説明

有機性排水の生物処理方法

【課題】微小動物の捕食作用を利用した多段活性汚泥法において、安定した処理水質を維持した上でより一層の処理効率の向上と余剰汚泥発生量の低減を図る。
【解決手段】有機性排水を、第1生物処理槽1に導入し、BODを酸化分解する。第1生物処理槽1の処理水を、第2生物処理槽2に導入し、残存している有機成分の酸化分解、非凝集性細菌の自己分解及び微小動物による捕食による汚泥の減量化を行う。第2生物処理槽2の処理水を沈殿槽3で固液分離し、第2生物処理槽の汚泥滞留時間が5〜40日となるように、1日当たり、第2生物処理槽内の汚泥の1/5〜1/40を引き抜く。このように第2生物処理槽内の汚泥の所定量を引き抜いて、第2生物処理槽内に存在する微小動物や糞を間引くことにより産卵可能状態の微小動物を第2生物処理槽内に常に比較的高い割合で一定量維持することができるようになる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生活排水、下水、食品工場やパルプ工場をはじめとした広い濃度範囲の有機性排水の処理に利用することができる有機性排水の生物処理方法に関するものであり、特に、処理水質を悪化させることなく、処理効率を向上させ、かつ、余剰汚泥発生量の低減が可能な有機性排水の生物処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機性排水を生物処理する場合に用いられる活性汚泥法は、処理水質が良好で、メンテナンスが容易であるなどの利点から、下水処理や産業廃水処理等に広く用いられている。しかしながら、活性汚泥法におけるBOD容積負荷は0.5〜0.8kg/m/d程度であるため、広い敷地面積が必要となる。また、分解したBODの20%が菌体、即ち汚泥へと変換されるため、大量の余剰汚泥処理も問題となる。
【0003】
有機性排水の高負荷処理に関しては、担体を添加した流動床法が知られている。この方法を用いた場合、3kg/m/d以上のBOD容積負荷で運転することが可能となる。しかしながら、この方法では発生汚泥量は分解したBODの30%程度で、通常の活性汚泥法より高くなることが欠点となっている。
【0004】
特開昭55−20649号公報では、有機性排水をまず第1処理槽で細菌処理して、排水に含まれる有機物を酸化分解し、非凝集性の細菌の菌体に変換した後、第2処理槽で固着性原生動物に捕食除去させることにより、余剰汚泥の減量化が可能になるとしている。更に、この方法では高負荷運転が可能となり、活性汚泥法の処理効率も向上する。
【0005】
このように細菌の高位に位置する原生動物や後生動物の捕食を利用した廃水処理方法は、多数考案されている。例えば、特開2000−210692号公報では、特開昭55−20649号公報の処理方法で問題となる原水の水質変動による処理性能悪化の対策を提案している。具体的な方法としては、「被処理水のBOD変動を平均濃度の中央値から50%以内に調整する」、「第一処理槽内及び第一処理水の水質を経時的に測定する」、「第一処理水の水質悪化時には微生物製剤又は種汚泥を第一処理槽に添加する」等の方法を挙げている。
【0006】
特公昭60−23832号公報では、細菌、酵母、放線菌、藻類、カビ類、廃水処理の初沈汚泥、余剰汚泥等を原生動物や後生動物に捕食させる際に、超音波処理又は機械撹拌により、上記の餌のフロックサイズを動物の口より小さくさせる方法を提案している。
【0007】
また、流動床と活性汚泥法の多段処理に関する技術が特許第3410699号公報に提案されている。この方法では後段の活性汚泥処理をBOD汚泥負荷0.1kg−BOD/kg−MLSS/dの低負荷で運転することにより、汚泥を自己酸化させ、汚泥引き抜き量を大幅に低減できるとしている。
【特許文献1】特開昭55−20649号公報
【特許文献2】特開2000−210692号公報
【特許文献3】特公昭60−23832号公報
【特許文献4】特許第3410699号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のような微小動物の捕食作用を利用した多段活性汚泥法は、有機性排水処理に既に実用化されており、対象とする排水によっては処理効率の向上、発生汚泥量の減量化は可能である。
【0009】
