説明

有機発光ダイオード

【課題】近赤外領域で発光する有機発光ダイオードを提供する。
【解決手段】本発明の有機発光ダイオード1は、少なくとも陽極層12、発光層13および陰極層14が基板11上に積層されたもので、発光層13は、導電性高分子材料からなるホスト材料に、赤外領域に発光ピーク波長を有するドーパントがドープされたものである。導電性高分子材料には、ポリフェニレンビニロン系ポリマーの一種であるポリ(2−メトキシ−5−(3‘−7’−ジメチルオクチロキシ)−1,4−フェニレンビニレン)(MDMO-PPV)が好ましい。またドーパントには、低分子系の色素材料である5,5−ジクロロ−3,3‘−ジエチル−11−ジフェニラミノ−10,12−エチレンチアトリカーボシアニン パークロレイト(IR-140)が好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、近赤外領域で発光する有機発光ダイオードに関する。
【背景技術】
【0002】
有機発光ダイオードは、有機EL(Electroluminescence)の発光を利用したLED(Light Emitting Diode)である。これを用いた有機ELディスプレイは、液晶ディスプレイのようなバックライトを必要とせず、また小さなエネルギーによる発光が可能である。さらに、応答速度が速い、視野角が広い、薄型で安価などの利点を持つことから、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイに代わる次世代ディスプレイとして有力視されている。
【0003】
そのため可視光領域において研究・開発が盛んに行われているが、赤外領域での報告例はまだ少ない(例えば、特許文献1参照)。現状では、EL発光を示す発光材料の探索が最重要課題になっている段階であり、もし赤外領域で発光する有機発光ダイオードの作製に成功すれば、現在、無機材料が中心である赤外領域での発光素子に代わる有用な応用展開が期待される。
【0004】
近赤外領域(780〜2500 nm)に発光スペクトルを持つ有機発光ダイオードが開発できれば、セキュリティ用CCDカメラの夜間光源や赤外通信、ワイヤレスリモコン、静脈認証装置などに応用が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−36829号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
有機発光ダイオードに用いられる材料は、大きく分けて低分子系と高分子系がある。赤外に発光波長を持つ材料は低分子系の色素を含む材料が多い。発明者等は、低分子系色素材料である 4-(2-[7-[1,1-Dimethyl-3-(4-sulfo-butyl)-1H-benzo[e]indol-2-yl]-he pta-2,4,6-trienylidene]-1,1-dimethyl-benzo[e]indolium-3-yl)-butane-1-sulfonic acid sodium salt (IR-125)を用いて赤外領域で発光する有機発光ダイオードの作製を試みたが、大きな発光を得ることはできなかった。
【0007】
IR-125 と同じ低分子系色素材料である 5,5'-Dichloro-3,3'- diethyl-11-diphenylamino-10,12-ethylenethiatricarbocyanine perchlorate (IR-140)について、IR-125 とPL(Photoluminescence)強度を比較したところ、赤外発光がより強度であった。一方、低分子材料は分子間力が強いため濃度消光の影響が極めて大きい。
【0008】
発明者等は、より大きな発光を狙い、IR-140 を高分子系材料にドープした状態で実験を行い、更にウェットプロセスによるスピンコーティング法により成膜し、近赤外領域で発光する有機発光ダイオードの作製を目指した。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述の課題を解決可能な本発明の有機発光ダイオードは、少なくとも陽極層、発光層および陰極層が基板上に積層された有機発光ダイオードであって、
前記発光層は、導電性高分子材料からなるホスト材料にドーパントがドープされたものであり、
かつ前記ドーパントとして、赤外領域に発光ピーク波長を有する第1の物質を用いることを特徴とする。
