説明

有機またはポリマー固体試料の放電発光分光分析による測定方法

【課題】検出される信号のSN比を改善するように、(発光分光分析で)輝線の強度を、及び/又は(質量分析で)イオン化収量を増しながら、エッチング速度を高めると同時にエッチングの均質性を増すことが可能な、放電発光分光分析による有機(層)またはポリマー(層)を含む固体試料の分析方法を提供する。
【解決手段】少なくとも1つの有機材料層を含む固体試料の放電発光分光分析による測定方法に関し、放電発光ランプに前記試料を配置するステップと、放電発光ランプに、少なくとも1つの希ガスと酸素とを含む混合気を投入し、酸素の濃度が混合気の1質量%〜10質量%であるステップと、前記放電発光ランプの電極に無線周波数の放電を行って放電発光プラズマを発生するステップと、前記有機材料層を前記プラズマで照射するステップと、前記プラズマのイオン種及び/又は励起種を示す少なくとも1つの信号を分光分析により測定するステップとを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放電発光分光分析により有機タイプまたはポリマータイプの試料を測定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
放電発光分光分析は、材料すなわち薄膜からなる積層体の元素の化学組成を測定可能な、固体の元素分析および/または分子分析技術である。
【0003】
放電発光分光分析では、分析すべき試料が、表面アブレーションを実施するエッチングプラズマで照射される。さらに、プラズマは、様々な物理化学的なメカニズムを介して、侵食される種を励起し、また、イオン化する。プラズマ中に存在する種の調査は、それぞれ、励起種に対しては発光分光分析計、および/または、イオン種に対しては質量分析計で行われ、それによって、元素の化学組成と、検出された元素の化学形態の種形成とを測定することができる。
【0004】
さらに、アブレーションプラズマによる試料照射を延長することにより、深部に浸食クレータを発生する。アブレーションの持続時間に応じたプラズマ分析により、試料を均質に掘りながら浸食が生じたとき、すなわち、アブレーションクレータが、平坦な底部と、この底部に垂直な側面とを有するとき、深部で解像される試料組成を決定することができる。このようにして、放電発光分光分析により、浸食深度(厚さ数十ナノメータから数十ミクロン)に応じて、厚みのある材料または薄膜の化学組成の特徴をミクロン単位の解像度で得ることができる。
【0005】
放電発光分光分析は、当初、直流電流(DC)源を使用していることを理由に材料と導電層とに制限されていたが、今後は、無線周波数(RF)源の使用により半導体材料および絶縁体の分析を実施可能である。
【0006】
放電発光分光分析は、プラズマ中で電界を適切に結合可能な導電性または半導体の基板(例:ケイ素)上の試料に対して特に良好な結果を出している。それに対して、絶縁基板上の試料または、有機層もしくはポリマー層を含む試料の場合、プラズマは試料を加熱するので、試料が破壊されてしまうことがある。しかも、浸食クレータの側面は、一般に、試料の表面に比べて非常に傾斜しているので、そのために深部での解像が損なわれてしまう。
【0007】
プラズマを形成するために、一般には、キャリヤガスとして純粋な希ガスを用いる。アルゴンは、放電発光分光分析で最も使用されている希ガスであり、それには複数の理由がある。すなわち、アルゴンイオンは、有効なアブレーション物質であり、アルゴンプラズマ中のエネルギーレベルは、周期表の大部分の元素をイオン化するのに十分である。さらに、アルゴンは、プラズマにより励起またはイオン化された種と干渉せず、分光分析測定を妨害しない。従って、99.9995%純粋なアルゴンを使用すれば、キャリヤガスと、試料の表面から発生する浸食された種とがプラズマ中で再結合することを避けられる。
【0008】
しかし、アルゴンプラズマは、フッ素元素または非金属元素等の幾つかの元素を有効に励起することができない。
【0009】
幾つかの元素のイオン輝線(質量分析で)または原子輝線(発光分光分析で)を増すために、ネオンまたはヘリウムのようなアルゴン以外の希ガスもまた使用可能である。ネオンの使用は、特に、アルゴンでは励起させることができないフッ素の輝線の元素放射を増すことができる。それに対して、ネオンプラズマまたはヘリウムプラズマは、アルゴンプラズマほど有効に侵食することができない。すなわち、ガラスタイプの試料に対しても金属タイプの試料に対しても、最大エッチング速度は、純粋なアルゴンプラズマによって得られる。
