説明

最大長系列を用いて移動物体の位置を特定するための方法及びシステム

【課題】最大長系列を用いて移動物体の位置を特定する。
【解決手段】基材205上に複数のビットからなる系列210を配列することによって物体220の位置が特定される。その複数のビットからなる系列210は複数のビットからなる部分系列230を含み、基材205に沿った位置毎に一意的である。物体220が基材205に沿った特定の位置にあるとき、センサ221がその特定の位置において複数のビットからなる部分系列230を検出し、復号器255がその特定の位置における部分系列230の位置を物体220と関連付ける。その基材205は、ビットに対応して、スリットがあるか、又はスリットがない漏洩同軸ケーブル200とすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は包括的には物体の位置を特定することに関し、より詳細には、最大長系列を用いて、移動物体の位置を特定することに関する。
【背景技術】
【0002】
数多くの用途において、物体の位置を高い精度で確実に特定することが必要である。たとえば、エレベータシステムでは、エレベータかごの位置を、フロア間で±10cm、そして各フロアでは±1cmの範囲内で測定しなければならない。この精度を達成するために、エレベータシステムは、スイッチの形式の多数の位置センサを利用する。スイッチの設置及び保守には時間を要し、コストがかかる。さらに、緊急時に、スイッチが存在しないフロア間でエレベータかごの位置を特定することは難しい。
【0003】
図1Aは、従来の漏洩同軸ケーブル100を示す。そのケーブルは、導体101と、分離材102と、シールド103とを備える。スリット104がRF信号105を送信する。監視システムにおいて侵入者を検出するために、2本の漏洩同軸ケーブルが用いられてきた。その場合、移動物体は受動的であり、検出は、ケーブル間の電磁界が乱れることによって行なわれる。米国特許第2009−0153147号明細書「Intrusion detection system」を参照されたい。
【発明の概要】
【0004】
本発明の実施形態は、最大長系列(MLS)に従って基材に符号化された信号を用いて、移動物体の位置を特定するための方法を提供する。
【0005】
一実施形態では、MLSに従って離隔して配置された複数のスリットを有する漏洩同軸ケーブルを通して、無線周波数(RF)信号が送信される。移動物体におけるRFセンサがRF信号の部分系列を検出する。物体がケーブルに沿って移動するのに応じて、復号器がMLSの部分系列の相関をとる。それらの部分系列は、ケーブルに沿った位置毎に一意的である。1つの応用例では、そのケーブルはエレベータシャフトの壁に配置され、RFセンサはエレベータかごに配置される。
【0006】
別の実施形態では、MLSを用いて、道路、又はエレベータシャフトの壁のような平面上に、白色及び黒色のマークからなるバイナリー配列を構成する。この場合、移動物体におけるカメラセンサが、復号器のための部分系列を検出する。その配列は多次元とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1A】従来の漏洩同軸ケーブルの概略図である。
【図1B】本発明の実施形態による、最大長系列(MLS)を生成するための最大線形フィードバックシフトレジスタのブロック図である。
【図2A】本発明の実施形態による、MLSを符号化するスリットの物理的な配列を有する漏洩同軸ケーブルの概略図である。
【図2B】本発明の実施形態による、MLSを符号化するマークの物理的な配列を有する画像パターンの概略図である。
【図3】1ビットずつMLSの部分系列を検出することを示す概略図である。
【図4】平面上に構成されるMLSの概略図である。
【図5】差動多次元最大長系列を符号化するバイナリー配列の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図1Bは、本発明の実施形態によって用いられる最大長系列(MLS)S150を生成するための、M個の状態を有する最大線形フィードバックシフトレジスタ(LFSR)a〜a152を示す。そのMLSは、重なり合う一意的な部分系列を含む。LFSRへの次の入力ビットは、そのLFSRの先行する状態の一次関数である。適切なフィードバック151を用いて、LFSRは長い擬似ランダム系列を生成することができる。
