を改良するために、従来から、下記のように種々の改善策が提案されている。特許文献1においては、春巻きの皮内面または内部に油脂を塗布する方法が開示されている。また特許文献2あるいは特許文献3には、油脂及び地下澱粉類を含む非水系の乳化分散物を春巻きの皮内面に塗布することにより食感を維持する方法が開示されている。特許文献4には、融点30〜50℃、結晶の平均粒径20〜100μの油脂を塗布してなる春巻きの皮が開示されている。
【0004】
また特許文献5には、10℃における固体脂指数が5以下の液状油脂100重量部に、融点50℃以上の硬化油0.5〜15重量部、グリセリン脂肪酸エステル又はソルビタン脂肪酸エステルの1種以上を0.1〜10重量部及びプロピレングリコール脂肪酸エステル0.05〜50重量部を配合してなる油脂組成物を春巻きの皮に使用する方法が開示されている。
更には、特許文献6には、穀粉原料として、マルトース価が170mg/10g以下の小麦粉及びα澱粉を用いて春巻きの皮を製造する方法が開示されている。あるいは特許文献7には、春巻きの皮に水溶性植物繊維及び油脂を配合する方法が開示されている。また、特許文献8には、春巻きの皮に融点が40〜70℃である油脂粉末と大豆たん白を必須成分として含有する方法が開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開平2−156847号公報
【特許文献2】特開平6−153795号公報
【特許文献3】特開平6−225733号公報
【特許文献4】特開平11−46710号公報
【特許文献5】特開平8−256671号公報
【特許文献6】特開2000−333631号公報
【特許文献7】特開2001−238646号公報
【特許文献8】特開2002−65192号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1ないし4においては、油脂又は乳化分散した澱粉を春巻きの皮の内面に塗布するという作業工程が発生し、生産効率が低下するという難点があるばかりか、皮の端部にまで塗布してしまうと春巻きを巻くにあたって皮同士の接合不良が生じ、歩留率低下を引き起こす可能性がある。また特許文献5によっては、食感の経時変化安定性が十分とは言えなかった。また特許文献6乃至8においては、食感の維持効果が認められるために必要な配合割合によっては、春巻きにおいて好ましい他の風味を阻害してしまう可能性があった。
【0007】
そこで、春巻きの製造に関する上記各従来技術の問題点を克服し、作業の煩雑化を避けつつもフライ調理(以下「油調」という。)直後のパリパリとした食感を長時間維持し、特に歯切れの良い食感を維持することのできる春巻きの皮を提供することを課題として鋭意研究を重ねた末、本発明にかかる皮用組成物を知見するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0008】
即ち、本発明にかかる春巻きの皮用組成物は、小麦粉と、置換澱粉とを含み、置換澱粉の含有割合が、小麦粉と置換澱粉との合計量に対して1〜70質量%であることを特徴とする。
【0009】
ここで「置換澱粉」としては、酢酸エステル化澱粉(アセチル化澱粉)、オクテニルコハク酸エステル化澱粉、リン酸エステル化澱粉、ヒドロキシプロピルエーテル化澱粉、カルボキシメチルエーテル化澱粉を用いることができる。これらは、例えば馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、小麦澱粉、コーンスターチ、ワキシコーンスターチ、サゴ澱粉、米澱粉、甘藷澱粉などをエステル化やエーテル化することにより得られるものであればよく、特に原料澱粉によって限定されるものではない。「酢酸エステル化」とは、アセチル基2.5%以下の無水酢酸又は酢酸ビニルモノマーを用い、澱粉懸濁液にアルカリを触媒にして、無水酢酸又は酢酸ビニルを添加して反応させることで得られる。アルカリにはカセイソーダ、炭酸ナトリウムが使用されるが、生成したエステルのアルカリによる加水分解を防ぐためにPH調整を行なっても良い。反応後、副生成物などの不純物は十分に水洗して除去し、乾燥させて粉末にすることで酢酸エステル化澱粉が得られる。
また、「ヒドロキシプロピル化」とは、プロピレンオキサイドを澱粉に対して25%以下の量で反応させたヒドロキシプロピル澱粉ができる。固相反応、ペースト反応、有機溶媒系や水懸濁系などで反応させたものにカセイソーダなどのアルカリを触媒として用い、生成物以外の不純物を水洗によって除去し、乾燥させて粉末にすることで得られる。
【0010】
また、本発明の揚げ春巻きの皮を製造するための皮用組成物には、前記置換澱粉に加え、未加工の澱粉、例えば馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、小麦澱粉、コーンスターチ、ワキシコーンスターチ、サゴ澱粉、米澱粉、甘藷澱粉などを用いることができるほか、これらを原料とした加工澱粉、あるいは未加工澱粉と加工澱粉の混合物を用いることができる。
【0011】
また、本発明における揚げ春巻きの皮を製造するための皮用組成物の原料粉は小麦粉及び澱粉が主体であるが、これらの他にも必要に応じ他の成分を含有しても良い。本発明の目的を損なわないものであれば特に限定されず、例えばグルテン、乳化剤、油脂類、糖類、食塩、調味料等の混合物を含有させることもできる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の春巻きの皮用組成物、これを焼成してなる春巻きの皮及びこれを用いてなる春巻きは、小麦粉と置換澱粉とを特定の比率にて含有しているので、油調調理後、揚げ春巻きの皮の経時的な食感低下を抑制し、パリパリした油調直後の好ましい食感を長時間にわたって維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を実施例と比較例を参照しつつ詳しく説明する。
【0014】
(実施例1)
以下の組成にて春巻きの皮を製造した。
小麦粉 21.90%
置換澱粉 12.05%
未加工澱粉 4.82%
小麦たん白 4.82%
食用油脂 4.82%
還元水飴 4.82%
油脂粉末 2.89%
食塩 0.72%
調味料 0.72%
乳化剤 0.24%
冷水 42.20%
計 100.00%
(置換澱粉/小麦粉と置換澱粉の合計=0.3549)
【0015】
(比較例1)
比較例として、置換澱粉と未加工澱粉とを高架橋澱粉に置き換え、上記と同じ方法手順で春巻き用皮を製造した。
以下の組成にて春巻きの皮を製造した。
小麦粉 21.90%
高架橋澱粉 16.87%
小麦たん白 4.82%
食用油脂 4.82%
還元水飴 4.82%
油脂粉末 2.89%
食塩 0.72%
調味料 0.72%
乳化剤 0.24%
冷水 42.20%
計 100.00%
【0016】
上記のものをそれぞれ混合撹拌し、分散液を調製した。次いで、ドラム型焼成機を用い、ドラム面上に前記分散液を均一に焼成し、広さ150mm四方の正方形、厚さ0.5mmの揚げ春巻き用皮を製作した。
【0017】
次に、製作した春巻き用皮に予め調理した春巻き用の具(内材)を載せ、巻き上げた後170〜180℃のサラダ油で油調して揚げ春巻きを製造した。
【0018】
実施例1と比較例1とでそれぞれ製造した春巻きの皮及び春巻きについて、揚げ用春巻きの油調後の皮の食感を経過時間に応じて評価した。その結果をまとめたものが以下の表である。
【0019】
【表1】