しかしながら、汚泥減量効果は処理条件や排水の水質によっては異なるものの、単槽式活性汚泥法で発生する汚泥量を半減させる程度であり、また、安定した汚泥減量化効果を長期にわたり維持できないのが現状である。これは、細菌主体の汚泥を捕食するための後段の微小動物槽において、汚泥の多くが捕食されず残存したり、捕食に関与する微小動物を高濃度で維持できないことが原因である。また、捕食を行う微小動物は細菌に比べ高等な生物であるため、寿命が長く(従って、自己分解速度が遅く)、このことが更に汚泥を減量化させるのを困難にしている。また、微小動物は分裂により増殖するものだけでなく、卵により増殖するものもある。この代表的な後生動物にワムシ類がある。このような微小動物は汚泥減量に貢献するとされているが、常に増殖状態(産卵可能状態)にあるのではなく、孵化後十数日たつと産卵しなくなり、更に十数日後には寿命で死滅する。また、これらの微小動物が優先化した場合、産卵しても、十分量の成虫がいたり、汚泥の大部分が糞塊ばかりで餌となる細菌が少ない場合、孵化できないことがあり、このために、槽内の微小動物がいっせいに死滅することがある。このような後生動物の特徴が、微小動物を利用した活性汚泥法では汚泥発生量を長期間にわたり低く安定して維持することを困難にしている。
【0010】
本発明は、微小動物の捕食作用を利用した多段活性汚泥法において、安定した処理水質を維持した上でより一層の処理効率の向上と余剰汚泥発生量の低減を図る有機性排水の生物処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1の有機性排水の生物処理方法は、有機性排水を第1生物処理槽に導入して細菌により生物処理し、該第1生物処理槽からの細菌を含む処理液を第2生物処理槽に導入して活性汚泥処理する生物処理方法において、該第2生物処理槽の汚泥滞留時間を5日以上40日以下とすることを特徴とするものである。
【0012】
請求項2の有機性排水の生物処理方法は、請求項1において、該第1生物処理槽内汚泥及び/又は該第2生物処理槽内汚泥を固液分離して得られる汚泥を可溶化処理した後、該第2生物処理槽に返送することを特徴とするものである。
【0013】
請求項3の有機性排水の生物処理方法は、有機性排水を第1生物処理槽に導入して細菌により生物処理し、該第1生物処理槽からの非凝集性細菌を含む処理液を第2生物処理槽に導入して活性汚泥処理し、該第1生物処理槽内汚泥及び/又は該第2生物処理槽内汚泥を固液分離して得られる汚泥を第3生物処理槽に導入して好気条件で酸化処理し、該第3生物処理槽の処理物の一部又は全部を該第2生物処理槽に返送する生物処理方法であって、該第2生物処理槽及び該第3生物処理槽の汚泥滞留時間を各々5日以上40日以下とすることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の有機性排水の生物処理方法によれば、微小動物の捕食作用を利用した多段活性汚泥法において、安定した処理水質を維持した上でより一層の処理効率の向上と余剰汚泥発生量の低減を図ることができる。
【0015】
即ち、本発明の有機性排水の生物処理方法においては、有機性排水は第1生物処理槽に導入され、有機成分の大部分(例えば70%以上)が非凝集性細菌により酸化分解される。この第1生物処理槽の処理液が第2生物処理槽に導入され、残存している有機成分の酸化分解、非凝集性細菌の自己分解及び微小動物による捕食が行われ、汚泥が減量される。
【0016】
本発明では、この第2生物処理槽の汚泥滞留時間(SRT)が5〜40日となるように制御する。即ち、第2生物処理槽のSRTが5〜40日となるように、1日当たり、第2生物処理槽内の汚泥の1/5〜1/40を引き抜く。このように第2生物処理槽内の汚泥の所定量を引き抜いて、第2生物処理槽内に存在する微小動物や糞を間引くことにより産卵可能状態の微小動物を第2生物処理槽内に常に比較的高い割合で一定量維持することができるようになり、良好な汚泥減量作用を得ることができる。
【0017】
このように、微小動物の割合が比較的高い第2生物処理槽の汚泥は、通常の活性汚泥に比べて、物理的、化学的、生物学的のいずれの処理においても容易に可溶化することができ、可溶化により、より一層の汚泥減量化を図ることができる。
【0018】