【0009】
MLSは、インパルス応答の測定、暗号化、シミュレーション、相関技法、飛行時間分光法のために、さらには、直接スペクトル拡散及び周波数ホッピングスペクトル拡散伝送ネットワークにおいて端末を同期させるために用いられている。
【0010】
本発明者らはMLSを用いて物体の位置を特定する。
【0011】
図2A及び図2Bは、基材205に符号化された最大長系列を用いて物体の位置を特定するための方法及びシステムを示す。
【0012】
図2Aは、本発明の実施形態による漏洩同軸ケーブル200を示す。そのケーブルは、d202の距離をおいてケーブルに沿って均等に配列されたB個の物理的位置201を有している。最大長系列(MLS)210に従って、それらの位置におけるスリットの存否が符号化される。スリットはビット1を表し、スリットが存在していない箇所はビット0を表す。一意的な場所を得るために、本発明者らは、Bを、B≦2+M−2とする。ただし、MはMLSを生成するLFSR内の状態の数である。MLSのうちの任意の部分系列から、B個のビットを得ることができる。ただし、ビットkの値は
V(k)=c((k−1)mod2−1)+1
である。ただし、modはモジュロ演算子である。
【0013】
同軸ケーブル上の物理的配列に沿って、物体220が配置されている。その物体は、N個のアンテナ(c〜c)からなる(1以上の)セットを有するRFセンサ(受信機)221を備えている。これらのアンテナもdの距離をおいて配置されている。センサは、RF信号f〜f230を用いてNビットからなる部分系列、たとえば、ビット{0011}の部分系列を検出する。
【0014】
その部分系列は、ケーブルに物理的に符号化されたMLSに沿って、位置k毎に一意的である。ただし、N≧Mであり、1≦k≦2+M−N−1である。復号器が、その部分系列の位置を物体と関連付ける。物体が移動している場合、復号器は複数の位置を特定することができる。
【0015】
スリットと位置合わせされる受信信号f〜fは、スリットと位置合わせされない信号f及びfよりもはるかに高い電力である。プロセッサ250は、部分系列230とMLS210との相関をとり、移動物体の位置260を特定するための復号器255を備える。
【0016】
なお、送信機及びセンサは入れ替えることができる、すなわち、物体が送信機及びアンテナのセットを含み、同軸ケーブルがRF信号を受信することに留意されたい。この入れ替える構成では、アンテナは異なるRF信号(f〜f)を送信し、スリットによって、特定の複数の信号だけを合成し、ケーブルの一端のセンサによって検出できるようにする。
【0017】
図2Bは、エレベータシャフト270内の壁上のビットの配列を示す。この場合、移動物体はエレベータかごであり、ビットは平面上の黒色及び白色のマークによって表される。この実施形態では、センサはカメラ275とすることができる。
【0018】
図3に示されるように、単一のアンテナcを有するセンサ(又は送信機)を用いて、位置の特定を実行することもできる。この方式では、センサは、部分系列230を経時的に順次検出する。アンテナは、リニアアレイを形成し、ビームステアリングを実行可能なアンテナのセットとすることもできる。そのような場合には、センサは、N個のスリット(f〜f)の範囲においてビームを走査する。
【0019】
図4に示されるように、MLS210は、道路、又はエレベータシャフトの壁のような平面上に構成される、MLSに基づく2つの異なる組のマークからなるバイナリー配列である。このマークは、異なる色、形状、テクスチャ、反射率、たとえば、黒色及び白色のマークとすることができる。この場合、移動物体、たとえば乗物上のカメラセンサ400は、復号器のための部分系列を検出する。それらのビットは、目で見ることができるように、赤外線カメラによって赤外線範囲において区別可能にすることもできる。
【0020】
MLSを用いて1次元位置を復号化することができるが、2次元位置の場合にMLSをそのまま適用することは難しい。それゆえ、本発明者らは、図5に示されるように、多次元位置を得るための差動MLSを記述する。
【0021】
1次元では、差動MLSは、M個の状態及び2−1個のCを有するMLSを用いて構成される。ただし、Cは以下の通りである。
【0022】
【数1】

