説明

曲げ降伏型弾塑性ダンパー

【課題】構造物の内部、あるいは外部において地震や風荷重等により水平力を負担するときに、相対変形を生じ得る分離した構造部材間に跨る形で設置され、外力として主にせん断力を受けることで曲げ降伏する弾塑性ダンパーに生ずる接合部における曲げモーメントの大きさを低減し、弾塑性ダンパー自体の規模の縮小化を可能にする。
【解決手段】弾塑性ダンパー1に、板状の本体1Aの中心部、もしくはその付近に位置し、せん断力を負担して曲げ降伏し得る塑性変形部2と、塑性変形部2に関してせん断力作用方向(X方向)に垂直な方向(Y方向)の両側寄りに位置し、各構造部材6に接続される接続部3、3の3部分を持たせ、各接続部3に塑性変形部2のせん断力作用方向(X方向)両側に分散して位置する接合部31、31を与え、この両接合部31、31を塑性変形部2のせん断力作用方向に垂直な方向(Y方向)の中心寄りに位置させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は構造物の内部、あるいは外部において地震や風荷重等により水平力を負担するときに、相対変形を生じ得る分離した構造部材間に跨る形で設置され、外力として主にせん断力を受けることで曲げ降伏する曲げ降伏型弾塑性ダンパーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
板状の本体が面内方向にせん断力を受けて変形し、せん断力の作用方向に垂直な方向の中間部が曲げ降伏する形式の弾塑性ダンパーはせん断力作用方向に垂直な方向の両側部分に位置する接合部において互いに分離している構造部材に接合されることで、構造部材間に跨って設置される。弾塑性ダンパーはこの設置状態で構造部材間の相対変形(相対変位)に伴って面内方向の水平力をせん断力として受けることで、せん断力作用方向に垂直な方向の中間部に位置する塑性変形部がせん断変形し、あるいは曲げ変形を伴いながらせん断変形し、せん断降伏、もしくは曲げ降伏することにより振動エネルギを吸収する(特許文献1〜3参照)。
【0003】
特許文献1、2の弾塑性ダンパーはせん断変形、あるいは曲げ変形する領域である塑性変形部に六角形状、もしくはそれに近似した形状の孔(開口)が形成されていることで、孔以外の領域がせん断力を受けたときの曲げモーメント分布に対応した形状になるため、せん断力の作用方向に垂直な方向の全高に亘り、曲げモーメントによって一様に降伏することができる利点を持っている。いずれのダンパーも降伏領域に孔が形成されていることで、せん断力より曲げモーメントで曲げ降伏する傾向が強い。
【0004】
但し、降伏領域に孔を形成した場合には、孔の形成がない場合より降伏強度が低下していることから、孔がない場合より小さい力で塑性化し易い状態にあり、降伏後の変形能力を期待することができる。このため、ダンパーに比較的大きい降伏強度が要求されるような場合には、強度を高める上で、接合部を含めて使用鋼材量を増加させることが必要になるため、製作コストが上昇する。
【0005】
一方、特許文献3のように曲げモーメントよりせん断力で降伏する傾向の強いせん断降伏型のダンパーは曲げ降伏型のダンパーより例えば開口がない分、降伏強度を高くすることができるため、接合部を除くダンパー部のみに着目すれば、使用鋼材量を増すことなく、比較的大きい変形能力を持たせることが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平1−190880号公報(第1図〜第6図)
【特許文献2】特開平1−203543号公報(第1図、第6図、第9図、第10図)
【特許文献3】特開2000−73495公報(段落0009〜0011、図1、図6)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1、2のダンパーを簡略化した図2−(a)に示すダンパーのように、塑性変形部のせん断力作用方向(X方向)に垂直な方向(Y方向)の両側に接合部があるダンパーでは、せん断力作用方向に垂直な方向(Y方向)に接合部と塑性変形部が直列に配列することで、接合部に生ずる曲げモーメントMaが塑性変形部に生ずる曲げモーメントMbより大きくなる。この結果、塑性変形部が降伏する以前に接合部が曲げモーメントを受けることによって構造部材への曲げモーメントMbの伝達能力を損なう可能性があり得るため、接合部の面積を広くする等により、曲げモーメントの伝達能力を高めるための対策が必要になることがある。
【0008】
図2−(a)に示す、塑性変形部のY方向両側に接合部が位置するダンパーでは、せん断力の作用時に塑性変形部に対し、(b)に示すように曲げモーメントがせん断力作用方向(X方向)に垂直な方向(Y方向)を向く軸に関して対称に、三角形状に分布する。以下では便宜的に「せん断力作用方向に垂直な方向(Y方向)」を「塑性変形部の軸方向」と言うこともある。
【0009】
図2−(a)に示すダンパーにX方向にせん断力が作用するとき、曲げモーメントはせん断力作用方向に垂直な方向(Y方向:塑性変形部の軸方向)の中心から両側の接合部へかけて中心からの距離に比例して増加するため、塑性変形部より接合部の曲げモーメントが大きくなり、この曲げモーメントに抵抗し得る強度と剛性を接合部に持たせる必要がある。図2−(b)に示すようにダンパーに生ずる曲げモーメントの最大値Maは塑性変形部の軸方向(Y方向)の接合部の端部に表れ、塑性変形部の端部に生ずる曲げモーメントの最大値Mbより大きい。図2−(b)中のMaは接合部におけるY方向中間部(中心)位置の曲げモーメントを示している。
【0010】
また図2−(a)に示すようにせん断力作用方向(X方向)に垂直な方向(塑性変形部の軸方向:Y方向)に塑性変形部と接合部が直列に配列する立面形状のダンパーを例えば1枚の方形状の鋼材(鋼板)から製作する場合、塑性変形部と接合部を残すために、塑性変形部の幅方向両側から不要な部分(領域)を切断し、除去することになる。この場合、不要な部分は五角形状の領域になるが、この領域は原形である1枚の鋼材の面積に占める割合が大きく、原料の鋼材に対する、1枚のダンパーの製作に要する鋼材量の比率が小さいため、製作効率が低い。
【0011】
本発明は上記背景より、従来のダンパーの塑性変形部と同一の変形能力を持たせながらも、接合部に作用する曲げモーメントの大きさを低減し、接合部を含めたダンパー自体の規模の縮小化を可能にする形態の曲げ降伏型弾塑性ダンパーを提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1に記載の発明の曲げ降伏型弾塑性ダンパーは、互いに分離した構造部材間に跨って設置され、面内方向のせん断力を受けて変形し、曲げ降伏する板状の弾塑性ダンパーであり、
