説明

時計用Cリング加工油組成物とその製造方法

【課題】容易に強度調整ができ、硫黄やリン等の化合物を添加剤として用いることなく、製造方法が容易で、経済的に有利で、加工時に揮発して加工不良が発生することの無い時計用Cリング加工油組成物とその製造方法および、これを用いて加工した時計用Cリングと時計を提供すること。
【解決手段】(A)炭素数が26の飽和炭化水素ワックスの水素を平均21個以上24個以下を塩素で置換した塩素化炭化水素化合物と、(B)炭素数が14の直鎖飽和炭化水素の水素を平均5個以上7個以下を塩素で置換した塩素化炭化水素化合物とを含有し、(A)に対する(B)の含有量が、3wt%以上20wt%以下であることを特徴とする時計用Cリング加工油組成物を、(B)を40℃以上110℃以下に加温し、つづいて(A)を添加して攪拌することで溶解して得て、時計用Cリング加工して得て、これを用いて時計を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、時計用外装製品に使用するCリングの加工油組成物と製造方法に関し、特に時計バンドに使用されるインコネル製Cリングの加工油組成物と製造方法およびこれを用いた時計用Cリングに関する。
【背景技術】
【0002】
時計はヘッドと呼ばれる時刻を表示する部分と、これを腕にとめるためのバンドからできている。金属性の時計用バンドは、駒と呼ばれる小さな子部品をピンで留めることでつなぎ合わせてできている。バンドをつなぐピンは、ヘアーピンに似た形状の構造のものと、薄い板を丸めて端面がC状の円環のような構造のCリングとがある。現在、出願人が製造する時計バンドの多くはCリングを使用している。
バンドを留めるピンは、短冊状の長い平らな板を引き抜き加工によって丸めて得られた筒状の長いCリングを、希望する長さに切断することで得ることができる。本発明は、短冊状の板を端面の形状がCになるように丸めるための加工に関係している。
Cリングの材料はインコネルと呼ばれるニッケル合金でできており、耐食性に優れた固い材料で、目的のピンを形成する材料に適しているが反面、加工が難しい特性を有している。本出願人は、このCリングを引き抜き加工して長い円筒状のCリングを製造している。引き抜き加工では、丸いトンネル状にできた複数個の穴(ダイス)を太い穴径から徐々に細くなる穴径に向かって順に短冊状の帯になったインコネルの材料を強い力で引き抜きながら通過させることで円筒状のCリングを製造している。
Cリングの加工では、平板を丸めるので大きな力がかかるので、加工油の性能が悪いとダイスが磨耗して量産に耐えなくなる。
本出願人は、これまで最適の油を求めて種々調査し、試験を重ねてきたが、時計用Cリングのように1.5mm以下の径に加工するための満足できる油剤を見つけることができなかった。
塩素化炭化水素系の加工油として特許文献1には、炭素原子数の高い例えばC24固形パラフィンを炭素数の低い例えばC12の液状パラフィンに溶解し液状を保ちつつ塩素化して得られる平均塩素分が55%以上75%以下で平均炭素原子数がC16以上、平均分子量が550以上の混合塩素化パラフィンを使用し、これを20〜50重量%配合し、これに引火点が190℃以上で高く揮発減量が少なく耐熱性、冷却性に、耐圧性に優れ、溶解力に富み、流体化して製品の塗布使用を容易にする性質を有する脂肪酸エステルを18〜50重量%の割合で混合し、更に副原料として石油酸化酸エステルやポリグリコールエーテルなどを加えたものが開示されている。
また、特許文献2には、主要割合量の潤滑油と、この潤滑油の荷重に耐える性質を改善するに足る量の、ハロゲン化されたC4-C20イソパラフィンとよりなり、且つ上記イソパラフィンは約12〜75(重量)%のハロゲンを含有してなる潤滑油組成物が開示されている。
また、特許文献3には、沸点23〜125℃のハロゲン化炭化水素の1種又は2種以上に沸点130℃〜250℃のフッ素油を配合して揮発性金属加工油組成物が開示されている。ハロゲン化炭化水素は、クロロフルオロ炭化水素であり、フッ素油のクロロトリフルオロエチレン低重合物と相溶できるようにしている。
