有機エレクトロルミネッセンス素子
【課題】マルチフォトン構造の有機EL素子において、従来の中間層の構成で生じていた電荷移動錯体による可視領域の光吸収を抑制し、かつ、該中間層のカウンターキャリアに対する耐性を向上させることにより、素子の高効率化および長寿命化が図られた有機EL素子を提供する。
【解決手段】基板1上に形成され、陽極層2とその対向電極である陰極層3との間に、少なくとも一層の発光層を含む発光ユニット4が中間層5を介して複数個積層されたマルチフォトン構造の有機EL素子において、前記中間層5は、電子受容性物質もしくは電子供与性物質と、有機化合物との混合または積層により形成され、電荷移動錯体が形成されないこと特徴とする素子構成とする。
【解決手段】基板1上に形成され、陽極層2とその対向電極である陰極層3との間に、少なくとも一層の発光層を含む発光ユニット4が中間層5を介して複数個積層されたマルチフォトン構造の有機EL素子において、前記中間層5は、電子受容性物質もしくは電子供与性物質と、有機化合物との混合または積層により形成され、電荷移動錯体が形成されないこと特徴とする素子構成とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、照明に好適に用いることができる光透過性を有する有機エレクトロルミネッセンス(EL)素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子は、有機化合物を発光材料とする自己発光型素子であり、高速度での発光が可能であるため、動画の表示に好適であり、また、素子構造が簡単でディスプレイパネルの薄型化が可能である等の特性を有している。このような優れた特性を有していることから、有機EL素子は、携帯電話や車載用ディスプレイとして、日常生活において普及しつつある。
さらに、近年では、上記のような薄型面発光という特長を活かして、次世代の照明としても注目されている。
【0003】
前記有機EL素子は、実用性の向上および普及のため、高効率化および長寿命化を図ることが求められており、その一手法としてマルチフォトン構造が提案されている。
従来のマルチフォトン構造の有機EL素子は、電荷発生層と呼ばれる中間層を介して、少なくとも一層の発光層を含む発光ユニットを直列に接続する構造を備えたものであり、前記中間層で電荷移動錯体が形成されることによって、いわゆるマルチフォトン素子として機能する。
【0004】
例えば、特許文献1には、電荷発生層において分極した正負の電荷が、外部電界の印加によって容易に分離する機構とするため、電荷移動錯体の形成が必須であることが記載されており、電荷移動錯体を形成する前記中間層として、(電子輸送性材料+電子供与性物質/アリールアミン化合物+電子受容性物質)という構成が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、トンネルダイオードやタイプIII型ヘテロ接合等の無機半導体のように、隣接するpnヘテロ接合により、同様な電荷発生が可能であることが開示されているが、同文献には、p型のドープ有機層に用いるアクセプタとして、ホストとの間で電荷移動錯体を形成する必要があることが記載されている。また、特許文献3には、n型のドープ有機層についての記載がある。
さらに、特許文献4には、中間層として導電層が用いられ、その例としてドナーとアクセプタの混合物が開示されているが、これも、電荷移動錯体の形成を必要条件とされている。
【0006】
このように、従来のマルチフォトン素子(スタック型、タンデム型とも言われる)においては、その中間層での電荷発生には、電荷移動錯体の形成が必須とされてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3933591号公報
【特許文献2】特開2004−39617号公報
【特許文献3】特開2003−182774号公報
【特許文献4】特開2003−264085号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前記中間層において、アリールアミン化合物+電子受容性物質間等で形成される電荷移動錯体は、一般に、青色から緑色の可視領域に光吸収を持つため、デバイス自身の発光効率や透過率の向上を図る観点から、好ましいとは言えなかった。
また、アリールアミン化合物は、正孔輸送性を示す一方、カウンターキャリアである電子に対して非常に脆弱であることが知られている。
【0009】
このため、上記のような中間層の構成は、デバイスの特性改善に支障をきたすものであり、高効率化および長寿命化の観点から、中間層の構成の改良が求められていた。
【0010】
本発明は、上記技術的課題を解決するためになされたものであり、マルチフォトン構造の有機EL素子において、従来の中間層の構成で生じていた電荷移動錯体による可視領域の光吸収を抑制し、かつ、該中間層のカウンターキャリアに対する耐性を向上させることにより、素子の高効率化および長寿命化が図られた有機EL素子を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る有機EL素子は、基板上に形成され、陽極層とその対向電極である陰極層との間に、少なくとも一層の発光層を含む発光ユニットが中間層を介して複数個積層されたマルチフォトン構造の有機EL素子であって、前記中間層は、電子受容性物質もしくは電子供与性物質と、有機化合物との混合または積層により形成され、電荷移動錯体が形成されないことを特徴とする。
このような素子構成によれば、従来の中間層の構成で生じていた電荷移動錯体による可視領域の光吸収を抑制し、かつ、該中間層のカウンターキャリアに対する耐性を向上させることができる。
【0012】
前記有機EL素子においては、前記中間層は、電子受容性物質と有機化合物との混合または積層により形成され、400〜800nmの波長域における光吸収係数が、前記有機化合物単体の光吸収係数と同等以下であることが好ましい。
【0013】
また、本発明に係る他の態様の有機EL素子は、基板上に形成され、陽極層とその対向電極である陰極層との間に、少なくとも一層の発光層を含む発光ユニットが中間層を介して複数個積層されたマルチフォトン構造の有機EL素子であって、前記中間層は、電子受容性物質と有機化合物が混合または積層された層と、電子供与性物質と前記有機化合物と同一の有機化合物が混合または積層された層により形成され、電荷移動錯体が形成されないことを特徴とする。
このように、中間層として、電子受容性物質および電子供与性物質に、それぞれ、同一の有機化合物を混合または積層した層を形成することによっても、電荷移動錯体を形成させることなく、上記と同様な効果を奏する有機EL素子を構成することができる。
【0014】
前記電子受容性物質と混合または積層される前記有機化合物は、特に、その分子構造に電子供与性を示す窒素原子を含まない非アリールアミン化合物であることが好ましい。
このように、中間層に、従来のようなアリールアミン化合物等の電子供与性を示す窒素原子を含む化合物を適用しない構成とすることにより、マルチフォトン素子の長寿命化および高効率化を図ることが可能である。
前記非アリールアミン化合物は、スチリル化合物またはポリアリーレン化合物であることが好ましい。
【0015】
また、前記電子受容性物質は、金属酸化物であることが好ましく、特に、モリブデン酸化物、バナジウム酸化物およびタングステン酸化物のうちのいずれかであることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、マルチフォトン構造の有機EL素子において、従来の中間層の構成で生じていた電荷移動錯体による可視領域の光吸収を抑制し、かつ、該中間層のカウンターキャリアに対する耐性を向上させることにより、素子の高効率化および長寿命化を図ることができる。
したがって、本発明に係る有機EL素子は、従来のディスプレイ用途のみならず、照明等の光源用途においても、高演色性に優れた面発光体としての特性をより活用することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る有機EL素子の層構成を模式的に示した断面図である。
【図2】実験1の各有機EL素子の電流効率−電流密度の関係を示したグラフである。
【図3】spiro−DPVBiの単体膜および共蒸着膜のUV吸収スペクトルである。
【図4】spiro−6pの単体膜および共蒸着膜のUV吸収スペクトルである。
【図5】α−NPDの単体膜および共蒸着膜のUV吸収スペクトルである。
【図6】三酸化モリブデン単体膜のUV吸収スペクトルである。
【図7】実験3の各有機EL素子の電流効率−電流密度の関係を示したグラフである。
【図8】実施例5、比較例5の各有機EL素子の寿命特性を示したグラフである。
【図9】実験4の各有機EL素子の電流効率−電流密度の関係を示したグラフである。
【図10】実験5の各有機EL素子の電流効率−電流密度の関係を示したグラフである。
【図11】spiro−DPVBiとLiqの共蒸着膜/Al/spiro−DPVBiと五酸化バナジウムの共蒸着膜の積層膜のUV吸収スペクトルである。