板状の本体の中心部、もしくはその付近に位置し、前記せん断力を負担して曲げ降伏し得る塑性変形部と、前記塑性変形部に関して前記せん断力作用方向に垂直な方向の両側寄りに位置し、前記各構造部材に接続される接続部の3部分を備え、
前記各接続部は前記塑性変形部の前記せん断力作用方向両側に分散して位置する接合部を有し、この両接合部は前記塑性変形部の前記せん断力作用方向に垂直な方向の中心寄りに位置していることを構成要件とする。
【0013】
「本体の中心部」とは、図1−(a)に示すように弾塑性ダンパー(以下、ダンパー)1の本体1A全体(立面)をせん断力作用方向(X方向)とそれに垂直な方向(Y方向)の二方向に見たとき、せん断力作用方向(X方向)の中間部の区間と、せん断力作用方向に垂直な方向(Y方向)の中間部の区間の二方向に区画された、ある面積を持った領域を指す。図1−(a)では図2−(a)と同様、本体1A中、2個の概略台形をX方向の線に関してY方向に線対称形に組み合わせた鼓形のような形状の領域が「本体1Aの中心部」である「塑性変形部2」を示している。
【0014】
ダンパー1本体1A全体を二方向に見たときの中心部の領域が「塑性変形部2」であり、図1−(a)では(b)に示す曲げモーメント分布に対応した立面形状に「塑性変形部2」を形成している(請求項3)。せん断力作用方向(X方向)は図7、図8に示すようにダンパー1が跨設される、分離した構造部材6、6が対向する方向に直交する方向を言う。この方向が、ダンパー1が分離した構造部材6、6間に跨設された状態で、構造部材6、6間に相対変形が生じたときに、ダンパー1に本体1A面内のせん断力が作用する方向(X方向)であり、「塑性変形部2」が変形を生ずる方向(変形方向)、あるいは幅方向でもある。
【0015】
「塑性変形部2」はせん断力作用方向に垂直な方向(Y方向)の両側寄りに位置する「接続部3、3」間に作用するX方向のせん断力を受けることで、図1−(b)に示すように「塑性変形部2」の中心軸であるY方向を向く軸に関してX方向両側に三角形状に交互に分布する曲げモーメントを負担する。このことから、「塑性変形部2」はY方向を向く軸方向に均等に曲げ降伏が生ずるよう、曲げモーメント分布に対応した立面形状に形成されることが合理的である(請求項3)。「軸方向に均等に曲げ降伏が生ずる」とは、軸方向の各部における曲げ応力(σ=M/Z)が軸方向に均等になることを意味する。
【0016】
「塑性変形部2」に生ずる曲げモーメント分布は図1−(b)に示すように「塑性変形部2」の軸方向(Y方向)の中心が最小で、軸方向(Y方向)の端部が最大になる直線状の分布を言う。この曲げモーメント分布に対応した立面形状は図1−(a)に示すように「塑性変形部2」の軸方向(Y方向)中心位置におけるX方向の幅が最小で、このX方向の幅が軸方向(Y方向)端部側へかけて次第に増大する、2個の概略台形を連ねた鼓形のような形状になる。
【0017】
「塑性変形部2」が曲げモーメント分布に対応した立面形状に形成される場合(請求項3)、「塑性変形部2」の軸方向(Y方向)の各断面に均等に曲げ降伏が生じ、「塑性変形部2」の全長に亘ってエネルギ吸収能力を発揮することができるため、エネルギ吸収効率とエネルギ吸収能力が高い利点がある。
【0018】
「塑性変形部2」がその軸方向(Y方向)の両側寄りに位置する「接続部3、3」間に作用するX方向のせん断力を受け、両構造部材6、6が対向する方向(Y方向)に直交する方向(X方向)の相対変形が生じたときには、ダンパー1は図5−(b)に示すように塑性変形部2がせん断変形する、あるいは曲げ変形を伴ってせん断変形することにより構造部材6、6間の相対変形に追従しようとする。
【0019】
「接続部3、3が塑性変形部2に関してせん断力作用方向に垂直な方向の両側寄りに位置する」とは、せん断力作用方向(X方向)に垂直な方向(Y方向)の中心、すなわち「塑性変形部2」の「軸方向(Y方向)中心」に関して軸方向両側寄りに「接続部3、3」が位置することである。「両側寄り」とは、「接続部3、3」が「塑性変形部2の軸方向(Y方向)中心」に関して「軸方向両側」に分散していることの意味であり、必ずしも軸方向の両端部寄りに偏っていることの意味ではない。
【0020】
また「接続部3、3が塑性変形部2のせん断力作用方向(塑性変形部2の変形方向、あるいは幅方向:X方向)に垂直な方向(Y方向)の両側寄りに位置し、」における「接続部3、3」は1枚のダンパー1に付き、「塑性変形部2」の軸方向(Y方向)両側寄りに位置する2箇所の接続部3、3を指す。1枚(1個)のダンパー1を「塑性変形部2」と「接続部3、3」に大きく区分すれば、「接続部3、3」は1枚のダンパー1内において「塑性変形部2」の「軸方向(Y方向)」の両側に位置する。「塑性変形部2」の「軸方向(Y方向)」両側のそれぞれに「接続部3、3」が位置することで、ダンパー1は大きく「塑性変形部2」とその軸方向両側に位置する二箇所(二つ)の「接続部3、3」の3部分から構成される。
【0021】
更に「各接続部3が塑性変形部2のせん断力作用方向(X方向)両側に分散して位置する接合部31、31を有し、」とは、「塑性変形部2」の軸方向(Y方向)両側寄りに位置する各「接続部3」のそれぞれが「塑性変形部2」の変形方向(幅方向:X方向)両側の二箇所に分散して位置する「接合部31、31」を有することを言う。「塑性変形部2」の変形方向両側に位置する部分で、図1−(a)中、ハッチングを入れた領域が「接合部31、31」の一部に該当する。「接合部31、31」は「接続部3」の一部として「塑性変形部2」の軸方向(Y方向)両側に位置しながら、「塑性変形部2」の幅方向(X方向)両側に分散するから、各「接続部3」を細分化して見れば、「接続部3」は「塑性変形部2」の幅方向両側に位置する二箇所(二つ)の「接合部31、31」から構成されることになる。
【0022】
「接続部3」を構成する二つの「接合部31、31」が「塑性変形部2」の変形方向(幅方向:X方向)両側に分散することで、図1−(a)に示すように二つの「接合部31、31」と「塑性変形部2」はせん断力作用方向(X方向)に並列するように配列する。「接合部31、31は構造部材6には主にボルト接合、もしくは溶接等により接合されるが、ボルト接合される場合には、図示するように接合部31にボルト15が挿通する挿通孔3aが形成される。
【0023】
「両接合部31、31が塑性変形部2のせん断力作用方向に垂直な方向(塑性変形部2の軸方向)の中心寄りに位置している」とは、図2−(a)に示す従来のダンパーの、塑性変形部に直列に配列する接合部とは異なり、「接合部31、31」が「塑性変形部2」の軸方向(Y方向)両端部より軸方向中心側へ寄った位置にあることを言い、必ずしも軸方向の中心に接近していることの意味ではない。「両接合部31、31」は前記のように「塑性変形部2」のせん断力作用方向(X方向)両側に位置し、「接続部3」を構成する二つの「接合部31、31」を指す。