従来から用いられているCリングの時計バンドへの使用方法としては、例えば特許文献4に記載の図1に示された方法、特許文献5に記載の第4図に示された方法、特許文献6に記載の図8に示された方法、特許文献7に記載の第5図に示された方法などがあり、Cリングの加工は時計生産においてバンドを形成する部品として重要な役割を担っており、この加工を良好に行うことは時計バンドの崩壊を防ぐ上でも、品質を左右する重要な工程である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公昭46−004251号公報
【特許文献2】特公昭47−013421号公報
【特許文献3】特公昭60−019952号公報
【特許文献4】特開平07−222610号公報
【特許文献5】実開平02−098712号公報
【特許文献6】特許第4356907号公報
【特許文献7】実公平04−015051号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1による方法では、塩素化炭化水素を得るために、あらかじめ炭素数が多いC24のパラフィンワックスと、炭素数が少ないC12の液状パラフィンとをあらかじめ混合して塩素化を行うため、塩素濃度を調整して強度を可変させるには、原材料の炭素数が異なる2種の材料を塩素化する工程から作成しなければならなく、加工部品によって、あるいは加工中に強度が低下したときに、油剤の初期の加工性能の調整や、使用時の劣化による加工性の低下などに対応するために、強度を増強することは難しいといった課題がある。
また、油剤の組成物の種類が、塩素化炭化水素の他に、各種の添加剤を混合せねばならず油剤の製造が複雑で手間がかかるといった課題がある。
また、場合によって押し出し等のプレス製造に使用する場合には、有機硫黄化合物を添加せねばならず、これらを加えると加工性は向上するものの腐食性等の問題がある。
また、特許文献2による方法では、従来塩素化したn−パラフィンや芳香族化合物およびナフテン油では不十分であった加工性を、炭素原子数が4個から20個の第3級炭素原子の塩素化物にC1からC8のアルキル側鎖を誘導した塩素化イソパラフィンを用いることで、従来のn−パラフィンでは成しえなかった加工性を発現できるとしている。この様な化合物としては、2−クロロ−2−メチルプロパン、1,3−ジクロロ−3−メチルブタン、2,4−ジクロロ−2,4−ジメチルペンタンなどが上げられている。この様な化合物は、n−パラフィンと比較して経済的に不利であり、コストを抑えるために鉱油基材との混合を考えなければならない課題がある。
また、特許文献3による方法では、従来の金属加工油は、不揮発性で加工後被加工物の洗浄を必要としていたが、開示された材料は揮発性があり、加工後に揮発して油剤が残らない効果がある。しかし、この様な加工油を用いた場合、C−リングの様な加工中に大きな力がかかる加工では、加工中に油剤が揮発して加工できなくなるといった課題の他、加工中に分解したフッ素系化合物が、大気中に放散することから環境上も課題がある。
そこで、本発明は、容易に強度調整ができ、硫黄やリン等の化合物を添加剤として用いることなく、製造方法が容易で、経済的に有利で、加工時に揮発して加工不良が発生することの無い時計用Cリング加工油組成物とその製造方法および、これを用いて加工した時計用Cリングと時計を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、(A)炭素数が26の飽和炭化水素ワックスの水素を平均21個以上24個以下を塩素で置換した塩素化炭化水素化合物と、(B)炭素数が14の直鎖飽和炭化水素の水素を平均5個以上7個以下を塩素で置換した塩素化炭化水素化合物とからなることを特徴とし、または、(A)炭素数が26の飽和炭化水素ワックスの水素を平均21個以上24個以下を塩素で置換した塩素化炭化水素化合物の、(B)炭素数が14の直鎖飽和炭化水素の水素を平均5個以上7個以下を塩素で置換した塩素化炭化水素化合物に対する含有量が、3wt%以上20wt%以下であることを特徴とする。
