説明

有機物含有水の生物処理方法および装置

【課題】有機物含有水を生物処理し、純水製造の原水に利用する場合の分離膜の汚染を防止する。
【解決手段】リアクタ10内にメタン生成菌群を含む嫌気性汚泥を保持させる。原水管30からリアクタ10に、被処理水としてメタン生成菌群により生物分解されるモノマー有機物(例えばテトラメチルアンモニウムヒドロキシド)を主として含む有機物含有水を供給し、メタン生成菌群による嫌気性生物処理を行う。嫌気性生物処理により得られた処理液は、リアクタ10外に設けた膜分離装置12で固液分離することで固形物が分離された分離水を得る。分離水は逆浸透膜装置14で脱塩処理し、純水製造の原料とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機物含有水を嫌気的に処理する生物処理方法および装置に関し、特に、排水を生物処理して純水製造用の原水として利用する生物処理方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
好気性微生物群集は嫌気性微生物群集に比べて多様な有機物の分解能があると考えられている。このため、好気性微生物群集を利用した好気性生物処理は、複雑な高分子(ポリマー)化合物を含む排水(例えば食品排水)を処理するのに適している。また、嫌気性生物処理では高分子の有機物の加水分解速度が遅いため、一般には、水理学的滞留時間を30日以上とする必要がある。これに対し、好気性生物処理の標準的な水理学的滞留時間は0.5日程度と短い。
【0003】
近年、半導体製造工場のように純水を使用しその排水を排出する設備等で、有機物を含む排水を生物処理し、その処理水を純水製造の原料として用いる水回収が進んでいる。このような水回収を行う有機物含有水の生物処理では、従来、好気性生物処理が用いられている。好気性生物処理の際には、好気性微生物を担体に固定することで生物処理槽の微生物保持量を多くして処理速度を高くすることも多い(例えば特許文献1)。担体を使用する場合、例えば生物処理槽あたりの有機物除去速度を1〜2kg−COD/m/day程度に高めることができる。
【0004】
このような生物処理により得られた処理液を純水製造に再利用する場合、処理液を固液分離装置で処理して微生物体を分離した後、逆浸透膜分離装置等で脱塩処理する(例えば特許文献2)。
【特許文献1】特開平9−187785号公報
【特許文献2】特開2007−175582号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した通り、排水を純水製造の原水として再利用する際には、一般に膜分離装置による処理が行われる。しかし分離膜は運転条件や被処理水の水質によって目詰まりを生じやすく、特に生物処理液を膜分離すると、微生物自体および微生物が生成した粘質物等が膜面に付着して目詰まりを生じる傾向がある。微生物が生成する粘質物は高分子有機物を主体とする難分解性であり、その生成量は生物処理槽に保持される微生物量にほぼ正比例して増大する。よって、増殖速度が大きい好気性微生物を用いる好気性生物処理では高分子有機物の生成量も多い。特に、担体を添加した生物処理槽を用いる場合、保有微生物量が多くなるため高分子有機物の生成量が多くなる。
【0006】
一方、嫌気性微生物は好気性微生物より増殖速度が遅いため、高分子有機物の生成量は比較的少ない。しかし、嫌気性生物処理はそもそも有機物の分解速度が遅いため、被処理水(有機物含有水)に含まれる有機物が分解されきれず、そのまま、またはその分解中間体が処理液に含まれやすい。すなわち、好気性生物処理を行った場合は微生物の生成物により逆浸透膜が汚染される恐れがある。一方、嫌気性生物処理を行った場合は微生物の生成物による膜汚染の恐れは低いものの、処理液に残存した有機物や分解中間体による膜汚染の恐れが高くなる
【0007】