【0024】
図1−(a)においてハッチングで示した領域の少なくとも一部が(b)に破線で示す「塑性変形部2」の軸方向(Y方向)端部より中心寄りに位置していれば、その破線より中心寄りに位置する部分の曲げモーメントは「塑性変形部2」の曲げモーメントの最大値Mbより小さいため、「接合部31」の全体(全長)に生ずる曲げモーメントは図2−(a)に示す従来のダンパーの接合部の全体に生ずる曲げモーメントより小さくなる。
【0025】
すなわち、ハッチングで示した領域である「接合部31」のY方向中心部が破線で示す「塑性変形部2」の軸方向(Y方向)端部を通り、X方向に平行な曲げモーメントが最大値Mbになる直線より「塑性変形部2」の軸方向(Y方向)中心寄りに位置していれば、「接合部31」のY方向中心に生ずる曲げモーメントはMb以下になるため、ダンパー1が構造部材6へ伝達するための曲げモーメントは小さくなり、結果として後述のように従来のダンパーよりダンパー1の小型化を図ることが可能になる。
【0026】
従って「接合部31」はその領域の内の少なくとも一部が「塑性変形部2」の軸方向(Y方向)両端部より軸方向中心側へ寄った位置にあればよく、このことは「接合部31」が図1−(a)、図4−(b)等に示すように破線で示す「塑性変形部2」の軸方向端部と「接続部3」を区画する線を挟んで「塑性変形部2」の軸方向(Y方向)両端部側から軸方向(Y方向)中心側へ跨ることも含む。
【0027】
「接合部31」はダンパー1の内、少なくとも構造部材6に接合される部分(領域)を指し、ボルト接合される場合には挿通孔3aが形成される部分(領域)を指すが、構造部材6への接合が図1−(a)において「塑性変形部2」の端部より中心側に位置する部分のハッチングで示す領域(範囲)での接合で足りる場合は、そのハッチングで示した領域のみが「接合部31」になる。但し、図1−(a)に示すように挿通孔3aが「塑性変形部2」の軸方向(Y方向)端部にまで形成される場合には、ハッチングで示した領域から「塑性変形部2」の軸方向(Y方向)端部までに連続する領域が「接合部31」として機能することにもなる。
【0028】
「各接続部3の両接合部31、31が塑性変形部2の軸方向(Y方向)の中心寄りに位置すること」で、「接合部31、31」と「塑性変形部2」がせん断力作用方向(X方向)に並列するように配列することと併せ、「塑性変形部2」はせん断力作用方向(X方向)両側から2箇所(二つ)の「接合部31、31」に挟み込まれる形になる。
【0029】
「両接合部31、31」がせん断力作用方向(X方向)に「塑性変形部2」と並列し、「塑性変形部2」のX方向両側に位置することで、「塑性変形部2」の軸方向(Y方向)に見たとき、「接合部31、31」の一部が「塑性変形部2」の軸方向(Y方向)の端部より中心寄りに位置する。この結果、「塑性変形部2」の軸方向(Y方向)両側の「接続部3、3」間へのせん断力の作用時に「接合部31、31」が受ける曲げモーメントは前記のように従来のダンパーの接合部より小さくなり、「接合部31,31」のY方向中心部が「塑性変形部2」の軸方向(Y方向)端部より中心寄りに位置する場合には、「塑性変形部2」の軸方向(Y方向)端部に生ずる曲げモーメントの最大値Mb以下になる。
【0030】
「塑性変形部2」に生ずる曲げモーメントは「塑性変形部2」の軸方向(Y方向)中心で0になり、破線で示すように「塑性変形部2」の軸方向端部で最大になるように直線状に分布するため、「塑性変形部2」の軸方向に見たとき、「塑性変形部2」の端部より中心側に位置する部分の曲げモーメントは最大値Mb以下である。
【0031】
前記のように図1−(a)では「塑性変形部2」に関して変形方向(幅方向:X方向)両側に位置する領域を「接合部31」としてハッチングで示して区画しているが、図1−(a)に示す「接合部31」の幅のまま、「塑性変形部2」の軸方向(Y方向)端部までに連続する領域を「接合部31」と見なすとしても、図1−(a)においてハッチングで示した領域の少なくとも一部が「塑性変形部2」の軸方向(Y方向)端部より中心寄りに位置していれば、「接合部31」の全体(全長)に生ずる曲げモーメントは図2−(a)に示す従来のダンパーの接合部の全体に生ずる曲げモーメントより小さくなる。
【0032】
図2−(a)に示す従来のダンパーの塑性変形部に、その軸方向の延長線上の両側に位置する「接合部」に生ずる曲げモーメントMaは、「塑性変形部」の軸方向(Y方向)には「接合部」が「塑性変形部」に直列に配列していることから、(b)に示すように「塑性変形部」に軸方向(Y方向)に生ずる曲げモーメントの最大値Mbより大きい(Ma>Mb)。前記のように図2−(b)中のMaは接合部のY方向の中間部(中心)位置の曲げモーメントを示している。
【0033】
これに対し、本発明では「接合部31、31」が「塑性変形部」に対し、軸方向(Y方向)に直交する方向(X方向)に並列していることから、「接合部31、31」に生ずる曲げモーメントは「接合部31、31」のY方向中心部が「塑性変形部2」の軸方向(Y方向)端部より中心寄りに位置する場合には、「塑性変形部2」に軸方向(Y方向)の端部に生ずる曲げモーメントの最大値Mb以下になるため、「接合部31、31」は「塑性変形部2」の軸方向端部が負担する曲げモーメントより小さい曲げモーメントを負担すればよい。従って「接合部31、31」に曲げモーメントに抵抗し得る強度を接合部に持たせる上で、「接合部31、31」の面積を従来のダンパーの接合部より小さくすることが可能になる。
【0034】
この結果として、本発明の「塑性変形部2」と「接続部3」を合わせたダンパー1全体(本体1A)の面積S2は同一面積の「塑性変形部」を持つ従来のダンパー全体(本体1A)の面積S1より小さくすることが可能であり、その分、必要な鋼材使用量も削減されるため、製作コストの大幅な削減が図られる。
【0035】
例えば「塑性変形部」が同一の面積を持つ図2−(a)に示す従来のダンパーを製作するために必要な、除去部分を含めた鋼板(本体1A)の面積S1と、図1−(a)に示す本発明のダンパー1を製作するために必要な鋼板(本体1A)の面積S2を対比すれば、S2/S1は概算で後述のように1/2程度になっている。図3は図2に示す従来のダンパーに図1に示す本発明のダンパー1を重ねた様子を示している。
【0036】
図2−(a)に示す従来のダンパーの除去部分を含めた鋼板(本体1A)の面積S1は図3に示すようにS1=b1×h1、図1−(a)に示す本発明のダンパー1の除去部分を含めた鋼板(本体1A)の面積S2はS2=b2×h2で、図3に示す比率の場合、S2/S1=約0.54になっている。このことは、ダンパー1を製作するための使用鋼材量(材料費)が従来のダンパーの半分程度で済むことを意味する。
【0037】
