説明

最小限組織付着移植可能材料

バイオセルロース材料を傷害部位に適用する工程を含む、傷害部位で組織癒着を最小限にするための方法であって、それによって傷害部位での組織癒着を最小限にし、バイオセルロース材料が少なくとも部分的に脱水されている、前記方法を提供する。別の態様は、細胞癒着を有効に防止し、そして望ましい機械的特性を有する、移植可能材料を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連特許出願
[0001]本出願は、その全体が本明細書に援用される、2008年12月19日に出願された米国仮出願第61/193,734号に優先権を請求する。
【背景技術】
【0002】
[0002]本明細書に引用されるすべての参考文献は、その全体が本明細書に援用される。別に明記しない限り、「a」または「an」は、1以上を意味する。
[0003]手術または外傷後の癒着の形成は望ましくなく、そしてこうした癒着の形成を防止するため、酸化セルロース、アルギン酸塩、キトサン、フィブリン、コラーゲン、ヒアルロン酸および多様な合成ポリマーを含む、多くの材料が用いられてきた。これらの癒着バリア材料の主な機能は、材料へのそして周囲組織への組織の癒着の両方を防止することである。こうした癒着は、瘢痕、あるいは組織または臓器への永続的な損傷などの、不都合な結果を生じうる。例えば、酸化セルロース(INTERCEEDTM、Ethicon、ニュージャージー州サマービル)は、婦人科手術で用いられる商業的製品であり、卵管および卵巣への癒着を防止し、それによって術後骨盤疼痛を減少させ、そして卵管、卵巣および子宮への周囲組織癒着による不妊のリスクを最小限にする。ヒアルロン酸およびカルボキシメチルセルロースを用いた別の材料(SeprafilmTM、Genzyme Tissue Repair Inc.)は、体の多様な領域での一般的な手術中の癒着を防止するために利用可能である。整形外科処置中の組織付着を最小限にして、骨および軟組織の移植材料への癒着を防止するために、ポリラクチド製の合成材料(OrthoWrapTM、Mast Biosurgery Inc.)の使用が推奨されてきている。キトサン(米国特許6,150,581)、ヒアルロン酸(米国特許6,630,167)、アルギン酸塩(米国特許6,693,089)およびフィブリン(米国特許6,965,014)を含む、天然存在バイオポリマーが記載されてきている。天然存在バイオポリマーの使用によって、組織付着を最小限にする癒着バリアまたはフィルムとして、非常に親水性の材料が使用可能であると示唆される。
【0003】
[0004]セルロースは、最も豊富なバイオポリマーの1つであり、そして植物および微生物によって産生される。セルロースは、止血剤(SURGICELTM、Ethicon、ニュージャージー州サマービル)、軟組織補強(Xylos社)、および癒着バリア(INTERCEEDTM、Ethicon、ニュージャージー州サマービル)などの多様な移植可能医学的デバイスの出発材料として用いられてきている。最近、これらの商業的に入手可能な酸化セルロースは、腱周囲線維性癒着を防止するために(Temizら, International Orthopedics 2008 32:389−394)、そして潜在的に、心臓周囲適用に(Bicerら, J of Int’l Med. Res. 2008 36(6)11)適用されてきている。また、多様な研究グループが骨および筋肉を含む体の多様な領域中に移植された場合の、非酸化セルロースの生体適合性も立証してきている(Pajuloら, J. Biomed. Mat. Res. 1996, 32, 439−446)。移植中のセルロース性材料の生物学的挙動もまた、Barbieら, Clinical Materials 1990 251−258によってウサギモデルにおいて記載された。他の研究者らは、セルロースおよびその誘導体の組織生体適合性を研究してきており(Miyamotoら, J. Biomed. Mat. Res. 1989, 23, 125−133)、そして材料の特異的適用を調べてきている。大部分の初期セルロース研究は、綿(cotton)由来セルロース、再生セルロースまたはビスコース・セルロースを用いて行われてきた。
【0004】
[0005]他の供給源由来のセルロース、例えば微生物セルロースの使用もまた調べられてきている。例えば、医学産業における微生物セルロースの使用は、初期には、液体装填パッド(米国特許4,588,400)、皮膚移植または傷薬カバー(米国特許5,558,861)、創傷包帯(米国特許5,846,213)、および他の局所適用(米国特許4,912,049)に限定された。微生物由来材料の移植可能性はまず、硬膜代替物として使用するために研究され(Melloら, Journal of Neurosurgery 1997, 86, 143−150)、これは後に米国特許7,374,775に拡大された。最近、細菌セルロースのin vivo移植がHeleniusら(Journal of Biomedical Materials Research 2006, 76A; 431−438)によって開示され、該材料は優れた生体適合性を有することが示された。同じグループはまた、軟骨の組織操作のための潜在的な足場としての微生物の使用を示唆した(Svenssonら, Biomaterials 2005, 26, 419−431)。微生物セルロースおよび他のバイオマテリアルは、移植物材料として、または腱修復および再付着のための縫合増強のための支え(buttresses)として、調べられてきている(Kummerら, J. Biomed Mater Res Part B: Appl Biomater 2005, 74B: 789−791)。米国特許6,599,518は、in vivo移植のためのおよび医学的デバイスとしての溶媒脱水微生物由来セルロースの使用を開示する。米国特許出願第2003/0013163号は、成形微生物セルロース、ならびに血管および顕微手術適用として使用するためのそのデバイスを産生するための方法を記載する。また、in vitroで細胞コロニー形成を支持可能であり、少なくとも10GPaのヤング率を有し、そして多孔性細菌セルロースおよびカルシウム塩を含む、骨または軟骨移植物として使用するための複合生体適合性ヒドロゲルが、米国特許出願第2004/0096509号に記載されている。微生物セルロースと合成ポリマーを組み合わせて、複合物を形成する工程もまた、Wanによって、米国特許出願第2005/0037082号に記載される。最後に、微生物セルロースを生体吸収性にする化学修飾が、最近、米国特許出願第2007/0213522号に報告されてきている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許6,150,581
