説明

曲管塗覆装方法および曲管塗覆装装置

【課題】金属曲管を管端で安定支持できて加熱後の塗覆装が短時間で済むようにする。
【解決手段】被施工管体10の凹側管端12に手掛り金具22を装着し、凸側管端13に受け金具23を装着し、加熱設備32にて被施工管体10を装着金具ともども加熱し、手掛り金具22のところで吊って被施工管体10を懸垂態様の姿勢で塗覆装設備33へ移送し、曲管塗覆装装置40では、支持体50の上端部52の支承部材54に被施工管体10の凸側管端13を受け金具23のところで支承させて懸垂態様の姿勢を保ち、被施工管体10を模した曲線形状の案内軌条43に対して走行体44を走行させることにより被施工管体10に沿って静電粉体塗装ガン62を移動させて吹付け塗装を行い、その後、手掛り金具22のところで吊って被施工管体10を放熱設備34等へ払い出す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、曲管部を有する金属管を被施工管体として、その外周面に粉体樹脂を原料とする融着方式により樹脂被覆を施すための曲管塗覆装方法および曲管塗覆装装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば地上に敷設される管路や,地中に埋設される管路,海底に沈められる管路など、腐蝕しやすい環境に設置される管路等の場合、それに用いられる炭素鋼管や,ステンレス鋼管,鋳鉄管などの金属管には、外面にも防食が必要であるため、通常はポリエチレンやエポキシ樹脂によるコーティングが施される。
【0003】
直管の場合、ポリエチレンでは、押出し被覆方式(すなわち管体を走行させて行きながら管体の加熱と押出し機から押出されたポリエチレンの加熱溶融膜体(極く高粘度)による被覆と冷却固化とを行う方式)によって、高能率な連続被覆施工が行われる。また、エポキシ樹脂では、静電粉体塗装ブース通過方式(すなわち、管体を走行させて行きながら、管体の加熱と、複数の静電粉体塗装ガンを配した塗装ブースを通過させて樹脂を融着成膜させる操作と、熱硬化のための所定温度での経時とを行う方式)によって、高能率な連続被覆施工が行われる。
【0004】
これに対して、曲管の場合、流動浸漬被覆方式(すなわち、全体加熱した管体を、樹脂粉体を上昇気流で浮遊させ流動状態にした流動槽に浸漬して融着成膜させる方式)があるが(例えば特許文献1参照)、この方式は、熱可塑性のポリエチレンに利用できても、粉体塗料の熱劣化が進みやすい熱硬化性のエポキシ樹脂には利用できない。能率もあまり良くない。
また、手吹き静電粉体塗装方式(すなわち全体加熱した管体に手吹き塗装を順次適用する方式)は、ポリエチレンにもエポキシ樹脂にも利用できるが、吹き始めから吹き終わりまでの間に管体温度が変化するため、膜厚分布管理や熱硬化品質管理に多大な注力を要するため、低能率かつ高コストになる。
【0005】
そこで、被施工管体が曲管部を有するものであっても誘導加熱の可能な金属管である場合には、被覆形成が高品質で能率良く行えるよう、加熱手段に誘導加熱方式を採用した曲管塗覆装装置が開発されている(例えば特許文献2参照)。この装置は、被施工管体を水平載置するための,飛石状に配置された支持台の群と、被施工管体に対して,粉体融着温度への加熱および樹脂粉体の投射適用ならびに成膜後の冷却とを順次適用するための,環状の誘導加熱装置および環状に配した塗装ガンの群ならびに環状の冷却ジャケットを貫通ハウジング内に配置するとともに該ハウジングに粉体回収機構を配備した塗装ブースと、この塗装ブースを被施工管体に沿って移動させるための移動機構とを備えている。
【0006】
しかも、支持台の夫々には、塗装ブースの移動に同期して退避する機構が配備されている。これにより、環状の塗装ブースを被施工管体に沿って移動させたときに塗装ブースと支持部材とが干渉してしまうという不都合が解消されるため、曲管部を有する金属管を水平載置してその外面に移動加熱方式併用の粉体融着方式により樹脂被覆を施すことができる。しかも、管体外周面に適用した樹脂粉体が支持部材に付着することもなく、融着した樹脂被覆が固まる前に支持部材によって不所望に変形させられることもない。
さらに、それを実用化した曲管塗覆装装置は、塗布むらを無くすため塗装ガンを周方向に揺動させたり、付着しなかった余分な樹脂粉体を塗装ブースから集塵機にて吸い出して回収するようにもなっている。
【0007】
【特許文献1】特公昭59−30470号公報
【特許文献2】特開2005−66422号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、このような従来の曲管塗覆装装置では移動方式での誘導加熱や樹脂被覆形成後の曲管部外周面等の再支承が行われるため、管体や樹脂がそれに適合しない場合には装置の利用が叶わない。すなわち、要求仕様に基づいて、被施工管体が誘導加熱できないものであったり、塗布した樹脂が再支承までの短時間で冷却できないような場合、上述した曲管塗覆装装置を用いて被覆形成を高品質で能率良く行うことができない。具体例を挙げると、管体外周面に適用する樹脂粉体が例えばポリエチレンの場合、融着状態では水を掛けることが許されないため、水冷ができないので、樹脂被覆形成後の曲管部等を急冷して再支承することができない。
【0009】
その場合、被施工管体を全体加熱してから樹脂被覆の不要な両端だけで管体を支持して塗覆装作業と徐冷等を行うことになるが、その塗覆装方法では、上述した手吹きであれ、何らかの機械を利用するのであれ、管体温度の変化が許容範囲たとえば210℃〜250℃に収まっている短時間たとえば4minのうちに塗覆装作業を終えなければならない。しかも、管体の過熱は避けたいので、加熱炉などの加熱場所から塗覆装作業場への管体移送時間も含めて、短時間で処理しなければならない。そして、塗覆装作業の高速化には、やはり塗装ガンを環状に配置させたうえで被施工管体に沿って移動させるのが好ましいが、両端だけで管体を支持するのでは管体全体を速やかに安定や静止させるのが難しい。
そこで、管端だけでも比較的安定に管体を支持できて加熱後の塗覆装を短時間に済ませられる曲管塗覆装方法を案出することが第一の技術課題となる。
【0010】
また、被施工管体を加熱場所から塗覆装作業場へ移送するときや塗覆装作業場から冷却場へ移送するときには工場等に既設のクレーン等で吊るのが好都合であり、その吊持時の姿勢と塗覆装時の姿勢とが異なると姿勢を変えたりする段取に時間が掛かるので、姿勢変更が無ければ、もっと好都合である。
