説明

有害鳥類の数及び停留位置の確定方法及びその確定装置並びに有害鳥類の防除方法

【課題】停留状態の有害鳥類の撮影映像データから必要且つ最小の情報のみを自動的に抽出することで、データの処理工程を簡素化し、これによって処理負荷を大幅に低減し得る有害鳥類の数及び停留位置の確定方法を提供することを目的としている。
【解決手段】停留状態の有害鳥類1を所定時間撮影して得た映像データに、動いている物を消去する消去処理を施して対象データとし、予め作成された停留状態の有害鳥類1の態様を特定した基準データと前記対象データとを照合し、前記対象データ中における前記基準データと同一若しくは近似の態様の有無を確知することで前記停留状態の有害鳥類1の数及び停留位置を確定する有害鳥類の数及び停留位置の確定方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、停留状態の有害鳥類の数及び停留位置を確定する方法及びその装置並びに有害鳥類の防除方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、有害鳥類、特にカラスの大量発生により農作物が食い荒らされる被害が発生し、また住宅街や市街地では騒音や糞による公害が問題となっている。
【0003】
更に、最近では、特に鳥インフルエンザの問題が重要視され、有害鳥類の防除は差し迫った重要な課題となっている。
【0004】
そのため、様々な有害鳥類の防除方法が提案されており、その中で、例えば、特開2004−097019号のように捕獲器近傍に監視装置を設けて有害鳥獣の捕獲状況を遠隔地で確認したり、或いはこの捕獲器を遠隔操作したりするため、映像データを用いた防除方法が提案されている。
【0005】
また、映像データから画像中の被撮影体を検出し、この被撮影体の数などを確知するための様々な画像処理方法が検討されており、例えば、特開平10−063863号のように、歩道,廊下若しくは出入り口を通過する歩行者、道路を往来している若しくはゲートを通過する車両、更にはベルトコンベア上を移動する物体などを確知するための画像処理方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−097019号公報
【特許文献2】特開平10−063863号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記画像処理方法を有害鳥類の防除に利用したとき、例えば、テンプレート整合法を用いた場合は、有害鳥類が姿勢を変えるなど動きがあると、テンプレートとの整合性が悪化し安定した確知が困難となる。
【0008】
また、このテンプレート整合法と背景差分法を組み合わせた場合は、動きのあるものに対しては確知可能となるが、停留状態で動きのない有害鳥類は、背景として確知されてしまい安定した確知が困難となる。
【0009】
また、フレーム間差分法やオプティカルフロー法では、動いている物全てを確知してしまうから、一時的な照明変化や降雨雪粒子の影響を受け、やはり安定した確知が困難となる。
【0010】
そのため、上記の問題点を解決した動的背景更新の処理を施す画像処理方法が提案されている。
【0011】
この方法では、静止物は勿論、映像中の動いている物についても、雨雪粒や照明変化といった外乱の影響を受けずに数などを安定して正確に確知することが可能であるが、そのためのデータ処理工程が複雑且つ大規模である。
【0012】
ところで、有害鳥類の映像監視は比較的野外で行われることが多く、場合によっては常時電源を供給できる環境でないこともある。
【0013】
従って、有害鳥類の防除に前記動的背景更新の処理を施す画像処理方法を用いた場合、前述したようにデータ処理工程が複雑且つ大規模であるため、装置を省電力化且つ小型化することが困難であり、また、データ処理の負荷が非常に大きく消費電力が大きいため、例えば、電源が電池の場合は直ぐに電池切れとなってしまい作動時間が短くならざるを得ず、野外での使用が困難であるという問題がある。
【0014】
本発明は、停留状態の有害鳥類の撮影映像データから必要且つ最小の情報のみを自動的に抽出してデータ処理工程を簡素化し、これによってデータ処理の負荷を大幅に低減することで省電力且つ小型化を実現した実用性に秀れる有害鳥類の数及び停留位置の確定方法等を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
添付図面を参照して本発明の要旨を説明する。
【0016】
