説明

有機EL発光素子およびその製造方法

【課題】 陽極として使用可能な仕事関数の反射膜を有する、高品質のトップエミッション型有機EL発光素子を提供する。
【解決手段】 基板上に、基板側から陽極と、少なくとも有機EL発光層と、透明電極とをこの順に有し、前記透明電極側から光を取り出す有機EL発光素子であって、陽極が、表面酸化処理によりその仕事関数を4.75eV以上に高められた金属またはその合金からなり、鏡面研磨せずとも最大突起高さが50nm以下である表面粗さであり、反射率が70%以上の反射膜であることを特徴とする有機EL発光素子およびその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL発光素子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
表示装置に適用される発光素子の一例として、有機化合物の薄膜積層構造を有する有機エレクトロルミネッセンス発光素子(以下、有機EL発光素子という。)が知られている。この有機EL発光素子は薄膜の自発発光型素子であり、低駆動電圧、高解像度、高視野角といった優れた特徴を有することから、それらの実用化に向けて様々な検討がなされている(例えば非特許文献1参照。)。
【0003】
有機EL発光素子としては、基板側から光を取り出す、いわゆる「ボトムエミッション」型の素子が広く知られている。一般的なボトムエミッション型有機EL発光素子の模式的な構造を図1に示す。この有機EL発光素子は、図1に示すように反射膜からなる陰極1bと、透明基板上の透明電極からなる陽極7aと、両電極に挟持される有機EL発光層から構成される。有機EL発光層は少なくとも有機発光層4を含み、必要に応じて電子注入層2、電子輸送層3、正孔輸送層5、正孔注入層6を含むことができる。
【0004】
また、アクティブマトリックス駆動方式のディスプレイの開発が盛んに行われている。ボトムエミッション方有機EL素子をアクティブマトリックス駆動方式の有機ELディスプレイに適用する場合、スイッチング素子として基板上に薄膜トランジスタ(TFT)を設ける必要があり、基板上に設けられるTFTの数の増加に伴って、基板上に占めるTFTの面積が増大し、光の取り出し面積が減少してしまう。
【0005】
従って、そのような状況下では、有機ELディスプレイに適用される素子は、光を基板側から取り出すボトムエミッション型の素子よりも光を基板の反対側(上部電極側)から取り出す「トップエミッション」型の素子の方が構造的に有利である(例えば、特許文献1参照。)。
【0006】
一般的なトップエミッション型の有機EL素子の構造の模式図を図2に示す。このようなトップエミッション型有機EL発光素子を製造するには、外部に取り出す光の量を大きくするためにガラス基板8の上にスパッタ法、蒸着法などにより反射膜9を形成し、その上に透明電極からなる陽極7aを設けて、その上に有機EL発光層を設けて、さらにその上に透明電極から成る陰極1bを設けるのが一般的である。有機EL発光層は上述のボトムエミッション型有機EL発光素子における有機EL発光層と同様である。
【0007】
また、特許文献2では、透明電極と反射膜の代わりに金属からなる陽極が反射膜を兼ねて形成するという提案もある(例えば、特許文献2参照。)。この金属としては、金(Au)、プラチナ(Pt)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、タングステン(W)、クロム(Cr)などの仕事関数の大きい金属を用いるとしている。
【0008】
また、ボトムエミッション型ではあるが、陽極を陰極よりも仕事関数の大きい非酸化物である金属材料を用いる提案があり、このような金属材料としては金、銀、銅が挙げられている(例えば、特許文献3参照。)。
【0009】
また、透明電極として用いられるITO膜に、酸素イオンまたは電子を照射してITO膜の表面改質を行い、仕事関数を5.0eV以上とする提案もある(例えば、特許文献4参照。)。
【非特許文献1】C.W.Tang, S.A.VanSlyke, Appl. Phys. Lett., 51, 13(1987)
【特許文献1】特開2001−43980号公報
【特許文献2】特開2001−176660号公報
【特許文献3】特開2003−31375号公報