【特許文献2】米国特許6,630,167
【特許文献3】米国特許6,693,089
【特許文献4】米国特許6,965,014
【特許文献5】米国特許4,588,400
【特許文献6】米国特許5,558,861
【特許文献7】米国特許5,846,213
【特許文献8】米国特許4,912,049
【特許文献9】米国特許7,374,775
【特許文献10】米国特許6,599,518
【特許文献11】米国特許出願第2003/0013163号
【特許文献12】米国特許出願第2004/0096509号
【特許文献13】米国特許出願第2005/0037082号
【特許文献14】米国特許出願第2007/0213522号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Temizら, International Orthopedics 2008 32:389−394
【非特許文献2】Bicerら, J of Int’l Med. Res. 2008 36(6)11
【非特許文献3】Pajuloら, J. Biomed. Mat. Res. 1996, 32, 439−446
【非特許文献4】Barbieら, Clinical Materials 1990 251−258
【非特許文献5】Miyamotoら, J. Biomed. Mat. Res. 1989, 23, 125−133
【非特許文献6】Melloら, Journal of Neurosurgery 1997, 86, 143−150
【非特許文献7】Heleniusら(Journal of Biomedical Materials Research 2006, 76A; 431−438)
【非特許文献8】Svenssonら, Biomaterials 2005, 26, 419−431
【非特許文献9】Kummerら, J. Biomed Mater Res Part B: Appl Biomater 2005, 74B: 789−791
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
[0006]微生物セルロースは、高親水性およびミクロフィブリル集合などの天然特性を所持し、このため、癒着バリアなどの適用に適したものになりうる。しかし、生じる移植可能材料は、最小限組織付着(MTA)を提供するのに有効であるように調整されなければならない。したがって、望ましいレベルの親水性を持ち、薬剤などの生物活性剤を運ぶ能力を有し、そして細胞および/または組織癒着を防止可能であり、そして最小限組織付着を提供可能である、微生物セルロース材料を産生する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
[0009]1つの態様は、移植可能デバイスが互いへの組織の付着を最小限にしうる、微生物セルロース材料を提供する。別の態様は、移植可能微生物セルロース材料であって、望ましい機械特性(例えば引っ張り強さ(tensile)、縫合引き抜き強さ(suture pull−out strength)、および/または剛性)を持って産生される一方、その構造特性(例えば層状超構造を持つ平面等方性不織メッシュ)を維持して、細胞不透過性表面を提供し、そしてin vivoで移植された際に、細胞および/または組織癒着の形成を防止する、前記材料を提供する。さらなる態様は、これらの材料を産生し、そしてこれらの材料を用いるための方法を提供する。
【0009】
[0010]別の態様は、外傷または手術の損傷の結果として生じる、望ましくない細胞および/または組織の付着および/または癒着を最小限にするための移植可能医学的デバイスとして用いられる、微生物セルロース材料、特にアセトバクター・キシリナム(Acetobacter xylinum)・セルロースを提供する。別の態様は、術後細胞性癒着の防止のための、癒着バリアとして、そして/または薬剤送達キャリアとして用いられる。本明細書に記載する移植可能材料を、腹部、心胸郭、整形外科、および/または神経外科処置における癒着の管理を含む、広範囲の外科処置に、ならびに/あるいは、例えば移植部位および/または手術部位の脊椎における軟組織の保護および外科切開平面の確立に、最適にすることも可能である。態様にはまた、高い強度および/または高い適合性(conformability)の適用に適した広い範囲の特性を有するデバイス・ファミリーが含まれてもよい。
【0010】
[0011]1つの態様において、バイオセルロース材料を傷害部位に適用する工程を含む、傷害部位の組織癒着を最小限にするための方法であって、それによって傷害部位での組織癒着を最小限にし、そして微生物セルロース材料が少なくとも部分的に脱水されている、前記方法を提供する。
【0011】
[0012]別の態様において、癒着バリアとして用いられ、そして細胞および/または組織付着を最小限にする、微生物セルロースを産生するための方法を提供する。該方法は:(i)バイオセルロース材料を提供し;(ii)バイオセルロース材料を酸化し;(iii)バイオセルロースの発熱物質を除去し(de−pyrogenating);そして(iv)バイオセルロース材料を脱水する工程を含む。産生される材料は、物理特性を制御するために、部分的に脱水されてもよい。多様な脱水条件、例えば試料中の液体の凍結温度未満の温度、または周囲条件下での脱水条件への曝露を使用してもよい。引っ張り強さ、剛性、および縫合引き抜き強さ特性に対する乾燥プロセスの影響もまた示す。適合性、高い柔軟性、および薬剤などの生物活性剤を送達する能力などの望ましい特性もまた記載する。さらに、本明細書の限定されない例は、組織付着の最小限化、および微生物由来セルロースを用いたin vivoの術後癒着の防止を示す。
【0012】
[0013]被験体における傷害部位での組織付着を最小限にする移植可能バイオセルロース材料であって、少なくとも部分的に脱水され、そして傷害部位に移植される、前記バイオセルロース材料が、1つの態様において提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】[0007]図1は、高い引っ張り強さを有し、そして組織付着を最小限にすることが可能な、微生物セルロース試料(「試料530」)の表面の走査型電子顕微鏡写真(SEM)を示す。
