説明

有機ポリマー粒子の存在におけるポリマー分散液の製造

界面活性助剤なしに水相に分散可能である有機ポリマー粒子(略して有機粒子)の存在におけるモノマーの乳化重合によって得られる、50質量%より大きい固体含量を有する水性ポリマー分散液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、界面活性助剤なしに水相に分散可能である有機ポリマー粒子(略して有機粒子)の存在におけるモノマーの乳化重合によって得られる水性ポリマー分散液に関する。
【0002】
本発明はまた、この水性ポリマー分散液の、紙塗工液(Papierstreichmassen)中でのバインダーとしての使用に関する。
【0003】
多数の使用のために、殊にまた紙塗工液のために、可能な限り低い粘度で可能な限り高い固体含量を有するポリマー分散液が所望されている。
【0004】
紙塗工液は、バインダーおよび水の他に、一般的になお顔料およびさらなる助剤を含有する。
【0005】
水性紙塗工液の簡単かつ問題のない処理のために、該紙塗工液が全体で低い粘度を有することが所望されている。低い粘度は、比較的高い固体含量も可能にする。乾燥に際して取り除かれなければならい水が比較的少ないので、そのうえエネルギーコストを節約することができる。
【0006】
さらに、コーティングされた紙の適用技術的な特性、例えば機械的な負荷に対する抵抗性、殊に紙剥け強度、光学的な現れ方、例えば平滑性および光沢、および印刷適性が可能な限り良好であるべきである。
【0007】
WO02/48459から、高度に架橋されたポリエステルアミドの添加によって、その粘度が下げられる紙塗工液が公知である。
【0008】
WO2005/003186には、モノマーが樹枝状ポリマーの存在において重合される方法が記載される。固体含量は50質量%を下回る。
【0009】
本発明の課題は、可能な限り高い固体含量および低い粘度を有するポリマー分散液、ならびに低い粘度および良好な適用技術的な特性を有する紙塗工液であった。
【0010】
それに従って、上で定義されるポリマー分散液が見つかった。これらのポリマー分散液を含有する紙塗工液も見つかった。
【0011】
本発明による水性ポリマー分散液は、界面活性助剤なしに水相に分散可能である有機ポリマー粒子(略して(無機)有機粒子)の存在におけるモノマーの乳化重合によって得られる水性ポリマー分散液である。それゆえ、該モノマーから形成されたポリマーは、エマルジョンポリマーである。
【0012】
エマルジョンポリマーの組成に関して
エマルジョンポリマーは、好ましくは少なくとも40質量%、有利には少なくとも60質量%、とりわけ有利には少なくとも80質量%がいわゆる主モノマーから成る。
【0013】
該主モノマーは、C1〜C20−アルキル(メタ)アクリレート、C原子20個までを含有するカルボン酸のビニルエステル、C原子20個までを有するビニル芳香族化合物、エチレン性不飽和ニトリル、ビニルハロゲン化物、C原子1〜10個を含有するアルコールのビニルエーテル、炭素原子2〜8個および二重結合1個または2個を有する脂肪族炭化水素またはこれらのモノマーの混合物から選択されている。
【0014】
挙げることができるのは、例えば、C1〜C10−アルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル、例えばメチルメタクリレート、メチルアクリレート、n−ブチルアクリレート、エチルアクリレートおよび2−エチルヘキシルアクリレートである。
【0015】
殊に、(メタ)アクリル酸アルキルエステルの混合物も適している。
【0016】
C原子1〜20個を有するカルボン酸のビニルエステルは、例えばラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バーサチック酸ビニルエステルおよび酢酸ビニルである。
【0017】
ビニル芳香族化合物として、ビニルトルエン、α−およびp−メチルスチレン、α−ブチルスチレン、4−n−ブチルスチレン、4−n−デシルスチレンおよび好ましくはスチレンが考慮に入れられる。ニトリルの例は、アクリロニトリルおよびメタクリロニトリルである。
【0018】
ビニルハロゲン化物は、塩素、フッ素または臭素で置換されたエチレン性不飽和化合物、有利には塩化ビニルおよび塩化ビニリデンである。
【0019】
ビニルエーテルとして挙げることができるのは、例えばビニルメチルエーテルまたはビニルイソブチルエーテルである。有利とされるのは、C原子1〜4個を含有するアルコールのビニルエーテルである。
【0020】
