説明

有機光学デバイス、その製造方法、及び増幅又は狭線化した光を発する方法

【課題】本発明は、一般的な水銀ランプ等の低エネルギーの光を照射して発光し、その発光した光が増幅し、また狭線化する有機光学デバイス及びその製造方法を提供する。更に、本発明は、一般的な水銀ランプ等の低エネルギーの光を用いて発光させ、その発光を増幅し、狭線化した光として供給する方法を提供する。
【解決手段】(A)有機半導体材料の平板状結晶11と、(B)回折格子12を有して成る有機光学デバイスであって、(B)回折格子12は、(A)有機半導体材料の平板状結晶11の少なくとも一つの主平面に設けられている有機光学デバイスである。(B)回折格子12は、誘電体材料13の表面に形成されていることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(A)有機半導体材料の平板状結晶と、(B)回折格子を有して成る有機光学デバイス、その製造方法、及び増幅又は狭線化した光を発する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年有機半導体材料を用いる有機電子材料及び有機光学材料が、注目されており、種々の有機光学デバイスが開発されており、種々の分野に使用されている(例えば、非特許文献1参照)。なかでも、有機半導体材料は、例えば、有機EL材料として、薄型テレビに使用されており、その開発が注目されている。
有機EL材料は、光が入射すると発光する性質を有しているが、水銀ランプ等の低エネルギーの光を使用して発光させることができたとしても、得られる発光強度が弱いため、発光の増幅や発光線幅の狭線化は認められない。これらの有機EL材料の発光の増幅や発光線幅の狭線化を起こさせるためには、通常、発光させるために照射する光は、強エネルギーのレーザー光が必要である。
【非特許文献1】Michael D. McGehee and Alan J. Heeger, Advanced Materials, 2000, 12, No. 22, November 16, P.1655-1668
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、一般的な水銀ランプ等の低エネルギーの光を照射して発光し、その発光した光が増幅し、また狭線化する有機光学デバイス及びその製造方法を提供することを目的とする。更に、本発明は、一般的な水銀ランプ等の低エネルギーの光を用いて発光させ、その発光を増幅し、狭線化した光として供給する方法を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、鋭意検討した結果、驚くべきことに、
(A)有機半導体材料の平板状結晶の主平面の少なくとも一つに、(B)回折格子を付することによって、上記課題を解決することができることを見出して、本発明を完成するに至ったものである。ここで主平面とは、有機半導体材料の平板状結晶の一対の広い結晶面を意味する。
即ち、本発明は、一の要旨において、
(A)有機半導体材料の平板状結晶と、(B)回折格子を有して成る有機光学デバイスであって、
(B)回折格子は、(A)有機半導体材料の平板状結晶の少なくとも一つの主平面に設けられている有機光学デバイスを提供する。
本発明に係る、有機光学デバイスは、光増幅又は光狭線幅用に好ましく使用することができる。
本発明の一の態様において、(B)回折格子が、誘電体材料の表面に形成されている有機光学デバイスを提供する。
【0005】
本発明は、他の要旨において、
(1) (A)有機半導体材料の平板状結晶を準備する工程、
(2) (B)回折格子を、誘電体の表面に形成する工程、及び
(3) 誘電体表面の(B)回折格子上に、(A)有機半導体平板状結晶を配置する工程
を含んで成る有機光学デバイスの製造方法を提供する。
【0006】
本発明は、好ましい要旨において、
(i) (A)有機半導体材料の平板状結晶を準備する工程、
(ii) (A)有機半導体材料の平板状結晶の少なくとも一つの主平面に、(B)回折格子を設ける工程、及び
(iii) (A)有機半導体材料の平板状結晶に光を照射して、(A)有機半導体平板状結晶に蛍光を生じさせ、(B)回折格子が設けられた(A)有機半導体材料の平板状結晶の領域を、回折格子の回折格子波数ベクトルと垂直ではない方向に、その蛍光が通る工程を含む増幅又は狭線化(又は狭線幅化)した光を発する方法を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る有機光学デバイスは、
(A)有機半導体材料の平板状結晶と、(B)回折格子を有して成り、
(B)回折格子は、(A)有機半導体材料の平板状結晶の少なくとも一つの主平面に設けられているので、一般的な水銀ランプ等の低エネルギーの光を照射して発光させて、その発光させた光を増幅し、また狭線化することができる。
(B)回折格子を、誘電体材料の表面に形成すると、更に、有機半導体材料の発光特性を損なわないという長所がある。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明に係る有機光学デバイスは、
(A)有機半導体材料の平板状結晶と、(B)回折格子を有して成り、(B)回折格子が、(A)有機半導体材料の平板状結晶の少なくとも一つの主平面に設けられている。
本発明において、「有機半導体材料」とは、一般的に有機半導体材料と呼ばれるものであって、本発明が目的とする有機光学デバイスを得られる材料であれば特に制限されるものではない。そのような有機半導体材料として、例えば、式(I)に示す化合物:
式(I):(X)−(Y)
[ここで、
Xは、各々独立して、窒素、硫黄、酸素、セレン及びテルル等のヘテロ原子を有してよく、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基等)、ハロゲン、アルコキシル基(例えば、メトキシ基、エトキシ基等)、アルケニル基(例えば、エテニル基等)、シアノ基、フッ素化アルキル基(例えば、トリフルオロメチル基等)等の置換基を有してよい6員環であり、好ましくは、ベンゼン環、ピリジン環、ピリミジン環、ピリダジン環、p−ピリジルビニレン、ピラン、チオピラン環等であり、ベンゼン環がより好ましい。
mは、0〜20が好ましく、1〜8がより好ましい。
Yは、各々独立して、窒素、硫黄、酸素、セレン及びテルル等のヘテロ原子を有してよく、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基等)、ハロゲン、アルコキシル基(例えば、メトキシ基、エトキシ基等)、アルケニル基(例えば、エテニル基等)、シアノ基、フッ素化アルキル基(例えば、トリフルオロメチル基等)等の置換基を有してよい5員環であり、好ましくは、チオフェン環、フラン環、ピロール環、セレノフェン環であり、チオフェン環がより好ましい。
nは、0〜20が好ましく、1〜8がより好ましい。
XとYは、ブロックで結合しても、ランダムに結合しても、交互に結合してもよい。 XとYは、単結合で結合しても、二重結合で結合しても、三重結合で結合してもよい。
X同士は、縮環してもよい。
XとYは、単結合で結合し、XとYが交互に結合することが好ましい。]
を例示することができる。
【0009】
式(I)に記載した化合物において、式(II)に示す化合物:
式(II):(X)
[式(II)は、式(I)のn=0の化合物であり、X及びmは、式(I)に記載した通りであり、X同士は、縮環した、又は単結合で結合した化合物]が好ましい。
Xは、ベンゼン環であることがより好ましい。
そのような化合物として、より具体的には、テトラセン(参照:化1)、ペンタセン(参照:化2)、クアテル−フェニル(参照:化3)、キンクエ−フェニル(参照:化4)、セキシ−フェニル(参照:化5)を例示できる。
【0010】
【化1】