【0010】
ここで、前記ホスト材料がポリ(2−メトキシ−5−(3‘−7’−ジメチルオクチロキシ)−1,4−フェニレンビニレン)(MDMO-PPV)であり、前記第1の物質が5,5−ジクロロ−3,3‘−ジエチル−11−ジフェニラミノ−10,12−エチレンチアトリカーボシアニン パークロレイト(IR-140)であることが好ましい。
【0011】
また前記ポリ(2−メトキシ−5−(3‘−7’−ジメチルオクチロキシ)−1,4−フェニレンビニレン)(MDMO-PPV)に対する前記5,5−ジクロロ−3,3‘−ジエチル−11−ジフェニラミノ−10,12−エチレンチアトリカーボシアニン パークロレイト(IR-140)のドープ濃度が0.08〜0.5重量%であることが好ましい。
【0012】
本発明の有機発光ダイオードは、前記ドーパントとして、電子輸送材料である第2の物質を更に加えてもよい。その場合、前記ホスト材料がポリ(9−ビニルカルバゾール)(PVK)、前記第1の物質が5,5−ジクロロ−3,3‘−ジエチル−11−ジフェニラミノ−10,12−エチレンチアトリカーボシアニン パークロレイト(IR-140)、前記第2の物質が2−(4−ビフェニリル)−5−(4−tert−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール(PBD)であることが好ましい。
【0013】
また前記ポリ(9−ビニルカルバゾール)(PVK)に対する前記2−(4−ビフェニリル)−5−(4−tert−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール(PBD)のドープ濃度が25〜35重量%であることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明において、発光層のホスト材料である導電性高分子材料に、ドーパントとして赤外領域に発光ピーク波長を有する物質をドープすることにより、近赤外領域に発光ピーク波長を有する有機発光ダイオードの作製に成功した。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の形態にかかる有機発光ダイオードの断面図である。
【図2】有機発光ダイオードのI−V特性およびELスペクトルを測定する測定系の構成を示す図である。
【図3】本発明の実施例1(サンプルA)にかかる有機発光ダイオードのELスペクトルの測定結果を示すグラフである。
【図4】図3の測定結果の一部を拡大して示したグラフである。
【図5】同実施例1にかかる有機発光ダイオードのI−V特性の測定結果を示すグラフである。
【図6】本発明の実施例2(サンプルB)にかかる有機発光ダイオードのELスペクトルの測定結果を示すグラフである。
【図7】同実施例2にかかる有機発光ダイオードのI−V特性の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態にかかる有機発光ダイオードについて、図面を参照しながら説明する。
【0017】
図1に、本実施の形態にかかる有機発光ダイオードの断面を示す。有機発光ダイオード1は、基板11の表面に設けられた陽極12の上に、有機高分子材料からなる発光層13と陰極14とが積層されている。
【0018】
陽極12と陰極14の間に存在する発光層13は、導電性高分子材料からなるホスト材料にドーパントがドープされたものであり、かつドーパントは、波長が 780nm 以上の赤外領域に発光のピークを有する物質である。陽極12と陰極14の間に電圧を印加すると、赤外光の発光が観察される。
【0019】
本発明では、発光層13を形成する有機高分子材料として導電性を有する種々の材料を使用でき、例えば、ポリフェニレンビニレン系ポリマーの一種であり、下記式(化1)で示される Poly(2-methoxy-5-(3',7'-dimethyloctyloxy)-1,4-phenylenevinylene)(MDMO-PPV)が挙げられる。
【0020】
【化1】

【0021】
発光層13を形成する他の高分子材料として、ポリビニレン系ポリマーの一種であり、下記式(化2)で示されるPoly(9-vinylcarbazole)(PVK)が挙げられる。PVK は正孔輸送性を有し、ワイドギャップ材料であるので、ホスト材料として適している。