【図12】五酸化バナジウム単体膜のUV吸収スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明について、図面を参照しながら、より詳細に説明する。
図1に、本発明に係る有機EL素子の層構成の概略を示す。
図1に示す有機EL素子は、基板1上に形成され、陽極層2とその対向電極である陰極層3との間に、少なくとも一層の発光層を含む発光ユニット4-1,4-2,4-3,…,4-nが、中間層5-1,5-2,…,5-(n−1)を介してn個積層されたマルチフォトン構造の有機EL素子である。そして、前記中間層5-1,5-2,…,5-(n−1)が、電子受容性物質もしくは電子供与性物質と、有機化合物との混合または積層により形成され、電荷移動錯体が形成されないことを特徴とするものである。
このように、マルチフォトン構造の複数個の発光ユニット間の中間層において、電荷移動錯体が形成されない点が従来の中間層と異なる。
中間層をこのような構成とすることにより、電荷移動錯体による可視領域の光吸収ロスを抑制することができ、さらに、カウンターキャリアに対する耐性が優れた材料を積極的に適用することが可能となる。
【0019】
前記中間層は、下記実施例に示すように、電子供与性物質を含むことは必須要件ではなく、電子受容性物質と有機化合物との混合物または積層体で構成されていてもよく、好ましくは、電子受容性物質と有機化合物との混合または積層により形成される。
この中間層は、素子の高効率化を図るためには、400〜800nmの波長域、すなわち、この可視領域における光吸収係数が、前記有機化合物単体の光吸収係数と同等またはそれ以下であることが好ましい。
【0020】
また、中間層を、電子受容性物質と有機化合物が混合または積層された層と、電子供与性物質と前記有機化合物と同一の有機化合物が混合または積層された層により形成してよく、この場合は、電子受容性物質および電子供与性物質に、それぞれ、混合または積層される有機化合物は、同一のものを用いることが好ましい。
これにより、中間層において、電荷移動錯体を形成させないようにすることができる。
【0021】
前記中間層において、電子受容性物質と混合または積層される有機化合物は、単一の化合物であることが好ましく、特に、その分子構造に電子供与性を示す窒素原子を含まない非アリールアミン化合物を用いることが好ましい。
このように、従来、電荷発生層を構成する化合物として一般的に用いられていたアリールアミン化合物等の電子供与性を示す窒素原子を含む化合物を使用せずに、中間層を形成することにより、電荷移動錯体を形成することなく、マルチフォトン素子としての機能を発現しつつ、アリールアミン化合物を中間層に用いた従来の素子に比べて、長寿命化を図ることができる。
【0022】
前記中間層における有機化合物としては、具体的には、スチリル化合物、ポリアリーレン化合物が挙げられ、例えば、スチリル化合物である下記(化1)に示す化合物(spiro−DPVBi)を用いることが好ましい。
このような、正孔および電子の両者に対して耐性のあるバイポーラ材料であり、非アリールアミン化合物を好適に適用することができる。
【0023】
【化1】
【0024】
また、前記電子受容性物質は、金属酸化物であることが好ましく、特に、モリブデン酸化物、バナジウム酸化物、タングステン酸化物等を好適に用いることができる。これらの電子受容性物質と、spiro−DPVBi等の非アリールアミン化合物とを共蒸着または積層して、中間層を形成することが好ましい。
以下、中間層による電荷発生層のメカニズムについて説明する。
【0025】
従来のマルチフォトン素子の中間層におけるアリールアミン化合物と電子受容性物質から形成される電荷移動錯体は、約450〜500nmの波長域に吸収ピークを示すことが知られている。
例えば、下記比較例3に示すような、α−NPDに三酸化モリブデン(MoO3)をドープした従来の電荷発生層では、500nm付近と1300nm付近に吸収が発生する(図5参照)。この吸収は、MoO3とα−NPDとが形成する電荷移動錯体によるものであることは、分子軌道計算により確認することができる。
α−NPDの付近にMoO3を配置した分子座標を初期値とするいくつかの配位を、計算パッケージGaussian03を用いて、B3LYP/6−31++G(d,p)で構造最適化を行い、続いて、B3LYP/6−311++G(d,p)により電荷0、+1、−1の場合のエネルギー計算を、さらに、TD法を用いて、B3LYP/6−31++G(d,p)により吸収波長の計算を行った結果、MoO3が配位したα−NPD分子が1つの分子として振る舞い、このとき、波長529nm、1174nmに振動子強度がそれぞれ0.029、0.061の強い吸収と、波長1369nmに振動子強度0.405の極めて強い吸収、波長550nm〜600nmに複数の弱い吸収が確認された。
これらの吸収ピークは、図5に示したような実際に観測された吸収と一致する。
【0026】
また、上記のエネルギー計算から、分子レベルの電子親和力およびイオン化ポテンシャルを求めると、それぞれ3.53eV、4.70eVとなり、マトリックスとなるα−NPDの分極エネルギー0.6eVを考慮すると、ドープ層内でのMoO3配位α−NPDの電子親和力4.13eV、イオン化ポテンシャル4.10eVとほぼ一致する。
したがって、この分子は、自発的に電荷分離、すなわち、電荷発生を起こす電荷移動錯体であることを確認できる(電子親和力とイオン化ポテンシャルの差が小さいほど、分子内の電荷移動が大きい)。
また、この分子のHOMOやLUMOの分子軌道分布から、電荷が大きく偏っていることも確認でき、この点からも、電荷移動錯体を形成していることが認められる。
【0027】
一般に、α−NPDに代表されるアリールアミンのように、窒素原子を含み、孤立電子対がπ電子系と相互作用する分子は、金属酸化物のような電子求引性基の配位によって、容易に電子欠乏を引き起こすため、電荷移動錯体を形成しやすい。
【0028】
これに対して、例えば、下記実施例3,4に示すような、spiro−DPVBiや下記(化2)に示すポリアリーレン系のspiro−6pに三酸化モリブデン(MoO3)をドープした電荷発生層では、500nm付近に吸収ピークは見られず、電荷移動錯体は形成されない(図3,4参照)。
【0029】
【化2】
【0030】
spiro−6pについて、上記と同様に計算した場合、MoO3が配位したspiro−6pは、480nmより短波長側にしか強い吸収は存在せず、また、強い電荷分布の偏りも確認できない。
また、分子レベルの電子親和力とイオン化ポテンシャルは、それぞれ2.04eV、6.41eVであり、spiro−6p単体の電子親和力1.04eV、イオン化ポテンシャル6.46eVと比べて、電子親和力に変化があるものの、α−NPDのように極端なエネルギーレベルの変化はなく、電荷移動錯体は形成されていないことを確認できる。
【0031】
したがって、spiro−6pを用いた中間層が電荷発生層として動作する原理は、前記電子親和力が2.04eVに低下したことに起因する。これは、MoO3配位のspiro−6pが、spiro−6p単体に対して弱いアクセプタとして動作し、spiro−6pがp型ドープ層を形成するとともに、このMoO3配位のspiro−6pの電子親和力のレベルが、隣接する電子輸送層に電子注入をアシストすることによるものと推察される。
【0032】
このような現象を生じる、すなわち、金属酸化物が配位した有機化合物が、元の有機化合物の弱いアクセプタ兼電子注入の中間準位として動作する有機化合物としては、他のポリアリーレン化合物やスチリル化合物も挙げられる。これらは、金属酸化物がπ共役系に配位することにより、適切な準位が形成されることに起因していると考えられる。
【0033】
本発明に係る有機EL素子の基板、陽極層、発光ユニットおよび陰極層の構成、すなわち、中間層以外の層構成は、従来の一般的なマルチフォトン素子と同様の構成で差し支えない。
以下、各層の具体的な態様の一例を説明する。
【0034】
本発明に係る有機EL素子の構成要素のうち、基板は、有機EL素子の支持体かつ発光面となるため、光透過率は80%以上であることが好ましく、より好ましくは、90%以上である。
前記基板としては、一般に、BK7、BaK1、F2等の光学ガラス、石英ガラス、無アルカリガラス、ホウケイ酸ガラス、アルミノケイ酸ガラス等のガラス基板、PMMA等のアクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホネート、ポリスチレン、ポリオレフィン、エポキシ樹脂、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル等のポリマー基板が用いられる。
前記基板の厚さは、通常、0.1〜10mm程度のものが用いられるが、機械的強度、重量等を考慮して、0.3〜5mmであることが好ましく、0.5〜2mmであることがより好ましい。
【0035】
また、前記陽極層は、前記基板上に、透明電極として、仕事関数が大きい(4.0eV以上)電極材料により形成される。
このような透明電極は、金、銀、ニッケル、パラジウム、白金等の金属等の薄膜により形成することもできるが、一般には、酸化インジウム錫(ITO)、酸化インジウム亜鉛、酸化亜鉛等の金属酸化物が用いられ、特に、透明性や導電性等の観点から、ITOが好適に用いられる。
