説明

有機ハロゲン化合物無害化処理剤及びその製造方法並びにそれを用いた無害化処理方法

【課題】土壌、産業廃棄物、汚泥、スラッジ、排水、地下水中の有機ハロゲン化合物を短時間に分解し、有害な副生物を生成せず無害化処理できる有機ハロゲン化合物の無害化処理剤を提供する。
【解決手段】Fe、Al及びNiを必須に含んでなる処理剤、特にこれらの部分合金を必須に含んでなる有機ハロゲン化物の分解用処理剤を用いる。Al含有量は0.1〜20重量%、Ni含有量が0.01〜1重量%が好ましく、さらにAl含有量が1〜15重量%、Ni含有量が0.25〜1重量%であることが好ましい。部分合金は、メカニカルアロイ法によって得ることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機ハロゲン化物で汚染された土壌、産業廃棄物、汚泥、スラッジ、排水、地下水等の被処理物に対する無害化処理剤及びそれを用いた無害化処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、TCE(トリクロロエチレン)、PCE(テトラクロロエチレン)、ジクロロメタン、PCB(ポリ塩化ビフェニル)及びダイオキシン類等の有機ハロゲン化合物による環境汚染問題が大きな問題となっており、これら有機ハロゲン化合物により汚染された土壌、排水、地下水等に対する無害化用処理剤およびその処理方法が検討されている。
【0003】
例えば、汚染土壌、スラッジ、汚泥等の処理法において、化学的な処理として、汚染土壌、地下水、排水に、金属粉、特に卑な金属であるニッケルを含まないアルミニウム合金を添加する方法が知られている(例えば、特許文献1)。しかしその方法は分解に長時間を要するものであった。また金属鉄と金属アルミニウムの混合粉末を添加する方法が知られている(例えば、特許文献2)。しかしやはりPCEの分解性能(除去率98.1%まで)が不十分であり、基準値をクリアできないものであった。
【0004】
また鉄複合粒子として鉄−アルミニウム−硫黄(S)の微細粒子スラリ−剤を添加する方法が知られている(例えば、特許文献3)。しかしTCE水溶液の浄化に20日を要し、分解速度が不十分であった。
【0005】
さらに鉄粉またはコロイド状鉄粉にアルミニウム粉末を加えた浄化剤を添加する方法が知られている(例えば、特許文献4)。しかし、汚染土壌において浄化期間35日後においても環境基準値をクリアできず、分解速度が不十分なものであった。
【0006】
他にもアルミニウム−ニッケル合金よりなる粉末状分解剤を添加する方法が知られている(例えば、特許文献5)。しかしやはり分解に長時間を要し、分解速度が不十分であった。さらにアルミニウムを含まない鉄−ニッケル粉末を添加する方法(例えば、特許文献6)では、分解速度定数が小さく、分解能が不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−235577号公報
【特許文献2】特開2004−099832
【特許文献3】特開2006−150354
【特許文献4】特許第3688263号公報
【特許文献5】特開2002−336835
【特許文献6】特開2008−142693
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の有機ハロゲン化物の無害化処理剤は分解能が十分でなかったため、有機ハロゲン化物を高速に分解浄化でき、なおかつ環境保全の観点からNiの含有量が少ない有機ハロゲン化物を分解できる処理剤が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、有機ハロゲン化物の分解用処理剤について鋭意検討を重ねた結果、Fe、Al及びNiを含んでなる処理剤、特にFe、Al及びNiの部分合金を含んでなる処理剤では、有機ハロゲン化物の分解性能に著しく優れることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0011】
本発明の有機ハロゲン化物の分解用処理剤(以下「処理剤」という)はFe、Al及びNiを含んでなるものであり、特にこれらの部分合金を含んでなるものである。
【0012】
処理剤中のFe、Al及びNiの複数成分が部分合金化することにより局部電池作用効果が著しく増大するが、NiがFeまたはAl上に単に点在した状態(非合金化)では局部電池作用は弱くなり易い。また、これらの3成分を完全合金化(例えば熱合金化)した場合にも、有効な局部電池が形成されに難く、本発明の効果が得られ難い。