C原子2〜8個およびオレフィン性二重結合1個または2個を有する炭化水素として、エチレン、プロピレン、ブタジエン、イソプレンおよびクロロプレンが挙げられる。
【0021】
有利な主モノマーは、C1〜C10−アルキル(メタ)アクリレートおよびアルキル(メタ)アクリレートとビニル芳香族化合物、殊にスチレンとの混合物(包括的にポリアクリレート−バインダーとも呼ばれる)または2個の二重結合を有する炭化水素、殊にブタジエン、またはこのような炭化水素とビニル芳香族化合物、殊にスチレンとの混合物(包括的にポリブタジエン−バインダーとも呼ばれる)である。
【0022】
ポリブタジエン−バインダーの場合、ブタジエン対ビニル芳香族化合物(殊にスチレン)の質量比は、例えば10:90〜90:10、好ましくは20:80〜80:20であってよい。
【0023】
それゆえ、エマルジョンポリマーは、少なくとも60質量%がブタジエンまたはブタジエンとスチレンの混合物から成るか、または少なくとも60質量%がC1〜C20−アルキル(メタ)アクリレートまたはC1〜C20−アルキル(メタ)アクリレートとスチレンの混合物から成る。
【0024】
とりわけ有利なのはポリブタジエン−バインダーである。とりわけ有利には、それゆえ、エマルジョンポリマーは、少なくとも40質量%が、有利には少なくとも60質量%が、とりわけ有利には少なくとも80質量%が、殊に少なくとも90質量%が、2個の二重結合を有する炭化水素、殊にブタジエン、またはこのような炭化水素とビニル芳香族化合物、殊にスチレンとの混合物から成る。
【0025】
主モノマーの他に、エマルジョンポリマーは、さらに別のモノマー、例えばカルボン酸基、スルホン酸基またはホスホン酸基を有するモノマーを含有してよい。有利なのはカルボン酸基である。挙げられるのは、例えばアクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸またはフマル酸およびアコニット酸である。有利な一実施態様において、エマルジョンポリマーは、殊に0.05質量%〜5質量%のエチレン性不飽和酸の含量を有する。
【0026】
さらに別のモノマーは、例えばヒドロキシル基も含有するモノマー、殊にC1〜C10−ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、またはアミド、例えば(メタ)アクリルアミドである。
【0027】
有機粒子に関して
無機ポリマー粒子または有機ポリマー粒子(略して有機粒子)は、界面活性助剤なしに水相に分散可能なものである。それに応じて、好ましくは、水中での該粒子の分散のために界面活性助剤も使用はされないが、しかし、このような助剤の併用は原則として可能である。
【0028】
殊にそれらは、水中での親水性基のそれらの含量によって分散可能である有機粒子である。
【0029】
有機ポリマー粒子として、架橋または分岐した有機合成ポリマーおよびとりわけ有利には樹枝状ポリマーが挙げられる。
【0030】
本発明の範囲内で、樹枝状ポリマーの水中での安定な分布は、原則としてポリマー粒子の分散と称される。この定義は、たとえそれぞれのポリマー粒子が単一の高分子からのみ成る場合であっても、殊に粒子構造に基づいている。
【0031】
好ましくは、架橋または分岐した有機合成ポリマーおよび/または樹枝状ポリマーは、架橋、樹枝状構造または両方によって生じる可能な限り球形の構造を持つ;さらに別の本質的な一特徴は、水中での安定な分散性を生じる、親水性基、好ましくは尿素基、ウレタン基、エステル基、エーテル基、アミド基、カーボネート基、酸基、殊にカルボン酸基、アミノ基またはヒドロキシル基の含量である;有利なのは、エーテル基、カーボネート基、酸基、殊にカルボン酸基、およびヒドロキシル基;とりわけ有利なのは、エーテル基、カーボネート基およびヒドロキシル基である。
【0032】
有機ポリマーは粒子の形で存在する;そのうえ、該有機ポリマーは架橋されており、かつ/または樹枝状構造を有する。架橋は少なくとも三価の化合物の併用によって得られ、その際、少なくとも3個の官能基、これらの官能基と反応性の少なくとも3個の基または、官能基および反応性基から選択されている少なくとも3個の基を有する化合物が考慮に入れられる。重縮合または重付加を構成するための少なくとも三価の化合物の使用はまた、樹枝状ポリマーをもたらし得る。
【0033】
本発明の範囲内で、"樹枝状ポリマー"という用語は、きわめて一般的に、分岐構造および高い官能性によって際立つポリマーを包含する。
【0034】
樹枝状ポリマーの基本的な代表物として、"デンドリマー"および"超分岐ポリマー"も挙げることができる。