この透明電極の膜厚は、透明性および導電性の確保のため、80〜400nmであることが好ましく、100〜200nmであることがより好ましい。
陽極層の形成は、通常、CVD法、スパッタ法、真空蒸着法等により行われ、透明導電性薄膜として形成されることが好ましい。
【0036】
前記陽極層に対向する陰極層は、通常、仕事関数の小さい(4eV以下)金属、合金により構成される。例えば、アルミニウム、アルミニウム−リチウム合金、マグネシウム−銀合金等が挙げられる。
前記陰極層の膜厚は、10〜500nmであることが好ましく、50〜200nmであることがより好ましい。
前記陰極層も、CVD法、スパッタ法、真空蒸着法等の通常用いられる方法で成膜することにより形成することができる。
【0037】
また、前記発光ユニットの1ユニットは、少なくとも一層の発光層を含むものであれば、単層でも複層でもよく、公知の有機EL素子の層構造とすることができる。前記発光ユニット3の具体的な層構造としては、発光層のみ、正孔輸送層/発光層、発光層/電子輸送層、正孔輸送層/発光層/電子輸送層等の構造が挙げられる。
さらに、正孔注入層、正孔輸送発光層、正孔阻止層、電子注入層、電子輸送発光層等をも含む公知の積層構造とすることもできる。
【0038】
本発明に係る有機EL素子は、マルチフォトン素子であるため、前記発光ユニットが、中間層を介して、複数個積層されている。積層される複数個の発光ユニットは、それぞれ同じ構成であっても、異なる構成であってもよい。
【0039】
前記発光ユニットの各層を構成する材料は、特に制限されるものではなく、公知のものを用いることができ、低分子系または高分子系のいずれであってもよい。
これらの各層の形成は、真空蒸着法、スパッタリング法等などの乾式法、インクジェット法、キャスティング法、ディップコート法、バーコート法、ブレードコート法、ロールコート法、グラビアコート法、フレキソ印刷法、スプレーコート法等の湿式法により行うことができる。好ましくは、真空蒸着により成膜する。
また、前記各層の膜厚は、各層同士の適応性や求められる全体の層厚さ等を考慮して、適宜状況に応じて定められるが、通常、5nm〜5μmの範囲内であることが好ましい。
【実施例】
【0040】
以下、本発明を実施例に基づきさらに具体的に説明するが、本発明は下記の実施例により制限されるものではない。
[実験1]緑色燐光素子による評価
(実施例1)
まず、パターニング済みの透明導電膜(ITO)が膜厚110nmで成膜されたガラス基板を、純水と界面活性剤による超音波洗浄、純水による流水洗浄、純水とイソプロピルアルコールの1:1混合溶液による超音波洗浄、イソプロピルアルコールによる煮沸洗浄の順で洗浄処理した。この基板を沸騰中のイソプロピルアルコールからゆっくり引き上げ、イソプロピルアルコール蒸気中で乾燥させ、最後に、紫外線オゾン洗浄を行った。
この基板を真空チャンバ内に配置し、1×10-6Torrまで真空排気し、該真空チャンバ内には、蒸着材料をそれぞれ充填した各モリブデン製ボートと、所定のパターンで成膜するための蒸着用マスクを設置しておき、前記ボートを通電加熱し、蒸着材料を蒸発させることにより、順次、下記表1の実施例1に示す層構成で、正孔輸送層、第1の発光ユニット、中間層、第2の発光ユニットの成膜を行った。
ここで、第1および第2の発光ユニットに用いられているBTPSはスルホン化合物であり、また、DPBはフェナントロリン誘導体である。
【0041】
中間層は、非アリールアミン化合物であるspiro−DPVBiと電子受容性物質である三酸化モリブデンとを共蒸着した。
その上に、アリールアミン化合物である正孔輸送性材料の下記(化3)に示す化合物(spiro−TAD)層を積層させ、引き続き、第2の発光ユニットを形成した。
【0042】
【化3】
【0043】
そして、陰極層は、真空チャンバを真空に保ったまま、マスクを交換し、陰極蒸着用のマスクを設置し、アルミニウム(Al)層を膜厚100nmで形成した。
真空チャンバを大気圧に戻し、上記により各層を蒸着させた基板を取り出し、窒素置換されたグローブボックスに移し、UV硬化樹脂を用いて、別のガラス板により封止し、2段マルチフォトン構造の緑色燐光素子を得た。
【0044】
(比較例1)
リファレンス1として、表1の比較例1に示す層構成で、マルチフォトン構造でない通常タイプの緑色燐光素子を、実施例1と同様の手順にて作製した。
【0045】
(実施例2)
表1の実施例2に示す層構成で、2段マルチフォトン構造の緑色燐光素子を、実施例1と同様の手順にて作製した。
中間層は、spiro−DPVBiと三酸化モリブデンの共蒸着層とし、spiro−TAD層との間に、spiro−DPVBiのみの層を形成し、三酸化モリブデンとアリールアミン化合物であるspiro−TADとが直接接触しない構造とした。
【0046】
(比較例2)
表1の比較例2に示す層構成で、2段マルチフォトン構造の緑色燐光素子を、実施例1と同様の手順にて作製した。
中間層は、アリールアミン化合物であるspiro−TADのみで、三酸化モリブデンとの共蒸着は行わない層を積層させた。
【0047】
下記表1に、[実験1]において作製した緑色燐光素子の各層構成を示す。
なお、表1の各数値は、各層の膜厚(nm)を示している。
【0048】
【表1】
【0049】
図2に、[実験1]における各素子の電流効率−電流密度のグラフを示す。
図2のグラフから分かるように、実施例1,2の2段マルチフォトン構造の素子は、リファレンス1(比較例1)と比較して、電流効率がほぼ2倍であることが認められた。
【0050】
図2に示したグラフにおいて、実施例1,2の2段マルチフォトン構造の素子は、電流効率が2倍を超えていることから、両素子ともマルチフォトン素子として機能することが確認された。
一方、比較例2の素子は、リファレンス1(比較例1)とほぼ同等の電流効率しか得られなかったことから、1ユニット分の発光しか得られていないと考えられる。
【0051】
以上の結果から、マルチフォトン素子の動作要件として、中間層に電子受容性物質である三酸化モリブデンの存在が必要ではあるものの、アリールアミン化合物と三酸化モリブデンの混合または接触は、必須条件ではないことが認められた。
また、表1に示したように、リファレンス1(比較例1)では、電子注入層として、電子輸送性材料であるDPBと金属錯体であるLiqの共蒸着層を形成したが、実施例1,2では、これに代えて、電子注入層としてLiF/Al層を形成した。この場合も、マルチフォトン素子として機能することが確認された。このことから、電子供与性物質の存在も、中間層を構成する必須要件ではないと推測される。
【0052】
[実験2]電荷移動錯体の形成の確認
(実施例3)
spiro−DPVBiの単体膜およびMoO3との共蒸着膜を厚さ50nmで形成し、そのUV吸収スペクトルを測定した。
図3に、これらのUV吸収スペクトルを示す。
【0053】
(実施例4)
spiro−6pの単体膜およびMoO3との共蒸着膜を厚さ50nmで形成し、そのUV吸収スペクトルを測定した。
図4に、これらのUV吸収スペクトルを示す。
【0054】
(比較例3)
α−NPDの単体膜およびMoO3との共蒸着膜を厚さ50nmで形成し、そのUV吸収スペクトルを測定した。
図5に、これらのUV吸収スペクトルを示す。
【0055】
[比較例4]
参考として、MoO3単体膜を厚さ20nmで形成し、そのUV吸収スペクトルを測定した。
図6に、このUV吸収スペクトルを示す。
【0056】
図3に示したspiro−DPVBi(実施例3)については、三酸化モリブデンを20重量%の濃度で共蒸着した素子は、波長1500nm付近に吸収ピークが見られたものの、可視領域には吸収が見られず、三酸化モリブデンの濃度を6重量%に低減した場合は、いずれの吸収も見られなかった。
図4に示したspiro−6p(実施例4)については、三酸化モリブデンの有無によるスペクトルの変動は確認されなかった。
図5に示したα−NPD(比較例3)の吸収スペクトルから、三酸化モリブデンを共蒸着することにより、波長500nm付近および1300nm付近に吸収ピークが確認された。この500nm付近の吸収ピークは、電荷移動錯体の形成に由来するものと考えられる。
以上から、マルチフォトン構造の素子の中間層に非アリールアミン化合物を適用することにより、該当波長域に発光ピークを有するデバイスにおける発光効率の向上が期待される。
【0057】
[実験3]黄色蛍光素子による評価(その1)
(比較例5)
リファレンス2として、表2の比較例5に示す層構成で、2段マルチフォトン構造の黄色蛍光素子を、実施例1と同様の手順にて作製した。
中間層は、電子輸送性材料であるDPBにリチウム錯体(Liq)を共蒸着し、この層上にアルミニウム(Al)を蒸着し、さらに、アリールアミン化合物であるα−NPDと三酸化モリブデンとを共蒸着した。
【0058】
(実施例5)
表2の実施例5に示す層構成で、2段マルチフォトン構造の黄色蛍光素子を、実施例1と同様の手順にて作製した。
【0059】