【特許文献4】特開2000−133466号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、特許文献1に記載の有機EL発光素子は反射膜の上に陽極が設けられているため、発光層から反射膜までの光学距離が大きくなり、発光層から陰極側に出る上部光と反射膜での反射光との干渉により取り出し光量が低下するという問題を生じる。
【0011】
また、特許文献2、3に記載されている金属のうち、金以外は仕事関数が小さく(例えばAg:4.26eV、Al:4.28eV、Cr:4.4eV)、陽極として用いることは困難である。陽極材料は正孔注入層などへ効率よく正孔を注入できるものが好ましいが、正孔注入層を形成する正孔注入材の多くは4.75eV以上のイオン化ポテンシャルであり、仕事関数を4.75eV以上とする必要があるためである。
【0012】
一方、反射膜はスパッタ法、蒸着法などにより形成されるが、金はどのような製膜法によっても製膜後の表面凹凸が大きくなってしまうという問題がある。有機EL発光層を含む有機EL発光層はこの反射膜上に作製されるが、有機EL発光層は全体の厚さが200nm程度と薄く、中でも電界の集中する電子輸送層は30nm程度ときわめて薄い。したがって、素子を作製する表面の凹凸が激しいと、電界集中が起こり、素子が短絡し、発光不能部(ダークスポット)が形成されてしまう問題がある。特許文献2では金を用いた反射膜兼陽極の表面を鏡面研磨して表面粗さの最大高さ(Rmax)が5nm以下となるようにしているが、非常に煩雑な作業となり手間がかかるとともにコスト高となる。
【0013】
特許文献4ではITO膜を陽極として用いているので、本願発明におけるように反射機能を陽極にもたせることができず、このため、反射膜の上にITO膜を設ける必要があり、発光層から反射膜までの光学距離が大きくなり、発光層から陰極側に出る上部光と反射膜での反射光との干渉により取り出し光量が低下するという問題を生じる。また、ITOはもともと酸化物であるため、特許文献4における表面処理は酸化ではなく、活性エネルギーや酸素イオンによる何らかの活性化と考えられる。ITO膜に酸素イオンや電子を照射して活性化しており、また、ITOは抵抗率が大きいため温度上昇しやすく、より酸素濃度を高めたITOが温度上昇すると酸素供給源として機能し、ITOに接する有機EL発光層が酸化されるおそれが高くなるという欠点を有している。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明はこのような状況に鑑み、陽極として使用可能な仕事関数の反射膜を有する、高品質のトップエミッション型有機EL発光素子を提供することを目的とする。
【0015】
すなわち、本発明の有機EL発光素子は基板上に、基板側から陽極と、少なくとも有機EL発光層と、透明電極とをこの順に有し、前記透明電極側から光を取り出す有機EL発光素子であって、陽極が、表面酸化処理によりその仕事関数を4.75eV以上に高められた金属またはその合金からなり、鏡面研磨せずとも最大突起高さが50nm以下である表面粗さであり、反射率が70%以上の反射膜であることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の有機EL発光素子の製造方法は、基板上に金属またはその合金からなり、鏡面研磨せずとも最大突起高さが50nm以下である表面粗さであり、反射率が70%以上である反射膜を形成する反射膜形成工程と、酸化により反射膜表面の仕事関数を4.75eV以上に高める表面酸化処理工程と、反射膜上に有機EL発光層を形成する有機EL発光層形成工程と、有機EL発光層の上に透明電極を形成する透明電極形成工程とを少なくとも有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、高い仕事関数を有する金属またはその合金からなり、鏡面研磨せずとも最大突起高さが50nm以下である表面粗さであり、反射率が70%以上である反射膜を陽極として用い、その結果、駆動電圧が低減され、かつ、発光効率が向上した高品質のトップエミッション型有機EL発光素子を効率よく提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に、本発明の有機EL発光素子を詳細に説明する。本発明の有機EL発光素子の1実施態様を、図3に示す。有機EL発光素子は、基板8と、基板上に形成される反射機能をもつ陽極10と、有機EL発光層と、透明電極からなる陰極1とを含み、透明電極側から光を取り出すものである。
