説明

有機溶剤分散性導電性高分子およびその製造方法

【課題】 様々な有機溶剤に溶解性を有するドーパント化合物を用いることにより、有機溶剤への分散が容易であり、優れた電気伝導性を有する導電性高分子およびその製造方法を提供することにある。
【解決手段】 有機溶媒への分散が容易な導電性高分子およびその製造方法に関し、特に、単量体の重合において有機溶媒に可溶性であるリン酸系化合物をドーパントの陰イオンとして用いて化学重合させることにより、有機溶媒に分散される導電性高分子を製造する方法であり、簡易な工程で様々な有機溶媒に分散される導電性高分子を得ることができるので、既存の水系分散型の導電性高分子では応用が制限された様々な応用素材分野への適用が可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、様々な有機溶剤に分散される導電性高分子の製造方法に関し、特に、導電性高分子の合成時に有機溶剤に高い溶解性を有するドーパントを用いることにより、有機溶剤への分散が容易であり、且つ優れた電気伝導性を有する導電性高分子を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェンおよびその誘導体のような導電性高分子(intrinsically conducting polymers)は、一般的に電気絶縁性の従来の高分子とは異なり、ドーピング過程を通じて可変的な電気伝導性を示すため、これを静電気防止材料、キャパシタ、電気変色素子、ディスプレイ用フィルム素材などの応用分野に適用するための多くの研究が行われている。
【0003】
しかしながら、導電性高分子は、分子間の強い引力とドーパントとして用いられる陰イオンの影響で溶媒に溶解せず、加工性が低下するという欠点があり、これを克服して現在市販されているポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)/ポリスチレン酸(Clevios P、ドイツH.C.Starck社製)の場合も、導電性高分子が水にだけ分散される形態であるので、特定の分野への適用は制限的であるという問題点がある。
【0004】
このような問題点を解決するために様々な方法が試みられている。
【0005】
例えば、特許文献1には、ヘテロ芳香族導電性高分子ブロックと有機溶媒に溶解性を付与するエチレンオキシドブロックとを共重合させるか、或いは導電性高分子オリゴマーにメタクリレート又はその他アクリレート基をエンドキャッピング(end-capping)させることにより、ニトロメタン、プロピレンカーボネートなどの有機溶媒に分散した導電性高分子を製造する方法について開示されている。
【0006】
前記の方法は、有機溶媒に対する分散性を付与するために、導電性高分子鎖の結合構造自体を変化させるものであって、合成および重合過程が数段階であるため、製造が難しく、且つ物性の調節が容易でなく、そして合成された導電性高分子の電気伝導度が悪くなるという問題点がある。
【0007】
また、非特許文献1には、導電性高分子化合物を合成する時、立体構造の安定剤として、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセテート又はセルロース誘導体などを用いて生成される高分子化合物の粒子を小さくして、高分子化合物が溶液中に容易に分散されるような方法が報告されている。しかしながら、前記の方法は、ポリビニルアルコールが分散安定剤としてだけ作用し、ドーパントとして作用できないので、最終的に電気伝導性フィルムを形成した場合、不純物として電気伝導度を低下させてしまう役割をするという問題点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許US2003/0088032 A1
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Polymer(vol. 33, pp. 4857,1992)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、前記のような従来技術の問題点を解決するためになされたものであって、本発明の目的は、様々な有機溶剤に溶解性を有するドーパント化合物を用いることにより、有機溶剤への分散が容易であり、優れた電気伝導性を有する導電性高分子およびその製造方法を提供することにある。本発明が解決しようとする課題は、以上で言及した課題に制限されず、言及されなかったまた他の課題も下記により当業者に明確に理解されるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る有機溶剤分散性導電性高分子は、下記一般式1で表される導電性高分子単量体を、ドーパントとして有機溶媒に可溶性である下記一般式2のリン酸化合物を用いて重合することにより製造される。