【0011】
【化2】

【0012】
【化3】

【0013】
【化4】

【0014】
【化5】

【0015】
式(I)に記載した化合物において、式(III)に示す化合物:
式(III):(Y)
[式(III)は、式(I)のm=0の化合物であり、Y及びnは、式(I)に記載した通りであり、Y同士は単結合で結合した化合物]が好ましい。
Yは、チオフェン環であり、チオフェン環同士は、2位と5位で結合した化合物がより好ましい。
そのような化合物として、より具体的には、クアテル−チオフェン(参照:化6)、セクシ−チオフェン(参照:化7)及びオクチ−チオフェン(参照:化8)を例示できる。
【0016】
【化6】

【0017】
【化7】

【0018】
【化8】

【0019】
式(I)に記載した化合物において、式(IV)に示す化合物:
式(IV):(X)m1−(Y)−(X)m2
[式(IV)は、式(I)において(Y)nが分子中央部にブロックとして存在し、その両側に(X)m1のブロックと(X)m2のブロックが存在し得る化合物であり、式(IV)のm1+m2は、式(I)のmであり、X、Y及びnは、式(I)に記載した通りであり、XとYは単結合で結合した化合物]が好ましい。
Yは、チオフェン環であり、チオフェン環はXと、2位及び5位で結合し、Xは置換基を有してよいベンゼン環であり、m1及びm2は、0〜2であり、n=1〜5である化合物がより好ましい。
n=1〜3の場合、m1又はm2=2であることが更により好ましく、m1=m2=2であることもより好ましい。n=4以上の場合、m1又はm2=1であることが更により好ましく、m1=m2=1であることもより好ましい。n=1〜5であることが特に好ましい。
【0020】
そのような化合物として、より具体的には、n=1の場合、BP1T(参照:化9)、BP1T−Bu(参照:化10)、BPT1−OME(参照:化11)、BP1T−CN(参照:化12)を例示することができる。
【0021】
【化9】

【0022】
【化10】

【0023】
【化11】

【0024】
【化12】

【0025】
そのような化合物として、より具体的には、n=2の場合、BC4(参照:化13)、BP2T(参照:化14)、BP2T−He(参照:化15)、BT2T−OME(参照:化16)、BP2T−CN(参照:化17)を例示することができる。
【0026】
【化13】

【0027】
【化14】

【0028】
【化15】

【0029】
【化16】

【0030】
【化17】

【0031】
そのような化合物として、より具体的には、n=3の場合、BP3T(参照:化18)を例示することができる。
【0032】
【化18】

【0033】
そのような化合物として、より具体的には、n=4の場合、BP4T(参照:化19)及びP4T−CF(参照:化20)を例示することができる。
【0034】
【化19】

【0035】
【化20】

【0036】
そのような化合物として、より具体的には、n=5の場合、P5T(参照:化21)を例示することができる。
【0037】
【化21】

【0038】
式(I)に記載した化合物において、式(V)に示す化合物:
式(V):(X)m1−(Y)n1−(X)m2−(Y)n2−(X)m3
[式(V)は、式(I)のn=2(即ち、n1=n2=1)、及び式(I)のm=m1+m2+m3であって、m2=1の化合物であり、X及びYは、式(I)に記載した通りであり、XとYは単結合で結合した化合物]が好ましい。
Yは、チオフェン環であり、チオフェン環はXと、2位及び5位で結合し、Xは各々独立して、置換基を有してよいベンゼン環であり、m1及びm3は、1又は2である化合物がより好ましく、1であることが特に好ましい。
【0039】
そのような化合物として、より具体的には、AC5(参照:化22)及びAC5−CF(参照:化23)を例示することができる。
【0040】
【化22】