また、第2生物処理槽の汚泥を第3生物処理槽にて好気条件で酸化処理する場合においても、第2生物処理槽及び第3生物処理槽のSRTが5〜40日となるように各槽の汚泥を引き抜くことにより、両槽において微小動物量を高く維持して効率的な汚泥減量化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に図面を参照して本発明の有機性排水の生物処理方法の実施の形態を詳細に説明する。
【0020】
図1は本発明に係る有機性排水の生物処理方法の実施の形態を示す系統図である。
【0021】
図1の方法では、原水(有機性排水)は、まず第1生物処理槽(分散菌槽)1に導入され、非凝集性細菌により、BOD(有機成分)の70%以上、望ましくは80%以上、更に望ましくは90%以上が酸化分解される。この第1生物処理槽1のpHは6以上、望ましくはpH6〜8とする。また、第1生物処理槽1へのBOD容積負荷は1kg/m/d以上、例えば1〜20kg/m/d、HRT(原水滞留時間)は24h以下、例えば0.5〜24hとすることで、非凝集性細菌が優占化した処理水を得ることができ、また、HRTを短くすることでBOD濃度の低い排水を高負荷で処理することができる。
【0022】
第1生物処理槽1の処理水は、第2生物処理槽(微小動物槽)2に導入され、ここで、残存している有機成分の酸化分解、非凝集性細菌の自己分解及び微小動物による捕食による汚泥の減量化が行われる。
【0023】
この第2生物処理槽2では細菌に比べ増殖速度の遅い微小動物の働きと細菌の自己分解を利用するため、微小動物と細菌が系内に留まるような運転条件及び処理装置を用いなければならない。そこで第2生物処理槽2には汚泥返送を行う活性汚泥法又は膜分離式活性汚泥法を用いることが望ましい。更に望ましくは、微小動物の槽内保持量を高めるために、第2生物処理槽を担体が添加された曝気槽とする。
【0024】
また、この第2生物処理槽2では、pH6以下、例えばpH5〜6、好ましくは5〜5.5の酸性とすることにより、微小動物による細菌の捕食が効率よく行われる。
【0025】
このようにすることで、汚泥発生量を通常の50%に低減することが可能であるが、第2生物処理槽の汚泥引き抜き量を減らす、即ちSRTを長くした場合、前述の如く、槽内に十分量の微小動物がいても、それは産卵せず、また、汚泥の大部分が糞塊ばかりで餌となる細菌も減少し、槽内の微小動物が寿命によりいっせいに死滅することがある。このように、第2生物処理槽2内の微小動物が大幅に減少すると回復までには一ヶ月以上を要する。このような問題を回避するには、第2生物処理槽の汚泥を定期的に入れ替える、即ち、微小動物や糞を間引く必要がある。そのために、本発明では、第2生物処理槽のSRTが5日以上40日以下、望ましくは10日以上30日以下、更に望ましくは20日以上30日以下の範囲内で一定となるように、第2生物処理槽2内の汚泥を引き抜く。即ち、第2生物処理槽2内の汚泥を1日当たり1/40以上1/5以下、好ましくは1/30以上1/10以下、より好ましくは1/20〜1/30の割合で引き抜く。このような条件で第2生物処理槽2を運転することで、槽内SSに占める微小動物の割合を10%以上、好ましくは15〜30%に維持し、これにより、常に汚泥発生量の少ない状態を安定に維持することができるようになる。
【0026】
この第2生物処理槽2から引き抜いた汚泥は、通常の単槽式処理の場合の活性汚泥や、多段活性汚泥法で単に第2生物処理槽の汚泥濃度を高くしている場合の活性汚泥に比べ、微小動物の割合が高い汚泥であることから、物理的、化学的、生物学的いずれの処理でも容易に可溶化されるため、好ましくは、これらの処理で可溶化する。この可溶化処理方法としては、超音波処理、オゾン処理、キャビテーション、酸アルカリ処理、酸化剤処理、高温処理、嫌気性消化などがあるが、いずれの方法によっても、第2生物処理槽2の引き抜き汚泥は、少ないエネルギー、処理時間で容易に可溶化可能である。ここで可溶化した汚泥は、第2生物処理槽2に返送しても良いし、固液分離して分離水は第1生物処理槽1及び/又は第2生物処理槽2へ、固形分は第2生物処理槽2へと返送しても良い。また、固形分の一部又は全部を余剰汚泥として引き抜いても良い。更に、可溶化手段が嫌気性消化のように生物学的手法の場合、固液分離後、汚泥をこの嫌気性消化汚泥槽に返送し、SRTを延長することにより、可溶化及び無機化を更に促進しても良い。
【0027】