停留状態の有害鳥類1を所定時間撮影して得た映像データに、動いている物を消去する消去処理を施して対象データとし、予め作成された停留状態の有害鳥類1の態様を特定した基準データと前記対象データとを照合し、前記対象データ中における前記基準データと同一若しくは近似の態様の有無を確知することで前記停留状態の有害鳥類1の数及び停留位置を確定することを特徴とする有害鳥類の数及び停留位置の確定方法に係るものである。
【0017】
また、請求項1記載の有害鳥類の数及び停留位置の確定方法において、前記映像データは、電線や高架線などの線状体2上に停留している有害鳥類1を所定時間撮影したものであり、前記基準データも、電線や高架線などの線状体2上に停留している有害鳥類1の態様を特定したものであることを特徴とする有害鳥類の数及び停留位置の確定方法に係るものである。
【0018】
また、請求項1,2いずれか1項に記載の有害鳥類の数及び停留位置の確定方法において、前記対象データ及び前記基準データには位置データが記録されていることを特徴とする有害鳥類の数及び停留位置の確定方法に係るものである。
【0019】
また、請求項1〜3いずれか1項に記載の有害鳥類の数及び停留位置の確定方法において、前記消去処理を施した前記対象データ中における前記停留状態の有害鳥類1以外の不必要な情報データを消去若しくは低減する外乱抑圧処理を施すことを特徴とする有害鳥類の数及び停留位置の確定方法に係るものである。
【0020】
また、請求項1〜4いずれか1項に記載の有害鳥類の数及び停留位置の確定方法において、前記消去処理は、前記停留状態の有害鳥類1を所定時間撮影し得た前記映像データから低周波成分を抽出する低域通過濾波処理であることを特徴とする有害鳥類の数及び停留位置の確定方法に係るものである。
【0021】
また、請求項4,5いずれか1項に記載の有害鳥類の数及び停留位置の確定方法において、前記外乱抑圧処理は、前記消去処理を施した前記対象データから低周波数成分を抽出する低域通過濾波処理,所定周波数成分を抽出する帯域通過濾波処理若しくは高周波数成分を抽出する高域通過濾波処理のいずれかの処理またはこれらの処理の組合せであることを特徴とする有害鳥類の数及び停留位置の確定方法に係るものである。
【0022】
また、請求項1〜6いずれか1項に記載の有害鳥類の数及び停留位置の確定方法において、前記消去処理前の映像データ若しくは前記消去処理後の前記対象データの明暗度を操作して前記映像データ若しくは前記対象データにおける前記停留状態の有害鳥類1を鮮明にする輝度変換処理を行うことを特徴とする有害鳥類の数及び停留位置の確定方法に係るものである。
【0023】
また、請求項1〜7いずれか1項に記載の有害鳥類の数及び停留位置の確定方法において、前記予め作成された停留状態の有害鳥類1の態様は、前記停留状態の有害鳥類1の撮影方向が正面若しくは背面のときは少なくとも一種類の態様、また、撮影方向が斜め方向のときは少なくとも二種類の態様であることを特徴とする有害鳥類の数及び停留位置の確定方法に係るものである。
【0024】
また、請求項1〜8いずれか1項に記載の有害鳥類の数及び停留位置の確定方法において、前記有害鳥類1はカラスであることを特徴とする有害鳥類の数及び停留位置の確定方法に係るものである。
【0025】
また、有害鳥類1を防除する方法であって、請求項1〜9いずれか1項に記載の有害鳥類の数及び停留位置の確定方法を用いて確定した前記停留状態の有害鳥類1の数から、前記停留状態の有害鳥類1を攻撃するか否かを判断し、攻撃を実行することを特徴とする有害鳥類の防除方法に係るものである。
【0026】
また、請求項10記載の有害鳥類の防除方法において、前記攻撃の実行に際しては、最適な攻撃手段が選択されることを特徴とする有害鳥類の防除方法に係るものである。
【0027】
また、請求項10,11いずれか1項に記載の有害鳥類の防除方法において、前記攻撃後における同位置の停留状態の有害鳥類1の数を前記同様の方法で確定し、前記攻撃の効果を確認することを特徴とする有害鳥類の防除方法に係るものである。
【0028】
また、請求項12記載の有害鳥類の防除方法において、前記攻撃の効果の確認後、効果不足と判断した場合には再度攻撃を実行することを特徴とする有害鳥類の防除方法に係るものである。
【0029】
また、停留状態の有害鳥類1を所定時間撮影する撮像部3と、前記撮像部3で撮影して得た映像データから動いている物を消去する消去処理部4と、この消去処理部4で処理した対象データ中の前記停留状態の有害鳥類1の態様と、予め作成された停留状態の有害鳥類1の態様を特定した基準データとを照合し、前記対象データ中における前記基準データと同一若しくは近似の態様の有無を確知して前記停留状態の有害鳥類1の数及び停留位置を確定する確定部5とを具備したことを特徴とする有害鳥類の数及び停留位置の確定装置に係るものである。