【0041】
【化23】

【0042】
本発明に係る「(A)有機半導体材料の平板状結晶」とは、上述したような有機半導体材料の板状の結晶をいい、単結晶であることが好ましい。板の厚みが薄い場合、スラブ結晶ともいう。平板状結晶の厚さは、目的とする有機光学デバイスを得ることができる限り特に制限されるものではないが、0.001〜1000μmであることが好ましく、0.01〜100μmであることがより好ましく、0.1〜10μmであることが特に好ましい。平板状結晶の大きさ(又は面積)は、(B)回折格子の占める領域の面積より大きいことが好ましい。
【0043】
本発明に係る有機半導体材料の平板状結晶は、目的とする平板状結晶を得られる限り、その製造方法は限定されるものではない。そのような方法として、例えば、昇華再結晶法、液相再結晶法等の方法を例示することができる。
【0044】
本発明に係る「(B)回折格子」とは、一般的に回折格子と呼ばれるものであって、本発明が目的とする有機光学デバイスを得られるものであれば、特に制限されるものではない。回折格子の格子の長さ、回折格子の周期、回折格子の本数、回折格子の溝の深さ及び幅も、本発明が目的とする有機光学デバイスを得られるものであれば、特に制限されるものではなく、用いる有機半導体材料、照射する光の波長及び強度、照射する光の径、発光の増幅の程度、発光の狭線幅の程度等によって適宜選択することができる。一般的には、
回折格子の格子の長さは、0.1〜100000μmであることが好ましく、1〜10000μmであることがより好ましく、10〜1000μmであることが特に好ましい。
回折格子の周期は、0.01〜100μmであることが好ましく、0.03〜30μmであることがより好ましく、1.0〜10μmであることが特に好ましい。
回折格子の本数は、3〜1000000本であることが好ましく、10〜100000本であることがより好ましく、30〜10000本であることが特に好ましい。
回折格子の溝の深さは、0.001〜1000μmであることが好ましく、0.003〜30μmであることがより好ましく、0.01〜1μmであることが特に好ましい。
回折格子の溝の幅は、0.0001〜100μmであることが好ましく、0.001〜10μmであることがより好ましく、0.01〜1μmであることが特に好ましい。
【0045】
本発明に係る(B)回折格子は、一般的に、誘電体材料の平面に形成することが好ましい。
ここで誘電体材料とは、一般に誘電体と呼ばれるものであって、本発明が目的とする有機光学デバイスを得ることができるものであれば特に制限されるものではない。誘電体材料は、使用する光に対して透明であり、誘電体材料の屈折率は、有機半導体材料の屈折率より小さいことが好ましく、屈折率の差は、0.01〜10であることがより好ましく、1〜10であることが特に好ましい。
そのような誘電体材料として、例えば、石英、ソーダガラス、ポリメタクリル酸メチル、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、インジウム−スズ酸化物、ケイ素等を例示することができるが、石英、ソーダガラス、インジウム−スズ酸化物等が好ましい。
【0046】
誘電体材料の平面に、(B)回折格子を形成する方法は、本発明が目的とする有機光学デバイスを得ることができ、上述の所望の回折格子を得ることができる限り、特に制限されるものではない。そのような方法として、例えば、物理的に溝を掘る方法、化学薬品等を用いてエッチングする方法等を例示することができる。
例えば、誘電体材料が、石英基板である場合、物理的に溝を掘る方法が好ましい。
【0047】
このようにして得られた(B)回折格子を、上述の(A)有機半導体材料の平板状結晶の主平面に設けることで、本発明に係る有機光学デバイスを得ることができる。
(B)回折格子を、(A)有機半導体材料の平板状結晶の主表面に設ける方法は、本発明が目的とする有機光学デバイスを得ることができれば特に制限されるものではない。そのような方法として、例えば、(B)回折格子が形成された誘電体材料の平面上に、(A)有機半導体材料の平板状結晶を配置する方法等を例示できる。一般的には、(B)回折格子が形成された誘電体材料の平面上に、(A)有機半導体材料の平板状結晶を接触させることによって、物理的に接着し密着するが、必要に応じて、接着剤等を使用してよい。(B)回折格子が形成された有機半導体材料の平面上に、(A)有機半導体材料の平板状結晶を配置する方法は、(A)有機半導体材料の平板状結晶が、誘電体材料によって、全体的に支持されるので、好ましい。
【0048】
上述のようにして得られた有機光学デバイスに、水銀ランプ等のエネルギー光を励起光として照射して、発光した蛍光スペクトルを測定したところ、驚くべきことに、蛍光の光強度が増強され又は蛍光の線幅が狭くなった。水銀ランプ等の低エネルギーの励起光によって、このような現象が認められたことは、きわめて珍しい現象である。
従って、本発明に係る有機光学デバイスを、後述するような、一般的な水銀ランプ等の低エネルギーの光を用いて発光させ、その発光を増幅し、狭線化した光として供給する方法に使用することができる。この場合、後述する光を発する方法では、(i)及び(ii)工程を合わせて、本発明に係る有機光学デバイスを準備する工程とすることができる。この本発明に係る有機光学デバイスを準備する工程は、必要に応じてその都度、上述した製造方法に基づいて本発明に係る有機光学デバイスを製造して使用してもよいし、予め製造された有機光学デバイスを使用してもよい。
【0049】
本発明に係る増幅又は狭線化した光を発する方法では、
(i) (A)有機半導体材料の平板状結晶を準備する工程、
(ii) (A)有機半導体材料の平板状結晶の少なくとも一つの主平面に、(B)回折格子を設ける工程、及び
(iii) (A)有機半導体材料の平板状結晶に光を照射して、(A)有機半導体平板状結晶に蛍光を生じさせ、その蛍光の波数ベクトルが回折格子波数ベクトルと直交しないものを選び、かつ、(B)回折格子が設けられた(A)有機半導体材料の平板状結晶の領域を、回折格子の格子と平行ではない方向に、その蛍光が通る工程を含む。
【0050】
即ち、本発明に係る増幅又は狭線化した光を発する方法は、(i)と(ii)の工程に加えて、(iii)の工程を含む。
(iii)工程では、(A)有機半導体材料の平板状結晶に励起光を照射して、平板状結晶内に蛍光を生じさせるが、利用しようとする、有機光学デバイスから発生した蛍光の波数ベクトルの方向は、回折格子の回折格子波数ベクトルと直交しないものを選ぶ必要がある。ここで、回折格子波数ベクトルは、回折格子の溝に垂直な方向として定義される。蛍光は励起光を照射する場所から放射状に直進し、その直進方向が蛍光の波数ベクトルの方向に一致する。従って、励起光を照射する場所は、(A)有機半導体材料の平板状結晶に光を照射して生じる蛍光が、その蛍光の波数ベクトルが回折格子波数ベクトルと直交せず、かつ、(B)回折格子が設けられた(A)有機半導体材料の平板状結晶の領域を、その蛍光が通るという条件によって定まる。
このうち最も好ましい条件は、蛍光の波数ベクトルの方向と回折格子の回折格子波数ベクトルの方向とが平行である場合である。