【0010】
放電発光分光分析の各種の用途に対しては、様々な気体混合物が同様に実験されている。
【0011】
最初に、アルゴンと他の希ガスとの混合気がテストされた。Hartenstein他による研究論文(非特許文献1)は、金属またはガラスタイプの固体の放電発光分光分析のためにRF放電発光源でアルゴンとヘリウムの混合気を使用した場合の影響について評価している。アルゴンとヘリウムとの混合気は、幾つかの原子輝線の強度を増すことができる。特にアルゴンとヘリウムとの混合気については、ガラス分析に際してイオン化収量を増すために記載されている。しかしながら、Hartenstein他の研究論文によれば、アルゴンへのヘリウムの添加は、ガラスタイプの試料に対しても金属タイプの試料に対しても、純粋なアルゴンプラズマで得られる最大のエッチング速度に達することはできない。
【0012】
第2に、複数のグループが、アルゴンと分子ガスとの混合気について試験した。しかし、この混合気の存在下では、プラズマ中で衝突現象と放出現象とが発生し、試料の表面との相互作用がきわめて複雑で、まだ完全な理解には至っていない。
【0013】
A.Martin他による研究論文(非特許文献2)は、放電発光分光分析においてアルゴンに水素を添加した場合の影響についての様々な研究を検討している。アルゴンプラズマ中に少量の水素(1−10%)を添加した場合、一般には、質量分析において臨界のイオン化収量の増加が生じる。しかし、発光分光分析では、水素化された種が導く輝線帯が、試料の原子またはイオン化された元素の輝線と干渉して、輝線の強度の定量分析を著しく変えることがある。さらに、水素は、金属試料に対してエッチング速度に悪影響を及ぼす。
【0014】
放電発光分光分析では、キャリヤガスである希ガス中の不純物として、または、酸素を含む材料のエッチングによる副産物として、あるいは、キャリヤガスを形成する混合気の成分として、酸素が存在することがある。放電発光分光分析における酸素の存在は、一般に、たとえば水酸基OHのスペクトル線のように、試料で求められている輝線に重なる妨害スペクトル線を発生する不純物としてみなされている。
【0015】
放電発光の諸条件を変えるために、気体酸素を希ガスに任意で添加する影響について評価した研究者もいる。
【0016】
A.Bogaertsの論文(非特許文献3)は、公知のタイプの直流型グロー放電発光分光分析装置(dc−GDS)において、水素H、窒素N、または酸素Oの分子ガスをアルゴンに添加した場合の影響を理論的にモデル化することに関与している。この論文によれば、0.05〜5%の酸素を添加すると、たとえ酸素濃度が低くても、励起されたArm*タイプの準安定種の濃度が減少するとともに、侵食される原子の濃度が減少する。気体酸素の存在下でのこうしたエッチング速度の低下は、輝線の強度を低減させながら、放電発光分光分析のカソードへの酸素層の形成に寄与する。
【0017】
他方で、Fernandez他による論文(非特許文献4)は、無線周波数型の放電発光分光分析におけるアルゴンと酸素との混合気(0.5−10%v/v)の影響を分析し、金属タイプの試料に対してもガラスタイプの試料に対しても同様にエッチング速度が著しく減少し、厚さ数ナノメータの層での放電発光分光分析が制限されることを確認している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】J.Anal.At.Spectrom.、1999年、14、1039−1048頁
【非特許文献2】「Modifying argon glow discharges by hydrogen addition:effects on analytical characteristics of optical emission and mass spectrometry detection modes(水素添加によるアルゴングロー放電の修正:発光分光分析および質量分析の検知方式の分析特性に対する影響)」、Anal.Bioanal.Chem、2007年、388:1573−1582