また、排水を生物処理した後、処理液に含まれる微生物体を分離する場合、凝集沈殿や加圧浮上では分離が不十分で、分離水に微生物体等が含まれ後段の逆浸透膜を汚染する。特に、生物処理槽に担体を添加している場合、担体を固液分離するためにスクリーン等が必要になるが、表面積を大きくして活性を高めるようにした担体は粒径が小さくスクリーンを目詰まりさせやすく、これを回避するためには複雑な構成の固液分離装置や広い沈殿池が必要になる。
【0008】
これに対し、生物処理した処理液を、生物処理槽内に設けた浸漬膜で固液分離すれば、微生物体等が良好に分離できるので後段の逆浸透膜の汚染を防ぐことはできる。しかし、浸漬膜自体の目詰まりの問題があり、特に、好気性処理を行う場合、微生物が生成した高分子有機物により浸漬膜が詰まり透過水量が低下する問題がある。
【0009】
また、有機物含有水に窒素成分が含まれる場合、好気性生物処理過程でアンモニアが酸化されて硝酸を生成し、槽内液のpHが低下するため、中和用のアルカリ添加を要する。これに続いて嫌気性条件下で硝酸の脱窒処理を行う場合はアルカリが生成されpHが上がるため、中和用に酸の添加が必要となる。このように、生物処理過程で中和用に添加された酸またはアルカリは、後段の逆浸透膜の塩類負荷となる。
【0010】
このように、有機物含有水を生物処理して純水製造に再利用する場合、排水処理プロセスが逆浸透膜による処理に悪影響を与えることがあった。本発明は、かかる課題に対し、有機物含有水の生物処理において、処理水を純水製造用水として再利用する際の逆浸透膜による処理がスムーズに行える方法および装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
有機物の嫌気性生物処理は、酸生成菌群による有機物からの酸生成工程と、メタン生成菌群による酸からのメタン生成工程とに分けられる。本発明者らは、膜汚染の原因物質となる高分子の有機物は、主として酸生成工程に関与する酸生成菌群に代謝されることを見出した。そこで、酸生成菌群による酸生成工程を経ずにメタン生成を行わせることで上記課題を解決することを着想し、本発明を完成させた。具体的には、本発明は以下を提供する。
【0012】
(1) 有機物含有水を嫌気性生物処理槽に導入し、 前記嫌気性生物処理槽内のメタン生成菌群により嫌気性生物処理し、 前記嫌気性生物処理により得られた処理液を好気性生物処理せずに膜分離し、 前記膜分離により得られた分離水を逆浸透膜で処理する有機物含有水の生物処理方法。
(2) 前記有機物含有水は、全有機物炭素に対するモノマー有機物の割合が70%以上からなる(1)に記載の有機物含有水の生物処理方法。
(3) 槽内液の温度を15℃以上40℃以下として前記嫌気性処理を行う(1)または(2)に記載の有機物含有水の生物処理方法。
(4) 前記処理液を、前記嫌気性処理過程で加温された状態のまま前記膜分離および前記逆浸透膜処理に供する(3)に記載の有機物含有水の生物処理方法。
(5) 前記モノマー有機物は、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、モノエタノールアミン、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、イソプロピルアルコール、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドおよび酢酸からなる群より選ばれるいずれか1以上である(1)から(4)のいずれかに記載の有機物含有水の生物処理方法。
(6) 有機物含有水が導入されメタン生成菌群によりメタン生成を行う嫌気性生物処理槽と、 前記嫌気性生物処理槽と接続され前記嫌気性生物処理槽から排出された処理液を膜分離する膜分離装置と、 前記膜分離装置の分離水を処理する逆浸透膜装置と、を備える有機物含有水の生物処理装置。
(7) 前記有機物含有水は、全有機物炭素に対するモノマー有機物の割合が70%以上からなる(6)に記載の有機物含有水の生物処理装置。
(8) 前記嫌気性処理槽は、槽内液の温度を15℃以上40℃以下として運転され、