【0012】
【化1】

【0013】
式中、RとRは、3〜8員(membered)の脂環式環又は芳香環構造のアルキレン、アルケニレン、アルケニルオキシ、アルケニルジオキシ、アルキニルオキシ、アルキニルジオキシから構成されるか、或いは、それぞれ水素、ハロゲン又は、炭素数1〜15のアルキル、アルコキシ、カルボニル、ヒドロキシ基から構成される。また、ヘテロ原子Xは、硫黄(S)、酸素(O)、セレニウム(Se)およびNHからなる群より選ばれる。
【0014】
【化2】

【0015】
式中、RおよびRは、それぞれ炭素数1〜20のアルキル、イソアルキル、アルコキシ、アルコキシアルキル、アルキルスルホニル、アルコキシスルホニル、アルキルシラン、アルコキシシランからなる群より選ばれるいずれか一つを表わす。
【0016】
また、本発明は、前記の方法で製造された導電性高分子に様々な機能性を付与するために、様々なバインディング物質と混合した導電性高分子複合体の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る有機溶剤分散性導電性高分子は、有機溶剤に溶解性が高いリン酸(phosphate)系化合物をドーパントとして用いることにより、様々な有機溶剤に対する高い分散性を有する一方、優れた電気伝導性を有するという効果を奏する。また、本発明の導電性高分子の製造方法は、高い電気伝導性と有機溶剤に対する分散性を有し、且つその製造方法が簡易であるという利点がある。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0019】
本発明は、下記一般式1で表される単量体を下記一般式2で表されるリン酸系化合物(phosphate-based compound)をドーパンの陰イオンとして使用して化学重合させることにより、下記一般式3で代表される有機溶剤分散性導電性高分子およびそれを製造する方法を提供する。
【0020】
【化1】

【0021】
式中、RとRは、3〜8員(membered)の脂環式環又は芳香環構造のアルキレン、アルケニレン、アルケニルオキシ、アルケニルジオキシ、アルキニルオキシ、アルキニルジオキシから構成されるか、或いは、それぞれ水素、ハロゲン又は、炭素数1〜15のアルキル、アルコキシ、カルボニル、ヒドロキシ基から構成される。また、ヘテロ原子Xは、硫黄(S)、酸素(O)、セレニウム(Se)およびNHからなる群より選ばれる。
【0022】
【化2】

【0023】
式中、RおよびRは、それぞれ炭素数1〜20のアルキル、イソアルキル、アルコキシ、アルコキシアルキル、アルキルスルホニル、アルコキシスルホニル、アルキルシラン、アルコキシシランからなる群より選ばれるいずれか一つを表わす。
【0024】
また、本発明は、下記一般式3の導電性高分子に様々な機能性を付与するために、様々なバインディング物質と混合した導電性高分子複合体を提供する。
【0025】
【化3】

【0026】
式中、Yは、前記一般式2のリン酸系化合物を含むドーパントの陰イオンを表わす。
【0027】
本発明に係る有機溶剤分散性導電性高分子の製造方法は、前記一般式1の単量体および前記一般式2のリン酸系化合物を水系又は非水系合成溶媒中に投入し、これと別に、酸化剤を水に溶解させた後、これを前記混合溶液に添加して重合反応をさせることにより、導電性高分子溶液を作製する。また、重合反応の完了後、導電性高分子物質を析出させて粒子状で得た後に、再び溶媒に分散させるのではなく、重合反応の完了後、有機層を分離して未反応物質と不純物とを除去する段階を経ることにより、重合反応後導電性高分子が溶媒に分散されている導電性高分子分散液を直接得ることができる。
【0028】
前記一般式1で表された単量体として用いられる望ましい例としては、アニリン、ピロールおよびその塩、又は、誘導体、3-メチルチオフェン、3-ヘキシルチオフェン、3-オクチルチオフェン、3-メトキシチオフェン、ジメトキシチオフェン、ジエトキシチオフェン、ジプロポキシチオフェン、ジブトキシチオフェン、メチレンジオキシチオフェン、エチレンジオキシチオフェン、プロピレンジオキシチオフェン、ブチレンジオキシチオフェンなどがある。