【発明の効果】
【0030】
本発明は、停留状態の有害鳥類を撮影した映像データから、飛行状態の有害鳥類や降雨雪粒子などの動いている物を消去し、必要最小限の情報のみとするから、停留状態の有害鳥類の確知精度が向上し、また、予め作成された基準データとの照合により、停留状態の有害鳥類の数及び停留位置を確定するという極めて簡易な手段を採用するから、小型で且つ省電力な回路で実現できる有害鳥類の数及び停留位置の確定方法となる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本実施例を示す説明概要図である。
【図2】本実施例を示す説明概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
好適と考える本発明の実施形態を、図面に基づいて本発明の作用を示して簡単に説明する。
【0033】
本発明は、停留状態の有害鳥類1を所定時間撮影し得た映像データから、例えば、飛行状態の有害鳥類1や降雨雪粒子などの不要なデータを消去して対象データとしているため、また、停留状態の有害鳥類1は、例えば電線や高架線などの線状体2上に停留している有害鳥類1であるため、撮影環境が劣悪な条件下であっても、撮影した映像データが攻撃の必要性を判断するための必要最小限な安定した対象データとなり、また、この対象データが必要最小限のデータであるから、停留状態の有害鳥類1の数及び停留位置を確知する処理は、対象データ中の停留状態の有害鳥類1の態様と、予め作成しておいた停留状態の有害鳥類1の態様との照合という極めて簡易な操作のみで行われることになる。
【0034】
つまり、本発明は、線状体2上に停留している有害鳥類1と、飛翔している有害鳥類1とが混在している映像データを、攻撃の必要性を判断するために必要十分な線状体2上に停留している有害鳥類1に絞り、その絞ったデータをもとに有害鳥類1の数を確知するものであるため、基準データとの照合という簡易な手段によっても安定した且つ正確な情報を得ることができる。
【0035】
例えば、線状体2上に停留している有害鳥類1を斜め方向から撮影する場合は、映像中の停留状態の有害鳥類1は右を向いた状態若しくは左を向いた状態の二種類の態様のいずれかとなるから、この二種類の有害鳥類1の態様を予め基準データとして作成しておき、この基準データと対象データ中の停留状態の有害鳥類1の態様とを照合するだけの簡易な処理で、この基準データと同一若しくは近似の態様の有無を確知して停留状態の有害鳥類1の数及び停留位置を確定できる。即ち、対象データ中の同一若しくは近似した態様が存在した座標から有害鳥類1の停留位置を、また、その座標の数から有害鳥類1の数を確知でき、よって、映像データの処理工程が簡素化され、処理負荷が大幅に低減することになる。
【0036】
従来の方法は、有害鳥類1の状態がどうであれ、その数を正確に算出しようとするため、演算処理の規模が大きく複雑となり、また、オクルージョンが発生した場合、算出は不正確となる。
【0037】
この点、本発明は、線状体2上に停留している有害鳥類1を対象とするから、オクルージョンは発生せず、また、飛翔している有害鳥類1にオクルージョンが発生しても、動いている物を消去するから支障は生じない。
【実施例】
【0038】
本発明の具体的な実施例について図1,2に基づいて説明する。
【0039】
本実施例は、本発明を有害鳥類1としてのカラスの防除装置に用いた場合であり、停留状態のカラスを撮影したデジタル映像データ(撮影後、その映像データをデジタル処理した場合も含む。)を入力することで、劣悪な照明条件下であっても、外乱の影響を受けずに停留状態のカラスの数と個々の停留位置を確定し、この確定結果、具体的には当該位置におけるカラスの数の多寡をもとにカラスを攻撃するか否かを判断し、攻撃すると判断したら最適な攻撃手段を選択して攻撃を実行する有害鳥類の防除装置である。
【0040】
また、本実施例は、図1に示すように、停留状態のカラスを所定時間撮影する撮像部3と、この撮像部3で撮影して得た映像データから降雨雪粒や動いているカラスを消去する消去処理部4と、この消去処理部4で処理した対象データ中の停留状態のカラスの態様と、予め作成された停留状態のカラスの態様を特定した基準データとを照合し、対象データ中における基準データと同一若しくは近似の態様の有無を確知して停留状態のカラスの数及び停留状態の個々のカラスの停留位置を確定する確定部5(この確定部5には、この確定結果を出力する出力部が設けられている。)と、前記確定部5から出力された確定結果から攻撃が必要か否かを判断する攻撃判断部6と、攻撃が必要と判断した場合、最適な攻撃を選択する攻撃手段選択部7とで構成されている。
