説明

有機樹脂フィルムを被覆したDI缶用鋼板およびその製造方法

【課題】 PETヘアーが発生せず、缶特性に優れた有機樹脂フィルムを被覆したDI缶用鋼板及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 鋼の成分として、C:0.001〜0.010重量%、Si:≦0.05重量%、Mn:≦0.9重量%、P:≦0.1重量%、S:≦0.04重量%、Al:0.010〜0.100重量%、N:≦0.0050重量%、かつNb:≦0.050重量%、及び/またはTi:≦0.10重量%を含有し、さらに残部Feおよび不可避的不純物からなり、圧延方向に対して平行方向及び直角方向の結晶粒径がいずれも3.0〜10.0μmであることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品缶、飲料缶等の容器材料に用いられる有機樹脂フィルムを被覆したDI缶用鋼板およびその製造方法に係り、DI(Drwan and Ironing)加工性に優れ、特にDI加工時、有機樹脂フィルムが切り口で糸状に剥がれ落ちる現象をなくし、かつ、加工後の肌荒れ性が小さく、ERV値が小さいDI缶用途に適した有機樹脂フィルムを被覆したDI缶用鋼板およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、側面無継目(サイドシームレス)缶の成形法として、表面処理鋼板を成形した後の缶の内外に有機塗料を施す方法と、成形前の鋼板にあらかじめ樹脂フィルムを被覆し、樹脂フィルムを一種の成形潤滑剤とし、缶側壁となる部分の鋼板を薄肉化する、いわゆる薄肉化絞りしごき缶成形法とがある。
【0003】
近年、側面無継目(サイドシームレス)缶の用途においては、缶の側壁厚みを更に薄くする要求があり、缶成形での高リダクションが要求される。したがって、PETからなる有機樹脂フィルムを被覆したDI缶を成形する場合、しごき成形時に高い面圧が鋼板と成形工具間に生じて、有機皮膜の切り口が糸状に剥がれ落ちるというPETヘアー問題が発生する。従来においては、有機樹脂フィルムの一部が剥離するのを防ぐ方法として、金属缶の開口部の形状を変える方法がある(例えば、特許文献1参照)。しかし、加工程度が非常に厳しいDI加工方法では適用できない。
【0004】
本出願に関する先行技術文献情報として、次のものがある。
【0005】
【特許文献1】特開2004−26306号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
通常、DI缶は被覆鋼板を円板状に打ち抜き、これを絞り加工して、まず絞り加工缶を得る。この絞り缶は、数回のしごき加工によって、缶側壁の厚みを減少させ、最終的にDI缶を得る。
【0007】
上記の加工法において、被覆鋼板を円板状に打ち抜いた後にカップ絞り、しごき加工を行うが、原板が高強度の材料は、しごき加工の段階で面圧が高くなり、有機皮膜の切り口が非常に微細だが糸状に裂け、連続製缶時に、その糸状の皮膜の燐片(以下、PETヘアー)が剥がれ落ち、製缶ラインに堆積し、作業性を著しく阻害する。したがって、製缶のしごき加工時までは軟質の材料が望ましい。
【0008】
また、鉄溶出を少なくするという点から、ERV値を小さくする必要がある。
【0009】
本発明は、上記問題点を解決することを目的とし、皮膜金属円板がしごき加工時までは軟質で、しかも加工性に優れ、成形時に大きな肌荒れを生じないDI缶用途に適した有機樹脂フィルムを被覆したDI缶用鋼板およびその製造法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、PETヘアーが製缶のしごき加工時までは軟質の材料が望ましいことから極低炭素鋼板に限定し、また、ERV値を小さくするために、結晶粒を小さくする必要があることを見い出した。そこで、本発明者は、極低炭素鋼にNb及び/またはTiを添加することにより、軟質でかつ結晶粒の小さい材料とすればPETヘアーがなく、ERV特性にすぐれることを見いだした。