または、更に、酸化防止剤、耐磨耗材、安定化剤から選ばれる添加剤を少なくとも1つ以上含有することを特徴とする時計用Cリング加工油組成物を、常温で液状の炭素数が14の直鎖飽和炭化水素の水素を平均5個以上7個以下を塩素で置換した塩素化炭化水素化合
物を40℃以上110℃以下に加温し、つづいて、常温で固体の炭素数が26の飽和炭化水素ワックスの水素を平均21個以上24個以下を塩素で置換した塩素化炭化水素化合物を添加して攪拌して溶解して得ることを特徴とする。
または、更に、20マイクロメートル以上1mm以下のメッシュでろ過を行うことを特徴とする。また、本発明の時計用Cリングは、本発明の時計用Cリング加工油組成物を用いて加工したことを特徴とし、本発明の時計は、本発明の時計用Cリングを用いて作成したことを特徴とすることで解決することができる。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、容易に強度調整ができ、硫黄やリン等の化合物を添加剤として用いることなく、製造方法が容易で、経済的に有利で、加工時に揮発して加工不良が発生することの無い時計用Cリング加工油組成物とその製造方法および、これを用いて加工した時計用Cリングと時計を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、実施例と共に本発明を詳しく説明するが、本発明は実施例だけに限定されるものではない。
本発明の時計用Cリングとは、時計のバンドを形成するために、駒と呼ばれる部品を固定するために使用される部品で、端面がC形状をしている直径が1.5mm以下の細い円筒状部品を指し、長さは時計バンドの形状によってさまざまの長さのものがある。材質は、インコネルと呼ばれるニッケル合金で、固く、腐食に強い特性を有し、バンドに最適な材料である。実際のCリングの使用方法は、背景技術の説明において特許文献4から7を例示した。
Cリングの製造方法としては、平らな細い短冊状の長い帯材を、ダイスと呼ばれる周囲がダイヤモンド製の穴を通して丸めるようにして作る。ダイスは複数あり、徐々に直径が目的の穴径になるよう順に細いダイスを通して加工する。穴を通過するときは大きな力が必要となるため、インコネル材の帯材の端を強い力で引き抜き加工している。
このとき、ダイスとインコネル材との間には大きな力が働くので、圧力と磨耗からダイスや、材料を保護するために時計用Cリング加工油組成物が必要となる。特に大きな板を数センチ、数ミリといった大きな直径に加工する場合と異なり、時計部品の場合は直径が1.5mm以下と非常に細いため、加工には特に圧力と、磨耗が大きくなるといった特徴がある。
Cリングに使用する材質はインコネルでニッケル合金で、インコネル625が主に使用されている。ニッケルの含有量は、おおよそ55wt%以上75wt%未満で、その他の構成成分としては主にクロムと、鉄からできている。本発明の時計用Cリング加工油組成物はインコネル材を、1.5mm径以下にダイヤモンドダイスを使用して引き抜き加工する条件に合わせて最適化をしたものである。
本発明の時計用Cリング加工油組成物は、(A)炭素数が26の飽和炭化水素ワックスの水素を平均21個以上24個以下を塩素で置換した塩素化炭化水素化合物と、(B)炭素数が14の直鎖飽和炭化水素の水素を平均5個以上7個以下を塩素で置換した塩素化炭化水素化合物とからなる。
前記(A)炭素数が26の飽和炭化水素ワックスの水素を平均21個以上24個以下を塩素で置換した塩素化炭化水素化合物と、(B)炭素数が14の直鎖飽和炭化水素の水素を平均5個以上7個以下を塩素で置換した塩素化炭化水素化合物で、(B)は室温(約25℃)で液体で、(A)は固体であり、2つの成分を常温で混合しても相溶しにくく、何時間か攪拌しても溶け合わない。
これを加熱して40℃以上110℃以下、特に好ましくは60℃以上80℃以下で混合し攪拌すると徐々に相溶し、溶かすことができる。