【0041】
具体的には、撮像部3は、ビデオカメラであり、このビデオカメラを所定の位置に固定状態で配置し、例えば、騒音や糞害などが多発している場所に停留しているカラス、詳細には、電線や高架線などの線状体2(樹木や幅細のコンクリートブロックなども含む。)上に停留しているカラスを一定の画面で所定時間撮影して映像データを取得する。
【0042】
尚、上記ビデオカメラはデジタルビデオカメラでもアナログビデオカメラでも良いが、アナログビデオカメラを用いる場合は映像データをAD変換しデジタル信号化する処理をする。
【0043】
また、本実施例のカラスのような、色の濃い鳥を対象に撮影する場合は、できるだけ背景が明るくなるようにビデオカメラを配置し、カラスと背景との違いができるだけ明瞭となるように(カラスができるだけ強調されるように)映像を取得することで後述する消去処理部4でのデータ処理及び確定部5での確知処理精度を向上させ、より正確な停留状態のカラスの数及び停留位置を確定することが可能となる。
【0044】
上記のような状況で撮影できない場合、例えば、夕方であったり、背景の建物の色が暗かったりして映像中の空間が全体的に暗くなる場合は、例えば、映像データ中の画素のうち、最も輝度の低いものを黒に変換し、逆に最も輝度の高いものを白に変換して明暗の差を強調するコントラスト・ストレッチングや、色データの入力信号と実際に出力される画像信号を相対的に調整するガンマ補正、また、映像データがグレイスケールの場合は原画像の輝度をヒストグラム化したものを平坦化し、より画像を鮮明にするヒストグラム平坦化などの輝度変換処理を施すことで、より安定した映像データとすることができる。
【0045】
この輝度変換処理は、例えば、抽出したい情報がカラスの場合は輝度値を2倍から4倍にするなど適宜最適な輝度値増幅を行う。
【0046】
また、輝度値の最大値は255に制限されており、輝度値増幅によって最大値を超えるような場合は、この輝度値を最大に設定して映像データ中の背景を明るくする。この場合、黒いカラスはあまり変化しないため、カラスと背景との明暗差が大きくなり、よって、確定部5でのカラスの確知精度が向上する。
【0047】
また、例えば、上述のようにカラスと背景との明暗の差を大きくした後で、更に白黒反転させることで、より一層確知精度を向上させることができる。
【0048】
この輝度変換処理は、映像データの演算処理の負荷が大きいため、ビデオカメラで撮影した映像データをそのまま処理すると非常に時間がかかってしまう。従って、消去処理部4で映像データの処理を施した後に行うことが好ましい。
【0049】
また、得られた映像データが、例えば、赤・緑・青のようなカラー信号で構成されている場合は、輝度信号のみを用いてもよく、また、このカラー信号を、例えば、YUV,CMY,HSVのように色変換処理しても良い。
【0050】
また、上述のように取得した映像データ中若しくは上述のように取得した映像データに輝度変換処理や色変換処理を施した映像データ中の全てのカラスが停留状態で且つ動きが無いものであれば容易に停留状態のカラスを確知することが可能であるが、映像データによっては飛翔中のカラスがいたり、また、停留状態ではあるが羽をはばたかせているような動きを伴ったカラスがいたりすることで確知精度が低下してしまう。
【0051】
そのため、このような動きのあるものを映像データから消去するための消去処理部4を備えている。
【0052】
本実施例のビデオカメラによって撮影された映像データは、例えば、1秒間当り15〜30枚の静止画像の集まりであり、この静止画像は縦方向および横方向(空間方向の位置)に並ぶ画素の集合体である。
【0053】
この消去処理部4は、上述の連続する複数の静止画像の夫々に異なるフィルタ係数を掛けて(重み付けをして)、この異なるフィルタ係数を掛けた夫々の静止画像を全て加算してから、同じ空間位置にある画素値を加算した静止画像枚数で除して一枚の静止画像にする処理、即ち、時間的な低域通過濾波処理を施すことで動いている物を消去する処理が行われる。
【0054】
尚、ここで用いるフィルタ係数は、映像データ中の検出したい情報のデータが強調され、それ以外の外乱が抑圧されるように適宜決定するものである。
【0055】
この低域通過濾波処理は数式で表すと、静止画像枚数をt、位置(n,m)或いはx行y列の画素値をx(t,n,m)、フィルタ係数をw(t)とすれば、次式となる。
【0056】
【数1】

【0057】
尚、上式においてフィルタ係数を1/Tとすれば、この低域通過濾波処理が夫々の静止画像を単純に加算し、その加算した静止画像数で除する同期加算処理となる。