【図2】[0008]図2は、組織付着を最小限にすることが可能な適合性微生物セルロース試料(「試料50」)の表面のSEMを示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
バイオセルロース材料
[0014]1つの態様において、微生物由来セルロースを用いて、組織付着を最小限にしうる材料を産生するための方法を提供する。しかし、セルロース材料は、粉末、スポンジ、ならびに綿、レーヨン、またはその組み合わせで作られた、編物、織物および不織布を含む、任意のセルロース型より選択されてもよい。セルロースのタイプ中にやはり含まれるのは、セルロース・フィルム、セルロース・ペーパー、綿またはレーヨン・ボール、綿または再生セルロースの繊維、あるいは微生物、例えば細菌、例えばアセトバクター・キシリナムによって産生されるセルロースのペリクルである。
【0015】
[0015]これらの材料は、細胞浸潤および/または浸透を最小限にすることによって、隣接する組織間の癒着バリアとして作用しうる。細胞および/または組織付着を最小限にするこうした能力は、材料の異なる特性、例えばその小さい有効孔サイズに起因しうる。望ましい孔サイズを保持しつつ、柔軟性および潤滑性を保持するため、制御された脱水によって、材料を産生し、そして続いてプロセシングしてもよい。脱水は、一連の溶媒交換後、制御された乾燥プロセス、機械的加圧、超臨界二酸化炭素を用いた乾燥を用いるか、または試料を熱的に修飾するかのいずれかを行い(例えば米国特許出願第10/920,297号を参照されたい)、材料の親水性を保持して、柔軟性を維持しつつ、特定の適用に適した強度を持つシートを産生することによって、達成可能である。
【0016】
[0016]未加工の微生物セルロース材料を産生するための多様な方法は、静置法または回転ディスク法、ならびに/あるいは攪拌培養を伴うことも可能である。続いて、溶液、例えば腐食性溶液、例えば濃水酸化ナトリウム溶液を用いて、発酵から生じる材料を「清浄化し」そして洗浄してもよい。少量の有機残渣(例えば細胞または細胞断片)が存在しうるが、清浄化プロセスは、実質的にすべての微生物細胞および過剰な培地を取り除き、そして材料を発熱物質不含にする。清浄化プロセスにはさらに、剤を用いてバイオセルロース材料をホワイトニングする工程が含まれてもよい。バイオセルロースの清浄性をさらに確実にするために用いられるホワイトニング剤は、過酸化水素などの酸化剤であってもよい。
【0017】
[0017]材料を酸化する1つの利点は、酸化剤を通じて、材料の生体吸収性が改善されることである。酸化剤は、例えば、過ヨウ素酸ナトリウム、四酸化二窒素、またはその組み合わせであってもよい。四酸化二窒素を用いる1つの態様において、酸化前に、好ましくは、材料は、水が四酸化二窒素の反応を停止するのを防止するため、乾燥した状態である。例えば、以下に言及する乾燥工程のいずれであってもよい、別の適切な乾燥工程によって、材料を乾燥状態にしてもよい。セルロースに対する溶液中の酸化剤の比は、例えば望ましい酸化レベルに応じて多様でありうる。例えば、比は約20未満、例えば約10未満、例えば約8未満、例えば約5未満、例えば約1未満、例えば約0.5未満、例えば約0.01未満、例えば約0.08未満、例えば約0.05未満であってもよい。
【0018】
脱水
[0018]微生物セルロースは、60%を超える高い水分含有量を有する可能性もあり、例えば80%を超える、例えば90%を超える、例えば95%を超える量でありうる。抗癒着バリア材料に望ましい材料特性を達成するため、材料中に存在する水のある程度またはすべてを取り除いてもよい。例えば、1つの態様において、清浄化微生物セルロース材料をさらに脱水するか、または「乾燥させる」。異なる方法を用いて、バイオセルロース材料の脱水を達成してもよい。例えば、脱水法は、溶媒脱水、超臨界乾燥(例えば二酸化炭素を用いた超臨界乾燥)、凍結乾燥、制御乾燥、機械的加圧、熱脱水(または「熱修飾」)、またはその組み合わせを伴ってもよい。産生される材料は、物理特性を制御するため、部分的に脱水されていても、または実質的に完全に脱水されていてもよい。例えば、50%を超える水、例えば60%を超える、例えば80%を超える、例えば90%を超える、例えば95%を超える、例えば99%を超える、例えば99.5%を超える水を除去してもよい。
【0019】
[0019]1つの態様において、未加工セルロース中の水を交換し、そしてしたがって除去するための溶媒の使用を、乾燥工程の前に使用してもよい。メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、またはその組み合わせを含む、多様な溶媒を、水−溶媒交換に用いてもよい。脱水工程において、材料が柔軟なままであり、そして同時に細胞浸潤を防止するためにその小さい孔サイズが維持されることが可能であるように、材料の吸収能力の少なくともある程度が保持されることが重要である。1つの態様において、これは、実質的に一定の湿度での制御された脱水によって達成可能である。
【0020】
[0020]1つの態様において、制御乾燥プロセス(CD)は、以下のように実行可能である。乾燥前、セルロース試料の液体組成物は、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、またはその組み合わせを含んでもよい。濡れたペリクルを、閉鎖したチャンバーに入れ、これによってチャンバー中の制御されたガス流動が可能になる。窒素などの不活性ガスをチャンバーで流動させて、中の相対蒸気濃度を制御する。不活性ガスの流速は、蒸気中の溶媒濃度を制御可能であり、それによって、セルロースが乾燥する速度を制御することが可能である。乾燥速度を制御することによって、乾燥チャンバー中で、長時間に渡って、微生物セルロースの液体含量を次第に調整してもよい。1つの態様において、微生物セルロースの質量は、乾燥プロセス中、実質的に一定のままであってもよく、プロセス開始時の約2%〜約6%の間、例えば5%から、最大で、乾燥プロセス終了時の約98.5%〜約99.5%の間、例えば99%までの間のどこかの、材料中セルロース濃度を有する材料を生じる。材料は、シート、パッド、ペリクル、またはチューブなどの、任意の適切な形状であってもよい。
【0021】