【0013】
本発明の処理剤では、Fe、Al及びNiの部分合金の存在部位としては、合金部分が鉄粒子の表面に部分的に存在することが好ましく、その全表面を占めないことが好ましい。処理剤の表面全体を合金が覆っていると、局部電池作用が起こり難く、有機ハロゲン化物の分解が起こり難い。部分合金の存在はEPMA(電子線マイクロアナライザ−)やTEM(透過型電子顕微鏡)を用いて合金層(Al、Niの拡散層)を確認することによって把握できる。
【0014】
本発明の処理剤は、Feに対しAl量が0.1〜20重量%、Ni量が0.01〜1重量%の範囲が好ましく、特にAl含有量が1〜15重量%、Ni含有量が0.25〜1重量%が好ましく、さらにAl含有量が5〜15重量%、Ni含有量が0.29〜1重量%が好ましい、さらにNi含有量が0.3〜0.9重量%が好ましい。
【0015】
Al量が0.1重量%未満では分解能が鉄単独と差が無く、また20重量%を越えるとやはり分解能(局部電池作用)が低下する。Ni量が0.01重量%未満では分解能が鉄単独と差が無く、また1重量%を越えると部分合金化が困難となりやはり分解能(局部電池作用)が低下する。
【0016】
異種金属を含む分解処理剤では、金属表面で異種金属類との間で形成される局部電池が分解性能に寄与すると考えられているが、本発明では上記の特定の組成範囲で特に優れた局部電池のマクロ構造を形成できる。
【0017】
本発明の処理剤の最も大きな部分を占めるのは鉄であるが、それに用いる鉄は特に限定されず、一般的な鉄粉を用いることができる。例えば純鉄、還元鉄粉、鋼、鋳鉄、または銑鉄等を用いることができる。これら鉄粉内に存在する鉄部分およびセメンタイト等の鉄―炭素合金部分も活性点として作用し得る。
【0018】
本発明の処理剤の粉末形状は特に限定するものではなく、球形状、樹枝状、片状、針状、角状、積層状、ロッド状、板状、海綿状等が含まれる。また本発明分解剤の比表面積は0.05m/g以上、好ましくは0.2〜10m/gでは、分解反応速度や接触確率を向上させることができる。粒径は45μm以下が50重量%未満であれば制限は無いが、平均粒径75〜150μmが望ましい。
【0019】
次に本発明の処理剤の製造方法について説明する。
【0020】
本発明の処理剤はFe、Al及びNiを混合して粉砕処理して製造することが好ましい。特にこれらの成分を部分合金化させるために機械的に粉砕処理(メカニカルアロイ法)して製造することが好ましい。
【0021】
粉砕の方法は特に限定されないが、一般的なボ−ルミル、振動ミル、アトライタ−を用いたバッチ式または連続式粉砕機を使用することができ、特に原料が合金化する程度の機械的強度の高いものが好ましい。
【0022】
例えば、振動ミルを用いる場合、Fe粉とNi粉、Al粉の混合物1重量部に対して、鋼球等の粉砕メディアを2〜10倍の仕込割合で、振動数600〜2000vpmとすることが例示できる。特に、加工時間は0.5〜5時間が好ましく、特に、Fe粉内および表面にAl及びNi成分が偏析した部分合金を得るためは1〜3時間粉砕することが好ましい。
【0023】
次に、本発明の処理剤を用いた有機ハロゲン化物の無害化処理方法を説明する。
【0024】
本発明の無害化処理方法としては、1)掘削した土壌に処理剤を添加し、ドラム型スクラバ−、改質ミキサ−、ニ−ダ−等による連続均一混合処理する方法や振動型ミキサー、バックホウ等による回分混合処理後埋め戻す方法、2)汚染土壌中に縦または横井戸を堀り、処理剤を高圧空気または高圧水で注入する原位置処理法、3)処理剤および必要に応じ分散剤、反応促進剤等と共にスラリ−状にして土壌に注入する原位置型処理方法、4)汚染地下水の周辺に処理剤を含む浄化壁を形成し浄化する方法、5)汚染地下水位置より低い部分に処理剤の層を設けた浄化ピット法等、が例示できる。
【0025】
処理剤の添加量は、浄化対象である被処理物の有機ハロゲン化物への汚染濃度等によっても変動するが、本発明の処理剤が非常に高活性であることから、少ない添加量で各有機ハロゲン化物に対応する環境基準値以下へ浄化することができる。
【0026】
本発明の処理剤は湿体土壌や地下水等の被処理物に対して0.1〜10重量%、特に均質混合性を考慮すると1〜3重量%を添加して処理することが好ましい。
【0027】