【0058】
このように消去処理部4で取得した映像データに時間的な低域通過濾波処理することで、映像データ中の飛翔中のカラスや降雨雪粒子、或いは、停留状態のカラスの羽ばたいている羽など、動いている物を消去した一枚の静止画像にすることができる。
【0059】
尚、上述の静止画像を加算していった際の加算結果のオーバーフローを回避するために、予め静止画像の前記画素値を静止画像枚数で除してから加算しても良い。
【0060】
また、このような処理を施し得られた対象データ(動いている物を消去した一枚の静止画像)から停留状態のカラスを確知する際、より一層精度を向上させるために、得られた対象データから動いている物以外の外乱(例えば、背景データやノイズなど)を抑圧したり、よりカラスを強調したりするための外乱抑圧処理を施すと良い。
【0061】
この外乱抑圧処理は、具体的には、例えば、対象データ、即ち、縦方向および横方向(空間方向の位置)に並ぶ画素の縦方向と横方向の両方向若しくはいずれか一方向に対して、低域通過濾波処理を施して背景の細かいノイズのような外乱をぼかす処理、また、帯域通過濾波処理を施して映像の輪郭を強調する処理、また、高域通過濾波処理と二値化処理を施して、色の濃い部分と薄い部分との境界線、即ち、輪郭部をより強調する処理などであり、特にカラスのような色の濃いものの輪郭を強調するには高域通過濾波処理と二値化処理を施すことが適している。
【0062】
このような外乱処理を行う外乱抑圧処理部を設けることで、映像データの空間的な部分を抑圧し、停留状態のカラスだけを強調することで、確定部5での基準データとの確知処理によって停留状態のカラスの数及び停留位置を確知する精度を向上させることができ、この外乱抑圧処理部の構成は、上述した低域通過濾波処理,帯域通過濾波処理,高域通過濾波処理のいずれか若しくはこれらを組み合わせた構成としても良く、停留状態のカラスを撮影する背景環境や照度状況などによって適宜決定する。
【0063】
上述のように、ビデオカメラで撮影した映像データを消去処理部4で処理し(必要に応じて輝度変換処理,色変換処理,外乱抑圧処理のいずれか若しくはこれらの組合せの処理も施す)、対象データを得る。
【0064】
また、このようにして得られた対象データは、二次元の空間座標を有するものである。
【0065】
この対象データは停留状態のカラスの数と停留位置を確知し出力するための必要最小限の情報となっている。
【0066】
また、対象データに、確定部5での確知処理をより簡略化する二値化処理を施しても良く、また、対象データにノイズが多い場合は、このノイズを抑圧するために、前述した二値化した画素値に対して、膨張処理や縮退処理のようなモルフォロジ・フィルタやメジアンフィルタなどを適用しても良く、または、連結処理やラベリング処理等を組み合わせても良い。
【0067】
このように対象データをより簡略化したりノイズを除去したりするなどして、確知処理の精度を向上させることが望ましい。
【0068】
尚、上記の二値化処理を施す際の閾値は、一般的には線形判別法などを用いる。
【0069】
また、本実施例は、対象データから停留状態のカラスの数及び停留位置を確知して確定結果を出力する確定部5を備えている。
【0070】
この確定部5は、予め準備しておいた停留状態のカラスの態様の基準データと、上述の処理を施して得た対象データ中のカラスの態様とを照合し、基準データと同一若しくは近似の有無を確知して停留状態のカラスの数及び停留位置を確定し、その確定結果を出力するものである。
【0071】
具体的には、ビデオカメラを配置した位置から停留状態のカラスを撮影したときに、この停留状態のカラスがどのような態様で映っているかを予め確認しておき、これと同じ態様をしたカラスを特定した基準データを作成しておく。
【0072】
即ち、カラスが電線に停留する場合は、正面向きに停留するか背面向きに停留するかのいずれかなので、例えば、停留状態のカラスに対してビデオカメラの撮影方向が斜めからの場合は、撮影した映像の停留状態のカラスは右向きか左向きのどちらかの態様となる。従って、右向きの態様のカラスと左向きの態様のカラスの二種類の基準データを準備しておくことになる。
【0073】
また、例えば、停留状態のカラスに対してビデオカメラの撮影方向が正面若しくは背面からの場合、撮影した映像の停留状態のカラスは、正面向きか背面向きのどちらかの態様にしか映らず、この正面向き若しくは背面向きの態様は、二次元的には略同一に映るので、正面向きの態様のカラスの一種類の基準データだけを準備しておけば良いこととなる。
【0074】
