説明

有機金属化合物及びこれを用いたディスプレイ装置

【課題】新規な有機金属化合物及びこれを用いた有機エレクトロルミネセントデバイスを提供する。
【解決手段】2個の互いに結合する遷移金属と、ニ座配位子と、硫黄または酸素を含有したピリジンまたはピリミジン基とを含む有機金属化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機金属化合物に関し、より詳細には、有機エレクトロルミネセントディスプレイ装置の電界発光材料となる有機金属化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話機、PDA及びノートブック型コンピュータ等といった電子製品が発展し、広く使用されるようになってきたことに伴い、電力消費がより低く、占有スペースがより小さいフラットディスプレイ素子への需要が高まってきている。有機エレクトロルミネセントデバイス(Organic electroluminescent device)は、自発光、高輝度、広視野角、高速応答であると共に製造がシンプルであるという長所を備えているため、そうしたフラットディスプレイに使用されことが多くなってきた。
【0003】
有機エレクトロルミネセントデバイスは、有機発光ダイオード(Organic light−emitting diode;以下、OLEDと略す)とも呼ばれており、通常、1対の電極間に発光層を挟んで構成されている。これらの電極に電界が印加されると、陰極から電子が、陽極からはホールが発光層に注入され、電子とホールが発光層中で再結合することにより励起子が生成される。そして、電子とホールの再結合によって発光することになる。
【0004】
ホールと電子の再結合により生成された励起子は、ホールと電子のスピン状態に応じて3重項または1重項状態を示し得る。1重項励起子からの発光は蛍光、3重項励起子からの発光は燐光となり、燐光の発光効率は蛍光の3倍である。従って、OLEDの発光効率を向上させるには、高効率の燐光材料を開発することが極めて重要となる。
【0005】
これに関して、非特許文献1に、特定の有機金属錯体が強力な燐光を有することが報告されている。
【0006】
また、非特許文献2には、こうした錯体を用いて製造される、緑色から赤色の領域で発光する高効率のOLEDが報告されている。
【0007】
また、特許文献1には青色の領域で発光する燐光の有機金属錯体が開示されている。
【0008】
更に、特許文献2にはフェニルキノリナート(phenylquinolinato)配位子を含んだ燐光の有機金属錯体が開示されている。
【0009】
そして、特許文献3には、下記の一般式で示される構造を有する発光層材料としての化合物が開示されている。
【0010】
【化1】


式中、KはIr(イリジウム)またはPt(白金)、R”はアルキル基、Yはアセチルアセトナート、ピコリネート、またはジピバロイルメタナート(dipivaloylmatanate)、i及びjはそれぞれ0から6の整数である。
【0011】
また、特許文献4には、白金オクタエチルポルフィン(platinum octaethylporphine)を含むヘテロ原子含有電界発光材料が開示されている。
【0012】
特許文献5には、2B族の遷移金属と四座ONNO型配位子を含む化合物が開示されている。
【0013】
上記化合物及びその他の従来技術の燐光を発する化合物は、例えばPt(白金)、Os(オスミウム)、Ir(イリジウム)、Re(レニウム)またはRu(ルテニウム)等といったdの遷移金属を1個含んで構成されるものであり、有機エレクトロルミネセントデバイスに使用される際には、低い発光効率しか示さない。従って、各種フラットパネルディスプレイへの使用にあたり、発光層材料として燐光を発する化合物には更なる改良が望まれる。
【0014】
【非特許文献1】ラマンスキー(Lamansky)ら:インオーガニック・ケミストリー(Inorganic Chemistry)、2001年、40巻,1704頁
【非特許文献2】ラマンスキー(Lamansky)ら:ジャーナル・オブ・ジ・アメリカン・ケミカル・ソサイエティ(Journal of the American Chemical Society)、2001年、123巻,4304頁
【特許文献1】米国特許出願公開第2002/0182441号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2003/0072964号明細書
【特許文献3】米国特許第6687266号明細書
【特許文献4】米国特許第6303238号明細書
【特許文献5】米国特許第6653654号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
上述に鑑みて、本発明の目的は、新規な有機金属化合物及びこれを用いた有機エレクトロルミネセントディスプレイ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
すなわち、本発明は、下記一般式(I)で示される有機金属化合物に関する。
【0017】
【化2】