本発明ではその効果を損なわない範囲で他の添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては特に限定するものではなく、例えば、酸化防止剤、反応促進剤、分散剤、pH調整剤、脱酸素処理剤等があげられる。酸化防止剤としては亜硫酸ナトリウム、硫酸第一鉄、硫化鉄、アスコルビン酸等、反応促進剤としては塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム等、分散剤としては、活性炭素、アルミナ、ゼオライト、シリカゲル、シリカ−アルミナ、鉄粉等があげられる。
【0028】
本発明の処理剤で有機ハロゲン化物を分解処理した場合、生成する有機物は主にエチレンであり、有害な副生物の生成がない。
【発明の効果】
【0029】
本発明の処理剤は、土壌、産業廃棄物、汚泥、スラッジ、排水、地下水中の有機ハロゲン化物を高度かつ高速に分解することができ、有害な分解副生物の生成がない。
【実施例】
【0030】
次に、本発明を実施例で具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0031】
実施例では、原料鉄粉として鋳鉄粉(Fe−3.8%C、粒径100μm)、原料Ni粉として微細Ni(純度99%、粒径約4μm、インコ社T123)、原料Al粉としてアトマイズAl粉(純度99%、粒径60μm、東洋アルミニウム)、Al−5%Ni合金として福田金属箔粉工業製(粒径75μm、Ni4.94%)を用いた。
【0032】
実施例1〜5および比較例1〜4
表1に示した組成の原料1kgをクロスロ−タリ−混合器(公転28rpm、自転24rpm)で10分間混合後、5Lポットを有するアトライターミル(三井鉱山(株)製、商品名DYNAMICMILL、MA1D型)内に鋼球(SUJ2)8.0kgと一緒に仕込み、窒素気流中で2時間粉砕し、部分合金化加工して処理剤を得た。表1の組成はAlとNiの添加量を示し、残りはFe(Balance)として表記した。
【0033】
次に125mlバイアル瓶に100ppmのTCE水溶液を100ml、メタノ−ルに溶解した内標ベンゼン、処理剤1g(対水溶液1重量%)を添加後、密封し、30℃、160rpmで振とう処理した。尚、この水溶液は脱溶存酸素処理、pH調整は行っていない。
【0034】
JIS K 0125(用水、排水中の揮発性有機化合物試験方法)に基づいたヘッドスペース法を用い、上記バイアル瓶のヘッドスペース中のTCE濃度を経時的に定量分析した。またTCE濃度の経時変化から反応速度定数を求め、それからTCE濃度が環境基準値未満になる分解日数(表1中の括弧内に分解到達日数で表記)を求めた。結果を表1に示した。
【0035】
なお、実施例における分解生成物はエチレンが主成分であり、環境基準項目の有機塩素系化合物は生成していなかった。
【0036】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
Fe、Al及びNiを必須に含んでなる有機ハロゲン化物の分解用処理剤。
【請求項2】
Fe、Al及びNiの部分合金を必須に含んでなる請求項1に記載の処理剤。
【請求項3】
Al含有量が0.1〜20重量%、Ni含有量が0.01〜1重量%である請求項1又は請求項2に記載の処理剤。
【請求項4】
Al含有量が1〜15重量%、Ni含有量が0.25〜1重量%である請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の処理剤。
【請求項5】
さらにC(炭素)を含んでなる請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の処理剤。
【請求項6】
Fe、Al及びNiをメカニカルアロイ法により処理する請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の処理剤の製造方法。
【請求項7】
有機ハロゲン化合物で汚染された被処理物を請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の処理剤で処理することを特徴とする有機ハロゲン化合物で汚染された被処理物の無害化処理方法。
【請求項8】
処理剤の添加量が被処理物に対し0.1〜10重量%である請求項7に記載の有機ハロゲン化合物で汚染された被処理物の無害化処理方法。

【公開番号】特開2011−104462(P2011−104462A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−259340(P2009−259340)
【出願日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】