尚、上述の配置である限り、励起光を照射する場所は、回折格子上であってもよいが、回折格子上は、散乱等の影響による光学ロスも起こりえるので、回折格子上でない平板状結晶上であることが好ましい。
【0051】
励起光の照射位置は、回折格子からの距離を適宜調節することができるが、回折格子から0.01〜10000μmの位置に照射することが好ましく、0.1〜1000μmの位置に照射することがより好ましい。
励起光は、通常、励起光として用いられるものであれば、特に限定されるものではないが、本発明においては、例えば、水銀ランプ、キセノンランプ等の低エネルギーの光であっても、使用することができる。
有機光学デバイス上に設置された有機半導体材料の平板状結晶の偏光の方向は、有機半導体材料の平板状結晶の主表面の法線方向を0度、主表面と平行な方向を90度とすると、0度に近い方向に偏光を有する。従って、本発明に係る有機光学デバイスは、0度に近い方向の偏光を有する蛍光を発生させるために有用である。また、本発明に係る方法を用いると、0度に近い方向に強い偏光を有する光を発することができる。
【0052】
本発明に係る有機光学デバイス、及び増幅又は狭線化した光を発する方法では、用いる回折格子の格子間隔を適宜変えることで、励起光に対して、増幅又は狭線化する蛍光の波長を変えることができる。
【0053】
本発明に係る有機光学デバイスは、種々の分野に使用することができる。例えば、情報デバイス分野、ディスプレー分野、生体光計測分野等を例示することができる。
また、本発明に係る増幅又は狭線化した光を発する方法は、種々の分野に使用することができるが、例えば、情報デバイス分野、ディスプレー分野、生体光計測分野等を例示することができる。
【0054】
以下、本発明を添付した図面を参照して、より具体的に説明する。但し、本発明はその要旨を逸脱しない限り以下の実施の形態に限定されるものではない。
【0055】
図1は、本発明に係る有機光学デバイスの一つの実施の形態を示す模式図である。
有機光学デバイス1は、有機発光導波路層10を含む有機半導体結晶11と、矩形型の回折格子12が表面の一部に形成された石英ガラス層13で構成されており、有機半導体結晶11は石英ガラス層13上に配置されることで、物理的に接着し、接触する。図1に示す有機光学デバイスは、下記のようにして製造した。
【0056】
実施の形態1:有機光学デバイスの製造とその発光性能の評価
石英基板上に回折格子の形成
市販の石英ガラス基板(約1cm×1cm)を、有機溶媒や洗剤(アセトン、中性洗剤、2−プロパノールをこの順番で用いた)で洗浄し、酸(96%の硫酸と31%の過酸化水素水を4対1で混ぜた混合液)で洗浄後、蒸留水で濯いで、表面を清浄にした。次に、真空蒸着装置(内部の気圧:4.0×10−3Pa以下)を用いて、アルミニウムをタングステンの電熱線で熱して気化させ、上述の清浄にした石英ガラス基板表面に、15nm程度の厚さのアルミ二ウムを蒸着した。これは、後述する集束イオンビーム装置(Focused ion beam:以下FIB装置)を用いて、ガリウムイオンを照射して石英ガラスを掘削して、回折格子を形成する際、石英ガラス基板の帯電を防止して、掘削不能となることを防ぐためである。
【0057】
アルミニウムを蒸着した石英ガラス基板を、FIB装置の試料台上にカーボンテープで固定し、試料台上の石英ガラス基板をFIB装置の真空を乱さないようにしながらFIB装置中の加工室に差し込んだ。
FIB装置の加工室を真空に保ったまま(8×10−4Pa以下)、ビーム径を20nmに設定したガリウムイオンビーム(以下「ビーム」ともいう)を出射した。50倍で観察して、石英基板上の掘削場所を決定した後、下記の掘削条件で掘削した。
FIB装置で一つの溝を掘削するための条件として、加工モードを矩形モードに、掘削長Lを40μmに、掘削幅Wを400nmに、ドーズ量を1.0nC/cmにそれぞれ設定して、石英ガラス基板上に掘削長Lが40μmの矩形型の溝を掘削した。石英基板を掘削する際に、石英基板上に蒸着したアルミニウムも一緒に掘削した。
同様の掘削条件により、同じ形状の溝を一定の間隔をおいて平行に掘削した。一つの溝の掘削開始位置から次の溝の掘削開始位置の間隔を回折格子の周期Λとすると、その値を加工画面上のピクセル数で10ピクセルとして、引き続き合計40本の溝を掘削して、石英基板上に回折格子を形成した。FIB装置による掘削後、石英ガラス基板上に残ったアルミニウムは、塩酸に浸して除去した。図2に、上述のようにして得られる回折格子12の模式図を示す。
【0058】
図3は、原子間力顕微鏡(AFM)で観察された、石英ガラス基板上の回折格子の一部の三次元イメージを示す。図4は、AFM画像に示された回折格子の格子の方向と垂直方向の断面図を示す。
原子間力顕微鏡による観察から、得られた回折格子の格子方向の長さLは、40μm、隣接する溝の周期Λは、1317nm、溝の幅Wは、370nm、溝の深さDは、88nm、回折格子の格子方向と垂直方向の長さは、52μmの矩形型の回折格子が石英ガラス基板上に形成されていることを確認した。
【0059】
有機半導体材料の昇華再結晶による平板状結晶の作製
有機発光導波路として用いる有機半導体結晶は昇華再結晶法で作製した。図5は、有機半導体材料の昇華再結晶装置を模式的に示す。図5aは、昇華再結晶装置20の全体の概略を模式的に示す。昇華再結晶装置20は、内部で有機半導体材料を昇華させて再結晶させる試験管21、有機半導体材料の劣化を防ぐために試験管21に窒素を導入する窒素ボンベ31と流量計32、試験管21内で再結晶化しなかった有機半導体材料のガスをトラップするコールドトラップ34と流動パラフィンの入ったバブラー35を含む。
図5bは、有機半導体材料を昇華再結晶化させる試験管21を、より詳細に模式的に示す。試験管21(外径25mm)は、二組のステンレスリングとシール用ゴムリングによりステンレス金具(図示せず)に固定して、その内部を高気密に保った。試験管21内に、結晶の取り出しを容易にすることを考慮して、外径22mmのガラスリング23を入れた。試験管の奥から、長さが、20mm、30mm、30mm、20mmのガラスリング23a〜23dを、計4つ入れた。
最も奥のガラスリング23aに、アルミニウム箔(図示せず)にのせた粉末状の有機半導体材料24を配置した。有機半導体材料としてBP1T(2,5−ビス(4−ビフェニルイル)チオフェン:2,5-Bis(4-biphenylyl)thiophene)を選択した。流量計32で流量を調節した窒素ガス(不活性ガス)を、ステンレス金具にゴムリングで固定した外径4mmのガラス管25を通して試験管21の最奥部に流した。この窒素ガスは、加熱することで昇華した有機半導体材料のキャリアガス26としても作用する。
【0060】
粉末状有機半導体材料24を昇華させ再結晶化させるために、ソースヒーター27と成長ヒーター28の2個のヒーターを用いた。ソースヒーター27は、試験管21の最深部のガラスリング23aと23bの一部を覆うように、試験管21に巻き付けた。成長ヒーター28は、ガラスリングの23bの一部と23cを覆うように、試験管21に巻き付けた。これによって、ソースヒーター27を巻き付けた試験管21の領域をソース領域ともいい、成長ヒーターを巻き付けた試験管21の領域を成長領域ともいう。ソース領域で加熱されて昇華した有機半導体材料24は、成長領域で結晶化して、有機半導体材料の結晶29を生ずる。ソースヒーター、および成長ヒーターの設定温度をそれぞれT1およびT2とすると、T1を310℃、T2を270℃に設定し、15時間かけて結晶を成長させた。