[0021]乾燥時間を調整することによって、微生物セルロース材料は、異なる微小構造を有して、再水和中に異なる膨潤挙動を生じることも可能である。例えば、いくつかの脱水材料は、数分以内に完全な再水和を示し、一方、いくつかの他のものは、完全に再水和するまで1時間より長く、例えば1日より長いか、またはさらに1週間より長く掛かる。あるいは、脱水された材料は、液体を次第に再吸収して、長時間の浸漬期間後の膨潤を最小限にすることも可能である。その結果、いかなる特定の理論にも束縛されないが、膨潤の速度および微生物セルロース材料(例えばシート)の厚みの増加は、脱水後の構造がどれだけ開放されているかを示しうる。1つの態様において、望ましい材料は、15〜30分間浸漬された後、少量の液体を吸収して柔軟になる一方、厚みを維持することも可能である。
【0022】
[0022]産物必要条件に応じて、脱水前または脱水後の材料をさらに、化学的修飾に供してもよい。こうした化学的修飾には、物理的特性、例えば機械的強度を増進するための、セルロース繊維の架橋、および/または材料を生体吸収性にするセルロースの酸化が含まれてもよい。酸化レベルは、望ましい吸収速度、または材料が体によって吸収される時間に応じて多様でありうる。生じる材料の分解(または吸収)時間は、数週、例えば約1週間より長い、例えば約4週間より長い期間から、約1年を超える、例えば約2年を超える期間の範囲でありうる。
【0023】
微小構造
[0023]本明細書に記載するバイオセルロース材料は、一般的に多孔性である。バイオセルロース材料の孔は、任意のサイズおよび形を有してもよい。例えば、バイオセルロースの孔は筒状、球状、楕円形、またはその組み合わせであってもよい。1つの態様において、バイオセルロース材料の孔サイズは、細胞が材料に容易に浸潤せず、したがって、バイオセルロース材料が実質的に細胞不透性になるものである。材料は、必ずしも細胞に対して完全に不透性でなくてもよい。例えば、材料は、実質的に細胞浸透性または半細胞浸透性であってもよい。例えば、非常に少数の細胞がバイオセルロース中に存在してもよい。
【0024】
[0024]多様な方法を用いて、本明細書記載のバイオセルロース材料の孔サイズを特徴付けてもよい。例えば、孔サイズを「有効孔サイズ」によって記載してもよく、これは、材料を通過することを許される物体の最大サイズとして定義されうる。例えば、物体が、一般的に、約1〜10ミクロン(またはそれより大きい)サイズを有する生物学的細胞であり、そして生物学的細胞より大きい他の実体が、いずれもセルロース材料を通過不能である場合、セルロース材料の有効サイズは、生物学的細胞のサイズであると見なされる。
【0025】
[0025]バイオセルロース材料製品の有効孔サイズは多様でありうる。1つの態様において、有効孔サイズは、約10ミクロン以下、例えば約5ミクロン以下、例えば約2ミクロン以下、例えば約1ミクロン以下、例えば約0.5ミクロン以下、例えば約0.3ミクロン以下、例えば約0.1ミクロン以下である。
【0026】
[0026]本明細書記載のバイオセルロース材料、特にその作製法の1つの特徴は、生じるバイオセルロース材料の微小構造が、上記のプロセシング工程前の未加工バイオセルロース材料のものと匹敵することである。例えば、天然の、プロセシングされていないバイオセルロース・ペリクルが、約5ミクロン未満、例えば約1ミクロン未満の有効孔サイズを有する場合、上記のプロセシング工程後のバイオセルロース材料の有効サイズもまた、約5ミクロン未満、例えば約1ミクロン未満の有効孔サイズを有してもよい。あるいは、天然セルロース・ペリクルが不織様微小構造を有する場合、生じるプロセシングされたバイオセルロース材料もまた、不織様微小構造を有してもよい。
【0027】
生物学的剤
[0027]脱水されたバイオセルロースはまた、生物学的特性を増進させる、多様な生物学的剤、例えば生物学的活性剤を含浸してもまたはこれでコーティングされてもよい。セルロース材料の移植前に、生じたバイオセルロース材料に、多数の生物学的活性剤、例えば薬剤、ペプチド、抗微生物剤、フィブリンを含むタンパク質、および多様な増殖因子を含浸させてもまたはコーティングしてもよい。生物学的活性剤は、自己、同種、異種、合成、またはその組み合わせであってもよい。こうした生物活性剤の、バイオセルロース材料が移植された被験体内への放出もまた、特定の適用に望ましい送達速度に応じて、微小構造を改変することによって制御可能である。微生物セルロース内に取り込み可能な活性剤の例となるリストには、骨形成タンパク質(BMP)、血小板由来増殖因子(PDGF)、トランスフォーミング増殖因子(TGF)、増殖および分化因子(GDF)、インスリン様増殖因子(IGF)、上皮増殖因子(EGF)、脱ミネラル化骨マトリックス(DBM)、因子VIII、またはその組み合わせが含まれる。
【0028】
[0028]意図される適用に応じて、やはり適切なのは、骨、脊椎、軟骨、靱帯、腱、皮膚、管、例えば血管、卵管を含む生物学的軟組織、例えば結合組織、または臓器、例えば、心臓、卵巣、子宮、あるいはその組み合わせの成長のための、生存分化および未分化細胞の使用でありうる。これらの剤および/または細胞を微生物セルロース材料表面に添加しても、または表面上にコーティングしてもよい。バイオセルロース材料はまた、生物学的活性剤を含まなくてもよい。例えば、1つの態様において、バイオセルロースは、生物学的活性剤、例えばペプチド、例えば接着ペプチド、またはシグナル伝達分子、例えば増殖因子を実質的に含まない。
【0029】
機械的特性
[0029]物理的、化学的、および/または生物学的特性に関して、生じた材料をさらに試験して、癒着バリアとしてのその使用を決定し、そして細胞および/または組織付着を最小限にするその能力を立証してもよい。バイオセルロース材料および材料を作製するプロセスの1つの特徴は、天然バイオセルロース材料の微小構造(例えば有効孔サイズ)などのいくつかの特性が、プロセシング工程を通じて、実質的に保持されつつ、バイオセルロース材料製品の機械的特性が制御され、そして/またはその天然状態でのバイオセルロース材料に勝るように改善されうることである。
【0030】