【0029】
前記一般式2で表される化合物として用いられる望ましい例としては、極性官能基としてリン酸基を有し、非極性官能基として2-エチルヘキシル基を有するビス(2-エチルヘキシル)リン酸又はその塩が挙げられる。ここで、リン酸基は導電性高分子のドーパントの陰イオンとして作用し、2-エチルヘキシル基は様々な有機溶剤に対する分散性を示す効果を有することになる。また、ビス(2-エチルヘキシル)リン酸の2-エチルヘキシル基は疏水性である反面、リン酸は親水性であるため、親水性溶媒と疏水性溶媒とを混合した混合溶媒に溶解するとミセル(micelle)構造を形成することにより、導電性高分子をエマルジョン重合で製造することができ、これにより製造される有機溶剤分散性導電性高分子は、前記の化合物によって様々な有機溶剤に対する分散性が高いという特徴がある。
【0030】
また、前記一般式2の化合物と共に他種類のドーパントを同時に用いると、前記一般式2の化合物は有機溶剤に対する分散性を高める役割をし、他種類のドーパントは最終的に形成される導電性高分子の電気伝導性を高める役割することから、より望ましい形態に製造することができる。前記一般式2の化合物と共に用いることができる混合ドーパントとしては、特に限定されないが、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、2-ナフタレンスルホン酸、2,6-ナフタレンジスルホン酸、アントラキノンスルホン酸、アントラキノンジスルホン酸などの芳香族スルホン酸、又はメチル硫酸、ジメチル硫酸、エチル硫酸、ジエチル硫酸などの(ジ)アルキル硫酸を用いることができる。
【0031】
ここで、ドーパントの含有量は、導電性高分子単量体(モノマー)1モルに対して0.1〜100モル比、望ましくは1〜10モル比で構成できる。また、ビス(リン酸)系ドーパント(bis(phosphate)-based dopant)と他のドーパントとの比は、重量比を基準に100:0〜10:90にすることが望ましい。
【0032】
前記単量体の重合時に用いられる溶媒としては、水、又は水と有機溶媒との混合溶媒があり、水と有機溶媒との混合溶媒を用いる場合、用いられる有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノールなどのアルコール溶媒、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ブチルエチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル溶媒、エチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテルなどのアルコールエーテル溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン溶媒、N-メチル-2-ピロリジノン、2-ピロリジノン、N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミドなどのアミド溶媒、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシドなどのスルホキシド溶媒、ジエチルスルホン、テトラメチレンスルホンなどのスルホン溶媒、アセトニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル溶媒、アルキルアミン、環状アミン、芳香族アミンなどのアミン溶媒、メチルブチレート、エチルブチレート、プロピルプロピオネートなどのエステル溶媒、エチルアセテート、ブチルアセテートなどのカルボン酸エステル溶媒、ベンゼン、エチルベンゼン、クロロベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素溶媒、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素溶媒、クロロホルム、テトラクロロエチレン、カーボンテトラクロライド、ジクロロメタン、ジクロロエタンのようなハロゲン化された炭化水素溶媒、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジブチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジブチルカーボネート、ニトロメタン、ニトロベンゼンから選ばれるいずれか一つ又はそれ以上の混合物である。