尚、窒素ガス26および結晶化しなかった有機半導体材料のガスは、試験管21から外に出て、有機半導体材料のガスはコールドトラップ34で取り除かれ、更に窒素ガスはバブラー35を通って、大気中へ排気される。
【0061】
有機半導体材料の平板状結晶と石英ガラス基板を貼り合わせることによる有機光学デバイスの製造
上述の昇華再結晶法で作製した多数の有機半導体結晶29から適切な平板状結晶11を一つ選び出した。石英ガラス基板13の回折格子12を覆うように、有機半導体材料の結晶11がたわまないように注意して、有機半導体材料平板状結晶11を、石英ガラス基板13上に配置することで物理的に接触させた。その結果、有機半導体材料の平板状結晶11は、石英ガラス基板に接着し、貼り付き、有機光学デバイス1が製造された。
図6は、このようにして製造された有機光学デバイスの一例の顕微鏡写真を示す。倍率は、対物レンズが50倍、接眼レンズが10倍である。図6の写真は、有機光学材料1の平板状結晶11の平面と垂直方向から撮影されたものである。写真左下に見える矩形の領域が、石英ガラス基板13上に形成された回折格子12の領域であり、平板状結晶11を透けて見えている。
【0062】
有機光学デバイスの発光測定
図7は、蛍光顕微鏡を用いる発光測定装置40を模式的に示す。有機半導体結晶材料の平板状結晶11を貼り付けた、回折格子12が形成された石英基板13(即ち、有機光学デバイス1)を蛍光顕微鏡の試料台(図示せず)上に設置した。
蛍光顕微鏡41(Nikon製のEclipse LV100POL 型)には、水銀ランプ42が光源として設けられた。水銀ランプの光から、フィールドストップ43とフィルター44を通過して、紫外光(波長330〜380nm)が取り出された。取り出された紫外光は、鏡45で反射して、蛍光顕微鏡41の対物レンズを通って、図7に示すように、有機光学デバイス1の平面(平板状結晶面)に垂直な方向から照射した。尚、このとき、水銀ランプから取り出した紫外光の照射領域を、顕微鏡に設置されている絞りで制限し、50倍の対物レンズを通して有機光学デバイス1に照射した。これは、有機光学デバイス1の特定の領域(例えば、石英ガラス基板上に形成した回折格子の領域と同等の広さを有する領域)のみに上記紫外光を照射するためである。尚、顕微鏡に設置されている絞りの形状は、六角形であるので、紫外線の照射領域の形状は、六角形となる。
【0063】
有機光学デバイス1の平板状結晶11の結晶面に平行な方向であって、かつ回折格子12の回折格子波数ベクトルと平行な方向に回折格子の領域を中心として平板状結晶の端面から出射される発光46は、シャープカットフィルター47(420nm)を通り、更に光ファイバー48に導かれて、検出器49(46フォトニック・マルチチャネル・アナライザー:以下「PMA」ともいう)で観測した。シャープカットフィルター47を、有機光学デバイス1と検出器49の間に設置して、水銀ランプ42から取り出された紫外光が、平板状結晶11で散乱して、検出器49に入り、測定を乱すことを防止した。検出器49は、水銀ランプ42の有機光学デバイス1に対する照射位置と有機光学デバイス1の位置を固定したときに、平板状結晶11の端面から出てくる光46の強度を最も強く検出できる位置に設置した。
【0064】
上述した平均の回折格子の周期Λが1317nmである回折格子12を備える有機光学デバイス1に、水銀ランプ42からの紫外光を照射して発光させ、結晶の端面から出射されるその発光を観測した。図8の1〜6は、有機光学デバイス1に上述の紫外線を照射した際の蛍光顕微鏡写真を示す。図8の1では、中央に見える六角形の形状をしている箇所に、紫外光が照射されている。紫外光は、上述したように顕微鏡41の六角形の形状の絞りで照射領域が絞られているので、紫外光の照射領域は、六角形をしている。この六角形の領域の右に、長方形の回折格子12(点線で囲まれている)が見える。図9に、この回折格子12を拡大した蛍光顕微鏡写真を示す。シャープカットフィルター47及び検知器49等は、図8の1の写真に向かって左側、即ち、六角形の紫外光照射領域に対して回折格子12の反対側に配置されている。検出器49は、回折格子の回折格子ベクトルに対し並行で、かつ有機光学デバイス1の平板状結晶11の平面に平行となる位置に設置した。従って、図8の1では、回折格子12が貼り付けられていない有機半導体材料の結晶11内を進んだ発光のみが、検知器49で検知される。
【0065】
有機光学材料1の発光の測定は、水銀ランプ42からの紫外光の有機光学デバイス1に対する照射位置を、検出器と回折格子の中心を結ぶ直線上で、回折格子の手前の検出器により近い位置から、回折格子の領域を通って、回折格子を挟んで検出器と反対側の位置まで移動させながら行った(図8の1〜6)。
即ち、図8の1から図8の6へと、徐々に、有機光学デバイス1を写真の画面に向かって右から左へと移動させて、有機光学デバイス1の発光を検知器49で測定した。図8の2では、回折格子12の約左側半分に紫外光が照射されており、図8の3では、回折格子12の全面に紫外光が照射されており、図8の4では、回折格子12の右側約半分に紫外光が照射されており、図8の5では、回折格子12に、もはや紫外光は照射されず、図8の6では、更に、回折格子12と紫外光照射領域の間隔が広がっている。
この測定の間、有機光学デバイス1の回折格子12に対する紫外光の照射位置を除き、その他の検出器や励起光強度などの測定条件は一定である。
尚、回折格子12の格子の方向は、図8の1〜6の画面と平行かつ上下方向であるから(図9も参照)、図8の2から図8の5へと測定が進むとともに、有機光学デバイス1の発光は、回折格子12に貼り付けられた結晶の領域10を、より長く通る。
【0066】
観察された発光の測定結果を図10に示す。図10の1〜6は、図8の1〜6の位置に、紫外線を照射したときに観察された蛍光スペクトルを示す。図10の1〜6では、スペクトルを少しずつずらして表示しているので、ピークの位置は、図10に表示しているほどずれてはいない。
図8の1の位置(回折格子から見て検出器に一番近い側)に紫外光を照射した場合、図10の1に示すように、広い波長域にわたるブロードなスペクトルが観測された。図8の2の位置に紫外光を照射した場合、図10の2に示すように、462nm、468nm、517nm付近に新たなピークが観測された。図8の3の位置(回折格子の真上)に光を照射した場合、図10の3に示すように、463nm、468nm、519nmに急激に強度が増加した鋭いピークが観測された。図8の4の位置に紫外光を照射した場合、図10の4に示すように、図8の3の位置を照射したときに現れた鋭いピークの強度がさらに顕著に増大した。図8の5及び図8の6の位置に紫外光を照射した場合、図10の5及び6に各々示すように、上述の鋭いピークの強度がさらに顕著に増大した。上述の観察されたピーク波長の変化を表1に示した。
【0067】
【表1】