[0030]in vitro試験には、引っ張り強さおよび/または縫合引き抜き耐性などの機械的特性に関する、製品の物理的試験が含まれてもよい。引っ張り強さに関する1つの望ましい特性は、材料が、移植前、およびin vivoでの体内移植後の使用中の両方で、その完全性を保持することである。1つの態様において、生じたバイオセルロース材料は、約0.5N〜約400N、例えば1N〜約300Nの引っ張り強さを有する。一般的に、引っ張り強さに関して、約2Nより大きい値、例えば約3N、例えば約6N、例えば約9N、例えば約12N、例えば約20Nが、非耐荷重適用に関して望ましく、そして引っ張り強さに関して、約100Nを超える、例えば約150Nを超える、例えば約200Nを超える、例えば約250Nを超える、例えば約275Nを超える、例えば約300Nを超える強さが、耐荷重適用に関して望ましい。非耐荷重適用には、例えば、術後、例えば心胸郭手術後の、組織、例えば心臓周囲組織の付着を減少させるための組織ラップ膜が含まれる。耐荷重適用には、例えば、回旋筋腱板再構築および/または修復における、軟組織、例えば腱の外科的修復における縫合安全性を増進させるのに用いられる、補強マトリックスが含まれる。
【0031】
[0031]バイオセルロース材料はまた、材料の望ましい適用に応じて、広範囲の縫合引き抜き強さを有してもよい。例えば、縫合引き抜き強さは、約0.1N〜約20N、例えば0.3N〜約15Nの間であってもよい。1つの態様において、組織を補強するよう作用するバイオセルロース材料は、約6Nより大きい、例えば約9Nより大きい、例えば約12Nより大きい、例えば約15Nより大きい縫合引き抜き強さを有してもよく、一方、非耐荷重適用においては、材料は、仮縫い縫合を維持するため、約3N未満、例えば約2N未満、例えば約1N未満、例えば約0.5N未満、例えば約0.3N未満の縫合引き抜き強さを有してもよい。
【0032】
[0032]バイオセルロース材料は、材料の望ましい適用に応じて、広範囲の剛性を有してもよい。例えば、縫合引き抜き強さは、約0.5N〜約100N、例えば1N〜約40Nの間であってもよい。1つの態様において、非耐荷重適用に用いるセルロース材料は、約10N未満、例えば約5N未満、例えば約3N未満、例えば約2N未満、例えば約1N未満の剛性を有してもよい。バイオセルロース材料を耐荷重適用で用いる1つの別の態様において、材料の剛性は、約10Nより大きく、例えば約20Nより大きく、例えば40Nより大きく、例えば約60Nより大きい。
【0033】
[0033]生じたバイオセルロース材料を耐荷重または非耐荷重適用にのみ用いる必要はない。例えば、本明細書記載のバイオセルロース材料は、最小限の組織付着能力しか持たないため、手術部位周囲の組織は接着できないことから、材料を手術部位でのマーカーとして用いて、それによって、手術部位の位置を遮蔽してもよい。例えば、1つの態様において、バイオセルロースを用いて、例えば脊椎での術後切開平面を確立する。バイオセルロースは、手術部位で、組織、または組織の特定の部分へのアクセス増進を提供するよう意図され、これは手術部位が、これを覆う接着された組織を実質的に含まないことが可能であるためである。こうしたアクセスによって、続く外科的アプローチにおいて、同じ解剖学的位置への鈍的切開を促進(そしてしたがってその容易さを改善)しうる。
【0034】
生体吸収性
[0034]本明細書記載のバイオセルロース材料は、一般的に生体適合性である。これはまた、生体吸収性であることも可能である。多様な溶液中でのこの材料の分解を測定して、材料が体内にどのくらい長く損なわれずに残りうるかを概算してもよい。本明細書記載のバイオセルロース材料の生体吸収時間(または「生体吸収速度」)は、例えば、約7日未満〜約3年より長い、例えば約30日から約2年の間であってもよい。材料を主に、術後癒着の形成を最小限にするために用いることが可能である、非耐荷重適用における材料は、より短い吸収時間、例えば約30日未満、例えば約14日未満、例えば約7日未満を有してもよい。あるいは、強さが維持されることが望ましい、他の適用において、材料は、0.5年より長い、例えば1年より長い、例えば2年より長い吸収時間を有してもよい。
【0035】
動物研究
[0035]子宮角モデル中のウサギ子宮角モデル(Wisemanら, J. Inv. Surg. 1999, 12:141−146)および盲腸擦過モデル中のラット盲腸擦過モデル(Avatalら, Dis Colon Rectum 2005, 48, 153)を含む、多様な動物モデルを使用して、材料が組織癒着をin vivoで最小限にする能力を例示してもよい。例えば、ラットにおける盲腸擦過モデルは、材料が、盲腸および腹壁間の癒着形成を防止する能力を例示しうる。このモデルにおいて、盲腸および腹壁の対応する領域の間で、擦過を生成する。擦過領域が重なるのを防止するデバイスを置く。望ましい時間間隔の後、手術部位を評価し、そして癒着引っ張り強さおよび癒着によって覆われたデバイスの面積パーセントに基づいて、癒着形成の等級分けをする。引っ張り強さを評価する方法が、一般的に、当該技術分野に知られる。こうした評価の例示的な限定されない例を、以下のセクションの実施例10に提供する。1つの態様において、上述のセルロース材料を含む移植可能材料の組織および/または細胞癒着に関する引っ張り強さは、約2.5未満、例えば約2未満、例えば約1.5未満、例えば約1.0未満、例えば約0.5未満、例えば約0である。
【0036】
適用
[0036]生じたバイオセルロース試料は、セルロース・シート、例えば医療等級のセルロース・シートの形であってもよい。製造および清浄化および/または酸化プロセス後、バイオセルロース材料をパンチし、パッケージングし、そしてガンマ滅菌してもよい。バイオセルロース材料は、骨、軟骨、靱帯、腱、皮膚、管、例えば血管、脊椎を含む組織、例えば結合組織、または臓器、あるいはその組み合わせを修復するかまたは増大させるための移植物の一部であってもよい。移植物を必要な被験体で用いてもよく、そして被験体は、動物、例えばヒトを含む哺乳動物であってもよい。バイオセルロース材料は、短時間で体によって(生体)吸収され、そしてその間に、組織癒着の代わりに、新規組織の形成による組織治癒を促進する、材料であってもよい。あるいは、バイオセルロース材料は、組織アンカーとして働いてもよく、これは先の態様におけるより、より緩慢なペースで生体吸収される。1つの態様において、微生物セルロース材料を傷害部位に適用する。傷害は、意図的に生成された傷害または偶発的に(そして天然に)生じた傷害のいずれかによって引き起こされる、外科的または外傷的損傷、病変、擦過等の結果であってもよい。材料はまた、心臓血管修復、例えば心臓弁修復(例えば心臓周囲癒着を防止するため)、卵管、卵巣、および/または子宮修復でも用いられてもよい。
【実施例】
【0037】
限定されない作業実施例
