説明

有機感光性の光電装置

【課題】本発明は、上述した従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、本発明の主な目的は、暗電流を抑制する有機感光性の光電装置を提供することである。
【解決手段】陽極と、前記陽極の上に形成され、アクセプター部とドナー部を含む有機感光層と、前記有機感光層の上に形成され、前記陽極との間に前記有機感光層を介在させる正孔ブロッキング層と、前記正孔ブロッキング層の上に形成され、前記有機感光層との間に前記正孔ブロッキング層を介在させる陰極と、を有する有機感光性の光電装置を提供する。又、必要に応じて、前記正孔ブロッキング層の最高被占有分子軌道(HOMO)は前記ドナー部の最高被占有分子軌道よりも少なくとも0.3eV大きい。本発明に係る光電装置は暗電流を有効に抑制し、検出器に適用する際の感度を向上できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有機感光性の光電装置に関し、特に、暗電流を抑制する有機光検出器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光電装置は、例えば発光ダイオード、太陽電池、及び光検出器であり、何れも材料自体の光学特性又は電気特性により電磁輻射又は電流が生じる。
【0003】
光検出器を例とすると、光検出器は感光素子により光信号を電気信号に変換する検出器である。現在、感光素子のよく使われている感応波長は可視光線の波長の付近である。具体的に言えば、光検出器における感光材料が電磁輻射を吸収してから、励起された分子状態が生じ、つまり電子・正孔対(electron−hole pair)を有する励起子(exciton)が生じ、この電子・正孔対が分離する際に、いわゆる光電流が生じる。一般的に、キャリアが陰極と陽極に吸収されることを加速するために、逆バイアスを印加することが必要である。しかし、この逆バイアスはキャリアを陽極又は陰極から感光材料に逆に注入させるため、検出器が検出した電流値は不正確になってしまう。
【0004】
WO2007/017475(特許文献1)には陽極から能動層に注入する電子による暗電流をブロックするための電子ブロッキング層を有する有機光検出器が開示されている。しかしながら、特許文献1に係る発明は電子ブロッキング層のみにより陽極から能動層へ注入する電子をブロックするため、低仕事関数を有する金属電極を用いる。しかし、低仕事関数を有する金属電極は相対的に不安定であるため、素子の寿命が相対的に短くなる。
【0005】
従って、当業界において、暗電流を低減し、相対的に安定な金属電極の材料を選べるとともに、光電装置の感度と寿命を向上できる有機感光性の光電装置を提供することが強く望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2007/017475号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述した従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、本発明の主な目的は、暗電流を抑制する有機感光性の光電装置を提供することである。
【0008】
本発明の他の目的は、感度を向上させる有機感光性の光電装置を提供することである。
【0009】
又、本発明の他の目的は、寿命を向上させる有機感光性の光電装置を提供することである。
【0010】
さらに、本発明の他の目的は、光検出装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的及び他の目的を達成するために、本発明は、陽極と、前記陽極の上に形成され、混合したアクセプター部とドナー部を含む有機感光層と、前記有機感光層の上に形成され、前記陽極との間に前記有機感光層を介在させる正孔ブロッキング層と、前記正孔ブロッキング層の上に形成され、前記有機感光層との間に前記正孔ブロッキング層を介在させる陰極と、を有し、前記陰極から前記有機感光層へ注入する正孔をブロックすることで暗電流を抑制するように、前記正孔ブロッキング層の最高被占有分子軌道(HOMO;Highest Occupied Molecular Orbital)は前記ドナー部の最高被占有分子軌道より少なくとも0.3eV大きいことを特徴とする有機感光性の光電装置を提供する。
【0012】