そこで、曲管の両端のみの支持により管端が上がり管央部が下がった言わば懸垂状態のまま被施工管体を受け入れ塗覆装し払い出せる曲管塗覆装装置を実現することが第二の技術課題となる。
【0011】
さらに、塗装時に樹脂粉体が漏れると、それが塗装ブースの外面等に付着することになり、そこに塗装ガン揺動用の可動部材などがあると、その機能が損なわれてしまう。余分な樹脂粉体を集塵機にて塗装ブースから吸い出すといったことは従来から行われているが、静電塗装方式では静電力による不所望な箇所への塗着も強いため、十分ではない。
そこで、被施工管体外周面以外の可動部材などへの不所望な塗着といった不都合なしに静電塗装が行われる曲管塗覆装装置を実現することが第三の技術課題となる。
【0012】
また、被施工管体のサイズや形状は一定ではなく、多品種の曲管に樹脂被覆を施すことが要請されるので、管端支持タイプの曲管塗覆装装置であっても上述した従来装置のように種々の曲管に適合できるのが望ましい。
そこで、管体支承位置を簡便に変更できる曲管塗覆装装置を実現することが第四の技術課題となり、塗装ブース移動経路を簡便に変更できる曲管塗覆装装置を実現することが第五の技術課題となる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の曲管塗覆装方法(請求項1)は、上述した第一の技術課題を解決するために創案されたものであり、加熱設備と曲管塗覆装装置と吊下移送設備とを用いて被施工管体である金属曲管の外周面に樹脂被覆を施す曲管塗覆装方法であって、被施工管体の両端それぞれに吊下用の手掛り金具と支承用の受け金具とを装着し、前記加熱設備にて前記被施工管体を装着金具ともども加熱し、両端の手掛り金具のところを吊って前記吊下移送設備により前記曲管塗覆装装置へ移送し、両端の受け金具のところで支承させた懸垂態様で該曲管塗覆装装置に搭載し、次いで搭載被施工管体に沿って塗装機作用部を移動させて塗装を行ったのち、再び両端の手掛り金具のところを吊って前記吊下移送設備により該曲管塗覆装装置から払い出すことを特徴とする。
【0014】
また、本発明の曲管塗覆装装置(請求項2)は、上述した第一の技術課題の解決に資するとともに上述した第二の技術課題を解決するために創案されたものであり、両端に手掛り金具と受け金具とを装着された加熱状態の金属曲管を被施工管体としてその外周面に樹脂被覆を施すための曲管塗覆装装置であって、前記被施工管体の両端部を支持するための一対の支持体が対向配置され、前記被施工管体の端部を載せると前記受け金具のところで接して管端支承を行う支承部材が前記支持体それぞれの上端部に装備され、前記被施工管体を模した曲線形状の一対の案内軌条が前記支持体に支持された被施工管体の両側に一定間隔を保って並ぶ位置取りにて配設されており、前記支持体に支持される被施工管体を遊挿しうる分割可能な環状ハウジングに複数基の塗装ガンが管体遊挿箇所を取り巻く位置取りで装着された塗装機作用部が、前記案内軌条に対して走行可能に懸架された走行体に取り付けられている、ことを特徴とする。
【0015】
さらに、本発明の曲管塗覆装装置(請求項3)は、上述した第一の技術課題の解決に資するとともに上述した第二,第三の技術課題を解決するために創案されたものであり、上記の請求項2記載の曲管塗覆装装置であって更に、前記塗装ガンが静電粉体塗装ガンであり、前記ハウジングを周方向に往復回動させることにより前記塗装ガンを前記支持体に支持された被施工管体に対して揺動させる接輪転動機構が前記ハウジングの前記走行体との取合部に設けられ、集塵機から延びた吸気管が前記ハウジングに連通接続され、前記ハウジングが電気絶縁材からなる、ことを特徴とする。
【0016】
また、本発明の曲管塗覆装装置(請求項4)は、上述した第一の技術課題の解決に資するとともに上述した第二の技術課題を解決したうえで上述した第三の技術課題を高い水準で解決するために創案されたものであり、上記の請求項3記載の曲管塗覆装装置であって更に、前記接輪転動機構が前記ハウジングの内外周と接触転動する転動輪を具えたものであり、その転動輪のうち少なくとも前記ハウジングの内周と接触転動するものについてはそれに向けて空気を吹き付ける送気手段が並設されている、ことを特徴とする。
【0017】
また、本発明の曲管塗覆装装置(請求項5)は、上述した第一の技術課題の解決に資するとともに上述した第二〜第四の技術課題を解決するために創案されたものであり、上記の請求項4記載の曲管塗覆装装置であって更に、対向配置された前記支持体のうち何れか一方または双方を移動させて前記支持体間の距離を加減しうる支承距離調節機構が設けられていることを特徴とする。
【0018】
また、本発明の曲管塗覆装装置(請求項6)は、上述した第一の技術課題の解決に資するとともに上述した第二〜第五の技術課題を解決するために創案されたものであり、上記の請求項5記載の曲管塗覆装装置であって更に、前記案内軌条の保持機構が着脱式のものであり、前記案内軌条に沿った部分経路を含む巡回経路に亘ってチェーンやロープ等の牽引用長尺体が張り巡らされており、前記牽引用長尺体の両端が前記走行体に取り付けられており、前記牽引用長尺体を順送りする走行駆動手段と前記巡回経路を局所的に伸縮させる経路長調整手段とが設けられている、ことを特徴とする。
【0019】
また、本発明の曲管塗覆装装置(請求項7)は、上述した第一の技術課題の解決に資するとともに上述した第二,第四の技術課題を解決するために創案されたものであり、上記の請求項2,請求項3に記載の曲管塗覆装装置であって更に、対向配置された前記支持体のうち何れか一方または双方を移動させて前記支持体間の距離を加減しうる支承距離調節機構が設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
このような本発明の曲管塗覆装方法(請求項1)にあっては、曲管部を有する金属管の外周面に塗覆装を施すとき、先ず被施工管体の両端それぞれに手掛り金具だけでなく受け金具も装着する。そして、それらの装着金具を付けたまま被施工管体に対して加熱処理と吊下移動と塗覆装処理と吊下移動とが行われる。その間、被施工管体のうち両端以外の外周面には、塗覆装の要求仕様を満たすため、樹脂粉体等の被覆材は別として、何も取着されず、何も当接されない。しかも、設備間の移送が、手掛り金具を利用した掛止にて、開始時も終了時も迅速に行われる。さらに、塗覆装設備での塗覆装が曲管塗覆装装置を用いて高速化されるうえ、塗覆装時の管体姿勢について両端支承による懸垂態様として移送時の吊下姿勢が踏襲・維持されるので、塗装開始も塗装終了も迅速に行われる。
【0021】