【0022】
【化2】

【0023】
ただし、PVK をホスト材料として用いる場合、PVK のみでは電子輸送性に劣るので、これに電子輸送材料をドープすることで、電子の移動度を調整する必要がある。電子輸送性に優れた材料の一例として、下記式(化3)で示される2-(4-Biphenylyl)-5-(4-tert-butylphenyl)-1,3,4-oxadiazole(PBD)が挙げられる。
【0024】
【化3】

【0025】
発光層13のホスト材料となる有機高分子材料として、上述のポリフェニレンビニレン系ポリマーおよびポリビニレン系ポリマー以外に、芳香環を有するポリパラフェニレン、ポリアニリン、ポリチオフェンなどが使用できる。
【0026】
本発明では、発光層のキャリア注入を内側から改善するために、前述の有機高分子材料(ホスト材料)に、ドーパントとして下記式(化4)で示される 5,5'-Dichloro-3,3'-diethyl-11-diphenylamino-10,12-ethylenethiatricarbocyanine perchlorate(IR-140)をドープした。
【0027】
【化4】

【0028】
ここで、ホスト分子とドーピング分子間の励起エネルギー移動のメカニズムについて説明する。ホスト分子の中にドーピング分子が入っていて、電極から電子、正孔が注入される場合を考える。電子、正孔が電極から注入され、電界により駆動されて移動し、出会って励起子を形成するとする。ホスト分子の蛍光スペクトルがドーパントの吸収スペクトルと重なっていると、ホスト分子の励起子のエネルギーが蛍光を出すことなくドーパント分子に移動する。すなわち、ドーパント分子が実質励起され、それがもとの基底状態に戻るときに発光することになる。これによって電圧印加によりドーパント分子からELが発せられる。
【0029】
上述の有機高分子材料からなる発光層は、広く知られたスピンコート法によって形成することができる。例えば、表面に透明電極である ITO(Indium-Tin-Oxide)膜12が形成された基板(一般にはガラス基板)11を準備し、この基板11の表面に、予め有機溶剤に溶解された有機高分子材料の溶液を滴下し、スピンコーターを用いて塗布し、乾燥させる。
【0030】
このようにして形成される発光層13の膜厚および表面状態は、有機高分子材料溶液の濃度や、その溶液の滴下量、スピンコーターの回転数に影響される。コーティングを複数回行って発光層13を形成してもよい。
【0031】
本発明において、MDMO-PPV に対する IR-140 のドープ濃度が0.08〜0.5重量%であることが好ましい。IR-140 のドープ濃度が0.08重量%未満の場合、および0.5重量%を超える場合には、赤外領域での強い発光が得られず、発光強度も弱くなる。
【0032】
また本発明において、PVK に対する PBD のドープ濃度が25〜35重量%であることが好ましい。PBD のドープ濃度が25重量%未満の場合、および35重量%を超える場合には、正孔と電子のどちらかに電流が偏り、再結合が行われないために発光が得られない。
【0033】
本発明において、陽極(ITO膜)12から発光層13への正孔注入障壁を緩和し、キャリア注入を増加させるために、陽極12と発光層13の間に正孔輸送層を積層してもよい。正孔輸送層を構成する材料としては、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)−ポリ(スチレンスルホナート)(PEDOT & PSS)が好適である。このような正孔輸送層を形成する際にも、発光層13の場合と同様にスピンコート法を用いることができ、スピンコーターの回転数や使用する溶液の濃度を適宜選択することで、膜厚や表面状態を調整できる。
【0034】
なお、有機発光ダイオード1の電極材料は、効率よく発光させるために十分な電子や正孔の注入が行われなければならない。そのため、有機分子や高分子のキャリアを受ける電子エネルギー順位(HOMO、LUMO)との間の障壁ができるだけ小さくなるよう、電子注入側の陰極14には仕事関数の小さいもの、陽極12には逆に仕事関数の大きなものが使用される。また、光を取り出すために、少なくも一方の電極は透明である必要がある。
【0035】