【0035】
"デンドリマー"(カスケードポリマー、アルボロール(Arborole)、等方的に分岐したポリマー、イソ分岐したポリマー、スターバーストポリマー)は、高対称性構造を有する分子的に均一な高分子である。デンドリマーは構造的に星形ポリマーから誘導され、その際、個々の鎖はそれぞれ自体が星状に分岐している。デンドリマーは、小さい分子から出発して、継続的に繰り返される一連の反応によって生じ、その際、ますます高い分岐が生じ、それらの末端にはそのつど、一方でさらなる分岐のための出発点である官能基が存在する。そのため、各反応工程に伴って官能末端基の数が増大し、その際、末端では球形のツリー構造が生じる。デンドリマー特有の特徴は、その構造を得るために実施される反応工程(世代)の数である。その均一な構造に基づき、一般にデンドリマーは定義されたモル質量を有する。
【0036】
それに対して、"超分岐ポリマー(hyperbranched polymers)"は分子的にも構造的にも不均一であり、種々の長さの側鎖および側枝および分岐ならびにモル質量分布を有する。
【0037】
超分岐ポリマーの合成には、殊にいわゆるABxモノマーが適している。これらは、結合の形成下で互いに反応し得る2個の異なった官能基AおよびBを有する。その際、官能基Aは1分子当たり1個のみが含有されており、かつ官能基Bは2個以上が含有されている。上述のABxモノマーの相互反応によって、規則的に配置された分岐箇所を有する非架橋ポリマーが生じる。該ポリマーは、実際にはもっぱらB基のみを鎖末端に有する。より詳細な説明は、例えばJournal of Molecular Science,Rev.Macromol.Chem.Phys.,C37(3),555−579(1997)の中で見られる。超分岐ポリマーの一般的な定義に関して、P.J.Flory,J.Am.Chem.Soc.1952,74,2718およびH.Frey et al.,Chem.Eur.J.2000,6,Nr.14,2499も引用される。
【0038】
超分岐ポリマー、すなわち分子的および構造的に不均一なポリマーが、有利には使用される。一般に、これらはより簡単に、ひいてはより経済的にデンドリマーとして製造可能である。
【0039】
本発明の意味における"超分岐ポリマー"には、星形ポリマーも含まれる。
【0040】
"星形ポリマー"は、中心から3つ以上の鎖が出ているポリマーである。その際、中心は単独の原子または原子群であってよい。
【0041】
好ましくは、本発明により使用される樹枝状ポリマーは、樹枝状結合および末端単位の平均数からの合計を全体の結合(樹枝状、線状および末端の結合)の平均数の合計で割って100を掛けたものに相当する、10〜100%、有利には10〜90%および殊に10〜80%の分岐度(Degree of Branching,DB)を有する。"分岐度"の定義に関して、H.Frey et al.,Acta Polym.1997,48,30が指摘される。
【0042】
ポリマーとして、重縮合または重付加によって形成される(重縮合物または重付加物)ものか、またはエチレン性不飽和化合物の重合によって得られるものが適している。有利なのは重縮合物または重付加物である。その際、重縮合とは、官能性化合物と、適した反応性化合物との、低分子量の化合物、水、アルコール(殊にメチルアルコールまたはエチルアルコール)、HCl等の脱離下で繰り返される化学反応と理解される。その際、重付加とは、官能性化合物と、適した反応性化合物との、化合物の脱離が生じずに繰り返される化学反応と理解される。
【0043】
適した重付加物は、殊にポリウレタン、ポリ尿素ウレタンまたはポリ尿素であって、例えばそれらは多価イソシアネートと多価ヒドロキシ化合物および/または多価アミノ化合物との反応によって得られる。例示的に、さらにポリエーテルポリオールも挙げられ、それは殊に、例えばグリシドールまたはヒドロキシメチルオキセタンと多官能性アルコールとの開環重付加によって得ることができる。
【0044】
さらに、エーテル、アミン、エステル、カーボネートおよびアミドをベースとするポリマー、ならびにそれらの混合形、例えばエステルアミド、エーテルアミン、アミドアミン、エステルカーボネート等が適している。殊に、ポリマーとして、ポリエーテル、ポリエステル、ポリエステルアミド、ポリカーボネートまたはポリエステルカーボネートが使用され得る。
【0045】