2つの材料を(B)90wt%、(A)10wt%で混合したところ、40℃、50℃では6時間相溶するまでに時間を要したが、60℃、80℃では、4時間で相溶させること
ができた。100℃、110℃では、相溶するまでに3時間しかかからなかったが、容器に詰める際に、放冷するのに手間がかかった。混合は40℃以上110℃以下で行えるが、好ましくは60℃以上80℃以下が好ましいことが判った。
(A)が(B)に相溶する過程で(A)が(B)を吸収し、ガム状になりしばらく液中を浮遊したり、底部に沈殿し貼り付く現象が起こる。このガム状になった(A)を攪拌だけに頼って溶解させても、小さな時計部品を加工する際には、1.5mm以下の径のダイス中を通過しなくてはならないので、少なくともこの径よりも大きな残留物があるとダイスに油が詰まって、この結果油を供給することが不能となり、加工中に焼き付を発生させ、加工ができなくなるといった不具合を発生する。
このため、本発明の時計用Cリング加工油組成物は、混合後に20マイクロメートル以上1mm以下のメッシュでろ過を行うことが好ましい。
(B)と(A)とを9:1比率で80℃で3時間攪拌し、その後この加工油を20マイクロメートル、1mm、5mmろ過およびろ過しないものを作成して加工油を得た。これを用いてCリングを加工したところ、20マイクロメートル、1mmでろ過したものは、1000本以上加工してもダイスに油が詰まる現象は発生しなかった。しかし、5mmおよびろ過をしなかったものは1000本を加工する中で2回ガム状の油がダイスに詰まる現象が発生した。ガム状のものが詰まるとダイスが壊れないうちに直ちにダイスを分解掃除することが必要で、生産の手間がかかる。この結果20マイクロメートル以上1mm以下のメッシュでろ過をすることが好ましいことが解った。
常温で液体の(B)と常温で固体の(A)とを混合して加工油を構成させる理由は、油剤が圧力の高い状況でも加工している部位から油が逃げないようになるためと考えられる。常温で液体の(B)を平板に挟み圧力をかけると、油が広がり側面へと流れ出てしまう現象が起こる。しかし、(A)と(B)を混合した加工油は平板に挟み込んで圧力をかけてもなかなか側面へ流れきることなくその場にとどまる。
特に、常温で固体と液体でしかも相溶性が悪い材料を組み合わせると、固体の(A)の分子が、(B)の液中で相溶はしているものの分散されたような状態となり、加工している部位で(B)の分子を絡めながら(A)の分子が残留して油が逃げることを防止しているためと考えられる。
油の製造としては、溶け合いやすいもの同士を組み合わせることで、簡単に短時間で加熱することなく混合でき、更にろ過などの必要もなくなるが、本発明の時計用Cリング加工油組成物はこのような観点から、一般的な材料選定ではなく独特の組み合わせとなっている。しかし、この様な製造方法を行うことにより、(A)と(B)との混合比を変えることで、容易に強度の異なる加工油を得ることができ、成分組成が(A)と(B)との単純組成であることから、使用中の加工油に(A)、(B)を必要に応じて加えて加工できることから、加工油の劣化を未然に防いだり、再生したりすることができるという特徴を有している。この製法により、炭素数が異なるバラフィンを事前に混和させて塩素化することなく、あらかじめ塩素化したそれぞれの塩素化炭化水素を自由に混合して組成比の比率などを可変させることができる。
(B)の塩素置換数が5個のもの単独、(B)の塩素置換数が6個のもの単独、(B)の塩素置換数が5個のものに(A)を1wt%、3wt%、10wt%、20wt%、30wt%の加えた加工油、(B)の塩素置換数が6個のものに(A)を1wt%、3wt%、10wt%、20wt%、30wt%加えた加工油をそれぞれ作成し、Cリングの引き抜き加工を実施した。この結果、(B)の塩素置換数が5個のもの単独、(B)の塩素置換数が6個のもの単独の場合はわずか500本の加工でダイスが磨耗して壊れ使用することができなかった。