図2−(a)に示す従来のダンパーの「塑性変形部」を除く「接続部3」に相当する部分(領域)の面積S3は図3に示すようにS3=b1×h3、図1−(a)に示す本発明のダンパー1の「塑性変形部2」を除く「接続部3」の面積S4はS4=b2×h4+2×b3×h5で、図3に示す比率の場合、S4/S3=約0.48になっている。このことは、従来のダンパーと同等のエネルギ吸収能力(塑性変形能力)を持つダンパー1を構造部材6に接合(固定)するための「接続部3(接合部31)」に固定状態を維持させる上で、あるいは「塑性変形部2」を塑性変形させるための曲げモーメントを負担させる上で、ダンパー1を従来のダンパーより小さい大きさ(規模)で済ませることができることを意味する。
【0038】
このように本発明のダンパー1を製作するために必要な鋼板の面積S2が従来のダンパーを製作するために必要な鋼板の面積S1の半分程度で済むことと、接合部31、31を塑性変形部2の幅方向両側に配置できることから、1枚の板の内、ダンパー1を製作するために除去すべき領域が縮小される。
【0039】
従来のダンパーの場合には、図2−(a)に示すように塑性変形部2の幅方向両側の五角形状の領域は接合部31に使用されることがない無用の領域であり、この領域を接合部31として使用する考えはない。一方、塑性変形部2の幅方向両側の領域を塑性変形部2の一部に取り込むことは面内剛性を大きくさせることであり、塑性変形部2の塑性変形能力を低下させることになるため、ダンパーからは不在にする必要がある。
【0040】
これに対し、本発明では図1−(a)に示すように接合部31を塑性変形部2の幅方向両側に配置できることで、除去すべき領域としては塑性変形部2と接合部31、31を分離させるためのスリット(縦スリット5)が形成されればよく、無駄に廃棄される材料が節減される。従って除去部分の領域が原形である1枚の鋼材の面積に占める割合が小さく、原料の鋼材に対する、1枚のダンパーの製作に要する鋼材量の比率が大きくなるため、製作効率が高まる。
【0041】
極端に言えば、図4−(a)に示すようにダンパー1本体1Aに対しては、本体1Aを大きく塑性変形部2の軸方向両側に二分する横スリット4と、横スリット4の塑性変形部2側の端部から、塑性変形部2の軸方向に、塑性変形部2と接合部31、31に区分する縦スリット5が入れられればよい。横スリット4は加工前の鋼板の周囲から塑性変形部2の幅方向側面に到達するまで入れられればよい。図4−(b)は図1−(a)に示す形状のダンパー1と図4−(a)に示す形状のダンパー1を組み合わせた形状に形成した場合の例を示している。
【0042】
「接合部31、31」に生ずる曲げモーメントを「塑性変形部2」の軸方向(Y方向)に生ずる曲げモーメントの最大値Mb以下にするには、図1−(a)に破線で示すように塑性変形部2の軸方向(Y方向)両端の位置を通り、せん断力作用方向(X方向)に平行な直線より、塑性変形部2の軸方向(Y方向)中心側寄りの位置(範囲)に接合部31、31のY方向中心部を配置すればよい。但し、塑性変形部2と接合部31、31はダンパー1の一部であるため、塑性変形部2に連続する接合部31、31が塑性変形部2の幅方向両側に位置する状態になるには、塑性変形部2と接合部31、31を連続させるためのつなぎの領域が必要である。
【0043】
そこで、塑性変形部2のせん断力作用方向に垂直な方向(Y方向)の両端部に、塑性変形部2と接合部31、31を連続させるつなぎ部32を連続させ、このつなぎ部32のせん断力作用方向両側に接合部31、31を連続させて形成することで(請求項2)、塑性変形部2と接合部31、31の連続性が確保される。
【0044】
請求項2ではつなぎ部32は機能的には塑性変形部2と接合部31、31を連続させる働きをするが、つなぎ部32が構造部材6に重なる場合には、つなぎ部32に接合部31の機能を兼ねさせることができる。このため、つなぎ部32が接合部31として機能する場合には、接続部3での構造部材6への接合状態において構造部材6と弾塑性ダンパー1を面内方向に分離させようとするせん断力に対する抵抗力(せん断抵抗力)を高め、構造部材6と弾塑性ダンパー1との一体性の効果を向上させることが可能になる。図1−(a)ではつなぎ部32にもボルト15が挿通する挿通孔3aを形成した様子を示している。
【0045】
接合部31、あるいは接合部31とつなぎ部32が構造部材6にボルト15により接合される場合、構造部材6とダンパー1を面内方向に分離させようとするせん断力の作用時には、接合部31の挿通孔3aを挿通するボルト15には軸に直交する方向のせん断力が作用するため、ボルト15はせん断抵抗力により、あるいは構造部材6との間の摩擦力により外力に抵抗することになる。
【0046】
図1−(a)、図4以下に示す本発明のダンパー1は図6−(a)〜(d)に示すようにせん断力作用方向(X方向)に接合部31を挟んで塑性変形部2が複数、配列する形状に形成されることもある(請求項4)。この場合、1個のダンパー1が複数個の塑性変形部2を持つことで、エネルギ吸収能力が高い利点を有する。
【0047】
「接合部31を挟んで塑性変形部2が複数、配列する」とは、図6−(a)、(b)に示すようにせん断力作用方向(X方向)に複数の塑性変形部2と接合部31が交互に、あるいは図6−(c)、(d)に示すように接合部31が両端部に集約して配列することを言い、ダンパー1(本体1A)全体ではせん断力作用方向(X方向)の両側に接合部31が位置する。「塑性変形部2が複数、配列すること」で、請求項4のダンパー1は例えば図6−(a)、(b)に示すように図1−(a)、図4等に示す「塑性変形部2」が単一のダンパー1をせん断力作用方向(X方向)に連ねた形になり、図1−(a)等に示すダンパー1を、接合部31を重複させながら、接合部31の位置でせん断力作用方向に折り返した形状になる。
【0048】
図6−(a)は図1−(a)に示す形状のダンパー1の塑性変形部2がせん断力作用方向(X方向)に接合部31を挟んで複数、配列する形状にダンパー1を形成した場合、(b)は図4−(a)に示す形状のダンパー1の塑性変形部2がせん断力作用方向(X方向)に接合部31を挟んで複数、配列する形状にダンパー1を形成した場合を示している。図6−(c)、(d)は形態的にはそれぞれ図6−(a)、(b)において、X方向に隣接する塑性変形部2、2間の接合部31を省略した形に相当する。図6−(b)ではX方向中間部に1個の塑性変形部2を形成しているが、(d)では中間部に2個の塑性変形部2を配置している。
【発明の効果】
【0049】
塑性変形部に関してせん断力作用方向に垂直な方向の両側寄りに位置し、構造部材に接続される接続部が塑性変形部のせん断力作用方向両側に分散して位置する接合部を有し、両接合部が塑性変形部のせん断力作用方向に垂直な方向の中心寄りに位置しているため、接合部と塑性変形部をせん断力作用方向に並列させることができる。
【0050】