【非特許文献3】「Effects of oxygen addition to argon glow discharges:A hybrid Monte Carlo−fluid modeling Investigation(アルゴングロー放電への酸素添加の影響:ハイブリッドモンテカルロ流体モデル化研究)」
【非特許文献4】「Investigations of the effects of hydrogen、nitrogen or oxygen on the in−depth profile analysis by radiofrequency argon glow discharge−optical emission spectrometry(無線周波数型アルゴングロー放電発光分光分析による深部輪郭の分析に対する水素、窒素、または酸素の影響調査)」J.Anal、AT.Spectrom.2003年、18、151−156
【0019】
今日まで、放電発光分光測定による有機試料の分析は、様々な問題を提起してきた。純粋なアルゴンプラズマを用いる光学検知式の従来のグロー放電発光分光分析装置(GDS)では、金属タイプの試料に対しては浸食速度が数ミクロン/分である一方で、有機試料または有機層に対しては一般に20nm/分未満である。このように侵食速度が遅いと、厚みのある有機試料または有機フィルムの分析が非常に難しくなる。他方で、有機試料で得られるエッチングの均質性が不適切であると、(厚さ数ミクロンから数十ミクロンの)厚みのある有機材料層の下に隠れている薄い面または薄膜を分析するための深部解像を行うことができない。さらに、試料の浸食により発生する多数の化学種(たとえばCH、OH、NHまたはCOタイプの分子輝線)は、プラズマの1つ(または複数)のキャリヤガスと干渉し、それによって、検出された信号を低減するとともに、放電発光分光測定による定量分析を妨害することがある。
【0020】
検出される信号のSN比を改善するように、(発光分光分析で)輝線の強度を、および/または(質量分析で)イオン化収量を増しながら、エッチング速度を高めると同時にエッチングの均質性を増すことが可能な、放電発光分光分析による有機またはポリマー(あるいはポリマー層または有機層を含む)固体試料の分析方法は存在していない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
本発明は、これらの不都合を解消することを目的とし、特に、少なくとも1つの有機材料層を含む固体試料の元素および/または分子の化学組成を放電発光分光分析により測定する方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明によれば、この方法は、
−放電発光ランプに前記試料を配置するステップと、
−放電発光ランプに、少なくとも1つの希ガスと気体酸素とを含む混合気を投入し、気体酸素の濃度が、混合気の1質量%〜10質量%であり、前記放電発光ランプの電極に無線周波数タイプの電気放電を行って放電発光プラズマを発生し、前記有機材料層を前記プラズマで照射して、酸素を含まない前記希ガスの存在下で放電発光プラズマにより発生するエッチング速度よりも早い有機層のエッチング速度を得るようにするステップと、
−前記プラズマのイオン種および/または励起種を示す少なくとも1つの信号を分光分析計により測定するステップとを含む。
【0023】
本発明の好適な実施形態によれば、
前記少なくとも1つの希ガスが、アルゴン、ネオン、ヘリウム、または前記希ガスの混合物の中から選択される。
【0024】
本発明の方法の様々な特徴によれば、
−無線周波数パルスタイプの電気放電を行う。
−質量分析計により前記プラズマのイオン種を示す少なくとも1つの信号を測定する。
−発光分光分析計により前記プラズマの励起種を示す少なくとも1つの信号を測定する。
【0025】
本発明の方法の特定の実施形態によれば、測定すべき試料が、薄膜の積層体を含んでおり、前記プラズマで照射される積層体の薄膜に応じて、放電発光プラズマによる照射中の混合気の酸素濃度を修正する。
【0026】
特定の実施形態によれば、本発明による方法は、無線周波数電界と、放電ランプの軸に対して軸方向または横方向の磁界とを同時に付与する。
【0027】
本発明の好適な実施形態によれば、前記方法は、さらに、
−放電発光ランプに公知の組成の有機試料を配置し、