また、曲管塗覆装装置が被施工管体を受け入れるとき、被施工管体は両端吊下状態から両端支承状態にされるが、その支承が受け金具のところで行われるので、管端が位置ずれしたり抜落ちたりするおそれがなく、被施工管体は比較的速やかに安定し静止する。
このように手掛り金具と受け金具を管端に取り付けたまま懸垂態様の姿勢を変えずに加熱と移送と塗覆装を行うようにしたことにより、管端だけを支持する形で安定に管体を支持することができる。
したがって、この発明によれば、加熱後の塗覆装を短時間に済ませられる曲管塗覆装方法を実現することができ、第一の技術課題が解決される。
【0022】
また、本発明の曲管塗覆装装置(請求項2)にあっては、環状ハウジングを分割して上半分を解放した状態で被施工管体を受け入れる。そして、被施工管体が手掛り金具を利用して両端だけで吊られ、管端が上がり管央部が下がった懸垂状態で被施工管体が移送されて来るので、管端が支承部材に載る位置で、被施工管体を下降させる。すると、被施工管体は、その懸垂態様の姿勢を維持したまま両端を支承され、軸方向の移動を受け金具と支承部材との干渉にて規制されて、速やかに安定する。なお、管凹部を横に振るブランコ様の揺れも速やかに減衰させるには、被施工管体と支承部材との接触を管体周方向の分散接触たとえば弧状接触や複数点接触などにして、摩擦制動を活用すると簡素かつ安価に具現化することができる。
【0023】
それから、ハウジングを環状にして走行させながら塗装ガンを作動させると、被施工管体に沿って移動しつつ被施工管体の外周面に樹脂粉体が塗付けられるので、被施工管体が曲管部を有するものであっても速やかに塗覆装が行われる。
塗覆装が済んだら環状ハウジングを再び分割して上半分を解放し、その状態で、手掛り金具を利用して両端だけで被施工管体を吊り上げる。これにより、被施工管体の払い出しも、両端だけを支持して、而も被施工管体の姿勢を変えないで、速やかに行われる。
したがって、この発明によれば、両端のみの支持により管端が上がり管央部が下がった懸垂状態のまま被施工管体を受け入れ塗覆装し払い出せる曲管塗覆装装置を実現することができ、第二の技術課題が解決される。
【0024】
さらに、本発明の曲管塗覆装装置(請求項3)にあっては、静電粉体塗装ガンを揺動可能に保持する環状ハウジングが電気絶縁体で作られているため、樹脂粉末をハウジングの内外面に引きつける静電引力がほとんど生じないので、余分な樹脂粉体はハウジングから集塵機にて効率よく吸い出される。そのため、例え接輪転動機構がハウジングに隣り合っていても、樹脂粉体が接輪転動機構に付着することがほとんどない。例え被施工管体と環状ハウジングとの間隙を広げたとしても、それが多少なら、間隙から漏れ出す樹脂粉体は、ほとんどないか、少ない。
したがって、この発明によれば、被施工管体外周面以外の可動部材などへの不所望な塗着といった不都合なしに静電塗装が行われる曲管塗覆装装置を実現することができ、第三の技術課題が解決される。
【0025】
また、本発明の曲管塗覆装装置(請求項4)にあっては、接輪転動機構における可動部材のうち最も樹脂粉体の到着しやすいハウジング内周側の転動輪に対して空気が吹き付けられるので、例え多少の樹脂粉体がハウジングから漏れ出たとしても、それが転動輪に付着して接輪転動機構の機能を損なうというおそれは全くない。
したがって、この発明によれば、被施工管体外周面以外の可動部材である転動輪への不所望な塗着といった不都合が全くない状態で静電塗装が行われる曲管塗覆装装置を実現することができ、第三の技術課題が高い水準で解決される。
【0026】
また、本発明の曲管塗覆装装置(請求項5)にあっては、支承距離調節機構を作動させることにより、簡便に、被施工管体の長さに適合するよう管体支承位置を変更することができる。
したがって、この発明によれば、管体支承位置を簡便に変更できる曲管塗覆装装置を実現することができ、第四の技術課題が解決される。
【0027】
また、本発明の曲管塗覆装方法および曲管塗覆装装置(請求項6)にあっては、案内軌条を付け替えることにより、被施工管体の曲りに適合するよう塗装ガン移動経路を変更することができる。そして、それに伴い、牽引用長尺体の巡回経路が変化して、その経路長が伸縮したときには、経路長調整手段にて牽引用長尺体の巡回経路を相殺側に伸縮させることにより、経路長の不所望な変化を容易かつ迅速に解消して、走行体ひいては塗装ガンを不都合なく移動させることができる。
したがって、この発明によれば、管体支承位置ばかりか塗装ガン移動経路を簡便に変更できる曲管塗覆装装置を実現することができ、第五の技術課題が解決される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
本発明の一実施形態(第1形態)について、先ず曲管塗覆装方法を、図面を引用して説明する。図1は、その手順を示し、(a)が被施工管体10の斜視図、(b)が手掛り金具22と受け金具23の斜視図、(c)がそれらの装着金具22,23を被施工管体10に取り付けたところの斜視図、(d)が吊下移送設備31のうち掛止用フックの外観図、(e)が加熱設備32のブースに係る斜視図相当の模式図、(f)が塗覆装設備33のブースに係る斜視図相当の模式図、(g)が放熱設備34の架台の斜視図である。
【0029】
この曲管塗覆装方法は、鋼管その他の金属製管体を被施工管体10として、その外周面に粉体融着方式により樹脂被覆を施すための塗覆装方法であるが、被施工管体10に曲管部11が含まれていても不都合なく施工できるようになっている。曲管部付き被施工管体10は(図1(a)参照)、全体が曲管になっていても良いが、管央部が円弧状の曲管部11であって残りの両端部が直管になっているものが多い。曲管部11が単一のものを前提としているので、被施工管体10には凹側と凸側とが明瞭に存在し、被施工管体10の両端それぞれに凹側管端12と凸側管端13とが存在している。被施工管体10の典型例は、直径150mm〜1000mm、肉厚10mm〜50mm、長さ2000mm〜5000mm、曲げ角10゜〜90゜、重量0.1t〜3t、材質が炭素鋼や,Cr鋼,ステンレス鋼などであるが、それに限定される訳ではない。
【0030】
また、この曲管塗覆装方法では、手掛り金具22及び受け金具23(図1(b),(c)参照)と、吊下移送設備31(図1(d)参照)と、加熱設備32(図1(e)参照)と、塗覆装設備33(図1(f)参照)と、放熱設備34(図1(g)参照)が用いられる。手掛り金具22及び受け金具23は(図1(b),(c)参照)、例えば鋳鉄やステンレスからなり、「コ」の字状に形成された本体部と、その対向片の一方の貫通雌ねじに螺合した小ボルトとを具えていて、本体部に管端を差し込んで小ボルトをねじ込こむことにより管端挟持状態で管端に取り付けられ、小ボルトを緩めれば管端から外せるようになっている。また、手掛り金具22には、吊り輪のような掛止部21が付いている。掛止部21は、吊下移送設備31のクレーンのフックを掛けるためのものであり、手掛り金具22を管端部に装着したとき、管外へ出るようになっている。