(B)の塩素置換数が5個のものに(A)を1wt%加えた加工油、(B)の塩素置換数が6個のものに(A)を1wt%を加えた加工油は、700本加工できたが、ダイスに傷が見られた。しかし、その他場合はいずれも2000本加工してもダイスに傷も発生しなく良好に加工できた。
しかし、(B)の塩素置換数が5個のものに(A)を30wt%の加えた加工油、(B)
の塩素置換数が6個のものに(A)を30wt%加えた加工油は油剤の粘度が高く、油切れが悪く油をきるのに40℃の加温を必要とした。
この結果から、(A)の(B)に対する含有量が、3wt%以上20wt%以下であることが好ましいことが判った。
以上のように、常温で液体の(B)だけでは、たとえ(B)の塩素置換数が5個のもの単独より、(B)の塩素置換数が6個のもの単独での粘度の方が高くても、また、塩素濃度が高くても加工性が飛躍的に改善されないが、わずかな量であっても、常温で固体でかつ常温で相溶させ油剤化することのできない(A)を添加することで飛躍的に加工性能を向上させることが解った。
また、本発明の時計用Cリング加工油組成物には、必要に応じて酸化防止剤、耐磨耗材、安定化剤を添加することができる。
酸化防止剤は、通常、フェノール系酸化防止剤および/またはアミン系酸化防止剤である。
アミン系酸化防止剤としては、ジフェニルアミン誘導体が好ましい。
また、フェノール系酸化防止剤は、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、2,4,6−トリ−t−ブチルフェノールおよび4,4'−メチレンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノールから選ばれる少なくとも1種の化合物であることが好ましい。
これらの酸化防止剤は、1種単独で、あるいは2種以上組み合わせて用いることができる。酸化防止剤は、組成物100重量%に対して、通常、0.01〜3重量%、好ましくは0.01〜2重量%、さらに好ましくは0.03〜1.20重量%の割合で用いられる。酸化防止剤を前記範囲内の割合で用いると、油の変質を長期に渡って防止することができる。
(A)炭素数が26の飽和炭化水素ワックスの水素を平均21個以上24個以下を塩素で置換した塩素化炭化水素化合物と、(B)炭素数が14の直鎖飽和炭化水素の水素を平均5個以上7個以下を塩素で置換した塩素化炭化水素化合物に対する含有量が、5wt%の時計用Cリング加工油組成物を90℃で3時間攪拌し、800マイクロメートルのメッシュでろ過をして得た。
また、攪拌工程で酸化防止剤として2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、2,4,6−トリ−t−ブチルフェノールと4,4'−メチレンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノールをそれぞれ0.001wt%、0.01wt%、0.02wt%、0.03wt%、1.0wt%、1.2wt%、1.5wt%、2.0wt%、2.5wt%、3wt%、8wt%加えた加工油を作成した。
この加工油を120℃に保管して加工時に加温された時状態を加速して評価した。500時間放置したところで、加工油の色を比較したところ、なし、0.001wt%の場合は茶色に変色した。0.01wt%から0.02wt%では前記よりも薄い茶色で、0.03wt%、1.0wt%、1.2wt%の場合は薄茶に変色した。1.5wt%、2.0wt%の場合は前記よりも薄い茶色で、2.5wt%、3wt%の場合はわずかに茶色く変色しただけだった。また、8wt%の場合も3wt%の場合よりは変色が抑えられたものの、ほぼ同様の結果であった。
以上のことから、酸化防止剤は、組成物100重量%に対して、通常、0.01〜3重量%、好ましくは0.01〜2重量%、さらに好ましくは0.03〜1.20重量%の割合で用いられる。酸化防止剤を前記範囲内の割合で用いると、油の変質を長期に渡って防止することができることが判った。