−放電発光ランプに、少なくとも1つの希ガスと気体酸素とを含む混合気を投入し、気体酸素の濃度が混合気の1質量%〜10質量%であり、前記放電発光ランプの電極に無線周波数タイプの電気放電を行って放電発光プラズマを発生し、前記公知の組成の有機試料を前記プラズマで照射し、
−前記プラズマのイオン種および/または励起種を示す少なくとも1つの信号を分光分析により測定し、
−前記有機試料の公知の組成に関して分光分析による測定を校正する。
【0028】
本発明は、また、少なくとも1つのポリマータイプの有機材料層を含む試料に本発明による実施形態の1つを適用することに関する。
【0029】
特定の実施形態によれば、本発明は、ポリエチレンテレフタラートタイプの有機ポリマー材料の少なくとも1つの層を含んでいる試料に1つの実施形態による方法を適用することに関する。
【0030】
本発明は、また、以下の説明により明らかになる特徴に関し、これらの特徴は、別々に、あるいは、技術的に考えられるそのあらゆる組み合わせに応じて考慮しなければならない。
【0031】
限定的ではなく例として挙げられるこの説明により、添付図面を参照しながら、本発明をどのように実施できるかについて、いっそう理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】ガスの混合システムを備えた放電発光分光分析計を概略的に示す図である。
【図2】第1の試料を示す概略的な横断面図である。
【図3】従来の純粋なアルゴンプラズマの照射時間に応じて図2に示された試料を無線周波数型の放電発光分光分析(rf−SDL)により測定した結果を示すグラフである。
【図4】アルゴンと酸素との混合気中にプラズマの照射時間に応じて図2に概略的に示された試料を無線周波数型の放電発光分光分析(rf−SDL)により測定した結果を示すグラフである。
【図5】第2の多層試料を概略的に示す断面図である。
【図6】アルゴンと酸素との混合気から形成されるプラズマの照射時間に応じて図5に示された試料の無線周波数型の放電発光分光分析(rf−SDL)により測定した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
図1は、プラズマ放電のキャリヤガス供給システムを備えた放電発光分光分析計1を概略的に示している。放電発光分光分析計1は、一般には、内部にプラズマが封入された管の形状を取る放電ランプ2を含んでいる。ガスのポンピングシステムは、図1では示されていない。放電発光分光分析計1は、分光分析計4を含んでいる。この分光分析計は、プラズマの励起種の発光分光分析(OES)に対しては発光分析計、および/または、プラズマのイオン種の分析に対しては質量分析計(MS)とし、あるいは飛行時間型質量分析計(TOF−MS)とすることができる。
【0034】
キャリヤガス供給線5は、1つまたは複数のガス源を放電ランプ2に接続する。図1に示された例では、ガスの供給線5が、第1のガス源6と第2のガス源7とにそれぞれ接続された2本の供給線5a、5bに分割されている。第1のガス源6は、たとえば、アルゴンと酸素との混合気(Oが4%まで)を含むボンベである。第2のガス源7は、純粋アルゴンのボンベである。第1の流量計8aにより、第1のガス源6から出ていて放電ランプ2のガス供給線5に向けて配向されている線5aにおけるガス流量を調節することができる。第2の流量計8bは、第2のガス源7から出ていて放電ランプ2のガス供給線5に向けて配向されている線5bにおけるガス流量を調節することができる。コントローラ9は、供給線5を介して放電ランプに投入される混合気の所望の濃度を得られるように、流量計8a、8bの制御を調節することができる。
【0035】
図2は、有機層13により被覆された多層構造の積層体23(たとえば、第1の亜鉛層により不活性化処理された鋼板を含んで、この鋼板が、アルミニウムを含む有機金属タイプの第2の塗装膜により覆われ、さらに、厚さ約20〜30ミクロンのワニスの第3の層により被覆されている、塗装シートメタル)を含む第1の試料3を概略的に示す断面図である。
【0036】