【0031】
吊下移送設備31は(図1(d)参照)、例えば、塗装工場に予めクレーンが設置されていればそれで良く、移動式のクレーンが利用できるならそれを塗装工場に入れて使用しても良く、要するに、被施工管体10の両端それぞれに掛ける一対の掛止部を具えていて、それらを同時に昇降や水平移動させられるようになっていれば良い。吊下移送設備31の掛止部は、手掛り金具22の掛止部21が図示のような輪の場合、鈎状のフックが一般的であるが、手掛り金具22の掛止部21をフックにすれば、吊下移送設備31の掛止部は、フックでなくて良く、例えば、リング状になっていても良く、鋳鉄製の剛な輪や、スチールワイヤ製の柔な輪でも良い。
【0032】
加熱設備32は(図1(e)参照)、天井の開いた遮熱用ブースに加熱炉を設置したものが使い易いが、天井を解放する代わりに搬入出口や搬送機構を設けたものでも良い。加熱炉は、被施工管体10を粉体融着方式での樹脂被覆形成温度の許容範囲の上限近く昇温できれば良い。例えば、課題欄で既述した上限温度250℃より少し高い加熱目標温度260℃まで昇温できれば良い。加熱方式に限定はなく、ガス加熱でも誘導加熱でも良く、直接加熱でも間接加熱でも良く、一発加熱でも移動加熱でも良い。被施工管体10を全長に亘って一様に昇温できれば、そして他に不都合がなければ、炉やブースを持たない加熱手段でも良い。加熱時における被施工管体10の保持姿勢も、横置きでも、縦置きでも、載置でも、支承でも良い。
【0033】
塗覆装設備33は(図1(f)参照)、やはり天井の開いた防塵用ブースに曲管塗覆装装置40を設置したものが使い易いが、天井の開けっ放しが不都合な場合、本発明の曲管塗覆装方法では被施工管体10を吊下移送設備31で吊下げて懸垂態様の姿勢で曲管塗覆装装置40に搬入したり曲管塗覆装装置40から搬出するので、天井を開閉式にすると良い。曲管塗覆装装置40は、後に詳述するが、要するに、被施工管体10の両端を受け金具23のところで支承することにより、管央の曲管部11を下に向け凹側管端12を斜め上に向けた懸垂状態で被施工管体10を保持し、その懸垂態様の姿勢を保ったまま、被施工管体10に沿って塗装機作用部を移動させることにより、粉体樹脂を原料とする融着方式での塗装を行う、というものである。塗装機作用部は、塗装機のうち移動させて用いられる可動部分であり、例えば静電塗装ガンや,溶射ガン,流動浸漬槽,非流動浸漬槽が配設されている。
【0034】
放熱設備34は(図1(g)参照)、やはり天井の開いた防風用ブースに架台を設置したものが使い易いが、冷たすぎる風や,付着すると困るゴミ等に晒されるおそれが無ければ、ブースの壁板等は無くても良い。架台は、受け金具23や手掛り金具22を利用して被施工管体10を両端だけで支持し続けることができれば足り、一本ずつ支持するのであれば一対の脚立で良く、幾本か並べて保持するのであれば図示した二列の稲掛(はせ)・稲架(はさ)状のようなものが便利かつ安価である。
【0035】
これらの設備を用いて被施工管体10(図1(a)参照)の外周面に粉体融着方式により樹脂被覆を施すには、第1工程として、被施工管体10の両端それぞれの凹側管端12には手掛り金具22を取り付けるとともに被施工管体10の両端それぞれの凸側管端13には受け金具23を取り付けておく(図1(c)参照)。
第2工程では、手掛り金具22の掛止部21に吊下移送設備31のフックを掛けることにより、手掛り金具22ひいては被施工管体10の管端を吊下移送設備31に一時係合させて、吊下移送設備31にて被施工管体10を吊上げ加熱設備32の上へ移動させ加熱設備32の中へ降ろし、被施工管体10から吊下移送設備31を外す。
【0036】
第3工程では、加熱設備32にて被施工管体10を加熱して、粉体融着方式での樹脂被覆形成温度の許容範囲の上限の少し上まで昇温させる。
第4工程では、再び、手掛り金具22の掛止部21に吊下移送設備31のフックを掛けることにより、手掛り金具22ひいては被施工管体10の管端を吊下移送設備31に一時係合させる。そして、吊下移送設備31にて被施工管体10を吊上げて懸垂態様の姿勢で加熱設備32から搬出し塗覆装設備33の上へ移動させ塗覆装設備33の中へ降ろして懸垂態様の姿勢のまま曲管塗覆装装置40に支承させ、被施工管体10から吊下移送設備31を外す。
【0037】
第5工程では、曲管塗覆装装置40に被施工管体10の両端を受け金具23のところで支承させることにより、被施工管体10の懸垂態様の姿勢を速やかに安定させる。そして、その支承状態を継続したまま、被施工管体10に沿って塗装ガンを移動させながら、被施工管体10の熱い外周面に樹脂粉体を吹付けることにより、吹付け塗装を行う。この吹付けは、被施工管体10の温度が粉体融着方式での樹脂被覆形成温度の許容範囲の上限を下回ったら被施工管体10の一端寄りから開始し、一定速度で塗装ガンを移動させて、被施工管体10の他端寄りまで行うが、被施工管体10の温度が粉体融着方式での樹脂被覆形成温度の許容範囲の下限を上回っているうちに終了する。
【0038】
第6工程では、またも繰り返しになるが、手掛り金具22の掛止部21に吊下移送設備31のフックを掛けることにより、手掛り金具22ひいては被施工管体10の管端を吊下移送設備31に一時係合させる。そして、吊下移送設備31にて被施工管体10を吊上げて懸垂態様の姿勢のまま塗覆装設備33から搬出し放熱設備34の上へ移動させてから降ろして架台に支承させ、被施工管体10から吊下移送設備31を外す。
こうして、曲管塗覆装装置40にて被施工管体10の外周面に吹付けられた粉体樹脂は、被施工管体10が樹脂被覆形成温度に加熱されているので、溶けて被施工管体10に付着し、被施工管体10が放熱設備34で徐冷されるに連れて、大気に晒されながら時間を掛けてゆっくり固化する。そのため、接着界面の残留剪断応力が極小化されて、樹脂が被施工管体10の外周面に強く融着する。
【0039】
以上、曲管塗覆装装置40から被施工管体10が払い出された後の工程として、被施工管体10を放熱設備34で徐冷する工程を例示したが、払い出し後の工程は、例えば、送風や、管内面の水冷による強制冷却、あるいは残熱を利用した上塗塗装等であってもよい。この上塗塗装も、ガン塗装方式や,流動浸漬方式,あるいは溶射方式,さらには非流動粉体中浸漬方式などで、実施することができる。