以上を踏まえて、陽極12の材料としては、一般的な透明電極材料である ITO が用いられる。一方、陰極14の材料は、アルカリ金属やアルカリ土類金属などの仕事関数の小さな金属を用いるのが有効である。陰極14の材料としては、例えば、マグネシウム−銀(MG-Ag)、マグネシウム−インジウム(Mg-In)、リチウム−アルミニウム(Li-Al)などの合金や、アルミニウムそのものが挙げられる。また陰極14から発光層13への電子注入を改善するために、カルシウムやフッ化リチウムを電子注入電極として用いることもできる。
【実施例】
【0036】
<サンプルの作製>
発光層13として、ホスト材料である MDMO-PPV 10mg にドーパントであるIR-140 を xmg(x=0.1、0.5、1、2、5)ドープした材料を用いた有機発光ダイオードのサンプルA(実施例1)を作製した。陽極12には ITO 膜を用い、陰極14にはアルミニウム膜を用いた。
【0037】
また発光層13として、ホスト材料である PVK 10mg にドーパントであるIR-140 を 0.1mg、PBD を xmg(x=2、4、5、10)ドープした材料を用いた有機発光ダイオードのサンプルB(実施例2)を作製した。陽極12および陰極14の材料は、サンプルAと同じである。
【0038】
比較のため、下記の構成のサンプルC〜E(比較例)を作製した。なお、陽極12および陰極14の材料は、サンプルAと同じである。
(C)発光層13として、単独のIR-140を 1mg 含む材料を用いた。
(D)発光層13として、Poly (methyl methacrylate) (PMMA)10mg にドーパントであるIR-140を 0.1mg ドープした材料を用いた。
(E)発光層13として、Poly (9-vinylcarbazole) (PVK)10mg にドーパントである IR-140 を0.1mg ドープした材料を用いた。
【0039】
次に、上述した5つのサンプルの作製条件について説明する。発光層については、それぞれの有機材料を上記の割合で混合し、サンプルCは 999 mg、サンプルA、D、Eは 990 mg の 1,2-ジクロロエタンで溶かした。サンプルBについても、溶液濃度(全溶質/溶液質量)が1重量%になるように 1,2-ジクロロエタンで溶かした。その後、これらの溶液を超音波振動で2時間撹拌した。
【0040】
撹拌終了後、陽極(ITO膜)12が形成された基板11上にスピンコーターで塗布を行った。膜厚はサンプルA、B、Cを 100 nm、サンプルD、Eは 50 nm, 100 nm, 200 nmの3パターンで塗布した。その後、10分間自然乾燥させた。これらのサンプルに陰極14としてアルミニウムを蒸着した。
【0041】
次に、有機溶剤の 1,2-ジクロロエタンを用いて陰極金属の蒸着されていない部分の有機薄膜のエッチングを行い、陽極(ITO膜)12を露出させた。
【0042】
次に発光層13の膜厚を測定した。具体的には、上述した各サンプルの任意の箇所に有機溶剤の 1,2-ジクロロエタンを用いてエッチングを行い、基板表面と有機層表面との段差を測定した。この段差測定には、触針式段差表面形状測定装置(XP-1型 Ambios Technology製)を使用した。
【0043】
<I−V特性およびELスペクトルの測定>
【0044】
図2に、上述した各サンプルのI−V(電流−電圧)特性およびELスペクトルを測定する測定系の構成を示す。有機発光ダイオードの各サンプルのI−V特性の測定には、半導体パラメータアナライザ(4155C型 Agilent Technologies製)2を用いた。具体的には、サンプル1の陽極(ITO膜)12と陰極(アルミニウム膜)14に針をあてて電流注入を行った。
【0045】
一方、ELスペクトルの測定は、I−V測定時の発光を光ファイバ3に通し、CCD分光器4に入れてELスペクトルの観測を行い、その結果をパーソナルコンピュータ6で解析した。解析用のソフトウェアには、SPECTRA SUITE(Ocean Photonics製)を用いた。
【0046】
<測定結果と考察>
最初に、比較例であるサンプルC〜Eの測定結果について説明する。発光層をIR-140 だけで形成したサンプルCのI−V特性を測定したところ、導通のような結果が出た。IR-140 の吸収ピーク波長からエネルギーバンドギャップを計算したところ約 1.5 eV 程度しかなく、そのことが原因して、正孔か電子のどちらかがトラップされることなく流れしまったためと考えられる。