【0068】
以上のように本発明の有機光学デバイスでは、従来の有機半導体結晶薄膜から出る蛍光発光のブロードなピークに比べ、狭線化した(即ち、発光スペクトルの波長幅が著しく狭くなった)発光ピークを観測できた。また光照射位置を図8の4から図8の6まで移動させることで、図10に示すように、顕著な光増幅(即ち、発光スペクトル強度の増大)が観測された。
【0069】
実施の形態2:有機光学デバイスの発光の偏光方向の評価
水銀ランプ42から有機光学デバイス1に対する紫外線の照射位置、回折格子12及び検出器49の配置を、「実施の形態1」の図8の6の照射位置及び配置と同様に設定した。有機光学デバイス1の平板状結晶11に貼り付けられた回折格子12と検出器49の間にある平板状結晶11の端面から検出器49へ放射される発光46を、平板状結晶11の端面と検出器の49間に偏光板(図示せず)を設置して観測して、有機光学デバイス1からの発光の偏光特性を評価した。図11は、上述の実施の形態2の有機光学デバイス1に対する紫外光の照射位置を示す蛍光顕微鏡写真である。紫外光の照射位置と検出器49の間に、回折格子12と接する平板状結晶11の領域10が存在する。
偏光板の偏光方向は、有機光学デバイス1の平面(即ち、回折格子12の面)の法線方向を0度、回折格子の溝と平行な方向を90度とした。そして、0度、30度、60度、90度の偏光方向について、有機光学デバイス1からの発光の偏光特性を調べた。
【0070】
図12は、有機デバイス1からの発光の各偏光方向の発光スペクトルを示す。偏光板の偏光方向が0度の場合の発光スペクトルが一番鋭く、また発光強度も一番強い。偏光方向が30度、60度、90度と大きくなるとともに、発光強度が著しく小さくなり、かつ、発光スペクトルの鋭さは失われる。
以上から本発明に係る有機光学デバイス1からの発光は、有機光学デバイス1の平板状結晶の主平面の法線方向に顕著に偏光している。従って、本発明に係る有機光学デバイス1からの発光は、有機光学デバイス1の平板状結晶の面の法線方向に、より強い偏光を有する光として利用できることがわかった。これは、有機光学デバイス1の有機半導体結晶11の偏光特性を反映しており、更に、その効果が増強されたからであると考えられる。
【0071】
実施の形態3
水銀ランプ42からの紫外線の照射位置、回折格子12及び検出器49の配置を、「実施の形態1」の図8の6と同様に設定して、有機光学デバイス1の平板状結晶11に貼り付けられた回折格子12と検出器49の間にある平板状結晶11の端面から、検出器49へ放射される発光46を測定した。図13は、実施の形態3の上述の有機光学デバイス1に対する紫外光の照射位置を示す蛍光顕微鏡写真である。紫外光の照射位置と検出器49の間に、回折格子12と接する平板状結晶11の領域10が存在する。「実施の形態1」と同じ水銀ランプ42から照射される紫外光の光強度を100%として、その強度に対し50%、25%、12.5%に強度を減少させた紫外光を有機光学デバイス1に照射した。より具体的には、図7の発光測定装置40の水銀ランプ42とフィールドストップ43の間に、適切なNDフィルター(図示せず)を配置することによって、紫外光の強度を減少させて、有機光学デバイス1からの発光スペクトルを測定した。
【0072】
図14は、上述の実施の形態3の有機光学デバイス1に照射する紫外線の強度が、100%、50%、25%及び12.5%である場合の発光スペクトルを示す。紫外線の強度が100%のときに、発光のピークが観察された波長(約468nm)における蛍光強度を100%とすると、紫外光の強度が50%のときの発光強度は38.6%、紫外光の強度が25%のときの発光強度は15.9%、紫外光の強度が12.5%のときは8.7%であった。
【0073】
有機光学デバイス1に照射する紫外線の強度が強いほど、発光によって得られる蛍光強度が大きい。従って、本発明に係る有機光学デバイス1によって効率的に光増強を行うためには、照射する紫外線の強度を高めることが有用であることがわかった。これは、後述するように本発明の有機光学デバイス1の回折格子12による発光の閉じ込め効果が光強度の増大とともに効果的に働くからであると考えられるが、このような理由によって、本発明は何ら制限されるものではない。
【0074】
実施の形態4:別の有機光学デバイス(回折格子の格子周期の変更)の製造とその発光性能の評価
有機光学デバイス1の製造
格子間隔を1038nmに変更したことを除いて、上述した実施の形態1と同様の方法を用いて、別の有機光学デバイス1を製造した。即ち、別の石英ガラス基板13に、格子間隔が1038nmの回折格子12を形成した。上述した昇華再結晶法で作製した有機半導体平板状結晶11を回折格子12上に配置して物理的に貼りつけて、実施の形態1とは別の有機光学デバイス1を製造した。有機半導体結晶11を貼り付けた石英ガラス基板13を3℃(冷蔵庫の温度)に冷却し、その後室温に戻すことで有機半導体結晶11を石英ガラス基板13に、よりしっかりと密着させて、有機半導体結晶11と石英ガラス基板13の間の接着性を高めた。実施の形態1と同様に、有機半導体材料の平板状結晶として、BP1Tを使用した。
「実施の形態1」と同様の方法を用いて、水銀ランプ42の紫外光の照射位置を、検出器49と回折格子12が貼り付けられた平板状結晶10の領域を結ぶ直線上を移動させて、有機光学デバイス1の発光性能を測定した。その結果を、図15の1〜5に示した。ここで、図15の1〜5の紫外線の有機光学デバイスに対する照射位置は、図8の1〜5の紫外線の照射位置とおよそ対応する。(厳密には、図8の1に図15の2が、図8の3に図15の3が、図8の5に図15の4が対応する。)(検出器が有機光学デバイスの左側にある場合、図15の1では、回折格子12の左側の離れた位置に紫外線が照射され、図15の2では、回折格子12の左側に紫外線が照射され、図15の3では、回折格子12の全面に紫外線が照射され、図15の4では、回折格子12の右側に紫外線が照射され、もはや紫外線は回折格子には照射されず、図15の5では、更に回折格子12と紫外線が照射されている領域の間隔が広がっている。)
【0075】