図3は、図2に示されたような試料に対する放電発光の発光分光分析による測定結果を示しており、キャリヤガスは、純粋アルゴンである。図3は、プラズマの照射時間t(単位:秒)に応じた複数の発光強度曲線を示しており、縦座標軸は、ここでは任意の単位で示されている。各曲線は、それぞれ、アルゴンプラズマの照射時間に応じた、すなわち、試料における浸食クレータの深度に応じた化学元素に対応している。特に、C(曲線−○−)、O(曲線−x−)、N(実線)、*Al(曲線−●−)、Zn1(曲線−◇−)、Fe(破線)、H(曲線−■−)、およびCa(図3では示さず)が検出される。異なる組成の複数の連続層を示す信号が存在することと、各層の間の境界とが観察される。第1の浸食層は、主に、有機元素C、O、NおよびHを含んでいる。第2の浸食層は、主に、アルミニウムと、元素C、O、NおよびHとを含んでいる。第3の層は、元素Zn1、AlおよびCaを含んでいる。さらに、最後の浸食層は、主に鉄を含んでいる。図3では、測定された信号により、試料に主に存在する元素の定量分析を行うことができる。しかし、幾つかの曲線ではSN比が大きいが、信号の強さが弱いゾーンでは、観察されるノイズを考慮するとCa等の低濃度元素の測定が難しい。
【0037】
図4は、図2に概略的に示したような同一の試料に対する放電発光の発光分光分析による測定結果を示しており、キャリヤガスは、アルゴンと酸素との混合気であって、酸素濃度が4%であり、さらに、プラズマの他の条件は、図3の場合に使用した条件と同じである。図3と同様に、図4は、プラズマの照射時間t(単位:秒)に応じた複数の発光強度曲線を示しており、縦座標軸は、任意の単位で示されている。図4の各曲線は、それぞれ、プラズマの照射時間に応じた、すなわち、試料における浸食クレータの深度に応じた化学元素の測定に対応している。図3と同じ化学元素、すなわち、C(曲線−○−)、O(曲線−x−)、N(実線)、*Al(曲線−●−)、Fe(曲線−◇−)、H(破線)、およびZn2(−□−)が検出される。しかし、図4の曲線の強度と形状は、図3の曲線の強度と形状とは異なっている。一方で、測定される信号は、図3に比べて図4の方がずっと明瞭である。主にアルミニウムを含む層と、主に元素Znを含む層との間に配置された元素Ca(図4では示さず)を含む境界があることが検出される。
【0038】
図3と4を比較すると、純粋なアルゴンプラズマに比べてアルゴンと酸素との混合気を使用したときに検出されるあらゆる種のSN比の方が大幅に改善されていることが確認される。低濃度元素を測定すると、図3に比べてSN比が著しく改善されている。そのため、アルゴンと酸素との混合気の存在下で行われるプラズマによる放電発光分光分析測定は、より正確な分析を可能にし、少なくとも1つの有機層を含む試料において異なる組成からなる連続層の深度解像がいっそう適切に行われる。
【0039】
金属またはガラスタイプの試料で現在まで観察されてきた状況に比べると、アルゴンと酸素との混合気の存在下で、RFプラズマは、有機層のエッチング速度を加速し、この速度は、純粋なアルゴン下でのエッチング速度が約20nm/分に制限されている一方で、幾つかの有機材料に対しては数ミクロン/分に達することができる。その理由は、おそらく、プラズマに面する材料表面の化学的な解離プロセスが物理的な浸食プロセスと結びつくことによると思われる。
【0040】
図5は、厚さ50ミクロンのポリエチレンテレフタラート(PET)タイプのポリマー層33を含み、基板上に堆積された厚さ1ミクロン未満の金属薄膜43がポリマー層33の下に隠れている多層構造の第2の試料を概略的に示す断面図である。
【0041】
純粋なアルゴンプラズマを用いた従来の無線周波数型の放電発光分光分析では、図5に示されたような試料の深度分析を行うことは実際には不可能である。なぜなら、PETにおけるアルゴンプラズマの浸食速度は非常に遅く、毎分約10nmであるので、厚みのあるPET層33の下に隠れている層43に到達することができないからである。
【0042】
図6は、図5に示したような試料に対して放電発光の発光分光分析による測定結果を示しており、キャリヤガスはアルゴンと酸素との混合気であって、酸素濃度は約4%である。より詳しくは、図6は、プラズマの照射時間t(単位:秒)に応じた複数の発光強度曲線を示しており、縦座標軸は、任意の単位で示されている。図6の各曲線は、それぞれ、プラズマの照射時間に応じた、すなわち、試料における浸食クレータの深度に応じた化学元素の測定に対応している。以下の化学元素、すなわち、*In/100(曲線−x−)、*O(曲線−●−)、*C(曲線−〜−)、*H(曲線−△−)、および*Al(曲線−■−)が検出される。最初に、プラズマの最初の20秒間は元素C、O、Hが検出され、次いで20〜40秒の間にアルミニウムに対応する発光ピークがある。約40秒から190秒の間は、主に元素*C、*O、*Hが検出される。190秒から230秒の間は、アルミニウムの検出に対応するピークが現れる。約230秒のとき、金属元素*Au/10(図6では示さず)、*In/100および*Sn/10(図6では示さず)に対応する非常に強いピークが現れる。約240秒を経過すると、*C、*O、および*Hが再び多くなる。