このようにして予め基準データを作成しておき、対象データにおける全ての空間座標に対して、この基準データと照合処理を行って対象データ中の同一若しくは近似した態様が存在した座標から停留状態のカラスの停留位置を確知でき、また、この確知したカラスの停留位置の座標を数えることで停留状態のカラスの数を確知することができ、この照合処理によって対象データ中から停留状態のカラスの数及び停留位置を確定でき、この確定結果を出力する。
【0075】
尚、停留状態のカラスの数及び停留位置の確定結果に疑問がある場合(例えば、効果が見られなかったり、攻撃をしている様子が見られない場合)は、対象データを送信する機能を付加し遠隔地でこの対象データを監視できるようにしても良い。
【0076】
本実施例のように、基準データ数が少ない場合は、クラスタリングの安定性が高くなり、精度がより一層向上し、より正確に停留状態のカラスの数及び停留位置を確知することが可能となる。
【0077】
また、この照合処理においては、予め設定した閾値以上の類似度があるものに対して同一若しくは近似であると判断して1羽とカウントする。
【0078】
この閾値を決定する方法として、例えば、モード法、微分ヒストグラム法、判別分析法など、画像の濃淡値やヒストグラムの形状から閾値を決定する自動閾値決定法を用いても良く、この閾値を用いて対象データと基準データとの類似度を計算する。
【0079】
類似度の計算方法としては、例えば、一般的な相互計算方法,絶対値差分方,位相限定相関法などを用いている。
【0080】
また、上記の類似度の計算をする前に、背景差分処理を施しても良く、この背景処分処理を施す場合は、背景を適宜、動的に更新することが望ましい。
【0081】
このように停留状態のカラスをビデオカメラで撮影した映像データを、消去処理部4で動いている物を消去し、必要に応じて色変換処理,輝度変換処理若しくは外乱低減処理を施して停留状態のカラスを強調したものとし、確定部5での基準データとの照合処理の確知精度を向上させ、停留状態のカラスの数及びその停留位置を一層正確に且つ安定的に確定し、この確定結果を攻撃判断部6に出力し、カラスの防除に対する攻撃の必要性の有無の判断処理を行う。
【0082】
前記攻撃判断部6は、撮影した映像のカラスの停留状態が、攻撃をする状況か否かを判断する処理を行うところであり、停留状態のカラスの数が所定の数以上の場合は攻撃をすると判断し、所定の数に達していなければ攻撃しないと判断するといった閾値を設定して攻撃の可否を判断している。
【0083】
具体的には、例えば、攻撃判断部6における閾値を10と設定した場合は、確定部5が出力した停留状態のカラスの数が8羽であったときには攻撃をしないと判断し、確定部5が出力した停留状態のカラスの数が10羽以上であったときには攻撃をすると判断する処理が行われる。
【0084】
また、上記の閾値は、過去に行った攻撃手段と、この攻撃を行った際のカラスの反応の履歴を参照して、動的に更新することも可能である。
【0085】
このようにして、攻撃判断部6で攻撃をするか、しないかの判断をした結果が攻撃手段選択部7に送られ、この攻撃手段選択部7に攻撃をするという結果が送られた場合には、この攻撃手段選択部7で適宜、効果的な攻撃手段を選択する処理が行われる。
【0086】
具体的には、この攻撃手段選択部7は、データベースとして蓄積された過去の攻撃時におけるカラスの反応の履歴を参照し、最適な攻撃手段を選択する処理を行うところである。
【0087】
また、上記の反応の履歴とは、例えば、どのような環境(天候,時間,周囲の照度など)のときに、どのような攻撃をしたら効果があったか、或いは、どのような攻撃をしたときに、攻撃の何秒後に停留状態のカラスの数がどの程度減少したか、或いは、更に何秒後にどの程度増加したかなどの過去の攻撃を行った際の状況・結果などをデータベースとして記録したものである。
【0088】
また、ただ単純に攻撃の前後の停留状態のカラスの数だけを比較したデータでは、攻撃後のカラスの数がもともと停留していたカラスなのか、新たに停留したカラスなのかの判断がつかないため正確な効果の判断ができない。
【0089】
この点、本実施例では、確定部5から送られる情報は停留状態のカラスの数以外に、個々のカラスの停留位置の情報も送られるので、この攻撃前の停留状態のカラスの数及び停留位置を確定した確定結果を一旦記録し、攻撃した後に再度、映像を取得してこの取得した映像に攻撃前と同様の処理を施して攻撃後の停留状態のカラスの数及び停留位置を確定した確定結果を得て、攻撃前後のカラスの停留位置の情報も含めて比較することで、攻撃前の停留状態のカラスが攻撃によって何羽が飛び去り、攻撃後に何羽が新たに停留したかを判別し、より正確な効果をデータベースに記録することが可能となる。