なお、本発明において、第2生物処理槽2へ導入される第1生物処理槽1からの処理液中に有機物が多量に残存した場合、その酸化分解は第2生物処理槽2で行われることになる。微小動物が多量に存在する第2生物処理槽2で細菌による有機物の酸化分解が起こると、微小動物の捕食から逃れるための対策として、細菌は捕食されにくい形態で増殖することが知られている。このように捕食されにくい形態で増殖した細菌群は、微小動物により捕食されず、これらの細菌の分解は自己消化のみに頼ることとなり、汚泥が減容されにくくなる。また、第2生物処理槽2をpH6以下の酸性域に設定した場合、有機物が多量に残存していると、その有機物を利用して菌類などが増殖してしまい、バルキングの原因にもなる。そこで先にも述べたように、第1生物処理槽1で有機物の大部分、即ち排水BODの70%以上、望ましくは80%以上を分解し、菌体へと変換しておくのが好ましい。第2生物処理槽2への溶解性BODによる汚泥負荷は、0.1kg−BOD/kg−MLSS/d以下であることが好ましい。
【0028】
第2生物処理槽2の処理液は沈殿槽3で固液分離され、分離水は処理水として系外へ排出される。また、分離汚泥の一部は必要に応じて余剰汚泥として系外へ排出され、残部は第2生物処理槽2に返送される。
【0029】
本発明においては、第2生物処理槽2から引き抜いた汚泥又は第2生物処理槽の汚泥を固液分離して得られる分離汚泥(図1では、沈殿槽3の分離汚泥)を再度好気条件で酸化処理する好気性消化槽を第3生物処理槽として設けても良い(図示せず)。この場合においても、第2生物処理槽におけると同様の理由から、第2生物処理槽のみならず、第3生物処理槽についても、SRTが5日以上40日以下、望ましくは10日以上30日以下、更に望ましくは10日以上20日以下の範囲内で一定となるように制御することが望ましい。この第3生物処理槽についても、このようなSRTを満たした上で沈殿槽を設けて汚泥返送を行う好気処理法又は担体を添加した流動床処理、或いは膜分離式好気処理法とすることでSRTを長くしても良い。第3生物処理槽からの処理汚泥の一部又は全部は第2生物処理槽に返送しても良いし、また、これを固液分離し、処理水は第1生物処理槽及び/又は第2生物処理槽へ返送し、固形分は第2生物処理槽へ返送しても良い。また、固形分の一部又は全部を余剰汚泥として引き抜いても良い。
【0030】
この第3生物処理槽への汚泥送給量は、上述の第3生物処理槽でのSRTを維持できれば良く、発生汚泥量にあわせて変化させるのが好ましい。
【0031】
この第3生物処理槽での汚泥減量効果は、第2生物処理槽と同様、微小動物の捕食によるものである。このため、この第3生物処理槽についても、pHを6以下望ましくは5〜5.5の範囲に維持することにより、一層高い汚泥減量効果を得ることができる。ただし、第3生物処理槽のpHをこの条件にした場合、汚泥減量効果が高いために第3生物処理槽内の汚泥濃度が過度に低下する場合がある。その場合は、特に上述の如く、第3生物処理槽を、沈殿池を設けて汚泥返送を行う好気処理槽又は担体を添加した流動床又は膜分離式好気処理槽とすることにより汚泥濃度を高めることが好ましい。
【0032】
このような本発明の有機性排水の生物処理方法によると、有機性排水を効率良く処理することができると共に、長期に亘り安定して余剰汚泥発生量を減少させることができる。
【0033】
なお、図1の方法は本発明の実施の形態の一例を示すものであり、本発明はその要旨を超えない限り、何ら図示の方法に限定されるものではない。
【0034】
例えば、第2生物処理槽は多段化してもよい。具合的には、2槽の生物処理槽を直列に設け、前段処理槽でpH5〜6、望ましくはpH5〜5.5の条件で処理を行い、後段処理槽でpH6以上、好ましくはpH6〜8の条件で処理を行うようにしても良い。このような多段処理により、前段処理槽で汚泥の捕食を効果的に行い、後段処理槽で汚泥の固液分離性の向上、処理水水質の向上を図ることができる。
【0035】
また、第1生物処理槽1で高負荷処理を行うために、後段の沈殿槽3の分離汚泥の一部を返送しても良く、また第1生物処理槽1として2槽以上の生物処理槽を直列に設けて多段処理を行っても良い。
【0036】
また、第1生物処理槽1に担体を添加しても良く、担体を添加した流動床としても良い。これにより、BOD容積負荷5kg/m/d以上の高負荷処理も可能となる。
【0037】