【0018】
【化3】

【0019】
式中、M及びM’は、それぞれ独立に、遷移金属である。
【0020】
Rは、少なくとも1個の窒素原子を含む複素環基である。A及びAはそれぞれ独立に、硫黄、酸素、または窒素原子である。
【0021】
上記化2における化3の部分は、それぞれ独立に、MまたはM’に結合する窒素原子及び炭素原子からなる二座配位子であり、以下、Xと略す。
【0022】
前記M及びM’は同じ遷移金属であることが好ましい。前記A及びAは同じ原子であることが好ましい。前記M及びM’は、原子量が40よりも大きい遷移金属であることが好ましい。前記M及びM’は、Ir、Os、Pt、Pb(鉛)、Re、またはRuであることが好ましい。
【0023】
前記Xは、それぞれ独立に、下式のうちのいずれかによって示されるものであることが好ましい。
【0024】
【化4】

【0025】
【化5】

【0026】
【化6】

【0027】
【化7】

【0028】
【化8】

【0029】
【化9】

【0030】
式中、Rは水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、CN、CF、アルキルアミノ、アミノ、アルコキシ、ハロ、アリルまたはヘテロアリルである。
【0031】
前記Xの炭素原子に結合する少なくとも1つの水素原子は、任意であり、電子供与基または電子求引基で置換されていていることが好ましい。
【0032】
前記Xの炭素原子に結合する少なくとも1つの水素原子は、任意であり、アルキル、アルケニル、アルキニル、CN、CF、アルキルアミノ、アミノ、アルコキシ、ハロ、アリルまたはヘテロアリルにより置換されていることが好ましい。
【0033】
前記有機金属化合物は下式のうちのいずれかによって示されるものであることが好ましい。
【0034】
【化10】

【0035】
【化11】

【0036】
【化12】

【0037】
【化13】

【0038】
【化14】

【0039】
前記有機金属化合物はエレクトロルミネセントディスプレイ装置の発光層材料として用いられることが好ましい。前記有機金属化合物は橙色または赤色の範囲で発光するものであることが好ましい。
【0040】
また、本発明は、基板と、前記基板上に形成された陽極と、前記陽極上に形成された有機エレクトロルミネセント層と、かつ前記有機エレクトロルミネセント層上に形成された陰極から成るディスプレイ装置であって、前記有機エレクトロルミネセント層は、下記一般式(I)で示される有機金属化合物を含んでいるディスプレイ装置に関する。
【0041】
【化15】

【0042】
式中、M及びM’は、それぞれ独立に、遷移金属である。
【0043】
Rは、少なくとも1個の窒素原子を含む複素環基である。A及びAはそれぞれ独立に、硫黄、酸素、または窒素原子である。
【0044】
上記化15における化3の部分は、前記Xである。
【0045】
前記M及びM’は同じ遷移金属であることが好ましい。前記A及びAは同じ原子であることが好ましい。前記M及びM’は、原子量が40よりも大きい遷移金属であることが好ましい。前記M及びM’は、Ir、Os、Pt、Pb、Re、またはRuであることが好ましい。
【0046】
前記Xは、それぞれ独立に下式のうちのいずれかによって示されるものであることが好ましい。
【0047】
【化16】

【0048】
【化17】

【0049】
【化18】

【0050】
【化19】

【0051】
【化20】

【0052】
【化21】

【0053】
式中、Rは水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、CN、CF、アルキルアミノ、アミノ、アルコキシ、ハロ、アリルまたはヘテロアリルである。
【0054】
前記Xの炭素原子に結合する少なくとも1個の水素原子は、任意であり、電子供与基または電子求引基により置換されていていることが好ましい。前記Xの炭素原子に結合する少なくとも1個の水素原子は、任意であり、アルキル、アルケニル、アルキニル、CN、CF、アルキルアミノ、アミノ、アルコキシ、ハロ、アリルまたはヘテロアリルにより置換されていることが好ましい。
【0055】
前記有機金属化合物は下式のうちのいずれかによって示されるものであることが好ましい。
【0056】
【化22】

【0057】
【化23】

【0058】
【化24】

【0059】
【化25】

【0060】
【化26】

【0061】
前記有機金属化合物をエレクトロルミネセントディスプレイ装置の発光層材料として用いることが好ましい。前記有機金属化合物は橙色または赤色の範囲で発光するものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0062】
本発明に係る有機金属化合物は、互いに結合する2個の遷移金属を含んでおり、その特異な化学構造と強い金属結合のために、有機エレクトロルミネセントに適用された場合、高発光効率で、しかも高い色純度で赤色を発光することができる。更に、本発明に係わる有機金属化合物は、有機エレクトロルミネセントデバイスの燐光ドーパント材料ともなり得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0063】
本発明は、2個の遷移金属(dual transition−metals)を含む錯体と、ピリジン−2−チオールまたはピリミジン−2−チオールとを反応させて形成される、下記一般式(I)にて示される構造を有する有機金属化合物を提供するものである。
【0064】
【化27】