前記処理液は、前記嫌気性処理槽で加温された状態で前記膜分離装置および前記逆浸透膜装置に供給されるよう構成されている(6)または(7)に記載の有機物含有水の生物処理装置。
(9) 前記逆浸透膜装置の透過水から熱回収を行い、回収された熱で前記嫌気性処理槽を加温する熱回収加熱装置をさらに備える(8)に記載の有機物含有水の生物処理装置。
(10) 前記膜分離装置は、精密濾過膜または限外濾過膜を備える(6)から(9)のいずれかに記載の有機物含有水の生物処理装置。
(11) 前記嫌気性生物処理槽で発生したバイオガスを前記膜分離装置に供給して前記膜分離装置を曝気洗浄する洗浄装置をさらに備える(6)から(10)のいずれかに記載の有機物含有水の生物処理装置。
【0013】
本明細書において、「全有機物炭素」とは水中に含まれる各種有機態炭素化合物を総称するものとし、不揮発性有機物のみならず、一般的なTOC計では測定されない揮発性有機物も含むものとする。「モノマー有機物」とは、排水中に含まれる種々の有機物のうち微生物が直接吸収できる程度の低分子の有機物を総称するものとする。「モノマー有機物」に対して、微生物の細胞壁を通過できず菌体外酵素により分解されるような有機物は一般に有機物同士が重合され分子量が大きく、本明細書では「モノマー有機物」はこのような高分子有機物を除く有機物を指す語として用いる。モノマー有機物の具体例としては、メタン生成菌群の基質として利用される低分子有機物(例えば蟻酸、酢酸、メタノール、メチルアミン等)やテトラメチルアンモニウムヒドロキシド、モノエタノールアミン、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、イソプロピルアルコール、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドが挙げられる。本発明では、特に、モノマー有機物としてのメチル基を有する化合物(テトラメチルアンモニウム、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド)の含有割合が高い有機物含有水が好適な処理対象となる。
【0014】
本発明では、被処理水中の有機物をメタン生成菌群により嫌気性生物処理する。被処理水中の有機物組成はモノマー有機物が主となるように設定することが好ましい。モノマー有機物は、メタン生成菌群により生物分解されるため、被処理水の性状をモノマー有機物主体とすることで、被処理水中の有機物を良好に生物分解して処理液への有機物の残留を抑制し、後段の分離膜の汚染を防止できる。また、本発明では、特に、モノマー有機物としてメチル基を有する化合物(テトラメチルアンモニウム、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド)の含有割合が高い有機物含有水を処理対象とすることにより酸生成菌群による膜汚染物質の生成を抑制することで、高分子有機物による膜汚染を防止する。
【0015】
なお、メタン生成菌群を主体とする嫌気性処理では硝化反応は実質的に起こらない。このため、被処理水に窒素化合物が含まれる場合、窒素成分は生物処理工程で脱窒されず逆浸透膜装置に持ち込まれる。よって、被処理水に窒素化合物が含まれない方が逆浸透膜装置の負荷は低くできる。一方で、被処理水に窒素化合物が含まれ逆浸透膜装置に供給される液に窒素成分が含まれる場合、逆浸透膜で濃縮された窒素成分が逆浸透膜装置での微生物の増殖を抑制する可能性があることを本発明者らは見出した。そこで、逆浸透膜装置で微生物が増殖しやすい条件(例えば被処理水に高分子有機物が10〜30%程度含まれるような場合)では、被処理水に積極的に窒素化合物を含ませてもよい。
【0016】
嫌気性生物処理槽内で、被処理水中の有機物を良好に生物分解させ、後段の膜汚染を防止するためには、被処理水中の有機物に占めるモノマー有機物の割合は高い方が良い。被処理水中にバクテリアや高分子の有機物が含まれる場合、これらを基質とする酸生成菌群の生物分解が起こり、膜汚染の原因となる可溶性の高分子有機物が生成される。酸生成菌群の代謝物は、15℃未満または40℃を超えると30%程度しか分解されないものの、15℃以上40℃以下であれば90%程度が分解される。よって、嫌気性生物処理槽を15℃以上40℃以下とすれば、モノマー有機物以外の有機物の含有量が比較的高くても、膜汚染を防止できる。