【0019】
基板8としては、トップエミッション型有機EL素子に用いられる基板であればどのようなものも用いることができるが、本発明においてはその上に反射膜を形成するのでできる限り平滑な面を有していることが好ましい。
【0020】
陽極を構成する材料は正孔注入層などへ効率よく正孔を注入できるものとの観点から比較的仕事関数の高い材料が用いられ、このような材料としては、金、銀、プラチナ、ニッケル、銅、タングステン、クロム、イリジウム、ロジウム、パラジウム、ルビジウムなどの遷移金属、あるいはこれらの遷移金属とランタナイド、ボロン、りんなどとの合金、銀とアルカリ土類金属の合金などが挙げられる。
【0021】
上記遷移金属のうち、金が最も仕事関数が高く、仕事関数の面からは陽極材料として適しているが、金はスパッタ法、蒸着法などいずれの成膜方法で成膜しても表面粗さが大きく、この上に有機EL発光層を設けるには不適である。
【0022】
表面粗さが小さく、かつ反射率70%以上の反射膜を形成できる金属または合金で、仕事関数が4.75eV以上のものは見当たらない。
【0023】
そこで、本発明においては反射機能を有する陽極材料として、表面粗さが小さく、かつ反射率70%以上の反射膜を形成できる金属または合金で、仕事関数が4.75eV未満ではあるが4.0eV以上のものを用い、表面酸化処理により陽極表面の仕事関数を4.75eV以上とする。
【0024】
このような金属または合金としては銀、プラチナ、ニッケル、銅、タングステン、クロムなどおよび遷移金属とランタナイド、ボロン、りんなどとの合金、銀とアルカリ土類金属の合金などが挙げられる。
【0025】
本発明において、反射膜はその表面粗さとして、鏡面研磨せずとも最大突起高さが50nm以下である必要がある。
これらの材料のうち、より表面粗さの小さい膜を成膜できる材料という観点から、遷移金属−ランタナイド合金、遷移金属−ボロン合金、遷移金属−りん合金、銀−アルカリ土類金属合金から選ばれる1種以上が好ましい。このような合金を構成する遷移金属としてはニッケル、クロム、プラチナ、イリジウム、ロジウム、パラジウム、ルビジウムを挙げることができ、ニッケル、クロムが好ましい。
【0026】
本発明において、反射膜の反射率を70%以上とすることにより、光を透明電極側から効率的に取り出すことができる。反射膜の反射率を70%以上とするためには、反射膜を構成する金属またはそれらの合金の種類の選択、平滑性などを挙げることができる。
【0027】
こうして得られた反射膜の仕事関数を4.75eV以上とするために陽極(反射膜)は表面酸化処理されている。この表面酸化処理としては、反射膜の表面を酸化してその仕事関数を4.75eV以上とするものであり、この表面酸化処理としてはUVオゾン処理、酸素プラズマ処理及び熱酸化処理などを例示できる。
【0028】
UVオゾン処理は酸素雰囲気または大気中で、波長200nm以下または250nm近傍の波長を有する光を反射膜表面に照射する処理であり、下記の反応により原子状活性酸素とオゾンが生成し、それが反射膜のごく表面のみを酸化し、仕事関数を前記の値まで向上させる。
【0029】
波長λ<200nm の場合
→ 2[O] (1)
[O] + O → O (2)
波長λ≒250nm の場合
→ [O] + O (3)
右辺の一部は再度式(4)のごとくオゾンとなる。
[O] + O → O (4)
【0030】
このUVオゾン処理においては、低圧水銀ランプの発光スペクトルが上記波長に相当するため、光源として低圧水銀ランプが用いられる。
【0031】
上記処理の際生成する酸化膜は厚くなると正孔の注入性を低下させることがあるので、酸化膜の厚さは10nm以下であることが好ましい。10nm以下では正孔の注入になんら支障はない。酸化膜の下限は特に限定されるものではないが、仕事関数が充分高くなるためには1nm以上であることが好ましい。酸化膜の厚みは雰囲気の酸素濃度、照射光量、照射時間等の条件を適宜選択することにより調節可能である。
【0032】
酸素プラズマ処理は酸素ガス中で直流ないし交流を印加して発生したプラズマに試料表面をさらすもので、効果はUVオゾン処理の場合と同様である。酸化膜の厚みについてもUVオゾン処理の場合と同様であり、その厚みは印加する電力量、酸素流量、ガス圧、処理時間等により調節可能である。
【0033】