【0065】
式中、M及びM’は、それぞれ独立に、遷移金属であり得る。
【0066】
また、Rは、少なくとも1個の窒素原子を含む複素環基であり得る。A及びAはそれぞれ独立に、硫黄、酸素、または窒素原子であり得る。
【0067】
上記化27における化3の部分は、Xである。
【0068】
更に、本発明は、陽極、陰極、及びこれらの間の有機エレクトロルミネセント層を含み、該有機エレクトロルミネセント層に一般式(I)で示される有機金属化合物が含まれてなる、例えば有機エレクトロルミネセントデバイスであるディスプレイ装置をも提供する。
【0069】
以下に、添付の図面を参照しながら本発明をより詳細に説明する。
本発明は、2個の互いに結合する遷移金属と、二座配位子と、硫黄または酸素を含有したピリジンまたはピリミジン基とを含む、下記一般式(I)で示される構造を有する有機金属化合物を提供する。
【0070】
【化28】

【0071】
式中、Rは、少なくとも1個の窒素原子を含む複素環基であり得る。A及びAはそれぞれ独立に、硫黄、酸素、または窒素原子であり得る。
【0072】
上記化28における化3の部分は、Xである。Xの代表例としては、次のものが挙げられるが、これらのみに限定されることはない。
【0073】
【化29】

【0074】
【化30】

【0075】
【化31】

【0076】
【化32】

【0077】
【化33】

【0078】
【化34】

【0079】
式中、Rは水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、CN、CF、アルキルアミノ、アミノ、アルコキシ、ハロ、アリルまたはヘテロアリルである。
【0080】
Xの炭素原子に結合する少なくとも1個の水素原子は、任意であり、例えばアルキル、アルケニル、アルキニル、CN、CF、アルキルアミノ、アミノ、アルコキシ、ハロ、アリルまたはヘテロアリル等の電子供与基または電子求引基で置換されていてもよい。
【0081】
M及びM’は、それぞれ独立に、所定の遷移金属であって、例えばIr、Os、Pt、Pb、Re、またはRuである原子量が40よりも大きいdの遷移金属であると好ましい。なお、M及びM’は互いに結合していなければならない。
【0082】
一般式(I)によって示される本発明の有機金属化合物は、作製が容易で、熱及び空気に対して非常に安定であり、電気的に中性であると共に、フォトルミネセンス及びエレクトロルミネセンス特性を示す、という長所を備える。
【0083】
該有機金属化合物をホスト材料として用いた有機エレクトロルミネセントデバイスは、橙色または赤色の領域で発光する。互いに結合する2個の遷移金属を含む発光層材料に関する先行技術文献ないし関連文献はこれまで開示されていなかった。
【0084】
本発明に係わる有機金属化合物は、そのM及びM’がいずれも白金(II)である場合に、一層優れた物理特性及びエレクトロルミネセンス特性を示す。その特異な化学構造と強い金属結合のために、本発明に係わる有機金属化合物は、有機エレクトロルミネセントに適用されると、バイアス電圧の印加により高発光効率で、しかも高い色純度で赤色を発することとなる。
【0085】
更に、本発明に係わる有機金属化合物は、有機エレクトロルミネセントデバイスの燐光ドーパント材料ともなり得る。
【0086】
以下に実施例を挙げるが、これは範囲を限定することなく本発明をより完全に説明するためのものであり、当業者であれば数々の調整や変更は自明であろう。
【実施例】
【0087】
有機金属化合物の調製
本発明をより理解し易くするために、以下に化合物の構造とその略称を示す。
【0088】
【化35】