有利な超分岐ポリマーは、エーテル、アミン、エステル、カーボネートおよびアミド、ウレタンおよび尿素ならびにそれらの混合形、例えばエステルアミド、アミドアミン、エステルカーボネート、尿素ウレタン等をベースとするものである。殊に、超分岐ポリマーとして、超分岐ポリエーテル、ポリエステル、ポリエステルアミド、ポリカーボネートまたはポリエステルカーボネートが使用され得る。そのようなポリマーおよび該ポリマーの製造法は、EP1141083、DE10211664、WO00/56802、WO03/062306、WO96/19537、WO03/54204、WO03/93343、WO05/037893、WO04/020503、DE102004026904、WO99/16810、WO05/026234およびDE102005009166の中で記載されている。
【0046】
本発明の範囲内で、ポリカーボネート、殊に樹枝状ポリカーボネートがとりわけ有利である。ポリカーボネートは、カーボネート基が繰り返されるポリマーである;ポリカーボネートは、カーボネート含有化合物と多価ヒドロキシル化合物との重縮合反応によって得られる。カーボネート含有化合物として、例えばホスゲンまたは好ましくは炭酸のエステル、例えば炭酸ジメチルまたは炭酸ジエチルが考慮に入れられる。
【0047】
多価ヒドロキシル化合物として、ヒドロキシル基2個または3個、好ましくはヒドロキシル基3個を有する脂肪族ヒドロキシル化合物が有利であり、とりわけ有利なのは、ヒドロキシル基の他になおアルコキシ基、好ましくはエトキシ基2〜20個を含有する、アルコキシル化された、好ましくはエトキシル化された化合物である。挙げられるのは、例えばトリメチロールプロパンまたはエトキシル化されたトリメチロールプロパンで、該トリメチロールプロパンのヒドロキシル基1個当たり2〜20個、殊に3〜10個のアルコキシ基もしくはエトキシ基を有する。
【0048】
有機粒子は、好ましくは150nmより小さい、とりわけ有利には100nmより小さい、および極めて有利には80nmより小さい質量平均粒径を有し;好ましくは、該質量平均粒径は0.5nmより大きく、殊に1nmより大きく、とりわけ有利には1.5nmより大きく、および殊に2nmより大きい。
【0049】
水性ポリマー分散液中での有機粒子の含量は、好ましくは0.1〜30質量部である。
【0050】
とりわけ有利には、エマルジョンポリマー100質量部当たりの有機粒子の含量は、少なくとも0.5質量部および極めて有利には少なくとも1質量部である。
【0051】
とりわけ有利には、エマルジョンポリマー100質量部当たりの有機粒子の含量は、20質量部を上回らず、および極めて有利には15質量部もしくは10質量部を上回らない。
【0052】
製造法に関して
本発明による水性ポリマー分散液の製造は、乳化重合によって行われる。
【0053】
乳化重合の場合、イオン性および/または非イオン性の乳化剤および/または保護コロイドもしくは安定化剤が、界面活性化合物として使用される。
【0054】
通常、界面活性物質は、重合されるべきモノマーに対して0.1〜10質量%の量で使用される。
【0055】
乳化重合のための水溶性開始剤は、例えばペルオキシ二硫酸のアンモニウム塩およびアルカリ金属塩、例えばペルオキソ二硫酸ナトリウム、過酸化水素または有機過酸化物、例えばt−ブチルヒドロペルオキシドである。
【0056】
いわゆる還元−酸化(レドックス)開始剤系も適している。
【0057】
開始剤の量は、重合されるべきモノマーに対して、一般的に0.1〜10質量%、有利には0.5〜5質量%である。乳化重合に際して、複数の異なった開始剤も使用され得る。
【0058】
重合に際して、調節剤が、例えば、重合されるべきモノマー100質量部に対して、0〜3質量部の量で使用され得、それによってモル質量が低下される。例えば適しているのは、チオール基を有する化合物、例えばt−ブチルメルカプタン、チオグリコール酸エチルアクリルエステル、メルカプトエチノール、メルカプトプロピルトリメトキシシランまたはt−ドデシルメルカプタンまたはチオール基を有さない調節剤、殊に、例えばテルピノールである。
【0059】
乳化重合は、一般に30〜130℃、好ましくは50〜100℃で行われる。重合媒体は、水のみから成っていても、水および水と混合可能な液体、例えばメタノールとからの混合物から成っていてもよい。好ましくは水のみが使用される。エマルジョン重合は、バッチ処理でも、段階方式または勾配方式を含めた供給法の形でも実施され得る。重合バッチの一部を装入し、重合温度に加熱し、先立って重合し、引き続き該重合バッチの残部を、通常、その1つまたは複数がモノマーを純粋な形でまたは乳化された形で含有する、複数の空間的に分離された供給流を介して、連続的に、段階的にまたは濃度勾配の重ね合わせ下で、重合の維持下で重合帯域に供給する供給法が有利である。重合の際に、例えば粒度をより良好に調整するために、ポリマーシードを装入してもよい。
