説明

有機無機複合組成物及びその製造方法

【課題】有機無機複合組成物において、黒鉛を含有させたポリアミド樹脂組成物と同等以上の耐磨耗性を持ちながら、耐衝撃強度や引っ張り破断伸びにも優れていること。
【解決手段】樹脂・ゾル混合工程S10において熱硬化性樹脂としてのレゾール型フェノール樹脂のメタノール溶液にシリカゾルを攪拌しながら添加して混合し、この混合液を熱硬化工程S11において加熱して硬化させ、次にこの有機無機複合体固形物を複合体粉砕工程S12において回転式粉砕機で微細粉末に粉砕し、この微細粉末を樹脂・粉砕物混合工程S13において熱可塑性樹脂としてのナイロン6樹脂(ペレット)と均一に混合して、この混合物を加熱溶融混練工程S14において加熱混練することによって、高強度で優れた諸特性を有する有機無機複合組成物が得られる。更に、この有機無機複合組成物を加熱加圧成形工程S15において射出成形して、有機無機複合成形体が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂組成物の諸特性を向上させるためにシリカ等の無機微粒子を均一分散させた有機無機複合組成物とその製造方法に関するものであり、特に無機微粒子と熱可塑性樹脂材料の親和性を向上させて緻密な複合体構造を得ることができる有機無機複合組成物及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ナイロン樹脂等の熱可塑性樹脂材料の性能、特に耐摩耗性及び耐熱性を向上させるため、有機無機ハイブリッド化が行われている。例えば、特許文献1に記載されたポリアミド樹脂組成物の発明においては、ポリアミド100重量部に対して、固定炭素が80%以上であり結晶化度が65%以上でありかつ平均粒径が1μm〜20μmの範囲にある黒鉛1重量部〜200重量部を含有せしめてなるポリアミド樹脂組成物について開示している。かかるポリアミド(ナイロン)樹脂組成物は、耐熱性・流動性・成形性・機械物性・寸法精度及び耐磨耗性に優れるため、エンジニアリングプラスチックとして有用な材料であるとしている。
【特許文献1】特開平5−3149号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記特許文献1に記載されたポリアミド樹脂組成物は、確かに摺動性(耐磨耗性)には優れているが、耐衝撃強度や引っ張り破断伸びが小さいため、エンジニアリングプラスチックとしてカム等の部材に用いられた場合には不都合を生ずる可能性があるという問題点があった。
【0004】
そこで、本発明は、上記黒鉛を含有させたポリアミド樹脂組成物と同等以上の摺動性(耐磨耗性)を持ちながら、耐衝撃強度や引っ張り破断伸びにも優れている有機無機複合組成物及びその製造方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1の発明にかかる有機無機複合組成物は、有機合成樹脂の溶液にシリカゾルまたはチタニアゾルを攪拌しながら添加して均一に混合した後に固化させて得られる有機無機複合体を細かく粉砕して、熱可塑性樹脂と加熱混練して均一に混合して得られるものである。
【0006】
請求項2の発明にかかる有機無機複合組成物は、熱硬化性樹脂の溶液にシリカゾルまたはチタニアゾルを攪拌しながら添加して均一に混合した後に固化させて得られる有機無機複合体を細かく粉砕して、熱可塑性樹脂と加熱混練して均一に混合して得られるものである。
【0007】
請求項3の発明にかかる有機無機複合組成物の製造方法は、有機合成樹脂の溶液にシリカゾルまたはチタニアゾルを攪拌しながら添加して均一な混合液を得る工程と、前記混合液を加熱して前記有機合成樹脂を固化させて有機無機複合体を得る工程と、前記有機無機複合体を微細に粉砕して複合体微細粉末を得る工程と、熱可塑性樹脂に前記複合体微細粉末を加熱混練して均一に混合する工程とを具備するものである。
【0008】
請求項4の発明にかかる有機無機複合組成物の製造方法は、熱硬化性樹脂の溶液にシリカゾルまたはチタニアゾルを攪拌しながら添加して均一な混合液を得る工程と、前記混合液を加熱して前記熱硬化性樹脂を固化させて有機無機複合体を得る工程と、前記有機無機複合体を微細に粉砕して複合体微細粉末を得る工程と、熱可塑性樹脂に前記複合体微細粉末を加熱混練して均一に混合する工程とを具備するものである。