【0011】
請求項1記載の本発明の有機樹脂フィルムを被覆したDI缶用鋼板は、鋼の成分として、C:0.001〜0.010重量%、Si:≦0.05重量%、Mn:≦0.9重量%、P:≦0.1重量%、S:≦0.04重量%、Al:0.010〜0.100重量%、N:≦0.0050重量%を含み、かつNb:≦0.050重量%、及び/またはTi:≦0.10重量%を含有し、さらに残部Feおよび不可避的不純物からなり、圧延方向に対して平行方向及び直角方向の結晶粒径がいずれも3.0〜10.0μmであることを特徴とする。
【0012】
請求項2記載の本発明の有機樹脂フィルムを被覆したDI缶用鋼板の製造方法は、鋼の成分として、C:0.001〜0.010重量%、Si:≦0.05重量%、Mn:≦0.9重量%、P:≦0.1重量%、S:≦0.04重量%、Al:0.010〜0.100重量%、N:≦0.0050重量%を含み、かつNb:≦0.050重量%、及び/またはTi:≦0.10重量%を含有し、さらに残部Feおよび不可避的不純物からなる熱延鋼板を、冷間圧延後、過時効処理を含むヒートサイクルでの焼鈍を行い、さらに伸び率0.5〜2.0%での調質圧延を行うことを特徴とする。
【0013】
請求項3記載の本発明の有機樹脂フィルムを被覆したDI缶用鋼板の製造方法は、鋼の成分として、C:0.001〜0.010重量%、Si:≦0.05重量%、Mn:≦0.9重量%、P:≦0.1重量%、S:≦0.04重量%、Al:0.010〜0.100重量%、N:≦0.0050重量%を含み、かつNb:≦0.050重量%、及び/またはTi:≦0.10重量%を含有し、さらに残部Feおよび不可避的不純物からなる熱延鋼板を、一次冷間圧延後、焼鈍を行い、さらに圧延率5〜30%で2次冷間圧延を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
Cが0.01重量%以下の軟質な極低炭素鋼板を使用することで、最終しごき加工時の面圧を下げ、PETヘアーの発生を抑制した。また、Nb、Tiのいずれか、または、いずれをも添加することで、結晶粒径の粗大化を抑制するため、ERV値の低減を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の鋼板に、ポリエステル等の樹脂フィルムを被覆し、円板状に打ち抜き、これをカップに絞り、連続かつ高速でDI加工方法により製缶加工を行っても、PETヘアー問題が起きず、DI缶を成形できる。
【0016】
このDI缶用途は、近年では、さらに側壁を薄肉化するために、DI成形での高リダクションが要求されるため、しごき成形時に高い面圧が鋼板と成形工具間に生じて、有機皮膜の切り口が糸状に剥がれ落ちるというPETヘアー問題が発生する。そこで、本発明者らは、しごき加工時の面圧を低減のために材料を軟質化させ、成形への荷重を低減させることで、PETヘアーを最小限にすることを発案した。したがって、鋼板としてはCが0.01重量%以下の軟質な極低炭素鋼板を用いる。
【0017】
また、極低炭素鋼板は一般に結晶粒が大きく、缶の成形後に肌荒れとなり、ERV値を悪化させる。そこで、この極低炭素鋼板にNb、及び、または、Tiを添加し、軟質な特性を損なうことなく結晶粒の微細化を図り、PETヘアーの改善と同時にERV値の改善を図った。
【0018】
その他の詳細な鋼成分の範囲とその理由を以下に示す。
【0019】
(熱延鋼板の成分)
C:0.001〜0.010重量%、Si:≦0.05重量%、Mn:≦0.9重量%、P:≦0.1重量%、S:≦0.04重量%、Al:0.010〜0.100重量%、N:≦0.0050重量%を含み、更に、Nb:≦0.050重量%、及び/または、Ti:≦0.10重量%含有し、残部Feおよび不可避的不純物より成る。
【0020】
以下に鋼成分の規制理由を述べる。
(C量)