第2生物処理槽2では、前述の如く、細菌に比べ増殖速度の遅い微小動物の働きと細菌の自己分解を利用するため、微小動物と細菌が系内に留まるような運転条件及び処理装置を採用することが重要であり、このために、第2生物処理槽は、図1に示すように、汚泥の返送を行う活性汚泥処理、又は膜分離式活性汚泥処理を行うのが好ましい。この場合、曝気槽内に担体を添加することで微小動物の槽内保持量を高めることができる。
【0038】
第1生物処理槽、第2生物処理槽に添加する担体の形状は球状、ペレット状、中空筒状、糸状等任意であり、大きさも0.1〜10mm程度の径で良い。また、担体の材料は天然素材、無機素材、高分子素材等任意であり、ゲル状物質を用いても良い。
【実施例】
【0039】
以下に実施例、比較例及び参考例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0040】
実施例1
図1に示す如く、容量が3.6Lの第1生物処理槽(活性汚泥槽(汚泥返送なし))1と、容量が15Lの第2生物処理槽(活性汚泥槽)2と、沈殿槽3とを連結させた実験装置を用いて、本発明による有機性排水(BOD630mg/L)の処理を22L/dの割合にて行った。各生物処理槽1,2のpHはいずれも6.8に調整した。第1生物処理槽1に対する溶解性BOD容積負荷は3.85kg−BOD/m/dでHRT4h、第2生物処理槽2への溶解性BOD汚泥負荷は0.022kg−BOD/kg−MLSS/dでHRT17h、全体でのBOD容積負荷は0.75kg−BOD/m/dでHRT21hの条件で運転した。第2生物処理槽2からは、SRTが25日となるように、1日当たり槽内汚泥の1/25を引き抜き、引き抜いた汚泥は系外へ排出した。
【0041】
このときの第2生物処理槽内の微小動物数の経日変化を図3に、また、汚泥転換率の経日変化を図4に示す。
【0042】
第2生物処理槽2内のSSは3500mg/Lで、槽内の微小動物の優占種はハオリワムシとヒルガタワムシでそれぞれ約30000個/ml、約35000個/ml、槽内SSに占める微小動物の割合は約50%であり、この状態は5ヶ月以上安定して維持された。また、汚泥転換率は0.15kg−MLSS/kg−BODとなり、後述の単槽処理による比較例1の場合の汚泥転換率0.37kg−MLSS/kg−BODに比べ、60%の汚泥減量効果が安定して維持された。なお、沈殿槽3から得られる処理水のBODは検出限界以下であった。
【0043】
また、第2生物処理槽2の引き抜き汚泥をSRT15日の条件で嫌気性消化するとCODの50%をメタンに変換することができた。この効果を考慮すると従来法に比べ75%以上の汚泥減量が可能であるといえる。
【0044】
比較例1
図2に示す如く、容量15Lの生物処理槽(活性汚泥槽)2’と沈殿槽3とからなる実験装置を用いて、有機性排水(BOD630mg/L)の処理を18L/dの割合で行った。返送汚泥量は250mL/d、余剰汚泥排出量は250mL/dであり、生物処理槽2’の溶解性BOD容積負荷は0.76kg−BOD/m/dで、HRT20h、pH6.8の条件で連続運転したところ、処理水水質は良好であったものの、汚泥転換率は0.37kg−MLSS/kg−BODであった。
【0045】
比較例2
実施例1において、第2生物処理槽2からの汚泥引き抜き量をSRTが45日となるように、1日当たり槽内汚泥の1/45としたこと以外は同条件で運転を行った。
【0046】
このときの第2生物処理槽内の微小動物数の経日変化を図3に、また、汚泥転換率の経日変化を図4に示す。
【0047】
この比較例2では、第2生物処理槽2からの汚泥引き抜き量が実施例1に比べ少ないため、第2生物処理槽2内のSSは5000mg/Lと高かったが、活性汚泥処理可能な汚泥濃度であった。第2生物処理槽2内の微小動物の優占種はヒルガタワムシであったが、その量は絶えず変化しており0〜50000個/ml、槽内SSに占める微小動物の割合は0〜25%であり、この条件では約40日おきに微小動物の大量死が起こりその都度汚泥転換率は高くなっていた。そのため、処理水水質は良好であったものの、平均の汚泥転換率も0.20kg−MLSS/kg−BODとなり、比較例1に比べて45%程度の汚泥減量効果にとどまった。
【0048】
また、第2生物処理槽2の引き抜き汚泥をSRT15日の条件で嫌気性消化しても、微小動物の含有割合が低いため、CODの30%しかメタンに変換することができず、この効果を考慮しても従来法に比べ60%程度の汚泥減量にとどまっていた。