【0047】
また、ELスペクトルにおいても赤外発光を観測することができなかった。これは、薄膜形成時の凝集による濃度消光の影響、さらにはI−V特性からキャリアが再結合することなく流れていってしまったことが原因していると考えられる。
【0048】
次に、発光層のホスト材料に PMMA を用い、ドーパントに IR-140 を用いたサンプルD、および発光層のホスト材料に PVK を用い、ドーパントに IR-140 を用いたサンプルEについて、それぞれI-V特性を測定したところ、どちらのサンプルも、どの膜厚においても電流が全く流れなかった。また、高電圧をかけると陰極付近でスパークが起こり、アルミニウムが飛散してしまった。
【0049】
この結果より、ホスト材料の PMMA および PVK がどの膜厚においても絶縁体となってしまい、キャリアの注入ができなかったものと考えられる。ELスペクトル測定の結果も赤外発光は確認できず、これもI-V特性の時と同様の原因であると思われる。
【0050】
次に、本発明の実施例であるサンプルAとBの測定結果について説明する。サンプルA(実施例1)について、870 nm 付近に発光ピークを持つ近赤外発光を観測した。前述のサンプルDではホスト材料に絶縁性高分子を用いたが、サンプルAではホスト材料に導電性高分子を用いたことでキャリアの注入が容易になり、近赤外発光をするに至ったものと思われる。
【0051】
図3にサンプルAのELスペクトルを示し、さらにその一部の拡大図を図4に示す。このとき分光器4の積算時間は 1000 ms であった。またサンプルAのI−V特性を図5に示す。図5に細い破線および実線で示した x=2mg および 5mg のI−V特性において、低電圧時のノイズのような波形は、製膜時の表面の粗さや、電圧を印加し波形が安定する前のデータであることに起因していると思われる。
【0052】
図5に示すI−V特性において、IR-140 のドープ濃度が高いほど電流が流れやすくなっており、閾値電圧も低い。これは、ELスペクトルを示した図3および図4から分かるように、ドープ濃度が高いと赤外発光の強度は低下していくが発光しており、可視光の発光はなくなっていることから、IR-140 のみにキャリアの注入が起こったためと考えられる。またこの時に、赤外発光強度が低下していくのは、濃度消光による影響が強くなったためと考えられる。
【0053】
またドープ濃度を x = 1mg 以下にすると、550 nm 付近に可視光発光が現れてくる。おそらく IR-140 に主に注入されていたキャリアが x =1mg 付近の濃度において MDMO-PPV にも注入され始めたのではないかと思われる。MDMO-PPV にキャリアが注入され、可視光発光が始まったら、赤外発光の強度も急激に強くなっていった。この結果より、励起エネルギーの移動が起こり、発光強度の急激な上昇に繋がったのではないかと思われる。
【0054】
次に、実施例2であるサンプルBの測定結果について説明する。図6にサンプルBのELスペクトルを示す。サンプルBについて、x = 4mg および 5mg のときに 860 nm 付近に発光ピークを持つ近赤外発光を観測した。サンプルBでは、サンプルAのホスト材料であるMDMO-PPVを PVK に代えることによって可視光発光を抑制している。発光強度はサンプルAの方が強かったが、可視光発光を消すことに成功した。
【0055】
またドーピングの割合が IR140:PBD:PVK =0.1:4:10のときに最大強度を観測できた。この割合のときに電子と正孔のキャリアバランスが最適化されるものと考えられる。
【0056】
なお、サンプルAと比較した場合のサンプルBの発光強度の低下は、薄膜中に分散された IR-140 の濃度に問題があり、その原因はホスト材料の粘性の違いにあるものと考えられる。すなわち、 PVK が MDMO-PPV に比べて粘性が低いために、膜中のIR-140 が希薄になったものと考えられる。
【0057】
サンプルBのI−V特性を図7に示す。 PBD の濃度が上昇するにつれて電流値は上昇し、駆動電圧は低下している。電流値の上昇は、正孔電流に加え、電子による電流が上昇したためと考えられる。また閾値電圧の低下は、PBD の LUMO 準位からの電子注入が起こったためと考えられる。
【0058】