Cは0.01重量%より多くなると硬質化し、PETヘアー問題を引き起こす。そこで、C量は0.01重量%以下とする。また、好ましくは、缶強度と結晶粒の粗大化抑制から、0.001重量%以上とする。
(Si量)
Siは缶用材料として耐食性に有害な元素であるが、Alキルド鋼としては不可避的に含有される元素であり、上限を0.05重量%とした。
(Mn量)
Mnは不純物であるSによる熱延中の赤熱脆性を防止するために必要な成分であるが、0.9重量%を越えると絞り加工性を劣化することから上限を0.9重量%とした。
(P量)
Pは結晶粒微細化に有効な成分であるが本発明においては、Nb、Tiによる結晶粒の微細化を図っているため、成形加工時の軟質化の点からは、Pは少ない方が望ましい。そこで、Pは0.1重量%以下とする。
(S量)
Sは熱延中の赤熱脆性を生じる不純物成分であり、極力少ないことが望ましいが、不可避的に含有される元素であり、上限を0.04重量%とした。
(Al量)
Alは製鋼での脱酸剤として清浄性が高い鋼板を得るために必要不可欠であり、その下限を0.01重量%とした。また、その上限は過剰な固溶Alによる硬質化を押さえるため、0.10重量%以下とする。
(N量)
Nは固溶Nとして強度アップの効果が高く、本発明では多量に含まれると望ましくない。TiとAl以外に、一部はNbと析出物を形成し、強度アップを抑制するが、その析出物も過剰な場合、結晶粒が過剰に微細化し、強度アップになる。したがって、上限を0.0050重量%以下とした。
【0021】
スラブ加熱温度、熱間圧延条件は、本発明においては特定するものではないが、スラブ加熱温度は、熱延が形状よく、また、仕上圧延がγ域で行わればよいため、1100℃以上とするのが望ましい。しかし、必ずしもγ域圧延に限定するものではない。また、熱間圧延での巻取温度は熱延時のコイル幅方向および長手方向の品質安定性を考慮して下限を450℃とし、650℃を越えると結晶粒が粗大化し、肌荒れが生じるため、巻取温度は450〜650℃の範囲が望ましい。
【0022】
冷間圧延工程
圧下率が75%未満においては、焼鈍工程で鋼板の結晶粒粗大化もしくは混粒化をもたらし、結晶粒を十分細粒化することができないので、冷間圧延の圧下率は75%を下限とすることが望ましい。また、有機樹脂フィルムからなるDI缶を成形する際には、絞り、しごき成形のために圧延平行方向に対する鋼板の極度な成形への異方性は好ましくない。したがって、より望ましくは85〜93%の圧延率にすることである。
【0023】
焼鈍工程
本発明においては、鋼板をより軟質化させるために、焼鈍は過時効処理を行うことが望ましいが、極低炭素鋼板でかつNb、Tiなどの炭化物形成元素が添加されているため、過時効効果が十分に発揮されない。したがって、必要により、C量の高い範囲(0.007〜0.01重量%)の鋼板を用いる場合、過時効処理を含むヒートサイクルでの焼鈍を施しても良い。
【0024】
上記焼鈍後、以下に示す二次冷延(調質圧延またはDR圧延)を行う。
【0025】
調質圧延
調質圧延は、伸び率が0.5〜2.0%の範囲であれば、ストレッチャストレインの発生が防止されるため、この範囲が適当である。
本発明においては、過時効処理により前記の鋼中の固溶C、Nを低減してくびれの発生やボイドの連結を抑制して深絞りにおける加工性を向上して、本発明の対象であるDI加工条件を満たすと共に、伸び率が0.5〜2.0%の範囲の調質圧延を行うことによって強度を付与し、これによって、本発明の鋼板は、DI加工に求められる高度の加工性に併せて加工時の破胴発生を生じない板強度を付与することができる。このように、本発明においては、これら2つの工程が組み合わされて、加工性と板強度それぞれの条件を達成することができる。また、この調質圧延によって極薄厚の缶において求められる所要の缶強度をも達成するものである。
【0026】
DR圧延
DR圧延は、特に成形後の缶強度をもたせる場合に行うことがあるが、圧下率は5〜30%とする。5%未満においては、圧延が困難であり、30%を越えると鋼板が高強度となり、缶成形加工に困難を来す。