【0017】
温度条件は30℃以上40℃以下が特に好ましい。上述した通り、温度条件により酸生成菌群の代謝物の分解効率が違うため、温度条件によって被処理水の性状を代えてもよい。具体的には、温度条件が15℃以上30℃未満であれば、被処理水中の有機物に占めるモノマー有機物の割合は75%以上とするとよい。また、温度条件が15℃未満または40℃を超える場合はモノマー有機物の割合を90%以上とするとよい。
【0018】
また、pHが6以上9以下であれば、酸生成菌群の代謝物は良好に分解されるが、pHがこの範囲外であればその分解率は30%程度に低下する。よって、嫌気性生物処理槽の槽内液のpHは6以上9以下に調整することが好ましいが、酸生成菌群の代謝物の生成が少ない場合、つまりモノマー有機物の割合が十分に高い(実質100%)場合など、pHを調整しなくてもよい場合もある。
【0019】
なお、本発明は半導体のほか、液晶ディスプレイ等の電子産業工場の製造プロセス排水に適用することによって、食品工場排水や下水処理場排水のように高分子成分や雑多な化合物が含まれることなく、嫌気性生物処理で効率よく処理を行うことが可能である。この他に化学工場排水のように水中に含まれる有機物とその濃度が比較的明らかな排水を対象に適用することができる。これらの排水は、組成が明確であるためラボ実験によって処理能力を知ることができるというメリットがある。
【発明の効果】
【0020】
本発明では、被処理水中の有機物をモノマー有機物主体とすることで、酸生成菌群による代謝物の生成を抑制し、メタン生成菌群により有機物を分解する。本発明では、嫌気性生物処理後に好気性生物処理を行うことなく、有機物が十分に分解された生物処理液を得ることができる。よって、酸生成菌群および好気性微生物群集による高分子有機物の生成を抑制するとともに、処理液中の残存有機物量を低減できる。このため、生物処理工程後段で膜分離を行う際の分離膜の汚染を防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明について図面を用いて詳細に説明する。以下、同一部材については同一符号を付し、説明を省略または簡略化する。
【0022】
図1は、本発明に用いられる有機物含有水の生物処理装置(以下、単に「処理装置」という)1の模式図である。処理装置1は、嫌気性生物処理槽(以下、「リアクタ」)10、膜分離装置12、逆浸透膜装置14を含む。リアクタ10の入口には、原水管30が接続されている。リアクタ10は、処理液管32を介して膜分離装置12と接続され、膜分離装置12は分離水管34を介して逆浸透膜装置14と接続されている。逆浸透膜装置14の出口には、透過水管36が接続されている。
【0023】
原水管30の途中には第1熱交換器21が設けられ、透過水管36の途中には第2熱交換器22が設けられている。第1熱交換器21と第2熱交換器22とは流体管39で接続され、熱交換に用いられる流体を第1熱交換器21と第2熱交換器22との間で循環させる。第1熱交換器21、第2熱交換器22、および流体管39は熱回収加熱装置を構成している。
【0024】
リアクタ10には、排泥管35とガス排管31が接続されている。排泥管35からは、リアクタ10内の余剰汚泥が取り出され、リアクタ10内で発生したガスはガス排管31から取り出される。ガス排管31は膜分離装置12に接続され、膜分離装置12内に設けられた分離膜(図示せず)を曝気洗浄するように構成され、洗浄装置として機能する。また、膜分離装置12には出口端がリアクタ10に接続された返送管33も接続されている。逆浸透膜装置14には、濃縮側にブライン管37が接続されている。
【0025】