【0089】
【化36】

【0090】
【化37】

【0091】
【化38】

【0092】
(調製例1)
46dfppyの合成
合成スキームは次のとおりである。
【0093】
【化39】

【0094】
2,4−ジフロロフェニルボロン酸(6.3mmol)1.0g、酢酸パラジウム<Pd(アセテート)>(0.16mmol)0.036g及びトリフェニルフォスフィン(0.641mmol)0.168gを、KCO/HO溶液(2M)12ml及び1,2-ジメトキシエタン6ml中に溶解してから、その混合物に2−ブロモピリジン(6.33mmol)0.6mlを滴下して加えた。
【0095】
続いて、24時間加熱還流した後、室温まで冷却し、真空下で濃縮して茶色の固体を得た。その固体生成物をHO60ml中に溶解して、CH12で抽出した後、ろ過、濃縮を行ない、アセトン/ヘキサンで再結晶化し、黄色の結晶体として2−(2,4ジフロロ−フェニル)−ピリジンを収率36%(0.43g、2.25mmol)で得た。
その分析データは次のとおりであった。FAB−MS:m/e=191(M+)
【0096】
(調製例2)
T1の合成
合成のスキームは次のとおりである。
【0097】
【化40】

【0098】
テトラクロロ白金(II)酸カリウム(1.3mmol)0.54g、及び2−(2,4−ジフロロ−フェニル)−ピリジン(2.73mmol)0.52gを、混合溶剤(2−メトキシエタノール:H
= 3:1)中に溶解してから、24時間加熱還流し、その混合物にHO20mlを加えることにより急冷した。
【0099】
そして、ろ過後、HO/ヘキサンで洗浄して、0.89gの化合物T1を収率82%にて得た。
【0100】
(調製例3)
T2の合成
合成スキームは次のとおりである。
【0101】
【化41】

【0102】
テトラクロロ白金(II)酸カリウム(2.41mmol)1g、及びフェニルピリジル(7.23mmol)1.12gを、混合溶剤(2−メトキシエタノール:H
= 3:1)中に溶解してから、24時間加熱還流し、その混合物にHO20mlを加えることにより急冷した。そして、ろ過後、HO/ヘキサンで洗浄し、1.57gの化合物T2を収率85%で得た。
【0103】
(実施例1)
錯体(I)の合成
合成スキームは次のとおりである。
【化42】

【0104】
化合物T1(2.97mmol)2.5g、ピリジン−2−チオール(6.83mmol)0.76g、及びNaCO(29.7mmol)3.14gを、溶剤としての2−メトキシエタノール中に溶解してから、5時間加熱還流し、その混合物にHO20mlを加えることにより急冷した。
【0105】
析出した固体をろ過により収集した後、純水で数回洗浄して、赤色の固体としての錯体(I)0.88gを得た。そして、最終生成物を真空昇華(<3×10−4 torr、270℃)により精製した。収率は30%であった。
【0106】
(実施例2)
錯体(II)の合成
合成のスキームは次のとおりである。
【0107】
【化43】

【0108】
化合物T1(2.97mmol)2.5g、ピリミジン−2−チオール(6.83mmol)0.77g、及びNaCO(29.7mmol)3.14gを、溶剤としての2−メトキシエタノール中に溶解してから、5時間加熱還流し、その混合物にHO20mlを加えることにより急冷した。
【0109】
析出した固体をろ過により収集した後、純水で数回洗浄して、錯体(II)0.97gを得た。そして、最終生成物を真空昇華(<3×10−4 torr、270℃)により精製した。収率は33%であった。
【0110】
(実施例3)
錯体(III)の合成
合成スキームは次のとおりである。
【0111】
【化44】

【0112】
化合物T2(3.25mmol)2.5g、ピリジン−2−チオール(7.47mmol)0.83g、及びNaCO(32.5mmol)3.44gを、溶剤としての2−メトキシエタノール中に溶解してから、5時間加熱還流し、その混合物にHO20mlを加えることにより急冷した。
【0113】
析出した固体をろ過により収集した後、純水で数回洗浄して、結晶としての錯体(III)1.05gを得た。そして、最終生成物を真空昇華(<3×10−4 torr、280℃)により精製した。収率は35%であった。
【0114】
(実施例4)
錯体(IV)の合成
合成のスキームは次のとおりである。
【0115】
【化45】

【0116】
化合物T2(3.25mmol)2.5g、ピリミジン−2−チオール(7.47mmol)0.71g、及びNaCO(32.5mmol)3.44gを、溶剤としての2−メトキシエタノール中に溶解してから、5時間加熱還流し、その混合物にHO20mlを加えることにより急冷した。
【0117】
析出した固体をろ過により収集した後、HO/ヘキサンで数回洗浄して、錯体(IV)1.20gを得た。そして、最終生成物を真空昇華(<3×10−4 torr、285℃)により精製した。収率は40%であった。
【0118】
(実施例5)
錯体(V)の合成
合成スキームは次のとおりである。
【0119】
【化46】