このDR(Double Reduce Rolling)圧延は、調質圧延よりも、より積極的に板厚を減少させるため、板強度を増加させる圧延法である。
本発明においては、上記調質圧延とDR圧延とを含めて、二次冷延とする。
【0027】
つぎに、本発明に用いられる鋼板としては、シート状およびコイル状の鋼板、鋼箔およびそれらの鋼板等に表面処理を施したものがあげられる。特に、下層が金属クロム、上層がクロム水和酸化物の2層構造をもつ電解クロム酸処理鋼板、あるいは、ぶりき、極薄錫めっき鋼板、ニッケルめっき鋼板、亜鉛めっき鋼板およびこれらのめっき鋼板にクロム水和酸化物あるいは上層がクロム水和酸化物、下層が金属クロム層からなる2層構造をもつ表面処理をほどこしたものがポリエステル樹脂などの有機樹脂フィルムとの密着性に優れている。鋼板にラミネートする有機樹脂フィルムとしては、下記に記載の樹脂フィルムが使用できる。
【0028】
樹脂フィルムのラミネート
本発明に適用する樹脂フィルムは単層フィルムまたは2層以上の複層フィルムのいずれも適用可能であり、熱可塑性樹脂、特にポリエステル樹脂からなるフィルムであることが好ましい。ポリエステル樹脂としては、エチレンテレフタレート、エチレンイソフタレート、ブチレンテレフタレート、ブチレンイソフタレートなどのエステル単位を有するものが好ましく、さらにこれらの中から選択される少なくとも1種類のエステル単位を主体とするポリエステルであることが好ましい。このとき、各エステル単位は共重合されていてもよく、さらには2種類以上の各エステル単位のホモポリマーまたは共重合ポリマーをブレンドして用いてもよい。上記以外のもので、エステル単位の酸成分として、ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、トリメリット酸などを用いたものなど、またエステル単位のアルコール成分として、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノール、ペンタエリスリトールなどを用いたものを用いてもよい。
【0029】
このポリエステルは、ホモポリエステル或いはコポリエステル、或いはこれらの2種以上から成るブレンド物からなる2種以上のポリエステル層の積層体であってもよい。例えば、ポリエステルフィルムの下層を熱接着性に優れた共重合ポリエステル層とし、その上層を強度や耐熱性更には腐食成分に対するバリアー性に優れたポリエステル層或いは改質ポリエステル層とすることができる。
【0030】
本発明においては、無延伸のポリエステル樹脂からなるフィルムを用いることが好ましく、ポリエステル樹脂フィルムを表面処理鋼板に積層する作業において樹脂が切れたり、ポリエステル樹脂フィルムを積層した表面処理鋼板に絞り加工や絞りしごき加工のような厳しい成形加工を施しても樹脂が削れたり疵付いたりすることがなく、またクラックが生じたり割れたり、さらに剥離することがないようにするため、樹脂の固有粘度を高め、樹脂を強化させる必要がある。
【0031】
このため、上記のポリエステル樹脂の固有粘度を0.6〜1.4の範囲とすることが好ましく、0.8〜1.2の範囲とすることがより好ましい。固有粘度が 0.6未満のポリエステル樹脂を用いた場合は樹脂の強度が極端に低下し、絞り加工や絞りしごき加工を施して成形する缶に適用できない。一方、樹脂の固有粘度が1.4を超えると樹脂を加熱溶融させた際の溶融粘度が極端に高くなり、ポリエステル樹脂フィルムを表面処理鋼板に積層する作業が極めて困難になる。
【0032】