【0090】
従って、この反応の履歴から現状の最適な攻撃手段を選択することができ、例えば、過去にカラスを攻撃したときの情報で周囲が明るいときは音や音波のほうが効果的であり、また、暗い場合はレーザー光線が効果的であったなど、攻撃時の撮影環境によって最も有効な攻撃手段を選択したり、また、例えば、攻撃手段としてレーザー光線の攻撃が続いたことによってカラスがその攻撃に慣れてしまったと判断できる反応の履歴(徐々に飛び立ったカラスの数が減少していった傾向が見られる状況)があったときには、再度レーザー光線による攻撃手段を選択するよりも、未だカラスが慣れていないと判断される音波を用いた攻撃手段を選択するなど、そのときの状況とベータベースの情報をもとに適宜、最適な攻撃手段を攻撃手段選択部7において選択して、より効果的にカラスを防除するように構成している。
【0091】
また、例えば、攻撃手段にレーザー光線や高指向性の音波発生器などの指向性を有する攻撃手段を選択できるように構成しても良い。即ち、照合処理で得られた個々のカラスの停留位置情報をもとにピンポイントで当該カラスを攻撃するように構成すると効果的である。
【0092】
図2は、上述の色変換処理や輝度変換などを施し、より正確で安定的に停留状態のカラスの数及び停留位置を確定することができる具体的な構成を示している。
【0093】
図2の場合、ビデオカメラからの映像データに色変換処理を施し、この色変換処理した映像データを消去処理部4において、この映像データ中の動いている物を消去する消去処理を施し、この消去処理を施して得た対象データに、更に輝度変換処理と外乱抑圧処理を施し、この対象データを確定部5で二値化処理を施し、更に膨張処理や縮退処理のようなモルフォロジ・フィルタ処理を施し、更にメジアンフィルタ処理を施してラベリングすることで、より停留状態のカラスが強調された対象データが得られ、この対象データを基準データと照合して停留状態のカラスの数及び停留位置を正確に確定するものである。
【0094】
本実施例は、上述のように構成したから、次の作用効果を有する。
【0095】
停留状態のカラスをビデオカメラで撮影し、この撮影した映像から動いている物を消去して対象データを得、停留状態のカラスの態様を特定した基準データを予め作成しておき、この基準データと対象データ中の停留状態のカラスの態様とを照合するだけの簡易な処理で、対象データから停留状態のカラスの数及び停留位置を確定し、確定結果を抽出するだけであるから、処理工程が非常に簡素化され、処理負荷を大幅に低減することが可能となる。
【0096】
本実施例は、線状体2上に停留しているカラスと、飛翔しているカラスとが混在している映像データを、攻撃の必要性を判断するために必要十分な線状体2上に停留しているカラスに絞り、その絞ったデータをもとにカラスの数を確知するものであるため、基準データとの照合という簡易な手段によっても安定した且つ正確な情報を得ることができる。
【0097】
また、従来の方法は、カラスの状態がどうであれ、その数を正確に算出しようとするため、演算処理の規模が大きく複雑となり、また、オクルージョンが発生した場合、算出は不正確となる。
【0098】
この点、本実施例は、線状体2上に停留しているカラスを対象とするから、オクルージョンは発生せず、また、飛翔しているカラスにオクルージョンが発生しても、動いている物を消去するから支障は生じない。
【0099】
以上、本実施例は、停留状態のカラスの数及び停留位置の確知精度を向上且つ安定させることができ、よって、省電力な回路で防除装置を実現することが可能となる。
【0100】
従って、防除装置全体の構成も小型化することができ、装置の設置場所を選ばず容易に設置することが可能となり、様々なカラスの溜まり場やねぐらに設置してカラスを防除すれば、住宅街や市街地における騒音や糞害を低減することができ、また、農地での作物被害を低減することが可能となる実用性に優れた画期的な有害鳥類の防除装置となる。
【0101】
尚、本発明は、本実施例に限られるものではなく、各構成要件の具体的構成は適宜設計し得るものである。
【符号の説明】
【0102】
1 有害鳥類
2 線状体
3 撮像部
4 消去処理部
5 確定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
停留状態の有害鳥類を所定時間撮影して得た映像データに、動いている物を消去する消去処理を施して対象データとし、予め作成された停留状態の有害鳥類の態様を特定した基準データと前記対象データとを照合し、前記対象データ中における前記基準データと同一若しくは近似の態様の有無を確知することで前記停留状態の有害鳥類の数及び停留位置を確定することを特徴とする有害鳥類の数及び停留位置の確定方法。