表面酸化処理により、反射膜表面の仕事関数を4.75eV以上とする必要があり、5.0eV以上が好ましい。達成する仕事関数の上限は特に定められるものではないが、5.25を超える値にするには困難が伴い、また、酸化膜の厚みが厚くなりすぎるなどから、5.25以下であるのが妥当である。
【0034】
参考として、CrBおよびAg−Ca(5at%)膜にUVオゾン処理または酸素プラズマ処理したときの仕事関数の変化を図4に示す。
【0035】
上記陽極10の上に、有機EL発光層が形成される。本発明の有機EL発光素子においては、有機EL発光層は、少なくとも有機発光層4を含み、必要に応じて正孔注入層6、正孔輸送層5、電子輸送層3および電子注入層2をさらに含んでいてもよい。具体的には、下記のような層構成からなるものが採用される。図3は下記(5)の例である。
(1)有機発光層
(2)正孔注入層/有機発光層
(3)有機発光層/電子注入層
(4)正孔注入層/有機発光層/電子注入層
(5)正孔注入層/正孔輸送層/有機発光層/電子注入層
【0036】
なお、上述の(1)〜(6)の構造を有する有機EL発光層において、有機発光層または正孔注入層に陽極が接続され、有機発光層、電子輸送層または電子注入層に陰極が接続される。電子注入効率改善の観点からは電子注入層を設けることが好ましく、電子輸送層及び電子注入層を設けることがより好ましい。電子輸送層及び電子注入層の材料を適宜選択することによって電子注入効率の更なる改善を図ることができる。
【0037】
上記各層の材料としては、公知のものが使用される。正孔注入層は、フタロシアニン類(銅フタロシアニンなど)またはインダンスレン系化合物などを用いることができる。正孔輸送層は、TPD、N,N′−ビス(1−ナフチル)−N,N′−ジフェニルビフェルアミン(α−NPD)、4,4′,4″−トリス(N−3−トリル−N−フェニルアミン)トリフェニルアミン(m−MTDATA)、N,N,N′−テトラビフェニル−4,4′−ビフェニレンジアミン(TBPB)などのトリアリールアミン系材料を含む公知の材料を用いることができる。
【0038】
青色から青緑色の発光を得るためには、有機発光層中に、例えばベンゾチアゾール系、ベンゾイミダゾール系、べンゾオキサゾール系などの蛍光増白剤、金属キレート化オキソニウム化合物、スチリルベンゼン系化合物、芳香族ジメチリディン系化合物などが好ましく使用される。また、電子注入層としては、Li、Na、KまたはCsなどのアルカリ金属、Ba、Srなどのアルカリ土類金属、希土類金属あるいはそれらのフッ化物などの仕事関数が小さい材料を用いることができるが、これらに限定されるものではない。さらに電子輸送層としては、アルミニウムのキノリノール錯体(例えばAlq)、オキサジアゾール誘導体などを使用することができる。電子注入層としては、Alqのようなアルミニウム錯体、アルカリ金属ないしアルカリ土類金属をドープしたアルミニウム錯体、あるいはアルカリ金属ないしアルカリ土類金属を添加したバソフェナントロリンなどを用いることができる。電子注入効率を向上させるためには、電子注入層の膜厚は10nm以下の厚さであれば充分であり、電子輸送層は40nm以下でよい。
【0039】
陰極としては、ITO、IZO等の透明導電性酸化物が好ましい。ただし、陰極としてこのような透明導電性酸化物を用いる場合、これらは比較的仕事関数が大きいので、透明導電性酸化物と有機EL発光層3の間に、仕事関数が小さい材料からなる陰極バッファ層を設けて、電子注入効率を向上させるのが好ましい。この場合の仕事関数が小さい材料としては、リチウム、ナトリウム等のアルカリ金属、カリウム、カルシウム、マグネシウム、ストロンチウムなどのアルカリ土類金属、またはこれらのフッ化物等からなる電子注入性の金属、その他の金属との合金や化合物を用いることができる。電子注入効率を向上させるためには、10nm以下の厚さの仕事関数が小さい材料の層があれば充分であり、かつ必要とされる透明性を維持する観点からも好ましい。このような陰極バッファ層を設けた場合は、電子注入層を設けなくてもよい。
【0040】
次に、有機EL発光素子の製造方法について述べる。
まずは、洗浄した基板上に上述の金属または合金から成る反射膜を蒸着またはスパッタリングなどの当該技術において知られている任意の方法で形成し、フォトリソグラフ法によりレジストをパターンニングした後にエッチングを行うことによりラインパターン状の反射膜を形成する。反射膜はその表面粗さが鏡面研磨せずとも最大突起高さが50nm以下であり、反射率が70%以上であるように形成する。