本発明では、原水管30からは被処理水をリアクタ10に供給する。望ましくはモノマー有機物が有機物全体の70%以上を占める被処理水をリアクタ10に供給する。リアクタ10の好適な運転条件は、上述した通り、pH6〜9、温度15〜40℃特に30〜40℃である。このような条件であれば、メタン生成菌群の基質とならない高分子の有機物が多少、含まれる場合にも酸生成菌群代謝物による膜汚染を防止できる。
【0026】
リアクタ10内のメタン生成菌群はグラニュール状または浮遊性のどちらの状態であってもよいが、メタン生成菌群は、酸生成菌群に比べて粘質物を生成しにくいためグラニュール汚泥を形成しにくい。このため、リアクタ10から排出される処理液にはリアクタ10内の汚泥が含まれやすい。
【0027】
本発明ではリアクタ10後段に膜分離装置12を設けるため、処理液に含まれる微生物体を良好に固液分離できる。膜分離装置12は、本実施形態のようにリアクタ10とは別に設けられていることが好ましい。膜は、限外濾過膜(UF膜)または精密濾過膜(MF膜)を用いればよく、一般的なメタン生成菌の直径より孔径が小さいことが好ましく、具体的には孔径が100nm以下程度であることが好ましい。
【0028】
膜分離装置12のモジュール形式は特に限定されないが、リアクタ10から送液される汚泥が膜分離装置12の内部で閉塞又は滞留しにくいように構成されていることが好ましく、例えばチューブラ形式や平膜形式を好適に使用できる。また、処理液中の液分と固形分とを分離する分離膜は、本実施形態のようにリアクタ10外に設ける、いわゆる槽外型とすれば膜面流速のコントロールが容易であるため膜面の汚れ防止の観点から好ましい。
【0029】
本実施態様では、膜分離装置12にはガス排管31が接続されており、リアクタ10からは処理液が生成ガスとともに膜分離装置12に送られる。ガスは、膜分離装置12内の被処理水流路に沿って移動しながら分離膜を曝気洗浄する。膜分離装置12に供給された処理液は装置内を通過する間に固液分離され、透過側から固形分が除去された分離水が装置外へ取り出される。一方、固形分が濃縮された濃縮汚泥液はガスとともに膜分離装置12の被処理液流路内を移動し、返送管33からリアクタ10に返送される。
【0030】
メタン生成菌群は好気性微生物に比べて増殖速度が遅いが、このような汚泥返送を行ってリアクタ10内の汚泥濃度を4,000〜10,000mg/L程度に維持すれば、好気性の活性汚泥による好気性生物処理を行う場合と同程度の分解速度を得ることができる。よって、汚泥濃度を上記範囲とすれば、リアクタ10の水理学的滞留時間を0.5〜2日程度にできる。リアクタ10からは排泥管35を介して適宜、余剰汚泥を引き抜き、リアクタ10内の汚泥濃度を調整する。
【0031】
膜分離装置12で固形分が分離された分離水は、膜分離装置12の後段に設けられた逆浸透膜装置14で脱塩して純水製造の原水として利用する。本実施形態ではリアクタ10は30〜40℃で運転され、処理液の温度も30〜40℃である。ここではリアクタ10から排出された処理液を好気性処理せず、人為的に温度降下もさせず、膜分離装置12および逆浸透膜装置14に送る。30℃前後の液は逆浸透膜分離が容易なので、リアクタ10からの処理液を温かい状態で逆浸透膜装置14に送ることで、逆浸透膜装置14のフラックスを高くできる。
【0032】
逆浸透膜装置14から取り出された液は、依然として温かい。そこで、本実施態様では透過水を取り出す透過水管36の途中に設けた第2熱交換器22で透過水を熱交換して熱回収を行う。第2熱交換器22での熱交換により温められた熱交換媒体は流体管39を介して第1熱交換器21に送る。第1熱交換器21では、温められた熱交換媒体で原水管30から送られる原水を加温してリアクタ10に送る。
【0033】
逆浸透膜装置14で処理され、塩類が除去された透過水は、純水製造用の原水として利用できる。具体的には、逆浸透膜装置14の後段に脱炭酸装置やイオン交換装置、紫外線殺菌装置等の純水製造装置を構成する機器類を配置し、これら機器類を用いて逆浸透膜装置14から取り出した透過水を処理することで純水が製造できる。濃縮水は別途、処理すれば透過水と同様、水回収できる。