実施例5では、DPB:Liq/Al層のLiqとAlが、マルチフォトン素子において中間層として機能する。ただし、このAlは極めて薄く、薄膜を形成しておらず、Liqに作用することでLiqを活性化し、電子供与性物質として機能する。
なお、実施例5では中間層としてDPB:Liq/Al層とspiro−DPVBi:MoO3層の2層を形成したが、中間層は、単一層に限らず、このように複数層を積層して形成してもよい。
【0060】
下記表2に、実施例5および比較例5の黄色蛍光素子の各層構成を示す。
なお、表3の各数値は、各層の膜厚(nm)を示している。
また、TBADNは、下記(化4)に示す化合物である。
【0061】
【化4】
【0062】
【表2】
【0063】
(実施例6)
中間層において、共蒸着する三酸化モリブデンの濃度を20重量%から6重量%に変更し、それ以外については、実施例5と同様にして、2段マルチフォトン構造の黄色蛍光素子を作製した。
【0064】
(実施例7)
中間層およびこれに接触する層のspiro−DPVBiをspiro−6pに変更し、また、共蒸着する三酸化モリブデンの濃度を13重量%とし、それ以外については、実施例5と同様にして、2段マルチフォトン構造の黄色蛍光素子を作製した。
【0065】
図7に、実験3において作製した各素子の電流効率−電流密度のグラフを示す。
なお、図7のグラフにおいては、比較のため、実施例5および比較例5の2段マルチフォトン構造の素子に対応する1段の素子についてのデータも併せて記載した。
図7に示したグラフから分かるように、実施例5および比較例5の2段マルチフォトン構造の素子は、いずれも、それぞれの1段素子と比較して、電流効率がほぼ2倍であることが認められた。
また、spiro−DPVBiの濃度を低減した場合(実施例6)、spiro−6pを用いた場合(実施例7)も、実施例5の場合と同等以上の発光効率が得られることが認められた。
このことから、アリールアミン化合物を全く含まない素子構成であっても、マルチフォトン素子として機能することが確認された。
なお、実施例5の方が、比較例5よりも電流効率が低かったのは、選択した材料固有の特性に起因するものと思われる。
【0066】
また、図8に、電流密度500A/m2における実施例5および比較例5の各素子の寿命特性をグラフとして示す。
図8のグラフから分かるように、同一電流密度にて駆動した際、実施例5の素子は、比較例5の素子よりも長寿命であることが確認された。
【0067】
[実験4]黄色蛍光素子による評価(その2)
(実施例8)
表3の実施例8に示す層構成で、2段マルチフォトン構造の黄色蛍光素子を、実施例1と同様の手順にて作製した。
中間層においては、非アリールアミン化合物としてTBADN、電子受容性物質の金属酸化物として三酸化モリブデンを用いた。
【0068】
下記表3に、実施例8の黄色蛍光素子の層構成を比較例5(リファレンス2)と併せて示す。
なお、表3の各数値は、各層の膜厚(nm)を示している。
【0069】
【表3】
【0070】
(実施例9)
中間層およびこれに接触する層のTBADNを下記(化5)に示す化合物(DPPB)に変更し、それ以外については、実施例8と同様にして、2段マルチフォトン構造の黄色蛍光素子を作製した。
【0071】
【化5】
【0072】
(実施例10)
中間層およびこれに接触する層のTBADNを下記(化6)に示す化合物(TMBN)に変更し、それ以外については、実施例8と同様にして、2段マルチフォトン構造の黄色蛍光素子を作製した。
【0073】
【化6】
【0074】
(実施例11)
中間層およびこれに接触する層のTBADNを下記(化7)に示す化合物(TPA)に変更し、それ以外については、実施例8と同様にして、2段マルチフォトン構造の黄色蛍光素子を作製した。
【0075】
【化7】
【0076】
図9に、実験4において作製した各素子の電流効率−電流密度のグラフを示す。
なお、図9のグラフにおいては、比較のため、比較例5の2段マルチフォトン構造の素子に対応する1段の素子についてのデータも併せて記載した。
図9に示したグラフから分かるように、実施例8〜11の2段マルチフォトン構造の素子は、いずれも、比較例5の1段素子と比較して、電流効率がほぼ2倍であることが認められた。
このことから、中間層において、非アリールアミン化合物として、DPPB、TMBN、TPAを用い、また、DPB/Liq層に代えて、DPB/LiF層とした層構成においても、マルチフォトン素子として機能することが確認された。
なお、実施例8,9の方が、比較例5よりも電流効率が低かったのは、選択した材料固有の特性に起因するものと思われる。
【0077】
[実験5]黄色蛍光素子による評価(その3)
(実施例12)
表4の実施例12に示す層構成で、2段マルチフォトン構造の黄色蛍光素子を、実施例1と同様の手順にて作製した。
中間層において、非アリールアミン化合物としてspiro−DPVBi、電子受容性物質の金属酸化物として五酸化バナジウム、電子供与性物質としてLiqを用いた。
【0078】
下記表4に、実施例12の黄色蛍光素子の層構成を比較例5(リファレンス2)と併せて示す。
なお、表4の各数値は、各層の膜厚(nm)を示している。
【0079】
【表4】
【0080】
図10に、実験5において作製した各素子の電流効率−電流密度のグラフを示す。
なお、図10のグラフにおいては、比較のため、比較例5の2段マルチフォトン構造の素子に対応する1段の素子についてのデータも併せて記載した。
図10に示したグラフから分かるように、実施例12の2段マルチフォトン構造の素子は、比較例5の1段素子と比較して、電流効率がほぼ2倍であることが認められた。
このことから、中間層において、非アリールアミン化合物としてspiro−DPVBi、また、電子受容性物質の金属酸化物として五酸化バナジウム、電子供与性物質としてLiqとAlを用いた場合も、マルチフォトン素子として機能することが確認された。
【0081】
[実験6]電荷移動錯体の形成の確認
(実施例13)
実施例12の中間層の層構成、すなわち、spiro−DPVBiとLiqの共蒸着層を厚さ10nm、Alを厚さ1.5nm、spiro−DPVBiとV2O5の共蒸着層を厚さ20nmで順次積層し、そのUV吸収スペクトルを測定した。
図11に、このUV吸収スペクトルを示す。
【0082】
(比較例6)
参考として、V2O5単層膜を厚さ20nmで形成し、そのUV吸収スペクトルを測定した。
図12に、このUV吸収スペクトルを示す。
【0083】
図11に示した実施例12の中間層の層構成においては、spiro−DPVBi:Liq/Al層とspiro−DPVBi:V2O5層とが隣接しているが、可視領域には吸収が見られなかった。このことから電子受容性物質および電子供与性物質と混合または積層される有機化合物に同一材料を使用した本構成においても、電荷移動錯体が形成されていないことが確認された。
【符号の説明】
【0084】
1 基板
2 陽極層
3 陰極層
4-1,4-2,4-3,…,4-n 発光ユニット
5-1,5-2,…,5-(n−1) 中間層
【技術分野】
【0001】
本発明は、照明に好適に用いることができる光透過性を有する有機エレクトロルミネッセンス(EL)素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子は、有機化合物を発光材料とする自己発光型素子であり、高速度での発光が可能であるため、動画の表示に好適であり、また、素子構造が簡単でディスプレイパネルの薄型化が可能である等の特性を有している。このような優れた特性を有していることから、有機EL素子は、携帯電話や車載用ディスプレイとして、日常生活において普及しつつある。
さらに、近年では、上記のような薄型面発光という特長を活かして、次世代の照明としても注目されている。
【0003】
前記有機EL素子は、実用性の向上および普及のため、高効率化および長寿命化を図ることが求められており、その一手法としてマルチフォトン構造が提案されている。
従来のマルチフォトン構造の有機EL素子は、電荷発生層と呼ばれる中間層を介して、少なくとも一層の発光層を含む発光ユニットを直列に接続する構造を備えたものであり、前記中間層で電荷移動錯体が形成されることによって、いわゆるマルチフォトン素子として機能する。
【0004】
例えば、特許文献1には、電荷発生層において分極した正負の電荷が、外部電界の印加によって容易に分離する機構とするため、電荷移動錯体の形成が必須であることが記載されており、電荷移動錯体を形成する前記中間層として、(電子輸送性材料+電子供与性物質/アリールアミン化合物+電子受容性物質)という構成が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、トンネルダイオードやタイプIII型ヘテロ接合等の無機半導体のように、隣接するpnヘテロ接合により、同様な電荷発生が可能であることが開示されているが、同文献には、p型のドープ有機層に用いるアクセプタとして、ホストとの間で電荷移動錯体を形成する必要があることが記載されている。また、特許文献3には、n型のドープ有機層についての記載がある。
さらに、特許文献4には、中間層として導電層が用いられ、その例としてドナーとアクセプタの混合物が開示されているが、これも、電荷移動錯体の形成を必要条件とされている。