又、本発明は、陽極と、前記陽極の上に形成され、アクセプター部とする正孔ブロッキング層及び前記陽極と前記正孔ブロッキング層との間に形成されるドナー部とする電子ブロッキング層を有する有機感光層と、前記有機感光層の上に形成され、前記陽極との間に前記有機感光層を介在させる陰極と、を有し、それぞれ前記陽極と前記陰極から前記有機感光層へ注入する電子と正孔をブロックすることで暗電流を抑制するように、前記電子ブロッキング層の最低非占有分子軌道(LUMO;Lowest Unoccupied Molecular Orbital)は前記正孔ブロッキング層の最低非占有分子軌道より少なくとも0.3eV小さく、前記正孔ブロッキング層の最高被占有分子軌道(HOMO)は前記電子ブロッキング層の最高被占有分子軌道より少なくとも0.3eV大きいことを特徴とする有機感光性の光電装置を提供する。
【0013】
又、本発明の一つの態様は、本発明に係る有機感光性の光電装置及び前記光電装置と電気的に接続する電流検出素子を含むことを特徴とする光検出装置を提供する。
【0014】
上述のように、本発明に係る有機光検出器は、正孔ブロッキング層により正孔が陰極から有機感光層に注入することを回避することにより、暗電流を低減し、光検出器の感度を向上することができる。又、本願の発明者は、電極の仕事関数と感光材料の分子軌道の相互関係を発見したため、低仕事関数を有する金属電極を特に選ぶこともなく、光検出器の寿命を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1A】本発明に係る一態様の有機感光性の光電装置の断面を模式的に示す図である。
【図1B】本発明に係る一態様の有機感光性の光電装置の断面を模式的に示す図である。
【図2A】本発明に係る有機感光性の光電装置のエネルギーレベルを模式的に示す図である。
【図2B】本発明に係る有機感光性の光電装置のエネルギーレベルを模式的に示す図である。
【図3】本発明に係る他の態様の有機感光性の光電装置の断面を模式的に示す図である。
【図4A】本発明に係るドナー部とアクセプター部との間にある界面を模式的に示す図である。
【図4B】本発明に係るドナー部とアクセプター部との間にある界面を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、具体的な実施例によって本発明の実施形態を説明する。当業者は本明細書に記載の内容から本発明のその他の利点や効果を容易に理解することができる。
【0017】
本発明に係る有機感光性の光電装置は、例えば光の電磁輻射を吸収することで励起子を生成し、この励起子が後程電子と正孔に解離できる感光性領域を少なくとも一つ含む。図1Aは本発明に係る有機感光性の光電装置10の一態様の具体的な実施例を示す。本発明に係る有機感光性の光電装置10は光を吸収するための有機感光層11を含む。有機感光層11はドナー部111とアクセプター部112を含む。有機感光層11の両側には光から生じた電流を外部回路に出力し、又は本発明に係る光電装置にバイアスを提供するための電極をそれぞれ含む。図1Aに示すように、本発明に係る有機感光性の光電装置は、有機感光層11に接する陽極12と、有機感光層11の上に形成される正孔ブロッキング層14と、正孔ブロッキング層14の上に設けられる陰極13と、を含む。正孔ブロッキング層14は有機感光層11と陰極13の間に介在され、陰極13から有機感光層11へ注入される正孔をブロックする。
【0018】
この明細書において、ドナー部又はアクセプター部の「部」とは、実質的にプレート状又はシート状な層状体を指す。
【0019】
本発明において、電極は金属又は金属の代替物を含んでも良い。金属とは、金属元素以外の材料又は金属合金の材料をも含むことを指す。又、金属合金は二種類又は二種類以上の金属の材料を含む。金属の代替物とは、従来定義の金属ではなく、金属に類似する性質を有する材料を指し、例えばドーピングされた半導体又は透明の導電性酸化物(例えばインジウムスズ酸化物(ITO))である。一般的に、インジウムスズ酸化物を陽極とする。
【0020】
図1Bに示すように、本発明に係る有機感光性の光電装置10は、有機感光層11と陽極12との間に形成され、陽極12から有機感光層11へ注入される電子をブロックするための電子ブロッキング層15をさらに含む。
【0021】