【0033】
ここで、水と有機溶媒とを混合した合成溶媒の混合比は、重量比を基準に100:0〜10:90に構成することができる。
【0034】
前記一般式1の単量体および前記一般式2のリン酸系化合物を水系又は非水系合成溶媒中に投入した後、これと別に導電性高分子の重合のために酸化剤を水に溶解させて添加して重合反応を開始する。前記重合反応時、高速撹はん器(200〜3000rpm)で重合すると、合成された導電性高分子の粒子の大きさが小さくなるため、伝導度を高めるのにより一層効果的である。
【0035】
本発明に使用できる酸化剤は、一般的に導電性高分子の重合反応を誘導するものであれば限定されず、その具体的な例としては、FeCl、Fe(ClO)、Fe(SO)、Fe(S)等の鉄(III)からなる塩をはじめとして、鉄(III)-無機酸塩および、鉄(III)-トルエンスルホネート、鉄(III)-カンファースルホネート(camphor sulfonate)などの鉄(III)-有機酸塩があり、過硫酸アンモ二ウム((NH))、過硫酸ナトリウム(Na)、過硫酸カリウム(K)などの過硫酸塩、アルカリ過ホウ酸塩、過マンガン酸カリウム、重クロム酸カリウム、銅塩、過酸化水素などが用いられる。
【0036】
重合反応の完了後、反応液を所定時間放置すると、導電性高分子が含まれた有機層と水層とに分かれるが、この時、導電性高分子が含まれた有機層を分離及び回収する。前記導電性高分子が含まれた有機層には、不純物と未反応の反応物とが残っているため、これらを洗浄溶媒で数回洗浄して精製する。
【0037】
前記洗浄溶媒としては、水、メチルアルコール、2-ブチルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、エチルカルビトール、ブチルカルビトール、アセトン又はこれらの混合物を用いることができる。
【0038】
本発明により製造された導電性高分子は、重合過程で用いられた酸化剤および混合ドーパントの種類に応じて10−5S/cm〜100S/cmの電気伝導度を示し、ビス(2-エチルヘキシル)リン酸と混合ドーパントによってn-ブタノール、ジメチルスルホキシド、N-メチルピロリジノン、ジメチルホルムアミド、プロピレンカーボネート、ニトロメタンなどのような有機溶剤に容易に分散される特徴がある。
【0039】
また、本発明により製造された導電性高分子は、エチルアセテート、トルエン、キシレンなどのような非極性溶媒には分散性が低下するものの、先にn-ブタノールに分散した形態で収得した後に非極性溶媒を混合して使用すると、粒子の凝集が起きることなく、混合される特徴がある。
【0040】
上述したように有機溶剤に分散した導電性高分子は、各種有機溶剤タイプの有機又は無機バインダーとの相溶性が良いため、有機溶剤に導電性高分子およびバインダーを混合して製造した有機溶剤の帯電防止コーティング液として用いることが可能である。この時、バインダーは、最終的に形成されたコーティング塗膜の接着力、成形性、耐スクラッチ性および耐久性を調節する目的に用いられ、導電性高分子およびバインダーの含有量の比率により表面抵抗を多様に調節することができる。導電性高分子と混合される前記バインダーの例として、ウレタン基、エポキシ基、カルボキシル基、カルボニル基、アクリル基、ヒドロキシ基、エステル基、エーテル基、アミド基、イミド基、マレイン酸基、ビニルアセテート基などの有機バインダー、およびケイ酸塩、チタン酸塩などの無機成分を含む無機バインダーがあるが、これに限定されず、通常当業界で用いられる有機又は無機バインダーの中から選ばれるいずれか一つ又はそれ以上を混合して用いることができる。この時、前記バインダーの含有量は、導電性高分子の重量比に対して0.1〜100倍混合して用いることが可能である。
【0041】
これは、バインダーの含有量が導電性高分子の含有量に対して100倍を超えると、最終的に形成されたコーティング塗膜の表面抵抗値が増加して要求される基準値を満足させにくく、0.1倍未満であると、バインダーを混合することによって期待されるコーティング物性の向上を実現しにくいからである。
【0042】