図15の1の位置に紫外光を照射した場合、広い波長域にわたるブロードなスペクトルが観測された。図15の2の位置に紫外光を照射した場合も同様である。図15の3の位置に紫外光を照射した場合、492nm付近に鋭いピークが観測された。図15の4の位置に紫外光を照射した場合、492nm及び497nm付近に鋭いピークが観測され、強度も増大した。図15の5の位置に紫外光を照射した場合、図15の4の位置のスペクトルと同様に、鋭いピークが同じ波長で観測され、ピークはより鋭く高くなった。
【0076】
実施の形態1の有機光学デバイスの発光ピークの波長は、約464nmと約468nmであった。これに対し実施の形態2の有機光学デバイスの発光ピークの波長は、約492nmと約497nmであったので、本発明の有機光学デバイスは、回折格子の格子周期を変更することで、種々の狭線化した発光ピークの波長を得られることがわかった。すなわち、本発明では種々の狭線化した発光ピーク波長を有する有機光学デバイスを容易に製造することができる。
【0077】
尚、格子周期と発振波長(即ち、スペクトルが狭線化する上記波長)との間の関係式として下記式の関係が知られている:
Λ=pλ/2n
[(Λ:格子周期、λ:発振波長、n:実効屈折率、p:回折次数(自然数))]。
上記式に係る回折格子の周期として1038nm、発振波長として492nmと497nmの中間の495nmを採用し、有機半導体材料であるBP1T結晶の波長490nm付近の屈折率4.53(モード解析を用いて測定した値)を代入すると、回折次数として19がえられた。
【0078】
実施の形態5:発光に対する回折格子の格子方向の影響
図16に、発光が回折格子12の格子方向に平板状結晶の領域10を通る場合の蛍光スペクトルを示す。実施の形態1で製造した格子周期が1317nmである回折格子12を有する有機光学デバイス1を用いて、図16aの3及び5に示すように検出器49が回折格子12の溝の方向と平行方向(主平面内で回折格子ベクトルと垂直)になるように、有機光学デバイス1を配置した以外は、「実施の形態1」と同様の方法を用いて、回折格子12と検出器49を結んだ線上にある平板状結晶11の端面からの発光46を観測した。
【0079】
図16bに、観察されたスペクトルを示す。図16bの3は、有機光学デバイス1の回折格子12と接する平板状結晶の領域10に紫外光を照射した場合の結果を示す。図16bの5は、有機光学デバイス1の回折格子12に対して検出器49と反対側の平板状結晶の領域11に紫外光を照射した場合の結果を示す。いずれも波長域の広いブロードなスペクトルが観測されたが、狭線化した発光ピークは観測されなかった。
【0080】
従って、回折格子12の溝と平行方向に検出器49を配置した場合、有機光学デバイス1による、鋭い発光ピークは観察されなかった。発光が回折格子12に接する平板状結晶10を通過する方向は、少なくとも溝と平行な方向ではない(主平面内で回折格子波数ベクトルと直角ではない)ほうがよいことがわかった。
【0081】
本発明は、上述したような優れた効果を奏するものであるが、それは以下のような動作原理によるものと考えられる。
図1を参照して、本発明に係る有機光学デバイス1の動作原理について説明する。
有機発光導波路層10に沿って石英ガラス層13に矩形型の回折格子12が備わっている。この回折格子12の周期的な構造変化は周期的な屈折率の変化と等価で、有機発光導波路層10を導波する光(導波光)に作用し、導波光の一部を反射する。反射された導波光と、反射されていない導波光が結合する。
その結果、有機発光導波路層10の回折格子12の直上において、有機発光導波路層10内を導波する光の半波長の整数倍が回折格子の屈折率変化の空間周期に一致する場合、回折格子12の直上の有機半導体結晶11あるいは回折格子12の光の閉じ込め作用によりその光が増幅されると考えられる。回折格子の周期と発振波長(スペクトルが狭線化する波長)との間の関係は、上述したように、式:Λ=pλ/2nで示される。ここで、Λは格子周期、λは発振波長、nは実効屈折率、pは回折次数(自然数)である。
これをさらに図を用いて説明する。
【0082】
図17は、回折格子上に励起光を照射する場合を示す。点線で囲まれた領域は、回折格子が設けられた有機半導体材料の平板状結晶10の領域(「回折格子領域」ともいう)を示す。また、回折格子波数ベクトルVは、回折格子の溝に垂直な方向に示される。(回折格子波数ベクトルVは、平板状結晶11に平行な方向でもある。)例えば、P1にて発生した蛍光は、回折格子の端部の最も外側に位置する一対の溝G1及びG2にて、数回反射し、増幅・狭線化され、光線101として、有機光学デバイスから出て行き、利用される。
図18及び19は、回折格子上以外の箇所に励起光を照射する場合を示す。いずれも、励起光の照射箇所P2及びP3と、発生し増幅・狭線化された光線201及び301を光学デバイスから取り出す箇所が、回折格子を挟んで互いに反対側にある。図19では、光線301は波数ベクトルVに平行であり、回折格子領域内部(点線で囲まれた領域)では重なるので、見やすくするため、離して記載している。図19の場合、励起光を照射する箇所P3と、光学デバイスから発生した蛍光を取り出す箇所の位置関係として、最も有利である。
【0083】
図20も回折格子上以外の箇所に励起光を照射する場合を示す。P4から発生した蛍光は、G1を通過せず、回折格子波数ベクトルVに相当斜めの方向から、回折格子領域を進行する。このような図20に示す場合であっても、蛍光を有効に利用することができる。
尚、図17〜20において、蛍光が回折格子領域内部で反射される場合、反射される前の光の波数ベクトルと反射光の波数ベクトルは、回折格子波数ベクトルVに対して線対称である。従って、偶数回の反射を生じた場合、波数ベクトルは保存させる。更に、回折格子領域に入射する蛍光は、回折格子を構成するそれぞれの溝の両側面の有機半導体材料の平板状結晶又は誘電体材料でも反射されるが、図ではこれらは省略しており、溝G1及びG2での反射のみを示す。
【0084】
図18〜図20に示すように、照射箇所が回折格子領域の外部にある場合、照射箇所と回折格子領域との最短距離は、1000μmであることが好ましい。照射箇所が広がりを有する場合、照射箇所の集合として考えて、この条件が当てはまる。これは、励起状態(励起子)は、照射箇所から失活しないで、この上記最短距離を拡散して、回折格子領域に到達して誘導放射を受け、光の増幅・狭線化に寄与することができるからである。