【0020】
また、置換澱粉の割合が小麦粉と置換澱粉との合計量に対して1%以上のもの(実施例2)、1%未満のもの(比較例2)、70%未満のもの(実施例3)、70%超過のもの(比較例3)を用いて春巻き用皮を作成した。その組成比率は以下の通りである。
【0021】
(実施例2)
以下の組成にて春巻きの皮を製造した。
小麦粉 33.00%
置換澱粉 0.95%
未加工澱粉 4.82%
小麦たん白 4.82%
食用油脂 4.82%
還元水飴 4.82%
油脂粉末 2.89%
食塩 0.72%
調味料 0.72%
乳化剤 0.24%
冷水 42.20%
計 100.00%
(置換澱粉/小麦粉と置換澱粉の合計=0.0280)
【0022】
(比較例2)
以下の組成にて春巻きの皮を製造した。
小麦粉 33.75%
置換澱粉 0.20%
未加工澱粉 4.82%
小麦たん白 4.82%
食用油脂 4.82%
還元水飴 4.82%
油脂粉末 2.89%
食塩 0.72%
調味料 0.72%
乳化剤 0.24%
冷水 42.20%
計 100.00%
(置換澱粉/小麦粉と置換澱粉の合計=0.0060)
【0023】
(実施例3)
以下の組成にて春巻きの皮を製造した。
小麦粉 10.95%
置換澱粉 23.00%
未加工澱粉 4.82%
小麦たん白 4.82%
食用油脂 4.82%
還元水飴 4.82%
油脂粉末 2.89%
食塩 0.72%
調味料 0.72%
乳化剤 0.24%
冷水 42.20%
計 100.00%
(置換澱粉/小麦粉と置換澱粉の合計=0.6775)
【0024】
(比較例3)
以下の組成にて春巻きの皮を製造した。
小麦粉 9.00%
置換澱粉 24.95%
未加工澱粉 4.82%
小麦たん白 4.82%
食用油脂 4.82%
還元水飴 4.82%
油脂粉末 2.89%
食塩 0.72%
調味料 0.72%
乳化剤 0.24%
冷水 42.20%
計 100.00%
(置換澱粉/小麦粉とその他の澱粉の合計=0.7349)
【0025】
上述の実施例1と比較例1の対比同様、各実施例及び比較例についても揚げ春巻きの油調後の皮の食感を経時変化に応じて評価した。その結果をまとめたものが以下の表である。
【0026】
【表2】

【0027】
【表3】

【0028】
このように、置換澱粉の、小麦粉と置換澱粉の合計量に対する含有割合が1〜70%の範囲内における配合比率で製造した揚げ春巻きの皮を用いた春巻きにおいては、油調後の時間経過にもかかわらず、油調直後の食感を維持することができ、好ましいパリパリ感と歯切れを保持することができた。
【0029】
また、以下の表は、実施例1と比較例1で製造した春巻きの皮及び春巻きについて、揚げ用済み春巻きのレンジ後の皮の食感を評価した。その結果をまとめたものが以下の表である。本発明に係る揚げ春巻きの皮を製造するための皮用組成物を用いた揚げ春巻きにおいては、レンジ調理後においてもその食感が優れたものとなった。
【0030】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
小麦粉と、
置換澱粉とを含み、
前記置換澱粉の含有割合が、前記小麦粉と前記置換澱粉との合計量に対して1〜70質量%であること
を特徴とする揚げ春巻きの皮を製造するための皮用組成物。
【請求項2】
前記置換澱粉とは、
酢酸エステル化澱粉、オクテニルコハク酸エステル化澱粉、リン酸エステル化澱粉、ヒドロキシプロピルエーテル化澱粉、カルボキシメチルエーテル化澱粉、又はこれらのうち二以上の混合物であること
を特徴とする、請求項1に記載の皮用組成物。
【請求項3】
前記置換澱粉以外の、未加工澱粉、加工澱粉又はその双方の混合物を更に含むことを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の皮用組成物。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の皮用組成物を焼成してなる春巻きの皮。
【請求項5】
請求項4の春巻きの皮に、具を包んでなる春巻き。

【公開番号】特開2008−22753(P2008−22753A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−197696(P2006−197696)
【出願日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【出願人】(396001533)株式会社日本冷食 (2)
【Fターム(参考)】