【0120】
化合物T2(3.25mmol)2.5g、ピリジン−2−オール(7.47mmol)0.71g、及びNaCO(32.5mmol)3.44gを、溶剤としての2−メトキシエタノール中に溶解してから、16時間加熱還流し、その混合物にHO20mlを加えることにより急冷した。
【0121】
析出した固体をろ過により収集した後、純水で数回洗浄して、錯体(V)0.87gを得た。そして、最終生成物を真空昇華(<3×10−4 torr、285℃)により精製した。収率は30%であった。
【0122】
上述の実施例1ないし実施例5により得られた錯体(I)ないし錯体(V)の特性を調べるため測定を行なった。
【0123】
図1ないし図3は、錯体(I)ないし錯体(V)のフォトルミネセンススペクトル(PL)を示す。
【0124】
同図に示されるように、錯体(I)ないし錯体(V)の最大発光波長はそれぞれ、602nm、588nm、615nm、596nm及び635nmであった。従って、本発明に係る有機金属化合物は、橙色または赤色の範囲で発光することが分かる。
【0125】
理研計器(株)社製光電子分光装置(AC−2)を用いてHCl中に分散させた錯体(I)ないし錯体(V)のHOMOレベルを測定した。その結果を、表1に示す。同表1から、錯体(I)ないし錯体(V)のHOMOレベルはそれぞれ、5.2eV、5.16eV、5.25eV、5.19eV及び5.22eVであった。
【0126】
【表1】

【0127】
更に、単結晶X線回折装置により錯体(I)及び錯体(III)の結晶構造を解析した。そのオークリッジ 熱エリプソイド プログラム(Oak Ridge Thermal Ellipsoid Program;以下、ORTEPと略す)図(30%プロバビリティー(probability))を図4及び図5に示す。
【0128】
また、表2A及び表2B、並びに表3A及び表3Bは、それぞれ、錯体(I)及び錯体(III)の結晶データ、すなわち結晶解析の一部データを示す。同表2A、2B及び3A、3Bから、錯体(I)及び錯体(III)は、結合する2個の遷移金属をそれぞれ備えており、そのPt−Pt結合の結合距離はそれぞれ2.8669Å及び2.8552Åであった。
【0129】
図4及び図5から、有機金属化合物における2個の遷移金属とこれらに結合する原子とが、5員環(Pt1−S1−C1A−N1A−Pt1A及びPt1−S1−C32−N4−Pt2)を形成していることが分かる。
【0130】
本発明に係わる有機金属化合物はその立体的構造により、4員環を有する従来のPt錯体と比較してより昇華し易いという特性を有している。
【0131】
【表2A】

【0132】
【表2B】

【0133】
【表3A】

【0134】
【表3B】

【0135】
以上、本発明を実施例のかたちで説明すると共に、好ましい実施形態によって説明したが、本発明がこれらに限定されないことは言うまでもない。すなわち、添付の特許請求の範囲が、本発明の精神と範囲に包含されるような変更や調整の全てを含むと解釈されなければならない。
【図面の簡単な説明】
【0136】
【図1】本発明の錯体(I)及び(II)の、波長と強度により示されるフォトルミネセンススペクトルである。
【図2】本発明の錯体(III)及び(IV)の、波長と強度により示されるフォトルミネセンススペクトルである。
【図3】本発明の錯体(V)の波長と強度により示されるフォトルミネセンススペクトルである。
【図4】本発明の錯体(I)の単結晶X線回折を利用して描画したORTEP図である。
【図5】本発明の錯体(III)の単結晶X線回折を利用して描画したORTEP図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で示される有機金属化合物。
【化1】

【化2】

(式中、M及びM’は、それぞれ独立に、遷移金属である。Rは、少なくとも1つの窒素原子を含む複素環基である。A及びAはそれぞれ独立に、硫黄、酸素、または窒素原子である。上記化1における化2の部分は、それぞれ独立に、MまたはM’に結合する窒素原子および炭素原子からなる二座配位子であり、以下、Xと略す。)
【請求項2】
前記M及びM’は同じ遷移金属である請求項1記載の有機金属化合物。
【請求項3】
前記A及びAは同じ原子である請求項1ないし請求項2のいずれか1項に記載の有機金属化合物。
【請求項4】
前記M及びM’は、原子量が40よりも大きい遷移金属である請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の有機金属化合物。
【請求項5】
前記M及びM’は、Ir(イリジウム)、Os(オスミウム)、Pt(白金)、Pb(鉛)、Re(レニウム)、またはRu(ルテニウム)である請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の有機金属化合物。
【請求項6】
前記Xは、それぞれ独立に、下式のうちのいずれかによって示されるものである請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の有機金属化合物。
【化3】