上述の技術は、リン酸化合物を導電性高分子のドーパントの陰イオンとして用いることから、導電性高分子を有機溶媒に分散させる方法であって、導電性高分子、ドーパントおよび合成溶媒の種類を適宜選ぶことにより、有機溶媒に対する分散性を高めるだけでなく、電気伝導度も高めることができるため、様々な応用分野への利用が可能である。
【0043】
(実施の形態)
以下、本発明に係る有機溶剤分散性導電性高分子およびその製造方法を実施例によって詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【実施例1】
【0044】
90mlの蒸溜水が入っている丸底フラスコに、3,4-エチレンジオキシチオフェン(EDOT)単量体1.4gおよびビス(2-エチルヘキシル)リン酸塩(bis(2-ethylhexyl)phosphate)3.2gを入れて混合および撹はんする。これと別に過硫酸アンモニウム(APS)2.3gを10mlの蒸溜水に溶解させた後、前記過硫酸アンモニウム水溶液をEDOT単量体とビス(2-エチルヘキシル)リン酸塩との混合物にゆっくり投入して重合反応を開始する。反応物を0℃の温度で72時間撹はんして重合反応を完了した後、沈殿物を分離および回収した。前記沈殿物は、不純物の除去のために水とアルコールとを用いて3回洗浄した後、60℃の条件で24時間真空乾燥した。前記生成物は、極性有機溶剤のジメチルスルホキシドに5重量%で溶解させ、これをキャスティングして製造したフィルムの電気伝導度は、用いられた溶媒に応じて4.0×10−1S/cmの値を示した。
【実施例2】
【0045】
110mlの蒸溜水が入っている丸底フラスコに、ピロール(pyrrole)単量体2.1gおよびビス(2-エチルヘキシル)リン酸塩3.5gを入れて混合および撹はんする。これと別に第4塩化鉄(FeCl)1.3gを10mlの蒸溜水に溶解させた後、前記第4塩化鉄水溶液をピロール単量体とビス(2-エチルヘキシル)リン酸塩との混合物にゆっくり投入して重合反応を開始する。反応物を0℃の温度で3時間高速撹はんして重合反応を完了した後、沈殿物を分離および回収した。前記沈殿物は、不純物の除去のために水とアルコールとを用いて3回洗浄した後、60℃の条件で24時間真空乾燥した。前記生成物を極性有機溶剤のn-メチルピロリジノンに3重量%で溶解し、これをキャスティングして製造したフィルムの電気伝導度(4端子法、Keithley 2400)は、用いられた溶媒に応じて1.4S/cmの値を示した。
【実施例3】
【0046】
実施例3は、合成溶媒として100mlの蒸溜水を用いる代わりに、蒸溜水60 mlとn-ブタノール40mlの混合溶媒で重合反応を開始したことを除いては、実施例1と同様に重合反応を行った。重合反応が完了した後、分液漏斗で3時間放置してポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)が含まれている有機層と水層を分離し、分離した有機層を水とアルコールで交互に3回洗浄して未反応物質と不純物とを除去した。洗浄した有機層は、MgSOを用いて残存水を完全に除去し、このように得られたPEDOTをエチルアセテートで希釈してバーコーターNo.16(No.16 bar coater)を用いてPETフィルムの上にコーティングし、80℃で2分間乾燥した後、表面抵抗を測定した結果、10ohms/sqであった。
【実施例4】
【0047】
70mlの蒸溜水および30mlのn-ブタノールが混合された混合溶媒に、3,4-エチレンジオキシチオフェン(EDOT)単量体1.4gと混合ドーパントとしてビス(2-エチルヘキシル)リン酸塩2.7gおよびジエチル硫酸0.8gを混合して投入した。これと別に過硫酸アンモニウム(APS)2.3gを10mlの蒸溜水に溶解させた後、前記過硫酸アンモニウム水溶液をEDOT単量体、ビス(2-エチルヘキシル)リン酸塩、ジエチル硫酸の混合物にゆっくり投入して重合反応を開始した。前記反応物を0℃の温度で72時間撹はんして重合反応を完了した後、分液漏斗で3時間放置してポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)が含まれている有機層と水層を分離し、分離した有機層を水とアルコールで交互に3回洗浄して未反応物質と不純物とを除去した。洗浄した有機層は、MgSOを用いて残存水を完全に除去し、このように得られたPEDOTをエチルアセテートで希釈してバーコーターNo.16を用いてPETフィルムの上にコーティングし、80℃で2分間乾燥した後、表面抵抗を測定した結果、10ohms/sqであった。