【0009】
請求項5の発明にかかる有機無機複合組成物または有機無機複合組成物の製造方法は、請求項1乃至請求項4のいずれか1つの構成において、前記シリカゾルまたは前記チタニアゾルの粒径が1nm〜200nmの範囲内であるものである。
【0010】
請求項6の発明にかかる有機無機複合組成物または有機無機複合組成物の製造方法は、請求項1乃至請求項5のいずれか1つの構成において、前記シリカゾルは水ガラスをイオン交換または酸中和して得られるものである。
【0011】
請求項7の発明にかかる有機無機複合組成物または有機無機複合組成物の製造方法は、請求項2,請求項4乃至請求項6のいずれか1つの構成において、前記熱硬化性樹脂はレゾール型フェノール樹脂であり、前記熱可塑性樹脂はナイロン(ポリアミド)樹脂であるものである。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の発明にかかる有機無機複合組成物は、有機合成樹脂の溶液にシリカゾルまたはチタニアゾルを攪拌しながら添加して均一に混合した後に固化させて得られる有機無機複合体を細かく粉砕して、熱可塑性樹脂と加熱混練して均一に混合して得られる。
【0013】
ここで、有機合成樹脂としては、フェノール樹脂・エポキシ樹脂・ウレタン樹脂等の熱硬化性樹脂を始めとして、アクリル樹脂・ポリプロピレン樹脂・ポリスチレン樹脂・ナイロン樹脂等の熱可塑性樹脂、スチレン−ブタジエン−ラテックス(SBR)ゴム等のエラストマー等の、種々の有機合成樹脂を用いることができる。また、熱可塑性樹脂としては、ナイロン(ポリアミド)樹脂、アクリル樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂等を始めとして種々の熱可塑性樹脂を用いることができる。
【0014】
このように、本発明にかかる有機無機複合組成物は、まず有機合成樹脂とシリカゾルまたはチタニアゾルを均一に混合した後、一旦固化させて粉砕することによって、シリカゾルまたはチタニアゾルに有機合成樹脂が密着して熱可塑性樹脂との親和性が向上した有機無機複合体粉末が得られる。これを熱可塑性樹脂と加熱混練して均一に混合することによって、有機無機複合体粉末が熱可塑性樹脂中に均一に分散した有機無機複合組成物となる。したがって、単にシリカ等の微粉末を熱可塑性樹脂中に混合したものとは異なり、緻密な構造が得られるため強度が大幅に向上し、耐摩耗性等の諸特性も向上する。
【0015】
このようにして、無機微粒子と有機樹脂材料の親和性を向上させて緻密な複合体構造を得ることによって、黒鉛を含有させたポリアミド樹脂組成物と同等以上の摺動性(耐磨耗性)を持ちながら、耐衝撃強度や引っ張り破断伸びにも優れている有機無機複合組成物となる。
【0016】
請求項2の発明にかかる有機無機複合組成物は、熱硬化性樹脂の溶液にシリカゾルまたはチタニアゾルを攪拌しながら添加して均一に混合した後に固化させて得られる有機無機複合体を細かく粉砕して、熱可塑性樹脂と加熱混練して均一に混合して得られる。
【0017】
ここで、熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂を始めとして、種々の熱硬化性樹脂を用いることができる。また、熱可塑性樹脂としては、ナイロン(ポリアミド)樹脂、アクリル樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂等を始めとして種々の熱可塑性樹脂を用いることができる。
【0018】
このように、本発明にかかる有機無機複合組成物は、まず熱硬化性樹脂とシリカゾルまたはチタニアゾルを均一に混合した後、一旦熱硬化させて粉砕することによって、シリカゾルまたはチタニアゾルに熱硬化性樹脂が密着して熱可塑性樹脂との親和性が向上した有機無機複合体粉末が得られる。これを熱可塑性樹脂と加熱混練して均一に混合することによって、有機無機複合体粉末が熱可塑性樹脂中に均一に分散した有機無機複合組成物となる。したがって、単にシリカ等の微粉末を熱可塑性樹脂中に混合したものとは異なり、緻密な構造が得られるため強度が大幅に向上し、耐摩耗性等の諸特性も向上する。