この結果、塑性変形部の軸方向両側の接続部間へのせん断力の作用時に接合部が受ける曲げモーメントを塑性変形部に軸方向に生ずる曲げモーメントの最大値Mb以下に抑えることもできるように、接合部は塑性変形部の軸方向端部が負担する曲げモーメントを、従来のダンパーより小さい曲げモーメントで負担すればよいため、接合部の面積を従来のダンパーの接合部より小さくすることができる。従って塑性変形部と接続部を合わせたダンパー全体の面積を同一面積の塑性変形部を持つ従来のダンパー全体の面積より小さくすることができ、その分、必要な鋼材使用量も削減されるため、製作コストの大幅な削減が図られる。
【0051】
また接合部を塑性変形部の幅方向両側に配置できることで、1枚の鋼材(鋼板)からダンパーを製作する場合に、除去すべき領域としては塑性変形部と接合部を分離させるためのスリットを形成すればよく、無駄な材料を節減できるため、除去部分の領域が原形である1枚の鋼材の面積に占める割合が小さく、原料の鋼材に対する、1枚のダンパーの製作に要する鋼材量の比率が大きくなるため、製作効率が高まる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】(a)は本発明の弾塑性ダンパーの基本的な製作例を示した立面図、(b)は塑性変形部がせん断力を受けたときに塑性変形部に生ずる曲げモーメントの分布状態を示した曲げモーメント図である。
【図2】(a)は従来の弾塑性ダンパーの基本的な製作例を示した立面図、(b)は塑性変形部がせん断力を受けたときに塑性変形部に生ずる曲げモーメントの分布状態を示した曲げモーメント図である。
【図3】図2に示す従来の弾塑性ダンパーに、同一形状、同一面積の塑性変形部を持つ図1−(a)に示す本発明の弾塑性ダンパーを重ねた様子を示した立面図である。
【図4】(a)は本発明の弾塑性ダンパーを製作する上で、鋼材の無駄を極力少なくした場合の製作例を示した立面図、(b)は図1−(a)に示す形状の塑性変形部を持つ弾塑性ダンパーを製作する上で、鋼材の無駄を極力少なくした場合の製作例を示した立面図である。
【図5】(a)は図4−(b)に示す製作例の弾塑性ダンパーの変形例として接合部の領域(面積)を拡大した場合の例を示した立面図、(b)は(a)に示す弾塑性ダンパーがせん断力を受けて変形を生じたときの様子を示した立面図である。
【図6】(a)は図1−(a)に示す形状の弾塑性ダンパーの塑性変形部がせん断力作用方向(X方向)に接合部を挟んで複数、配列する形状に弾塑性ダンパーを形成した場合の製作例を示した立面図、(b)は図4−(a)に示す形状の弾塑性ダンパーの塑性変形部がせん断力作用方向(X方向)に接合部を挟んで複数、配列する形状に弾塑性ダンパーを形成した場合の製作例を示した立面図、(c)は(a)に示す弾塑性ダンパーにおける、X方向に隣接する塑性変形部間の接合部を省略した形に弾塑性ダンパーを形成した場合の製作例を示した立面図、(d)は(b)に示す弾塑性ダンパーにおける、X方向に隣接する塑性変形部間の接合部を省略し、X方向中間部に2個の塑性変形部を配置した形に弾塑性ダンパーを形成した場合の製作例を示した立面図である。
【図7】図1−(a)に示す弾塑性ダンパーの構造部材への設置(接合)例を示した立面図であり、(a)は構造部材が分離した梁部材の場合、(b)は分離した間柱の場合、(c)はブレースと梁部材の場合である。
【図8】図4−(b)、あるいは図5に示す弾塑性ダンパーの他の構造部材への設置(接合)例を示した立面図であり、(a)は構造部材が分離した梁部材の場合、(b)は分離した間柱の場合、(c)は分離した梁部材の場合である。
【発明を実施するための形態】
【0053】
以下、図面を用いて本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0054】
図1−(a)は互いに分離した構造部材6、6間に跨って設置され、面内方向のせん断力を受けて変形する、本体1Aが板状の曲げ降伏型弾塑性ダンパー(以下、ダンパー)1の製作例を示している。構造部材6、6は直接、力の伝達がされない状態に互いに分離していればよく、構造物内での部位は問われない。具体的には分離した梁部材同士、柱部材同士、間柱同士の他、耐震壁やブレースと柱・梁のフレーム同士等があり、構造部材6には基礎も含まれる。
【0055】
図1−(a)等はダンパー1に作用するせん断力の作用方向(X方向)に垂直な方向(Y方向)を上下に向けた状態で示しているが、構造部材6、6へのダンパー1の設置状態で水平方向にせん断力が作用するとは必ずしも限らず、図7−(a)、図8−(a)、(c)に示すように設置状態で鉛直方向にせん断力が作用することもある。
【0056】
例えば図7−(a)に示すように構造部材6、6が水平方向に隣接する柱11、11間に架設され、互いに分離した梁(梁部材)12、12である場合には、柱11と梁12からなるフレームの層間変形時に、構造部材6、6(梁(梁部材)12、12)間には鉛直方向に相対変形が生じ、せん断力の作用方向は鉛直方向になるから、ダンパー1は図1−(a)等の向きの状態から90度、回転させた状態で構造部材6、6間に設置される。
【0057】
図7−(b)に示すように構造部材6が鉛直方向に隣接する梁12、12間に架設され、互いに分離した間柱(あるいは壁)13、13である場合には、フレームの層間変形時に構造部材6、6(間柱13、13)間に水平方向に相対変形が生じ、せん断力の作用方向は水平方向になるから、ダンパー1は図1−(a)等の向きのまま、構造部材6、6間に設置される。
【0058】
図7−(c)は一方の構造部材6がブレース14で、他方の構造部材6がフレームを構成する梁12である場合のダンパー1の設置状態を示しているが、この場合、構造部材6、6間には水平方向に相対変形が生じるから、ダンパー1は図7−(b)の場合と同様、図1−(a)等の状態のまま、構造部材6、6間に設置される。ブレース14が柱11にダンパー1を介して接合される場合には、相対変形は鉛直方向になるから、ダンパー1は図7−(a)と同じ向きで使用される。
【0059】
ダンパー1の本体1Aは図1−(a)等に示すように本体1Aの中心部、もしくはその付近に位置し、矢印で示すX方向のせん断力を負担して曲げ降伏し得る塑性変形部2と、せん断力の作用方向(X方向)に垂直な方向(Y方向)の、塑性変形2部の両側に位置し、各構造部材6に接続される接続部3、3の3部分を備える。図1−(a)中、本体1Aの中心部において概略台形をX方向に線対称形に組み合わせた鼓形のような形状の領域が塑性変形部2を示している。図面では製作のし易さと構造部材6への接合のし易さから、本体1Aの外形を方形状に形成しているが、本体1Aの外形形状は任意であり、多角形状、楕円形状、円形状等にも形成される。
【0060】