【実施例5】
【0048】
実施例5は、実施例4により製造された有機溶剤分散性導電性高分子分散液を有機溶剤タイプのアクリルバインダーと混合して帯電防止コーティング液を製造した。この時、有機溶剤分散性導電性高分子は、固形分の含有量が5%であって、n-ブタノール/エチルアセテート(体積比:10/90)の混合溶媒に分散させて製造し、アクリルバインダーとしては、光重合が可能なビスフェノールA-エチレングリコールジアクリレートを用いた。前記帯電防止コーティング液は、導電性高分子40重量部、ビスフェノールA-エチレングリコールジアクリレート30重量部、光開始剤として1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン2重量部、光安定剤としてDisperbyk-106(BYK社製)0.5重量部およびエチルアセテート27.5重量部を混合して製造した。前記帯電防止コーティング液をバーコーターNo.16を用いてPETフィルムに塗布した後、80℃の温度で2分間乾燥させ、UVランプを用いて300mJ/cmの光量で硬化させた。その後、表面抵抗は10ohms/sqであり、鉛筆硬度によって表面硬度を測定した結果、2Hであることから、表面硬度が増加したことを確認することができた。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明に係る有機溶剤分散性導電性高分子は、帯電防止コーティング剤など様々な帯電防止分野やキャパシタ、電気変色素子、ディスプレイ用フィルム素材などの様々な分野への活用が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式1の単量体が下記一般式2のリン酸系化合物をドーパントとして重合された有機溶剤分散性導電性高分子。
【化1】

式中、RとRは、3〜8員(membered)の脂環式環又は芳香環構造のアルキレン、アルケニレン、アルケニルオキシ、アルケニルジオキシ、アルキニルオキシ、アルキニルジオキシから構成されるか、或いは、それぞれ水素、ハロゲン又は、炭素数1〜15のアルキル、アルコキシ、カルボニル、ヒドロキシ基から構成される。また、ヘテロ原子Xは、硫黄(S)、酸素(O)、セレニウム(Se)およびNHからなる群より選ばれる。
【化2】

式中、RおよびRは、それぞれ炭素数1〜20のアルキル、イソアルキル、アルコキシ、アルコキシアルキル、アルキルスルホニル、アルコキシスルホニル、アルキルシラン、アルコキシシランからなる群より選ばれるいずれか一つを表わす。
【請求項2】
前記ドーパントの含有量は、前記単量体1モルに対して0.1〜100モル比であることを特徴とする請求項1に記載の有機溶剤分散性導電性高分子。
【請求項3】
前記一般式2のリン酸系化合物のドーパントは、芳香族スルホン酸(又は、芳香族スルホン酸の塩)又は炭素数1〜10のアルキル基を有するアルキル硫酸を混合した混合ドーパントとして用いられることを特徴とする請求項1又は2に記載の有機溶剤分散性導電性高分子。
【請求項4】
前記芳香族スルホン酸(又は、芳香族スルホン酸の塩)としては、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、2-ナフタレンスルホン酸、2,6-ナフタレンジスルホン酸、アントラキノンスルホン酸、およびアントラキノンジスルホン酸を含む芳香族スルホン酸、又はメチル硫酸、ジメチル硫酸、エチル硫酸、ジエチル硫酸などの(ジ)アルキル硫酸を用いることを特徴とする請求項3に記載の有機溶剤分散性導電性高分子。
【請求項5】
前記一般式1の単量体は、アニリン、ピロールおよびその塩、又は、誘導体、3-メチルチオフェン、3-ヘキシルチオフェン、3-オクチルチオフェン、3-メトキシチオフェン、ジメトキシチオフェン、ジエトキシチオフェン、ジプロポキシチオフェン、ジブトキシチオフェン、メチレンジオキシチオフェン、エチレンジオキシチオフェン、プロピレンジオキシチオフェン、ブチレンジオキシチオフェンの中から選ばれるいずれか一つであるか、又は、
前記一般式2の化合物は、極性官能基としてリン酸基を有し、非極性官能基として2-エチルヘキシル基を有するビス(2-エチルヘキシル)リン酸又はその塩であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の有機溶剤分散性導電性高分子。