[0037]以下の実施例は、本発明を例示するために提供される。しかし、本発明は、これらの実施例に記載する特定の条件または詳細に限定されないことを理解しなければならない。明細書全体で、この特許出願に、あらゆる参考文献が明確に援用される。
【0038】
実施例1−アセトバクター・キシリナムによる微生物セルロースの産生
[0038]本実施例は、最小限組織付着(MTA)材料を調製する際に使用するのに適した、アセトバクター・キシリナムによる微生物セルロースの産生を記載する。産生は、インキュベーション前に、増殖容器から、A.キシリナムを滅菌培地に接種する工程を伴った。次いで、接種培地を用いて、バイオリアクター・トレーを、30、50、110、および530g(そしてしたがって、「試料30」、「試料50」、「試料110」、および「試料530」)を含む、固定された体積まで満たした。充填体積は、最大体積590gのバイオリアクター・トレーに添加された接種培地の量を指す。充填体積がより多ければ、より高いセルロース含量の最終産物に相当する。増殖中の酸素曝露のために付加された曝気ポートを備えたプラスチック・シートでトレーを覆った。次いで、トレーを、静置条件下、30℃の固定温度で、最適増殖が達成されるまでインキュベーションした(培地の最初の体積に応じて、4〜35日)。
【0039】
[0039]微生物セルロース・ペリクルを採取し、そして重量検査に供して、確立された重量および/またはセルロース規格にしたがって、増殖が達成されたことを検証した。
実施例2−微生物セルロースのプロセシング
[0040]実施例1にしたがって産生された微生物セルロースを、一連の化学的プロセスに供して、清浄化し、そして外見をホワイトニングした。化学的プロセシングの前に、空気圧プレスを用いてペリクルに加圧して、望ましい抽出重量を達成した。
【0040】
[0041]加圧セルロース・ペリクルは、およそ1時間、腐食性溶液の加熱タンク中での動的浸漬を含む化学的プロセシングを経て、材料の発熱物質が除去された。この化学的プロセス後、ろ過水で連続してリンスして、プロセシングされたペリクルから腐食性溶液を取り除いた。リンスに続いて、さらなる化学的酸化剤、過酸化水素を用いて、ペリクルをホワイトニングした。化学的プロセシング後、微生物セルロース・フィルムを再び、空気圧プレス中での脱水に供して、あらかじめ指定された重量または厚みを達成し、そして次いで、以下に記載する化学プロセシング後の工程に供した。
【0041】
実施例3−高い強度の非吸収性デバイス
[0042]一般的に高い強度を必要とする、非吸収性移植物のためのバイオセルロース材料を製造するためのプロセスは、実施例1および2に記載するような試料530材料を製造することから始まり、その後、溶媒脱水プロセスで、ペリクル中に存在する水の一部を除去した。溶媒脱水後、あらかじめ指定した重量までペリクルを機械的に脱水して、そして10%以下の液体含量レベルまで制御乾燥させた。パンチング、パッケージング、および滅菌の前に、0.125%H中で、再水和の最終工程を行った。
【0042】
実施例4−高い適合性の非吸収性デバイス
[0043]一般的に高レベルの適合性を必要とする、非吸収性移植物のためのバイオセルロース材料を製造するためのプロセスは、実施例1および2に記載するような試料30材料を製造することから始まり、その後、熱修飾脱水プロセスで、ペリクル中に存在する水の一部を除去した。熱修飾後、ペリクルを約20℃より高い温度に温めた。次いで、バイオセルロース材料試料をパンチし、パッケージングし、そしてガンマ滅菌した。
【0043】
実施例5−高い強度の吸収性デバイス
[0044]吸収性デバイスのためのプロセスは、高い強度の微生物セルロースを生体吸収性にするため、さらなる酸化工程を伴った。ペリクルの形の実施例1および2に記載するような試料530材料を過ヨウ素酸ナトリウム溶液に浸して、約0.08の過ヨウ素酸対セルロース比を生じた。ペリクル試料を約23±2℃で約16〜18時間酸化し、その後、水リンス・プロセスで未反応過ヨウ素酸塩を取り除いた。実施例1に記載する試料の、酸化された、そしてしたがって吸収性のものは、以後、「試料30−R」、「試料50−R」、「試料110−R」、および「試料530−R」と示される。過剰な過ヨウ素酸塩が取り除かれたら、酸化ペリクルを機械的に脱水して、ペリクルから残渣水の>50%を除去した。次いで、ペリクルは、メタノールでの多数回の溶媒交換を経て、残渣水の>95%が除去された。次いで、実施例3に記載するようなCDプロセス前に、ペリクルを機械的に脱水した。超臨界二酸化炭素を用いた最終乾燥工程前に、ペリクルをメタノール中で簡単に再水和した。ペリクルをポリプロピレンメッシュ中に包み、そして超臨界液体交換系(150SFE系、Super Critical Fluid Technologies、デラウェア州ニューアーク)に入れた。容器を4000psiおよび40℃にして、そして完全なメタノール除去が達成されるまで、一連の静的/動的サイクルを行った。超臨界プロセス後、乾燥した形の酸化材料を容器から取り除いた。
【0044】
実施例6−高い適合性の吸収性デバイス
[0045]吸収性デバイスのためのプロセスは、適合性微生物セルロースを生体吸収性にするため、さらなる酸化工程を伴った。実施例1および2に記載するような微生物セルロース(試料50)を過ヨウ素酸ナトリウム溶液に浸して、約8の過ヨウ素酸対セルロース比を生じた。水リンス・プロセスで未反応過ヨウ素酸塩を取り除く前に、ペリクル試料を約23±2℃で約16〜18時間酸化した。酸化試料は、したがって、「試料50−R」である。リンス・プロセス後、ペリクルはメタノールでの多数回の溶媒交換を経て、残渣水の約95%より多くがペリクルより除去された。次いで、実施例5に記載するような超臨界二酸化炭素での乾燥工程前に、ペリクルを機械的に脱水した。
【0045】
実施例7−微生物セルロースの四酸化二窒素酸化
[0046]四酸化二窒素を用いた代替酸化法を用いて、微生物セルロースを生体吸収性にした。酸化前、材料を比較的乾燥した状態にして、水が四酸化二窒素の反応を停止するのを防止した。これは酸化前のさらなる工程であり、先の過ヨウ素酸酸化法を用いた際には実行されなかった。材料が乾燥したら、材料を全フッ素置換三級アミン溶媒中に浸し、そしてあらかじめ決定した量の四酸化二窒素を反応容器に添加した。反応時間を最長約24時間に設定し、その後、セルロース・シートをメタノールで洗浄して、いかなる過剰な酸化剤および溶媒も除去した。以下に記載するような超臨界乾燥での最終脱水前に、材料をさらにメタノールに浸した。
【0046】
実施例8−MTA材料の機械的試験