【0019】
このようにして、無機微粒子と有機樹脂材料の親和性を向上させて緻密な複合体構造を得ることによって、黒鉛を含有させたポリアミド樹脂組成物と同等以上の摺動性(耐磨耗性)を持ちながら、耐衝撃強度や引っ張り破断伸びにも優れている有機無機複合組成物となる。
【0020】
請求項3の発明にかかる有機無機複合組成物の製造方法は、有機合成樹脂の溶液にシリカゾルまたはチタニアゾルを攪拌しながら添加して均一な混合液を得る工程と、混合液を加熱して有機合成樹脂を固化させて有機無機複合体を得る工程と、有機無機複合体を微細に粉砕して複合体微細粉末を得る工程と、熱可塑性樹脂に複合体微細粉末を加熱混練して均一に混合する工程とを具備する。
【0021】
ここで、有機合成樹脂としては、フェノール樹脂・エポキシ樹脂・ウレタン樹脂等の熱硬化性樹脂を始めとして、アクリル樹脂・ポリプロピレン樹脂・ポリスチレン樹脂・ナイロン樹脂等の熱可塑性樹脂、スチレン−ブタジエン−ラテックス(SBR)ゴム等のエラストマー等の、種々の合成樹脂を用いることができる。また、熱可塑性樹脂としては、ナイロン(ポリアミド)樹脂、アクリル樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂等を始めとして種々の熱可塑性樹脂を用いることができる。
【0022】
このように、本発明にかかる有機無機複合組成物の製造方法においては、まず有機合成樹脂とシリカゾルまたはチタニアゾルを均一に混合した後、一旦固化させて粉砕することによって、シリカゾルまたはチタニアゾルに有機合成樹脂が密着して熱可塑性樹脂との親和性が向上した有機無機複合体粉末が得られる。これを熱可塑性樹脂と加熱混練して均一に混合することによって、有機無機複合体粉末が熱可塑性樹脂中に均一に分散した有機無機複合組成物となる。したがって、単にシリカ等の微粉末を熱可塑性樹脂中に混合したものとは異なり、緻密な構造が得られるため強度が大幅に向上し、耐摩耗性等の諸特性も向上する。
【0023】
このようにして、無機微粒子と有機樹脂材料の親和性を向上させて緻密な複合体構造を得ることによって、黒鉛を含有させたポリアミド樹脂組成物と同等以上の摺動性(耐磨耗性)を持ちながら、耐衝撃強度や引っ張り破断伸びにも優れている有機無機複合組成物の製造方法となる。
【0024】
請求項4の発明にかかる有機無機複合組成物の製造方法は、熱硬化性樹脂の溶液にシリカゾルまたはチタニアゾルを攪拌しながら添加して均一な混合液を得る工程と、混合液を加熱して熱硬化性樹脂を固化させて有機無機複合体を得る工程と、有機無機複合体を微細に粉砕して複合体微細粉末を得る工程と、熱可塑性樹脂に複合体微細粉末を加熱混練して均一に混合する工程とを具備する。
【0025】
ここで、熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂を始めとして、種々の熱硬化性樹脂を用いることができる。また、熱可塑性樹脂としては、ナイロン(ポリアミド)樹脂、アクリル樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂等を始めとして種々の熱可塑性樹脂を用いることができる。
【0026】
このように、本発明にかかる有機無機複合組成物の製造方法においては、まず熱硬化性樹脂とシリカゾルまたはチタニアゾルを均一に混合した後、一旦熱硬化させて粉砕することによって、シリカゾルまたはチタニアゾルに熱硬化性樹脂が密着して熱可塑性樹脂との親和性が向上した有機無機複合体粉末が得られる。これを熱可塑性樹脂と加熱混練して均一に混合することによって、有機無機複合体粉末が熱可塑性樹脂中に均一に分散した有機無機複合組成物となる。したがって、単にシリカ等の微粉末を熱可塑性樹脂中に混合したものとは異なり、緻密な構造が得られるため強度が大幅に向上し、耐摩耗性等の諸特性も向上する。
【0027】
このようにして、無機微粒子と有機樹脂材料の親和性を向上させて緻密な複合体構造を得ることによって、黒鉛を含有させたポリアミド樹脂組成物と同等以上の摺動性(耐磨耗性)を持ちながら、耐衝撃強度や引っ張り破断伸びにも優れている有機無機複合組成物の製造方法となる。