上述したように、IR-140 単体で発光層を形成したところ、発光は観測されなかった。これは、IR-140 が凝集して濃度消光を起こしたことが原因と考えられる。これを解決するために絶縁性高分子である PMMA をホスト材料とし IR-140 をドープし分散させ発光層を形成したところ、発光は観測できなかった。これは、絶縁性高分子がワイドバンドギャップなのでキャリア注入が困難であるためと考えられる。
【0059】
また、正孔輸送高分子である PVK をホスト材料とし、IR-140 をドープし分散させ発光層を形成したところ、これでも発光は観測できなかった。これは、PVK のみでは電子輸送性に劣るためと考えられる。
【0060】
これに対し、サンプルA(実施例1)では、導電性高分子であり、バンドギャップが比較的狭いMDMO-PPVをホスト材料とすることでキャリア注入の改善を行った。その結果、550 nm 付近に可視光発光もあるが、870 nm 付近に発光ピークを有する有機発光ダイオードの作製に成功した。
【0061】
更にサンプルB(実施例2)では、正孔輸送高分子である PVK をホスト材料にし、これに電子輸送性に優れた PBD を加えた。サンプルBでは、PBD で IR-140 とのキャリアバランス(電子と正孔のバランス)を整えることにより、可視光発光のない約860nm に近赤外発光を持つ有機発光ダイオードの作製に成功した。
【符号の説明】
【0062】
1 有機発光ダイオード
2 半導体パラメータアナライザ
3 光ファイバ
4 分光器
5 パーソナルコンピュータ
11 基板
12 陽極
13 発光層
14 陰極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも陽極層、発光層および陰極層が基板上に積層された有機発光ダイオードであって、
前記発光層は、導電性高分子材料からなるホスト材料にドーパントがドープされたものであり、
かつ前記ドーパントとして、赤外領域に発光ピーク波長を有する第1の物質を用いることを特徴とする有機発光ダイオード。
【請求項2】
前記ホスト材料がポリ(2−メトキシ−5−(3‘−7’−ジメチルオクチロキシ)−1,4−フェニレンビニレン)(MDMO-PPV)であり、前記第1の物質が5,5−ジクロロ−3,3‘−ジエチル−11−ジフェニラミノ−10,12−エチレンチアトリカーボシアニン パークロレイト(IR-140)であることを特徴とする、請求項1に記載の有機発光ダイオード。
【請求項3】
前記ポリ(2−メトキシ−5−(3‘−7’−ジメチルオクチロキシ)−1,4−フェニレンビニレン)(MDMO-PPV)に対する前記5,5−ジクロロ−3,3‘−ジエチル−11−ジフェニラミノ−10,12−エチレンチアトリカーボシアニン パークロレイト(IR-140)のドープ濃度が0.08〜0.5重量%であることを特徴とする、請求項2に記載の有機発光ダイオード。
【請求項4】
前記ドーパントとして、電子輸送材料である第2の物質を更に加えることを特徴とする、請求項1に記載の有機発光ダイオード。
【請求項5】
前記ホスト材料がポリ(9−ビニルカルバゾール)(PVK)、前記第1の物質が5,5−ジクロロ−3,3‘−ジエチル−11−ジフェニラミノ−10,12−エチレンチアトリカーボシアニン パークロレイト(IR-140)、前記第2の物質が2−(4−ビフェニリル)−5−(4−tert−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール(PBD)であることを特徴とする、請求項4に記載の有機発光ダイオード。
【請求項6】
前記ポリ(9−ビニルカルバゾール)(PVK)に対する前記2−(4−ビフェニリル)−5−(4−tert−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール(PBD)のドープ濃度が25〜35重量%であることを特徴とする、請求項5に記載の有機発光ダイオード。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−60094(P2012−60094A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−243483(P2010−243483)
【出願日】平成22年10月29日(2010.10.29)
【出願人】(503027931)学校法人同志社 (346)
【Fターム(参考)】