【0060】
開始剤をラジカル水性乳化重合の過程で重合容器に添加する方法は、平均的な当業者に公知である。それは完全に重合容器中に装入してもよいし、ラジカル水性乳化重合の過程におけるその消費に応じて連続的または段階的に使用してもよい。これは具体的に、開始剤系の化学的性質のみならず重合温度にも依存する。好ましくは一部を装入し、かつ残部は重合帯域の消費に応じて供給する。
【0061】
個々の成分(例えばモノマーまたは開始剤)は、供給法の場合、反応器に上方から、側方で、または下方から該反応器の底部を通して添加してよい。
【0062】
残留モノマーを除去するために、通常、実際の乳化重合の終了後にも、すなわち少なくとも95%のモノマーの変換後にも開始剤を添加してよい。
【0063】
本発明により、水性ポリマー分散液は、界面活性助剤なしに水相に分散可能である有機ポリマー粒子(略して有機粒子)の存在におけるモノマーの乳化重合によって得られる。好ましくは、該有機粒子は、界面活性助剤なしに水相に分散されている。
【0064】
相応して、モノマーの乳化重合は、好ましくは有機粒子の存在において実施される。該有機粒子は、すでに乳化重合の開始前に重合バッチ中に装入してよく、または乳化重合の間に添加してよい。有機粒子の添加は、連続的に重合時間全体にわたってか、または限られた時間間隔にわたって行ってよい。有機粒子は、乳化重合の間も、1つまたは複数のバッチ中に添加してよい。
【0065】
好ましくは、乳化重合が実施される水相は、エマルジョンポリマーを形成する全てのモノマーの90質量%が重合される前に、50質量%を上回る有機粒子、とりわけ有利には70質量%を上回る、極めて有利には80質量%を上回る、および殊に90質量%を上回る有機粒子を含有する。
【0066】
該有機粒子は、とりわけ有利には重合の開始後に初めて添加され、一般的に有機粒子80〜100質量%が、エマルジョンポリマーを形成するモノマーの少なくとも50質量%がすでに重合された後に添加される。
【0067】
本発明による方法によって、高い固体含量が可能である。
【0068】
水性ポリマー分散液中でのエマルジョンポリマーおよび有機粒子の含量(固体含量)は、該水性ポリマー分散液に対して、全体で少なくとも50質量%、殊に少なくとも55質量%、有利には少なくとも58質量%、とりわけ有利には少なくとも60質量%、または65質量%でもある。出発物質(モノマーおよび有機ポリマー粒子)は、所望の高い濃度で重合され得、その際、前述のポリマー分散液の固体含量が直接得られる。
【0069】
紙塗工液に関して
水性ポリマー分散液は、バインダーとして、殊に紙塗工液中のバインダーとして適している。
【0070】
成分として、紙塗工液は、殊に
a)バインダー
b)場合により増粘剤
c)場合により蛍光色素またはリン光色素、殊に蛍光増白剤として
d)顔料
e)さらなる助剤、例えば均染剤またはそれ以外の染料
を含有する。
【0071】
バインダーとして、エマルジョンポリマーおよび有機粒子を含有する上述の水性ポリマー分散液が使用される。さらなるバインダー、例えばデンプンのような天然のポリマーも併用してよい。好ましくは、上述の水性ポリマー分散液の割合(固体、すなわちエマルジョンポリマーおよび有機粒子として、水を含まずに計算)は、バインダーの全量に対して、少なくとも50質量%、とりわけ有利には少なくとも70質量%もしくは100質量%である。
【0072】
該紙塗工液はバインダーを、好ましくは、顔料100質量部に対して、バインダー1〜50質量部、とりわけ有利には5〜20質量部の量で含有する。
【0073】
増粘剤b)として、合成ポリマーの他に、殊にセルロース、好ましくはカルボキシメチルセルロースが考慮に入れられる。
【0074】
顔料d)の用語は、ここでは無機固体と理解される。これらの固体は顔料として、紙塗工液の色(殊に白色)を調整し、かつ/または単に不活性充填剤の機能を持つだけである。顔料は、一般的に白色顔料、例えば硫酸バリウム、炭酸カルシウム、スルホアルミン酸カルシウム、カオリン、タルク、二酸化チタン、酸化亜鉛、チョークまたはコーティングクレー(Streichclay)またはシリケートである。
【0075】
紙塗工液の製造は、通常の方法に従って行われ得る。
【0076】