【0028】
請求項5の発明にかかる有機無機複合組成物または有機無機複合組成物の製造方法は、シリカゾルまたはチタニアゾルの粒径が1nm〜200nmの範囲内である。
【0029】
本発明者らが鋭意実験研究を行った結果、シリカゾルまたはチタニアゾルの粒径が1nm〜200nmの範囲内、より好ましくは5nm〜50nmの範囲内である場合に、得られる有機無機複合組成物の強度を始めとする諸特性が最も向上することを見出し、この知見に基づいて本発明を完成したものである。
【0030】
このようにして、無機微粒子と有機樹脂材料の親和性を向上させて緻密な複合体構造を得ることによって、強度を大幅に向上させることができ、黒鉛を含有させたポリアミド樹脂組成物と同等以上の摺動性(耐磨耗性)を持ちながら、耐衝撃強度や引っ張り破断伸びにも優れている有機無機複合組成物または有機無機複合組成物の製造方法となる。
【0031】
請求項6の発明にかかる有機無機複合組成物または有機無機複合組成物の製造方法は、シリカゾルが水ガラス(ケイ酸アルカリ塩水溶液)をイオン交換または酸中和して得られるものである。
【0032】
シリカゾルを得る方法としては、シリコンアルコキシドを加水分解する方法もあるが、シリコンアルコキシドは高価であるため、得られる有機無機複合組成物のコストも高くなってしまう。そこで、シリコンアルコキシドに比較して遥かに安価な水ガラス(ケイ酸アルカリ塩水溶液)をイオン交換または酸中和して得られるシリカゾルを用いることによって、得られる有機無機複合組成物のコストを低減することができる。
【0033】
このようにして、無機微粒子と有機樹脂材料の親和性を向上させて緻密な複合体構造を得ることによって、強度を大幅に向上させることができ、黒鉛を含有させたポリアミド樹脂組成物と同等以上の摺動性(耐磨耗性)を持ちながら、耐衝撃強度や引っ張り破断伸びにも優れているとともに、低コスト化できる有機無機複合組成物または有機無機複合組成物の製造方法となる。
【0034】
請求項7の発明にかかる有機無機複合組成物または有機無機複合組成物の製造方法は、熱硬化性樹脂はレゾール型フェノール樹脂であり、熱可塑性樹脂はナイロン(ポリアミド)樹脂である。
【0035】
レゾール型フェノール樹脂は通常メタノール溶液として市販されているため、シリカゾルまたはチタニアゾルと均一に混合するのが容易であり、ナイロン(ポリアミド)樹脂は広く一般に使用されているため入手が容易である。また、射出成形法を始めとする一般の熱可塑性樹脂の成形方法を用いて、容易に成形することができる。
【0036】
このようにして、無機微粒子と有機樹脂材料の親和性を向上させて緻密な複合体構造を得ることによって、強度を大幅に向上させることができ、黒鉛を含有させたポリアミド樹脂組成物と同等以上の摺動性(耐磨耗性)を持ちながら、耐衝撃強度や引っ張り破断伸びにも優れているとともに、低コスト化できる有機無機複合組成物または有機無機複合組成物の製造方法となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下、本発明の実施の形態について、図1を参照しつつ説明する。図1は本発明の実施の形態にかかる有機無機複合組成物の製造方法の概略を示すフローチャートである。
【0038】
まず、本発明の実施の形態にかかる有機無機複合組成物の製造方法について、図1を参照して説明する。本実施の形態にかかる有機無機複合組成物においては、有機合成樹脂または熱硬化性樹脂としてレゾール型のフェノール樹脂を、熱可塑性樹脂としてノボラック型のフェノール樹脂を用いている。
【0039】
図1に示されるように、本実施の形態にかかる有機無機複合組成物の製造方法は、まず樹脂・ゾル混合工程(ステップS10)において、熱硬化性樹脂としてのレゾール型のフェノール樹脂のメタノール溶液に、水ガラス(ケイ酸アルカリ塩水溶液)をイオン交換または酸中和して得られるシリカゾルを攪拌しながら添加して混合する。この混合液を、熱硬化工程(ステップS11)において、加熱して硬化させ、有機無機複合体固形物を得る。次に、この有機無機複合体固形物を、複合体粉砕工程(ステップS12)において、回転式粉砕機で微細粉末に粉砕する。
【0040】