【0006】
このように、従来のマルチフォトン素子(スタック型、タンデム型とも言われる)においては、その中間層での電荷発生には、電荷移動錯体の形成が必須とされてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3933591号公報
【特許文献2】特開2004−39617号公報
【特許文献3】特開2003−182774号公報
【特許文献4】特開2003−264085号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前記中間層において、アリールアミン化合物+電子受容性物質間等で形成される電荷移動錯体は、一般に、青色から緑色の可視領域に光吸収を持つため、デバイス自身の発光効率や透過率の向上を図る観点から、好ましいとは言えなかった。
また、アリールアミン化合物は、正孔輸送性を示す一方、カウンターキャリアである電子に対して非常に脆弱であることが知られている。
【0009】
このため、上記のような中間層の構成は、デバイスの特性改善に支障をきたすものであり、高効率化および長寿命化の観点から、中間層の構成の改良が求められていた。
【0010】
本発明は、上記技術的課題を解決するためになされたものであり、マルチフォトン構造の有機EL素子において、従来の中間層の構成で生じていた電荷移動錯体による可視領域の光吸収を抑制し、かつ、該中間層のカウンターキャリアに対する耐性を向上させることにより、素子の高効率化および長寿命化が図られた有機EL素子を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る有機EL素子は、基板上に形成され、陽極層とその対向電極である陰極層との間に、少なくとも一層の発光層を含む発光ユニットが中間層を介して複数個積層されたマルチフォトン構造の有機EL素子であって、前記中間層は、電子受容性物質もしくは電子供与性物質と、有機化合物との混合または積層により形成され、電荷移動錯体が形成されないことを特徴とする。
このような素子構成によれば、従来の中間層の構成で生じていた電荷移動錯体による可視領域の光吸収を抑制し、かつ、該中間層のカウンターキャリアに対する耐性を向上させることができる。
【0012】
前記有機EL素子においては、前記中間層は、電子受容性物質と有機化合物との混合または積層により形成され、400〜800nmの波長域における光吸収係数が、前記有機化合物単体の光吸収係数と同等以下であることが好ましい。
【0013】
また、本発明に係る他の態様の有機EL素子は、基板上に形成され、陽極層とその対向電極である陰極層との間に、少なくとも一層の発光層を含む発光ユニットが中間層を介して複数個積層されたマルチフォトン構造の有機EL素子であって、前記中間層は、電子受容性物質と有機化合物が混合または積層された層と、電子供与性物質と前記有機化合物と同一の有機化合物が混合または積層された層により形成され、電荷移動錯体が形成されないことを特徴とする。
このように、中間層として、電子受容性物質および電子供与性物質に、それぞれ、同一の有機化合物を混合または積層した層を形成することによっても、電荷移動錯体を形成させることなく、上記と同様な効果を奏する有機EL素子を構成することができる。
【0014】
前記電子受容性物質と混合または積層される前記有機化合物は、特に、その分子構造に電子供与性を示す窒素原子を含まない非アリールアミン化合物であることが好ましい。
このように、中間層に、従来のようなアリールアミン化合物等の電子供与性を示す窒素原子を含む化合物を適用しない構成とすることにより、マルチフォトン素子の長寿命化および高効率化を図ることが可能である。
前記非アリールアミン化合物は、スチリル化合物またはポリアリーレン化合物であることが好ましい。
【0015】
また、前記電子受容性物質は、金属酸化物であることが好ましく、特に、モリブデン酸化物、バナジウム酸化物およびタングステン酸化物のうちのいずれかであることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、マルチフォトン構造の有機EL素子において、従来の中間層の構成で生じていた電荷移動錯体による可視領域の光吸収を抑制し、かつ、該中間層のカウンターキャリアに対する耐性を向上させることにより、素子の高効率化および長寿命化を図ることができる。
したがって、本発明に係る有機EL素子は、従来のディスプレイ用途のみならず、照明等の光源用途においても、高演色性に優れた面発光体としての特性をより活用することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る有機EL素子の層構成を模式的に示した断面図である。
【図2】実験1の各有機EL素子の電流効率−電流密度の関係を示したグラフである。
【図3】spiro−DPVBiの単体膜および共蒸着膜のUV吸収スペクトルである。
【図4】spiro−6pの単体膜および共蒸着膜のUV吸収スペクトルである。
【図5】α−NPDの単体膜および共蒸着膜のUV吸収スペクトルである。
【図6】三酸化モリブデン単体膜のUV吸収スペクトルである。
【図7】実験3の各有機EL素子の電流効率−電流密度の関係を示したグラフである。
【図8】実施例5、比較例5の各有機EL素子の寿命特性を示したグラフである。
【図9】実験4の各有機EL素子の電流効率−電流密度の関係を示したグラフである。
【図10】実験5の各有機EL素子の電流効率−電流密度の関係を示したグラフである。
【図11】spiro−DPVBiとLiqの共蒸着膜/Al/spiro−DPVBiと五酸化バナジウムの共蒸着膜の積層膜のUV吸収スペクトルである。
【図12】五酸化バナジウム単体膜のUV吸収スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明について、図面を参照しながら、より詳細に説明する。
図1に、本発明に係る有機EL素子の層構成の概略を示す。
図1に示す有機EL素子は、基板1上に形成され、陽極層2とその対向電極である陰極層3との間に、少なくとも一層の発光層を含む発光ユニット4-1,4-2,4-3,…,4-nが、中間層5-1,5-2,…,5-(n−1)を介してn個積層されたマルチフォトン構造の有機EL素子である。そして、前記中間層5-1,5-2,…,5-(n−1)が、電子受容性物質もしくは電子供与性物質と、有機化合物との混合または積層により形成され、電荷移動錯体が形成されないことを特徴とするものである。
このように、マルチフォトン構造の複数個の発光ユニット間の中間層において、電荷移動錯体が形成されない点が従来の中間層と異なる。
中間層をこのような構成とすることにより、電荷移動錯体による可視領域の光吸収ロスを抑制することができ、さらに、カウンターキャリアに対する耐性が優れた材料を積極的に適用することが可能となる。
【0019】
前記中間層は、下記実施例に示すように、電子供与性物質を含むことは必須要件ではなく、電子受容性物質と有機化合物との混合物または積層体で構成されていてもよく、好ましくは、電子受容性物質と有機化合物との混合または積層により形成される。
この中間層は、素子の高効率化を図るためには、400〜800nmの波長域、すなわち、この可視領域における光吸収係数が、前記有機化合物単体の光吸収係数と同等またはそれ以下であることが好ましい。
【0020】
また、中間層を、電子受容性物質と有機化合物が混合または積層された層と、電子供与性物質と前記有機化合物と同一の有機化合物が混合または積層された層により形成してよく、この場合は、電子受容性物質および電子供与性物質に、それぞれ、混合または積層される有機化合物は、同一のものを用いることが好ましい。
これにより、中間層において、電荷移動錯体を形成させないようにすることができる。
【0021】
前記中間層において、電子受容性物質と混合または積層される有機化合物は、単一の化合物であることが好ましく、特に、その分子構造に電子供与性を示す窒素原子を含まない非アリールアミン化合物を用いることが好ましい。
このように、従来、電荷発生層を構成する化合物として一般的に用いられていたアリールアミン化合物等の電子供与性を示す窒素原子を含む化合物を使用せずに、中間層を形成することにより、電荷移動錯体を形成することなく、マルチフォトン素子としての機能を発現しつつ、アリールアミン化合物を中間層に用いた従来の素子に比べて、長寿命化を図ることができる。
【0022】
前記中間層における有機化合物としては、具体的には、スチリル化合物、ポリアリーレン化合物が挙げられ、例えば、スチリル化合物である下記(化1)に示す化合物(spiro−DPVBi)を用いることが好ましい。
このような、正孔および電子の両者に対して耐性のあるバイポーラ材料であり、非アリールアミン化合物を好適に適用することができる。
【0023】
【化1】
【0024】
また、前記電子受容性物質は、金属酸化物であることが好ましく、特に、モリブデン酸化物、バナジウム酸化物、タングステン酸化物等を好適に用いることができる。これらの電子受容性物質と、spiro−DPVBi等の非アリールアミン化合物とを共蒸着または積層して、中間層を形成することが好ましい。