耐摩耗剤は、通常、Zn−DTP、Mo−DTPを用いることができる。耐摩耗剤は、1種単独で、あるいは2種以上組み合わせて用いることができる。
耐摩耗剤は、油100重量%に対して、好ましくは0.1〜8重量%、さらに好ましくは0.1〜5重量%、より好ましくは0.5〜1.5重量%の割合で用いられる。耐摩耗剤を上記範囲内の割合で用いると、加工時の耐摩耗性を向上させることができる。
(A)炭素数が26の飽和炭化水素ワックスの水素を平均21個以上24個以下を塩素で置換した塩素化炭化水素化合物と、(B)炭素数が14の直鎖飽和炭化水素の水素を平均
5個以上7個以下を塩素で置換した塩素化炭化水素化合物に対する含有量が、5wt%の時計用Cリング加工油組成物を90℃で3時間攪拌し、800マイクロメートルのメッシュでろ過をして得た。
また、攪拌工程で耐磨耗剤としてMo−DTPを0.05wt%、0.1wt%、0.3wt%、0.5wt%、1.0wt%、1.5wt%、3wt%、5wt%、7wt%、8wt%、15wt%加えた加工油を作成した。
この加工油をもちいてCリングを加工したところ、初期はいずれも良好に加工できた。5000本加工したところで、加工油の温度を測定したところ、0.05wt%では60℃だった。0.1wt%から0.5wt%では55℃であった。0.5wt%から1.5wt%の範囲では、50℃であった。5wt%から8wt%では45℃であった。また、15wt%では、42℃と8wt%の時と著しい差は見受けられなかった。
以上のことから、耐磨耗剤は、加えたほうが磨耗性が抑えられ、油剤の温度上昇が抑えられることから含有していた方が好ましく、8wt%以上では、効果が少ないので効率的でない。よって、耐磨耗剤は、油100重量%に対して、好ましくは0.1〜8重量%、さらに好ましくは0.1〜5重量%、より好ましくは0.5〜1.5重量%の割合で用いられる。耐磨耗剤を上記範囲内の割合で用いると、加工時の温度の上昇を磨耗性改善によって抑えることができることが判った。
安定化剤は、酸キャッチャー機能のあるエポキシを用いることができる。この様な機能のあるエポキシとしては、脂環式エポキシの構造を有する物質が好ましい。具体的には、3,4−エポキシシクロヘキセニルメチル−3‘、4’−エポキシシクロヘキセンカルボキシレートがあげられる。
安定化剤は、油100重量%に対して、好ましくは0.1〜8重量%、さらに好ましくは0.1〜5重量%、より好ましくは0.5〜1.5重量%の割合で用いられる。安定化剤を上記範囲内の割合で用いると、加工時の安定性を向上させることができる。
(A)炭素数が26の飽和炭化水素ワックスの水素を平均21個以上24個以下を塩素で置換した塩素化炭化水素化合物と、(B)炭素数が14の直鎖飽和炭化水素の水素を平均5個以上7個以下を塩素で置換した塩素化炭化水素化合物に対する含有量が、5wt%の時計用Cリング加工油組成物を90℃で3時間攪拌し、800マイクロメートルのメッシュでろ過をして得た。
また、攪拌工程で安定化剤として3,4−エポキシシクロヘキセニルメチル−3‘、4’−エポキシシクロヘキセンカルボキシレートを0.05wt%、0.1wt%、0.3wt%、0.5wt%、1.0wt%、1.5wt%、3wt%、5wt%、7wt%、8wt%、15wt%加えた加工油を作成した。
この加工油をもちいてCリングを加工したところ、初期はいずれも良好に加工できた。5000本加工したところで、3,4−エポキシシクロヘキセニルメチル−3‘、4’−エポキシシクロヘキセンカルボキシレートの残存状態を見たところ、0.05wt%では全て消費されていた。0.1wt%から0.5wt%では80%以内で消費されていた。0.5wt%から1.5wt%の範囲では、50%以内で消費されていた。5wt%から8wt%では20%以内で消費されていた。また、15wt%では、消費はわずかに10%未満しか消費されていなかった。