【0040】
次に、本発明の一実施形態(第1形態)について、上述した曲管塗覆装方法の実施に好適な曲管塗覆装装置40の構造を、図面を引用して説明する。
【0041】
図1(h)及び図2(a)は曲管塗覆装装置40の斜視図、図2(b)はその展開図である。
また、図3は、(a)が支持体50の支承部材54の斜視図、(b)が支持体50の上端部52の中央部分の斜視図、(c)が上端部52に支承部材54を装着したところの斜視図、(d)が管端支承状態の被施工管体10及び支承部材54の管端近傍横断面に係る正面図、(e)が管端支承状態の被施工管体10及び支承部材54の管端近傍縦断面に係る側面図である。
【0042】
さらに、図4は、(a)及び(b)が静電粉体塗装ガン62及びハウジング周板63の斜視図、(c)がハウジング側板64の斜視図、(d)がハウジング側板64とハウジング周板63とハウジング側板66とを総て展開した環状ハウジング60の斜視図、(e)がハウジング側板64を展開した環状ハウジング60の斜視図、(f)が環状ハウジング60の斜視図、(g)が環状ハウジング60の縦断側面図である。また、図5は、(a)が環状ハウジング60の縦断側面図と接輪転動機構70の展開図相当の側面図、(b)が接輪転動機構70の駆動ピニオン73と従動ラック72に係る縦断側面図、(c)が接輪転動機構70の転動輪74に係る縦断側面図、(d)及び(e)が環状ハウジング60及び走行体44の正面図、(f)が転動輪74と送気管75に係る正面図である。
【0043】
曲管塗覆装装置40は(図1(h),図2を参照)、凹側管端12それぞれに手掛り金具22が取り付けられ更に凸側管端13それぞれに受け金具23が取り付けられた金属製の曲管部付き管体を被施工管体10とするものであり、被施工管体10が管央の曲管部11を下にむけ凹側管端12を斜め上に向けて吊下げられた状態で搬入時には上方から曲管塗覆装装置40上に降ろされ搬出時には曲管塗覆装装置40上から上方へ持ち上げられるよう、対向配置された一対の支持体50を具えていて、被施工管体10を管端の支承にて吊下げ時と同じ懸垂態様の姿勢のまま支持し続けるようになっている。
【0044】
また、曲管塗覆装装置40は、被施工管体10の外周面に粉体融着方式により樹脂被覆を施すためのものであるが、その樹脂粉体の吹付けを管体長手方向への移動により行うために、複数基の静電粉体塗装ガン62が管体遊挿箇所61を取り巻く位置取りで装着された環状ハウジング60(塗装機作用部)と、粉体樹脂の吹付け時に被施工管体10に沿って静電粉体塗装ガン62を移動させるための案内軌条43及び走行体44とを具えている。
さらに(図1(h),図2(a)を参照)、曲管塗覆装装置40には、静電粉体塗装ガン62に樹脂粉末を供給するとともに静電圧を印加する静電塗装機本体41(塗装機のうち固定的に設置される本体部)や、環状ハウジング60からの吸気を行う集塵機42が、並設されている。
以下、曲管塗覆装装置40の各部を説明する。
【0045】
支持体50は(図1(h),図2を参照)、管端支承位置の高さを確保するための基台部51と、管端傾斜に適合した傾斜で基台部51の上に設けられた上端部52と、上端部52の両端それぞれにボルト等で着脱容易に取り付けられる掴持部材53(案内軌条の保持機構)と、上端部52の中央に形成された凹みの前端部にボルト等で着脱容易に取り付けられた支承部材54と、基台部51の両側面それぞれに又は上端部52の両側面それぞれに設けられ基台部51内の電動モータで回転駆動される牽引用輪体55とを具えている。基台部51と上端部52と支承部材54は、1tを超えることもある被施工管体10を支承するため、強度や剛性に優れた低価格の例えば鋼鉄製の枠材や板材から作られる。
【0046】
案内軌条43は(図1(h),図2を参照)、走行体44及び環状ハウジング60の走行経路を規定するため軽量で剛性の大きい例えば鋼製の管体からなり、被施工管体10より細くて良いので、外径が掴持部材53に適合させられており、上端部52の端部に載せてから掴持部材53で挟持すれば支持体50の肩部に固定されるようになっている。案内軌条43の長さは、被施工管体10よりも、掴持部材53の2倍ほど又はもっと長くなっている。案内軌条43の中央部から両端にかけて、少なくとも被施工管体10と同じ長さ部分は、予め曲げ加工されていて、被施工管体10と概ね同じ曲げ形状になっている。
【0047】
径と両端長さの相違は別として、案内軌条43と被施工管体10は曲り方が完全に一致しているのが好ましいが、環状ハウジング60の管体遊挿箇所61における被施工管体10の遊び代から被施工管体10の揺れの上限値を引いた残量に、両者43,10の差が収まっていれば、案内軌条43の曲り方が被施工管体10に対応しているとみなすことができ、曲線形状に関して案内軌条43は被施工管体10を模したものと言える。
このような案内軌条43は、二本使用され、支持体50の上端部52の両肩部それぞれに一本ずつ保持されて架設固定される。そして、対向する支持体50の支承部材54に被施工管体10の端部を支承させると、二本の案内軌条43が被施工管体10の両側に分かれて、何れの案内軌条43も被施工管体10と一定間隔を保って並ぶようになっている。
【0048】
走行体44は(図1(h),図2を参照)、環状ハウジング60を取り付けるため環状ハウジング60より一回り以上大きな環状体を上下に二分割したうちの下半分に相当する円弧状部分と、その両端から外側へほぼ水平に延びた両端部とからなる。その端部にはスライド軸受け等が装備されており、一方の端部に一方の案内軌条43を挿通係合させ他方の端部に他方の案内軌条43を挿通係合させることにより、走行体44は、案内軌条43に対して走行可能に懸架されたものとなる。走行体44の端部には、例えばチェーンからなる牽引用長尺体56の一端が接続されており、その牽引用長尺体56を他端側から牽引用輪体55で巻取ったり解放したりして走行体44を走行させるようになっている。
【0049】
支承部材54は(図3(a)参照)、被施工管体10の端部を載せると受け金具23のところで弧状に接して管端支承を行うため(図3(d)参照)、管端支承部54aが前縁に立設されている(図3(a)参照)。管端支承部54aの上辺は、被施工管体10の外周面の曲率に対応した円弧状になっている。また、管端支承部54aには受け金具23が引っ掛かるので(図3(e)参照)管端支承部54aは溶接等にてしっかり固定されている。さらに(図3(a)参照)、吊下移送設備31で降ろした被施工管体10が管端支承部54aにすんなり載るよう、管端支承部54aの左右には管端落込部54bが並立しており、管端落込部54b間の距離は被施工管体10の外径より僅かに大きくなっている。このような支承部材54は(図3(b),(c)参照)、手前へ即ち対向支持体の方へ管端支承部54aを突き出す状態で、支持体50の上端部52の中央にボルト等で交換可能に取り付けられていて、環状ハウジング60の走行範囲・移動範囲を被施工管体10の端部近傍まで広げている。