各接続部3は塑性変形部2のせん断力作用方向(X方向)両側に分散して位置する接合部31、31を有し、両接合部31、31は塑性変形部2のせん断力作用方向(X方向)に垂直な方向(Y方向)の中心寄りに位置している。図1−(a)中、ハッチングを入れた領域が接合部31の一部を示しているが、図面ではハッチングで示した領域からY方向の端部までの連続した領域にも挿通孔3aを形成し、ハッチングで示した領域とY方向の端部までの連続した領域を接合部31として使用している。塑性変形部2のせん断力作用方向(X方向)に垂直な方向(Y方向)の中心は図1−(a)に示す概略台形を連ねた鼓形のような形状の塑性変形部2の最も幅の小さい部分を指す。せん断力作用方向(X方向)に垂直な方向(Y方向)は塑性変形部2の軸方向でもある。
【0061】
接合部31、31は接続部3の内、X方向両側に位置し、且つX方向の各側に付き、Y方向には塑性変形部2の軸方向(Y方向)の中心側寄りに位置し、両接合部31、31と塑性変形部2はX方向に並列する。このX方向両側に位置する接合部31、31を接続部3の一部として連続させるために、塑性変形部2の軸方向(Y方向)の両端部には接続部3を構成する(接続部3の一部となる)つなぎ部32が連続して形成される。このつなぎ部32のX方向両側部分からY方向の中心側へハッチングで示す接合部31、31の一部が連続して形成される。
【0062】
接続部3は少なくとも接合部31において構造部材6に接合されるが、つなぎ部32は接続部3の一部であるため、図面では接合部31に加え、つなぎ部32にも構造部材6へのボルト15による接合のための挿通孔3aを形成し、接続部3の全体を接合部31として利用している。
【0063】
本発明では接続部3の全体が図2−(a)に示す従来のダンパーにおける接合部と同等の機能を果たし(エネルギ吸収能力を発揮し)ながらも、接合部31が塑性変形部2の軸方向(Y方向)中心寄りに位置していることで、接続部3、3間に作用するせん断力により接続部3全体が負担する曲げモーメントが低減されるため、挿通孔3aの形成数は図2−(a)との対比では削減されている。図2−(a)の塑性変形部と同一面積の塑性変形部2を持つ図1−(a)のダンパー1の場合、接続部3の面積は図2−(a)のダンパーの接合部の50%程度の大きさになっており、それに伴い、挿通孔3aの数は従来のダンパーより少なくなっている。
【0064】
図4−(a)、(b)はダンパー1本体1Aの原形となる鋼材(鋼板)が方形状である場合に、1枚の鋼材からダンパー1を製作する上で、除去される部分が少なく、無駄の少ない形状にダンパー1を製作した場合の製作例を示している。図4−(a)、(b)では鋼材(鋼板)の除去部分を縦と横の二方向のスリットのみにしている。
【0065】
ダンパー1の本体1Aを大きく区分すれば、本体1Aの中心部、もしくはその付近の領域を占める塑性変形部2と、その軸方向(Y方向)両側に位置する接続部3、3の3部分(領域)に区分される。従って本体1Aをこの3部分に区分する上では、図4−(a)に示すようにせん断力作用方向(X方向)を横に向け、垂直な方向(Y方向)を縦に向けた状態で、本体1Aの縦向きの外周縁のY方向中間部(中央部)からX方向に平行に本体1Aの中途まで横スリット4を入れ、その横スリット4の本体1A中心部側の先端位置からY方向に平行に本体1Aの中途まで縦スリット5を入れることにより本体1Aが3部分に区分される。
【0066】
横スリット4の方向は必ずしもX方向に平行であるとは限らず、X方向に対して傾斜することもある。また横スリット4は本体1Aの縦向きの外周縁のY方向中央部から入れられるとも限らない。同じく図4−(b)に示すように縦スリット5の方向も必ずしもY方向に平行であるとは限らず、Y方向に対して傾斜することもある。
【0067】
横スリット4は基本的に本体1Aの縦向きの外周縁の全長の内、その方向の中間部位置、特に中央部位置から、塑性変形部2の外形を区画する位置までX方向に入れられる。横スリット4の端部である、塑性変形部2を区画する位置からY方向に縦スリット5が塑性変形部2の軸方向(Y方向)の端部を区画する位置まで入れられる。縦スリット5の端部である塑性変形部2の軸方向(Y方向)の端部を区画する位置は接続部3との境界でもある。本体1Aは縦スリット5の形成によってX方向に塑性変形部2と接合部31の一部とに区画される。本体1Aは横スリット4の形成によってY方向には塑性変形部2の軸方向両側に位置する接続部3、3の接合部31、31に区分される。
【0068】
図4−(b)は図4−(a)に示す要領で横スリット4と縦スリット5を入れる上で、縦スリット5によって区画される塑性変形部2の立面形状が図1−(a)に示すダンパー1の塑性変形部2に近い形状になるように縦スリット5の方向をY方向に対して角度を付けた場合の例を示している。ここでは縦スリット5を横スリット4の端部から両接続部3、3側へかけて塑性変形部2の軸方向(Y方向)を向く中心線からの距離が大きくなるような傾斜を付けて形成している。
【0069】
図4−(b)では縦スリット5の接続部3寄りの端部を塑性変形部2の軸方向(Y方向)に平行に近い方向からX方向に平行に近い方向へ縦スリット5の傾斜角度を変えているが、このようにすることで、塑性変形部2の軸方向の端部の幅を接続部3へかけて緩やかに拡大することができる。結果として、塑性変形部2の軸方向端部の幅が急激に変化する箇所の形成がなくなるため、塑性変形時に塑性変形部2の軸方向端部付近に応力が集中することが回避される利点がある。
【0070】
図5−(b)は(a)に示すダンパー1の接続部3、3が構造部材6、6に接合された使用状態で、両構造部材6、6間に互いに平行なまま相対変形が生じ、ダンパー1にせん断力が作用、塑性変形部2に曲げモーメントが作用したときの様子を示す。ここに示すようにダンパー1は塑性変形部2が曲げ変形を伴うせん断変形を生ずることにより構造部材6、6間の相対変形に追従する。
【0071】
図5−(a)は図4−(b)に示す製作例のダンパー1の変形例として、塑性変形部2の両側の接合部31、31の領域(面積)を拡大し、構造部材6への接合状態における構造部材6、6間に作用するせん断力に対する抵抗力を増大させた場合の製作例を示している。(b)は(a)に示すダンパー1がX方向にせん断力を受けて変形を生じたときの様子を示している。
【0072】
図5−(b)では塑性変形部2のせん断変形時の挙動として塑性変形部2の上側に位置する接続部3が下側の接続部3に対して図面上、左側へ相対移動(相対変形)したときの様子を示している。この上側の接続部3に着目すれば、その接続部3の内、塑性変形部2に関して右側に位置する接合部31は塑性変形部2に接近しようとし、左側に位置する接合部31は塑性変形部2から遠ざかろうとする。
【0073】