本発明に係るドナー部とは、通常の半導体分野では、いわゆるP型半導体を指す。一方、本発明に係るアクセプター部とは、通常の半導体分野では、いわゆるN型半導体を指す。又、本発明に用いられる有機感光層は有機半導体材料である。有機半導体材料とは、熱又は電磁波を受け励起されて生じた電荷キャリアの流れにより導電性となる有機重合材料又は有機小分子材料を指す。従って、有機半導体は著しいキャリアの移動度(carrier mobility)を有する。移動度とは、電界に応じて、キャリアが移動して導電性材料を通す困難の程度を指す。高電子移動度を有する材料は一般的に電子伝導材料と称する。一方、高正孔移動度を有する材料は一般的に正孔伝導材料と称する。又、本発明に係る有機感光性の光電装置において、ドナー部は正孔伝導材料であるのが好ましく(しかし、必ずしも必要とは限らない)、アクセプター部は電子伝導材料であるのが好ましい(しかし、必ずしも必要とは限らない)。本発明において、ドナー部の材料として、例えばポリ3ヘキシルチオフェン(P3HT)又はペンタセン(Pentacene)であるが、これに限定されるものではない。一方、アクセプター部の材料として、例えば[6,6]―フェニルC61−酪酸メチルエステル([6,6]―phenylC61−butyric acid methyl ester;PCBM)、酸化亜鉛、又は二酸化チタンであるが、これに限定されるものではない。
【0022】
陰極から有機感光層へ注入する正孔を回避することで暗電流を低減するために、本発明に係る有機感光性の光電装置は、有機感光層と陰極との間に形成される正孔ブロッキング層をさらに有する。図2Aに示すように、好ましくは、陰極13から有機感光層11へ注入する正孔(白抜き円)をブロックするように、正孔ブロッキング層14の最高被占有分子軌道(HOMO)はドナー部111の最高被占有分子軌道よりも少なくとも0.3eV大きくしなければいけない。
【0023】
又、本発明に係る正孔ブロッキング層の最高被占有分子軌道(HOMO)が陰極の仕事関数よりも少なくとも0.3eV大きい場合、陰極から有機感光層へ注入する正孔を成功的にブロックすることを発見した。このエネルギーレベルの差により、本発明に係る陰極は仕事関数が相対的に高く、且つ安定な金属を用いることができ、装置の寿命を向上することができる。
【0024】
本発明の一具体的な実施例において、本発明に係る有機感光性の光電装置は、有機感光層と陽極との間に形成され、陽極から有機感光層へ注入する電子をブロックするための電子ブロッキング層をさらに有する。図2Bに示すように、好ましくは、電子ブロッキング層15の最低非占有分子軌道(LUMO)はアクセプター部112の最低非占有分子軌道よりも少なくとも0.3eV小さいことである。具体的な実施例において、有機感光性の光電装置は電極から有機感光層へ注入する電子(黒塗り円)と正孔をそれぞれブロックするための電子ブロッキング層15と正孔ブロッキング層14をさらに有することで、暗電流をより低減することができる(点線で示すように)。有機感光性の光電装置は検出器に適用する場合、当該検出器の感度を向上することができる。
【0025】
一方、電子ブロッキング層の最低非占有分子軌道は陽極の仕事関数よりも少なくとも0.3eV小さい場合、陽極から有機感光層へ注入する電子をブロックすることもできる。一般的に、陽極金属の仕事関数は相対的に低いが、電子ブロッキング層の最低非占有分子軌道は陽極の仕事関数よりも少なくとも0.3eV小さい場合、本発明に係る陽極は相対的に高い仕事関数の金属を用いられることで、装置の寿命と安定性を向上することができる。又、金属材料の種類はあまり重要ではないため、相対的に安い金属を用いて電極を製作でき、生産コストを低減できる。
【0026】
図3に示すように、本発明に提供される有機感光性の光電装置30は、陽極312と、陽極312の上に形成され、アクセプター部である正孔ブロッキング層315及び陽極312と正孔ブロッキング層315との間に形成されるドナー部である電子ブロッキング層317を有する有機感光層311と、有機感光層311の上に形成され、陽極312との間に有機感光層311を介在させる陰極313と、を有し、電子ブロッキング層317の最低非占有分子軌道は正孔ブロッキング層315の最低非占有分子軌道よりも少なくとも0.3eV小さく、正孔ブロッキング層315の最高被占有分子軌道(HOMO)は電子ブロッキング層の最高被占有分子軌道よりも少なくとも0.3eV大きい。
【0027】
具体的な実施例において、正孔ブロッキング層はアクセプター部とする一方、電子ブロッキング層はドナー部とする。又、必要に応じて、正孔ブロッキング層の最高被占有分子軌道は陰極の仕事関数よりも少なくとも0.3eV大きい。もしくは、電子ブロッキング層の最低非占有分子軌道は陽極の仕事関数よりも少なくとも0.3eV小さい。同様に、必要に応じて、正孔ブロッキング層の最高被占有分子軌道は陰極の仕事関数よりも少なくとも0.3eV大きく、且つ電子ブロッキング層の最低非占有分子軌道は陽極の仕事関数よりも少なくとも0.3eV小さくしても良い。従って、上述のように、本発明に係る電極は相対的に高い仕事関数を有する金属が用いられることで、装置の寿命と安定性を向上することができる。又、金属材料の種類はあまり重要ではないため、相対的に安い金属を用いて電極を製作でき、生産コストを低減できる。