続いて、この微細粉末を、樹脂・粉砕物混合工程(ステップS13)において、熱可塑性樹脂としてのナイロン6樹脂(粉末)と均一に混合(ドライブレンド)して、この混合粉末を加熱溶融混練工程(ステップS14)において溶融混練することによって、本実施の形態にかかる有機無機複合組成物が得られる。更に、この有機無機複合組成物をペレット化して、加熱加圧成形工程(ステップS15)において射出成形機によって成形することによって、本実施の形態にかかる有機無機複合成形体が得られる。
【0041】
本実施の形態においては、配合を変えて、実施例1,実施例2及び実施例3の有機無機複合組成物を製造した。本実施の形態にかかる実施例1の有機無機複合組成物は、フェノール樹脂(住友ベークライト(株)PR54562、レゾール型、メタノール溶剤、固形分50%)60重量部に対してメタノール90重量部を加え、均一になるように調整した溶液に、シリカゾルを固形分として70重量部になるように攪拌しながら添加した。この溶液を室温で30分間保持してシリカをゲル化させた後、150℃で硬化させた。こうして得られた複合体を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察したところ、5nm〜50nmのシリカ粒子が樹枝状に連鎖して分散している状態が観察された。
【0042】
この複合体を回転式粉砕機で粉砕し、ナイロン6樹脂(東レ(株)、ペレット状、固形分100%)96重量部に対して、複合体粉砕物を4重量部加え、ドライブレンドした後に加熱溶融混練して、実施例1の有機無機複合組成物を得て、ペレット化した後、射出成形機で各種金型を用いて各種試験片を成形した。
【0043】
本実施の形態にかかる実施例2の有機無機複合組成物は、フェノール樹脂(住友ベークライト(株)PR54562、レゾール型、メタノール溶剤、固形分50%)60重量部に対してメタノール90重量部を加え、均一になるように調整した溶液に、シリカゾルを固形分として70重量部になるように攪拌しながら添加した。この溶液を室温で30分間保持してシリカをゲル化させた後、150℃で硬化させた。
【0044】
こうして得られた複合体を回転式粉砕機で粉砕し、ナイロン6樹脂(東レ(株)、ペレット状、固形分100%)94重量部に対して、複合体粉砕物を6重量部加え、ドライブレンドした後に加熱溶融混練して、実施例2の有機無機複合組成物を得て、ペレット化した後、射出成形機で各種金型を用いて各種試験片を成形した。
【0045】
本実施の形態にかかる実施例3の有機無機複合組成物は、フェノール樹脂(住友ベークライト(株)PR54562、レゾール型、メタノール溶剤、固形分50%)60重量部に対してメタノール90重量部を加え、均一になるように調整した溶液に、シリカゾルを固形分として70重量部になるように攪拌しながら添加した。この溶液を室温で30分間保持してシリカをゲル化させた後、150℃で硬化させた。
【0046】
こうして得られた複合体を回転式粉砕機で粉砕し、ナイロン6樹脂(東レ(株)、ペレット状、固形分100%)92重量部に対して、複合体粉砕物を8重量部加え、ドライブレンドした後に加熱溶融混練して、実施例3の有機無機複合組成物を得て、ペレット化した後、射出成形機で各種金型を用いて各種試験片を成形した。
【0047】
一方、比較例としては、上記特許文献1に記載された発明に係る耐摩擦摩耗ナイロン樹脂であるアミラン(登録商標)CM1023G1000(東レ(株))を射出成形機で各種金型を用いて各種試験片を成形した。以上のようにして製造した本実施の形態にかかる実施例1,実施例2及び実施例3の有機無機複合組成物の試験片、並びに比較例の試験片の諸特性を測定した。その結果を、表1に示す。
【0048】
【表1】

【0049】
まず、表1に示されるように、密度と引張り強度を測定した。引張り強度の試験片の寸法並びに試験条件は、JIS−K−7054にしたがって行った。その結果は、密度については、比較例の試験片が1150kg/m3であるのに対して、実施例1の有機無機複合組成物の試験片が1140kg/m3であり、実施例2の有機無機複合組成物の試験片が1150kg/m3であり、実施例3の有機無機複合組成物の試験片が1160kg/m3であって、ほぼ同一であった。