【0050】
環状ハウジング60は(図4参照)、管体遊挿箇所61を少し離れて環状に取り巻く言わば可動式ミニ塗装ブースであり、放射状に配置した例えば4基の静電粉体塗装ガン62を保持するとともに径方向の囲いを担う短筒状のハウジング周板63と、その一端側に配されて軸方向の囲いを担う円板状のハウジング側板64と、ハウジング周板63の他端側に配されて軸方向の囲いを担う円板状のハウジング側板66とを具えている。何れも(63,64,66)、ベークライト等の電気絶縁性の板材から作られ、中心の管体遊挿箇所61が空いているため、内側の開口したコの字状の囲いが環状に形成されている。静電粉体塗装ガン62は、その囲いの中に塗料噴射口を置いている。また、その囲いの中が吸気管68にて排気されるようになっており、そのために、吸気管68は、集塵機42から延びて来て例えばハウジング側板66に至り、そこに形成された貫通口に連通接続されている。
【0051】
これらのハウジング部材63,64,66は、何れも、横長の被施工管体10を吊下移送設備31で降ろして管体遊挿箇所61に収めることが容易にできるよう、上側の半分弱と下側半分強とに二分割されており、適宜なヒンジやフック等を利用して開閉や着脱を自在に行えるものとなっている。環状ハウジング60は上側を開け閉めするので、ハウジング側板64は下側部分が取付脚65にて走行体44に固定され、ハウジング側板66は下側部分が取付脚67で走行体44に固定される。ハウジング周板63の下側部分も走行体44に取り付けられるが、ハウジング周板63は、静電粉体塗装ガン62を周方向揺動させるために、次に説明する接輪転動機構70を介在させて走行体44に取り付けられており、周方向で例えば90゜程度は往復回動(部分的な双方向回転)しうるようになっている。
【0052】
接輪転動機構70は(図5(a)参照)、ハウジング周板63の下側半分強の部分を径方向に拡張すべくハウジング周板63の外周面に付設された周板拡張部材71と、円弧状に曲げて周板拡張部材71に付設された従動ラック72と、走行体44に立設された支持棒の上端に設けられ図示しない電動モータにて往復回動させられる駆動ピニオン73と、やはり走行体44に立設された支持棒の上端と中間とに設けられた一対の転動輪74とを具えている。そして、組上がった状態では、駆動ピニオン73は従動ラック72と噛合し(図5(b)参照)、対をなす転動輪74の一方が周板拡張部材71の内周部分と転動可能に接触係合するとともに他方の転動輪74が周板拡張部材71の外周部分と転動可能に接触係合する(図5(c)参照)。
【0053】
このような転動輪74の対は複数が放射状に配されて(図5(d)参照)、ハウジング周板63を往復回動可能に支持する。そして、駆動ピニオン73が往復回動すると、従動ラック72が周方向に送られて、周板拡張部材71,ハウジング周板63,更には静電粉体塗装ガン62が周方向で往復回動するようになっている(図5(e)参照)。
また、それらの転動輪74のうち周板拡張部材71の内周部分と接触転動するものについては、それに向けて空気を吹き付ける送気手段として送気管75が並設されている。送気管75は、例えば工場に既設の圧搾空気供給設備から引き込まれた配管であり、適宜な絞り弁やノズルが付設されている。
【0054】
この実施形態(第1形態)の曲管塗覆装装置40について、その使用態様及び動作を、図面を引用して説明する。図1(h)は、曲管塗覆装装置40と移送中の被施工管体10との斜視図であり、図2(a)は、曲管塗覆装装置40とそれで塗装中の被施工管体10との斜視図である。
【0055】
加熱設備32にて加熱された被施工管体10は、掛止部21を利用して吊下移送設備31によって吊上げられ、曲管部11を下にし凹側管端12を斜め上にした懸垂態様の姿勢で曲管塗覆装装置40の上方に運ばれてくるので(図1(h)参照)。曲管塗覆装装置40では、環状ハウジング60の上側を開けて、被施工管体10が降ろされるのを待つ。上記姿勢を保ったまま揺れないよう静かに被施工管体10が降ろされ、その両端の凸側管端13が受け金具23のところで支承部材54に支承されたら、吊下移送設備31を掛止部21から外すとともに、環状ハウジング60の上側を閉めて環状ハウジング60を環状に戻す(図2(a)参照)。
【0056】
それから、牽引用長尺体56を牽引用輪体55で牽引して走行体44及び環状ハウジング60を一方の支持体50へ速やかに引き寄せ、被施工管体10の温度が粉体融着方式での樹脂被覆形成温度の許容範囲の上限を下回るのを待つ。そして、その温度が許容範囲に入ったら、静電粉体塗装ガン62を作動させて粉体樹脂の吹付けを開始すると同時に、駆動ピニオン73の往復回動も開始する。また、牽引用長尺体56を牽引用輪体55で牽引して走行体44を他方の支持体50側へ引き寄せ、環状ハウジング60を案内軌条43の規制により被施工管体10に沿って一定速度で走行させる。環状ハウジング60が他方の支持体50に到達して、その走行が止むまで、静電粉体塗装ガン62での粉体樹脂吹付けと接輪転動機構70による静電粉体塗装ガン62の揺動は継続される。
【0057】
こうして、管端は別として被施工管体10の外周面のほぼ全域に対し粉体樹脂が概ね一様に吹付けられる。
なお、上述した走行等の動作は全自動で又は半自動で制御されるが、静電粉体塗装ガン62の走行速度は、被施工管体10の温度が粉体融着方式での樹脂被覆形成温度の許容範囲に収まっているうちに全長の吹付けを終えるような速度に、設定される。
そして、吹付け終了後は、環状ハウジング60の上側が開けられ、被施工管体10が曲管部11を下にし凹側管端12を斜め上にした懸垂態様の姿勢を維持したまま吊下移送設備31で搬出される。
【0058】
本発明の曲管塗覆装装置の他の実施形態(第2形態)について、その構成を、図面を引用して説明する。図6は、(a),(b)何れも曲管塗覆装装置80の全体正面図であり、形状の異なる被施工管体10への適用状態を示している。
【0059】
この曲管塗覆装装置80が上述した曲管塗覆装装置40と相違するのは、形状の異なる被施工管体10に対して同一装置を適用することができるよう、拡張された点である。