【0028】
本発明に係る光電装置の製造において、真空式堆積、スピンコート、有機気相蒸着(Organic Vapor Phase Deposition ;OVPD)、インクジェット印刷、又は当分野においてあらゆる公知の方法で有機感光層、ドナー部、及びアクセプター部を製造することが可能である。
【0029】
図4Aと図4Bはドナー部417とアクセプター部415の間の界面の類型を示す。一般的に、有機感光層411が含むドナー部417とアクセプター部415との間に少なくとも1つの界面419を有することが可能である。界面419は層と層との間に位置する平坦な界面(図4Aに示すように)でもよく、非平坦な界面でも良い。具体的に言えば、層と層との間に不規則な界面419を有するように、ドナー部417とアクセプター部415のうちの少なくとも一層は多孔状な表面構造又は不規則な表面を有する(図4Bに示すように)。従って、本発明に係る混合したドナー部とアクセプター部を含んだ有機感光層はドナー部とアクセプター部との間に複数の不規則な界面を有する(図示しない)。
【0030】
例を挙げて説明する。正孔ブロッキング層はアクセプター部とし、且つ電子ブロッキング層はドナー部とする態様において、層と層との間に不規則な界面を有するように、正孔ブロッキング層と電子ブロッキング層のうちの少なくとも一層は多孔状な表面構造又は不規則な表面を有する。一般的に、不規則な表面は電子・正孔を解離可能なためのヘテロ接合(Heterojunction)の数量を増加するためのものである。従って、高移動度を有する材料を選んでドナー部とアクセプター部を製造することが可能である。例えば、上述したエネルギーレベルの差によれば、電子ブロッキング層317の最低非占有分子軌道は正孔ブロッキング層315の最低非占有分子軌道よりも少なくとも0.3eV小さく、正孔ブロッキング層315の最高被占有分子軌道は電子ブロッキング層の最高被占有分子軌道(HOMO)よりも少なくとも0.3eVまで大きい。
【0031】
又、他の具体的な実施例において、電子ブロッキング層と正孔ブロッキング層の厚さはそれぞれ約300〜500Åである。全体の厚さが2500Åになるように、有機感光層の厚さは電子ブロッキング層と正孔ブロッキング層の厚さに応じて調整することができる。そして、有機感光層の材料としては、ドナー部とアクセプター部とする材料を混合したものが好ましい。一般的に、ドナー部材料とアクセプター部の材料を任意の比例で混合して有機感光層を形成することが可能である。後述の具体的な実施例において、混合比はドナー部材料が50wt%、アクセプター部材料が50wt%であっても良い。又、この明細書に記載されている「正孔ブロッキング層の最高被占有分子軌道はドナー部の最高被占有分子軌道よりも少なくとも0.3eV大きい」又は他の記載されている0.3eVのエネルギーレベルは実験によって証明された下限値である。次に、特定の具体的な実施例を用いて本発明の実施形態を説明するが、本発明を限定することではない。
【0032】
表1は本発明に係る一具体的な実施例に適用される金属の仕事関数、材料種類、及びその最低非占有分子軌道と最高被占分子軌道の値を示す。
【0033】
【表1】

【0034】
(実施例1)本発明に係る有機感光性の光電装置の製造
陽極とする厚さが2000Åのインジウムスズ酸化物(ITO)のガラス基板をアセトンで洗浄し、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(poly(3,4−ethylenedioxythiophene);PEDOT)の溶液をガラス基板の上にスピンコートして溶剤を除去することにより、厚さが400Åの正孔伝導層を形成する。次に、ポリ3ヘキシルチオフェン(P3HT)の溶液を正孔伝導層の上にスピンコートしてその溶液を除去することにより、厚さが約300Åの電子ブロッキング層を形成する。そして、重量混合比が1:1のポリ3ヘキシルチオフェン(P3HT)と[6,6]―フェニルC61−酪酸メチルエステル(PCBM)の溶液を電子ブロッキング層の上にスピンコートして溶液を除去することにより、厚さが1900Åの有機感光層を形成する。次に、同様の方式で有機感光層の上に厚さが300Åの[6,6]―フェニルC61−酪酸メチルエステル(PCBM)である正孔ブロッキング層、陰極とするカルシウム金属層(350Å)、及びアルミニウム金属層(1000Å)を順に形成する。本実施例における素子の特性関係は表2に示す。