【実施例】
【0034】
[実施例1]
実施例1として、図1に示す処理装置1を模した実験装置による実験を行った。実験装置のリアクタ10は有効容積1m、水理学的滞留時間は0.5日で運転した。リアクタ10内には、メタノールを処理する嫌気性リアクタから取り出したグラニュール汚泥を後述する被処理液で馴養し浮遊性汚泥を保持させた。リアクタ10内の浮遊性汚泥の濃度は4,000mg/Lで、現存量(湿重量比較)の40%がメタン生成菌群、60%がメタン生成菌群の自己消化残渣であった。
【0035】
被処理水としては全有機物炭素濃度750mg/L、窒素濃度218mg/L、リン濃度1.0mg−P/Lの有機物含有水を用いた。全有機物の組成は、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド濃度250mg/L、モノエタノールアミン濃度250mg/L、酢酸濃度250mg/Lであり、モノマー有機物の含有割合は、全有機物炭素に対して実質100%であった。
【0036】
被処理水は加温して、リアクタ10内の槽内液の温度が35℃となるようにするとともに、槽内液のpHが7.5となるように調整した。膜分離装置12内には、直径0.52cmのチューブ状UF膜(孔径30nm)を104本、配置し、チューブ内にリアクタ10から排出された生物処理液をガスとともに流入させ、濃縮液とガスはリアクタ10に戻した。膜分離装置12の透過水量(フラックス)は1.0m/dayとした。
【0037】
上記条件で30日間の実験を継続したところ、膜分離装置12のフラックスは上記値を維持でき、通水抵抗は最大で30kPaであった。膜分離装置12から得られた分離水のTOC濃度は実験期間中、3〜4mg/Lの範囲にありTOC除去率は99.5%であった。また、この分離水を逆浸透膜装置14(逆浸透膜として全芳香族ポリアミド系の超低圧膜を備えたスパイラル式のもの)により750kPaで脱塩処理したところ、20時間経過後の透過水量は通水開始時の90%を維持していた。
【0038】
[実施例2]
実施例2では、実施例1で用いたUF膜に代え、孔径400nmのMF膜を用いた。その他は実施例1と同様の条件で実験を行ったところ、MF膜を取り付けた膜分離装置からの分離水のTOC濃度は実施例1と同様に3〜4mg/Lの範囲であった。また、膜分離装置12のフラックスは1.0m/dayを維持し、分離水を実施例1と同様に逆浸透膜装置14で処理した場合のフラックスは、通水開始から20時間経過後も当初の90%を維持した。一方、通水抵抗は最大で40kPaとなり、実施例1より高かった。リアクタ10内の汚泥は、メタン生成菌群の平均直径が800nmであったことから、MF膜を用いた場合はメタン生成菌が分離膜の孔に詰まって膜の閉塞を招いたものと推察された。
【0039】
[比較例1]
比較例1では被処理水の性状を変更した。具体的には、実施例1で用いた被処理水に下水汚泥を500mg−TOC/L添加し、全有機物炭素に対するモノマー有機物の割合を58%とした。また、この被処理水を用いることで、リアクタ10内の汚泥組成も変更した。具体的には、比較例1で用いたリアクタ10の浮遊性汚泥は、汚泥濃度8,000mg/Lで現存量(湿重量比較)の20%がメタン生成菌群、酸生成菌群が20%であった。残りの60%は、下水汚泥由来のバクテリアと自己消化残渣であった。
【0040】
このように、被処理水の性状を変更し、リアクタ10内の微生物相を変更させた以外は実施例1と同様の条件で実験を行った。その結果、膜分離装置12のフラックスが徐々に低下するとともに、実験開始から20日後に通水抵抗が30kPaを超えた。比較例1では膜分離装置12の分離水のTOC濃度は18〜43mg/Lであった。
【0041】
[実施例3]