具体的には、対向配置された支持体50を移動させて支持体50間の距離を加減しうる支承距離調節機構として、両支持体50に亘って支承距離調節レール81が敷設されるとともに、その上を走行するための支承距離調節キャスター82が基台部51の下端に付設されている。また、支持体50の上端部52が、対向側へ首振りする如く揺動しうるようになっており、上端部52を揺動させて、支承部材54及び掴持部材53の傾斜を被施工管体10及び案内軌条43の端部傾斜に適合させたら、ボルト締め等にて上端部52を固定するようになっている。
【0060】
さらに、チェーンやロープからなる牽引用長尺体56が案内軌条43と一方の支持体50と支承距離調節レール81近傍と他方の支持体50とに亘って張り巡らされるとともに、牽引用長尺体56の両端が走行体44に取り付けられて、牽引用長尺体56が無端経路を一巡するようになっている。そして、その巡回経路で牽引用長尺体56を順送りすることにより、環状ハウジング60が案内軌条43に案内され被施工管体10に沿って移動するようになっている。牽引用長尺体56を順送りする走行駆動手段として設けられ電動モータにて回転駆動される走行駆動輪体83は、一つで足りるので、一方の支持体50にだけ設けられている。
【0061】
双方の支持体50に設けられている牽引用輪体55は、走行駆動手段の役目を外され、その代わりに、上端部52の揺動中心位置で牽引用長尺体56の巡回経路を規定するものとなっている。また、牽引用長尺体56の巡回経路を支持体50のところで局所的に伸縮させる経路長調整手段として及び牽引用長尺体56のテンション調整手段として、牽引用長尺体56の巡回経路を規定する経路長調整輪体84が基台部51に装着されており、基台部51に形成されている長穴に沿って経路長調整輪体84を移動させてから固定することにより、牽引用長尺体56の巡回経路のうち案内軌条43に沿う部分の伸縮を相殺して、牽引用長尺体56の巡回経路の全長を一定に保てるようになっている。
【0062】
この実施形態(第2形態)の曲管塗覆装装置80について、その使用態様及び動作を、図面を引用して説明する。図6は、上述した曲管塗覆装装置80による塗装状態を示しており、(a)は長くて曲げの急な被施工管体10を塗装しているところ、(b)は短くて曲げの緩い被施工管体10を塗装しているところである。
【0063】
先ず(図6(a)参照)、被施工管体10が長い場合、支承距離調節レール81上で支持体50間の距離が広げられ、被施工管体10に対応した案内軌条43にて環状ハウジング60の走行経路が規定されるとともに支持体50の対向状態が固定される。また、経路長調整輪体84による牽引用長尺体56の巡回経路の折り曲げ距離が短縮される。さらに、被施工管体10の曲げが深い場合、支持体50の上端部52の傾斜が急にされる。
こうして、曲管塗覆装装置80が長く且つ深い曲げの被施工管体10に適合したものとなる。
【0064】
これに対し(図6(b)参照)、被施工管体10が短い場合、支承距離調節レール81上で支持体50間の距離が狭められる。また、経路長調整輪体84による牽引用長尺体56の巡回経路の折り曲げ距離が伸長される。さらに、被施工管体10の曲げが浅い場合、支持体50の上端部52の傾斜が緩やかにされる。
こうして、曲管塗覆装装置80が短く且つ浅い曲げの被施工管体10に適合したものとなる。なお、繰り返しとなる説明は割愛するが、長く且つ浅い曲げの被施工管体10や、短く且つ深い曲げの被施工管体10についても、曲管塗覆装装置80は適合する。また、被施工管体10の太さが異なる場合は、支承部材54か或いはそのうち管端支承部54aだけを交換すれば足りる。
【実施例1】
【0065】
被施工管体10として、次のような金属製の曲管部付き管体を選定した。すなわち、材質が「API 5L ラインパイプ用鋼管」からなり、直径406.4mm、肉厚14.2mm、全長4190mm、そのうちの曲管部長さ3190mm、直管部長さ(片端当り)500mm、曲げ角90゜、重量576kgの管体の外周面に塗覆装を施した。
粉体樹脂にはエポキシを採用したので、粉体融着方式での樹脂被覆形成温度の許容範囲は、下限が210℃で、上限が250℃である。
加熱設備32では、ガス循環炉により被施工管体10を260℃まで昇温させた。
【0066】
吊下移送設備31にて被施工管体10を塗覆装設備33の曲管塗覆装装置80まで移送するのに90sほど掛かったが、被施工管体10の表面温度は250℃より高かった。環状ハウジング60を環状に戻し、それを一方の支持体50に寄せて、被施工管体10の表面温度が250℃に下がるまで暫く待ち、それから環状ハウジング60を走行させて吹付けを行った。その走行速度は20mm/sで、吹付け終了までに265sほど掛かったが、被施工管体10の温度は220℃までしか下がらなかった。なお、静電粉体塗装ガン62の周方向揺動速度は約30゜/sであった。
【0067】
その後、被施工管体10を吊下移送設備31で塗覆装設備33から放熱設備34へ移送して約2hrほど放熱させた。
常温に戻った被施工管体10の樹脂被覆を確認したところ、被施工管体10の外周面のほぼ全域において、むらなく一様に分布しており、しっかり融着していた。
使用後の曲管塗覆装装置80を点検したところ、転動輪74等に樹脂が付着することがなくて、環状ハウジング60の周方向回転が円滑に行えるうえ、環状ハウジング60の上側の開閉状態や走行体44の走行状態も円滑なままであり、継続使用に適う状態が維持されていた。
【0068】
[その他]
なお、上記の各実施形態では、曲管塗覆装装置40,80の図示に際して、走行体44や,基台部51,上端部52,掴持部材53などを中実体や箱状体のように簡略表示したが、それらは強度や剛性が足りればトラス構造体やラーメン構造体あるいは板状体などで構成しても良く、そのほうが軽量化しやすくコストダウンも達成しやすい。
また、上記の第2実施形態では、支承距離調節機構が対向配置の支持体50を双方とも移動させうるようになっていたが、これは必須ではなく、何れか一方の支持体50を移動させることでも、支持体50間の距離を加減することができる。
【0069】