【0023】
個のビットを有する対応する差動MLSは以下の通りである。
【0024】
【数2】

【0025】
ただし、以下の記号はXOR演算子を表す。
【0026】
【数3】

【0027】
差動MLSは、対応するMLSが値「1」を有するときに、連続しているビットの値を変更し、対応するMLSが値「0」を有するときには変更しない。たとえば、M=4を有するMLSは101100100011110であり、対応する1次元差動MLSは、ビット0の場合に0の初期値を用いるとき、0110111000010100である。
【0028】
【数4】

【0029】
この実施態様では、センサは、差動MLSの少なくともM+1個のビットの部分系列を検出し、復号器は、式(2)に従って、隣接するビットに関するXOR演算を実行して位置を特定する。
【0030】
図5の2次元差動MLSは、1−D差動MLS、及び第2のMLSを用いて構成される。2−D差動MLSのビットがdij(ただし、
【0031】
【数5】

【0032】
)であり、M個の状態を用いて生成されるMLSが
【0033】
【数6】

【0034】
である場合には、以下の式が成り立つ。
【0035】
【数7】

【0036】
ただし、d0,jは、式(1)における1次元差動MLS Cである。同じ列の場合に、差動2−DMLSの連続する行上のビットは、対応するMLS Cが値「1」を有するときに変化し、差動2−DMLSの連続する行上のビットは、対応するMLSが値「0」を有するときには変更されない。
【0037】
2D位置を特定するために、センサは、復号化されることになる各次元のM+1個の連続するビットを検出する。その復号器も、図3に示されるのと同じように、1ビットずつ復号化することができる。先行して復号化された位置が用いられるときに、その精度が改善される。
【0038】
一般的に、Q次元差動MLS(ただし、Q≧2)は、(Q−1)次元差動MLSを用いて、反復的に構成することができる。(Q−1)次元差動MLSがd(ただし、Xは(Q−1)次元ベクトルである)であり、M個の状態を用いて生成されるMLS Cに対応するQ次元差動MLSがdi,Xであるとすると、Q次元差動MLSは以下の通りである。
【0039】
【数8】