【0035】
(実施例2)電子ブロッキング層と正孔ブロッキング層を含まない光電装置の製造
陽極とする厚さが2000Åのインジウムスズ酸化物(ITO)のガラス基板をアセトンで洗浄し、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)の溶液をガラス基板の上にスピンコートして溶液を除去することにより、厚さが400Åの正孔伝導層を形成する。次に、ドナー部とするポリ3ヘキシルチオフェン(P3HT)とアクセプター部とする[6,6]―フェニルC61−酪酸メチルエステル(PCBM)の溶液を順に塗布することにより、全体の厚さが2500Åのドナーとアクセプター部を有する有機感光層を形成する。次に、同様の方式で有機感光層の上に厚さが350Åのカルシウム金属層及び厚さが1000Åのアルミニウム金属層を順に形成する。実施例2の素子の特性関係は表2に示す。
【0036】
(実施例3)電子ブロッキング層と正孔ブロッキング層を含まない光電装置の製造
陽極とする厚さが2000Åのインジウムスズ酸化物(ITO)のガラス基板をアセトンで洗浄し、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)の溶液をガラス基板の上にスピンコートして溶液を除去することにより、厚さが400Åの正孔伝導層を形成する。次に、ポリ3ヘキシルチオフェン(P3HT)と[6,6]―フェニルC61−酪酸メチルエステル(PCBM)を混合した溶液を正孔伝導層の上にスピンコートして溶液を除去することにより、厚さが2500Åの有機感光層を形成する。次に、同様の方式で有機感光層の上に厚さが350Åのカルシウム金属層及び厚さが1000Åのアルミニウム金属層を順に形成する。実施例3の素子の特性関係は表2に示す。
【0037】
(実施例4)電子ブロッキング層を有する光電装置の製造
実施例3の方式で光電素子を製造する。但し、実施例3との相違点は、有機感光層を形成する前に、ポリ3ヘキシルチオフェン(P3HT)の溶液を正孔伝導層の上にスピンコートして溶液を除去することにより、厚さが約300Åの電子ブロッキング層を形成する点と、本実施例における有機感光層の厚さが2200Åである点である。実施例4の素子の特性関係は表2に示す。
【0038】
(実施例5)正孔ブロッキング層を有する光電装置の製造
実施例3の方式で光電素子を製造する。但し、実施例3との相違点は、カルシウム金属層を形成する前に、[6,6]―フェニルC61−酪酸メチルエステル(PCBM)の溶液を有機感光層の上にスピンコートして溶液を除去することにより、厚さが約300Åの正孔ブロッキング層を形成する点と、本実施例における有機感光層の厚さが2200Åである点である。実施例5の素子の特性関係は表2に示す。
【0039】
【表2】

【0040】
素子における各層のエネルギーレベルの関係、例えば正孔ブロッキング層の最高被占有分子軌道がドナー部の最高被占有分子軌道よりも少なくとも0.3eV大きい、又は電子ブロッキング層の最低非占有分子軌道がアクセプター部の最低非占有分子軌道よりも少なくとも0.3eV小さい、というエネルギー準位の関係を注意しないと、暗電流は常に0.007mA/cmより高くなってしまう。一方、表2に示す本発明の実施例によれば、たとえ素子は有機感光層を有すること以外、電子ブロッキング層又は正孔ブロッキング層を含まないようにしても、有機感光層におけるドナー部及びアクセプター部とする材料のエネルギー準位が本願明細書の記載の範囲を満せば、暗電流を0.004mA/cmまで低減できる。特に、電子ブロッキング層と正孔ブロッキング層を有する場合、暗電流を9.307×10−4mA/cmまで低減できる。
【0041】
また、上述した実施形態は本発明の利点や効果を説明するための例示に過ぎず、本発明の実施形態を限定するものではない。本発明の要旨を逸脱しない範囲において、本明細書に記載の実施形態に種々の修飾と変更が可能であることは言うまでもない。またそうした修飾や変更も本発明の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0042】
10、30 光電装置
11,311,411 有機感光層
12,312 陽極
13,313 陰極
14,315 正孔ブロッキング層
15,317 電子ブロッキング層
111,417 ドナー部
112,415 アクセプター部
419 界面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極と、