以上のことから、安定化剤が消費されたことから安定化剤を含有していた方が好ましく、8wt%以上では、消費量が少ないので効率的でない。よって、安定化剤は、油100重量%に対して、好ましくは0.1〜8重量%、さらに好ましくは0.1〜5重量%、より好ましくは0.5〜1.5重量%の割合で用いられる。安定化剤を上記範囲内の割合で用いると、加工時の油安定性を向上させることができることが判った。
以上の本発明の時計用Cリング加工油組成物を用いて加工した時計用Cリングのサイズのばらつきを測定したところ、太さのばらつきは僅かに5%以下となり、本発明以外の加工油を用いて作成した場合のばらつき15%よりも小さくなった。
時計バンドの駒をつなぎ合わせるピンは、太いと留めにくく、抜けにくくなり、ピン(Cリング)を抜き差しして調整するバンドの長さ調整がしにくくなる。また、細いとピンが
抜けやすくなり、ピンが抜けると時計バンドが切れてしまう現象が発生する。
本発明のCリングは、ばらつきが小さいことから、バンドの長さ調整がし易く、使用していても切れることの無い時計用金属バンドを提供することができる。
実際に、本発明の時計用Cリング加工油組成物を用いて製造したCリングを用いて時計バンドを製造し、時計としたところ、調整がし易く、切れることの無い特徴を有する歩留まりの高いバンドを得ることができた。
また、本発明によれば、容易に組成物(A)、(B)の比率を変えたり、使用中の油剤に後から(A),(B)を添加して強度調整を容易にできる。更に、腐食性が寿命を左右するCリングを硫黄やリン等の化合物を添加剤として用いることがないため、長寿命化が図れるといったメリットを発現できる。
更に本発明の加工油は、特定の3級の塩素化合物を用いることがないため、経済的にも有利に作成することができる他、低沸点の化合物や、フッ素系化合物を使用していないことから大気に放出される成分が抑制されているため、環境影響も抑えることができた。
また、この加工油を用いて加工したCリングは腐食性が少ないことから長寿命であり、これを用いて作成した時計用バンドと、時計は長寿命という特徴を付与することができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)炭素数が26の飽和炭化水素ワックスの水素を平均21個以上24個以下を塩素で置換した塩素化炭化水素化合物と、(B)炭素数が14の直鎖飽和炭化水素の水素を平均5個以上7個以下を塩素で置換した塩素化炭化水素化合物とからなる時計用Cリング加工油組成物。
【請求項2】
前記(A)の塩素化炭化水素化合物の、前記(B)の塩素化炭化水素化合物に対する含有量が、3wt%以上20wt%以下であることを特徴とする請求項1に記載の時計用Cリング加工油組成物。
【請求項3】
更に、酸化防止剤、耐磨耗材、安定化剤から選ばれる添加剤を少なくとも1つ以上含有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の時計用Cリング加工油組成物。
【請求項4】
常温で液状の炭素数が14の直鎖飽和炭化水素の水素を平均5個以上7個以下を塩素で置換した塩素化炭化水素化合物を40℃以上110℃以下に加温し、つづいて、常温で固体の炭素数が26の飽和炭化水素ワックスの水素を平均21個以上24個以下の塩素で置換した塩素化炭化水素化合物を添加して攪拌して溶解して得る時計用Cリング加工油組成物の製造方法。
【請求項5】
更に、前記塩素化炭化水素化合物を添加して攪拌して溶解して得たものを20マイクロメートル以上1mm以下のメッシュでろ過を行う工程を有することを特徴とする請求項4に記載の時計用Cリング加工油組成物の製造方法。

【公開番号】特開2013−91697(P2013−91697A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−233804(P2011−233804)
【出願日】平成23年10月25日(2011.10.25)
【出願人】(000001960)シチズンホールディングス株式会社 (1,939)
【出願人】(307023373)シチズン時計株式会社 (227)
【Fターム(参考)】