【0049】
以上の結果から、次のことが明らかである。即ち、二段生物処理法を導入することで汚泥発生量を平均45%程度減量することは可能であるが、比較例2のように、第2生物処理槽内汚泥濃度を高くするためSRTを長くしすぎると、第2生物処理槽内の微小動物数を安定させることはできず、汚泥転換率も絶えず変動することとなり、結果として十分な汚泥減量効果を得ることはできない。
【0050】
しかしながら、実施例1のように、第2生物処理槽内に維持しようとする微小動物の生活サイクルに合わせ、定期的に第2生物処理槽内汚泥を引き抜くことで、汚泥減量率も60%まで向上し、また、この余剰汚泥はワムシのような後生動物を多く含むため、通常の汚泥に比べ、嫌気性消化での減量化も容易であることから、より一層の汚泥減量が可能となる。
【0051】
実施例2
実施例1において、沈殿槽3の分離汚泥のうちの一部600mL/dを容量6Lの第3生物処理槽に送給し、残部を第2生物処理槽2に返送し、第3生物処理槽で好気性消化した汚泥を固液分離して分離水を第1生物処理槽に、分離汚泥を第2生物処理槽に返送したこと以外は同様にして処理を行った。
【0052】
第3生物処理槽はpH5.0とし、SRTが10日となるように1日当たり槽内汚泥の1/10を引き抜き、引き抜いた汚泥は系外へ排出した。その結果、沈殿槽から得られる処理水のBODは検出限界以下であり、汚泥転換率は0.7kg−MLSS/kg−BODとなった。
【0053】
参考例1
実施例2において、第3生物処理槽のSRTが45日となるように、1日当たり槽内汚泥の1/45を引き抜いたこと以外は同条件で運転を行ったところ、処理水水質は実施例2と同等であったが、汚泥転換率は0.11kg−MLSS/kg−BODとなり、第3生物処理槽を設けたことによる汚泥減量効果は低減した。
【0054】
実施例2と参考例1とから、第3生物処理槽を設けて更に好気性消化を行うことにより、より一層の汚泥減量化を図ることができるが、この第3生物処理槽についてもSRTが過度に長いと第3生物処理槽による汚泥減量化効果が低減することが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の有機性排水の生物処理方法の実施の形態を示す系統図である。
【図2】比較例1で用いた実験装置を示す系統図である。
【図3】実施例1及び比較例2における第2生物処理槽内の微小動物数の経日変化を示すグラフである。
【図4】実施例1及び比較例2における汚泥転換率の経日変化を示すグラフである。
【符号の説明】
【0056】
1 第1生物処理槽
2 第2生物処理槽
3 沈殿槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機性排水を第1生物処理槽に導入して細菌により生物処理し、該第1生物処理槽からの細菌を含む処理液を第2生物処理槽に導入して活性汚泥処理する生物処理方法において、
該第2生物処理槽の汚泥滞留時間を5日以上40日以下とすることを特徴とする有機性排水の生物処理方法。
【請求項2】
請求項1において、該第1生物処理槽内汚泥及び/又は該第2生物処理槽内汚泥を固液分離して得られる汚泥を可溶化処理した後、該第2生物処理槽に返送することを特徴とする有機性排水の生物処理方法。
【請求項3】
有機性排水を第1生物処理槽に導入して細菌により生物処理し、該第1生物処理槽からの細菌を含む処理液を第2生物処理槽に導入して活性汚泥処理し、該第1生物処理槽内汚泥及び/又は該第2生物処理槽内汚泥を固液分離して得られる汚泥を第3生物処理槽に導入して好気条件で酸化処理し、該第3生物処理槽の処理物の一部又は全部を該第2生物処理槽に返送する生物処理方法であって、
該第2生物処理槽及び該第3生物処理槽の汚泥滞留時間を各々5日以上40日以下とすることを特徴とする有機性排水の生物処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−51414(P2006−51414A)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−233257(P2004−233257)
【出願日】平成16年8月10日(2004.8.10)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】