樹脂フィルムの厚さは単層フィルムの場合は5〜60μmであることが好ましく、10〜40μmであることがより好ましい。厚さが5μm未満の場合は表面処理鋼板に積層する作業が著しく困難になり、また絞り加工や絞りしごき加工を施した後の樹脂層に欠陥を生じやすく、缶に成形して内容物を充填した際に、腐食成分に対する耐透過性も十分ではない。厚さを増加させると耐透過性は十分となるが、60μmを越える厚さにすることは経済的に不利となる。複層フィルムの場合は成形加工性や、耐透過性、あるいは内容物のフレーバーに与える影響などの観点から各層の厚さの比率は変動するが、トータル厚みが5〜60μmとなるように、各層の厚さを調整する。
【0033】
また、樹脂フィルムを製膜加工する際に、樹脂中に必要な特性を損なわない範囲で着色顔料、安定剤、酸化防止剤、滑材などを含有させて、フィルムに製膜してもよい。
【0034】
有機樹脂フィルムをラミネートする方法として、加熱された表面処理鋼板に、有機樹脂フィルムを直接あるいは接着剤を介在させて行っても良い。また、溶融した樹脂を、直接表面処理鋼板にラミネートする押し出しラミネート方法を適用しても良い。これらのラミネート方法は公知の方法が適用できる。
【実施例】
【0035】
表1に示す化学成分を持った極低炭素鋼板を用い、いずれの鋼板も85%の圧延率で1次圧延の後、再結晶以上の温度で連続焼鈍(焼鈍温度730℃以上、望ましくは750℃以上、焼鈍時間:30秒、望ましくは60秒以上)を行い、1.5%の伸び率で調質圧延を施した。その後、この板厚0.225mmの鋼板に電解クロム酸処理(下層として金属クロム120mg/m、上層としてクロム水和酸化物をクロム換算で15mg/m付着したもの)を施し、次いで、缶に成形した際に外面側となる面に、エチレンテレフタレート(88モル%)とイソテレフタレート(12モル%)からなる共重合ポリエステル樹脂(固有粘度:0.8)に酸化チタン系白色顔料を20重量%含有させてなる、厚さ15μmの無延伸フィルムを、缶に成形した際に内面側となる面に、エチレンテレフタレート(88モル%)とイソテレフタレート(12モル%)からなる厚さ30μmの無延伸の透明共重合ポリエステル樹脂フィルムをそれぞれ当接して圧着し、PETフィルム被覆鋼板を得た。実施例1〜4は本発明の成分範囲内であり、比較例1〜5は本発明の成分範囲外である。評価方法は下記に示す。
【0036】
鋼板の機械特性
PETヘアーが顕著化しない強度のしきい値は、JIS5号片の引張試験における抗張力(T.S.)が450MPa(=N/mm)以下である。また、下限は缶強度から250MPa以上とする。かつ、上記抗張力に加えて、平均r値(平均ランクフォード値、(圧延方向に対して平行方向のr値+圧延方向に対して直角方向のr値+圧延方向に対して45°方向のr値×2)/4で表す)が1.45以上を良好とした。
【0037】
結晶粒径
結晶粒径は成形時の肌荒れ、また、この肌荒れによるERV不良から、圧延方向に対して平行の方向、および、圧延方向に対して直角の方向のいずれもが上限は10.0μm以下が望ましい。また、過度な微細粒は、上記のボトム耐圧を上昇させることから、下限は3.0μmが望ましい。
【0038】
成形したDI缶のボトム耐圧
実施例と比較例で作製したサンプルから、直径150mmのブランクを打ち抜き、次いで、白色に着色したフィルムを積層した面が容器の外側となるようにして直径90mmのポンチで絞る絞り工程(絞り比1.67)、その後、直径66mmのポンチで再絞り加工する再絞り工程(再絞り比1.36)に従い実施した。このカップを、3段のしごき加工ダイスからなるしごき成形装置を用いて缶径66mm、缶壁上端部の厚さが0.15mmのDI缶に成形加工した。次いで、上端部をトリミングして高さを122mmとし、フィルムのひずみ取りのため、215℃で30秒加熱処理した後、上端部を縮径加工して開口端部の径を57mmとした。次いで、開口端部を缶の外側に向かって張り出し加工し、フランジ端部の径が62mmとなるようにフランジ部を形成させ、内容物を充填する前の缶のボトム耐圧を測定した。
【0039】
この場合、缶強度の点から、ボトム耐圧は660MPa以上が望ましい。一方、ボトム耐圧が高すぎると、例えば、高温時に内容物が膨張した際に、ボトムが変形しにくく、缶のキャップの箇所で破裂する現象が生じ、好ましくない。そこで、ボトム耐圧の上限は780MPaとする。すなわち、適正なボトム耐圧の範囲を660〜780MPaとした。