【請求項6】
下記一般式3の有機溶剤分散性導電性高分子。
【化3】

式中、RとRは、3〜8員(membered)の脂環式環又は芳香環構造のアルキレン、アルケニレン、アルケニルオキシ、アルケニルジオキシ、アルキニルオキシ、アルキニルジオキシから構成されるか、或いは、それぞれ水素、ハロゲン又は、炭素数1〜15のアルキル、アルコキシ、カルボニル、ヒドロキシ基から構成される。また、ヘテロ原子Xは、硫黄(S)、酸素(O)、セレニウム(Se)およびNHからなる群より選ばれる。Yは、前記一般式2のリン酸系化合物を含むドーパントの陰イオンを表わす。
【請求項7】
前記Yのリン酸系化合物の陰イオンは、
極性官能基としてリン酸基を有し、非極性官能基として2-エチルヘキシル基を有するビス(2-エチルヘキシル)リン酸又はその塩のドーパントから発生するか、又は、
前記リン酸系化合物と芳香族スルホン酸(又は、芳香族スルホン酸の塩)又は、炭素数1〜10のアルキル基を有するアルキル硫酸が混合された混合ドーパントから発生することを特徴とする請求項6に記載の有機溶剤分散性導電性高分子。
【請求項8】
下記一般式1の単量体を、下記一般式2のリン酸系化合物がドーパントとして存在している状態の溶媒下で酸化剤で化学重合させることにより、有機溶剤への分散が容易なように製造することを特徴とする有機溶剤分散性導電性高分子の製造方法。
【化1】

式中、RとRは、3〜8員(membered)の脂環式環又は芳香環構造のアルキレン、アルケニレン、アルケニルオキシ、アルケニルジオキシ、アルキニルオキシ、アルキニルジオキシから構成されるか、或いは、それぞれ水素、ハロゲン又は、炭素数1〜15のアルキル、アルコキシ、カルボニル、ヒドロキシ基から構成される。また、ヘテロ原子Xは、硫黄(S)、酸素(O)、セレニウム(Se)およびNHからなる群より選ばれる。
【化2】

式中、RおよびRは、それぞれ炭素数1〜20のアルキル、イソアルキル、アルコキシ、アルコキシアルキル、アルキルスルホニル、アルコキシスルホニル、アルキルシラン、アルコキシシランからなる群より選ばれるいずれか一つを表わす。
【請求項9】
前記ドーパントの含有量は、前記単量体1モルに対して0.1〜100モル比であることを特徴とする請求項8に記載の有機溶剤分散性導電性高分子の製造方法。
【請求項10】
前記一般式2のリン酸系化合物と共に混合して用いられるドーパントとして、芳香族スルホン酸(又は、芳香族スルホン酸の塩)又は、炭素数1〜10のアルキル基を有するアルキル硫酸が用いられることを特徴とする請求項8又は9に記載の有機溶剤分散性導電性高分子の製造方法。
【請求項11】
前記芳香族スルホン酸(又は、芳香族スルホン酸の塩)としては、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、2-ナフタレンスルホン酸、2,6-ナフタレンジスルホン酸、アントラキノンスルホン酸、およびアントラキノンジスルホン酸を含む芳香族スルホン酸、又は、メチル硫酸、ジメチル硫酸、エチル硫酸、ジエチル硫酸などの(ジ)アルキル硫酸を用いることを特徴とする請求項10に記載の有機溶剤分散性導電性高分子の製造方法。
【請求項12】
前記酸化剤は、FeCl、Fe(ClO)、Fe(SO)、Fe(S)を含む鉄(III)からなる塩、鉄(III)-無機酸塩、鉄(III)-トルエンスルホネート、鉄(III)-カンファースルホネート(camphor sulfonate)を含む鉄(III)-有機酸塩、過硫酸アンモ二ウム((NH))、過硫酸ナトリウム(Na)、過硫酸カリウム(K)を含む過硫酸塩、アルカリ過ホウ酸塩、過マンガン酸カリウム、重クロム酸カリウム、又は、銅塩、過酸化水素などを用いることを特徴とする請求項8〜11のいずれか一項に記載の有機溶剤分散性導電性高分子の製造方法。
【請求項13】
前記溶媒は、水又は有機溶媒であるか、或いは水と有機溶媒との混合溶媒であることを特徴とする請求項8〜12のいずれか一項に記載の有機溶剤分散性導電性高分子の製造方法。
【請求項14】