【0041】
次いで、基板上に形成された反射膜を表面酸化処理して、反射膜表面の仕事関数を4.75eV以上とする。この表面酸化処理としては上述のように、UVオゾン処理、酸素プラズマ処理及び熱酸化処理などを例示できる。
【0042】
この陽極の上に、有機EL発光層を、前述の種々の形態のうち採用した構成に応じて、抵抗加熱蒸着装置などを用いて、真空を破らずに陽極の上に各層を順次成膜すればよい。
反射膜と有機EL発光層の間に絶縁膜を設けてもよい。絶縁膜を設ける場合はフォトリソグラフィーにより反射膜上に画素の大きさの開口部を設ける。
【0043】
陰極は、好ましくは、バッファ層としてリチウム、ナトリウム等のアルカリ金属、カリウム、カルシウム、マグネシウム、ストロンチウムなどのアルカリ土類金属、またはこれらのフッ化物等からなる電子注入性の金属、その他の金属との合金や化合物などの材料を用い、有機EL層形成に続き、そのまま真空を破らずに加熱蒸着装置を用いて蒸着した後、例えばスパッタ装置を用いてスパッタ法によりITO、IZOなどの透明導電膜を形成する。
【0044】
本発明の有機EL素子を用いて、例えば、情報機器用ディスプレイなどの表示装置を構成することが可能である。特に、本発明の有機EL素子はトップエミッション型であるため、大画面化が要求される表示装置を構成する素子として有効である。
【実施例】
【0045】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、それらは本発明を限定するものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変更可能であることはいうまでもない。なお、以下の実施例に記載される材料の略号は以下の通りである。
Alq3:トリス(8−キノリノール)アルミニウム
αNPD:4,4′−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル
【0046】
(実施例1)
ガラス基板上に反射膜(陽極)としてCrBの組成のターゲットを用いてDCスパッタリング法にて100nmの厚さのCr−B膜を作製した。その際、パワー50W、Arガス流量90SCCM、ガス圧0.3Paとした。得られた反射膜の反射率は73%であった。また、得られた反射膜の最大突起高さは4.5nmであった。この仕事関数は4.45eVであった。この反射膜につきフォトリソグラフ法によりレジストをパターンニングした後にエッチングを行って、2mm幅、2mmピッチのストライプパターンを形成した。
【0047】
このラインパターン状反射膜を有する基板を発光波長184.9nmおよび253.7nmを有する50mW出力の低圧水銀灯のもと、大気中にて5分間UV照射してUVオゾン処理を行った。照射処理後の反射膜の仕事関数は5.02eVであった。
【0048】
次いで、基板を有機蒸着装置に装着し、αNPDからなる厚さ40nmの正孔注入層、アルミキレート(Alq3)からなる厚さ60nmの有機発光層を積層し、引き続き、その上にバッファ層として厚さ1nmのLi膜を積層した。なお、各層の成膜は1×10−3Pa以下の圧力、0.5nm/sの成膜速度で行った。
【0049】
これらの製膜が終了した後、陽極のラインと垂直に2mm幅、0.5mmピッチのストライプパターンが得られるマスクを用いて、スパッタ法により無定形のITOを100nm作製し、陰極とした。なお、スパッタガスにはArガスを用い、ターゲットにはIZO(In−10%ZnO)を使用した。
得られた有機EL発光素子について、電圧−瞬間輝度特性を測定した。その結果を図4に示す。
【0050】
(実施例2)
UVオゾン処理の代わりに酸素プラズマ処理(直流50W(350V、143mA)、ガス圧0.3Pa、酸素ガス流量8SCCM、常温、5分間)を行った以外は実施例1と同様にして有機EL発光素子を作製した。酸素プラズマ処理後の反射膜の仕事関数は5.15であった。この有機EL発光素子につき、電圧−瞬間輝度特性を測定した。その結果を図4に示す。
【0051】
(比較例1)
ラインパターン状反射膜を有する基板に対してUVオゾン処理をしなかった以外は実施例1と同様にして有機EL発光素子を作製し、電圧−瞬間輝度特性を測定した。その結果を図4に示す。
【0052】