【0043】
図6の測定から、単に数分(図6では約230秒)すなわち約12.5ミクロン/分のエッチング速度で、埋もれた金属層43に到達するので、厚みのあるPET層33のエッチング速度は非常に速いことが分かる。さらに、測定された信号により、埋もれた層43をすぐれた深度解像で検知することができる。埋もれた層43の存在と組成は、エネルギー分散型分光分析(EDS)による試料の断面分析により確認される。
【0044】
本発明による方法は、容量体(volume)、あるいは薄膜もしくは薄膜の積層体の形態をとる、ポリマータイプ、ポリマー層タイプ、または有機堆積物タイプの試料の深度解像分析を行うための新たな用途を可能にし、深度(1μm以上)および/または肉厚の厚み(数十ミクロン)に関して良好な解像をもたらすものである。
【0045】
本発明による方法は、直流型の放電発光分光分析(DC−SDL)ではなく無線周波数型の放電発光分光分析(RF−SDL)でありさえすれば、従来の放電発光分光分析装置にも適合する。純粋な希ガスボンベの代わりに、使用準備のできた混合気ボンベ6を使用してもよい。また、その代わりに、放電発光分光分析装置の内部または外部でガス(希ガスと酸素)を混合してもよい。しかし、気体酸素は、使用条件によっては危険なガスであるので、一方では純粋な希ガスを供給し、他方では希ガスと低濃度の酸素からなる混合気を供給するガス管を接続して使用することが好ましい。混合ガス中の酸素濃度は、好適には1%〜10%の間で修正可能である。こうした修正は、マニュアルまたは電子制御式の制御バルブにより実施することができる。
【0046】
図3、4、6に示した測定例は、発光分光分析による測定である。しかし、この方法は、また、プラズマのイオン種を検出するための質量分析による測定にも関与する。
【0047】
好適な実施形態によれば、2個のガス供給線5a、5bで質量流量計と圧力調節計とを用いることにより、気体混合物の酸素濃度を調節することができる。従って、この方法を様々に最適化することを検討可能である。試験手順によって、所定の1つのタイプの試料に対して混合気中の最適な酸素濃度を決定することができる。また、特に多層構造の積層体における各層の組成に応じて、多層構造の試料のエッチングの最中に気体混合物中の酸素濃度をリアルタイムで調節することもできる。1つの境界が検知されたときに気体混合物の組成を安定化することができるように、場合によっては放電を遮断することもできる。
【0048】
本発明では多数の変形実施形態を検討可能である。
【0049】
第1の変形実施形態は、最も脆弱な試料の加熱を回避するように、パルスタイプの無線周波数型の電気放電を使用することを含んでいる。
【0050】
別の変形実施形態は、特にエッチングの均質性を改善するために、RFプラズマの(パルス式または非パルス式の)放電中、放電ランプの軸に対して軸方向または横方向の磁界を同時に付与することからなる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
有利には、本発明による方法は、たとえば、自動車用の金属鋼板、有機光起電性試料、有機電子試料、金属/ガラス/有機物のハイブリッド多層試料など、1つまたは複数の有機層またはポリマー層を含む試料に適用される。
【0052】
本発明による方法は、また、電子顕微鏡検査による画像表示のための有機またはポリマー固体試料の表面を調製可能にすることができる。実際、走査電子顕微鏡におけるサンプルの画像表示に先立って、少なくとも1つの希ガスと気体酸素とを含む気体混合物の存在下で、無線周波数型の放電発光プラズマにより上記の有機材料層の表面を照射し、それによって、有利には、上記の有機材料層の表面の画像のコントラストを増すことができる。
【0053】