実施例3として、被処理水に添加する下水汚泥の量を300mg−TOC/Lとした(モノマー有機物の割合約71%)。被処理水性状の変更に伴い、リアクタ10内の汚泥組成も変更した。具体的には、実施例3で用いたリアクタ10の浮遊性汚泥は、汚泥濃度8,000mg/Lで現存量(湿重量比較)の30%がメタン生成菌群、酸生成菌群が30%であった。
【0042】
被処理水の性状とリアクタ10内の微生物相を変更させた以外は比較例1と同様の条件で実験を行った。その結果、膜分離装置12のフラックスは実施例1と同様の挙動で、分離水のTOC濃度は3〜5mg/L、分離水を処理した逆浸透膜装置14のフラックスは88%を維持した。
【0043】
上記実験から、被処理水中の有機物の70%以上をモノマー有機物とし、メタン生成菌群を含む汚泥で嫌気性処理を行えば、生物処理の後段での分離膜の目詰まりを防止できることが示された。
【0044】
[参考例1]
実施例3において、リアクタ10の槽内液の温度を10℃とした。その結果、膜分離装置12のフラックスは低下し、7日後で通水抵抗が30kPaを超えた。また、これとは別に、リアクタ10の槽内液の温度を50℃にしたところ、同様に、膜分離装置12のフラックスは低下し、3日後で通水抵抗が30kPaを超えた。
【0045】
[参考例2]
実施例3において、リアクタ10の槽内液のpHを5とした。その結果、膜分離装置12の通水抵抗が急上昇し、10日後で通水抵抗が30kPaを超えた。また、これとは別に、リアクタ10の槽内液のpHを10にしたところ、同様に、膜分離装置12の通水抵抗が急上昇し、8日後で通水抵抗が30kPaを超えた。
【0046】
[比較例2]
比較例2として、リアクタ内部に空気を吹き込む散気装置を設けることで、リアクタを好気性生物処理槽とした。リアクタを好気性に代えた以外は実施例1と同様の条件で実験を行った結果、好気性生物処理槽から流出する処理液のTOC濃度は実施例1と同様に3〜4mg/Lの範囲であった。しかし、膜分離装置12フラックスは、20日間しか所定のフラックスを維持できなかった。また、好気性生物処理槽の槽内液には溶解性TOCが200mg/Lの濃度で含まれていた。一方、実施例1の嫌気性のリアクタの槽内液の溶解性TOC濃度は10mg/L程度であった。このように、比較例2では槽内液中の溶解性TOC濃度は実施例1より高く、溶解性TOCを構成する高分子有機物の量は好気性生物処理槽に導入される被処理水に比べて約60倍になっていた。
【0047】
生物処理槽に導入される被処理水中の有機物に対する汚泥(細菌)の転換率は、好気性微生物については0.3g/gであるのに対し、嫌気性微生物の場合は0.04g/gであった。高分子有機物は最近の自己消化により生成することから、転換率が高いほど高分子有機物が多く生成されたと推定された。
【0048】
また、比較例2において膜分離装置12で膜分離した分離水を実施例1と同様に逆浸透膜で処理したところ、20時間経過後の透過水量は通水開始時の60%に低下していた。この比較例2と実施例1により、好気性生物処理に代えて、メタン生成菌群による嫌気性生物処理を行うことで、分離膜を汚染する高分子有機物の生成を抑制できることが示された。
【0049】
さらに、比較例2では好気性生物処理槽の微生物群集には硝化細菌が含まれており、原水中の窒素成分が硝酸に酸化されていた。このため、好気性生物処理槽の槽内液のpHが低下し、処理液の水質が悪化した。そこで、槽内液のpHが5を下回った時点でアルカリを添加してpHを7に調整した。また、一定時間、好気性条件を継続した後、生物処理槽への空気供給を停止して嫌気性条件とすることで脱窒させた。嫌気性条件で脱窒する場合は無機酸を添加し、pHを7にした。このような回分式の脱窒処理を行い、pH調整を行った結果、処理液中の塩類濃度が高くなった。このため、膜分離装置後段の逆浸透膜装置の浸透圧は実施例1に比べて100〜200kPa程度高くなり、逆浸透膜装置による脱塩効率が低下したので、逆浸透膜装置を15〜20%程度、増やす必要が生じた。
【0050】