【請求項2】
請求項1記載の有害鳥類の数及び停留位置の確定方法において、前記映像データは、電線や高架線などの線状体上に停留している有害鳥類を所定時間撮影したものであり、前記基準データも、電線や高架線などの線状体上に停留している有害鳥類の態様を特定したものであることを特徴とする有害鳥類の数及び停留位置の確定方法。
【請求項3】
請求項1,2いずれか1項に記載の有害鳥類の数及び停留位置の確定方法において、前記対象データ及び前記基準データには位置データが記録されていることを特徴とする有害鳥類の数及び停留位置の確定方法。
【請求項4】
請求項1〜3いずれか1項に記載の有害鳥類の数及び停留位置の確定方法において、前記消去処理を施した前記対象データ中における前記停留状態の有害鳥類以外の不必要な情報データを消去若しくは低減する外乱抑圧処理を施すことを特徴とする有害鳥類の数及び停留位置の確定方法。
【請求項5】
請求項1〜4いずれか1項に記載の有害鳥類の数及び停留位置の確定方法において、前記消去処理は、前記停留状態の有害鳥類を所定時間撮影し得た前記映像データから低周波成分を抽出する低域通過濾波処理であることを特徴とする有害鳥類の数及び停留位置の確定方法。
【請求項6】
請求項4,5いずれか1項に記載の有害鳥類の数及び停留位置の確定方法において、前記外乱抑圧処理は、前記消去処理を施した前記対象データから低周波数成分を抽出する低域通過濾波処理,所定周波数成分を抽出する帯域通過濾波処理若しくは高周波数成分を抽出する高域通過濾波処理のいずれかの処理またはこれらの処理の組合せであることを特徴とする有害鳥類の数及び停留位置の確定方法。
【請求項7】
請求項1〜6いずれか1項に記載の有害鳥類の数及び停留位置の確定方法において、前記消去処理前の映像データ若しくは前記消去処理後の前記対象データの明暗度を操作して前記映像データ若しくは前記対象データにおける前記停留状態の有害鳥類を鮮明にする輝度変換処理を行うことを特徴とする有害鳥類の数及び停留位置の確定方法。
【請求項8】
請求項1〜7いずれか1項に記載の有害鳥類の数及び停留位置の確定方法において、前記予め作成された停留状態の有害鳥類の態様は、前記停留状態の有害鳥類の撮影方向が正面若しくは背面のときは少なくとも一種類の態様、また、撮影方向が斜め方向のときは少なくとも二種類の態様であることを特徴とする有害鳥類の数及び停留位置の確定方法。
【請求項9】
請求項1〜8いずれか1項に記載の有害鳥類の数及び停留位置の確定方法において、前記有害鳥類はカラスであることを特徴とする有害鳥類の数及び停留位置の確定方法。
【請求項10】
有害鳥類を防除する方法であって、請求項1〜9いずれか1項に記載の有害鳥類の数及び停留位置の確定方法を用いて確定した前記停留状態の有害鳥類の数から、前記停留状態の有害鳥類を攻撃するか否かを判断し、攻撃を実行することを特徴とする有害鳥類の防除方法。
【請求項11】
請求項10記載の有害鳥類の防除方法において、前記攻撃の実行に際しては、最適な攻撃手段が選択されることを特徴とする有害鳥類の防除方法。
【請求項12】
請求項10,11いずれか1項に記載の有害鳥類の防除方法において、前記攻撃後における同位置の停留状態の有害鳥類の数を前記同様の方法で確定し、前記攻撃の効果を確認することを特徴とする有害鳥類の防除方法。
【請求項13】
請求項12記載の有害鳥類の防除方法において、前記攻撃の効果の確認後、効果不足と判断した場合には再度攻撃を実行することを特徴とする有害鳥類の防除方法。
【請求項14】
停留状態の有害鳥類を所定時間撮影する撮像部と、前記撮像部で撮影して得た映像データから動いている物を消去する消去処理部と、この消去処理部で処理した対象データ中の前記停留状態の有害鳥類の態様と、予め作成された停留状態の有害鳥類の態様を特定した基準データとを照合し、前記対象データ中における前記基準データと同一若しくは近似の態様の有無を確知して前記停留状態の有害鳥類の数及び停留位置を確定する確定部とを具備したことを特徴とする有害鳥類の数及び停留位置の確定装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−138310(P2011−138310A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−297779(P2009−297779)
【出願日】平成21年12月28日(2009.12.28)
【出願人】(304021288)国立大学法人長岡技術科学大学 (458)
【Fターム(参考)】