本発明による方法は、放電発光分光分析により、有機またはポリマー(すなわちポリマー層または有機層を含む)固体試料の分析を可能にする。本発明による方法は、すぐれたエッチング均質性を確保しながら、特に有機またはポリマー材料に対してエッチング速度を増すことができる。さらに、こうした放電発光分光分析による測定により、有機またはポリマー固体試料に対する先行技術の方法に比べてSN比が改善される。
【符号の説明】
【0054】
2 放電発光ランプ
3 固体試料
4 分光分析計
13、33 有機材料層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの有機材料層(13、33)を含む固体試料(3)の元素および/または分子の化学組成を放電発光分光分析により測定する方法であって、
−放電発光ランプ(2)に前記試料(3)を配置するステップと、
−放電発光ランプ(2)に、少なくとも1つの希ガスと気体酸素とを含む混合気を投入し、気体酸素の濃度が、混合気の1質量%〜10質量%であり、前記放電発光ランプの電極に無線周波数タイプの電気放電を行って放電発光プラズマを発生し、前記有機材料層を前記プラズマで照射して、酸素を含まない前記希ガスの存在下で放電発光プラズマにより発生するエッチング速度よりも早い有機層のエッチング速度を得るようにするステップと、
−前記プラズマのイオン種および/または励起種を示す少なくとも1つの信号を分光分析計(4)により測定するステップとを含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記少なくとも1つの希ガスが、アルゴン、ネオン、ヘリウム、または前記希ガスの混合気の中から選択されることを特徴とする請求項1に記載の放電発光分光分析による測定方法。
【請求項3】
無線周波数パルスタイプの電気放電を行うことを特徴とする請求項1または2に記載の放電発光分光分析による測定方法。
【請求項4】
質量分析計により前記プラズマのイオン種を示す少なくとも1つの信号を測定することを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の放電発光分光分析による測定方法。
【請求項5】
発光分光分析計により前記プラズマの励起種を示す少なくとも1つの信号を測定することを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の放電発光分光分析による測定方法。
【請求項6】
測定すべき試料が、薄膜の積層体を含んでおり、前記プラズマで照射される積層体の薄膜に応じて、放電発光プラズマの照射中の混合気の酸素濃度を修正することを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
無線周波数電界と、放電ランプの軸に対して軸方向または横方向の磁界とを同時に付与することを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記方法が、さらに、
−放電発光ランプに公知の組成の有機試料を配置し、
−放電発光ランプに、少なくとも1つの希ガスと気体酸素とを含む混合気を投入し、気体酸素の濃度が混合気の1質量%〜10質量%であり、前記放電発光ランプの電極に無線周波数タイプの電気放電を行って放電発光プラズマを発生し、前記公知の組成の有機試料を前記プラズマで照射し、
−前記プラズマのイオン種および/または励起種を示す少なくとも1つの信号を分光分析により測定し、
−前記有機試料の公知の組成に関して分光分析による測定を校正する、
校正ステップを含んでいることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
少なくとも1つのポリマータイプの有機材料層を含む試料への請求項1から8のいずれか一項に記載の方法の適用。
【請求項10】
ポリエチレンテレフタラートタイプの有機ポリマー材料の少なくとも1つの層を含んでいる試料への請求項9に記載の方法の適用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−68247(P2012−68247A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−206800(P2011−206800)
【出願日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【出願人】(504458736)
【Fターム(参考)】