【0040】
ただし、S={0、1、...、M}である。
【0041】
復号器は、全てのj=1、2、...、Qの場合に、次元j内のM個の連続したビットを推測する。XOR演算を用いて、Q次元位置を特定する。
【0042】
差動符号の「1」は、漏洩同軸ケーブルのスリットとして、又は白色のマークとして表すことができる。「0」は、ケーブルのスリットの不在によって、又は黒色のマークによって表すことができる。MLSは、スクリーン上にピクセルの配列として表示又は投影することもできる。ビットは、磁気的に符号化するか、又は表示される画像上に色として符号化することもできる。
【0043】
本発明は好ましい実施形態を例として記述されてきたが、本発明の精神及び範囲内で種々の他の改変及び変更を行なうことができることは理解されたい。それゆえ、添付の特許請求の範囲の目的は、本発明の真の精神及び範囲に入るような、全てのそのような変形及び変更を包含することである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体の位置を特定するためのシステムであって、
複数のビットからなる系列を含む基材であって、複数のビットからなる該系列は該基材上に物理的に配列され、複数のビットからなる該系列は複数のビットからなる重なり合う部分系列を含み、複数のビットからなる各該部分系列は該基材に沿った位置毎に一意的である、該基材と、
前記基材に沿った特定の位置にある物体と、
前記物体の前記特定の位置において複数のビットからなる前記部分系列を検出するように構成されたセンサと、
前記特定の位置における複数のビットからなる前記部分系列の位置を前記物体と関連付けるように構成された復号器とを備える、システム。
【請求項2】
前記物体は移動しており、
前記物体が前記基材に沿って移動するのに応じて、複数の位置を前記物体と関連付けることをさらに備える、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
複数のビットからなる前記系列は最大長系列(MLS)である、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
複数のビットからなる前記系列は最大線形フィードバックシフトレジスタ(LFSR)によって生成される、請求項3に記載のシステム。
【請求項5】
前記LFSRはM個の状態を有し、複数のビットからなる前記系列はB≦2+M−2個のビットを有し、各前記部分系列はそれぞれN個のビットを有し、k個の位置が存在し、1≦k≦2+M−N−1である、請求項4に記載のシステム。
【請求項6】
前記基材は同軸ケーブルであり、複数のビットからなる前記系列は、前記同軸ケーブルのスリット、及びスリットの不在として形成される、請求項1に記載のシステム。
【請求項7】
前記同軸ケーブルは、前記スリットにおいて無線周波数信号を送信し、複数のビットからなる前記部分系列はN個のビットを含み、前記センサは、N個のビットからなる部分系列を検出するN個の受信アンテナからなるセットを備える、請求項6に記載のシステム。
【請求項8】
前記物体は無線周波数信号を送信するためのN個の送信アンテナからなるセットを備え、前記センサは前記同軸ケーブルに接続される、請求項6に記載のシステム。
【請求項9】
前記ビットは既知の距離をおいて均等に離隔して配置される、請求項1に記載のシステム。
【請求項10】
前記センサは1つのアンテナを含み、複数のビットからなる前記部分系列は、前記物体が前記基材に沿って移動するのに応じて経時的に検出される、請求項6に記載のシステム。
【請求項11】
N個のアンテナからなる前記セットは、複数のビットからなる前記系列にわたってビームステアリングを実行する、請求項7に記載のシステム。
【請求項12】
前記基材は1つの平面を含み、複数のビットからなる前記系列は前記平面上のマークとして形成され、前記センサは複数のビットからなる前記系列の画像を捕捉するために前記物体上に取り付けられるカメラである、請求項1に記載のシステム。
【請求項13】
前記ビットは色によって区別可能である、請求項1に記載のシステム。
【請求項14】
前記ビットは形状によって区別可能である、請求項1に記載のシステム。
【請求項15】
前記ビットは赤外線範囲において区別可能である、請求項1に記載のシステム。
【請求項16】
前記ビットは反射率によって区別可能である、請求項1に記載のシステム。
【請求項17】
前記ビットはテクスチャによって区別可能である、請求項1に記載のシステム。
【請求項18】
前記ビットは磁気的に区別可能である、請求項1に記載のシステム。
【請求項19】
前記平面は道路である、請求項12に記載のシステム。
【請求項20】
前記位置はQ次元空間内にあり、前記位置は、Q個の独立した最大長系列内の部分系列によって特定され、次元毎に1つの独立した最大長系列が存在する、請求項3に記載のシステム。
【請求項21】
前記基材はエレベータシャフト内に配置され、前記物体はエレベータかごである、請求項1に記載のシステム。
【請求項22】
物体の位置を特定するための方法であって、該方法は、プロセッサによって実行され、
基材上に複数のビットからなる系列を配列するステップであって、複数のビットからなる該系列は複数のビットからなる重なり合う部分系列を含み、各ビット部分系列は該基材に沿った位置毎に一意的である、配列するステップと、
物体の特定の位置において複数のビットからなる前記部分系列を検知するステップと、
前記特定の位置において複数のビットからなる前記部分系列の位置を復号化するステップと、
前記特定の位置における複数のビットからなる前記部分系列の位置を前記物体と関連付けるステップとを含む、方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−75550(P2011−75550A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−176418(P2010−176418)
【出願日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【出願人】(597067574)ミツビシ・エレクトリック・リサーチ・ラボラトリーズ・インコーポレイテッド (484)
【住所又は居所原語表記】201 BROADWAY, CAMBRIDGE, MASSACHUSETTS 02139, U.S.A.
【Fターム(参考)】