以上の実験から、本発明に従って被処理水をモノマー有機物主体としてメタン生成菌群を含む嫌気汚泥による嫌気性生物処理を行うことで処理液に含まれる高分子有機物や未分解有機物の量を減らし、分離膜の汚染を防止できることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、有機物含有水を生物処理して純水製造に再利用するために用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明に用いられる生物処理装置の模式図。
【符号の説明】
【0053】
1 生物処理装置
10 嫌気性生物処理槽
12 膜分離装置
14 逆浸透膜装置
21 第1熱交換器(熱回収加熱装置)
22 第2熱交換器(熱回収加熱装置)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機物含有水を嫌気性生物処理槽に導入し、
前記嫌気性生物処理槽内のメタン生成菌群により嫌気性生物処理し、
前記嫌気性生物処理により得られた処理液を好気性生物処理せずに膜分離し、
前記膜分離により得られた分離水を逆浸透膜で処理する有機物含有水の生物処理方法。
【請求項2】
前記有機物含有水は、全有機物炭素に対するモノマー有機物の割合が70%以上からなる請求項1に記載の有機物含有水の生物処理方法。
【請求項3】
槽内液の温度を15℃以上40℃以下として前記嫌気性処理を行う請求項1または2に記載の有機物含有水の生物処理方法。
【請求項4】
前記処理液を、前記嫌気性処理過程で加温された状態のまま前記膜分離および前記逆浸透膜処理に供する請求項3に記載の有機物含有水の生物処理方法。
【請求項5】
前記モノマー有機物は、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、モノエタノールアミン、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、イソプロピルアルコール、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドおよび酢酸からなる群より選ばれるいずれか1以上である請求項1から4のいずれかに記載の有機物含有水の生物処理方法。
【請求項6】
有機物含有水が導入されメタン生成菌群によりメタン生成を行う嫌気性生物処理槽と、
前記嫌気性生物処理槽と接続され前記嫌気性生物処理槽から排出された処理液を膜分離する膜分離装置と、
前記膜分離装置の分離水を処理する逆浸透膜装置と、を備える有機物含有水の生物処理装置。
【請求項7】
前記有機物含有水は、全有機物炭素に対するモノマー有機物の割合が70%以上からなる請求項6に記載の有機物含有水の生物処理装置。
【請求項8】
前記嫌気性処理槽は、槽内液の温度を15℃以上40℃以下として運転され、
前記処理液は、前記嫌気性処理槽で加温された状態で前記膜分離装置および前記逆浸透膜装置に供給されるよう構成されている請求項6または7に記載の有機物含有水の生物処理装置。
【請求項9】
前記逆浸透膜装置の透過水から熱回収を行い、回収された熱で前記嫌気性処理槽を加温する熱回収加熱装置をさらに備える請求項8に記載の有機物含有水の生物処理装置。
【請求項10】
前記膜分離装置は、精密濾過膜または限外濾過膜を備える請求項6から9のいずれかに記載の有機物含有水の生物処理装置。
【請求項11】
前記嫌気性生物処理槽で発生したバイオガスを前記膜分離装置に供給して前記膜分離装置を曝気洗浄する洗浄装置をさらに備える請求項6から10のいずれかに記載の有機物含有水の生物処理装置。

【図1】
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【公開番号】特開2009−148714(P2009−148714A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−329506(P2007−329506)
【出願日】平成19年12月21日(2007.12.21)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】