前記陽極の上に形成され、混合したアクセプター部とドナー部を含む有機感光層と、
前記有機感光層の上に形成され、前記陽極との間に前記有機感光層を介在させる正孔ブロッキング層と、
前記正孔ブロッキング層の上に形成され、前記有機感光層との間に前記正孔ブロッキング層を介在させる陰極と、
を有し、
前記陰極から前記有機感光層へ注入する正孔をブロックすることで暗電流を抑制するように、前記正孔ブロッキング層の最高被占有分子軌道(HOMO)は前記ドナー部の最高被占有分子軌道よりも少なくとも0.3eV大きいことを特徴とする有機感光性の光電装置。
【請求項2】
前記有機感光層と前記陽極との間に形成される電子ブロッキング層をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の有機感光性の光電装置。
【請求項3】
前記正孔ブロッキング層の最高被占有分子軌道は前記陰極の仕事関数よりも少なくとも0.3eV大きいことを特徴とする請求項1に記載の有機感光性の光電装置。
【請求項4】
前記電子ブロッキング層の最低非占有分子軌道(LUMO)は前記アクセプター部の最低非占有分子軌道よりも少なくとも0.3eV小さいことを特徴とする請求項2に記載の有機感光性の光電装置。
【請求項5】
前記電子ブロッキング層の最低非占有分子軌道は前記陽極の仕事関数よりも少なくとも0.3eV小さいことを特徴とする請求項4に記載の有機感光性の光電装置。
【請求項6】
前記ドナー部とする材料はポリ3ヘキシルチオフェン(P3HT)又はペンタセン(pentacene)から選ばれる一つであることを特徴とする請求項1に記載の有機感光性の光電装置。
【請求項7】
前記アクセプター部とする材料はPCBM、酸化亜鉛、又は二酸化チタンから選ばれる一つであることを特徴とする請求項1に記載の有機感光性の光電装置。
【請求項8】
陽極と、
前記陽極の上に形成され、アクセプター部とする正孔ブロッキング層及び前記陽極と前記正孔ブロッキング層との間に形成されるドナー部とする電子ブロッキング層を有する有機感光層と、
前記有機感光層の上に形成され、前記陽極との間に前記有機感光層を介在させる陰極と、
を有し、
前記陽極と前記陰極から前記有機感光層へ注入する電子と正孔をそれぞれブロックすることで暗電流を抑制するように、前記電子ブロッキング層の最低非占有分子軌道(LUMO)は前記正孔ブロッキング層の最低非占有分子軌道よりも少なくとも0.3eV小さく、前記正孔ブロッキング層の最高被占有分子軌道(HOMO)は前記電子ブロッキング層の最高被占有分子軌道よりも少なくとも0.3eV大きいことを特徴とする有機感光性の光電装置。
【請求項9】
前記正孔ブロッキング層の最高被占有分子軌道は前記陰極の仕事関数よりも少なくとも0.3eV大きいことを特徴とする請求項8に記載の有機感光性の光電装置。
【請求項10】
前記電子ブロッキング層の最低非占有分子軌道は前記陽極の仕事関数よりも少なくとも0.3eV小さいことを特徴とする請求項8に記載の有機感光性の光電装置。
【請求項11】
前記正孔ブロッキング層は多孔状な表面構造又は不規則な表面を有することを特徴とする請求項8に記載の有機感光性の光電装置。
【請求項12】
前記正孔ブロッキング層の材料は酸化亜鉛又は二酸化チタンから選ばれる一つであることを特徴とする請求項11に記載の有機感光性の光電装置。
【請求項13】
前記電子ブロッキング層は多孔状な表面構造又は不規則な表面を有することを特徴とする請求項8に記載の有機感光性の光電装置。
【請求項14】
前記電子ブロッキング層の材料はポリ3ヘキシルチオフェン(P3HT)又はペンタセン(pentacene)から選ばれる一つであることを特徴とする請求項8に記載の有機感光性の光電装置。
【請求項15】
請求項1又は8に記載する有機感光性の光電装置及び前記光電装置と電気的に接続する電流検出素子を含むことを特徴とする光検出装置。

【図1A】
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【図1B】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【公開番号】特開2010−263175(P2010−263175A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−145870(P2009−145870)
【出願日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【出願人】(598139748)國立交通大學 (92)
【Fターム(参考)】