以下、中間層による電荷発生層のメカニズムについて説明する。
【0025】
従来のマルチフォトン素子の中間層におけるアリールアミン化合物と電子受容性物質から形成される電荷移動錯体は、約450〜500nmの波長域に吸収ピークを示すことが知られている。
例えば、下記比較例3に示すような、α−NPDに三酸化モリブデン(MoO3)をドープした従来の電荷発生層では、500nm付近と1300nm付近に吸収が発生する(図5参照)。この吸収は、MoO3とα−NPDとが形成する電荷移動錯体によるものであることは、分子軌道計算により確認することができる。
α−NPDの付近にMoO3を配置した分子座標を初期値とするいくつかの配位を、計算パッケージGaussian03を用いて、B3LYP/6−31++G(d,p)で構造最適化を行い、続いて、B3LYP/6−311++G(d,p)により電荷0、+1、−1の場合のエネルギー計算を、さらに、TD法を用いて、B3LYP/6−31++G(d,p)により吸収波長の計算を行った結果、MoO3が配位したα−NPD分子が1つの分子として振る舞い、このとき、波長529nm、1174nmに振動子強度がそれぞれ0.029、0.061の強い吸収と、波長1369nmに振動子強度0.405の極めて強い吸収、波長550nm〜600nmに複数の弱い吸収が確認された。
これらの吸収ピークは、図5に示したような実際に観測された吸収と一致する。
【0026】
また、上記のエネルギー計算から、分子レベルの電子親和力およびイオン化ポテンシャルを求めると、それぞれ3.53eV、4.70eVとなり、マトリックスとなるα−NPDの分極エネルギー0.6eVを考慮すると、ドープ層内でのMoO3配位α−NPDの電子親和力4.13eV、イオン化ポテンシャル4.10eVとほぼ一致する。
したがって、この分子は、自発的に電荷分離、すなわち、電荷発生を起こす電荷移動錯体であることを確認できる(電子親和力とイオン化ポテンシャルの差が小さいほど、分子内の電荷移動が大きい)。
また、この分子のHOMOやLUMOの分子軌道分布から、電荷が大きく偏っていることも確認でき、この点からも、電荷移動錯体を形成していることが認められる。
【0027】
一般に、α−NPDに代表されるアリールアミンのように、窒素原子を含み、孤立電子対がπ電子系と相互作用する分子は、金属酸化物のような電子求引性基の配位によって、容易に電子欠乏を引き起こすため、電荷移動錯体を形成しやすい。
【0028】
これに対して、例えば、下記実施例3,4に示すような、spiro−DPVBiや下記(化2)に示すポリアリーレン系のspiro−6pに三酸化モリブデン(MoO3)をドープした電荷発生層では、500nm付近に吸収ピークは見られず、電荷移動錯体は形成されない(図3,4参照)。
【0029】
【化2】
【0030】
spiro−6pについて、上記と同様に計算した場合、MoO3が配位したspiro−6pは、480nmより短波長側にしか強い吸収は存在せず、また、強い電荷分布の偏りも確認できない。
また、分子レベルの電子親和力とイオン化ポテンシャルは、それぞれ2.04eV、6.41eVであり、spiro−6p単体の電子親和力1.04eV、イオン化ポテンシャル6.46eVと比べて、電子親和力に変化があるものの、α−NPDのように極端なエネルギーレベルの変化はなく、電荷移動錯体は形成されていないことを確認できる。
【0031】
したがって、spiro−6pを用いた中間層が電荷発生層として動作する原理は、前記電子親和力が2.04eVに低下したことに起因する。これは、MoO3配位のspiro−6pが、spiro−6p単体に対して弱いアクセプタとして動作し、spiro−6pがp型ドープ層を形成するとともに、このMoO3配位のspiro−6pの電子親和力のレベルが、隣接する電子輸送層に電子注入をアシストすることによるものと推察される。
【0032】
このような現象を生じる、すなわち、金属酸化物が配位した有機化合物が、元の有機化合物の弱いアクセプタ兼電子注入の中間準位として動作する有機化合物としては、他のポリアリーレン化合物やスチリル化合物も挙げられる。これらは、金属酸化物がπ共役系に配位することにより、適切な準位が形成されることに起因していると考えられる。
【0033】
本発明に係る有機EL素子の基板、陽極層、発光ユニットおよび陰極層の構成、すなわち、中間層以外の層構成は、従来の一般的なマルチフォトン素子と同様の構成で差し支えない。
以下、各層の具体的な態様の一例を説明する。
【0034】
本発明に係る有機EL素子の構成要素のうち、基板は、有機EL素子の支持体かつ発光面となるため、光透過率は80%以上であることが好ましく、より好ましくは、90%以上である。
前記基板としては、一般に、BK7、BaK1、F2等の光学ガラス、石英ガラス、無アルカリガラス、ホウケイ酸ガラス、アルミノケイ酸ガラス等のガラス基板、PMMA等のアクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホネート、ポリスチレン、ポリオレフィン、エポキシ樹脂、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル等のポリマー基板が用いられる。
前記基板の厚さは、通常、0.1〜10mm程度のものが用いられるが、機械的強度、重量等を考慮して、0.3〜5mmであることが好ましく、0.5〜2mmであることがより好ましい。
【0035】
また、前記陽極層は、前記基板上に、透明電極として、仕事関数が大きい(4.0eV以上)電極材料により形成される。
このような透明電極は、金、銀、ニッケル、パラジウム、白金等の金属等の薄膜により形成することもできるが、一般には、酸化インジウム錫(ITO)、酸化インジウム亜鉛、酸化亜鉛等の金属酸化物が用いられ、特に、透明性や導電性等の観点から、ITOが好適に用いられる。
この透明電極の膜厚は、透明性および導電性の確保のため、80〜400nmであることが好ましく、100〜200nmであることがより好ましい。
陽極層の形成は、通常、CVD法、スパッタ法、真空蒸着法等により行われ、透明導電性薄膜として形成されることが好ましい。
【0036】
前記陽極層に対向する陰極層は、通常、仕事関数の小さい(4eV以下)金属、合金により構成される。例えば、アルミニウム、アルミニウム−リチウム合金、マグネシウム−銀合金等が挙げられる。
前記陰極層の膜厚は、10〜500nmであることが好ましく、50〜200nmであることがより好ましい。
前記陰極層も、CVD法、スパッタ法、真空蒸着法等の通常用いられる方法で成膜することにより形成することができる。
【0037】
また、前記発光ユニットの1ユニットは、少なくとも一層の発光層を含むものであれば、単層でも複層でもよく、公知の有機EL素子の層構造とすることができる。前記発光ユニット3の具体的な層構造としては、発光層のみ、正孔輸送層/発光層、発光層/電子輸送層、正孔輸送層/発光層/電子輸送層等の構造が挙げられる。
さらに、正孔注入層、正孔輸送発光層、正孔阻止層、電子注入層、電子輸送発光層等をも含む公知の積層構造とすることもできる。
【0038】
本発明に係る有機EL素子は、マルチフォトン素子であるため、前記発光ユニットが、中間層を介して、複数個積層されている。積層される複数個の発光ユニットは、それぞれ同じ構成であっても、異なる構成であってもよい。
【0039】
前記発光ユニットの各層を構成する材料は、特に制限されるものではなく、公知のものを用いることができ、低分子系または高分子系のいずれであってもよい。
これらの各層の形成は、真空蒸着法、スパッタリング法等などの乾式法、インクジェット法、キャスティング法、ディップコート法、バーコート法、ブレードコート法、ロールコート法、グラビアコート法、フレキソ印刷法、スプレーコート法等の湿式法により行うことができる。好ましくは、真空蒸着により成膜する。
また、前記各層の膜厚は、各層同士の適応性や求められる全体の層厚さ等を考慮して、適宜状況に応じて定められるが、通常、5nm〜5μmの範囲内であることが好ましい。
【実施例】
【0040】
以下、本発明を実施例に基づきさらに具体的に説明するが、本発明は下記の実施例により制限されるものではない。
[実験1]緑色燐光素子による評価
(実施例1)
まず、パターニング済みの透明導電膜(ITO)が膜厚110nmで成膜されたガラス基板を、純水と界面活性剤による超音波洗浄、純水による流水洗浄、純水とイソプロピルアルコールの1:1混合溶液による超音波洗浄、イソプロピルアルコールによる煮沸洗浄の順で洗浄処理した。この基板を沸騰中のイソプロピルアルコールからゆっくり引き上げ、イソプロピルアルコール蒸気中で乾燥させ、最後に、紫外線オゾン洗浄を行った。
この基板を真空チャンバ内に配置し、1×10-6Torrまで真空排気し、該真空チャンバ内には、蒸着材料をそれぞれ充填した各モリブデン製ボートと、所定のパターンで成膜するための蒸着用マスクを設置しておき、前記ボートを通電加熱し、蒸着材料を蒸発させることにより、順次、下記表1の実施例1に示す層構成で、正孔輸送層、第1の発光ユニット、中間層、第2の発光ユニットの成膜を行った。