図5−(b)は塑性変形部2を挟んで上側(下側)に位置する接続部3が下側(上側)に位置する接続部3に対して左側(右側)へ相対変形しているときの様子を示しているが、相対変形はせん断力作用方向(X方向)の正負の向きに交互に生ずるため、図5−(b)の次の場面では上側(下側)に位置する接合部31が下側(上側)に位置する接続部3に対して右側(左側)へ相対変形する。
【0074】
このように両接続部3、3間の相対変形時には、塑性変形部2に接近しようとする側(図5−(b)の右上側と左下側)の接合部31と塑性変形部2との間の縦スリット5の幅である対向する内周面は互いに接近し、縦スリット5の対向する内周面が互いに接触するまでは、両接続部3、3間にせん断力作用方向(X方向)に相対変形が生じ得る。詳しく言えば、両接続部3、3間の相対変形時には、塑性変形部2の軸方向(Y方向)の中心に関して点対称の位置関係にある右上側の接合部31と左下側の接合部31の各塑性変形部2側の側面(縦スリット5の内周面)が、それぞれに対向する塑性変形部2の側面(縦スリット5の内周面)に接近する。
【0075】
この結果、両接続部3、3間の相対変形が進行することで、双方の対向する側面(縦スリット5の対向する内周面)が互いに接触し、互いに接触すれば、接触時以降の相対変形が制限されるため、双方の対向する側面は塑性変形部2に対する接合部31(接続部3)の相対変形量、あるいは両接続部3、3間の相対変形量を制限するストッパとしての機能を果たし得ることになる。「縦スリット5の対向する内周面」は縦スリット5の全周の内、せん断力作用方向(X方向)に対向する内周面を指し、「内周面間距離」は縦スリット5の幅であり、せん断力作用方向(X方向)に対向する内周面間の距離を言う。
【0076】
図5−(b)の次の瞬間には両接続部3、3は塑性変形部2の軸方向(Y方向)に関して線対称に挙動するため、塑性変形部2の軸方向の中心に関して点対称位置にある左上側の接合部31の塑性変形部2側の側面(縦スリット5の内周面)と右下側の接合部31の塑性変形部2側の側面(縦スリット5の内周面)が共に塑性変形部2の側面に接近し、ストッパとして機能し得る。縦スリット5の対向する内周面が互いに平行なまま、塑性変形部2の変形に追従する場合には、縦スリット5の対向する内周面は全長に亘って一様に接触するため、全長がストッパになるが、内周面が平行な状態を維持しない場合には、最初に接触する内周面同士がストッパになる。
【0077】
このように塑性変形部2に接近しようとする側(図5−(b)中、右上側と左下側)の接合部31の側面(縦スリット5の内周面)と塑性変形部2の側面(縦スリット5の内周面)との間において、縦スリット5の対向する内周面同士が全長、あるいは少なくとも一定区間に亘って一様に接触する状態を得ることが可能になる。縦スリット5の対向する内周面同士が少なくとも一定区間に亘って一様に接触することで、その状態から更に縦スリット5の内周面間距離が縮小することはないため、内周面同士が接触した状態以降の塑性変形部2の変形が阻止され、両接続部3、3間の相対変形量(塑性変形部2の変形量)が制限される。
【0078】
縦スリット5の対向する内周面同士の接触により両接続部3、3間の相対変形量が制限されることで、ある構面内、例えば柱・梁のフレーム内に塑性変形部2の曲げ剛性、あるいはせん断剛性の相違する複数個のダンパー1が配置される場合に、これら複数個のダンパー1を降伏強度の小さい順に段階的に機能させることが可能になる。
【0079】
例えば柱・梁のフレーム内に、曲げ剛性の相違する複数個の曲げ変形型のダンパーを配置したとしても、従来のように各ダンパーの変形量に制限がなければ、最初に降伏した、曲げ降伏強度の最も小さいダンパーが変形しきるまで変形しながらせん断力を負担するため、そのダンパーより降伏強度の高いダンパーを降伏させることにはならない。結局、複数個のダンパーを一フレーム内に配置しても、これらを段階的に降伏させることはできない。
【0080】
すなわち、従来のダンパーを一フレーム内に複数個、配置しても、全ダンパーが段階的に機能する訳ではないため、複数個分のエネルギ吸収効果を期待することはできず、一フレーム単位では1個のダンパーを配置したことと違いがない。従って、例えばフレームの梁(梁部材)にダンパーを設置するとすれば、梁の中央部に1個のダンパーを設置することになる。
【0081】
これに対し、図5−(b)の例では塑性変形部2のせん断変形量(曲げ変形量)が制限されていることで、降伏強度の相違する(相対変形量が制限された)複数個のダンパー1を一フレーム内に配置したとき、最も降伏強度の小さいダンパー1の変形量が制限された時点で、そのダンパー1はそれ以上の変形が進行しなくなるため、次に降伏強度の小さいダンパー1が降伏を開始し、塑性変形をすることになる。このように降伏強度の相違する複数個のダンパー1が一フレーム内に設置されることで、降伏強度の小さい順に段階的に機能することが可能になる。
【0082】
このことから、図5−(b)の例では従来はエネルギ吸収効果を期待する上で、意味を持たなかった一フレーム内への複数個のダンパー1の配置が意味を持つにようになり、複数個の配置により全ダンパー1を有効に機能させ、エネルギ効果を発揮させることが可能になる。
【0083】
図6−(a)、(b)はせん断力作用方向(X方向)に接合部31を挟んで複数個の塑性変形部2が配列する形状にダンパー1を形成した場合の製作例を示す。図6−(a)は図1−(a)に示す形状のダンパー1の塑性変形部2がせん断力作用方向(X方向)に接合部31を挟んで2個、配列する形状にダンパー1を形成した場合、(b)は図4−(a)に示す形状のダンパー1の塑性変形部2がせん断力作用方向(X方向)に接合部31を挟んで3個、配列する形状にダンパー1を形成した場合である。これらの場合、ダンパー1が複数個の塑性変形部2を持つことで、複数個分のダンパー1のエネルギ吸収能力を持つことになる。
【0084】
図6−(c)、(d)はそれぞれ図6−(a)、(b)の変形例であり、(a)、(b)におけるX方向に隣接する塑性変形部2、2間の接合部31を省略した形にダンパー1を形成した場合の製作例を示す。図6−(c)、(d)に示す製作例の場合、X方向中間部の接合部31が不在になることで、X方向中間部に接合部31がある(a)、(b)に示す製作例との対比では、同等のエネルギ吸収能力を持ちながらも、ダンパー1のX方向長さを短縮し、ダンパー1全体の面積を縮小させることができ、ダンパー1の小型化が図られる利点がある。図6−(c)、(d)に示す例では隣接する塑性変形部2、2間の接合部31が省略された形をすることで、接合部31がX方向両側にのみ配置されるため、(d)ではX方向両側の接合部31の構造部材10への接合状態における構造部材10からの分離に対する安定性向上のために、ボルト15用の挿通孔3aを2列に配列させている。
【0085】