本発明による紙塗工液は低い粘度を有し、かつ、例えば原紙またはボール紙のコーティングに良好に適している。コーティングおよび引き続く乾燥は、通常の方法に従って行われ得る。コーティングされた紙またはボール紙は、良好な適用技術的な特性を有し、殊にそれらはまた公知の印刷法、例えばフレキソ−、凸版−、グラビア−またはオフセット印刷において良好に印刷可能である。なかでもオフセット法の場合、それらは高い紙剥け強度および素早いかつ良好なインクおよび水の受理性を生じさせる。該紙塗工液によりコーティングされた紙は、全ての印刷法、殊にオフセット印刷において使用され得る。
【0077】
実施例
概要
ブルックフィールド粘度を100rpmで測定し、かつmPa・sで記載する。
【0078】
実施例1:樹枝状ポリカーボネートの製造
ランダムに12個のエチレンオキシド単位でグラフト重合されたトリメチロールプロパン335g、ジエチルカーボネート59.1gおよび水酸化カリウム0.5gを、攪拌機、還流冷却器、および内部温度計が備え付けられた三つ口フラスコ中に装入し、混合物を140℃に加熱し、かつ3.5hこの温度で攪拌した。その際、反応時間の進行と共に、反応混合物の温度は、遊離したモノアルコールの沸騰冷却が始まるのに依存して減少した。それから還流冷却器を降下型冷却器と交換し、アルコールを留去し、かつ反応混合物の温度をゆっくりと160℃にまで高めた。留去されたアルコールの全量は約40gであった。次いで、KOHに対して85%の水性リン酸の当量を添加し、圧力を40mbarに下げ、かつ反応混合物から、140℃で10分間、窒素の導入下で揮発分を取り除いた。
【0079】
反応生成物を室温に冷却し、引き続きゲル浸透クロマトグラフィーにより分析した;溶離剤はジメチルアセトアミドであり、標準としてポリメチルメタクリレート(PMMA)を使用した。2700Daの数平均Mnおよび5600Daの質量平均Mwが明らかになった。
【0080】
濃縮されたコポリマー分散液の製造
コポリマー分散液D1(樹枝状ポリカーボネートを有する)
MIG攪拌機および3つの計量供給装置が備え付けられた6Lの加圧反応中に、室温および窒素雰囲気で、脱イオン水220gおよび33質量%のポリスチレンシード70g(粒度30nm、16質量部の乳化剤 Disponil LDPS 20を有する)およびそれぞれ4質量%の供給物1Aおよび1Bを装入した。引き続き、反応器内容物を、攪拌下(180rpm)で90℃に加熱し、かつ85℃に達した際に、7質量%の過硫酸ナトリウム水溶液66gを添加した。10分後に同時に開始する形で、供給物1Aおよび供給物1Bの全量を240分以内に、かつ供給物2を270分以内に連続的に一様な流量で計量供給した。計量供給時間全体にわたって、供給物1Aおよび供給物1Bの流量を、反応器中に取り込む前に均質化した。供給の開始180分後に、供給物1Cを20分以内に連続的に一様な流量で計量供給した。全ての供給の終了後、反応器内容物をなお90℃で1時間、後反応させた。その後、反応器内容物を室温に冷却し、かつ圧力容器を大気圧に放圧した。形成された凝塊物を、分散液から篩(メッシュ幅 100マイクロメートル)を介した濾過によって分離除去した。
【0081】
粘度(下記参照)の測定後、25質量%のアンモニア水溶液により6.5のpH値に調整し、かつ脱イオン水により56.5%の固体含量に調整した。
【0082】
供給物1A
以下からの均質な混合物
脱イオン水 1105g
15質量%の硫酸ドデシルナトリウム水溶液 61g
Dow Chemicals社のDowfax 2A1 26g(45質量%)
アクリル酸 92g
供給物1B
以下からの均質な混合物
スチレン 1426g
t−ドデシルメルカプタン 28g
ブタジエン 782g
供給物1C
実施例1からの60質量%のポリカーボネートの水溶液 383g
供給物2
7質量%の過硫酸ナトリウム水溶液 263g
得られた水性コポリマー分散液D1は、該水性分散液の全質量に対して、56.5質量%の固体含量を有していた。測定したガラス転移温度は15℃であり、かつ粒度は157nmであった。中和前/後の粘度は第1表に示している。
【0083】
比較分散液VD
MIG攪拌機および3つの計量供給装置が備え付けられた6Lの加圧反応中に、室温および窒素雰囲気で、脱イオン水220gおよび33質量%のポリスチレンシード70g(粒度30nm、16質量部の乳化剤 Disponil LDPS 20を有する)およびそれぞれ4質量%の供給物1Aおよび1Bを装入した。引き続き、反応器内容物を、攪拌下(180rpm)で90℃に加熱し、かつ85℃に達した際に、7質量%の過硫酸ナトリウム水溶液66gを添加した。10分後に同時に開始する形で、供給物1Aおよび供給物1Bの全量を240分以内に、かつ供給物2を270分以内に連続的に一様な流量で計量供給した。計量供給時間全体にわたって、供給物1Aおよび供給物1Bの流量を反応器中に取り込む少し前に均質化した。それに続けて、反応器内容物をなお90℃で1時間、後反応させた。その後、反応器内容物を室温に冷却し、かつ圧力容器を大気圧に放圧した。形成された凝固物を、分散液から篩(メッシュ幅 100マイクロメートル)を介した濾過によって分離除去した。