【化4】


【化5】


【化6】


【化7】


【化8】


(式中、Rは水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、CN、CF、アルキルアミノ、アミノ、アルコキシ、ハロ、アリルまたはヘテロアリルである。)
【請求項7】
前記Xの炭素原子に結合する少なくとも1つの水素原子は、任意であり、電子供与基または電子求引基にて置換されていている請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の有機金属化合物。
【請求項8】
前記Xの炭素原子に結合する少なくとも1つの水素原子は、任意であり、アルキル、アルケニル、アルキニル、CN、CF、アルキルアミノ、アミノ、アルコキシ、ハロ、アリルまたはヘテロアリルにて置換されている請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載の有機金属化合物。
【請求項9】
下式のうちのいずれかによって示される請求項1ないし請求項8のいずれか1項に記載の有機金属化合物。
【化9】


【化10】


【化11】


【化12】


【化13】

【請求項10】
エレクトロルミネセントディスプレイ装置の発光層材料として用いられる請求項1ないし請求項9のいずれか1項に記載の有機金属化合物。
【請求項11】
橙色または赤色の範囲で発光する請求項1ないし請求項10のいずれか1項に記載の有機金属化合物。
【請求項12】
基板と、
前記基板上に形成された陽極と、
前記陽極上に形成された有機エレクトロルミネセント層と、かつ
前記有機エレクトロルミネセント層上に形成された陰極と、
から成るディスプレイ装置であって、
前記有機エレクトロルミネセント層は、下記一般式(I)にて示される有機金属化合物を含んでいるディスプレイ装置。
【化14】


(式中、M及びM’は、それぞれ独立に、遷移金属である。Rは、少なくとも1つの窒素原子を含む複素環基である。A及びAはそれぞれ独立に、硫黄、酸素、または窒素原子である。上記14における化2の部分はXである。)
【請求項13】
前記M及びM’は同じ遷移金属である請求項12記載のディスプレイ装置。
【請求項14】
前記A及びAは同じ原子である請求項12ないし請求項13のいずれか1項に記載のディスプレイ装置。
【請求項15】
前記M及びM’は、原子量が40よりも大きい遷移金属である請求項12ないし請求項14のいずれか1項に記載のディスプレイ装置。
【請求項16】
前記M及びM’は、Ir、Os、Pt、Pb、Re、またはRuである請求項12ないし請求項15のいずれか1項に記載のディスプレイ装置。
【請求項17】
前記Xは、それぞれ独立に下式のうちのいずれかによって示されるものである請求項12ないし請求項16のいずれか1項に記載のディスプレイ装置。
【化15】


【化16】


【化17】


【化18】


【化19】


【化20】


(式中、Rは水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、CN、CF、アルキルアミノ、アミノ、アルコキシ、ハロ、アリルまたはヘテロアリルである。)
【請求項18】
前記Xの炭素原子に結合する少なくとも1つの水素原子は、任意であり、電子供与基または電子求引基にて置換されていている請求項12ないし請求項17のいずれか1項に記載のディスプレイ装置。
【請求項19】
前記Xの炭素原子に結合する少なくとも1つの水素原子は、任意であり、アルキル、アルケニル、アルキニル、CN、CF、アルキルアミノ、アミノ、アルコキシ、ハロ、アリルまたはヘテロアリルにて置換されている請求項12ないし請求項18のいずれか1項に記載のディスプレイ装置。
【請求項20】
前記有機金属化合物が下式のうちのいずれかにより示されるものである請求項12ないし請求項19のいずれか1項に記載のディスプレイ装置。
【化21】


【化22】


【化23】


【化24】


【化25】

【請求項21】
前記有機金属化合物をエレクトロルミネセントディスプレイ装置の発光層材料として用いた請求項12ないし請求項20のいずれか1項に記載のディスプレイ装置。
【請求項22】
前記有機金属化合物は橙色または赤色の範囲で発光する請求項12ないし請求項21のいずれか1項に記載のディスプレイ装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−131631(P2006−131631A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−315619(P2005−315619)
【出願日】平成17年10月31日(2005.10.31)
【出願人】(501358079)友達光電股▲ふん▼有限公司 (220)
【Fターム(参考)】