【0040】
成形したDI缶のPETヘアーの発生
上記ボトム耐圧の項において、DI缶に成形した直後、缶の開口部を肉眼観察により、PETヘアーの発生状況を調べた。PETヘアーの発生が認められなかった場合を無と評価し、少しでも認められた場合を有と評価した。
【0041】
ERV値
上記ボトム耐圧の項において、熱処理後のDI缶のERVを測定した。0.1mA以下の場合をERV不良無と評価し、その値を超えた場合をERV不良有りと評価した。
【0042】
【表1】

【表2】

【0043】
特性の評価結果を表2に示す。表2の総合判定はT.S.、r値、結晶粒径、ボトム耐圧、PETヘアー発生の有無、ERV不良発生の有無の6項目のすべてを満足するものを○、いずれかひとつでも満足しければ×とした。比較例1はNb、Tiが添加されておらず、圧延方向での結晶粒が大きく、ERV不良を引き起こした。また、比較例2、3はそれぞれ、Nb量、Ti量が高く、連続焼鈍での再結晶が不十分のため硬質であり、ボトム耐圧は高く、かつ、PETヘアーも発生した。比較例4はC量が高いため、硬質でボトム耐圧が高く、かつ、PETヘアーも発生した。比較例5は2次圧延率が高く、硬質であり、ボトム耐圧が高く、かつ、PETヘアーも発生した。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明により、成形時の軟質化より、連続高速でのDI加工時においても、PETヘアーが起きず、しかも、結晶粒の粗大化を抑制したため、肌荒れが小さく、ERV不良問題を起こさない、有機樹脂フィルムを被覆したDI缶用途に適した鋼板を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼の成分として、C:0.001〜0.010重量%、Si:≦0.05重量%、Mn:≦0.9重量%、P:≦0.1重量%、S:≦0.04重量%、Al:0.010〜0.100重量%、N:≦0.0050重量%を含み、かつNb:≦0.050重量%及び/または、Ti:≦0.10重量%を含有し、さらに残部Feおよび不可避的不純物からなり、圧延方向に対して平行方向及び直角方向の結晶粒径がいずれも3.0〜10.0μmであることを特徴とする有機樹脂フィルムを被覆したDI缶用鋼板。
【請求項2】
鋼の成分として、C:0.001〜0.010重量%、Si:≦0.05重量%、Mn:≦0.9重量%、P:≦0.1重量%、S:≦0.04重量%、Al:0.010〜0.100重量%、N:≦0.0050重量%を含み、かつNb:≦0.050重量%、及び/または、Ti:≦0.10重量%を含有し、さらに残部Feおよび不可避的不純物からなる熱延鋼板を、冷間圧延後、過時効処理を含むヒートサイクルで焼鈍を行い、さらに伸び率0.5〜2.0%での調質圧延を行うことを特徴とする有機樹脂フィルムを被覆したDI缶用鋼板の製造方法。
【請求項3】
鋼の成分として、C:0.001〜0.010重量%、Si:≦0.05重量%、Mn:≦0.9重量%、P:≦0.1重量%、S:≦0.04重量%、Al:0.010〜0.100重量%、N:≦0.0050重量%を含み、かつNb:≦0.050重量%、及び/または、Ti:≦0.10重量%を含有し、さらに残部Feおよび不可避的不純物からなる熱延鋼板を、一次冷間圧延後、焼鈍を行い、さらに圧延率5〜30%で2次冷間圧延を行うことを特徴とする有機樹脂フィルムを被覆したDI缶用鋼板の製造方法。

【公開番号】特開2006−45590(P2006−45590A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−224574(P2004−224574)
【出願日】平成16年7月30日(2004.7.30)
【出願人】(390003193)東洋鋼鈑株式会社 (265)
【Fターム(参考)】