【0050】
次に、引張り強度については、比較例の試験片が90.5MPaであったのに対して、実施例1の試験片が82.1MPa、実施例2の試験片が82.5MPa、実施例3の試験片が82.6MPaであり、比較例に比較して引張り強度に関してはやや劣っていた。しかしながら、引張り破断伸びについては、比較例の試験片が7.4%であったのに対して、実施例1の試験片が28.8%、実施例2の試験片が27.7%、実施例3の試験片が32.2%であり、比較例に比較して遥かに大きく、柔軟性に優れていることが分かった。
【0051】
次に、表1に示されるように、曲げ強度と曲げ弾性率を測定した。曲げ強度及び曲げ弾性率の試験片の寸法並びに試験条件は、JIS−K−7055にしたがって行った。その結果は、曲げ強度については、比較例の試験片が120MPaであったのに対して、実施例1の試験片が116MPa、実施例2の試験片が118MPa、実施例3の試験片が118MPaであり、ほぼ同等であった。しかし、曲げ弾性率については、比較例の試験片が3050MPaであったのに対して、実施例1の試験片が2870MPa、実施例2の試験片が2890MPa、実施例3の試験片が2930MPaであり、比較例に比較してやや劣っていた。
【0052】
次に、表1に示されるように、シャルピー衝撃強さ(ノッチ付)を測定した。シャルピー衝撃強さの試験片の寸法並びに試験条件は、JIS−K−7061にしたがって行った。その結果は、比較例の試験片が4.48kJ/m2であったのに対して、実施例1の試験片が7.05kJ/m2、実施例2の試験片が7.00kJ/m2、実施例3の試験片が7.54kJ/m2であり、比較例に比較して遥かに大きく、耐衝撃性に優れていることが分かった。
【0053】
次に、表1に示されるように、射出成形における成形収縮率について、引張り強度の試験片に関して測定した。その結果は、比較例の試験片が0.92%であったのに対して、実施例1の試験片が1.24%、実施例2の試験片が1.25%、実施例3の試験片が1.25%であり、ほぼ同等であった。これによって、本実施の形態に係る有機無機複合組成物は、比較例と同等の成形寸法精度を有していることが分かった。
【0054】
次に、表1に示されるように、摩擦摩耗試験を行った。試験条件としては、鈴木式摩擦摩耗試験機(スリーブ:S45C、板:各試験片)を用いて、加圧力P=0.98MPa、回転速度V=3.0m/min、走行距離=360m(2時間)で実施した。その結果、摩擦係数については、スタート時は比較例が0.39に対して、実施例1は0.30とやや小さく、実施例2は0.37、実施例3は0.36とほぼ同等であったが、1時間後には比較例が0.48に対して、実施例1は0.42、実施例2は0.40、実施例3は0.40とやや小さく、更に2時間後には比較例が0.50に対して、実施例1は0.43、実施例2は0.39、実施例3は0.38とより小さくなっていった。
【0055】
この結果より、比較例に比べて、本実施の形態に係る有機無機複合組成物はより摩擦係数が小さく、摺動性に優れていることが判明した。なお、摩耗量については、比較例が1.4mgに対して、実施例1は1.5mg、実施例2は1.8mg、実施例3は1.9mgと、ほぼ同等であった。
【0056】
このようにして、本実施の形態に係る有機無機複合組成物においては、黒鉛を含有させたポリアミド(ナイロン)樹脂組成物と同等以上の摺動性(耐磨耗性)を持ちながら、更に耐衝撃強度や引っ張り破断伸びにも優れており、様々な用途に用いることができる。
【0057】
本実施の形態においては、有機無機複合組成物を得るための有機合成樹脂として熱硬化性樹脂としてのフェノール樹脂を用いているが、アクリル樹脂・ポリプロピレン樹脂・ポリスチレン樹脂・ナイロン樹脂等の熱可塑性樹脂、スチレン−ブタジエン−ラテックス(SBR)ゴム等のエラストマー等の、種々の合成樹脂を用いることができる。
【0058】
また、本実施の形態においては、有機無機複合組成物を得るための熱硬化性樹脂としてフェノール樹脂を用いているが、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂を始めとして、その他の熱硬化性樹脂を用いることもできる。また、本実施の形態においては、有機無機複合組成物を得るための熱可塑性樹脂としてナイロン6樹脂を用いているが、ナイロン66樹脂を始めとして、アクリル樹脂・ポリプロピレン樹脂・ポリスチレン樹脂等のその他の熱可塑性樹脂を用いることもできる。