本発明は、上述のような動作原理に基づくものと考えられるが、このような動作原理によって、本発明は、何ら制限を受けるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明は、有機光学デバイス、その製造方法、及び光増強又は光狭線化方法を提供する。本発明は、特に、水銀ランプ等の低エネルギーで、必ずしも単波長ではないブロードな励起光を用いて、明瞭なピークを有する発光を得るために有用である。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】図1は、本発明に係る有機光学デバイスの一つの実施の形態を示す模式図である。
【図2】図2は、回折格子の模式図を示す。
【図3】図3は、原子間力顕微鏡(AFM)で観察された、石英ガラス基板上の回折格子の一部の三次元イメージを示す。
【図4】図4は、AFM画像に示された回折格子の格子の方向と垂直方向の断面図を示す。
【図5】図5は、有機半導体材料の昇華再結晶装置を模式的に示す。図5aは、昇華再結晶装置20の全体の概略を模式的に示す。図5bは、有機半導体材料を昇華再結晶化させる試験管21を、より詳細に模式的に示す。
【図6】図6は、有機光学デバイスの一例の顕微鏡写真を示す。
【図7】図7は、蛍光顕微鏡を用いる発光測定装置40を模式的に示す。
【図8】図8の1〜6は、有機光学デバイスに紫外線を照射した際の蛍光顕微鏡写真を示す。
【図9】図9は、図8に見える回折格子12を拡大した蛍光顕微鏡写真を示す。
【図10】図10は、図8の1〜6の位置に紫外線を照射した場合に観察される、各々の蛍光スペクトルを示す。
【図11】図11は、実施の形態2の有機光学デバイスに対する紫外光の照射位置を示す蛍光顕微鏡写真である。
【図12】図12は、実施の形態2の有機デバイスからの発光の各偏光方向の発光スペクトルを示す。
【図13】図13は、実施の形態3の有機光学デバイスに対する紫外光の照射位置を示す蛍光顕微鏡写真である。
【図14】図14は、有機光学デバイスに照射する紫外線の強度が、100%、50%、25%及び12.5%である場合の発光スペクトルを示す。
【図15】図15は、格子間隔を変更した別の有機光学デバイスに対して紫外線を照射して、観察された蛍光スペクトルを示す。
【図16】図16は、発光が回折格子12の格子方向に領域10を通る場合の蛍光スペクトルを示す。図16aの3及び5は、検出器49が回折格子12の溝の方向と平行方向になるような、有機光学デバイス1の配置を示す。図16bは、図16の3及び5の配置によって観察されたスペクトルを示す。
【図17】図17は、励起光を照射する箇所が、回折格子12上である場合に、発生した蛍光が進行する様子を模式的に示す。
【図18】図18は、回折格子上以外の箇所に励起光を照射し、励起光の照射箇所P2と、発生し増幅・狭線化された光線201を光学デバイスから取り出す箇所が、回折格子を挟んで互いに反対側にある場合、光線201が進行する様子を模式的に示す。
【図19】図19は、回折格子上以外の箇所に励起光を照射し、励起光の照射箇所P3と、発生し増幅・狭線化された光線301を光学デバイスから取り出す箇所が、回折格子を挟んで互いに反対側にある場合、光線301回折格子ベクトルVに平行に進行する様子を模式的に示す。
【図20】図20は、回折格子上以外の箇所に励起光を照射する場合、P4から発生した蛍光は、G1を通過せず、回折格子波数ベクトルVに相当斜めの方向から、回折格子領域を進行する様子を模式的に示す。
【符号の説明】
【0087】
1 有機光学デバイス、
10 有機発光導波路層、
11 有機半導体結晶、
12 回折格子、
13 石英ガラス層、
20 昇華再結晶装置、
21 試験管、
23 ガラスリング、 23a〜d ガラスリング、
24 粉末状有機半導体材料、
25 ガラス管、
26 窒素ガス、
31 窒素ボンベ、
32 流量計、
34 コールドトラップ、
35 バブラー、
40 発光測定装置、
41 蛍光顕微鏡、
42 水銀ランプ、
43 フィールドストップ、
44 フィルター、
45 鏡、
46 発光(又は蛍光)、
47 シャープカットフィルター、
48 光ファイバー、
49 検出器、
101 光線
201 光線
301 光線
401 光線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)有機半導体材料の平板状結晶と、(B)回折格子を有して成る有機光学デバイスであって、
(B)回折格子は、(A)有機半導体材料の平板状結晶の少なくとも一つの主平面に設けられている有機光学デバイス。
【請求項2】
(B)回折格子は、誘電体材料の表面に形成されている請求項1に記載の有機光学デバイス。
【請求項3】
光増幅又は光狭線幅用の請求項1又は2に記載の有機光学デバイス。
【請求項4】
(1) (A)有機半導体材料の平板状結晶を準備する工程、
(2) (B)回折格子を、誘電体の表面に形成する工程、及び
(3) 誘電体表面の(B)回折格子上に、(A)有機半導体平板状結晶を配置する工程
を含んで成る有機光学デバイスの製造方法。
【請求項5】
(i) (A)有機半導体材料の平板状結晶を準備する工程、
(ii) (A)有機半導体材料の平板状結晶の少なくとも一つの主平面に、(B)回折格子を設ける工程、及び
(iii) (A)有機半導体材料の平板状結晶に光を照射して、(A)有機半導体平板状結晶に蛍光を生じさせ、(B)回折格子が設けられた(A)有機半導体材料の平板状結晶の領域を、回折格子の回折格子波数ベクトルと垂直ではない方向に、その蛍光が通る工程を含む増幅又は狭線化した光を発する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2010−15874(P2010−15874A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−175782(P2008−175782)
【出願日】平成20年7月4日(2008.7.4)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行者:国立大学法人京都工芸繊維大学 刊行物:平成19年度研究発表会要旨集 発行年月日:平成20年2月14日
【出願人】(504255685)国立大学法人京都工芸繊維大学 (203)
【Fターム(参考)】