さらに、上記の各実施形態では、案内軌条43の配設形態として、案内軌条43が支持体50に支持される形態を例示したが、案内軌条43を支持体50とは別の支持機構(例えば支持体50から掴持部材53及びその装着部を分離した保持機構を支持する自立型の機構)に支持させる独立支持形態としてもよい。この場合、支持機構の増設が必要になるが、管央部の曲げ形状がほぼ同じで端部長ひいては全長が異なるといった被施工管体を処理するときなど、案内軌条43を共用することが可能なときには、支持体50の対向間隔の調整が案内軌条43を取外さずに行えて作業能率の向上がもたらされる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の一実施形態(第1形態)について、曲管塗覆装方法の手順とそれに好適な曲管塗覆装装置の全体構造を示し、(a)が被施工管体の斜視図、(b)が手掛り金具と受け金具の斜視図、(c)がそれらの装着金具を被施工管体に取り付けたところの斜視図、(d)が吊下移送設備のうち掛止用フックの外観図、(e)が加熱設備のブースに係る斜視図相当の模式図、(f)が塗覆装設備のブースに係る斜視図相当の模式図、(g)が放熱設備の斜視図、(h)が曲管塗覆装装置の斜視図である。
【図2】(a)が曲管塗覆装装置の斜視図、(b)がその展開図である。
【図3】(a)が支承部材の斜視図、(b)が支持体の上端部の中央部分の斜視図、(c)が支持体の上端部に支承部材を装着したところの斜視図、(d)が管端支承状態の被施工管体および支承部材の管端近傍横断面に係る正面図、(e)が管端支承状態の被施工管体および支承部材の管端近傍縦断面に係る側面図である。
【図4】(a)及び(b)が静電粉体塗装ガン及びハウジング周板の斜視図、(c)がハウジング側板の斜視図、(d)がハウジング側板とハウジング周板とハウジング側板の展開斜視図、(e)が一部展開した環状ハウジングの斜視図、(f)が環状ハウジングの斜視図、(g)が環状ハウジングの縦断側面図である。
【図5】(a)が環状ハウジングの縦断側面図と接輪転動機構の展開図相当の側面図、(b)が駆動ピニオンと従動ラックに係る縦断側面図、(c)が転動輪に係る縦断側面図、(d)及び(e)が環状ハウジング及び走行体の正面図、(f)が転動輪と送気管に係る正面図である。
【図6】本発明の他の実施形態(第2形態)について、曲管塗覆装装置の構造を示し、(a),(b)何れも全体正面図である。
【符号の説明】
【0071】
10…被施工管体、11…曲管部、12…凹側管端、13…凸側管端、
21…掛止部、22…手掛り金具、23…受け金具、
31…吊下移送設備、32…加熱設備、33…塗覆装設備、34…放熱設備、
40…曲管塗覆装装置、41…静電塗装機本体、
42…集塵機、43…案内軌条、44…走行体、
50…支持体、51…基台部、52…上端部、53…掴持部材、54…支承部材、
54a…管端支承部、54b…管端落込部、55…牽引用輪体、56…牽引用長尺体、
60…環状ハウジング、61…管体遊挿箇所、62…静電粉体塗装ガン、
63…ハウジング周板、64…ハウジング側板、65…取付脚、
66…ハウジング側板、67…取付脚、68…吸気管、
70…接輪転動機構、71…周板拡張部材、72…従動ラック、
73…駆動ピニオン、74…転動輪、75…送気管、
80…曲管塗覆装装置、81…支承距離調節レール、
82…支承距離調節キャスター、83…走行駆動輪体、84…経路長調整輪体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱設備と曲管塗覆装装置と吊下移送設備とを用いて被施工管体である金属曲管の外周面に樹脂被覆を施す曲管塗覆装方法であって、被施工管体の両端それぞれに吊下用の手掛り金具と支承用の受け金具とを装着し、前記加熱設備にて前記被施工管体を装着金具ともども加熱し、両端の手掛り金具のところを吊って前記吊下移送設備により前記曲管塗覆装装置へ移送し、両端の受け金具のところで支承させた懸垂態様で該曲管塗覆装装置に搭載し、次いで搭載被施工管体に沿って塗装機作用部を移動させて塗装を行ったのち、再び両端の手掛り金具のところを吊って前記吊下移送設備により該曲管塗覆装装置から払い出すことを特徴とする曲管塗覆装方法。
【請求項2】
両端に手掛り金具と受け金具とを装着された加熱状態の金属曲管を被施工管体としてその外周面に樹脂被覆を施すための曲管塗覆装装置であって、前記被施工管体の両端部を支持するための一対の支持体が対向配置され、前記被施工管体の端部を載せると前記受け金具のところで接して管端支承を行う支承部材が前記支持体それぞれの上端部に装備され、前記被施工管体を模した曲線形状の一対の案内軌条が前記支持体に支持された被施工管体の両側に一定間隔を保って並ぶ位置取りにて配設されており、前記支持体に支持される被施工管体を遊挿しうる分割可能な環状ハウジングに複数基の塗装ガンが管体遊挿箇所を取り巻く位置取りで装着された塗装機作用部が、前記案内軌条に対して走行可能に懸架された走行体に取り付けられている、ことを特徴とする曲管塗覆装装置。
【請求項3】
前記塗装ガンが静電粉体塗装ガンであり、前記ハウジングを周方向に往復回動させることにより前記塗装ガンを前記支持体に支持された被施工管体に対して揺動させる接輪転動機構が前記ハウジングの前記走行体との取合部に設けられ、集塵機から延びた吸気管が前記ハウジングに連通接続され、前記ハウジングが電気絶縁材からなる、ことを特徴とする請求項2記載の曲管塗覆装装置。
【請求項4】
前記接輪転動機構が前記ハウジングの内外周と接触転動する転動輪を具えたものであり、その転動輪のうち少なくとも前記ハウジングの内周と接触転動するものについてはそれに向けて空気を吹き付ける送気手段が並設されている、ことを特徴とする請求項3記載の曲管塗覆装装置。
【請求項5】
対向配置された前記支持体のうち何れか一方または双方を移動させて前記支持体間の距離を加減しうる支承距離調節機構が設けられていることを特徴とする請求項4記載の曲管塗覆装装置。
【請求項6】
前記案内軌条の保持機構が着脱式のものであり、前記案内軌条に沿った部分経路を含む巡回経路に亘ってチェーンやロープ等の牽引用長尺体が張り巡らされており、前記牽引用長尺体の両端が前記走行体に取り付けられており、前記牽引用長尺体を順送りする走行駆動手段と前記巡回経路を局所的に伸縮させる経路長調整手段とが設けられている、ことを特徴とする請求項5記載の曲管塗覆装装置。
【請求項7】
対向配置された前記支持体のうち何れか一方または双方を移動させて前記支持体間の距離を加減しうる支承距離調節機構が設けられていることを特徴とする請求項2又は請求項3に記載された曲管塗覆装装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−307511(P2007−307511A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−140928(P2006−140928)
【出願日】平成18年5月19日(2006.5.19)
【出願人】(000208695)第一高周波工業株式会社 (90)
【Fターム(参考)】