【0059】
更に、本実施の形態においては、有機無機複合組成物を得るための無機材料として水ガラスを原料としたシリカゾルを用いているが、シリコンアルコキシドを原料としたシリカゾルを用いても良いし、シリカゾルの代わりにチタニアゾルを用いることもできる。
【0060】
本発明を実施するに際しては、有機無機複合組成物のその他の部分の構成、組成、材質、大きさ、形状、数量、製造方法等についても、また有機無機複合組成物の製造方法のその他の工程についても、本実施の形態に限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明にかかる有機無機複合組成物は、上述の如く、高強度で耐摩耗性が高く、摩擦係数が小さいという優れた特性を有しているため、自動車におけるブレーキパッドやクラッチディスクといった摩擦材や、摺動材、ギア、軸受け、等に応用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】図1は本発明の実施の形態にかかる有機無機複合組成物の製造方法の概略を示すフローチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機合成樹脂の溶液にシリカゾルまたはチタニアゾルを攪拌しながら添加して均一に混合した後に固化させて得られる有機無機複合体を細かく粉砕して、熱可塑性樹脂と加熱混練して均一に混合して得られることを特徴とする有機無機複合組成物。
【請求項2】
熱硬化性樹脂の溶液にシリカゾルまたはチタニアゾルを攪拌しながら添加して均一に混合した後に固化させて得られる有機無機複合体を細かく粉砕して、熱可塑性樹脂と加熱混練して均一に混合して得られることを特徴とする有機無機複合組成物。
【請求項3】
有機合成樹脂の溶液にシリカゾルまたはチタニアゾルを攪拌しながら添加して均一な混合液を得る工程と、
前記混合液を加熱して前記有機合成樹脂を固化させて有機無機複合体を得る工程と、
前記有機無機複合体を微細に粉砕して複合体微細粉末を得る工程と、
熱可塑性樹脂に前記複合体微細粉末を加熱混練して均一に混合する工程と
を具備することを特徴とする有機無機複合組成物の製造方法。
【請求項4】
熱硬化性樹脂の溶液にシリカゾルまたはチタニアゾルを攪拌しながら添加して均一な混合液を得る工程と、
前記混合液を加熱して前記熱硬化性樹脂を固化させて有機無機複合体を得る工程と、
前記有機無機複合体を微細に粉砕して複合体微細粉末を得る工程と、
熱可塑性樹脂に前記複合体微細粉末を加熱混練して均一に混合する工程と
を具備することを特徴とする有機無機複合組成物の製造方法。
【請求項5】
前記シリカゾルまたは前記チタニアゾルの粒径が1nm〜200nmの範囲内であることを特徴とする請求項1若しくは請求項2に記載の有機無機複合組成物または請求項3若しくは請求項4に記載の有機無機複合組成物の製造方法。
【請求項6】
前記シリカゾルは水ガラスをイオン交換または酸中和して得られることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1つに記載の有機無機複合組成物または有機無機複合組成物の製造方法。
【請求項7】
前記熱硬化性樹脂はレゾール型フェノール樹脂であり、前記熱可塑性樹脂はナイロン(ポリアミド)樹脂であることを特徴とする請求項2,請求項4乃至請求項6のいずれか1つに記載の有機無機複合組成物または有機無機複合組成物の製造方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2008−74893(P2008−74893A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−252803(P2006−252803)
【出願日】平成18年9月19日(2006.9.19)
【出願人】(000100780)アイシン化工株式会社 (171)
【Fターム(参考)】