ここで、第1および第2の発光ユニットに用いられているBTPSはスルホン化合物であり、また、DPBはフェナントロリン誘導体である。
【0041】
中間層は、非アリールアミン化合物であるspiro−DPVBiと電子受容性物質である三酸化モリブデンとを共蒸着した。
その上に、アリールアミン化合物である正孔輸送性材料の下記(化3)に示す化合物(spiro−TAD)層を積層させ、引き続き、第2の発光ユニットを形成した。
【0042】
【化3】
【0043】
そして、陰極層は、真空チャンバを真空に保ったまま、マスクを交換し、陰極蒸着用のマスクを設置し、アルミニウム(Al)層を膜厚100nmで形成した。
真空チャンバを大気圧に戻し、上記により各層を蒸着させた基板を取り出し、窒素置換されたグローブボックスに移し、UV硬化樹脂を用いて、別のガラス板により封止し、2段マルチフォトン構造の緑色燐光素子を得た。
【0044】
(比較例1)
リファレンス1として、表1の比較例1に示す層構成で、マルチフォトン構造でない通常タイプの緑色燐光素子を、実施例1と同様の手順にて作製した。
【0045】
(実施例2)
表1の実施例2に示す層構成で、2段マルチフォトン構造の緑色燐光素子を、実施例1と同様の手順にて作製した。
中間層は、spiro−DPVBiと三酸化モリブデンの共蒸着層とし、spiro−TAD層との間に、spiro−DPVBiのみの層を形成し、三酸化モリブデンとアリールアミン化合物であるspiro−TADとが直接接触しない構造とした。
【0046】
(比較例2)
表1の比較例2に示す層構成で、2段マルチフォトン構造の緑色燐光素子を、実施例1と同様の手順にて作製した。
中間層は、アリールアミン化合物であるspiro−TADのみで、三酸化モリブデンとの共蒸着は行わない層を積層させた。
【0047】
下記表1に、[実験1]において作製した緑色燐光素子の各層構成を示す。
なお、表1の各数値は、各層の膜厚(nm)を示している。
【0048】
【表1】
【0049】
図2に、[実験1]における各素子の電流効率−電流密度のグラフを示す。
図2のグラフから分かるように、実施例1,2の2段マルチフォトン構造の素子は、リファレンス1(比較例1)と比較して、電流効率がほぼ2倍であることが認められた。
【0050】
図2に示したグラフにおいて、実施例1,2の2段マルチフォトン構造の素子は、電流効率が2倍を超えていることから、両素子ともマルチフォトン素子として機能することが確認された。
一方、比較例2の素子は、リファレンス1(比較例1)とほぼ同等の電流効率しか得られなかったことから、1ユニット分の発光しか得られていないと考えられる。
【0051】
以上の結果から、マルチフォトン素子の動作要件として、中間層に電子受容性物質である三酸化モリブデンの存在が必要ではあるものの、アリールアミン化合物と三酸化モリブデンの混合または接触は、必須条件ではないことが認められた。
また、表1に示したように、リファレンス1(比較例1)では、電子注入層として、電子輸送性材料であるDPBと金属錯体であるLiqの共蒸着層を形成したが、実施例1,2では、これに代えて、電子注入層としてLiF/Al層を形成した。この場合も、マルチフォトン素子として機能することが確認された。このことから、電子供与性物質の存在も、中間層を構成する必須要件ではないと推測される。
【0052】
[実験2]電荷移動錯体の形成の確認
(実施例3)
spiro−DPVBiの単体膜およびMoO3との共蒸着膜を厚さ50nmで形成し、そのUV吸収スペクトルを測定した。
図3に、これらのUV吸収スペクトルを示す。
【0053】
(実施例4)
spiro−6pの単体膜およびMoO3との共蒸着膜を厚さ50nmで形成し、そのUV吸収スペクトルを測定した。
図4に、これらのUV吸収スペクトルを示す。
【0054】
(比較例3)
α−NPDの単体膜およびMoO3との共蒸着膜を厚さ50nmで形成し、そのUV吸収スペクトルを測定した。
図5に、これらのUV吸収スペクトルを示す。
【0055】
[比較例4]
参考として、MoO3単体膜を厚さ20nmで形成し、そのUV吸収スペクトルを測定した。
図6に、このUV吸収スペクトルを示す。
【0056】
図3に示したspiro−DPVBi(実施例3)については、三酸化モリブデンを20重量%の濃度で共蒸着した素子は、波長1500nm付近に吸収ピークが見られたものの、可視領域には吸収が見られず、三酸化モリブデンの濃度を6重量%に低減した場合は、いずれの吸収も見られなかった。
図4に示したspiro−6p(実施例4)については、三酸化モリブデンの有無によるスペクトルの変動は確認されなかった。
図5に示したα−NPD(比較例3)の吸収スペクトルから、三酸化モリブデンを共蒸着することにより、波長500nm付近および1300nm付近に吸収ピークが確認された。この500nm付近の吸収ピークは、電荷移動錯体の形成に由来するものと考えられる。
以上から、マルチフォトン構造の素子の中間層に非アリールアミン化合物を適用することにより、該当波長域に発光ピークを有するデバイスにおける発光効率の向上が期待される。
【0057】
[実験3]黄色蛍光素子による評価(その1)
(比較例5)
リファレンス2として、表2の比較例5に示す層構成で、2段マルチフォトン構造の黄色蛍光素子を、実施例1と同様の手順にて作製した。
中間層は、電子輸送性材料であるDPBにリチウム錯体(Liq)を共蒸着し、この層上にアルミニウム(Al)を蒸着し、さらに、アリールアミン化合物であるα−NPDと三酸化モリブデンとを共蒸着した。
【0058】
(実施例5)
表2の実施例5に示す層構成で、2段マルチフォトン構造の黄色蛍光素子を、実施例1と同様の手順にて作製した。
【0059】
実施例5では、DPB:Liq/Al層のLiqとAlが、マルチフォトン素子において中間層として機能する。ただし、このAlは極めて薄く、薄膜を形成しておらず、Liqに作用することでLiqを活性化し、電子供与性物質として機能する。
なお、実施例5では中間層としてDPB:Liq/Al層とspiro−DPVBi:MoO3層の2層を形成したが、中間層は、単一層に限らず、このように複数層を積層して形成してもよい。
【0060】
下記表2に、実施例5および比較例5の黄色蛍光素子の各層構成を示す。
なお、表3の各数値は、各層の膜厚(nm)を示している。
また、TBADNは、下記(化4)に示す化合物である。
【0061】
【化4】
【0062】
【表2】
【0063】
(実施例6)
中間層において、共蒸着する三酸化モリブデンの濃度を20重量%から6重量%に変更し、それ以外については、実施例5と同様にして、2段マルチフォトン構造の黄色蛍光素子を作製した。
【0064】
(実施例7)
中間層およびこれに接触する層のspiro−DPVBiをspiro−6pに変更し、また、共蒸着する三酸化モリブデンの濃度を13重量%とし、それ以外については、実施例5と同様にして、2段マルチフォトン構造の黄色蛍光素子を作製した。
【0065】
図7に、実験3において作製した各素子の電流効率−電流密度のグラフを示す。
なお、図7のグラフにおいては、比較のため、実施例5および比較例5の2段マルチフォトン構造の素子に対応する1段の素子についてのデータも併せて記載した。
図7に示したグラフから分かるように、実施例5および比較例5の2段マルチフォトン構造の素子は、いずれも、それぞれの1段素子と比較して、電流効率がほぼ2倍であることが認められた。
また、spiro−DPVBiの濃度を低減した場合(実施例6)、spiro−6pを用いた場合(実施例7)も、実施例5の場合と同等以上の発光効率が得られることが認められた。
このことから、アリールアミン化合物を全く含まない素子構成であっても、マルチフォトン素子として機能することが確認された。
なお、実施例5の方が、比較例5よりも電流効率が低かったのは、選択した材料固有の特性に起因するものと思われる。
【0066】
また、図8に、電流密度500A/m2における実施例5および比較例5の各素子の寿命特性をグラフとして示す。
図8のグラフから分かるように、同一電流密度にて駆動した際、実施例5の素子は、比較例5の素子よりも長寿命であることが確認された。
【0067】
[実験4]黄色蛍光素子による評価(その2)
(実施例8)
表3の実施例8に示す層構成で、2段マルチフォトン構造の黄色蛍光素子を、実施例1と同様の手順にて作製した。
中間層においては、非アリールアミン化合物としてTBADN、電子受容性物質の金属酸化物として三酸化モリブデンを用いた。
【0068】
下記表3に、実施例8の黄色蛍光素子の層構成を比較例5(リファレンス2)と併せて示す。
なお、表3の各数値は、各層の膜厚(nm)を示している。
【0069】
【表3】
【0070】
(実施例9)
中間層およびこれに接触する層のTBADNを下記(化5)に示す化合物(DPPB)に変更し、それ以外については、実施例8と同様にして、2段マルチフォトン構造の黄色蛍光素子を作製した。
【0071】
【化5】
【0072】
(実施例10)
中間層およびこれに接触する層のTBADNを下記(化6)に示す化合物(TMBN)に変更し、それ以外については、実施例8と同様にして、2段マルチフォトン構造の黄色蛍光素子を作製した。