[0047]引っ張り強さ、縫合引き抜き強さ、および剛性を測定して、実施例3〜6に記載するように産生した多様な材料の強度を特徴付けた。試験する試料に応じて、100Nまたは500lbロードセルのいずれかを取り付けたUnited Tensile Tester(モデルSSTM−2kN)の空気圧クランプ内に載せた実施例3〜6から得た1cm×4cm試験片に対して、引っ張り強さおよび縫合引き抜き強さ試験を行った。標本の引っ張り強さ試験に関するゲージ長は25mmであった。標本が完全に脱落する(fail)まで300mm/分の速度で標本を変位に供した。最大力(N)での力−変位曲線から、脱落時の力(failure force)を決定した。
【0047】
[0048]縫合引き抜き試験は、曲がった針とともに、2−0または5−0ポリプロピレン縫合糸(Prolene、Ethicon Inc.)のいずれかを用いた。単一の縫い目を各側面からおよそ5mmに、そして標本の底の端から4mmに置いた。縫合糸をおよそ10cmに切った。標本の上端をUnited Tensile Tester上の空気圧クランプ内に載せた。縫合の両端を空気圧クランプのより低いセット内に乗せた。標本が完全に脱落するまで、標本を300mm/分で変位に供した。
【0048】
[0049]剛性試験は、ASTM D4032−94、円形曲げ法(Circular Bend Procedure)によるファブリック剛性に関する標準的試験法にしたがった。プローブ直径は0.500”であり、そしてプラットホーム・オリフィスは0.875”であった。クロスヘッド速度は、100Nロードセルで300mm/分であった。各試験測定に、単一の4cm × 5cmデバイスを用いた。
【0049】
表1:実施例3〜6に記載するような非酸化および酸化材料に関する機械的試験データ
【0050】
【表1】

実施例9−MTA構造の走査型電子顕微鏡(SEM)分析
[0050]上述の工程にしたがって産生されたMTA材料に対して、SEM画像を撮影して、表面微小構造を評価し、そして材料の有効孔サイズを決定した。図1は、高い引っ張り強さを有し、組織付着を最小限にすることが可能な「試料530」表面のSEM画像を示す。図2は、高い適合性があり、そして組織付着を最小限にすることが可能な「試料50」の表面のSEM画像を示す。図1および2はどちらも、試料がバイオセルロースの非常に不織性の構造を示すことを示す。図1および2中の孔サイズは約<0.5μmであり、これは大部分の細胞種より有意により小さい。バイオセルロースのナノ多孔性構造は、その中での細胞内殖の能力を制限し、それによってin vivoで最小限の組織付着を示す材料を提供する。
【0051】
実施例10−組織付着の最小限化のin vivo立証
[0051]材料が細胞付着および組織付着を最小限にする能力を示すのに利用可能ないくつかのモデルのうち、ウサギおよびラットの両方におけるin vivo盲腸擦過モデルを用いて、本明細書記載の材料が組織付着を最小限にする能力を立証した。盲腸モデルは、癒着形成のよく許容されるモデルであり、このモデルにおいて、動物の盲腸および隣接腹壁の特定の領域を擦過して、2つの表面間の癒着形成を促進する。試験材料として、擦過された組織表面間に移植材料を導入し、そして各試験材料を2つの測定基準を通じて評価した。外科処置からおよそ7〜15日後、傷害領域を調べ、そして形成された癒着の度合い(引っ張り強さ)に関して、用いたスコアリング系に応じて、0〜3または0〜4のスケールで等級付けし、ここで0のスコアは組織表面間の相互作用がないことを示し、そして3〜4は最強癒着を示す。形成された癒着面積もまた、傷害部位の総面積の割合として評価した。
【0052】
研究1−ウサギ
[0052]最初の一連の研究は、4匹の動物群の雌ニュージーランド・ウサギの使用を伴い、ここで、各動物に、上記にしたがって作製した4つの移植材料、試料30(「30」)、試料30−吸収性(「30−R」)、試料530(「530」)、および試料530−吸収性(「530−R」)のうち1つを投与した。各移植材料を、盲腸および腹壁間に導入した。損傷を受けた盲腸および腹壁間に移植物が導入されない、3匹の陰性対照動物もまた用いた。移植15日後、この領域を調べ、そして形成された癒着の強度および面積を評価した。対照群において、癒着は領域の100%で形成され、そして3.4の平均引っ張り強さが観察された(この研究における最大可能スコアは4.0であった)。盲腸および腹壁間に、微生物セルロース材料(「試料530」)を含有する試験群は、腹壁側では総傷害面積の25%、および盲腸側では面積の73%の減少スコアを示した。癒着の引っ張り強さは、腹壁側および盲腸側に関して、それぞれ2および2.3と評価された。これらの研究の結果を以下の表2に要約する。全体として、試験材料は、癒着形成に関与する面積の有意な減少および隣接する組織間の癒着強度の有意な減少を示した。
【0053】
表2:ウサギ盲腸擦過モデルにおける多様なバイオセルロース材料の影響の研究結果
【0054】
【表2】

研究2−ラット
[0053]第二のin vivo証明は、ラットで行われた以外は同じモデルを伴った。微生物セルロース材料の多様な原型の4つの試験群、および盲腸傷害後、移植物を与えられない対照群があった。結果はウサギ研究と同様であり、対照群の大部分(13匹のうち12匹)が傷害面積の75〜100%を伴う強い癒着を示した。微生物セルロース・デバイスを組織間に置いた、試験動物群のすべてにおいて、形成される癒着および癒着強度の減少があった。80%まで酸化させた試料30を用いた1群では、13匹のうち2匹のみが何らかの可視の癒着を示し、そして形成される癒着の引っ張り強さは非常に低く、そして面積の25%未満を伴った。実施例5に記載するような、非酸化型、試料110標本もまた、調べた12の試料のうち10で、組織付着を最小限にした。
【0055】
[0054]これらの結果は、上述の材料を移植したすべての動物が、癒着引っ張り強さの有意な減少を示したことを示し、これはセルロースの臨床的影響を評価する2つの測定基準のより優れた指標である。癒着形成を防止し、そして組織付着を最小限にするための材料の使用は、これらの実施例研究によって、明らかに立証された。したがって、すべての材料は癒着を減少させるのに有効であると決定された。
【0056】
[0055]以下の態様は、2008年12月19日に出願された米国仮出願第61/193734号からのものである:
[0056]1.隣接する組織間の癒着を最小限にするため、その必要がある被験体における外科部位に、微生物セルロースを適用する工程を含む、組織癒着を最小限にするための方法であって、微生物セルロースが脱水され、そして走査型電子顕微鏡によって決定した際、10ミクロン以下の平均開口サイズを有する、前記方法。
【0057】
[0057]2.約100Nの高い引っ張り強さを有し、そして組織付着を最小限にすることが可能な材料。
[0058]3.約2Nの剛性を持ち、そして組織付着を最小限にすることが可能な、高い適合性の材料。
【0058】
[0059]4.腱修復中の癒着を防止するのに用いられる材料。
[0060]5.脊椎の切開平面を生成することが可能であり、そして他の適用が可能な材料。
【0059】
[0061]6.腱周囲癒着および心臓周囲癒着を防止可能な材料。
[0062]7.四酸化二窒素を用いて材料を酸化する、態様1の方法。
[0063]8.過ヨウ素酸ナトリウムを用いて材料を酸化する、態様1の方法。
【0060】
[0064]9.微生物セルロースの脱水が、溶媒脱水、超臨界乾燥法、凍結乾燥、一定の湿度の下での制御乾燥および熱脱水からなる群より選択される方法によって達成される、態様1の方法。
【0061】
[0065]本発明の態様の前述の説明は、例示および説明の目的で提示されてきている。これは包括的であることも、また開示する正確な形式に本発明を限定することも意図せず、そして上記解説を考慮した修飾および変動が可能であるし、あるいは本発明の実施から、修飾および変動が獲得されうる。本発明の原理を説明するため、そして当業者が本発明を多様な態様において利用するのを可能にする現実的な適用として、意図される特定の使用に適した多様な態様で、そして多様な修飾を伴って、態様が選択され、そして記載された。本発明の範囲は、付随する請求項およびその同等物によって定義されることが意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオセルロース材料を傷害部位に適用する工程を含む、傷害部位の組織癒着を最小限にするための方法であって、バイオセルロース材料が少なくとも部分的に脱水され、そしてそれによって傷害部位での組織癒着が最小限になる、前記方法。
【請求項2】
バイオセルロース材料が微生物によって産生される、請求項1の方法。
【請求項3】
バイオセルロース材料が約1ミクロン以下の有効孔サイズを有する、請求項1の方法。
【請求項4】
バイオセルロースが:
(i)約1N〜約300Nの間の引っ張り強さ
(ii)約3N〜約40Nの間の剛性
(iii)約0.3N〜約15Nの間の縫合引き抜き強さ(pull−out strength)
の少なくとも1つを有する、請求項1の方法。
【請求項5】
バイオセルロースが約2未満の組織癒着引っ張り強さ(tenacity)を有する、請求項1の方法。
【請求項6】
バイオセルロースが生体吸収性である、請求項1の方法。
【請求項7】
バイオセルロースが約14日〜約3年の間の生体吸収速度を有する、請求項5の方法。
【請求項8】
傷害部位の少なくともある程度の組織がバイオセルロース材料に付着しない、請求項1の方法。
【請求項9】
バイオセルロース材料が生物学的活性剤を含む、請求項1の方法。
【請求項10】
バイオセルロース材料が生物学的活性剤を実質的に含まない、請求項1の方法。
【請求項11】
組織付着を最小限にする移植可能バイオセルロース材料を作製する方法であって:
(i)バイオセルロース材料を提供し;
(ii)バイオセルロース材料を酸化し;
(iii)バイオセルロースの発熱物質を除去し(de−pyrogenating);そして
(iv)バイオセルロース材料を脱水する
工程を含む、前記方法。
【請求項12】
(i)四酸化二窒素および(ii)過ヨウ素酸ナトリウムの少なくとも1つを用いて、バイオセルロース材料を酸化する、請求項11の方法。
【請求項13】
バイオセルロースが約2未満の組織癒着引っ張り強さを有する、請求項11の方法。
【請求項14】
工程(i)の前のバイオセルロース材料の微小構造が、工程(iv)の後のバイオセルロース材料の微小構造と実質的に同じである、請求項11の方法。
【請求項15】
微生物セルロースを脱水する工程が、溶媒脱水、超臨界乾燥法、凍結乾燥、一定の湿度の下での制御乾燥および熱修飾からなる群より選択される方法によって達成される、請求項11の方法。
【請求項16】
工程(iv)の後のバイオセルロース材料を再水和する工程をさらに含む、請求項11の方法。
【請求項17】
バイオセルロース材料が生物学的活性剤を実質的に含まない、請求項11の方法。
【請求項18】
バイオセルロース材料が約1ミクロン以下の有効孔サイズを有する、請求項11の方法。
【請求項19】
バイオセルロース材料が
(i)約1N〜約300Nの間の引っ張り強さ
(ii)約3N〜約40Nの間の剛性
(iii)約0.3N〜約15Nの間の縫合引き抜き強さ
の少なくとも1つを有する、請求項11の方法。
【請求項20】
請求項11の方法にしたがって作製された、移植可能材料。
【請求項21】
移植部位の隣接する組織または臓器の少なくとも1つの癒着を防止する、請求項20の移植可能材料。
【請求項22】
移植部位で切開平面を生成する、請求項20の移植可能材料。
【請求項23】
被験体における傷害部位での組織付着を最小限にする移植可能バイオセルロース材料であって、少なくとも部分的に脱水され、そして傷害部位に移植される、前記バイオセルロース材料。
【請求項24】
バイオセルロース材料が
(i)約1N〜約300Nの間の引っ張り強さ
(ii)約3N〜約40Nの間の剛性
(iii)約0.3N〜約15Nの間の縫合引き抜き強さ
の少なくとも1つを有する、請求項23の移植可能バイオセルロース材料。
【請求項25】
約1.5未満の組織癒着引っ張り強さを生じる、請求項23の移植可能バイオセルロース材料。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2012−512705(P2012−512705A)
【公表日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−542221(P2011−542221)
【出願日】平成21年12月4日(2009.12.4)
【国際出願番号】PCT/US2009/066719
【国際公開番号】WO2010/080264
【国際公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【出願人】(511148075)キシロス・コーポレーション (2)
【Fターム(参考)】