【0084】
粘度(下記参照)の測定後、25質量%のアンモニア水溶液により6.5のpH値に調整し、かつ脱イオン水により56.5%の固体含量に調整した。
【0085】
供給物1A
以下からの均質な混合物
脱イオン水 1093g
15質量%の硫酸ドデシルナトリウム水溶液 61g
Dow Chemicals社のDowfax 2A1 26g(45質量%)
アクリル酸 92g
供給物1B
以下からの均質な混合物
スチレン 1426g
t−ドデシルメルカプタン 28g
ブタジエン 782g
供給物2
7質量%の過硫酸ナトリウム水溶液 263g
得られた水性コポリマー分散液VDは、該水性分散液の全質量に対して、56.5質量%の固体含量を有していた。測定したガラス転移温度は13℃であり、かつ粒度は159nmであった。中和前/後の粘度は第1表に示している。
【0086】
固体含量は、定義された量のそのつどの水性コポリマー分散液(約5g)が140℃にて乾燥炉中で恒量になるまで乾燥させることによって測定した。そのつど2回の分けた測定を実施した。実施例の中で記載された値は、これらの2つの測定結果の平均値である。
【0087】
ガラス転移温度の測定は、Mettler−Toledo Int.Inc.社のDSC820装置、TA8000シリーズを用いてDIN 53765に従って行った。
【0088】
ポリマー粒子の平均粒径は、動的光散乱によって、0.005〜0.01質量%の水性ポリマー分散液に関して23℃でMalvern Instruments社(England)のAutosizer IICを用いて算出した。測定された自己相関関数の累積評価(累積z平均)の平均直径を示す(ISO規格−13321)。
【0089】
ブルックフィールド粘度は、DIN EN ISO 2555に従って、スピンドル3を用いて20および100rpm、23℃、60秒で測定した。
【0090】
pH値は、DIN ISO976に従って測定した。粘度は、pHを6.5に調整した後および前に測定した。
【0091】
【表1】

【0092】
塗工カラー製造(Steichfarbenherstellung)
顔料の水性分散液に、配合に従って、相応する量のバインダーを添加し、かつ高速攪拌機を用いて均質化した。同じように、前述のさらに別の使用物質も加工する。最後の成分として、目的に応じて、合成コバインダーまたは増粘剤を添加し、その際、所望の粘度が得られるように量を選択する。
【0093】
該粘度は、Brookfield,DIN EN ISO 2555,RTVに従って、100rpm、23℃で試験し、その際、スピンドルサイズは記載に従ってここで述べられる粘度に依存する。
【0094】
塗工カラーを10%のNaOHによりpH9に調整した。
【0095】
オフセット試験に際して、Pruefbau 印刷適性試験機(MZ II)を用いて、コーティングされた紙ストリップを短い時間間隔で繰り返し印刷する。いくらか操業した後、印刷された紙上での斑点およびシミにつながる紙剥けが生じる。結果は、最初の紙剥けが発生するまでの印刷プロセスの数として示す。
【0096】
Gradekに従う保水性は、塗工カラーがどれくらいの速さで脱水されるのかを示す。速い脱水は、コーティング装置上での操業特性が不十分であるのと同じ意味を持つ。塗工カラーは、定義された孔径(5μm、直径47mm)を有するポリカーボネート膜で下方に向かってシールされている管中に僅かな過圧(0.5bar)で存在する。これを透過する水は、濾紙に吸収する。送り出される水は少なければ少ないほど、保水性はその分だけ良好であり、かつ塗工カラーの操業特性はその分だけ良好である。水量は、g/m2で示される。
【0097】
高剪断粘度は、回転粘度計により試験する(ここではThermoHaakeの回転粘度計Rheostress 600)。低い高剪断粘度は、高い装置速度(ブレードによる高い剪断速度)での良好な操業特性と同じ意味を持ち、mPa・sで表示される。
【0098】
【表2】

【0099】
VDをベースとする塗工カラーは、高い粘度に基づき取り扱うことができなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