前記有機溶媒は、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノールを含むアルコール溶媒と、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ブチルエチルエーテル、テトラヒドロフランを含むエーテル溶媒と、エチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテルを含むアルコールエーテル溶媒と、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンを含むケトン溶媒と、N-メチル-2-ピロリジノン、2-ピロリジノン、N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミドを含むアミド溶媒と、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシドを含むスルホキシド溶媒と、ジエチルスルホン、テトラメチレンスルホンを含むスルホン溶媒と、アセトニトリル、ベンゾニトリル含むニトリル溶媒と、アルキルアミン、環状アミン、芳香族アミンを含むアミン溶媒と、メチルブチレート、エチルブチレート、プロピルプロピオネートを含むエステル溶媒と、エチルアセテート、ブチルアセテートを含むカルボン酸エステル溶媒と、ベンゼン、エチルベンゼン、クロロベンゼン、トルエン、キシレンを含む芳香族炭化水素溶媒と、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサンを含む脂肪族炭化水素溶媒と、クロロホルム、テトラクロロエチレン、カーボンテトラクロライド、ジクロロメタン、ジクロロエタンを含むハロゲン化された炭化水素溶媒と、プロピレンカーボネートと、エチレンカーボネートと、ジメチルカーボネートと、ジブチルカーボネートと、エチルメチルカーボネートと、ジブチルカーボネートと、ニトロメタンと、ニトロベンゼンからなる群より選ばれるいずれか一つ又は二つ以上が混合されることを特徴とする請求項13に記載の有機溶剤分散性導電性高分子の製造方法。
【請求項15】
前記水と有機溶媒とを混合した混合溶媒の混合比は、重量比を基準に100:0〜10:90であることを特徴とする請求項13又は14に記載の有機溶剤分散性導電性高分子の製造方法。
【請求項16】
前記一般式1の単量体は、アニリン、ピロールおよびその塩、又は、誘導体、3-メチルチオフェン、3-ヘキシルチオフェン、3-オクチルチオフェン、3-メトキシチオフェン、ジメトキシチオフェン、ジエトキシチオフェン、ジプロポキシチオフェン、ジブトキシチオフェン、メチレンジオキシチオフェン、エチレンジオキシチオフェン、プロピレンジオキシチオフェン、ブチレンジオキシチオフェンの中から選ばれるいずれか一つであるか、又は、
前記一般式2の化合物は、極性官能基としてリン酸基を有し、非極性官能基として2-エチルヘキシル基を有するビス(2-エチルヘキシル)リン酸又はその塩であることを特徴とする請求項8〜15のいずれか一項に記載の有機溶剤分散性導電性高分子の製造方法。
【請求項17】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の導電性高分子、又は請求項8〜16に記載のいずれか一項の方法により製造された導電性高分子と、
有機又は無機バインダーと、
を含む導電性高分子複合体。
【請求項18】
前記バインダー物質は、ウレタン基、エポキシ基、カルボキシル基、カルボニル基、アクリル基、ヒドロキシ基、エステル基、エーテル基、アミド基、イミド基、マレイン酸基、ビニルアセテート基を含む有機バインダー、又は、ケイ酸塩、チタン酸塩を含む無機成分を含む無機バインダーの中から選ばれるいずれか一つ又はそれ以上であることを特徴とする請求項17に記載の有機溶剤分散性導電性高分子複合体。
【請求項19】
前記バインダーの含有量は、前記導電性高分子の重量比に対して0.1〜100倍であることを特徴とする請求項17又は18に記載の有機溶剤分散性導電性高分子複合体。

【公表番号】特表2011−527712(P2011−527712A)
【公表日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−517357(P2011−517357)
【出願日】平成21年7月11日(2009.7.11)
【国際出願番号】PCT/KR2009/003812
【国際公開番号】WO2010/005271
【国際公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【出願人】(508137992)
【Fターム(参考)】