【0073】
【化6】
【0074】
(実施例11)
中間層およびこれに接触する層のTBADNを下記(化7)に示す化合物(TPA)に変更し、それ以外については、実施例8と同様にして、2段マルチフォトン構造の黄色蛍光素子を作製した。
【0075】
【化7】
【0076】
図9に、実験4において作製した各素子の電流効率−電流密度のグラフを示す。
なお、図9のグラフにおいては、比較のため、比較例5の2段マルチフォトン構造の素子に対応する1段の素子についてのデータも併せて記載した。
図9に示したグラフから分かるように、実施例8〜11の2段マルチフォトン構造の素子は、いずれも、比較例5の1段素子と比較して、電流効率がほぼ2倍であることが認められた。
このことから、中間層において、非アリールアミン化合物として、DPPB、TMBN、TPAを用い、また、DPB/Liq層に代えて、DPB/LiF層とした層構成においても、マルチフォトン素子として機能することが確認された。
なお、実施例8,9の方が、比較例5よりも電流効率が低かったのは、選択した材料固有の特性に起因するものと思われる。
【0077】
[実験5]黄色蛍光素子による評価(その3)
(実施例12)
表4の実施例12に示す層構成で、2段マルチフォトン構造の黄色蛍光素子を、実施例1と同様の手順にて作製した。
中間層において、非アリールアミン化合物としてspiro−DPVBi、電子受容性物質の金属酸化物として五酸化バナジウム、電子供与性物質としてLiqを用いた。
【0078】
下記表4に、実施例12の黄色蛍光素子の層構成を比較例5(リファレンス2)と併せて示す。
なお、表4の各数値は、各層の膜厚(nm)を示している。
【0079】
【表4】
【0080】
図10に、実験5において作製した各素子の電流効率−電流密度のグラフを示す。
なお、図10のグラフにおいては、比較のため、比較例5の2段マルチフォトン構造の素子に対応する1段の素子についてのデータも併せて記載した。
図10に示したグラフから分かるように、実施例12の2段マルチフォトン構造の素子は、比較例5の1段素子と比較して、電流効率がほぼ2倍であることが認められた。
このことから、中間層において、非アリールアミン化合物としてspiro−DPVBi、また、電子受容性物質の金属酸化物として五酸化バナジウム、電子供与性物質としてLiqとAlを用いた場合も、マルチフォトン素子として機能することが確認された。
【0081】
[実験6]電荷移動錯体の形成の確認
(実施例13)
実施例12の中間層の層構成、すなわち、spiro−DPVBiとLiqの共蒸着層を厚さ10nm、Alを厚さ1.5nm、spiro−DPVBiとV2O5の共蒸着層を厚さ20nmで順次積層し、そのUV吸収スペクトルを測定した。
図11に、このUV吸収スペクトルを示す。
【0082】
(比較例6)
参考として、V2O5単層膜を厚さ20nmで形成し、そのUV吸収スペクトルを測定した。
図12に、このUV吸収スペクトルを示す。
【0083】
図11に示した実施例12の中間層の層構成においては、spiro−DPVBi:Liq/Al層とspiro−DPVBi:V2O5層とが隣接しているが、可視領域には吸収が見られなかった。このことから電子受容性物質および電子供与性物質と混合または積層される有機化合物に同一材料を使用した本構成においても、電荷移動錯体が形成されていないことが確認された。
【符号の説明】
【0084】
1 基板
2 陽極層
3 陰極層
4-1,4-2,4-3,…,4-n 発光ユニット
5-1,5-2,…,5-(n−1) 中間層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に形成され、陽極層とその対向電極である陰極層との間に、少なくとも一層の発光層を含む発光ユニットが中間層を介して複数個積層されたマルチフォトン構造の有機エレクトロルミネッセンス素子であって、
前記中間層は、電子受容性物質もしくは電子供与性物質と、有機化合物との混合または積層により形成され、電荷移動錯体が形成されないことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項2】
前記中間層は、電子受容性物質と有機化合物との混合または積層により形成され、400〜800nmの波長域における光吸収係数が、前記有機化合物単体の光吸収係数と同等以下であることを特徴とする請求項1記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項3】
基板上に形成され、陽極層とその対向電極である陰極層との間に、少なくとも一層の発光層を含む発光ユニットが中間層を介して複数個積層されたマルチフォトン構造の有機エレクトロルミネッセンス素子であって、
前記中間層は、電子受容性物質と有機化合物が混合または積層された層と、電子供与性物質と前記有機化合物と同一の有機化合物が混合または積層された層により形成され、電荷移動錯体が形成されないことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項4】
電子受容性物質と混合または積層される前記有機化合物が、その分子構造に電子供与性を示す窒素原子を含まない非アリールアミン化合物であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項5】
前記非アリールアミン化合物が、スチリル化合物またはポリアリーレン化合物であることを特徴とする請求項4記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項6】
前記電子受容性物質が、金属酸化物であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項7】
前記金属酸化物が、モリブデン酸化物、バナジウム酸化物およびタングステン酸化物のうちのいずれかであることを特徴とする請求項6記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項1】
基板上に形成され、陽極層とその対向電極である陰極層との間に、少なくとも一層の発光層を含む発光ユニットが中間層を介して複数個積層されたマルチフォトン構造の有機エレクトロルミネッセンス素子であって、
前記中間層は、電子受容性物質もしくは電子供与性物質と、有機化合物との混合または積層により形成され、電荷移動錯体が形成されないことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項2】
前記中間層は、電子受容性物質と有機化合物との混合または積層により形成され、400〜800nmの波長域における光吸収係数が、前記有機化合物単体の光吸収係数と同等以下であることを特徴とする請求項1記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項3】
基板上に形成され、陽極層とその対向電極である陰極層との間に、少なくとも一層の発光層を含む発光ユニットが中間層を介して複数個積層されたマルチフォトン構造の有機エレクトロルミネッセンス素子であって、
前記中間層は、電子受容性物質と有機化合物が混合または積層された層と、電子供与性物質と前記有機化合物と同一の有機化合物が混合または積層された層により形成され、電荷移動錯体が形成されないことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項4】
電子受容性物質と混合または積層される前記有機化合物が、その分子構造に電子供与性を示す窒素原子を含まない非アリールアミン化合物であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項5】
前記非アリールアミン化合物が、スチリル化合物またはポリアリーレン化合物であることを特徴とする請求項4記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項6】
前記電子受容性物質が、金属酸化物であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項7】
前記金属酸化物が、モリブデン酸化物、バナジウム酸化物およびタングステン酸化物のうちのいずれかであることを特徴とする請求項6記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2011−34917(P2011−34917A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−182521(P2009−182521)
【出願日】平成21年8月5日(2009.8.5)
【出願人】(504265754)財団法人山形県産業技術振興機構 (60)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年8月5日(2009.8.5)
【出願人】(504265754)財団法人山形県産業技術振興機構 (60)
【Fターム(参考)】
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