図4から、実施例1及び2の電圧−瞬間輝度曲線は比較例1のそれよりも上に位置しており、同じ電圧では実施例1、2のほうが瞬間輝度が大きく、同じ瞬間輝度では駆動電圧が低いことがわかる。このことから、実施例1、2の有機EL発光素子は反射膜の表面処理を行わない比較例1に比べて発光効率が向上していることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の有機EL発光素子は情報機器用ディスプレイなどの表示装置、特に大画面化が要求される表示装置を構成する素子として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】一般的なボトムエミッション型有機EL発光素子を示す模式断面図である。
【図2】一般的なトップエミッション型有機EL発光素子を示す模式断面図である。
【図3】本発明の有機EL発光素子の一実施態様を示す模式断面図である。
【図4】実施例、比較例の有機EL発光素子の電圧−瞬間輝度特性を示す図である。
【符号の説明】
【0055】
1a 陰極(反射膜)
1b 陰極(透明電極)
2 電子注入層
3 電子輸送層
4 発光層
5 正孔輸送層
6 正孔注入層
7a 陽極(透明電極)
7b 陽極(反射膜)
8 基板
9 反射膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、基板側から陽極と、少なくとも有機EL発光層と、透明電極とをこの順に有し、前記透明電極側から光を取り出す有機EL発光素子であって、陽極が、表面酸化処理によりその仕事関数を4.75eV以上に高められた金属またはその合金からなり、鏡面研磨せずとも最大突起高さが50nm以下である表面粗さであり、反射率が70%以上の反射膜であることを特徴とする有機EL発光素子。
【請求項2】
前記表面酸化処理がUVオゾン処理であることを特徴とする請求項1記載の有機EL発光素子。
【請求項3】
前記表面酸化処理が酸素プラズマ処理であることを特徴とする請求項1記載の有機EL発光素子。
【請求項4】
前記表面酸化処理により形成される陽極表面の酸化膜の厚みが10nm以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の有機EL発光素子。
【請求項5】
金属またはその合金が遷移金属−ランタナイド合金、遷移金属−ボロン合金、遷移金属−りん合金、銀−アルカリ土類金属合金から選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の有機EL発光素子。
【請求項6】
基板上に金属またはその合金からなり、鏡面研磨せずとも最大突起高さが50nm以下である表面粗さであり、反射率が70%以上である反射膜を形成する反射膜形成工程と、酸化により反射膜表面の仕事関数を4.75eV以上に高める表面酸化処理工程と、反射膜上に有機EL発光層を形成する有機EL発光層形成工程と、有機EL発光層の上に透明電極を形成する透明電極形成工程とを少なくとも有することを特徴とする有機EL発光素子の製造方法。
【請求項7】
前記表面酸化処理がUVオゾン処理であることを特徴とする請求項6記載の有機EL発光素子の製造方法。
【請求項8】
前記表面酸化処理が酸素プラズマ処理であることを特徴とする請求項6記載の有機EL発光素子の製造方法。
【請求項9】
前記表面酸化処理により形成される陽極表面の酸化膜の厚みが10nm以下であることを特徴とする請求項6〜8のいずれか1項に記載の有機EL発光素子の製造方法。
【請求項10】
金属またはその合金が遷移金属−ランタナイド合金、遷移金属−ボロン合金、遷移金属−りん合金、銀−アルカリ土類金属合金から選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項6〜9のいずれか1項に記載の有機EL発光素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−294261(P2006−294261A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−109007(P2005−109007)
【出願日】平成17年4月5日(2005.4.5)
【出願人】(000005234)富士電機ホールディングス株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】