界面活性助剤なしに水相に分散可能である有機ポリマー粒子(略して有機粒子)の存在におけるモノマーの乳化重合によって得られる、50質量%より大きい固体含量を有する水性ポリマー分散液。
【請求項2】
得られたエマルジョンポリマーは、少なくとも40質量%が、C1〜C20アルキル(メタ)アクリレート、C原子20個までを含有するカルボン酸のビニルエステル、C原子20個までを有するビニル芳香族化合物、エチレン性不飽和ニトリル、ビニルハロゲン化物、C原子1〜10個を含有するアルコールのビニルエーテル、C原子2個〜8個および二重結合1個または2個を有する脂肪族炭化水素またはこれらのモノマーの混合物から選択される、いわゆる主モノマーから合成されていることを特徴とする、請求項1記載の水性ポリマー分散液。
【請求項3】
前記エマルジョンポリマーは、少なくとも60質量%が、ブタジエンまたはブタジエンとスチレンの混合物から合成されているか、または少なくとも60質量%が、C1〜C20アルキル(メタ)アクリレートまたはC1〜C20アルキル(メタ)アクリレートとスチレンの混合物から合成されていることを特徴とする、請求項1または2記載の水性ポリマー分散液。
【請求項4】
前記エマルジョンポリマーは、少なくとも60質量%が、ブタジエンまたはブタジエンとスチレンの混合物から成ることを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項記載の水性ポリマー分散液。
【請求項5】
前記有機粒子は、親水性基のそれらの含量によって水中で安定して分散可能であることを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項記載の水性ポリマー分散液。
【請求項6】
前記有機粒子は、架橋された合成有機ポリマーであることを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項記載の水性ポリマー分散液。
【請求項7】
前記有機粒子は樹枝状ポリマーであることを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項記載の水性ポリマー分散液。
【請求項8】
前記有機粒子は、架橋されたまたは樹枝状ポリカーボネートであることを特徴とする、請求項1から7までのいずれか1項記載の水性ポリマー分散液。
【請求項9】
前記有機粒子は、150nmより小さい質量平均粒径を有することを特徴とする、請求項1から8までのいずれか1項記載の水性ポリマー分散液。
【請求項10】
前記水性ポリマー分散液は、エマルジョンポリマー100質量部に対して、有機粒子0.1〜30質量部を含有することを特徴とする、請求項1から9までのいずれか1項記載の水性ポリマー分散液。
【請求項11】
前記ポリマー分散液は、水相が有機粒子50質量%を上回って含有し、その後に、エマルジョンポリマーを形成する全モノマーの90質量%が重合されることを特徴とする、請求項1から10までのいずれか1項記載の水性ポリマー分散液。
【請求項12】
前記ポリマー分散液は、水相が有機粒子80質量%を上回って含有し、その後に、エマルジョンポリマーを形成する全モノマーの90質量%が重合されることを特徴とする、請求項1から13までのいずれか1項記載の水性ポリマー分散液。
【請求項13】
前記水性分散液中でのエマルジョンポリマーおよび有機粒子の含量は、全体で少なくとも55質量%であることを特徴とする、請求項1から12までのいずれか1項記載の水性ポリマー分散液。
【請求項14】
前記乳化重合を、界面活性助剤なしに水相に分散している有機ポリマー粒子(略して有機粒子)の存在において実施することを特徴とする、水性ポリマー分散液の製造法。
【請求項15】
紙塗工液中でのバインダーとしての、請求項1から14までのいずれか1項記載の水性ポリマー分散液の使用。
【請求項16】
請求項1から15までのいずれか1項記載の水性ポリマー分散液を含有する紙塗工液。
【請求項17】
請求項16記載の紙塗工液によりコーティングされた紙またはボール紙。

【公表番号】特表2010−513581(P2010−513581A)
【公表日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−540746(P2009−540746)
【出願日】平成19年12月11日(2007.12.11)
【国際出願番号】PCT/EP2007/063679
【国際公開番号】WO2008/071687
【国際公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】