図7−(a)は前記の通り、図1−(a)に示すダンパー1をその向きから90度、回転させた状態で互いに分離した、構造部材10としての梁(梁部材)12、12間に跨設した場合の例を示している。柱11と梁12からなるフレームの層間変形時には、梁(梁部材)12、12のウェブ間に(フレームの構面内で)せん断変形が生じようとするため、ダンパー1はフレームの構面内方向に面内方向を向けた状態で、例えば両梁(梁部材)12、12のウェブに重なってボルト15等により接合される。図面では構造部材10(梁12のウェブ等)の片面にダンパー1を重ねて接合している様子を示しているが、ダンパー1は構造部材10(梁12のウェブ等)の両面に重なって接合されることもある。
【0086】
図7−(b)は図1−(a)に示すダンパー1をその向きのまま、互いに分離した、構造部材10としての間柱(壁)13、13間に跨設した場合の例を示している。この場合、フレームの層間変形時には、間柱13、13のウェブ間に(フレームの構面内で)せん断変形が生じようとするため、ダンパー1は図8−(a)と同様にフレームの構面内方向に面内方向を向けた状態で、例えば両間柱13、13のウェブに重なってボルト15等により接合される。
【0087】
図7−(c)は図1−(a)に示すダンパー1をその向きのまま、互いに分離した、構造部材10としてのブレース14と、構造部材10としてのフレームを構成する梁12との間に跨設した場合の例を示している。この場合、フレームの層間変形時には、図7−(b)と同様、ブレース14と梁12との間にフレームの構面内でせん断変形が生じようとするため、ダンパー1はフレームの構面内方向に面内方向を向けた状態で、ブレース14と梁12との間に跨って双方に直接、もしくは間接的に接合される。図面ではブレース14と梁12からそれぞれガセットプレート18、18を突設し、両ガセットプレート18、18にダンパー1をボルト15により接合している。
【0088】
図8−(a)〜(c)は図5−(b)に示すように縦スリット5の対向する内周面が変形制限機能を発揮し得るダンパー1の柱・梁のフレーム内への設置例を示す。変形制限機能付きのダンパー1は一構面(一フレーム)内に複数個、設置されたときに、降伏強度の小さい順に段階的に曲げ降伏していくことが可能であるから、図8では一構面(一フレーム)内に降伏強度の異なる複数個のダンパー1を設置している。
【0089】
図8−(a)はフレームを構成する柱(柱部材)11、11から梁12を構成する、構造部材10としてのブラケット16、16を突設し、両ブラケット16、16間に構造部材10としての梁部材12を架設し、ブラケット16と梁部材12のウェブ間にダンパー1を跨設した場合の例を示している。ブラケット16と梁部材12のフランジ間には継手部材17を跨設している。
【0090】
梁(梁部材)12は現場での作業性の面より、図8−(a)に示すように柱11、11間に亘る全長の内、予め柱(柱部材)11に一体化させられる柱側の一部区間であるブラケット16と、両ブラケット16、16間に配置される中間区間である梁部材12とに分割されることが多く、梁部材12は現場でブラケット16、16に接合される。梁部材12と両側のブラケット16、16とは双方のウェブ間及びフランジ間に跨る継手部材17によって接合される。
【0091】
図8−(b)はフレームを構成する梁(梁部材)12、12から間柱(壁)13を構成する、構造部材10としてのブラケット16、16を突設し、両ブラケット16、16間に構造部材10としての間柱13の部材を架設し、ブラケット16と間柱13の部材のウェブ間にダンパー1を跨設した場合の例を示している。ブラケット16と間柱13の部材のフランジ間には継手部材17を跨設している。図7−(b)、図8−(b)に示す間柱(壁)13は図7−(c)に示すブレース14と同様、フレーム内では耐震要素として機能するが、間柱13の幅(成)が拡大すれば、間柱13は耐震壁に相当する。
【0092】
図8−(c)は図7−(a)と同様に、フレームを構成する柱(柱部材)11、11から梁12を構成する、構造部材10としての梁部材12、12を片持ち梁状態で、互いに分離した状態で突設し、分離した梁部材12、12のウェブ間にダンパー1を跨設した場合の例を示している。図8−(c)では梁部材12、12のフランジ間に継手部材17を跨設しているが、図7−(a)と同様に継手部材17は跨設されないこともある。
【符号の説明】
【0093】
1……弾塑性ダンパー、1A……本体、
2……塑性変形部、
3……接続部、31……接合部、32……つなぎ部、3a……挿通孔、
4……横スリット、5……縦スリット、
6……構造部材、
11……柱(柱部材)、12……梁(梁部材)、
13……間柱(壁)、14……ブレース、
15……ボルト、16……ブラケット、
17……継手部材、18……ガセットプレート。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに分離した構造部材間に跨って設置され、面内方向のせん断力を受けて変形し、曲げ降伏する板状の弾塑性ダンパーであり、
板状の本体の中心部、もしくはその付近に位置し、前記せん断力を負担して曲げ降伏し得る塑性変形部と、前記塑性変形部に関して前記せん断力作用方向に垂直な方向の両側寄りに位置し、前記各構造部材に接続される接続部の3部分を備え、
前記各接続部は前記塑性変形部の前記せん断力作用方向両側に分散して位置する接合部を有し、この両接合部は前記塑性変形部の前記せん断力作用方向に垂直な方向の中心寄りに位置していることを特徴とする曲げ降伏型弾塑性ダンパー。
【請求項2】
前記塑性変形部の前記せん断力作用方向に垂直な方向の両端部につなぎ部が連続し、このつなぎ部の前記せん断力作用方向両側に前記接合部が連続していることを特徴とする請求項1に記載の曲げ降伏型弾塑性ダンパー。
【請求項3】
前記塑性変形部は前記せん断力の作用時に、前記せん断力作用方向に垂直な方向を向く軸に関して前記せん断力作用方向に交互に生ずる曲げモーメント分布に対応した立面形状をしていることを特徴とする請求項1、もしくは請求項2に記載の曲げ降伏型弾塑性ダンパー。
【請求項4】
前記せん断力作用方向に前記接合部を挟んで前記塑性変形部が複数、配列していることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の曲げ降伏型弾塑性ダンパー。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−241747(P2012−241747A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−110080(P2011−110080)
【出願日】平成23年5月17日(2011.5.17)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【Fターム(参考)】